説明

工作機械の工具

【課題】簡単な構造により吸引力を向上でき、切屑を確実に回収することができる工作機械の工具を提供する。
【解決手段】工具ボディ8に、各切れ刃9の近傍に開口し、軸部8aの軸線Pに向かって延びる第1の吸引孔8dと、該各第1の吸引孔8dを合流させるとともに主軸7の軸線方向に延び、前記主軸7の切屑排出孔7aに連通する第2の吸引孔8eとを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の工具に関し、特に、切削加工時に発生する切屑の回収効率を向上する吸引構造の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の工作機械の工具では、ワーク加工中に発生する切屑の飛散を防止するために切屑吸引装置を付加する場合がある。この種の切屑吸引装置として、従来例えば、特許文献1には、工具本体の先端に複数の切れ刃を同一円周上に位置するように配設し、工具本体の中央部に切屑を吸引するための切屑吸引孔を形成し、該吸引孔に吸引機構を接続したものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−166320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来の工作機械の工具では、切屑吸引孔を工具本体部の中央部に形成しているため、前記各切れ刃から前記切屑吸引孔まで切屑が通過する通路の実質的な通路面積が大きくなり、その分吸引空気流の流速が低くなり、その結果吸引力が弱くなって十分に切屑を回収できないという問題がある。なお、前記大きな通路面積に応じて吸引空気量を増大させることにより流速を確保しようとした場合、この大きな吸引空気量に応じて切屑吸引孔の直径を大きくすることが必要となる。しかし、工具本体部に形成可能な吸引孔の径には制約があるため、必要な吸引孔の径を確保するのは困難である。
【0005】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、簡単な構造により吸引力を向上でき、切屑を確実に回収することができる工作機械の工具を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、工作機械の主軸に工具ホルダを介して着脱可能に装着される軸部及び複数の切れ刃が設けられた保持部を有し、切屑吸引装置による切屑吸引時に切屑の吸引路となる吸引孔が設けられた工具ボディを備えた工作機械の工具であって、前記吸引孔は、前記各切れ刃の近傍に開口し、前記軸部の軸線に向かって延びる第1の吸引孔と、該各第1の吸引孔を合流させるとともに前記主軸の軸線方向に延び、前記主軸の切屑排出孔に連通する第2の吸引孔とを含むことを特徴としている。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の工作機械の工具において、前記工具ボディの保持部には、前記切れ刃の切削方向前側に位置するように形成された凹部と、該凹部を覆うカバーとが設けられ、該カバーと前記切れ刃とで前記凹部から前記第1の吸引孔に連通する切屑導入口が形成されていることを特徴としている。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1に記載の工作機械の工具において、前記各第1の吸引孔の合計通路面積は、前記第2の吸引孔の通路面積以下に設定されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、工具ボディに、各切れ刃の近傍に開口する第1の吸引孔を切れ刃毎に形成したので、該第1の吸引孔の径を必要な流速が得られる大きさに容易に設定することができ、その結果、吸引流速を向上でき、切屑を確実に吸引することができる。
【0010】
請求項2の発明によれば、前記保持部に、前記各切れ刃の切削方向前側に位置するように凹部を形成したので、前記保持部への切れ刃の着脱作業をこの凹部を利用して容易に行うことができる。
【0011】
そして前記各凹部を覆うようにカバーを設け、カバーと前記切れ刃とで前記凹部から前記第1の吸引孔に連通する切屑導入口を形成したので、該切屑導入口から第1の吸引孔に至る吸引流速を確保でき、凹部を設けて切れ刃の着脱作業を容易化しながら、吸引流速が低下するのを回避できる。
【0012】
請求項3の発明によれば、前記各第1の吸引孔の合計通路面積を、前記第2の吸引孔の通路面積以下に設定したので、前記第1の吸引孔、ひいては前記切れ刃の近傍において必要な流速を確保しつつ、第2の吸引孔における流速が必要以上に高くなって流路抵抗が過大になるのを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1に係る工具が装着された工作機械の全体斜視図である。
【図2】前記工具の断面正面図(図3のII-II線断面図)である。
【図3】前記工具のカバーが装着された状態の底面図である。
【図4】前記工具の前記カバーが取り外された状態の底面図である。
【図5】前記工具のワーク加工状態を示す断面正面図(図3のV-V線断面図)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1ないし図5は、本発明の実施例1による工作機械の工具を説明するための図である。
【0016】
図において、1は工作機械を示している。該工作機械1は、ベッド2と、該ベッド2の奥部分に立設されたコラム3と、該コラム3の前面に上下方向(Z軸方向)に移動自在に支持された主軸頭4と、前記ベッド2の手前部分に前後方向(Y軸方向)に移動自在に支持されたサドル5と、該サドル5上に左右方向(X軸方向)に移動自在に支持されたテーブル6とを備えている。
【0017】
前記主軸頭4内には、主軸7が回転自在に支持されており、該主軸7の下端部には工具ホルダ14を介して工具10が着脱可能に装着されている。
【0018】
前記工作機械1は、さらに、前記主軸7に装着された工具10と次工程用工具とを自動的に交換する自動工具交換装置11を備えている。この自動工具交換装置11は、前記コラム3の側壁に配置された工具マガジン12と、該工具マガジン12と前記主軸7との間に配置された工具交換アーム13とを有する。
【0019】
そして本実施例の工作機械1は、前記主軸7に装着された工具10によりワークWを加工する際に発生する切屑を吸引する切屑吸引装置15を備えている。
【0020】
前記切屑吸引装置15は、吸引力発生源を内蔵する切屑回収箱15bと前記工具10とを、該工具10,前記工具ホルダ14及び主軸7に形成された吸引路16及び吸引パイプ15aにより接続した概略構造を有する。
【0021】
前記主軸7は、軸芯部に、前記吸引路16の一部を構成する切屑排出孔7aが貫通形成された筒状体からなり、前記主軸頭4に内蔵された駆動モータ(不図示)により回転駆動される。
【0022】
前記工具ホルダ14は、軸芯部に、前記工具10が装着される支持穴14b及び前記吸引路16の一部を構成する切屑排出孔14aが貫通形成され、前記主軸7の下端部に着脱可能に装着されている。
【0023】
前記工具10は、軸部8a及び保持部8bを有する工具ボディ8と、前記保持部8bに装着された複数の切れ刃9とを備え、前記軸部8aが前記工具ホルダ14に着脱可能に装着されている。
【0024】
そして前記工具ボディ8には、前記吸引路16の一部を構成する第1の吸引孔8d及び第2の吸引孔8eが形成されている。前記第1の吸引孔8dは、前記各切れ刃9の近傍に開口し、前記軸部8aの軸線Pに向かって延びている。また前記第2の吸引孔8eは、前記各第1の吸引孔8dを合流させるとともに前記主軸7の軸線P方向に延び、前記工具ホルダ14の切屑排出孔14aを介して前記主軸7の切屑排出孔7aに連通している。
【0025】
ここで前記第1の吸引孔8dの孔径は、該第1の吸引孔8dの合計通路面積が、前記第2の吸引孔8eの通路面積以下になるように設定するのが望ましい。本実施例では、第1の吸引孔8dの合計通路面積と第2の吸引孔の通路面積は略等しく設定されている。
【0026】
前記工具ボディ8の保持部8bには、凹部8fが、前記各切れ刃9毎に、かつ該切れ刃9の切削方向R前側に位置し、下方に開口するようにするように形成されている。前記第1の吸引孔8dは前記凹部8fの底面に開口している。また、前記切れ刃9は、ベースプレート9cに固定されており、該ベースプレート9cは前記凹部8fの縁部にボルト9bで着脱可能に固定されている。
【0027】
そして前記凹部8fの下端開口にはカバー17がボルト17aで着脱可能に装着されている。このカバー17の縁部17bと前記切れ刃9との間には隙間が設けられており、該隙間は前記凹部8fから前記第1の吸引孔8dに連通する切屑導入口8gとなっている。
【0028】
ワークWの切削加工においては、前記工具10は前記主軸7によりR方向に回転駆動され、前記切れ刃9の刃先9aによって前記ワークWの表面が切削され、切屑Aが発生する。このとき、前記切屑吸引装置15の吸引力発生源により、前記切れ刃9の周辺の空気が、前記切屑導入口8gから凹部8fに吸引され、前記吸引路16を構成する第1の吸引孔8d,第2の吸引孔8e及び切屑排出孔14a,7aを通り、さらに吸引パイプ15aを介して切屑回収箱15bに吸引される。このようにして発生した空気流Uによって、前記切屑Aは、前記切屑導入口8gから凹部8f内に吸引され、ここから前記吸引路16及び吸引パイプ15aを通って前記切屑回収箱15bに回収される。
【0029】
本実施例1によれば、工具ボディ8に、各切れ刃9毎に、かつ該切れ刃9の近傍に開口する第1の吸引孔8dを形成し、該各第1の吸引孔8dを1つの第2の吸引孔8eに合流させたので、前記各第1の吸引孔8dにおける吸引空気流の流速を向上でき、切削加工中に発生する切屑Aを確実に吸引することができる。
【0030】
また、前記各第1の吸引孔8dの合計通路面積を、前記第2の吸引孔8eの通路面積以下に、具体的には略同等に設定したので、前記第1の吸引孔8d、ひいては切れ刃9の近傍において必要な流速を確保しつつ、第2の吸引孔8eにおける流速が必要以上に高くなって流路抵抗が過大になるのを回避できる。
【0031】
また、前記工具ボディ8の保持部8bに、前記各切れ刃9の切削方向R前側に位置するように凹部8fを形成したので、保持部8bへの切れ刃9の着脱作業をこの凹部8fを利用して容易に行うことができる。
【0032】
さらにまた、前記各凹部8fを覆うようにカバー17を設け、該カバー17と前記切れ刃9とで、前記凹部8fから前記第1の吸引孔8dに連通する切屑導入口8gを形成したので、凹部8fを設けて切れ刃9の着脱作業を容易化しながら、切れ刃9近傍部分における吸引流速が低下するのを回避できる。
【0033】
なお、前記実施例では、凹部8fが第1の吸引孔8dから別個に独立した形状をなしている場合を説明したが、本発明の凹部は、第1の吸引孔の一部が兼用されていても良い。
【0034】
また、前記実施例では、切れ刃が4枚の場合を説明したが、本発明は、切れ刃を2枚以上備えていれば、何れの場合にも適用でき、第1の吸引孔を切れ刃の枚数と同じ数だけ備えることとなる。
【0035】
また、前記実施例では、縦向きに配設された工具の場合を説明したが、本発明は、横向きに配設された工具にも勿論適用できる。
【符号の説明】
【0036】
1 工作機械
7 主軸
7a 主軸の切屑排出孔
8 工具ボディ
8a 軸部
8b 保持部
8d 1の吸引孔
8e 第2の吸引孔
8f 凹部
8g 切屑導入口
9 切れ刃
10 工具
14 工具ホルダ
15 切屑吸引装置
16 吸引路
17 カバー
A 切屑
P 軸部の軸線
R 切削方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の主軸に工具ホルダを介して着脱可能に装着される軸部及び複数の切れ刃が設けられた保持部を有し、切屑吸引装置による切屑吸引時に切屑の吸引路となる吸引孔が設けられた工具ボディを備えた工作機械の工具であって、
前記吸引孔は、前記各切れ刃の近傍に開口し、前記軸部の軸線に向かって延びる第1の吸引孔と、該各第1の吸引孔を合流させるとともに前記主軸の軸線方向に延び、前記主軸の切屑排出孔に連通する第2の吸引孔とを含む
ことを特徴とする工作機械の工具。
【請求項2】
請求項1に記載の工作機械の工具において、
前記工具ボディの保持部には、前記切れ刃の切削方向前側に位置するように形成された凹部と、該凹部を覆うカバーとが設けられ、該カバーと前記切れ刃とで前記凹部から前記第1の吸引孔に連通する切屑導入口が形成されている
ことを特徴とする工作機械の工具。
【請求項3】
請求項1に記載の工作機械の工具において、
前記各第1の吸引孔の合計通路面積は、前記第2の吸引孔の通路面積以下に設定されている
ことを特徴とする工作機械の工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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