説明

帯電防止ハードコート樹脂組成物

【課題】帯電防止性と高い透明性の両方を兼ね備えたハードコート膜を形成できる帯電防止ハードコート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
少なくとも、(メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(A)、4級アンモニウム塩基を分子中に有する下記一般式[1]で表される化合物(B)及び光開始剤(C)を含有し、前記化合物(A)70〜99.4重量部に対して前記化合物(B)の添加量が0.1〜20重量部であることを特徴とする樹脂組成物。


(式中、mは1〜5の整数、nは5〜15の整数、Rは炭素数1〜3のアルキル基、Xはハロゲン原子又は炭素数1〜3のアルキルサルフェート残基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性、表面硬度、透明性などに優れたハードコート膜を得ることが出来る帯電防止ハードコート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリレート、ポリカーボネート等の樹脂は、透明性、耐衝撃性、電気絶縁性等に特長を有し、工業用資材、建築用資材等として広く使用されている。しかし、それら樹脂成形品は、表面硬度が低いため引っかき等により傷が付き易く、かつ静電気を帯びてゴミが付着し易いという欠点を有している。
【0003】
従来より、これらの欠点を解消しようとする種々の試みがある。例えば、耐傷付き性を向上する方法として、多官能アクリレート等の多官能性単量体を用い、架橋被膜を基材表面に形成する方法がある。また、帯電防止能を付与する方法として、界面活性剤を樹脂に練り込む方法がある。また、帯電防止能を付与すると共に耐傷付き性を向上する方法として、多官能アクリレート等の多官能性単量体を含有するハードコート剤に界面活性剤、パーフルオロ化合物、導電性を有する微粒子などの帯電防止剤を添加したものを用い、架橋被膜を基材表面に形成する方法がある(例えば、特許文献1〜3)。
【0004】
しかし、多官能アクリレート等の多官能性単量体を用い、架橋被膜を基材表面に形成する方法では架橋被膜は帯電防止能を全く有さず、また、工程数が増えることによるコストアップや成形品の形状が制限されるなどの欠点がある。また、界面活性剤を樹脂に練り込む方法では帯電防止能は得られるが表面の傷付き易さは依然改良されていない。
【0005】
この様に樹脂成形品の傷付き易さと帯電防止能を改良する試みはなされているが、両者の欠点を同時に解決する有効な手段は知られていない。
【特許文献1】特開平1−197552号公報
【特許文献2】特開平9−278831号公報
【特許文献3】特開平7−310033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の様な課題を解決すべくなされたものである。すなわち、本発明の目的は、帯電防止性と高い透明性の両方を兼ね備えたハードコート膜を形成できる帯電防止ハードコート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも、(メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(A)、4級アンモニウム塩基を分子中に有する下記一般式[1]で表される化合物(B)及び光開始剤(C)を含有することを特徴とする帯電防止ハードコート樹脂組成物である。
【化1】

【0008】
(式中、mは1〜5の整数、nは5〜15の整数、Rは炭素数1〜3のアルキル基、Xはハロゲン原子又は炭素数1〜3のアルキルサルフェート残基を示す。)
【0009】
本発明においては、前記化合物(A)70〜99.4重量部に対して、前記化合物(B)の添加量が0.5〜20重量部であることが好ましい。
【0010】
また、前記化合物(A)が分子中に(メタ)アクリロイル基を2〜6個有することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、帯電防止性と高い透明性の両方を兼ね備えたハードコート膜を形成できる帯電防止ハードコート樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
本発明において、(メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(A)は、ハードコート膜の製造過程で重合して(メタ)アクリル系樹脂となり、ハードコート膜のベースを形成するものである。
【0014】
前記(メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(A)としては、特に限定されるものではなく、2官能以上の(メタ)アクリロイル基を有するものを用いることができるが、2〜6官能の(メタ)アクリロイル基を有するものが好適である。
【0015】
化合物(A)の具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが好適に使用される。
【0016】
本発明における上記一般式[1]で表される化合物(B)は、ハードコート膜の表面抵抗の低下に寄与する、いわゆる表面抵抗値の低い帯電防止剤である。
【0017】
一般式[1]において、nの値が5未満の化合物は、その帯電防止性が不十分であり、nの値が15を超えると、(メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(A)との相溶性が悪くなり、この化合物(B)を加えたコーティング材自体が白濁する。
【0018】
一般式[1]において、Xは環境問題の観点から、炭素数1〜3のアルキルサルフェート残基が好ましい。
【0019】
本発明において、光開始剤(C)は特に限定されるものではなく、紫外線を照射した際にラジカルを発生する化合物を用いることが出来る。
【0020】
光開始剤(C)としては、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、ベンゾフェノン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(モルフォリノフェニル)ブタン−1−オン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が使用できる。
【0021】
本発明において、化合物(B)の添加量は、化合物(A)70〜99.4重量部に対して0.5〜20重量部とするのが良く、0.5重量部より少ないと十分な帯電防止能は得られず、20重量部より多いと成形体の硬度を低下させる為に好ましくない。特に好ましくは4級アンモニウム塩基を分子中に有する化合物(B)の添加量は1〜15重量部であり、これにより成形体の硬度を低下させることなく高い帯電防止能を得ることが出来る。
【0022】
また本発明において、光開始剤(C)の添加量は、化合物(A)70〜99.4重量部に対して0.1〜10重量部とすると良く、0.1重量部未満であると、十分な硬度が得られず、また10重量部を超えると、クラックが入りやすくなる。好ましくは1〜5重量部であり、この時効率よく硬化することによりクラックの発生を防ぐことが出来る。
【0023】
本発明におけるハードコート樹脂組成物の調製は、例えば、前記化合物(A)、化合物(B)、光開始剤(C)の各成分を、適当な混合装置、例えばホモミキサーなどを用いて、適当な溶媒に溶解すると共に、混合することによって調製することが出来る。
【0024】
溶媒としては特に限定することはないが、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール類、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類などを挙げることが出来る。その濃度は、化合物(A)、化合物(B)、及び光開始剤(C)の固形分に対して、10〜80%程度とされる。
【0025】
そして、この帯電防止ハードコート樹脂組成物を基材の表面に塗工し、好ましくはオーブン等で加熱して溶媒を除去した後、紫外線などの活性エネルギー線を照射することによって樹脂成分を重合しハードコート膜を形成することが出来る。
【0026】
本発明におけるハードコート樹脂組成物の基材への塗工方式は、例えば、スロットコータ、スピンコータ、ロールコータ、カーテンコータ、スクリーン印刷等の従来の塗工方式により塗工することができる。この時形成する被膜の膜厚は通常1〜100μm程度であり、好ましくは5〜50μmである。1μm未満では十分な鉛筆硬度は得られず、また100μmより厚い場合にはクラックが入りやすくなる。
【0027】
紫外線の発生源としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等を使用することができる。
【実施例】
【0028】
次に、実施例によって本発明をより詳細に説明する。ただし、これらは単なる例示であり、本発明の適用例は、これらのみに限定されるものではない。また、実施例における帯電防止性能(表面固有抵抗値)、及び鉛筆硬度を以下の方法に従い評価した。
【0029】
表面固有抵抗値:JIS K6911に準じ、表面抵抗計(アドバンテスト社製、R8340型)を使用し、印加電圧100Vにて測定した1分値を帯電防止性能として評価した。
【0030】
鉛筆硬度:JIS K5400に準じて、鉛筆引かき試験機にて測定した。
【0031】
〈実施例1〉
(メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(A)として、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート99重量部と、一般式[1]で表される化合物(B)(R=C、m=3、n=10、X=CSO)と下記一般式[2]で表される2−ヒドロキシエチルアクリレートのリン酸エステル1:1の混合物1重量部を混合し、光重合開始剤(C)として、チバガイギー株式会社製の「イルガキュア184」を3重量部加え、ホモミキサーを用いて混合溶解しコーティング材を調製した。このコーティング材を、膜厚が30μmになるようにバーコーターでガラス板上に塗布し、紫外線照射を行い、硬化塗膜を形成し、その塗膜について帯電防止性能、及び鉛筆硬度を試験した。その結果を表1に示した。
【0032】
【化2】

【0033】
〈実施例2〉
(メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(A)として、ペンタエリスリトールトリアクリレート97重量部、一般式[1]で表される化合物(B)(R=C、m=3、n=10、X=CSO)と一般式[2]で表される2−ヒドロキシエチルアクリレートのリン酸エステル1:1の混合物3重量部を混合し、光重合開始剤(C)として「イルガキュア184」を3重量部加え、ホモミキサーを用いて混合溶解しコーティング材を調製した。このコーティング材を、膜厚が30μmになるようにバーコーターでガラス板上に塗布し、紫外線照射を行い、硬化塗膜を形成し、その塗膜について帯電防止性能、及び鉛筆硬度を試験した。その結果を表1に示した。
【0034】
〈実施例3〉
(メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(A)として、ペンタエリスリトールトリアクリレート90重量部、一般式[1]で表される化合物(B)(R=C、m=3、n=10、X=CSO)と一般式[2]で表される2−ヒドロキシエチルアクリレートのリン酸エステル1:1の混合物10重量部を混合し、光重合開始剤(C)として「イルガキュア184」を3重量部加え、ホモミキサーを用いて混合溶解しコーティング材を調製した。このコーティング材を、膜厚が30μmになるようにバーコーターでガラス板上に塗布し、紫外線照射を行い、硬化塗膜を形成し、その塗膜について帯電防止性能、及び鉛筆硬度を試験した。その結果を表1に示した。
【0035】
〈実施例4〉
(メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(A)として、ペンタエリスリトールトリアクリレート48.5重量部、ビスフェノールA型エポキシジアクリレート48.5重量部、一般式[1]で表される化合物(B)(R=C、m=3、n=10、X=CSO)と一般式[2]で表される2−ヒドロキシエチルアクリレートのリン酸エステル1:1の混合物3重量部を混合し、光重合開始剤(C)として「イルガキュア184」を3重量部加え、ホモミキサーを用いて混合溶解しコーティング材を調製した。このコーティング材を、膜厚が30μmになるようにバーコーターでガラス板上に塗布し、紫外線照射を行い、硬化塗膜を形成し、その塗膜について帯電防止性能、及び鉛筆硬度を試験した。その結果を表1に示した。
【0036】
〈比較例1〉
(メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(A)として、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート100重量部、光重合開始剤(C)として「イルガキュア184」を3重量部加え、ホモミキサーを用いて混合溶解しコーティング材を調製した。このコーティング材を、膜厚が30μmになるようにバーコーターでガラス板上に塗布し、紫外線照射を行い、硬化塗膜を形成し、その塗膜について帯電防止性能、及び鉛筆硬度を試験した。その結果を表1に示した。
【0037】
〈比較例2〉
(メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(A)として、ペンタエリスリトールトリアクリレート100重量部、光重合開始剤(C)として「イルガキュア184」を3重量部加え、ホモミキサーを用いて混合溶解しコーティング材を調製した。このコーティング材を、膜厚が30μmになるようにバーコーターでガラス板上に塗布し、紫外線照射を行い、硬化塗膜を形成し、その塗膜について帯電防止性能、及び鉛筆硬度を試験した。その結果を表1に示した。
【0038】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の帯電防止ハードコート樹脂組成物は、プラスティック、ガラス、金属などの表面に塗工することにより帯電防止保護層として各種製品に用いることができる。特に、液晶表示装置、CRT表示装置、プラズマ表示装置、発光ダイオード表示装置、EL表示装置などの各種ディスプレイに好適であり、また、光学部品やレンズ、ミラー、窓ガラスなどにも使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、(メタ)アクリロイル基を分子中に有する化合物(A)、4級アンモニウム塩基を分子中に有する下記一般式[1]で表される化合物(B)及び光開始剤(C)を含有することを特徴とする帯電防止ハードコート樹脂組成物。
【化1】

(式中、mは1〜5の整数、nは5〜15の整数、Rは炭素数1〜3のアルキル基、Xはハロゲン原子又は炭素数1〜3のアルキルサルフェート残基を示す。)
【請求項2】
前記化合物(A)70〜99.4重量部に対して、前記化合物(B)の添加量が0.5〜20重量部であることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止ハードコート樹脂組成物。
【請求項3】
前記化合物(A)が分子中に(メタ)アクリロイル基を2〜6個有することを特徴とする請求項1又は2に記載の帯電防止ハードコート樹脂組成物。


【公開番号】特開2008−13636(P2008−13636A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184980(P2006−184980)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】