説明

工業材料保護薬剤、工業材料処理方法及び工業材料処理物

【課題】より一層効果が高く、経済性に優れ、環境に対する負荷が小さい工業材料保護薬剤、工業材料処理方法及び工業材料処理物を提供する。
【解決手段】防腐効果を有するシプロコナゾールと2,5−ジメチルフラン−3−(3’−イソプロピル)カルボキシアニリド、さらには所望により銅化合物等の他の抗生物性化合物を含有させ、その相乗効果により抗生物効果と経済性を高めるとともに、環境に与える負荷を軽減した工業材料保護薬剤、工業材料処理方法及び工業材料処理物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業材料保護薬剤、工業材料処理方法及び工業材料処理物に関する。さらに詳しく言えば、防腐効果を有するシプロコナゾールと2,5−ジメチルフラン−3−(3’−イソプロピル)カルボキシアニリド[CAS No.:160718−25−2](以下、化合物Aと略記することがある。)、さらには銅化合物等の他の抗生物性化合物を含有させ、その相乗効果により抗生物効果と経済性を高めるとともに、環境に与える負荷を軽減した工業材料保護薬剤、工業材料処理方法及び工業材料処理物に関する。
【背景技術】
【0002】
木材等の工業材料は、使用環境において様々な生物の作用を受け劣化する。これを防ぐため、従来から各種の無機系及び有機系の防腐薬剤を用いる保護処理が行われて来た。しかしながら、このような薬剤を高濃度で使用することによる人体への影響や、環境に対する負荷が問題点として指摘され、より効果が高く、経済性に優れ、環境に与える負荷が少ない薬剤と、そうした薬剤を用いた処理物が求められている。
【0003】
本発明で使用するシプロコナゾール及び2,5−ジメチルフラン−3−(3’−イソプロピル)カルボキシアニリド(化合物A)は公知の化合物であり、工業材料、特に木材保護剤や木材防腐剤としての利用や、様々な化合物との併用に関して、前者については特開平5−255016号公報(特許文献1)、特開平6−256115号公報(特許文献2)、特開平6−192013号公報(特許文献3)、特表2002−501034号公報(特許文献4)、特開平8−197509号公報(特許文献5)、特開平8−198711号公報(特許文献6)、特開平8−291006号公報(特許文献7)、特開平8−291007号公報(特許文献8)、特開平10−218999号公報(特許文献9)、特開平11−139905号公報(特許文献10)、WO99−13716明細書(特許文献11)及び特開2003−160402号公報(特許文献12)に、後者については特開平6−220035号公報(特許文献13)、特開2001−240505号公報(特許文献14)に開示されている。
【0004】
しかしながら、これらの文献に開示された方法で十分な工業材料保護効果を得るためには、シプロコナゾールや化合物Aの使用量を多くする必要があり、経済的でない。このため、より少ない使用量で、より効果的な保護処理を行うために、他の有効な化合物との組み合わせ方法の開発が望まれていた。
【0005】
【特許文献1】特開平5−255016号公報
【特許文献2】特開平6−256115号公報
【特許文献3】特開平6−192013号公報
【特許文献4】特表2002−501034号公報
【特許文献5】特開平8−197509号公報
【特許文献6】特開平8−198711号公報
【特許文献7】特開平8−291006号公報
【特許文献8】特開平8−291007号公報
【特許文献9】特開平10−218999号公報
【特許文献10】特開平11−139905号公報
【特許文献11】WO99−13716明細書
【特許文献12】特開2003−160402号公報
【特許文献13】特開平6−220035号公報
【特許文献14】特開2001−240505号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、より一層効果が高く、経済性に優れ、環境に対する負荷が小さい工業材料保護薬剤、工業材料処理方法及び工業材料処理物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み、各種の防腐成分とその組み合わせに関して広範囲に検討を行った。その結果、シプロコナゾールと化合物Aを有効成分とする工業材料保護薬剤を用いることで、その有効成分の相乗効果により極めて低薬量にて優れた保護効果が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の工業材料保護薬剤、工業材料処理方法及び工業材料処理物を提供するものである。
1.シプロコナゾールと2,5−ジメチルフラン−3−(3’−イソプロピル)カルボキシアニリドを含有することを特徴とする工業材料保護薬剤。
2.他の抗生物性化合物をさらに含有する前記1に記載の工業材料保護薬剤。
3.他の抗生物性化合物が銅系化合物である前記2に記載の工業材料保護薬剤。
4.前記1〜3のいずれかに記載の工業材料保護薬剤を用いて処理を行うことを特徴とする工業材料処理方法。
5.前記4に記載の方法で得られる工業材料処理物。
6.工業材料が木材である、前記5に記載の工業材料処理物。
【発明の効果】
【0009】
本発明はシプロコナゾールと2,5−ジメチルフラン−3−(3’−イソプロピル)カルボキシアニリド(化合物A)を含有する工業材料保護薬剤及びその薬剤を用いる工業材料処理方法を提供したものである。背景技術の項で述べたように、シプロコナゾールと化合物Aについては、それぞれ別の文献にて木材保護効果が示されているが、これらを併用することによって得られる保護効果は、後述の実施例から明らかなように、その各構成成分の効力から予想される範囲を上回るものであり、従って本発明の工業材料保護薬剤及び保護方法は、顕著な相乗効果をもたらすものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、シプロコナゾールと化合物Aを有効成分とする工業材料保護薬剤を使用する際には、通常は固体担体または液体担体と混合し、必要があれば界面活性剤、その他の製剤用補助材を添加して、油剤、乳剤、可溶化剤、水和剤、懸濁剤、フロアブル剤、粉剤等に製剤化して施用する。
これらの製剤の調製に使用可能な液体担体の例としては、トルエン、キシレン、メチルナフタレン系溶剤等の芳香族有機溶媒、ジクロロメタン、トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール系溶剤、リン酸エステル、安息香酸エステル等のエステル系溶剤、ケロシン、N−メチルピロリドン、及び水が挙げられる。また、固体担体の例としては、クレー、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、タルク、パイロフィライト、ホワイトカーボン、ベントナイト、及び珪藻土が挙げられる。
【0011】
また、製剤の調製に際しては、この分野で通常使用されているアニオン系、ノニオン系、カチオン系、または両性イオン系の界面活性剤を使用することができる。これらの製剤中には、シプロコナゾールと化合物Aが合計量で通常0.01〜90質量%、好ましくは0.1〜50質量%含有され、工業材料の種類と求められる保護効果の程度に応じ、そのままで、あるいは水または溶剤で希釈して使用される。
また、これらの製剤中でのシプロコナゾールと化合物Aの混合比率は質量比で、通常1:100〜100:1、好ましくは、1:10〜10:1である。
【0012】
本発明の工業材料保護薬剤は、他の抗生物性化合物と組み合わせて使用することで、更に抗生物効果を増強することができる。
かかる目的で用いることのできる抗生物性化合物の好適な例として、銅化合物が挙げられる。銅化合物の例としては、硫酸銅、塩化銅、リン酸銅、水酸化銅、炭酸銅、塩基性炭酸銅、塩基性酢酸銅、塩基性リン酸銅、塩基性塩化銅、酸化銅、亜酸化銅、酢酸銅、ナフテン酸銅、オレイン酸銅、ステアリン酸銅、オクタン酸銅、安息香酸銅、クエン酸銅、乳酸銅、酒石酸銅、2−エチルヘキサン酸銅、更には、これらの銅化合物を水溶性の状態に安定化した錯体等、及びこれらの化合物の水和物が挙げられる。
【0013】
本発明の工業材料保護薬剤に前記の銅化合物を含有する製剤を処方する場合、銅化合物と、シプロコナゾール及び化合物Aの合計質量との配合比率は質量比で、通常10:1〜1000:1、好ましくは20:1〜500:1である。
こうした銅化合物を含有する製剤を水で希釈可能な製剤として処方する場合は、銅化合物を安定な状態に保つための安定化剤として、従来知られているアンモニウム系化合物やアミン系化合物が使用可能である。具体的には、アンモニア、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、イソプロパノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ポリエチレンイミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、ポリアリルアミン等が挙げられる。
【0014】
また、本発明の工業材料保護薬剤には、pH調整のために、更に各種の炭酸塩化合物、カルボン酸化合物、あるいは鉱酸を添加して使用することが可能である。具体的には、硼酸、ナフテン酸、ぎ酸、酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、安息香酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、アジピン酸、フマル酸、マロン酸、グルコン酸、セバシン酸、シクロヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムなど、及びこれらの水和物等が使用可能である。
【0015】
また、銅化合物以外の他の抗生物性化合物の好適な例としては、テブコナゾール、プロピコナゾール、アザコナゾール、エポキシコナゾール、ジクロブトラゾール、ジニコナゾール、メタコナゾール、エタコナゾール、テトラコナゾール、ヘキサコナゾール、メトコナゾール、イプコナゾール、ジフェノコナゾール、ペンコナゾール、フェンブコナゾール、イミベンコナゾール、ブロモコナゾール、イトラコナゾール、フルトリアホール、フルコナゾール、フルコナゾール・シス、フルシラゾール、フルオトリマゾール、リバビリン、トリアミホス、イサゾホス、トリアゾホス、イジンホス、トリアジメホン、トリアジメノール、ビテルタノール、トリチコナゾール等のアゾール類;アゾキシストロビン、ピコキシストロビン、ピラクロストロビン等のストロビン類;ジクロロフルアニド(エウパレン)、トリフルアニド(メチルレウパレン)、シクロフルアニド、フォルペット、フルオロフォルペットなどのスルオンアミド類;カルベンダジム(MBC)、ベノミル、フベリタゾール、チアベンダゾール又はこれらの塩類のようなべンズイミダゾール類;チオシアナトメチルチオベンゾチアゾール(TCMTB) 、メチレッビスチオシアネート(MBT)などのチオシアネート類;ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロライド、ベンジル−ジメチル−ドデシル−アンモニウムクロライド、ジデシル−ジメチル−アンモニウムクロライド、N−アルキルベンジルメチルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩;C11〜C14−4−アルキル−2,6−ジメチルモルホリン同族体(トリデモルフ)、(±)−シス−4−[3−(t−ブチルフェニル)−2−メチルプロピル]−2,6−ジメチルモルホリン(フェンプロピモルフ,ファリモルフ)などのモルホリン誘導体;o−フェニルフェノール、トリブロモフェノール、テトラクロロフェノール、ペンタクロロフェノール、3−メチル−4−クロロフェノール、ジクロロフェノール、クロロフェン及びこれらの塩類などのフェノール類;3−ヨード−2−プロピニル−n−ブチルカルバメート(IPBC)、3−ヨード−2−プロピニル−n−ヘキシルカルバメート、3−ヨード−2−プロピニルシクロヘキシルカルバメート、3−ヨード−2−プロピニルフェニルカルバメート、3−ヨード−2−プロピニル−n−ブチルカルバメート、p−クロロフェニル−3−ヨードプロパギルホルマール(IF-1000) 、3−ブロモ−2,3−ジヨード−2−プロペニルエチルカルボナート(サンプラス)、1−[(ジヨードメチル)スルホニル]−4−メチルベンゼン(アミカル)などの有機ヨード化合物;ブロノポルなどの有機ブロモ誘導体;N−メチルイソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−N−メチルイソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−N−オクチルイソチアゾリン−3−オン、N−オクチルイソチアゾリン−3−オン(オクチリノン)などのイソチアゾリン類;シクロペンタイソチアゾリンなどのベンズイソチアゾリン類;1−ヒドロキシ−2−ピリジンチオン(又はそのナトリウム塩、鉄塩、マンガン塩、亜鉛塩等)、テトラクロロ−4−メチルスルホニルピリジンなどのピリジン類;スズ、銅、亜鉛のナフテート、オクトエート、2−エチルヘキサノエート、オレエート、ホスフェート、ベンゾエートなどの金属石鹸類;Cu2O、CuO、ZnOなどのオキシド類;トリブチルスズナフテネート、t−ブチルスズオキシドなどの有機スズ誘導体;トリス−N−(シクロヘキシルジアゼニウムジオキシン)−トリブチルスズ又はK塩類、ビス−(N−シクロヘキシル)ジアゾニウム−ジオキシン銅又はアルミニウムなどの金属化合物;ジアルキルジチオカルバメートのNa又はZn塩、テトラメチルジウラムジサルファイド(TMTD)などのカルバメート類;2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル(クロロタロニル)などのニトリル類;Cl−Ac、MCA、テクタマー、ブロノポル、ブルミドックスなどの活性ハロゲン原子を有する微生物剤;2−メルカプトベンゾチゾール類、ダゾメットなどのベンズチアゾール類;8−ヒドロキシキノリンなどのキノリン類;ベンジルアルコールモノ(ポリ)ヘミフォルマール、オキサゾリジン、ヘキサヒドローs−トリアジン、N−メチロールクロロアセトアミドなどのホルムアルデヒドを生成する化合物;八ホウ酸ナトリウム四水和物、ホウ酸、ホウ砂などのホウ素化合物;フッ化ナトリウム、ケイフッ化ナトリウムなどのフッ素化合物;アジノフォス−エチル、アジノフォス−メチル、1−(4−クロロフェニル)−4-(O−エチル,S−プロピル)ホスホリルオキシピラゾル(TIA−230)、クロロピリフォス、テトラクロロビンホス、クマフォス、デトメン−S−メチル、ジアジノン、ジクロルボス、ジメトエート、エトプロフォス、エトリムフォス、フェニトロチオン、ピリダフェンチオン、ヘプテノフォス、パラチオン、パラチオン−メチル、プロペタンホス、フォサロン、フォキシム、ピリムフォス−エチル、ピリミフォス−メチル、プロフェノフォス、プロチオフォース、スルプロフォス、トリアゾフォス及びトルクロルフォンなどのリン酸エステル類;アルジカーブ、ベニオカーブ、BPMC(2−(1−メチルプロピル)フェニルメチルカルバメート、ブトカルボキシム、ブトキシカルボキシム、カルバリル、カルボフラン、カルボスルファン、クロエトカルブ、イソプロカルブ、メトミル、オキサミル、ピリミカルブ、プロメカルブ、プロポクスル及びチジカルブなどのカルバメート類;アレトリン、アルファメトリン、エンペントリン、プロフルトリン、トラロメトリン、メトフルトリン、フェノトリン、イミプロトリン、シフェノトリン、フタルスリン、ピレトリン、プラレトリン、フラメトリン、ジメフルトリン、プロフルスリン、テフルスリン、バイオアレスリン、エスビオスリン、ビオレスメトリン、シクロプロトリン、シフルトリン、デカメトリン、シハロトリン、シペルメトリン、デルタメトリン、ペルメトリン、レスメトリン、フェンプロパトリン、フェンフルトリン、フェンバレレート、フルシトリネート、フルムトリン、フルバリネート、エトフェンプロックスなどのピレスロイド類;アセタミプリド(acetamiprid)、イミダクロプリド(imidacloprid)、チアクロプリド(thiacloprid)ニテンピラム(nitenpyram)、クロチアニジン(clothanidin)、ジノテフラン(dinotefuran)、チアメトキサム(thiamethoxiam)、ニテンピラム(nitenpyram)、フロニカミド(flocamid)などのネオニコチノイド類等が挙げられる。
【0016】
また、抗生物性化合物の好適な例として、下記式(1)
【化1】

(式中、R1234は炭素−窒素結合によって連結されている炭素原子数20までの有機置換基であり、Xn-は無機系または有機系の価数nのアニオンであり、nは1、2、または3である。)
で示される第四級アンモニウム化合物も挙げることができる。この第四級アンモニウム化合物の例としては、具体例には、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ジオクチルジメチルアンモニウム、塩化ジラウリルジメチルアンモニウム、塩化ラウリルトチメチルアンモニウム、塩化セチルトチメチルアンモニウム、塩化オクタデシルピコリニウム、塩化オクチルジデシルピリジニウムアンモニウム、臭化ラウリルイソキノリニウム等が挙げられる。
【0017】
これらの抗生物性化合物は、単独で用いても組み合わせて用いてもよい。
これらの抗生物性化合物による工業材料処理は、本発明の工業材料保護薬剤による工業材料処理の前処理または後処理として行うことも可能であるが、本発明の工業材料保護薬剤に添加したものを製剤化し、同時に工業材料処理を行うことが省力化のため有用である。
本発明の工業材料保護薬剤としてこれらの抗生物性化合物を使用する場合の、抗生物性化合物と、シプロコナゾール及び化合物Aの合計質量との配合比率は、使用する抗生物性化合物が有する効力に応じて様々な比率での使用が可能であるが、通常、質量比で0.01:1〜1000:1、好ましくは、0.1:1〜500:1である。
【0018】
[工業材料の保護に関連する微生物]
本発明の工業材料保護薬剤が有効に作用する微生物の例としては、以下の微生物が挙げられるが、これに限定されるものではない。
コニオフォラ・プテアナ(Coniophora puteana)、トラメテス・ベルシコラー(Trametes versicolor)、ポスティア・プラセンタ(Postia placenta)、ポスティア・バポラリア(Poria vaporaria)、ポリア・バイランティー(Poria vaillantii)、グロエオフィリウム・セピアリウム(Gloeophylium sepiarium)、グロエオフィリウム・アドラタム(Gloeophylium adoratum)、グロエオフィリウム・アビエティナム(Gloeophylium abietinum)、グロエオフィリウム・トラベウム(Gloeophylium trabeum)、グロエオフィリウム・プロタクタム(Gloeophylium protactum)、レンティナス・レピドウス(Lentinus lepideus)、レンティナス・エドデス(Lentinus edodes)、レンティナス・シアチフォルメス(Lentinus cyathiformes)、レンティナス・スクアロロサス(Lentinus squarrolosus)、パキシラス・パヌオイデス(Paxillus panuoides)、ホミトプシス・パルストリス(Fomitopsis palustris)、プレウロタス・オストレアタス(Pleurotus ostreatus)、ドンキオポリア・エクスパンサ(Donkioporia expansa)、セルプウラ・ラクリマンス(Serpula lacrymans)、セルプウラ・ヒマントイデス(Serpula himantoides)、グレノスポラ・グラフィー(Glenospora graphii)、ホミトプシス・リラシノギルバ(Fomitopsis lilacino-gilva) 、ペレニポリア・テフロポラ(Perenniporia tephropora)、アントロディア・キサンタ(Antrodia xantha)、アントロディア・バイランティー(Antrodia vaillantii)等の担子菌類(Basidiomycetes)、クラドスポリウム・ヘルバラム(Cladosporium herbarum)、オーレオバシディウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)、スクレロフ・ピティオフィラ(Scleroph pithyophila)、スコプウラ・フィコミセス(Scopular phycomyces)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、ペニシリウム・バリアビル(Penicillium variabile)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)、トリコデルマ・リグノラム(Trichoderma rignorum)、ダクティレウム・フサリオイデス(Dactyleum fusarioides )等の不完全菌類(Deuteromycetes)、ケトミウム・グロブサム(Chaetomiumu globsum)、ケトミウム・アルバアレナラム(Chaetomium alba-arenulum)、ペトリエラ・セティフェラ(Petriella setifera)、トリチュラス・スピラリス(Trichurus spiralis)、フミコウラ・グリセラ(Humicola grisera)、カラトシステス・ミナー(Caratocystis minor)等の子嚢菌類(Ascomycetes)、ムコール・スピノサス(Mucor spinosus)等の接合菌類(Zygomycetes)等。
【0019】
[工業材料、処理方法及び処理物]
本発明の工業材料保護薬剤による保護の対象となる工業材料としては、木材、木片、木粉、木質加工品、竹材、モミ、藁、いぐさ、ケナフ、繊維、繊維加工品、炭、合成樹脂、合成樹脂の発砲体、セラミックス、レンガ、コンクリート、金属焼結体、及びこれらの複合材料等が挙げられる。木質加工品としては、具体的には、合板、単板積層材、チップボード、配向性ストランドボード(Oriented Strand Board;OSBと略記)、ファイバーボード等が挙げられる。
【0020】
本発明の工業材料処理方法として、上記の工業材料において通常用いられている処理方法を適用することが出来る。こうした処理方法としては、例えば工業材料が木材、木片、木質加工品、竹材である場合、丸太、板材、角材、棒材等の木材の形状と、求められる保護効果の程度に応じて、塗布、吹き付け、浸漬等の表面処理法、減圧操作及び/もしくは加圧操作による注入処理法、あるいは穿孔処理法が適用される。減圧操作及び/もしくは加圧操作による注入処理法としては、具体的には、充細胞法(ベセル法)、半空細胞法(ローリー法)、空細胞法(リューピング法)、複式真空法(ダブルバキューム法)、加圧・減圧交替法(Oscillating Pressure Method)、脈動加圧法(Pulsation Pressure Method)、定常加圧法(Constant Pressure Method)、低速変動加圧法(Slow Pressure Change Method)、及びこれらの操作を組み合わせた方法が適用可能である。また、工業材料が合板、単板積層材、チップボード、OSB、ファイバーボード等の木質系材料である場合、単板処理法、接着剤混入処理法、成板処理法が挙げられる。また、木材表層に深さ10mm程度の傷を多数入れるインサイジング処理は、木材内部に充分に薬剤を浸透させるための有用な木材前処理方法である。
【0021】
本発明の工業材料処理物は、建築材料として有用であり、例えば、土台、大引、根太、床板、胴縁、間柱、床下地板、筋かい、垂木、屋根下地板、浴室軸組、床組材等の家屋部材、外構部材、ログハウス、バルコニー、テラス、門塀、東屋、ぬれ縁、デッキ材等の屋外建築用部材、枕木、電柱、基礎杭、道路用防音壁、橋梁等の土木用材として用いることで、環境に与える負荷を軽減しながら、長期間の安定した保護効果を得ることが出来る。
【0022】
本発明における工業材料保護薬剤を用いて有用な工業材料を得るために必要なシプロコナゾールと化合物Aの合計質量は、例えば、工業材料が木材であり、減圧操作及び/もしくは加圧操作による注入処理法で処理を行う場合は、木材の体積当たりに含まれる質量として、通常、0.1〜500g/m3、好ましくは1〜100g/m3であり、塗布等の表面処理法で処理を行う場合は、木材の表面積当たりの塗布量として、通常、0.01〜100g/m2、好ましくは0.1〜10g/m2である。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0024】
[化合物Aの調製]
化合物Aの調製は、特開平6−220035(特許文献13)に記載の方法に準じて、以下の方法で行った。
2,5−ジメチルフラン−3−カルボニルクロライド(シグマアルドリッチジャパン社製)1.0gを塩化メチレン20mlに溶解し、氷冷下、トリエチルアミン0.88mlを加えた。3−イソプロピルアニリン(東京化成工業株式会社製)0.85gを加え、室温で1時間撹拌後、1時間リフラックスを行い反応させた。冷却後、塩化メチレン20mlを加え、1N NaOH 20ml、1N HCl 20ml、飽和食塩水20mlで洗浄後、Na2SO4で脱水して、エバポレーターにて濃縮した。得られた反応物を酢酸エチル/ヘキサン系溶媒にて再結晶を行い、2,5−ジメチルフラン−3−(3’−イソプロピル)カルボキシアニリドの淡黄色結晶1.0gを得た。得られた化合物のNMR分析結果は以下の通りであった。
1HNMR(CDCl3)δppm;7.47-6.98(4H,m),6.11(1H,s),2.91(1H,q,q),2.60(3H,s),2.29(3H,s),1.26(d,6H)
【0025】
実施例1:
シプロコナゾール(フマキラートータルシステム(株))及び化合物Aの1%(w/v)ジメチルスルホオキシド溶液をそれぞれ調製した。この薬剤の所定量を滅菌後のポテトデキストロース寒天培地に十分混合し、直径90mmのシャーレ内に15mlを注ぎ込み、室温に放置した。なお、コントロールとしてジメチルスルホオキシドのみを添加したポテトデキストロース寒天培地も同様に作成した。培地が固まった後、あらかじめ培養しておいたコロニーから、菌糸を直径5mmのコルクボーラーで培地ごとくり抜き、試験培地の中央に接種した。シャーレを25℃にて培養し、7日目に接種源から広がったコロニーの直径を測定し、以下に示す式によりコントロールのコロニーの直径と比較した菌の実測生育阻害率を求めた。この結果を表1に示す。
【0026】
【数1】

【0027】
活性成分の混合物の理論生育阻害率は、下記のコルビーの式[R. S. Colby, Weeds 15, 20-22 (1967)]を用いて求め、実測生育阻害率と比較した。この結果は、シプロコナゾールと化合物Aに相乗効果があることを明白に示している。
【0028】
【数2】

【0029】
【表1】

【0030】
実施例2:
蒸留水を溶媒として、塩基性炭酸銅16%、モノエタノールアミン40%、安息香酸5%を含む木材保存薬剤を調製した。この木材保存薬剤に、少量のエタノールにあらかじめ溶解したシプロコナゾール及び化合物Aを、所定の濃度になるように添加した。
「木材保存剤評価のためのプロトコル,室内腐朽試験(PROTOCOLS FOR ASSESSMENT OF WOOD PRESERVATIVES, LABORATORY DECAY),オーストララシア木材保護委員会(THE AUSTRALASIAN WOOD PRESERVATION COMMITTEE)」に準拠し、この木材保存薬剤を所定濃度になるように蒸留水で希釈し、試験体ラジアタパイン辺材(20×20×20mm)に加圧注入した後、風乾し、前記プロトコル(PROTOCOL)に従って耐侯操作を行った。この試験体を前記プロトコル(PROTOCOL)に従い生育させたコニオフォラ・プテアナ(Coniophora puteana)、セルプウラ・ラクリマンス(Serpula lacrymans)の菌叢上に設置し、コニオフォラ・プテアナ(Coniophora puteana)の場合25℃、セルプウラ・ラクリマンス(Serpula lacrymans)の場合20℃で12週間腐朽させた後、試験前後の試験体の腐朽による質量減少率を測定した。なお、結果は1条件につきいずれも試験体9個を用いて平均値を算出したものである。結果を表2に示す。
これにより、シプロコナゾールと化合物Aを同時に配合することで、極めて低薬量にて効果の高い木材保存薬剤が得られることが明らかとなった。
【0031】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シプロコナゾールと2,5−ジメチルフラン−3−(3’−イソプロピル)カルボキシアニリドを含有することを特徴とする工業材料保護薬剤。
【請求項2】
他の抗生物性化合物をさらに含有する請求項1に記載の工業材料保護薬剤。
【請求項3】
他の抗生物性化合物が銅系化合物である請求項2に記載の工業材料保護薬剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の工業材料保護薬剤を用いて処理を行うことを特徴とする工業材料処理方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法で得られる工業材料処理物。
【請求項6】
工業材料が木材である、請求項5記載の工業材料処理物。

【公開番号】特開2009−96751(P2009−96751A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269004(P2007−269004)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000127879)株式会社エス・ディー・エス バイオテック (23)
【Fターム(参考)】