説明

帯鋸刃案内装置による帯鋸刃挟持方法及び帯鋸刃案内装置

【課題】帯鋸刃を挟持案内する固定インサートブロックと可動インサートブロックとの間の間隙を、帯鋸刃の厚さに対応した適正間隙に保持することのできる帯鋸刃の挟持方法及び帯鋸刃案内装置を提供する。
【解決手段】帯鋸刃案内装置に備えた固定インサートブロック9と可動インサートブロック15とによって帯鋸刃5の胴部を挟持するとき、可動インサートブロック15を固定インサートブロック9側へ移動するためのインサートブロック移動手段21に含まれる戻り許容手段33を戻り可能な状態に保持して可動インサートブロック15の移動を行い、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15とによって帯鋸刃5を強固に挟持した後、戻り許容手段33を含むインサートブロック移動手段21全体を機械的固定手段45によって不動状態に固定し、この固定状態において戻り許容手段33の戻り許容作動によって固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間の間隙を帯鋸刃5の厚さに対応した適正間隙に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯鋸盤における帯鋸刃案内装置による帯鋸刃挟持方法及び帯鋸刃案内装置に係り、さらに詳細には帯鋸刃案内装置に備えた固定インサートブロックと可動インサートブロックとによって帯鋸刃の胴部を挟持して案内する際、帯鋸刃における胴部の厚さが帯鋸刃の種類毎に変わる場合であっても、前記固定インサートブロックと可動インサートブロックとの間の間隙を常に適正な間隙に保持することができる帯鋸刃案内装置による帯鋸刃挟持方法及び帯鋸刃案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
帯鋸盤には、竪型帯鋸盤と横型帯鋸盤とがあり、上記両帯鋸盤には、帯鋸刃でもってワークの切断を行うとき、ワークに近接した両側位置で帯鋸刃の胴部を挟持して案内する帯鋸刃案内装置が備えられている。上記帯鋸刃案内装置は、帯鋸刃の背部を支持し案内する背部支持部材と、帯鋸刃の胴部を挟持して案内するための固定インサートブロック及び可動インサートブロックと、前記可動インサートブロックを前記固定インサートブロック側へ押圧するためのインサートブロック押圧手段とを備えている。
【0003】
従来、前記インサートブロック押圧手段は、偏心カムを回動して可動インサートブロックを押圧する構成や、小型の油圧シリンダによって可動インサートブロックを押圧する構成が一般的である。前記偏心カムを利用した構成においては、可動インサートブロックを固定インサートブロック側へ移動する位置は常に一定であるので、胴部の薄い帯鋸刃に対応して固定インサートブロックと可動インサートブロックとの間の間隙が適正間隙に設定してあると、胴部が厚い帯鋸刃の場合には、固定インサートブロックと可動インサートブロックとによって帯鋸刃の胴部を強固に挟持することがあるという問題がある。逆に、胴部が厚い帯鋸刃に対応して前記間隙を設定すると、胴部が薄い帯鋸刃の場合には、帯鋸刃とインサートブロックとの間に大きな間隙を生じ、帯鋸刃が傾斜して切り曲りを生じ易いという問題がある。
【0004】
小型の油圧シリンダによって可動インサートブロックを押圧する構成においては、帯鋸刃における胴部の厚さに拘わりなく、固定インサートブロックと可動インサートブロックとによって帯鋸刃の胴部を常に強固に挟持し案内する構成であるから、両インサートブロックの摩耗が激しいと共に、帯鋸刃を駆動する動力が大きくなるという問題がある。
【0005】
そこで、固定インサートブロックと可動インサートブロックとによって帯鋸刃の胴部を強固に挟持した後に、可動インサートブロックを僅かに戻すことが行われている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−340640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に記載の構成は、図11に示すように、可動インサートブロック151を油圧シリンダ153によってレバー154を介して固定インサートブロック155側へ移動して、固定インサートブロック155と可動インサートブロック151とによって帯鋸刃157の胴部を強固に挟持した後に、上記油圧シリンダ153内の圧油をブースタ159の小シリンダ161内に吸引して、可動インサートブロック151を僅かに戻す構成である。したがって、帯鋸刃157における胴部の厚さに拘わりなく固定インサートブロック155と可動インサートブロック151との間の間隙を適正な間隙に保持することができることになる。
【0008】
ところで、前記固定インサートブロック155と可動インサートブロック151との間隔寸法から帯鋸刃157の厚さ寸法を減算したときの間隙寸法の値が0.05mmの場合を適正間隙と仮定し、特許文献1に記載の発明を実際の帯鋸盤に適用することを想定して、前記レバー154のレバー比を1:2とすると、前記固定インサートブロック155と可動インサートブロック151とによって帯鋸刃157を強固に挟持した後に、前記可動インサートブロック151を0.05mm後退するには、前記油圧シリンダ153のピストンを0.1mm後退させる必要がある。
【0009】
ここで、前記油圧シリンダ153の直径を10mm、元圧50kgfとすると、可動インサートブロック151によるクランプ力は、0.785cm2(シリンダ断面積)×50kgf/cm2(元圧)×2(レバー比)=78.5kgfとなる。ここで、前記油圧シリンダ153のピストンを0.1mm後退させるための油量は、0.01cm×0.785cm2=0.00785cm3=0.785ccとなる。すなわち、前記油圧シリンダ153から約0.8ccの圧油を排出することになる。
【0010】
前述のごとく、78.5kgf/cm2の圧力でもって帯鋸刃157を挟圧した後、0.8cc程度の微量の圧油を排出しても、圧力が低下するのみで、帯鋸刃157の挟圧が解除されない場合がある。すなわち、油圧機構に使用される圧油には、空気などの微量の気体が含まれている場合があり、上記微量の気体の体積が膨張するにすぎない場合があるものである。したがって、油圧シリンダを利用した構成においては、実際的に使用するに当っては問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前述のごとき従来の問題に鑑みてなされたもので、帯鋸盤における帯鋸刃案内装置による帯鋸刃挟持方法であって、帯鋸刃案内装置に備えた固定インサートブロックと可動インサートブロックとによって帯鋸刃の胴部を挟持するとき、前記可動インサートブロックを固定インサートブロック側へ移動するためのアクチュエータによって押圧移動される押圧力伝達部材と、当該押圧力伝達部材の移動によって受動的に移動され、かつ前記押圧力伝達部材に対して相対的に移動可能な受動部材とを備えた戻り許容手段を戻り可能な状態に保持して前記可動インサートブロックの移動を行い、前記固定インサートブロックと可動インサートブロックとによって帯鋸刃を強固に挟持した後、前記戻り許容手段における前記押圧力伝達部材又は前記受動部材の一方を機械的固定手段によって不動状態に固定し、この固定状態において前記戻り許容手段の戻り許容作動によって前記可動インサートブロックを予め設定された戻り量だけ戻して、前記固定インサートブロックと可動インサートブロックとの間の間隙を帯鋸刃の厚さに対応した適正間隙に保持することを特徴とするものである。
【0012】
また、前記帯鋸刃案内装置による帯鋸刃挟持方法において、前記適正間隙は、帯鋸刃の幅寸法をLとし、前記固定インサートブロックと可動インサートブロックとの間隔寸法から帯鋸刃の厚さ寸法を減算した値をSとしたとき、S/Lが1/1000〜1/1100の範囲であることを特徴とするものである。
【0013】
また、帯鋸盤における帯鋸刃案内装置であって、帯鋸刃の背部を支持し案内する背部支持部材、帯鋸刃の胴部を挟持し案内するための固定インサートブロック及び当該固定インサートブロックに対向して備えられた可動インサートブロックを備えた本体ブロックと、前記可動ブロックを前記固定インサートブロック側へ移動するためのアクチュエータと、このアクチュエータと前記可動ブロックとの間に備えられ、前記アクチュエータの作動によって前記可動インサートブロックを移動するためのインサートブロック移動手段と、このインサートブロック移動手段に含まれ、前記固定インサートブロックとの間に帯鋸刃を強固に挟持した可動インサートブロックの、予め設定された戻り量だけ戻りを許容するための戻り許容手段とを備え、前記戻り許容手段は、前記アクチュエータによって直接押圧される押圧力伝達部材と、当該押圧力伝達部材の移動によって受動的に移動され、かつ前記押圧力伝達部材に対して相対的に移動可能な受動部材とを備えた構成であり、上記戻り許容手段の前記押圧力伝達部材又は前記受動部材を固定可能な機械的固定手段と、を備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、可動インサートブロックを移動するためのアクチュエータと可動インサートブロックとの間に、可動インサートブロックを固定インサートブロック側へ移動するためのインサートブロック移動手段を備え、このインサートブロック移動手段に、可動インサートブロックの戻りを許容する戻り許容手段を備え、この戻り許容手段を機械的に固定する機械的固定手段を備えている。したがって、可動インサートブロックを常に一定量だけ戻ることを許容し、固定インサートブロックと可動インサートブロックとの間の間隙を、帯鋸刃の厚さに対応した適正間隙に保持できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る帯鋸刃案内装置の構成を概念的、概略的に示した作用説明図である。
【図2】機械的固定手段の構成を示す説明図である。
【図3】第2の実施形態に係る帯鋸刃案内装置の概念的、概略的な説明図である。
【図4】第3の実施形態に係る帯鋸刃案内装置の概念的、概略的な説明図である。
【図5】第4の実施形態に係る帯鋸刃案内装置の概念的、概略的な説明図である。
【図6】第5の実施形態に係る帯鋸刃案内装置の概念的、概略的な説明図である。
【図7】第6の実施形態に係る帯鋸刃案内装置の概念的、概略的な説明図である。
【図8】第7の実施形態に係る帯鋸刃案内装置の概念的、概略的な説明図である。
【図9】第8の実施形態に係る帯鋸刃案内装置の概念的、概略的な説明図である。
【図10】間隙寸法と切曲りとの関係を示した実験データである。
【図11】従来の帯鋸刃案内装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に概念的、概略的に示すように、本発明の実施形態に係る帯鋸刃案内装置1は、本体ブロック3を備えており、この本体ブロック3には、一般的な竪型帯鋸盤、横型帯鋸盤における帯鋸刃案内装置と同様に、帯鋸刃5の背部を支持し案内するローラ又はブロックなどのごとき適宜の背部支持部材7を備えている。また、前記本体ブロック3には、前記帯鋸刃5の胴部を挟持案内するための固定インサートブロック9を内側に一体的に備えた固定側インサートアーム11が一体に備えられている。
【0017】
さらに、前記本体ブロック3には、前記固定側インサートアーム11と対向する可動側インサートアーム13が備えられており、この可動側インサートアーム13の内側には、前記固定インサートブロック9と対向して前記帯鋸刃5を挟持案内する可動インサートブロック15が、前記固定インサートブロック9に対して接近離反する方向へ移動自在に備えられている。ところで、本実施形態においては、前記可動側インサートアーム13は前記本体ブロック3に一体に設けてある。しかし、前記可動側インサートアーム13は、前記固定側インサートアーム11に対して接近離反する方向へ移動(回動)可能かつ接近した状態に固定可能に設けることもできるものである。
【0018】
前記可動インサートブロック15を、前記固定インサートブロック9に対して接近離反する方向へ移動自在な構成として、前記可動側インサートアーム13を移動自在に貫通したスライドロッド17の先端部が前記可動インサートブロック15に一体的に連結してある。そして、このスライドロッド17の基端側に備えたフランジ部17Fと前記可動側インサートアーム13との間には、前記可動インサートブロック15を固定インサートブロック9から離反する方向へ付勢するコイルスプリングなどのごとき弾性部材19が弾装してある。
【0019】
さらに、前記本体ブロック3には、前記可動インサートブロック15を固定インサートブロック9側へ押圧移動するためのインサートブロック押圧手段(インサートブロック移動手段)21が備えられている。より詳細には、前記本体ブロック3に備えたブラケット23に枢軸25を介して揺動レバー27が揺動自在(回動自在)に支持されており、この揺動レバー27の先端部(下端部)は前記スライドロッド17におけるフランジ部17Fに当接してある。そして、前記揺動レバー27を揺動するために、前記本体ブロック3には、例えば流体圧シリンダなどのごとき直動型のアクチュエータ29が備えられている。そして、この直動型アクチュエータ29において往復動自在なピストンロッドなどのごとき往復作動子31と前記揺動レバー27の上部との間には、前記可動インサートブロック15の僅かな戻りを許容する戻り許容手段33が備えられている。
【0020】
上記構成により、前記直動型アクチュエータ29を作動し、戻り許容手段を介して揺動レバー27を、図1において時計回り方向に回動すると、当該揺動レバー27の下端部でもってスライドロッド17を弾性部材19の付勢力に抗して押圧することになる。したがって、可動インサートブロック15が固定インサートブロック9側へ移動され、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15とによって帯鋸刃5の胴部を強固に挟圧することになる。
【0021】
上述のように、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15とによって帯鋸刃5を強固に挟圧した状態においてワーク(図示省略)の切断を行うと、切り曲りを抑制することができるものの、両インサートブロック9,15と帯鋸刃5との摩擦が大きいと共に両インサートブロック9,15の摩耗が激しくなるという問題がある。
【0022】
そこで、本実施形態においては、前記固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間の間隙を、帯鋸刃5における胴部の厚さに対応して予め設定された適正間隙(固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間の間隙寸法から帯鋸刃5の厚さ寸法を減算したときの間隙寸法)に保持するための手段が講じられている。すなわち、前記戻り許容手段33は、前記アクチュエータ29の押圧力を前記揺動レバー27へ伝達する機能を備えている。また、戻り許容手段33は、前述したように、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15とによって帯鋸刃5を強固に挟圧(挟持)した後に、可動インサートブロック15が僅かに戻ることを許容する機能を備えている。
【0023】
より詳細には、前記戻り許容手段33は、図1において左右方向へ移動自在な筒状の中空スライダ35を備えており、この中空スライダ35内には、図1において左右方向へ僅かに移動自在なピストンなどのごときスライダ37を備えている。そして、このスライダ37には、前記中空スライダ35の両端側から突出したピストンロッドなどのごときスライドロッド39を備えている。このスライドロッド39の一端部(図において左端部)は、前記往復作動子31の先端部に当接自在であり、スライドロッド39の他端部は、前記揺動レバー27に備えた調節ねじなどのごとき当接部材41に当接自在である。
【0024】
前記本体ブロック33に移動自在に備えられた前記中空スライダ35を、前記アクチュエータ29方向へ常に押圧付勢するために、前記本体ブロック3には、例えば板ばね、コイルスプリングなどのごとき適宜の弾性部材43が備えられている。また、前記本体ブロック33には、前記戻り許容手段33を含む前記インサートブロック移動手段(インサートブロック押圧手段)21全体を不動状態に固定可能な機械的固定手段45を備えている。
【0025】
上記機械的固定手段45の構成としては公知であるが、念のために説明すると、図2に示すごとき構成である。すなわち、機械的固定手段45は、筒状の固定本体47を備えており、この固定本体47内には、例えばロッドなどのごとき移動体49を締付け自在なコレット51を備えている。そして、上記コレット51の径を拡縮するために、上記コレット51の外周面のテーパ面と嵌合して内周面がテーパ面の筒状のピストン53がスラスト方向へ移動自在に備えられており、このピストン53と固定本体47との間には、ピストン53を元の位置へ戻すための復帰スプリング55が内装されている。
【0026】
したがって、入口57から固定本体47内へ作動流体を供給し、図2において、ピストン53を、復帰スプリング55の付勢力に抗して左方向へ移動すると、コレット51が縮径されて、コレット51内の移動体49を締付け固定することになる。そして、作動流体を排出すると、復帰スプリング55の作用によってピストン53が初期の位置へ復帰され、コレット51による移動体49の締付けが解除され、移動体49は移動可能になるものである。
【0027】
以上のごとき構成において、前記固定インサートブロック9に対して可動インサートブロック15が大きく離反して、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間の間隙を大きく開いた状態にあるときに、前記固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間に帯鋸刃5の胴部を配置し、帯鋸刃5の背部を背部支持部材7に当接する。
【0028】
その後、アクチュエータ29を作動し、図1(A)において、往復作動子31を右方向へ移動すると、戻り許容手段33におけるスライドロッド39を介して揺動レバー27が時計回り方向に回動されて、スライドロッド17、可動インサートブロック15を、固定インサートブロック9方向へ移動する。そして、前記戻り許容手段33におけるスライダ37の右端部が中空スライダ35に当接すると、当該中空スライダ35は、弾性部材43の付勢力に抗して一体的に移動される。したがって、帯鋸刃5は、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15とによって強固に挟圧(挟持)されることになる。
【0029】
上述のように、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15とによって帯鋸刃5を強固に挟圧したときに、機械的固定手段45によって、中空スライダ35を本体ブロック3に不動状態に固定する(図1(B)参照)。その後、アクチュエータ29を元の初期状態に戻すと、弾性部材19の作用によってインサートブロック押圧手段(インサートブロック移動手段)21及び戻り許容手段33におけるスライドロッド39等は、中空スライダ35内においてのスライダ37の移動範囲において僅かに戻されることになる。
【0030】
したがって、可動インサートブロック15は、帯鋸刃5を強固に挟圧した状態から、帯鋸刃5の挟圧を緩める方向へ、僅かに(例えば0.05mm位)戻されることとなり、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間の間隙が、帯鋸刃5の厚さに対応した適正値の間隙に保持されることになる。
【0031】
上記説明より理解されるように、前記スライドロッド39は、前記アクチュエータ29によって直接押圧移動されて、アクチュエータ29の押圧力を前記揺動レバー27へ伝達する押圧力伝達部材をなすものである。そして、前記中空スライダ35は、前記押圧力伝達部材としてのスライドロッド39に備えたスライダ37が当接すると、受動的に一体的に移動される受動部材をなすものである。この受動部材としての中空スライダ35は、前記押圧力伝達部材(スライダ37)に対して相対的に移動可能に備えられている。
【0032】
前記固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間隙は、戻り許容手段33における前記スライダ37に対する前記中空スライダ35の相対的な移動可能量によって予め設定されているものである。上記戻り許容手段33は、機械的固定手段45によって本体ブロック3に不動状態に固定された状態において可動インサートブロック15の僅かな戻りを許容するものであり、前記アクチュエータ29から切り離された状態にあるので、アクチュエータ29の戻りを制御又は調節する必要がないものである。すなわち、戻り許容手段33の戻り動作は、アクチュエータ29から独立した形態において行われ、戻り許容手段33とアクチュエータ29は切り離した状態にあるので、前記アクチュエータ29の作動系に不都合が生じた場合であっても、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間の調節された間隙がより大きくなるようなことはないものである。
【0033】
前記中空スライダ35は機械的に固定される。そして、可動インサートブロック15の戻りは、弾性部材19の蓄勢力によって機械的に行われるものであるから、前記スライドロッド39から前記可動インサートブロック15に至る押圧力の伝達系に流体圧機構は含まれておらず、戻り動作は機械的な動作であって、戻り動作が円滑であり、かつ適正間隙調節後は安定した状態に保持されるものである。
【0034】
なお、機械的固定手段45の構成としては、前述したごとき構成に限ることなく、例えば、単動シリンダにおけるピストンロッドでもって中空スライダ35を本体ブロック3に押圧固定する構成とすることも可能である。また、締付ねじの先端部でもって中空スライダ35を本体ブロック3に締付け固定する構成とすることも可能である。すなわち、戻り許容手段33を機械的に固定する機械的固定手段としては種々の変形形態でもって実施可能なものである。
【0035】
図3は、本発明の第2の実施形態に係る帯鋸刃案内装置1を示すもので、前述した第1の実施形態と同一の機能を奏する構成要素には、同一符号を付することとして、重複した説明は省略する。
【0036】
この第2の実施形態においては、前記可動インサートブロック15を固定インサートブロック9側へ押圧する前記スライドロッド17の部分に、戻り許容手段59を構成したものである。
【0037】
より詳細には、前記本体ブロック3における可動側インサートアーム13に、機械的固定手段45Aを備えている。なお、この機械的固定手段45Aの構成は、前記機械的固定手段45と同一構成であるから、機械的固定手段45Aの詳細についての説明は省略する。この機械的固定手段45Aには、ロックカラー61が移動自在かつ不動状態に固定可能に支持されている。そして、このロックカラー61におけるフランジ部61Fと前記機械的固定手段45Aとの間には、コイルスプリングなどのごとき弾性部材63が弾装してある。
【0038】
前記ロックカラー61内を、前記スライドロッド17が摺動自在に貫通してある。このスライドロッド17は、スライドロッド17のフランジ部17Fとロックカラー61のフランジ部61Fとが当接した状態にあるとき、スライドロッド17の先端部がロックカラー61の先端部から、例えば0.05mm程度、僅かに突出するように構成してある。
【0039】
すなわち、上記構成においては、アクチュエータ29によって間接的に押圧される押圧力伝達部材としてスライドロッド17を備え、このスライドロッド17の移動によって受動的に移動される受動部材として前記ロックカラー61を備えた構成である。
【0040】
以上のごとき構成において、図3(A)に示すように、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間に帯鋸刃5を配置した後、アクチュエータ9を作動して、揺動レバー27を時計回り方向に回動(揺動)すると、スライドロッド17及びロックカラー61が、弾性部材63の付勢力に抗して、図3(A)において左方向へ一体的に移動される。すなわち、可動インサートブロック15が固定インサートブロック9側へ移動されて、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15によって帯鋸刃5を強固に押圧挟持することになる(図3(B)参照)。
【0041】
上述のように、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15とによって帯鋸刃5を強固に挟圧した状態にあるときに、前記機械的固定手段45Aを作動して、ロックカラー61を不動状態に固定する。その後、アクチュエータ29の作動を解除すると、前記可動インサートブロック15が前記ロックカラー61の先端部に当接するように、前記固定インサートブロック15と可動インサートブロック15との間の間隙が、僅かに(例えば0.05mm程度)広げられることとなり、帯鋸刃5の強固な挟持(挟圧)が解除されることとなる(図3(C)参照)。
【0042】
したがって、この第2の実施形態においても、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間の間隙は、帯鋸刃5の厚さに対応した適正間隙に保持される。また、戻り許容手段59の戻り許容動作時及び前記間隙を適正間隙に保持する動作中は、戻り許容手段59と前記アクチュエータ29とは切り離された状態にあり、かつ前記実施形態と同様に、流体圧機構が含まれないので、前記第1の実施形態と同様の効果を奏し得るものである。
【0043】
図4は、本発明の第3の実施形態を示すもので、前述した実施形態における構成要素と同一機能を奏する構成要素には同一符号を付することとして、重複した説明は省略する。
【0044】
この第3の実施形態においては、前述した枢軸25の部分に、戻り許容手段65を講じたものである。より詳細には、アクチュエータ29における往復作動子31を、機械的固定手段45によって不動状態に固定可能に構成してある。そして、枢軸25に相当する枢軸25Aにおいて揺動レバー27に嵌合した部分には偏心部が形成してある。したがって、上記枢軸25Aを回動すると、前記偏心部の回動によって、揺動レバー27の、枢軸25Aに支持された部分は、本体ブロック3に対して接近離反する方向(図4において左右方向)に微少移動することになる。
【0045】
前記枢軸25Aを回動するために、当該枢軸25Aにはレバー67が取付けてあり、このレバー67の先端部には、本体ブロック3に備えた流体シリンダなどのごとき往復動用のアクチュエータ69におけるピストンロッドなどのごとき往復作動子71の先端部が連動連結してある。
【0046】
以上のごとき構成において、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間に帯鋸刃5を配置した状態にあるときに、アクチュエータ29を作動して、揺動レバー29を、図4(A)において、時計回り方向に回動すると、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15によって帯鋸刃5は強固に挟圧される。この状態において、機械的固定手段45によって往復作動子31を不動状態に固定する。
【0047】
上述のように、揺動レバー27の上部側が往復作動子31に押圧された状態にあるとき、アクチュエータ69を作動して、枢軸25Aを回動すると、枢軸25Aの偏心部の位置が、本体ブロック3から離反する方向へ僅かに移動される。したがって、揺動レバー27は、往復作動子31に押圧されている部分を支点として、図4(B)において、反時計回り方向に僅かに回動することになる。よって、揺動レバー27の下端部は、スライドロッド17の押圧を解除する方向へ僅かに(例えば0.05mm程度)移動することとなり、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間の間隙は、帯鋸刃5の厚さに対応した適正間隙になる。すなわち、第3の実施形態においても、前記実施形態と同様の効果を奏し得るものである。
【0048】
図5は、本発明の第4の実施形態を示すもので、前述した実施形態に係る構成と同一の機能を奏する構成要素には、同一符号を付することとして重複した説明は省略する。
【0049】
この第4の実施形態においては、第2の実施形態と同様に、スライドロッド17の部分に、戻り許容手段73を講じたものである。より詳細には、戻り許容手段73の構成として、スライドロッド17の代りに、小型の流体圧シリンダ75を、本体ブロック3に移動自在に備えた構成である。そして、この流体圧シリンダ75に往復動自在に備えられたピストンロッドなどのごとき押圧作動子77でもって可動インサートブロック15を押圧する構成である。
【0050】
上記構成において、図5(A)に示すように、戻り許容手段73における押圧作動子77が、流体圧シリンダ75に対して右方向(固定インサートブロック9から離反する方向)へ移動した状態にあり、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間の間隙が大きく開かれた状態にあるときに、上記間隙内に帯鋸刃5を配置する。
【0051】
その後、流体圧シリンダ75に対して押圧作動子77を固定インサートブロック9側へ僅かに(例えば0.05mm程度)移動すると共に、アクチュエータ29を作動して、揺動レバー27を、図5(A)において時計回り方向に回動する。上述のように、揺動レバー27を回動すると、可動インサートブロック15は、流体圧シリンダ75を介して固定インサートブロック9側へ移動され、固定インサートブロック9との間に、帯鋸刃5を強固に挟圧する。
【0052】
上述のように、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15によって帯鋸刃5を強固に挟持した状態にあるときに、機械的固定手段45を作動して、アクチュエータ29の往復作動子31を不動状態に固定する(図5(B)参照)。その後、戻り許容手段73における流体圧シリンダ75内の作動流体を排出すると、流体圧シリンダ75に対して押圧作動子77が図5(B)にいて右方向へ僅かに移動し、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15による帯鋸刃5の強固な挟圧(挟持)が解除され、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間の間隙は、帯鋸刃5の厚さに対応した適正間隙に保持されるものである。
【0053】
したがって、この実施形態においても、前述した実施形態と同様の効果を奏するものである。なお、前記説明においては、揺動レバー27によって流体圧シリンダ75を押圧し、押圧作動子77によって可動インサートブロック15を押圧する旨、説明した。しかし、押圧作動子77でもって可動インサートブロック15を押圧するか、流体圧シリンダ75でもって可動インサートブロック15を押圧するかは、相対的なものである。すなわち、流体圧シリンダ75の向きを、図5に示した状態と左右逆方向の向きとすることも可能である。なお、流体圧シリンダ75の向きを逆にした場合には、揺動レバー27でもって押圧作動子77を押圧することになるものである。
【0054】
図6は、本発明の第5の実施形態に係る帯鋸刃案内装置の構成を示すもので、前述した実施形態における構成要素と同一機能を奏する構成要素には、同一符号を付することとして重複した説明は省略する。
【0055】
この第5の実施形態においては、前記アクチュエータ29における往復作動子31の移動方向と平行な方向に移動自在な補助ロッド79を本体ブロック3に備え、この補助ロッド79と揺動レバー27との間に戻り許容手段81を備えた構成である。より詳細には、揺動レバー27は、本体ブロック3に備えた凹部3A内に揺動自在に配置してあり、この揺動レバー27と本体ブロック3との間には、揺動ブロック27を、図6(A)において反時計回り方向に付勢するコイルスプリングなどのごとき弾性部材83が弾装してある。
【0056】
そして、前記本体ブロック3には、前記アクチュエータ29の往復作動子31の移動方向と同方向に移動自在の前記補助ロッド79が備えられており、この補助ロッド79は、内装した弾性部材85によって揺動レバー27方向へ付勢されている。なお、上記弾性部材85の付勢力は、前記弾性部材83の付勢力に抗して、揺動レバー27を時計回り方向に回動することのできないように小さなものである。さらに、前記本体ブロック3には、前記補助ロッド79を不動状態に固定可能な機械的固定手段45が備えられている。
【0057】
前記補助ロッド79に対応して、揺動レバー27には、流体圧シリンダ87が備えられており、この流体圧シリンダ87に往復動自在に備えられたピストンロッドなどのごとき往復作動子89の先端部が前記補助ロッド79の先端部と当接してある。
【0058】
上記構成において、弾性部材83の付勢力によって、揺動レバー27が図6(A)に示すように、反時計回り方向に回動され、かつ往復作動子89が流体圧シリンダ87内へ入って縮小した状態にあって、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間の間隙が大きく開いた状態にあるとき、上記間隙内に帯鋸刃5を配置する。そして、前記流体圧シリンダ87から往復作動子89が突出して伸長した状態にあるとき、アクチュエータ29を作動して、揺動レバー27を、図6(A)において時計回り方向に回動すると、上記流体圧シリンダ87、往復作動子89の同方向への移動に追従して、補助ロッド79は、図6(A)において右方向へ移動する。また、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15によって帯鋸刃5が強固に挟持される(図6(B)参照)。
【0059】
その後、機械的固定手段45を作動して補助ロッド79を不動状態に固定し、かつアクチュエータ29を元の状態に復帰する。そして、戻り許容手段81における流体圧シリンダ87から作動流体を排出すると、弾性部材83の付勢力によって、揺動レバー27が、図6(B)において反時計回り方向へ僅かに回動されて、前記固定インサートブロック9と可動インサートブロック15による帯鋸刃5の強固な挟圧が解除され、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間の間隙が、帯鋸刃5の厚さに対応した適正間隙に調節される。したがって、この実施形態においても、前述した実施形態と同様の効果を奏し得るものである。
【0060】
図7は、本発明の第6の実施形態に係る帯鋸刃案内装置を示すもので、前述した実施形態における構成要素と同一の機能を奏する構成要素には、同一の符号を付することとして重複した説明は省略する。
【0061】
この第6の実施形態は、前述した第5の実施形態の変形例に相当するもので、可動インサートブロック15と揺動レバー27との連結部に戻り許容手段91を講じたものである。より詳細には、可動インサートブロック15に一体的に備えた突出ブラケット93は、揺動レバー27の下端部に移動可能に取付けてある。そして、揺動レバー27に対して前記突出ブラケット93を移動する構成として、前記突出ブラケット93には円形状の貫通穴95が形成してある。この貫通穴95内には、前記揺動レバー27に回転可能に支持されたカム軸97に一体的に備えられた長円形状(楕円形状)のカム99が嵌合してある。上記カム軸97には、カム軸97を回動操作するための操作レバー101が備えられている。
【0062】
上記構成において、戻り許容手段91における前記カム99の長軸が前記突出ブラケット93の長手方向にほぼ平行状態にあって、前記貫通穴95における内周面の可動インサートブロック15側の部分に接触した状態にあり、かつ固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間の間隙が大きく開かれた状態にあるときに、上記間隙内に帯鋸刃5を配置する(図7(A)参照)。その後、アクチュエータ29を作動して揺動レバー27を、図7(A)において、時計回り方向に回動し、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15によって帯鋸刃5を強固に挟持する。
【0063】
この際、押圧作動子79は、揺動レバー27の回動に追従して、図7(A)において右方向へ移動する。このように、押圧作動子79が右方向に移動した状態にあり、かつ固定インサートブロック9と可動インサートブロック15によって帯鋸刃5を強固に挟持した状態にあるときに、機械的固定手段45によって補助ロッド79を不動状態に固定する。そして、操作レバー101を回動操作して、カム99における短軸が突出ブラケット93の長手方向とほぼ平行になるように回動すると、カム99における長軸と短軸の差分だけ(例えば0.05mm位)、可動インサートブロック15は、固定インサートブロック9から離反する方向へ移動する(図7(C)参照)。
【0064】
したがって、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15による帯鋸刃5の強固な挟持が解除され、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間の間隙は、帯鋸刃5の厚さに対応した適正間隙に保持されるものであり、前述した実施形態と同様の効果を奏し得るものである。
【0065】
図8は、本発明の第7の実施形態に係る帯鋸刃案内装置を示すもので、前述した実施形態の構成要素と同一の機能を奏する構成要素には、同一符号を付することとして、重複した説明は省略する。
【0066】
この第7の実施形態においては、ラック、ピニオン及びねじ機構を介して可動インサートブロック15の移動を行い、かつ戻り許容手段をラック、ピニオン部分に備えた構成である。より詳細には、本体ブロック3における可動側インサートアーム13の側面にピニオンケーシング103が一体的に備えられており、このピニオンケーシング103内には、ピニオン105が回転自在かつ軸方向(図8において左右方向)へ僅かに(例えば0.05mm)移動可能に備えられている。すなわち、ピニオン105が軸方向へ移動可能な構成において、戻り許容手段を構成している。そして、このピニオン105にはボルト107が同心に設けてあり、このボルト107は、可動インサートブロック15に一体的に備えられ、かつ本体ブロック3の可動側インサートアーム13に、図8において左右方向へ移動可能に支持されたナット109に螺合してある。
【0067】
したがって、定位置においてピニオン105を正逆回転すると、ボルト107とナット109との螺合関係により、可動インサートブロック15は、固定インサートブロック9に対して接近離反する方向へ移動されるものである。なお、ナット109とボルト107との関係は相対的なものであるから、ピニオン105にナット109を備え、可動インサートブロック15にボルト107を備えた構成とすることも可能である。
【0068】
前記ピニオン105を回転するために、このピニオン105に噛合したラック111が上下方向に往復動自在に備えられていると共に、ラック111を往復動するために、例えば流体圧シリンダなどのごときアクチュエータ113が本体ブロック3の側面に備えられている。また、前記ピニオン105を軸方向に移動し、かつ不動状態に固定するための機械的固定手段として、ロックシリンダ115が前記ピニオンケーシング103に備えられている。
【0069】
より詳細には、上記ロックシリンダ115は、前記ピニオン105と同心上に備えられており、このロックシリンダ115において往復動自在なピストンロッド117の先端部は、前記ピニオン105に形成した凹部105A内に嵌入してある。そして、ピストンロッド117の先端部には、上記凹部105Aの出入口の部分の内側フランジ105Fに係止自在なフランジ部117Fが備えられている。
【0070】
上記構成において、図8(A)に示すように、ナット109にボルト107が深く螺入した状態にあり、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間の間隙が大きく開かれた状態にあるときに、上記間隙内に帯鋸刃5を配置する。そして、アクチュエータ113によってラック111を作動し、ピニオン105、ボルト107を回転して可動インサートブロック15を固定インサートブロック9側へ移動すると、反力によってピニオン105が、図8(A)において右方向へ移動する傾向にある。したがって、ロックシリンダ115内へ作動流体を供給し、ピストンロッド117を突出作動して、ピストンロッド117の先端部に備えたフランジ部117Fをピニオン105における凹部105Aの奥壁の部分に当接することにより、ピニオン105が右方向へ移動することを防止できる。
【0071】
前述のごとく、ピニオン105、ボルト107を回動して、可動インサートブロック15を固定インサートブロック9側へ移動すると、帯鋸刃5は、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15によって強固に挟持される(図8(B)参照)。上述のように、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15によって帯鋸刃5を強固に挟持した後、ロックシリンダ115におけるピストンロッド117を引き込み作動すると、ピストンロッド117のフランジ部117Fがピニオン105の内側フランジ105Fに当接し、ピニオン105を、図8(B)において右方向へ僅かに移動する。そして、ピニオン105がピニオンケーシング103に当接すると、ピニオン105は、前記フランジ部117Fとピニオンケーシング103とによって不動状態に挟圧され固定される。
【0072】
上述のように、ピニオン105が右方向へ移動されると、ボルト107、ナット109を介して可動インサートブロック15が一体的に移動され、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15による帯鋸刃5の強固な挟持が解除されて、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間の間隙が、帯鋸刃5の厚さに対応した適正間隙となり、前述した実施形態と同様の効果を奏し得るものである。
【0073】
図9は、本発明の第8の実施形態に係る帯鋸刃案内装置を示すもので、前述した実施形態の構成要素と同一の機能を奏する構成要素には同一符号を付することとして、重複した説明は省略する。この第8の実施形態においては、揺動レバー27を揺動する構成にねじ機械を採用し、このネジ機構の部分に戻り許容手段を備えた構成である。
【0074】
より詳細には、本体ブロック3に備えたガイド部材121に、ナット部材123を、図
において左右方向へ移動可能に備えている。そして、このナット部材123には、前記揺動レバー27に備えた当接部材41に先端部が当接して押圧自在なねじ部材125が、図9において左右方向へ移動自在に螺合してある。そして、上記ねじ部材125の後端部は、アクチュエータ29における往復作動子31に対向してある。したがって、前記ねじ部材125は、アクチュエータ29の往復作動子31によって、図9において右方向へ押圧され得るものである。
【0075】
前記本体ブロック3には、前記ナット部材123を押圧して不動状態に固定可能な機械的固定手段としてのロックシリンダ127が備えられていると共に、前記ねじ部材125に備えたレバー129を押し引きしてねじ部材125を回動するための流体圧シリンダなどのごときねじ回転アクチュエータ131が備えられている。
【0076】
以上のごとき構成において、図9(A)に示すように、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間の間隙が大きく開いた状態にあるときに、上記間隙内に帯鋸刃5を配置する。その後、アクチュエータ29を作動し、前記ねじ部材125を介して揺動レバー27を押圧し、当該揺動レバー27を、図9(A)において時計回り方向に回動すると、可動インサートブロック15と固定インサートブロック9とによって帯鋸刃5を強固に挟持することになる(図9(B)参照)。
【0077】
上述のように、帯鋸刃5を強固に挟持した状態にあるときに、ロックシリンダ127を作動して、ナット部材123をガイド部材121へ押圧固定する。そして、ねじ回転アクチュエータ131を作動して、ねじ部材125を左回り(又は右回り)に回動すると、ねじ部材125は、ナット部材123に対して、図9(B)において左方向へ僅かに移動することになる。したがって、揺動レバー27の戻りが許容されることとなり、揺動レバー27は、図9(C)に示すように、反時計回り方向に僅かに回動し戻ることになる。
【0078】
よって、可動インサートブロック15は固定インサートブロック9から僅かに(例えば0.05mm)離反する方向へ移動し、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15とによる帯鋸刃5の強固な挟持(挟圧)が解除されることとなり、固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間の間隙は、帯鋸刃5の厚さに対応した適正な間隙に調節されることとなる。したがって、この実施形態においても前述した実施形態と同様の効果を奏し得るものである。
【0079】
ところで、前記固定インサートブロック9と可動インサートブロック15との間の間隔寸法から帯鋸刃5の厚さ寸法を減算した間隙寸法である適正間隙について検討するに、帯鋸刃5の幅寸法が54mmの一般的な帯鋸刃であって、前記適正間隙が0.05mmとした場合、帯鋸刃5は、図1(C)に示されるように、適正間隙0.05mmの範囲において傾斜することがある。このように、帯鋸刃5が傾斜した状態において、高さ寸法が400mmのワーク(被削材)を切断すると、計算上は、ワークの下端部は0.37mmの切曲りとなる。そして、適正間隙が0.1mmの場合には0.7mmの切曲りとなる。すなわち、適正間隙の寸法が小さいほど高精度の切断が可能となる。
【0080】
そこで、帯鋸刃5の幅寸法と適正間隙との関係について調べるために切曲りの実験を行った。実験に使用したバンドソーは、株式会社アマダマシンツールのPCSAW430、帯鋸刃は株式会社アマダマシンツールのSGLB:54W×1.6t×6100L×2/3P、被削材は、SUS304(JIS)φ300、切削条件1:ブレード速度45m/min、1カット切断時間15.7min、切削条件2:ブレード速度57m/min、1カット切断時間8.8min、上記帯鋸刃を挟持案内するための固定インサートブロック9、可動インサートブロック15の左右方向(帯鋸刃の走行方向)の寸法及び上下方向の寸法は、帯幅寸法が54mmの帯鋸刃に対応した一般的な固定インサートブロック、可動インサートブロックを使用した。
【0081】
前記切削条件1での実験結果は図10(A)に示すとおりであり、切削条件2での実験結果は図10(B)に示すとおりであった。上記実験結果は、被削材の切断面の切曲り寸法を実測した値である。また、切曲りは、製品が短くなる方向への切曲りであるから−で表示してある。
【0082】
上記実験結果より明らかなように、条件1の場合には、適正間隙(クリアランス量)が0.1mmの場合であっても、実測値の切曲りは約0.3mmであり、条件2の場合の実測値の切曲りは約0.7mmである。したがって、実測値の切曲りを約0.5mm以下に規制するには、クリアランス量は0.00mm〜0.08mmの範囲になる。条件2の場合、クリアランス量が0.05mmから0.06mmになると、実測値の切曲りは−0.2mm〜−0.4mmに変化している。
【0083】
ここで、帯鋸刃5の幅寸法が54mmで、適正間隙が0.05mmのときに、高さ寸法400mmの被削材の切断を行ったときの切曲りは0.37mmであるから、54:0.05≒400:0.37≒1080:1となる。すなわち、帯鋸刃5の幅寸法をLとし、適正間隙をSとすると、S/L=1/1080となる。よって、図10(A),図10(B)の実験結果を考慮すると、S/Lは1/1000〜1/1100の範囲とすることが望ましいものである。
【符号の説明】
【0084】
1 帯鋸刃案内装置
3 本体ブロック
5 帯鋸刃
7 背部支持部材
9 固定インサートブロック
15 可動インサートブロック
17 スライドロッド
21 インサートブロック押圧手段(インサートブロック移動手段)
25 枢軸
27 揺動レバー
29 アクチュエータ
31 往復作動子
33 戻り許容手段
45 機械的固定手段
59 戻り許容手段
61 ロックカラー
65 戻り許容手段
67 レバー
69 アクチュエータ
73 戻り許容手段
75 流体圧シリンダ
77 押圧作動子
79 補助ロッド
81 戻り許容手段
87 流体圧シリンダ
91 戻り許容手段
95 貫通穴
97 カム軸
99 カム
101 操作レバー
103 ピニオンケーシング
105 ピニオン
107 ボルト
109 ナット
111 ラック
115 ロックシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯鋸盤における帯鋸刃案内装置による帯鋸刃挟持方法であって、帯鋸刃案内装置に備えた固定インサートブロックと可動インサートブロックとによって帯鋸刃の胴部を挟持するとき、前記可動インサートブロックを固定インサートブロック側へ移動するためのアクチュエータによって押圧移動される押圧力伝達部材と、当該押圧力伝達部材の移動によって受動的に移動され、かつ前記押圧力伝達部材に対して相対的に移動可能な受動部材とを備えた戻り許容手段を戻り可能な状態に保持して前記可動インサートブロックの移動を行い、前記固定インサートブロックと可動インサートブロックとによって帯鋸刃を強固に挟持した後、前記戻り許容手段における前記押圧力伝達部材又は前記受動部材の一方を機械的固定手段によって不動状態に固定し、この固定状態において前記戻り許容手段の戻り許容作動によって前記可動インサートブロックを予め設定された戻り量だけ戻して、前記固定インサートブロックと可動インサートブロックとの間の間隙を帯鋸刃の厚さに対応した適正間隙に保持することを特徴とする帯鋸刃案内装置による帯鋸刃挟持方法。
【請求項2】
請求項1に記載の帯鋸刃案内装置による帯鋸刃挟持方法において、前記適正間隙は、帯鋸刃の幅寸法をLとし、前記固定インサートブロックと可動インサートブロックとの間隔寸法から帯鋸刃の厚さ寸法を減算した値をSとしたとき、S/Lが1/1000〜1/1100の範囲であることを特徴とする帯鋸刃案内装置による帯鋸刃挟持方法。
【請求項3】
帯鋸盤における帯鋸刃案内装置であって、帯鋸刃の背部を支持し案内する背部支持部材、帯鋸刃の胴部を挟持し案内するための固定インサートブロック及び当該固定インサートブロックに対向して備えられた可動インサートブロックを備えた本体ブロックと、前記可動ブロックを前記固定インサートブロック側へ移動するためのアクチュエータと、このアクチュエータと前記可動ブロックとの間に備えられ、前記アクチュエータの作動によって前記可動インサートブロックを移動するためのインサートブロック移動手段と、このインサートブロック移動手段に含まれ、前記固定インサートブロックとの間に帯鋸刃を強固に挟持した可動インサートブロックの、予め設定された戻り量だけ戻りを許容するための戻り許容手段とを備え、前記戻り許容手段は、前記アクチュエータによって直接押圧される押圧力伝達部材と、当該押圧力伝達部材の移動によって受動的に移動され、かつ前記押圧力伝達部材に対して相対的に移動可能な受動部材とを備えた構成であり、上記戻り許容手段の前記押圧力伝達部材又は前記受動部材を固定可能な機械的固定手段を備えていることを特徴とする帯鋸刃案内装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate