説明

巻取り装置及び巻取り方法

【課題】 駆動力が伝達されるポイントの変動を防止して、パッケージの回転速度の変動を防止し、巻取り張力の変動による糸切れ等を防止する。
【解決手段】 コーン形状のボビン10に糸9を綾巻きで巻き取ってコーン形状のパッケージ20を形成する巻取り装置4であって、パッケージ20の外周面に接触するフリクションローラ16と、フリクションローラ16を回転駆動させるフリクションローラ駆動手段と、パッケージ20の巻き密度を、パッケージ20の軸方向における第1部位で、他の部位よりも相対的に高くなるように、パッケージ20に巻き取る糸9を振り動かすトラバース手段と、を備えた巻取り装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
コーン形状のボビンに糸を綾巻きで巻き取ってコーン形状のパッケージを形成する巻取り装置及び巻取り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば高速精紡機において、コーン形状のボビンに糸を綾巻きで巻き取って、コーン形状のパッケージを形成する巻取り装置が用いられている。巻取り装置は、パッケージ(巻き始めはボビン)に接触させるフリクションローラと、パッケージの軸方向に糸を綾振りするトラバース手段とを備えている(例えば、特許文献1参照。)。パッケージは、軸方向の全体でフリクションローラに接触するように、フリクションローラの軸に対して傾斜した姿勢で配置される。パッケージの回転駆動は、フリクションローラを回転させることで行われる。トラバース手段は、糸を綾振りして、パッケージの軸方向における単位長さあたりの巻き数(以下、「巻き密度」という)が一定になるように設定されている。
【0003】
ところで、高速精紡機は紡績速度が一定であり、一定速度で精紡される糸に対して、パッケージの巻取り速度に変動があると、糸の巻取り張力が変動する。巻取り張力の変動が大きいと糸切れが生じる場合がある。巻取り速度の変動には、変動率の小さいものと、大きいものとがあり、変動率の大きいものは、10〜20%の変動である。変動率の大きいものは、トラバース手段の綾振り周期等が原因で生じ、比較的短期で変動するものである。この短期的な巻取り速度の変動は、パッケージの直前に配置されたテンションルーラーに糸を一時的に貯留させ、貯留量を増減させることによって吸収することが可能である。
【0004】
一方、変動率の小さいものは、5%(±2.5%)の変動となり、比較的長期で変動するものである。図6はこのような巻取り速度の変動を示している。このような長期的な巻取り速度の変動は、テンションルーラーでは吸収できず、テンションルーラーの糸の貯留量が不足する状態となる。このとき、パッケージをフリクションローラから断続的に離してパッケージの回転速度を低下させるリフトアップ動作を行うことにより、テンションルーラーの糸の貯留量を回復させ、巻取り速度の変動を吸収できる場合もある。しかしながら、巻取り速度の変動がこれを上回ると、リフトアップ動作によっても巻取り速度の変動を吸収できず、巻取り張力の変動が大きくなって糸切れが生じる場合がある。
【0005】
このような長期的な巻取り速度の変動は、パッケージに対してフリクションローラが接触する部位が、巻取りが進むにつれて変動することによって生じている。トラバース手段は、巻取り中の糸を綾振りして、パッケージの糸の巻き密度が一定になるようにし、パッケージに対してフリクションローラが均一に接触するようにしている。しかしながら実際には、巻き密度は必ずしも一定にはならない。巻取り中は、パッケージの軸方向で他の部位よりも厚く巻かれる部位、すなわち、巻き密度が高い部位が生じる。巻き密度が高い部位にフリクションローラが接触し、駆動力がパッケージに伝達される。そして巻取り中は、この巻き密度の高い部位、すなわち、駆動力が伝達されるポイントは、パッケージの軸方向に位置が変動するため、フリクションローラの回転速度が一定であっても、パッケージの回転速度が変動することになる。例えば、駆動力が伝達されるポイントがパッケージの短径部分である場合のパッケージの回転速度は、駆動力が伝達されるポイントがパッケージの長径部分である場合のパッケージの回転速度より高くなる。駆動力が伝達されるポイントがパッケージの短径部分になると、糸の巻取り速度が全体的に高速となる。
【0006】
このような問題を解決するため、特許文献1の発明では、フリクションローラの外径を局部的に大きくして、フリクションローラの表面に凸部を形成している。そして、パッケージがフリクションローラの凸部にのみ接触するようにしている。これによって、駆動力が伝達されるポイントが変動することを防止し、パッケージの回転速度の変動を防止しようとしている。
【特許文献1】特開昭58−59161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、フリクションローラに凸部を形成して、駆動力が伝達されるポイントの変動を防止できるのは、パッケージの巻取り開始直後だけであって、パッケージの巻き層が薄い状態の場合に限られる。巻き層が約5mm以上の状態になると、パッケージのどの部位にフリクションローラの駆動力が伝達されるかは、フリクションローラの凸部の位置よりも、パッケージの巻き密度の高い部位の位置に依存するようになる。このため、フリクションローラに凸部を形成しても、凸部に接触する部分の巻き密度が低い場合は、駆動力が伝達されるポイントは、巻き密度の高い部分に変動していき、パッケージの回転速度が変動することとなる。
【0008】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたものであり、駆動力が伝達されるポイントの変動を防止して、パッケージの回転速度の変動を防止し、巻取り張力の変動による糸切れ等を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
第1の発明では、コーン形状のボビンに糸を綾巻きで巻き取ってコーン形状のパッケージを形成する巻取り装置であって、
前記パッケージの外周面に接触するフリクションローラと、
前記フリクションローラを回転駆動させるフリクションローラ駆動手段と、
前記パッケージの巻き密度を、前記パッケージの軸方向における第1部位で、他の部位よりも相対的に高くなるように、前記パッケージに巻き取る糸を振り動かすトラバース手段と、
を備えたことを特徴とする巻取り装置とする。
【0011】
第2の発明では、第1の発明において、前記フリクションローラは、軸方向における第2部位で、外周面を他の部位よりも拡径側に突出させて形成し、
前記トラバース手段は、前記フリクションローラの第2部位に、前記パッケージの第1部位が接触するように、前記糸を振り動かすことを特徴とする巻取り装置とする。
【0012】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、前記第1部位は、前記パッケージの軸方向における中央部であることを特徴とする巻取り装置とする。
【0013】
第4の発明では、コーン形状のボビンに糸を綾巻きで巻き取ってコーン形状のパッケージを形成する巻取り方法であって、
前記パッケージの外周面にフリクションローラを接触させて、前記フリクションローラを回転させながら、前記パッケージの巻き密度が、前記パッケージの軸方向における第1部位で、他の部位よりも相対的に高くなるように、前記パッケージに巻き取る糸を振り動かすことを特徴とする巻取り方法とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
第1の発明によれば、パッケージの軸方向における第1部位で、パッケージの巻き密度が他の部分よりも相対的に高くなる。パッケージの巻き密度が他の部分よりも相対的に高い第1部位にフリクションローラの駆動力が伝達されるため、駆動力が伝達されるポイントの変動を防止することができ、パッケージの回転速度の変動を防止して、巻取り張力の変動による糸切れ等を防止することができる。
【0016】
第2の発明によれば、パッケージの巻き密度が他の部分よりも相対的に高い第1部位と、フリクションローラにおいてフリクションローラの外周面を突出させた第2部位とが接触し、フリクションローラの駆動力が伝達されるため、駆動力が伝達されるポイントの変動をより一層防止することができ、パッケージの回転速度の変動を防止して、巻取り張力の変動による糸切れ等を防止することができる。
【0017】
第3の発明によれば、パッケージの重心に近い位置が、パッケージの巻き密度が他の部分よりも相対的に高い第1部位となるため、フリクションローラの駆動力がパッケージの軸方向で均一に伝わり、パッケージの回転が安定する。
【0018】
第4の発明によれば、パッケージの軸方向における第1部位で、パッケージの巻き密度が他の部分よりも相対的に高くなる。パッケージの巻き密度が他の部分よりも相対的に高い第1部位にフリクションローラの駆動力が伝達されるため、駆動力が伝達されるポイントの変動を防止することができ、パッケージの回転速度の変動を防止して、巻取り張力の変動による糸切れ等を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0020】
図1を用いて、本発明の実施例1に係る巻取り装置4を備えた紡績機1を説明する。紡績機1は、駆動装置3と、紡績ユニット2と、を備えている。一つの紡績機1に設けられる紡績ユニット2は複数であり、例えば60錘である。紡績ユニット2は、一つのパッケージ20の製造に係る装置の集合体である。駆動装置3は、各紡績ユニット2を一斉駆動する装置である。
【0021】
各紡績ユニット2は、ドラフト装置11と、空気式紡績装置12と、糸送り装置としてのフィードローラ13と、糸欠点検出装置としてのヤーンクリアラー14と、糸ガイド7と、フリクションローラ16とを備えている。各紡績ユニット2において、ドラフト装置11に供給されたスライバは、ドラフト装置11でドラフトされた後、空気式紡績装置12で紡績されて糸9となる。この糸9は、ヤーンクリアラー14を経由した後、糸ガイド7に案内されてトラバースされて、パッケージ20に巻き取られる。
【0022】
駆動装置3は、駆動源としてのモータ30と、出力軸としての第一軸31・第二軸32・第三軸33・第四軸34と、を備えている。モータ30の駆動により、第一軸31・第二軸32・第三軸33が回転し、第四軸34が軸方向に往復運動する。第一軸31の駆動により、各ドラフト装置11が駆動される。第二軸32の駆動により、各フィードローラ13が駆動される。第三軸33の駆動により、各フリクションローラ16が駆動される。また、第四軸34の駆動により、各糸ガイド7がトラバース駆動される。
【0023】
また、モータ30と第一軸31との間には、減速機36と、変速機としてベルトを掛け渡された一対の三段プーリ35・35と、が配置されている。第一軸31・第二軸32・第三軸33のそれぞれにはプーリ41・42・43が固定され、プーリ41・42・43にはベルト40が掛け渡されている。第三軸33と第四軸34との間には、カムボックス5と、変速機としてベルトを掛け渡された一対の三段プーリ45・45と、が備えられている。
【0024】
次に、巻取り装置4を説明する。巻取り装置4は、ボビン10上に糸9を巻き取ってパッケージ20を形成する装置である。図2に示すように、巻取り装置4は、フリクションローラ16と、フリクションローラ駆動手段と、クレードル8と、トラバース手段と、を備えている。フリクションローラ16は円柱状であって、フリクションローラ16の外周面16aはパッケージ20の外周面20aに接触する。フリクションローラ駆動手段は、モータ30であり、モータ30の回転駆動によりフリクションローラ16が回転し、フリクションローラ16に接触するパッケージ20に駆動力が伝達される。
【0025】
クレードル8は、ボビン10及びパッケージ20を支持して、パッケージ20をフリクションローラ16に接触させる装置である。クレードル8は、フリクションローラ16の軸方向に対してボビン10の軸方向を傾斜させて、ボビン10の軸方向の全体をフリクションローラ16に接触させている。パッケージ20における糸9の巻取り量が増えるにつれて、パッケージ20の径は大きくなる。パッケージ20の径が大きくなってもパッケージ20とフリクションローラ16とが一定の圧力で接触するように、クレードル8は巻取り装置4のフレームに揺動自在に支持されている。
【0026】
トラバース手段は、糸9をフリクションローラ16の軸方向で振り動かして案内する手段である。トラバース手段は、糸ガイド7とカムボックス5とモータ30とを備えている。糸ガイド7は、フリクションローラ16の軸方向と平行なトラバース経路P上を往復運動するように制御される。糸9は、ボビン10の径方向からボビン10に向かって送られ、糸ガイド7を経由して、パッケージ20に到達する。糸ガイド7の位置がフリクションローラ16の軸方向で変化することにより、パッケージ20に到達する糸9の位置がフリクションローラ16の軸方向で変化する。
【0027】
カムボックス5には、図1に示すように、入力軸51と、カムドラム52と、シュー53と、が備えられている。入力軸51は前記変速機の一部である三段プーリ45に接続されており、入力軸51にモータ30からの動力が伝達される。カムドラム52には、カムドラム52の外周面上を周回する連続した曲線に沿って案内溝52a形成されている。案内溝52aはカムドラム52の軸方向における所定の範囲R内で、カムドラム52の軸方向に往復するように形成されている。このため、カムドラム52の回転に伴って、案内溝52aに噛み合っているシュー53が第四軸34の軸方向で往復運動する。第四軸34には糸9を案内する糸ガイド7が固定されており、カムドラム52の回転に伴って、糸ガイド7がパッケージ20の軸方向で振り動かされることとなる。カムドラム52の案内溝52aの構成により、図3aのグラフF1のような関係で、糸ガイド7に案内される糸9の位置と速度とが制御される。案内溝52aの詳細な構成については後述する。
【0028】
巻取り装置4は、綾巻きのパッケージ20を、次のようにして形成する。まず、紡績機1のコントローラ6は、モータ30を駆動させて、フリクションローラ16を介してパッケージ20(ボビン10)を回転させる。同時に、モータ30の駆動により、カムドラム52が回転し、糸ガイド7が、トラバース経路Pに沿って往復運動するトラバース動作を行う。糸ガイド7の位置と速度は、カムドラム52の案内溝52aの構成によって制御されている。トラバース動作する糸ガイド7に案内された糸9は、回転するパッケージ20に巻き取られる。この結果、糸9はボビン10の軸に対する垂直面に対して所定の傾斜角度(綾角θ)でパッケージ20に巻き取られることになる。尚、ボビン10の外周面10aはコーン状となっており、ボビン10には、ボビン10の軸方向の一定範囲で糸9が略等しい厚みで巻きつけられる。つまり、このボビン10上に形成されるパッケージ20の外周面20aも基本的にはコーン状となる。
【0029】
本実施例に係る巻取り装置4の特徴点は、パッケージ20の巻き密度が、パッケージ20の軸方向における一部分(第1部位)で他の部分よりも相対的に高くなるように、糸ガイド7をトラバース動作させて糸9を振り動かす点にある。このようなトラバース動作を行うことで、パッケージ20の軸方向における一部分に実質的に凸部20bが形成される。この実質的な凸部20bは、パッケージ20の外周面20aに略円環状に形成される。パッケージ20の外周面20aに巻き密度が相対的に高い、実質的な凸部20bを形成することで、この部分は、フリクションローラ16の駆動力が伝達されるポイントとなる。以下に、糸ガイド7のトラバース動作について説明する。
【0030】
図2に示すように、糸ガイド7は、トラバース経路P上を、位置P1から位置P2までの間で往復運動する。トラバース経路の中央位置をPmとする。糸9がパッケージ20に接触する部位は、パッケージ20の外周面20a上で、フリクションローラ16の軸方向と平行な母線方向の範囲Qである。範囲Qの両端を位置Q1及び位置Q2とし、範囲Qの中心位置をQmとする。
【0031】
図3aは、糸ガイド7の位置と糸ガイド7の速度との関係を示すグラフF0及びF1を示している。二点鎖線で示すグラフF0は、従来の巻取り装置のトラバース動作を示すグラフであり、実線で示すグラフF1は、本実施例に係る巻取り装置4のトラバース動作を示すグラフである。横軸の糸ガイド7の位置は、トラバース経路P上の位置を示している。縦軸の糸ガイド7の速度は、糸ガイド7がトラバース経路の方向で走行する速度を示している。糸ガイド7の速度は、糸ガイド7の位置に応じて変化するように制御されている。F0を基準グラフとする。
【0032】
パッケージ20の軸に対する糸9の傾斜角度である綾角は、パッケージ20の周速度と、糸ガイド7の速度との比によって決定される。綾角が一定である場合、パッケージ20の巻き密度は、パッケージ20の軸方向で一定となる。コーン状のパッケージ20の場合、パッケージ20の軸方向で、パッケージ20の径の長さが変化するため、綾角を一定にするには、図3aの基準グラフF0に示すように、トラバース経路上の糸ガイド7の位置によって、糸ガイドの速度を変化させる必要がある。
【0033】
図3aに示す基準グラフF0では、糸ガイド7の速度は、糸ガイド7の位置、すなわちパッケージ20の軸方向におけるパッケージ径の大小変化に応じて逆比例することを示している。図2の位置Q2側の部分である、パッケージ20の径が短い部分に対応する位置P2では、糸ガイド7の速度を速めている。また、図2の位置Q1側の部分である、パッケージ20の径が長い部分に対応する位置P1では、糸ガイド7の速度を遅らせている。基準グラフF0において、糸ガイド7が位置P1にあるときの速度をV1、位置P2にあるときの速度をV2、中央位置Pmにあるときの速度をV0mとする。
【0034】
図3aに示すグラフF1は、パッケージ20に相対的に巻き密度の高い、実質的な凸部20bを形成するトラバース動作を示している。グラフF1は、巻取りの対象がコーン状のパッケージ20であることから、基本的には、基準グラフF0と同様に、パッケージ20の軸方向におけるパッケージ径の大小変化に逆比例するグラフである。しかしながら、グラフF1では、トラバース経路の略中央部で、基準グラフF0よりも糸ガイド7の速度を遅らせている点で基準グラフF0と相違する。グラフF1において、糸ガイド7が位置P1にあるときの速度はV1、位置P2にあるときの速度はV2、中央位置Pmにあるときの速度はV1mである。グラフF1と基準グラフF0とにおける糸ガイド7の速度の速度差Dは、糸ガイド7が中央位置Pmにあるときの速度差Dmが最大である。Dm=V0m−V1mである。糸ガイド7が中央位置Pmを外れると、速度差Dは最大速度差Dmより小さくなる。グラフF0・F1は、糸ガイド7がトラバース経路Pの両端の位置P1及びP2にあるときのみ、糸ガイド7の速度が一致する。
【0035】
ここで、糸ガイド7の速度と綾角、巻き密度との関係について説明する。綾角は、パッケージ20の周速度と、糸ガイド7の速度との比によって決定されるものであるため、糸ガイド7の速度を遅くする程、綾角は小さくなる。綾角が小さくなって棒巻き(綾角0度)に近づく程、パッケージ20に糸9がより密に巻き付けられる。反対に、綾角が大きくなる程、パッケージ20に糸9はより疎に巻きつけられる。グラフF1において、基準グラフF0よりも糸ガイド7の速度を遅らせた部分は、綾角が他の部分より小さくなった部分に相当する。従って、糸ガイド7の速度が相対的に遅らされた部分は、他の部分よりも巻き密度が高められた部分となる。
【0036】
次に、図2、図3、図4を用いて、上記のように糸ガイド7の位置と速度とを制御する、カムドラム52の案内溝52aについて説明する。図2に示すように、案内溝52aは、カムドラム52の周方向に沿って形成されており、カムドラム52の軸に対する垂直面に対して傾斜している。以下、カムドラム52の軸に対する垂直面と案内溝52aの接線とがなす、案内溝52aの傾斜角度を溝傾斜角度とする。
【0037】
図2には、案内溝52aの3位置における溝傾斜角度を示している。ここで、案内溝52aが形成されている範囲Rの両端位置をR1及びR2とし、中央位置をRmとする。位置R1はトラバース経路Pの位置P1及びパッケージ20の位置Q1に対応する。位置R2はトラバース経路Pの位置P2及びパッケージ20の位置Q2に対応する。中央位置Rmはトラバース経路Pの中央位置Pm及びパッケージ20の位置Qmに対応する。位置R1における溝傾斜角度をα1、位置R2における溝傾斜角度をα2、中央位置Rmにおける溝傾斜角度をαm、とする。
【0038】
カムドラム52の回転速度が一定の場合において、カムドラム52の溝傾斜角度と、糸ガイド7の速度、パッケージ20における綾角や巻き密度との関係について説明する。カムドラム52の溝傾斜角度が小さくなるほど、糸ガイド7がトラバース方向に移動する速度が低下する。この結果、パッケージ20に糸9が巻かれる綾角が小さくなり、巻き密度が高くなる。反対に、溝傾斜角度が大きくなるほど、糸ガイド7がトラバース方向に移動する速度が上昇する。この結果、パッケージ20に糸9が巻かれる綾角が大きくなり、巻き密度が低下する。つまり、案内溝52aの溝傾斜角度と、パッケージ20における巻き密度とは対応している。従って、案内溝52aの各部における溝傾斜角度を調整することにより、パッケージ20の各部における巻き密度を決定することができる。
【0039】
図4に、案内溝52aの位置と溝傾斜角度との関係のグラフG0及びG1を示している。基準グラフG0は、図3における基準グラフF0と同様の形状である。グラフG1は、図3におけるグラフF1と同様の形状である。基準グラフG0は、パッケージ20の軸方向におけるパッケージ径の大小変化に逆比例するグラフとなっている。グラフG1も、基本的には、パッケージ20の軸方向におけるパッケージ径の大小変化に逆比例するグラフとなっている。加えて、グラフG1は、グラフF1と同様に、範囲Rの中央部で基準グラフG0よりも溝傾斜角度を小さくしている。グラフG1と基準グラフG0とにおける溝傾斜角度の角度差Aは、案内溝52aの中央位置Rmにおける角度差Amが最大である。
【0040】
案内溝52aは、図4に示すグラフG1のような関係となるように、カムドラム52に構成されている。このため、カムドラム52をトラバース手段とする巻取り装置4でパッケージ20の形成を行うと、パッケージ20の巻き密度はパッケージ20の軸方向中央部で高められる。
【0041】
以上説明した本実施例に係る巻取り装置4によれば、トラバース経路Pの略中央位置Pmにおいて、糸ガイド7の速度を基準グラフF0と比べて相対的に遅らせるように制御している。これにより、パッケージ20の軸方向の中央部に、巻き密度が相対的に高い実質的な凸部20bを形成するようにしている。巻き密度が他の部分と比べて相対的に高い部位である実質的な凸部20bは、相対的に硬くなり、弾性係数が高くなる。このようなパッケージ20を円柱状のフリクションローラ16に接触させると、巻き密度の高い実質的な凸部20bのみがフリクションローラ16に実質的に接触することになる。このため、パッケージ20の巻き密度が他の部分よりも相対的に高い、軸方向の中央部にフリクションローラ16の駆動力が伝達され、駆動力が伝達されるポイントの変動を防止することができる。よって、パッケージ20の回転速度の変動を防止して、巻取り張力の変動による糸切れ等を防止することができる。
【0042】
尚、「実質的な凸部20b」とは、凸部20bが巻き密度を相対的に高めて形成した部位であることを意味し、外見上は必ずしも明確な凸状であるとは限らないことを意味する。図2等は、図示の便宜上、凸部20bが凸状であることを明確に示している。糸9は弾性を有しているので、巻き密度が相対的に小さく、緩く巻かれた部位でも膨らんだ状態にある。このため、外見上、巻き密度の高い部位と低い部位とを識別することができない場合がある。また、パッケージ20において巻き密度の低い部位も、円柱状のフリクションローラ16の外周面16aに接触する。つまり、パッケージ20とフリクションローラ16とは全体的に接触する場合がある。しかしながら、巻き密度の低い部位は相対的に軟らかい部位であって、フリクションローラ16からパッケージ20への回転駆動力の伝達を受ける部位ではない。実質的にフリクションローラ16からパッケージ20への回転駆動力が伝達される部位は、巻き密度の高い、実質的な凸部20bである。
【0043】
上記説明した糸ガイド7の速度の制御は、図3aのグラフF1に示すように、トラバース経路の中央部において、糸ガイド7の速度を基準グラフF0と比べて相対的に遅らせるように制御している。このように制御することで、パッケージ20の軸方向中央部の巻き密度を高めており、パッケージ20の重心に近い位置で、パッケージ20はフリクションローラ16に接触する。このため、フリクションローラ16からパッケージ20に伝達される回転駆動力が、パッケージ20の軸方向で均一に伝わり、パッケージ20の回転が安定する。尚、駆動ポイントの移動を防止するという点では、パッケージ20の軸方向の一部で巻き密度を高めることができればよい。従って、巻き密度を高める部位としては、パッケージ20の軸方向の中央部に限定されない。
【0044】
また、巻き密度を高める上では、グラフF1のように、トラバース経路の両端位置を除く全体で基準グラフF0との間に速度差Dを設ける必要はない。少なくとも、巻き密度を高める部位において、基準グラフF0との間で速度差を設けることができればよい。そこで、図3bのグラフF2のようにトラバース動作を制御するようにしても良い。グラフF2では、トラバース経路の中央位置Pmの周辺でのみ、基準グラフF0よりも糸ガイド7の速度を遅くして、実質的な凸部20bを形成している。巻き密度を高める部位は、フリクションローラ16によって潰されない程度に、パッケージ20の軸方向で一定幅の領域を有することが好ましい。
【実施例2】
【0045】
次に図5を用いて、本発明の実施例2の巻取り装置104を説明する。実施例2の巻取り装置104は、形状の点でフリクションローラ16と相違するフリクションローラ116を備えている点で、実施例1と相違する。以下で、実施例1の巻取り装置4と、実施例2の巻取り装置104とで共通する部材等については、同符号を用いると共に、それらの部材等に関する説明を省略する。
【0046】
フリクションローラ116の全体形状は、基本的には円柱状であり、外周面を他の部位よりも拡径側に突出させた凸部116aを形成している。凸部116aは、パッケージ20の凸部20bに接触させる部分であり、フリクションローラ116の外周全体にわたる円環状の凸部として形成される。フリクションローラ116に凸部116aを形成する位置(第2部位)は、フリクションローラ116の軸方向の略中央部とする。
【0047】
パッケージ20の実質的な凸部20bと、フリクションローラ116の凸部116aとを接触させるため、フリクションローラ116の凸部116aに対向するように、パッケージ20において実質的な凸部20bを形成すべき位置(第1部位)を決定する。実質的な凸部20bの位置は、糸ガイド7のトラバース動作を制御することにより変更できる。このようにして、パッケージ20においてフリクションローラ116の凸部116aに接触する位置に実質的な凸部20bが形成される。
【0048】
実施例2において、フリクションローラ116に凸部116aを形成すると、パッケージ20とフリクションローラ116との接触は、パッケージ20の実質的な凸部20bと、フリクションローラ116の凸部116aとで行われる。そして、他の部分では接触しにくくなる。このため、パッケージ20の巻き密度が他の部分よりも相対的に高い実質的な凸部20bと、フリクションローラ116において外周面を突出させた凸部116aとが接触し、フリクションローラ116の駆動力が伝達される。よって、駆動力が伝達されるポイントの変動をより一層防止することができ、パッケージ20の回転速度の変動を防止して、巻取り張力の変動による糸切れ等を防止することができる。
【0049】
尚、フリクションローラ116に凸部116aを形成する位置は、フリクションローラ116の軸方向の中央部に限定されない。そして、フリクションローラ116の凸部116aの位置(第2部位)に合わせて、パッケージ20の実質的な凸部20bの位置(第1部位)を決定すればよい。
【0050】
フリクションローラ116は凸部116aとともに一体成形することができる。フリクションローラ116の凸部116a等を別部材として形成した場合、部材同士を合わせた隙間に糸9が入り込む場合があるが、フリクションローラ116を一体成形した場合は、このようなことは生じない点で好ましい。
【0051】
フリクションローラ116を別体で構成する場合は、例えば、円柱状のフリクションローラ116の本体に、凸部116aとなる円環状部材を外側から嵌め込む構成でもよい。また、フリクションローラ116を軸方向に分割した構成として、小径の円柱状部材で、凸部116aを含む大径の樽状部材を軸方向に挟んで合わせる構成としてもよい。
【0052】
駆動力の伝達性は、糸9の糸種、番手、接圧、巻取り張力等の巻取り条件によって異なるので、巻取り速度の安定と急速なパッケージ20の回転開始による衝撃テンションの緩和のためにバランスを取ることが望ましい。滑りやすい糸9の場合等、駆動力が伝達しにくい巻取り条件の場合には、フリクションローラ116にある程度駆動力の伝達性を持たせる必要がある。この場合、フリクションローラ116の表面に横溝や斜め溝を形成することで、パッケージ20への駆動力の伝達性を向上させることができる。フリクションローラ116の凸部116aのみに溝を形成してもよく、フリクションローラ116の全体に形成してもよい。例えば、凸部116aに軸方向に沿った横溝を複数形成することで、パッケージ20がフリクションローラ116に対して滑りにくくなり、滑りやすい糸9の場合であってもパッケージ20に確実に駆動力を伝達することができる。横溝を複数形成したフリクションローラ116ではパッケージ20に振動が発生するような場合には、横溝の代わりに軸方向に傾斜した斜め溝を用いることで振動を低減することができる。尚、駆動力が伝達しやすい巻取り条件の場合には、溝は形成しなくてもよい。
【0053】
以上説明した本発明の技術的範囲は、上記の実施例に限定されるものではなく、上記実施例の形状に限定されない。本発明の技術的範囲は、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1に係る巻取り装置4を備えた紡績機1の構成を示す図である。
【図2】実施例1に係る巻取り装置4を糸送り方向から見た図である。
【図3】実施例1に係る巻取り装置4において、糸ガイドの位置と糸ガイドの速度との関係を示す図である。
【図4】実施例1に係る巻取り装置4において、糸案内溝の位置と溝傾斜角度との関係を示す図である。
【図5】実施例2に係る巻取り装置4を糸送り方向から見た図である。
【図6】従来の巻取装置におけるパッケージ径とパッケージ回転速度との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
4 巻取り装置
7 糸ガイド
16 フリクションローラ
20b 凸部
30 モータ
52 カムドラム
104 巻取り装置
116 フリクションローラ
116a 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーン形状のボビンに糸を綾巻きで巻き取ってコーン形状のパッケージを形成する巻取り装置であって、
前記パッケージの外周面に接触するフリクションローラと、
前記フリクションローラを回転駆動させるフリクションローラ駆動手段と、
前記パッケージの巻き密度を、前記パッケージの軸方向における第1部位で、他の部位よりも相対的に高くなるように、前記パッケージに巻き取る糸を振り動かすトラバース手段と、
を備えたことを特徴とする巻取り装置。
【請求項2】
前記フリクションローラは、軸方向における第2部位で、外周面を他の部位よりも拡径側に突出させて形成し、
前記トラバース手段は、前記フリクションローラの第2部位に、前記パッケージの第1部位が接触するように、前記糸を振り動かすことを特徴とする請求項1に記載の巻取り装置。
【請求項3】
前記第1部位は、前記パッケージの軸方向における中央部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の巻取り装置。
【請求項4】
コーン形状のボビンに糸を綾巻きで巻き取ってコーン形状のパッケージを形成する巻取り方法であって、
前記パッケージの外周面にフリクションローラを接触させて、前記フリクションローラを回転させながら、前記パッケージの巻き密度が、前記パッケージの軸方向における第1部位で、他の部位よりも相対的に高くなるように、前記パッケージに巻き取る糸を振り動かすことを特徴とする巻取り方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−126647(P2009−126647A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303626(P2007−303626)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】