説明

屎尿の処理方法

【課題】 活性汚泥の処理効果を安定に保持し、長期にわたって効果的に家畜等の屎尿の処理、特に豚の屎尿の処理を有効に行うことができる屎尿の処理方法を提供する。
【解決手段】 屎尿を活性汚泥処理し、活性汚泥処理された処理水を電気透析による脱塩処理に付し、得られた脱塩水を活性汚泥処理工程に循環させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屎尿の処理方法に関するものであり、特に豚舎より排出される豚屎尿の処理に好適に適用される処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種屎尿の処理に活性汚泥法が広く採用されている。この活性汚泥法は、処理すべき排水に長時間空気を吹き込み(曝気)、十分な酸素を供給することにより、好気性微生物群を人為的に増殖させ、排水中に存在する有機物を酸化分解し、凝集・吸着・沈殿分離するという方法であり、このように処理された排水のBODの除去率は、90%〜95%である。
【0003】
また、屎尿の処理に電気透析による脱塩処理を用いることも知られている(例えば特許文献1参照)
【特許文献1】特開平7−256297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、活性汚泥法により屎尿の処理を行った場合、活性汚泥の処理効果が徐々に低下していき、処理された排水のBODが高まっていくという問題があった。特に家畜の屎尿、中でも豚の屎尿の場合には、この傾向が高い。更に豚の場合は、畜舎ピットの洗浄などに活性汚泥処理後の水を再利用している場合が多く、この傾向が著しい。
【0005】
また、活性汚泥法による処理に加えて、電気透析による脱塩処理を併用したとしても、上記の問題は解決しない。即ち、脱塩処理では、BOD成分を殆ど除去することができないからである。
【0006】
従って、本発明の目的は、活性汚泥の処理効果を安定に保持し、長期にわたって効果的に家畜等の屎尿の処理、特に豚の屎尿の処理を有効に行うことができる屎尿の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、屎尿を活性汚泥処理したときの活性汚泥の処理効果の低減について検討した結果、屎尿中のミネラル分が濃縮・蓄積し、活性汚泥の性能を低下させる原因であるとの新規知見を得、かかる知見に基づいて、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明によれば、屎尿を活性汚泥処理し、活性汚泥処理された処理水を電気透析による脱塩処理に付し、得られた脱塩水を活性汚泥処理工程に循環させることを特徴とする屎尿の処理方法が提供される。
【0009】
本発明においては、
(1)前記屎尿が畜舎より排出される家畜屎尿であること、
(2)前記脱塩水を、前記畜舎の洗浄に使用し、洗浄廃液を前記屎尿と混合して活性汚泥処理工程に循環させること、
(3)前記屎尿が豚舎より排出される豚屎尿であること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、屎尿を活性汚泥処理した後に、電気透析による脱塩処理を行うが、この脱塩処理により得られる脱塩水を屎尿と混合し、活性汚泥処理工程に循環使用することが重要な特徴である。即ち、この脱塩水の循環により、後述する実施例での実験結果からも明らかな通り、活性汚泥の性能が安定に保持され、排水中のBOD除去率を安定して90%〜95%レベルに保持することができる。
【0011】
例えば、後述する比較例1に示されているように、脱塩水を循環せずに屎尿の処理を行った場合には、活性汚泥処理工程での沈降分離槽での上澄水のミネラル分(Fe,Mg,Mn,Ca,P,K)の濃度が次第に上昇していき、この上昇に伴って上澄水のBODが増大していく。しかるに、実施例1に示されているように、脱塩水を循環することにより、上記の上澄水のミネラル分の濃度の増大が緩やかになり、これに伴い、BODの増大が有効に抑制されるのである。このような実験結果から、活性汚泥の性能低下はミネラル分の増大に起因するものであり、本発明では、このようなミネラル分が有効に除去された脱塩水を活性汚泥処理工程に循環するため、ミネラル分が希釈されてミネラル分の蓄積が緩和され、この結果として、活性汚泥の性能低下を有効に防止することが可能となるものである。
【0012】
また、本発明においては、脱塩水を活性汚泥処理工程に循環するため、排水の有効利用を図ることができ、環境への負荷を軽減することができる。特に、脱塩水を畜舎の洗浄に使用し、この洗浄排水を、家畜の屎尿とともに、活性汚泥処理工程に供給することにより、排水の一層の有効利用を図ることができる。
【0013】
さらに、前述したミネラル分の増大は、特に豚の屎尿の処理の場合に著しい。従って、本発明は、豚の屎尿の処理に特に効果的に適用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を、以下、添付図面に示す具体例に基づいて説明する。
図1は、本発明の屎尿処理のプロセスの概略を示す図であり、
図2は、本発明の屎尿処理に好適に使用される電気透析装置の概略構造を示す図である。
【0015】
本発明の屎尿処理のプロセスは、大まかに言って、活性汚泥処理工程と、電気透析による脱塩工程とからなり、図1に示されているように、活性汚泥処理工程は、曝気槽1及び沈降分離槽3で行われ、脱塩工程は、電気透析装置5により行われる。
【0016】
先ず、家畜の屎尿、例えば豚の屎尿は、必要により、水で希釈してろ過などの1次処理を行い、粗固形分を低減した後に、曝気槽1に導入される。尚、上記の希釈水としては、後述する脱塩水を使用するのが好ましい。
【0017】
曝気槽1では、屎尿中に下方から空気(O)が吹き込まれ、ここで好気性微生物群を繁殖活性化し、活性汚泥が形成される。この活性汚泥により、屎尿中の有機物が酸化分解される。
【0018】
曝気槽1で処理された液は、次いで沈降分離槽3に導入される。この沈降分離槽3では、処理液は静置され、活性汚泥により酸化分解された有機成分は、活性汚泥とともに凝集し、或いは活性汚泥に吸着され、活性汚泥のフロックとともに沈殿する。従って、上澄水中のBODは著しく低いものとなる。
【0019】
上記のように、曝気槽1及び沈降分離槽3での処理を続けていくと、活性汚泥は、有機成分を栄養源として増殖していくため、沈降分離槽3中での活性汚泥の沈殿が増大していく。この活性汚泥の沈殿は、一部は曝気槽1中に戻され、一部は、必要により濃縮・脱水して廃棄される。
【0020】
上記のような活性汚泥処理工程で有機成分が除去された後、沈降分離槽3の上澄水は、電気透析装置5に供給され、電気透析による脱塩処理が行われる。
【0021】
電気透析装置5には、所謂平膜のイオン交換膜が配列された平膜型装置と、円筒型のイオン交換膜が配置された円筒型装置とがあり、本発明では、何れの装置も使用することができるが、特に円筒型のものが好適に使用される。即ち、沈降分離槽3での上澄水を電気透析装置5に供給する場合、活性汚泥の沈殿が生成しているため、上澄水が懸濁した状態で供給される場合があり、目詰まりなどにより透析による脱塩が困難となる。即ち、平膜のイオン交換膜を備えた平膜型の装置では、平膜同士が接触しないように、通常は平膜の間にスペーサーを設置している。このため、懸濁物質がスペーサーに詰まり、液が供給され難くなる。これに対して、イオン交換膜が円筒型に形成されている円筒型の電気透析装置では、スペーサーは設置されず、スムーズに液が供給され、目詰まりを生じ難く、目詰まりの影響を受け難いという利点があるからである。図2には、本発明で好適に使用される円筒型の電気透析装置の概略構造を示した。
【0022】
図2において、この円筒型電気透析装置は、脱塩処理室10を有しており、この脱塩処理室10内に、正極隔室11及び負極隔室13が設けられている。
【0023】
正極隔室11は、円筒状のアニオン交換膜15の内部に、中空円筒状の正極17が収容されており、該アニオン交換膜15の上端及び下端は、それぞれ剛性の金属等からなるホルダー19が固定されている。同様に、負極隔室13は、円筒状のカチオン交換膜25の内部に、中空円筒状の負極27が収容されており、該カチオン交換膜25の上端及び下端は、正極17と同様、ホルダー19が固定されている。尚、正極17や負極27の形成用材料としては、ステンレス、チタンに白金をメッキ、チタンに酸化イリジウムをコーティング、ニッケル、グラファイト等、既知のものが使用できる。
【0024】
また、正極隔室11及び負極隔室13には、水道水、或いは電解質塩を水に添加した塩水溶液等の極液が循環されるようになっている。例えば、適当な供給パイプ及び排液パイプが正極隔室11及び負極隔室13に接続されており、図2に示されているように、極液が、中空筒状の正極17及び負極27の内部に供給され、供給された極液は、正極17及び負極27の下端から外部に流れ、上端から排出され、排出された極液は、再び正極隔室11及び負極隔室13内に循環して供給されるようになっている。尚、脱塩処理後に、極液を液体肥料などに再利用することを考えると、正極隔室11及び負極隔室13に循環する極液としては、硝酸カリウムや燐酸カリウムの水溶液が好適である。また、極液中に炭酸カルシウム等が析出することを防止する為に、酸を添加するのがよい。このような酸としては、鉱酸を使用することもできるが、液体肥料として利用することを考えると、酢酸等の有機酸や燐酸が好適である。
【0025】
上記のような構造を有する電気透析装置5の脱塩処理室10に、前述した沈降分離槽3の上澄水を供給し、電気透析による脱塩処理が行われる。
【0026】
この脱塩処理は、正極隔室11及び負極隔室13に極液を循環させながら、正極17と負極27との間に適当な電流密度(通常、0.2乃至2 A/dm 程度)を印加することにより行われる。即ち、円筒状のアニオン交換膜15は、表面から内面に貫通している多数の細孔を有する多孔質の架橋樹脂から形成されており、その表面及び内部には、第4級アンモニウム塩基等のアニオン交換基が存在する構造を有している。同様に、円筒状のカチオン膜25は、その表面及び内部には、スルホン酸基等のカチオン交換基が存在する構造を有している。このため、正極17及び負極27に電圧を印加することにより、脱塩室5に供給された処理液中のアニオンは、生じた電界によって、円筒状アニオン膜15を通過して正極隔室11内に移行する。一方、処理液中のカチオンは、円筒状のカチオン交換膜25を通過して、負極隔室13内に移行する。
【0027】
尚、上記の円筒状のアニオン交換膜15及びカチオン交換膜25は、何れも、膜抵抗が70〜120Ω、35℃温水中での含水率が30〜50重量%、イオン交換容量が0.7〜1.5meq/g-dry、及び膜厚が0.7〜3mmの範囲にあることが好ましい。即ち、このような特性を有する交換膜15,25を用いることにより、該膜の目詰まり等を防止し、且つ目詰まりによる処理効率の低下を有効に回避することができる。
【0028】
このような電気透析によって、脱塩室10内に供給された処理液(上澄水)は、脱塩され、例えば該処理液中の硝酸イオン、リン酸イオン等の各種アニオンや、Fe3+、Mg2+、Mn2+、Ca2+、Na、K、NHなどの各種カチオンは、有効に除去されることとなる。
【0029】
本発明において、上述した電気透析は、ミネラル分濃度(例えばFe、Mg及びMnなど、人体や食品に含まれる元素のうち、O、C、H、N以外の成分の合計濃度)が500ppm以下となるまで行うのがよい。既に述べたように、活性汚泥の性能は、ミネラル分の増大により低下するため、本発明では、この脱塩された処理液(脱塩液)を活性汚泥処理工程に循環することにより、ミネラル分の増大を抑制し、活性汚泥の性能低下を回避するからである。
【0030】
尚、電気透析による脱塩処理により、正極隔室11や負極隔室13内を循環する極液中のアニオン濃度やカチオン濃度は次第に増大するため、適度な段階で、この極液の一部を回収し、廃棄或いは液体肥料として再利用に供する。
【0031】
本発明において、上記の電気透析によって脱塩された処理液(脱塩水)は、ミネラル分をほとんど含有していないため、活性汚泥処理工程に循環される。このような循環は、曝気槽1に脱塩水が供給される限り、どのような手段によって循環させてもよく、例えば、曝気槽1に脱塩水を直接供給することもできるし、また屎尿の1次処理の際の希釈液として脱塩水を使用することもできる。しかし、本発明において、最も好適には、豚舎等の畜舎の洗浄水としてこの脱塩水を使用し、この洗浄廃液を、屎尿と混合して上述した屎尿の処理に用いるのがよい。この場合に、最も処理排水(脱塩水)の有効利用を図ることができ、しかも、ミネラル分の増大による活性汚泥の性能低下を有効に回避することができるからである。
【0032】
上述した本発明の処理方法は、種々の屎尿の処理に適用することができるが、家畜の屎尿、特にミネラル分を多く含む豚の屎尿の処理に最も好適に適用される。
【実施例】
【0033】
本発明を、次の例で説明する。これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0034】
(実施例1)
BOD濃度が3000mg/Lの原水を用い、図1に示すフローで、且つ、表1の条件で稼動した。使用した電気透析装置は、図2と同様の構成である。アニオン交換膜およびカチオン交換膜は、株式会社アストム製のEDコア(有効膜面積100dm)を使用した。原水、活性汚泥処理水、電気透析処理により得られた脱塩水の組成分析結果を表2に示す。脱塩水の塩濃度は、原水の約1/10となった。得られた脱塩水を図2に示す通り、畜舎洗浄水に使用し、再び表1と同様の条件で処理した結果、表2と同様な液組成が得られた。
【0035】
[表1]
曝気槽1への原水供給量 1.2(m/day)
電気透析5への沈殿分離槽3の上澄液供給量 1.0(m/day)
電気透析処理条件
平均運転電流密度 1(A/dm
脱塩水のpH 6〜8
脱塩水の温度 30〜45(℃)

【0036】
[表2]
原水 活性汚泥処理水 電気透析処理の脱塩水
BOD(mg/L) 3000 150 150
T−P(mg/L) 70 40 7
Cl(mg/L) 400 400 40
K(mg/L) 800 800 20
NH(mg/L) 1200 1100 30

【0037】
(比較例1)
BOD濃度が3000mg/Lの原水を1.2(m/day)で曝気槽に供給して活性汚泥処理を行なった。原水および沈降分離槽の上澄液の組成分析結果を表3に示す。上澄液の塩濃度は、原水と殆ど同じであった。得られた上澄液を、畜舎洗浄水に使用し、再び同様の条件で活性汚泥処理した結果、表4に示す液組成が得られた。塩濃度およびBODは表3と比較して増加しており、活性汚泥処理性能が低下した。
【0038】
[表3]
原水 活性汚泥処理水
BOD(mg/L) 3000 150
T−P(mg/L) 70 40
Cl(mg/L) 400 400
K(mg/L) 800 800
NH(mg/L) 1200 1100

【0039】
[表4]
原水 活性汚泥処理水
BOD(mg/L) 3300 300
T−P(mg/L) 77 77
Cl(mg/L) 440 440
K(mg/L) 880 880
NH(mg/L) 1320 1200

【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の屎尿処理のプロセスの概略を示す図。
【図2】本発明の屎尿処理に好適に使用される電気透析装置の概略構造を示す図。
【符号の説明】
【0041】
1:曝気槽
3:沈降分離槽
5:電気透析装置
10:脱塩室
11:正極隔室
13:負極隔室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屎尿を活性汚泥処理し、活性汚泥処理された処理水を電気透析による脱塩処理に付し、得られた脱塩水を活性汚泥処理工程に循環させることを特徴とする屎尿の処理方法。
【請求項2】
前記屎尿が畜舎より排出される家畜屎尿である請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記脱塩水を、前記畜舎の洗浄に使用し、洗浄廃液を前記屎尿と混合して活性汚泥処理工程に循環させる請求項2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記屎尿が豚舎より排出される豚屎尿である請求項2または3に記載の処理方法。
【請求項5】
電気透析による脱塩処理によって得られる濃縮液を液体肥料に利用する請求項1乃至4の何れかに記載の処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−38185(P2007−38185A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227996(P2005−227996)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(505298238)学校法人 君が淵学園 崇城大学 (6)
【出願人】(505298191)株式会社エム・ティ・エル (1)
【出願人】(503361709)株式会社アストム (46)
【Fターム(参考)】