説明

左心耳からの凝血塊移動を阻止する器具

【課題】心臓の左心耳からの凝血塊の移動を効果的に阻止し、左心耳内に確実に保持されたままの状態を保ち、切開創を最小限に抑えると共に血管系から左心耳までの通過を容易にするために縮小した運搬時輪郭形状を呈する改造型左心耳用器具を提供する。
【解決手段】保持部材(12)及び保持部材に非取り付け状態で保持部材内に位置決めされる物体(30)を有する、患者の左心耳内に配置可能な器具(10)。保持部材は、運搬のための第1の細長い形態及び左心耳内への配置のための第2の拡張形態を呈する。物体は、保持部材内で浮動するよう構成されている。保持部材は、保持部材を左心耳に固定するための少なくとも1つの左心耳壁係合部材(14)を有するのが良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、心臓の左心耳からの凝血塊移動を阻止する器具に関する。
【0002】
〔関連出願の説明〕
本願は、2010年2月12日に出願された米国特許仮出願第61/337,972号の優先権主張出願であると共に2008年5月9日に出願された米国特許出願第12/151,790号の一部継続出願であり、この出願は、2007年5月31日に出願された米国特許仮出願第60/932,448号の優先権主張出願であると共に2007年10月30日に出願された米国特許出願第11/978,821号の一部継続出願であり、この出願は、2004年7月12日に出願された米国特許出願第10/889,429号の一部継続出願であり、この出願は、2004年5月18日に出願された米国特許仮出願第60/572,274号の優先権主張出願であると共に2004年3月22日に出願された米国特許出願第10/805,796号の一部継続出願であり、この出願は、2004年1月22日に出願された米国特許仮出願第60/538,379号の優先権主張出願である。これら出願を参照により引用し、これらの各々の開示内容全体を本明細書の一部とする。
【背景技術】
【0003】
心耳は、心臓の心房にくっついた小さな筋性嚢又は腔である。左心耳(LAA)は、僧帽弁と左肺静脈との間で左心房の壁に繋がっている。適正な機能実行の際、左心耳は、心サイクル中、左心房の残部と共に収縮し、それにより規則正しい血液の流れが保証される。
【0004】
心房細動は、心室とは別個独立に働く心房の不規則な且つランダム化された収縮である。結果としてのこの急速且つ無秩序な心拍により、血管系中に不規則な且つ乱流状態の血流が生じ、その結果、左心耳は、左心房と一緒に規則正しく収縮することがない。その結果、血液は、左心耳内でうっ血状態且つ貯留状態になる場合があり、その結果、左心耳内に凝血塊が生じる。凝血塊が左心室に入った場合、かかる凝血塊は、脳血管系に入って塞栓性卒中を引き起こす場合があり、その結果、障害が生じ、それどころか死に至る。
【0005】
一治療方式は、凝血塊を破壊するための薬剤の投与である。しかしながら、これら血液菲薄化薬剤は、高価であり、出血の恐れを高め、副作用をもたらす場合がある。この方式は、侵襲性手術を実施して左心耳を閉鎖して凝血塊を左心耳内に封じ込めることである。かかる侵襲性の直下視心臓手術は、時間がかかり、患者にとって外傷性であり、患者に対する危害及び回復時間を増加させ、そして長期間にわたる入院が必要なのでコストを増大させる。
【0006】
したがって、心室及び脳内循環系中への凝血塊の移動を阻止するために左心耳を閉鎖する低侵襲方式が有益であることが認識される。しかしながら、これら器具は、幾つかの基準を満たす必要がある。
【0007】
かかる低侵襲性器具は、小さな切開創を通る運搬を可能にするのに十分小さな寸法まで潰れることができるということが必要である一方で、左心耳の密封が維持されるようにするために十分な安定性を持って十分に大きな寸法まで拡張可能であることが必要である。これら器具は又、非外傷性であることが必要である。さらに、左心耳のサイズは、患者によってさまざまな場合があるので、これら器具は、左心耳を閉鎖するのに適したサイズまで拡張可能であることが必要である。
【0008】
先行技術において、低侵襲性左心耳閉鎖器具を提供する幾つかの試みがなされた。例えば、米国特許第6,488,689号の発明では、捕捉ループ又はクリップが左心耳を閉鎖状態に保つために左心耳の周りに配置される。これら器具は、血管構造に対して外傷性である場合がある。エージーエー・メディカル(AGA Medical)社により市販されているAmplatzer型オクルダは、バルーン内でのステント様拡張が可能である。しかしながら、拡張直径は、制御可能ではなく、潰れ形態は、比較的大きく、不都合なことに、挿入のための輪郭形状を増大させる。米国特許第6,152,144号の発明では、シールを提供するために外側リム及び薄いメッシュバリヤを備えた閉塞部材が左心耳の口のところに配置される。半径方向拡張型形状記憶部材がシャフトから延びて器具を固定する。拡張可能な固定部材も又開示されている。別の実施形態では、ランダムな形態を呈する閉塞コイルが凝血塊を取り込むよう左心耳内に配置される。米国特許第6,551,303号明細書及び同第6,652,555号明細書は、血液が入るのを阻止するために左心耳の口を横切って配置されるメンブレンを開示している。種々の機構体、例えば形状記憶枝部、アンカー、ばね及びストラットがメンブレンを保持するよう機能する。しかしながら、これら器具には種々の欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,488,689号明細書
【特許文献2】米国特許第6,152,144号明細書
【特許文献3】米国特許第6,551,303号明細書
【特許文献4】米国特許第6,652,555号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、左心耳からの凝血塊の移動を効果的に阻止し、左心耳内に確実に保持されたままの状態を保ち、切開創を最小限に抑えると共に血管系からの左心耳までの通過を容易にするために縮小した運搬時輪郭形状を呈する左心耳用改良型器具が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、先行技術の問題及び欠点を解決する。本発明は、患者の左心耳内に配置可能な器具であって、保持部材及び保持部材に非取り付け状態で保持部材内に位置決めされる物体を有する器具を提供する。保持部材は、運搬のための第1の細長い形態及び左心耳内への配置のための第2の拡張形態を呈する。物体は、保持部材内で浮動すると共に凝血塊を左心耳内に位置させたままにするよう構成されている。保持部材は、保持部材を左心耳に固定するための少なくとも1つの左心耳壁係合部材を有する。
【0012】
幾つかの実施形態では、保持部材は、第2の形態では、形状記憶位置に向かって動く。
【0013】
一実施形態では、物体は、メッシュから成る。別の実施形態では、物体は、複数本の絡み合わされた繊維から成る。別の実施形態では、物体は、複数本の絡み合わされたリボンから成る。これら物体の組合せ又は他の物体の使用も又想定される。
【0014】
本発明は又、別の観点では、左心耳内に配置可能な器具であって、一連のストラットを形成するようレーザ切断された管を有する器具を提供し、管は、送達のための第1の細長い形態及び配置のための第2の拡張形態を呈する。第2の形態では、管は、拡張形態を有し、ストラットは、ストラットの遠位領域が近位領域よりも大きな寸法を有するよう外方に延び、ストラット相互間には空間が形成される。物体がストラットによって形成された領域内に非取り付け状態で位置決めされていて、この領域内で浮動することができ、この物体は、凝血塊を左心耳内に位置させたままであるようにする。
【0015】
一実施形態では、物体は、メッシュから成る。別の実施形態では、物体は、複数本の絡み合わされた繊維から成る。別の実施形態では、物体は、複数本の絡み合わされたリボンから成る。これら物体の組合せ又は他の物体の使用も又想定される。
【0016】
別の観点では、左心耳からの凝血塊移動を制止する方法であって、複数本のストラットを備えた保持部材を輪郭形状の縮小位置で収容したシースを左心耳内に挿入するステップと、シースから保持部材を露出させて保持部材が拡張し左心耳の壁に係合することができるようにするステップと、その後、物体を現場で複数本のストラット相互間の空間内に挿入して空間内で浮動することができるようにするステップと、シースを引っ込めて保持部材が左心耳内に残るようにし、その結果、物体が複数本のストラットにより形成された空間内で浮動して凝血塊を左心耳内に位置させたままであるようにするステップとを有する方法が提供される。
【0017】
好ましくは、保持部材は、複数本の形状記憶ストラットを有し、保持部材の露出ステップにより、ストラットは、形状記憶位置に向かって動くことができる。
【0018】
添付の図面を参照して本発明の好ましい実施形態を以下において説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】運搬可能な潰れ位置で示された本発明の左心耳用器具の保持部材の一実施形態の斜視図である。
【図2】図1の2‐2線矢視横断面図である。
【図3】図1の3‐3線矢視断面図であり、運搬用カテーテル内における保持部材の位置を示す図である。
【図4】保持部材を拡張位置で示す斜視図であり、浮動物体としてのメッシュが保持部材内に位置決めされている状態を示す図である。
【図4A】保持部材の変形実施形態を拡張位置で示す斜視図であり、浮動物体としてのメッシュが保持部材内に位置決めされている状態を示す図である。
【図5】本発明の左心耳用器具の変形実施形態の斜視図であり、保持部材を拡張位置で示すと共に浮動繊維が保持部材内に位置決めされている状態を示す図である。
【図6】本発明の左心耳用器具の別の変形実施形態の斜視図であり、保持部材を拡張位置で示すと共に浮動リボンが保持部材内に位置決めされている状態を示す図である。
【図7】左心耳に接近するために患者の大腿静脈からの図1〜図4の器具の挿入の仕方を示す解剖図である。
【図8】左心耳内における図1〜図4の器具の配置ステップのうちで運搬用カテーテルを左心耳に隣接して配置するステップを示す図である。
【図8A】左心耳内における図1〜図4の器具の配置ステップのうちで左心耳用器具の保持部材の初期配備ステップを示す拡大図である。
【図8B】左心耳内における図1〜図4の器具の配置ステップのうちで保持部材の完全配備ステップを示す拡大図である。
【図8C】保持部材内への運搬用器具の前進ステップを示す拡大図である。
【図8D】左心耳内における図1〜図4の器具の配置ステップのうちで保持部材内に挿入された浮動メッシュを示す図である。
【図9】本発明の左心耳用器具の変形実施形態の斜視図であり、保持部材を拡張位置で示すと共に浮動物体としてのメッシュが保持部材内に位置決めされている状態を示す図である。
【図9A】左心耳内における図9の器具の配置状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、図面(図中、幾つかの図全体にわたり同一の参照符号は、類似又は同一のコンポーネントを示している)を詳細に参照すると、本発明は、左心耳(“LAA”)からの凝血塊移動を制止するための器具を提供する。この器具は、低侵襲的に挿入可能である。この器具は、保持(固定)部材及び保持部材に対して非取り付け状態になっていて、凝血塊を所与の期間後に取り込むために保持部材内に可動的に位置決めされる物体を有する。保持部材は、左心耳壁への取り付けを可能にすると共に以下に説明する血液凝固性物体の種々の実施形態を左心耳内に保持するための保持構造体を提供する。
【0021】
先ず最初に、左心耳用器具10を挿入可能な低プロフィール(縮小した輪郭形状)の運搬(潰れ)形態で示し(図1〜図3)、器具を配置可能な拡張形態で示している(図4)図1〜図4を参照すると、器具10は、固定又は保持コンポーネント(部材)12を有している。保持部材12は、凝血塊を取り込むための物体30を受け入れる収容部材を形成する。図1〜図4の実施形態では、物体は、メッシュ30から成る。保持部材12は、保持部材12を左心耳内に保持するために左心耳壁に係合する係合フック14を有している。メッシュ30は、好ましくは、以下に説明するようにそのまま物体12中に送り進められる。変形例として、メッシュは、運搬位置で保持部材12内に位置決め可能であり、次に、LAAの口を通って保持部材12と一緒に送り進められても良い。図1の実施形態では、好ましくは血栓形成材料で作られたメッシュ30が保持部材内で浮動し、特にこの中で自由に浮動し、メッシュ30は、凝血塊を取り込むと共に保持部材12と協働して、左心耳からの凝血塊の移動を阻止する。器具10は、好ましくは、レーザ切断管で作られているが、器具を形成する他の方法も又想定される。
【0022】
メッシュは、図1〜図3には示されていない。というのは、この実施形態では、メッシュは、保持部材12が患者体内に配置された後に運搬されるので保持部材12の近位側の位置に存在しているからである。変形例として、保持部材12のための運搬用カテーテル50が保持部材12を運搬して抜去された後に別個のカテーテルによってメッシュを運搬しても良い。理解できるように、保持部材12の寸法形状により、メッシュ30は、左心耳内に保持されると共に左心耳内での物体の運動が可能なほどの空間が提供される。
【0023】
器具10を拡張(配備)位置で示す図4を参照すると、保持部材(コンポーネント)12は、米国特許第7,338,512号明細書に開示されたフィルタに関して詳細に説明されているようにストラットを備えたベル形器具の形態をしており、この米国特許を参照により引用し、その開示内容全体を本明細書の一部とする。変形例として、この器具は、米国特許第7,704,266号明細書に開示されているフィルタの形態をした保持部材(コンポーネント)を有しても良く、この米国特許を参照により引用し、その開示内容全体を本明細書の一部とする。器具10は、図4Aに示されているように、近位端部11a及び遠位端部11bを有している。保持部材12は、好ましくは、形状記憶材料、例えばニチノールで構成され、図4に示されているオーステナイト形状記憶位置を有し、この保持部材は、近位端部11aのところの頂点18から出て遠位端部11bのところの壁係合又は保持フック14で終端する複数本のストラット17を有している。この実施形態では、6本のストラットが設けられているが、これとは異なる本数のストラットも又想定される。回収用フック16が近位端部11aのところに設けられており、これにより、器具10をスネア又は他の器具によって掴むことができ、所望ならばこれを抜去することができる。
【0024】
ストラット17は、フック14と共にV字形の端部分を形成するよう中心軸線から遠ざかって外方に、次に互いに向かって内方に湾曲している相互連結ストラット17a,17bによって互いに連結されるのが良い。連結ストラット17a,17bは、遠位部分のところに位置する領域25のところで隣り合うストラットのうちの連結ストラットに接合されている。かくして、閉じられた幾何学的形状33が形成され、これは、実質的に長円形、実質的にダイヤモンド形又は他の形状のものであるのが良い。これよりも少ない又は多い数の閉じられた形状を形成することができる。すなわち、ストラット17は、好ましくは、領域19のところで互いに遠ざかって角度をなす2本の連結ストラット17a,17bに分かれ、次に領域25のところで合体して遠位側に延び、次に、ストラット17c,17dのところで互いに角度をなして遠ざかって隣りの相互連結ストラット(17c又は17d)に合体し、フック14で終端する。かくして、一実施形態では、連結ストラット17a,17bの厚さは、二股部の近位側のストラット17の厚さの約半分であり且つ領域25の厚さの約半分である。相互連結ストラット17は、浮動物体をコンポーネント12の内側に位置決め状態に保持するための保持構造体を提供するのに役立つ。かくして、ストラット17の形状及び間隔により、メッシュ(又は他の物体)は、移動して左心耳から出ることがないようになる一方で、左心耳内における自由浮動が可能になる。相互連結ストラット17は又、保持を促進すると共に半径方向力を増大させるよう器具を補剛する。これら連結ストラットは又、対称且つ一様な配備を可能にする。フック14は、器具10の位置を保つために左心耳壁に係合するよう構成されている。ストラットは、好ましくは、ラッパ状に広げられ、遠位開口部を形成すると共にストラット相互間に空間を形成する。分かりやすくするために、図面全体を通じて同一の部品が全て示されているわけではない。理解されるべきこととして、ニチノール又は形状記憶材料以外の材料も又想定される。
【0025】
フック14は、好ましくは、ストラットから実質的に垂直に延び、これらフックは、ストラットにトルクを加えてフックが曲がって平面から外れるようにすることによって形成できる。好ましくは、第1の組をなすフックは、第2の組をなすフックよりも大きい。ただし、同一サイズのフックも又想定される。好ましくは、大きなフックは、レーザ切断管に形成された場合、これらが2本の隣り合うストラットの横方向寸法に相当する領域を占めるよう形成される。好ましくは、6本のストラットを利用した実施形態では、3つの小さなフックと3つの大きなフックが交互配置状態で設けられる。小さなフックは、好ましくは、挿入のために潰されたときに、フィルタの潰れ輪郭形状(横方向寸法)を最小限に抑えるために米国特許第7,774,266号明細書のフィルタフックの場合と同様、互いに対して軸方向に且つ大きなフックに対して軸方向内方に間隔を置いて配置される。侵入先端部14a(図3)が器具10を保持するよう組織に侵入し、好ましくは、器具の近位端部11aの方へ向く。
【0026】
フック14は各々、器具10の運動を阻止するための追加の保持作用を提供するよう左心耳壁に係合する一連の歯14cを有するのが良い。フック14を越えて延びて器具が左心耳壁を通って進むのを阻止するための停止部として機能するヒール14dが設けられるのが良い。小さなフックのヒール14dの角度は、好ましくは、大きなフックの角度よりも小さく、それにより図3に示されているようなフックの嵌まり合いを可能にする余地が提供される。分かりやすくするために、フックの全てが完全に示されているわけではない。
【0027】
変形実施形態では、ストラット17′は、尖っていない先端部で終端し、ストラットの半径方向力が器具の位置を維持する。これは、例えば、図4Aに示されており、この図4Aでは、フック14の代わりの尖っていない先端部14′を除き、器具10′は、図4の器具10と同一であり、同一部分は、「プライム(′)」付きで示されている。説明が煩雑になるのを避けるために、図4の部分と同一の部分についてはそれ以上説明しない。というのは、これら部分は、構造及び機能が図4の部分と同一であり、かくして、図4に関する説明は、フック14に代わる尖っていない先端部14′を除き、図4Aの器具にそのまま当てはまるからである。
【0028】
保持(固定)部材12は、図3に示されているような運搬のために送達用カテーテル又はシース50内に実質的に真っ直ぐにされた軟らかいマルテンサイト形態で維持される。小さなフックは、好ましくは、大きなフック内に嵌まり込む。低温の生理食塩水を運搬中に注入してストラット17をこのマルテンサイト状態に維持するのが良く、それによりカテーテル50の遠位端部54のところでの遠位開口部52からの送り出しを容易にする。ストラット17が運搬用シース(管)50から出ると、これらストラットは、体温で温められ、図4に示されているようにこれらの図示の形状記憶位置に向かって動く。変形例として、これらストラット17は、シースからの放出により応力が減少し、それにより保持部材12がその拡張形状記憶位置に戻ることができるよう構成されても良い。
【0029】
図7に示されているように、器具10は、好ましくは、大腿静脈Aを通って運搬用カテーテル50内に挿入され、中隔を通って送り進められて左心耳Bに接近する。この器具は、この実施形態では、図8Bに示されているように遠位端部11bが左心耳口から遠くに(左心耳の遠位側に)位置すると共に回収用フック16が左心耳口の近くに位置した状態で位置決めされる。フック14は、左心耳内に位置決めされると、壁に係合して器具10を左心耳内に保持する。
【0030】
器具10は、図1〜図4(及び図4A)の実施形態では、保持部材12に取り付けられておらず、この中で浮動する物体としてのメッシュを有している。好ましくは、物体としてのメッシュ30は、保持部材12内で自由に浮動する。物体としてのメッシュ30の量は、保持部材12内の相当な空間を占めるのに十分多いが、保持部材12のストラット17によって形成された空間内で自由に動くことができるほど少ない。また、物体としてのメッシュは、好ましくは、ストラット17によって保持されるのに十分なサイズのものである。しかしながら、メッシュ(及び本明細書において説明する他の物体)は又、幾つかの実施形態では、ストラットのうちの何本かを貫通して突き出る一方で、左心耳内に依然として保持されるのが良い。メッシュ30は、好ましくは、左心耳からの大きな凝血塊の移動を効果的に阻止する一方で、当初、血液の流れを流通させることができるのに十分小さな空間を提供するよう密に巻かれた物体の形態をしている。物体30は、好ましくは、左心耳の容積の大きな割合を占めるのに十分なサイズのものである。メッシュ30は、血液凝固を生じさせるよう機能する。すなわち、器具10がいったん配置されると、血液は、メッシュが血液凝固を生じさせるまで器具10を通って流れ続け、最終的に、凝血塊は、左心耳の容積及び幾つかの実施形態では容積全体を満たすことができ、大きな凝血塊が移動を阻止する。
【0031】
メッシュ30は、保持部材12の潰れ位置では、メッシュ30が保持部材内に収容されて圧縮されるよう保持部材12内に運搬されるのが良い。運搬後、メッシュは、保持部材12の空間内で、即ち、ストラット17相互間の空間内で拡張する。というのは、ストラットは、運搬用カテーテルから露出されると拡張するからである。
【0032】
変形実施形態では、保持部材12は、先ず最初に左心耳内に配置され、次にいったん定位置に配置されると、メッシュ30が保持部材12内に配置可能にストラット17相互間の空間中に運搬される。
【0033】
メッシュ30は、運搬のために丸められ又は折り畳まれるのが良い。メッシュは、一様な一体品であっても良く或いは2つ又は3つ以上のメッシュ片で構成されても良い。
【0034】
変形実施形態では、メッシュがストラット相互間の空間内で浮動するのではなく、血液凝固をもたらすための物体が図5に示されているように非組織化繊維の形態をしていても良い。繊維120は、別々の小片として形成され、互いに絡み合わされ又はもつれた状態にされた多数本の糸から成るのが良い。繊維120は、運搬のために圧縮され、次に運搬用カテーテルからの放出時に拡大するのが良い。繊維120は、保持部材112内に運搬されるのが良く、或いは、変形例として、その後に器具100のストラット相互間に配置されても良い。すなわち、図4の実施形態のメッシュの場合と同様、保持(固定)部材112を繊維120がこの中に潰れた(圧縮された)状態で位置決めされたまま運搬されるのが良く、或いは、変形例として、メッシュ30に関して上述したように、好ましくは保持部材112は、LAA内に先ず最初に配置され、次に繊維120を保持部材112のストラット117相互間の空間内に挿入しても良い。
【0035】
繊維120は、上述のメッシュと同様、保持部材112には取り付けられず、保持部材112のストラット117によって形成された空間内で浮動し、好ましくは自由に浮動し、図4の浮動メッシュに関して上述したのと同一の仕方で凝血塊を生じさせる。というのは、これら繊維は、左心耳からの大きな凝血塊移動を効果的に阻止する一方で、当初、血液の流れを通すことができるからである。物体(繊維)は、好ましくは、左心耳の容積の大きな割合を占めるのに十分なサイズのものであり、実施形態によっては、かかる容積全体を満たすのが良い。繊維は、血液凝固を生じさせるよう機能する。すなわち、器具10がいったん配置されると、血液は、物体120が血液凝固を生じさせるまで器具10を通って流れ続ける。保持(固定)部材112は、その他の点においては、構造及び機能が図1の保持部材12と同一であり、便宜上、同一の部分には同一の符号に100を加えた状態で示されており、即ち、ストラット117は、領域119のところで相互連結ストラット117a,117bに二股に分かれ、領域125のところで合体し、次に、相互連結ストラット117c,117dのところで外方に湾曲して別の連結ストラットに合体し、そして血管係合フック114又は変形例として尖っていない端部で終端する。なお、説明が煩雑になるのを避けるために、保持部材112のこれら同一部分については、保持部材12の説明が保持部材112に全て当てはまるので詳細には説明しない。保持部材112は、変形例として、米国特許第7,338,512号及び同第7,704,226号のフィルタの形態をしていても良く、これら米国特許を参照により引用し、その記載内容全体を本明細書の一部とする。
【0036】
図6の変形実施形態では、メッシュがストラット217相互間の空間内で浮動するのではなく、血液凝固を生じさせる物体は、設定されたパターンで組織化され又は変形例としてランダムに絡み合わされた複数本のリボン215の形態をしていても良い。リボン215は、互いに絡み合わされ又はもつれた状態にされている。リボン215は、運搬のために圧縮され、次に運搬用カテーテルからの放出時にストラットと共に拡大するのが良く、或いは、変形例として、保持部材212が放出されて左心耳内に配置された後に器具200のストラット217相互間に配置されても良い。すなわち、図4の実施形態のメッシュの場合と同様、保持(固定)部材212をリボン215がこの中に潰れた(圧縮された)状態で位置決めされたまま運搬されるのが良く、或いは、変形例として、好ましくは保持部材212は、LAA内に先ず最初に配置され、次にリボン215を保持部材212のストラット217相互間の空間内に挿入しても良い。
【0037】
リボン215は、上述のメッシュと同様、保持部材212には取り付けられず、保持部材212のストラット217によって形成された空間内で浮動し、好ましくは自由に浮動し、図4の浮動メッシュに関して上述したのと同一の仕方で凝血塊を生じさせる。というのは、これらリボンは、左心耳からの大きな凝血塊の移動を効果的に阻止する一方で、当初、血液の流れを通すことができるからである。物体(リボン)は、好ましくは、左心耳の容積の大きな割合を占めるのに十分なサイズのものであり、実施形態によっては、かかる容積全体を満たすのが良い。本明細書において説明したメッシュ及び繊維の場合と同様、リボンは、全体が保持部材212内に収容されても良く、ストラットを越えて延びても良い。リボンは、血液凝固を生じさせるよう機能する。すなわち、器具10がいったん配置されると、血液は、物体215が血液凝固を生じさせるまで器具10を通って流れ続ける。保持部材212は、その他の点においては、図1の保持部材12と同一であり、便宜上、同一の部分には同一の符号に200を加えた状態で示されており、即ち、ストラット217は、領域219のところで相互連結ストラット217a,217bに二股に分かれ、領域225のところで合体し、相互連結ストラット217c,217dのところで外方に延び、そして血管係合フック214又は変形例として尖っていない端部で終端する。なお、説明が煩雑になるのを避けるために、保持部材212のこれら同一部分については、保持部材12の説明が保持部材212に全て当てはまるので詳細には説明しない。保持部材212は、変形例として、米国特許第7,338,512号及び同第7,704,226号のフィルタの形態をしていても良く、これら米国特許を参照により引用し、その記載内容全体を本明細書の一部とする。
【0038】
メッシュ(又は他の血液凝固性物体、例えば繊維又はリボン)は、保持部材が潰れた(圧縮された)状態で、この潰れた状態の保持部材内に挿入されるのが良く、或いは、変形例として、所望ならば、既に配置されている保持部材のストラット相互間の開口部内に現場で運搬されても良い。次のかかる運搬により、運搬のための潰れ位置において器具の横方向寸法が減少する。血液凝固性物体は、保持部材のための運搬用カテーテルと同一のカテーテルを用いて挿入されても良く、或いは、別のカテーテルによって挿入されても良い。
【0039】
次に、一例として図1の実施形態と関連して左心耳を閉鎖する本発明の器具の配置方法について説明する。なお、メッシュは、固定部材の配置後に運搬され、これと一緒に挿入されるわけではない。理解されるべきこととして、本明細書において開示した他の実施形態は、ほぼ同じ仕方で挿入される。運搬用カテーテル50を大腿静脈A内に配置した挿入器シース100中に挿入し、そして中隔を通って図7及び図8に示されているように左心耳Bに接近させる。挿入のため、保持(固定)部材12は、潰れ位置にある。
【0040】
プッシャ51をカテーテル50の近位端部から遠位側に前進させて器具10を図8A及び図8Bに示されているようにカテーテル50から前進させる。変形例として、カテーテル50は、ストラットを露出させるよう引っ込められる(プッシャが保持部材12に当接した状態で)。器具10のストラット17を露出させると、これらストラットは、これらの形状記憶配備位置に向かって戻って図8Bに示されているように左心耳壁に係合する。ストラットがこれらの完全形状記憶位置に戻る程度は、左心耳のサイズで決まる。
【0041】
幾つかの実施形態では、保持部材12を左心耳Bの口のところに位置決めし、この保持部材は、実質的にこの口と面一をなす。すなわち、近位回収用フックをこの口のところに位置決する。変形例として、保持部材12の一部分が例えば図8Bに示されているようにこの口を越えて近位側に延びて心房内に延びても良い。例えば、図8Bに示されているように、器具は、メッシュが左心耳口まで浮動している状態でこの口のところの左心耳の形状に一致する幅の広いベースを形成するストラットを有するのが良い。この使用の際、横方向寸法が減少した部分は、左心耳の外側に位置したままである。幾つかの実施形態では、メッシュ又は他の血液凝固性物体は、拡張時に、保持部材の大きな横方向寸法領域内でのみ浮動し、寸法減少領域又はその一部分内で浮動するには大きすぎるということが想定される。かかる実施形態では、メッシュ又は他の血液凝固性物体は、それにより、左心耳の外部に延びず、例えば、図8Bの保持部材の配置が完了した場合に左心耳口を越えて延びることがない。
【0042】
運搬用カテーテル50は、図8Bに示されている左心耳内への配置後、ストラット17相互間の空間を通って挿入され、メッシュ30(又は他の血液凝固性物体)は、器具10のストラット17相互間の空間内で自由に浮動することができるようこの空間内に配置可能に運搬用カテーテル50から押し出される(図8D参照)。次に、運搬用カテーテル50を抜去する。理解できるように、運搬のために保持部材12の近位側で運搬用カテーテル50内に保持される血液凝固性物体の代替手段として、保持部材12の配置後、運搬用カテーテル50を抜去し、血液凝固性物体を収容した別の運搬用器具を挿入して左心耳まで前進させ、そして血液凝固性物体の運搬のためにストラット17中に前進させても良い。かくして、現場運搬のため、同一のカテーテル50又は別のカテーテルを利用することができる。
【0043】
理解できるように、実施形態として本明細書において説明した物体は、好ましくは、保持部材のストラット内で自由に浮動し、血液を凝固させ、すると、それにより、左心耳から心房及び左心室内への血栓の移動が阻止される。保持部材内で浮動する血液凝固性物体は、好ましくは、血栓形成性である。
【0044】
注目すべきこととして、保持部材内の物体は、種々の材料で構成でき、かかる材料としては、心膜、SIS、PET、PTFE等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0045】
図9の変形実施形態では、巻線150がメッシュ160のための保持(固定)部材となっている。巻線は、図示のように、実質的に円錐形の形をしており、従って、領域152のところの直径(横方向寸法)は、領域154のところの直径(横方向寸法)よりも大きい。浮動メッシュ160は、内部に位置し、好ましくは自由に浮動する。巻線は、左心耳に対する半径方向外向きの力に加えて保持を促進するためにフック、棘又は他の表面を有するのが良い。上述したようなリボン、繊維又は他の血液凝固性物体は、上述の図1〜図6の実施形態の場合と同じ仕方で血液凝固機能を達成するために浮動可能に巻線に取り付けられていない状態で巻線内に配置されるのが良い。血液凝固性物体は、巻線150と共に、即ち運搬用シース内の潰れた巻線内で潰れた状態で運搬されるのが良く、或いは、変形例として、左心耳内への巻線150の配置後に同一又は異なるカテーテルにより運搬されても良い。図9Aは、左心耳B内への巻線150の配置状態を示している。
【0046】
理解できるように、器具は、心臓の左心耳内で使用されるものとして説明されているが、他の導管、例えば血管、尿管又は瘻孔内にも使用できる。
【0047】
上述の説明は、多くの細部を含んでいるが、これらの細部は、本発明の範囲に対する限定として解されるべきではなく、本発明の好ましい実施形態の単なる例示として解されるべきである。例えば、凝血塊が左心耳からの凝血塊移動を制止するように機能する他の物体を保持部材内に収容しても良い。当業者であれば、本明細書に添付された特許請求の範囲の記載に基づいて定められる本発明の範囲及び精神に属する他の多くの考えられる変形例を想定されよう。
【符号の説明】
【0048】
10,10′,100,200 患者の左心耳内に配置可能な器具
12,112,212 保持部材
14,114,214 左心耳壁係合部材又はフック
14c 歯
16 回収用フック
17,17′,117,217 ストラット
30 物体又はメッシュ
50 運搬用カテーテル又はシース
52 遠位開口部
54 遠位端部
120 繊維
150 巻線
160 メッシュ
215 リボン
A 大腿静脈
B 左心耳

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の左心耳内に配置可能な器具であって、
運搬のための第1の細長い形態及び前記左心耳内への配置のための第2の拡張形態を呈する保持部材と、
前記保持部材に非取り付け状態で前記保持部材内に位置決めされていて、前記保持部材の前記拡張形態において前記保持部材内で浮動可能な物体と、を有し、
前記保持部材は、大きな横方向寸法を有し、前記保持部材は、前記保持部材を前記左心耳に固定するための少なくとも1つの左心耳壁係合部材を有する、器具。
【請求項2】
前記保持部材は、形状記憶材料で構成され、前記保持部材は、前記拡張形態では、形状記憶位置に向かって動く、請求項1記載の器具。
【請求項3】
前記物体は、メッシュから成る、請求項1記載の器具。
【請求項4】
前記物体は、複数本の絡み合わされた繊維から成る、請求項1記載の器具。
【請求項5】
前記物体は、複数本の絡み合わされたリボンから成る、請求項1記載の器具。
【請求項6】
前記保持部材は、複数本のストラットを有し、前記ストラット相互間には空間が形成され、前記材料は、前記空間内で自由に浮動する、請求項1記載の器具。
【請求項7】
前記係合部材は、複数個の歯を有する、請求項1記載の器具。
【請求項8】
前記保持部材は、複数本のストラットを有し、前記ストラットは、前記係合部材で終端する、請求項1記載の器具。
【請求項9】
前記保持部材は、巻線から成る、請求項1記載の器具。
【請求項10】
左心耳内に配置可能な器具であって、
一連のストラットを形成するようレーザ切断された管を有し、
前記管は、送達のための第1の細長い形態及び配置のための第2の拡張形態を呈し、前記ストラットは、前記ストラットの遠位領域が近位領域よりも大きな寸法を有するよう外方に延び、前記ストラット相互間には空間が形成され、前記器具は、前記ストラットによって形成された前記空間内に非取り付け状態で位置決めされていて、凝血塊を前記左心耳内に位置させたままであるようにすることができるよう前記空間内で浮動する物体を更に有する、器具。
【請求項11】
前記物体は、メッシュから成る、請求項10記載の器具。
【請求項12】
前記物体は、複数本の絡み合わされた繊維から成る、請求項10記載の器具。
【請求項13】
前記物体は、複数本の絡み合わされたリボンから成る、請求項10記載の器具。
【請求項14】
前記ストラットは、形状記憶材料で構成されている、請求項10記載の器具。
【請求項15】
前記物体は、前記左心耳内への前記ストラットの配置後に前記ストラットによって形成されている前記空間内に位置決め可能である、請求項10記載の器具。
【請求項16】
左心耳からの凝血塊移動を制止する方法であって、
複数本のストラットを備えた保持部材を含む器具を輪郭形状の縮小位置で収容したシースを前記左心耳内に挿入するステップと、
前記シースから前記保持部材を露出させて前記保持部材が拡張し前記左心耳の壁に係合することができるようにするステップと、
その後、物体を現場で前記複数本のストラット相互間の空間内に挿入して前記空間内で浮動することができるようにするステップと、
前記シースを引っ込めて前記保持部材が前記左心耳内に残るようにし、その結果、前記物体が前記保持部材内の前記空間内で浮動するようにするステップと、を有し、
前記器具は、凝血塊を前記左心耳内に位置させたままであるようにする、方法。
【請求項17】
前記保持部材は、複数本の形状記憶ストラットを有し、前記保持部材の露出ステップにより、前記ストラットは、形状記憶位置に向かって動くことができる、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記保持部材は、前記保持部材を前記左心耳内に固定するための左心耳係合部材を有する、請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記物体は、メッシュである、請求項16記載の方法。
【請求項20】
前記物体は、絡み合わされたリボン又は絡み合わされた繊維のうちの一方である、請求項16記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図4A】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9】
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【図9A】
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【公開番号】特開2011−161233(P2011−161233A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26935(P2011−26935)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(505301837)レックス メディカル リミテッド パートナーシップ (22)
【Fターム(参考)】