説明

工学的に作製されたエアロゾル粒子、およびそれに関連した方法

エアロゾルの適用例で使用される、工学的に作製されたエアロゾル粒子が提供される。工学的に作製されたエアロゾル粒子は、非球形の、加工されたナノ粒子本体部材を含む。加工されたナノ粒子本体部材は、空気流中に混入された場合に自転、転動、または揚力の少なくとも1つをもたらし、それによって、加工されたナノ粒子本体部材の沈降時間が延びるように構成されている。関連ある方法も提供される。本発明の粒子は、この粒子に様々な性質を与える1つまたは複数のカーゴを含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本開示の実施形態は、工学的に作製された粒子、より詳細には工学的に作製されたエアロゾル粒子と、それに関連した方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
粒子は、多くの異なる工業における何万もの製品の、重要な構成要素である。しかしこの時点まで、これらの粒子はその大部分において、サイズおよび形状が多分散性であり、形状に関しては、粒子の生成に使用されたミリングまたはスプレー乾燥プロセスが原因で事実上の球体から粒状または球状に至る形状をしている。一般に、粒子工学は、工学的に作製された粒子のサイズおよび形状の制御を典型的には含んでいなかった。多くの製品用、特に吸入医薬用の粒子は、粒子の生成に使用されるミリングまたはスプレー乾燥プロセスが原因で、サイズおよび形状がもともと多分散性である。さらに粒子は、粒子の改善された空気力学特性をもたらすため前縁渦流および揚力が発生するように、旋条または自転を用いて設計されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、工学的に作製された粒子の標的部位または位置への標的送達が行われるように、空気流中に混入された場合に自転および/または改善された揚力をもたらすための、空気力学的特徴/特性を有する工学的に作製された粒子を提供することが望ましいと考えられる。さらに、そのような空気力学的特徴および/または特性を有する工学的に作製された粒子を加工するための方法を提供することが、望ましいと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の要旨
肺深部へのおよび血液脳関門を横断させる治療薬の送達を含めた多数の分野において有用性のある、工学的に作製されたエアロゾル粒子を設計し加工するための、また新規なセンサープラットフォームとして使用するための、組成物および方法を開示する。具体的には、粒子は、飛行特性(旋条に類似)を制御するためおよび揚力をも発生させるため、空気流中に混入された場合に自転および/または転動を行うことが可能である。これらの特性は、粒子の沈降時間を延ばすのに使用してもよい。そのような能力は、以前は粒子構造内に決して設計されることはなく、これまで得ることのできなかった能力によって、未だ対処されていないニーズに対処できるようになることが期待される。
【0005】
本発明の実施形態は、事前に設計された空気力学的特性を備えたマイクロ粒子および/またはナノ粒子の生成を含む。特に、粒子は、この粒子が自転、転動、および/または揚力を発生させるように設計される。粒子は、前縁渦流を発生させるなどして高い揚力を実現するように、設計することができる。また、粒子は、吸入を介して治療薬送達用に設計することができる。そのような粒子は、肺系の異なる領域に進入できるよう事前に決定された形状を有する。
【0006】
本発明の組成物は、空気力学的特性を有する工学的に作製されたエアロゾル粒子を含む。ある実施形態では、本発明のナノ粒子は、精密に制御された粒度、形状、化学的構成、および/またはその他の粒子特性を有するように、工学的に作製することができる。ナノ粒子のサイズおよび形状に対するそのような精密な制御は、新規な空気力学的性質を備えた粒子をもたらすことができる。所望のサイズおよび形状は、所与のナノ粒子で意図される特定の適用例に左右される可能性がある。
【0007】
いくつかの態様では、本発明は、空気流中で自転および/または転動が行われる特定の形状(例えば、非対称または対称形)を備えたナノ粒子に関する。例えば粒子は、楕円形、ローレンツ形、Y字形、V字形、またはL字形であってもよい。いくつかの態様では、本発明は、前縁渦流の形成などにより揚力を生成するように設計されたナノ粒子に関する。
【0008】
一態様では、加工されたナノ粒子本体部材は、完全に貫通するように画定された少なくとも1個の穿孔を含み、この穿孔は、非円形であってもよい。穿孔は、加工されたナノ粒子本体部材の中心軸に対して非対称に画定されていてもよい。さらに、加工されたナノ粒子本体部材は、複数の相分離材料、多孔性、または異なる密度の組成物を有する粒子を介するなどにより、異方性密度分布を有していてもよい。一実施形態では、加工されたナノ粒子本体部材は、非湿潤鋳型における粒子複製(Particle Replication in Non−wetting Templates)を使用して形成された粒子を含む。
【0009】
いくつかの態様では、本発明の粒子は、この粒子に様々な性質を与える1つまたは複数のカーゴを含んでいてもよい。例えばカーゴは、治療薬、標的薬、造影剤、シグナル伝達物質、および/または感知剤であってもよい。
【0010】
治療薬の場合、粒子のサイズおよび形状を制御することにより、吸入または鼻送達を介した送達によって肺系の異なる領域への進入が可能になるように、この粒子を使用することが可能になる。ある実施形態では、ナノ粒子のサイズは、肺の中の特定の部位への送達をもたらすよう、特に工学的に作製されていてもよい。ある実施形態では、ナノ粒子の形状は、粒子の飛行特性を変化させて肺の中の様々な位置に進入できる機会を開くため、粒子が自転および/または転動するように工学的に作製されていてもよい。いくつかの実施形態では、肺の中の様々な部位に異なるサイズおよび/または形状の粒子を送達するための1種の組成物を生成するのに、粒子の多数のサイズおよび/または形状を組み合わせてもよい。例えば、異なるサイズの粒子を組み合わせた組成物は、ある特定のより大きな粒子を口内でおよび気道の最初の2〜3世代分岐で沈着するように、ならびにある特定のより大きな粒子を肺深部および肺胞領域に沈着するように設計することができる。
【0011】
一態様によれば、工学的に作製されたナノ粒子は、非球形であり、空気流中に混入された場合に自転、転動、または揚力の少なくとも1つをもたらすように構成された、細加工されたナノ粒子本体部材を含む。ナノ粒子本体部材は、加工されたナノ粒子本体部材の沈降時間が延びるように構成されていてもよい。例えば、加工されたナノ粒子本体部材は、同程度の体積である等価な球体よりも、約27〜59%の間で遅く沈降することができる。
【0012】
別の態様は、工学的に作製されたエアロゾルナノ粒子を送達する方法を提供する。そのような方法は、エアロゾル形態に、非球形の複数のナノ粒子本体部材を提供するステップを含む。各ナノ粒子本体部材は、空気流中に混入された場合に自転、転動、または揚力の少なくとも1つをもたらして、加工されたナノ粒子本体部材の沈降時間を延ばすことができるように構成されている。この方法はさらに、ナノ粒子本体部材を空気流中に放出するステップを含む。
【0013】
さらになお別の態様は、エアロゾルの適用例で使用されるナノ粒子を加工する方法を提供する。この方法は、パターニングされた鋳型および基材を提供するステップであって、このパターニングされた鋳型が、内部に形成された複数のリセス領域を有するパターニングされた鋳型の表面を含むものであるステップを含む。この方法はさらに、ある体積の液体材料を、パターニングされた鋳型の表面および/または複数のリセス領域の中または上に配置するステップを含む。この方法はさらに、(a)パターニングされた鋳型の表面と基材とを接触させ、液体材料を処理すること、および/または(b)液体材料を処理することによって、1個または1個より多い粒子を形成するステップを含む。形成された粒子のそれぞれは、非球形であり、空気流中に混入された場合に自転、転動、または揚力の少なくとも1つをもたらして、加工されたナノ粒子本体部材の沈降時間を延ばすことができるように構成されている。
【0014】
したがって本開示の態様は、他に本明細書に詳述されるように、著しい利点を提供する。
【0015】
次に本発明の実施形態の理解を助けるために、必ずしも縮尺に合わせて描かれていない添付図面を参照する。図面は単なる例示であり、本発明を限定するものと解釈すべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本開示の様々な実施形態により粒子を加工することが可能なシステムの概略図である。
【図2】図2Aおよび2Bは、本開示の様々な実施形態による、形状が制御されたエアロゾル粒子の、走査電子顕微鏡法(SEM)画像および蛍光顕微鏡法画像である。
【図3】図3A〜3Nは、本開示の様々な態様による、工学的に作製された粒子の様々な構成を示す。
【図4】図4は、本開示の一実施形態による、肺の適用例で実施可能な工学的に作製された粒子を示す。
【図5】図5は、本開示の様々な態様による、様々な工学的に作製された粒子を示す顕微鏡写真を示す。
【図6】図6は、自転および前縁渦流のメカニズムを示す。
【図7】図7〜19は、本開示の様々な態様を示す概略図および顕微鏡写真である。
【図8】図7〜19は、本開示の様々な態様を示す概略図および顕微鏡写真である。
【図9】図7〜19は、本開示の様々な態様を示す概略図および顕微鏡写真である。
【図10】図7〜19は、本開示の様々な態様を示す概略図および顕微鏡写真である。
【図11】図7〜19は、本開示の様々な態様を示す概略図および顕微鏡写真である。
【図12】図7〜19は、本開示の様々な態様を示す概略図および顕微鏡写真である。
【図13】図7〜19は、本開示の様々な態様を示す概略図および顕微鏡写真である。
【図14】図7〜19は、本開示の様々な態様を示す概略図および顕微鏡写真である。
【図15】図7〜19は、本開示の様々な態様を示す概略図および顕微鏡写真である。
【図16】図7〜19は、本開示の様々な態様を示す概略図および顕微鏡写真である。
【図17】図7〜19は、本開示の様々な態様を示す概略図および顕微鏡写真である。
【図18】図7〜19は、本開示の様々な態様を示す概略図および顕微鏡写真である。
【図19】図7〜19は、本開示の様々な態様を示す概略図および顕微鏡写真である。
【図20】図20〜26は、本開示の様々な態様による実験的試験から得られた様々な例示的な結果を示す。
【図21】図20〜26は、本開示の様々な態様による実験的試験から得られた様々な例示的な結果を示す。
【図22】図20〜26は、本開示の様々な態様による実験的試験から得られた様々な例示的な結果を示す。
【図23】図20〜26は、本開示の様々な態様による実験的試験から得られた様々な例示的な結果を示す。
【図24】図20〜26は、本開示の様々な態様による実験的試験から得られた様々な例示的な結果を示す。
【図25】図20〜26は、本開示の様々な態様による実験的試験から得られた様々な例示的な結果を示す。
【図26】図20〜26は、本開示の様々な態様による実験的試験から得られた様々な例示的な結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
好ましい実施形態の詳細な説明
次に本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら、以下、より十分に記述する。本発明は、多くの異なる形に具体化することができ、本明細書に記述される実施形態に限定されると解釈すべきではなく;むしろこれらの実施形態は、本開示が、適用可能な法的要件を満足させるように示されるものである。同様の符号は、全体を通して同様の要素を指す。
【0018】
前縁渦流の生成による自転および揚力の発生を含む、制御された飛行特性は、大変興味深いものである。簡単な旋条によって引き起こされたような自転は、弾丸の性能上の利点をマスケット弾以上に基本的には変化させてきた。D.Lentinkらは、カエデおよびその他の木の自転している種子の、思いがけずに高い揚力について記述しており(図6参照)、この高い揚力は、種子が降下するにつれて発達する安定な前縁渦流を介して実現されることを見出しており(Science 324号:1438〜40頁(2009年))、この文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれるものである。Charles P.Ellingtonらは、昆虫の飛行について研究し、昆虫の飛行を安定に保つ高い揚力は、羽の上から下への運動中に形成される羽の上方の強力な前縁渦流の結果であると結論付けており(Nature 384号:626〜30頁(1996年))、この文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれるものである。
【0019】
前縁渦流の生成を通した自転の発達および揚力の発生は、粒子用にはまだ検討されていない。今日まで粒子は、前縁渦流および揚力を発生させる旋条または自転を想定した状態では決して設計されてこなかった。空気流中に混入された粒子の飛行性能および特性の制御は、これまで、様々な分野で幅広い有用性のある利用不可能な性質をもたらす可能性があった。
【0020】
図3A〜3Nは、本開示による、工学的に作製されたエアロゾル粒子の様々な実施形態を示す。一実施形態では、粒子の加工において、図1に概ね示されるようにトップダウンマイクロおよびナノ加工技法(a top−down micro− and nano−fabrication technique)PRINT(登録商標)(Particle Replication in Non−wetting Templates)(Liquidia Technologies,Inc.、Research Triangle Park、N.C.)が行われる。その全体が参照により本明細書に組み込まれる2004年12月20日に出願されたDeSimoneらの米国公開第2009/0028910号を参照されたい。PRINT(登録商標)は、精密に制御されたサイズ、形状、化学的構成、および機能性を有する工学的に作製されたマイクロおよびナノ粒子の発生を可能にする、プラットフォーム技術である。PRINT(登録商標)は、有機および無機の、形状が制御された、工学的に作製された粒子と、2次元アレイの粒子とを作製するのに有用な、最初の拡張可能なトップダウン加工プロセスである。PRINT(登録商標)は、様々なプロトタイプデバイスの構築に向けて、これら新しい材料を実用レベルにまでスケールアップすることができる、連続的なロールツーロール加工技法に適している。この点に関し、PRINT、連続的ロールツーロールナノおよび微細加工プロセスを使用して、独自の粒子形状を設計し加工することができる。ある場合には、形状特異的な工学的に作製されたエアロゾルは、治療薬、ワクチン、および化学/生物センサーからなるものであってもよい。
【0021】
本明細書に開示される、工学的に作製されたエアロゾル粒子は、理想的なナノ粒子送達ビヒクルのパラメーターの所定の工学的作製を可能にする、PRINT(登録商標)技術を使用して加工してもよい。PRINT(登録商標)技術は、マスター鋳型上でマイクロまたはナノサイズの構造を複製するのに、液体ポリマーまたはFluorocur(商標)(Liquidia Technologies,Inc.、Research Triangle Park、N.C.)を利用する。PRINT(登録商標)型で利用されるポリマーは室温で液体であり、エラストマー固形分に光化学的に架橋することができ、その結果マイクロまたはナノサイズの構造の高分解能複製が可能になる。次いで液体ポリマーを、マスターに接触させながら硬化し、それによってマスター上の構造のレプリカ画像が形成される。マスター鋳型から硬化した液体ポリマーを取り外すと、硬化した液体ポリマーは、マスター鋳型のマイクロおよびナノサイズのフィーチャーのキャビティーまたはリセスレプリカを含むパターニングされた鋳型を形成しており、硬化した液体ポリマー中のマイクロおよびナノサイズのキャビティーは、高分解能マイクロまたはナノ粒子加工に使用することができる。本発明の型を加工するのに使用される材料、およびこの型でマイクロまたはナノ粒子を成型する方法の、より詳細な記述に関しては、そのそれぞれの全体が参照により本明細書に組み込まれる:2006年6月19日出願の米国特許出願第10/583,570号、2006年11月7日出願の同第11/594,023号、2005年6月17日出願の同第11/921,614号、2007年7月17日出願の同第11/879,746号、2006年12月4日出願の同第11/633,763号、2009年1月14日出願の同第12/162,264号、2009年9月30日出願の同第12/439,281号、2008年10月13日出願の同第12/250,461号、および2009年12月3日出願の同第12/630,569号と:2004年12月20日出願のPCT国際特許出願第PCT/US04/42706号;2006年6月19日出願の第PCT/US/06/23722号;2006年9月7日出願の第PCT/US06/34997号;2006年11月7日出願の第PCT/US06/43305号;2007年1月29日出願の第PCT/US07/02476号;2009年3月4日出願の第PCT/US09/36068号;2009年4月23日出願の第PCT/US/09/041559号;および2009年4月24日出願の第PCT/US09/041652号を参照されたい。また、そのそれぞれの全体が参照により本明細書に組み込まれる:2003年12月19日出願の米国仮特許出願第60/531,531号;2004年6月25日出願の同第60/583,170号;2004年8月27日出願の同第60/604,970号;2005年6月17日出願の同第60/691,607号;2005年9月7日出願の同第60/714,961号;2006年1月27日出願の同第60/762,802号;2006年5月9日出願の同第60/798,858号;2005年11月7日出願の同第60/734,228号;2006年1月9日出願の同第60/757,411号;2006年5月12日出願の同第60/799,876号;2006年7月27日出願の同第60/833,736号;および2006年10月9日出願の同第60/828,719号も参照されたい。
【0022】
図1に示されるように、マスター鋳型(灰色)は、先進のリソグラフィーの技法を使用して加工される。次いで独自の液体フルオロポリマー(緑色)をマスター鋳型の表面に添加し、光化学的に架橋し(上列、左)、次いで剥離して、マイクロまたはナノスケールのキャビティーを有する精密な型を生成する(上列、中央)。PRINT(登録商標)型の低い表面エネルギーおよび高いガス透過率により、液体前駆体(赤色)を粒子にすることが可能になり、毛管上昇を通してキャビティーを満たすことができる(上列、右)。キャビティー間のランドエリアを湿潤させる液体の相互に接続している「フラッシュ」層は、形成されていない(下列、右)。型のキャビティー内の液体が固体に変換したら、型を接着層(黄色)に接触させることによって型(緑色)から粒子の列(赤色)を取り外すことができる(下列、中央)。
【0023】
いくつかの実施形態によれば、本発明の方法は:i)100nmの長さのスケールに至るフィーチャーを備えた工学的に作製されたエアロゾル粒子を加工するための、PRINT(登録商標)技法の開発;ii)計算流体力学分析を含めた、様々な工学的に作製された粒子の形状のエアロゾル化特性の評価;iii)肺および中枢神経系(CNS)に治療薬を送達する新しい能力を提供する、工学的に作製されたエアロゾル粒子を作製するための、PRINT(登録商標)の有用性の実証;およびiv)工学的に作製されたエアロゾル粒子に、感知、シグナル伝達、およびタガントの能力を組み込む機会の評価として描かれる。
【0024】
本発明の粒子は、粒子が空気流に捕えられたときに自転、転動、および/または揚力をもたらす、特定の設計された形状に加工することができる。これらの特性は、粒子の沈降時間を延ばすように構成することができる。したがって、そのような粒子は、離れているエアロゾルクラウドを評価するための新しいセンサープラットフォームとして役立てることができる。この点に関し、工学的に作製されたセンサープラットフォームは、大量の砂漠の砂塵が海洋の障壁を越えて北アフリカのサハラ領域から毎年大気中を動くことができるように、地球全体を移動することが可能と考えられる。ある場合には、自転粒子は、弾丸の旋条のように設計された場合に吸入粒子を呼吸樹内でより容易に誘導可能にして、肺深部にカーゴを沈着させ送達させると考えられる。そのような開発は、ワクチンの送達と、細菌感染、嚢胞性線維症、気腫、および肺癌の治療とに非常にインパクトがあると考えられる。粒子は、鼻内経路を介して血液脳関門を横断するように工学的に作製されてもよい。そのような粒子は、中枢神経系(CNS)への薬物の直接送達を通した疼痛の治療に、またはパーキンソン病や脳腫瘍を含めたその他の脳疾患の治療に役立てることができる。したがって、本開示により工学的に作製されたエアロゾルは、この分野での展開に適するような十分なスケールで大量に形状が制御されたマイクロおよびナノ粒子を生成することができる、連続ロールツーロールプロセスを使用して、加工し大量生産することができる。さらに、そのような粒子は、例えば監視、化学的/生物学的検出および緩和と、治療能力などの機能を可能にする属性と共に、具体化することができる。
【0025】
粒子は、多くの異なる工業において、何万もの製品の重要な構成要素である。しかしこの時点までに、これらの粒子は大部分が、サイズおよび形状において多分散性であり、その形状は、粒子の生成に使用されたミリングまたはスプレー乾燥プロセスが原因で事実上の球体から粒状または球状にまで及んでいた。PRINTと呼ばれる粒子を加工するための本発明者らの手法は、半導体工業からのマイクロおよびナノ加工技法を活用するトップダウンの手法であり、工学的に作製された粒子を作製するために、ハイスループットの連続ロールツーロールプロセスにまで拡大される。PRINT(登録商標)は、シリコーンの代わりに、シリコーンでは不可能な3つの明確に異なる特徴をもたらすエラストマーフルオロポリマー(光化学的に硬化可能なパーフルオロポリエーテル[PFPE])を使用する点が、Whitesidesらにより広められたインプリントリソグラフィー技法よりも独特なものであり、その3つの特徴とは:i)PFPEは、相互接続している「フラッシュ層」を形成することなく明確に異なる物体または粒子をマイクロおよびナノスケールで形成することを可能にする任意の有機液体を使用して、すなわちキャビティーの周りのランドエリアを湿潤させることのない任意の有機液体を使用して、型内でのナノスケールのキャビティーの選択的充填を可能にする非常に低い表面エネルギーを有し9〜13;ii)有機液体およびゾルゲル金属酸化物前駆体は、シリコーンに対してそうであったようにフルオロポリマーを膨潤させず;およびiii)PFPE型のTeflonのような特性によって、得られた粒子を型から容易に回収することが可能なことである。PRINT(登録商標)は、粒度(20nmから>20ミクロン)、形状、化学組成(有機/無機、中実/多孔質)、カーゴ(マグネタイト、バイオセンサー、治療薬、タンパク質、オリゴヌクレオチド、siRNA、RFIDタグ、造影剤)、モジュラス(堅さ、変形性)、および表面化学物質(抗体、PEG鎖、金属キレート剤)であって、粒子表面のリガンドの空間分布も含めたものの制御により、精密に画定されたマイクロおよびナノ粒子の加工を可能にする。本発明者らの以前の研究は、何十もの異なるヒドロゲル材料、生分解性ポリラクチド、チタニア、チタン酸バリウム、酸化スズなどを含めた広範な化学物質から、精密に画定されたPRINT粒子を作製できることを示した。PRINT(登録商標)は、易流動性粉末、等方的におよび外部場(電気および磁気)により配列したコロイド状分散液、ナノ粒子の2および3次元アレイを含めた形状因子でそのような多様な範囲の化学物質から真に工学的に作製された粒子を生成することができる、唯一の粒子技術である。
【0026】
形状特異的なPRINT(登録商標)粒子は、静脈内注射を介した化学療法薬およびワクチンの標的送達に使用することができる。マイクロおよびナノ粒子(ポリマーヒドロゲルから作製)のサイズおよび形状は、動物の全身におけるエンドサイトーシスや生体内分布などの基本的な生物学的プロセスで、ある役割を演ずる。さらに、PRINT(登録商標)粒子は、造影剤および低MW細胞毒の担体およびsiRNAのような生物学的カーゴに使用してもよい。最近、本発明者らは、PRINT(登録商標)を使用して純粋な生体材料から粒子を作製できることを実証した
【0027】
本発明の実施形態は、エアロゾル粒子を工学的に作製するために、制御されたサイズおよび形状の粒子を作製するのにPRINT(登録商標)を活用する。工学的に作製されたエアロゾル粒子は、無数の適用例で要求が満たされていないニーズに対処するための、かなりの潜在的可能性を有している可能性がある。特に、本開示の実施形態は:i)100nmの長さのスケールに至る特徴を備えた工学的に作製されたエアロゾル粒子を加工するため、PRINT(登録商標)を開発するのに;ii)計算流体力学分析を含めた、様々な工学的に作製された粒子の形状の散乱技法およびAnderson Cascade Impactor分析を使用して、エアロゾル化特性を評価するのに;iii)肺およびCNSに治療薬を送達する新しい能力を提供する、工学的に作製されたエアロゾル粒子を作製するための、PRINT(登録商標)の有用性を実証するのに;およびiv)工学的に作製されたエアロゾル粒子に、感知、シグナル伝達、およびタガントの能力を組み込む機会を評価するのに、使用することができる。
【0028】
1)工学的に作製されたエアロゾル粒子の設計および加工。
【0029】
工学的に作製されたエアロゾルの有効な設計は、a)低い充填密度をもたらす粒子形状(非入れ子形状)、b)低い粒子間相互作用(長い保存期間による粒子凝集およびバルク粉末を防止するため)、c)所与の適用例で飛行中特性をもたらす適切なサイズおよび形状、およびd)所望の機能をもたらす粒子の化学組成を含めた、いくつかの必須設計基準を必要とする。吸入治療薬の分布の理解および制御は、当分野における最大の課題の1つである。伝統的な見方は、粒子の沈着が3つのメカニズムによって、すなわち:粒子の滑り、形状、および密度の影響を受ける、衝突、沈降、および拡散によって、支配されるということである。高度な空気力学的物理は、任意の数の吸入器を使用して送達された粒子の流動性を予測することができ、肺の中での沈着部位を予測することができる14。空気力学的直径(dae)は、空気力学的物理で最も重要なパラメーターの1つであり、粒子がどのようにうまく肺に進入するか、粒子が肺の中でどのくらい遠くまで移動するか、および粒子がどこに沈着するかの強力な予測子である。大きな粒子(dae>5μm)は、主に口内でおよび慣性衝突により気道の最初の2〜3世代分岐で沈着する15。より小さい粒子(1<dae<5μm)の沈着は、慣性衝突と沈降との組合せによって決定され、主に、中枢および末梢気道内と肺胞性肺領域内とに沈着する。非常に微細な粒子(dae<1μm)の沈着は、拡散によって制御され、通常は吐き出され、肺の中に効率的に沈着することができない。1から5μmの間のdaeを有する粒子は、肺深部および肺胞領域に到達することができるので、通常は薬物送達の目的で望まれている16、17。別の考えられる方策は、「大きな多孔質粒子」(LPP)を開発することである。1未満の密度では、LPPは、10〜20μmの範囲の幾何学的直径を有することができる18。LPP粒子は、より小さい粒子と比べた場合、充填された乾燥粉末から分散することがより容易であることが見出された。さらに、これらの大きな粒子は、より小さな粒子のように容易にマクロファージによって封鎖されず、より長く持続する治療効果を可能にすることができる。
【0030】
この理解に基づいて、本開示の実施形態は、粒子の形状が粒子のエアロゾル化特性に対しても演じる役割を考慮に入れる。特に自転は、旋条がマスケット弾に比べて弾丸の軌道に影響を及ぼすように、粒子の飛行特性においてある役割を演じると考えられる。これまで、粒子の軌道に対する自転の役割について、誰も調査してこなかった。しかし、種子の分散特性における自転の役割について、いくつかの興味深い研究がある。事実、Science19の最近の号では、研究者は、その分散可能性に寄与する「ヘリコプター」カエデ種子の前縁渦流の実現について報告している。本開示の様々な態様によれば、図3A〜3Nに示される系統だった一連の粒子形状は、粒子のエアロゾル化特性に対して形状が有することになる役割を検討するために、加工することができる。粒子設計のいくつかは、粒子が空気流中に混入された場合に自転および/または転動を誘発し得る。さらに、形状のいくつかは、前縁渦流の形成を通して揚力が生成されるように設計することができる。そのような渦流を生成するのに、粒子の縁部の1つを薄くする必要がある場合、溶解可能な構成要素を有する型の部分充填は、図5に示されるように、薄くなった縁部が生成されるように行うことができる。高さ最大100nmの表面アスペリティーまたは制御された表面粗さは、凝集を妨げるように入れ子状になっていない幾何形状を生成することによって、粒子間相互作用を低下させるためのメカニズムを提供することもできる。
【0031】
図3C、3D、3E、3K、および3Lを参照すると、そのような構成は、一般に「ローレンツ」形状と呼ばれる。ローレンツアトラクターは、所与の領域における対流の研究に使用される、Navier−Stokes方程式の単純化に基づいたカオス的アトラクターである。これらの方程式を以下に示す:
dx/dt=σ×(y−x)
dy/dt=ρ×x−y−x×z
dz/dt=x×y−b×z
(式中、σはプラントル(Pradlt)数であり、
【0032】
【化1】

ρは、容器の上部と底部との間の温度の差であり、
bは、考えられる「ボックス」の高さの比であり、
x、y、zは、空間座標である。)
σ、ρ、およびbはユーザー定義パラメーターであるので、ローレンツアトラクターはその形状を大きく変えることができる。
【0033】
また、ローレンツアトラクターは3次元系であり、最も一般的な眺めは、xy、yz、またはxz平面への単なる投射である。図示されるように、「ローレンツ」形状の粒子は、様々なローブおよびアパーチャーサイズを有していてもよい。実際の「ローレンツ」粒子ダイアグラムは、直角に接合された2つの合同な楕円からなる。これは、ローレンツアトラクターの投射に対して数学的に等価ではないが、モデル化する形状は、インスパイヤリングアトラクターの投射外観を凡そ模倣する。そのような構成は、非対称の質量分布と、左と右のローブ間の空気力学的性質の差を、提供することができる。アパーチャーを有するローブは、左に引っ張られており、ならびに粒子が落下するときの空気流とは剪断および圧力が異なっている質量中心によって、空気力学的挙動を経験することができる。そのような形状は、何らかの形の回転を誘発させることができる。
【0034】
いくつかの実施形態によれば、工学的に作製された粒子は、非対称および/または非球体の形状に(例えば、主に、均一な厚さの2次元フィーチャーから)より生成することができる軸外質量中心を有する。軸外質量中心は、質量および密度分布の異方性(穿孔またはアパーチャー、および/または異なる相分離材料)によって生成してもよい。各粒子10は、異なる転動特性を生成するために1つまたは複数の穿孔12を含んでいてもよく、この穿孔は、粒子によって完全にまたは部分的に画定された任意のキャビティー、穴、またはアパーチャーなどにすることができる。図3A、3B、3D、3H、および3Lに示されるように、穿孔12は、楕円形、細長い形、または非円形を有していてもよいが、粒子の空気力学特性を変化させるために必要に応じてその他の形状を使用してもよい。さらに、穿孔12は、粒子の中心軸「C」に対して非対称的に画定されてもよい(例えば、図3A参照)。工学的に作製された粒子は、前縁渦流などを介して揚力が生成されるように、さらに構成することができる。さらに、工学的に作製された粒子は、ステルスおよび/または標的機能に向けた表面機能化を含むことができる。さらに、工学的に作製された粒子は、エアロゾル化を容易にするために非インターロッキングフィーチャーを有していてもよい。また、工学的に作製された粒子は、真に3次元の前縁および後縁(エアロフォイル断面および変厚フィーチャー)を含んでいてもよい。
【0035】
上述のように、図3A〜3Nは、様々な例示的な粒子形状を例示する。この点に関し、図3A、3B、3G、および3Hは楕円形状の粒子を例示し、図3C、3D、3E、3K、および3Lは、「ローレンツ」形状粒子を示し、図3F、3I、3J、3M、および3Nは「球−棒」構成を示す。球−棒形状は、1つまたは複数の長方形または細長い部分16と、1つまたは複数の丸みの付いたまたは球状の部分14とを有する、任意の形状であってもよい(例えば、図3J参照)。例えば球−棒構成は、I、L、V、Y、X、または「ダンベル」形状にすることができる。球−棒構成は、中心もしくはハブ部分に接合された多数の剛性もしくは可撓性部分(例えば、ストリング状のアーム)、または粒状もしくは球状の形状になるようにかつ飛行中に膨張するように構成された細長い部分を含んでいてもよい。さらに、粒子が複数の球−棒を含む場合、この球−棒は、互いに対して放射状にまたは対称的に配列されていてもよく、2次元(例えば、Y字型)または3次元(例えば、トライポッド型)粒子であってもよい。
【0036】
粒子は、その空気力学的飛行特性に影響を及ぼすように設計することができる。大まかに言うと、粒子は、3つの主な飛行特性、すなわち:自転、転動、および/または揚力発生を示すように設計される。主な飛行モードでは、以下に解明されるように、粒子が特定の沈着パターンをin vivoで生成する可能性がある。自転は、厳密に中心軸を中心とした面内回転に、または中心流線に結合された螺旋運動(旋条に類似)に、さらに区別することができる。面内自転は、中心軸から放射状に延びる多数の対称的に配列されたアームまたは表面を備えた粒子にとって、主なモードとなる可能性がある。そのような粒子は、かなりの大きさの2次流れおよび乱流の影響を受けない限り、流れの流線に密接に従う可能性があり、または物理的妨害によって妨げられる。この運動は、ゼロ流速条件下での沈降の場合のように、流れ速度が反作用的流体抵抗に等しいレベルまたはそれよりも低いレベルにまで低下するまで持続する可能性がある。In vivoでは、そのような粒子は、流線に従うことができるので、肺深部沈着パターンを示す、より高い可能性を有することができる。
【0037】
螺旋自転は、中心軸の周りに非対称に配列された多数の放射面を備えた粒子で起こり易く、それによって、軸外重力中心(「CG」)が生成される。螺旋の半径は、中心軸からのCGの偏心の大きさに比例する。しかし、螺旋状に運動する粒子は、流れの流線に緩く結合されている可能性があり(高い遠心力により)、流れ速度、2次流れ、および乱流の変化をより受け易い。この運動は、ゼロ流速条件に至るまで持続する可能性があり、肺沈着に関してはそのような粒子が、その画定された螺旋よりも小さい直径の気道壁面に影響を及ぼすという、より高い可能性がある。
【0038】
放射状のアームを持たない非対称粒子は、その主な飛行モードのように、「転動」を示す可能性がある。CGが、流れの流線(通常は、z軸)を示す長軸からずれており、しかし流れに直角な平面で均衡をとっている粒子は、残りの2つの軸の1つを中心として主に転動する傾向がある。しかし、CGが3つの軸全てからずれている真に非対称な粒子は、複雑な転動メカニズムを示す可能性がある。これらの粒子の肺沈着パターンは、流れの流線に非常に密接に従わない傾向があるので、比較的予測不可能である。その結果、これらは、呼吸管の太い気道内で、分岐部で、および閉塞付近で、すなわち主に肺上部で、容易に衝突する可能性がある。そのような粒子の沈着パターンは、高度な計算流体力学(CFD)モデリングソフトウェアにより予測することができ、MRI、CT、およびその他の放射性標識撮像様式を使用した高分解能肺撮像によって検証することができる。
【0039】
揚力発生設計は、エアロフォイル表面、流線縁部、または、低レイノルズ数(Re)層流レジームでより長く浮遊し続ける粒子の能力を増大させることができるその他のフィーチャーを、組み込んでもよい。これらの粒子は、粒子をさらに安定させかつ追加の揚力を発生させる、前縁渦流を誘発するように設計されてもよい22。そのような粒子は、安定で流線状の飛行パターンを示す傾向があり、かつゼロ流速沈降条件下の沈降時間が延びる。これらの粒子は、やはり同等の空気力学的直径の球状粒子よりも、細い気道および終末細気管支に沈着する可能性が高い。
【0040】
一実施形態では、粒子は、自転、転動、および/または揚力発生、これらの特性の2つ以上の組合せ、または3つ全てを示す。しかし、表面(例えば、エアロフォイル、フィン、スタビライザーなど)、穿孔、表面改質(例えば、溝、隆線、ステルス化剤など)、組成物、および/または外部制御メカニズム(例えば、例として磁場)であって追加の揚力、安定化、流線化、または飛行制御をもたらすものを使用することによって、より高度な設計を考えることが可能である。これらは、粒子を単一モードの飛行、流れレジーム、または治療薬施用の場合には標的解剖学的部位にするために、独立してまたは組み合わせて使用してもよい。
【0041】
本発明の特定の実施形態に関し、楕円およびローレンツ形状の粒子は、自転と軸外転動との両方を促進させるように構成されていてもよい。一実施形態では、ローレンツ粒子は、単軸を中心とした転動を促進させるように構成され(例えば、図3C参照)、一方、ローレンツ粒子(particular)への穿孔の導入は、2本の軸を中心とした転動を容易にする(例えば、図3D参照)。楕円形状の粒子は、同様の飛行変更特性(すなわち、自転および転動の両方に影響を及ぼす。)に合わせて構成されていてもよく、一部の楕円形粒子は単軸(例えば、図3G参照)または2本の軸(例えば、図3G参照)を中心とした転動を促進させる。さらに、対称形状の粒子(例えば、図3Fに示されるように放射状に配列された粒子)は、中心軸を中心とした自転を促進させることができる。さらに、球−棒構成は、転動を促進させるが自転は促進させない可能性がある(例えば、図3J、3M、および3N参照)。
【0042】
このように、各粒子は、選択された形状とは無関係に1つまたは複数の飛行特性を促進させるように、ならびに球状およびその他の標準形状の粒子に比べて粒子の沈降時間を延ばすように、構成されていてもよい(下記の実施例6参照)。粒子は、対称にすることができかつ質量の軸上中心を有することができ、または、非対称にすることができかつ質量の軸外中心を有することができる。粒子は、特定の非対称形状を有していてもよく、またはその非対称性を高めるために追加のフィーチャーを含んでいてもよい。例えば粒子は、不均衡なCGが生成され、それによって自転、転動、および/または揚力が誘発されるように、穿孔することができる。質量は、非対称を高めるために粒子に付加することもできる(例えば、丸みの付いた部分14が追加の質量を付加するのに用いられている図3J参照)。さらに粒子は、特定の方向に密度を再分布させることによって、マトリックスの異方性の調節を促進させることができる。さらに、粒子の前縁または後縁は、異なる断面を含んでいてもよく(例えば、長方形)、エアロフォイル断面または揚力発生表面を有する粒子を使用することなどによって、揚力が助長されるように修正してもよい。したがって、任意の数の因子は、通常の飛行特性を修正するために特定の粒子に応じてカスタマイズすることができる。通常の飛行特性のそのような修正は、沈降時間を延ばすことができ、それによって、空気流中の粒子の送達が変化する。飛行時間を延ばすことにより、これらの粒子が肺の中でより深く沈着する可能性も、増大する。さらに粒子は、気道分岐(正常な肺の)および閉塞気道(例えば、COPDおよび喘息の場合)で2次流れの影響を受ける可能性がある。これは、解剖学的に異なる沈着をもたらす可能性があり、呼吸管の特定の気道世代および領域を標的とすることが予測される。
【0043】
2)工学的に作製されたエアロゾルのエアロゾル化特性の評価。
【0044】
エアロゾル粒子は、粒子散乱技法、8段階Anderson Cascade Impactor分析20、3D速度場を測定するためのステレオデジタル粒子画像速度測定(DPIV)19、および計算流体力学を含めたいくつかの技法によって、分析されることになる。Anderson Cascade Impactorは、乾燥粉末のエアロゾル化分析を可能にする。この技法では、一連のバッフル内で粒子をエアロゾル化し、様々な粒子を複数段階のそれぞれで収集することができる。各段階で収集された質量は、特定段階のオリフィス速度、オリフィス間の距離、収集表面、および先行する段階の収集特性に左右される。一定の流量と、複数段階のそれぞれで連続的に小さくなっていくオリフィスとの組合せは、サンプル空気が衝突子を流れていくにつれサンプル空気の速度を増大させ、その結果、後続の段階で漸進的に小さくなっていく粒子の衝突をもたらす。次いで空気力学的サイズ分布は、様々な段階で見出された粒子の質量分率を定量することによって、決定することができる。本発明者らは、DPIVを使用して、新しい粒子設計の動的縮尺モデルの周りの3次元流れも測定することになる19
【0045】
3)肺およびCNSに治療薬を送達するために工学的に作製されたエアロゾル粒子。
【0046】
肺薬物送達経路には、局所および全身送達の両方に関し、その他の方法に勝る多くの利点がある。例えば治療薬の吸入は、全身毒性を制限しながら、呼吸器疾患を治療する高濃度の薬物を標的送達することが可能である。あるいは、肺の広い表面積および高い溶質透過率は、経口的に送達することができず、または全身に送達したときに不十分な治療効力を発揮する治療薬および生物製剤(例えば、ペプチドおよびタンパク質)の、全身吸収のための非侵襲性経路を提供することができる。しかし、吸入薬物送達の現行の方法は、非効率的な送達システムおよび各薬物の個々の生化学的性質により課された制約によって、損なわれている。多くの不溶性小分子および生物製剤(siRNA、抗体)を含めた既存のおよび明らかになりつつある新しい薬物の多くを、「粒子状にする」ことに課題がある。モノクローナル抗体は、今日、注射または静脈内輸液を介してのみ送達される。生物学的治療薬に関する代替の送達経路に、かなりの関心が持たれている。鼻送達は、その便利さにより、および鼻微絨毛により生じた吸収用の広い表面積により、魅力的である。経鼻経路21を介した非侵襲性の、脳に対する生物学的治療薬、特に疼痛管理、嚢胞性線維症、および糖尿病管理用の治療薬の、直接投与経路も非常に望ましい。
【0047】
工学的に作製された粒子の自転は、肺系内で粒子の飛行特性を劇的に変化させることができ、鼻内経路を介して肺深部への進入およびCNSへの直接進入の機会を広げる。粒子の沈着およびクリアランスの初期スクリーニングは、Tc99m標識粒子の平面γシンチグラフィーを使用して、ラットモデルの鼻道で研究されることになる。所望の沈着部位をもたらすのに最良と見なされる粒子の形状およびサイズを特定した後、後続の研究は、γ(平面およびSPECT)、ポジトロン放出(PET)、および磁気共鳴(MRI)撮像を利用し、比較して、下気道からのクリアランスを評価するよう設計することができる。ガドリニウムは常磁性が高く、水プロトンの縦緩和に計り知れない影響を及ぼして、磁気共鳴撮像において超強度シグナルをもたらす。Gd3+イオンは、DOTA(1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,N’,N”,N’”−4酢酸)またはDTPA(ジエチレントリアミン5酢酸)などの多座配位子を介して、本発明者らの粒子に結合されることになる。テクネチウムは、寿命の短いγ放出核異性体99mTcであり、SPECT撮像を含めた広く様々な診断試験用に核医学で使用される。64Cuは、マイクロPET/CT撮像に有用な寿命の長いポジトロン放出体である。ガドリニウムと同様に、64Cuおよびテクネチウムは、多座配位子と錯体を形成する。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態では、本発明の工学的に作製された粒子は、内部に充填されたまたはそこに結合されたカーゴとして、1種または複数の治療薬を保持する。工学的に作製された粒子が、カーゴとして少なくとも1種の治療薬を含む場合、単一の薬剤および薬剤の組合せは、同じ工学的に作製された粒子内に含有されていてもよいことが認められる。このように、ある場合には、本発明の工学的に作製された粒子は、粒子の均質な混合物であり;すなわち同じカーゴまたは(1種または複数の)薬剤を含有する粒子の混合物である。あるいは、本発明の工学的に作製された粒子の組成は、粒子の不均質な混合物を含む。すなわち、異なるカーゴまたは薬剤を含有する粒子は、混合されてもよく、その必要がある被験体に投与されてもよい。
【0049】
その意図される治療薬の用途に応じ、本発明の工学的に作製された粒子は、問題となっている1種または複数の治療薬を含むことができる。そのような薬剤は、小分子医薬品、治療用および診断用タンパク質、抗体、DNAおよびRNA配列、造影剤、およびその他の活性医薬品成分を含むが、これらに限定するものではない。活性剤は、上記列記された活性剤タンパク質を含む。活性剤には、鎮痛薬、抗炎症薬(NSAIDを含む。)、抗癌剤、抗代謝剤、駆虫薬、抗不整脈薬、抗生剤、抗凝固薬、抗うつ薬、抗糖尿病薬、抗てんかん薬、抗ヒスタミン、降圧剤、抗ムスカリン薬、抗ミコバクテリア薬、抗悪性腫瘍薬、免疫抑制剤、抗甲状腺薬、抗ウイルス薬、抗不安鎮静薬(催眠薬および神経弛緩薬)、収斂薬、β−アドレナリン受容体遮断薬、血液製剤および代用薬、心臓変力剤、造影剤、コルチコステロイド、咳止め(去痰薬および粘液溶解薬)、診断薬、画像診断薬、利尿薬、ドーパミン作動薬(抗パーキンソン病薬)、止血剤、免疫薬、治療用タンパク質、酵素、脂質調節剤、筋弛緩剤、副交感神経興奮薬、副甲状腺カルシトニンおよびビホスホネート、プロスタグランジン、放射性医薬品、性ホルモン(ステロイドを含む)、抗アレルギー薬、刺激薬および食思減退薬、交感神経興奮薬、甲状腺薬、血管拡張剤、キサンチン、および抗ウイルス薬も含まれるが、これらに限定するものではない。
【0050】
抗癌剤には、アルキル化剤、抗代謝剤、天然物、ホルモン、トポイソメラーゼI型阻害剤、トポイソメラーゼII型阻害剤、RNA/DNA抗代謝剤、DNA抗代謝剤、有糸分裂阻害剤および拮抗薬、および放射線増感剤などのその他の薬剤が含まれるが、これらに限定するものではない。アルキル化剤の例には、クロルメチン、クロラムブシル、メルファラン、ウラムスチン、マンノムスチン、エキストラムスチンホスフェート、メクロル−タミノキシド、シクロホスファミド、イホスファミド、およびトリホスファミドなどのビス−(2−クロロエチル)−アミン基を有するアルキル化剤;トレタミン、チオテパ、トリアジクオン、およびミトマイシンなどの置換アジリジン基を有するアルキル化剤;ブスルファン、ピポスルファン、およびピポスルファムなどのアルキルスルホネート型のアルキル化剤;カルヌスチン、ロムスチン、セムスチン、またはストレプトゾトシンなどのアルキル化N−アルキル−N−ニトロソ尿素誘導体;およびミトブロニトール、ダカルバジン、およびプロカルバジン型のアルキル化剤が含まれるが、これらに限定するものではない。例えば、米国特許第5,399,363号を参照されたい。有糸分裂阻害剤には、アロコルヒチン、ハリコンドリンB、コルヒチン、ドラスタチン、マイタンシン、リゾキシン、タキソールおよびタキソール誘導体、パクリタキセル、硫酸ビンブラスチン、および硫酸ビンクリスチンなどが含まれる。トポイソメラーゼI型阻害剤には、カンプトテシン、アミノカンプトテシン、カンプトテシン誘導体、およびモルホリノドキソルビシンなどが含まれる。トポイソメラーゼII型阻害剤には、ドキソルビシン、アモナフィド、m−AMSA、アントラピラゾール、ピラゾロアクリジン、ダウノルビシン、デオキシドキソルビシン、ミトキサントロン、メノガリル、N,N−ジベンジルダウノマイシン、オキサントラゾール、およびルビダゾンなどが含まれる。その他の抗癌剤には、シクロスポリン、アザチオプリン、スルファサラジン、メトキサレン、およびサリドマイドなどの免疫抑制剤を含めることができる。
【0051】
抗代謝剤には、メトトレキセートなどの葉酸類似体;フルオロウラシル、フロキスウリジン、テガフール、シタラビン、イドキスウリジン、およびフルシトシンなどのピリミジン類似体;およびメルカプトプリン、チオグアニン、アザチオプリン、チアミプリン、ビダラビン、ペントスタチン、およびピューロマイシンなどのプリン誘導体が含まれるが、これらに限定するものではない。抗生剤には、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、パロモマイシン、ゲルダナマイシン、ヘルビマイシン、ロラカルベフ、エルタペネム、ドリペネム、イミペネム、シラスタチン、メロペネム、セファドロキシル、セファゾリン、セファロチン、セファレキシン、セファクロル、セファマンドール、セホキシチン、セフプロジル、セフロキシム、セフィキシム、セフジニル、セフジトレン、セホペラゾン、セホタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフジニル、セフェピム、テイコプラニン、バンコマイシン、アジトロマイシン、クラリスロマイシン、シリスロマイシン、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、トロレアンドマイシン、テリスロマイシン、スペクチノマイシン、アズトレオナム、アモキシシリン、アンピシリン、アズロシリン、カルベニシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、メズロシリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリン、ピペラシリン、チカルシリン、バシトラシン、コリスチン、ポリミキシンB、シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフルキサシン、モキシフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、トロバフロキサシン、マフェニド、プロントシル、スルファセトアミド、スルファメチゾール、スルファニルアミド、スルファサラジン、スルフィソキサゾール、トリメトプリム、トリメトプリム−スルファメトキサゾール、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、アルスフェナミン、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、リンコマイシン、エタムブトール、フスフォマイシン、フシジン酸、フラゾリドン、イソニアジド、リネゾイリド、メトロニダゾール、ムピロシン、ニトロフラントイン、プラテンシマイシン、ピラジナミド、キヌプリスチン、ダルホプリスチン、リファムピン、リファムピシン、チニダゾールなども含まれる。
【0052】
治療用タンパク質には、酵素、血液因子、血液凝固因子、インスリン、エリスロポイエチン、インターフェロン−α、インターフェロン−βを含むインターフェロン、タンパク質C、ヒルジン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、ソマトロピン、上皮成長因子、アルブミン、ヘモグロビン、ラクトフェリン、アンジオテンシン変換酵素、グルコセレブロシダーゼ、ヒト成長ホルモン、およびVEGFなどが含まれる。タンパク質には、抗原性タンパク質またはペプチドも含まれる。問題のタンパク質には、酵素、成長因子、モノクローナル抗体、抗体断片、単鎖抗体、免疫グロブリン、凝固因子、アミラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、セルロース、ウロキナーゼ、ガラクトシダーゼ、スタフィロキナーゼ、ヒアルロニダーゼ、および組織プラスミノゲンアクチベーターなども含まれるが、これらに限定するものではない。治療用タンパク質には、モノクローナル抗体、例えばアブシキシマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、バシリキシマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、ダクリズマブ、エクリズマブ、エファリズマブ、ヘルセプチン、ブリツモマブチウキセタン、インフリキシマブ、ムロモナブ−CD3、ナタリズマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ラニビズマブ、リツキシマブ、トラズツズマブなどを含めることができる。
【0053】
天然物の例には、ビンブラスチンやビンクリスチンなどのビンカアルカロイド;エトポシドやテニポシドなどのエピポドフィロトキシン;アドリアマイシン、ダウノマイシン、ドクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ミトラマイシン、ブレオマイシン、およびミトマイシンなどの抗生剤;L−アスパラギナーゼなどの酵素;α−インターフェロンなどの生体応答調節剤;カンプトテシン;タキソール;およびレチノイン酸などのレチノイドが含まれる。
【0054】
その他の薬剤には、MR造影剤、造影剤、ガドリニウムキレート、ガドリニウムをベースにした造影剤、放射線増感剤、例えば1,2,4−ベンゾトリアジン−3−アミン1,4−ジオキシド(SR 4889)および1,2,4−ベンゾトリアジン−7−アミン1,4−ジオキシド(WIN 59075)など;シスプラチンやカルボプラチンなどの白金配位錯体;ミトキサントロンなどのアントラセンジオン;ヒドロキシ尿素などの置換尿素;およびミトタンやアミノグルテチミドなどの副腎皮質抑制剤が含まれるが、これらに限定するものではない。
【0055】
いくつかの実施形態では、本発明の工学的に作製された粒子は、肺を介して被験体にまたは中枢神経系に投与される1種または複数の治療薬を含む。
【0056】
このように、PRINT(登録商標)を介してパターニングされた鋳型または型内で生成した後、空気流中に混入されたときに自転、転動、および/または揚力を提供する所望の粒度および形状を有しかつ問題の1種または複数の治療薬を含む本発明の工学的に作製された粒子は、パターニングされた鋳型から放出させることができ、かつ肺吸入を介して肺に、および鼻内投与を介して中枢神経系に、治療薬を送達するよう使用することができる。いくつかの実施形態では、1種または複数の粒子の放出は:(a)パターニングされた鋳型を基材に適用するステップであって、この基材が1つまたは複数の粒子に対して親和性を有しているステップ;(b)1つまたは複数の粒子が、パターニングされた鋳型から放出されるように、パターニングされた鋳型を変形させるステップ;(c)第1の溶媒で、パターニングされた鋳型を膨潤させて、1つまたは複数の粒子を押し出すステップ;(d)第2の溶媒で、パターニングされた鋳型を洗浄するステップであって、この第2の溶媒が1つまたは複数の粒子に対して親和性を有しているステップ;および(e)機械的な力を、1つまたは複数の粒子に加えるステップの1つによって行われる。いくつかの実施形態では、機械的な力は、ドクターブレードおよびブラシの一方を1つまたは複数の粒子に接触させることによって、加えられる。いくつかの実施形態では、機械的な力は、超音波、メガソニック、静電気、または磁気手段によって加えられる。いくつかの実施形態では、この方法は、ナノ粒子を回収しまたは収集するステップを含む。いくつかの実施形態では、粒子を回収し収集するステップは、ドクターブレードによる削り取り、ブラッシングプロセス、溶解プロセス、超音波プロセス、メガソニックプロセス、静電気プロセス、および磁気プロセスからなる群から選択されたプロセスを含む。
【0057】
本発明の工学的に作製された粒子の好ましいサイズは、この粒子が肺吸入を介して送達される場合、約10.0μm未満の平均直径であり、約7.0μm未満、または約6.0μm未満の平均直径である。その他の実施形態では、粒度は、0.1から5.0μmの範囲、または約1.0から約5.0μmの範囲の平均直径である。
【0058】
このように、内部に充填されまたはそこに結合された問題の1種または複数の治療薬を保持する本発明の工学的に作製された粒子は、肺吸入または鼻内投与用の組成物として調合される。「肺吸入」とは、被験体が口腔を通して吸入するときに、エアロゾルまたはその他の適切な調製形態にある粒子を送達デバイスから被験体の口腔内に送達することによって、工学的に作製された粒子を含む組成物が肺に直接投与されることを意図する。「エアロゾル」とは、流動している空気中またはその他の生理学的に許容される気体流中に懸濁された、固体または液体粒子の懸濁体を意図する。その他の適切な調製物には、ミスト、蒸気、またはスプレー調製物が含まれるが、これらに限定するものではない。肺吸入は、当業者に公知のその他の適切な方法によって実現することもできる。これらの方法には、適切なデバイスを使用した液体点滴注入またはその他のそのような方法を含めてもよい。肺吸入は、吸入した工学的に作製された粒子の、肺の深部または被験体の肺の肺胞領域への沈着をもたらす。サイズおよび形状とそれらが形成される材料とに応じて、工学的に作製された粒子は、全身送達を制限しながら局所呼吸器感染または疾患を治療するために肺の中の深部への沈着が確実になるよう設計することができる。あるいは工学的に作製された粒子は、そのサイズ、形状、および/またはそれらが形成される材料によって、肺胞上皮および毛管上皮層を横断して血流中に向かう受動的なまたは能動的な吸収が行われ、その後、カーゴ、すなわち内部に充填されまたはそこに結合された1種または複数の治療薬の全身分布が実現されように、設計することができる。
【0059】
本発明の工学的に作製された粒子の肺投与は、吸入中に送達デバイスから被験体の口腔内に、工学的に作製された粒子を定量吐出するステップを必要とする。本発明においては、本発明の工学的に作製された粒子を含む組成物は、使用される送達デバイスに応じて、組成物の水性もしくは非水性溶液もしくは懸濁形態または固体もしくは乾燥粉末形態から得られたエアロゾルまたはその他の適切な調製物の吸入を介して投与される。そのような送達デバイスは、当技術分野で周知であり、ネブライザー、定量吸入器、および乾燥粉末吸入器、または、水性もしくは非水性の溶液もしくは懸濁液としてまたは固体もしくは乾燥粉末形態として組成物の定量吐出を可能にする任意のその他の適切な送達機構を含むが、これらに限定するものではない。「水性」とは、水が混合物中の主要な物質である混合物も含め、水と共に調製され、水を含有し、または水に溶解した組成物を意図する。主要な物質は、混合物の別の成分よりも大量に存在する。「非水性」とは、水以外の物質と共に調製され、水以外の物質を含有し、または水以外の物質に溶解した組成物、または水が混合物中の主要な物質ではない混合物を意図する。「溶液」とは、固体、液体、気体、またはこれらの相互組合せであってもよい、2種以上の物質の均質な調製物を意図する。「懸濁液」とは、1種または複数の不溶性物質が別の主要な物質中に均質に分散しているような、物質の混合物を意図する。
【0060】
本発明において、「固体」および「乾燥粉末」という用語は、同義に使用される。組成物の「固体」または「乾燥粉末」形態とは、約10重量%よりも低い含水率、通常は約5重量%よりも低い含水率、好ましくは約3重量%よりも低い含水率を有する微細粉末へと乾燥させた組成物を意図する。組成物のこの乾燥粉末形態は、問題となっている1種または複数の治療薬をカーゴとして含む、本発明の工学的に作製された粒子からなる。いくつかの実施形態では、粒度は約10.0μm未満の平均直径であり、約7.0μm未満、または約6.0μm未満の平均直径である。その他の実施形態では、粒度は0.1から5.0μmの範囲にあり、または約1.0から約5.0μmの範囲にある平均直径である。
【0061】
このように、本発明の肺送達方法で使用することが意図される、収集された本発明の工学的に作製された粒子は、送達デバイス内、例えばネブライザー内で、液体の溶液もしくは懸濁液として調合されてもよく、または当技術分野で周知の凍結乾燥技法を使用して乾燥粉末形態へと最初に加工してもよい。あるいは、1種または複数の治療薬を含む、収集された本発明の工学的に作製された粒子は、液体の溶液または懸濁液として調合し、次いで例えば凍結乾燥を使用して乾燥粉末形態に加工することができる。さらに別の代替例として、本発明の工学的に作製された粒子は、この工学的に作製された粒子を例えば被膜表面の振動によって肺の気道内にパルス放出することが可能な送達デバイス内に後で配置することができる、薄膜として調製することができる。
【0062】
液体の溶液または懸濁液が送達デバイスで使用される場合、ネブライザー、定量吸入器、またはその他の適切な送達デバイスは、単回用量または多回分割用量で、肺吸入によって、治療上有効な量の工学的に作製された粒子を被験体の肺に液滴として、好ましくは乾燥粉末形態に関して既に述べたものと同じ粒度範囲を有する液滴として、送達する。「治療上有効な量」とは、疾患または状態の治療、予防、または診断に有用な量で1種または複数の治療薬の放出をもたらす、工学的に作製された粒子の量を意図する。組成物の、液体の溶液または懸濁液は、生理学的に適切な安定化剤、添加物、増量剤、界面活性剤、またはこれらの組合せと共に使用してもよい。適切な添加物の例には、緩衝剤、粘度調節剤、またはその他の治療上不活性であるが機能的な添加剤が含まれるが、これらに限定するものではない。
【0063】
問題の1種または複数の治療薬を含む工学的に作製された粒子が、本発明の肺送達方法で使用される前に凍結乾燥形態で調製される場合、この凍結乾燥した組成物は、空気流中に混入された場合に前縁渦流の生成を通して自転および揚力の少なくとも1つが得られるように、所望のサイズおよび形状を有する工学的に作製された粒子を含んだ微細乾燥粉末が得られるように加工される。
【0064】
次いで粒子含有組成物の、結果的に得られる乾燥粉末形態は、肺吸入を介して被験体に送達されるエアロゾルまたはその他の適切な調製物を引き続き調製するために、適切な送達デバイス内に配置される。粒子含有組成物の乾燥粉末形態が調製され、水性または非水性の溶液または懸濁液として定量吐出される場合、定量吸入器またはその他の適切な送達デバイスが使用される。粒子含有組成物の、治療上有効な量の乾燥粉末形態は、肺吸入に適切なエアロゾルまたはその他の調製物中に含めて投与される。送達デバイス内に配置された粒子含有組成物の乾燥粉末形態の量は、吸入によって、治療上有効な量の工学的に作製された粒子を被験体に送達するのに十分である。このように、送達デバイスに配置される乾燥粉末形態の量は、乾燥粉末形態の組成物の保存および送達中に、デバイスで生じる可能性のある損失を補うことになる。送達デバイス内に乾燥粉末形態を配置した後、工学的に作製された粒子をエアロゾル噴射剤中に懸濁させる。次いで加圧された非水性懸濁液を、送達デバイスから、吸入しながら被験体の空気流通路内に放出させる。送達デバイスは、単回用量または多回分割用量で、肺吸入により、治療上有効な量の工学的に作製された粒子を被験体の肺に送達する。エアロゾル噴射剤は、クロロフルオロカーボン、ヒドロクロロ−フルオロカーボン、ヒドロフルオロカーボン、または炭化水素であって、トリクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロ−メタン、ジクロロテトラフルオロメタン、ジクロロジフルオロ−メタン、ジクロロテトラフルオロエタノール、および1,1,1,2−テトラ−フルオロエタン、またはこれらの組合せを含めたものなど、この目的で用いられる任意の従来の材料であってもよい。界面活性剤は、エアロゾルが定量吐出される送達デバイスの、壁面に対する粒子含有乾燥粉末の接着を低減させるため、組成物に添加されていてもよい。この意図される用途に適切な界面活性剤には、ソルビタントリオレエート、大豆レシチン、およびオレイン酸が含まれるが、これらに限定するものではない。非水性懸濁液としての組成物乾燥粉末形態を肺送達するのに適切なデバイスは、市販されている。そのようなデバイスの例には、Ventolin定量吸入器(Glaxo Inc.、Research Triangle Park、NC)およびIntal吸入器(Fisons,Corp.、Bedford、MA)が含まれる。参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,522,378号、第5,775,320号、第5,934,272号、および第5,960,792号に記載されているエアロゾル送達デバイスも参照されたい。
【0065】
粒子含有組成物の固体または乾燥粉末形態が、乾燥粉末形態として送達される場合、乾燥粉末吸入器またはその他の適切な送達デバイスを使用してもよい。粒子含有組成物の乾燥粉末形態は、従来の手法で、流れている空気中にまたはその他の生理学的に許容される気体流中に分散させることにより、乾燥粉末エアロゾルとして好ましくは調製される。本明細書の方法に従い使用するのに適切な、市販の乾燥粉末吸入器の例には、Spinhaler粉末吸入器(Fisons Corp.、Bedford、MA)およびVentolin Rotahaler(Glaxo,Inc.、Research Triangle Park、NC)が含まれる。参照により本明細書に組み込まれるWO93/00951、WO96/09085、WO96/32152、および米国特許第5,458,135号、第5,785,049号、および第5,993,783号に記載されている、乾燥粉末送達デバイスも参照されたい。
【0066】
粒子含有組成物の乾燥粉末形態は、ネブライザー、定量吸入器、またはその他の適切な送達デバイスを使用する、水溶液エアロゾルとして後で行われる送達のため、再構成して水溶液にすることができる。ネブライザーの場合、流体リザーバー内に保持される水溶液は水性スプレーに変換され、その少量だけがネブライザーから離れて、任意の所与の時間に被験体に送達される。残りのスプレーは、ネブライザー内の流体リザーバーに引き戻され、そこで再び水性スプレーへとエアロゾル化される。このプロセスは、流体リザーバーが完全に定量吐出されるまで、またはエアロゾル化スプレーの投与が終了するまで繰り返される。そのようなネブライザーは市販されており、例えば、Ultraventネブライザー(Mallinckrodt Inc.、St.Louis、MO)およびAcorn IIネブライザー(Marquest Medical Products、Englewood、CO)が含まれる。参照により本明細書に組み込まれる、WO93/00951に記載されているネブライザーと米国特許第5,544,646号に記載されているエアロゾル化水性調合物を送達するためのデバイスも、参照されたい。
【0067】
本発明の方法によれば、カーゴとして1種または複数の治療薬を有する工学的に作製された粒子を含む、組成物の、水性もしくは非水性の溶液もしくは懸濁液または固体もしくは乾燥粉末形態が、肺吸入に適切なエアロゾルまたはその他の調製物の形で被験体に投与される。「被験体」とは、任意の動物を意図する。好ましくは、被験体は哺乳類であり、最も好ましくは、被験体はヒトである。ヒト以外の特に重要な哺乳類には、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、およびブタが含まれるが、これらに限定するものではない。
【0068】
本発明の工学的に作製された粒子は、肺送達用に調合した場合、様々な状態の治療で用途が見出される。本明細書で使用される「治療」は、有益なまたは所望の臨床結果を得るための手法である。本発明において、有益なまたは所望の臨床結果には:1つまたは複数の症状の緩和、疾患の程度の低減、疾患の安定化(すなわち、悪化していない)状態、疾患の拡がり(例えば、転移)の予防または遅延、疾患の発症または再発の予防または遅延、疾患の進行の遅延または低速化、疾患状態の改善、および緩解(部分的にもまたは全体的にも)のいずれか1つまたは複数が含まれるが、これらに限定するものではない。「治療」には、疾患の病理学的結果の低減も包含される。本発明の方法では、治療のこれらの態様のいずれか1つまたは複数が企図される。このように、本発明の工学的に作製された粒子は、ワクチンの肺送達と、例えば細菌感染、嚢胞性線維症、気腫、および肺癌の治療とに有用な、1つまたは複数の治療薬を含むように設計することができる。あるいは、本発明の工学的に作製された粒子は、肺吸入を介した全身送達のための1種または複数の治療薬、例えば、本明細書の他の箇所に記述される治療薬のいずれかを、含んでいてもよい。
【0069】
いくつかの実施形態では、肺吸入を介して送達される治療薬には、呼吸器感染性疾患、例えばTB、重症急性呼吸器症候群(SARS)、インフルエンザ、および天然痘を治療するための、治療、予防、および/または診断薬が含まれる。適切な治療薬には、局所的に、全身に、またはこれらの組合せで作用することができる薬剤が含まれる。治療薬の例には、合成無機および有機化合物、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、DNAおよびRNA核酸配列、またはこれらの任意の組合せもしくは模倣体であって、治療、予防、または診断活性を有するものが含まれるが、これらに限定するものではない。
【0070】
これらの実施形態のいくつかでは、本発明の工学的に作製された粒子は、カプレオマイシン、PA−824、リファピシン、リファペンチン、およびキノロン(例えば、モキシフロキサシン(BAY 12−8039)、アパルフロキサシン、ガチフロキサシン、CS−940、Du−6859a、シタフロキサシン、HSR−903、レボフロキサシン、WQ−3034)、シプロフロキサシン、およびレボフロキサシンなど、結核などの呼吸器感染を治療するための抗生剤からなる群から選択された、1種または複数の治療薬の肺送達を提供する。カプレオマイシンは、比較的親水性の抗生物分子である。これは、TBの予防において、2次防衛線分子として現在使用されている。カプレオマイシンは、in vitroでの非複製TBに対して1カ月後に、コロニー形成単位(「CFU」)で1から2のログ減少を示し、したがって、Heifetsら、Ann.Clin.Microbiol.Antimicrobiol.4巻(6号)(2005年)に報告されているように、潜在的TB治療の可能性がある。PA−824は、フラベノイドF420を標的とする殺菌性抗生剤であり、ミコール酸合成および脂質生合成も予防する。リファペンチンは、タンパク質のβ−サブユニットに結合することによってRNAポリメラーゼを阻害し、殺菌性抗生剤として作用する。さらにその他の実施形態では、治療薬は、TBまたはインフルエンザ抗原に対して有効な、BCGワクチンなどのワクチンである。
【0071】
ウイルス性呼吸器感染の治療の場合、本発明の工学的に作製された粒子の内部に包装されまたはこの粒子に結合された(1種または複数の)治療薬は、単独でまたはワクチンと組み合わされて、好ましくは抗ウイルス性である。4種の抗ウイルス性薬品が、Aカテゴリーのインフルエンザウイルスに一般に処方され、アマンタジン、リマンタジン、ザナマビル、および広く備蓄されているオセルタミビルである。これらは、ウイルスが複製されるのを遮断する、ノイラミニダーゼ阻害剤である。病気の発症から2〜3日以内に摂取した場合、いくつかの症状の重症度を緩和し、病状の持続を短縮することができる。
【0072】
多剤耐性結核(MDR−TB)は、著しい公衆の健康の脅威として生じ、新しい治療手法の開発を必要とする、未だ対処されていない医療上のニーズをもたらす。好ましい実施形態では、非常に高い薬物用量が、肺粘膜の素早い滅菌のためにおよびMDR−TB療法の持続を短縮するために、1次感染部位に送達される。薬物耐性形態の感染を治療するための調合物は、非常に高い負荷量の1種または複数の抗生剤、または抗生剤とワクチンとの組合せを含んでいてもよい。
【0073】
工学的に作製された粒子組成物は、肺線維症、閉塞性気管支炎、肺癌(例えば、扁平上皮癌、腺癌、および大細胞癌タイプの非小細胞肺癌と、小細胞肺癌)、および気管支肺胞上皮癌を含むがこれらに限定されない呼吸器管のその他の状態を治療するのに、肺吸入によって投与することができる。
【0074】
本発明のその他の実施形態では、本発明の工学的に作製された粒子は、鼻内送達を介して中枢神経系に投与するための1種または複数の薬剤を含む。したがって本発明の工学的に作製された粒子は、脳脊髄液および嗅球内で著しい濃度が得られるように、嗅覚感覚ニューロンに沿って中枢神経系に進入させるよう鼻腔に投与するための、好ましくは鼻腔の深部に投与するための、1種または複数の治療薬を含むことができる。そのような治療薬には、例えば、疼痛管理および神経変性障害の治療に適切なものが含まれる。本発明の工学的に作製された粒子は、CNS、脳、および/または脊髄の障害または疾患の診断、治療、または予防のために脳に薬剤を送達させるため、鼻内から投与することができる。これらの障害は、神経医学的または精神医学的な障害にすることができる。これらの障害または疾患には、脳疾患、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体認知症、多発性硬化症、癲癇、小脳性運動失調、進行性核上性麻痺、筋萎縮性側索硬化症、情動障害、不安障害、強迫性障害、人格障害、注意欠陥障害、注意欠陥過活動性障害、トゥーレット症候群、テイサックス病、ニーマンピック病、およびその他の脂質貯蔵、および遺伝的脳疾患、および/または統合失調症が含まれる。本発明の工学的に作製された粒子は、脳または脊髄での卒中などの脳血管障害、髄膜炎およびHIVを含めたCNS感染、脳および脊髄の腫瘍、またはプリオン疾患による神経損傷に罹患しておりまたはその危険性がある被験体に、鼻内から送達することができる。本発明の工学的に作製された粒子は、通常の老化(例えば、無嗅覚症、または一般的な化学的感覚の損失)、脳損傷、または脊髄損傷から生じるCNS障害に打ち勝つよう薬剤を送達するために、鼻内から投与することができる。
【0075】
このように、いくつかの実施形態では、本発明の工学的に作製された粒子は、GM−1ガングリオシド、線維芽細胞成長因子、特にベーシック線維芽細胞成長因子(bFGF)、インスリン様成長因子、特にインスリン様成長因子I(IGF−I)、神経成長因子(NGF)、ホスファチジルセリン、サイトカイン、例えばインターフェロン、インターロイキン、または腫瘍壊死因子、プラスミドまたはベクター、またはポリヌクレオチドなどを含むことができる。ポリヌクレオチドは、アンチセンス剤として、または、コード化されたタンパク質の発現を妨げまたは阻害するRNAiやsiRNA分子などの干渉RNA分子として、提供されてもよい。siRNAは、特定のメッセンジャーRNA(mRNA)に結合し中和して、細胞によってその特定のメッセージがタンパク質に翻訳されないようにする、2本鎖RNA分子の小片を含む。あるいは、ポリヌクレオチドは、治療用タンパク質または抗原性タンパク質もしくはペプチドなどの問題のペプチドまたはタンパク質を、コード化する配列を含んでいてもよい。したがって、ポリヌクレオチドは、RNAおよびDNAを含むがこれらに限定されない任意の核酸であってもよい。ポリヌクレオチドは、任意のサイズまたは配列のものであってもよく、1本鎖または2本鎖であってもよい。RNAまたはDNA配列を合成するための方法は、当技術分野で公知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Ausubelら、(1999年)Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sons, Inc.、NY);Sambrookら、(1989年)Molecular Cloning: A Laboratory Manual(第2版)(Cold Spring Harbor Laboratory Press、Plainview、NY)を参照されたい。
【0076】
問題となっている1種または複数の治療薬を含む、工学的に作製された粒子は、鼻内投与用の医薬品組成物を形成するために、生体適合性媒体に懸濁させることができる。適切な生体適合性媒体には、水、緩衝水性媒体、生理食塩液、緩衝生理食塩液、任意選択で緩衝させたアミノ酸溶液、任意選択で緩衝させたタンパク質溶液、任意選択で緩衝させた糖溶液、任意選択で緩衝させたビタミン溶液、任意選択で緩衝させた合成ポリマー溶液、および脂質含有エマルジョンが含まれるが、これらに限定するものではない。
【0077】
本発明の医薬品組成物は、その他の薬剤、添加物、または安定化剤を含むことができる。例えば、工学的に作製された粒子の負のゼータ電位を増加させることによって安定性を増すために、ある特定の負に帯電した成分を添加してもよい。そのような負に帯電した成分には、グリココール酸、コール酸、ケノデオキシコール酸、タウロコール酸、グリコケノデオキシコール酸、タウロケノデオキシコール酸、リトコール酸、ウルソデオキシコール酸、およびデヒドロコール酸などからなる胆汁酸の胆汁塩;下記のホスファチジルコリン、すなわちパルミトイルオレオイルホスファチジルコリン、パルミトイルリノレオイルホスファチジルコリン、ステアロイルリノレオイルホスファチジルコリン、ステアロイルオレオイルホスファチジルコリン、ステアロイルアラキドイルホスファチジルコリン、およびジパルミトイルホスファチジルコリンを含む、レシチン(卵黄)をベースにしたリン脂質を含むリン脂質を含むが、これらに限定するものではない。その他のリン脂質には、L−α−ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、およびその他の関連ある化合物が含まれる。負に帯電した界面活性剤または乳化剤も、添加剤として適切であり、例えばナトリウムコレステリルスルフェートなどがある。
【0078】
4)工学的に作製されたエアロゾル粒子上への、感知、シグナル伝達、およびタガントの能力の組込み。
【0079】
いくつかの実施形態によれば、工学的に作製されたエアロゾル粒子は、化学的および生物学的認識剤で変性させてもよく、新たに生成してもよい。さらに、読出しのための高い感受性の方策を開発してもよい。特に、理想的なエアロゾル化特性を備えた粒子のライブラリーは、ある距離をおいた化学的/生物学的プルームの性質および脅威レベルを診断する試みの中で、作成することができる。例えば、PRINT(登録商標)粒子は、シグナル検出のために多様な手法で使用することができる、様々な領域で様々な構成要素により「構造化」されていてもよい。さらに、これらの構造は、個人および材料の動きを秘かに追跡するための、ナノ顕微鏡的ラベルとして使用することができる。いくつかの態様によれば、自転エアロゾル粒子にRFIDを投入してもよい。
【0080】
いくつかの実施形態では、工学的に作製された粒子は、1つまたは複数のカーゴをさらに含んでいてもよい。カーゴは、様々な物質、材料、または問題となっているその他の物体を含んでいてもよい。ある場合には、カーゴという用語は治療薬を指す。治療薬は、小分子、生物製剤、または疾患の治療もしくは検出のために利用されるその他の物質を含むことができる。治療用カーゴには、小分子医薬品、治療用および診断用タンパク質、抗体、DNAおよびRNA配列、造影剤、およびその他の活性医薬品成分を含めてもよいが、これらに限定するものではない。さらに、そのようなカーゴには、鎮痛薬、抗炎症薬(NSAIDを含む)、抗癌剤、抗代謝剤、駆虫薬、抗不整脈薬、抗生剤、抗凝固薬、抗うつ薬、抗糖尿病薬、抗てんかん薬、抗ヒスタミン、降圧剤、抗ムスカリン薬、抗ミコバクテリア薬、抗悪性腫瘍薬、免疫抑制剤、抗甲状腺薬、抗ウイルス薬、抗不安鎮静薬(催眠薬および神経弛緩薬)、収斂薬、β−アドレナリン受容体遮断薬、血液製剤および代用薬、心臓変力剤、造影剤、コルチコステロイド、咳止め(去痰薬および粘液溶解薬)、診断薬、画像診断薬、利尿薬、ドーパミン作動薬(抗パーキンソン病薬)、止血剤、免疫薬、治療用タンパク質、酵素、脂質調節剤、筋弛緩剤、副交感神経興奮薬、副甲状腺カルシトニンおよびビホスホネート、プロスタグランジン、放射性医薬品、性ホルモン(ステロイドを含む。)、抗アレルギー薬、刺激薬および食思減退薬、交感神経興奮薬、甲状腺薬、血管拡張剤、キサンチン、および抗ウイルス薬を含めてもよいがこれらに限定するものではない、活性剤を含めてもよい。カーゴは、ポリヌクレオチドを含んでいてもよい。ポリヌクレオチドは、アンチセンス剤として、またはコード化されたタンパク質の発現を妨げまたは阻害するRNAiやsiRNA分子などの干渉RNA分子として、提供されてもよい。いくつかの実施形態では、カーゴは、抗癌剤などの薬物、例えばナイトロジェンマスタード、シスプラチン、およびドキソルビシン;細胞標的ペプチド、細胞浸透ペプチド、インテグリン受容体ペプチド(GRGDSP)、メラノサイト刺激ホルモン、血管作動性腸ペプチド、抗Her2マウス抗体、および様々なビタミンなどの標的リガンド;ウイルス、多糖、シクロデキストリン、タンパク質、リポソーム、アントラセンジオン、例えばミトキサントロンなど;ヒドロキシ尿素などの置換尿素;副腎皮質抑制剤、例えばミトタン、およびアミノグルテチミド、およびボレートナノ粒子であって、ホウ素ニュートロン捕獲療法(BNCT)標的を助けるものを含めた、追加の成分を含んでいてもよい。
【0081】
いくつかの実施形態では、カーゴという用語は、工学的に作製されたナノ粒子上に、感知、シグナル伝達、またはタガントの能力を組み込むことができる成分を指してもよい。カーゴは、MR造影剤、造影剤、ガドリニウムキレート、ガドリニウムをベースにした造影剤、放射線増感剤、例えば1,2,4−ベンゾトリアジン−3−アミン1,4−ジオキシド(SR 4889)および1,2,4−ベンゾトリアジン−7−アミン1,4−ジオキシド(WIN 59075)など;および光学的用途に用いられるCdSeなどの光学的ナノ粒子を含んでいてもよいが、これらに限定するものではない。
【0082】
その他の実施形態によれば、工学的に作製されたエアロゾル粒子は、それと共に、場合によってはより小さくてもよいその他の粒子を運ぶことが可能であってもよい。例えばマイクロ粒子は、内部にある1つまたは複数のナノ粒子を送達部位に運んでもよく、このナノ粒子は、マイクロ粒子内に浸透することができまたはその他の方法で拡散することができる(例えば、膜を通して)。
【0083】
ナノテクノロジー分野の進歩により、特にナノメートルおよびミクロンサイズの粒子の設計に関しては、繊細なカーゴおよび表面結合標的リガンドなどの高度化された部分を有する粒子の加工が可能になった。しかし一般に、粒子を構成する明らかに異なる化学種は、粒子内で等方的に分散して、化学的にまたは無秩序な合金またはコア−シェル層状化構造を形成する。粒子内での物質の分布の制御によって、特に粒子の全体的なサイズおよび形状が制御される場合、基本的なサイズおよび形状の課題を超越した設計プロセスでの特別なパラメーターが可能になる。図7〜19に示されるように、単一成分または等方的に分布した多成分粒子では不可能な、得られた独自の属性によって、異方的に相分離した多相粒子を加工することが有利である。これらの属性は、機械的、化学的、光学的、生物学的、電気的、および磁気的性質ならびに薬物送達のため多成分担体として機能できる能力など、粒子に組み込まれた異なる機能を同時に利用する能力を含む。また、明らかに異なる機能的リガンドは、粒子表面上に異方的に配列することができ、したがって様々な材料およびライフサイエンスの用途に適合した独自の性質が得られる。そのような挙動によれば、異なる機能性の組合せを通して革命的に新しい材料を生成する機会が得られる。
【0084】
上記にて簡単に論じたように、粒子のバルク密度は、本発明の一実施形態による材料の異方性の導入によって影響を受ける可能性がある。工学的に作製された粒子に特に関連があるのは、JANUSまたはARMUS粒子の単一粒子内に組み込まれた2種以上の多様な組成物の組合せにより、単一粒子内で生成された密度のミスマッチであり、例示的な実施形態によるこの粒子およびその加工方法は、図5および7〜19と、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるNanoparticles Having Functional Additives for Self and Directed Assembly and Methods of Fabricating Sameという名称の2009年9月30日に出願された米国特許第12/439,281号に、図示され記述されている。これは、マトリックスの適切な選択によって、対称的な形状から非対称的に投入された粒子を生成することが可能であり、それによって、そのバルク密度が劇的に修正され、したがってその空気力学的性能が劇的に修正されるということになる。密度のミスマッチは、同じ粒子内の組成物同士の間の十分画定された境界で明確であり、または全体積にわたって段階を付けてもよい。
【0085】
この原理は、そのようなナノ粒子によって得られる任意の診断上および治療上の利点の他に、全密度を調節させる主たる目的のため、バルクマトリックス内への著しく高い密度のナノ粒子(例えば、金、銀、または鉄酸化物ナノ粒子)の組込みにまで、さらに拡げてもよい。これらの封入物の空間位置は、全体的なエアロゾルマトリックス内の所望の位置に、選択的に封鎖することができる。このように、特定の飛行モード(例えば、転動または自転)に多分散させた指向的に配列された粒子を生成すること、および単一モードに事前に配置された形状に追加のモードを導入することが可能である。
【0086】
治療の観点から、単一粒子中に2種以上の治療薬を含むことは、多剤耐性疾患の治療の際にまたは多モード粒子を使用して診断および治療薬を同時送達するのに、特に価値がある。密度のミスマッチまたはバルク異方性は、適切な密度の治療薬および添加物の適切な選択(例えば、タンパク質および糖)によって生成されてもよい。
【0087】
この原理を用いて、所望の位置(例えば、面内自転形状の放射状アームまたはコア)または表面(例えば、エアロフォイルの前縁または後縁)に多孔率を選択的にもたらし、それと共に残りの粒子を均一に中実にすることもできる。これらの異方性のまたは密度がミスマッチの複合体の沈着パターンは、それらの形状、サイズ、ならびに材料の異方性の組合せに依存することになるが、それらの等方性の相対物とは明らかに異なる傾向がある。その設計の複雑さにより、CFDモデルを使用して、そのような複合体エアロゾルのin vivo沈着パターンを予測することが必要と考えられる。
【0088】
先の記述に示される教示の利益を有する、本発明が関係する本発明の多くの修正例およびその他の実施形態を、当業者なら思い浮かべ;また、本発明の範囲または精神から逸脱することなく、本発明の変更および修正を行うことができることが、当業者に明らかにされよう。したがって、本発明は、開示される特定の実施形態に限定されるものではなく、修正例およびその他の実施形態は、添付される特許請求の範囲内に含まれることが理解される。特定の用語が本明細書では用いられるが、それらは一般的なおよび説明的な意味でのみ使用され、限定を目的とするものではない。
【0089】
本明細書で挙げられる全ての刊行物および特許出願は、本発明が関係する当業者のレベルを示す。全ての刊行物および特許出願は、個々の刊行物または特許出願のそれぞれが具体的にかつ個々に参照により組み込まれることが示されるのと同じ程度まで、参照により本明細書に組み込まれる。
【0090】
下記の実施例は、例示として示すものであり、限定するものではない。
【実施例】
【0091】
実験
PRINT(登録商標)を使用して、ある種類の「成形された」エアロゾルを、最適に工学的に作製された空気力学的特性を含むように設計した。この技法は、サイズ、形状、およびマトリックスの性質の精密な制御を容易にし、それによって、呼吸器管内での標的沈着を目的とした、広範な臨床的に関連ある治療用エアロゾルを生成する能力が得られる。
【0092】
本発明の例示的な目標には:
a.工学的に作製されたエアロゾルを加工するためのPRINT(登録商標)を開発すること
b.エアロゾル化特性を評価すること
c.エアロゾルに対するPRINT(登録商標)の有用性を実証すること
d.送達のための様々なカーゴを評価すること
が含まれる。
【0093】
下記の実施例は、これらの例示的な目標を支える研究開発を立証する。
【0094】
結果:
目標A:工学的に作製されたエアロゾルを加工するためのPRINT(登録商標)を開発すること
(実施例1)
工学的に作製されたエアロゾルの新規な形状の設計:
PRINT(登録商標)に関連するような成形されたエアロゾルの独自性は、強化されかつ潜在的に調整可能な飛行特性を容易にするために、天然に生じる形状に順応することができ、ならびに新規な人工(または工学的に作製された)形状を設計することができる能力である。これは、ほとんどの市販のエアロゾルにより近似されている標準的な球体形状の場合に勝る、PRINT(登録商標)エアロゾルの重要な特徴である。一実施形態によれば、空気力学的性質に影響を及ぼす設計パラメーターは:
i.非球形;
ii.対称的であり、中心軸の周りの自転を促進し;
iii.非対称的であり、不均衡な重量中心(CG)により転動を促進し;
iv.自転または転動に加え、前縁渦流を誘発させることによって揚力を潜在的に発生させることが可能であり;
v.穿孔され、または不均衡なCGをもたらすキャビティーを含むものであり、それによって自転、転動、および/または前縁渦流が誘発され;および/または
vi.特定の方向に質量を優先的に再分布することによって、マトリックス異方性の調節を促進させ、JANUS様粒子の生成を容易にする
形状を含む。
【0095】
本来与えられるバイオミメティック形状のファミリーは、空気流中で、中心軸の周りの自転および/または軸外転動を誘発するように設計した(例えば、上記にて論じた図3A〜N参照)。これらは、衝突または沈着前に、自転および転動が肺気道内でのエアロゾルの飛行時間を延ばす傾向にあり、それによって、これらの粒子はその比較的大きいサイズにも関わらず肺の深部に沈着する可能性が増す、という仮定に基づく。さらに自転は、流れの流線に連結されていてもよく、気道の分岐で2次流れの影響を受けてもよく(正常な肺で)、気道が閉塞される可能性もある(例えばCOPDおよび喘息の場合)。このため解剖学的に異なる沈着をもたらし、呼吸器管の特定の気道世代および領域を標的とすると予測される。
【0096】
上記にて論じたように、一連の球−棒構成を、自転および軸外転動が促進されるように設計した(例えば、図3F、J、M、およびN参照)。非対称粒子(例えば、図3J、M、およびN参照)は、そのCGが少なくとも1つの対称軸からゆっくりシフトして、完全な球体の場合と対比するように設計される。ヘリコプターのプロペラブレードのように成形された対称的なトライポッド粒子(例えば、図3F参照)は、自転しかつ前縁渦流を発生させることができるので長距離分散することが公知である、カエデの種子(翼果)によってもたらされた22
【0097】
やはり上記にて論じたように、図3C、3D、3E、3K、および3Lに示される構成を、一般に「ローレンツ」形状と呼ぶ。この形状は、2つの飛行モードを誘発するようにモデル化され、すなわち:固体の場合の自転(例えば、図3CおよびK)であり、非対称的な穴(穿孔)がそのCGをシフトさせるように導入された場合の軸外転動(例えば、図3D、E、およびL参照)である。この概念は、風によって長距離にわたり分散することも公知であるマツの種子を模倣する、楕円のような形状にも適用した(例えば、図3A、B、G、およびH参照)。
【0098】
これらの形状のそれぞれは、3μmという理想的なMMADを有する球体の場合と等価な一定体積を有するように、ほぼ正規化した。所与の形状への穿孔の導入は、その幾何学的体積を減少させ、それによって、等価な球体の体積およびその潜在的MMADが減少する。しかし、これらエアロゾルの空気力学的性質は、肺深部沈着に推奨される3〜5μmの範囲のMMADを有する粒子の場合と同等であると予測される。
【0099】
(実施例2)
工学的に作製されたエアロゾル用に微細加工された鋳型:
伝統的なリソグラフィー技法を使用して加工された、微細加工された鋳型は、成形されたPRINT(登録商標)エアロゾルのベースを形成する。固体形状用のマスター鋳型は、SU−8ネガレジスト(Microchem Corp、Newton、MA)を、Iラインステッパー上での365nmフォトリソグラフィープロセスに曝すことによって加工した。穿孔を備えた高アスペクト比のフィーチャーを、NFR 90ネガレジスト(JSR Micro Inc、Sunnyvale、CA)上で、深UV(193nm)スキャナー(ASML、オランダ)を使用して解像した。図20は、PRINT(登録商標)エアロゾル用に微細加工された鋳型のSEM画像を示し:(A)ロリポップ;(B)ダンベル;(C)V字ブーメラン;(D)ヘリコプター;(E)中実ローレンツ;(F)穿孔ローレンツ;(G)中実楕円;(H)穿孔楕円である。
【0100】
次いで薄い型のロールを、Liquidia Technologies(RTP Durham、NC)により開発された専売技法を使用して、これらマスター鋳型から生成した。これらの型は、成形されたエアロゾルのロールツーロール生成を可能にする。さらに、実施例7に記述されるように、同じ型を、広く様々な組成物からエアロゾルを形成するのに使用することができ、それによって、様々な治療用途を標的とするエアロゾルの加工におけるPRINT(登録商標)プロセスの多様性が実証される。
【0101】
(実施例3)
工学的に作製されたエアロゾルの加工:
PRINT(登録商標)プロセスは、ミクロンサイズのエアロゾルの加工を可能にする。概念実証を示すために、7つの異なる形状を、図21に示されるように光硬化性PEGヒドロゲルマトリックスから加工した。図21は、成形されたPRINT(登録商標)エアロゾルの、光学画像(A〜F)(100×)およびSEM(挿入図)画像(2500×)を示し:(A)ロリポップ;(B)V字ブーメラン;(C)L字ダンベル;(D)花粉;(E)楕円;(F)ヘリコプター;(G)ローレンツ;(H)混合型である。
【0102】
型内にこのモノマーを充填し光硬化する方法は以前実証されたが、PVOH犠牲収集層にこれらエアロゾルを収集する新規な方法(特定の温度および圧力条件下)が開発された。さらに、これら粒子に蛍光染料カーゴを組み込むことによって、その他の診断および治療薬の送達ビヒクルとしてこの粒子を使用できることが実証される。
【0103】
目標B:エアロゾル特性を評価すること
(実施例4)
工学的に作製されたエアロゾルの特徴付け:
エアロゾルの物理的特徴付けは、光学および電子顕微鏡法を使用して通常通り行う。図22のSEM画像により示されるように、エアロゾルは、十分画定された縁部を有する非凝集型の全く異なる粒子である。図22は、様々な成形されたエアロゾルのSEM画像(2500×)を示し:(A)ロリポップ;(B)L字ダンベル;(C)V字ブーメラン;(D)花粉;(E)楕円;(F)ローレンツである。十分画定されかつ高度に再生可能な形態を備えた、全く異なる非凝集型の粒子が示されている。PRINT(登録商標)の加工上の利点を保持することによって、エアロゾルは、高レベルの忠実度を備えた当初の微細加工された鋳型の正確な形態を、再生することができる。
【0104】
予備的な空気力学的特徴付けは、空気力学的粒子サイザー(APS)を使用して行った。この光散乱技法は、各乾燥粉末エアロゾルごとに、質量平均空気力学的直径(MMAD)および幾何学的標準偏差(GSD)などの重要なエアロゾル特性を定量する。初期試験の代表的な結果(表1)は、PRINT(登録商標)で工学的に作製されたエアロゾルの、2〜3の重要な特性を提示している。第1に、ほとんどの市販されているエアロゾルに比べて低いGSD値は、緊密なサイズ分布を有する非凝集エアロゾルを加工する際の、PRINT(登録商標)プロセスの能力を実証している。第2に、同じ形状の場合、3μmおよび6μmのドーナツに関するデータによって実証されるように、鋳型サイズを適切に拡大縮小することによって、劇的に異なりかつ潜在的に拡大縮小可能なMMADを有するエアロゾルを生成することが可能である。最後に、均等な全設計体積を有するエアロゾルの場合、トライポッドヘリコプターおよび楕円に関する値の差によって示されるように、その独自の形状に基づいたMMADには依然として明確な相違がある。この予備的なデータは、MMADを操作することが可能であり、それによって、工学的に作製されたエアロゾルの調整可能な形状およびサイズに基づいて、肺沈着プロファイルが調節することを実証する。
【0105】
【表1】

質量平均空気力学的直径;
**幾何学的標準偏差。
【0106】
(実施例5)
細胞毒性および摂取のin vitro特徴付け:
工学的に作製されたエアロゾルのin vivo沈着のための調製では、PEGベースのマイクロ粒子を、MTAアッセイを使用して、2つの異なる細胞系の細胞毒性に関して試験をした。72時間のインキュベーション後、細胞毒性はほとんどまたは全く観察されなかった(図23参照)。特に、図23は、球−棒ファミリーの形状(例えば、ロリポップ、V字ブーメラン、およびL字ダンベル)から得られたPEG粒子の、72時間インキュベーションに関する細胞毒性データを示す。PVOHにより収集された粒子は、3つの形状全てにわたり、HeLaおよびH460細胞系の両方で検出可能な細胞毒性を示さなかった。このアッセイは、目下これらのエアロゾルの特徴付けに組み込まれる。
【0107】
(実施例6)
空気力学的性能のin silico特徴付け:
特注の計算流体力学(CFD)モデル化ソフトウェアを使用して、予備的な計算を行い、重量の影響しか受けないゼロ流速条件下での、成形されたエアロゾルの沈降を評価した。これは、肺における現実的な低レイノルズ数および2次流れ条件下での、これらエアロゾルの空気力学的挙動を予測するための予備試験である。沈降時間は、終端速度、すなわち空気中の重力下で自由落下する終端距離100mmでの、粒子の平均速度(定常状態)をモデル化することによって計算される。
【0108】
表2に示されるように、個々の形状の沈降時間は、形状全体の変化と共に著しく変化する。成形されたエアロゾルは、同等の体積の等価な球体よりも27〜59%遅く沈降する。さらに、同じ形状(楕円)で穿孔があるものと穿孔がないものとの間の沈降時間の差は、約16%である。この予備データは、自転または非対称転動を誘発する形状が、飛行特性に著しい差をもたらすことを示唆している。
【0109】
【表2】

さらに、これらエアロゾルの沈降プロファイルの視覚化によれば、図24に示されるように、それらの形状を基にした飛行経路の明確な差も示され、その形状には、(左から右に)ロリポップ、ローレンツ、楕円、および穿孔された楕円が含まれる。非対称ロリポップは、その軸外CGにより予測されるようにくるくる回転する転動を示し、一方ローレンツ形状は、図24に示されるようにたいていは自転する傾向がある。中実な楕円は、取るに足らない回転を示し、比較的安定な軌道を有している。これとはかなり対照的に、穿孔された楕円は、転動ならびに自転の両方の組合せを示す。
【0110】
最後に、図24に示されるように、ローレンツの自転は、縦軸または流線中心として均一に行われない。むしろ、これらのエアロゾルは、その中心流線を中心とした螺旋を描き、気道での旋条に関する予備的な証拠を提供する。これらの結果に基づけば、対称的なまたは非対称的な設計の選択と、中心軸からのCGのずれの大きさとによって、描かれる螺旋の半径を決定することができ、それによって旋条の程度を決定することができる。対称的な自転粒子は、流れの流線に接触し易く肺深部沈着をもたらし易く、一方、非対称的な自転(旋条)粒子は、その画定された螺旋の直径よりも小さい気道の壁面に早期に衝突し易くなることも考えられる。これらの視覚化は、上記表に記載された沈降時間の計算に十分相関し、エアロゾルの空気力学的性質を調節させるという仮説に対する追加の裏付けを提供する。このように、適切な形状およびサイズの粒子を設計することによって、最終的な肺沈着パターンに対し、したがってこれらエアロゾルの診断および治療結果に対し、影響を及ぼすことが可能である。
【0111】
目標C〜D:エアロゾルに対するPRINT(登録商標)の有用性を実証し、送達用の様々なカーゴを評価する
(実施例7)
様々なマトリックスおよびカーゴに対するPRINT(登録商標)プラットフォームの柔軟性を実証する:
PRINT(登録商標)プロセスの重要な長所の1つは、同じ型を使用して様々な組成物から粒子を加工する際のその多様性である。工学的に作製されたエアロゾルでは、マトリックスが柔軟であることは、調整可能な空気力学的性質を有する広く様々な治療薬の生成において大きな価値がある。これは、結核や肺癌などの多剤耐性肺疾患用治療薬に関して特に言えることである。ごく最近になって、現行のエアロゾル技術は、同じビークルで2種(または、まれに3種)の治療薬を同時封入することが可能なエアロゾルを加工するまでに進歩した。しかし、本発明者らの知識の限りでは、その他のプラットフォームは、生物学的治療薬に対し、「未処理の」小分子薬物のような多様な範囲の組成物を包含する際にPRINT(登録商標)によって得られた柔軟性を提供することができない。図25は、概念実証としてこれらマトリックスのいくつかから作製されたエアロゾルを示し、一方、下記の表3は、成形されたエアロゾルを試験するのに今日まで使用されてきた様々なマトリックスを列挙する。特に図25は、様々なマトリックスで作製されたPRINT(登録商標)エアロゾルのSEM(A〜C)および光学(D〜F)画像を示し:(A)ラクトース−BSA 3mmドーナツ;(B)ラクトース−BSAヘリコプター;(C)PLGA楕円;(D)Alexa−688標識ラクトース−BSAドーナツ;(E)ローダミン−B標識PEGヘリコプター;(F)フルオレセインo−アクリレート標識PEG−HEAロリポップであって、PVOH転写シート上にあるものである。
【0112】
【表3】

ヒドロキシエチルアクリレート;
アミノエチルメタクリレート;
**2,2−ジエトキシアセトフェノン。
【0113】
(実施例8)
PRINT(登録商標)で工学的に作製されたエアロゾルのマトリックス異方性の調節:
実施例7で解明されたエアロゾル組成物の柔軟性に加え、PRINT(登録商標)は、その空気力学的性質に影響を及ぼすため、エアロゾルマトリックスのバルクおよび表面の性質の調節も可能にする。エアロゾルMMADに影響を及ぼす重要なパラメーターの1つは、そのマトリックスのバルク密度である。事実、その多孔率を上昇させることによってエアロゾルマトリックス密度を減少させることにより、比較的大きな粒子(MMAD>10μm)を小さな中実粒子(MMAD≦3μm)のように振る舞わせることが可能になり、呼吸器管の深部に沈着させることが可能になる23。生分解性PLGAマトリックスから多孔質粒子を加工するための予備実験は、首尾良く行われた。これら粒子の物理的および空気力学的特徴付けは進行中であるが、図26のSEM画像は、PRINT(登録商標)が重要な材料パラメーター(マトリックス密度)に影響を及ぼすことができ、それによってエアロゾルの空気力学的性能が調節されることを実証する。これに関し、図26は、脱イオン水に4時間浸漬させる前(A)と後(B〜C)の、ポロゲンとして20重量%のポリ(ビニルピロリドン)を有する多孔質PLGA粒子を示す。前述の結果に基づけば、同じ形状、サイズ、および組成のエアロゾルに関して低い値から高い値までマトリックス多孔率を変化させるだけで、太い気道から肺深部への肺沈着に対して組織的に影響を及ぼすことが可能と考えられる。
【0114】
【数1】

【0115】
【数2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工されたナノ粒子本体部材を含む、工学的に作製された粒子であって、
該加工されたナノ粒子本体部材は、非球状であり、空気流中に混入された場合に自転、転動、または揚力のうちの少なくとも1つをもたらし、それによって、該加工されたナノ粒子本体部材の沈降時間が延びるように構成されている、工学的に作製された粒子。
【請求項2】
前記加工されたナノ粒子本体部材が、同等の体積の等価な球体よりも約27〜59%遅く沈降するように構成されている、請求項1に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項3】
前記加工されたナノ粒子本体部材が非対称である、請求項1に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項4】
前記加工されたナノ粒子本体部材が対称である、請求項1に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項5】
前記加工されたナノ粒子本体部材が、該加工されたナノ粒子本体部材を完全に貫通するように画定された少なくとも1つの穿孔を含む、請求項1に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項6】
前記穿孔が非円形である、請求項5に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項7】
前記穿孔が、前記加工されたナノ粒子本体部材の中心軸に対して非対称に画定されている、請求項5に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項8】
前記加工されたナノ粒子本体部材が、異方性密度分布を有する、請求項1に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項9】
前記加工されたナノ粒子本体部材が、複数の相分離材料を含む、請求項8に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項10】
前記加工されたナノ粒子本体部材が多孔質である、請求項8に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項11】
前記加工されたナノ粒子本体部材が、互いに異なる密度を有する複数の組成物を含む、請求項8に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項12】
前記加工されたナノ粒子本体部材が、非湿潤鋳型における粒子複製を使用して形成された粒子を含む、請求項1に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項13】
前記加工されたナノ粒子本体部材が、送達部位にカーゴを送達するために該カーゴを一緒に運ぶように構成されている、請求項1に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項14】
前記カーゴが、治療薬、医薬品、タグ、磁気材料、常磁性材料、超常磁性材料、感知剤、シグナル伝達剤、タガント、造影剤、荷電種、生物剤、診断薬、薬物、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項13に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項15】
前記加工されたナノ粒子本体部材が、自転をもたらすように構成されている、請求項1に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項16】
前記加工されたナノ粒子本体部材が、転動をもたらすように構成されている、請求項1に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項17】
前記加工されたナノ粒子本体部材が、揚力をもたらすように構成されている、請求項1に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項18】
前記加工されたナノ粒子本体部材が、自転または転動および揚力をもたらすように構成されている、請求項1に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項19】
前記加工されたナノ粒子本体部材が、自転および転動をもたらすように構成されている、請求項1に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項20】
前記加工されたナノ粒子本体部材が、自転、転動、および揚力をもたらすように構成されている、請求項1に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項21】
前記加工されたナノ粒子本体部材が、前縁渦流の生成により揚力をもたらすように構成されている、請求項1に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項22】
前記加工されたナノ粒子本体部材が揚力発生縁部を含む、請求項1に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項23】
前記加工されたナノ粒子本体部材が、楕円形、ローレンツ形、Y字形、V字形、およびL字形からなる群から選択された形状を含む、請求項1に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項24】
前記加工されたナノ粒子本体部材が軸外質量中心を含む、請求項1に記載の工学的に作製された粒子。
【請求項25】
工学的に作製されたエアロゾル粒子を送達する方法であって、
非球状であり、空気流中に混入された場合に自転、転動、または揚力の少なくとも1つをもたらすように構成されている、複数の加工されたナノ粒子本体部材をエアロゾル形態で提供するステップと、
該加工されたナノ粒子本体部材を空気流中に放出するステップと
を含む、方法。
【請求項26】
エアロゾルの適用に使用するための粒子を加工する方法であって、
パターニングされた鋳型および基材を提供するステップであって、該パターニングされた鋳型が、その内部に形成された複数のリセス領域を有するパターニングされた鋳型表面を含む、ステップと、
ある体積の液体材料を、該パターニングされた鋳型表面または該複数のリセス領域のうちの少なくとも1つの中または上に配置するステップと、
(a)該パターニングされた鋳型表面と該基材とを接触させ、該液体材料を処理するステップ、または
(b)該液体材料を処理するステップ
のうちの一つによって、1個または1個より多い粒子を形成するステップであって、形成された粒子のそれぞれは、非球形であり、空気流中に混入された場合に自転、転動、または揚力の少なくとも1つをもたらすように構成されているステップと
を含む方法。
【請求項27】
少なくとも1種の治療薬を被験体に送達するための方法であって、該方法は、該治療薬を含む複数の工学的に作製されたナノ粒子を、肺吸入を介してまたは鼻内投与を介して該被験体に投与することにより、中枢神経系への送達を達成するステップを含み、該工学的に作製されたナノ粒子のうちの少なくとも1個は、非球形であり、空気流中に混入された場合に自転、転動、または揚力の少なくとも1つをもたらすように構成されている微細加工されたナノ粒子本体部材を含む、方法。
【請求項28】
前記治療薬が、治療用タンパク質またはペプチド、抗体、小分子医薬品、抗生剤、抗ウイルス薬、酵素、ポリヌクレオチド、抗癌剤、診断薬、造影剤、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
工学的に作製された粒子であって、
非球形であり、空気流中に混入された場合に自転、転動、または揚力の少なくとも1つをもたらすように構成されている、加工されたナノ粒子本体部材
を含む、工学的に作製された粒子。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図3D】
image rotate

【図3E】
image rotate

【図3F】
image rotate

【図3G】
image rotate

【図3H】
image rotate

【図3I】
image rotate

【図3J】
image rotate

【図3K】
image rotate

【図3L】
image rotate

【図3M】
image rotate

【図3N】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図20A】
image rotate

【図20B】
image rotate

【図20C】
image rotate

【図20D】
image rotate

【図20E】
image rotate

【図20F】
image rotate

【図20G】
image rotate

【図20H】
image rotate

【図21A】
image rotate

【図21B】
image rotate

【図21C】
image rotate

【図21D】
image rotate

【図21E】
image rotate

【図21F】
image rotate

【図21G】
image rotate

【図21H】
image rotate

【図22A】
image rotate

【図22B】
image rotate

【図22C】
image rotate

【図22D】
image rotate

【図22E】
image rotate

【図22F】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25A】
image rotate

【図25B】
image rotate

【図25C】
image rotate

【図25D】
image rotate

【図25E】
image rotate

【図25F】
image rotate

【図26A】
image rotate

【図26B】
image rotate

【図26C】
image rotate

【図7】
image rotate

【図10】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図23】
image rotate


【公表番号】特表2012−532739(P2012−532739A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520713(P2012−520713)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2010/041797
【国際公開番号】WO2011/008737
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(500407776)ザ ユニバーシティ オブ ノース キャロライナ アット チャペル ヒル (2)
【出願人】(510229544)リクイディア テクノロジーズ, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】