説明

工具

【課題】狭い作業スペースにおいてもボルトに螺合されたナットを容易にかつ円滑に回動させて締め付け・弛め作業を行うことが可能な工具を提供する。
【解決手段】ロングボルト1に螺合されたロックナット2を回動させる工具11であって、ロックナット2に係合可能な係合凹部13aを有するスパナ部13と、ロングボルト1の頭部1aに対して軸方向へ隙間をあけて配置される係合部14と、スパナ部13と係合部14とを連結する連結部12と、係合部14に形成された係合孔14aへ挿し込まれて係合部14と係合するスライドガイド15とを備え、係合部14の係合孔14aの中心線とスパナ部13の係合凹部13aの中央を通るスパナ部13に対する垂直線とが同軸とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトに螺合されたナットを締め付ける工具に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルトに螺合されたナットを締め付ける工具として、駆動工具本体の両端に、自在スパナやレンチなどのワーク旋回用素子が旋回可能に連結されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この工具によれば、狭い作業スペースでのボルトやナットの締め付け・弛め作業を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−192538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃料電池車両に搭載される高圧タンクは、車両のフレームに対してロングボルトで固定され、また、このロングボルトには、弛み止めのためのロックナットが設けられている。
【0005】
このような高圧タンクの固定箇所は、周囲に他の部品やフレーム等が配置されていることが多く、ロックナットの締め付けが困難であった。
このような狭い作業スペースであっても、上記の工具を用いれば、ロックナットにワーク旋回用素子であるスパナ部分を係合させることは可能である。
【0006】
しかし、上記の工具を用いても、ロックナットの締め付け・弛め作業時に、ロングボルトに無理な力が加わったり、工具の姿勢が不安定となり、締め付け・弛め作業を円滑に行うことが困難であった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、狭い作業スペースにおいてもボルトに螺合されたナットを容易にかつ円滑に回動させて締め付け・弛め作業を行うことが可能な工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の工具は、ボルトに螺合されたナットを回動させる工具であって、
前記ナットに係合可能な係合凹部を有するスパナ部と、
前記ボルトの頭部に対して軸方向へ隙間をあけて配置される係合部と、
前記スパナ部と係合部とを連結する連結部と、
前記係合部に形成された係合孔へ挿し込まれて前記係合部と係合するガイド部とを備え、
前記係合部の前記係合孔の中心線と前記スパナ部の前記係合凹部の中央を通る前記スパナ部に対する垂直線とが同軸とされている。
【0009】
この構成によれば、スパナ部の係合凹部をナットに係合させた状態で、ボルトの頭部に対して軸方向へ隙間をあけて配置される係合部の係合孔へ係合させたガイド部を回転させると、この回転力がガイド部、係合部、連結部及びスパナ部を介してナットへ伝達される。これにより、一般的に用いられる棒状のスパナが届かないような狭いスペースに設けられたナットを、ボルトに無理な力を加えずに安定した姿勢で容易に回動させ、このナットの締め付け・弛め作業を円滑に行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の工具によれば、狭い作業スペースにおいてもボルトに螺合されたナットを容易にかつ円滑に回動させて締め付け・弛め作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係る工具を説明する側面図である。
【図2】実施形態に係る工具を説明する斜視図である。
【図3】実施形態に係る工具を説明する斜視図である。
【図4】実施形態に係る工具の使用手順を説明する側面図である。
【図5】変形例に係る工具を説明する分解斜視図である。
【図6】参考例を説明する側面図である。
【図7】参考例を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る工具の実施形態について図面を参照して説明する。
図1から図3に示すように、本実施形態に係る工具11は、長尺の棒状に形成された連結部12を有している。この連結部12には、その一端部にスパナ部13が設けられ、他端部に係合部14が設けられている。
【0013】
この工具11は、ロングボルト(ボルト)1に設けられたロックナット(ナット)2を回動させて締め付け・弛め作業を行う際に用いられる。ロングボルト1は、例えば、燃料電池車両等における車両のフレームに高圧タンクを固定するバンドを係合させるために、高圧タンクの固定用ネジ孔3にねじ込まれる。このロングボルト1には、頭部1aとロックナット2との間に、スプリング等の部品P1が装着されている。また、ロングボルト1の周囲にも部品P2,3が設けられ、ロックナット2の周囲が部品P1〜3で囲われている。
【0014】
この工具11のスパナ部13及び係合部14は、連結部12によって一体的に連結されており、それぞれ連結部12に対して、その長手方向と直交する同一方向へ延在されている。
【0015】
スパナ部13は、一部が開放された係合凹部13aを有しており、この係合凹部13aには、ロックナット2が係合可能とされている。また、係合部14は、六角形状の係合孔14aを有しており、この係合孔14aには、スライドガイド(ガイド部)15が挿抜可能とされている。スライドガイド15は、六角形状の外形を有する棒体からなるもので、その先端部には、ロングボルト1の頭部1aを収容して保持する保持穴15aが形成されている。この保持穴15aは、ロングボルト1の頭部1aの外形よりも大きな直径に形成されており、ロングボルト1の頭部1aは、この保持穴15a内で回動可能に保持される。
【0016】
このスライドガイド15には、レンチ21が着脱される。このレンチ21は、スライドガイド15が嵌合可能な六角形の係合孔22を有する係合部23と、この係合部23から延在するアーム24とを有している。
【0017】
上記構成の工具11は、係合部14の係合孔14aの中心軸と、スパナ部13の係合凹部13aの中央を通るスパナ部13に対する垂直線とが同軸の軸線Xとされている。
【0018】
次に、上記の工具11によって、ロングボルト1に装着されたロックナット2の締め付け作業を行う場合について説明する。
まず、図4に示すように、工具11のスパナ部13の係合凹部13aをロックナット2に係合させる。
【0019】
次に、工具11の軸線Xを、ロングボルト1の中心軸Yと一致させ、係合部14の係合孔14aへスライドガイド15を嵌入させ、このスライドガイド15の保持穴15aをロングボルト1の頭部1aに被せる。
【0020】
このようにすると、工具11がロングボルト1に装着されるとともに、スライドガイド15が工具11の係合部14に係合されて一体化した状態となる。
ここで、ロングボルト1における頭部1aとロックナット2との間に、スプリングなどの部品P1が装着されていたとしても、この部品P1が工具11に干渉するようなことはない。
【0021】
次に、スライドガイド15へレンチ21を装着し、レンチ21のアーム24を把持して回す。すると、レンチ21の回動力がスライドガイド15、係合部14、連結部12及びスパナ部13を介してロックナット2へ伝達される。これにより、ロックナット2が回動されて締め付けられる。
【0022】
このとき、係合部14の係合孔14aに挿通されているスライドガイド15がロングボルト1の頭部1aを常に保持する。これにより、工具11は、ロングボルト1の中心軸Yに対して常に傾きなく配置される。これにより、ロックナット2に係合しているスパナ部13がロックナット2に対して傾くことがなく、よって、ロングボルト1に無理な力を加えず安定した姿勢でロックナット2を円滑に締め付けることができる。
【0023】
ここで、ロックナット2は、締め付けによってロングボルト1の軸方向へ移動する。したがって、このロックナット2の移動に伴って係合部14もロングボルト1の軸方向へ移動することとなる。このとき、スライドガイド15は、ロングボルト1の軸方向へ移動しないが、係合部14の係合孔14aに挿通されて軸方向へ相対移動可能であるので、スライドガイド15に対して係合部14がロングボルト1の頭部1aと反対側へ移動することとなり、ロックナット2に対してスパナ部13が円滑に追従する。
【0024】
なお、ロックナット2を弛める場合は、工具11のスパナ部13の係合凹部13aをロックナット2へ係合させ、係合部14の係合孔14aへ通したスライドガイド15の保持穴15aにロングボルト1の頭部1aを保持させた状態で、スライドガイド15をレンチ21で締結方向と逆方向へ回動させれば良い。このようにすると、レンチ21の回動力がスライドガイド15、係合部14、連結部12及びスパナ部13を介してロックナット2へ伝達され、ロックナット2が回動されて弛められる。
【0025】
このように、本実施形態に係る工具によれば、スパナ部13の係合凹部13aをロックナット2に係合させた状態で、ロングボルト1の頭部1aに対して軸方向へ隙間をあけて配置される係合部14の係合孔14aへ係合させたスライドガイド15を回動させると、この回動力がスライドガイド15、係合部14、連結部12及びスパナ部13を介してロックナット2へ伝達される。これにより、一般的に用いられる棒状のスパナが届かないような狭いスペースに設けられたロックナット2を、ロングボルト1に無理な力を加えず安定した姿勢で容易に回動させ、このロックナット2の締め付け・弛め作業を円滑に行うことができる。
【0026】
そして、この工具11を用いれば、周囲の部品P1〜3による影響を受けることがないので、スライドガイド15を回動させるレンチ21を、ロングボルト1の中心軸Yに対して直交する方向へ配置させて回し、ロックナット2の締め付けを良好に行うことができる。
【0027】
これにより、スライドガイド15を回動させるレンチ21として、トルクレンチを用いれば、ロックナット2を規定のトルクで正確に締め付けることができる。
【0028】
なお、スライドガイド15として、さらに長尺なものを用いたり、スライドガイド15の後端に、スライドガイド15と同一外形の延長バー(図示略)を連結して長さを長くしても良く、このようにすると、レンチ21によってスライドガイド15を回動させる回動箇所を、スパナ部13からより離れた位置にすることができる。これにより、さらに、奥まった位置に配置されたロックナット2に対しても、その締め付け・弛め作業を円滑かつ良好に行うことができる。
【0029】
次に、変形例に係る工具を説明する。
図5に示すように、変形例に係る工具31は、連結部12が、係合部14と一体の固定連結部12Aと、この固定連結部12Aの端部に一端が接続される別体連結部12Bとから構成されている。そして、この別体連結部12Bの他端に、スパナ部13が接続される。固定連結部12Aと別体連結部12Bとの接続箇所及び別体連結部12Bとスパナ部13との接続箇所は、ラチェット構造とされている。このラチェット構造は、角穴部35と、角柱部36とを有しており、角穴部35に角柱部36を嵌合させて接続するものである。角穴部35の内面には、係合溝(図示略)が形成され、角柱部36の外面には、外方へ付勢された係合突起36aが設けられている。そして、角穴部35へ角柱部36を嵌合させると、係合突起36aが係合溝へ係合し、よって、固定連結部12Aと別体連結部12Bまたは別体連結部12Bとスパナ部13が互いに接続される。また、工具31のスライドガイド15には、その保持穴15aの底部に磁石38が設けられている。
【0030】
このような、工具31によれば、異なる長さの各種の別体連結部12B及び係合凹部13aの幅寸法の異なる各種のスパナ部13を用意しておくことにより、ロングボルト1の長さに対応した長さの別体連結部12Bを固定連結部12Aに接続し、また、ロックナット2のサイズに対応したスパナ部13を別体連結部12Bに接続することができる。これにより、ロングボルト1の長さ及びロックナット2のサイズに関わらず、ロックナット2の締め付け・弛め作業を円滑に行うことができる。
【0031】
また、スライドガイド15の保持穴15aの底部に磁石38が設けられているので、ロングボルト1の頭部1aに被せるようにスライドガイド15を取り付け、ロングボルト1の頭部1aを保持穴15aに収容して保持させると、磁石38の磁力によってロングボルト1の頭部1aにスライドガイド15が磁着する。これにより、ロックナット2の締め付け・弛め作業中にロングボルト1の頭部1aからスライドガイド15が外れるような不具合を抑えることができる。特に、頭部1aが下方へ向いたロングボルト1のロックナット2の締め付け・弛め作業を行う際にも、スライドガイド15の脱落を抑制し、ロックナット2に対する締め付け・弛め作業の円滑化を図ることができる。
【0032】
ここで、ロングボルト1のロックナット2に対して、一般的な棒状のレンチで締め付け・弛め作業を行う場合について説明する。
【0033】
図6に示すように、棒状のレンチ51を用いる場合、周囲の部品P1〜3による影響を受けてロングボルト1の中心軸Yに対して斜めに傾けてロックナット2を締め付けなければならない場合がある。このような場合、ロックナット2に対してスパナ部52との係合が不完全となり、無理にレンチ51を回すと、ロックナット2を損傷させてしまうおそれがある。また、図7に示すように、ロングボルト1の中心軸Yに対して直交する方向へ向かうレンチ51の後端までの長さL1が、レンチ51を傾けた場合では、L1よりも短い長さL2となってしまう。すると、レンチ51を回す際のモーメントが小さくなり、レンチ51を回す力が弱くなり、しかも、ロックナット2へ伝わりづらくなってロックナット2の締め付け・弛め作業が良好に行われなくなる。特に、トルクレンチによってロックナット2を規定のトルクで締め付ける場合では、トルクの測定が不正確となり、締め付けトルクにばらつきが生じて正確な規定トルクでの締め付けが困難となる。そして、このような、レンチ51の傾きは、ロックナット2が締め付けられて移動することによりさらに大きくなり、上記の不具合が生じ易くなってしまう。
【符号の説明】
【0034】
1…ロングボルト(ボルト)、1a…頭部、2…ロックナット(ナット)、11,31…工具、12…連結部、13…スパナ部、13a…係合凹部、14…係合部、14a…係合孔、15…スライドガイド(ガイド部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトに螺合されたナットを回動させる工具であって、
前記ナットに係合可能な係合凹部を有するスパナ部と、
前記ボルトの頭部に対して軸方向へ隙間をあけて配置される係合部と、
前記スパナ部と係合部とを連結する連結部と、
前記係合部に形成された係合孔へ挿し込まれて前記係合部と係合するガイド部とを備え、
前記係合部の前記係合孔の中心線と前記スパナ部の前記係合凹部の中央を通る前記スパナ部に対する垂直線とが同軸とされている工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−824(P2013−824A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133046(P2011−133046)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)