説明

左右対称防水パン

【課題】防水パンを左右対称とし、浴槽設置と洗場施工とを防水パンの左右のいずれの領域においても実施することができるようにする。
【解決手段】この発明は、浴槽Tを設置するための領域L又はRと、洗場を施工するための領域R又はLとが、左右対称となるようにした防水パンPに関するものである。左右の各領域L,Rには同一高さの水平な浴槽載置面1を設けるようにしている。このような対称形の防水パンPであれば、左右の各領域L,Rのいずれもが浴槽設置又は洗場施工の選択を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗場施工領域と浴槽設置領域とが設けられた防水パンにおいて、防水パンの全体の領域を左右に分け、それぞれの領域に洗場施工又は浴槽設置を可能とした技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、浴室に設置される防水パンは、洗場を施工するための領域と、浴槽を設置するための領域とに区画されており、二つの領域及び排水口の位置は設計製造の段階から予め定められている。しかも、浴槽設置領域は、洗場施工領域に対して一段低くなっている。ところが、施工する住宅等においては、出入口の位置が各住宅の配置構造により異なり、浴槽の設置位置と洗場の施工位置とは一定していない。
そのため、左右に形成した浴槽設置領域及び洗場施工領域と、排水口とを設けた防水パンでは、これらの配置が左右対称となる二種の防水パンを製造準備する必要があり、製造コスト、在庫管理コストの増加を招いていた。
【0003】
このような問題を解決するものとして、特許文献1に示すような技術がある。この特許文献1の技術は、防水パンを左右に区画し、その短手方向(前後方向)に凸条と凹溝を交互に形成し、また左右の区画の境界部に凸条が位置するようにしている。そして、各凸条の中央を高くして隣接する凹溝へ向けた下り傾斜面とし、各凸条及び凹溝の手前側の長手方向(左右方向)に排水溝を設けている。凹溝は排水溝へ向けて排水勾配を設け、また排水溝は中央部にトラップ取付孔を設けて左右から中央へ向けて排水勾配を設けている。浴槽は、左右の領域のいずれかにおいて、各凸条の上面に載置して設置している。
【特許文献1】実開昭49−147832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1の技術では、山型の凸条に浴槽を設置するため、浴槽の取付基部と凸条の山型とが線状に接触して荷重が集中し、浴槽の取付基部が損傷し易くなる等の問題があった。また凸条と凹溝とを交互に配設し、更に凹溝に排水勾配を設け、凹溝の一端側でこれとクロスする方向に設けた排水溝にも排水勾配を付与する必要があり、防水パンの排水勾配を含めた構造が複雑となり、成形が難しいという問題があった。
【0005】
本発明は従来の前記課題に鑑みてこれを改良除去したものであって、浴槽設置と洗場施工とを左右のいずれの領域においても実施することのできる左右対称防水パンを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
而して、前記課題を解決するために本発明が採用した請求項1の手段は、浴槽を設置するための領域と、洗場を施工するための領域とが、左右のいずれかに分けられる防水パンにおいて、左右の各領域には同一高さの水平な浴槽載置面が設けられており、左右の各領域のいずれもが浴槽設置又は洗場施工の選択を可能としたことを特徴とする左右対称防水パンである。
【0007】
本発明が採用した請求項2の手段は、左右の領域の境界に、水平なエプロン載置面が形成されている前記請求項1に記載の左右対称防水パンである。
【0008】
本発明が採用した請求項3の手段は、左右の領域のそれぞれに排水口が設けられている請求項1又は2に記載の左右対称防水パンである。
【0009】
前記課題を解決するために本発明が採用した請求項4の手段は、左右の各領域は、浴槽載置面を除く床面部分に、それぞれの排水口へ向けて排水勾配が付与されている請求項3に記載の左右対称防水パンである。
【0010】
前記課題を解決するために本発明が採用した請求項5の手段は、左右の各領域の排水口は、裏面側でトラップにより連通接続されている請求項3又は4に記載の左右対称防水パンである。
【0011】
前記課題を解決するために本発明が採用した請求項6の手段は、左右の各領域の排水口を境界寄りで且つ境界上の端部のいずれか一方寄りに設けられている請求項3乃至5のいずれかに記載の左右対称防水パンである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明にあって、左右の各領域は、水平な浴槽載置面に浴槽を設置することができ、しかも左右の各領域がそれぞれにおいて洗場施工又は浴槽設置を選択できるため、各種現場の仕様に対処することができる。
【0013】
請求項2の発明にあっては、左右の領域の境界に、水平なエプロン載置面が形成されており、エプロンの設置が容易である。
【0014】
請求項3の発明にあっては、左右の各領域には、水平な浴槽設置面が構成されているため、浴槽の設置が容易であり、しかも、洗場施工と浴槽設置とを選択できるため、各種現場の仕様に対処することができる。
【0015】
請求項4の発明にあっては、洗場施工する領域に嵩揚げ層を設けたときに、防水パンの床面上へ漏水があったときでも積極的に排水して死水を生じさせることがなくなり、衛生的でもある。
【0016】
請求項5の発明にあっては、洗場施工領域と浴槽設置領域とのそれぞれにおいて排水が行え、円滑な排水が可能である。また各領域の排水仕様に対処することが可能である。
【0017】
請求項6の発明にあっては、仕上面の排水勾配を片流れにすることが可能であり、タイル等の設置が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の構成を図面に示す発明の実施の形態に基づいて説明すると次の通りである。図1乃至図3は本発明の第1の実施の形態に係るものであり、図1の図(A)は浴室Sの洗場とこれに隣接する脱衣室の浴室Sへの出入口の部分を示す縦断面図、図(B)は浴室Sへ防水パンPを施工した状態を示す平面図である。図2は洗場施工後の排水口部を示す縦断面図、図3は防水パンPと浴槽Tとの関係を示すものであり、図(A)は防水パンPの平面図、図(B)は浴槽設置後の浴槽Tの側面図、図(C)は浴槽設置後の洗場側から見たエプロンEと浴槽Tとを示す側面図である。
【0019】
この実施の形態に用いる防水パンPは、図3の図(A)及び図1の図(B)に示すように、床面の領域が左右方向に1/2ずつを占めるように区画L,Rされている。なお、図1の図(B)では防水パンPを90度回転させて上下方向に区画された状態を示している。そして、これらの区画された各領域L,Rに水平な浴槽載置面1が浴槽Tの脚Kの数だけ(四本)突出して形成されている。また区画された左右の領域L,Rの中央寄りの上端側には排水口2A,2Bが穿設されており、各領域L,Rの床面はそれぞれ前記排水口2A,2Bへ向かって排水勾配が付与されている。更に、前記左右の領域L,Rはその境界を中心線とする対称形を成している。而して、この実施の形態では、説明の都合上、前記区画された領域L,Rのうち、領域Lを浴槽設置領域とし、領域Rを洗場施工領域として説明する。なお、これらの領域L,Rは、左右対称形を成しているので、現場に応じて洗場施工領域にするか又は浴槽設置領域にするかの決定が行われる。
【0020】
この実施の形態における浴室Sの施工は、浴室Sの建物躯体床面Fに防水パンPを設置し、その洗場施工領域Lに、高さ調節可能な突起Mを介して衝撃緩衝及び断熱作用を目的とする発泡スチロール,発泡プロピレン等の発泡板3を載置している。高さ調節可能な突起Mを配設することにより、防水パンPと発泡板3との間に排水用の空間Aが形成される。そして、この発泡板3の上に耐湿性板材4を配設している。耐湿性板材4は、セメント質の平板状心材の両表面側に補強ガラス繊維のメッシュシートを埋め込んで補強したセメントボードで構成されている。前記発泡板3とこの耐湿性板材4とで嵩上げ材5を形成している。耐湿性板材4の上には、モルタル等の接着剤6を介してタイル7が貼着されている。また浴室Sの周囲には、建物躯体の壁Wに近接して側面壁8が立設されている。これらの建物躯体壁Wと側面壁8との間には、側面壁8の背面側の結露水等を防水パンPの内側に排出するための防水シート9が配設されている。
【0021】
洗場施工領域Rの排水口2Bには、図2に示すように、室内側に排水路形成用の筒部材10が内嵌装着され、裏面側に排水トラップ11が外嵌装着されている。排水路形成部材10は、その内部の途中に段部が設けられており、ヘアーキャッチャー12が取出自在に装着されている。また上端の流入口部には、目皿13が脱着自在に嵌合装着されている。一方、浴槽設置領域Lの排水口2Aの裏面側には、椀状部材14が外嵌装着されている。この椀状部材14は、パイプ15及び蛇腹管16を介して排水トラップ11に連通接続されている。
【0022】
また浴槽設置領域Lにおける浴槽Tの設置は、図3の図(B)に示すように、水平な浴槽載置面1に浴槽Tの高さ調節自在な脚Kを載置して高さを調節し、モルタル等の接着剤17を盛り上げて浴槽Tを固定している。
なお、図1の図(A)において、符号17は防水パンPの裏面側に形成された補強用のリブであり、符号18は浴室Sと隣位の脱衣室との出入口に設けられたドアである。
【0023】
このように本実施の形態にあっては、防水パンPを左右の領域L,Rに区画し、その領域L,Rにそれぞれ水平な浴槽載置面1を形成している。また各領域L,Rに排水口2A,2Bを形成し、各領域L,Rの床面に前記排水口2A,2Bに向かう排水勾配を付与している。そして、防水パンPの全体は、左右の領域L,Rの境界線を中心線とする対称形としている。そのため、防水パンPは、現場の浴室の出入口の設置位置に応じて左右に区画された領域L,Rを、浴槽設置領域にするか又は洗場施工領域にするかの選択を行うことができ、一つの防水パンPで従来の二つの防水パンの機能を奏している。
【0024】
図4は、本発明の第2の実施の形態に係るものであり、前記第1の実施の形態における左右の領域L,Rにそれぞれ設けられていた排水口2A,2Bを一つにまとめた共通の排水口18としたものである。排水口18を一つにすることで、防水パン製造コストの低下、製造期間の短縮、止水信頼性向上等の作用効果がある。その他の構成並びに作用効果は、前記第1の実施の形態の場合と同じである。
【0025】
図5及び図6は、本発明の第3の実施の形態に係るものであり、図5は浴室Sへ防水パンPを配設した後の平面図、図6はそのエプロン設置面部で縦断面した側面図である。同図に示す如く、この実施の形態にあっては、防水パンPの左右に区画された領域L,Rの境界線上に浴槽載置面1と同様の水平なエプロン載置面19を二つ突出形成している。このエプロン載置面19は高さ調節可能な突起Mと同一の高さを有し、洗場床を構成する発泡板3の一部が当該エプロン載置面19に当接配置され、防水床パンPと発泡板3との間に排水空間Aが形成されている。発泡板3の上に、耐湿性板材4が配設され、更にモルタル等の接着剤6を介してタイル7が貼着されることは前述した通りである。
【0026】
エプロンEは、図6に示すように、エプロン載置面19の上に断面L字状のエプロン板3が取り付けられ、該エプロン板3の洗場側の面に衝撃緩衝及び断熱作用を目的とする発泡スチロール,発泡プロピレン等の発泡板3が取り付けられ、更に発泡板3にモルタル等の接着剤6を介してタイル7が貼着されて構築される。エプロン板3の背面側(浴槽側)には補強リブ20が設けられている。またエプロンEの上面側には天板21が取り付けられている。
このように防水パンPの左右の領域L,Rの境界線上にエプロン載置面19を形成することにより、エプロンEの構築が極めて容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るものであり、図1の図(A)は浴室の洗場とこれに隣接する脱衣室の浴室への出入口の部分を示す縦断面図、図(B)は浴室へ防水パンを施工した状態を示す平面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るものであり、洗場施工後の排水口部を示す縦断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る防水パンと浴槽との関係を示すものであり、図(A)は防水パンの平面図、図(B)は浴槽設置後の浴槽の側面図、図(C)は浴槽設置後の洗場側から見たエプロンと浴槽とを示す側面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る防水パンの平面図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係るものであり、浴室へ防水パンを配設した後の平面図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係るものであり、エプロン設置面部で縦断面した側面図である。
【符号の説明】
【0028】
1…浴槽載置面、2A,2B…排水口、3…発泡板、4…耐湿性板材、5…嵩上げ材、 6…モルタル等の接着剤、7…タイル、10…排水路形成筒部材、11…排水トラップ 、14…椀状部材、15…パイプ、16…蛇腹管、18…排水口、19…エプロン載置 面、S…浴室、L,R…左右の区画された領域、P…防水パン、F…躯体床、W…躯体 壁、T…浴槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴槽を設置するための領域と、洗場を施工するための領域とが、左右のいずれかに分けられる防水パンにおいて、左右の各領域には同一高さの水平な浴槽載置面が設けられており、左右の各領域のいずれもが浴槽設置又は洗場施工の選択を可能としたことを特徴とする左右対称防水パン。
【請求項2】
左右の領域の境界に、水平なエプロン載置面が形成されている前記請求項1に記載の左右対称防水パン。
【請求項3】
左右の領域のそれぞれに排水口が設けられている請求項1又は2に記載の左右対称防水パン。
【請求項4】
左右の各領域は、浴槽載置面を除く床面部分に、それぞれの排水口へ向けて排水勾配が付与されている請求項3に記載の左右対称防水パン。
【請求項5】
左右の各領域の排水口は、裏面側でトラップにより連通接続されている請求項3又は4に記載の左右対称防水パン。
【請求項6】
左右の各領域の排水口を境界寄りで且つ境界上の端部のいずれか一方寄りに設けられている請求項3乃至5のいずれかに記載の左右対称防水パン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−2433(P2006−2433A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179748(P2004−179748)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】