説明

希土類合金粉末回収方法

【課題】全体がメッキ層により覆われた希土類磁石に対し、水素雰囲気下において、脱磁処理および粉砕処理を一度に行うとともに、合金成分とメッキ部分とを分離して希土類合金粉末を回収する希土類合金粉末回収方法を提案する。
【解決手段】全体がメッキ層1aにより覆われた希土類磁石1から希土類合金粉末1bを回収する希土類合金粉末回収方法であって、希土類磁石1のメッキ層1aに、希土類磁石1に到達する線状の切欠2を形成した後に、希土類磁石1を水素雰囲気炉3に投入し、水素吸収現象を生じさせる温度まで昇温して一定時間保持することにより、希土類合金に多数のクラックを発生させるとともに当該希土類合金を粉砕して、メッキ層1bと希土類合金粉末1bとに分離するとともに、上記希土類合金の粉砕の際の発熱反応を利用し、上記希土類合金を脱磁して回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体がメッキ層により覆われた希土類磁石から希土類合金粉末を回収する希土類合金粉末回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネやエコロジーの観点から、ハイブリッド車や電気自動車などの次世代環境対応車が持て囃され、自動車業界は各社が次々と次世代環境対応車の開発および販売を行っている。その進歩は目覚ましいものがあり、特にハイブリッド車や電気自動車の心臓部とも言えるモータやバッテリーにおいては、小型化および高性能化が図られ、今後更なる進化が問われている。またそれに伴い、非鉄金属類を代表とするレアメタルやレアアースなどの原材料は、モータに使用される希土類磁石に使用され、その調達を危惧する声も聞こえてきている。
【0003】
ところで、上記レアアース(希土類元素)を含有する希土類磁石は、ハイブリッド車など次世代環境対応車のモータだけでなく、先端技術を駆使するOA器機、家電製品にも使用されている。特に家電製品では、2000年以降に製造された比較的新しい形式のエアコンや冷蔵庫のコンプレッサ、または洗濯機のモータに希土類磁石が使用されている。
【0004】
また、家電製品の使用年数が、概ね10年程度であることを踏まえると、既存の家電リサイクルルートにおいて、既に希土類磁石を使用した家電製品、特にエアコンや洗濯機が回収されていると推測される。そこで、この家電リサイクルルートから希土類磁石を使用したエアコンや洗濯機などの家電製品を回収することにより、レアメタルやレアアースなどの再生資源を回収することが可能であると考えられる。
【0005】
しかしながら、現在使用済みの家電製品を回収し、リサイクルする過程において、エアコンや冷蔵庫のコンプレッサ、または洗濯機のモータから希土類磁石を取り出して回収することは、殆ど実施されていないのが現状である。
【0006】
なお、エアコンなどに使用されるコンプレッサのリサイクルは、複数業者によって事業化され、鉄、銅、珪素鋼板などの素材に分離して再資源化が行われているものの、モータのコア部分に取り付けられている磁石は単体で分離されることはなく、鉄スクラップとして処理されている。
【0007】
そこで、下記特許文献1においては、希土類磁石の磁石製造の工程から排出される研磨粉、削り屑などのスクラップを、湿水素雰囲気下で加熱処理し、該スクラップから炭素を除去した後に、カルシウムによる直接還元を行う再利用方法が提案されている。
【0008】
また、洗濯機のモータおよびコンプレッサに用いられている希土類磁石は、腐蝕防止のため全体がメッキ層に覆われているものが多く存在する。
そこで、下記特許文献2においては、希土類磁石とNi被膜とを水素を用いて粉末とし、その後磁性によってNi膜を有する希土類合金粉末とNi膜を有していない希土類合金粉末とに分離するという方法が提案されている。
【0009】
さらに、希土類磁石のリサイクル方法としては、使用済みの磁石を粉砕し酸に溶解させて、希土類元素を回収する希土類回収法と、使用済みの磁石を塊状のまま溶解して磁石合金として再生させる合金再生法とがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭61−153201号公報
【特許文献2】特開平5−33073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、上記特許文献1の希土類磁石のスクラップ再生方法は、希土類磁石の製造過程において排出される削り屑などに用いる場合には有効であるが、使用済みの家電製品から取り出したモータなどに使用されている、全体がメッキ層により覆われていた希土類磁石に用いる場合には、モータ自体を分解し、さらに複数の希土類磁石を取り出した後に、一つ一つの希土類磁石に覆われているメッキを取り除く必要があるため、非常に手間が掛かるという問題がある。
【0012】
また、洗濯機のモータに用いられている複数個の希土類磁石は、殆どが樹脂などで覆われているため、この樹脂を事前に取り除く工程が別途必要で、さらに手間が掛かるという問題もある。
【0013】
一方、上記特許文献2のNi被膜希土類合金の再生方法においては、希土類磁石とNi被膜とを水素を用いて粉末にして、その後磁性によりNi膜を有する希土類合金粉末と、Ni膜を有していない希土類合金粉末とに分離するため、全ての希土類合金粉末を回収することが困難であるとともに、手間が掛かるとともに、設備の大型化によるコストの増大も見込まれるという問題がある。
【0014】
さらに、上記合金再生法においては、リサイクルに必要な工程は短いものの、メッキの剥離工程、カーボンの除去工程、分析による成分把握といった前処理が必要であるため、設備の大型化とともに、設備やメンテナンス費用などのコストが嵩むという問題がある。
【0015】
また、上記希土類回収法では、希土類合金粉末を酸により溶解させるため、前処理としてメッキの剥離は必ずしも必要ではない。そのため、メッキが施されたまま酸によって溶解させることができる。しかしながら、この工程においては、メッキを酸で溶解するために酸の使用量が多くなるうえに、メッキ成分が酸に溶解して希釈されるため、メッキ成分の回収および再利用が困難であるという問題がある。
【0016】
さらに、上記希土類回収法においては、使用済みの磁石を100μm程度まで粉砕する必要があるため、別途粉砕機を用意する必要がある。さらに、粉砕の工程を考慮すると事前に脱磁処理を行う必要があるため、上記合金再生法と同様に、設備やメンテナンス費用などのコストが嵩むという問題もある。
【0017】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、全体がメッキ層により覆われた希土類磁石に対し、水素雰囲気下において、脱磁処理および粉砕処理を一度に行うとともに、合金成分とメッキ部分とを分離して希土類合金粉末を回収する希土類合金粉末回収方法を提案することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、全体がメッキ層により覆われた希土類磁石から希土類合金粉末を回収する希土類合金粉末回収方法であって、上記希土類磁石の上記メッキ層に、上記希土類磁石に到達する線状の切欠を形成した後に、上記希土類磁石を水素雰囲気炉に投入し、水素吸収現象を生じさせる温度まで昇温して一定時間保持することにより、希土類合金に多数のクラックを発生させるとともに当該希土類合金を粉砕して、上記メッキ層と上記希土類合金粉末とに分離するとともに、上記希土類合金の粉砕の際の発熱反応を利用し、上記希土類合金を脱磁することを特徴とするものである。
【0019】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記希土類磁石を上記水素雰囲気炉に投入した際に、250〜400℃まで昇温して5〜30分間保持することを特徴とするものである。
【0020】
そして、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記水素雰囲気炉内で分離した上記メッキ層と上記希土類合金粉末とを上記水素雰囲気炉から取り出した後に、篩い分けにより個別に回収することを特徴とするものである。
【0021】
さらに、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記メッキは、Niメッキであることを特徴するものである。
【0022】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、上記希土類磁石は、Nd−Fe−B磁石であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
請求項1〜5に記載の本発明によれば、全体がメッキ層により覆われた希土類磁石に、当該希土類磁石に到達する線状の切欠を予め設けた後に、当該希土類磁石を水素雰囲気炉に投入し、水素吸収現象を生じさせる温度まで昇温して一定時間保持することにより、当該切欠より水素が侵入し、当該希土類合金が水素を吸収してHD現象(Hydrogen Decrepitation)を起こし、上記メッキ層と上記希土類合金粉末とに分離することができるため、防蝕のために全体がメッキ層により覆われた希土類磁石であっても、別途メッキ層を剥離するための設備を設けることなく、水素雰囲気炉内において、HD現象を起こさせ、希土類合金粉末とメッキ層とに分離することができるとともに、各々を個別に回収することを容易に行うことができる。この結果、希土類磁石のリサイクルとともに、メッキのリサイクルも行うことができる。
【0024】
また、上記HD現象による上記希土類合金と上記水素との反応は、発熱反応であるため、上記水素雰囲気炉内において、上記希土類合金をキュリー温度以上に加熱することなく、脱磁することができる。これにより、上記水素雰囲気炉の温度を高くする必要がなく、さらに脱磁するための設備を別途設ける必要もないから、燃料や設備に掛かるコストを抑えることができる。
【0025】
請求項3に記載の本発明によれば、上記水素雰囲気炉内で分離した上記メッキ層と上記希土類合金粉末との形状および大きさが著しく異なるため、上記水素雰囲気炉から取り出した後に、篩い分けすることにより、簡便に上記メッキ層と上記希土類合金粉末とを個別に回収することができる。この結果、各々を目的に合わせて再利用しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の希土類合金粉末回収方法の一実施形態であり、全体がメッキ層で覆われた希土類磁石に切欠を形成して水素雰囲気炉に投入した後に取り出す一連の工程を模した概略図である。
【図2】図1の水素雰囲気炉から取り出した希土類磁石を篩い分け機により篩い分けして個別に分離する工程を模した概略図である。
【図3】エアコンのコンプレッサのロータを示す概略図である。
【図4】全体がメッキ層で覆われた希土類磁石に切欠を形成せずに水素雰囲気炉に投入した後に取り出す一連の工程を模した概略図である。
【図5】HD現象に与えるNiメッキ層の切欠形状の影響について示し、No.1〜4に各々の形状の実験結果をまとめた表である。
【図6】HD現象に与えるNiメッキ層の切欠形状の影響について示し、No.5〜7に各々の形状の実験結果をまとめた表である。No.5〜7は、全体をNiメッキで覆われた希土類磁石のメッキ層に形成した切欠の場所を変えて粉砕実験を行った結果を示す表である。
【図7】異なるDyの添加量によるHD現象に関しての実験結果を示し、(a)は自動車のモータ磁石、(b)はハードディスクVCM磁石、(c)は洗濯機のモータ磁石である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<実施例1>
図1に示すように、本発明の希土類合金粉末回収方法の一実施形態は、全体がメッキ層1aにより覆われた希土類磁石1に、切欠2を形成し、水素雰囲気炉3に投入して300℃まで昇温し、10分間保持することにより、水素雰囲気炉内において、メッキ層1aと希土類合金粉末1bとに分離するとともに、希土類合金と水素との発熱反応の際に、当該希土類合金を脱磁し、メッキ層1aと希土類合金粉末1bとを個別に回収するように概略構成されている。
【0028】
また、図2に示すように、水素雰囲気炉3内において、メッキ層1aと希土類粉末1bとに分離した希土類磁石1を水素雰囲気炉3から取り出した後に、篩い分けするための篩い分け機7を備えている。この篩い分け機7は、平面視が長方形の容器7aに濾し板7bが設けられているとともに、モータの回転により振動を発生する振動発生機7cが容器7aの側面に取り付けられている。また容器7aは、長手方向の側面が開口しているとともに、濾し網7bが容器7aの底板と同形状に形成されているとともに、高さ方向の中央に配置されている。
【0029】
ここで、全体がメッキ層1aにより覆われた希土類磁石1は、例えば希土類のネオジムを含むNd−Fe−B磁石1であるとともに、メッキ層1aがNiメッキ層1aである。このように、全体がNiメッキ層1aに覆われているNd−Fe−B磁石1は、エアコンまたは冷蔵庫のコンプレッサのロータ、洗濯機のモータ、自動車のモータ、ハードディスクドライブなどに使用されているものである。
【0030】
また、水素雰囲気炉3は、水素を封入した炉内の内圧を0.3kgf/cm2程度の水素加圧状態に調整することができるとともに、400℃まで昇温することができる。さらに、炉内が負圧になると危険なため、炉内の内圧を監視するとともに、当該内圧が低下した場合には、水素が追加できるように構成されている。さらに、上記内圧が低下した際に、炉内温度も低下した場合には、上記内圧の低下が生じる時点の温度まで再び昇温し、その温度を保持することができるように構成されている。
【0031】
以上の構成からなる希土類合金粉末回収方法を用いて、全体がNiメッキ層1aにより覆われたNd−Fe−B磁石1を、Niメッキ層1aと、Nd−Fe−B合金粉末1bとに分離して回収するには、まず、図3に示すように、エアコンのコンプレッサからロータ6を取り外す。そして、このロータ6全体を貫いているピン5の頭部のかしめ部分をドリルなどにより削り取るとともに、押さえ板4を取り外し内装されているNd−Fe−B磁石1を取り出す。
【0032】
次いで、図1に示すように、全体がNiメッキ層1aに覆われた長さ20mm、幅10mm、厚さ2mmのNd−Fe−B磁石1のNiメッキ層1aに切欠2を形成する。この切欠2は、長さ2mmの線状に形成するとともに、Nd−Fe−B磁石1の表面に到達するように形成する。
【0033】
そして、切欠2を形成したNd−Fe−B磁石1を水素雰囲気炉3に投入する。投入後、水素雰囲気炉3の内圧を0.3kgf/cm2程度の水素加圧状態に調整し、300℃まで炉内を昇温するとともに、10分間保持する。この時に、水素雰囲気炉3内では、Nd−Fe−B磁石1が270℃まで加熱されるとともに、Nd−Fe−B磁石1のNiメッキ層1aに形成された切欠2から水素が侵入する。この水素の侵入により、Nd−Fe−B合金が水素を吸収するとともに、水素原子が当該Nd−Fe−B合金の結晶格子間に侵入して、当該結晶格子が体積膨張し、そこに発生した歪みが伝播することにより、Nd−Fe−B合金にクラックが多数入り粉砕される。これは、HD現象と呼ばれているもので、Nd−Fe−B合金などの希土類合金が低温において水素を吸収するという特性を利用したものである。
【0034】
このように、水素が上記Nd−Fe−B合金の結晶格子間に侵入し、当該結晶格子が膨張することにより発生した歪みは、結晶粒界に集中するため、クラックが発生し粒界破壊が起きる。この粒界破壊だけで歪みが開放されないと、この歪みは、結晶粒界内にも影響を与え粒内破壊を起こさせる。これらの破壊が繰り返し起こることにより、上記Nd−Fe−B合金は、概ね1μm〜100μmに粉砕される。
【0035】
また、上記Nd−Fe−B合金が水素を吸収する吸収反応は、発熱反応であるため、まず低温において水素を吸収しやすい結晶相が反応してHD現象を起こし、その界面で温度が上昇し、その熱は次に水素を吸収しやすい相にHD現象を誘起することにより、順次伝播して連鎖反応的にHD現象が起こる。この際に、水素雰囲気炉3内を300℃まで昇温し、Nd−Fe−B磁石1を270℃まで加熱するだけでも、上記HD現象により生じた発熱反応を利用し、上記Nd−Fe−B磁石1を脱磁することができる。
【0036】
そして、Nd−Fe−B磁石1は、水素雰囲気炉3内に10分間保持された後に、水素雰囲気炉3から取り出すと、HD現象により上記Nd−Fe−B合金が、概ね1μm〜100μmまでの粉末状態になっており、また上記HD現象によって上記Nd−Fe−B合金が膨張し、Niメッキ層1aに形成された線状の切欠2をめくり上がるとともに、その線状の端部に応力が集中し亀裂が入り、Niメッキ層1aが崩壊した状態になる。これにより、Niメッキ層1aとNd−Fe−B合金粉末1bとは、形状および大きさが著しく異なり、図2に示す篩い分け機7を用いることにより、Niメッキ層1aとNd−Fe−B合金粉末1bとを個別に回収することができる。
【0037】
<比較例1>
上記HD現象は、全体がNiメッキ層1aに覆われたNd−Fe−B磁石1のNiメッキ層1aに線状の切欠2を形成し、この切欠2から水素が侵入して起こるものであるため、図4に示すように、全体がNiメッキ層1aに覆われたNd−Fe−B磁石1に切欠2を形成せずに、水素雰囲気炉3に投入し、300℃まで昇温して10分間保持しても、全体がNiメッキ層1aに覆われたNd−Fe−B磁石1は、Nd−Fe−B合金が水素を吸収することができず、上記HD現象が起こらない。したがって、Niメッキ層1aとNd−Fe−B合金粉末1bとに分離することができない。
【0038】
<実施例2>
また、Nd−Fe−B磁石1に形成した線状の切欠2の形状が、上記HD現象にどのような影響を与えるかについて実験し、図5および図6にまとめた。
この実験は、以下の条件によって行われた。
・磁石 洗濯機用モータのNd−Fe−B磁石
・処理条件 0.3kgf/cm2の水素雰囲気中
10℃/min昇温
400℃−30min保持
【0039】
この実験の結果、Niメッキ層1aの面上および角部の1箇所または数箇所に、長さ2mm〜10mmの切欠2を形成したいずれの場合でも、水素雰囲気炉3内において上記HD現象が起こり、Niメッキ層1aとNd−Fe−B合金粉末1bとに分離することを確認した。また、No.6に示すように、Nd−Fe−B磁石1の端面の一面のNiメッキ層1aを取り除いた場合でも、同様な結果を得ることができることが確認された。
【0040】
この実験により、全体がNiメッキ層1aに覆われたNd−Fe−B磁石1のNiメッキ層1aには、水素がNd−Fe−B合金の結晶格子間に侵入することができ、さらに上記HD現象によるNd−Fe−B合金の結晶格子の膨張が起こった際に、応力の集中により亀裂が入り崩壊する長さ2mm〜10mmの切欠2が形成されていれば、Niメッキ層1aとNd−Fe−B合金粉末1bとに分離することができることが判明した。
【0041】
<実施例3>
ところで、レアアースであるネオジムを用いたNd−Fe−B磁石1は、保磁力を高める添加物として、Dy(ジスプロシウム)の利用が急増している。
そこで、発明者は、Dy添加量の異なるNd−Fe−B磁石1のHD現象について実験し、その結果を図7にまとめた。
なお、以下(a)〜(c)のキュリー温度は、以下の通りである。
(a) 335℃
(b) 360℃
(c) 328℃
【0042】
この実験は、以下の条件によって行われた。
・磁石 (a)自動車のモータのNd−Fe−B磁石(Dy10%)
(b)ハードディスクVCMのNd−Fe−B磁石(Dy1〜3%)
(c)洗濯機用のモータのNd−Fe−B磁石(Dy5%)
・処理条件 0.3kgf/cm2の水素雰囲気中
10℃/min昇温
400℃−30min保持
【0043】
この実験では、各々のNd−Fe−B磁石1のNiメッキ層1aに長さ2mmの線状の切欠2を形成して行った。その結果、Dyの含有量の異なるNd−Fe−B磁石1は、いずれもHD現象によるNd−Fe−B合金の粉砕、Niメッキ1aの崩壊が確認された。
この実験により、HD現象は、Dyの添加量に左右されるものでないことが判明した。
【0044】
上述の実施例による希土類合金粉末回収方法によれば、全体がNiメッキ層1aにより覆われたNd−Fe−B磁石1に、Nd−Fe−B磁石1に到達する線状の切欠2を予め設けた後に、Nd−Fe−B磁石1を水素雰囲気炉3に投入し、250〜400℃まで昇温した後に、5〜30分間保持することにより、Nd−Fe−B合金が水素を吸収し、Nd−Fe−B合金の結晶格子間に水素原子が侵入してHD現象を起こして、Nd−Fe−B合金が粉砕し、Niメッキ層1aとNd−Fe−B合金粉末1bとに分離することができるため、防蝕のために全体がNiメッキ層1aに覆われたNd−Fe−B磁石1であっても、別途Niメッキ層1aを剥離するための設備を設けることなく、水素雰囲気炉3内において、Niメッキ層1aとNd−Fe−B合金粉末1bとに分離することができるとともに、各々を個別に回収することを容易に行うことができる。この結果、Nd−Fe−B磁石1のリサイクルとともに、Niメッキのリサイクルも行うことができる。
【0045】
また、水素雰囲気炉3内で分離したメッキ層1aとNd−Fe−B合金粉末1bとの形状および大きさが著しく異なるため、水素雰囲気炉3から取り出した後に、篩い分け機7を用いることにより、簡便にメッキ層1aとNd−Fe−B合金粉末1bとを個別に回収するこことができる。この結果、各々を目的に合わせて再利用しやすくなる。
【0046】
また、Nd−Fe−B磁石1は、保磁力を高めるための添加剤であるDyの添加量に左右されることなく、水素雰囲気炉3内において、HD現象によりNd−Fe−B合金を粉砕することができる。これにより、自動車用モータ、エアコンのコンプレッサ、ハードディスクドライブなどに用いられている全体がNiメッキ層1aに覆われたNd−Fe−B磁石1のリサイクルを行うことができる。
【0047】
そして、HD現象がNd−Fe−B合金と水素との発熱反応によって起こるため、水素雰囲気炉3内において、Nd−Fe−B合金をキュリー温度以上に加熱しなくても、脱磁を行うことができる。この結果、水素雰囲気炉内を高温にする必要がなく、さらに脱磁するための設備を別途設ける必要がない。これにより、燃料や設備に掛かるコストを抑えることができる。
【0048】
なお、上記実施の形態において、全体がNiメッキ層1aに覆われたNd−Fe−B磁石1の形状が、長さを20mm、幅を10mm、厚さを2mmとした場合のみ説明したが、これに限定されるものでなく、例えば、モータやコンプレッサに使用されている様々な形状のNd−Fe−B磁石1に対応可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
全体がメッキ層により覆われた希土類磁石に利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 Nd−Fe−B磁石(希土類磁石)
1a Niメッキ層(メッキ層)
1b Nd−Fe−B合金粉末(希土類合金粉末)
2 切欠
3 水素雰囲気炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体がメッキ層により覆われた希土類磁石から希土類合金粉末を回収する希土類合金粉末回収方法であって、
上記希土類磁石の上記メッキ層に、上記希土類磁石に到達する線状の切欠を形成した後に、上記希土類磁石を水素雰囲気炉に投入し、水素吸収現象を生じさせる温度まで昇温して一定時間保持することにより、希土類合金に多数のクラックを発生させるとともに当該希土類合金を粉砕して、上記メッキ層と上記希土類合金粉末とに分離するとともに、上記希土類合金の粉砕の際の発熱反応を利用し、上記希土類合金を脱磁することを特徴とする希土類合金粉末回収方法。
【請求項2】
上記希土類磁石を上記水素雰囲気炉に投入した際に、250〜400℃まで昇温して5〜30分間保持することを特徴とする請求項1に記載の希土類合金粉末回収方法。
【請求項3】
上記水素雰囲気炉内で分離した上記メッキ層と上記希土類合金粉末とを上記水素雰囲気炉から取り出した後に、篩い分けにより個別に回収することを特徴とする請求項1または2に記載の希土類合金粉末回収方法。
【請求項4】
上記メッキは、Niメッキであることを特徴する請求項1〜3のいずれかに記載の希土類合金粉末回収方法。
【請求項5】
上記希土類磁石は、Nd−Fe−B磁石であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の希土類合金粉末回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−62533(P2012−62533A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207965(P2010−207965)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】