説明

布帛並びにこれを備えた防弾・防刃用衣服及び車両用タイヤ

【課題】織物のような柔軟性と通気性がありながら、尖鋭物の侵入を防止することができる布帛を提供すること、及びこの布帛を尖鋭物侵入防止材として使用した防弾・防刃用衣服及びこの布帛をタイヤコードとして使用した車両用タイヤを提供すること。
【解決手段】 極細繊維を原材料とする高密度の不織布を備えており、当該不織布により先鋭物の侵入を防止することを特徴とする布帛。極細繊維の繊維径が0.05ミクロンメーターから10ミクロンメーターまでであルこと。極細繊維が高強度の極細繊維であり、当該極細繊維相互が合成樹脂接着剤で連結されていること。上記布帛を尖鋭物侵入防止材として備えている防弾・防刃用衣服又は、上記布帛をタイヤコードとして備えている車両用タイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尖鋭物の侵入を防止することができる布帛に関するものである。より詳細には、弾丸、刃物、カッターナイフ、アイスピック等のような鋭利な先端を有する凶器(尖鋭物)から身を守るための防弾・防刃用衣服や、路面に落ちている釘等のような鋭利な先端を有する路面放置物(尖鋭物)から車両用タイヤのパンクを防止するためのタイヤコードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
防弾・防刃用衣服の布帛として、繊維径が数十ミクロンの高強度繊維を複数本束ねた糸で織成した織物をその厚さ方向に複数枚積み重ねたもの(以下、「織物積層体」という。図4参照)を用いることは公知である。高強度繊維としては、アラミド繊維、高強力ポリエチレン繊維など多くのものが提案されている。また、車両用タイヤのパンクを防止する方法として、タイヤコードの内側に粘弾性の強いゴム層を形成し、突き刺さったくぎが抜け落ちたときの穴を自動的に封鎖してパンクを防止する方法が知られている。
【特許文献1】特開平10―281697号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
織物積層体11は、面直角方向からアイスピック12のような尖鋭物を突き刺すと、織り組織を形成している糸が織り繊維方向に開くという性質があり、刃物等による突き刺しに対して極端に弱く、簡単に突き刺すことができるという欠点があった。一般に、アイスピック12等の先端は、突き刺すときの剛性を確保するために、半径r=約100ミクロンメートルに形成されている。一方、繊維径20ミクロンメートルのフィラメントを6本撚って糸にすると、この糸の直径は約50から60ミクロンメートルとなる。この糸を使って平織りの織物にすると、経糸相互及び緯糸相互の間に約50から60ミクロンメートルの間隔が生じることになる。この間隙が衣服としての通気性や柔軟性を発揮するのであるが、反面織目の目ずれを生じさせ、アイスピック等の尖鋭物の侵入を防止することができないのである。
【0004】
本発明は、織物のように柔軟性と通気性があり、縫製することも可能で、染色性があり衣料に必要な機能を備えると共に、尖鋭物の侵入を防止することができる布帛を提供することを目的としている。また、この布帛を尖鋭物侵入防止材として使用した防弾・防刃用衣服及びこの布帛をタイヤコードとして使用した車両用タイヤを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述目的を達成するためになされたものであって、
請求項1記載に係る発明は、極細繊維を原材料とする高密度の不織布を備えており、当該不織布により先鋭物の侵入を防止することを特徴とする布帛である。極細繊維とは、その繊維径が0.01ミクロンメーターから10ミクロンメーターまでの繊維をいう。極細繊維を原材料とする不織布としては、例えば、海島型複合紡糸技術を用いたナイロン等で構成された不織布(商標「エクセーヌ」)が知られている。従来、この種の不織布は、コートやブレーザを縫製するための生地として認識されているだけであり、そのような用途に必要とされる密度、厚さ及び風合いのものであった。本発明者は、、極細繊維を高密度で交絡・結合することにより、尖鋭物の侵入を防止できることを発見した。このような不織布は、これを組織する繊維の種類、繊維(糸)相互を連結する接着剤、密度、厚さ及び風合いを選択することにより、防弾・防刃性能やタイヤコードに必要な性能をいろんな水準に設定することができ、多様な市場のニーズに応えることができることが分かった。
【0006】
不織布の製造方法には、大別して水を使う湿式方法と水を使わない乾式方法とがある。具体的な製造法方としては、極細繊維を接着剤で結合する「ケミカルボンド」、自己接着又は接着繊維で結合する「サーマルボンド」、高圧水流で交絡する「スパンレース」、特殊針でウエブをニードリングして交絡させる「ニードルパンチ」、ウエブがほぐれないように糸で編み込む「ステッチボンド」がある。このなかでも、極細繊維を原材料とした高密度な不織布を製造する方法としてスパンレースが好適である。
【0007】
また、合成樹脂接着剤としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、線状飽和ポリエステル樹脂等があり、このうち線状飽和ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂等の各種繊維材料に対して優れた接着性を有すると共に、優れた耐熱性と可撓性と耐候性も有し、経時変化がなく、安定した品質を保持しており、好適である。
【0008】
更にまた、高密度とは、開口径が数百ナノメートルないし数十ミクロンメートル又はそれ以上の連続する空気通路が確保され、衣服として使用したときに内側に湿気が残らない程度の通気性を確保できる密度である。例えば、東レ株式会社のエントラント(穴径0.5から3ミクロンメートル)や、デュポン社のゴアテックス程度の通気性があればよい。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の布帛において、極細繊維の繊維径が0.01ミクロンメーターから10ミクロンメーターまでである不織布からなる布帛である。一般に、アイススピックや千枚通し、錐等の尖鋭物の直径は、およそ200ミクロンメータ〜400ミクロンメーターである。釘等の尖鋭物はこれより大きく、弾丸等の尖鋭物は更に大きい。したがって、繊維径が0.01ミクロンメーターから10ミクロンメーターまでの極細繊維を原材料とし、高密度の不織布としてやれば、直径200ミクロンメーターの尖鋭物を繊維径10ミクロンメーターの極細繊維20本程度で受け止めることができる。極細繊維は接着剤や交絡等により相対位置が規制されているから、目ずれ等を起こすことがない。なお、ナイロンのように中強度の極細繊維を用いたものであれば、不織布の厚さを厚くすることにより、尖鋭物の侵入を防止することができる。なお、ナイロンは染色することができ、衣料に好適である。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載の布帛において、極細繊維が高強度の極細繊維であり、当該極細繊維相互を合成樹脂接着剤で連結したことを特徴とする布帛である。この高強度の極細繊維としては、パラ型アラミド繊維、メタ型アラミド繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、超高強力ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、超高強力ポリビニルアルコール繊維等を用いることができる。高強度の極細繊維は、その繊維材料としてアラミド繊維を用いたもの(商標「ケプラー」)や、高強力ポリエチレン繊維を用いたもの(商標「ダイニーマ」)等数多く提案されている。これらの高強度の極細繊維を原材料とした高密度の不織布に弾丸等の尖鋭物を突刺すると、尖鋭物が不織布を構成する多数の高強度の極細繊維を捻じりながら食い込むように前進することとなるが、極細繊維が四方八方及び厚さ方向に互いに連結(接着・交絡)されており、即ち三次元方向に固定されており、尖鋭物によって最初の極細繊維が引き裂かれても次ぎの極細繊維で前進を食い止めることができ、多数の高強度の極細繊維が先鋭物の突刺動作を制動して止め、貫通を阻止することができる。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1から3までのいずれか1記載の布帛を尖鋭物侵入防止材として備えていることを特徴とする防弾・防刃用衣服である。極細繊維を原材料とする高密度の不織布は、尖鋭物の侵入を防止することができると共に、可撓性や通気性があり、衣服に使用することができる。ナイロン等を用いてやれば染色が可能となる。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1から3までのいずれか1記載の布帛をタイヤコードとして備えていることを特徴とする車両用タイヤである。極細繊維を原材料とする高密度の不織布は、路面に落ちた釘等の尖鋭物の侵入を防止することができると共に、機械的強度に優れており、タイヤコードに必要な品質要求を満たすことができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、多数の極細繊維を原材料とする高密度の不織布により、粘着力が増し、尖鋭物の侵入を完全に阻止することができ、このような不織布を用いてやれば、弾丸、刃物、カッターナイフ、アイスピック等のような尖鋭物を有する凶器から身を守ることができる防弾・防刃用衣服や、路面に落ちている釘等のような先鋭部から車両用タイヤのパンクを防止することができるタイヤを提供することができる。極細繊維として高強度のものを用いてやれば、衣服の防弾性能やタイヤコードの機械的性能を飛躍的に向上させることができる。
【0014】
また、多数の高強度の極細繊維に合成樹脂接着剤を含浸させて一体化した不織布であるから、織り繊維方向に裂けることがなく、アイスピックや刃物等による突刺しや打撃を完全に防護することが可能である。また、合成樹脂接着剤として線状飽和ポリエステル樹脂を用いてやれば、耐熱性や耐候性に優れ、経時変化がなく、耐久性を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に基づき、本発明に係る防弾・防刃チョッキの実施の形態を説明する。図1は防弾・防刃チョッキの一例を示す正面図、図2は防弾・防刃チョッキの部分断面図、第3図は不織布とアイスピックの先端の関係を示す模式図である。図1及び図2に示すように、防弾・防刃チョッキ1は、2枚の肩布2で連結された前面部材3と背面部材4とを有している。前面部材3と背面部材4とは、高強度の極細繊維8,8,…を合成樹脂接着剤9や交絡区増により一体化した不織布6と、この不織布6を覆う表布7とから形成されている。アイスピック等の尖鋭物の先端は直径が約200μmであり、極細繊維の繊維径が5から10μmであるから、尖鋭物の先端を約20本の高強度の極細繊維でその侵入を阻止することになる。アラミド繊維は引っ張り強度に優れておりかつ、耐熱性もある。更に、アラミド繊維製の極細繊維は線状飽和ポリエステル樹脂製の合成樹脂接着剤により強固に連結されているから、高強度の極細繊維相互の相対位置が規制されており、目ずれを起こすことがない。したがって、上記不織布は、十分な防弾・防刃性能を発揮すると共に、布帛の厚さを従来のものより遥に薄くすることができ、通気性もあり着心地がよい。
【0016】
本実施形態に係る防弾チョッキは、以上のような構成よりなるので、銃器から発射された弾丸が表布7を貫通して不織布6に衝突し、不織布を構成している多数の高強度の極細繊維8を捻じりながら食い込むように前進すると、多数の高強度の極細繊維8により弾丸の回転が制動され、貫通エネルギーや衝突エネルギーが吸収されると共に、合成樹脂接着剤9による粘着力により、一層強力に弾丸の回転が制動され、貫通エネルギーや衝突エネルギーが吸収され、弾丸を止めることができ、弾丸が貫通するのを確実に阻止することが可能である。
【0017】
この際、弾丸の衝突時の発熱により、高強度の極細繊維8及び合成樹脂接着剤9は高温となるが、極細繊維であるアラミド繊維や合成樹脂接着剤である線状飽和ポリエステル樹脂は優れた耐熱性を有しているため、熱により溶解することはなく、弾丸を強力に粘着することが可能である。特に、多数の高強度の極細繊維にそれぞれ合成樹脂接着剤を含浸させて一体化されているので、弾丸を止め、はじき返す力を飛躍的に増強する。
【0018】
従って、多数の高強度の極細繊維8,8,…を合成樹脂接着剤9で一体化させることにより、粘着力が増し、強度と防弾性能の飛躍的な向上が図られ、トカレフ、マグナム等の威力のある銃器から発射される弾丸でも貫通するのを確実に阻止することができる。また、強度と防弾性能が飛躍的に向上するため、不織布の厚さを薄くすることが可能で、それだけ軽量化とコストダウンを図ることができる。また、多数の高強度の極細繊維に合成樹脂接着剤を含浸させて一体化したので、織物のように織り繊維方向に裂けることがなく、アイスピックや刃物等による突刺しや弾丸の回転侵入から完全に防護できる。更に、耐候性や経時変化に強い材料を用いたので、耐久性を大幅に向上させることができる。
【0019】
なお、上述実施の形態では、高強度の極細繊維の具体例としてアラミド繊維を用いたが、これに限らず、他の高強度の極細繊維として超高強力ポリエチレン繊維等を用いてもよいことは勿論である。ナイロンのような中強度の極細繊維を用いてやれば、染色性可能となり、衣服に適したものとなる。また、上述実施の形態では、合成樹脂接着剤として線状飽和ポリエステル樹脂を用いたが、これに限らず、他の合成樹脂接着剤を用いてもよいことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、極細繊維を原材料とする高密度の不織布に関するものであり、弾丸、刃物、カッターナイフ、アイスピック等のような凶器から身を守るための防弾・防刃用衣服や、路面に落ちている釘等から車両用タイヤのパンクを防止するためのタイヤコードに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】防弾・防刃チョッキの正面図である。
【図2】前面部材及び後面部材の部分断面図である。
【図3】不織布とアイスピック(尖鋭物)との関係を示す斜視図である。
【図4】従来の織物積層体とアイスピク(尖鋭物)との関係を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
1 防弾・防刃チョッキ
6 不織布
8 極細繊維
9 合成樹脂接着剤
12 アイスピック(尖鋭物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維を原材料とする高密度の不織布を備えており、当該不織布により先鋭物の侵 入を防止することを特徴とする布帛。
【請求項2】
極細繊維の繊維径が0.05ミクロンメーターから10ミクロンメーターまでであることを特徴とする、請求項1に記載の布帛。
【請求項3】
極細繊維が高強度の極細繊維であり、当該極細繊維相互が合成樹脂接着剤で連結されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の布帛。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1記載の布帛を尖鋭物侵入防止材として備えていることを特徴とする、防弾・防刃用衣服。
【請求項5】
請求項1から3までのいずれか1記載の布帛をタイヤコードとして備えていることを特徴とする、車両用タイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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