説明

巻取りスプール固定治具

【課題】半田ワイヤ等の細線を巻き替える際に、容易にかつ素早く作業をすることができ、回転中または回転の停止時に、把持力が落ちることにより生じる巻取りスプールの空回りを防止する。
【解決手段】中間部にフランジ面(6)と、先端部の外周に雄ねじ(4)と、先端部に先端から軸方向に伸長する1つ以上の回転防止溝(5)とを備える巻取り軸(1)と;中空円筒状の部材からなり、先端にテーパ部(12)と、先端側の内周に雄ねじ(4)と螺合可能な雌ねじ(7)と、中間部の外周に環状の抜け止め溝(11)と、基端側にグリップ部(13)とを備えるノブ(3)と;中空円筒状の部材からなり、先端側の内周に突出し、回転防止溝(5)と嵌合する1つ以上の回転防止ピン(8)と、基端側の内周に突出し、抜け止め溝(11)と嵌合する抜け止めピン(9)と、中間部の内周にテーパ部(12)と摺接可能な段部(10)とを備え、ノブ(1)の先端側に同軸に配置されるスプール押さえリング(2)とにより、巻き取りスプール固定治具を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半田ワイヤ等の細線を汎用スプールから巻取りスプールに巻き替える際に使用される巻取りスプール固定治具に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間等の押し出し機によって形成される軟質の半田ワイヤ等の細線は、最終工程で、図5に斜視図を示すような巻取り装置(20)によって、生産工程で使用された汎用スプール(19)から出荷用スプールとなる巻取りスプール(17)に巻き替えられる。細線は、汎用スプール(19)よりブレーキをかけながら巻き出され、トラバースと回転を行う巻取り軸(1a)によって、巻取りスプール(17)に、高速かつ等間隔に巻き取られるようになっている。巻取りスプール(17)の形状は、客先の仕様によって決められ、たとえば、図3に示すような、両端にフランジがあるだけで、他の特別な構造を備えない巻取りスプール(17)が用いられることが多い。図4に示すように、巻取りスプール(17)は、巻取り軸(1a)のフランジ(6)と、巻取り軸(1a)の先端の雄ねじに螺合する締め込みナット(16)とによる両幅方向からの押圧のみによって把持されることで、巻取り軸(1a)に固定され、ともに回転するようになっている。
【0003】
かかる固定方法では、巻取り速度が高いため、締め込みナット(16)を締めるための回転方向が、巻取り軸(1a)の回転方向と同じ場合は起動時に、逆の場合は停止時に、それぞれ締め込みナット(16)が緩み、巻取りスプール(17)に対する把持力が落ちることがある。この場合、巻取りスプール(17)が空回りをして、細線の巻き目がくずれることにより、細線の変形および損傷が発生するという問題がある。
【0004】
このため、締め込みナット(16)として、ダブルナットを使用することにより、緩み止めとしたり、また、特許文献1に記載されているように、ねじを使用せず、ばねの押し付け力でスプールを押さえるなどの対策が考えられる、これらは作業頻度が増す、指先に大きな負荷がかかる、さらにはセットに時間がかかるといった問題があり、実際の操業においては採用できないのが実情である。
【特許文献1】特開2005−289587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、半田ワイヤ等の細線を巻き替える際に、容易にかつ素早く作業をすることができ、回転中または回転の停止時に、把持力が落ちることにより生じる巻取りスプールの空回りを防止することができる巻取りスプール固定治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る巻取りスプール固定治具は、
中間部にフランジ面と、先端部の外周に雄ねじと、該先端部に先端から軸方向に伸長する1つ以上の回転防止溝とを備える巻取り軸と、
中空円筒状の部材からなり、先端にテーパ部と、先端側の内周に前記雄ねじと螺合可能な雌ねじと、中間部の外周に環状の抜け止め溝と、基端側にグリップ部とを備えるノブと、
中空円筒状の部材からなり、先端側の内周に突出し、前記回転防止溝の中を摺動可能な1つ以上の回転防止ピンと、基端側の内周に突出し、前記抜け止め溝の中を摺動可能な抜け止めピンと、中間部の内周に前記テーパ部と摺接可能な段部とを備え、前記ノブの先端側に回転自在に配置されるスプール押さえリングと、
からなることを特徴とする。
【0007】
前記ノブと前記スプール押さえリングは、前記抜け止め溝に前記抜け止めピンが嵌合することにより、相互に回転自在に、かつ、軸方向に脱落しないように、前記ノブの先端側が前記スプール押さえリングの基端側に内嵌されて、スプール押さえユニットを構成する。
【0008】
スプールを前記巻取り軸に固定するためには、該巻取り軸にスプールを配した後、前記回転防止溝に前記回転防止ピンが嵌合するように、前記スプール押さえリングの側(前記ユニットの先端側)から前記巻取り軸に嵌めて、前記ノブの雌ねじを前記巻取り軸の雄ねじに螺合させる。これにより、前記スプール押さえリングの前記巻取り軸に対する回動が抑止され、かつ、前記ノブが、前記スプールと前記スプール押さえリングを押圧し、かつ、前記ノブのテーパ部と前記スプール押さえリングの段部が強く摺接し、前記ノブとスプール押さえリングの相互の回動が抑止される。これにより、ねじの緩みがなく、スプールを巻取り軸に固定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の巻取りスプール固定軸具では、取付時には、ノブのテーパ部とスプール押さえリングの段部の摩擦力により、ノブとスプール押さえリングの相互の回転が制限され、かつ、巻取り軸の回転防止溝とスプール押さえリングの回転防止ピンとの嵌合により、スプール押さえリングが巻取り軸上を回動することが制限される。よって、回転中または回転の停止時に、螺合する巻取り軸の雄ねじとノブの雌ねじが緩むことがなく、巻取りスプールの把持力が落ちて生じる巻取りスプールの空回りを防止することができる。
【0010】
また、ノブとスプール押さえリングのユニットは、従来のナットと比べて質量があまり変わらず、かつ、このユニットを巻取り軸に対して螺合させるという、従来と同様の作業のみで使用することができる。よって、半田ワイヤ等の細線を巻き替える作業において、その作業性を替えずに、より安定した生産性を確保することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1に、本発明の巻取りスプール固定治具の一実施例を一部破断斜視図で示す。図1では、説明のために、細線により、固定される巻取りスプール(17)を、他と重ねて示している。
【0012】
本発明の巻取りスプール固定治具は、巻取り軸(1)、スプール押さえリング(2)およびノブ(3)によって構成される。
【0013】
巻取り軸(1)は、巻取り装置(20)に取り付けられており、軸方向に移動可能に回転するようになっている。巻取り軸(1)は、中間部にフランジ(6)と、フランジ(6)より先端側の外周に雄ねじ(4)とを備える。雄ねじ(4)には、巻取り軸(1)の先端から軸方向に伸長する1つ以上の回転防止溝(5)が備えられる。回転防止溝(5)は、複数本設けることが好ましく、図示のように、4本設けることがさらに好ましい。この場合、それぞれの溝が巻取り軸(1)の円周上に等間隔で配されることが好ましい。複数本設けることにより、後述する回転防止ピン(8)も複数設けることで、スプール押さえリング(2)の回動がより効果的に防止されるし、1本の場合でも、位置合わせの面から利便である。
【0014】
なお、回転防止溝(5)の幅は、回転防止ピン(8)が隙間嵌めとなる程度とする。ただし、部材の材質によっては、締まり嵌めとなるような幅としてもよい。
【0015】
スプール押さえユニットを構成するスプール押さえリング(2)とノブ(3)はいずれも中空円筒状の部材からなる。ノブ(3)の先端側がスプール押さえリング(2)の基端側から中間部まで挿入され、内嵌されるように、両部材は形状づけられている。
【0016】
ノブ(3)の内周には、雄ねじ(4)に適合した雌ねじ(7)が備えられる。また、ノブ(3)の先端側の外周には、環状の抜け止め溝(11)が設けられている。
【0017】
また、ノブ(3)の基端側には、ノブ(3)の先端側およびスプール押さえリング(2)よりも大径のグリップ(13)を設けて、指で回動させることができるようにすることが好ましい。ただし、グリップ(13)の代わりに、基端部を六角ナット状や歯車状の形状とし、スパナやナット等でノブ(3)を回動させるようにしてもよい。このように、グリップ(13)の形状および大きさは、ノブ(3)を簡易に回動させることが可能であれば、任意のものを採用できる。
【0018】
スプール押さえリング(2)の内周は、中間部に段部(10)により、先端側が基端側より小径となっている。該小径の先端側の内周から、回転防止溝(5)の中を摺動可能な1つ以上の回転防止ピン(8)が突出している。また、大径である中間部の内周から、抜け止め溝(11)の中を摺動可能な抜け止めピン(9)が突出している。
【0019】
ノブ(3)とスプール押さえリング(2)は、同軸に、抜け止めピン(9)が抜け止め溝(11)に嵌合するように、組み合わせられる。これにより、相互に自由な回転が可能であるが、分離されることがなく、ユニット化され、スプール押さえユニットを構成する。ユニット形成時には、前記回転防止ピン(8)は、ノブの先端が存在する中間部よりさらに先端側に存在する。
【0020】
抜け止め溝(11)は、抜け止めピン(9)の外径に対して1.5倍程度の幅を有することが好ましい。これにより、ノブ(3)とスプール押さえリング(2)の軸方向への移動は制限される。
【0021】
また、ノブ(3)の軸方向先端部には、テーパ面(12)が形成されている。一方、スプール押さえリング(2)の中間部の内周にはテーパ面と対向する段部(10)が形成されている。これらの相対的な位置は、環状の抜け止め溝(11)の中で、抜け止めピン(9)が軸方向に移動可能な範囲で、ノブ(3)により、スプール押さえリング(2)が押圧されて、ノブ(3)のテーパ面(12)がスプール押さえリング(2)の段部(10)に当接するように関係づけられる。なお、両部材の軸方向における相対的な移動は、当接状態からさらに力を加えられた場合に、テーパ面(12)を有するテーパ部が変形し、ノブ(3)とスプール押さえリング(2)間に生ずる摩擦力が十分に高くできる程度とする。なお、かかる段部をノブ(3)のテーパ面(12)の形状に合わせて、テーパ面を有するようにしてもよい。
【0022】
なお、ノブ(3)とスプール押さえリング(2)との嵌合関係は、上述のものに限定されない。例えば、ノブ(3)の中間部内周に、可撓性の素材からなる突出片を埋め込んで、該突出片を前記抜け止め溝(11)に嵌合してもよい。また、ノブ(3)の内周で抜け止め溝(11)に対応する位置に、環状の凹溝を設けて、止め輪を介して、両者の嵌合関係を形成するようにしてもよい。
【0023】
また、回転防止ピン(8)の代わりに、スプール押さえリング(2)の先端部内周に複数のボタン状の凸部を形成し、一方、巻取り軸(1)の雄ねじ(4)に軸方向に伸長する凹部を形成し、これらの凸部と凹部との嵌合関係により、スプール押さえリング(2)の回動を抑止するようにしてもよい。
【0024】
これらの部材は、既存の部材と同様のものを使用することにより、作製できる。
【0025】
以下に、巻取りスプール固定治具の使用方法を示す。
【0026】
作業者は、図2に示すように、巻取りスプール(17)を、巻取り軸(1)に差し込んだ後、グリップ(13)をつまんで、ユニット化されているノブ(3)とスプール押さえリング(2)を持ち、その先端側を巻取り軸(1)の先端側にあてて、ゆっくりと回転させる。このように回転をさせている間に、回転防止溝(5)の中に回転防止ピン(8)が入り込む。その後、ノブ(3)をさらに回転させて、巻取り軸(1)の雄ねじ(4)にノブ(3)の雌ねじ(7)を回し入れる。ノブ(3)をさらに回すことにより、スプール押さえリング(2)の軸方向端部と、巻取り軸(1)のフランジ(6)のフランジ面との間に、巻取りスプール(17)が挟まれる。さらに若干の力を加えてノブ(3)を回すことにより、前述のように、ノブ(3)のテーパ面(12)とスプール押さえリング(2)の段部(10)とが摺接し、相互に押圧される。
【0027】
このようにして、スプール押さえリング(2)の先端部がスプール(17)を押圧し、巻取り軸(1)のフランジ(6)との間に、巻取りスプール(17)がしっかりと固定される。スプール押さえリング(2)がスプール(17)を十分に押圧し、かつ、ノブ(3)のテーパ面(12)とスプール押さえリング(2)の段部(10)の間に働く摩擦力が強くなると、ノブ(3)の回動が不可能となる。
【0028】
半田ワイヤ等の細線を巻きかえる最中には、巻取りスプール(17)にかかる力に変動が起きても、スプール押さえリング(2)が回動することが抑止される。また、ノブ(3)とスプール押さえリング(2)の間の摩擦力により、相互の回動も抑止される。これにより、スプール押さえユニットが巻取り軸に対して回動して、ねじが緩むことが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の巻取りスプール固定治具の一実施例を示す一部破断斜視図である。
【図2】図1の巻取りスプール固定治具の使用方法を示す斜視図である。
【図3】巻取りスプールを示す斜視図である。
【図4】従来技術において、巻取りスプールを固定している状態を示す平面図である。
【図5】従来技術において、半田ワイヤ巻取り装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
1 巻取り軸
2 スプール押さえリング
3 ノブ
4 雄ねじ
5 回転防止溝
6 フランジ
7 雌ねじ
8 回転防止ピン
9 抜け止めピン
10 段部
11 抜け止め溝
12 テーパ面
13 グリップ
15 半田ワイヤ
16 ナット
17 巻取りスプール
18 位置決め部
19 汎用スプール
20 巻取り装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間部にフランジ面と、先端部の外周に雄ねじと、該先端部に先端から軸方向に伸長する1つ以上の回転防止溝とを備える巻取り軸と、
中空円筒状の部材からなり、先端にテーパ部と、先端側の内周に前記雄ねじと螺合可能な雌ねじと、中間部の外周に環状の抜け止め溝と、基端側にグリップ部とを備えるノブと、
中空円筒状の部材からなり、先端側の内周に突出し、前記回転防止溝と嵌合する1つ以上の回転防止ピンと、基端側の内周に突出し、前記抜け止め溝と嵌合する抜け止めピンと、中間部の内周に前記テーパ部と摺接可能な段部とを備え、前記ノブの先端側に同軸に配置されるスプール押さえリングと、
からなる巻取りスプール固定治具。
【請求項2】
中間部にフランジ面と先端部の外周に雄ねじとを備える巻取り軸と、同軸に取り付けられた2つの中空円筒状の部材からなるスプール押さえユニットとからなり、前記スプール押さえユニットは、一方の部材の外周と他方の部材の内周のそれぞれ一部が嵌合することにより、相互に回転自在に、かつ、軸方向に脱落しないように、前記一方の部材の先端部が前記他方の部材の基端部に内嵌しており、前記一方の部材の内周には、前記雄ねじと螺合可能な雌ねじが設けられ、前記他方の部材の先端部の内周と前記巻取り軸の先端部外周とに相互に嵌合可能な部材が設けられ、前記ユニットの雌ねじを前記巻取り軸の雄ねじに螺合させることにより、前記他方の部材の前記巻取り軸に対する回動が抑止され、かつ、前記一方の部材が、前記フランジ面と前記他方の部材の間に配されたスプールと前記他方の部材を押圧することにより、前記一方の部材と他方の部材の相互の回動が抑止される状態で前記スプールを固定することを可能としている巻取りスプール固定治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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