説明

工具類のグリップ

【課題】グリップ本体の弾性層による弾力性を維持しながらも、弾性層の外側に加わる力を、弾性層よりも内側に確実に伝達できるようにする。
【解決手段】グリップ内層2と、グリップ外層3と、該両グリップ内外層2,3との間に設けられ、グリップ外層3側からの握り弾性変形を可能にする弾性層4とを有する工具類のグリップにおいて、グリップを回転させた際に生じるトルクを伝達すべく、グリップ内層2とグリップ外層3とを繋ぐ複数の架橋部6が前記弾性層4を複数に分割するように、グリップ周方向に間隔をおいて形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバ、その他の手動操作される工具類のグリップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ドライバ等のグリップは、内周筒を形成するグリップ内層と、グリップ外周面を形成するグリップ外層と、前記グリップ内層とグリップ外層との間に配置されていてグリップ外層の握り弾性変形を可能にする弾性層(弾性体)とを有している(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】実開昭52−164660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来技術においては、グリップ内層とグリップ外層との間に弾性層が配置されているので、グリップ外層の握り弾性変形を可能にし、握り易くしているが、強い回転トルクをかけようとすると、弾性層がグリップ周方向に大きく変形し、グリップ内層とグリップ外層との間での周方向の相対移動が大きく生じて、トルクが伝達し難いものとなる。また、グリップ長手方向(工具軸方向)に力を入れて工具を押しつけるときも、弾性層がグリップ長手方向に大きく変形し、グリップ外層がグリップ内層に対して大きく移動し、トルクが伝達し難いものとなる。
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、グリップ本体の弾性層による弾力性を維持しながらも、弾性層の外側に加わる力を、弾性層よりも内側に確実に伝達できるようにした工具類のグリップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためのものであって、グリップ内層と、グリップ外層と、該両グリップ内外層との間に設けられ、グリップ外層側からの握り弾性変形を可能にする弾性層とを有する工具類のグリップにおいて、グリップを回転させた際に生じるトルクを伝達すべく、グリップ内層とグリップ外層とを繋ぐ複数の架橋部が前記弾性層を複数に分割するように、グリップ周方向に間隔をおいて形成されてなることを特徴とする。
【0006】
かかる構成によれば、グリップは、グリップ内層とグリップ外層との間に配置されていてグリップ外層の握り弾性変形を可能にする弾性層を有しながら、グリップ内層とグリップ外層とを繋ぐ架橋部が弾性層を分割するように形成されていることから、グリップ外層を握ってトルクを加えると、そのトルクは架橋部を介してグリップ内層に伝達され、弾性層が弾性変形しても、グリップ内層とグリップ外層との間でのグリップ周方向の過大な相対移動を生じることなく、トルクを確実に伝達できる。グリップをグリップ長手方向に押すときも、グリップ内層に対するグリップ外層の変位量を抑えて、押し力をグリップ内層に確実に伝達できる。
【0007】
また、本発明に係る工具類のグリップは、グリップ内層と、グリップ外層と、該両グリップ内外層との間に設けられ、グリップ外層側からの握り弾性変形を可能にする弾性層とを有する工具類のグリップにおいて、グリップを押し付けながら回転させた際に生じるトルクを伝達すべく、グリップ内層とグリップ外層とを繋ぐ複数の架橋部が前記弾性層を複数に分割するように、グリップ周方向およびグリップ長手方向に間隔をおいて形成されてなることを特徴とする。
【0008】
かかる構成によれば、グリップは、グリップ内層とグリップ外層との間に配置されていてグリップ外層の握り弾性変形を可能にする弾性層を有しながら、グリップ内層とグリップ外層とを繋ぐ架橋部が弾性層を分割するように形成されていることから、グリップ外層を握ってトルクを加えると、そのトルクは架橋部を介してグリップ内層に伝達され、弾性層が弾性変形しても、グリップ内層とグリップ外層との間での周方向の過大な相対移動を生じることなく、トルクを確実に伝達できる。また、グリップをグリップ長手方向に押すときも、グリップ内層に対するグリップ外層の変位量を抑えて、押し力をグリップ内層に確実に伝達できる。
【0009】
また、本発明に係る工具類のグリップは、前記架橋部の中途部が、グリップ周方向の一方側に突出するように曲がって形成される構成を採用できる。
【0010】
かかる構成によれば、架橋部は、直線状に形成されている場合に比べ、グリップの半径方向に弾性変形し易くなる。したがって、架橋部は、グリップ外層、弾性層に求められる弾性変形能を阻害することなく、グリップが握られたときに、これらとともに弾性変形できる。しかも、架橋部は、グリップ内層とグリップ外層とを繋ぐように形成されていることから、グリップは、その弾力性を維持しながらも、トルクをグリップ内層からグリップ外層へと確実に伝えることができるようになる。
【0011】
また、発明に係る工具類のグリップは、横断面において、前記架橋部の中途部が、両端部からグリップ周方向に偏位した円弧形に形成されており、横断面において、グリップ周方向における弾性層の中央部を境にして、この弾性層を2つの領域に分けたとき、前記複数の架橋部が、弾性層の各領域に分かれて設けられ、各領域に分かれて設けられた各架橋部が、前記グリップ内層とグリップ外層とに接続された両端部よりも中途部が厚肉に形成されるとともに、その凸状の円弧をグリップ周方向における弾性層の端部に向けている構成を採用できる。
【0012】
かかる構成によれば、弾性層の各領域に、分かれて設けられた各架橋部の凸状円弧が、グリップ周方向における弾性層の端部に向けられていることにより、グリップの回転方向が正逆どちらであっても、グリップ径方向および周方向に弾力的に変形しながら力の伝達も可能になり、トルクの伝達を確実に行うことができる。
【0013】
また、本発明に係る工具類のグリップは、縦断面において、架橋部の中途部が、両端部からグリップ長手方向に偏位した円弧形に形成されており、縦断面において、グリップ長手方向における弾性層の中央部を境にして、この弾性層を2つの領域に分けたとき、前記複数の架橋部は、弾性層の各領域に分かれて設けられ、各領域に分かれて設けられた各架橋部は、前記グリップ内層とグリップ外層とに接続された両端部よりも中途部が厚肉に形成されるとともに、その凸状の円弧をグリップ長手方向における弾性層の端部に向けている構成を採用できる。
【0014】
かかる構成によれば、弾性層の各領域に分かれて設けられた各架橋部の凸状円弧が、グリップ長手方向における弾性層の端部に向けられていることにより、グリップ長手方向、すなわち、工具を押し込む方向、引き抜く方向のいずれに力が作用した場合であっても、グリップは、弾力的に変形しながら力の伝達も確実に行うことができるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、弾性層による弾力性を維持しながらも、グリップ外層に加わる力をグリップ内層に確実に伝達できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜4は本発明の実施形態を示すもので、グリップは、ドライバ等の工具類の柄部9に嵌着されるコア12の外側周囲に取り巻くように配置されている。このグリップは、コア12が嵌着される嵌着孔8を有する筒状のグリップ本体1を備える。
【0017】
このグリップ本体1には、その内部に複数(図例では2つ)の弾性層4が設けられている。また、グリップ本体1は、この弾性層4よりも内側に、グリップ内層2を有し、この弾性層4よりも外側にグリップ外層3を有している。これによりグリップ本体1は、弾性層4が設けられている部分が、グリップ内層2、弾性層4、グリップ外層3の3層構造になっている。このグリップ外層3とグリップ内層2には、これらを繋ぐ架橋部6が形成されている。なお、この実施形態において、「グリップの内部」とは、嵌着孔8の壁面とグリップ本体1の外周面(グリップ外層3の外面)との間の領域をいう。
【0018】
前記グリップ内層2は、弾性層4より高硬度であるがコア12より低硬度の合成樹脂で形成されている。このグリップ内層2は、所定の曲率半径によって円弧状に形成されており、その内面(半径方向内方側の面)が、嵌着孔8の壁面を構成している。グリップ内層2の外面(グリップ本体1の半径方向外方側の面)は、弾性層4に接着されている。
【0019】
前記グリップ外層3は、グリップ内層2と同じ合成樹脂によって成形されている。このグリップ外層3は、横断面視においてほぼ円弧状に構成されており、その外面がグリップの外周面を構成し、使用者の手に握られるようになっている。このグリップ外層3の外面は、使用者によって握られたときに、トルクをかけやすいように、その周方向に沿って凹凸状に形成されている。また、グリップ外層3は、その内面が弾性層4に接着されている。このグリップ外層3は、その厚さが弾性層4の厚さよりも薄く形成されており、その外面が握られて押圧されたときに、弾性層4とともに弾性変形するように構成されている。
【0020】
グリップ本体1の内部に設けられた2つの弾性層4は、グリップ本体1の周方向に沿って所定の間隔をおいて形成されている。具体的には、各弾性層4は、グリップ本体1の周方向に沿って所定の長さを有するほぼ円弧状に形成されており、2つの弾性層4のうち、一方の弾性層4のグリップ周方向における各端部7、7と、他方の弾性層4のグリップ周方向における各端部7、7とが所定間隔離間されて形成されている。
【0021】
この一方の弾性層4の、グリップ周方向における端部7,7と、他方の弾性層4の、グリップ周方向における端部7,7との間には、弾性層4よりも硬質の樹脂によって形成された樹脂部5が形成されており、この樹脂部5は、グリップ内層2とグリップ外層3と同じ樹脂材料によって、これらを繋ぐように一体に形成されている。また、この樹脂部5は、グリップ周方向における弾性層4の各端部7と接するように形成されている。
【0022】
前記弾性層4は、グリップ内層2及びグリップ外層3より柔らかい(低硬度)の弾力性に富む軟質合成樹脂で形成されている。各弾性層4は、グリップ外層3とグリップ内層2とを繋ぐ複数の架橋部6A,6Bによって、複数の弾性部4A,4B,4Cに分割されている。なお、本実施形態では、1つの弾性層4に対し、4つの架橋部6(6A,6B)が形成されている。なお、1つの弾性層4に対して形成される架橋部6の数は偶数であることが望ましい。
【0023】
前記架橋部6によって分割された弾性層4の弾性部4A,4B,4Cは、グリップ周方向における弾性層4の端部7,7に近い順に、第1弾性部4A、第2弾性部4B、そして弾性層4の周方向のほぼ中央に位置する第3弾性部4Cに分けられる。本実施形態では、1つの弾性層4において、その周方向のほぼ中央に1つの第3弾性部4Cが位置し、このグリップ周方向における第3弾性部4Cの各端部側に、合計2つの第2弾性部4Bが形成され、この第2弾性部4Bよりも弾性層4の端部寄りの位置に合計2つの第1弾性部4Aが形成されている。換言すれば、各弾性部4A,4B,4Cは、弾性層4の端部からその中央部に向かって、第1弾性部4A、第2弾性部4B、第3弾性部4Cの順に形成されている。第1弾性部4A、第2弾性部4Bは、断面視略三日月形状に形成されている。
【0024】
各弾性層4に形成された4つの架橋部6は、グリップ周方向に所定の間隔をおいて形成され、グリップ周方向における弾性層4の各端部7,7に対応して2つずつに分かれて形成されている。具体的には、図1に示すように、グリップ周方向における弾性層4の長さのほぼ中間の位置(以下、「グリップ周方向における弾性層の中央部」という)と、グリップ本体1の横断面における中心(軸心)Oとを通る中心線Xを引いたとき、各弾性層4は、この中心線Xを境として2つの領域に分けられる。
【0025】
すなわち、各弾性層4は、このグリップ周方向における弾性層の中央部を基準(境)として、中心線Xから一方の端部7までの領域と、この中心線Xから他方の端部7までの領域の2つの領域に分けられる。そして、4つの架橋部6は、分けられた各領域に対し、2つずつに分かれて形成されている。
【0026】
このように、グリップ周方向における弾性層4の中央部を境にして、弾性層4を2つの領域に分けたとき、各領域に配置される2つの架橋部6A、6Bのうち、グリップ周方向における弾性層4の端部7寄りの位置に設けられるものを第1架橋部6Aといい、第1架橋部6Aよりも弾性層4の中央部寄り(第3弾性部4C寄り)に位置するものを第2架橋部6Bという。
【0027】
第1架橋部6Aは、第1弾性部4Aと第2弾性部4Bとの間に形成されており、第2架橋部6Bは、第2弾性部4Bと第3弾性部4Cとの間に形成されている。
【0028】
また、本実施形態では、グリップ本体1の外面、すなわちグリップ外層3の外面において、前記中心線Xに対応する位置に、いわゆるゲートマーク(図示略)が形成されている。したがって、本実施形態では、上記のように、グリップ周方向における弾性層4の中央部を境として弾性層4を2分するとともに、2分された各領域に架橋部6を配分する他に、このゲートマークを基準として、このゲートマークから1つの弾性層4のグリップ周方向における一方の端部7までの領域と、ゲートマークからグリップ周方向における弾性層4の他方の端部7までの領域とに弾性層を2分し、分けられた各領域に架橋部6を配分して形成することも可能である。
【0029】
前記各架橋部6は、図1に示すように、横断面において、グリップ周方向の一方側、すなわち、グリップ周方向における弾性層4の端部7側に突出するように、その中途部6bが曲げられて形成されている。各架橋部6は、横断面において、その両端部6aから中途部6bに向かうにつれて、グリップ周方向における厚さが徐々に大きくなるように形成されている。具体的には、前記架橋部6は、前記グリップ内層2とグリップ外層3とに接続された両端部6aから中途部6bがグリップ周方向に偏位した断面略円弧形状に形成され、中途部6bが両端部6aよりも厚肉の略三日月形状に形成されている。
【0030】
また、各架橋部6は、図2に示すように、縦断面において、グリップ長手方向の一方側、すなわち、グリップ長手方向における弾性層4の端部14,14側に突出するように、その中途部6bが曲げられて形成されている。各架橋部6は、縦断面において、その両端部6a,6aから中途部6bに向かうにつれて、その厚さが徐々に大きくなるように形成されている。具体的には、前記架橋部6は、グリップ内層2とグリップ外層3とに接続された両端部6aからグリップ径方向中途部6bがグリップ長手方向の一方側に偏位した断面略円弧形状に形成され、端部6aよりも中途部6bが厚肉の略三日月形状に形成されている。
【0031】
前記架橋部6(第1架橋部6A,第2架橋部6B)は、図2に示すように、グリップ長手方向において、弾性層4を複数の弾性部4A〜4Cに分割するように、グリップ長手方向に間隔をおいて形成されている。
【0032】
図2に示すように、縦断面において、弾性層4を、グリップ長手方向の中心を通る中心線Yの位置(以下、「グリップ長手方向における弾性層の中央部」という)を境として、左右2つの領域に分けたとき、複数の架橋部6は、分けられた弾性層4の一方の領域と、他方の領域とに分かれて2つずつ形成されている。
【0033】
前記架橋部6は、図2に示すように、グリップ長手方向の一方側に突出するように、その中途部が曲がって形成されている。具体的には、各架橋部6は、略円弧状に湾曲して形成されており、その凸状の円弧がグリップ長手方向の一方側に向かって形成されている。具体的には、弾性層4の各領域に形成された2つの架橋部6A,6Bは、その凸状円弧が、グリップ長手方向における弾性層4の端部14に向かって形成されている。
【0034】
また、本実施形態では、グリップ本体1の外面、すなわちグリップ外層3の外面において、前中心線Yに対応する位置(グリップ長手方向における弾性層4の中央部に対応する位置)に、いわゆるゲートマーク(図示略)が形成されている。したがって、本実施形態では、上記のように、グリップ長手方向における弾性層4の中央部を境にして、弾性層4を2分するとともに、2分された各領域に架橋部6を配分する他に、このゲートマークを基準として、このゲートマークから1つのグリップ長手方向における弾性層4の一方の端部14までの領域と、ゲートマークからグリップ長手方向における弾性層4の他方の端部14までの領域と、に弾性層を2分し、分けられた各領域に架橋部6を配分して形成することも可能である。
【0035】
なお、グリップ本体1の長手方向両端部1a,1bの架橋部6に対向する面1cも断面略円弧形状になっている。
【0036】
グリップ本体1の弾性層4と架橋部6のグリップ側面視形状は、図3に示すように、輪形状に形成されている。これはグリップ本体1の射出成形時に、1つの注入口13から2種類の樹脂を金型の型空間内に射出していくと、注入口13を中心として円形に膨張するので、注入口13直下の第3弾性部4Cは外周が円形に、続いて注入口13に最も近い第2架橋部6Bが円形に近い楕円形に、第1架橋部6A及び第2弾性部4Bが楕円形にそれぞれ形成され、注入口13を中心とする輪形状になる。即ち、第1、第2架橋部6A、6B及び第2弾性部4B等は、輪のどの位置を断面しても略三日月であり、三日月の中途部の肉厚が厚薄に連続して変化している。
【0037】
前記架橋部6がこのような輪形状を呈することにより、グリップ周方向のトルクが加えられたときも、グリップ長手方向の押し力が加えられたときも、それらの力により架橋部6の輪形状が変形され、その変形抵抗がバネ効果を発揮し、弾性を維持しながらグリップ外層3からグリップ内層2へ力を伝達することができる。
【0038】
図1において、前記のように構成されたグリップ本体1は、把持力P1を加えて把持すると、弾性層4が押されて圧縮されるように変形し、そのとき架橋部6も力T1、T2等を受けて略三日月形状が両端部6aが近づくように変形し、弾性層4の弾性復元力及びこの弾性層4より硬質の架橋部6の略三日月形状による弾性復元力を内在し、それらの弾性復元力によりグリップ本体1は手の平にフィットし、面圧を低下させ、手の平との間の摩擦抵抗を高める。
【0039】
グリップ本体1を把持した状態で回動してトルクP2を加えると、架橋部6は、グリップ周方向の押動力のかかる側で、その略三日月形状が、両端部6aがグリップ周方向にも径方向にも近づくようにさらに変形し、また略三日月形状に沿う押し力T3を生じ、グリップ内層2を押すようにしてトルクP2を伝達する。
【0040】
また、トルクP2の加わる方向と反対側にある架橋部6は引っ張り力T4を受けるが、架橋部6の引っ張り力T4に対する抵抗力もグリップ内層2へのトルク伝達になり、確実なトルク伝達を助成する。
【0041】
以上説明したように、グリップ内層2とグリップ外層3とを繋ぐ複数の架橋部6が、弾性層4を分割するように、グリップ周方向に間隔をおいて形成されることにより、工具の使用者がグリップを握ったときに、架橋部6は、グリップ外層3および弾性層4とともに弾性変形する。そして、架橋部6が、グリップ内層2とグリップ外層3を連結していることから、グリップを回転させた際に、グリップ内層2に対するグリップ外層3のグリップ周方向の位置ずれを可及的に小さくすることができ、これによってトルクをグリップ外層2からグリップ外層3へと確実に伝えることができる。
【0042】
しかも、各架橋部6は、グリップ長手方向においても、弾性層4を複数に分割するように、間隔をおいて形成されていることから、工具をグリップ長手方向に押し付けた場合であっても、この架橋部6がグリップ内層2に対するグリップ外層3の長手方向の位置ずれを防止し、その力をグリップ外層3からグリップ内層2へと確実に伝えることができる。
【0043】
特に、架橋部6がグリップ周方向、およびグリップ長手方向に間隔をおいて形成されていると、工具がドライバである場合には、ドライバを回転させながら前進させる際に、トルクの伝達、およびドライバの長手方向(軸心方向)への力の伝達を確実にできる。
【0044】
また、架橋部6の中途部6bが、グリップ周方向の一方側(グリップ周方向における弾性層4の端部7側)に突出するように曲げられて形成されていることから、このグリップが握られた際に、グリップ外層3、弾性層4とともに、抵抗なく弾性変形できるようになる。
【0045】
同様に、架橋部6の中途部6bがグリップ長手方向の一方側(グリップ長手方向における弾性層4の端部14側)に突出するように曲げられて形成されていることから、架橋部6は、グリップが握られた際の弾力性を維持することができる。
【0046】
また、架橋部6は、その中途部6bが両端部6aよりも厚肉とされているので、中途部6aの剛性が両端部6aよりも高くなっている。このように、架橋部6がグリップ内層2とグリップ外層3とを繋ぐとともに、この架橋部6の中途部6bが厚肉に構成されて剛性が高められていることによって、弾性層4は、グリップ周方向の力(トルク)が加えられたときに、グリップ周方向における弾性変形が規制される。これによって、グリップ本体1は、回転操作されたときに、グリップ外層3がグリップ内層2に対して大きく位置ずれすることがなく、グリップ外層3に加えられた力をグリップ内層2に確実に伝達できるようになる。
【0047】
さらに、架橋部6の両端部6aは、中途部6bよりも薄肉とされているので、その剛性が中途部6bよりも低くなっている。したがって、グリップ本体1が握られて、グリップ外層3、弾性層4が半径方向内方に弾性変形した場合に、架橋部6は、これらの弾性変形を阻害することなく、弾性変形できる。グリップは、架橋部6の中途部6bが曲げられて形成されていることに加え、架橋部6の両端部6aが薄肉に形成されていることによっても、その弾力性をより効果的に維持できるようになっている。
【0048】
さらに、グリップ周方向における弾性層4の中央部を境として、弾性層4を2つの領域に分けたときに、各領域に複数の架橋部6を分けて設け、その凸状の円弧を、グリップ周方向における弾性層4の端部に向けて形成することにより、一方の領域に形成された架橋部6と、他方の領域に形成された架橋部6とは、その凸状の円弧の向きが逆(反対)になる。これにより、グリップは、時計回り、反時計回りのいずれの方向に回転させた場合でも、同じように、グリップ外層3からグリップ内層2へトルクを伝達できるようになる。
【0049】
また、グリップ長手方向における弾性層4の中央部を境として、弾性層4を2つの領域に分けたときに、各領域に複数の架橋部6を分けて設け、その凸状の円弧をグリップ長手方向における弾性層4の端部14に向けて形成することにより、一方の領域に形成された架橋部6と他方の領域に形成され架橋部6とは、その凸状の円弧の向きが逆(反対)になる。これにより、グリップは、工具を押し付ける方向、引き抜く方向のいずれの方向に力が作用した場合であっても、同じように、グリップ外層3からグリップ内層2へ、その力を伝達できるようになる。
[実験例]
【0050】
図5はドライバ用グリップのひねり試験の結果を示している。
【0051】
実線で示すグリップAは、前記実施形態で示した第1、第2架橋部6A、6Bを有するグリップ本体1であり、点線で示すグリップBは、架橋部6を備えていないグリップであり、1点鎖線で示すグリップCは、グリップ本体1の内部に1つの弾性層4が形成され、その端部同士が所定間隔離れて形成されたものである。
【0052】
試験は、工具柄部9を固定し、グリップを把持して回転していき、グリップの回転角度に応じたトルクを測定している。
【0053】
グリップAはグリップB、Cに比べて、回転角度に対応するトルクが常に大きく、回転角度60度では、グリップAは8N.m以上のトルクが得られるのに対して、グリップB、Cはそれぞれ6N.m、5N.m以下のトルクしか得られない。また、一定トルク、例えば、4N.mを得るためには、グリップAは略17度回転すればよいが、グリップB、Cはそれぞれ20度、24度以上回転しなくてはならない。
【0054】
この試験結果から明らかなように、弾性層4を設けてグリップ外層3の弾性変形を可能にしながら、グリップ本体1の内部に、第1、第2架橋部6A、6Bを有することにより、グリップ本体1にトルクを加えると、グリップ内層2に対するグリップ外層3のズレ動きが少なく、グリップ外層3からグリップ内層2へのトルク伝達が確実にできる。
【0055】
また、第1架橋部6A、第2架橋部6Bは、その凸状円弧が、グリップ長手方向における弾性部4の端部を向いて形成されていることから、長手方向に沿った力、例えば、工具を作業対象物に向かって押したり、作業対象物から引き抜いたりする場合に作用する力が作用した場合であっても、グリップ外層3がグリップ内層2に対して大きくずれることもなく、この力を確実に伝達できるようになる。
[製造方法]
【0056】
次に、前記構成のグリップの製造方法を説明する。
【0057】
図2は金型分割面でグリップを断面した縦断面図であり、対の金型の一方(符号10で示す)がグリップ断面とともに図示されている。金型10は、その内部にグリップ成形用型空洞11が形成されており、この型空洞11内にドライバ等の工具柄部9に嵌着したコア12を配置し、注入口(ゲート)13から2種類の樹脂を射出することによりグリップ本体1が成形される。
【0058】
前記型空洞11に連通する注入口13(図3では仮想線で示す)は金型10の分割面に左右1つずつ形成され、左右注入口13から同時に第1樹脂を射出し、この第1樹脂の射出から遅延して第2樹脂を断続的に射出する。
【0059】
第1樹脂は、グリップ内層2、グリップ外層3、及び架橋部6を形成する比較的硬い樹脂であり、射出成形が可能な熱可塑性のエラストマ、例えばオレフィン系や、スチレン系などの反発性に富むエラストマやゴムなどで形成されており、JIS−A硬度で550°±15°が好ましい。
【0060】
第2樹脂は、弾性層4を形成する比較的柔らかい樹脂であり、前記エラストマと同様のものが使用可能であり、JIS−A硬度で10°±5°が好ましい。
【0061】
前記注入口13には混色成形ノズル(図示せず)が接続されており、混色成形ノズルから基本材料の第1樹脂を射出し、その第1樹脂内に別系統を流れてきた第2樹脂を射出する。
【0062】
第1樹脂と第2樹脂の射出量は同一であっても異なっていてもよく、グリップ本体1と適用する工具、要求される弾性等によって適宜決定される。
【0063】
第1樹脂はグリップ内層2、グリップ外層3及びグリップ長手方向両端部1a、1bを形成するので、第2樹脂よりも先に一定量射出される。この第1樹脂の射出を断続的に行い、第1樹脂の断時のみに第2樹脂を射出する。
【0064】
このように第1樹脂と第2樹脂とを交互に射出していくと、先ず各注入口13から型空洞11内に入った第1樹脂が風船形状に膨らみ、コア12に衝突してコア12の廻りでグリップ周方向の両方向に流動し、またその風船形状の第1樹脂内に第2樹脂が入っていくとともに、第2樹脂も風船形状に膨らんでいき、最外側の第1樹脂が型空洞11の内面(コア12の外周面を含む)に密接してグリップ内層2及びグリップ外層3を形成していき、また型空洞11の奥の方へ流動し、2つの注入口13から型空洞11内に射出された第1樹脂同士がその中間で結合する。
【0065】
1番目の第1樹脂射出断時に射出された第2樹脂はその後に射出される2番目の第1樹脂によって膨らみながら、グリップ内層2、グリップ外層3の内側の第1弾性部4Aを形成し、この第1弾性部4Aの内側に前記2番目の第1樹脂によってグリップ内層2とグリップ外層3とを繋ぐ第1架橋部6Aが形成される。
【0066】
この弾性層4と架橋部6とを形成する射出を2回行って第1弾性部4A、第2弾性部4B、第2架橋部6A、第2架橋部6Bを形成した後に第2樹脂を射出することにより、グリップ長手方向中央に第3弾性部Cを形成し、その後に第1樹脂を射出して弾性層4が露出しないように被うグリップ外層3を形成する。また、グリップは第1樹脂の射出を連続的に行い、第2樹脂のみを断続的に射出しても成形できる。
【0067】
即ち、各注入口13から型空洞11内に連続的に入った第1樹脂が風船形状に膨らみ、その風船形状の第1樹脂内に断続的に第2樹脂が入っていくと、風船形状に膨らんで最外側の第1樹脂が型空洞11の内面に密接してグリップ内層2及びグリップ外層3を形成し、また型空洞11の奥では2つの注入口13からの第1樹脂同士が結合し、グリップ内層2、グリップ外層3の成形中にそれらの内側に第2樹脂が第1弾性部4Aを形成し、第2樹脂の射出が断のときに第1弾性部4Aの内側に第1樹脂によって第1架橋部6Aが形成される。同様にして、第2弾性部4B、第2架橋部6B及び第3弾性部4Cを形成する。
【0068】
なお、本発明は前記実施形態における各部材の形状及びそれぞれの前後・左右・上下の位置関係は、図1〜4に示すように構成することが最良である。しかし、前記実施形態に限定されるものではなく、材料、部材、構成等を種々変形したり、組み合わせを変更したりすることもできる。
【0069】
例えば、前記実施形態では、グリップ周方向において、架橋部6は、2つ1組の第1架橋部6A、および2つ1組の第2架橋部6Bの2組(4つ)として形成されているが、1組のみ(第1架橋部6Aの組のみ)又は3組以上(第3架橋部6Cの組を追加)を形成してもよい。
【0070】
また、弾性層4と架橋部6の肉厚に差異を設けたり、グリップ内層2の肉厚をグリップ外層3より厚くしたりしてもよい。グリップ内層2の肉厚をグリップ外層3より厚くする場合は、グリップ本体1のみを金型10で成形して、成形後にコア12に嵌着するようにしてもよい。
【0071】
さら、金型10内に型空洞11を貫通してコア12に達するピンをグリップ周方向及び長手方向に複数本点在させておいて、型空洞11内に射出した第1樹脂をそのピンに絡みつかせ、グリップ内層2とグリップ外層3とを繋ぐ細い筒柱形状の架橋部6を追加して形成してもよい。
【0072】
また、グリップ内層2の内周面にコア12との間でグリップ周方向及び長手方向のズレ動きを防止する凹凸面を形成したりしてもよい。
【0073】
また、上記の実施形態では、横断面において、架橋部6の中途部6bが、グリップ周方向における弾性層4の端部7側に突出するように曲げられて形成されていたが、反対側、すなわち、グリップ周方向における弾性層4の中央部側に向かって突出するように曲げられて形成されてもよい。
【0074】
同様に、上記の実施形態では、縦断面において、架橋部6の中途部6bが、グリップ長手方向における弾性層4の端部14側に突出するように曲げられて形成されていたが、反対側、すなわち、グリップ長手方向における弾性層4の中央部側に向かって突出するように曲げられて形成されていてもよい。
【0075】
また、上記の実施形態では、横断面において、グリップ本体1に、グリップ周方向に沿って2つの弾性層4,4が形成されていたが、これに限らず、3つ以上の弾性層4,4,…を形成するようにしてもよい。
【0076】
また、上記の実施形態では、架橋部6の中途部6bの肉厚(厚さ)が両端部6aよりも厚くされた例を示したが、これに限らず、架橋部6の厚さを、端部から中途部まで一定にして形成するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の実施形態を示すグリップの横断面図である。
【図2】グリップの縦断面図である。
【図3】図2のA−A矢視線断面図であり、架橋部の側面視形状を表すグリップの一部断面側面図である。
【図4】グリップの側面図である。
【図5】ドライバ用グリップのひねり試験を示すグラフである。
【符号の説明】
【0078】
1 グリップ本体
2 グリップ内層
3 グリップ外層
4 弾性層
4A 第1弾性部
4B 第2弾性部
4C 第3弾性部
5 樹脂部
6 架橋部
6A 第1架橋部
6B 第2架橋部
6a 端部
6b 中途部
7 グリップ周方向における弾性層の端部
8 嵌着孔
9 工具柄部
10 金型
11 型空洞
12 コア
13 注入口
14 グリップ長手方向における弾性層の端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリップ内層と、グリップ外層と、該両グリップ内外層との間に設けられ、グリップ外層側からの握り弾性変形を可能にする弾性層とを有する工具類のグリップにおいて、
グリップを回転させた際に生じるトルクを伝達すべく、グリップ内層とグリップ外層とを繋ぐ複数の架橋部が前記弾性層を複数に分割するように、グリップ周方向に間隔をおいて形成されてなることを特徴とする工具類のグリップ。
【請求項2】
グリップ内層と、グリップ外層と、該両グリップ内外層との間に設けられ、グリップ外層側からの握り弾性変形を可能にする弾性層とを有する工具類のグリップにおいて、
グリップを押し付けながら回転させた際に生じるトルクを伝達すべく、グリップ内層とグリップ外層とを繋ぐ複数の架橋部が前記弾性層を複数に分割するように、グリップ周方向およびグリップ長手方向に間隔をおいて形成されてなることを特徴とする工具類のグリップ。
【請求項3】
前記架橋部の中途部が、グリップ周方向の一方側に突出するように曲がって形成される請求項1または2に記載の工具類のグリップ。
【請求項4】
前記架橋部は、横断面において、その中途部が両端部からグリップ周方向に偏位した円弧形に形成されており、
横断面において、グリップ周方向における弾性層の中央部を境にして、この弾性層を2つの領域に分けたとき、前記複数の架橋部は、弾性層の各領域に分かれて設けられ、各領域に分かれて設けられた各架橋部は、前記グリップ内層とグリップ外層とに接続された両端部よりも中途部が厚肉に形成されるとともに、その凸状の円弧をグリップ周方向における弾性層の端部に向けている請求項1から3のいずれか1項に記載の工具類のグリップ。
【請求項5】
前記架橋部は、縦断面において、その中途部が両端部からグリップ長手方向に偏位した円弧形に形成されており、
縦断面において、グリップ長手方向における弾性層の中央部を境にして、この弾性層を2つの領域に分けたとき、前記複数の架橋部は、弾性層の各領域に分かれて設けられ、各領域に分かれて設けられた各架橋部は、前記グリップ内層とグリップ外層とに接続された両端部よりも中途部が厚肉に形成されるとともに、その凸状の円弧をグリップ長手方向における弾性層の端部に向けている請求項1から4のいずれか1項に記載の工具類のグリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−36255(P2010−36255A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197905(P2008−197905)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000232597)株式会社ベッセル工業 (27)