説明

工具回転半径可変の工具ホルダおよび該工具を備えた工作機械ならびに前記工作機械を用いた加工方法

【課題】旋削加工に近い動きを行うことが可能な工具ホルダ、および、工具ホルダを備えた工作機械を提供する。
【解決手段】工具2が回転テーブル12に対してある程度の剛性のある第1の梁14を介して取り付けられ、第1の梁はその軸を回転中心軸4と重なるように回転テーブル12にその一端が固定、第1の梁の他端には工具が固定されており、第1の重り6が第1の梁の他端側の側部に固定されて、回転テーブルの静止状態において第1の重りが第1の梁に回転中心軸4と重ならない位置に固定されることで、回転テーブルを回転させると、第1の重りに作用する遠心力Fcによって、工具が固定された側の第1の梁の他端は、工具回転中心軸から外方向へずれる。これにより、工具は工具中心軸の周りに工具回転半径Rtで回転し、工具回転半径Rtは回転テーブルの回転速度に応じて変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具回転半径可変の工具ホルダおよび該工具を備えた工作機械ならびに前記工作機械を用いた加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学部品に使われるレンズを量産するために、高精度に加工された金型が使用される。一般的なレンズは回転対称な形状であるので、金型の製作には単結晶ダイヤモンド工具を用いた超精密旋削加工が適用される。通常の旋削加工では、主軸に取り付けたワークを高速回転させ、工具をワークに押し付けて任意の回転対称な形状を切削加工する。したがって、ワーク上の回転中心は1点のみである。
しかし、最近では、1個が直径数mmのレンズを数十〜数千個並べた形状を持つレンズアレイ型金型(図19,図20参照)の需要が増大している。レンズアレイの金型を旋削で加工するためには、旋盤の主軸に対して、一つ一つのレンズ形状ごとに回転中心を合わせて加工する必要がある。
手動でレンズの加工位置を精密に合わせるのは困難であるので、例えば、主軸上に回転に直交する向きの2軸直動テーブルを備え付け、そこにワークを取り付ければ、ワーク上の回転中心を任意に変えることができる。
【0003】
しかし、高速回転する主軸上に駆動用のケーブルは接続できない上に、主軸回転時の遠心力に耐える保持力をテーブルに持たせるには、技術的に困難である。また、別の方法として、一つ一つ別のレンズ金型を旋盤で製作し、それらを多数組み合わせることで、レンズアレイ金型とする方法も考えられる。しかし、レンズアレイの用途の多くでは、各レンズ間の距離が厳密に設計されており、数千個の金型を正確なレンズ間距離で組み立てるのは難しい。
そこで、旋盤以外のレンズアレイの高速・高精度な加工方法が切望されている。
レンズアレイ形状の加工方法として、ミリングで加工する方法が一般的に用いられている。小径の回転工具を主軸に取り付け、工作機械の直交3軸を同時に駆動して、渦巻きの軌跡を描かせ、レンズ形状を加工する。
【0004】
図25に示されるように、一般的なミリング加工で複雑な自由曲面を加工する場合、加工形状の中で1箇所でも半径Rの小さい凹形状があれば、それに合わせた小径のエンドミル工具を使用することになる。しかし、小径の工具2が一回転する間に切削できる量は少ないので、なだらかな面では加工能率が非常に悪くなる。特に、超精密加工では、工具交換により工具の位置が1μmずれることも許されない場合があり、仕上げ加工においては工具交換ができず、加工面全面を1本の工具で加工することも多い。
図26は、従来技術である一般的なミリング加工によるレンズアレイの加工を説明する図である。図26(a)は、主軸で切削工具を回転させながら、工作機械の直動軸で渦巻き状の軌跡を描いて加工する方法である。図26(b)は、工具を走査するように直動軸で動かしながら加工する方法である。どちらの方法も、高速で加工しようとすると、各軸の加減速が激しくなる加工方法であり、直動軸の加速性能で加工速度が決まる。また、工具が高速で回転しながら図26に示される軌跡を描くので、実際の工具の切削距離は、軌跡よりも遥かに長く、工具磨耗が激しいという欠点もある。
【0005】
上述したようにこの加工方法の欠点は、高速に加工しようとすると、わずか数mmのレンズ直径の中で高速な渦巻き運動を行うこととなり、直動軸の方向反転が激しくなることである。特に、レンズの中心付近の加工では、高速な加減速の切り替えが必要になり、直動軸の加速性能が加工速度に大きく関わってくる。また、ミリングという加工方法は、工具自身が高速回転している分、旋削よりも工具摩耗が激しく、工具交換無しで数千個のレンズ形状を加工するのは困難である。
工具摩耗を抑える加工方法として、回転テーブルで工具の角度を変えながら、直交3軸で渦巻き運動を行う方法が考案されている。図27は、他の従来技術として、工具2の角度を変えつつ、渦巻きの軌跡を描いて加工するレンズアレイの加工方法を説明する図である。この加工方法は、工具2から見ると旋削加工に近い動きになるので、工具磨耗を抑える点では有効な方法である。しかし、高速加工を行うためには、渦巻きの動きを行う直動軸の加減速が激しくなる欠点は図26の加工方法と同じである。
【0006】
工具摩耗を抑え、直動軸の高速駆動も抑えた加工方法として、特許文献1、特許文献2に開示される技術がある。
図28は、他の従来技術(特許文献1参照)として、工具をレンズの断面形状に合わせて成形した上でワークを加工する加工方法を説明する図である。この方法は、工具を圧電素子を用いて微小上下動しワークを加工する方法であり、凸形状には対応しない点と、凹形状であっても原理的に回転対称の形状を加工することはできないという欠点がある。
図29は、工具をレンズの断面形状に合わせて成形した上でワークを加工する従来技術(特許文献2参照)を説明する図である。この従来技術は、回転対称の形状や凸形状に対応できる。しかし、工具の輪郭精度をミクロンオーダー以下に成形するのは、非常に難しいので、高精度なレンズ形状の加工には向かない。
いずれの文献に開示される技術も、工具をレンズの断面形状に合わせて成形した特殊な工具が必要で、形状精度が工具精度に依存し、形状誤差を補正することも不可能で、高精度なレンズ金型の製造には適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4213897号公報
【特許文献2】特開2000−52217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
加工速度、加工精度の観点から見ると、レンズ形状の加工は旋削加工が理想的な加工方法である。したがって、レンズアレイ形状の加工の場合も、工具から見ても、工作機械の各軸から見ても、旋削加工に近い動きとなることが望ましい。
そこで本発明の目的は、工具から見ても、工作機械の各軸から見ても、旋削加工に近い動きを行うことが可能な工具の回転半径可変の工具ホルダ、および、工具ホルダを備えた工作機械、ならびに、前記工作機械を用いた加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の請求項1に係る発明は、工具を固定する工具ホルダにおいて、前記工具ホルダを回転したときに生じる遠心力により、該工具ホルダの構造体が弾性変形し、前記工具の刃先を回転軸方向に向けた前記工具の回転半径をゼロから任意の径まで変化する構造を特徴とする工具ホルダである。
請求項1に係る発明の工具ホルダとすることで、工具回転半径を主軸の回転速度で変化させることができる。
請求項2に係る発明は、前記工具ホルダの構造体は、前記遠心力によりそれぞれ反対方向に同じ大きさだけ弾性変形する2つの梁を備え、該2つの梁に加わる遠心力を相殺し、前記工具ホルダの回転速度が変化しても回転のバランスを保つことを特徴とする請求項1に記載の工具ホルダである。
請求項2に係る発明の工具ホルダとすることで、工具の回転半径が変わっても常に回転のバランスを保つことで、アンバランスによる回転に同期した振動を防止できる。
請求項3に係る発明は、前記工具ホルダの2つの梁は、工具ホルダより回転半径の大きい位置にある2つの重りにそれぞれ連結され、回転時に重りに加わる遠心力により、前記工具ホルダの弾性変形を増大させることを特徴とする請求項2に記載の工具ホルダである。
請求項3に係る発明の工具ホルダとすることで、回転半径のより大きい位置にある重りを梁に連結する構造は、大きな遠心力を梁に加え、工具回転半径を大きくすることができる。
【0010】
請求項4に係る発明は、前記工具ホルダの2つの梁は、一方の梁に工具を取り付けることができ、取り付けた工具の重量による変化分を含めて、工具ホルダ全体の回転バランスを調整するバランス重りを前記工具ホルダの構造体に付加できる構造であることを特徴とする請求項2または3のいずれか1つに記載の工具ホルダである。
工具ホルダに工具を取り付けたことによる重量の変化に対して、バランス重りで調整することで、回転時のアンバランスを防ぐことができる。
請求項5に係る発明は、前記工具ホルダの構造体は、前記遠心力によりそれぞれ反対方向に弾性変形する2つの梁を備え、それぞれの梁は平行バネの形状をし、梁が前記遠心力により弾性変形したときに、梁の端面の角度が回転の軸に対して一定に保たれることを特徴とする請求項2〜4に記載の工具ホルダである。
平行バネにより、工具の回転半径が変化しても、工具の角度(姿勢)が変化するのを防ぐことができる。
請求項6に係る発明は、回転の軸方向に工具ホルダをみた座標系において、前記工具の刃先の位置は、静止時には回転中心軸から初期オフセットの分だけずれた第1の位置にあり、前記回転速度を最大にしたときに工具刃先は第2の位置にあり、前記第1の位置と第2の位置とを結んだ線分上に、回転の中心が位置する構造を特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の工具ホルダである。
オフセットを与えることにより、工具回転半径が小さいときにも、ある程度の加工速度を確保することができる。静止状態での工具刃先の位置が回転中心の場合、中心部の加工速度(工具に対するワークの相対速度)が極端に遅くなってしまい、実際には加工できない。そこで、所定の回転速度のときに工具刃先が回転中心に来るようにして、加工速度を確保できる。
【0011】
請求項7に係る発明は、請求項1〜6に記載のいずれか1つの工具ホルダを主軸に搭載し、主軸の軸方向は重力方向に一致し、直動軸として少なくとも主軸の軸方向に移動可能な軸を備え、前記主軸の回転速度と前記直動軸の位置を制御することにより、任意の回転対称な形状を切削加工することを特徴とする工作機械である。
主軸の回転方向に移動可能な直動軸で切り込み量を制御し、工具の回転半径を主軸の回転速度で制御することで、任意の径で切り込み量を変えられるようになる。主軸が重力方向であると、工具ホルダの梁の変位が回転の位相によって重力の影響を受けない。したがって、前記工作機械により、任意の回転対称形状を精密に切削加工することができる。
請求項8に係る発明は、請求項7に記載の工作機械において、前記主軸の回転速度に対する工具回転半径の関係と主軸の回転速度に対する工具の回転軸方向の変位を予め計測しておき、加工する回転対称の形状について半径と高さの点群データまたは形状式において、半径を主軸の回転速度に変換し、高さを前記軸方向の変位で補正した前記直動軸の変位量に変換した上で、加工プログラムを作成することを特徴とした加工方法である。
この加工方法は、主軸の回転速度に対する工具回転半径と工具刃先の変位量を事前に計測し、加工形状を加工プログラムに変換する過程において、この計測値を反映させることで、正確な加工ができる。
請求項9に係る発明は、請求項8の加工方法により、前記工作機械の直動軸または回転軸で前記工具ホルダの位置と姿勢を制御することで、被加工物の平面または曲面上の任意の位置に前記回転対称の形状を多数加工することを特徴とするレンズアレイ形状の加工方法である。
工作機械が直動3軸を搭載していれば、回転対称の形状を平面に多数配列した形状を加工できる。さらに、工作機械が回転軸2軸搭載していれば、5軸加工により任意の自由曲面に回転対称の形状を多数配列した形状を加工できる。したがって、一般的な工作機械において、任意のレンズアレイ形状を高速・高精度に加工できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、工具から見ても、工作機械の各軸から見ても、旋削加工に近い動きを行うことが可能な工具の回転半径可変の工具ホルダ、および、工具ホルダを備えた工作機械、ならびに、前記工作機械を用いた加工方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るバネを備えた工具ホルダの実施形態を説明する図である。
【図2】本発明に係る梁を備えた工具ホルダの実施形態を説明する図である。
【図3】本発明に係る2つの梁を回転中心軸に対して対称の構造を備えた工具ホルダの実施形態を説明する図である。
【図4】本発明に係る2つの梁と2つの腕を備えた工具ホルダの実施形態を説明する図である。
【図5】加工方向に特に剛性を持たせつつ、遠心力方向に変位させ易くする構成を説明する図である。
【図6】本発明に係る2つの梁を一体のU字構造とした工具ホルダの実施形態を説明する図である。
【図7】回転バランスを調整する構成を説明する図である。
【図8】平行な2つの板状の梁をそれぞれ連結して2組の板バネ構造とした工具ホルダの実施形態を説明する図である。
【図9】工具の角度(姿勢)が一定であれば、同心円状に溝を加工するような用途に対しても、一定断面形状の溝に容易に加工できることを説明する図である。
【図10】2つの梁と2つの腕を備えた工具ホルダの静止状態と回転状態を工具ホルダの上方から見た図である。
【図11】2つの梁と2つの腕を備えた工具ホルダの静止状態と回転状態を側面から見た図である。
【図12】回転速度を変えたときの工具の軌跡を説明する図である。
【図13】本発明に係る工作機械を説明する図である。
【図14】Z軸で切り込み方向の制御を行うことを説明する図である。
【図15】主軸回転速度と工具回転半径との関係をプロットしたグラフの例である。
【図16】主軸回転速度と工具の軸方向の変位の関係をプロットしたグラフの例である。
【図17】主軸の回転速度に対する工具回転半径の関係と主軸の回転速度に対する工具の回転軸方向の変位の計測方法を説明する図である。
【図18】溝の谷の位置と深さが、各回転速度での工具回転半径と工具の軸方向の変位に対応することを説明する図である。
【図19】本発明に係る加工方法により、平面ワーク上にレンズアレイ形状を加工した例を説明する図である。
【図20】本発明に係る加工方法により、曲面ワーク上にレンズアレイ形状を加工した例を説明する図である。
【図21】レンズ形状を加工する場合、回転速度を変えたときに工具刃先が必ず回転中心軸を通る軌跡を描くことが重要であることを説明する図である。
【図22】本発明に係る加工方法において、工具がどの位置(回転位相)にあっても、逃げ面がワークに当たらないことを説明する図である。
【図23】レンズ形状中央の削り残しを除去する方法を説明する図である。
【図24】工具回転半径を変えた自由曲面の加工を説明する図である。
【図25】一般的なエンドミルによる自由曲面の加工を説明する図である。
【図26】一般的なミリング加工によるレンズアレイの加工を説明する図である。
【図27】工具の角度を変えつつ、渦巻きの軌跡を描いて加工するレンズアレイの加工方法を説明する図である。
【図28】工具をレンズの断面形状に合わせて成形した上でワークを加工する加工方法を説明する図である。
【図29】工具をレンズの断面形状に合わせて成形した上でワークを加工する他の加工方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。なお、従来技術と同じ構成または類似の構成については同じ符号を用いて説明する。
【0015】
図1は、本発明に係るバネを備えた工具ホルダの実施形態を説明する図である。図1(a)は、回転テーブル12が静止状態または、低速回転中の状態を示し、図1(b)は回転テーブル12が高速回転中の状態を示している。
工具2には第1のバネ8の一端と第2のバネ10の一端が固定され、第1のバネ8の他端は回転テーブル12に固定され、第2のバネ10の他端は回転テーブル12に固定されている。そして、重り6が第1のバネ8に固定されている。
【0016】
図1(a)に示されるように、回転テーブル12が、静止状態において工具2が回転テーブル12に対して回転中心軸4と同軸上になるように、第1のバネ8および第2のバネ10を介して取り付けられている。第1のバネ8と第2のバネ10とは回転中心軸4に対して対称に配置されている。そして、重り6が第1のバネ8と工具2との間に固定されている。
回転テーブル12を回転中心軸4周りに回転させると、図1(b)に示されるように、重り6に対して回転テーブル12の回転速度に応じた遠心力Fcが作用する。重り6は遠心力Fcにより第1のバネ8を縮め第2のバネ10を伸ばすので、重り6は回転中心軸4に垂直な外方向へ変位する。重り6の外方向変位によって、工具2は回転中心軸4から変位し、工具回転半径Rtで回転中心軸4の周りに回転する。
【0017】
図2は、本発明に係る梁を備えた工具ホルダの実施形態を説明する図である。図2(a)は回転テーブル12が静止状態または、低速回転中の状態を示し、図2(b)は回転テーブル12が高速回転中の状態を示している。
この実施形態では、工具2が回転テーブル12に対してある程度の剛性のある第1の梁14を介して取り付けられる。第1の梁14は、その軸を回転中心軸4と重なるように回転テーブル12にその一端が固定されている。第1の梁14の一端の回転テーブル12への固定方法は、例えば、溶接、あるいは、ボルト、あるいは、ねじ込みなどの方法がある。
【0018】
第1の梁14の他端には工具2が固定されている。また、第1の重り6が第1の梁14の他端側の側部に固定されている。回転テーブル12の静止状態において、第1の重り6が第1の梁14に、回転中心軸4と重ならない位置(つまり、回転中心軸4とずれた位置)に固定されることで、図2(b)のように回転テーブル12を回転させると、第1の重り6に遠心力Fcが作用する。第1の重り6に作用する遠心力Fcによって、工具2が固定された側の第1の梁14の他端は、工具回転中心軸から外方向へずれる。これにより、工具2は回転中心軸4の周りに工具回転半径Rtで回転する。
【0019】
図3は、本発明に係る2つの梁を回転中心軸に対して対称の構造を備えた工具ホルダの実施形態を説明する図である。図3(a)は回転テーブル12が静止状態または、低速回転中の状態を示し、図3(b)は回転テーブル12が高速回転中の状態を示している。
図3に示される実施形態は、図2に示される重り付き梁を2つ用いる形態である。回転テーブル12を回転させたとき、回転バランスが崩れないようにするために、図3(a)に示されるように、回転テーブル12に、第1の重り6が固定された第1の梁14と第2の重り7が固定された第2の梁15とが回転中心軸4に対して対称な位置になるように取付ける。
【0020】
この実施形態では、回転テーブル12の回転時の遠心力Fcは2つの梁14,15にそれぞれ反対方向に働くので、遠心力Fcは相殺される。また、第1の梁14と第2の梁15はそれぞれの梁の剛性、第1の重り6および第2の重り7の重量を同じにしておけば、2つの梁14,15は遠心力Fcで同じだけ変形することになり、回転テーブル12の回転によって重心の位置が移動することはない。したがって、回転テーブル12の高速回転時にも回転バランスが崩れることはない。
また、この実施形態では回転テーブル12の回転中心軸4に2つの梁が設置されていないので、遠心力Fcで梁14,15が倒れる方向が決まっており、重り6,7は必ずしも必要としない。第1の重り6と第2の重り7に重量差や取り付け位置の差をつけ、第1の梁14に固定された工具2の重量を相殺するようにしてもよい。回転のアンバランスを完全になくすためには、回転中心軸に対して、2つの梁14,15の側で剛性、重量、および重心が厳密に等しくなるように調整する必要がある。
【0021】
図4は、本発明に係る2つの梁と2つの腕を備えた工具ホルダの実施形態を説明する図である。図4(a)は回転テーブル12が静止状態または、低速回転中の状態を示し、図4(b)は回転テーブル12が高速回転中の状態を示している。
【0022】
第1の梁14,第2の梁15の剛性が弱いほど、回転速度に対する工具回転半径の変化を容易に大きくできる。しかし、梁14,15の剛性が弱いほど容易に工具2が振れてしまい、精密な加工ができない。梁14,15の剛性と工具回転半径Rtの大きさを両立させるためには、梁14,15の剛性を高くした上で、梁14,15を弾性変形させる遠心力Fcを十分に大きくすればよい。遠心力Fcは、回転半径に比例する。したがって、重りの取り付け位置を回転中心軸4からできるだけ離れた位置にすることで、回転テーブル12の同じ回転速度、重りの重量が同じでも、より大きな遠心力Fcを得ることができる。
回転バランスを保つためには、2つの梁14,15と、それに連結された2つの重り6,7は、回転中心軸4に対して重心が対称であることが望ましい。また、重り6,7は、回転半径が大きい分、周速も大きくなるため、空気抵抗を受けやすい。そのため、重り6,7の形状は、空気抵抗を受けにくい形状が望ましい。
【0023】
図4(a)には、重り6,7を回転中心軸4からできるだけ離れた位置で回転させるために、第1の腕16と第2の腕17を備えた本発明の実施形態が示されている。第1の梁14と第2の梁15は、図3に示される実施形態と同様に、回転テーブル12に対して固定されている。
【0024】
本実施形態では、回転テーブル12に固定されない第1の梁14と第2の梁15の一端に、第1の腕16と第2の腕17の一端がそれぞれ取り付けられている。第1の腕16と第2の腕17のそれぞれの他端に、それぞれ第1の重り6,第2の重り7が取り付けられている。図4(a)では工具2が第1の梁14に取り付けられているが、第2の梁15に取り付けるようにしてもよい。
図4(b)では、回転テーブル12がある速度で高速回転している時の状態を示している。この実施形態では、腕16,17を用いることで、重り6,7を回転中心軸4からできるだけ離している。これによって、同じ回転速度、同じ重量の重りよりも、大きな遠心力Fcを得ることができる。
【0025】
図5は、加工方向に特に剛性を持たせつつ、遠心力方向に変位させ易くする構成を説明する図である。図5は、図4(a)のA−A断面図を示している。加工方向に特に特に剛性を持たせつつ、かつ、遠心力方向に変位し易くするために、第1の梁14および第2の梁15は、遠心力方向の厚みが少ない断面形状であることが望ましい。ただし、梁14,15の剛性が弱いほど容易に工具2が振れてしまい、精密な加工ができないことから、遠心力方向の剛性も上述したとおり重要である。なお、図5において、回転テーブル12の回転方向が図示される方向の場合、遠心力方向と加工方向は図示される方向である。回転テーブル12の回転方向が図示と逆の場合には、加工方向も図示と逆になる。
【0026】
図6は、本発明に係る2つの梁を一体のU字構造とした工具ホルダの実施形態を説明する図である。第1の梁14,第2の梁15は、大きな遠心力で繰り返し弾性変形し、その根元の固定部には特に大きな応力が加わる。第1の梁14,第2の梁15を図6に示されるように一体のU字構造とすることで、取り付け部に余計な応力が加わらないようにできる。図6に示される工具ホルダ20では、根元の固定部に、取り付けボルト孔18が設けられており、ボルト(図示せず)を取り付けボルト孔18に挿通し、工具ホルダ20を回転テーブル12に固定する。
【0027】
図7は、回転バランスを調整する構成を説明する図である。図7(a)は図4(a)のB矢視図であり、図7(b)は図4(a)のC矢視図である。工具ホルダ20の各部に設けたネジ穴に、ネジの材質または長さで重量を調整したイモネジをねじ込み、回転バランスを調整する。回転バランスの状態を測定するには、市販の動バランス計測装置を用いることができる。通常の回転バランス調整では、回転速度によって、バランスは大きく変わらないが、この工具ホルダの場合には、回転速度によって変形する部分があるので、その分を考慮して、使用する回転数全域でバランス状態を確認する必要がある。回転速度によってバランスが変化する場合には、遠心力で変位する部分に設けてあるネジ穴でバランス調整する。工具ホルダ20に関しては、一度、バランス調整すれば、工具ホルダ20を外さない限り同じバランスが再現する。工具2の形状や重量が大きく異なるものに交換する場合は、その都度、バランスの確認、調整を行う。
【0028】
図8は、平行な2つの板状の梁をそれぞれ連結して2組の板バネ構造とした工具ホルダの実施形態を説明する図である。工具ホルダ20の構造が単純な2つの梁の場合には、工具回転半径Rtが変わると、梁が角度変化した分、工具2も同じように角度変化する(図11参照)。加工によっては、このような工具の角度変化(姿勢変化)が許されない場合がある。これを解決するために、図8のように平行な2つの板状の梁をそれぞれ連結して2組の板バネ構造にする。このようにすると、平行バネの構造となるので、取り付けた工具は、遠心力によって梁が変形しても角度変化(姿勢変化)しない。平行バネの構造も刃先の変位という意味では、図15,図16のような動きとなるので、姿勢の変化のみが抑えられる。
【0029】
図9は、工具の角度(姿勢)が一定であれば、同心円状に溝を加工するような用途に対しても、一定断面形状の溝に容易に加工できることを説明する図である。工具の姿勢は、工作機械側の回転軸で修正することも可能であるが、同時制御が必要な軸数が増えるほど工具刃先の位置決め誤差は増加するので、図8のように工具姿勢を保つ構造の方が、精度の高い加工が可能となる。
【0030】
図10は、2つの梁と2つの腕を備えた工具ホルダの静止状態と回転状態を工具ホルダの上方から見た図である。回転テーブル12の回転が停止しているとき、図4(a)または図7(a)のB矢視図のように回転中心軸に工具2の刃先が一致していると、レンズ形状などの回転対称な形状の中心近傍の加工時に、回転速度が低く、加工速度も低くなるので、加工効率が悪い。
一般的な旋盤で、レンズ形状を加工する加工条件が理想であるとすると、旋盤の場合は中心付近を加工するときにも、一定の回転速度で加工する。この工具ホルダ20で、工具2側を回転させて加工する場合の加工条件を旋盤に近付けるためには、ある程度の回転速度を保って、工具回転半径Rtがゼロになる必要がる。
【0031】
図10は、工具2に初期オフセット量を与えたときの、静止状態から回転速度最大の状態までを、工具ホルダ20から見た座標系(図4のB矢視方向に見たもの)で示したものである。静止状態において、工具2の刃先は回転中心よりも初期オフセット量だけずれた位置T0にある。
回転テーブル12を回転させると、第1の重り6,第2の重り7などに遠心力が作用し、工具の刃先位置が変位する。最大回転速度の時の刃先位置をT1とする。このとき、回転速度が変化する間の工具刃先の軌跡はT0とT1を結ぶ直線となる。
【0032】
回転速度を変えたときに、工具回転半径Rtがゼロになる瞬間があるためには、T0とT1を結ぶ直線上に回転中心が位置している必要がある。また、そのためには、工具2側の梁と重りなどを含めた重心位置Gの位置関係も重要で、遠心力は回転中心からG点の方向に働く。実際に、刃先がどの方向に動くかは、図5のように梁がどの方向に変位し易い構造であるかにも依存するが、基本的には遠心力の方向に変位する。したがって、G点から回転中心に延ばした線の延長上にT0が位置するように工具2の取り付けを正確に行うのも重要である。しかし、実際には工具刃先の位置を正確に調整するのは難しいので、ずれた分を修正加工する方法もある(後述する図21,図22,図23参照)。
【0033】
このように、工具刃先の位置に初期オフセット量があることで、工具刃先が回転中心に位置するときに、ある一定の回転速度を確保でき、旋盤加工の加工条件に近づけることができる。図10では、最大回転速度の時に、最大工具回転半径としているが、初期オフセットを大きくすれば、当然、静止状態に近いときに最大工具回転半径となる。
【0034】
図11は、2つの梁と2つの腕を備えた工具ホルダの静止状態と回転状態を側面から見た図である。図11は、図10を横から見た図(図4に相当)である。工具2が取り付けられている梁14,15は一端が回転テーブル12に固定されているので、図12に示されるように、回転速度による刃先位置の軌跡は曲線的になる。
レンズ形状を加工する場合は、回転の中心軸方向が工具の切り込み方向となるので、この曲線は回転速度によって工具の切り込み量が変化することを意味している。したがって、後述する(図16参照)ように、精密な加工を行うためには、この切り込み量を考慮して補正する必要がある。
【0035】
図13は、本発明に係る工作機械を説明する図である。図13(a)は工作機械の概略側面図であり、主軸30の中心に工具ホルダ20を取り付け、ワーク22をZ軸で上下に動かして切り込み制御する。主軸30は、回転の軸方向が重力方向となるようにする。これは、工具ホルダ20が構造上重力の影響を受けるからである。工具ホルダ20には重りなどの重量物が付加してある。重りが水平面内を回転する限りどの回転位相でも重力は、重りに対して常に同じ向きであるので、梁の変位には影響しない。しかし、垂直面で回転する場合は、重りに加わる重力の影響が直接梁の変位に影響を与えるので、垂直面での回転は望ましくない。なお、主軸30は回転テーブル12と同等のものである。
【0036】
主軸は、正確な回転数で制御するためのモータ駆動が望ましい。また、主軸の軸受は高速回転時にも滑らか駆動が可能で発熱の少ない空気軸受が望ましい。主軸の配置によって、刃先が上向になる配置と、刃先が下向きになる配置があるが、ワーク22上の切粉を排出し易いという観点からは、図13に示されるように、工具2の刃先が上向の方が望ましい。ただし、工具ホルダ20側に切粉が堆積しやすいという短所があるので、加工によっては、工具2の刃先が下向きになる配置の方が好ましい場合もある。
ワーク22に対する工具2の刃先の位置は、主軸30の回転速度とZ軸の位置で決まるので、主軸の回転速度とZ軸の位置を連続的に同時制御することで、レンズ形状などの任意の回転対象形状を切削加工する。切削工具としては、高精度に加工するためには、単結晶ダイヤモンド工具が望ましい。なお、切削工具の替わりに砥石を使用して研削加工することも原理的には可能である。しかし、小型の砥石しか取り付けることができないので、砥石の消耗が速いという問題がある。
【0037】
図13(b)は工作機械を制御する数値制御装置の概略ブロック図である。CPU41は数値制御装置40を全体的に制御するプロセッサである。CPU41はバス、48を介して、ROM42、RAM43、各軸のサーボモータを駆動制御する各軸の軸制御回路44、スピンドル(主軸)を駆動制御するスピンドル制御回路46などで構成されている。
CPU41はROM42に格納されたシステムプログラムを、バス48を介して読み出し、該システムプログラムに従って数値制御装置全体を制御する。
各軸の制御回路44はCPU41からの各軸の移動指令値と各軸のサーボモータ50にそれぞれ内蔵する位置・速度検出器からの位置、速度フィードバック信号を受けて、位置・速度のフィードバック制御を行い、各軸の指令をサーボアンプ45に出力する。サーボアンプ45はこの指令を受けて、工作機械の各軸(X軸,Y軸,Z軸)のそれぞれのサーボモータ50を駆動する。なお、図13(b)では、位置・速度のフィードバックについては省略している。なお、直動軸であるX軸,Y軸,Z軸に加えて、A軸,B軸を更に付加して5軸加工機として工作機械を構成してもよい。
また、スピンドル制御回路46はCPU41から主軸回転指令と、主軸30の回転速度を検出する図示しないポジションコーダからの速度フィードバックを受けて、速度のフィードバック制御を行い、スピンドルアンプ47にスピンドル速度信号を出力する。スピンドルアンプ47は、スピンドル速度信号を受けてスピンドルモータ51を指令された回転速度で回転させる。
【0038】
図14は図13に示される本発明に係る工作機械を用いて凹面のレンズ形状を加工する場合の例を示している。ワーク22に対して工作機械1のZ軸で工具2の切り込み方向の制御を行なう。また、主軸30の回転速度で工具2の工具回転半径Rtを制御する。図14は凹面のレンズ形状を加工する例を示しているが、工作機械1のZ軸32および主軸30を制御することによって、凸面のレンズ形状も加工できる。
本発明の場合、ワーク22上の工具2の動きは、図27(b)に示す従来方法とほぼ同じになるが、この渦巻きの動きを主軸の回転速度だけで実現しており、工具の向きは原理的に加工方向を向くため、非常に簡便な方法であり、直動軸の高速駆動も全く必要がないという大きな利点がある。
【0039】
図15は、主軸回転速度と工具回転半径との関係をプロットしたグラフの例である。図10の実施形態で説明したように、工具2の工具回転半径Rtには初期オフセット量T0がある。図15では、初期オフセット量T0は約2mmである。
図15に示されるように、半径2mm以下を加工する場合、0〜100rpm(T0〜回転中心)の回転速度領域R1と100〜140rpm(回転中心〜T2、T2はT0と同じ回転半径の刃先位置)の回転速度領域R2の2通り選択することが可能である。
【0040】
しかし、「回転速度を指定できる分解能」=「工具回転半径Rtを指定できる分解能」であるので、図15から分るように、回転速度領域R1(T0〜回転中心)の低い回転速度領域を用いる方が、分解能の高い工具回転半径Rtの指定が可能であり、より精密な刃先位置制御が可能である。
また、加工条件の観点から、切削速度は工具回転半径Rt*回転速度であるので、回転速度を上げると工具回転半径Rtも増大する回転速度領域R2よりも、回転速度を上げると工具回転半径Rtが減少する回転速度領域R1の方が、半径の相違による切削速度の変化が少ない。したがって、T0〜回転中心の低い回転速度領域R1の方が、一定の加工条件で加工できることになる。
レンズ形状などは、一般的に断面の形状式が与えられて、ここから工具の座標を導き出して加工する。加工プログラムを作成する場合は、このプロットから近似式を算出し、元の形状式から導き出される工具の座標X(=工具回転半径Rt)を、回転速度Vに変換するとよい。
【0041】
図16は、主軸回転速度と工具の軸方向の変位の関係をプロットしたグラフの例である。工具が取り付けられている梁は、一端が固定されているので、工具の刃先の動きは直線にならない(図11,図12を参照)。図16のグラフのプロットの例では、工具の回転速度が150rpm近辺で、最も工具が突き出た(工具がワークを切り込む)変位になる。回転速度によって切り込み量が変位する分は、加工プログラム上で補正が必要である。レンズ形状などを加工する場合は、このプロットから近似式を算出し、元の形状式から導き出される工具の切り込み量Zに対して、補正Zc(=工具の軸方向の変位)を加える。したがって、元の形状式の座標(X,Z)を(V,Z+Zc)で表したものが、この請求項8の加工方法における加工プログラムになる。
【0042】
図17は、主軸の回転速度に対する工具回転半径の関係と主軸の回転速度に対する工具の回転軸方向の変位の計測方法を説明する図である。請求項8に係る計測の例を示している。図15,図16のプロット図は、平面ワークに試し加工を行ない、これを計測することで、容易に作成できる。平面形状のワークに対して、回転数を段階的に変化させて、工作機械の軸の動きとしては毎回同じ切込みを行うと、図17のような同心円状の加工痕が得られる。
【0043】
図18は、溝の谷の位置と深さが、各回転速度での工具回転半径と工具の軸方向の変位に対応することを説明する図である。図17に示したワークの中心線D−Dの形状を、3次元測定器などを用いて計測すると、回転中心軸4で対称な溝が計測される。図18では、溝23aと溝23iと対応し、溝23bと溝23hと対応し、溝23cと溝23gと対応し、溝23dと溝23fが対応する。この計測結果で、それぞれの溝の谷の位置と深さが、各回転速度での工具回転半径と工具の軸方向の変位に対応する。
【0044】
図19は、本発明に係る加工方法により、平面ワーク上にレンズアレイ形状を加工した例を説明する図である。請求項9に係る本発明の加工方法で平面形状のワーク22上にレンズアレイ形状を加工するが図19に示されている。工作機械1は、直動軸X,Y,Z軸を備え、主軸はZ軸方向の向きに取り付けられている。X軸,Y軸で位置決めした後、Z軸での切り込みと主軸回転速度を同時制御することで、一つ一つのレンズ形状を加工する。この加工方法であれば、一つのレンズ形状を加工する時間は、旋削加工と同等にすることができ、レンズ間の距離も正確に位置決めできる。したがって、レンズアレイ形状の高速・高精度加工が可能になる。
また、この加工方法は、主軸以外の軸を高速に駆動する必要がないので、前述の工具ホルダ20を主軸30に取り付けることができれば、一般的な工作機械をレンズアレイ形状の高速・高精度加工へ容易に対応させることができる。
【0045】
図20は、本発明に係る加工方法により、曲面ワーク上にレンズアレイ形状を加工した例を説明する図である。請求項9に係る本発明の加工方法により、曲面形状のワーク22上にレンズアレイ形状を加工した例を示している。工作機械は、直動X,Y,Z軸に加えて、回転A,B軸を備えた5軸加工機であり、さらに、主軸がZ方向に搭載される。2つの回転軸を搭載することで、工具2または、ワーク22の姿勢を任意に変えることができる。図20(b)に示されるように、各レンズ形状の回転中心軸を曲面のワーク加工面に対して、常に法線方向に向けた加工が可能である。
【0046】
図21は、レンズ形状を加工する場合、回転速度を変えたときに工具刃先が必ず回転中心軸を通る軌跡を描くことが重要であることを説明する図である。図10を用いて説明したように、回転速度を変えたときに工具刃先が必ず回転中心を通る必要がある。
本願発明の加工方法でレンズ形状を加工する場合、回転中心を通らない場合、工具回転半径Rtがゼロにならないので、レンズ形状の中央に削り残しができる。この問題は、一般的な旋盤を使用したレンズ形状の加工の際にも起き、正確に回転中心に工具刃先の位置を調整する作業が必要である点では、本願発明の加工方法も同じである。
【0047】
工具の取り付けを微小に調整するためには、取り付け位置を手動で微調整することは本願発明の方法も同様である。しかし、工具の取り付けを微小に調整するためには、取り付け位置を手動で微調整することになるので、一回で調整が終わるとは限らない。そこで、もっと簡便な方法が望まれる。旋盤による加工では、図21(b)に示されるように、回転するワーク22との位置関係によっては、工具2の裏(逃げ面)が当たってしまうことになる。
一方、本願発明の工具ホルダ20を使用した加工では、図22に示されるように、工具2の向きが加工方向に必ず一致するため、工具2がどの位置(回転の位相)にあっても、逃げ面が当たることはない。この特徴を利用すると、削り残しを容易に除去することができる。
【0048】
図23は、レンズ形状中央の削り残しを除去する方法を説明する図である。図23(a)は、本願発明の加工方法でレンズ形状を加工し、中央部に削り残しができた状態である。レンズ形状を加工するときには、加工の原理からレンズ形状の中心と工具の回転中心軸は一致する。
次に、削り残しを除去する工程が図23(b)になる。工具の回転中心軸とレンズ形状の中心の相対位置は、工作機械の軸(図19ではXY軸方向)を動かして変えることができる。したがって、工具回転半径Rtが最小になる主軸回転速度で、レンズ中央部で工具2を微小に揺動させると、図23(b)のように中央の削り残しを除去できる。図21に示したように、旋盤で同じことを行うと、必ず逃げ面で加工する瞬間があるので、加工面が荒れてしまい、このような加工はできない。
しかし、図20の曲面ワーク加工のように、工具姿勢を自由に変えられるのであれば、図23(c)に示されるように、工具姿勢をレンズ形状に沿わせて(曲面の法線方向が工具回転軸になる姿勢)動かせば、最終的に残る誤差を小さくできる。
【0049】
本願発明に係る工具ホルダ20は、レンズ形状のような回転対称の形状とそれを多数配列した形状の加工を目的としているが、主軸の速度を一定にすれば、工具回転半径Rtも一定になり、通常のミリング加工と同じになる。したがって、ミリング加工で加工可能な形状は、本願発明に係る工具ホルダ20を使用した加工方法でも加工可能である。また、図23を用いて説明したように、工具回転半径Rtが小さい状態で工具姿勢を任意に変えれば、微小な曲面形状の加工も可能である。
【0050】
図24は、工具回転半径を変えた自由曲面の加工を説明する図である。本願発明の加工方法では、加工形状に合わせて工具の回転半径を変えることができるので、小径が必要なとき、大径でもよいときを使い分けることで、加工能率を向上させることができる。短時間で加工できるということは、それだけ工具がワークに接触している時間も短くなり、工具の磨耗を抑える利点もある。このように、レンズアレイ形状の加工だけでなく、自由曲面の高精度・高能率加工においても、本願発明の加工方法は有効である。
図24で、なだらかな面を加工するときは、工具2の回転速度を大きくして、工具回転半径Rtを大きくして加工し、微小凹面を加工するときは、工具2の回転速度を小さくして、工具回転半径Rtを小さくして加工する。
【符号の説明】
【0051】
1 工作機械
2 工具
3 工具刃先
4 回転中心軸
5 回転中心
6 第1の重り
7 第2の重り
8 第1のバネ
10 第2のバネ
12 回転テーブル
14 14a,14b,15a,15b 第1の梁
15 第2の梁
16 第1の腕
17 第2の腕
18 取り付けボルト孔
19 バランス調整用のネジ穴
20 工具ホルダ
22 ワーク
24 治具
26 機械ベース
28 マウント
30 主軸
32 Z軸

40 数値制御装置
41 CPU
42 ROM
43 RAM
44 軸制御回路
45 サーボアンプ
46 スピンドル制御回路
47 スピンドルアンプ
48 バス
50 モータ
51 スピンドルモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を固定する工具ホルダにおいて、
前記工具ホルダを回転したときに生じる遠心力により、該工具ホルダの構造体が弾性変形し、前記工具の刃先を回転軸方向に向けた前記工具の回転半径をゼロから任意の径まで変化する構造を特徴とする工具ホルダ。
【請求項2】
前記工具ホルダの構造体は、前記遠心力によりそれぞれ反対方向に同じ大きさだけ弾性変形する2つの梁を備え、該2つの梁に加わる遠心力を相殺し、前記工具ホルダの回転速度が変化しても回転のバランスを保つことを特徴とする請求項1に記載の工具ホルダ。
【請求項3】
前記工具ホルダの2つの梁は、工具ホルダより回転半径の大きい位置にある2つの重りにそれぞれ連結され、回転時に重りに加わる遠心力により、前記工具ホルダの弾性変形を増大させることを特徴とする請求項2に記載の工具ホルダ。
【請求項4】
前記工具ホルダの2つの梁は、一方の梁に工具を取り付けることができ、取り付けた工具の重量による変化分を含めて、工具ホルダ全体の回転バランスを調整するバランス重りを前記工具ホルダの構造体に付加できる構造であることを特徴とする請求項2または3のいずれか1つに記載の工具ホルダ。
【請求項5】
前記工具ホルダの構造体は、前記遠心力によりそれぞれ反対方向に弾性変形する2つの梁を備え、それぞれの梁は平行バネの形状をし、梁が前記遠心力により弾性変形したときに、梁の端面の角度が回転の軸に対して一定に保たれることを特徴とする請求項2〜4に記載の工具ホルダ。
【請求項6】
回転の軸方向に工具ホルダをみた座標系において、前記工具の刃先の位置は、静止時には回転中心軸から初期オフセットの分だけずれた第1の位置にあり、前記回転速度を最大にしたときに工具刃先は第2の位置にあり、前記第1の位置と第2の位置とを結んだ線分上に、回転の中心が位置する構造を特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の工具ホルダ。
【請求項7】
請求項1〜6に記載のいずれか1つの工具ホルダを主軸に搭載し、主軸の軸方向は重力方向に一致し、直動軸として少なくとも主軸の軸方向に移動可能な軸を備え、前記主軸の回転速度と前記直動軸の位置を制御することにより、任意の回転対称な形状を切削加工することを特徴とする工作機械。
【請求項8】
請求項7に記載の工作機械において、前記主軸の回転速度に対する工具回転半径の関係と主軸の回転速度に対する工具の回転軸方向の変位を予め計測しておき、加工する回転対称の形状について半径と高さの点群データまたは形状式において、半径を主軸の回転速度に変換し、高さを前記軸方向の変位で補正した前記直動軸の変位量に変換した上で、加工プログラムを作成することを特徴とした加工方法。
【請求項9】
請求項8の加工方法により、前記工作機械の直動軸または回転軸で前記工具ホルダの位置と姿勢を制御することで、被加工物の平面または曲面上の任意の位置に前記回転対称の形状を多数加工することを特徴とするレンズアレイ形状の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2011−251383(P2011−251383A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127884(P2010−127884)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】