説明

局所排気装置

【課題】 局所排気装置において、排気対象領域内に機器を配置しても効率的に局所排気を行うことができるとともに、排気対象領域の周囲の作業環境に悪影響を与えないようにする。
【解決手段】 局所排気装置6を、排気管11が接続された排気フード60Aと、排気フード60Aの外周を囲むように一体に設けられて、排気方向とは反対の一定方向に延びるエアカーテン15を形成する吹き出し給気機構60Bとを備え、プッシュプル給排気を可能とした構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局所排気装置に関する。例えば、移動式タンクなどの洗浄時に好適に用いることができる局所排気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶剤などを扱う工場や実験室などでは、作業時に発生する溶剤ガスや臭気を除去するために、それらの発生源の近傍の排気を行う局所排気装置が設けられていることが多い。
例えば、特許文献1には、臭気発生源を挟んで左右方向に面噴出型気体プッシュユニットと、面吸引型気体プルユニットとが対向して設けられた給気処理装置が記載されている。
また、特許文献2には、天井側に排気フードが設けられ、その外周に円周方向に沿って斜め下方向空気を噴射する複数の外側噴射ノズルが設けられ、それらにより排気フードの下方に竜巻状の渦流を形成して排気を行う人工竜巻型排気フードが記載されている。
また、特許文献3には、収束フードの外周部に収束フードの周方向に複数のエアー吹出孔が形成され、それらにより周方向の一定回転方向にエアーが吹き出されることにより、収束フード内に人工竜巻を形成して収束フードの中心部に設けられたエアー吸引孔から排気する人工竜巻式局所排気装置が記載されている。
【特許文献1】特開平5−228335号公報(図1)
【特許文献2】特開平8−61735号公報(図1−4)
【特許文献3】特開平8−285340号公報(図1,6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来の局所排気装置には、以下のような問題があった。
例えば、特許文献1に記載の技術では、対向する面噴出型気体プッシュユニットと、面吸引型気体プルユニットとの間に流れる気流により臭気を除去するため、設備が大型化し、設置コストが高価につくとともに、設置スペースが大きくなってしまうという問題がある。また、風量も大きくなるため臭気を除去しやすいものの、近傍で作業をする作業者がその気流にさらされて体感温度が下がってしまうといった劣悪な作業環境を招きやすいという問題がある。
また、特許文献2に記載の技術では、排気フードの外周側にエアカーテンを形成し、排気フードの下方に人工竜巻を形成して効率よく排気を行うので、周囲に対する給排気の影響が少なくなるものの、例えば、排気フードの下に他の機器を配置して作業を行う場合、人工竜巻を阻害するような位置に他の機器を配置することができないという問題がある。例えば、回転ブラシを回転させて容器の洗浄を行う機器などでは、人工竜巻を形成する領域が回転軸などの機器の配置範囲と重なるため、人工竜巻を形成することが困難となり、効率的な排気を行うことができないという問題がある。
また、特許文献3に記載の技術では、特許文献2と同様の問題を有するとともに、エアー吹出パイプを設ける必要があるので収束フードの下方の空間も有効利用できなくなるという問題がある。
【0004】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、排気対象領域内に機器を配置しても効率的に局所排気を行うことができるとともに、排気対象領域の周囲の作業環境に悪影響を与えないようにすることができる局所排気装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の局所排気装置は、排気管が接続された排気フードと、該排気フードの外周を囲むように一体に設けられて、排気方向とは反対の一定方向に延びるエアカーテンを形成する吹き出し給気機構とを備え、プッシュプル給排気を可能とした構成とする。
本発明によれば、吹き出し給気機構により排気フードの外周を囲むエアカーテンを形成し、エアカーテンに囲まれた排気フードからエアカーテンの延在方向と反対方向に排気するので、排気フードとエアカーテンに囲まれた領域でプッシュプル給排気を行うことができる。そのため、エアカーテンと排気フードの囲まれた領域において人工竜巻などを発生させることなく低風量で効率的に排気を行うことができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の局所排気装置によれば、エアカーテンと排気フードの囲まれた領域において人工竜巻などを発生させることなく低風量で効率的に排気を行うことができるので、周囲の作業環境を良好に保つことができるとともに、エアカーテン内に排気が必要な種々の装置を配置して作業を行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の局所排気装置では、前記排気フードが、排気対象領域の上方に配置されて、前記排気対象領域の上方側から排気を行うとともに、前記吹き出し給気機構が、前記排気対象領域を囲む下方に前記エアカーテンを形成し、かつ、前記排気フードおよび前記吹き出し給気機構が上下方向に移動可能に設けられた構成とすることが好ましい。
この場合、上下方向に延されたエアカーテンと上方の排気フードとにより、排気対象領域が柱状に囲まれる。そして、排気フードおよび吹き出し給気機構が上下移動することにより、排気対象領域が上下に伸縮される。そのため、排気フードおよび吹き出し給気機構を上下させて排気される領域を伸縮または移動させることができる。
【0008】
また本発明の前記排気フードおよび前記吹き出し給気機構が上下方向に移動可能に設けられた局所排気装置では、前記排気フードの下方側の前記排気対象領域内に、被洗浄物を洗浄する洗浄機構が一体に設けられ、前記排気対象領域に配置された被洗浄物を洗浄しつつ、前記排気対象領域から排気できるようにした構成とすることが好ましい。
この場合、排気対象領域に被洗浄物を配置して、排気フードとともに洗浄機構を下降させることで、被洗浄物を取り囲む領域の排気を行いつつ被洗浄物を洗浄することができる。そして、被洗浄物を洗浄した後に排気フードとともに洗浄機構を引上げても、洗浄機構を排気可能なエアカーテン内にとどめておくことができるので、洗浄機構からの臭気や有毒ガスを周囲に発散させることなく、被洗浄物の交換や洗浄機構のメンテナンスなどの作業を行うことができる。
被洗浄物としては、種々の物体を対象とすることができるが、例えば、上側に開口を有する容器、タンクなどを好適な対象とすることができる。
【0009】
また本発明の局所排気装置では、前記吹き出し給気機構が、給気管から給気される空気を周方向に流通させる流通ダクトと、該流通ダクトに流通する空気を前記一定方向に向けて吹出口から吹き出す吹き出しダクトとから構成され、前記流通ダクトと前記吹き出しダクトとの間に設けられた仕切り板に、前記吹き出しダクトに流入する空気量を規制するダンパ開口が形成された構成とすることが好ましい。
この場合、給気管から、吹き出し給気機構に給気された空気が流通ダクト内で周方向に流通する。そして、仕切り板に設けられたダンパ開口により、流入量が規制された状態で、空気が吹き出しダクトに流入する。そして、吹出口から一定方向に向けて吹き出される。そのため、ダンパ開口の形状や設置位置などを調整することにより、吹き出しダクトの周方向の空気吹き出し量や、流速などの条件を容易に調整することができる。そのため、均一性が良好なエアカーテンを形成することができる。
【0010】
以下では、本発明の実施形態に係る実施例について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施例が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【実施例】
【0011】
本発明の実施例の局所排気装置についてそれが用いられる洗浄システムとともに説明する。
図1は、本発明の実施例の局所排気装置の概略構成について説明するための正面視の部分断面説明図である。図2(a)は、本発明の実施例の局所排気装置に用いる排気フードおよび吹き出し給気機構について説明するための図1のA−A線に沿う断面説明図である。図2(b)は、図2(a)のB−B線に沿う断面説明図である。図3(a)、(b)は、本発明の実施例の局所排気装置の吹き出し機構の仕切り板、吹出口について説明するためのそれぞれ図2(b)におけるC−C線、D−D線に沿う断面平面説明図である。
【0012】
本実施例の局所排気装置6は、図1に示すように、移動式タンク8(被洗浄物)を洗浄するタンク洗浄システム100(洗浄システム)に好適に用いることができるものである。
タンク洗浄システム100の概略構成は、保持機構1、局所排気装置6、および洗浄機構7からなる。
【0013】
タンク洗浄システム100により洗浄可能な移動式タンク8は、種々の溶剤などを含む液体を運搬・混合・攪拌・貯蔵などを行うためのオープンタンクである。例えば上方に平面視円形の開口を有し鉛直断面が略コ字状となるように、タンク側面8a、タンク底面8bが形成され、タンク底面8bの下部に床面10上を移動するための車輪8cが設けられた構成とされる。符号8dは、移動式タンク8内の液体を排出するための排出弁である。
【0014】
このような移動式タンク8は、例えば、多種多様な印刷を行うために多品種少量のインキを必要に応じて製造するインキ製造工場などでよく用いられる。
この場合、移動式タンク8に、顔料、ワニス、溶剤、助剤などの原料を入れて攪拌機でよく混合し、これを練肉機(ロールミル、ビーズミルなどの分散機)に通して顔料を微細に粉砕、分散してインキを形成する。そして、移動式タンク8を、原料配合、攪拌、練肉機、充填場といった各製造工程行う場所に移動して各工程を進めていく。
溶剤の種類としては、有機溶剤、例えばトルエン、キシレン、酢酸エチルなどの溶剤がよく用いられる。
移動式タンク8は、作業効率やメンテナンスの面から、蓋などを開閉するような構造をとらないことが多い。そのため、溶剤が揮散して、人体に有害であったり臭気の原因となったりする溶剤ガスが工場内に充満し、作業環境が悪化しやすくなっている。
また、移動式タンク8は、インキ製造後、他のインキを製造する際に、色が残らないように溶剤で十分に洗浄する必要がある。その際、激しく溶剤が揮散するので、場合によっては作業者が防毒マスクなどを着用しなければならず、それが作業者の負荷ともなり、作業効率が悪化しがちであった。
洗浄中は開口部に蓋をすればよいが、洗浄後に洗浄ブラシを引上げる際には、大量の溶剤ガスが放散され、その中で洗浄の仕上げ状態を作業者が確認しなければならないという問題があった。
そのため、屋内の作業環境の安全基準を満足しつつ、作業者の安全や作業効率を確保するための効率的な局所排気装置が求められていた。
タンク洗浄システム100は、移動式タンク8の洗浄と局所排気とを同時に行うことができるものである。
【0015】
保持機構1は、局所排気装置6および洗浄機構7を少なくとも上下方向に移動可能に保持する機構であり、床面10に固定設置され昇降軸4を上下移動可能に設けたシリンダ昇降部2と、昇降軸4の上端部に略水平に設けられたアーム3と、アーム3の端部に鉛直下方に向けて取り付けられたロータ保持軸5とからなる。
【0016】
局所排気装置6は、図1、2に示すように、平面視円形で、鉛直断面が下方に開口した排気フード60Aと、排気フード60Aの外周部側面に周方向に沿って設けられた吹き出し給気機構60Bとからなり、排気フードの中央部上面において、ロータ保持軸5の下端と接合され、ロータ保持軸5により回転可能に保持される洗浄機構7のロータ7aが下方に向けて貫通されている。
【0017】
排気フード60Aは、平面視円形の排気フード部天板6aと、排気フード部天板6aの外周部から鉛直下方に延された円筒状の排気フード部側板6dとから構成される。
排気フード部天板6aは、中央にロータ保持軸5を接合し、ロータ7aを貫通させるための孔部が設けられ、それに隣接した適宜位置に吸引口11aが形成されている。吸引口11aの上部には、排気フード内の排気を行うための排気管11が接続されている。排気管11の図示しない端部には、フィルタ、排気ポンプなど適宜の排気機構(不図示)が設けられている。
排気フード60Aの内径は、少なくとも移動式タンク8の開口を覆うことができる程度の大きさに設定される。複数の大きさの移動式タンク8を洗浄する場合は、最大の開口を有する移動式タンク8を覆うことができるようにしておく。
【0018】
吹き出し給気機構60Bは、排気フード60Aの側部の周方向に沿って、上側に角断面の流路を備えて周方向に略連通された流通ダクト部6b(流通ダクト)と、下側に複数に区画され、各区画ごとに流入する空気を下方に向けて吹き出す吹き出しダクト部6c(吹出しダクト)とからなる。これらは、本実施例では、周方向に6等分された6つのユニットに区画されている。以下、主にこのうちの1つのユニットを例にとって説明する。
【0019】
流通ダクト部6bは、図2(b)に示すように、排気フード部側板6d、排気フード部側板6dに同心円状に対向するダクト部側板6e、排気フード部天板6aを水平方向に延長した位置に形成された流通ダクト部天板6A、および流通ダクト部天板6Aに対向して設けられた仕切り板6Bにより囲まれてなり、それらにより角断面が形成されている。
各ユニット間の周方向の接合部では、ユニットごとの空気の流入量を規制する絞り板や流路の終端部を形成するための間仕切り板などが設けられていてもよいが、本実施例では、周方向に略同一断面が連続する流路が形成されている。
【0020】
仕切り板6Bには、図3(a)に示すように、排気フード部側板6dの近傍に周方向に沿って円弧状に屈曲する開口部であるダンパ開口6Dが形成されている。
ダンパ開口6Dは、空気が流通ダクト部6bを周方向に流通するときに、その一部を下側の吹き出しダクト部6cに流入させるためのものである。ダンパ開口6Dの形状や大きさは、吹き出しダクト部6cへの流入量のバランスがとれるような適宜の形状、大きさとされる。また、実際の流入量を調整できるように、開口の形状や大きさが可変できるような構成としてもよい。
【0021】
流通ダクト部6bを形成する1つのユニットの流通ダクト部天板6Aには、給気口12aが設けられ(図2(a)参照)、その上部に給気管12が接続されている(図1参照)。給気管12の図示しない端部には、フィルタ、給気ポンプなど適宜の給気機構(不図示)が設けられている。
【0022】
吹き出しダクト部6cは、図2(b)に示すように、排気フード部側板6d、ダクト部側板6e、仕切り板6B、および仕切り板6Bに対向して水平方向に延された吹き出しダクト部底板6Cにより囲まれてなり、それらにより角断面が形成されている。そして、図3(b)に示すように、隣接するユニット間に、間仕切り板6fが設けられ、周方向への流路が閉鎖されている。
吹き出しダクト部底板6Cには、図3(b)に示すように、ダクト部側板6eの近傍に周方向に沿って円弧状に湾曲する開口部である吹出口6Eが形成されている。
吹出口6Eは、ダンパ開口6Dから流入した空気を吹き出しダクト部6cから下方に向けて、吹き出し、円筒状のエアカーテンを形成するための開口部である。そのため、吹出口6Eは、ダンパ開口6Dの対向位置からずらして配置されている。
【0023】
吹出口6Eの形状、大きさは、給気管12からの距離に応じた圧力損失などを考慮して、吹き出す空気の流速が周方向に略一定となるような形状、大きさとされる。その際、特に図示しないが、必要な空気の流速を得るために下方に向けて適宜のノズル部が形成されていてもよい。
また、吹出口6Eの形状は、下方に延びるエアカーテンを形成できれば、ユニット内で連続する円弧状の開口には限定されない。例えば、複数の円弧状開口が周方向に隣接していてもよいし、それらが千鳥状に一部が重なるように配列されていてもよい。また、複数の円形開口が、近接して配列されて形成されてもよい。
【0024】
洗浄機構7は、図1に示すように、ロータ保持軸5に回転可能に保持されて鉛直下方に延されたロータ7a、ロータ7aから径方向および下方の所定位置で回転可能に設けられた回転ブラシ7b…、および、ロータ7aに固定され、ロータ7aの径方向外側に向けて洗浄液を噴射するシャワーノズル7c…を備える。
洗浄液は、移動式タンク8に入れられた液体の種類の応じて、洗浄に必要な適宜の溶剤などを用いる。
ロータ7aは、回転ブラシ7b…、シャワーノズル7c…をそれぞれが回転、噴射を続けながら、鉛直軸まわりに回転させることができる構成とされている。
回転ブラシ7bの配置位置は、タンク側面8aの内径、深さに応じて、伸縮調整が可能となっている。
【0025】
洗浄機構7における、ロータ7a、回転ブラシ7bの回転駆動力は、本実施例では、アーム3内に設けられた不図示の伝動機構を介して、接続されるロータ駆動モータ9により供給されるようになっている。
また、シャワーノズル7cに供給する洗浄液は、ロータ保持軸5、ロータ7a内に配管された不図示のロータリジョイント配管により供給されるようになっている。
【0026】
次に、タンク洗浄システム100、および局所排気装置6の動作について説明する。
図4は、本発明の実施例の局所排気装置の動作について説明するための正面視の部分断面説明図である。
【0027】
タンク洗浄システム100では、シリンダ昇降部2により、アーム3、およびロータ保持軸5を介してアーム3の先端に吊り下げられた局所排気装置6、洗浄機構7を上下移動させることができる。
そこで、まず、シリンダ昇降部2によりアーム3を上昇させて、洗浄する移動式タンク8を洗浄機構7の下方の所定位置に配置する。すなわち、移動式タンク8の開口の中心がロータ7aの中心軸と略一致するような所定位置に配置する。
【0028】
この状態で、給気管12から流量Qの空気を給気し、排気管11から流量Pの空気を排気する。ここで、局所排気装置6がプッシュプル給排気を行うためには、理論的にはQ=Pとすればよいが、局所排気装置6の下方に配置される洗浄機構7や移動式タンク8などによる風損などを考慮して、実質的に局所排気装置6の下方に円筒状に広がる領域内で空気の出入りが生じるように、Q、Pの大小関係を設定することが好ましい。あるいは、臭気のもれなどをモニタしながら、最適の流量に調整してもよい。
【0029】
給気管12から給気された空気は、給気管12が設けられたユニットの流通ダクト部6bに流入し、周方向に沿う流れと、ダンパ開口6Dから吹き出しダクト部6cに流入する流れとに分かれる。
周方向に沿って流れる空気は、両側の隣接するユニットの流通ダクト部6bを順次流れていき、それぞれ一部がダンパ開口6Dに流れ込みながら、流通ダクト部6bを周方向に半周した位置で会合する。そのため、流通ダクト部6b内が、給気管12から流入量とダンパ開口6Dへの流入量とがバランスするような定常流が形成される。
【0030】
ダンパ開口6Dに流入する空気は、ユニットごとの吹き出しダクト部6c内に噴射され、吹き出しダクト部6c内で圧力が整えられて、吹出口6Eから下方に吹き出される。このとき、吹出口6Eにおける風量、風速などは、流通ダクト部6b内の圧力損失を考慮してユニットごとに最適化されたダンパ開口6Dの形状、大きさにより、制御され、周方向にわたって略均一化される。
このため、吹出口6Eから吹き出す空気により、局所排気装置6から鉛直下方に向けて円筒状の領域を流れるエアカーテン15が形成される。
【0031】
一方、排気管11からは略給気量Qに相当する排気量Pの空気が排気されるから、図4に矢印で示したように、移動式タンク8の内面、洗浄機構7の近傍など、エアカーテン15と排気フード60Aとで囲まれる領域の空気が上方の吸引口11aから上方に向けて吸引される。排気フード60Aの下方でエアカーテン15に囲まれた領域を、以下では排気対象領域と称する。
これらの空気がすべて吸引されても、側方のエアカーテン15の内面側を流れる空気や、エアカーテン15とタンク側面8aとの間の隙間から吸引される空気が充当されるので、排気対象領域内に中心部で上昇し、周辺部で下降する定常流が形成される。
そのため、移動式タンク8の内面や洗浄機構7に付着した溶剤などから揮発した溶剤ガスが、排気対象領域外に漏れることなく、かつ排気対象領域の外側に向かって広がる給気流もほとんど形成されることがない局所排気が実現される。
このとき、エアカーテン15の内側とタンク側面8aの外周面との隙間が少ないほど、タンク側面8aに沿って内側に流入する気流が形成されやすくなり、効率的なプッシュプル給排気を行うことができる。
【0032】
次に、この定常流を維持した状態で、アーム3を下降させる。そして、図1に示すように、回転ブラシ7bが移動式タンク8の内面に当接するとともに、局所排気装置6が移動式タンク8の開口近傍に到る状態で下降を停止する。
この状態でも給気量Qと排気量Pとは略バランスしているので、吹出口6Eから下方に吹き出された空気は、しばらくタンク側面8aの外側に沿って下降したのち、排気フード60Aと移動式タンク8の開口との隙間から吸引されていく。そのため、エアカーテン15は、移動式タンク8の開口の近傍に残存するのみとなる。
【0033】
この状態で、ロータ駆動モータ9を駆動し、複数の回転ブラシ7bを自転させるとともに、ロータ7aを回転させて、ロータ7aの軸まわりに回転ブラシ7bを公転させ、さらに、シャワーノズル7cから洗浄液を噴射して、タンク側面8a、タンク底面8bの内面の洗浄を行うことができる。
このとき、移動式タンク8内の液体から揮発するガスはすべて吸引口11aから吸引されるので、排気対象領域の外部に漏れることはない。
なお、移動式タンク8内の余分な洗浄液は、移動式タンク8の底部に設けられた排出弁8dから排出される。
【0034】
移動式タンク8の洗浄が終わったら、プッシュプル給排気を続けながら、シリンダ昇降部2を作動させ、図4に示す状態までアーム3、局所排気装置6、洗浄機構7を上昇させる。そして、洗浄が終了した移動式タンク8を排気対象領域の外に移動させる。必要があれば、次に洗浄する移動式タンク8を代わりに配置して、次の洗浄を開始する。
このとき、回転ブラシ7bは、洗浄液や洗浄カスなどが付着して、溶剤ガスを発散することが考えられるが、回転ブラシ7bは排気対象領域内にあるので、プッシュプル給排気が行われている間は、それらの臭気などが漏れることはない。
【0035】
このように本実施例の局所排気装置6によれば、排気フード60Aの側方に設けられた吹き出し給気機構60Bにより、鉛直下方に向けて円筒状のエアカーテン15を形成し、それと排気フード60Aと囲まれた排気対象領域内で、プッシュプル給排気を行うことができる。
そのため、人工竜巻などを発生させる必要がないので、排気対象領域で気流が上昇する隙間を完全に塞ぐといった容器や機器でない限り、排気対象領域内に種々の容器や機器を配置した状態でも効率的な局所排気を行うことができる。
また、局所排気装置6が設置された建屋内の風圧のバランスへの影響も少なくなるという利点がある。
【0036】
局所排気装置6では、略円筒状の排気対象領域内で外周側から下降して中心部を上昇する定常流を形成するので、低風量であっても排気もれなどを確実に防止することができ、排気対象領域周辺への風圧の影響などを低減することができる。
また、溶剤ガスや臭気の発生源である移動式タンク8を略覆う程度の大きさに排気対象領域を設定するので、設備の小型化が可能となる。
【0037】
また、局所排気装置6を用いたタンク洗浄システム100では、洗浄機構7を排気対象領域内に設け、洗浄機構7の移動とともに、局所排気装置6が移動する構成としたので、洗浄終了後、洗浄機構7自体から揮散する溶剤ガスを効率的に局所排気することができる。洗浄工程における作業環境を著しく向上することができる。
【0038】
次に、本実施例の変形例について説明する。
本変形例は、上記実施例において、排気フード60Aの内径を洗浄対象の移動式タンク8の最小内径よりわずかに小さくするとともに、吹き出しダクト部底板6Cに設けられた吹出口6Eが洗浄対象の移動式タンク8の最大外径よりも外側に位置するようにし、吹き出しダクト部底板6Cを、移動式タンク8の開口の全周にわたって当接できるようにしたものである。
【0039】
このような構成によれば、洗浄中、吹き出しダクト部底板6Cと移動式タンク8の開口とを当接させることができるので、移動式タンク8の開口を塞ぐことができる。そのため、洗浄中に、給気管12からの給気を停止して、エアカーテン15の形成を停止しても溶剤ガスの漏洩を防止することができる。そのため、給気のための風圧や騒音などを低減することができるという利点がある。
ただし、この場合も、洗浄機構7を引上げる際には、給気を開始し、上記と同様にエアカーテン15を形成してプッシュプル給排気を行うことはいうまでもない。
【0040】
なお、上記の説明では、局所排気装置に排気管と給気管とをそれぞれ1つずつ設けた例で説明したが、排気管、給気管は、いずれも必要に応じて複数設けてもよい。
【0041】
また、上記の説明では、エアカーテンの形成方向を鉛直上方から下方に向かう一定方向に形成した例で説明した。ただし、エアカーテンで溶剤ガスの漏洩を十分防止できる風量で形成するならば、鉛直方向に交差する斜め方向や水平方向に形成してよい。
【0042】
また、上記の説明では、有底円筒形状の移動式タンクに用いる例で説明したため、エアカーテンを円筒状としたが、吹出口の配置を変えて適宜断面のエアカーテンを形成してもよい。その場合、プッシュプル給排気を効率的に行うには、移動式タンクの側面の平面視形状に略相似となる断面形状のエアカーテンを形成することが好ましい。
【0043】
また、上記の説明では、局所排気装置がタンク洗浄システムに用いられた例で説明したが、洗浄システムは、移動式タンクの洗浄システムに限定されない。例えば、タンクや容器に限らず、溶剤洗浄が必要な適宜の物体の洗浄システムに用いるものであってもよい。
また、洗浄システムにも限定されるものではなく、物体が放つ溶剤ガスや臭気が漏れないように物体を保管するシステムに用いてもよい。
【0044】
また、上記の説明では、溶剤ガスなどを排気する局所排気装置の例で説明したが、溶剤ガス以外を含む空気を排気するために用いることもできる。例えば、排気対象領域の風塵を含む空気を排気するのに用いてもよい。
【0045】
また、上記の説明では、局所排気装置が洗浄システムに用いられた例で説明したが、洗浄システムと異なるシステムの一部に用いてもよい。
例えば、移動式タンクを用いたインキ製造工程の洗浄以外の工程における局所排気装置として用いてもよい。この場合、例えば、タンク洗浄システム100から洗浄機構7を除去し、必要に応じて他の装置を付加したり、他の装置とともに用いたりするような製造システムとすることができる。
また、移動式タンクを用いない製造システムに組み込んで用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施例の局所排気装置の概略構成について説明するための正面視の部分断面説明図である。
【図2】本発明の実施例の局所排気装置に用いる排気フードおよび吹き出し給気機構について説明するための図1のA−A線に沿う断面説明図、およびそのB−B線に沿う断面説明図である。
【図3】本発明の実施例の局所排気装置の吹き出し機構の仕切り板、吹出口について説明するためのそれぞれ図2(b)におけるC−C線、D−D線に沿う断面平面説明図である。
【図4】本発明の実施例の局所排気装置の動作について説明するための正面視の部分断面説明図である。
【符号の説明】
【0047】
1 保持機構
2 シリンダ昇降部
3 アーム
5 ロータ保持軸
6 局所排気装置
6b 流通ダクト部(流通ダクト)
6c 吹き出しダクト部(吹き出しダクト)
6B 仕切り板
6D ダンパ開口
6E 吹出口
7 洗浄機構
8 移動式タンク(被洗浄物)
11 排気管
11a 吸引口
12 給気管
12a 給気口
15 エアカーテン
60A 排気フード
60B 吹き出し給気機構
100 タンク洗浄システム(洗浄システム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気管が接続された排気フードと、
該排気フードの外周を囲むように一体に設けられて、排気方向とは反対の一定方向に延びるエアカーテンを形成する吹き出し給気機構とを備え、
プッシュプル給排気を可能としたことを特徴とする局所排気装置。
【請求項2】
前記排気フードが、排気対象領域の上方に配置されて、前記排気対象領域の上方側から排気を行うとともに、
前記吹き出し給気機構が、前記排気対象領域を囲む下方に前記エアカーテンを形成し、
かつ、前記排気フードおよび前記吹き出し給気機構が上下方向に移動可能に設けられた請求項1に記載の局所排気装置。
【請求項3】
前記排気フードの下方側の前記排気対象領域内に、被洗浄物を洗浄する洗浄機構が一体に設けられ、
前記排気対象領域に配置された被洗浄物を洗浄しつつ、前記排気対象領域から排気できるようにした請求項2に記載の局所排気装置。
【請求項4】
前記吹き出し給気機構が、
給気管から給気される空気を周方向に流通させる流通ダクトと、
該流通ダクトに流通する空気を前記一定方向に向けて吹出口から吹き出す吹き出しダクトとから構成され、
前記流通ダクトと前記吹き出しダクトとの間に設けられた仕切り板に、前記吹き出しダクトに流入する空気量を規制するダンパ開口が形成された請求項1〜3のいずれかに記載の局所排気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−343022(P2006−343022A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168491(P2005−168491)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(596166025)日本エアーカーテン株式会社 (4)
【Fターム(参考)】