説明

履物及び履物用部品

【課題】履物内部の換気性能を高めるとともに水の滲入を防止することが可能で、デザイン自由度が高く機能付加が容易な履物及び履物用部品を提供する。
【解決手段】内気口17は、外側部材11及び内側部材12の貼り合わせから成る先芯構造体1において、トゥボックス9の前端に臨むように、開口している。外気口19は、アウトソール3の前端部下面の上方へ沿った部位に開口する。上り換気管路20はアウトソール3及び先芯構造体1内を利用して形成され、外気口19と先芯上部22とを連通する。下り換気管路21は、先芯構造体1内に形成され、先芯上部22と内気口17とを連通する。先芯上部22は内気口17及び外気口19より高い位置にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、履物内部の環境改善や電子的機能付加の容易性を高めた履物及び履物用部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、履物の履き心地を悪化させる要因として、靴内部の蒸れや悪臭の発生があり、これを防止するために靴の内部と外部との間で空気の流通を図るようにした構造が種々試みられている。例えば爪先や土踏まず部のアウトソールを開口し、外気を取り入れる構造のものが知られている。この場合は、インソールを通気性の高い材料で構成する必要がある。この他、ヒール部にエアポンプや送風装置を設け、爪先部に換気管路を介して外気を強制的に送り込むものがあった。
【特許文献1】特開平7−327706号公報
【特許文献2】特開平7−23802号公報
【特許文献3】特開2001−37503号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
解決しようとしている問題は、上述した従来のアウトソールに開口部を設けた履物にあっては、僅かな水溜りを踏めばアウトソールの開口部から雨水が簡単に履物内部に滲入してしまい、不快な思いをすると共に、履物の傷みを加速することがあった。また通気性の高いインソール素材を使用する必要があり、履き心地が悪化するという問題があった。この改良版としてアウトソールの開口部とインソールとの間に透湿防水シートを介在させて雨水の滲入を防止するものが実用されたが、透湿防水シートは塵埃により目詰りを起こしたり、自然な空気の流れを阻害し換気性能を低下させるものであった。
【0004】
他方、ヒール部にエアポンプや送風装置を設けた履物は、歩く際の踵にかかる荷重差を利用しているため、着座時のように歩行動作が無い時には、換気が充分にできない不都合があった。またヒール部のエアポンプや送風装置、ソール部の換気管路は、歩行時の衝撃や屈曲により故障し易く、さらに物理的な厚みや体積を有し履物のデザインを制約してしまうため、特定用途の履物以外に適用が難しかった。さらに甲皮の防水やアウトソールの換気口に透湿防水シートを用いる履物が実用に供されているが、前述したように多発汗時には充分な換気性能を発揮し得ていないという問題があった。また歩行の衝撃や履物内部が常に多湿になり電子装置の使用環境として好ましくないことから、電子技術を用いて状況に応じた履物内部の環境制御が難しかった。
【0005】
本発明は、上述の問題点に鑑みなされたものであり、履物内部の自然換気を促しながらも、水の滲入を防止する換気機構を設けることにある。さらに着座時においても履物内部の環境状態に応じた換気ができ、さらに高いデザイン自由度や電子的機能を有する履物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る履物の第1の特徴は、履物の内部に開口した内気口と外部に開口した外気口とを相互に連通する換気管路を備え、前記換気管路は、前記履物の内部に対し耐水性を有すると共に前記内気口と前記外気口との中間に最高点を有する。
【0007】
これにより履物の蒸れた内気と冷涼な外気を直結して入れ替えできる通路が確保されると共に、外気口から水や塵埃が滲入しても換気管路の最高点を越えない限り、換気管路は履物内部に対して耐水性があるので履物内部には滲入できない。これにより換気量を増大させて履物の換気性能を向上させると共に、従来課題となっていた換気性能向上による防水性劣化を両立させることが可能となった。
【0008】
さらに好ましい態様において、前記換気管路の最高点は、前記履物のインソールより高い位置にある。この構成によれば、外気口がソール底面のようなインソールより低い位置に配設されていても、外気口は履物の甲皮部の上部に配設されている場合と等価になる。このため、インソールの高さまで水深がある場合でも外気口から直接水が滲入することを防止できる。一方、降雨に対しては、甲皮部の上部に開口部となる外気口が無いため、降雨が直接外気口から流入する心配はない。
【0009】
さらに好ましい態様において、前記履物の爪先部には、前記外気口と、前記内気口と、甲皮に隣接して前記換気管路を構成し耐水性を有する構造体と、が具備されている。この構成によれば、多くの履物では、爪先部分に歩行時の爪先の動きを確保し履物の形をよく見せるための空間(トゥボックス)を設けているので、この空間を利用して前記の最高点を有する換気管路を構成する構造体を設けることができる。この結果、履物において最も換気を必要とする爪先部の換気性能を履物の外見を変えずに向上できる。またこの空間を補強する先芯を用いる場合があるが、前記構造体を先芯の代用とすることができる。さらに前記構造体と前記甲皮を組み合わせて換気管路を構成することもできる。また履物内部で最も蒸れ易い爪先部に近いところに内気口や換気管路、外気口あることから、換気管路の送流抵抗が小さくなり、高い換気性能が得られることになる。
【0010】
さらに、履物の全体構成において空間的余裕があり外力が加わり難い爪先部の空間形成する構造体を利用して電子装置を実装することにより、高度な換気制御性を実現するとともにその制御システムを拡張して新たな機能装備が可能となる。つまり換気管路が爪先部にあることで送風装置をアウトソール部以外に配置することが可能となる。さらに爪先部に設けた耐水性のある構造体に電子装置を実装することにより、電子装置の信頼性を確保しながら履物に高度な空調機能や知能的機能を付加する道を開くことができる。
【0011】
さらに好ましい態様において、前記換気管路と前記内気口とが前記構造体と一体に形成されている。この構造によれば、履物内部で最も蒸れ易い爪先部に近いところに内気口を配設できるため、換気管路の送流抵抗が小さくなり、高い換気性能が得られることである。また多くの履物では、爪先部分に歩行時の爪先の動きを確保し履物の形をよく見せるための空間(トゥボックス)を設けているので、足の位置によって換気が妨げられることがなく、この空間を利用して無理なく換気手段を設けることができる。
【0012】
さらに好ましい態様において、前記外気口は爪先部に開口しており、前記換気管路と前記換気管路が前記履物内部に開口する内気口とが先芯構造体と一体に形成されている。この構造によれば、複雑な構造の換気管路や内気口であっても、履物の甲皮部材やソール部材とは別にプラスチックや金属、複合材を用いて先芯構造体として一体成型することができる。また先芯構造体として別形成が可能であることから、電子的に制御される小型の送風装置やその制御装置を換気管路内や先芯構造体内に実装することによって、それらを外部からの衝撃や塵埃から保護することができる。
【0013】
さらに好ましい態様において、前記外気口はトゥボックス部(爪先部)のアウトソールを貫通して配設されている。すなわち、外気口は、アウトソールの前端部下面において上方へ反っている範囲に形成されている。この構造によれば、アウトソール部の接地面がやや浮いた部分に外気口が配設されるため、着座時や起立時においても外気を取り入れ易い。また外気口が甲皮部に無いため、従来からある履物の外観を大きく変更することがない。さらに甲皮に対する艶付けやワックス掛け等のメンテナンスによって外気口が目詰まりして換気性能が低下するような影響を受けない。
【0014】
さらに好ましい態様において、前記換気管路の前記外気口近傍部が前記外気口に向かって管路断面積が広くなるように形成されている。換言すれば、換気管路の外気口端部は、前記外気口から内へ連続的又は段階的につぼまっている。この構造によれば、外気口に向かう換気管路部分は垂直方向に配設されているため、外気口より滲入した水や塵埃は重力により外に排出され易い。このため水平方向に換気管路が配設されている場合に比べて、水などが浸入しても換気管路が詰まりにくくなり、換気性能が維持され易い。
【0015】
さらに好ましい態様において、内気口は、前記構造体と足の指先と間の間隙に臨んでいる。より好ましくは、足の人差し指に対向する位置を中心として配設されている。この構造によれば、内気口から送出される外気は、足の指先前方にある空間で拡散してから足指の隙間を通って流れることになる。この結果、足指の間に溜まった温度の高い空気は、足と履物のインソールや甲皮部との隙間空間を通って安定して履き口に向かって排出されてゆくことになる。このため、足の裏面で換気が妨害され易いインソール面に内気口がある場合に比べて換気性能を高くできるのである。また内気口がインソール面にないので、インソールの材質や構造は履き心地を優先して選択することができる。
【0016】
別の態様において、前記換気管路内に前記内気口に隣接して強制換気装置が配設されている。この構造によれば、換気管路長が短いので強制換気装置の送風力を減衰させることなく内気口から送風することができる。また従来の履物には元々足の指先前方に遊びの空間(トゥボックス)があるので、強制換気装置を前記内気口に隣接して配設してもその大きさが履物の外観に与える影響は少ない。さらに甲皮部や先芯構造体に保護されて強制換気装置に外力が直接加わることがないので、強制換気装置の外力による故障を回避することができる。
【0017】
さらに好ましい態様において、換気管路は、前記内気口側の端部において前記強制換気装置より下方に達している。具体的には、前記強制換気装置は、前記換気管路の最下部より高い位置に前記先芯構造体に固定されている。この構造によれば、結露などで換気管路内に水滴が生ずる場合があっても水滴は換気管路最下部に溜まり、強制換気装置が固定されている位置に達しにくくできる。これにより水滴が、電気的な回転機構を有する強制換気装置に悪影響を及ぼす確率を大幅に減らすことができる。
【0018】
別の態様において、前記強制換気装置は、制御装置により前記履物内部の湿度及び/又は温度に応じて電子的に換気量制御が行われ、前記制御装置は前記先芯構造体内に格納されている。この構成によれば、集積回路(LSI)化された制御装置では、履物内部に埋め込まれた湿度及び/又は温度センサからの出力データを受けて、強制換気装置に対し短い配線で適時最適な換気量になるように送風ファンの回転数を制御できる。さらに制御装置を耐水性や機械的強度のある先芯構造体内に格納することにより、制御装置の信頼性を向上させることができる。
【0019】
本発明の好ましい態様として、少なくとも前記内気口から履き口部まで、前記履物の甲皮側の内側に通気性部材が被覆されている。この構造によれば、前記内気口から送出された外気は、履物の甲皮部の内側に設けられた通気性部材中も透過して履き口まで流れて、履物外部に排出されるので、さらに換気性能を高めることができる。前記の通気性部材は、送風方向に空間の多いヘチマの繊維構造状のものが好適である。
【0020】
他の態様において、前記制御装置は、前記履物の甲皮部材に埋設された入力手段からの信号入力を受けて前記履物に搭載された他の電子装置の制御を行う。この構成によれば、履物を履いた人が最も操作し易い甲皮部の部材に実装された入力手段によって、前記強制換気装置の動作制御や履物に搭載可能な各種の電子装置の制御を大きなコスト負担なく前記の制御装置に指示させることが可能となる。各種の電子装置の例として、ディスプレイ、発光器、センサ、スピーカ、無線装置等が挙げられる。
【0021】
本発明の履物の構造体には、履物内部の内気と外気とを換気する換気管路と前記換気管路が前記履物内部に開口する内気口と、を備えた。この構成によれば、複雑な構造の換気管路や内気口形状であっても履物製造工程とは別工程で製造し、品質保証されたモジュール部品として履物に組み込むことが可能となる。これにより個別に前記の換気手段を作り込む場合に比べ大幅な履物の生産性向上や品質向上を図ることができる。
【0022】
本発明の他の態様として、前記構造体内に履物の使用者の利便性や快適性を向上させる機能、あるいは生産者・流通業者の生産性向上機能を付加するための電子装置を実装した。この構成によれば、爪先部には空間的な余裕があり、前記構造体はプラスチックや金属の成型品で作ることが好ましいので、湿気や応力に影響を受け易い電子装置であっても複数の電子装置を前記構造体の構成部材で包むように実装することが容易である。また爪先部は履物の構成部材の中でも衝撃が加わりにくく、構成材料が履き心地に影響する度合いが低いので、電子装置の保護特性を優先した材料選択ができる。さらに本発明の換気機構を設けることにより、電子装置周囲の湿度を低く保つことができるので、電子装置の耐湿性コストを低く抑えることができる。これにより、新たなコストや実装空間の発生を抑制しながら電子装置や他の機能部品を履物に搭載し、履物に対して新たな付加価値付けを促進できる。
【0023】
発明の好ましい態様として、前記強制換気装置や制御装置を動作させるための電力を供給する電源装置を履物の羽根部とタン(舌革)部の境界付近に配設した。この構成によれば、一次電池のように取り替えを必要とする電源装置であれば、使用者が容易に取り替えられるようにできる。また歩行に伴う衝撃や圧力が電源装置に直接加わることがないので、電源装置の実装が容易である。さらに羽根部やタン部を構成する部材により電源装置を覆うことにより、衝撃や水分による劣化影響を抑制できる。また電源装置をデザイン的に目立ち難くする、あるいは装飾の一部とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。以下に示す形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明に限定するものではなく、本発明の範囲内で任意に変更可能である。また、以下に示す各図においては、各構成要素を図面上で認識され得る程度の大きさとするため、各構成要素の寸法や比率などを実際のものとは適宜に異なるものとなっている。また、いずれの図面においても本発明の内容が理解され得る範囲で詳細部分は省略した概略図としてある。なお、これらの図面において同一の部材には同一の符号を付しており、また、重複した説明は省略されている
【0025】
[実施形態1]
図1は、本発明の実施形態1である本発明の先芯構造体1を爪先部40に備えた履物の構成を示す斜視図である。また図2は、前記先芯構造体1の部分を図3のA−B線に沿って横断した横断面図である。これに換気管路を一部重ねて示している。図3は、履物の甲皮側から見た爪先部40の平面透視図である。図4は、本発明のアウトソール側から見た平面図である。
【0026】
図1〜図4において、100は履物全体を示し、履物100は概略的に、アウトソール3(本底)と、インソール(中底)4と、甲皮(アッパー)2と、先芯構造体1とから構成されている。以下の説明では、皮革製紳士用ビジネスシューズを中心に本発明の詳細を述べるが、これに限定されるものではない。
【0027】
アウトソール3は、例えば革やポリウレタンなどの合成樹脂、弾力のある発泡素材で一体形成される。先芯構造体1は、従来の履物においては爪先部40の上方空間(トゥボックス)を確保するために靴の先端に入れる先芯に相当するものであるが、本発明ではこれに限定されない。先芯構造体1は、繊維素材を含む複合樹脂材料(ACM)や弾力のあるポリカーボネート、ポリウレタンなどの軽量耐水性素材で形成される。本発明では、先芯構造体1は、重量物落下に対する安全性確保を目的にしていないので、すべてが硬質材料で構成され、また爪先全体を覆う形状でなくてもよいが、本発明では爪先上部まで覆う形状が好ましい。先芯構造体1の底辺は、図2に示すようにインソールの下側に回り込む張り出し部23を有し、甲皮に覆われる形でアウトソール3部に埋め込まれ固定されている。
【0028】
図2に示すように先芯構造体1には、履物の防水高さを高くするための換気管路20、21が先頭部分に配設されている。前記換気管路20は、短時間に水が浸透しない程度もしくはそれ以上の耐水性のある材料で形成され、アウトソール3に開口した外気口19から先芯構造体先頭部の上方に延び、先芯構造体上部22を経由してから、先芯構造体の先頭部に降りてトゥボックス9への開口部である内気口17に接続されている。外気口19は、図2に示すようにアウトソール3の爪先部が上方に向けて反っている部分に開口することが好ましい。本実施形態では、外気口19は、図3に示すように、外気口31、32の2つから成り、外気口31、32からそれぞれ換気管路35が2本立ち上がり、換気管路における共通の最高点である先芯構造体上部22で合流して換気管路36に接続されている。複数の換気管路を配設する場合は、履物における最適な換気管路の最高点領域は限られるので、最高点を共通にすることが好ましい。
【0029】
上り換気管路20及び外気口19は、水の表面張力や異物による管路の詰りを防止するため、外部に向けて換気管路径が拡大する構造となっている。また上り換気管路20の最小径は、水が毛細管現象により重力に逆らって管路内部に滲入しないおよそ0.7mmより大きい値、好ましくは2mm以上に設定される。換気管路20の断面形状は、円形に限らず履物の形状に合わせて任意の形状に構成される。また換気管路20や外気口19は、歩行時に外気口19に突入してくる水の勢いを減衰させ、あるいは異物が履物内部まで到達し足を傷つけることがないようにするために、図2や図5に示すように換気管路を3次元的に湾曲させることが好ましい。さらに、換気管路20は、外気口19側の端部において外気口19へ向かってヒール側へ斜めに延びていることが好ましい(図2)。また異物が外気口19に詰まらないようにするために、外気口19部に格子を設けてもよい。以上の構造的特徴により、外気口19から雨水が滲入しても、換気管路の最上部22を越えなければ、外気口19から排出され滲入した雨水は外気口19から排出され、内気口17まで達することはない。
【0030】
また先芯構造体1は、軽量化するために図3の斜線部33、34に示すように換気管路以外の厚肉部分を空洞化することが好ましい。この空洞部33、34は、前記換気管路と同時に形成することができ、後述する電子装置を実装する空間や新たな換気管路にもなり得る。
【0031】
さらに前記先芯構造体1及びその端部の緩衝部材14の内側には、通気性のある部材13が履き口部5まで被覆されている。このため内気口17には、通気性部材13の端部を固定するための枠部材が嵌められていてもよい。この構造によれば、図2に示す前記内気口17から送出された気流F3は、履物の甲皮部の内側に設けられた通気性部材中も透過することで履き口の部分まで流れ、履物外部に排出されるので、より換気性能を高めることができる。前記の通気性部材は、気流方向に空間の多いヘチマの繊維構造状のものが好適である。
【0032】
以上の構成によれば、着座時においても床面25より僅かに浮いた外気口19から外の低温低湿の空気流F1が導入され、アウトソール3及び先芯構造体1内の上り換気管路20を介して先芯上部22へ達し、次に、先芯構造体1内の下り換気管路21を経由して内気口17から気流F2、F3となってトゥボックス9内に送出される。この換気気流により、足の発熱や発汗により高温多湿となったトゥボックス9内の空気は、甲皮(アッパー)10と足の甲又はインソール15と足裏との間にできる空間を経由して履き口5に排出される。このように構成された空気の循環経路においては、履き口5は外気口19より高い位置にあるので、煙突効果により外気口19には負圧が働き、空気の自然循環が行われる。さらに歩行時には、足の動きによりトゥボックス9の空間容積が変化するふいご作用により、前述の自然循環経路による換気の他に、本発明の換気管路を経由した積極的な吸排気が行われる。これにより、爪先には直接新鮮な外気が導入されるので、履物内部の不快感が大幅に軽減される。
【0033】
なお図2、図3に示す先芯構造体1は、外側部材11と内側部材12とに分けて金型を用いて成型し、貼り合わせることで形成される。これにより複雑な形状の換気管路であっても容易に形成できる。また貼り合わせ時に換気管路内に強制換気装置や他の電子装置等を実装することが容易にできる。
【0034】
[実施形態2]
図5は、本発明の実施形態2である本発明の強制換気装置を備えた先芯構造体37の中央部分を第6図のC−D線に沿って横断した横断面図である。これに換気管路を一部重ねて示している。図6は、前記先芯構造体37部の平面透視図である。図7は、本発明の実施形態2である本発明の強制換気装置を備えた履物の強制換気に関係する構成要素配置を示す斜視図である。実施形態2は、実施形態1に対し強制換気装置に関係する構成要素を付加したものであるので、共通部分の説明は省略する。
【0035】
図5において強制換気装置50は、先芯構造体37内にある下りの換気管路21を僅かに拡張する形で配設される。強制換気装置50の取り付け位置は、図5、図6に示すように内気口17に隣接して換気管路21内に配設される。強制換気装置50は、送風羽根及びモーターを合わせた厚みが4mm前後のものが可能であるため、履物の外形や履き心地に影響を与えることなく実装することができる。図5において強制換気装置50は、換気管路を経由してきた外気を強制換気装置50の上面から取り入れ、風向きを直角方向に曲げて送風する。強制換気装置50の筐体は、先芯構造体構造体と一体形成されていてもよいが、外的衝撃や強制換気に伴う振動を緩和する宙吊り構造又は柔部材を介して先芯構造体に取り付けられていてもよい。また強制換気装置50の近くには、外側の先芯構造体11と内側の先芯構造体12の間の空間強度を得るための支柱があれば、さらに衝撃強度の向上を図ることができる。また図5のh3で示される換気管路21の最下部としての底部30の床面からの高さは、強制換気装置の底面高さh4より低い位置になるように形成される。これにより換気管路内に生じた水分や埃による強制換気装置への影響確率を低減することができる。
【0036】
なお強制換気装置50は、密封軸受け構造の超小型ブラシレスDCモーターを用いたクロスフローファンが好適であるが、プロペラファンや他の方式のファン、ブロア、あるいはベローズ型ポンプ、イオン導電性高分子アクチュエータを用いた送風装置などの送風機能を有した装置を適宜選択し用いてもよい。クロスフローファンの場合、直角に風向きを曲げることができ、また送風がファンの長さの幅の静かな層流となるので、本発明の目的を達成するには好都合である。この場合、長さ15mm×直径4mm程度の大きさでも最大0.010m3/min程度の送風能力があり、履物内を換気するには十分な送風能力である。またファンは樹脂成型され、その重量は数gから数10g程度で履物の重心バランスに影響を与えることもない。クロスフローファンの回転軸は、DCモーターの回転軸と一体となって回転軸方向に配置されていてもよいが、ギア又はベルトを介してクロスフローファンとDCモーターが縦積み配置されていてもよい。縦積み配置の場合は、換気管路内の空間を有効利用でき、トルクの大きいモーターを使用可能である。なおプロペラファンの場合、図5では、強制換気装置50をファンの回転面を鉛直方向に配置することになるが、トゥボックス9の空間に余裕があるロングノーズの履物の場合は、水平方向に配置してもよい。この場合、強制換気装置と内気口までの間に送風空間を確保する必要がある。
【0037】
図7において強制換気装置50は、制御装置70によって三相又はそれ以上の位相を用いて駆動電流のパルス幅や位相を変化させることで、送風量が制御される。制御装置70は、半導体集積化されたプロセッサやモータードライバを主要構成要素とし、電源装置73から甲皮内側に埋設された導線76により電力供給を受け、動作する。御装置70は、また、履物に実装された温度や湿度センサ72から導線71を介して送られてくる検出信号に応じて駆動電流のパルス幅や位相をインバータ制御して、爪先部40が快適に保たれるように強制換気装置50の送風量を調整する。例えば先芯部が高温多湿の場合は送風量を多くし、一定温度以下の場合は送風を停止する。その中間では緩やかに換気が行われるように送風量を制御する。これにより強制換気装置50の電力消費は大幅に抑制される。
【0038】
さらに履物が履かれていない時は、装置全体が動作を停止し消費電力がほとんどないように制御される。履物が履かれていないことは、前記温度センサや湿度センサからの出力信号で検知可能であるが、圧力センサ、赤外センサあるいは振動センサを用いた自動検知方式又は手動スイッチで制御してもよい。また歩行時には、歩行動作を圧力センサや振動センサ、モーターの逆起電力等を検出することで強制換気装置50をフリーラン状態にすることによって、前述したふいご作用による積極的な換気が換気管路経由で障害なく行われるようにしてもよい。
【0039】
制御装置70は、強制換気装置と一体化されていてもよいが、一部又は全部を分離して先芯構造体80の中に埋め込まれる形で実装されていてもよい。これにより汗などの水分による電子装置の腐食や劣化を防止することができる。
【0040】
電源装置73はボタン型一次電池やペーパー電池が薄く軽量で実装上好適であるが、他の形式の一次電池や二次電池、燃料電池やペルチェ素子、太陽電池、DC型ファンモーター等を利用した発電装置と蓄電装置を組み合わせたものであってもよい。ボタン型一次電池を用いる場合、例えば図7に示すように羽根部6とタン部7の重なり部分又はその近傍に配設し、甲皮部内を導線76でつなぎ、制御装置70に電源を供給する。これによってボタン型一次電池であれば複数用いる場合では、機密性の高い柔らかい電池パック74を用いることで、足の形状や足の動きの妨げにならない位置に配設でき、電池交換も容易である。また前述した強制換気装置50のモーター回転数を広範囲に変えて電力消費を抑制することで、CR2032程度のボタン型リチウム電池1個でも、2〜3週間程度の実用電池寿命を確保することが可能である。
【0041】
[実施形態3]
図8は、本発明の実施形態3である本発明の先芯構造体80を備えた履物の構成を示す平面図である。本実施形態は、ロングノーズの履物に適した実施形態で、外気口81、82が先芯構造体80における換気管路底部86より履物先端側に位置している。換気管路底部86は、図3の換気管路底部30に相当する。また複数の内気口83、84、85を設けてもよい。この場合、換気経路の断面積を大きく取れるので、実施形態1より高い換気性能を得ることができる。この場合においても、外気口や換気管路は、一つあるいは複数あってもよく、履物の形状や換気性能に応じて換気管路の配設パターンは任意に変更できる。なお図8に示す先芯構造体80は、外側部材と内側部材の他に中間部材とに分けて成型し、貼り合わせることで形成される。換気経路は、外気口81、82から換気管路の最上部22へ立ち上がる上り換気管路87と、最上部90から内気口83、84、85の方へ経ち下がる下り換気管路88とを有している。先芯構造体80の底辺は、図2の先芯構造体1の底辺と同様に、インソールの下側に回り込む張り出し部89を有し、甲皮に覆われる形でアウトソール3部に埋め込まれ固定されている。
【0042】
以上説明したように本実施形態では、換気管路を用いて導入した外気は、図2や図5の矢印のように爪先部の空間に送出されるので、実施形態1で説明したように爪先部の多湿な空気は足の甲部や土踏まず(シャンク)部に押し出され、足と甲皮部の隙間を通って履き口5から排気されることになる。すなわち汗腺が多く、最も水虫になりやすい足指部分に冷涼低湿な外気が常に導入されることになる。また換気は、歩行をしていない着座時でも煙突効果による自然換気や強制換気装置による換気が行われるので、足指部分が常に快適に保たれ、水虫や悪臭を防止することができるのである。
【0043】
以上、本発明の先芯構造体と一体となった換気機構を備えた履物を実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されず種々の変形が可能である。例えば、換気管路の最高点より下部であれば、外気口19を甲皮部側面やアウトソール3側面に配設してもよい。また外気口に接続される換気管路を吸気用と排気用に分けて配設してもよい。この場合、吸気用換気管路又は排気用換気管路のどちらかに強制換気装置を設ければ、実施形態2の場合より着座時のトゥボックス内の換気がより促進されることになる。
【0044】
さらに別の変形例として、本発明の実施形態1では、先芯構造体1を外側部材11と内側部材12とに分けて成型し、貼り合わせることで形成されるとしたが、換気管路20、21の甲皮側部分を開口し、開口した換気管路壁部を甲皮10で代用することで、先芯構造体1を一つの部材で形成するようにしてもよい。あるいは、先芯構造体1は、図9に模式的に示すように上り換気管路20及び先芯上部22の甲皮側部分の管路壁を開口し、開口した換気管路壁部を甲皮10で覆うと共に、下り換気管路21の先裏布側部分の管路壁を開口し、開口した換気管路壁部分を先裏布13で覆うことで換気管路を構成するようにすることで、上り換気管路と下り換気管路とを一つの部材として一括成型するようにしてもよい。この場合、先芯構造体1は耐水性材料を用いるとともに、甲皮は透湿防水性のもの(透湿防水シートを甲皮に張り合わせたものを含む)を使用することが好ましい。この変形例は、本発明の簡易的な実施形態として、より低廉価な履物を実現することができる。上記の簡易的な換気管路の構造は、本発明の実施形態2、3においても適用可能である。
【0045】
さらにマイクロエレクトロニクス技術を用いて電子的な制御を知能化することにより、よりきめ細かな換気制御が可能になる。また知能制御部を共用して換気以外の機能を装備することも容易になる。図7に示す本発明の電子装置の基本的配設構造は、履物に各種の電子装置を実装して様々な有用な機能や効果を実現する場合に応用可能である。例えば無線通信機能や表示機能、発電機能、健康管理機能などが挙げられる。
【0046】
また本発明は、ビジネスシューズや安全作業靴だけでなく、ファッション性が重視されるパンプスやハイヒールなどの婦人用履物やブーツ、耐久性や対候性が強く要求される登山靴やウォーキングシューズ、スポーツシューズなどの履物に幅広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態1に係わる本発明の履物の構成を示す斜視図である。
【図2】図1の履物における先芯構造体部の横断面図である。
【図3】図1の履物における甲皮側から見た先芯部の平面透視図である。
【図4】図1の履物におけるアウトソール側から見た平面図である。
【図5】本発明の実施形態2に係わる強制換気装置を備えた履物の構成を示す横断面図である。
【図6】図5の履物における先芯部の平面透視図である。
【図7】図5の強制換気装置に関係する構成要素の配置を示す斜視図示す図である。
【図8】本発明の実施形態3における先芯構造体の構成を示す平面図である。
【図9】本発明の実施形態1に係わる先芯構造体部の他の変形構成例を示す模式図
【符号の説明】
【0048】
1、37、80・・・・ 先芯構造体
2・・・・ 甲皮(アッパー)
3・・・・ アウトソール(本底)
4・・・・ インソール(中底)
5・・・・ 履き口部
6・・・・ 羽根部
7・・・・ タン(舌革)部
9・・・・ トゥボックス
10・・・ 甲皮
11・・・ 外側構造体
12・・・ 内側構造体
13・・・ 先裏布
14・・・ 補強材
15・・・ インソール
16・・・ 中底
17、83、84、85・・・ 内気口
19、31、32、81、82・・・ 外気口
20、35、87・・・ 上り換気管路
21、36、88・・・ 下り換気管路
22、90・・・ 先芯構造体上部
23、89・・・ 張り出し部
30、86・・・ 下り換気管路底部
31、32・・・ 外気口
33、34・・・ 空洞部
40・・・ 爪先部
50・・・ 強制換気装置
70・・・ 制御装置
72・・・ センサ
73・・・ 電源装置
74・・・ 電池パック
75・・・ 入力手段
76・・・ 導線
100・・・ 履物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
履物の内部に開口した内気口と外部に開口した外気口とを相互に連通する換気管路を備え、前記換気管路は、前記履物の内部に対し耐水性を有すると共に前記内気口と前記外気口との中間に最高点を有することを特徴とする履物。
【請求項2】
前記換気管路の最高点は、前記履物のインソールより高い位置にあることを特徴とする請求項1記載の履物。
【請求項3】
前記履物の爪先部には、前記外気口と、前記内気口と、甲皮に隣接して前記換気管路を構成し耐水性を有する構造体と、が具備されていることを特徴とする請求項2記載の履物。
【請求項4】
前記換気管路と前記内気口とが前記構造体と一体に形成されていることを特徴とする請求項2又は3記載の履物。
【請求項5】
前記外気口は、アウトソールの前端部下面において上方へ反っている範囲を含んで形成されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の履物。
【請求項6】
前記換気管路の外気口端部は、前記外気口から内へ連続的又は段階的につぼまっていることを特徴とする請求項6記載の履物。
【請求項7】
前記内気口は、前記構造体と足の指先と間の間隙に臨んでいることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の履物。
【請求項8】
前記換気管路内に前記内気口に隣接して強制換気装置が配設されていることを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載の履物。
【請求項9】
前記換気管路は、前記内気口側の端部において前記強制換気装置より下方に達していることを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載の履物。
【請求項10】
前記強制換気装置は、制御装置により前記履物内部の湿度及び/又は温度に応じて電子的に換気量が制御され、前記制御装置は前記構造体内に配設されていることを特徴とする請求項8又は9記載の履物。
【請求項11】
前記制御装置は、前記履物の甲皮部材に埋設された入力装置からの信号入力を受けて前記履物に搭載された電子装置の制御を行うことを特徴とする請求項10記載の履物。
【請求項12】
前記強制換気装置及び前記制御装置を動作させるための電力を供給する電源装置は、前記履物の甲皮部に配設されていることを特徴とする請求項10又は11記載の履物
【請求項13】
少なくとも前記内気口から履き口部まで、前記履物の甲皮側の内側に通気性部材が被覆されていることを特徴とする請求項2〜12のいずかに記載の履物。
【請求項14】
爪先を包むように構造体として形成される履物用部品であって、
履物内部に開口する内気口と、該内気口をアウトソールの外気口へ連通させると共に該内気口と該外気口との中間に最高点を有する換気管路とを備えることを特徴とする履物用部品。
【請求項15】
前記構造体内に電子装置を実装したことを特徴とする請求項14記載の履物用部品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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