説明

嵩高獣毛紡績糸の製造方法

【課題】本発明の課題は、軽量であり、ソフトな肌触り、十分な保温性、優れた抗ピリング性およびマシンウォッシャブル性を備える嵩高獣毛布帛を形成することができる嵩高獣毛紡績糸およびその製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法は、嵩高獣毛紡績糸を製造する嵩高獣毛紡績糸の製造方法であって、酸化処理工程、還元処理工程および嵩高獣毛紡績糸作製工程を備える。酸化処理工程では、獣毛繊維が酸化処理されてスケールオフ獣毛繊維が作製される。還元処理工程では、45度C以上に加熱された還元剤溶液が用いられてスケールオフ獣毛繊維が還元処理されて還元獣毛繊維が作製される。嵩高獣毛紡績糸作製工程では、還元獣毛繊維が用いられて嵩高獣毛紡績糸が作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嵩高獣毛紡績糸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過去に「獣毛繊維に次亜塩素酸系酸化剤、酸素系酸化剤、還元剤を順に作用させた後、その獣毛繊維をポリアミドエピクロルヒドリン系樹脂で被覆することにより、獣毛繊維に適度な強伸度低下が生じさせ、獣毛織編物の抗ピリング性を向上させること」が提案されている(例えば、特開2005−256233号公報等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−256233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、現在、軽量で、ソフトな肌触りや優れた保温性を具備する嵩高獣毛布帛が衣服等に利用され、一般消費者に好評を博している。
【0005】
しかし、このような嵩高獣毛布帛で、軽量性、肌触り、保温性に優れるものは存在するが、抗ピリング性やマシンウォッシャブル性まで十分に満足するものは現存しない。
【0006】
本発明の課題は、軽量であり、ソフトな肌触り、十分な保温性、優れた抗ピリング性およびマシンウォッシャブル性を備える嵩高獣毛布帛を形成することができる嵩高獣毛紡績糸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法は、嵩高獣毛紡績糸を製造する嵩高獣毛紡績糸の製造方法であって、酸化処理工程、還元処理工程および嵩高獣毛紡績糸作製工程を備える。なお、ここにいう「獣毛」とは、例えば、羊毛、カシミヤ、モヘヤ、キャメル、アンゴラなどである。これらの中でも、羊毛は、高い吸放湿特性を持ち、染色性が高く、低コストであるなどの優れた特性を持っているため、特に好ましい。酸化処理工程では、獣毛繊維が酸化処理されてスケールオフ獣毛繊維が作製される。なお、酸化処理工程では酸化剤溶液が用いられるが、この酸化剤としては、例えば、過硫酸試剤であるオキソン(デュポン社製)(登録商標)やバソランDC(BASFジャパン(株)製)等が使用される。還元処理工程では、45度C以上に加熱された還元剤溶液が用いられてスケールオフ獣毛繊維が還元処理されて還元獣毛繊維が作製される。なお、還元剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム等が使用される。また、還元剤溶液の温度が45度C以上であると、比較的短時間で獣毛繊維の引張強度や引張伸度を適度に低下させることができる。また、還元剤溶液の温度は、50度C以上であるのがより好ましく、60度C以上であるのがさらに好ましく、70度C以上であるのがさらに好ましい。還元剤溶液の温度が高ければ高いほど、還元処理工程に費やす時間を短縮することができるからである。ただし、還元剤溶液中の還元剤の濃度管理のためには、還元剤溶液の温度は100度C以下であるのが好ましく、90度C以下であるのがより好ましい。嵩高獣毛紡績糸作製工程では、還元獣毛繊維が用いられて嵩高獣毛紡績糸が作製される。なお、嵩高獣毛紡績糸の嵩高度は8cm/g以上18cm/g以下であるのが好ましい。
【0008】
本願発明者の鋭意検討の結果、スケールオフ後の獣毛繊維を、45度C以上に加熱された還元剤溶液により還元処理すると、比較的短時間で獣毛繊維の強度や伸度が適度なレベルまで低下し、抗ピリング性やマシンウォッシャブル性に優れた嵩高獣毛布帛を形成することができる嵩高獣毛紡績糸を製造することができることが明らかとなった。したがって、この嵩高獣毛紡績糸の製造方法を利用すれば、軽量であり、ソフトな肌触り、十分な保温性、優れた抗ピリング性およびマシンウォッシャブル性を備える嵩高獣毛布帛を形成することができる嵩高獣毛紡績糸を製造することができる。
【0009】
なお、本発明において、嵩高獣毛紡績糸の抗ピリング性は、ケケン品質基準(JIS L1076.6.1.A法)で2級以上であるが、2.5級以上であるのが好ましく、3級以上であるのがより好ましく、4級以上であるのがさらに好ましい。
【0010】
また、本発明において、マシンウォッシャブル性とは、ザ・ウールマーク・カンパニーが定めるTM31法に準拠したセーター類(本明細書では天竺編地が該当する)の処理において、7Aプログラムを1回行ったときの緩和寸法変化率が巾方向で−8以上5%以下であり且つ丈方向で−10%以上であることを満たすと共に、5Aプログラムを2回行ったときのフェルト寸法変化率(面積収縮率)が−8%以上であることを満たす性質を意味する。
【0011】
また、ここにいう「布帛」とは、例えば、織物や、編物、不織布などである。また、織物の織り組織は、特に限定されるものではないが、例えば、平織、綾織、朱子織などの基本組織、それらから誘導された変化組織、重ね組織などが挙げられる。
【0012】
本発明の第2局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法は、第1局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法であって、嵩高獣毛紡績糸作製工程は、牽伸工程、嵩高加工工程および撚り工程を有する。牽伸工程では、還元獣毛繊維が引き揃えられた獣毛繊維群が牽伸されて繊維束が形成される。嵩高加工工程では、牽伸工程後の獣毛繊維束が、表面に開口する独立溝が少なくとも一方のローラに形成されているローラ対の独立溝に通過させられて獣毛繊維束が嵩高くされる。撚り工程では、嵩高加工工程後の獣毛繊維束に撚りがかけられて嵩高獣毛紡績糸が作製される。
【0013】
このようにして嵩高獣毛紡績糸を作製すると、嵩高獣毛紡績糸十分な強伸度を付与することができることが本願発明者らの研究成果から明らかになっている。このため、この嵩高紡績糸の製造方法では、十分な強伸度を有する嵩高紡績糸を製造することができる。
【0014】
本発明の第3局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法は、第1局面または第2局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法であって、第1染色工程をさらに備える。第1染色工程では、還元獣毛繊維が染色されて染色獣毛繊維が作製される。なお、第1染色工程では染料が用いられるが、この染料としては、例えば、酸性染料、金属錯塩染料、反応染料、酸性媒染染料等が挙げられる。そして、嵩高獣毛紡績糸作製工程では、染色獣毛繊維が用いられて嵩高獣毛紡績糸が作製される。なお、還元処理工程と第1染色工程との間に漂泊処理工程が設けられてもかまわない。漂泊処理工程では、還元獣毛繊維が漂泊処理される。このように、漂泊処理工程が設けられると、獣毛繊維を淡色に染める場合に、獣毛繊維を鮮やかな色に染め上げることができる。
【0015】
本願発明者の鋭意検討の結果、染料により還元獣毛繊維を染色すると、さらに獣毛繊維の強度や伸度が適度なレベルまで低下し、抗ピリング性やマシンウォッシャブル性に優れた嵩高獣毛布帛を形成することができる嵩高獣毛紡績糸を製造することができることが明らかとなった。したがって、この嵩高獣毛紡績糸の製造方法を利用すれば、軽量であり、ソフトな肌触り、十分な保温性、さらに優れた抗ピリング性およびマシンウォッシャブル性を備える嵩高獣毛布帛を形成することができる嵩高獣毛紡績糸を製造することができる。
【0016】
本発明の第4局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法は、第3局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法であって、洗浄工程をさらに備える。洗浄工程は、還元処理工程と第1染色工程との間に実施される。そして、洗浄工程では、還元獣毛繊維が洗浄されて洗浄獣毛繊維が作製される。また、第1染色工程では、洗浄獣毛繊維が染色されて染色獣毛繊維が作製される。なお、この洗浄工程では、還元処理工程において分解されたタンパク質が還元獣毛繊維から洗い流される。
【0017】
本願発明者の鋭意検討の結果、このように還元処理後に積極的に洗浄を行うと、獣毛繊維同士がくっつく現象を防止することができ、延いては安定した品質の嵩高獣毛紡績糸や嵩高獣毛布帛を製造することができる。
【0018】
本発明の第5局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法は、第1局面から第4局面のいずれかに係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法であって、柔軟処理工程をさらに備える。柔軟処理工程は、嵩高獣毛紡績糸作製工程の後に実施される。柔軟処理工程では、嵩高獣毛紡績糸が柔軟処理される。
このため、この嵩高獣毛紡績糸の製造方法を利用すれば、さらにソフトな肌触りを有する嵩高獣毛布帛を製造することができる。
【0019】
本発明の第6局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法は、第1局面または第2局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法であって、第2染色工程をさらに備える。第2染色工程では、嵩高獣毛紡績糸が染色されて染色嵩高獣毛紡績糸が作製される。なお、第2染色工程では染料が用いられるが、この染料としては、例えば、酸性染料、金属錯塩染料、反応染料、酸性媒染染料等が挙げられる。なお、嵩高獣毛紡績糸作製工程と第2染色工程との間に漂泊処理工程が設けられてもかまわない。漂泊処理工程では、嵩高獣毛紡績糸が漂泊処理される。このように、漂泊処理工程が設けられると、嵩高獣毛紡績糸を淡色に染める場合に、嵩高獣毛紡績糸を鮮やかな色に染め上げることができる。
【0020】
本願発明者の鋭意検討の結果、染料により還元獣毛繊維を染色すると、さらに獣毛繊維の強度や伸度が適度なレベルまで低下し、抗ピリング性やマシンウォッシャブル性に優れた嵩高獣毛布帛を形成することができる嵩高獣毛紡績糸を製造することができることが明らかとなった。したがって、この嵩高獣毛紡績糸の製造方法を利用すれば、軽量であり、ソフトな肌触り、十分な保温性、さらに優れた抗ピリング性およびマシンウォッシャブル性を備える嵩高獣毛布帛を形成することができる嵩高獣毛紡績糸を製造することができる。
【0021】
本発明の第7局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法は、第6局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法であって、洗浄工程をさらに備える。洗浄工程は、還元処理工程と嵩高獣毛紡績糸作製工程との間に実施される。そして、洗浄工程では、還元獣毛繊維が洗浄されて洗浄獣毛繊維が作製される。また、嵩高獣毛紡績糸作製工程では、洗浄獣毛繊維が用いられて嵩高獣毛紡績糸が作製される。なお、この洗浄工程では、還元処理工程において分解されたタンパク質が還元獣毛繊維から洗い流される。
【0022】
本願発明者の鋭意検討の結果、このように還元処理後に積極的に洗浄を行うと、獣毛繊維同士がくっつく現象を防止することができ、延いては安定した品質の嵩高獣毛紡績糸や嵩高獣毛布帛を製造することができる。
【0023】
本発明の第8局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法は、第6局面または第7局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法であって、柔軟処理工程をさらに備える。柔軟処理工程は、第2染色工程の後に実施される。そして、柔軟処理工程では、染色嵩高獣毛紡績糸が柔軟処理される。
このため、この嵩高獣毛紡績糸の製造方法を利用すれば、さらにソフトな肌触りを有する嵩高獣毛布帛を製造することができる。
【0024】
本発明の第9局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法は、嵩高獣毛紡績糸を製造する嵩高獣毛紡績糸の製造方法であって、嵩高獣毛紡績糸作製工程、酸化処理工程および還元処理工程を備える。嵩高獣毛紡績糸作製工程では、獣毛繊維が用いられて嵩高獣毛紡績糸が作製される。酸化処理工程では、嵩高獣毛紡績糸が酸化処理されてスケールオフ嵩高獣毛紡績糸が作製される。還元処理工程では、45度C以上に加熱された還元剤溶液が用いられてスケールオフ嵩高獣毛紡績糸が還元処理されて還元嵩高獣毛紡績糸が作製される。なお、還元剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム等が使用される。また、還元剤溶液の温度が45度C以上であると、比較的短時間で獣毛繊維の引張強度や引張伸度を適度に低下させることができる。また、還元剤溶液の温度は、50度C以上であるのがより好ましく、60度C以上であるのがさらに好ましく、70度C以上であるのがさらに好ましい。還元剤溶液の温度が高ければ高いほど、還元処理工程に費やす時間を短縮することができるからである。ただし、還元剤溶液中の還元剤の濃度管理のためには、還元剤溶液の温度は100度C以下であるのが好ましく、90度C以下であるのがより好ましい。
【0025】
本願発明者の鋭意検討の結果、スケールオフ後の嵩高獣毛紡績糸を、45度C以上に加熱された還元剤溶液により還元処理すると、比較的短時間で嵩高獣毛紡績糸の強度や伸度が適度なレベルまで低下し、抗ピリング性やマシンウォッシャブル性に優れた嵩高獣毛布帛を形成することができる嵩高獣毛紡績糸を製造することができることが明らかとなった。したがって、この嵩高獣毛紡績糸の製造方法を利用すれば、軽量であり、ソフトな肌触り、十分な保温性、優れた抗ピリング性およびマシンウォッシャブル性を備える嵩高獣毛布帛を形成することができる嵩高獣毛紡績糸を製造することができる。
【0026】
なお、本発明において、抗ピリング性は、ケケン品質基準(JIS L1076.6.1.A法)で2級以上であるが、2.5級以上であるのが好ましく、3級以上であるのがより好ましく、4級以上であるのがさらに好ましい。
【0027】
また、本発明において、マシンウォッシャブル性とは、ザ・ウールマーク・カンパニーが定めるTM31法に準拠したセーター類(本明細書では天竺編地が該当する)の処理において、7Aプログラムを1回行ったときの緩和寸法変化率が巾方向で−8以上5%以下であり且つ丈方向で−10%以上であることを満たすと共に、5Aプログラムを2回行ったときのフェルト寸法変化率(面積収縮率)が−8%以上であることを満たす性質を意味する。
【0028】
また、ここにいう「布帛」とは、例えば、織物や、編物、不織布などである。また、織物の織り組織は、特に限定されるものではないが、例えば、平織、綾織、朱子織などの基本組織、それらから誘導された変化組織、重ね組織などが挙げられる。
【0029】
本発明の第10局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法は、第9局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法であって、嵩高獣毛紡績糸作製工程は、牽伸工程、嵩高加工工程および撚り工程を有する。牽伸工程では、獣毛繊維が引き揃えられた獣毛繊維群が牽伸されて繊維束が形成される。嵩高加工工程では、牽伸工程後の獣毛繊維束が、表面に開口する独立溝が少なくとも一方のローラに形成されているローラ対の独立溝に通過させられて獣毛繊維束が嵩高くされる。撚り工程では、嵩高加工工程後の獣毛繊維束に撚りがかけられて嵩高獣毛紡績糸が作製される。
【0030】
このようにして嵩高獣毛紡績糸を作製すると、嵩高獣毛紡績糸十分な強伸度を付与することができることが本願発明者らの研究成果から明らかになっている。このため、この嵩高紡績糸の製造方法では、十分な強伸度を有する嵩高紡績糸を製造することができる。
【0031】
本発明の第11局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法は、第9局面または第10局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法であって、漂白処理工程をさらに備える。漂白処理工程は、還元処理工程の後に実施される。そして、漂泊処理工程では、還元嵩高獣毛紡績糸が漂泊処理されて漂泊嵩高獣毛紡績糸が作製される。
このため、この嵩高獣毛紡績糸の製造方法では、嵩高獣毛紡績糸を淡色に染める場合に、嵩高獣毛紡績糸を鮮やかな色に染め上げることができる。
【0032】
本発明の第12局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法は、第11局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法であって、染色工程をさらに備える。染色工程は、漂泊処理工程の後に実施される。そして、染色工程では、漂泊嵩高獣毛紡績糸が染色されて染色嵩高獣毛紡績糸が作製される。なお、染色工程では染料が用いられるが、この染料としては、例えば、酸性染料、金属錯塩染料、反応染料、酸性媒染染料等が挙げられる。
【0033】
本願発明者の鋭意検討の結果、染料により還元獣毛繊維を染色すると、さらに獣毛繊維の強度や伸度が適度なレベルまで低下し、抗ピリング性やマシンウォッシャブル性に優れた嵩高獣毛布帛を形成することができる嵩高獣毛紡績糸を製造することができることが明らかとなった。したがって、この嵩高獣毛紡績糸の製造方法を利用すれば、軽量であり、ソフトな肌触り、十分な保温性、さらに優れた抗ピリング性およびマシンウォッシャブル性を備える嵩高獣毛布帛を形成することができる嵩高獣毛紡績糸を製造することができる。
【0034】
本発明の第13局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法は、第12局面に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法であって、柔軟処理工程をさらに備える。柔軟処理工程は、染色工程の後に実施される。そして、柔軟処理工程では、染色嵩高獣毛紡績糸が柔軟処理される。
このため、この嵩高獣毛紡績糸の製造方法を利用すれば、さらにソフトな肌触りを有する嵩高獣毛布帛を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1実施形態に係るリング紡績装置の模式的概略図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るリング紡績装置に設けられるネップローラ対の斜視図および断面図である。
【図3】第1実施形態の変形例(D)に係るリング紡績装置の模式的概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
−第1実施形態−
【0037】
本発明の第1実施形態において、嵩高獣毛紡績糸は、嵩高獣毛紡績糸作製工程、酸化処理工程、還元処理工程および柔軟処理工程を経て製造される。以下、これらの工程について詳述する。
<嵩高獣毛紡績糸の製造方法の各工程の詳細>
1.嵩高獣毛紡績糸作製工程
嵩高獣毛紡績糸作製工程では、図1に示されるリング紡績装置20に獣毛スライバSが供給されることにより嵩高獣毛紡績糸が作製される。
【0038】
上述のリング紡績装置20は、図1に示されるように、主に、牽伸機構25、ネップローラ対Nおよび撚り機構26から構成されている。以下、リング紡績装置20の各構成要素について詳述する。
(リング紡績装置の各構成要素)
(1)牽伸機構
【0039】
牽伸機構25は、図1に示されるように、主に、バックローラ1、エプロン3及びフロントローラ4から構成されている。なお、エプロン3には、ミドルローラ2が含まれている。
【0040】
この牽伸機構25では、バックローラ1、ミドルローラ2、フロントローラ4の回転速度がバックローラ1、ミドルローラ2、フロントローラ4の順に速くなっている(バックローラ1の回転速度が最も遅く、フロントローラ4の回転速度が最も速い。)。この速度差により獣毛スライバSが牽伸される。なお、通常、バックローラ1、エプロン3、フロントローラ4における獣毛スライバSの牽伸率は、8〜25倍である。
【0041】
また、この牽伸機構25では、従来のリング紡績装置の牽伸機構と同様に、獣毛スライバS中の単繊維がバックローラ1とミドルローラ2との間、ミドルローラ2とフロントローラ4との間で切断されることのないように、バックローラ1とミドルローラ2との間隔及び、ミドルローラ2とフロントローラ4との間隔が獣毛スライバSの最大繊維長以上に設定されている。
(2)ネップローラ対
ネップローラ対Nは、図1に示されるように、主に、トップローラ6およびベースローラ5から構成されている。
【0042】
トップローラ6には、図2に示されるように、幅方向中央部付近に、表面に開口する独立溝21が複数形成されている。なお、これらの独立溝21は、図2に示されるように、3列に所定の間隔をあけて整列されて設けられており、トップローラ6の全周に亘って形成されている。なお、このトップローラ6は、従来のリング紡績装置にそのまま取り付けができるように、直径40mm〜60mm、幅50mm程度のサイズのものを使用するのが好ましい。また、トップローラ6は、単繊維を確実に把持するためにゴム材料で覆われているのが好ましい。また、そのゴム材料の硬度は耐久性及び把持力などの面から60度〜80度の範囲のものが好ましく、65度〜75度の範囲がより好ましい。
ベースローラ5は金属製であるのが好ましい。また、ベースローラ5は、繊維を確実に把持するためにフリューデッド構造とされることが好ましい。
【0043】
また、ネップローラ対Nとフロントローラ4との芯間隔(ゲージ)は、獣毛スライバSの平均繊維長よりも短く設定されている。このため、このネップローラ対Nでは、獣毛スライバSを構成する各単繊維の殆どは、フロントローラ4およびネップローラ対Nのいずれか一方に把持された状態か、あるいは両方に把持された状態で移動していくことになる。また、フロントローラ4とネップローラ対Nの両方に把持された単繊維は、フロントローラ4の圧接力がネップローラ対Nのそれよりも高いことから、フロントローラ4の周速度と同じ速度で移動することになる。また、ネップローラ対Nの周速度は、フロントローラ4の周速度より高く設定されている。なお、フロントローラ4の周速度を1とすると、ネップローラ対Nの周速度は1.2〜2.0程度に設定される。また、ネップローラ対Nのベースロール5とトップロール6の圧接力は、フロントローラ4の圧接力よりも低く設定されている。
(3)撚り機構
撚り機構26は、図1に示されるように、主に、リング7及びスピンドル9から構成されている。
リング7は、ネップローラ対Nから送られてくる嵩高獣毛繊維束に撚りをかけて嵩高獣毛紡績糸8を得るための部材である。
スピンドル9は、ボビンBを回転させて、ボビンBに嵩高獣毛紡績糸8を巻き取らせるものである。
(嵩高獣毛紡績糸の製造過程)
【0044】
そして、このリング紡績装置20では、獣毛スライバSがバックローラ1、エプロン3、フロントローラ4、ネップローラ対Nを順次通過して牽伸されることによって、獣毛スライバSが順次細くなり獣毛繊維束となる。そして、この獣毛繊維束は、ネップローラ対Nを通過する際、トップローラ6の独立溝21を通り、嵩高加工される。そして、この嵩高加工された獣毛繊維束は、スピンドル9の回転によって撚りがかけられ嵩高獣毛紡績糸8としてボビンBに巻き取られる。
(嵩高加工原理)
嵩高加工の原理については完全には解明されていないが、以下の通りであると推察される。
【0045】
上述のようにトップローラ6には、独立溝21が形成されている。このため、獣毛繊維束がネップローラ対Nを通過するとき、トップローラ6には、周期的にベースロール5と接触しない部分(以下「局部的非接触部)と称する)が生じる。
【0046】
また、上述したように、ネップローラ対Nの周速度は、フロントローラ4の周速度の1.2〜2.0倍に設定されている。このため、フロントローラ4で把持されていない獣毛スライバS中の単繊維はネップローラ対Nの周速度に基づきネップローラ対Nから送り出される。
【0047】
その結果、ネップローラ対Nでは、局部的非接触部を移動する単繊維と、接触部を移動する単繊維とがそれぞれの速度で送り出されることになり、局部的非接触部を移動する単繊維は、接触部を移動する単繊維にわずかに遅れることによって弛む。そして、この弛んだ部分がネップロール対Nから送り出されると、芯糸の外側に巻き付けられる。
【0048】
したがって、このリング紡績装置20のネップローラ対Nの繊維流れ方向下流側において製造中の嵩高獣毛紡績糸を観察すると、トップローラ6の独立溝21の影響を受けた単繊維の毛羽が芯糸、すなわち「フロントローラ4の周速度と同じ速度で移動する単繊維の束」に巻きついている現象を確認することができる。
2.酸化処理工程
【0049】
酸化処理工程では、先ず、嵩高獣毛紡績糸作製工程で得られた嵩高獣毛紡績糸がチーズ巻きにされてチーズ染色機に投入される。次に、チーズ染色機の浴槽に水が投入され、続けて浸透剤および酢酸が投入される。次いで、チーズ染色機の浴槽内の浸透剤水溶液が常温で10分間循環させられて、嵩高獣毛紡績糸が湿潤させられる。続いて、チーズ染色機の浴槽内に酸化剤が投入されて、30度Cの温度下で50分間、嵩高獣毛紡績糸が酸化処理され、嵩高獣毛紡績糸のスケールオフが行われる。そして、チーズ染色機の浴槽から浸透剤・酸化剤水溶液が排出された後、チーズ染色機の浴槽に新たに水が投入され、その水が40度Cに加温されて嵩高獣毛紡績糸が十分に湯洗される。なお、この湯洗完了後、チーズ染色機の浴槽から湯が排出される。
3.還元処理工程
【0050】
還元処理工程では、酸化処理工程完了後のチーズ染色機の浴槽に水が投入され、続けて還元剤が投入される。次いで、チーズ染色機の浴槽中の還元剤水容液が常温から70度Cまで30分で昇温させられた後、還元剤水溶液の温度が70度Cに保たれたまま30分間保持されて、嵩高獣毛紡績糸が還元処理される。そして、チーズ染色機の浴槽から還元剤水溶液が排出された後、チーズ染色機の浴槽に新たに水が投入され、嵩高獣毛紡績糸が十分に水洗される。なお、この湯洗完了後、チーズ染色機の浴槽から洗浄水が排出される。
4.柔軟処理工程
【0051】
柔軟処理工程では、還元処理工程完了後のチーズ染色機の浴槽に水が投入され、続けて柔軟剤が投入される。次いで、チーズ染色機の浴槽中の柔軟剤水溶液が40度Cに加温されて、10分間、嵩高獣毛紡績糸が柔軟処理される。そして、チーズ染色機の浴槽から柔軟剤水溶液が排出された後、チーズ染色機の浴槽に新たに水が投入され、嵩高獣毛紡績糸が十分に水洗される。なお、この水洗完了後、チーズ染色機の浴槽から洗浄水が排出され、嵩高獣毛紡績糸が乾燥処理される。
<嵩高獣毛紡績糸の特徴>
【0052】
上記のようにして製造された嵩高獣毛紡績糸は、軽量であり、ソフトな肌触り、十分な保温性、優れた抗ピリング性およびマシンウォッシャブル性を備える嵩高獣毛布帛を形成することができる。
<変形例>
(A)
【0053】
先の実施の形態では特に言及しなかったが、還元処理工程と柔軟処理工程との間に染色工程のみを挿入してもかまわないし、漂泊処理工程および染色工程を挿入してもかまわない。
なお、染色工程では、通常のチーズ染めが行われる。
【0054】
また、漂泊工程では、還元処理工程完了後のチーズ染色機の浴槽に水が投入され、続けて漂白剤が投入される。次いで、チーズ染色機の浴槽中の漂白剤水溶液が35度Cに加温されて、40分間、嵩高獣毛紡績糸が漂泊処理される。そして、チーズ染色機の浴槽から漂白剤水溶液が排出された後、チーズ染色機の浴槽に新たに水が投入され、嵩高獣毛紡績糸が十分に水洗される。なお、この水洗完了後、チーズ染色機の浴槽から水が排出される。
(B)
【0055】
先の実施の形態では特に言及しなかったが、嵩高獣毛紡績糸はPVA繊維混紡糸であってもかまわない。かかる場合、PVA繊維混紡糸が所定温度の水に浸漬されることによりPVA繊維が溶解除去されて嵩高獣毛紡績糸が作製される。
(C)
【0056】
先の実施の形態に係るリング紡績装置20ではネップローラ対Nにおいてトップローラ6に独立溝21が形成されていたが、独立溝は、ベースローラ5に形成されてもかまわないし、トップローラ6とベースローラ5の両方に形成されてもかまわない。
【0057】
なお、独立溝がトップローラ6とベースローラ5の両方に形成される場合、トップローラ6に形成される独立溝と、ベースローラ5に形成される独立溝とは、形状や深さを異ならせることが好ましい。
(D)
【0058】
先の実施の形態では特に言及しなかったが、図3に示されるように、先の実施の形態に係るリング紡績装置20において、合成繊維のモノフィラメント用のローラ対11およびフロントローラ4を介してネップローラ対Nに合成繊維のモノフィラメントFを投入して、合成繊維のモノフィラメントFと嵩高獣毛繊維束とを交撚させて嵩高交撚糸を製造してもよい。
(E)
【0059】
先の実施の形態では特に言及しなかったが、独立溝21は、トップローラ6の半径方向に沿って見た場合、長方形、角丸長方形、楕円形、円形、台形、正方形および三角形の群から選択される少なくとも一つの形状を呈するのが好ましい。なお、これらの中でも、トップローラ6の円周方向に沿って長細の長方形の独立溝が形成されるのがより好ましい。また、独立溝の寸法は、特に限定されるものではなく、繊維束の形状や要求される嵩高獣毛紡績糸の特性によって自由に設計することができる。通常は幅1mm〜10mm、周方向長さ3mm〜10mm、深さ1mm〜3mmの範囲で設計することができる。また、独立溝21は、繊維束の形状や大きさ、あるいは嵩高性を付与する条件等によって、並行状、千鳥状など任意に設けることができる。
なお、独立溝21をこのような形状とすると、嵩高獣毛紡績糸を効率よく製造することができることが本願発明者らの研究成果から明らかになっている。
(F)
【0060】
先の実施の形態に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法では柔軟処理工程が設けられていたが、本実施の形態において柔軟処理工程は必須でなく、省略してもかまわない。
−第2実施形態−
【0061】
本発明の第2実施形態において、嵩高獣毛紡績糸は、準備工程、酸化処理工程、還元処理工程、嵩高獣毛紡績糸作製工程および柔軟処理工程を経て製造される。以下、これらの工程について詳述する。
<嵩高獣毛紡績糸の製造方法の詳細>
1.準備工程
準備工程では、獣毛トップが染色バックに装着された後、その獣毛トップが40度Cのお湯で湯洗される。
2.酸化処理工程
【0062】
酸化処理工程では、先ず、準備工程完了、染色バックに新たに水が投入されることにより染色バックから洗浄液が排出されると共に染色バックに新たな水が供給される。そして、その新たな水に浸透剤および酢酸が投入される。次に、染色バック中の浸透剤水溶液が常温で10分間循環させられて、獣毛トップが湿潤させられる。次いで、染色バックに酸化剤が投入されて、30度Cの温度下で50分間、獣毛トップが酸化処理され、獣毛トップのスケールオフが行われる。そして、染色バックに新たに水が投入されることにより染色バックから浸透剤・酸化剤水溶液が排出されると共に染色バックに新たな水が供給される。その後、その水が40度Cに加温されて獣毛トップが十分に湯洗される。
3.還元処理工程
【0063】
還元処理工程では、酸化処理工程完了後、染色バックに新たに水が投入されることにより染色バックから洗浄液が排出されると共に染色バックに新たな水が供給される。そして、その新たな水に還元剤が投入される。次に、染色バック中の還元剤水容液が常温から70度Cまで30分で昇温させられた後、還元剤水溶液の温度が70度Cに保たれたまま30分間保持されて、獣毛トップが還元処理される。そして、染色バックに新たに水が投入されることにより染色バックから還元剤水溶液が排出されると共に染色バックに新たな水が供給される。その後、その新たな水で獣毛トップが十分に水洗される。なお、この水洗完了後、染色バックから洗浄液が排出される。
4.嵩高獣毛紡績糸作製工程
【0064】
嵩高獣毛紡績糸作製工程では、第1実施形態と同様、図1に示されるリング紡績装置20に獣毛スライバSが供給されることにより嵩高獣毛紡績糸が作製される。
<嵩高獣毛紡績糸の特徴>
【0065】
上記のようにして製造された嵩高獣毛紡績糸は、軽量であり、ソフトな肌触り、十分な保温性、優れた抗ピリング性およびマシンウォッシャブル性を備える嵩高獣毛布帛を形成することができる。
<変形例>
(A)
先の実施の形態では特に言及しなかったが、還元処理工程の直後に洗浄工程が行われてもかまわない。
【0066】
なお、洗浄工程では、還元処理工程完了後の染色バックに水が投入され、続けて酸が投入されて、常温で10分間、獣毛トップが洗浄される。そして、染色バックから酸水溶液が排出された後、染色バックに新たに水が投入され、獣毛トップが十分に水洗される。なお、この水洗完了後、染色バックから水が排出され、獣毛トップがバックウォッシャーで乾燥させられる。
(B)
【0067】
先の実施の形態では特に言及しなかったが、還元処理工程(上記変形例(A)の洗浄工程を経る場合は洗浄工程)と嵩高獣毛紡績糸作製工程との間に染色工程が設けられるのが好ましい。また、染色工程は、嵩高獣毛紡績糸作製工程と柔軟処理との間や嵩高獣毛布帛作製後に設けられてもよい。
【0068】
なお、前者のタイミングで染色工程が行われる場合、染色工程では、還元処理工程完了後または洗浄工程完了後の獣毛トップが水洗された後、通常のトップ染めが行われる。その後、染色された獣毛トップがバックウォッシャーで乾燥処理される。
【0069】
また、後者のタイミングで染色工程が行われる場合、染色工程では、嵩高獣毛紡績糸作製工程で得られた嵩高獣毛紡績糸がチーズ巻きにされてチーズ染色機に投入され、通常のチーズ染めが行われる。
(C)
【0070】
先の実施の形態では特に言及しなかったが、嵩高獣毛紡績糸作製工程(変形例(B)の染色工程を経る場合は染色工程)の直後に、柔軟処理工程が挿入されてもかまわない。
【0071】
柔軟処理工程では、先ず、嵩高獣毛紡績糸作製工程または染色工程で得られた嵩高獣毛紡績糸がチーズ巻きにされてチーズ染色機に投入される。次に、チーズ染色機の浴槽に水が投入され、続けて柔軟剤が投入される。次いで、チーズ染色機の浴槽中の柔軟剤水溶液が40度Cに加温されて、10分間、嵩高獣毛紡績糸が柔軟処理される。そして、チーズ染色機の浴槽から柔軟剤水溶液が排出された後、チーズ染色機の浴槽に新たに水が投入され、嵩高獣毛紡績糸が十分に水洗される。なお、この水洗完了後、チーズ染色機の浴槽から洗浄水が排出され、嵩高獣毛紡績糸が乾燥処理される。
−第3実施形態−
【0072】
本発明の第3実施形態において、嵩高獣毛紡績糸は、準備工程、還元処理工程、酸化処理工程、嵩高紡績糸作製工程および柔軟処理工程を経て製造される。以下、これらの工程について記述する。
<嵩高獣毛紡績糸の製造方法の詳細>
1.準備工程
準備工程では、獣毛トップが染色バックに装着された後、その獣毛トップが40度Cのお湯で湯洗される。
2.還元処理工程
【0073】
還元処理工程では、先ず、準備工程完了後、染色バックに新たに水が投入されることにより染色バックから洗浄液が排出されると共に染色バックに新たな水が供給される。そして、その新たな水に浸透剤が投入される。次に、染色バック中の浸透剤水溶液が常温で10分間循環させられ、獣毛トップが湿潤させられる。次いで、染色バックに還元剤が投入されて、70度Cまで30分で昇温させられた後、還元剤水溶液の温度が70度Cに保たれたまま、30分間保持されて、獣毛トップが還元される。そして、染色バックに水が投入されることにより染色バックから還元剤水溶液が排出されると共に染色バックに新たな水が投入される。その後、その水が40度Cに加温されながら獣毛トップが十分湯洗される。
3.酸化処理工程
【0074】
酸化処理工程では、還元処理工程完了、染色バックに新たに水が投入されることにより染色バックから洗浄液が排出されると共に染色バックに新たな水が供給される。そして、その新たな水に浸透剤および酢酸が投入される。次に、染色バック中の浸透剤水溶液が常温で10分間循環させられて、獣毛トップが湿潤させられる。次いで、染色バックに酸化剤が投入されて、30度Cの温度下で50分間、獣毛トップが酸化処理され、獣毛トップのスケールオフが行われる。そして、染色バックに新たに水が投入されることにより染色バックから浸透剤・酸化剤水溶液が排出されると共に染色バックに新たな水が供給される。その後、その新たな水で獣毛トップが十分に水洗される。
4.嵩高獣毛紡績糸作製工程
【0075】
嵩高獣毛紡績糸作製工程では、第1実施形態と同様、図1に示されるリング紡績装置20に獣毛スライバSが供給されることにより嵩高獣毛紡績糸が作製される。
<嵩高獣毛紡績糸の特徴>
【0076】
上記のようにして製造された嵩高獣毛紡績糸は、軽量であり、ソフトな肌触り、十分な保温性、優れた抗ピリング性およびマシンウォッシャブル性を備える嵩高獣毛布帛を形成することができる。
<変形例>
(A)
【0077】
先の実施の形態に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法では還元処理工程の直後に獣毛トップが水洗されたが、還元処理工程の直後に供給される新たな水に酸を投入し、常温で10分間、その酸溶液により獣毛トップを洗浄してもかまわない。なお、酸溶液による洗浄完了後、染色バックに新たに水が投入されることにより染色バックから酸水溶液が排出されると共に染色バックに新たな水が供給され、獣毛トップが十分に水洗される。
(B)
【0078】
先の実施の形態では特に言及しなかったが、還元処理工程(上記変形例(A)の酸水溶液による洗浄工程を経る場合はその洗浄工程)と酸化処理工程との間、酸化処理工程と嵩高獣毛紡績糸作製工程との間、または嵩高獣毛紡績糸作製工程の後に染色工程が挿入されてもかまわない。
【0079】
なお、還元処理工程(上記変形例(A)の酸水溶液による洗浄工程を経る場合はその洗浄工程)と酸化処理工程との間に染色工程が挿入される場合、染色工程では、還元処理工程完了後または洗浄工程完了後の獣毛トップが水洗された後、通常のトップ染めが行われる。
【0080】
次に、酸化処理工程と嵩高獣毛紡績糸作製工程との間に染色工程が挿入される場合、染色工程では、酸化処理工程完了後40度Cで十分に獣毛トップが湯洗された後、通常のトップ染めが行われる。なお、その後、染色された獣毛トップがバックウォッシャーで乾燥処理される。また、染色前に獣毛トップが漂白処理されてもよい。
【0081】
最後に、嵩高獣毛紡績糸作製工程の後に染色工程が挿入される場合、染色工程では、嵩高獣毛紡績糸作製工程で得られた嵩高獣毛紡績糸がチーズ巻きにされてチーズ染色機に投入され、通常のチーズ染めが行われる。また、嵩高絨毛紡績糸作製工程で得られた嵩高獣毛紡績糸を用いて布帛を作製し、その後反染めしてもかまわない。
(C)
【0082】
先の実施の形態では特に言及しなかったが、嵩高獣毛紡績糸作製工程(変形例(B)の染色工程を経る場合は染色工程)の直後に柔軟処理工程が挿入されてもかまわない。
【0083】
柔軟処理工程では、先ず、嵩高獣毛紡績糸作製工程または染色工程で得られた嵩高獣毛紡績糸がチーズ巻きにされてチーズ染色機に投入される。次に、チーズ染色機の浴槽に水が投入され、続けて柔軟剤が投入される。次いで、チーズ染色機の浴槽中の柔軟剤水溶液が40度Cに加温されて、10分間、嵩高獣毛紡績糸が柔軟処理される。そして、チーズ染色機の浴槽から柔軟剤水溶液が排出された後、チーズ染色機の浴槽に新たに水が投入され、嵩高獣毛紡績糸が十分に水洗される。なお、水洗完了後、チーズ染色機の浴槽から水が排出され、嵩高獣毛紡績糸が乾燥処理される。
−第4実施形態−
【0084】
本発明の第4実施形態において、嵩高獣毛紡績糸は、嵩高獣毛紡績糸作製工程、還元処理工程、酸化処理工程および柔軟処理工程を経て製造される。以下、これらの工程について記述する。
1.嵩高獣毛紡績糸作製工程
【0085】
嵩高獣毛紡績糸作製工程では、第1実施形態と同様、図1に示されるリング紡績装置20に獣毛スライバSが供給されることにより嵩高獣毛紡績糸が作製される。
2.還元処理工程
【0086】
還元処理工程では、先ず、嵩高獣毛紡績糸作製工程で得られた嵩高獣毛紡績糸がチーズ巻きにされてチーズ染色機に投入される。次に、チーズ染色機の浴槽に水が投入され、続けて浸透剤が投入される。次に、チーズ染色機中の浸透剤水溶液が常温で10分間循環させられ、嵩高獣毛紡績糸が湿潤させられる。次いで、チーズ染色機に還元剤が投入されて、70度Cまで30分で昇温させられた後、還元剤水溶液の温度が70度Cに保たれたまま、30分間保持されて、嵩高獣毛紡績糸が還元される。そして、チーズ染色機から還元剤水溶液が排出された後、チーズ染色機の浴槽に新たに水が投入され、その水が40度Cに加温されて嵩高獣毛紡績糸が十分に湯洗される。なお、この湯洗完了後、チーズ染色機の浴槽から洗浄湯が排出される。
3.酸化処理工程
【0087】
酸化処理工程では、還元処理工程完了後のチーズ染色機の浴槽に水が投入され、続けて浸透剤および酢酸が投入される。次に、チーズ染色機中の浸透剤水溶液が常温で10分間循環させられて、嵩高獣毛紡績糸が湿潤させられる。次いで、チーズ染色機に酸化剤が投入されて、30度Cの温度下で50分間、嵩高獣毛紡績糸が酸化処理され、嵩高獣毛紡績糸のスケールオフが行われる。そして、チーズ染色機から浸透剤・酸化剤水溶液が排出された後、チーズ染色機の浴槽に新たな水が投入され、嵩高獣毛紡績糸が十分に水洗される。なお、この水洗完了後、チーズ染色機の浴槽から水が排出される。
4.柔軟処理工程
【0088】
柔軟処理工程では、酸化処理工程完了後のチーズ染色機の浴槽に水が投入され、続けて柔軟剤が投入される。次いで、チーズ染色機の浴槽中の柔軟剤水溶液が40度Cに加温されて、10分間、嵩高獣毛紡績糸が柔軟処理される。チーズ染色機の浴槽から柔軟剤水溶液が排出された後、チーズ染色機の浴槽に新たな水が投入され、嵩高獣毛紡績糸が十分に水洗される。なお、この水洗完了後、チーズ染色機の浴槽から水が排出され、嵩高獣毛紡績糸が乾燥処理される。
<変形例>
(A)
先の実施の形態では特に言及しなかったが、酸化処理工程と柔軟処理工程との間に漂白工程が挿入されてもかまわない。
【0089】
なお、漂白工程では、酸化処理工程完了後のチーズ染色機の浴槽に水が投入され、続けて漂白剤が投入される。次いで、チーズ染色機の浴槽中の漂白剤水溶液が36度Cに加温されて、40分間、嵩高獣毛紡績糸が漂白処理される。そして、チーズ染色機の浴槽から漂白剤水溶液が排出された後、チーズ染色機の浴槽に新たに水が投入され、嵩高獣毛紡績糸が十分に水洗される。なお、この水洗完了後、チーズ染色機の浴槽から水が排出される。
(B)
【0090】
先の実施の形態では特に言及しなかったが、嵩高獣毛紡績糸作製工程の前、嵩高獣毛紡績糸作製工程と還元処理工程との間、還元処理工程と酸化処理工程との間、または、酸化処理工程(変形例(A)の漂白工程を経る場合は漂白工程)と柔軟処理工程の間に、染色処理工程が挿入されてもかまわない。
【0091】
嵩高獣毛紡績糸作製工程の前に染色工程が挿入される場合、通常のトップ染めが行われる。また、嵩高獣毛紡績糸作製工程の後に染色工程が挿入される場合、通常のチーズ染色が行われる。また、嵩高絨毛紡績糸作製工程で得られた嵩高獣毛紡績糸を用いて布帛を作製し、その後反染めしてもかまわない。
−その他の実施形態−
【0092】
還元処理工程で獣毛トップが還元処理され、その後、嵩高獣毛紡績糸作製後および布帛作製後のいずれかにおいて嵩高獣毛紡績糸が酸化処理されてもかまわない。
<実施例>
以下、実施例および比較例を示して本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0093】
1.嵩高羊毛紡績糸および編地の作製
(1)嵩高羊毛紡績糸の作製
【0094】
図1に示されるリング紡績装置20に羊毛繊維100%のスライバ(平均繊維長74.9mm,最大繊維長150mm,繊度20.3μm)を供給して、24番手の嵩高羊毛紡績糸(単糸)を作製した。
【0095】
なお、本実施例では、トップローラ6の独立溝21の形状を長方形とし、そのサイズを長さ4mm、幅1.5mm、深さ3mmとした。そして、このような形状の独立溝21をトップローラ6に18個設けた。なお、このトップローラ6の外径は、47mmであった。また、本実施例では、フロントローラ4の圧接力を8kg/cmに、ネップローラ対の圧接力を1kg/cmに設定した。また、本実施例では、フロントローラ4とネップローラ対Nの周速度比を1.59に設定した。なお、フロントローラ4とネップローラ対Nの周速度比は、フロントローラ4の周速度をネップローラ対Nの周速度で割ることにより算出される。また、本実施例では、ネップローラ対Nとフロントローラ4との芯間隔(ゲージ)を50mm(羊毛繊維の平均繊維長よりも短い)に設定した。また、本実施例において、牽伸機構25におけるドラフト率を20とした。
【0096】
そして、本実施例では、上述のようにして作製された下撚380Zの嵩高羊毛紡績糸(単糸)2本を上撚200Sで撚り合わせて糸番手2/24の嵩高羊毛紡績糸(双糸)を作製した。
(2)嵩高羊毛紡績糸の酸化処理
【0097】
先ず、上述のようにして作製した嵩高羊毛紡績糸(双糸)500gをチーズ巻きにしてチーズ染色機に装着した。次に、浴比が1:20となるようにチーズ染色機の浴槽に水を投入し、続けて1%owf(5g)のテキスポートSN−10(日華化学(株)製)および2%owf(10g)の酢酸を投入した。次いで、チーズ染色機の浴槽内の処理液を常温で10分間循環させて、嵩高羊毛紡績糸を湿潤させた。続いて、チーズ染色機の浴槽内に3%owf(15g)のピロリン酸ソーダおよび6%owf(30g)のバソランDCを投入して、30度Cの温度下で50分間、嵩高羊毛紡績糸を酸化処理し、嵩高羊毛紡績糸のスケールオフを行った。そして、チーズ染色機の浴槽から処理液を排出した後、チーズ染色機の浴槽に新たに水を投入し、その水を40度Cに加温して嵩高羊毛紡績糸を十分に湯洗した。なお、この湯洗完了後、チーズ染色機の浴槽から湯を排出した。
(3)嵩高羊毛紡績糸の還元処理
【0098】
浴比が1:20となるように酸化処理後のチーズ染色機の浴槽に水を投入し、続けて7.5%owf(37.5g)の亜硫酸ナトリウムを投入した。次いで、チーズ染色機の浴槽中の処理液を常温から70度Cまで30分で昇温させた後、処理液の温度を70度Cに保たせたまま30分間保持されて、嵩高羊毛紡績糸を還元処理した。そして、チーズ染色機の浴槽から処理液を排出した後、チーズ染色機の浴槽に新たに水を投入し、嵩高羊毛紡績糸を十分に水洗した。この水洗完了後、チーズ染色機の浴槽から水を排出した。
(4)嵩高羊毛紡績糸の漂泊処理
【0099】
浴比が1:20となるように還元処理後のチーズ染色機の浴槽に水を投入し、続けて2g/Lの35%過酸化水素水を投入した。次いで、チーズ染色機の浴槽中の処理液を35度Cに加温して、40分間、嵩高羊毛紡績糸を漂泊処理した。そして、チーズ染色機の浴槽から処理液を排出した後、チーズ染色機の浴槽に新たに水を投入し、嵩高羊毛紡績糸を十分に水洗した。なお、この水洗完了後、チーズ染色機の浴槽から水を排出した。
(5)嵩高羊毛紡績糸の柔軟処理
【0100】
浴比が1:20となるように漂泊処理後のチーズ染色機の浴槽に水を投入し、続けて2%owf(10g)のサンソフロンCG−102(日華化学(株)製)を投入した。次いで、チーズ染色機の浴槽中の処理液を40度Cに加温して、10分間、嵩高羊毛紡績糸を柔軟処理した。そして、チーズ染色機の浴槽から処理液を排出した後、チーズ染色機の浴槽に新たに水を投入し、その水を40度Cに加温して嵩高羊毛紡績糸を十分に湯洗した。なお、この湯洗完了後、チーズ染色機の浴槽から湯を排出し、嵩高羊毛紡績糸を乾燥処理した。
(6)編地の作製
12ゲージ/インチの横編機を用いて柔軟処理後の嵩高羊毛紡績糸から天竺編地を作製した。
2.物性測定
上述のようにして得られた嵩高羊毛紡績糸および天竺編地の物性を下記測定方法によって測定した。結果を表1および表2に示す。
(1)嵩高性の測定
JIS L 1095A法に従って、嵩高羊毛紡績糸の嵩高度を測定した。
(2)引張試験
オートグラフ引張試験機(島津製作所製)を用いて嵩高羊毛紡績糸の引張強度および引張伸び率を測定した。なお、測定条件は以下の通りであった。
クロスヘッドスピード:300mm/min
チャック間隔:500mm
単位強度当りの伸度:破断時の伸び率(%)/破断強度(N)
(3)マシンウォッシャブル性の合否測定
【0101】
天竺編地を洗濯機で水洗いし、水洗い前の天竺編地の寸法に対する水洗い後の天竺編地の寸法変化率を求めて合否を判定した。なお、合否判定基準は以下の通りである。
緩和寸法変化率(TM31法 7Aプログラム×1回):巾方向−8%〜5%,丈方向−10%以内
フェルト寸法変化率(TM31法 5Aプログラム×2回):面積収縮率−8%以上
(4)抗ピリング性の等級測定
【0102】
天竺編地を用いてピリング試験を行った。なお、ピリング試験はJIS L 1076法に従って行った。具体的には、「織物および編物のピリング試験方法」のピリング判定標準写真と試験片とを比較して、5級(ピルの発生がないもの)〜1級(ピルの発生が著しく多いもの)の5段階で試験片の等級を決定した。
【実施例2】
【0103】
嵩高羊毛紡績糸の作製において下撚460Zの嵩高羊毛紡績糸(単糸)2本を上撚240Sで撚り合わせて糸番手2/24の嵩高羊毛紡績糸(双糸)を作製した以外は、実施例1と同様にして嵩高羊毛紡績糸および天竺編地を作製し、それらの物性測定を行った。結果を表1および表2に示す。
(比較例1)
【0104】
酸化処理、還元処理、漂泊処理および柔軟処理を行わずに嵩高羊毛紡績糸を染色したこと、編地の作製において12ゲージ/インチの横編機を用いたこと以外は、実施例1と同様にして嵩高羊毛紡績糸および天竺編地を作製し、それらの物性測定を行った。結果を表1および表2に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【実施例3】
【0107】
嵩高羊毛紡績糸の作製において羊毛繊維100%のスライバを平均繊維長74.9mm,最大繊維長150mm,繊度19.5μmのものに代えて下撚520Zの嵩高羊毛紡績糸(単糸)2本を上撚300Sで撚り合わせて糸番手2/36の嵩高羊毛紡績糸(双糸)を作製したこと、酸化処理においてバソランDCの濃度を4%owfに代えたこと以外は、実施例1と同様にして嵩高羊毛紡績糸および天竺編地を作製し、それらの物性測定を行った。なお、本実施例では、12ゲージ/インチの横編機を用いて柔軟処理後の嵩高羊毛紡績糸から天竺編地を作製すると共に14ゲージ/インチの横編機を用いて柔軟処理後の嵩高羊毛紡績糸から天竺編地を作製した。結果を表3および表4に示す。
【実施例4】
【0108】
嵩高羊毛紡績糸の作製において羊毛繊維100%のスライバを平均繊維長74.9mm,最大繊維長150mm,繊度19.5μmのものに代えて下撚520Zの嵩高羊毛紡績糸(単糸)2本を上撚300Sで撚り合わせて糸番手2/36の嵩高羊毛紡績糸(双糸)を作製したこと、還元処理において処理液の温度を45度Cとしたこと以外は、実施例1と同様にして嵩高羊毛紡績糸および天竺編地を作製し、それらの物性測定を行った。なお、本実施例では、12ゲージ/インチの横編機を用いて柔軟処理後の嵩高羊毛紡績糸から天竺編地を作製すると共に14ゲージ/インチの横編機を用いて柔軟処理後の嵩高羊毛紡績糸から天竺編地を作製した。結果を表3および表4に示す。
【実施例5】
【0109】
嵩高羊毛紡績糸の作製において羊毛繊維100%のスライバを平均繊維長74.9mm,最大繊維長150mm,繊度19.5μmのものに代えて下撚520Zの嵩高羊毛紡績糸(単糸)2本を上撚300Sで撚り合わせて糸番手2/36の嵩高羊毛紡績糸(双糸)を作製したこと、嵩高羊毛紡績糸(双糸)15kgをチーズ巻きにしてチーズ染色機に装着したこと、漂泊処理と柔軟処理との間に染色処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして嵩高羊毛紡績糸および天竺編地を作製し、それらの物性測定を行った。なお、染色処理では、浴比が1:15となるように漂泊処理後のチーズ染色機の浴槽に水を投入し、続けて5%owfの酸性媒染染料であるクロムブラックPLW(山田化学工業(株)製)を投入して嵩高羊毛紡績糸の染色を行った。また、本実施例では、12ゲージ/インチの横編機を用いて柔軟処理後の嵩高羊毛紡績糸から天竺編地を作製すると共に14ゲージ/インチの横編機を用いて柔軟処理後の嵩高羊毛紡績糸から天竺編地を作製した。結果を表3および表4に示す。
なお、本実施例において、染色処理は、通常のチーズ染めにより行った。
【実施例6】
【0110】
嵩高羊毛紡績糸の作製において羊毛繊維100%のスライバを平均繊維長74.9mm,最大繊維長150mm,繊度19.5μmのものに代えて下撚520Zの嵩高羊毛紡績糸(単糸)2本を上撚300Sで撚り合わせて糸番手2/36の嵩高羊毛紡績糸(双糸)を作製したこと、嵩高羊毛紡績糸(双糸)15kgをチーズ巻きにしてチーズ染色機に装着したこと以外は、実施例1と同様にして嵩高羊毛紡績糸および天竺編地を作製し、それらの物性測定を行った。なお、本実施例では、12ゲージ/インチの横編機を用いて柔軟処理後の嵩高羊毛紡績糸から天竺編地を作製すると共に14ゲージ/インチの横編機を用いて柔軟処理後の嵩高羊毛紡績糸から天竺編地を作製した。結果を表3および表4に示す。
【実施例7】
【0111】
嵩高羊毛紡績糸の作製において羊毛繊維100%のスライバを平均繊維長74.9mm,最大繊維長150mm,繊度19.5μmのものに代えて下撚520Zの嵩高羊毛紡績糸(単糸)2本を上撚300Sで撚り合わせて糸番手2/36の嵩高羊毛紡績糸(双糸)を作製したこと、漂泊処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして嵩高羊毛紡績糸および天竺編地を作製し、それらの物性測定を行った。なお、本実施例では、12ゲージ/インチの横編機を用いて柔軟処理後の嵩高羊毛紡績糸から天竺編地を作製すると共に14ゲージ/インチの横編機を用いて柔軟処理後の嵩高羊毛紡績糸から天竺編地を作製した。結果を表3および表4に示す。
(比較例2)
1.嵩高羊毛紡績糸および編地の作製
(1)嵩高羊毛紡績糸の作製
【0112】
図1に示されるリング紡績装置20に羊毛繊維100%のスライバ(平均繊維長74.9mm,最大繊維長150mm,繊度19.5μm)を供給して、36番手の嵩高羊毛紡績糸(単糸)を作製した。
【0113】
なお、本実施例では、トップローラ6の独立溝21の形状を長方形とし、そのサイズを長さ4mm、幅1.5mm、深さ3mmとした。そして、このような形状の独立溝21をトップローラ6に18個設けた。なお、このトップローラ6の外径は、47mmであった。また、本実施例では、フロントローラ4の圧接力を8kg/cmに、ネップローラ対の圧接力を1kg/cmに設定した。また、本実施例では、フロントローラ4とネップローラ対Nの周速度比を1.59に設定した。なお、フロントローラ4とネップローラ対Nの周速度比は、フロントローラ4の周速度をネップローラ対Nの周速度で割ることにより算出される。また、本実施例では、ネップローラ対Nとフロントローラ4との芯間隔(ゲージ)を50mm(羊毛繊維の平均繊維長よりも短い)に設定した。また、本実施例において、牽伸機構25におけるドラフト率を20とした。
【0114】
そして、本実施例では、上述のようにして作製された下撚520Zの嵩高羊毛紡績糸(単糸)2本を上撚300Sで撚り合わせて糸番手2/36の嵩高羊毛紡績糸(双糸)を作製した。
(2)編地の作製
【0115】
12ゲージ/インチの横編機を用いて柔軟処理後の嵩高羊毛紡績糸から天竺編地を作製すると共に14ゲージ/インチの横編機を用いて柔軟処理後の嵩高羊毛紡績糸から天竺編地を作製した。
2.物性測定
上述のようにして得られた嵩高羊毛紡績糸および天竺編地の物性を実施例1と同様にして測定した。結果を表3および表4に示す。
(比較例3)
【0116】
嵩高羊毛紡績糸の作製において羊毛繊維100%のスライバを平均繊維長74.9mm,最大繊維長150mm,繊度19.5μmのものに代えて下撚520Zの嵩高羊毛紡績糸(単糸)2本を上撚300Sで撚り合わせて糸番手2/36の嵩高羊毛紡績糸(双糸)を作製したこと、酸化処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして嵩高羊毛紡績糸および天竺編地を作製し、それらの物性測定を行った。なお、本実施例では、12ゲージ/インチの横編機を用いて柔軟処理後の嵩高羊毛紡績糸から天竺編地を作製すると共に14ゲージ/インチの横編機を用いて柔軟処理後の嵩高羊毛紡績糸から天竺編地を作製した。結果を表3および表4に示す。
(比較例4)
【0117】
嵩高羊毛紡績糸の作製において羊毛繊維100%のスライバを平均繊維長74.9mm,最大繊維長150mm,繊度19.5μmのものに代えて下撚520Zの嵩高羊毛紡績糸(単糸)2本を上撚300Sで撚り合わせて糸番手2/36の嵩高羊毛紡績糸(双糸)を作製したこと、還元処理、漂泊処理および柔軟処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして嵩高羊毛紡績糸および天竺編地を作製し、それらの物性測定を行った。なお、本実施例では、12ゲージ/インチの横編機を用いて柔軟処理後の嵩高羊毛紡績糸から天竺編地を作製すると共に14ゲージ/インチの横編機を用いて柔軟処理後の嵩高羊毛紡績糸から天竺編地を作製した。結果を表3および表4に示す。
【0118】
【表3】

【0119】
【表4】

【実施例8】
【0120】
1.嵩高羊毛紡績糸および編地の作製
(1)羊毛トップの前処理
【0121】
10kgの羊毛トップ(平均繊維長74.9mm,最大繊維長150mm,繊度19.5μm)を染色バックに装着した後、その羊毛トップを40度Cのお湯で湯洗した。
(2)羊毛トップの酸化処理
【0122】
浴比が1:18となるように前処理後の染色バックに水を投入し、続けて0.3%owf(30g)のテキスポートSN−10(日華化学(株)製)および2%owf(200g)の酢酸を投入した。次に、染色バック中の処理液を常温で10分間循環させて、羊毛トップを湿潤させた。次いで、染色バックに3%owf(300g)のピロリン酸ソーダおよび6%owfのバソランDCを投入して、30度Cの温度下で50分間、羊毛トップを酸化処理し、羊毛トップのスケールオフを行った。そして、染色バックから処理液を排出させながら染色バックに新たなに水を投入し、その水を40度Cに加温しながら羊毛トップを十分に湯洗した。
(3)羊毛トップの還元処理
【0123】
浴比が1:18となるように酸化処理後の染色バックに水を投入し、続けて7.5%owf(750g)の亜硫酸ナトリウムを投入した。次に、染色バック中の処理液を常温から70度Cまで30分で昇温させた後、処理液の温度を70度Cに保ったまま30分間保持して、羊毛トップを還元処理した。そして、染色バックから処理液を排出させながら染色バックに新たな水を投入し、常温で羊毛トップを十分に水洗した。
(4)羊毛トップの洗浄
【0124】
浴比が1:18となるように還元処理後の染色バックに水を投入し、続けて1%owf(100g)のギ酸を投入して、常温で10分間、羊毛トップを洗浄した。そして、染色バックから処理液を排出させながら染色バックに新たな水を投入し、常温で羊毛トップを十分に水洗した。なお、この水洗後、染色バックから水を排出し、羊毛トップをバックウォッシャーで乾燥させた。
(5)嵩高獣毛紡績糸の作製
図1に示されるリング紡績装置20に、洗浄後の羊毛トップのスライバを供給して、36番手の嵩高羊毛紡績糸(単糸)を作製した。
【0125】
なお、本実施例では、トップローラ6の独立溝21の形状を長方形とし、そのサイズを長さ4mm、幅1.5mm、深さ3mmとした。そして、このような形状の独立溝21をトップローラ6に18個設けた。なお、このトップローラ6の外径は、47mmであった。また、本実施例では、フロントローラ4の圧接力を8kg/cmに、ネップローラ対の圧接力を1kg/cmに設定した。また、本実施例では、フロントローラ4とネップローラ対Nの周速度比を1.59に設定した。なお、フロントローラ4とネップローラ対Nの周速度比は、フロントローラ4の周速度をネップローラ対Nの周速度で割ることにより算出される。また、本実施例では、ネップローラ対Nとフロントローラ4との芯間隔(ゲージ)を50mm(羊毛繊維の平均繊維長よりも短い)に設定した。また、本実施例において、牽伸機構25におけるドラフト率を20とした。
【0126】
そして、本実施例では、上述のようにして作製された下撚520Zの嵩高羊毛紡績糸(単糸)2本を上撚360Sで撚り合わせて糸番手2/36の嵩高羊毛紡績糸(双糸)を作製した。
(6)嵩高羊毛紡績糸の染色
【0127】
嵩高羊毛紡績糸(双糸)をチーズ巻きにしてチーズ染色機に装着してチーズ染色を行った。なお、このとき、浴比が1:15となるようにチーズ染色機の浴槽に水を投入し、続けて5%owfの酸性媒染染料であるクロムブラックPLW(山田化学工業(株)製)を投入して嵩高羊毛紡績糸の染色を行った。
(7)編地の作製
【0128】
12ゲージ/インチの横編機を用いて上述の嵩高羊毛紡績糸から天竺編地を作製すると共に14ゲージ/インチの横編機を用いて同嵩高羊毛紡績糸から天竺編地を作製した。
2.物性測定
上述のようにして得られた嵩高羊毛紡績糸および天竺編地の物性を実施例1と同様にして測定した。結果を表5および表6に示す。
【実施例9】
【0129】
羊毛トップとして平均繊維長74.9mm,最大繊維長150mm,繊度20.3μmの羊毛トップと、平均繊維長74.9mm,最大繊維長150mm,繊度19.5μmの羊毛トップとを50:50の割合で混合した混合羊毛トップを用いた以外は、実施例8と同様にして嵩高羊毛紡績糸および天竺編地を作製し、それらの物性測定を行った。結果を表5および表6に示す。
【0130】
【表5】

【0131】
【表6】

【符号の説明】
【0132】
1 バックローラ
2 ミドルローラ
3 エプロン
4 フロントローラ
5 ネップローラ対のベースローラ
6 ネップローラ対のトップローラ
7 リング
8 嵩高紡績糸
9 スピンドル
20 リング紡績装置(嵩高紡績糸の製造装置)
21 独立溝
25 牽伸機構
26 撚り機構
N ネップローラ対
S スライバ(繊維群)
B ボビン
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明に係る嵩高獣毛紡績糸の製造方法は、軽量であり、ソフトな肌触り、十分な保温性、優れた抗ピリング性およびマシンウォッシャブル性を備える嵩高獣毛布帛を形成することができる嵩高獣毛紡績糸を製造することができるという特徴を有しており、例えば、1年を通してあまり季節に拘らなく着用できる衣料(軽く、薄く、暖かい等の種々の機能を有した衣料)の製造などに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嵩高獣毛紡績糸を製造する嵩高獣毛紡績糸の製造方法であって、
獣毛繊維を酸化処理してスケールオフ獣毛繊維を作製する酸化処理工程と、
45度C以上に加熱した還元剤溶液を用いて前記スケールオフ獣毛繊維を還元処理して還元獣毛繊維を作製する還元処理工程と、
前記還元獣毛繊維を用いて嵩高獣毛紡績糸を作製する嵩高獣毛紡績糸作製工程と
を備える、嵩高獣毛紡績糸の製造方法。
【請求項2】
前記嵩高獣毛紡績糸作製工程は、
前記還元獣毛繊維を引き揃えた獣毛繊維群を牽伸して繊維束を形成する牽伸工程と、
前記牽伸工程後の前記獣毛繊維束を、表面に開口する独立溝が少なくとも一方のローラに形成されているローラ対の前記独立溝に通過させて前記獣毛繊維束を嵩高くする嵩高加工工程と、
前記嵩高加工工程後の前記獣毛繊維束に撚りをかけて嵩高獣毛紡績糸を作製する撚り工程と
を有する、請求項1に記載の嵩高獣毛紡績糸の製造方法。
【請求項3】
前記還元獣毛繊維を染色して染色獣毛繊維を作製する第1染色工程をさらに備え、
前記嵩高獣毛紡績糸作製工程では、前記染色獣毛繊維が用いられて嵩高獣毛紡績糸が作製される、
請求項1または2に記載の嵩高獣毛紡績糸の製造方法。
【請求項4】
前記還元処理工程と前記第1染色工程との間に実施される洗浄工程をさらに備え、
前記洗浄工程では、前記還元獣毛繊維が洗浄されて洗浄獣毛繊維が作製され、
前記第1染色工程では、前記洗浄獣毛繊維が染色されて前記染色獣毛繊維が作製される
請求項3に記載の嵩高獣毛紡績糸の製造方法。
【請求項5】
前記嵩高獣毛紡績糸作製工程の後に実施される柔軟処理工程をさらに備え、
前記柔軟処理工程では、前記嵩高獣毛紡績糸が柔軟処理される
請求項1から4のいずれかに記載の嵩高獣毛紡績糸の製造方法。
【請求項6】
前記嵩高獣毛紡績糸を染色して染色嵩高獣毛紡績糸を作製する第2染色工程をさらに備える、請求項1または2に記載の嵩高獣毛紡績糸の製造方法。
【請求項7】
前記還元処理工程と前記嵩高獣毛紡績糸作製工程との間に実施される洗浄工程をさらに備え、
前記洗浄工程では、前記還元獣毛繊維が洗浄されて洗浄獣毛繊維が作製され、
前記嵩高獣毛紡績糸作製工程では、前記洗浄獣毛繊維が用いられて嵩高獣毛紡績糸が作製される、
請求項6に記載の嵩高獣毛紡績糸の製造方法。
【請求項8】
前記第2染色工程の後に実施される柔軟処理工程をさらに備え、
前記柔軟処理工程では、前記染色嵩高獣毛紡績糸が柔軟処理される
請求項6または7に記載の嵩高獣毛紡績糸の製造方法。
【請求項9】
嵩高獣毛紡績糸を製造する嵩高獣毛紡績糸の製造方法であって、
獣毛繊維を用いて嵩高獣毛紡績糸を作製する嵩高獣毛紡績糸作製工程と、
前記嵩高獣毛紡績糸を酸化処理してスケールオフ嵩高獣毛紡績糸を作製する酸化処理工程と、
45度C以上に加熱した還元剤溶液を用いて前記スケールオフ嵩高獣毛紡績糸を還元処理して還元嵩高獣毛紡績糸を作製する還元処理工程と、
を備える、嵩高獣毛紡績糸の製造方法。
【請求項10】
嵩高獣毛紡績糸作製工程は、
前記獣毛繊維を引き揃えた獣毛繊維群を牽伸して繊維束を形成する牽伸工程と、
前記牽伸工程後の前記獣毛繊維束を、表面に開口する独立溝が少なくとも一方のローラに形成されているローラ対の前記独立溝に通過させて前記獣毛繊維束を嵩高くする嵩高加工工程と、
前記嵩高加工工程後の前記獣毛繊維束に撚りをかけて嵩高獣毛紡績糸を作製する撚り工程と
を有する、請求項9に記載の嵩高獣毛紡績糸の製造方法。
【請求項11】
前記還元処理工程の後に実施される漂白処理工程をさらに備え、
前記漂泊処理では、前記還元嵩高獣毛紡績糸が漂泊処理されて漂泊嵩高獣毛紡績糸が作製される
請求項9または10に記載の嵩高獣毛紡績糸の製造方法。
【請求項12】
前記漂泊処理工程の後に実施される染色工程をさらに備え、
前記染色工程では、前記漂泊嵩高獣毛紡績糸が染色されて染色嵩高獣毛紡績糸が作製される
請求項11に記載の嵩高獣毛紡績糸の製造方法。
【請求項13】
前記染色工程の後に実施される柔軟処理工程をさらに備え、
前記柔軟処理工程では、前記染色嵩高獣毛紡績糸が柔軟処理される
請求項12に記載の嵩高獣毛紡績糸の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−137259(P2011−137259A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298422(P2009−298422)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】