説明

巻き芯

【課題】シート状材料を巻き付ける際に光学的又は形状的な歪みを残存させない巻き芯を提案する。
【解決手段】円筒形の巻き芯本体2において、巻き付け開始部1Aの巻き付け方向とは反対側隣接位置に、シート切断用の刃入れ溝3を設け、該刃入れ溝3の巻き付け方向とは反対側隣接位置に段差吸収部材4を付設するようにして巻き芯1を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シート等のシート状材料を巻き付けるのに用いる巻き芯、特に巻き付け時に光学的又は形状的な歪みをシート状材料に残存させない巻き芯に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着シート等のシート状製品は、小さなスペースに効率よく集積することができる点や、運送が容易である点などから、ロール形状に巻き取られて出荷されることが多い。また、粘着シート等のシート状材料の製膜工程やスリット時などにおいても、ロール形状に巻き取られることが行われており、この際、シート状材料を巻き芯に巻き付ける方法が採られている。
【0003】
このように巻き芯にシート状材料を巻き付ける場合、シートの巻き付け開始端部の厚みと、該シートの巻き付け開始端部を巻き芯に固定するための粘着剤や粘着シートの厚みとが加わって、巻き付け開始部分に段差が生じ、皺や段差模様、或いは打痕などの段差痕がシート材料に付く場合があった。すなわち、巻き付け開始部分から一層目を巻き付けて2層目にかかる際に、巻き付け開始部分に2層目が乗り上げることになり、この乗り上げ部分が段差となる。幾層にも巻いて行くうちにやがてこの段差は解消されるが、内側は巻圧が掛った状態で段差に沿った形状に維持されるため、シート状材料を巻き戻しても光学的又は形状的な歪みが残存し、皺や段差模様、或いは打痕などとなってしまうことがあった。特に両面粘着シートの巻き付けに関しては、通常のフィルムに比べて柔らかいため、巻き締まって粘着材が変形したり、段差痕が付き残りやすかったりする問題があった。
このような問題を解決するための方法が従来から提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、円筒体の表面に弾性層を設けることにより、端面段差痕の発生を防止する方法が提案されている。
また、特許文献2には、巻き芯コアに凹みを設けることにより、巻き材料に発生する巻き痕、巻き段差を解消する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−162478号公報
【特許文献2】特開2008−7286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、両面粘着シートなどのシート状材料を巻き付ける際に光学的又は形状的な歪みを残存させない、新たな構成の巻き芯を提案せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、巻き芯の外周面において、巻き付け開始部の巻き付け方向とは反対側に段差吸収部材を備えてなる構成を有する巻き芯を提案する。
【0008】
このように、巻き付け開始部の巻き付け方向とは反対側に、発泡体などの段差吸収部材を付設することにより、巻き付け材料を巻き付け開始部から巻き付けて1層目から2層目にかかる際、段差吸収部材によって段差が吸収された状態で巻き付け材料(シート状材料)を巻き付け開始部分まで案内できるため、段差を生じさせることなく2層目及びそれ以降の層を巻き付けることができる。よって、例えば両面粘着シートのようなシート状材料を巻き戻しても光学的又は形状的な歪みが残存せず、皺や段差模様、或いは打痕などが生じないように、巻き取ることができ、製品ロスを抑えることができ、経済的、環境的に価値の高い巻取体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態の一例を示した断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の一例を示した斜視図である。
【図3】段差吸収部材の機能を説明するために、2層目の巻き付け材料を巻き付ける際の巻き付け開始部分の一例を示した部分拡大断面図である。
【図4】刃入れ溝の機能を説明するために、巻き付け材料を切断する様子の一例を示した部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態の例について説明する。但し、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本発明の実施形態の一例に係る巻き芯1は、図1及び図2に示すように、円筒形の巻き芯本体2の外周において、巻き付け開始部1Aの巻き付け方向とは反対側隣接位置に、シート切断用の刃入れ溝3を備え、該刃入れ溝3の巻き付け方向とは反対側隣接位置に段差吸収部材4を備え、さらに巻き付け開始部1Aの巻き付け方向隣接位置に、巻き付け材料11の巻き付け開始端部を巻き芯本体2に固定するための粘着部材5を付設してなる巻き芯である。但し、刃入れ溝3及び粘着部材5は、用途に応じて必ずしも設ける必要はない。
【0012】
(巻き芯本体2)
巻き芯本体2は、略円筒形状を呈するものであれば、単層構造であっても、複層構造であってもよい。複層構造の場合には、巻き芯本体2の表層の表面に刃入れ溝3及び段差吸収部材4を設ければよい。
【0013】
巻き芯本体2の材質は任意である。例えば紙製であっても、プラスチック製であっても、金属製であっても、複数の材質の複合系であってもよい。より具体的には、ABS樹脂、塩ビ系樹脂、エステル系樹脂、ポリカボネート、ポリアミド系樹脂、スチレン系樹脂等のプラスチック製、アルミ、鉄、銅、チタン或いはこれら少なくとも一種の合金などの金属製、FRP(ガラス繊維強化プラスチック)などの複合系材料などを挙げることができる。また、再利用が可能である点などから、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂、塩化ビニル、FRP(ガラス繊維強化プラスチック)樹脂、ポリカーボン樹脂などを挙げることができる。
【0014】
巻き芯本体2の外周表面は、摩擦低減コート処理、ディンプル加工、エンボス加工などの処理が施されていてもよい。
【0015】
(刃入れ溝3)
巻き芯本体2の外周面に、フィルム切断用の刃入れ溝3を巻き芯本体2の軸方向に設けることにより、例えば図4に示すように、カッター刃Sを刃入れ溝3内に差し入れて刃入れ溝3に沿って巻き付け材料11を切断することができるから、例えば巻き付け材料11を巻き付け開始する時点で、巻き付け材料11の端縁部を真っ直ぐ軸方向に切断することができ、巻き付け開始部1Aの切断面が湾曲状になることがなく、さらには切断面の形状に伴う段差痕の発生も抑制することができる。
【0016】
刃入れ溝3は、巻き芯本体2の略全幅、すなわち軸方向一方の端部から他方の端部にかけて形成するのが好ましい。
刃入れ溝3は、カッター刃などの切断手段を巻き芯本体2の外周表面に対して垂直に挿入できるように、すなわち、刃入れ溝3の深さ方向が円筒の中心方向に向くように、言い換えれば巻き芯本体2の外周の接線に対して垂直方向に深くなるように形成することが重要である。
但し、刃入れ溝3の形状についてはコ字溝状、V溝状、スリット状など溝の形状は任意であるし、溝幅についても任意であり、例えば0.3mm〜3.0mm、好ましくは0.5mm〜1.0mmに形成すればよい。また、溝深さも任意であり、例えば0.5mm〜5.0mm、好ましくは1.0mm〜2.5mmに形成すればよい。
【0017】
(段差吸収部材4)
巻き付け開始部1Aの巻き付け方向とは反対側に段差吸収部材4を付設することにより、図3に示すように、巻き付け材料11を巻き付け開始部から巻き付けて1層目から2層目にかかる際に、巻き付け材料11に巻圧がかかることで段差吸収部材4が潰れて段差を吸収するため、段差を付けることなく2層目の巻き付け材料11を巻き付け開始部分に乗り上げるように案内することができる。
【0018】
このように段差吸収部材4は、段差吸収部材4が潰れて段差を吸収し、段差を付けることなく2層目の巻き付け材料11を巻き付け開始部分に乗り上げるように案内するものであるから、柔らか過ぎても、硬過ぎても好ましくない。
かかる観点から段差吸収部材4の材質としては、例えばアセチルセルロース、エポキシ樹脂、スチレン/ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、シリコン、尿素ホルムアルデヒド樹脂、ポリウレタン、合成エラストマー、ポリ塩化ビニル、エボナイト、及びポリ四弗化エチレンなどの発泡体、クロロプレンゴム、天然ゴム、二トリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴムなどのゴム系材料、不織布、フェルトなどを挙げることができる。中でも圧縮硬さ、成型の容易さの点で発泡体を用いるのが好ましい。その中でも、独立気泡を有し、主成分がポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンからなる発泡樹脂が好ましい。
【0019】
また、段差吸収部材4の硬さは、柔らか過ぎることも硬過ぎることもない点から、25%圧縮硬さが0.001MPa〜0.100MPa、特に0.001MPa〜0.050MPa、中でも0.003MPa〜0.020MPaのものが好ましい。
【0020】
段差吸収部材4の厚さは、巻き付け材料11の厚さやその硬度、さらには粘着部材5の厚さにもよるが、少なくとも巻き付け材料11の厚さ以上であるのが好ましく、特に巻き付け材料の厚さよりも0mm〜5.0mm、中でも1.0mm〜2.0mm厚いことがより好ましい。
また、段差吸収部材4の幅は、0.5cm〜5.0cmであるのが好ましく、特に1.0cm〜3.0cmであるのがより好ましい。
【0021】
段差吸収部材4の形状としては、直方体、楕円柱状体、三角柱状体、その他、例えば巻き付け方向に向かって高さが高くなるスロープ形状を有する形態などを好ましい例として挙げることができるが、これらに限定するものではない。
【0022】
段差吸収部材4を付設する位置は、巻き付け開始部1Aの巻き付け方向とは反対側であることが重要であり、巻き付け開始部1Aに隣接する位置でもよいし、巻き付け開始部1Aから適宜距離離れていてもよいし、本実施形態のように、巻き付け開始部1Aと段差吸収部材4との間に溝3を設けるようにしてもよい。
この際、巻き付け開始部1Aから適宜距離離れた位置に段差吸収部材4を付設する場合、溝3のスペース確保の観点から、巻き付け開始部1Aから0.3mm〜2.0mm離れた位置に付設するのが好ましく、特に0.4mm〜1.0mm、中でも特に0.5mm〜0.8mm離れた位置に付設するのがより一層好ましい。
【0023】
(粘着部材5)
巻き付け開始部1Aの巻き付け方向隣接位置に、巻き付け材料11の巻き付け開始端部を巻き芯本体2に固定するための粘着部材5を付設しておくのが好ましい。
【0024】
粘着部材5としては、粘着剤や、両面粘着テープなどを例示することができる。
いずれにしても粘着剤の組成は任意であり、例えばゴム系、アクリル系、シリコーン系、ビニルエーテル系、ウレタン系などの粘弾性ポリマーに必要に応じてロジン系、石油樹脂系などの粘着付与樹脂、軟化剤、架橋剤などが配合されたものを挙げることができる。
【0025】
粘着部材5の厚さは自身の厚みによる段差を生む可能性があるために、より薄いものが好ましく、目安としては0.01mm〜0.10mm、特に0.01mm〜0.05mmを挙げることができる。
【0026】
<巻取体>
上記の巻き芯1に、シート状の巻き付け材料11を巻き付けることにより、巻取体10とすることができる。
【0027】
巻き付け材料11としては、樹脂材料、金属材料、紙、不織布、布等の各種材料からなるシート状材料を用いることができる。中でも、本発明の効果をより享受できる観点から、樹脂シート、中でも特に粘着シート、その中でも両面に剥離シートを備えた粘着シートを好ましく用いることができる。
【0028】
巻き付け材料11として粘着シート、特に両面に剥離シートを備えた粘着シートを使用する場合、その厚さは任意であるが、目安としては0.10mm〜0.50mm、特に0.10mm〜0.30mmを例示することができる。
【0029】
巻き付け材料11を巻き芯1に巻き上げる際には、巻き付け材料11の巻き付け開始端部を、刃入れ溝3にカッター刃等の切断手段を挿入しつつ切断することによって、巻き付け開始部をまっすぐに整えるのが好ましい。
【0030】
<用語の説明>
一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、一般にその厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいい、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(日本工業規格JISK6900)。例えば厚さに関して言えば、狭義では100μm以上のものをシートと称し、100μm未満のものをフィルムと称すことがある。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0031】
本発明において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含するものとする。
また、本発明において、「X以上」(Xは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り、「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り、「好ましくはYより小さい」の意を包含するものとする。
【実施例】
【0032】
以下、実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)
図1及び図2に示すように、ABS樹脂製で、半径82.2mm、厚さ6mmの円筒体状の巻き芯本体2の外周面に、巻き付け開始部1Aの巻き付け方向とは反対側隣接位置に、巻き芯本体2の全幅に亘って刃入れ溝3をアクリルカッターによって切削して設けると共に、該刃入れ溝3の巻き付け方向とは反対側隣接位置に、巻き芯本体2の全幅に亘る段差吸収部材4を付設し、さらに巻き芯本体2の巻き付け開始部1Aの巻き付け方向隣接位置に、巻き芯本体2の全幅に亘って幅3mm、厚さ0.05mmの両面粘着テープ5を貼り付けて、巻き芯1を形成した。
【0034】
なお、段差吸収部材4は、ポリオレフィン発泡体製で、扁平な直方体状を呈しており、厚さ2.0mm、幅20mmであり、25%圧縮硬さが0.004MPaであった。
また、刃入れ溝3は、深さ方向が円筒の中心方向を向くように形成し、溝幅0.9mm、溝深さ1.5mmのスリット溝状に形成した。
【0035】
アクリル系粘着シート(厚さ0.175mm、巻き長さ100m)の両面を離型PETフィルム(各厚さ0.075mm、0.125mm)で被覆してなる巻き付け材料11の端部を両面粘着テープ5に固着し、巻き付け材料11を165周巻き付けて巻取体10を作製した。
【0036】
この巻取体10について、巻き解いたときの巻き痕を目視により観察したところ、段差痕は29周分(約15m分)確認されたが、この程度の段差痕であれば実用的にはほとんど問題ない。
【0037】
(比較例1)
ABS樹脂製で、半径82.2mm、厚さ6mmの円筒体状の巻き芯を用意し、この巻き芯の巻き付け開始部の巻き付け方向隣接位置に、実施例1と同様に、巻き芯の全幅に亘って幅3mm、厚さ0.05mmの両面粘着テープを貼り付けておき、実施例1同様に巻き付け材料11を165周巻き付けて巻取体を作製した。
この巻取体について、実施例1と同様にして、巻き解いたときの巻き痕を目視により観察したところ、65mに渡って段差痕が認められた。
【符号の説明】
【0038】
1 巻き芯
2 巻き芯本体
3 刃入れ溝
4 段差吸収部材
5 粘着部材
10 巻取体
11 巻き付け材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻き芯の外周面において、巻き付け開始部の巻き付け方向とは反対側に段差吸収部材を備えてなる構成を有する巻き芯。
【請求項2】
巻き芯の外周面において、巻き付け開始部の巻き付け方向とは反対側隣接位置に、巻き芯の幅全体に渡ってフィルム切断用の刃入れ溝を備え、当該刃入れ溝の巻き付け方向とは反対側に段差吸収部材を備えてなる構成を有する巻き芯。
【請求項3】
段差吸収部材が、発泡体からなることを特徴とする請求項1又は2記載の巻き芯。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の巻き芯に、巻き付け材料を巻き付けてなる構成を有する巻取体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−116525(P2011−116525A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277168(P2009−277168)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】