説明

工事騒音マスキング設備及び工事騒音マスキング方法

【課題】建築工事騒音のマスキングに対応でき、且つ、工事エリアの移動にも追随し易いようにする。
【解決手段】建築工事騒音を発生する工事エリアKと、その工事エリアKに近接する複数の部屋Rとを備えた対象建築物Bにおいて、建築工事騒音をマスキングするためのマスキング音を部屋Rで再生して、部屋Rにおいて在室者が感じる建築工事騒音を緩和する工事騒音マスキング設備であって、複数の部屋Rにそれぞれ設置撤去が可能で且つマスキング音の再生が可能な複数の再生装置1と、部屋Rの建築工事騒音に対応するマスキング音が再生されるように信号データ2を再生装置1に送信する送信装置3とを設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築工事騒音を発生する工事エリアと、その工事エリアに近接する複数の部屋とを備えた対象建築物において、前記建築工事騒音をマスキングするためのマスキング音を前記部屋で再生して、前記部屋において在室者が感じる建築工事騒音を緩和する工事騒音マスキング設備 及び 工事騒音マスキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のマスキング技術としては、隣接する部屋において、隣室からの会話等の音を聞こえ難くするものがあった(例えば、特許文献1参照)。
これは、それぞれの部屋の天井裏に、ピンクノイズやホワイトノイズ等のマスキング音を流す音源装置(再生装置)を組み込んでおき、各音源装置からマスキング音を一斉に流すことで、両部屋ともに隣室からの音を聞こえ難くするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−31501号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来のマスキング技術は、人の話声等をマスキング対象にして構成されており、例えば、建物改修や増築等によって発生する建築工事騒音をマスキングするようには構成されていなかった。
建築工事騒音には、空間を通して伝わる音に加えて、例えば、床や壁等の躯体を通じて伝わる振動音等もあり、これらの建築工事騒音は、工事エリアでの建築工事の工種によって異なった騒音となる。即ち、従来のマスキング技術によれば、単に、人の話声等をマスキングの対象としているから、上述のように各種建築工事騒音が発生する場合には適用できない虞があった。
また、工事エリアは、工事の進捗によって順次移動していく可能性があり、そう言った建築工事独特の事情にも、従来のマスキング技術では対応し難い虞があった。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、建築工事騒音のマスキングに対応でき、且つ、工事エリアの移動にも追随し易い工事騒音マスキング技術を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、建築工事騒音を発生する工事エリアと、その工事エリアに近接する複数の部屋とを備えた対象建築物において、前記建築工事騒音をマスキングするためのマスキング音を前記部屋で再生して、前記部屋において在室者が感じる建築工事騒音を緩和する工事騒音マスキング設備であって、前記複数の部屋にそれぞれ設置撤去が可能で且つ前記マスキング音の再生が可能な複数の再生装置と、前記部屋の建築工事騒音に対応する前記マスキング音が再生されるように信号データを前記再生装置に送信する送信装置とを設けてあるところにある。
【0007】
工事エリアでの建築工事は、一般的には工事の進捗に伴って工種(例えば、斫り工や、ガラ撤去工や、型枠工や、鉄筋工や、コンクリート打設工等)が変化するが、それぞれの工種によって発生する建築工事騒音の種類も変化する。
本発明の第1の特徴構成によれば、工事エリアでの建築工事の工種が異なっても、それら工種に対応したマスキング音が再生装置から再生されるように、送信装置から再生装置に対して信号データを送信することができる。
従って、建築工事の実施に伴って発生する騒音に対して、適宜、良好なマスキング効果が得られるマスキング音を選択して、前記部屋で再生することができる。
また、再生装置は、部屋に対して設置撤去が可能であるから、部屋における既存の再生装置の有無に拘わらず、当該再生装置を簡単に設置して工事騒音マスキングを実施できる。また、使用後は、簡単に部屋から撤去して元の状態に戻すことができる。
更には、工事の進捗に伴って工事エリアが移動するような場合、それに伴ってマスキングが必要となる部屋も変わるが、その際にも、再生装置を該当する部屋に簡単且つ迅速に移動させることができる。
従って、建築工事を止めることなく、効率よく再生装置の移動を図りながら、移動した部屋で高いマスキング効果を発揮することができる。
即ち、工事騒音のマスキング効果を良好に発揮でき、且つ、工事エリアの移動にも効率的に対応することができ、建築工事に特化したマスキングを良好な形で実現できるようになる。
因みに、信号データとは、マスキング音そのものの音データであることの他、例えば、再生装置にマスキング音の音データが用意されているような場合には、再生装置に対して該当する音データを再生させるための指令信号データが信号データとなる。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、前記送信装置は、前記工事エリアに設置撤去することが可能に構成してあり、無線放送によって、音データからなる前記信号データを前記再生装置に送信するように構成してあるところにある。
【0009】
本発明の第2の特徴構成によれば、送信装置は、工事エリアに設置撤去できるように構成してあるから、工事エリアに送信装置を簡単に配置することができ、前記再生装置と合わせて、対象となる場所に効率よく設置して、迅速に工事騒音マスキングを開始することができる。また、使用後は、迅速に撤去することができるのは勿論のことである。
更には、工事エリアにおいて直接に送信装置を操作できるから、現場での建築工事騒音の発生状況に合わせて送信装置を効率よく作動させることができる。
また、送信装置を操作する人員は、工事エリアで建築工事を行う人員と兼用化できるから、人員コストの低減化を図ることができる。
更には、工事の進捗に伴って工事エリアが移動するような場合に、送信装置を該当する工事エリアに簡単且つ迅速に移動させることができることに加えて、無線によって再生装置に音データを送信できるから、配線等が不要となり、より簡単に設置作業や移動作業を実施することができる。
【0010】
本発明の第3の特徴構成は、前記送信装置は、前記信号データを、有線又は無線LANによって前記再生装置に送信するように構成してあるところにある。
【0011】
本発明の第3の特徴構成によれば、送信装置と再生装置とが、有線又は無線LANによって繋がっているから、LANを通じて、送信装置と再生装置との制御や、マスキングに関連したデータの管理等を行うことができ、より組織的に工事騒音マスキングを実施できるようになる。
また、対象建築物に既存のLANが備えられている場合には、そのまま使用することができ、設備費の低減を図ることができる。
【0012】
本発明の第4の特徴構成は、前記送信装置は、前記工事エリアでの工事予定を入力可能な記録部と、前記記録部に記録されている前記工事予定に合わせて前記信号データを送信制御する制御部とを備えているところにある。
【0013】
本発明の第4の特徴構成によれば、工事エリアでの工事予定を制御部に入力しておくことで、その予定に合わせて、制御部が再生装置への信号データの送信を自動的に行うことができる。
従って、送信装置の操作に気を取られずに、工事に専念することができ、作業効率の向上を図ることができる。
【0014】
本発明の第5の特徴構成は、前記信号データは、対象となる建築工事騒音の種類に対応して複数種備えてあり、
前記制御部は、前記工事予定に記された工種をもとにして建築工事騒音の種類を特定し、対応する信号データを選択して送信制御するように構成してあるところにある。
【0015】
本発明の第5の特徴構成によれば、工事エリアで実施する工種を送信装置の記録部に入力しておくだけの簡単な操作によって、その工種で生じる工事騒音に対応したマスキング音が、再生装置から再生されて、対象とした部屋での工事騒音のマスキングを効果的に行うことができる。
即ち、該当する部屋でマスキング音の再生を実施する際に、どのようなマスキング音を再生させるかの選択を行わなくても、制御部において自動的に、発生される工事騒音に対して効果的なマスキング音が選択されるようになる。
その結果、該当する工事騒音に対してどのようなマスキング音が効果的であるかの知識の有無に拘わらず、最適なマスキング音の選択が行われて、より確実に効果的な工事騒音マスキングを実施できるようになる。
【0016】
本発明の第6の特徴構成は、建築工事騒音を発生する工事エリアと、その工事エリアに近接する複数の部屋とを備えた対象建築物において、前記建築工事騒音をマスキングするためのマスキング音を前記部屋で再生して、前記部屋において在室者が感じる建築工事騒音を緩和する工事騒音マスキング方法であって、
アッテネータを備えた再生装置を各部屋に設けておくと共に、前記各再生装置に前記マスキング音を送信可能な送信装置を設けておき、
建築工事の実施に伴って、前記工事エリアに隣接する部屋の前記再生装置のみが前記マスキング音を再生するように前記アッテネータを切替操作し、前記送信装置から前記再生装置に前記マスキング音を送信するところにある。
【0017】
工事エリアでの建築工事によって発生する工事騒音は、壁や床を伝って周囲に伝わるが、特に、工事エリアに隣接する部屋では、他の部屋に比べて工事騒音がより強く感じられる。一方、騒音緩和のために流されるマスキング音は、在室者が苦痛には感じ難い種類の音が使用されるわけであるが、それでも、何も流さない自然状態に比べたら静寂性は劣る。
本発明の第6の特徴構成によれば、工事エリアに隣接する部屋で強く感じられる工事騒音に着目して、それら限られたエリアの部屋でのみ送信装置からのマスキング音を再生装置で再生するから、強く感じられるはずの騒音の緩和を図れながら、それ以外の部屋では、静寂性を維持することができる。
また、工事の進捗に伴って工事エリアの位置が対象建築物内で移動するような場合でも、各部屋のアッテネータを切替操作するだけで、迅速に追従することができ、マスキングを図る対象を、移動した工事エリアに隣接する部屋に切り替えて工事騒音マスキングを継続することができる。
例えば、病院や集合住宅等のように多数の部屋を備えた対象建築物の改修工事においては、各部屋を使用しながら工事を進めるために、対象建築物の全体を一度に改修するのではなく、工事エリアを局部的に設定して、その工事エリアを工事の進捗に合わせて移動する方法が採用されることがある。このような工事環境下においては、特に、工事エリアの周りの工事騒音マスキングが必要となり、当該特徴構成によれば、このニーズをより効率よく叶えることができる。
また、対象建築物が既存建築物である場合には、各部屋に予め設置されている再生装置をそのまま使用して、工事騒音マスキングを実施することができ、経済的である。
但し、再生装置は既存のものに限るものではなく、新たに再生装置を各部屋に設置することも発明には包含されていることは勿論である。
また、アッテネータとして、非常放送対応の3線タイプのものを使用すれば、例えば、アッテネータを0に切り替えてマスキング音を流さない設定で使用している部屋であっても、非常放送時には、その非常放送を聴くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態の工事騒音マスキング設備の使用状態を示す模式図
【図2】第1実施形態の工事騒音マスキング設備の構成ブロック図
【図3】第2実施形態の工事騒音マスキング設備の使用状態を示す模式図
【図4】第2実施形態の工事騒音マスキング設備の構成ブロック図
【図5】別実施形態の工事騒音マスキング方法を示す模式図
【図6】工事騒音マスキングの実施状況を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
〔第1実施形態〕
図1、図2は、本発明の工事騒音マスキング設備Mの一実施形態品の使用状態を示す模式図である。
第1実施形態の工事騒音マスキング設備(以後、単に「マスキング設備」という)M1を、病棟(対象建築物の一例)Bに設置してある例を示している。
病棟Bは、複数階を備えた既存の病院建物であり、各階とも病室として使用されている部屋Rが複数個設けられている。
また、病棟Bでは、マスキング設備M1を使用しながら、各部屋Rの改修工事(建築工事の一例)が順次実施される。
【0021】
図1は、中央部分の部屋R1において改修工事が実施されている状況を示している。
この状況においては、中央部分の部屋R1が工事エリアKとなっている。
改修工事は、例えば、耐震改修工事や、設備改修工事や、内装改修工事等が挙げられる。そして、それらの改修工事では、内装材の撤去、下地の改修、補強部材の設置、配管の設置、化粧材の設置等、複数の工種が適宜実施される。それぞれの工種の実施に当たっては、例えば、躯体を斫ったり、躯体や建材に穴を開けたり、釘やボルトを取り付ける等の作業が伴うことがあり、それらの作業に伴っては、大きな音や、振動等の建築工事騒音が発生する。
【0022】
工事エリアKで発生した建築工事騒音は、建物躯体や空間を通して周囲の複数の部屋Rに伝わる。これらの建築工事騒音は、特に、工事エリアKの上下左右に隣接する部屋Rに伝わりやすい。
よって、当該実施形態においては、中央部分の部屋R1の左右の部屋R2と、上下の部屋R3とを対象として工事騒音マスキングを実施している。
工事騒音マスキングそのものは、マスキング設備M1を使用して、マスキング音を上述の各部屋R1,R2,R3で再生し、そのマスキング音によって建築工事騒音が在室者に聞こえ難い状態をつくることで実施される。
【0023】
マスキング設備M1は、上下左右の各部屋R3,R4にそれぞれ設置撤去が可能で且つマスキング音の再生が可能な複数の再生装置1と、それら再生装置1から、建築工事騒音に対応するマスキング音が再生されるように音データ(信号データ2の一例)2Aを各再生装置1に無線放送によって送信する送信装置3とを設けて構成してある。
当該実施形態においては、前記送信装置3も、再生装置1と同様に、工事エリアKに設置撤去が可能に形成してある。従って、中央部分の部屋R1での工事が終了して、隣の部屋R2に工事エリアKを移動させる場合、再生装置1も送信装置3も簡単に該当する部屋に移動させて設置し直すことができる。
【0024】
再生装置1は、図2に示すように、送信装置3からの音データ2Aの電波を受信する受信部4と、受信した音データ2Aを増幅する増幅部5と、増幅された音データ2Aを音として再現するスピーカ部6とを、キャビネット1aの中に組み込んで構成してある。
再生装置1は、コンセントからの受電によって作動できる。
また、キャビネット1aには、移動を円滑に実施できるように、キャスター1bが取り付けてある。
スピーカ部6から発せられるマスキング音は、送信装置3で決定され、電波にのせて送られてきた音データ2Aによるものであり、その音量調整は、増幅部5に備えた調整機構によって実施できる。
【0025】
送信装置3は、図2に示すように、音データ2Aを記録してある記録部7と、音データ2Aを電波にのせて再生装置1へ送信する送信部8と、記録部7の音データ2Aを読み取って送信部8から送信させるように記録部7と送信部8とを制御する制御部9と、送信する音データ2Aをモニターできるように再生するモニタ機構10とを、キャビネット3aの中に組み込んで構成してある。
このキャビネット3aにも、キャスター3bが取り付けてある。
送信装置3は、制御部9につながった入力部11から送信指令を入力することで、記録部7に記録された音データ2Aを各再生装置1に一斉に送信するよう構成してある。
記録部7に記録しておく音データ2Aは、工事エリアKで実施する工種に対応したマスキング音を予め選択してある。
因みに、記録部7に、異なる種類の複数の音データ2Aを記録しておき、工事エリアKで実施する工種に対応した音データ2Aをその中から選択して、入力部11からの送信指令によって、各再生装置1に送信するように構成することもでもよい。
【0026】
前記音データ2Aは、例えば、ピンクノイズや、ホワイトノイズや、工事騒音の中心波長域の音が混ざった音楽等のデータが使用される。
【0027】
本実施形態のマスキング設備M1によれば、工事エリアKでの改修工事の工種ごとに対応したマスキング音を、上下左右の各部屋Rに設置した再生装置1から再生することができるから、図6に示すように、各部屋Rでは良好なマスキング効果が得られ、騒音緩和を図った状態で改修工事を進めることができる。
また、再生装置1と送信装置3とは、無線放送によってデータの送受信を行っているから、配線等の作業に煩わされることなく、効率よく設置撤去作業を実施できると共に、工事エリアKの移動の際にも、マスキング設備M1ごと簡単且つ迅速に移動させることができる。
【0028】
〔第2実施形態〕
図3、図4は、第2実施形態のマスキング設備M2の設置状況を示している。
尚、第1実施形態と重複する構成に関しては省略し、異なっている点を主に説明する。
【0029】
当該マスキング設備M2は、再生装置1と送信装置3との接続形態が、第1実施形態と異なっている。
第1実施形態のマスキング設備M1では、再生装置1と送信装置3とが無線放送によって接続されているのに対して、第2実施形態のマスキング設備M2は、LAN15を介して接続されている点が大きく異なっている。
ここでは、病棟Bに備えられている既存の有線LANをそのまま使用するとして説明をするが、この形態に限るものではなく、例えば、当該工事を実施するために新たにLAN15を設置するものであってもよい。更には、有線LANとしては、PCL(電力線通信)方式を利用するものであってもよい。また、用いるLAN15は、有線LANに限らず、無線LANであっても良いことは勿論である。
【0030】
LAN15は、接続機器どうしを中継機器(ハブやルータ)を介してLANケーブルによって接続できるように構成してあり、各部屋Rには、LAN接続用のコネクタ16が設けてある。このコネクタ16に再生装置1や送信装置3を接続することで、互いの間でのデータの送受信が可能となる。
【0031】
再生装置1は、図4に示すように、第1実施形態で説明した受信部4に替えて、LAN15と接続するインターフェースを備えたコントローラ17が設けてあり、コントローラ17が備えた固有のIDによってLAN15上で認識されるように構成されている。
従って、送信装置3からLAN15を経由して再生装置1に送信された音データ2Aは、コントローラ17の制御によって増幅部5で増幅されてスピーカ部6からマスキング音として再生される。
【0032】
送信装置3は、LAN15と接続するインターフェースを制御部9に備えてあり、再生装置1と同様に、固有のIDによってLAN15上で認識されるように構成されている。
また、第1実施形態で説明した送信部8に替えて、制御部9のインターフェースが再生装置1へのデータ送信の機能を担う。
【0033】
本実施形態のマスキング設備M2によれば、工事エリアKでの改修工事の工種ごとに対応したマスキング音を、上下左右の各部屋Rに設置した再生装置1から再生することができるから、図6に示すように、各部屋Rでは良好なマスキング効果が得られ、騒音緩和を図った状態で改修工事を進めることができる。
また、再生装置1と送信装置3とは、それぞれの部屋RのコネクタにLANケーブルを接続するだけで送受信可能な状態に接続され、装置の設置撤去作業や移動作業を簡単且つ迅速に行うことができる。
また、送信装置3において、各再生装置1のIDを指定してそれぞれに送信する音データを個別に選択することができるようになる。その結果、工事エリアKに隣接する各部屋Rの環境差に応じて、最も効果的なマスキング音を個別に選択して送信することが可能となり、より効果的な工事騒音マスキングを実施できるようになる。
更には、LAN15に接続した他のコンピュータを使用した組織的なデータ管理やサウンドコントロールも可能となる。
【0034】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0035】
〈1〉 対象建築物Bは、先の実施形態で説明した病棟に限るものではなく、集合住宅や事務所や学校等、複数の部屋を備えた建築物Bに当該工事騒音マスキング技術を採用することができる。
また、工事エリアKは、先の実施形態で説明したように、複数の部屋Rの内の1つが工事エリアKとなることに限るものではなく、例えば、部屋Rに近接する個所に新たな部屋等を増築するような場合には、その増築部分が工事エリアKに相当する。
即ち、本発明の工事騒音マスキング技術は、改修工事のみならず、増築工事にも適用させることができる。
【0036】
〈2〉 マスキング設備Mは、先の実施形態で説明した無線放送形式(第1実施形態)のものや、LAN形式(第2実施形態)のものに限るものではなく、例えば、図5に示すように、対象建築物に館内放送用に組み込まれた放送設備を使用するものであってもよい。
この場合、アッテネータ1cを備えた再生装置1を各部屋Rに設けておくと共に、各再生装置1にマスキング音を送信可能な送信装置3を設けておく。送信装置3から各再生装置1に送信する音データ2Aは、アッテネータ1cの操作によって、各部屋Rで任意の音量で聴くことができる。また、アッテネータ1cとして非常放送対応の3線タイプのものを使用するのが好ましく、この場合は、例えば、アッテネータ1cを0に切り替えてマスキング音を流さない設定で使用している部屋であっても、非常放送時には、その非常放送を聴くことができる。
以上のマスキング設備を使用した工事騒音マスキング方法は、建築工事の実施に伴って、工事エリアKに隣接する部屋の再生装置1のみがマスキング音を再生するようにアッテネータ1cを切替操作し、送信装置3から再生装置1にマスキング音を送信することで実施することができる。
【0037】
〈3〉 送信装置3は、先の各実施形態で説明した構成のみに限定されるものではなく、例えば、工事エリアKでの工事予定を入力可能な機能を備えた記録部7と、記録部7に記録されている工事予定に合わせて信号データ2を送信制御する機能を備えた制御部9とを設けるものであってもよい。
この実施形態における工事予定とは、例えば、工事の開始予定時刻や、工種等、工程表に記載される内容の一つ又は複数の項目を例に挙げることができる。
前記制御部9では、工事予定の開始予定時刻をもとにして、その時刻になると信号データ2を再生装置1に自動送信することができる。この場合、送信装置3の操作に気を取られずに、工事に専念することができ、作業効率の向上を図ることができる。
また、工種によって異なる建築工事騒音が発せられる場合に、それら各建築工事騒音の種類に対応して、複数種の信号データ2を送信装置3に用意しておき、制御部9は、記録部7の工事予定に記された工種をもとにして建築工事騒音の種類を特定し、対応する信号データ2を選択して送信制御するように構成してあってもよい。この場合、工種によって異なる建築工事騒音が発せられても、常に、もっともマスキング効果の高いマスキング音を選択して部屋Rに流すことができる。
【0038】
〈4〉 信号データ2は、マスキング音そのものの音データ2Aであるものに限らず、例えば、再生装置1にマスキング音の音データ2Aが用意されているような場合には、再生装置1に対して該当する音データ2Aを再生させるための指令信号データが信号データ2となる。これらを含めて信号データ2という。
【0039】
〈5〉 送信装置1は、先の実施形態で説明したように、工事エリアKに設置されることに限るものではなく、例えば、再生装置3を設置してある部屋Rに設置してあったり、又は、各部屋Rとは別の個所(例えば、管理事務所や工事事務所)に設置してあってもよい。
【0040】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0041】
1 再生装置
1c アッテネータ
2 信号データ
3 送信装置
7 記録部
9 制御部
B 病棟(対象建築物の一例)
K 工事エリア
R 部屋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築工事騒音を発生する工事エリアと、その工事エリアに近接する複数の部屋とを備えた対象建築物において、前記建築工事騒音をマスキングするためのマスキング音を前記部屋で再生して、前記部屋において在室者が感じる建築工事騒音を緩和する工事騒音マスキング設備であって、
前記複数の部屋にそれぞれ設置撤去が可能で且つ前記マスキング音の再生が可能な複数の再生装置と、
前記部屋の建築工事騒音に対応する前記マスキング音が再生されるように信号データを前記再生装置に送信する送信装置とを設けてある工事騒音マスキング設備。
【請求項2】
前記送信装置は、前記工事エリアに設置撤去することが可能に構成してあり、
無線放送によって、音データからなる前記信号データを前記再生装置に送信するように構成してある請求項1に記載の工事騒音マスキング設備。
【請求項3】
前記送信装置は、前記信号データを、有線又は無線LANによって前記再生装置に送信するように構成してある請求項1に記載の工事騒音マスキング設備。
【請求項4】
前記送信装置は、前記工事エリアでの工事予定を入力可能な記録部と、前記記録部に記録されている前記工事予定に合わせて前記信号データを送信制御する制御部とを備えている請求項1〜3の何れか一項に記載の工事騒音マスキング設備。
【請求項5】
前記信号データは、対象となる建築工事騒音の種類に対応して複数種備えてあり、
前記制御部は、前記工事予定に記された工種をもとにして建築工事騒音の種類を特定し、対応する信号データを選択して送信制御するように構成してある請求項4に記載の工事騒音マスキング設備。
【請求項6】
建築工事騒音を発生する工事エリアと、その工事エリアに近接する複数の部屋とを備えた対象建築物において、前記建築工事騒音をマスキングするためのマスキング音を前記部屋で再生して、前記部屋において在室者が感じる建築工事騒音を緩和する工事騒音マスキング方法であって、
アッテネータを備えた再生装置を各部屋に設けておくと共に、前記各再生装置に前記マスキング音を送信可能な送信装置を設けておき、
建築工事の実施に伴って、前記工事エリアに隣接する部屋の前記再生装置のみが前記マスキング音を再生するように前記アッテネータを切替操作し、前記送信装置から前記再生装置に前記マスキング音を送信する工事騒音マスキング方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−247698(P2012−247698A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120741(P2011−120741)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】