説明

帯電量分布測定装置及び帯電量分布測定方法

【課題】 様々な形状の粒子保持担体に保持された粒子の帯電量分布を、より正確に測定する。
【解決手段】 吸引管3を粒子保持担体1に近接させて吸引を行うことにより粒子保持担体1から粒子を分離捕集し、吸引気流を分割し、分割された所定の気流を減速して、導入管8を通して乱れのない一様気流中に導入して、気流に含まれる粒子が電界を印加した時の運動を計測することから帯電量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子の帯電量分布を測定する帯電量分布測定装置及び帯電量分布測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流速一様な気流中での電界による粒子の運動を計測することから帯電量を測定する帯電量分布装置として、チャージスペクトログラフィ法(特許文献1参照)、イースパート法(特許文献2参照)などが提案されている。
【0003】
チャージスペクトログラフィ法を例として、流速一様な気流中での電界による粒子の運動を計測することから帯電量を測定する帯電量分布装置について、図4を用いて説明する。
【0004】
測定管12の排気口15には給排気装置30が接続されている。排気口15からの排気により、吸気口7から空気が取り込まれ整流フィルター9を通過して測定管12内に速度一様な気流を形成している。電極10A,10Bは電源18に接続されており、測定管内に電界の向き11で示す電界を形成している。
【0005】
粒子保持担体1上の粒子2はエアブロア19から噴出される気流により粒子保持担体1から分離される。分離された粒子2は導入管8を経て、測定管12に導入される。粒子2は流速一様な気流中で電界による力を受けて偏向する。
【0006】
チャージスペクトログラフィ法においては、電界により偏向した粒子を捕集体上に捕集する。偏向量は粒子の比電荷に比例するので、粒子それぞれの偏向量を測定することで、粒子それぞれの比電荷量を得ることができる。
【0007】
また、イースパート法においては、電界により偏向した粒子の速度をレーザードップラー速度計で計測する。粒子の偏向速度は比電荷に比例するので、これから、粒子それぞれの比電荷量を得ることができる。
【0008】
これらの方法は、気流中にある粒子の運動を測定するので、気流の乱れが測定の不正確さとなる。したがって、流速一様な気流を乱さないことが重要となる。
【0009】
気流が乱れる原因としては、測定管内の気流速度が高すぎることによる乱れと、導入管から吸引される流速が測定管内の流速と一致していないことによる乱れがある。
【0010】
このため、測定管内の流速は低く押えられており、これに伴い、導入管の吸引速度も低く押えられている。
【0011】
このため、これらの帯電量分布測定装置においては、粒子保持担体から粒子を直接に分離することが出来ないので、粒子の分離にはエアブロアが用いられている。また、エアブロアの気流が直接に測定器内に入らないように、粒子保持担体から粒子を分離する部分は測定器の導入口から十分離されている。
【0012】
しかし、ブローオフ法では、帯電量が大きい粒子は粒子保持担体から分離しても静電気力で粒子保持担体に再付着してしまう。このため、粒子保持担体の帯電量分布と測定した帯電量分布がずれる場合がある。
【0013】
また、分離された粒子が四方に飛び散ってしまう。このため、サンプリング効率が低いという問題がある。
【0014】
チャージスペクトログラフィ法は導入管の直径が測定器の分解能を決定するので、導入管の管径を大きくすることができない。このため、特にサンプリング効率が低い。
【0015】
このような粒子保持担体から粒子を分離して、測定器に導入する部分の問題を解決するために、以下に示す方法(1)〜(3)が提案されている。
【0016】
(1)高速で吸引した粒子を含む気流をガスダンパーに蓄積する。そして、ガスダンパーから低速で排出して測定器の導入口に導入する(特許文献3参照)。
【0017】
(2)吸引管を多重管として圧縮空気を吹き込むことによるエジェクタ効果、または直接の吸引により吸引力を得る(特許文献4参照)。
【0018】
(3)側面に穴のあるマイクロノズルを粒子保持担体に接して配置して吸引する。マイクロノズルは測定管の導入口に近づくにつれて径が大きくなっている。これにより、粒子保持担体部では高速の気流により粒子を分離して、マイクロノズル出口では減速されて測定管に導入される(非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭57−79958号公報
【特許文献2】特開昭63−118634号公報
【特許文献3】特開平1−262554号公報
【特許文献4】特開平4−291281号公報
【非特許文献1】J. Imaging Technol. Vol.38 No.6 Page 538 (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、上記(1)の方法では、ガスダンパーに粒子を含む空気を蓄積するために、粒子がガスダンパー内壁に衝突または付着する。このために粒子の帯電量分布が変化してしまう。
【0020】
上記(2)の方法では、測定器からの気流の逆流を防止していないために、大きな吸引力を得るために吸引管を粒子保持担体に近づけた場合に、測定器からサンプリング個所または、多重管への給排気装置へ逆流が生じてしまう。
【0021】
上記(3)の方法では、マイクロノズルを粒子保持担体の接線に沿って配置する必要があるため、円筒状の粒子保持担体からしか測定ができない。特に、平板の粒子保持担体からの測定はできない。また、円筒状の粒子保持担体においても周辺部材との干渉が生じるために、測定可能な粒子保持担体の形状は限られたものである。
【0022】
本発明は上記したような事情に鑑みてなされたものであり、様々な形状の粒子保持担体に保持された粒子の帯電量分布を、より正確に測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するために本発明にあっては、
測定部に一定速度の空気流を発生させるとともに、該空気流の方向と略直交する方向の電界を形成させて、該空気流により運ばれた粒子を捕集することにより、粒子の帯電量の分布測定を行う帯電量分布測定装置において、
粒子を保持する粒子保持担体の近傍に配設される吸引管と、
前記吸引管内に吸引気流を発生させて前記粒子保持担体から粒子を分離捕集する吸引手段と、
前記吸引手段が発生させた吸引気流を分割する気流分割手段と、
前記気流分割手段により分割された気流のうち所定の気流を減速させる減速手段と、
前記減速手段により減速された気流を前記測定部に導入する導入管と、
を備えることを特徴とする。
【0024】
また、帯電量分布測定方法にあっては、
吸引管を粒子保持担体に近接させて、前記吸引管内に吸引気流を発生させることにより前記粒子保持担体から粒子を分離捕集した後、吸引気流を分割し、分割された所定の気流を減速させて、導入管を通して乱れのない流速一様な気流中に導入して、前記流速一様な気流中で電界を印加した時の粒子の運動を計測することにより、粒子の帯電量の分布測定を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、様々な形状の粒子保持担体に保持された粒子の帯電量分布を、より正確に測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものであり、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
【0027】
図1〜3を用いて本発明の実施の形態に係る帯電量分布測定装置の構成について説明する。
【0028】
測定対象としては、一例として電子写真装置に用いられるトナー粒子保持担体(粒子保持担体)に付着したトナー粒子(粒子)を用いる。
【0029】
トナー粒子保持担体に付着したトナー粒子は静電付着力が大きい。このため、粒子保持担体1から粒子2を分離するためには、吸引気流は高速気流でなければならない。
【0030】
そこで、粒子保持担体1に対向して内径6(mm)の吸引管3を配置する。粒子保持担体1と吸引管3の間隙は0.5(mm)程度で非接触である。
【0031】
この配置で吸引を行うことで、粒子保持担体1と吸引管3の間隙部に高速の吸引気流を発生させる。これにより、排気ポンプ16の流量が16(L/min)の設定で粒子2を吸引管に吸引する。
【0032】
このように、吸引管3を粒子保持担体1に対して略垂直に配置して吸引するので、粒子保持担体1に対する配置の自由度が高く、様々な粒子保持担体上の粒子を吸引することができる。
【0033】
また、吸引に用いる排気ポンプ16は、測定部としての測定管12で流速一様な気流を形成するのに用いる給排気手段としての給排気装置21とは独立のものを使用する。これにより、吸引による圧力変動が測定管12内の流速一様な気流を乱すことが無くなる。
【0034】
粒子2は粒子保持担体1から分離されて、吸引気流とともに吸引管3内を流速10(m
/sec)で流れる。ここで、吸引気流内で粒子保持担体1の表面を流れた部分は粒子2を多く含む。この気流は吸引管3の吸引口では、吸引管3の管中央付近を流れるが、吸引管3の直径程度の距離を進んだ辺りで乱れて、吸引管3全体に広がる。
【0035】
次に、吸引気流は気流分割手段としての気流分離ノズル4により、気流分離ノズル4のノズル孔に入る気流と排気気流に分割する。
【0036】
気流分離ノズル4の先端は尖鋭で直径1(mm)のノズル孔を持つ。ノズル先端は粒子2を多く含む気流を捕集するために、吸引管3の先端から吸引管3の直径程度進んだ部分の管中央に配置する。吸引管3の管中央部を通過した粒子を含む0.45(L/min)程度の気流が、吸引管流速と等速の10(m/sec)でノズル孔に導入される。こうすることで、気流分離ノズル4の吸引による吸引管内の乱れを最小限にして、粒子2を多く含む気流が円滑にノズル孔に導入される。
【0037】
ノズル孔に導入された気流は導入管8に向かう。また、ノズル孔に入らない気流は吸引排気管5を通して排気ポンプ16から排気される。ここで、吸引排気管5及び排気ポンプ16は、本発明に係る吸引手段を構成している。
【0038】
測定管12内の気流は乱流を生じさせないように低速気流でなければならない。乱流の発生条件から測定管12内の流速は50(cm/sec)程度に制限される。そのため、高速の吸引気流を測定管12の流速まで減速することが必要である。
【0039】
そこで、ノズル孔の直径は滑らかに増加させており、先端の直径1(mm)に対して、後端の直径は4.2(mm)である。これにより気流は吸引管流速から測定管12に形成されている速度一様な気流の流速に滑らかに減速される。
【0040】
粒子が測定器の管壁と衝突して帯電量の変化を起こす機会は粒子の滞在時間に比例する。導入管8は管長が長く、流速も低いために帯電変化を生じる機会が最も高い。
【0041】
そこで、導入管8に壁面に沿う、粒子を含まない清浄な気流を、コンプレッサー17から吸引送気管6を通じて供給する。ここで、コンプレッサー17及び吸引送気管6は、本発明に係る気流供給手段を構成している。
【0042】
コンプレッサー17を用いて、粒子を含まない清浄な気流は0.15(L/min)程度になるようにして、定圧制御を行う。これにより、粒子2が導入管8の壁に衝突することによる帯電量の変化を防ぐことができる。また、吸引管3の吸引口を粒子保持担体1で塞いでしまった場合も、逆流経路である気流分離ノズル4のノズル孔の孔径が十分小さく、清浄な気流が供給されるために導入管8、測定管12で逆流を生じることはない。
【0043】
導入管8は測定管12に通じており、減速された気流とともに粒子2は測定管12内の気流を乱すことなく、測定管12に導入される。これ以降の測定管12内の部分は背景技術に説明したチャージスペクトログラフィ法と同様である。
【0044】
測定管12は内径65(mm)で管長130(mm)である。吸気口7から取り込まれた気流は整流フィルター9で整流されて、測定管内に50(cm/sec)の流速一様な気流を形成する。また、電極10A,10Bにそれぞれ+300(V)と−300(V)を印加することで、気流に直交する方向に電界を形成している。
【0045】
粒子は流速一様な気流中を気流と同じ速度で移動する間に、直交する電界により偏向される。そして、下流に設置された捕集体14に捕集されて像13を形成する。
【0046】
この像13から粒子の偏向量20を計測して、
q/D=3πηVfx/EL ・・・(式1)
を用いて比電荷に換算する。
【0047】
ここで、q/D:粒子の比電荷(電荷/直径)(C/m)、η:空気の粘性係数(Pa・sec)、Vf:気流速度(m/sec)、x:偏向距離(m)、E:電界(V/m)
、L:測定管長(m)である。15(mm)の偏向量ならば、比電荷は1(fC/μm)となる。
【0048】
以上説明したように、本実施の形態に係る帯電量分布測定装置は、平板や円筒状の粒子保持担体に対して自由な配置で粒子を吸引することができる。また、粒子の帯電量を変化させることなく、測定管12内に形成した流速一様な気流中を乱すことなしに、粒子を流速一様な気流の中に導入することができる。これにより、様々な粒子保持担体上にある粒子の帯電量分布を正確に測定することが可能となる。
【0049】
なお、本発明は、上記実施の形態で説明したチャージスペクトログラフィ法を利用した帯電量分布測定装置だけに適応したものではなく、イースパート法などの乱れのない気流中で電界を印加した時の粒子の運動を計測することから帯電量を求める粒子の帯電量分布測定装置であれば、好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態に係る帯電量分布測定装置の構成を説明する図である。
【図2】図1の吸引部分の拡大図であり、気流の流れを説明するための図である。
【図3】捕集体上に形成される像を説明する図である。
【図4】従来例(チャージスペクトログラフィ法)を説明する図である。
【符号の説明】
【0051】
1 粒子保持担体
2 粒子
3 吸引管
4 気流分離ノズル
5 吸引排気管
6 吸引送気管
7 吸気口
8 導入管
9 整流フィルター
10A,10B 電極
11 電界の方向
12 測定管
13 トナー像
14 捕集体
15 排気口
16 排気ポンプ
17 コンプレッサー
18 電源
20 偏向量
21 給排気装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定部に一定速度の空気流を発生させるとともに、該空気流の方向と略直交する方向の電界を形成させて、該空気流により運ばれた粒子を捕集することにより、粒子の帯電量の分布測定を行う帯電量分布測定装置において、
粒子を保持する粒子保持担体の近傍に配設される吸引管と、
前記吸引管内に吸引気流を発生させて前記粒子保持担体から粒子を分離捕集する吸引手段と、
前記吸引手段が発生させた吸引気流を分割する気流分割手段と、
前記気流分割手段により分割された気流のうち所定の気流を減速させる減速手段と、
前記減速手段により減速された気流を前記測定部に導入する導入管と、
を備えることを特徴とする帯電量分布測定装置。
【請求項2】
前記気流分割手段は、ノズルを備え、前記吸引手段が発生させた吸引気流をノズル孔に入る気流と入らない気流とに分割することを特徴とする請求項1に記載の帯電量分布測定装置。
【請求項3】
前記ノズルにより分割された吸引気流のうち、前記ノズル孔内を通過する気流の流速は、前記吸引管内を通過する気流の流速以上であることを特徴とする請求項2に記載の帯電量分布測定装置。
【請求項4】
吸引気流を分離する前記ノズルの先端は、前記吸引管内に位置していることを特徴とする請求項2または3に記載の帯電量分布測定装置。
【請求項5】
前記ノズル孔の中心は、前記吸引管の中心と略一致することを特徴とする請求項4に記載の帯電量分布測定装置。
【請求項6】
前記測定部に向けて前記導入管内の管壁に沿うように、粒子を含まない清浄な気流を供給する気流供給手段を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の帯電量分布測定装置。
【請求項7】
前記吸引手段は、前記測定部に一定速度の空気流を発生させる給排気手段に対して独立して設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の帯電量分布測定装置。
【請求項8】
吸引管を粒子保持担体に近接させて、前記吸引管内に吸引気流を発生させることにより前記粒子保持担体から粒子を分離捕集した後、吸引気流を分割し、分割された所定の気流を減速させて、導入管を通して乱れのない流速一様な気流中に導入して、前記流速一様な気流中で電界を印加した時の粒子の運動を計測することにより、粒子の帯電量の分布測定を行うことを特徴とする帯電量分布測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−349414(P2006−349414A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173857(P2005−173857)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】