布又は布製品の製造方法
【課題】固着された単数又は複数の装飾布片にて装飾された布又は布製品の製造方法であって、布に別布で成る装飾布を固着したのち、該装飾布から所定形状の装飾布片に切り抜く方法を採用する場合に、作業の手間や時間を削減するとともに、美麗に装飾布片に切り抜く技術を提案する。
【解決手段】単数又は複数の装飾布片が被装飾布に固着された布又は布製品の製造方法であって、被装飾布11の装飾布片12aが固着されようとする部分に、セルロース系繊維で成る装飾布12を接着又は縫着し、前記装飾布12に、該装飾布12より抜かれようとする装飾布片12aの外周形状に沿って抜蝕剤14を塗布し、前記装飾布12の前記抜蝕剤14が塗布された部分を加熱により炭化除去し、前記被装飾布11に装飾布片12aを残して前記装飾布12を該被装飾布11より剥がし取る。
【解決手段】単数又は複数の装飾布片が被装飾布に固着された布又は布製品の製造方法であって、被装飾布11の装飾布片12aが固着されようとする部分に、セルロース系繊維で成る装飾布12を接着又は縫着し、前記装飾布12に、該装飾布12より抜かれようとする装飾布片12aの外周形状に沿って抜蝕剤14を塗布し、前記装飾布12の前記抜蝕剤14が塗布された部分を加熱により炭化除去し、前記被装飾布11に装飾布片12aを残して前記装飾布12を該被装飾布11より剥がし取る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布に布片が固着されることによって装飾が施された布又は布製品、及び、これらの布又は布製品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロース系繊維が酸によって炭化する性質を利用する、オパール加工法が知られている。
オパール加工法は、シルクやナイロンなどの耐酸性繊維と、レーヨンや綿などのセルロース系繊維との交織物に、硫酸を含む酸性の糊(抜蝕剤)で模様を形成し、熱処理を施すことによって糊を付けた部分のセルロース系繊維を炭化させ、この炭化した部分をもみ洗いなどして除去することによって、透かし模様を形成する方法である。
【0003】
上記オパール加工法を利用した種々の布地加工法が提案されている。
例えば、特許文献1では、セルロース系繊維より成る布地の切り抜く部分に抜蝕剤を塗布し、乾燥、加熱処理を施して布地の切り抜き部分を炭化して除去した後、布地の切り抜き部分の周縁に沿って接着剤を塗布し乾燥させる、布地の切り抜き加工方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2では、変性ポリエステル繊維と未変性ポリエステル繊維とから成る繊維布帛であって、変性ポリエステル繊維の完全抜蝕部、部分抜蝕部、及び未抜蝕部にて柄が抜蝕加工されたポリエステル繊維布帛が記載されている。
【0005】
ところで、布に別布で成る装飾布片が固着されて装飾が施される場合、所定形状の装飾布片を被装飾布に固着する方法(方法A)や、被装飾布に所定形状よりも大きな装飾布を固着したのち該装飾布より所定形状の装飾布片を切り抜く方法(方法B)が、行われる。
前記方法Aの場合、単数又は複数の装飾布片を被装飾布に固着するが、特に、模様が複数の装飾布片から成るときには、模様を美麗に形成するために、各装飾布片を高精度に位置合わせしなければならない。
これに対し、方法Bでは、各装飾布片の相互位置がズレないので、各装飾布片の配置に際して精度が要求されないという優位性がある。
しかし、方法Bの場合、被装飾布に装飾布の一部を固着した状態で、装飾布のうち装飾のために不要な部分を手作業で切り除かねばならないために、装飾布片が複雑な形状であったり、装飾が多数の装飾布片で構成されたりする場合においては、作業に手間や時間がかかり、また、切り除かれる部分が一定とならないために、作業者の熟練度により仕上がりに差異が生じてしまうことがあった。
【特許文献1】特開昭61−146891号公報
【特許文献2】特開平6−212581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、固着された単数又は複数の装飾布片にて装飾された布又は布製品の製造方法であって、布に別布で成る装飾布を固着したのち、該装飾布から所定形状の装飾布片に切り抜く方法(上記方法B)を採用する場合に、作業の手間や時間を削減するとともに、美麗に装飾布片に切り抜く技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、第一に、単数又は複数の装飾布片が被装飾布に固着された布又は布製品の製造方法であって、被装飾布の装飾布片が固着されようとする部分に、セルロース系繊維で成る装飾布を、接着又は縫着し、前記装飾布に、該装飾布より抜かれようとする装飾布片の外周形状に沿って抜蝕剤を塗布し、前記装飾布の前記抜蝕剤が塗布された部分を加熱により炭化除去し、前記装飾布を、前記装飾布片を残して前記被装飾布より取り除き、前記装飾布片が接着又は縫着された前記被装飾布の周縁部を水洗するものである。
【0009】
第二に、前記被装飾布と装飾布とを、互いの布目の方向が異なるように配置するものである。
【0010】
第三に、前記被装飾布に、染色剤と防染剤とのうち何れか一方若しくは両方を予め塗布するものである。
【0011】
第四に、被装飾布に装飾布片が接着又は縫着されて成る布又は布製品であって、前記装飾布片は、セルロース系繊維で成る装飾布が前記被装飾布に接着又は縫着された外周形状に沿って、抜蝕剤を塗布したのち加熱して炭化除去することにて、該装飾布より抜き取られたものであり、前記被装飾布と前記装飾布片との互いの布目の方向が異なり、且つ、前記装飾布片の周縁部が水洗されているものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
装飾布片の外周形状に沿って装飾布を抜蝕することによって、該装飾布から装飾布片を切り抜くので、装飾布を裁断する作業を、鋏で個々の装飾布片を切り抜く場合と比較して、簡易化し、作業の手間や時間を削減することができる。また、曲線を含む複雑な形状であっても、所望の通りに装飾布片が切り抜かれるので、該装飾布片にて装飾された布又は布製品を美麗に仕上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、発明の実施の形態を説明する。
本発明に係る布又は布製品の製造方法を説明する以下の実施例では、固着された単数又は複数の布片にて装飾された布製品であるTシャツの製造方法について説明する。
以下、布又は布製品を構成し、布片が固着される側の布を『被装飾布』と記載する。また、前記被装飾布に固着される布片を『装飾布片』とし、該装飾布片は『装飾布』から所定形状に切り抜かれた布片とする。
【0015】
なお、本発明は布又は布製品に適用することができ、該布製品はTシャツに限定されるものではなく、例えば、シャツやズボン、靴下、鞄やハンカチーフなど、広く布製品を含む。
【0016】
また、以下に示す実施例において、前記被装飾布は、レーヨンや綿などのセルロース系繊維で成る編地とする。
但し、前記被装飾布の素材は、シルクやナイロンなどの耐酸性繊維や、耐酸性繊維とセルロース系繊維との混成とすることもできる。そして、被装飾布は、織地、編地、不職布のうち何れであっても構わない。
【0017】
そして、以下に示す実施例において、前記装飾布は、セルロース系繊維で成る編地とする。
但し、装飾布は、織地、編地、不職布のうち何れであっても構わない。
【実施例1】
【0018】
次に、本発明の実施例1について説明する。
図1は実施例1に係るTシャツの構成を示す図、図2は図1における部分拡大図、図3は実施例1に係るTシャツの別構成を示す図、図4は実施例1に係るTシャツの別構成を示す図である。
図5は本発明の実施例1に係る布製品の製造方法の流れを示す図、図6は同じく製造方法を説明する図、図7は布の経方向と緯方向を説明する図、図8は被装飾布と装飾布の接着部の断面図である。
図9は実施例1に係るTシャツの別構成を示す図、図10は図9における部分拡大図である。
【0019】
実施例1では、図1乃至図4に示すように、接着された単数又は複数の装飾布片にて装飾されたTシャツの製造方法について、図5に示す流れ図を用いて説明する。
【0020】
最初に、布又は布製品を構成する被装飾布11に対して、装飾布片12a・12a・・・よりも大きな装飾布12を、該被装飾布11の装飾布片12a・12a・・・が固着されようとする部分において接着する。
このために、先ず、図6(a)に示すように、被装飾布11の、装飾布片12a・12a・・・が固着される位置であって、該装飾布片12a・12a・・・外周形状Lの内側に該当する部位に、接着剤13を塗布する(S1)。
次に、図6(b)に示すように、前記被装飾布11に、前記装飾布片12a・12a・・・が固着される範囲よりも大きい装飾布12を重ね、前記接着剤13にて被装飾布11と装飾布12とを接着する(S2)。
【0021】
前記接着剤13として、一般的に布同士の接着に用いられる接着糊を使用することができる。
また、接着剤13の塗布手法としては、例えば、捺染の手法を採用することができる。捺染の手法には、ローラー捺染、フラットスクリーン捺染、インクジェット捺染などの手工的なものと、機械的なものがあり、何れを採用しても構わない。捺染の手法を採用する場合、各種の捺染機にTシャツ10をセットし、装飾布12で形成しようとする模様Fの形状が抜かれた型(スクリーン)を被装飾布11に押し当てて、接着剤13を印捺する。
【0022】
上述のように、被装飾布11に塗布された接着剤13によって、該被装飾布11と装飾布12とが部分的に接着されるが、装飾布12と被装飾布11とは、被装飾布11の布目の経方向D1(又は緯方向D2)と、装飾布12の布目の経方向D1(又は緯方向D2)とが略直交するように、相互関係が定められたうえで接着される。
【0023】
図7に示すように、本実施例に係るTシャツ10の身頃を構成する被装飾布11は、Tシャツ10の丈方向に経方向D1の編み目が形成され、同じくTシャツ10の幅方向に緯方向D2の編み目が形成されて、布目に経方向D1と緯方向D2とを有する。従って、この被装飾布11に接着される装飾布12は、布目の緯方向D1がTシャツ10の幅方向であって、布目の緯方向D2がTシャツ10の丈方向となるように位置合わせされる。
なお、一般に、編布では布目の経方向D1にやや伸縮し、緯方向D2には経方向D1と比較して大きく伸縮する。
【0024】
続いて、図6(c)に示すように、装飾布12の上から、該装飾布12を抜蝕し得る抜蝕剤14を、該装飾布12より切り抜かれようとする前記装飾布片12a・12a・・・の外周形状Lに沿って外側に塗布する(S3)。
本実施例において、前記抜蝕剤14は、加熱するとセルロース系繊維と反応して該セルロース系繊維を炭化させる薬剤であり、例えば、一般的にオパール加工に使用される硫酸を含む酸性の糊を抜蝕剤14とすることができる。
なお、抜蝕剤14の塗布手法としては、例えば、捺染の手法を採用することができる。
【0025】
このとき、被装飾布11と装飾布12とが重ねられた状態で抜蝕剤14が該装飾布12に塗布され、抜蝕剤14は装飾布12に浸透するが、被装飾布11には浸透しない。
これは、装飾布12と被装飾布11との布目の方向が異なるために、装飾布12を透過して被装飾布11側まで浸出した抜蝕剤14が、被装飾布11には浸透し難い状態が形成されているためと考えられる。
また、図8に示すように、被装飾布11に接着剤13にて接着された装飾布12は、接着剤13が塗布された接着部分と、非接着部分との境界において、布が浮き上がり空気の層が形成される。これにより、装飾布12を透過し被装飾布11側まで浸出した抜蝕剤14が、被装飾布11には浸透し難い状態が形成されているためと考えられる。
【0026】
なお、本実施例では、被装飾布11と装飾布12の布目が略直交するように相互配置されているが、布目が略平行とならない範囲で、被装飾布11と装飾布12の布目の方向を定めることが、上述のように、被装飾布11に抜蝕剤14を浸透させないために有効である。
但し、被装飾布11と装飾布12の布目を略平行となるように相互配置することもできる。この場合には、被装飾布11に抜蝕剤14を浸透させないために、該被装飾布11に予め防染剤を塗布して、防染加工を施すことが望ましい。
【0027】
そして、図6(d)に示すように、装飾布の抜蝕剤が塗布された部分を除去する(S4)。
本実施例においては、必要に応じて抜蝕剤14を乾燥させたうえで、抜蝕剤14を塗布した装飾布12を加熱する作業を行うことにて、装飾布12の抜蝕剤14が塗布された部分を除去する。
装飾布12の加熱に際して、Tシャツ10は捺染機から加熱処理機に移動させる。このとき、被装飾布11と装飾布12の布目の方向が略直交するように配置されていることによって、Tシャツ10の被装飾布11の緯方向D2への伸びが、該被装飾布11に接着された装飾布12により抑制される。これにより、移動に際して被装飾布11と装飾布12とが位置ズレすることを防止して、高精度に装飾布12から装飾布片12a・12a・・・を切り抜き、装飾を美麗に仕上げることに寄与することができる。
【0028】
前記装飾布12を加熱する方法として、被装飾布11と装飾布12とを加熱したプレス板の間に挟んで加熱する方法、熱風により加熱する方法等、公知の加熱方法を採用することができる。
装飾布12の抜蝕剤14が塗布された部分の繊維が、加熱により抜蝕剤14と反応し、炭化して脱落する。これにより、装飾布12より、装飾布片12a・12a・・・の外周形状Lに沿って、該装飾布片12a・12a・・・が切り抜かれ、被装飾布11には装飾布片12a・12a・・・が接着剤13にて接着された状態で残る。
【0029】
装飾布12の装飾布片12a・12a・・・以外の部分は、被装飾布11から装飾布12を引き剥がすことにて取り除くことができる。このとき、被装飾布11と装飾布12の布目が略直交するように相互配置されていることによって、Tシャツ10の被装飾布11の緯方向D2への伸びが、該被装飾布11に接着された装飾布12により抑制される。これにより、装飾布12を被装飾布11より簡易且つ綺麗に引き剥がすことができる。
【0030】
最後に、装飾布片12aの周縁部を洗浄する(S5)。
前述の通り、装飾布片12a・12a・・・とならない装飾布12の多くは、被装飾布11から装飾布12を引き剥がすことにて除去できる。しかし、炭化した繊維を綺麗に除去したり、装飾布片12a・12a・・・の切縁に風合いを出したりするために、洗浄処理を施すことが望ましい。
【0031】
洗浄処理では、装飾布12が水洗されることにより、該装飾布12の炭化部分が除去される。但し、装飾布12の炭化部分の除去については、ブラシで払ったり粘着テープで粘着したりして除去することもできる。
【0032】
なお、装飾布片12a・12a・・・の切縁と、接着剤13による被装飾布11との接着部分の間に、僅かに布を残すように抜蝕剤14を塗布すると、洗浄処理にて装飾布12が水洗されることにより、図6(e)に示すように、模様Fを形成する装飾布12の周縁に多少の解れや巻き上がりが生じ、装飾布片12a・12a・・・により形成される装飾に無造作な風合いを醸し出すことができる。
【0033】
上述のように、装飾布片12a・12a・・・の外周形状Lに沿って該装飾布12を抜蝕することによって、該装飾布12から装飾布片12a・12a・・・を切り抜くので、装飾布12を裁断する作業を、鋏で個々の装飾布片12a・12a・・・を切り抜く場合と比較して、簡易化し、作業の手間や時間を削減することができる。特に、装飾布片12a・12a・・・にて被装飾布11を装飾する場合には、著しく作業時間を短縮できる。
【0034】
また、装飾布12を被装飾布11に接着したうえで、装飾布12から装飾布片12a・12a・・・以外の部分を切除するので、多数の装飾布片12a・12a・・・で被装飾布11を装飾する場合であっても、各装飾布片12aの相対位置合わせが不要となり、作業を簡易化できるとともに、装飾布片12a同士を高精度に位置合わせして、該装飾布片12a・12a・・・にて装飾された布又は布製品を綺麗に仕上げることができる。
【0035】
さらに、抜蝕剤14は装飾布12に自在に塗布することができ、そして、抜蝕剤14が塗布された形状通りに装飾布12を切ることができる。従って、鋏で裁断するよりも高精度に装飾布12を裁断することができ、装飾布片12aが曲線を含む複雑な形状や細密な形状であっても簡易に装飾布12を裁断することができる。また、所望の通りに装飾布片12a・12a・・・が切り抜かれるので、該装飾布片12a・12a・・・にて装飾された布又は布製品を美麗に仕上げることができる。
【0036】
そして、装飾布12より切り抜かれた装飾布片12a・12a・・・の切り縁(切断面)は、鋏などの鋭利な刃物で切断したときのように鋭いものではなく、やや丸みを帯びて、風合いの異なるものとなる。
なお、装飾布12の接着剤13が塗布されている部分は、該接着剤13によって解れないため、他に解れ止めの加工を施す必要はない。
【0037】
上述のようにして、被装飾布11に固着された装飾布12で成る装飾布片12a・12a・・・によって、図1乃至図4に示すような細密な形状の装飾布片12a・12a・・・から成る装飾や、図9や図10に示すようなライン状の装飾布片12a・12a・・・から成る装飾も、簡易且つ高精度(綺麗)に形成することができる。
【0038】
例えば、図1及び図2に示すように、Tシャツ10の身頃を構成する被装飾布11に、流線型の文字形状の装飾布片12a・12a・・・と人型形状の装飾布片12a・12a・・・とが固着された装飾を施すことができる。
また、例えば、図3及び図4に示すように、Tシャツ10の身頃を構成する被装飾布11にロゴを示す文字形状の装飾布片12a・12a・・・とトレードマーク形状の装飾布片12a・12a・・・とが固着された装飾を施すことができる。
さらに、例えば、図9及び図10に示すように、Tシャツ10の身頃を構成する被装飾布11に、複数の線形状の装飾布片12a・12a・・・と椰子の木形状の装飾布片12a・12a・・・とが固着された装飾を施すことができる。
【実施例2】
【0039】
次に、本発明の実施例2について説明する。
図11は本発明の実施例2に係る布製品の製造方法の流れを示す図、図12は同じく製造方法を説明する図である。図13は実施例2に係るTシャツの構成を示す図、図14は図13における部分拡大図、図15は実施例2に係るTシャツの別構成を示す図、図16は実施例2に係るTシャツの別構成を示す図、図17は図16における部分拡大図、図18は実施例2に係るTシャツの別構成を示す図である。
【0040】
実施例2では、Tシャツを構成する被装飾布11に、染色剤と防染剤とのうち何れか一方若しくは両方が予め塗布された被装飾布11に、装飾布片12a・12a・・・が固着された装飾が施されたTシャツの製造方法について、図11に示す流れ図を用いて説明する。
【0041】
先ず、図12(a)に示すように、布製品であるTシャツ10の身頃を構成する被装飾布11に、染色剤と防染剤とのうち何れか一方若しくは両方を塗布する(S20)。
被装飾布11に染色剤又は防染剤を塗布するために、捺染の手法や、スパッタリングの手法を採用することができる。
【0042】
なお、被装飾布11に染色剤を塗布することによって、該被装飾布11に下地模様Faを形成することができる。
また、被装飾布11の装飾布片12a・12a・・・が固着される部分と、染色剤又は防染剤が塗布される部分とは、一部または全部において重複することができる。被装飾布11の、装飾布12に抜蝕剤14が塗布される部分と重複する部位に、染色剤又は防染剤を塗布することによって、被装飾布11に抜蝕剤14を浸透させない状態を形成することができる。従って、この場合、被装飾布11と装飾布12の布目を略平行に配置することができる。
【0043】
次に、前記被装飾布11に対して、前記装飾布片12a・12a・・・よりも大きな装飾布12を、該被装飾布11の装飾布片12a・12a・・・が固着されようとする部分において接着する。
このために、先ず、前記被装飾布11の、装飾布片12a・12a・・・が固着される位置であって、該装飾布片12a・12a・・・の外周形状Lの内側に該当する部位に、接着剤13を塗布する(S21)。そして、前記被装飾布11に、前記装飾布片12a・12a・・・が固着される範囲よりも大きい装飾布12を重ね、前記接着剤13にて被装飾布11と装飾布12とを接着する(S22)。
【0044】
続いて、装飾布12の上から、該装飾布12を抜蝕し得る抜蝕剤14を、該装飾布12より切り抜かれようとする前記装飾布片12a・12a・・・の外周形状Lに沿って外側に塗布する(S23)。
さらに、装飾布の抜蝕剤が塗布された部分を除去する(S24)。
最後に、装飾布片12aの周縁部を洗浄する(S25)。
【0045】
上述の方法によれば、染色剤を塗布する場合には、図12(b)に示すように、予め被装飾布11に形成された下地模様Faと、該被装飾布11に固着された装飾布片12a・12a・・・とが組み合わされた装飾を該被装飾布11に施すことができる。
【0046】
また、図12(c)に示すように、上述のように被装飾布11に固着された装飾布片12a・12a・・・に、さらに、染色剤を塗布して模様Fbを形成することもできる。
装飾布片12a・12a・・・に染色剤を塗布するために、捺染の手法や、スパッタリングの手法を採用することができる。
【0047】
このように、被装飾布11に塗布された染色剤にて形成された模様Faと、被装飾布11に固着された装飾布片12a・12a・・・と、該装飾布片12aに塗布された染色剤にて形成された模様Fbとの、組合せによって、図13乃至図18に示すように、被装飾布11に自在に装飾を施すことができる。
【0048】
例えば、図13及び図14に示すように、Tシャツ10の身頃を構成する被装飾布11に、文字や絵が下地模様Faとして形成されるとともに、文字形状の装飾布片12a・12a・・・が固着された装飾を施すことができる。
また、例えば、図15に示すように、Tシャツ10の身頃を構成する被装飾布11に、文字や絵が下地模様Faとして形成されるとともに、文字形状及び人型形状の装飾布片12a・12a・・・が固着された装飾を施すことができる。
また、例えば、図16及び図17に示すように、Tシャツ10の身頃を構成する被装飾布11に、複数の略平行に配置された線形状の装飾布片12a・12a・・・が固着されるとともに、該装飾布片12a・12aの間に線形状の下地模様Faが形成された装飾を施すことができる。
さらに、例えば、図18に示すように、Tシャツ10の身頃を構成する被装飾布11に、絵が下地模様Faとして形成されたうえに、人型形状及び文字形状の装飾布片12a・12a・・・が固着され、さらに、該装飾布片12aに文字や人の模様Fbが形成された装飾を施すことができる。
【実施例3】
【0049】
次に、本発明の実施例3について説明する。
図19は本発明の実施例3に係る布製品の製造方法の流れを示す図、図20は同じく製造方法を説明する図である。
【0050】
実施例3では、縫合された単数又は複数の装飾布片にて装飾されたTシャツの製造方法について、図19に示す流れ図を用いて説明する。
【0051】
先ず、図20(a)に示すように、布製品であるTシャツ10の身頃を構成する被装飾布11に対して、前記装飾布片12a・12a・・・よりも大きな装飾布12を、該被装飾布11の装飾布片12a・12a・・・が固着されようとする部分において縫着する(S32)。
このとき、前記被装飾布11に、装飾布片12a・12a・・・が固着される範囲よりも大きい装飾布を重ね、前記装飾布片12a・12a・・・の外周形状Lに沿って前記装飾布12と前記被装飾布11とを縫い合わせる。
【0052】
次に、装飾布12の上から、図20(b)に示すように、該装飾布12を抜蝕し得る抜蝕剤14を、該装飾布12より切り抜かれようとする前記装飾布片12a・12a・・・の外周形状Lに沿って外側に塗布する(S33)。
さらに、図20(c)に示すように、装飾布の抜蝕剤が塗布された部分を除去する(S34)。
最後に、装飾布片12aの周縁部を洗浄する(S35)。
【0053】
上述の方法によれば、図20(d)に示すように、縫合された単数又は複数の装飾布片12a・12a・・・にて装飾された布製品であるTシャツを製造することができる。
そして、装飾布片12a・12a・・・の外周形状Lに沿って該装飾布12を抜蝕することによって、該装飾布12から装飾布片12a・12a・・・を切り抜くので、装飾布12を裁断する作業を、鋏で個々の装飾布片12a・12a・・・を切り抜く場合と比較して、簡易化し、作業の手間や時間を削減することができる。特に、装飾布片12a・12a・・・にて被装飾布11を装飾する場合には、著しく作業時間を短縮できる。
【0054】
また、装飾布12を被装飾布11に縫合したうえで、装飾布12から装飾布片12a・12a・・・以外の部分を切除するので、多数の装飾布片12a・12a・・・で被装飾布11を装飾する場合であっても、各装飾布片12aの相対位置合わせが不要となり、作業を簡易化することができ、また、装飾布片12a同士を高精度に位置合わせして、該装飾布片12a・12a・・・にて装飾される布又は布製品を綺麗に仕上げることができる。
【0055】
さらに、抜蝕剤14は装飾布12に自在に塗布することができ、そして、抜蝕剤14が塗布された形状通りに装飾布12を切ることができる。従って、鋏で裁断するよりも高精度に装飾布12を裁断することができ、装飾布片12aが、曲線が多用された複雑な形状や細密な形状であっても簡易に装飾布12を裁断することができる。また、所望の通りに装飾布片12a・12a・・・が切り抜かれるので、該装飾布片12a・12a・・・にて装飾された布又は布製品を美麗に仕上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例1に係るTシャツの構成を示す図。
【図2】図1における部分拡大図。
【図3】実施例1に係るTシャツの別構成を示す図。
【図4】実施例1に係るTシャツの別構成を示す図。
【図5】本発明の実施例1に係る布製品の製造方法の流れを示す図。
【図6】同じく製造方法を説明する図。
【図7】布の経方向と緯方向を説明する図。
【図8】被装飾布と装飾布の接着部の断面図。
【図9】実施例1に係るTシャツの別構成を示す図。
【図10】図9における部分拡大図。
【図11】本発明の実施例2に係る布製品の製造方法の流れを示す図。
【図12】同じく製造方法を説明する図。
【図13】実施例2に係るTシャツの構成を示す図。
【図14】図13における部分拡大図。
【図15】実施例2に係るTシャツの別構成を示す図。
【図16】実施例2に係るTシャツの別構成を示す図。
【図17】図16における部分拡大図。
【図18】実施例2に係るTシャツの別構成を示す図。
【図19】本発明の実施例3に係る布製品の製造方法の流れを示す図。
【図20】同じく製造方法を説明する図。
【符号の説明】
【0057】
10 Tシャツ
11 被装飾布
12 装飾布
12a 装飾布片
13 接着剤
14 抜蝕剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、布に布片が固着されることによって装飾が施された布又は布製品、及び、これらの布又は布製品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロース系繊維が酸によって炭化する性質を利用する、オパール加工法が知られている。
オパール加工法は、シルクやナイロンなどの耐酸性繊維と、レーヨンや綿などのセルロース系繊維との交織物に、硫酸を含む酸性の糊(抜蝕剤)で模様を形成し、熱処理を施すことによって糊を付けた部分のセルロース系繊維を炭化させ、この炭化した部分をもみ洗いなどして除去することによって、透かし模様を形成する方法である。
【0003】
上記オパール加工法を利用した種々の布地加工法が提案されている。
例えば、特許文献1では、セルロース系繊維より成る布地の切り抜く部分に抜蝕剤を塗布し、乾燥、加熱処理を施して布地の切り抜き部分を炭化して除去した後、布地の切り抜き部分の周縁に沿って接着剤を塗布し乾燥させる、布地の切り抜き加工方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2では、変性ポリエステル繊維と未変性ポリエステル繊維とから成る繊維布帛であって、変性ポリエステル繊維の完全抜蝕部、部分抜蝕部、及び未抜蝕部にて柄が抜蝕加工されたポリエステル繊維布帛が記載されている。
【0005】
ところで、布に別布で成る装飾布片が固着されて装飾が施される場合、所定形状の装飾布片を被装飾布に固着する方法(方法A)や、被装飾布に所定形状よりも大きな装飾布を固着したのち該装飾布より所定形状の装飾布片を切り抜く方法(方法B)が、行われる。
前記方法Aの場合、単数又は複数の装飾布片を被装飾布に固着するが、特に、模様が複数の装飾布片から成るときには、模様を美麗に形成するために、各装飾布片を高精度に位置合わせしなければならない。
これに対し、方法Bでは、各装飾布片の相互位置がズレないので、各装飾布片の配置に際して精度が要求されないという優位性がある。
しかし、方法Bの場合、被装飾布に装飾布の一部を固着した状態で、装飾布のうち装飾のために不要な部分を手作業で切り除かねばならないために、装飾布片が複雑な形状であったり、装飾が多数の装飾布片で構成されたりする場合においては、作業に手間や時間がかかり、また、切り除かれる部分が一定とならないために、作業者の熟練度により仕上がりに差異が生じてしまうことがあった。
【特許文献1】特開昭61−146891号公報
【特許文献2】特開平6−212581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、固着された単数又は複数の装飾布片にて装飾された布又は布製品の製造方法であって、布に別布で成る装飾布を固着したのち、該装飾布から所定形状の装飾布片に切り抜く方法(上記方法B)を採用する場合に、作業の手間や時間を削減するとともに、美麗に装飾布片に切り抜く技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、第一に、単数又は複数の装飾布片が被装飾布に固着された布又は布製品の製造方法であって、被装飾布の装飾布片が固着されようとする部分に、セルロース系繊維で成る装飾布を、接着又は縫着し、前記装飾布に、該装飾布より抜かれようとする装飾布片の外周形状に沿って抜蝕剤を塗布し、前記装飾布の前記抜蝕剤が塗布された部分を加熱により炭化除去し、前記装飾布を、前記装飾布片を残して前記被装飾布より取り除き、前記装飾布片が接着又は縫着された前記被装飾布の周縁部を水洗するものである。
【0009】
第二に、前記被装飾布と装飾布とを、互いの布目の方向が異なるように配置するものである。
【0010】
第三に、前記被装飾布に、染色剤と防染剤とのうち何れか一方若しくは両方を予め塗布するものである。
【0011】
第四に、被装飾布に装飾布片が接着又は縫着されて成る布又は布製品であって、前記装飾布片は、セルロース系繊維で成る装飾布が前記被装飾布に接着又は縫着された外周形状に沿って、抜蝕剤を塗布したのち加熱して炭化除去することにて、該装飾布より抜き取られたものであり、前記被装飾布と前記装飾布片との互いの布目の方向が異なり、且つ、前記装飾布片の周縁部が水洗されているものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
装飾布片の外周形状に沿って装飾布を抜蝕することによって、該装飾布から装飾布片を切り抜くので、装飾布を裁断する作業を、鋏で個々の装飾布片を切り抜く場合と比較して、簡易化し、作業の手間や時間を削減することができる。また、曲線を含む複雑な形状であっても、所望の通りに装飾布片が切り抜かれるので、該装飾布片にて装飾された布又は布製品を美麗に仕上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、発明の実施の形態を説明する。
本発明に係る布又は布製品の製造方法を説明する以下の実施例では、固着された単数又は複数の布片にて装飾された布製品であるTシャツの製造方法について説明する。
以下、布又は布製品を構成し、布片が固着される側の布を『被装飾布』と記載する。また、前記被装飾布に固着される布片を『装飾布片』とし、該装飾布片は『装飾布』から所定形状に切り抜かれた布片とする。
【0015】
なお、本発明は布又は布製品に適用することができ、該布製品はTシャツに限定されるものではなく、例えば、シャツやズボン、靴下、鞄やハンカチーフなど、広く布製品を含む。
【0016】
また、以下に示す実施例において、前記被装飾布は、レーヨンや綿などのセルロース系繊維で成る編地とする。
但し、前記被装飾布の素材は、シルクやナイロンなどの耐酸性繊維や、耐酸性繊維とセルロース系繊維との混成とすることもできる。そして、被装飾布は、織地、編地、不職布のうち何れであっても構わない。
【0017】
そして、以下に示す実施例において、前記装飾布は、セルロース系繊維で成る編地とする。
但し、装飾布は、織地、編地、不職布のうち何れであっても構わない。
【実施例1】
【0018】
次に、本発明の実施例1について説明する。
図1は実施例1に係るTシャツの構成を示す図、図2は図1における部分拡大図、図3は実施例1に係るTシャツの別構成を示す図、図4は実施例1に係るTシャツの別構成を示す図である。
図5は本発明の実施例1に係る布製品の製造方法の流れを示す図、図6は同じく製造方法を説明する図、図7は布の経方向と緯方向を説明する図、図8は被装飾布と装飾布の接着部の断面図である。
図9は実施例1に係るTシャツの別構成を示す図、図10は図9における部分拡大図である。
【0019】
実施例1では、図1乃至図4に示すように、接着された単数又は複数の装飾布片にて装飾されたTシャツの製造方法について、図5に示す流れ図を用いて説明する。
【0020】
最初に、布又は布製品を構成する被装飾布11に対して、装飾布片12a・12a・・・よりも大きな装飾布12を、該被装飾布11の装飾布片12a・12a・・・が固着されようとする部分において接着する。
このために、先ず、図6(a)に示すように、被装飾布11の、装飾布片12a・12a・・・が固着される位置であって、該装飾布片12a・12a・・・外周形状Lの内側に該当する部位に、接着剤13を塗布する(S1)。
次に、図6(b)に示すように、前記被装飾布11に、前記装飾布片12a・12a・・・が固着される範囲よりも大きい装飾布12を重ね、前記接着剤13にて被装飾布11と装飾布12とを接着する(S2)。
【0021】
前記接着剤13として、一般的に布同士の接着に用いられる接着糊を使用することができる。
また、接着剤13の塗布手法としては、例えば、捺染の手法を採用することができる。捺染の手法には、ローラー捺染、フラットスクリーン捺染、インクジェット捺染などの手工的なものと、機械的なものがあり、何れを採用しても構わない。捺染の手法を採用する場合、各種の捺染機にTシャツ10をセットし、装飾布12で形成しようとする模様Fの形状が抜かれた型(スクリーン)を被装飾布11に押し当てて、接着剤13を印捺する。
【0022】
上述のように、被装飾布11に塗布された接着剤13によって、該被装飾布11と装飾布12とが部分的に接着されるが、装飾布12と被装飾布11とは、被装飾布11の布目の経方向D1(又は緯方向D2)と、装飾布12の布目の経方向D1(又は緯方向D2)とが略直交するように、相互関係が定められたうえで接着される。
【0023】
図7に示すように、本実施例に係るTシャツ10の身頃を構成する被装飾布11は、Tシャツ10の丈方向に経方向D1の編み目が形成され、同じくTシャツ10の幅方向に緯方向D2の編み目が形成されて、布目に経方向D1と緯方向D2とを有する。従って、この被装飾布11に接着される装飾布12は、布目の緯方向D1がTシャツ10の幅方向であって、布目の緯方向D2がTシャツ10の丈方向となるように位置合わせされる。
なお、一般に、編布では布目の経方向D1にやや伸縮し、緯方向D2には経方向D1と比較して大きく伸縮する。
【0024】
続いて、図6(c)に示すように、装飾布12の上から、該装飾布12を抜蝕し得る抜蝕剤14を、該装飾布12より切り抜かれようとする前記装飾布片12a・12a・・・の外周形状Lに沿って外側に塗布する(S3)。
本実施例において、前記抜蝕剤14は、加熱するとセルロース系繊維と反応して該セルロース系繊維を炭化させる薬剤であり、例えば、一般的にオパール加工に使用される硫酸を含む酸性の糊を抜蝕剤14とすることができる。
なお、抜蝕剤14の塗布手法としては、例えば、捺染の手法を採用することができる。
【0025】
このとき、被装飾布11と装飾布12とが重ねられた状態で抜蝕剤14が該装飾布12に塗布され、抜蝕剤14は装飾布12に浸透するが、被装飾布11には浸透しない。
これは、装飾布12と被装飾布11との布目の方向が異なるために、装飾布12を透過して被装飾布11側まで浸出した抜蝕剤14が、被装飾布11には浸透し難い状態が形成されているためと考えられる。
また、図8に示すように、被装飾布11に接着剤13にて接着された装飾布12は、接着剤13が塗布された接着部分と、非接着部分との境界において、布が浮き上がり空気の層が形成される。これにより、装飾布12を透過し被装飾布11側まで浸出した抜蝕剤14が、被装飾布11には浸透し難い状態が形成されているためと考えられる。
【0026】
なお、本実施例では、被装飾布11と装飾布12の布目が略直交するように相互配置されているが、布目が略平行とならない範囲で、被装飾布11と装飾布12の布目の方向を定めることが、上述のように、被装飾布11に抜蝕剤14を浸透させないために有効である。
但し、被装飾布11と装飾布12の布目を略平行となるように相互配置することもできる。この場合には、被装飾布11に抜蝕剤14を浸透させないために、該被装飾布11に予め防染剤を塗布して、防染加工を施すことが望ましい。
【0027】
そして、図6(d)に示すように、装飾布の抜蝕剤が塗布された部分を除去する(S4)。
本実施例においては、必要に応じて抜蝕剤14を乾燥させたうえで、抜蝕剤14を塗布した装飾布12を加熱する作業を行うことにて、装飾布12の抜蝕剤14が塗布された部分を除去する。
装飾布12の加熱に際して、Tシャツ10は捺染機から加熱処理機に移動させる。このとき、被装飾布11と装飾布12の布目の方向が略直交するように配置されていることによって、Tシャツ10の被装飾布11の緯方向D2への伸びが、該被装飾布11に接着された装飾布12により抑制される。これにより、移動に際して被装飾布11と装飾布12とが位置ズレすることを防止して、高精度に装飾布12から装飾布片12a・12a・・・を切り抜き、装飾を美麗に仕上げることに寄与することができる。
【0028】
前記装飾布12を加熱する方法として、被装飾布11と装飾布12とを加熱したプレス板の間に挟んで加熱する方法、熱風により加熱する方法等、公知の加熱方法を採用することができる。
装飾布12の抜蝕剤14が塗布された部分の繊維が、加熱により抜蝕剤14と反応し、炭化して脱落する。これにより、装飾布12より、装飾布片12a・12a・・・の外周形状Lに沿って、該装飾布片12a・12a・・・が切り抜かれ、被装飾布11には装飾布片12a・12a・・・が接着剤13にて接着された状態で残る。
【0029】
装飾布12の装飾布片12a・12a・・・以外の部分は、被装飾布11から装飾布12を引き剥がすことにて取り除くことができる。このとき、被装飾布11と装飾布12の布目が略直交するように相互配置されていることによって、Tシャツ10の被装飾布11の緯方向D2への伸びが、該被装飾布11に接着された装飾布12により抑制される。これにより、装飾布12を被装飾布11より簡易且つ綺麗に引き剥がすことができる。
【0030】
最後に、装飾布片12aの周縁部を洗浄する(S5)。
前述の通り、装飾布片12a・12a・・・とならない装飾布12の多くは、被装飾布11から装飾布12を引き剥がすことにて除去できる。しかし、炭化した繊維を綺麗に除去したり、装飾布片12a・12a・・・の切縁に風合いを出したりするために、洗浄処理を施すことが望ましい。
【0031】
洗浄処理では、装飾布12が水洗されることにより、該装飾布12の炭化部分が除去される。但し、装飾布12の炭化部分の除去については、ブラシで払ったり粘着テープで粘着したりして除去することもできる。
【0032】
なお、装飾布片12a・12a・・・の切縁と、接着剤13による被装飾布11との接着部分の間に、僅かに布を残すように抜蝕剤14を塗布すると、洗浄処理にて装飾布12が水洗されることにより、図6(e)に示すように、模様Fを形成する装飾布12の周縁に多少の解れや巻き上がりが生じ、装飾布片12a・12a・・・により形成される装飾に無造作な風合いを醸し出すことができる。
【0033】
上述のように、装飾布片12a・12a・・・の外周形状Lに沿って該装飾布12を抜蝕することによって、該装飾布12から装飾布片12a・12a・・・を切り抜くので、装飾布12を裁断する作業を、鋏で個々の装飾布片12a・12a・・・を切り抜く場合と比較して、簡易化し、作業の手間や時間を削減することができる。特に、装飾布片12a・12a・・・にて被装飾布11を装飾する場合には、著しく作業時間を短縮できる。
【0034】
また、装飾布12を被装飾布11に接着したうえで、装飾布12から装飾布片12a・12a・・・以外の部分を切除するので、多数の装飾布片12a・12a・・・で被装飾布11を装飾する場合であっても、各装飾布片12aの相対位置合わせが不要となり、作業を簡易化できるとともに、装飾布片12a同士を高精度に位置合わせして、該装飾布片12a・12a・・・にて装飾された布又は布製品を綺麗に仕上げることができる。
【0035】
さらに、抜蝕剤14は装飾布12に自在に塗布することができ、そして、抜蝕剤14が塗布された形状通りに装飾布12を切ることができる。従って、鋏で裁断するよりも高精度に装飾布12を裁断することができ、装飾布片12aが曲線を含む複雑な形状や細密な形状であっても簡易に装飾布12を裁断することができる。また、所望の通りに装飾布片12a・12a・・・が切り抜かれるので、該装飾布片12a・12a・・・にて装飾された布又は布製品を美麗に仕上げることができる。
【0036】
そして、装飾布12より切り抜かれた装飾布片12a・12a・・・の切り縁(切断面)は、鋏などの鋭利な刃物で切断したときのように鋭いものではなく、やや丸みを帯びて、風合いの異なるものとなる。
なお、装飾布12の接着剤13が塗布されている部分は、該接着剤13によって解れないため、他に解れ止めの加工を施す必要はない。
【0037】
上述のようにして、被装飾布11に固着された装飾布12で成る装飾布片12a・12a・・・によって、図1乃至図4に示すような細密な形状の装飾布片12a・12a・・・から成る装飾や、図9や図10に示すようなライン状の装飾布片12a・12a・・・から成る装飾も、簡易且つ高精度(綺麗)に形成することができる。
【0038】
例えば、図1及び図2に示すように、Tシャツ10の身頃を構成する被装飾布11に、流線型の文字形状の装飾布片12a・12a・・・と人型形状の装飾布片12a・12a・・・とが固着された装飾を施すことができる。
また、例えば、図3及び図4に示すように、Tシャツ10の身頃を構成する被装飾布11にロゴを示す文字形状の装飾布片12a・12a・・・とトレードマーク形状の装飾布片12a・12a・・・とが固着された装飾を施すことができる。
さらに、例えば、図9及び図10に示すように、Tシャツ10の身頃を構成する被装飾布11に、複数の線形状の装飾布片12a・12a・・・と椰子の木形状の装飾布片12a・12a・・・とが固着された装飾を施すことができる。
【実施例2】
【0039】
次に、本発明の実施例2について説明する。
図11は本発明の実施例2に係る布製品の製造方法の流れを示す図、図12は同じく製造方法を説明する図である。図13は実施例2に係るTシャツの構成を示す図、図14は図13における部分拡大図、図15は実施例2に係るTシャツの別構成を示す図、図16は実施例2に係るTシャツの別構成を示す図、図17は図16における部分拡大図、図18は実施例2に係るTシャツの別構成を示す図である。
【0040】
実施例2では、Tシャツを構成する被装飾布11に、染色剤と防染剤とのうち何れか一方若しくは両方が予め塗布された被装飾布11に、装飾布片12a・12a・・・が固着された装飾が施されたTシャツの製造方法について、図11に示す流れ図を用いて説明する。
【0041】
先ず、図12(a)に示すように、布製品であるTシャツ10の身頃を構成する被装飾布11に、染色剤と防染剤とのうち何れか一方若しくは両方を塗布する(S20)。
被装飾布11に染色剤又は防染剤を塗布するために、捺染の手法や、スパッタリングの手法を採用することができる。
【0042】
なお、被装飾布11に染色剤を塗布することによって、該被装飾布11に下地模様Faを形成することができる。
また、被装飾布11の装飾布片12a・12a・・・が固着される部分と、染色剤又は防染剤が塗布される部分とは、一部または全部において重複することができる。被装飾布11の、装飾布12に抜蝕剤14が塗布される部分と重複する部位に、染色剤又は防染剤を塗布することによって、被装飾布11に抜蝕剤14を浸透させない状態を形成することができる。従って、この場合、被装飾布11と装飾布12の布目を略平行に配置することができる。
【0043】
次に、前記被装飾布11に対して、前記装飾布片12a・12a・・・よりも大きな装飾布12を、該被装飾布11の装飾布片12a・12a・・・が固着されようとする部分において接着する。
このために、先ず、前記被装飾布11の、装飾布片12a・12a・・・が固着される位置であって、該装飾布片12a・12a・・・の外周形状Lの内側に該当する部位に、接着剤13を塗布する(S21)。そして、前記被装飾布11に、前記装飾布片12a・12a・・・が固着される範囲よりも大きい装飾布12を重ね、前記接着剤13にて被装飾布11と装飾布12とを接着する(S22)。
【0044】
続いて、装飾布12の上から、該装飾布12を抜蝕し得る抜蝕剤14を、該装飾布12より切り抜かれようとする前記装飾布片12a・12a・・・の外周形状Lに沿って外側に塗布する(S23)。
さらに、装飾布の抜蝕剤が塗布された部分を除去する(S24)。
最後に、装飾布片12aの周縁部を洗浄する(S25)。
【0045】
上述の方法によれば、染色剤を塗布する場合には、図12(b)に示すように、予め被装飾布11に形成された下地模様Faと、該被装飾布11に固着された装飾布片12a・12a・・・とが組み合わされた装飾を該被装飾布11に施すことができる。
【0046】
また、図12(c)に示すように、上述のように被装飾布11に固着された装飾布片12a・12a・・・に、さらに、染色剤を塗布して模様Fbを形成することもできる。
装飾布片12a・12a・・・に染色剤を塗布するために、捺染の手法や、スパッタリングの手法を採用することができる。
【0047】
このように、被装飾布11に塗布された染色剤にて形成された模様Faと、被装飾布11に固着された装飾布片12a・12a・・・と、該装飾布片12aに塗布された染色剤にて形成された模様Fbとの、組合せによって、図13乃至図18に示すように、被装飾布11に自在に装飾を施すことができる。
【0048】
例えば、図13及び図14に示すように、Tシャツ10の身頃を構成する被装飾布11に、文字や絵が下地模様Faとして形成されるとともに、文字形状の装飾布片12a・12a・・・が固着された装飾を施すことができる。
また、例えば、図15に示すように、Tシャツ10の身頃を構成する被装飾布11に、文字や絵が下地模様Faとして形成されるとともに、文字形状及び人型形状の装飾布片12a・12a・・・が固着された装飾を施すことができる。
また、例えば、図16及び図17に示すように、Tシャツ10の身頃を構成する被装飾布11に、複数の略平行に配置された線形状の装飾布片12a・12a・・・が固着されるとともに、該装飾布片12a・12aの間に線形状の下地模様Faが形成された装飾を施すことができる。
さらに、例えば、図18に示すように、Tシャツ10の身頃を構成する被装飾布11に、絵が下地模様Faとして形成されたうえに、人型形状及び文字形状の装飾布片12a・12a・・・が固着され、さらに、該装飾布片12aに文字や人の模様Fbが形成された装飾を施すことができる。
【実施例3】
【0049】
次に、本発明の実施例3について説明する。
図19は本発明の実施例3に係る布製品の製造方法の流れを示す図、図20は同じく製造方法を説明する図である。
【0050】
実施例3では、縫合された単数又は複数の装飾布片にて装飾されたTシャツの製造方法について、図19に示す流れ図を用いて説明する。
【0051】
先ず、図20(a)に示すように、布製品であるTシャツ10の身頃を構成する被装飾布11に対して、前記装飾布片12a・12a・・・よりも大きな装飾布12を、該被装飾布11の装飾布片12a・12a・・・が固着されようとする部分において縫着する(S32)。
このとき、前記被装飾布11に、装飾布片12a・12a・・・が固着される範囲よりも大きい装飾布を重ね、前記装飾布片12a・12a・・・の外周形状Lに沿って前記装飾布12と前記被装飾布11とを縫い合わせる。
【0052】
次に、装飾布12の上から、図20(b)に示すように、該装飾布12を抜蝕し得る抜蝕剤14を、該装飾布12より切り抜かれようとする前記装飾布片12a・12a・・・の外周形状Lに沿って外側に塗布する(S33)。
さらに、図20(c)に示すように、装飾布の抜蝕剤が塗布された部分を除去する(S34)。
最後に、装飾布片12aの周縁部を洗浄する(S35)。
【0053】
上述の方法によれば、図20(d)に示すように、縫合された単数又は複数の装飾布片12a・12a・・・にて装飾された布製品であるTシャツを製造することができる。
そして、装飾布片12a・12a・・・の外周形状Lに沿って該装飾布12を抜蝕することによって、該装飾布12から装飾布片12a・12a・・・を切り抜くので、装飾布12を裁断する作業を、鋏で個々の装飾布片12a・12a・・・を切り抜く場合と比較して、簡易化し、作業の手間や時間を削減することができる。特に、装飾布片12a・12a・・・にて被装飾布11を装飾する場合には、著しく作業時間を短縮できる。
【0054】
また、装飾布12を被装飾布11に縫合したうえで、装飾布12から装飾布片12a・12a・・・以外の部分を切除するので、多数の装飾布片12a・12a・・・で被装飾布11を装飾する場合であっても、各装飾布片12aの相対位置合わせが不要となり、作業を簡易化することができ、また、装飾布片12a同士を高精度に位置合わせして、該装飾布片12a・12a・・・にて装飾される布又は布製品を綺麗に仕上げることができる。
【0055】
さらに、抜蝕剤14は装飾布12に自在に塗布することができ、そして、抜蝕剤14が塗布された形状通りに装飾布12を切ることができる。従って、鋏で裁断するよりも高精度に装飾布12を裁断することができ、装飾布片12aが、曲線が多用された複雑な形状や細密な形状であっても簡易に装飾布12を裁断することができる。また、所望の通りに装飾布片12a・12a・・・が切り抜かれるので、該装飾布片12a・12a・・・にて装飾された布又は布製品を美麗に仕上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例1に係るTシャツの構成を示す図。
【図2】図1における部分拡大図。
【図3】実施例1に係るTシャツの別構成を示す図。
【図4】実施例1に係るTシャツの別構成を示す図。
【図5】本発明の実施例1に係る布製品の製造方法の流れを示す図。
【図6】同じく製造方法を説明する図。
【図7】布の経方向と緯方向を説明する図。
【図8】被装飾布と装飾布の接着部の断面図。
【図9】実施例1に係るTシャツの別構成を示す図。
【図10】図9における部分拡大図。
【図11】本発明の実施例2に係る布製品の製造方法の流れを示す図。
【図12】同じく製造方法を説明する図。
【図13】実施例2に係るTシャツの構成を示す図。
【図14】図13における部分拡大図。
【図15】実施例2に係るTシャツの別構成を示す図。
【図16】実施例2に係るTシャツの別構成を示す図。
【図17】図16における部分拡大図。
【図18】実施例2に係るTシャツの別構成を示す図。
【図19】本発明の実施例3に係る布製品の製造方法の流れを示す図。
【図20】同じく製造方法を説明する図。
【符号の説明】
【0057】
10 Tシャツ
11 被装飾布
12 装飾布
12a 装飾布片
13 接着剤
14 抜蝕剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単数又は複数の装飾布片が被装飾布に固着された布又は布製品の製造方法であって、
被装飾布の装飾布片が固着されようとする部分に、セルロース系繊維で成る装飾布を、接着又は縫着し、
前記装飾布に、該装飾布より抜かれようとする装飾布片の外周形状に沿って抜蝕剤を塗布し、
前記装飾布の前記抜蝕剤が塗布された部分を加熱により炭化除去し、
前記装飾布を、前記装飾布片を残して前記被装飾布より取り除き、
前記装飾布片が接着又は縫着された前記被装飾布の周縁部を水洗することを特徴とする布又は布製品の製造方法。
【請求項2】
前記被装飾布と装飾布とを、互いの布目の方向が異なるように配置することを特徴とする、請求項1に記載の布又は布製品の製造方法。
【請求項1】
単数又は複数の装飾布片が被装飾布に固着された布又は布製品の製造方法であって、
被装飾布の装飾布片が固着されようとする部分に、セルロース系繊維で成る装飾布を、接着又は縫着し、
前記装飾布に、該装飾布より抜かれようとする装飾布片の外周形状に沿って抜蝕剤を塗布し、
前記装飾布の前記抜蝕剤が塗布された部分を加熱により炭化除去し、
前記装飾布を、前記装飾布片を残して前記被装飾布より取り除き、
前記装飾布片が接着又は縫着された前記被装飾布の周縁部を水洗することを特徴とする布又は布製品の製造方法。
【請求項2】
前記被装飾布と装飾布とを、互いの布目の方向が異なるように配置することを特徴とする、請求項1に記載の布又は布製品の製造方法。
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図19】
【図20】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図19】
【図20】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2007−169864(P2007−169864A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−144512(P2006−144512)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【分割の表示】特願2005−370654(P2005−370654)の分割
【原出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(399088474)シー・コム株式会社 (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【分割の表示】特願2005−370654(P2005−370654)の分割
【原出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(399088474)シー・コム株式会社 (8)
【Fターム(参考)】
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