説明

希土類トリス(有機リン誘導体)の安定溶液

【課題】少なくとも約30日間、希土類トリス(有機リン酸塩)が沈殿しないで安定である希土類トリス(有機リン酸塩)および炭化水素溶媒を含む溶液を提供する。
【解決手段】希土類トリス(有機リン酸塩)溶液であり:
a)希土類トリス(有機リン酸塩);
b)炭化水素溶媒;
c)水;ならびに
d)安定化添加剤、を含み、
希土類元素に対する水のモル比が約2以下であり、そして希土類元素に対する安定化添加剤のモル比が約5以下である溶液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素溶媒中での希土類トリス(有機リン酸塩)の安定溶液の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類トリス(有機リン酸塩)、とくに希土類アルキルリン酸塩の種々の溶媒中での製造は、簡単な方法であるのが通常である。水および一般的な有機溶媒における低い溶解度により、希土類トリス(有機リン酸塩)は容易に沈殿する。これらの組成の低い溶解度は、Suglobovらの「ランタニド(III)およびアクチニド(III)のDEHP錯体」というJournal of Alloys and Compounds,213/214(1994)523〜527頁の論文に示される。Suglobovらは「LnA3(A=ジアルキルリン酸塩)はアルカンならびにドナー溶媒中で非常にわずかに溶解性である」と指摘。Suglobovらの523頁の要約を参照されたい。たとえば希土類ネオ酸錯体(neo acid compleyes)に比べて炭化水素溶媒中での希土類トリス(有機リン酸塩)の比較的低い溶解度は、主として、分子の有機の性格をかなり低下するリン原子の存在のためである。炭化水素溶媒中に希土類トリス(有機リン酸塩)を与えることは触媒の製造のために希土類トリス(有機リン酸塩)を使用する製造者にとって望ましい。もし希土類トリス(有機リン酸塩)が炭化水素溶媒中で安定、すなわち長い期間にわたって沈殿しないならば、そのような製品は製造配合者にとって非常に有利である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
希土類トリス(有機リン酸塩)および炭化水素溶媒を含む溶液を製造することが本発明の1つの態様であり、そこでは該溶液は少なくとも約30日間、希土類トリス(有機リン酸塩)が沈殿しないで安定である。
【0004】
炭化水素溶媒中で非常に安定な希土類トリス(有機リン酸塩)を、有利な実験的条件の組合わせで、製造させる方法を導入することが本発明のもう1つの態様である。
本発明のこれらの、そして他の態様は以下に説明される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
安定な希土類トリス(有機リン酸塩)溶液は希土類トリス(有機リン酸塩)および炭化水素溶媒を含む。好ましくは約2%〜約10%、さらに好ましくは約3%〜約8%の希土類元素が溶液に存在する。特に指摘がなければ、比もしくは%は質量による。希土類トリス(有機リン酸塩)溶液は、少なくとも15日間、好ましくは少なくとも20日間、もっとも好ましくは少なくとも30日間、希土類トリス(有機リン酸塩)を沈殿しないで安定である。これらの溶液の製造法がここで説明される。
【0006】
ここで使用されるように、「アルキル」は炭素含有鎖を意味し、直鎖、分枝もしくは環状;置換(モノ−もしくはポリ−)または不飽和;および飽和であってもよい。
【0007】
ここで使用されるように「アリール」は芳香族を意味し;置換(モノ−もしくはポリ−)または不飽和であってもよい。
【0008】
ここで使用されるように「遊離酸」は従来の方法で測定されるH+濃度を意味する。
ここで使用されるように、「希土類トリス(有機リン酸塩)」、「有機リン酸塩」、「アルキルリン酸塩」、「塩基」、「安定化添加剤」および「希土類塩」という用語は、単数、ならびにそれぞれの化合物の混合物を包含するための複数、を包含する。
ここで用いられる「含む」(“comprising”)は、種々の成分が一緒に使用されうることを意味する。したがって「から本質的になる」(“consisting essentially”)および「からなる」(“consisting of”)は「含む」という用語に包含される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
希土類トリス(有機リン酸塩)溶液の製造において、有機リン酸塩溶液は、有機リン酸塩をアンモニウム(好ましくはテトラ(低級アルキル)アンモニウム)酸化物もしくは水酸化物、ナトリウム酸化物もしくは水酸化物、またはそれらの混合物である塩基と反応させることにより製造されるのが好ましい。ナトリウム塩基は高粘度、たとえば約1000cps より大きい、を有する溶液の生成に寄与するために使用が勧められないのが通常である。もっとも好ましくは塩基は水酸化アンモニウムである。使用に適切な塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、テトラブチルアンモニウム水酸化物、テトラメチルアンモニウム水酸化物、テトラエチルアンモニウム水酸化物を含む。有機リン酸塩と塩基の反応は、水、炭化水素溶媒、またはそれらの混合物からなる群より選ばれる溶媒の存在下であるのが通常である。好ましくは反応は炭化水素溶媒の存在下で生じる。適切な炭化水素溶媒は、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、メチルペンタン、メチルシクロペンタン、n−ヘキサン、ペンタン、トルエン、3−メチルペンタン、2−メチルペンタン、2,3−ジメチルペンタンおよび異性体ならびにそれらの混合物からなる群より選ばれうる。好適な炭化水素溶媒はヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンおよび異性体ならびにそれらの混合物からなる群より選ばれる。商業的に利用しうる炭化水素溶媒は、Exxonにより供給されるEXXSOL(登録商標)ヘキサン、Exxonにより供給されるEXXSOL(登録商標)ヘプタン、Exxonにより供給されるISOPAR−G(登録商標)炭化水素溶媒、Exxonにより供給されるISOPAR−M(登録商標)炭化水素溶媒、Exxonにより供給されるISOPAR−L(登録商標)炭化水素溶媒、およびPhilipsにより供給されるMINERAL SPIRITS66(登録商標)炭化水素溶媒である。
【0010】
有機リン酸塩溶液のpHは、好適には約5.0〜約9.0、もっと好適には約5.5〜約7.0、そして最も好適には約6.0〜約6.5の範囲である。
【0011】
有機リン酸塩の塩基との反応温度は重要ではないと考えられ、そして反応温度は変動しうる。通常、反応は室温、たとえば約25℃で実施されうる。
【0012】
ついで有機リン酸塩溶液は希土類塩と反応して粗希土類トリス(有機リン酸塩)溶液を生成する。このために、有機リン酸塩溶液は所望の希土類塩の水性溶液(「希土類塩溶液」)を導入される。
【0013】
生成物の安定性にとって低い添加速度を用いるのが有利であることが見出された。希土類塩溶液(希土類含量約23%〜約26%を有するのが好ましい)の添加速度は所望の希土類トリス(有機リン酸塩)溶液の所望の粘度を得るのに十分な速度である。約600cps 未満の粘度を有する組成について、その速度は約1〜2時間の範囲でありうる。
【0014】
有機リン酸塩の希土類塩溶液との反応温度は、好ましくは約30℃より高く、もっと好ましくは約40℃より高く、そして最も好ましくは約40℃〜約60℃である。
【0015】
使用に適した希土類塩は周期律表IIIB族(ランタニド列)の塩である。希土類元素は周期律表IIIB族(ランタニド列)における15の化学的に関連した元素の群である。適したランタニド列希土類元素は:ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロジウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、イットリウム、スカンジウムおよびそれらの混合物を含む。使用に好適な希土類元素は、ネオジム、ランタン、プラセオジム、セリウム(好ましくはCeIII)およびそれらの混合物である。最も好ましくはランタンである。これらの希土類原料が製造される鉱石の性状により、他の少量の希土類元素が所望の希土類塩もしくは希土類塩溶液に存在しうる。ここで使用するための好適なグレートは、所望の希土類元素もしくは塩、たとえば希土類硝酸塩、希土類塩化物、希土類酸化物、希土類水酸化物、希土類酢酸塩、希土類オキシ塩化物、希土類オキシ硝酸塩、ならびにそれらの混合物が90wt%を超えるものである。
【0016】
たとえば、好適な希土類塩は:希土類硝酸塩、希土類塩化物、希土類酢酸塩、希土類水酸化物、希土類酸化物、希土類オキシ塩化物、希土類オキシ硝酸塩、およびそれらの混合物を含む。好適な希土類塩は希土類硝酸塩、希土類塩化物、およびそれらの混合物である。使用するに最も好適なのは、希土類硝酸塩、たとえば、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロジウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテニウム、イットリウム、スカンジウムおよびそれらの混合物の硝酸塩である。好適には、希土類塩の水性溶液が使用されうる。
【0017】
有機リン酸塩化合物は:リン酸ジエステル(RO)(R′O)PO(OH)〔R=アルキル、アリール、およびそれらの組合わせ;R′=アルキル、アリールおよびそれらの組合わせ〕;リン酸モノエステル(RO)PO(OH)2〔R=アルキル、アリール、およびそれらの組合わせ〕;一般式(RO)R′P(O)およびRP(O)(OH)2のホスホン酸塩〔R=アルキル、アリール、およびそれらの組合わせ〕;一般式R(R)P(O)OHおよびR(H)P(O)OHのホスフィン酸塩〔R=アルキル、アリール、およびそれらの組合わせ〕;ならびにそれらの混合物を含む。
【0018】
好適な有機リン酸塩化合物はリン酸のジエステル(RO)(R′O)PO(OH)〔R=n−ブチル、イソブチル、ペンチル、アミル、イソペンチル、2,2−ジメチルヘキシル、2−エチルヘキシル、1−エチルヘキシル、トリル、ノナフェノキシおよびそれらの組合わせ;R′=n−ブチル、イソブチル、ペンチル、アミル、イソペンチル、2,2−ジメチルヘキシル、2−エチルヘキシル、1−エチルヘキシル、トリル、ノナフェノキシおよびそれらの組合わせ〕;リン酸モノエステル(RO)PO(OH2)〔R=n−ブチル、イソブチル、ペンチル、アミル、イソペンチル、2,2−ジメチルヘキシル、2−エチルヘキシル、1−エチルヘキシル、トリル、ノナフェノキシル〕;一般式(RO)RP(O)およびRP(O)(OH)2のホスホン酸〔R=n−ブチル、イソブチル、ペンチル、アミル、イソペンチル、2,2−ジメチルヘキシル、2−エチルヘキシル、1−エチルヘキシル、トリル、ノナフェノキシルおよびそれらの組合わせ〕;一般式R(R)P(O)OHおよびR(H)P(O)OH〔R=n−ブチル、イソブチル、ペンチル、アミル、イソペンチル、2,2−ジメチルヘキシル、2−エチルヘキシル、1−エチルヘキシル、トリル、ノナフェノキシルおよびそれらの組合わせ〕;ならびにそれらの混合物、である。
【0019】
有機リン酸塩および希土類塩溶液が反応される。水性相および有機相が反応生成物に存在する。水性相は除去される。水性相除去についての従来法が利用され得、たとえば液−液抽出が挙げられる。好ましくは、有機相は、ついで水で洗浄される。ついで、粗液体は、希土類元素に対する水、および/または希土類元素に対する遊離酸の適切なモル比を得るように従来法により水と遊離酸の含量を調節されうる。たとえば水の濃度は共沸蒸留および/または水の添加により調節されうる。遊離酸濃度はカルボン酸および/または他の安定化する酸の添加により調節されうる。
【0020】
安定化添加剤が添加される。この安定化添加剤は水、リン酸およびそのエステル、ホウ酸およびそのエステル、グリコール(ジオール)およびそのエーテル誘導体、ならびにそれらの混合物でありうる。安定化添加剤は水性相の除去後、有機相の洗浄後、そしてたとえば共沸蒸留による水含量の調節の前に添加されるのが好ましい。
【0021】
最終的な希土類トリス(有機リン酸塩)溶液の粘度は好ましくは約600cps 未満、もっと好ましくは約500cps 未満、そして最も好ましくは約100cps 未満である。
【0022】
安定な希土類トリス(有機リン酸塩)溶液の好適な製造方法は本発明のランタントリス(ジ−2−エチルヘキシルリン酸塩)の製造のための次の記載により例示される。
【0023】
反応は次のように表わされうる:
1.炭化水素/水混合物における塩生成
(RO)2P(O)OH+NH4OH → (RO)2P(O)ONH4+H2O
ジ−2−エチルヘキシルリン酸塩 アンモニウムジ−2−エチルへキシルリン酸塩
2.水/炭化水素溶媒における希土類ジ−2−エチルリン酸塩の生成
RE(NO3)3+3[(RO)2P(O)O][NH4] → [(RO)2P(O)O]3RE+3NH4NO3
RE硝酸塩 REジ−2−エチルヘキシルリン酸塩
RE=La;R=2−エチルヘキシル−
【0024】
希土類トリス(有機リン酸塩)は、希土類硝酸塩溶液および有機リン酸塩溶液を混合することによって2つの溶媒系において調製される。得られる水性相(層)は捨てられる。有機相は水で洗浄されうる。残留する有機溶液は希土類トリス(有機リン酸塩)錯体に加えて、ある量の水および遊離酸である。
【0025】
遊離酸、グリコールおよび/または他の安定化添加剤として溶液中に存在し、測定しうる酸は炭化水素溶媒中の希土類、好ましくはLaトリス(有機リン酸塩)の溶液を安定化するのに非常に効果的である。これらの安定化添加剤は溶液から希土類トリス(有機リン酸塩)の沈澱を防止するのを助ける。
【0026】
いかなる安定化添加剤、たとえばグリコールおよび/または遊離酸を含まない溶液は急速に沈殿物を生成する。本発明の組成物は少なくとも約3日間、好ましくは少なくとも約7日間、そして最も好ましくは少なくとも約14日間安定であるのが通常である。好適な組成物は少なくとも約15日間、好ましくは少なくとも約20日間、最も好ましくは少なくとも約30日間安定である。
【0027】
希土類トリス(有機リン酸塩溶液)が希土類元素に対する適切なグリコールモル比、および/または希土類元素に対する遊離酸モル比を有することが安定性に重要である。好ましくは、希土類元素に対するグリコールモル比および希土類元素に対する遊離酸モル比はここで特定の範囲内にある。
【0028】
当業者は、従来法がグリコール、遊離酸または希土類トリス(有機リン酸塩)の製造後のグリコールおよび遊離酸のモル比を調節するのに使用されうる。好ましくは、その比は酸、グリコールおよびそれらの混合物を含む群から選ばれる安定化添加剤の添加により調節されうる。
【0029】
酸は希土類トリス(有機リン酸塩)溶液に安定化の有利さを与える。使用するのに適した酸は結合された有機溶媒および希土類トリス(有機リン酸塩)に相溶性である有機酸である。
【0030】
相溶性は有機酸が必要な遊離酸濃度を達成するのに必要な程度に溶解性である。当業者はこの測定をすることができる。特に、ある範囲内の希土類元素に対する遊離酸のモル比は、非常に濃縮された希土類トリス(有機リン酸塩)溶液、たとえば約8%より多い希土類元素、に対する改良された溶解度を与えうる。所望の遊離酸比を得るために、酸が使用される。使用に適する酸は、リン化合物にもとづく酸およびエステル、硫黄化合物にもとづく酸およびエステル、ホウ素化合物にもとづく酸およびエステル、ならびにそれらの混合物を含む。本発明の希土類トリス(有機リン酸塩)溶液は希土類元素に対する遊離酸モル比約5以下、好ましくは約2以下、そして最も好ましくは約1以下を有しうる。
【0031】
使用に適した、リン化合物にもとづく酸およびエステルは、リン酸(HPO);リン酸のモノおよびジアルキルエステル(たとえば、RPOおよびRHPO,ここでRおよびRはメチル、エチル、プルピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、2−エチルヘキシルおよびそれらの組合わせ);o−亜リン酸(HPO);メタリン酸;モノアルキルホスホン酸(たとえばRHPO,ここでRはメチル、エチルもしくは1−プロピル);アルキルホスホン酸のモノエステル(たとえばRRHPO,ここでRはメチル、エチル、および1−プロピル、そしてRはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、およびそれらの組合わせ);ホスフィン酸の有機誘導体(たとえばRRHPO,ここでRおよびRはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、2−エチルへキシル、およびそれらの組合わせ);ならびにそれらの混合物を含む。
【0032】
使用に適した硫黄化合物にもとづく酸およびエステルは、硫黄、ピロ硫酸;アルカンおよびアレーンスルホン酸(たとえばRSOH,ここでRはメタン、エタン、n−プロパン、2−プロパン、ブタン、ペンタン、へキサン、トリフルオロメタン、ベンゼン、3,5−ジメチルベンゼン、m−ニトロベンゼン、2−アミノベンゼン、3−アミノベンゼン、p−ドデシルベンゼン、p−トルエン、1−ナフタレン、2−ナフタレン、2−アクリルアミドプロパン、2−アクリルアミド−2−メチルプロパン、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパン、3−アクリルアミド−2,4,4−トリメチルペンタン、2−アクリルアミド−2−フェニルエタン、2−アクリルアミド−2−フェニルプロパン、2−アクリルアミド−2−フェニルプロパン、2−アクリルアミド−2−(p−トリル)エタン、スルファミン酸(HNSOH);スルファニル酸(4−(HN)CSO);アルカンおよびアルーンスルフィン酸(たとえば、RSOH,ここでRはメタンもしくはベンゼン);ならびにそれらの混合物を含む。
【0033】
使用に適するホウ素にもとづく酸はホウ酸(B(OH))およびメタホウ酸(HBO)を含む。
【0034】
酸は希土類トリス(有機リン酸塩)の製造の前、間もしくは後に使用されうる。好ましくは、酸は製造の間もしくは後に使用されうる。最も好ましくは、酸は希土類トリス(有機リン酸塩)の生成後に添加される。酸は単一の段階で、もしくはいくつかの段階で添加されうる。たとえば、酸は有機リン酸塩溶液を製造するのに用いられ得、そして必要ならば、追加の酸が適したモル比を得るために製造後に添加されうる。過剰の酸が、安定化する遊離酸モル比を与えるために有機リン酸塩の生成に用いられうる。酸は組合わせて、もしくは別々に使用されうる。組合わせて用いる場合には、酸は予め混合され、そして同時に添加され、もしくは別々に添加されうる。酸は酸の形態で、もしくは酸の塩の形態で添加されうる。
【0035】
グリコール(ジオール)およびそれらのエーテル誘導体も、それらが結合される有機溶媒および希土類トリス(有機リン酸塩)と相溶性があるならば、希土類トリス(有機リン酸塩)溶液を安定化しうる。相溶性は、グリコールが、必要なグリコール濃度を得るのに必要な程度に溶解性であることを意味する。特に、ある範囲内で希土類元素に対するグリコールのモル比は、希土類トリス(有機リン酸塩)に対する改良された安定性を与えうる。グリコール濃度は従来のクロマトグラフィー法(たとえばGC)により測定されうる。使用に適したグリコールおよびエーテル誘導体は、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、ジ(プロピレングリコール)、エチレングリコール(1,2−エタンジオール)、ジ(エチレングリコール)、1,2−,1,3−および1,4−ブタンジオール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールt−ブチルエチルエーテル、エチレングリコールt−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールブチルビニルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル(1,2−ジメトキシプロパン)、2,2−ジエトキシプロパン、3,3−ジエトキシ−1−プロパノール、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(1−メトキシ−2−プロパノール)、プロピレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、およびそれらの混合物を含む。好適なグリコールは、ジ(プロピレングリコール)、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジ(エチレングリコール)およびそれらの混合物からなる群より選ばれる。
【0036】
好適には、グリコールは希土類トリス(有機リン酸塩)の製造の間もしくは後に使用されうる。グリコールは単一の段階もしくはいくつかの段階で添加されうる。加えて、グリコールは一緒にもしくは別々に使用されうる。一緒に使用するとき、グリコールは予め混合され、同時に添加され、もしくは別々に添加されうる。好ましくは、グリコールは希土類トリス(有機リン酸塩)の生成後に使用される。本発明の希土類トリス(有機リン酸塩)溶液は希土類元素に対する安定添加剤、グリコール(ジオール)およびそれらのエーテル誘導体の比が約5以下、好ましくは約2以下、そして最も好ましくは約1以下でありうる。
【0037】
水は、たとえば希土類カルボン酸塩溶液に与えるよりも希土類トリス(有機リン酸塩)に小さい程度の安定化する利益を与えることも見出された。実際に、水は希土類トリス(有機リン酸塩)溶液の粘度の増加を生じさせうる。希土類元素に対する適切なモル比を得るために、水は共沸蒸留のような従来法を用いて除去されうる。希土類元素に対する水のモル比は好ましくは約2以下、もっと好ましくは約0.1以下、そして最も好ましくは約0.05である。
【0038】
好適な態様において、希土類アルキルリン酸塩はジ−2−エチルヘキシルリン酸で製造される。ランタントリス(ジ−2−エチルヘキシルリン酸塩)の一般式はLaC4810212である。
【化1】

【0039】
本発明のLaトリス(ジ−2−エチルヘキシルリン酸塩)溶液は質量で約2%〜約10%、好ましくは約3%〜約8%、そして最も好ましくは約3.5〜約5%のLaを含む。好ましくはLaトリス(ジ−2−エチルヘキシルリン酸塩)溶液はヘキサン、シクロヘキサン、メチルペンタン、ならびにそれらの異性体および混合物を、溶液として用いて製造される。
【0040】
Laトリス(ジ−2−エチルヘキシルリン酸塩)溶液は、希土類元素Laに対する遊離酸のモル比約5以下、好ましくは約2以下、そして最も好ましくは1以下を有する。希土類元素Laに対する水のモル比は、約2以下、好ましくは約0.1以下そして最も好ましくは約0.05以下である。希土類元素Laに対するグリコール(ジオール)およびそれらのエーテル誘導体のモル比は、約5以下、好ましくは約2以下、そして最も好ましくは1以下である。
【0041】
さらに、希土類トリス(有機リン酸塩)溶液はジエン重合用触媒を製造するための原料として優れた性質を提供しうる。
【0042】
次の例は、本発明の方法および生成物をさらに説明するために提供される。それは例示する目的のためであり、それに照らして種々の修飾もしくは変更が当業者に示唆され得、この出願の精神および範囲、そして請求項の範囲内になお該当すると考えられる。
【実施例】
【0043】
次の例は本発明のランタントリス(ジ−2エチルヘキシルリン酸塩)の溶液を製造するための方法を例示する。
2Lの容器に、pH範囲約5.5〜約6.5(約50℃で)を有するジ−2エチルヘキシルリン酸塩/へキサン/水溶液が、約45〜約50℃の温度で、ジ−2−エチルヘキシルリン酸塩(MW321.8)312gのへキサン約650g透明溶液にアンモニア溶液(約29.6%)56gを滴下して添加することにより製造された。ついで、その透明で、無色の溶液は水性ランタン硝酸塩溶液(約191g;La含量約23.53%)を添加される。後者は、強く攪拌しながら滴下して添加されるが、滴下速度約1mL/分および温度約50℃を保持する。生成物は有機層にすぐに溶解する。添加が終了すると、混合物はさらに60分間攪拌され、そして水性層は捨てられる。有機層は3×250mLの水で洗浄される。粗ランタントリス(ジ−2−エチルヘキシルリン酸塩)溶液は約1.1%の水を含むことが分析される。この点で、ジプロピレングリコールは所望量約1.5%を達成するのに添加される。ついで反応器はDeam−Starkアダプタを備えられ、必要量の水が共沸蒸留で除去される。最終生成物は、安定で、透明無色の溶液である。収量は約950gである。分析は生成物が、次の値を有することを測定する:
La 約4.2%
P 約3.2%
遊離酸 約4.3%
水 約94ppm
粘度 約86cps(25℃、Brookfield)
遊離ジ−2エチルヘキシルリン酸/La モル比:
約4.3g/321.97=0.013m(321.97=ジ−2−エチルヘキシルリン酸のモル質量)
約4.2g/138.91=0.03m(138.91=Laの原子量)
約0.013/0.03=0.43
水/La モル比:
約0.094g/18=0.005m(18=水のモル質量)
約4.2g/138.91=0.03m(138.91=Laの原子量)
約0.005/0.03=0.17
【0044】
本発明の特定の態様が例示のために上述されたが、本発明の詳細の数多くの変更が、請求項に規定される本発明を逸脱しないでなされうることは当業者に明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素溶媒、水および炭化水素溶媒の混合物、ならびにそれらの混合物から選ばれる溶媒の存在下に、酸と塩基の反応により調製された有機リン酸塩溶液を希土類塩と反応させて希土類トリス(有機リン酸塩)溶液を生成させることを含む安定な希土類トリス(有機リン酸塩)溶液を製造する方法であり;該希土類トリス(有機リン酸塩)溶液は希土類元素に対するモル比で、約5以下の遊離酸を有する方法。
【請求項2】
溶媒が炭化水素溶媒である請求項1記載の方法。
【請求項3】
プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、ジ(プロピレングリコール)、エチレングリコール(1,2−エタンジオール)、ジ(エチレングリコール)、1,2−、1,3−および1,4−ブタンジオール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールt−ブチルエチルエーテル、エチレングリコールt−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールブチルビニルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル(1,2−ジメトキシプロパン)、2,2−ジエトキシプロパン、3,3−ジエトキシ−1−プロパノール、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(1−メトキシ−2−プロパノール)、プロピレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる安定化添加剤を添加する、さらなる段階を含む請求項2記載の方法。
【請求項4】
希土類元素に対する安定化添加剤のモル比が約5以下である請求項3記載の方法。
【請求項5】
該希土類トリス(有機リン酸塩)溶液が希土類元素に対する水のモル比約1以下を有する請求項1記載の方法。
【請求項6】
リン酸(H3PO4);リン酸のモノおよびジアルキルエステル;o−亜リン酸(H3PO3);メタリン酸;モノアルキルホスホン酸;アルキルホスホン酸のモノエステル;ホスフィン酸の有機誘導体;硫酸;ピロ硫酸;アルカンおよびアレーンスルホン酸;スルファニル酸(4−(H2N)C64SO3H);アルカンおよびアレーンスルフィン酸;ホウ酸(B(OH)3);メタホウ酸(HBO2);およびそれらの混合物からなる群より選ばれる酸を添加する、さらなる段階を含む請求項1記載の方法。
【請求項7】
希土類元素に対する遊離酸のモル比が約2以下である請求項6記載の方法。
【請求項8】
反応温度が約30℃より高い請求項1記載の方法。
【請求項9】
安定な希土類トリス(有機リン酸塩)溶液の製造方法であり:
a)炭化水素溶媒、水および炭化水素溶媒の混合物、ならびにそれらの混合物から選ばれる溶媒の存在下に、酸と塩基の反応により調製された有機リン酸塩溶液を希土類塩と反応させて、水性相と有機相を有する希土類トリス(有機リン酸塩)溶液を生成させること;
b)水性相を除去すること;
c)有機相を水で洗浄すること;ならびに
d)水、酸、酸エステル、グリコール(ジオール)およびそれらのエーテル誘導体、ならびにそれらの混合物からなる群より選ばれる安定化添加剤を添加すること;
の段階を含み、
段階a)の反応温度は約30℃よりも高く、そして希土類元素に対する安定化添加剤モル比は約5以下である方法。
【請求項10】
溶媒が炭化水素溶媒である請求項9記載の方法。
【請求項11】
安定化添加剤がプロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、ジ(プロピレングリコール)、エチレングリコール(1,2−エタンジオール)、ジ(エチレングリコール)、1,2−、1,3−および1,4−ブタンジオール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールt−ブチルエチルエーテル、エチレングリコールt−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールブチルビニルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル(1,2−ジメトキシプロパン)、2,2−ジエトキシプロパン、3,3−ジエトキシ−1−プロパノール、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(1−メトキシ−2−プロパノール)、プロピレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、およびそれらの混合物からなる群より選ばれる請求項9記載の方法。
【請求項12】
希土類元素に対する水のモル比が約1以下である請求項9記載の方法。
【請求項13】
安定化添加剤が、リン酸(H3PO4);リン酸のモノおよびジアルキルエステル;o−亜リン酸(H3PO3);メタリン酸;モノアルキルホスホン酸;アルキルホスホン酸のモノエステル;ホスフィン酸の有機誘導体;硫酸;ピロ硫酸;アルカンおよびアレーンスルホン酸;スルファニル酸(4−(H2N)C64SO3H);アルカンおよびアレーンスルフィン酸;ホウ酸(B(OH)3);メタホウ酸(HBO2);およびそれらの混合物からなる群より選ばれる請求項9記載の方法。
【請求項14】
該反応温度が約40℃〜約60℃の範囲にある請求項9記載の方法。
【請求項15】
a)希土類トリス(有機リン酸塩);ならびに
b)炭化水素溶媒:
を含む製品であり、
希土類元素に対する遊離酸のモル比が約5以下である製品。
【請求項16】
希土類トリス(有機リン酸塩)溶液であり:
a)希土類トリス(有機リン酸塩);
b)炭化水素溶媒;
c)水;ならびに
d)プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、ジ(プロピレングリコール)、エチレングリコール(1,2−エタンジオール)、ジ(エチレングリコール)、1,2−、1,3−および1,4−ブタンジオール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールt−ブチルエチルエーテル、エチレングリコールt−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールブチルビニルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル(1,2−ジメトキシプロパン)、2,2−ジエトキシプロパン、3,3−ジエトキシ−1−プロパノール、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(1−メトキシ−2−プロパノール)、プロピレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル;リン酸(H3PO4);リン酸のモノおよびジアルキルエステル;o−亜リン酸(H3PO3);メタリン酸;モノアルキルホスホン酸;アルキルホスホン酸のモノエステル;ホスフィン酸の有機誘導体;硫酸;ピロ硫酸;アルカンおよびアレーンスルホン酸;スルファニル酸(4−(H2N)C64SO3H);アルカンおよびアレーンスルフィン酸;ホウ酸(B(OH)3);メタホウ酸(HBO2);およびそれらの混合物からなる群より選ばれる安定化添加剤、を含み、
希土類元素に対する水のモル比が約2以下であり、そして希土類元素に対する安定化添加剤のモル比が約5以下である溶液。
【請求項17】
希土類トリス(有機リン酸塩)が、少なくとも約20日間、好ましくは少なくとも約30日間溶液から沈殿を生じない請求項16記載の組成物。

【公開番号】特開2011−132251(P2011−132251A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−34151(P2011−34151)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【分割の表示】特願2000−614261(P2000−614261)の分割
【原出願日】平成12年4月25日(2000.4.25)
【出願人】(501417310)ローディア エレクトロニクス アンド カタリシス インコーポレイティド (1)
【Fターム(参考)】