説明

布帛のグリップ力を評価する方法および装置

【課題】布帛のグリップ力を簡易的に評価する方法および装置を提供する。
【解決手段】回転および/または移動可能なシャフトを、布帛を介して手で把持し、電動方式により前記シャフトを回転および/または移動させた際に手にかかる負荷により布帛のグリップ力を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛のグリップ力を簡易的に評価する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴルフクラブやテニスラケットなどの対象物体に対するグリップ力に優れた布帛や繊維製品が求められている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、グリップ力は、単に対象物体と布帛との摩擦だけでなく、布帛と皮膚との摩擦にも影響されるため、グリップ力を評価する方法が困難であった。このため、実際に布帛や繊維製品を用いてゴルフやテニスなどの運動を行い、官能評価をしていた。
【0003】
他方、布帛表面の特性を評価する方法が種々提案されているが、単に布帛表面の摩擦特性を評価するだけのものであり、布帛のグリップ力を評価するものではなかった(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−68012号公報
【特許文献2】特開平9−195172号公報
【特許文献3】特開昭63−45534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、布帛のグリップ力を簡易的に評価する方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、電動方式により回転および/または移動可能なシャフトを、布帛を介して手で把持し、前記シャフトを回転および/または移動させることにより布帛のグリップ力を評価することができることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「回転および/または移動可能なシャフトを、布帛を介して手で把持し、電動方式により前記シャフトを回転および/または移動させた際に手にかかる負荷により布帛のグリップ力を評価することを特徴とする布帛のグリップ力を評価する方法。」が提供される。
【0008】
その際、前記布帛を用いてグローブを縫製した後、該グローブを介して、前記シャフトを手で把持することが好ましい。また、電動方式により前記シャフトを回転および/または移動させた際に発生する、手または前腕を構成する筋肉の筋電図により布帛のグリップ力を評価することが好ましい。また、 前記シャフトがサーボモーターにより回転および/または移動可能であることが好ましい。また、前記サーボモーターに受信機が取り付けられており、前記サーボモーターが該受信機を介して無線送信機により制御可能であることが好ましい。また、前記サーボモーターが制御マイコンシステムに接続され、動作周期または動作角または動作速度が制御可能であることが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、「請求項1〜6のいずれかに記載の布帛のグリップ力を評価する方法に用いられる装置であって、シャフト10と、該シャフト10を回転させるためのシャフト回転用モーター11と、前記シャフト10およびシャフト回転用モーター11を保持するためのブラケット7と、該ブラケット7に連結してなるスライド部材12と、該スライド部材12をスライドさせるためのクランクアーム3と、該クランクアーム3を回転させるためのクランクアーム駆動用モーター1とを備えており、前記シャフト10が前記シャフト回転用モーター11により回転可能であり、かつ該シャフト10が前記クランクアーム駆動用モーター1により移動可能であることを特徴とする装置。」が提供される。
その際、前記シャフト10がモーター11に、シャフト固定具9および弾性体8を介して取り付けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、布帛のグリップ力を簡易的に評価する方法および装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る、布帛のグリップ力を評価する方法に用いられる装置を模式的に示す図である。
【図2】布帛のグリップ力を評価する方法に用いられる装置において、スライド部材12とピン4との嵌合状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明において、回転および/または移動可能なシャフトを、布帛を介して手で把持し、電動方式により前記シャフトを回転および/または移動させた際、当該回転および/または移動を制止しようとする手にかかる負荷により、布帛のグリップ力を評価する。
ここで、前記回転にはシャフトの長軸を中心にした回転や、シャフトの1点を支点にした回転が含まれる。また、前記移動には、シャフトの長軸方向への平行移動、シャフトの長軸方向とは垂直方向への平行移動が含まれる。
【0013】
前記シャフトは、ゴルフクラブやテニスラケットなどの対象物体を模するものであり、その断面の径としては、外接円の直径が5〜100mm(より好ましくは20〜50mm)の範囲内であることが好ましい。該径が5mmよりも小さいと、布帛を介して手でシャフトを把持する際に把持が困難になるおそれがある。逆に、該径が100mmよりも大きい場合も、布帛を介して手でシャフトを把持する際に把持が困難になるおそれがある。
【0014】
また、前記シャフトにおいて、その断面形状は円形(特に好ましくは円環状)であることが好ましいが、正方形、長方形、三角形など模する対象物体に応じて適宜選定するとよい。
前記シャフトの材質は特に限定されず、ステンレスやアルミなどの金属や、塩ビやアクリルなどの樹脂、カーボンファイバーや合成繊維などの繊維と金属や樹脂との複合物(例えば、FRPやFRMなど)などいずれでもよい。さらには、ゴルフクラブやテニスラケットのように、シャフトの周囲にゴム材料やテープなどを被覆してもよい。もちろん、ゴルフクラブやテニスラケットを適宜所定長さに長さに切断した後用いてもよい。
【0015】
前記シャフトは、電動方式により回転および/または移動可能(好ましくは回転および移動が可能)であることが肝要である。電動方式により前記シャフトを回転および/または移動させることにより、手にかかる負荷を測定することが可能となる。
その際、前記シャフトがサーボモーターにより回転および/または移動可能であることが好ましい。また、前記サーボモーターが受信機を介して無線送信機により遠隔操作で制御可能であることが好ましい。また、前記サーボモーターが制御マイコンシステムに接続され、動作周期または動作角または動作速度が制御可能であることが好ましい。
【0016】
また、前記シャフトを、布帛を介して手で把持し拘束する際、布帛をシャフトに巻きつけてもよいが、該布帛を用いて、布帛が手掌の部位に位置するようグローブを縫製した後、該グローブを着用してシャフトを把持すると、より実際に近いグリップ力を評価することができ好ましい。
【0017】
本発明において、電動方式によりシャフトを回転および/または移動させる際に、手にかかる負荷により布帛のグリップ力を評価する。例えば、布帛がすべりやすく小さなグリップ力を有する布帛であれば、手にかかる負荷が大きくなる。逆に、布帛がすべりにくく大きなグリップ力を有する布帛であれば、手にかかる負荷が小さくなる。このように、手にかかる負荷により布帛のグリップ力を測定することが可能となる。
【0018】
その際、手の官能評価により、滑り感、ズレ感、フィット感、なじみ感、握りやすさなどを評価してもよいが、より定量的に評価するため、手または前腕を構成する筋肉の筋電図を測定することが好ましい。筋電図を測定する部位としては、例えば、短小指屈筋、第一背側骨間筋、尺側手根伸筋、浅指屈筋などが好適に例示される。
【0019】
また、布帛のグリップ力は、手掌にかいた汗によっても影響を受けるため、手掌の水分率を市販の肌水分測定器(例えば、スカラ社製MY−808S)で測定することが好ましい。
また、布帛のグリップ力をより客観的に評価する上で、布帛のグリップ力を評価する際、同一の試験者が評価することが好ましい。さらには、試験者の手にかえてロボットの手またはそれに相当する装置を用いてもよい。
【0020】
本発明において、電動方式によりシャフトを回転および/または移動させる際に用いる装置は限定されないが、下記の装置を用いることが好ましい。すなわち、図1に模式的に示す、シャフト10と、該シャフト10を回転させるためのシャフト回転用モーター11と、前記シャフト10およびシャフト回転用モーター11を保持するためのブラケット7と、該ブラケット7に連結してなるスライド部材12と、該スライド部材12をスライドさせるためのクランクアーム3と、該クランクアーム3を回転させるためのクランクアーム駆動用モーター1とを備えており、
前記シャフト10が前記シャフト回転用モーター11により回転可能であり、かつ該シャフト10が前記クランクアーム駆動用モーター1により移動可能であることを特徴とする装置である。
【0021】
以下、図1を用いて該装置を詳細に説明する。まず、クランクアーム駆動用モーター1はモーター取付台2に固定されており、該クランクアーム駆動用モーター1にはクランクアーム3が取り付けられている。
【0022】
ここで、前記クランクアーム駆動用モーター1はサーボモーターであることが好ましい。また、該サーボモーターが受信機を介して無線送信機により遠隔操作で制御可能であることが好ましい。また、該サーボモーターが制御マイコンシステムに接続され、動作周期または動作角または動作速度が制御可能であることが好ましい。
【0023】
また、該クランクアーム3には摺動ピン4が取り付けられている。該摺動ピン4は、図2に示すように、スライド部材12に穿孔された長孔(長軸が上下方向)に嵌合しており、該長孔内を摺動する。そして、その駆動により、スライド部材12はスライドガイドに沿ってスライドする。
【0024】
また、前記スライド部材12には、ブラケット7がボルトにより取り付けられている。ブラケット7の取り付け角度は任意に設定可能である。また、該前記スライド部材12にはシャフト回転用モーター11が固定されている。そして、該シャフト回転用モーター11には、弾性体(ゴム)8が取り付けられ、該弾性体(ゴム)8にはシャフト固定具9が取り付けられている。そして、該シャフト固定具9にはシャフト10が取り付けられている。
【0025】
ここで、前記シャフト回転用モーター11はサーボモーターであることが好ましい。また、該サーボモーターが受信機を介して無線送信機により遠隔操作で制御可能であることが好ましい。また、該サーボモーターが制御マイコンシステムに接続され、動作周期または動作角または動作速度が制御可能であることが好ましい。
【0026】
また、前記シャフト固定具9は、シャフト回転用モーター11に直接取り付けてもよいが、弾性体(ゴム)8を介して取り付けると、シャフト10に弾性を付与することができるので、より実際の運動に近い条件で布帛のグリップ力を評価することができ好ましい。
また、シャフト固定具9は、シャフト10の脱着を容易にする上で、例えば半割方式を採用することが好ましい。
【0027】
前記装置において、シャフト10はシャフト回転用モーター11の駆動によりシャフトの長軸を中心に回転する。また同時に、クランクアーム駆動用モーター1の駆動によりクランクアーム3が回転し、該クランクアーム3に取り付けられた摺動ピン4を介して、スライド部材12およびブラケット7およびシャフト10が平行移動を行う。
【0028】
その際、布帛を介してシャフト10を手で把持し、前記の回転および/または移動を制止するように拘束すると手に負荷がかかるため、該負荷の大小により布帛のグリップ力を評価することができる。
前記の方法および装置によれば、布帛の対象物体に対するグリップ力を簡易的に測定することが可能となり、布帛の開発コストを低減することが可能となる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0030】
[実施例1]
図1に模式的に示すような、装置を作製した。すなわち、まず、厚さ5mmの一般構造用圧延鋼材SS400を用い、巾70mm、高さ83mm、奥行き65mmにて、モーター取付台2を作製した。次いで、厚さ5mmのSS400を用い、巾110mm、奥行き110mmにて、ブラケット7を作製した。次いで、取付台2にクランクアーム駆動用サーボモーター1(三和電機製、SDX−901)を固定し、該クランクアーム駆動用サーボモーター1に、SS400で作製したクランクアーム3を接続した。さらに、クランクアーム3に塩ビで作製した摺動ピン4を取り付けた。
一方、SUSで作製したスライド部材12をスライドガイド8に通し、固定した。その際、図2に示すように、スライド部材12には長軸が上下方向の長孔を穿孔し、該長孔に前記摺動ピン4を嵌合させた。
【0031】
次いで、スライド部材12にブラケット7をボルトにて取り付け、ブラケット7には、シャフト回転用サーボモーター11を取り付けた。次いで、シャフト回転用サーボモーター11に弾性体8を取り付け、弾性体8に半割方式のシャフト固定具9を取り付けた。次いで、半割方式のシャフト固定具9にシャフト10(市販のゴルフクラブを短く切断したもの)を取り付けた。
また、クランクアーム駆動用サーボモーター1(三和電機製、SDX−901)とシャフト回転用サーボモーター11とを受信機(三和電機製、RX−231)に接続することで、無線送信機(三和電機製、TX−232)にて制御可能にした。
また一方、試験布帛が手掌に位置するように試験布帛を用いてグローブを縫製した。
【0032】
次いで、前記グローブを着用し、かつ短小指屈筋、第一背側骨間筋、尺側手根伸筋、浅指屈筋の表面筋電図の測定センサーを取り付け試験者が、グローブを介して前記シャフト10を把持拘束した。そして、クランクアーム駆動用サーボモーター1(三和電機製、SDX−901)とシャフト回転用サーボモーター11とにより前記シャフト10を回転および移動させ、試験者の手に負荷をかけた。
そして、グローブ装着時の短小指屈筋、第一背側骨間筋、尺側手根伸筋、浅指屈筋の表面筋電図をデータアクキュエーションシステム(インタークロス製、ミニチュアDAQターミナルintercross−410)にて測定した。
かかる方法において、試験布帛を種々とりかえてテストを行うことにより、筋電図にて布帛(グローブ)のグリップ力を評価することができた。
【0033】
[実施例2]
実施例1において、摺動サーボモーター1、回転サーボモーター2を受信機ではなく、サーボ制御マイコンシステム(東洋リンクス製、RCサーボ制御ユニットTK−3687mini)に接続した。マイコンシステムにより、両サーボモーターの動作速度をニュートラル位置から最大角まで0.5秒で制御し、動作周期は2秒とした。
なお、上記測定は、試験布帛のテニスラケット用グリップ資材としてのグリップ力を測定するものである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、布帛のグリップ力を簡易的に評価する方法および装置が得られ、その工業的価値は極めて大である。
【符号の説明】
【0035】
1:クランクアーム駆動用モーター
2:モーター取付台
3:クランクアーム
4:摺動ピン
5:スライドガイド
6:スライドガイド支持体
7:ブラケット
8:弾性体
9:シャフト固定具
10:シャフト
11:シャフト回転用モーター
12:スライド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転および/または移動可能なシャフトを、布帛を介して手で把持し、電動方式により前記シャフトを回転および/または移動させた際に手にかかる負荷により布帛のグリップ力を評価することを特徴とする布帛のグリップ力を評価する方法。
【請求項2】
前記布帛を用いてグローブを縫製した後、該グローブを介して、前記シャフトを手で把持する、請求項1記載の布帛のグリップ力を評価する方法。
【請求項3】
電動方式により前記シャフトを回転および/または移動させた際に発生する、手または前腕を構成する筋肉の筋電図により布帛のグリップ力を評価する、請求項1または請求項2に記載の布帛のグリップ力を評価する方法。
【請求項4】
前記シャフトがサーボモーターにより回転および/または移動可能である、請求項1〜3のいずれかに記載の布帛のグリップ力を評価する方法。
【請求項5】
前記サーボモーターに受信機が取り付けられており、前記サーボモーターが該受信機を介して無線送信機により制御可能である、請求項4に記載の布帛のグリップ力を評価する方法。
【請求項6】
前記サーボモーターが制御マイコンシステムに接続され、動作周期または動作角または動作速度が制御可能である、請求項4または請求項5に記載の布帛のグリップ力を評価する方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の布帛のグリップ力を評価する方法に用いられる装置であって、シャフト10と、該シャフト10を回転させるためのシャフト回転用モーター11と、前記シャフト10およびシャフト回転用モーター11を保持するためのブラケット7と、該ブラケット7に連結してなるスライド部材12と、該スライド部材12をスライドさせるためのクランクアーム3と、該クランクアーム3を回転させるためのクランクアーム駆動用モーター1とを備えており、
前記シャフト10が前記シャフト回転用モーター11により回転可能であり、かつ該シャフト10が前記クランクアーム駆動用モーター1により移動可能であることを特徴とする装置。
【請求項8】
前記シャフト10がシャフト回転用モーター11に、シャフト固定具9および弾性体8を介して取り付けられている、請求項7に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−257346(P2011−257346A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133896(P2010−133896)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)