説明

工作機械及び工具ホルダ

【課題】回転可能な主軸に工具ホルダを介して装着される旋削工具の回転及び移動を、簡素な構成により確実に防止することができ、高い加工精度での旋削加工が可能となる工作機械、及び工具ホルダを提供する。
【解決手段】主軸ヘッド2に支持され中心軸周りに回転する主軸20の端部に、工具ホルダ30を介して回転加工用及び旋削加工用の工具3を装着できるようにした工作機械1において、工具3を保持する工具ホルダ30の外周に、半円周よりも小さい角度範囲内で径方向外側に張り出す回り止めフランジ31を設け、この回り止めフランジ31に工具ホルダ30と同軸をなす周上で並ぶ2つの係合穴を形成し、これらの係合穴の夫々を、主軸ヘッド2の下面に突設した係合突起23に係合して、工具ホルダ30の回転及びラジアル方向の移動を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具ホルダに保持した工具を回転する主軸に選択的に着脱し、夫々の工具による加工を実行する工作機械、及びこの工作機械に使用する工具ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
マシニングセンタは、主軸に装着される工具を自動交換しながら、夫々の工具による多種類の加工を実行する工作機械である。主軸は、上昇、下降可能な主軸ヘッドに支持してあり、主軸モータの駆動により中心軸周りに回転する。マシニングセンタによる加工は、主として、穴あけ加工、ねじ立て加工、フライス加工等の回転工具による加工である。これらの加工に使用する回転工具(ドリル、タップ、エンドミル等)は、主軸ヘッドから突出する主軸の下端部に工具ホルダを介して装着され、該主軸と共に上昇、下降しながら回転することで被加工物を加工する。
【0003】
一部のマシニングセンタは、旋削工具を交換用の工具として備えている。旋削工具は、回転する被加工物に先端を押し付けることにより、該被加工物の表面を旋削加工する工具である。このような旋削工具は、回転工具と同様、工具ホルダを介して主軸に装着して使用され、この際には、主軸モータをロックして主軸の回転による旋削工具の回転を拘束している。
【0004】
しかしながら、加工中の旋削工具には、被加工物への押し付けに伴って種々の方向の力が作用しており、主軸モータのロックだけでは十分な回り止め効果が得られないという問題がある。この問題に対応するため、この種の工作機械において、旋削工具を回り止めするための種々の構成が提案されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0005】
特許文献1に記載の工作機械においては、旋削工具を保持する工具ホルダに円板状のフランジを周設し、該フランジの外周の径方向に相対向する2箇所にキー溝を設ける一方、主軸を支持する主軸ヘッドにキーを突設し、旋削工具を主軸に装着したとき、前記キー溝が夫々のキーに係合して、工具ホルダの回転を拘束することで、旋削工具の回り止めを実現している。
【0006】
特許文献2に記載の工作機械においては、旋削工具を保持する工具ホルダにピンを突設する一方、主軸ヘッドに、前記ピンと係合可能な位置決めブロックを設けてある。位置決めブロックは、油圧シリンダにより進出し、主軸に装着した工具ホルダのピンに係合することで旋削工具を回り止めしている。
【0007】
特許文献3に記載の工作機械においては、主軸ヘッドの内部で、多数の噛合歯を形成したカップリングを、主軸の外周及び主軸ヘッドの内周に夫々取付け、両カップリングの噛合歯に噛合可能な結合カップリングを、両カップリングの対向位置に、油圧又は空圧による進出動作可能に設けてある。結合カップリングは、旋削工具の装着時に進出し、主軸及び主軸ヘッドのカップリングに噛合することで主軸の回転を拘束し、旋削工具の回り止めを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−329493号公報
【特許文献2】実開平5−70842号公報
【特許文献3】特開平11−10485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のような従来の工作機械において、特許文献3に記載の工作機械は、主軸ヘッドの内部に、高精度の噛合歯を有するカップリング及び結合カップリングと、結合カップリングを油圧又は空圧で動作させるためのシリンダとを組み込んだ複雑な構成を有しており、製品コストの増大を招来するという問題がある。
【0010】
特許文献1、2に記載の工作機械においては、主軸ヘッドの外部で回り止めを実現しており、簡素な構成にて回り止め効果が得られるが、特許文献2においては、ピン及び係合ブロックが、工具ホルダの周方向の1箇所で係合しているだけであり、十分な回り止め効果が得られない上、加工中に旋削工具にラジアル方向に加わる力に対する剛性を強化し、ラジアル力による旋削工具の移動を防止することが難しく、旋削工具による安定した加工を実現することは難しい。
【0011】
特許文献1に記載の工作機械においては、キー及びキー溝の係合が工具ホルダの周方向の2箇所で生じており、十分な回り止め効果が得られるが、キー溝を備えるフランジが工具ホルダの全周に張り出しており、工具交換時に工具ホルダを把持するグリップに干渉する虞れがある。
【0012】
また工具ホルダに保持された旋削工具は、キーとキー溝との間の係合隙間の範囲内での微小な回動が生じ、該旋削工具による加工の精度が低下する虞れがある。特許文献1においては、旋削工具の装着時に主軸モータを一方向に回転駆動し、キーとキー溝とを押し付け状態に保つようにしているが、加工中に旋削工具に加わる回転力の方向は不可避に変動するため、微小な回動を抑えることは難しい。
【0013】
またキー及びキー溝は、径方向に相対向する2箇所で係合しており、キー溝の深さ方向の力に対する拘束機能を有しない。従って、加工中の旋削工具は、種々の方向に加わるラジアル力によりキー溝の深さ方向に移動し、前述した微小な回動との相乗作用により、加工精度が低下するという問題がある。
【0014】
本発明の目的は、回転可能な主軸に工具ホルダを介して装着される旋削工具の回転及び移動を、簡素な構成により確実に防止することができ、高い加工精度での旋削加工が可能となる工作機械、及び工具ホルダを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る工作機械は、主軸ヘッドに支持され中心軸周りに回転する主軸の端部に、回転工具と旋削工具とを各別の工具ホルダを介して選択的に着脱し、前記主軸に装着された回転工具又は旋削工具により被加工物を加工する工作機械において、前記旋削工具を保持する工具ホルダの外周に、半円周よりも小さい角度範囲内で径方向外側に張り出すように設けてある回り止めフランジと、該回り止めフランジの前記工具ホルダと同軸をなす周上に形成してある2つの係合穴と、該2つの係合穴の夫々への係合を可能として前記主軸ヘッドに突設された係合突起とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明においては、工具ホルダの外周に、半円周よりも小さい角度範囲内で径方向外側に張り出す回り止めフランジを設け、該回り止めフランジに形成した2つの係合穴の夫々に主軸ヘッドに突設された係合突起を係合させて工具ホルダが保持する旋削工具の回転及び移動を防止する。係合穴及び係合突起の係合部は、回り止めフランジの角度範囲内、即ち、径方向い相対向しない位置にあり、加工中に種々の方向に作用するラジアル力による移動を確実に防止できる。回り止めフランジは、工具ホルダの把持手段と干渉しないように配置することができ、工具交換を阻害しない。
【0017】
また本発明に係る工作機械は、前記係合穴が、前記工具ホルダの中心を通る夫々の中心線が、略90°の開き角度を有する位置に設けてあることを特徴とする。
【0018】
この発明においては、回り止めフランジの係合穴を、工具ホルダの中心を通る夫々の中心線が、略90°の開き角度を有する位置に設け、種々の方向に作用するラジアル力による移動を、少なくとも一方の係合穴と係合突起の係合により確実に防止する。
【0019】
また本発明に係る工作機械は、前記係合突起が、突出端に向けて縮径された縮径部を有し、前記主軸ヘッドに突出方向への摺動を可能として支持されており、該係合突起を突出側に向けて付勢する付勢手段を備えることを特徴とする。
【0020】
この発明においては、回り止めフランジの係合穴が係合突起の突出端に設けた縮径部の適宜位置に当接し、付勢手段の付勢に抗して係合突起を押し上げることで、該係合突起と隙間なく密に係合して、旋削工具の回転及び移動を確実に防止する。
【0021】
また本発明に係る工作機械は、前記係合突起が、前記回転工具及び旋削工具の着脱時に、夫々の工具ホルダを把持する把持手段の進入側と逆側に設けてあることを特徴とする。
【0022】
この発明においては、主軸ヘッドに突設された係合突起を工具ホルダの把持手段の進入側と逆側に設ける。係合穴を備える回り止めフランジは、把持手段と干渉しないように配置することができ、工具交換を阻害しない。
【0023】
本発明に係る工具ホルダは、旋削工具を保持し、該旋削工具を前述した工作機械の主軸に装着すべく用いられる工具ホルダにおいて、外周の一部に径方向外側に張り出すように設けてある回り止めフランジと、該回り止めフランジに周方向の異なる位置に形成された2つの係合穴とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る工作機械においては、2つの係合穴を備える回り止めフランジを、半円周よりも小さい角度範囲内で外側に張り出すように工具ホルダに設け、夫々の係合穴に係合可能な係合突起を主軸ヘッドに突設する簡素な構成により、工具ホルダの回転及びラジアアル方向の移動を確実に防止し、高い加工精度での旋削加工を可能となる。また回り止めフランジは、工具ホルダを把持する把持手段との干渉を排除して配置することができ、工具交換を阻害しない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】工作機械の要部の構成を略示する側面図である。
【図2】工具の取付け側から見た工具ホルダの斜視図である。
【図3】図2の逆側から見た工具ホルダの斜視図である。
【図4】回り止めフランジ及び係合突起の係合部分を後方から見た斜視図である。
【図5】回り止めフランジ及び係合突起の係合部分を下方から見た平面図である。
【図6】係合突起の支持構造の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。以下の説明で使用する方向(前、後及び上、下)は、図1中に矢符により示してある。
【0027】
図1は、工作機械(マシニングセンタ)の要部の構成を略示する側面図である。工作機械1は、基台10の上面に垂直に立設したコラム11を備えている。コラム11は、主軸ヘッド2を支持している。主軸ヘッド2は、コラム11の前面に設けたガイドに沿って上下方向に移動可能である。コラム11は、上下方向に延びる送りねじ軸12を備えている。送りねじ軸12は、コラム11の上部に固定したZ軸モータ13に連結してあり、該Z軸モータ13の駆動により中心軸周りに回転する。主軸ヘッド2の後部は、送りねじ軸12に螺合している。主軸ヘッド2は、Z軸モータ13の駆動による送りねじ軸12の回転に応じて上昇、下降する。
【0028】
主軸ヘッド2は、その内部に主軸20を支持している。主軸20は、主軸ヘッド2の上部に固定した主軸モータ21に連結してあり、該主軸モータ21の駆動により上下方向の中心軸周りに回転する。主軸20の下端部は、主軸ヘッド2の下方に突出しており、後述するように装着される工具3を保持する。工具3は、主軸ヘッド2と共に上昇、下降する。
【0029】
工具3は、工具マガジン5に複数収納されている。工具3は、ドリル、タップ、エンドミル等の回転工具だけでなく、旋削工具を含む。工具マガジン5は、コラム11の前方に延びるコラムカバー14の前部に支持し、主軸ヘッド2の前上部に配置してある。工具マガジン5は、円板状のマガジン本体50を備えている。マガジン本体50は、工具マガジン5の上部に設けたマガジンモータ4の駆動により、前部を下向きとして傾斜する軸を中心として回転する。
【0030】
マガジン本体50は、径方向外向きに放射状に延びる複数の工具グリップ51,51…を備えている。各工具グリップ51は、マガジン本体50の外周に、周方向に延びる支軸52を中心として揺動可能に支持してある。
【0031】
工具3は、公知の工具ホルダ30に保持されている。工具グリップ51は、二股に分岐した先端把持部を工具ホルダ30外周の保持溝34(図3参照)に押し込むことで、工具ホルダ30を介して工具3を把持する。図1において上位置にある工具グリップ51は、工具3を把持している状態で示してある。
【0032】
図1において下位置にある工具グリップ51は、主軸ヘッド2に向けて延びている。工具グリップ51の先端部には、横軸周りに回転可能な転動ローラ53が設けてある。該転動ローラ53は、工具グリップ51が工具3を把持していない状態で、主軸ヘッド2の前面に設けたガイド板22に当接しており、該工具グリップ51は、ガイド板22との当接部の作用により、支軸52を中心として前方に揺動した姿勢となる。
【0033】
主軸ヘッド2は、加工時には、図1に示す原点位置から下降し、工具交換時には、図1に示す原点位置から上昇する。下位置にある工具グリップ51は、ガイド板22の面上での転動ローラ53の転動により、主軸ヘッド2の上昇、下降に追随して揺動する。主軸ヘッド2が上昇した場合、転動ローラ53は、ガイド板22の下端から外れる。工具グリップ51は、支軸52を中心として後方に揺動し、該工具グリップ51の先端把持部は、主軸20に装着された工具3を、工具ホルダ30を介して前方から把持する。
【0034】
主軸ヘッド2は、工具ホルダ30の把持完了後に更に上昇する。工具グリップ51が把持した工具ホルダ30は、相対的に下方に移動し、工具3と共に主軸20から外れる。マガジン本体50は、この状態で回転し、次に使用する工具3を保持した工具グリップ51が主軸20の下方に位置する。
【0035】
工具3は、主軸ヘッド2が下降し、主軸20の下端部に工具ホルダ30が嵌め込まれることで、該主軸20に装着される。主軸2に装着した工具3は、主軸ヘッド2が原点位置に下降することで、図1に示す状態となり、加工に備えて待機する。
【0036】
以上の動作により、主軸20と工具マガジン5との間で工具3を交換することができる。工作機械1は、コラム11の前方の基台10上に加工テーブル15を備えている。主軸20に装着した工具3は、主軸ヘッド2と共に原点位置から下降し、加工テーブル15上の被加工物を加工する。
【0037】
工具3が回転工具である場合、主軸20に装着した工具3は、主軸モータ21の駆動により主軸20と共に回転する。被加工物は、水平に保たれた加工テーブル15の上面に固定し、該加工テーブル15と共に左及び前後方向に移動する。主軸20と共に回転する工具3は、主軸ヘッド2と共に上昇、下降して加工テーブル15上の被加工物を加工する。
【0038】
工具3が旋削加工用の旋削工具である場合、主軸20は、非回転状態にロックする。被加工物は、加工テーブル15上に設けた回転台(図示を省略する)に取付け、該回転台の動作により回転する。工具3は、主軸ヘッド2と共に下降し、回転する被加工物に先端を押し付けることにより、該被加工物の表面を旋削加工する。
【0039】
図1には、主軸20に旋削加工用の工具3が装着された状態が示してある。該工具3の工具ホルダ30は、後方に向けて張り出す回り止めフランジ31を備えている。主軸20を支持する主軸ヘッド2の下面には、主軸20の突出部の後位置に下方に向けて突出する係合突起23が突設されている。回り止めフランジ31と係合突起23とは、主軸20に工具3が装着されることで図示の如く係合し、該工具3の中心軸周りの回転、及びラジアル力による工具の移動を防止して、高い加工精度での旋削加工を安定して実施できるように作用する。
【0040】
以下、回り止めフランジ31及び係合突起23の構成について説明する。図2は、工具3の取付け側から見た工具ホルダ30の斜視図、図3は、図2の逆側から見た工具ホルダ30の斜視図、図4は、回り止めフランジ31及び係合突起23の係合部分を後方から見た斜視図、図5は、回り止めフランジ31及び係合突起23の係合部分を下方から見た平面図である。
【0041】
図5に示すように回り止めフランジ31は、平面視で3角形状を有するフランジであり、1つの頂点の近傍を工具ホルダ30の下面に複数本の固定ボルト32,32…で固定してある。図2〜図5に示すように、回り止めフランジ31は、工具ホルダ30の外周の一部、具体的には、半円周よりも小さい角度範囲内で径方向外側に張り出すように設けてある。
【0042】
このような回り止めフランジ31には、2つの係合穴33,33が、工具ホルダ30と同軸をなす周上に並べて形成してある。これらの係合穴33,33は、回り止めフランジ31の残りの2頂点の近傍に形成された径方向に延びる長穴である。なお図示の係合穴33,33は、一側が回り止めフランジ31の外周に開口させてあるが、この開口は必須ではなく、回り止めフランジ31内で閉じた長穴であってもよい。
【0043】
前記係合穴33,33は、工具3及び工具ホルダ30の中心を通る夫々の中心線が、主軸20への装着時に後向きとなる側に略90°の開き角度を有する位置に設けてある。なお係合穴33,33の開き角度は、90°に限らず、回り止めフランジ31の形成範囲内で適宜に設定することができる。この開き角度は、0°よりも大きく、180°未満であればよいが、85°以上、100°未満とするのが望ましい。
【0044】
係合突起23,23は、図4に示すように、主軸ヘッド2の下端円筒部の外周に固定された夫々の支持ブロック24,24に下方に突出するように支持されている。係合突起23,23の突設位置は、回り止めフランジ31の係合穴33,33との係合を可能とするために、工具ホルダ30が装着される主軸20と同軸をなす円周上で、該主軸20の中心を通り、後側に略90°の開き角度を有して開く線上に夫々設定してある。
【0045】
図6は、係合突起23の支持構造の説明図である。係合突起23は、中空の丸棒であり、支持ブロック24に設けた上下方向の支持孔25内に支持され、軸長方向に摺動自在である。係合突起23の中空部内には、ストッパボルト26が上方から挿通されている。ストッパボルト26は、下端のねじ部により係合突起23の下部に結合され、ストッパボルト26の頭部は、支持孔25の中間部内周に設けた段部27の上面に当接している。段部27の下面は、係合突起23の上端部に対向しており、これらの間には、押しばね28が介装されている。
【0046】
以上の構成により係合突起23は、押しばね28による下方の付勢を、ストッパボルト26の頭部が段部27に当接する位置で止め、支持ブロック24の下方に適長突出した状態で支持される。支持部24の下方への係合突起23の突出部には、端部に向けてテーパ状に縮径する縮径部29が設けてある。このように支持された係合突起23は、図6中に白抜矢符により示す如く、突出部に加わる上向きの力に作用により、押しばね28の付勢に抗して上方に移動することができる。係合突起23は、図中に2点鎖線により示すように、下方から係合する回り止めフランジ31の係合穴33に縮径部29のいずれかの位置で当たり、上方に適長押し上げられた状態で密に係合する。
【0047】
図 2、図5に示すように、回り止めフランジ31の2つの係合穴33,33は、夫々の係合突起23,23に係合し、支持ブロック24が取付けられた主軸ヘッド2に対する回転を拘束される。従って、回り止めフランジ31を備える工具ホルダ30、及び該工具ホルダ30に保持された旋削加工用の工具3は、加工中に加わる周方向の作用力により回転しない。
【0048】
係合穴33,33は、前述したように、工具ホルダ30及び工具3の中心を通る夫々の中心線が、略90°の開き角度を有する位置に設けてある。従って、旋削加工中の工具3に種々の方向のラジアル力が加わったとしても、これらのラジアル力は、少なくとも一方の係合穴33と係合突起23との当接部により支えられ、該工具3の径方向の移動を確実に防止することができる。同様の移動防止効果は、回り止めフランジ31の形成範囲内で適宜に設けられた係合穴33,33によっても得られるが、実施の形態に示すように、90°の開き角度を有する位置に係合穴33,33を設けることで、良好な移動防止効果が得られる。
【0049】
このように、旋削加工用の工具3は、加工中に加わるいかなる力によっても移動することがなく、該工具3は、被加工物を、安定して高精度に加工することができる。
【0050】
回り止めフランジ31は、工具ホルダ30の外周に、半円周よりも小さい角度範囲内で径方向外側に張り出すように設けてあり、工具ホルダ30は、主軸ヘッド2に突設された係合突起23,23に係合穴33,33を係合させて、回り止めフランジ31が、後側に張り出すように主軸20に装着される。従って、図5中に白抜矢符により示す如く、前方から進入する工具グリップ51の先端把持部は、回り止めフランジ31に干渉することなく工具ホルダ30を確実に把持することができ、主軸20と工具マガジン5との間での工具3の交換を確実に行わせることができる。
【0051】
以上に説明した実施の形態を部分的に変更した変更形態について説明する。
1)工具マガジン5は、実施の形態に示す構成及び配置に限らず、公知の適宜の構成及び配置とすることができる。
2)回り止めフランジ31は、実施の形態に示す3角形状に限らず、工具ホルダ30の外周に、半円周よりも小さい角度範囲内で径方向外側に張り出すという条件を満たす適宜の形状とすることができる。
3)係合突起23を突出方向に付勢する付勢手段は、押しばね28に限らず、空圧シリンダ等の他の付勢手段であってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 工作機械
2 主軸ヘッド
3 工具
5 工具マガジン
20 主軸
23 係合突起
28 押しばね(付勢手段)
29 縮径部
30 工具ホルダ
31 回り止めフランジ
33 係合穴
51 工具グリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸ヘッドに支持され中心軸周りに回転する主軸の端部に、回転工具と旋削工具とを各別の工具ホルダを介して選択的に着脱し、前記主軸に装着された回転工具又は旋削工具により被加工物を加工する工作機械において、
前記旋削工具を保持する工具ホルダの外周に、半円周よりも小さい角度範囲内で径方向外側に張り出すように設けてある回り止めフランジと、
該回り止めフランジの前記工具ホルダと同軸をなす周上に形成してある2つの係合穴と、
該2つの係合穴の夫々への係合を可能として前記主軸ヘッドに突設された係合突起と
を備えることを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記係合穴は、前記工具ホルダの中心を通る夫々の中心線が、略90°の開き角度を有する位置に設けてあることを特徴とする請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記係合突起は、突出端に向けて縮径された縮径部を有し、前記主軸ヘッドに突出方向への摺動を可能として支持されており、該係合突起を突出側に向けて付勢する付勢手段を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記係合突起は、前記回転工具及び旋削工具の着脱時に、夫々の工具ホルダを把持する把持手段の進入側と逆側に設けてあることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の工作機械。
【請求項5】
旋削工具を保持し、該旋削工具を請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の工作機械の主軸に装着すべく用いられる工具ホルダにおいて、
外周の一部に径方向外側に張り出すように設けてある回り止めフランジと、
該回り止めフランジに周方向の異なる位置に形成された2つの係合穴と
を備えることを特徴とする工具ホルダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−213826(P2012−213826A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79757(P2011−79757)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】