説明

帯電防止性ポリマーフィルム

【課題】縞やしみが無く、実質的に透明で、安価で、優れた帯電防止性を有する帯電防止性フィルムを提供する。
【解決手段】基材ポリマーフィルムと帯電防止塗布層から成る帯電防止性ポリマーフィルムであって、帯電防止塗布層はポリチオフェン及び界面活性剤を含有する水性塗布液を塗布して形成され、ポリチオフェンに対する界面活性剤の重量比が0.1以上であり、上記水性塗布液は10重量%未満のポリマーバインダー及び10重量%未満の有機溶媒を含有することを特徴とする帯電防止性ポリマーフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は帯電防止性ポリマーフィルムに関する。詳しくは、本発明は、基材ポリマーフィルム上に帯電防止塗布層を有し、実質的に縞が無く、透明でかつ優れた帯電防止効果を有する帯電防止性ポリマーフィルムに関する。本発明は、更に、基材表面の帯電性を制御する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
写真フィルムや電子部品などの包装材において、帯電防止性が要求されるため、包装材に帯電防止塗布層を設けることが望まれている。一般に、ポリマーフィルムは、その製造、加工、移動および使用の際に生じる摩擦力によって帯電しやすい。帯電防止塗布層を設けることにより、フィルム又は他の表面上の静電気を放出し、帯電によって生じる不具合を軽減させる。また、用途によっては(コンデンサーの用途も含む)、帯電防止塗布層は帯電性を制御する目的にも使用される。また、多くの用途において、帯電防止塗布層が実質的に透明であることが要求される。
【0003】
しかしながら、従来技術において、高コスト、不十分な透明性、有害な有機溶媒の含有、基材との十分な接着性を得るためにポリマーバインダーを使用しなければならない等の様々な問題点のため、帯電防止性が制限される。さらに、ポリマーフィルムへの帯電防止塗布層の適応性が必要である。特にインラインコーティングによる帯電防止塗布層の形成が望まれている。
【0004】
ポリチオフェン系導電性塗布層が良好な帯電防止性を付与することが知られている。さらに、ポリチオフェン単独あるいは界面活性剤と組合せて成るポリチオフェン系塗布層を設けたポリマーフィルムに関する研究も行われている。しかしながら、ポリチオフェン系塗布層を設けたポリマーフィルムの帯電防止性については、未だ不十分である。従来のポリチオフェンと界面活性剤とを組合せた塗布層では、ポリマーフィルムへ良好に塗布できるようにするためバインダーや有機溶媒を使用している。そのため、相対的に少ないという傾向があった(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平11−291410号公報
【特許文献2】特開2000−052522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、縞やしみが無く、実質的に透明で、安価で、優れた帯電防止性を有する帯電防止性フィルムを提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、実質的にバインダー及び有機溶媒を含有しないでポリマーフィルム上に良好に塗布を行うことができ、形成された塗布層とポリマーフィルムとの接着性がバインダーを含有しなくても良好である、優れた帯電防止性を有する帯電防止性フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、界面活性剤の使用量を通常の使用量より多くすることにより、意外にも帯電防止性が向上し、且つ塗布も良好に行え、形成された塗布層と基材ポリマーフィルムとの接着性が良好であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、上記の知見に基づき完成されたものであり、その第1の要旨は、基材ポリマーフィルムと帯電防止塗布層から成る帯電防止性ポリマーフィルムであって、帯電防止塗布層はポリチオフェン及び界面活性剤を含有する水性塗布液を塗布して形成され、ポリチオフェンに対する界面活性剤の重量比が0.1以上であり、上記水性塗布液は実質的にポリマーバインダーを含有せず、10重量%未満の有機溶媒を含有することを特徴とする帯電防止性ポリマーフィルムに存する。
【0010】
本発明の第2の要旨は、基材表面の帯電性を制御する方法であって、当該方法はポリチオフェン及び界面活性剤を含有する水性塗布液を基材表面に塗布することから成り、上記水性塗布液は実質的にポリマーバインダーを含有せず、水性塗布液中の界面活性剤の含有量が0.1〜3.2重量%であることを特徴とする基材表面の帯電性を制御する方法に存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の帯電防止性フィルムは、縞やしみが無く、実質的に透明で、安価で、優れた帯電防止性を有するため、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の帯電防止性ポリマーフィルムは、基材ポリマーフィルムと帯電防止塗布層とから成る。
【0013】
基材ポリマーフィルム:
本発明の帯電防止性ポリマーフィルムにおいて、基材ポリマーフィルムとしては、軽量、実質的に透明、安価、使い捨ておよびリサイクル可能、ならびに帯電防止性として種々の応用が可能な観点から、ポリマーフィルムを使用する。さらに、塗布ポリマーフィルムは熱接着により種々の基材に積層(接着)可能である。
【0014】
本発明の帯電防止塗布層およびその方法は、種々の基材ポリマーフィルムに施すことができる。例えば、基材ポリマーフィルムとしては、ナイロン等のポリアミド、ポリプロピレン及びポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート等が使用でき、好ましくは、ポリエステル、特に好ましくはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートである。また、ポリエチレンテレフタレートイソフタレートのような共重合ポリエステルであってもよい。基材ポリマーフィルムの作成方法としては、米国特許第5,350,601号公報に記載の方法が例示でき、本発明にはその内容を包含する。ポリエステルフィルムを例として説明すると、一般的に、ポリエステルは、グリコール又はジオールとジカルボン酸またはエステル形成能を有するその誘導体を重縮合して得られる。ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、マロン酸、アジピン酸、アゼライン酸、グルタール酸、スベリン酸、琥珀酸およびこれらの混合物が例示される。グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ブタンジオール等のポリオール及びこれらの混合物が挙げられる。
【0015】
基材ポリマーフィルムには、酸化防止剤;つや消し剤;含量;シリカ、炭酸カルシウム、カオリン、二酸化チタン等のフィラー;帯電防止剤およびこれらの混合物等の公知の添加剤を添加することができる。
【0016】
さらに、基材ポリマーフィルムは積層構造であってもよい。積層体としては、ポリエステル−ポリオレフィン又はポリエステル−接着性ポリオレフィン等のポリマー−ポリマー積層体、ポリエステル−アルミニウム等のポリマー金属積層体、ポリマー−紙積層体、ポリマー−接着性紙積層体等が挙げられる。被覆ポリマーフィルムまたは積層体も使用でき、特にプライマー塗布を施したフィルムは含浸または接着性能が高いために好ましい。
【0017】
基材ポリマーフィルムの製造方法は公知の技術を使用できる。例えば、ポリエステルを溶融押出しして鏡面回転ドラム上に非晶シートを形成し、急冷し、1軸または2軸延伸することにより、強度および可撓性に富むフィルムを得ることができる。通常シートを1軸または2軸方向に延伸することにより、2〜4倍に延伸される。1軸延伸よりも2軸延伸の方が好ましい。延伸はポリマーの第2転移温度から軟化および融点よりも低い温度で行う。必要であれば、フィルムを延伸後、熱処理を行い、フィルムの結晶化を進め、物性を固定する。結晶化によりフィルムの安定性および引張り強度が付与される。ポリエステルフィルムの熱処理温度は通常190〜240℃である。
【0018】
帯電防止塗布層:
本発明の及び界面活性剤から成る。帯電防止塗布層はポリチオフェン及び界面活性剤を含有する水性塗布液を塗布して形成させる。
【0019】
帯電防止能を有するポリチオフェンは典型的にはダークブルーの色を呈する。しかしながら、塗布層の厚さを薄くすることにより、単層フィルムにおいてはこのダークブルーの色は知覚できなくなる。したがって、塗布層を薄くするためにも、後述する塗布がインラインコーティングで行われることが好ましい。オフラインコーティングで塗布を行った場合、塗布層が厚くなり、青色が知覚できるようになり、フィルムの用途によっては問題が生じる。
【0020】
ポリチオフェンとしては、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンが好ましい。さらに、米国特許第5,766,515号公報に記載のポリチオフェンも好ましく、本発明にはその内容を包含する。当該公報に記載のポリチオフェンは、ポリスチレンスルホネート中にポリチオフェンが分散しており、有機溶媒及びポリマーバインダーを含有しておらず、Bayer社からBaytron PHの商標で販売されている。詳しくは、0.8重量%のポリスチレンスルホン酸と0.5重量%のポリチオフェンとが水に均一分散した水性分散体である。同様に、ポリスチレンスルホン酸とポリチオフェンとの2成分系を重合させることにより、Baytron PHと類似の製品(Baytron C及びBaytron M)もBayer社から入手できる。ポリチオフェンは分散剤と併用するのが好ましく、中でも、ポリマー分散剤、好ましくは水分散性分散剤を併用するのが好ましい。特に、ポリスチレンスルホン酸を分散剤としてポリチオフェンと併用するのが好ましい。
【0021】
水性塗布液中のポリチオフェンの含有量は、通常0.08〜0.5重量%、好ましくは0.2〜0.4重量%、特に好ましくは0.2〜0.4重量%である。分散剤としてポリスチレンスルホン酸をポリチオフェンと併用する場合、水性塗布液中のポリスチレンスルホン酸の含有量は、通常0.1〜2重量%、好ましくは0.15〜1重量%である。特に、ポリチオフェンに対するポリスチレンスルホン酸の使用量比が1.6:1であることが好ましい。
【0022】
帯電防止塗布層中のポリチオフェン成分の含有量は、通常0.5mg/m以上、好ましくは0.6〜7mg/mである。帯電防止塗布層中のポリチオフェン成分の含有量が0.5mg/m未満の場合、帯電防止効果が低下することもある。一方、帯電防止塗布層中のポリチオフェン成分の含有量が多すぎる場合、塗布層の青色が知覚できる場合があり、フィルムの用途によっては問題が生じる。
【0023】
界面活性剤としては、種々の界面活性剤を1種または2種以上を組合せて使用できる。界面活性剤を使用することにより、乾燥塗布層に高い濡れ張力を付与することができ、それによりポリチオフェンを基材フィルム上に好適に塗布することができる。界面活性剤により、塗布後、溶媒である水が蒸発し、乾燥した塗布層となった後でも透明性および帯電防止性が維持される。
【0024】
界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤およびフッ素系界面活性剤が好ましい。アニオン性界面活性剤としては、ラウリルスルホン酸ナトリウム(Sipon UBとして入手可能)スルホ琥珀酸塩配合物(Aerosol OTNV(Cytec Industries社製)として入手可能)が挙げられる。この配合物は特許売薬であるが、米国特許第5,512,211号公報に記載されており、その内容を本願に含める。同様の界面活性剤として、ジオクチルスルホ琥珀酸ナトリウム(Aerosol OTとして入手可能)が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、Triton X−405(Union Carbide社製)として入手できるオクトキシノール−40が挙げられる。
【0025】
フッ素系界面活性剤としては、炭素鎖4〜8のフッ化脂肪族オキシエチレン(ポリエチレングリコールも含有される)が好ましく、市販品としてはFluorad FC−170C(3M社製、ノニオン性)が挙げられる。フッ素系界面活性剤は、特に塗布の縞(ストリーク)を最小にする効果があり、ポリマーフィルム上に塗布した際は、特に顕著な効果が得られる。また、この縞を最小にする効果は、写真用フィルムや包装フィルム等の透明なフィルムに使用する際重要な効果であり、縞やしみによって透明性が制限されることを防ぐ。
【0026】
水性塗布液中の界面活性剤の含有量は、通常0.1〜5重量%、好ましくは0.1〜3.2重量%、より好ましくは1〜2重量%である。特に、フッ素系界面活性剤を使用する場合は、その含有量が1〜1.5重量%の際、効果が最大となる。
【0027】
ポリチオフェンに対する界面活性剤の重量比は0.1以上、好ましくは1〜10、特に好ましくは4〜6である。なぜ、このように多量の界面活性剤をポリチオフェンと組合せて使用すると帯電防止性が向上するのか理論的には明らかでないが、帯電防止性塗布層の性能は湿度とは無関係であることがわかったため、界面活性剤の吸湿効果によるものではないと考えられる。
【0028】
塗布液の溶媒としては、人間および環境に対する安全性および低コストの面から水が好ましい。すなわち、塗布液は、有機溶媒を実質的に含有しないことが好ましい。水性塗布液中の有機溶媒の含有量は通常10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは1重量%未満である。したがって、帯電防止性成分が水または水を主として含有する分散剤中に分散した状態であることが好ましい。しかしながら、少量であればアルコール類または他の適当な有機溶媒を単独または組合せて使用してもよい。水性塗布液中の固形物の含有量は、通常0.5〜4重量%、好ましくは1.5〜2.5重量%である。
【0029】
水性塗布液は、実質的にポリマーバインダーを含有しない。ポリマーバインダーの使用は、通常基材ポリマーフィルムと塗布層との間の接着性を高める効果があるが、高価であり、最終的なフィルムの性質に影響を及ぼす虞が有り、さらに、バインダーの使用によって基材ポリマーフィルム上に導電性ポリチオフェンの塗膜が不連続になるという欠点を有する。したがって、本発明の水性塗布液は、通常10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは1重量%未満のポリマーバインダーを含有する。このように多量の界面活性剤をポリチオフェンと組合せて使用することと、ポリマーバインダーの実質的な量の使用は、塗布層と基材ポリマーフィルムとの接着性を高めることに於て関係がない。
【0030】
さらに、本発明の帯電防止塗布層には滑剤を含有させてもよい。滑剤の使用により、フィルム形成時における巻取り操作を円滑に行うことができる。滑剤としては、無機滑剤が好ましく、コロイダルシリカ(SiO)がより好ましい。特に、Nalco 1034(登録商標)として得られるコロイダルシリカ(ナルコ化学社製Nalco Chemical Company)が好ましい。他の滑剤としては、Syloid(登録商標)シリカまたはRapidup(登録商標)シリカ等の種々の形態を有するシリカが挙げられるが、粒径が大きいため透明性または低いヘーズが要求されるフィルムへの使用はあまり好ましくない。また、2つ以上の滑剤を組合せて使用してもよい。塗布液中に対する滑剤の含有量は好ましくは0.05〜2重量%、より好ましくは0.05〜0.5重量%、特に好ましくは約0.1重量%である。
【0031】
本発明の帯電防止塗布層(および塗布液)には、顔料、他の色素、安定剤、他の帯電防止剤、接着促進剤、酸化防止剤、つや消し剤、フィラー、可塑剤等の公知の添加剤を含有させることができる。
【0032】
基材ポリマーフィルム上に設ける帯電防止塗布層の乾燥時の厚みは、通常0.001〜0.1μm、好ましくは0.005〜0.05μmである。
【0033】
帯電防止性は、代表的には塗布層表面の表面固有抵抗値によって評価する。一般的に、表面固有抵抗値が1×1013Ω/□以下であれば、好ましい帯電防止性を有していると言われている。本発明の帯電防止性ポリマーフィルムの表面固有抵抗値は、通常1×1013Ω/□以下、好ましくは1×1011Ω/□以下、より好ましくは1×10Ω/□以下、特に好ましくは約1×10Ω/□である。
【0034】
水性塗布液は、所望の塗布成分を単純に混合すれば調整でき、撹拌を行えば均一な分散液または溶液とすることができる。水性塗布液調製の際の各成分の添加順序は特に制限されないが、1.ポリチオフェンとしてBaytron PHを脱イオン水中に希釈し、2.撹拌しながら界面活性剤を混合し、3.撹拌しながら、滑剤としてコロイダルシリカ(SiO)を混合する方法が好ましい。水性塗布液調製の際、分散剤としてポリスチレンスルホン酸を使用する場合、水性塗布液のpHを酸性側に調製することにより水性塗布液の安定性が向上する。界面活性剤は、通常酸性でも塩基性でも安定であるが、滑剤としてコロイダルシリカ(SiO)を使用した場合、(例えば、Nalco 1034を使用した場合)、塩基性に調製した方が水性塗布液の安定性が高い。
【0035】
他の基材:
本発明の帯電防止塗布層および帯電防止方法は、上記のポリマーフィルムから成る基材フィルムだけでなく、他の基材に対しても使用することができる。他の基材としては、金属、ガラス、ポリマー性製造物が挙げられる。さらに、本発明の帯電防止塗布層を有するポリマーフィルムを他の基材表面に適応してもよく、その表面に帯電防止効果を付与することができる。フィルムは熱接着または機械的な締付けによって他の基材表面に接着することができる。
【0036】
塗布方法:
帯電防止塗布層を形成するための塗布方法としては、フィルム製造プロセス中で且つ熱固定前に塗布を行うインラインコーティング法が好ましい。代表的には、基材ポリマーフィルムにコロナ処理を施した後で且つフィルムの延伸工程前に塗布する方法、(英国特許第1,411,564号公報に記載)、2軸延伸する場合の延伸工程中に行う方法(米国特許第4,571,363号公報に記載)または延伸後に行う方法(米国特許第3,322,553号公報に記載)が挙げられる。
【0037】
インラインコーティングの代りに、熱固定後、好ましくはポリマー基材表面を改質処理した後に1回以上のオフラインコーティングを行うことにより塗布を行っても良い。すなわち、基材ポリマーフィルムを製造した後に、オフラインコーティングを行う。また、1つ以上のコーティングを、インラインコーティングで行い、さらにその後オフラインコーティングで行うように、併用してもよい。オフラインコーティングとしては、ロールコーティング、リバースロールコーティング、グラビアロールコーティング、リバースグラビアロールコーティング、ブラッシュコーティング、(メイヤー)バーコーティング、スプレーコーティング、エアーナイフコーティング、メニスカスコーティングおよび浸析法が挙げられる。
【0038】
コーティングを施す前に、基材ポリマーフィルムの表面改質を行うことにより、より優れた効果を得ることができる。表面改質法としては、コーティングの接着性を高めるために、コロナ処理を施すのが一般的である。コロナ処理および他の表面改質法により、コーティングが十分に基材ポリマーフィルムに浸透する。コロナ処理は、1分間当り3.0〜9.0ワット/ft(0.54〜1.61J/m)の強さで行うと特に効果的である。さらに、プライマーまたは他の中間層を必要に応じてポリマーフィルムと帯電防止塗布層との間に設けてもよい。
【0039】
以上説明したように、本発明により、基材表面の帯電性をコントロールすることができる。基材ポリマーフィルムの片面または両面に帯電防止塗布層を被覆することもできる。また、片面のみに本発明の帯電防止塗布層を設ける場合、帯電防止塗布層のコーティングと同時またはその前後に基材ポリマーフィルムのその反対面に他のコーティングを施すこともできる。帯電防止塗布層を他の被覆層の上に施すことはあまり好ましくない。そのような帯電防止塗布層のトップコーティングは、帯電防止効果に限界が生じる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。尚、本発明における各種の物性の測定方法は下記のとおりである。
【0041】
(1)帯電防止性:
50%湿度、73°Fにおいて、フィルムの表面固有抵抗をASTM D257に従って測定した。電圧は約10Vまたは5V(標準電圧500Vに対する)で行った。
【0042】
(2)塗布層の接着性:
グラフィックアート用印刷プレートを台座として使用し、テープ剥取テストを行った。1インチ幅の3M社製Scotch 616(登録商標)粘着テープをフィルムの塗布層面に貼付けた後、フィルムと粘着テープとの角度が約90°と成る方向へ、12インチ/分の速さで粘着テープを剥がす。テープが塗布層と共に剥がれる際の剥取力が好ましくは454g/インチ以上、より好ましくは800〜1100g/インチであれば塗布層と基材フィルムとの間の接着性が良好である。
【0043】
(3)ヘーズ:
ASTM Method D1003に従い測定した。
【0044】
(4)摩擦係数:
ASTM Method D1894に従い測定した。
【0045】
実施例1〜15、参考例1〜2:
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを基材フィルムとし、表1に示す塗布液組成を有する水性塗布液をインライン法により塗布・乾燥して形成された塗布層を有する帯電防止性ポリマーフィルムを製造した。インライン法による塗布は、長手方向延伸と横方向延伸の間に行った。結果を表2に示す。長手方向と横方向の延伸比はそれぞれ3.5であった。
【0046】
溶融押出しによって得られたポリエチレンテレフタレートシートを長手方向に延伸した後、表1に示す塗布液組成を有する水性塗布液をインライン法により塗布し、次いで、横方向延伸、熱固定を行い、塗布層を有する二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを製造した。長手方向と横方向の延伸比はそれぞれ3.5であった。結果を表2に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
実施例1〜15、参考例1〜2は、界面活性剤の量を通常より高くした場合のシリーズであり、(0.1重量%以上)、有機溶媒およびポリマーバインダーを使用していない。ポリチオフェンの含有量に対し、界面活性剤の量を増加させると、表面固有抵抗が低くなることがわかる。さらに、摩擦係数、基材フィルムと塗布層との接着力および光学特性に優れたフィルムであることが明らかである。滑剤を含有させることにより、表面固有抵抗が若干低くなった。参考例1及び2でポリチオフェンとして使用しているBytron CPUDはBytron PHとポリウレタンとのブレンド品であり、Bytron PH単独の場合と比較して表面固有抵抗は高かった。しかしながら、界面活性剤の量を増加させることにより、表面固有抵抗が低くなった。
【0050】
実施例16〜19:
溶融押出しによって得られたポリエチレンテレフタレートシートを長手方向に延伸した後、表3に示す塗布液組成を有する水性塗布液をインライン法により塗布し、次いで、横方向延伸、熱固定を行い、塗布層を有する二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを製造した。長手方向と横方向の延伸比はそれぞれ3.5であった。結果を表4に示す。実施例16〜19において、界面活性剤の量をさらに増加させた。
【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
実施例20〜33、比較例1:
溶融押出しによって得られたポリエチレンテレフタレートシートを長手方向に延伸した後、表5に示す塗布液組成を有する水性塗布液をインライン法により塗布し、次いで、横方向延伸、熱固定を行い、塗布層を有する二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを製造した。長手方向と横方向の延伸比はそれぞれ3.5であった。結果を表6に示す。実施例20〜33は界面活性剤の量をさらに増加させた場合の接着性を最良とした場合の例である。
【0054】
【表5】

【0055】
【表6】

【0056】
実施例34〜42:
溶融押出しによって得られたポリエチレンテレフタレートシートを長手方向に延伸した後、表7に示す塗布液組成を有する水性塗布液をインライン法により塗布し、次いで、横方向延伸、熱固定を行い、塗布層を有する二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを製造した。長手方向と横方向の延伸比はそれぞれ3.5であった。結果を表8に示す。実施例34〜39はポリスチレンスルホン酸を使用しているが、表面固有抵抗にはほとんど影響を及ぼさなかった。また、実施例41と42を比較すると、界面活性剤を多量に使用した場合、ある程度の含有量を超えると表面固有抵抗がそれ以上改良されない(低くならない)ことがわかった。
【0057】
【表7】

【0058】
【表8】

【0059】
実施例43〜47:
溶融押出しによって得られたポリエチレンテレフタレートシートを長手方向に延伸した後、表9に示す塗布液組成を有する水性塗布液をインライン法により塗布し、次いで、横方向延伸、熱固定を行い、塗布層を有する二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを製造した。長手方向と横方向の延伸比はそれぞれ3.5であった。結果を表10に示す。実施例43〜47では、湿度20%と50%で表面固有抵抗値を測定した。しかしながら、湿度を変化させても表面固有抵抗値にほとんど差がなかった。実施例46及び47では、界面活性剤を変更し、優れた表面固有抵抗値が得られた。
【0060】
【表9】

【0061】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材ポリマーフィルムと帯電防止塗布層から成る帯電防止性ポリマーフィルムであって、帯電防止塗布層はポリチオフェン及び界面活性剤を含有する水性塗布液を塗布して形成され、ポリチオフェンに対する界面活性剤の重量比が0.1以上であり、上記水性塗布液は実質的にポリマーバインダーを含有せず、10重量%未満の有機溶媒を含有することを特徴とする帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項2】
塗布層が実質的に透明である請求項1に記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項3】
ポリチオフェンが3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンである請求項1又は2に記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項4】
PST Tape Peel測定(PSTテープ引裂き測定)による引裂き力が800〜1100g/インチである請求項1〜3の何れかに記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項5】
界面活性剤がフッ素系界面活性剤である請求項1〜4の何れかに記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項6】
フッ素系界面活性剤が炭素鎖4〜8のフッ化脂肪族オキシエチレンである請求項5に記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項7】
基材ポリマーフィルムがポリエステルから成る請求項1〜6の何れかに記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項8】
水性塗布液中のポリチオフェンの含有量が0.08〜0.5重量%である請求項1〜7の何れかに記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項9】
水性塗布液中のポリチオフェンの含有量が0.2〜0.4重量%である請求項1〜7の何れかに記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項10】
水性塗布液中の界面活性剤の含有量が0.1〜3.2重量%である請求項1〜9の何れかに記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項11】
水性塗布液中の界面活性剤の含有量が1〜2重量%である請求項1〜9の何れかに記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項12】
界面活性剤がアニオン系界面活性剤である請求項1〜11の何れかに記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項13】
界面活性剤がノニオン系界面活性剤である請求項1〜11の何れかに記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項14】
ノニオン系界面活性剤がオクトキシノール−40である請求項13に記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項15】
アニオン系界面活性剤がラウリル硫酸ナトリウムである請求項12に記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項16】
アニオン系界面活性剤がスルホ琥珀酸塩である請求項12に記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項17】
水性塗布液が更に滑剤を含有する請求項1〜16の何れかに記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項18】
滑剤がシリカを含有している請求項17に記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項19】
シリカがコロイダルシリカである請求項18に記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項20】
水性塗布液中の滑剤の含有量が0.05〜2重量%である請求項17〜19の何れかに記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項21】
水性塗布液の固形物含有量が0.5〜4重量%である請求項1〜20の何れかに記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項22】
帯電防止性塗布層の乾燥厚みが0.001〜0.1μmである請求項1〜21の何れかに記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項23】
帯電防止性塗布層の乾燥厚みが0.005〜0.05μmである請求項1〜21の何れかに記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項24】
帯電防止性塗布層上の表面固有抵抗が1×1011Ω/□以下である請求項1〜23の何れかに記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項25】
水性塗布液が更にポリスチレンスルホン酸を含有する請求項1〜24の何れかに記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項26】
水性塗布液中のポリスチレンスルホン酸の含有量が0.1〜2重量%である請求項25に記載の帯電防止性ポリマーフィルム。
【請求項27】
基材表面の帯電性を制御する方法であって、当該方法はポリチオフェン及び界面活性剤を含有する水性塗布液を基材表面に塗布することから成り、上記水性塗布液は実質的にポリマーバインダーを含有せず、水性塗布液中の界面活性剤の含有量が0.1〜3.2重量%であることを特徴とする基材表面の帯電性を制御する方法。
【請求項28】
基材がポリマーフィルムである請求項27に記載の方法。
【請求項29】
塗布がインラインコーティングによって行われる請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
水性塗布液が実質的に酸性である請求項27〜29の何れかに記載の方法。

【公開番号】特開2008−174748(P2008−174748A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6993(P2008−6993)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【分割の表示】特願2002−126302(P2002−126302)の分割
【原出願日】平成14年4月26日(2002.4.26)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】