説明

局所的な気管、気管支、または肺胞の出血または喀血の治療方法

【課題】気管、気管支、または肺胞出血または喀血を局所的に治療し、血栓物質の全身投与に伴う望ましくない効果を低下させる方法の提供。
【解決手段】気管、気管支、または肺胞の出血または喀血を止めるため、好ましくはヒト(成体および子供の両方を含む)へのトロンビンまたはフィブリノーゲン以外の血液凝固因子、好ましくは活性化ヒト第VII因子および/または第XIII因子を、溶液を用いる気管支肺胞洗浄、ブラインド気管洗浄、または吸入により、気管内、気管支内、または肺胞内に投与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本特許出願は、米国仮出願No. 60/693,969(2005年6月24日出願)、米国仮出願No. 60/622,977(2004年10月28日出願)、および米国仮出願No. 60/608,759(2004年9月10日出願)の優先権の利益を主張する(これらの内容は本明細書の一部を構成する。)。
【0002】
本発明は、限定されるものではないが持続性または再発性出血病状、急性出血病状、および慢性出血病状を含む臨床的に重要な気管、気管支、または肺胞の出血または喀血を止める方法を提供する。本発明の方法において、トロンビンまたはフィブリノーゲン以外の活性化血液凝固因子、すなわち、止血剤を気道投与により気管支内、気管内、または肺胞腔に投与する。これら方法は、臨床医学、特に救急救命または集中治療医学、および呼吸器医学において有用である。本発明の方法は、血液学、リウマチ学、移植医学、感染性疾患、および腫瘍学の分野にも関連する。
【背景技術】
【0003】
気管支出血または喀血の以前の治療法は、外科的および薬物的アプローチを含む。外科的アプローチでは、局所病変は気管支鏡検査を介する切除または焼灼により治療することができる場合があるが、これは限られた数および種類の病変にのみ適用される。薬物的アプローチで最も一般的なのは、先天的または後天的欠陥を有することがある患者に血小板および/または血液凝固因子の全身投与、および/または繊維素溶解(血餅溶解)メカニズムの阻害剤の全身投与である。後者には、プラスミノーゲンの繊維素溶解酵素プラスミンへの変換を阻害するトラネキサム酸、および繊維素溶解酵素を不活化するアプロチニンがある。これら薬物的アプローチの欠点は、特に局所的気管支または肺胞出血が1またはそれ以上の局所病変の組み合わせ、および1またはそれ以上の止血メカニズムの全身性不全によるか、または原発性、未知の病因、または特定可能な全身疾患または病状、例えば骨髄移植、化学療法、全身自己免疫疾患または感染症に続発する肺胞毛細血管膜の疾患により生じる場合に、その効果がしばしばそれらを止めるのに適切でないことである。繊維素溶解の阻害は、止血メカニズムが最初に血餅を形成するのに適切な場合に出血を止めることができるだけである。気管支出血または広範囲の肺胞出血または喀血は、典型的には医学的緊急事態であり、出血の急速な停止が必要であり、しばしば根本原因を確実に同定する十分な時間がなく、急性の生死にかかわる出血に比べて根本原因の治療が遅すぎる。したがって、薬物治療はしばしば推測的に、その効果の確実性なく行われる。
【0004】
局所的または全身的またはその両方で治療効果を示すように意図した物質の種々の気道投与方法が刊行物および特許出願の対象になってきた。例えば、米国特許3,920,845は、2-ニトロインダン-1,3-ジオンの1日用量の経口、非経口、または吸入投与によるアレルギー病状の治療方法を開示している。吸入療法による炎症、アレルギー反応、および/または喘息の治療方法は、米国特許5,980,865、米国特許6,193,957、米国特許6,497,877、およびU.S.2003/0195141にも開示されており、また米国特許5,690,910は、抗原誘発性喘息を治療するための治療剤の気管支内投与を開示している。米国特許5,427,797は、血小板凝集を予防または治療するための吸入経路による酸化窒素の投与方法を開示している。米国特許5,096,916は、血管拡張剤でありα遮断薬であるイミダゾリン化合物の、慢性閉塞性肺疾患の症状を治療するための吸入による投与を開示している。US 2004/0265238は、肺性高血圧を治療するための降圧剤の吸入可能な製剤を開示している。
【0005】
これら特許は、気道投与による薬剤送達の実現性を示すのに役立つ(これらの内容は本明細書の一部を構成する。)。しかしながら、これら開示の大部分における投与した物質の気道送達の目的は、気道内の出血を止めることではなかった。
【0006】
Gong et al. (U.S. 2005/0008580)は、どの請求項の対象でもないが、特定の化学特性と粒子サイズのエアロゾル化第XI因子(FIX)の吸入による血友病の治療方法を開示し、同様な第VIII因子(第VIII因子)の投与の可能性も開示している。FIXまたは第VIII因子のこの投与の目的は、血友病の長期治療におけるこれら因子の定期的全身投与を置換することであり、気道内の出血を止めることではない。
【0007】
トロンビン単独、またはトロンビンとフィブリノーゲンの併用は、気管支樹内の限局性出血を治療するために気管支鏡により気管支内に適用されてきた(Kinoshita et al.、1982; Tsukamoto et al.、1989; de Gracia et al.、1995; Saito et al.、1998; Hosoda et al.、2001; de Gracia et al.、2003)。しかしながら、これらの結果は凝固カスケードの初期に作用する他の凝固因子に対する予測的価値はない。引用した刊行物において、トロンビンおよびフィブリノーゲンは、気管支肺胞樹の広範囲の出血ではなく、気管支鏡が到達可能なそれら限局性出血病変のみを治療する特異的外科的フィブリン形成「接着剤」として使用されてきた。他方、トロンビンおよびフィブリノーゲンの全般的点滴または吸入は、気道閉塞のリスクがあり有効とは考えられていなかった。したがって、気道の大きな部分におけるフィブリン接着剤の望ましくない重度の沈着を避けるために凝固カスケードの初期に作用し、局所の調節作用を受ける他の凝固因子を用いることは治療的興味がある。本発明は、気道における広範囲および限局性両方の出血を治療するための他の活性化凝固因子の気道を介する投与に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許3,920,845
【特許文献2】米国特許5,980,865
【特許文献3】米国特許6,193,957
【特許文献4】米国特許6,497,877
【特許文献5】米国特許出願2003/0195141
【特許文献6】米国特許5,427,797
【特許文献7】米国特許出願2004/0265238
【特許文献8】米国特許出願2005/0008580
【特許文献9】米国特許5,997,864
【特許文献10】WO2005/074975
【特許文献11】WO93/15234
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Kinoshita M、Shiraki R、Wagai F、Watanabe H、Kitamura S (1982) Thrombin instillation therapy through the fiberoptic bronchoscope in cases of hemoptysis (in Japanese). Nihon Kyobu Shikkan Gakkai Zasshi(日本胸部疾患学会雑誌) 20:251-254.
【非特許文献2】Tsukamoto T、Sasaki H、Nakamura H (1989) Treatment of hemoptysis patients by thrombin and fibrinogen-thrombin infusion therapy using a fiberoptic bronchoscope. Chest 96:473-476.
【非特許文献3】de Gracia J、Mayordomo C、Catalan E、Vendrell M、Marti S、Bravo C (1995) The use of fibrinogen-thrombin via endoscope in the treatment of massive hemoptysis (in Spanish). Arch Bronconeumol 31:227-232.
【非特許文献4】Saito Y、Mikami M、Nakamura S、Hashimoto N、Abe Y、Baba M、Takizawa J、Kawakami M、Kamei K (1998) Pulmonary pseudallescheriasis in a patient with diabetes mellitus and alcoholic liver cirrhosis (in Japanese). Nihon Kokyuki Gakkai Zasshi(日本呼吸器学会雑誌)36:498-502.
【非特許文献5】Hosoda H、Ooi K、Tsukahara T、Inaki E、Kataoka Y、Chin S、Sunamori M (2001) Frequent fiberscopic bronchial lavage for a case of bilateral severe pulmonary contusion with flail chest (in Japanese). Kyobu Geka(胸部外科) 54:352-354.
【非特許文献6】de Gracia J、de Ia Rosa D、Catalan E、Alvarez A、Bravo C、Morell F (2003) Use of endoscopic fibrinogen-thrombin in the treatment of severe hemoptysis. Respir Med 97:790-795.
【非特許文献7】Dvilansky A、Britten AF、Loewy AG (1970) Factor XIII assay by an isotope method. I. Factor XIII (transamidase) in plasma、serum、leucocytes、erythrocytes and platelets and evaluation of screening tests of clot solubility. Br J Haematol 18:399-410.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
(発明の要約)
ある局面において、本発明は、トロンビンまたはフィブリノーゲンでない血液凝固因子の対象への気管内、気管支内、または肺胞内投与を含む対象の急性または再発性または慢性の気管、気管支または肺胞の出血または喀血を止める方法に関する。
【0011】
したがって、本発明は、気管内、気管支内、または肺胞内投与を含む種々の手段により気道内に投与する、急性または再発性または慢性の気管、気管支または肺胞の出血または喀血を治療または予防するための医薬を製造するためのトロンビンまたはフィブリノーゲンでない血液凝固因子の使用に関する。
【0012】
本発明の利点は、血栓剤(thrombotic agent)および/または止血剤の全身投与の望ましくない副作用または不十分な治療効果を減らし、または避けることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の詳細な説明)
本発明は、気管、気管支、または肺胞の出血または喀血を止めるための、対象、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒト(成体および子供の両方を含む)へのトロンビンまたはフィブリノーゲン以外の血液凝固因子、好ましくは活性化ヒト第VII因子および/または第XIII因子の気管内、気管支内、または肺胞内投与に関する。
【0014】
本明細書で用いる用語「トロンビンまたはフィブリノーゲン以外の血液凝固因子」には、限定されるものではないが第VII因子、第VIII因子、因子IX、因子V、因子XI、第XIII因子、またはそのあらゆる組み合わせを含む、トロンビンまたはフィブリノーゲン以外のすべてのそのような因子が含まれる。
【0015】
本明細書で用いる用語「第VII因子」は、非開裂(チモーゲン)形の第VII因子ポリペプチド、および蛋白分解により処理されて第VIIa因子と呼ばれることがあるそのそれぞれの生物活性形を生じたものを含むことを意図する。典型的には、第VII因子は残基152と153の間で開裂し、第VIIa因子を生じる。本明細書で第VIIa因子に関連して用いるとき、用語「変異体」には、限定されるものではないがヒト第VIIa因子に対して化学的に修飾され、および/またはヒト第VIIa因子に対して1またはそれ以上のアミノ酸配列変化を含む第VII因子ポリペプチドが含まれる。そのような変異体は、安定性、リン脂質結合性、比活性の変化などを含むヒト第VIIa因子に関する異なる特性を示すことがある。第VIIa因子は、ヒト第VIIa因子の少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約50%、および最も好ましくは少なくとも約70%の比生物活性を有するポリペプチドを含む。本発明のために、第VIIa因子の生物活性は、例えば米国特許No. 5,997,864に記載の第VII因子欠損血漿およびトロンボプラスチンを用いて血液凝固を促進する調製物の能力を測定することにより定量してよい。このアッセイにおいて、生物活性はコントロール試料に対する凝固時間の減少で表され、1単位/mLの第VII因子活性を含むプールヒト血清標準品と比較することにより「第VII因子単位」に変換される。あるいはまた、第VIIa因子の生物活性は、(i)脂質膜に埋め込んだ組織因子および第X因子を含む系における第VIIa因子または第VIIa因子等価物の活性化第X因子の産生能力を測定することにより定量してよい。第VIIa因子変異体の非限定的例およびその生物活性の測定はWO2005074975に記載されている(この内容は本明細書の一部を構成する。)。第VIIa因子変異体のさらなる非限定的例には、活性化ヒト第VII因子と少なくとも75%配列同一性、ヒト第VIIa因子と例えば少なくとも85%配列同一性、例えば少なくとも90%配列同一性、例えば少なくとも95%配列同一性、例えば少なくとも96%配列同一性、例えば少なくとも98%配列同一性、例えば少なくとも99%配列同一性を有するポリペプチドがある。
【0016】
用語「第XIII因子」および「活性化第XIII因子」は、WO9315234に記載の血液凝固第XIII因子およびその活性化形を意味する(この内容は本明細書の一部を構成する。)。便宜上、第XIII因子の活性化形、第XIIIa'a因子、および第XIIIa'a'因子は、個々にまたは集合的に第XIIIa因子を表す。本明細書において第XIIIa因子に関連して用いる用語「変異体」には、例えばDvilansky et al. (1970)に記載のアッセイにおいて、ヒト第XIIIa因子の少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約50%、および最も好ましくは少なくとも約70%の比生物活性を有する第XIII因子の生物活性形が含まれる。変異体の非限定的例には、活性化ヒト第XIII因子の少なくとも75%配列同一性、活性化ヒト第XIII因子の例えば少なくとも85%配列同一性、例えば少なくとも90%配列同一性、例えば少なくとも95%配列同一性、例えば少なくとも96%配列同一性、例えば少なくとも98%配列同一性、例えば少なくとも99%配列同一性を有するポリペプチドがある。
【0017】
気管、気管支、または肺胞を含む気道からの出血、またはより全般的な用語喀血の範囲に及ぶ病状は、急性病状、再発性病状、または慢性病状から生じてよく、外傷、炎症、感染症、または新生物により生じる気道の病変によるか、血液凝固系の先天的または後天的障害によるか、または前記の可能性のある原因の組み合わせによるかもしれない。例えば、本発明の方法は、例えば爆風肺損傷によるものを含むびまん性肺胞出血の治療、およびヘモジデリン沈着症、次いで慢性肺機能不全を生じる慢性肺胞出血を治療または予防するのに有用であると考えられる。
【0018】
ある態様において、治療対象は血友病患者ではない。
【0019】
本明細書で用いる用語「気管内、気管支内、または肺胞内投与」には、該因子の溶液の点滴によるか、粉末形の該因子を適用することにより、または安定化剤または他の賦形剤を含むかまたは含まないエアロゾル化または噴霧溶液または粉末として該溶液を吸入することにより気道の関連部分に該因子を到達させることにより該凝固因子をそれぞれ気管、気管支、または肺胞内に適用するそのような投与のすべての形が含まれる。
【0020】
別の態様において、気管内、気管支内、または肺胞内投与は、該生成物の吸入を含まないが、気管または下部気道内への該因子の溶液または該因子を含む粉末の点滴または適用を含む。
【0021】
気管支内/肺胞投与の方法には、限定されるものではないが、血液凝固因子(factorまたはfactors)が溶解している生理学的に許容される組成物を洗浄液として用いる当業者によく知られた方法によるか、または実際に気管支鏡検査中に溶液または粉末形の、トロンビンおよびフィブリノーゲンを除く凝固因子を直接適用するかまたは賦形剤を含むかまたは含まない乾燥形の凝固因子または止血剤を含む噴霧粉末の使用を含む、あらゆる他の有効な形の気管支内投与による気管支肺胞洗浄(BAL)が含まれる。気管内投与方法には、限定されるものではないが、血液凝固因子が溶解した同様の溶液を用いるブラインド気管洗浄、またはこの目的に適したあらゆる噴霧装置を用いて得られる溶解した凝固因子を含む噴霧溶液滴の吸入が含まれる。
【0022】
このような方法で投与することを意図する血液凝固因子には、トロンビンおよびフィブリノーゲン以外のあらゆる凝固因子、好ましくは局所肺止血に必要な凝固因子、最も好ましくは活性化第VII因子(第VIIa因子)、またはその生物活性変異体、または血餅強度および繊維素溶解に対する抵抗性を促進する血液凝固因子、例えば第XIII因子または第XIIIa因子、またはその生物活性変異体が含まれる。血液凝固因子は、好ましくは精製および/または濃縮され、例えば血漿から、または細胞培養またはトランスジェニック動物における発現を含む組換えDNA技術により製造してよい。
【0023】
第XIII因子または第XIIIa因子でない血液凝固因子を用いる治療は、第XIII因子または第XIIIa因子の適用と、および所望により抗繊維素溶解剤とも組み合わせてよい。繊維素溶解活性は、プラスミノーゲンの活性酵素プラスミンへの活性化を促進する組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)と共にフィブリン(繊維素)とプラスミノーゲンとの結合を介し、血餅中のフィブリンの消化をもたらし、次いで再出血を生じる。トロンビンの作用により第XIII因子から形成される第XIII因子から形成される四量体トランスグルタミナーゼは、繊維素溶解に対する血餅の抵抗性の重要なメディエーターである。第XIIIa因子は架橋フィブリンによる血餅安定性を増大し、局所プラスミン活性が介在する繊維素溶解を妨げる。第XIIIa因子または第XIII因子の投与、次いでトロンビンによる体内での活性化は、すでに形成された血餅を機械的に、および蛋白分解および繊維素溶解活性に対し安定化させる。
【0024】
本発明に従った気管支出血および喀血を治療するための気管支内経路による凝固因子の投与は、同じ凝固因子の静脈内投与による以前の治療の試みに抵抗性であった気管支出血を止めることができることが本明細書において示される。別の投与方法は、急性、再発性、または慢性病状から生じる気管内出血または肺胞出血を止めるための気管内投与および肺胞内投与である。
【0025】
すなわち、本発明は気管、気管支、または肺胞出血の治療方法の有効な改良法を提供する。さらに、凝固因子の気管内、気管支内、または肺胞内投与は、その静脈内使用が血栓症の有意な発生と関連する可能性がある組換えヒト活性化第VII因子(rhFVIIa)のような凝固因子の全身投与の望ましくない血栓症作用の可能性を避けることが予期される。
【0026】
本発明の好ましい態様には、持続性気管支出血または喀血があるヒト患者に対する、所望により同じ液に溶解した適切な量(例えば625U)のヒト血液凝固第XIII因子を添加した、適切な用量(例えば少なくとも4.8mg)のrhFVIIaが溶解している洗浄溶液(例えば50mLの等張生理食塩水)を用いる気管支肺胞洗浄によるrhFVIIaの局所気管支内投与が含まれる。この投与は、所望により気管支出血の再発に応じた間隔で反復され、ある態様では該処置が有効であれば1日間または11日間またはそれ以上である。補充または併用処置として、抗繊維素溶解剤アプロチニンおよびプラスミノーゲン活性化因子阻害剤1(PAI-1)同様に同じ凝固因子を好ましくは同じまたは同様の用量で静脈内投与することができ、抗繊維素溶解剤のトラネキサム酸またはε-アミノカプロン酸も噴霧器(ネブライザー)を介して気管支内に投与することもできる。
【0027】
本発明に用いる医薬組成物または製剤には、医薬的に許容される担体、好ましくは水性担体または希釈剤と混合、好ましくは溶解した第VIIa因子製剤が含まれる。種々の水性担体、例えば0.9%生理食塩水、緩衝生理食塩水、生理学的に適合性の緩衝液などを用いてよい。該組成物は当業者によく知られた常套的技術により滅菌してよい。得られる水性溶液は、使用のために包装するか、または無菌条件下で濾過し、凍結乾燥してよく、凍結乾燥製剤は投与前に無菌水性溶液に溶解する。
【0028】
該組成物は、限定されるものではないが、pH調製剤および緩衝剤、および/または等張性調製剤、例えば酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどを含む医薬的に許容される補助物質またはアジュバントを含んでよい。
【0029】
本発明の局面およびその好ましい態様には、肺に局所適用した第VIIa因子の結果としてすでに形成された血餅を安定化させるための補充療法として細胞培養またはトランスジェニック動物における発現を含む組換えDNA技術によるか、または血漿から製造したヒト第XIII因子または第XIIIa因子の局所投与がある。このアジュバント療法に関して、第XIII因子または第XIIIa因子は、上記気管内、気管支内、または肺胞内法により局所適用するか、全身投与してよい。
以下の非限定的実施例は本発明をさらに説明するために提供する。
【実施例】
【0030】
44歳の男性の慢性リンパ性白血病患者が同種骨髄非破壊的幹細胞移植を受け、高用量の免疫抑制薬物療法を必要とする重度の移植対宿主疾患を合併した。該患者は、全身サイトメガロウイルス感染症を発現し、シドフィルで治療され、血液透析が必要な腎不全を生じた。次に、患者は毎日血小板注入が必要な血小板減少症を発現し、次いで細菌性敗血症および心肺不全の臨床徴候を発現し、集中治療室に収容された。この段階で、血小板数は45x109/mLであり、活性化部分トロンボプラスチン時間は57秒間に延長し、トロンビン指数および血清フィブリノーゲンは正常であった。患者は抗生物質、強心剤、および人工呼吸で治療され、その翌週患者の病状は安定化した。次に、患者は気管内チューブ中の新鮮血で明らかな気管支出血および酸素要求量の増加を発現した。血小板置換は、出血を止めることなく10x109/mLの低血小板数を128x109/mLにし、これは静脈内アプロチニンの投与およびトラネキサム酸吸入に関わらず増加した。以後5週間にわたり、2.4〜9.6mgの用量のrhFVIIaの単独または最大用量のアプロチニン、トラネキサム酸、およびデスモプレッシンと組み合わせた静脈内投与は、血小板数を50x109/mL以上に維持し、凝固状態は活性化部分トロンボプラスチン時間の間欠的なわずかな延長以外は正常であったが、持続的気管支出血を止めることはできなかった。この段階で、治療は本発明に従って変更され、rhFVIIaを用量4.8mgで気管支肺胞洗浄により直接気管支樹内に投与し、同用量のrhFVIIaの静脈内投与を補充した。これにより、初めて気管支出血は停止し、この効果は36時間持続した。次の40日間にわたり、同じ治療を単独または静脈内アプロチニンと組み合わせて9回反復し、いずれの場合も24-48時間の出血を停止させた。血液凝固状態は変化せず、トロンボエラストグラフィーは末梢血中に繊維素溶解亢進を生じることなく正常な血餅発現および血餅強度を示した。この状態で気管支肺胞洗浄による第XIII因子625Uの気管支内投与は、気管支内および静脈内rhFVIIa治療に加え、同用量の第XIII因子の静脈内投与も補充した。これにより、気管支出血が11日間停止し、酸素要求量の増加も低下した。出血の再発は、この処置を反復することによりさらに7日間停止し、次いで患者は1週間に1回の第XIII因子の静脈内投与により無出血が維持された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気管内、気管支内、または肺胞内投与を含む気道を介する投与により対象の急性または再発性または慢性の気管、気管支、または肺胞の出血または喀血を治療または予防するのに用いる医薬を製造するための活性化第VII因子またはその変異体の使用。
【請求項2】
該医薬が該因子の溶液を用いる気管支肺胞洗浄により投与するためのものである請求項1記載の使用。
【請求項3】
該医薬が該因子の溶液を用いるブラインド気管洗浄により投与するためのものである請求項1記載の使用。
【請求項4】
該医薬が該因子の噴霧溶液を吸入することにより投与するためのものである請求項1記載の使用。
【請求項5】
該医薬が噴霧粉末形の該因子を吸入することにより投与するためのものである請求項1記載の使用。
【請求項6】
該医薬が気管支鏡検査中に該因子の直接適用により投与するためのものである請求項1記載の使用。
【請求項7】
該活性化第VII因子またはその変異体が血餅強度および繊維素溶解に対する抵抗性を促進する因子である請求項1〜6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
該対象が哺乳動物である請求項1〜7のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
該哺乳動物がヒト血液凝固因子で治療されるヒトである請求項8記載の方法。
【請求項10】
該ヒトが年齢12歳より若齢の子供である請求項9記載の方法。
【請求項11】
該ヒトが年齢12歳より高齢の大人である請求項9記載の方法。
【請求項12】
該医薬が補充療法として第XIII因子または活性化因子と組み合わせて使用するためのものである先の請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項13】
第XIII因子または活性化第XIII因子をアジュバント療法として全身投与する請求項12記載の使用。
【請求項14】
第XIII因子または活性化第XIII因子をアジュバント療法として気管内、気管支内、または肺胞内投与を介して投与する請求項12記載の使用。

【公開番号】特開2012−92131(P2012−92131A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−280963(P2011−280963)
【出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【分割の表示】特願2007−530584(P2007−530584)の分割
【原出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(507079909)
【氏名又は名称原語表記】Pharmaorigin ApS
【Fターム(参考)】