説明

帯電防止性多層シート及び帯電防止性熱成形品

【課題】押出シート成形におけるポリッシングロール表面の汚染の発生が防止され、シートの外観を損なうことなく、安定的に厚みの厚い多層シート製品の生産が可能な製造方法、および押出シート成形による透明性を有し外観が良好な像鮮明度が高い多層シートであり、かつ持続的な帯電防止性能を有する多層シートを提供することを目的とする。
【解決手段】透明樹脂Aを基材樹脂とし高分子型帯電防止剤を含有しない被覆層と、透明樹脂Bを基材樹脂とし高分子型帯電防止剤を含有する帯電防止層とを含む共押出多層シートであって、帯電防止層が被覆層と接して位置し、被覆層が多層シートの両最外面に位置する構成を有し、該多層シートは、像鮮明度が60%以上で、帯電圧半減期測定における初期帯電圧が2.5kV以下であることを特徴とする帯電防止性多層シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性を有し持続的な帯電防止性を有する多層シートに関し、より詳しくは、照明器具、機器銘板、エレクトロニクス製品、家電製品、OA機器等の各種部品や看板、ディスプレー、各種機器の前面板における静電気を防止し得る材料として好適な帯電防止性多層シートおよび該多層シートを熱成形してなる帯電防止性熱成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリル系樹脂を代表とする透明性の高い樹脂は、優れた透明性と耐候性、剛性を有することから、例えばエレクトロニクス製品や家電製品、OA機器等の各種部品や看板、装飾部材、ディスプレー、各種機器の前面板の素材として幅広く使われている。
しかしながら、合成樹脂製品は一般に摩擦等により容易に帯電するため、ゴミや埃が付着して外観を損ねたり、あるいは電子機器部品等では静電気によるトラブルを発生する等の問題点がある。そこで、透明性を維持しつつ帯電防止性が改良された透明性の高い樹脂シートの開発が望まれていた。
【0003】
一般に合成樹脂製シートに帯電防止性を付与する方法としては、界面活性剤を基材樹脂に練り込んだり、製品シート表面に界面活性剤を塗布する方法が知られている。しかしながら、帯電防止剤として界面活性剤を使用した帯電防止方法では水洗や摩擦により帯電防止剤が除去されやすく持続的な帯電防止性能を付与することは不可能であった。
【0004】
一方、合成樹脂製シートに持続的な帯電防止性能を付与する方法として、高分子型帯電防止剤を基材樹脂に添加して製品中に帯電防止剤を含有させることにより持続的な帯電防止性能が得られることが知られている。このような高分子型帯電防止剤は、例えば、ポリエチレングリコール−メタクリレート共重合体、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルアミドイミド、ポリエチレンオキシド−エピクロルヒドリン共重合体が実用化されている。
【0005】
高分子型帯電防止剤を用いることにより、界面活性剤の場合にみられる帯電防止効果の消失を防ぐことはできる。しかし、高分子型帯電防止剤を用いて押出シート成形法によりシート成形品を連続的に製造した場合、ポリッシングロール表面が高分子型帯電防止剤により汚染され、それが要因となって製品シートの表面状態を悪化させるという問題がある。上記「押出シート成形」は、押出機先端部に備えられたフラットダイ(Tダイ)のスリットから溶融樹脂をシート状に押出し、ダイの下流側に設けられた引取りロール(ポリッシングロール等)により引取り、シートに成形する方法をいう。通常、ポリッシングロールとしては、硬質クロムメッキでコーティングされて鏡面仕上げされた平滑表面を持つ金属ロールが使用される。
【0006】
特許文献1に、高分子型帯電防止剤を使用したシートとして、基材のアクリル系樹脂層の少なくとも片面に高分子型帯電防止剤を含有する樹脂層を積層した積層シートに、さらにアクリル系樹脂及び/又はフッ化ビニリデンからなる樹脂層をラミネートまたはコーティングにより積層した帯電防止性積層シートが開示されている。しかしながら、特許文献1には高分子型帯電防止剤を用いて押出シート成形法によりシート製品を連続的に製造する場合に発生するポリッシングロール表面の汚染、これに伴う製品シートの表面状態を悪化させるという問題については何ら言及されていない。
【0007】
高分子型帯電防止剤によりロール表面が汚染され、それが要因となって製品シートの表面状態を悪化させるという問題について、特許文献2に、ロール温度を50〜80℃という比較的低い温度にコントロールすることにより解決し得ることが開示されている。しかし、このような低いロール温度では、厚いシートを製造した場合、得られるシートは反りが発生し易いと共に平滑な表面も得られ難い。
表面が平滑で反りを生じないシートを製造するためには、ロール温度を高くせざるを得ない。しかしロール温度を高くするとロール汚染が生じ易くなり、ロール表面の汚染を除去する作業や、ロールを交換することが必要となり、長時間連続して安定した製造をすることができなくなり、生産効率が悪く、結果としてコストアップの要因になってしまうという問題がある。
【0008】
また、特許文献3に、ロール汚染性の低い高分子型帯電防止剤が提案され、該高分子型帯電防止剤を使用することにより、表面状態の良好な製品が得られることが開示されている。しかしながら、特許文献3においてロール汚染性については、厚さ200μmのような薄いフィルムを20℃に温調したロールで引取った場合のフィルムについて評価されており、押出シート成形によりフィルムよりも厚いシートを製造する際のポリッシングロールの汚染性の有無に関しては何ら言及されていない。上記の高分子型帯電防止剤を使用して押出シート成形により比較的高いロール温度によりシートを製造したときロールの汚染防止は十分満足できるものではなく、未だ十分に解決されていないのが現状である。
【0009】
また、高分子型帯電防止剤を使用し、表面特性の変化がなくイオン性不純物の溶出が少なく被包装物の汚染が押さえられた多層フィルムが特許文献4に開示されているが、特許文献4はキャスティングまたはインフレーションによる包装用の多層フィルムであり、押出シート成形により多層シートを製造する際のポリッシングロールの汚染性、製品シートの表面状態の悪化については何ら開示されていない。
【0010】
したがって、押出シート成形法による高分子型帯電防止剤を用いた透明で表面状態が良好なシート、特に厚みの厚いシートの生産は、実現出来ていないのが実状である。
【0011】
【特許文献1】特開平7−1682号公報
【特許文献2】特開平8−80599号公報
【特許文献3】特開2006−206894号公報
【特許文献4】特開2006−15741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
高分子型帯電防止剤を含む表面層を持つシートが、押出シート成形に際してロール汚染を引起す原因は、高分子型帯電防止剤特有の性質によるものと推察される。すなわち、高分子型帯電防止剤は親水性ポリマー単位と親油性ポリマー単位とを有する共重合体で、その共重合体中にアルカリ金属塩を導入することによりイオン導電性の機能を付与し、さらに熱可塑性樹脂に混合された際に帯電防止性能を付与するために熱可塑性樹脂との相溶性を高めることが必要である。このような性質を具備するようにした場合には高分子型帯電防止剤は極性の高いものにならざるを得ない。さらには高分子型帯電防止剤には、帯電防止効果を高めるために加えられる低分子量有機物も存在するため、通常の押出シート成形で使われる60〜180℃に温調された硬質クロムメッキしたポリッシングロール表面に付着し易くなるという根本的な問題があった。
そこで、本発明者等は、ロール汚染防止のために、透明樹脂に高分子型帯電防止剤を添加した樹脂組成物層の両面に、高分子型帯電防止剤を添加しない透明樹脂層が形成されるようにして共押出しする方法を試みた。その結果、長時間にわたってロール汚染が防止されることが確認された。しかしながら、共押出方法による多層化では、得られる多層シート表面にウロコ模様が発生するという別な問題が発生した。表面にウロコ模様が発生した多層シートは、帯電防止性に優れ、透明性を有していたが、外観が著しく損なわれた像鮮明度の低いものであった。
【0013】
本発明は上記の実情に鑑み為されたもので、押出シート成形におけるポリッシングロール表面の汚染の発生が防止され、シートの外観を損なうことなく、安定的に厚みの厚い多層シート製品の生産が可能な製造方法、および押出シート成形による透明性を有し外観が良好な像鮮明度が高い多層シートであり、かつ持続的な帯電防止性能を有する多層シート並びにその成形品を提供することを目的とするものある。
なお、本発明において、「透明性を有し外観が良好な像鮮明度が高い多層シートであり、かつ持続的な帯電防止性能を有する多層シート」を、「透明性を有する帯電防止性多層シート」あるいは「帯電防止性多層シート」、または単に「多層シート」と表記することがある。また、「高分子型帯電防止剤」を単に「帯電防止剤」、「高分子型帯電防止剤を含有する層」を単に「帯電防止層」と表記することがある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記課題を解決するために、高分子型帯電防止剤を含有する樹脂組成物の押出シート成形について種々の検討を行った結果、透明性と良好な外観を有し、持続的な優れた帯電防止性をもつ多層シートの製造条件を見出し、それにより所期の目的が達成される本発明を為した。
【0015】
本発明は、透明性と良好な外観を有し、持続的な優れた帯電防止性とを併せ持つ多層シート(本発明の第一の発明)および第一の発明に係る多層シートを熱成形してなる熱成形品(第二の発明)に係る。
【0016】
すなわち、本発明の第一の発明は、
(1)透明樹脂Aを基材樹脂とし高分子型帯電防止剤を含有しない被覆層と、透明樹脂Bを基材樹脂とし高分子型帯電防止剤を含有する帯電防止層とを含む共押出多層シートであって、帯電防止層が被覆層と接して位置し、被覆層が多層シートの両最外面に位置する構成を有し、該多層シートは、像鮮明度が60%以上で、帯電圧半減期測定における初期帯電圧が2.5kV以下であることを特徴とする帯電防止性多層シート、
【0017】
(2)前記多層シートにおける帯電圧半減期が60秒以下であることを特徴とする上記(1)に記載の帯電防止性多層シート、
【0018】
(3)前記多層シートにおける帯電圧半減期が20秒以下であることを特徴とする上記(1)に記載の帯電防止性多層シート、
【0019】
(4)前記帯電防止層が、透明樹脂Cを基材樹脂とする芯層の両面に形成されていることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の帯電防止性多層シート、
【0020】
(5)前記帯電防止層において、高分子型帯防止剤の添加量が、高分子型帯防止剤と透明樹脂Bとの総和量に対して、5〜35重量%であり、かつ多層シート全体に対して9重量%以下となる量であることを特徴とする上記(4)に記載の帯電防止性多層シート、
【0021】
(6)前記多層シートの全光線透過率が75%以上であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の帯電防止性多層シート、
【0022】
(7)前記多層シートを構成している各層のいずれかに着色剤が添加されていることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の帯電防止性多層シート、
【0023】
(8)前記被覆層に耐候安定剤が添加されていることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の帯電防止性多層シート、
【0024】
また、第二の発明は、
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の帯電防止性多層シートを熱成形してなる帯電防止性熱成形品、
を要旨とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る帯電防止性多層シートは、共押出による多層構造を呈しており、透明樹脂Aを基材樹脂とし高分子型帯電防止剤を含有しない被覆層と、透明樹脂Bを基材樹脂とし高分子型帯電防止剤を含有する帯電防止層とを含み、該帯電防止層が被覆層に接して位置し、前記被覆層が多層シートの両最外面に位置する構成からなるが、帯電圧半減期測定における初期帯電圧が2.5kV以下であるので、持続的な帯電防止性に優れ、長期間に亘ってゴミや埃の付着を防止することができ、静電気によるトラブルの発生を防ぐことができる。
また、本発明の帯電防止性多層シートは、像鮮明度が60%以上であることから、透明性を有し、外観に優れたものである。
従って、本発明の帯電防止性多層シートは、照明器具のカバー材として、エレクトロニクス製品、家電製品、OA機器等の各種機器、計器等におけるディスプレー部の前面板として、或いは透明性と帯電防止性とが求められる他の用途として有用である。
【0026】
本発明に係る多層シートは、透明樹脂Bを基材樹脂とし高分子型帯電防止剤を含有する帯電防止層と、該帯電防止層の両面に形成された、透明樹脂Aを基材樹脂とし帯電防止剤を含有しない被覆層とで構成される第一の形態と、透明樹脂Cを基材樹脂とする芯層の両面に、透明樹脂Bを基材樹脂とし高分子型帯電防止剤を含有する帯電防止層が積層され、さらにそれらの積層体の両面に、透明樹脂Aを基材樹脂とし高分子型帯電防止剤を含まない被覆層が形成された第二の形態とを包含する。第二の形態の場合には、多層シートの像鮮明度が60%以上となるように芯層の基材樹脂を選択する必要があるので、芯層の基材樹脂として透明樹脂Cを用いる必要がある。本発明における第二の形態の多層シートは、多層シート全体における帯電防止剤の使用量を低減することができ、本発明の所期の帯電防止性能を発現し得る透明な多層シートであり、全体としてコストの低減を図ることができる。ここで、本発明における上記の透明樹脂A、透明樹脂Bおよび透明樹脂Cは、後述するように、特定の全光線透過率と特定のヘーズを示す熱可塑性樹脂であり、JIS K7361(1997年)に示される「透明プラスチック」に該当する樹脂が好適に使用される。また、本発明における「基材樹脂」とは、多層シートを構成する各層において、50重量%以上含有される熱可塑性樹脂を意味する。
【0027】
また、本発明の多層シートは、熱成形することにより、所望の形状に成形加工することができ、透明性を有し、かつ帯電防止性に優れた包装材等としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る多層シートの構成を図1に示す。図1(a)は本発明の第一の形態の多層シートを示し、透明樹脂Bを基材樹脂とし、高分子型帯電防止剤を含有する帯電防止層2(以下、帯電防止層Cと称することもある)の両面に、透明樹脂Aを基材樹脂とし高分子型帯電防止剤を含まない被覆層1、1を有する多層シートである。
【0029】
図1(b)は本発明の第二の形態の多層シートを示し、透明樹脂Cを基材樹脂とする芯層30の両面に、透明樹脂Bを基材樹脂とし、高分子型帯電防止剤を含有する帯電防止層20(以下、帯電防止層Mと称することがある)が形成され、さらにそれらの積層体の両面に、透明樹脂Aを基材樹脂とし、高分子型帯電防止剤を含まない被覆層1、1が形成された多層シートである。
【0030】
本発明の上記第一の形態および第二の形態からなる多層シートは、像鮮明度が60%以上であり透明性を有すると共に、帯電圧半減期測定における初期帯電圧が2.5kV以下を示す持続的な帯電防止性を有する多層シートである。上記の初期帯電圧は水洗後の測定値である。
【0031】
前記第一の形態は、多層シートにおける被覆層を除くシート全体(帯電防止層C)に帯電防止剤が存在しており、体積固有抵抗が大きく減少するため帯電防止性に優れた多層シートとなりうる。しかし、高分子型帯電防止剤は若干着色している場合が多く、製品シート全体が黄色味を帯び、いわゆるイエローインデックス(YI値)が高くなる。また、高分子型帯電防止剤は、分子中にエーテル結合を有していることが多く、耐候性にやや懸念がある。それらの問題点を解決するためには、帯電防止層Cにブルーイング剤を添加したり、耐候性を改善するために帯電防止層Cや被覆層に耐候安定剤として紫外線吸収剤や光安定剤、酸化防止剤などを添加する方法で対処することができるが、第二の形態よりは材料コスト面でやや不利である。
【0032】
帯電防止性多層シートにおいては、帯電防止効果は主に被覆層下の帯電防止層、特に被覆層に接する帯電防止層に存在する帯電防止剤に因る。したがって、被覆層に接する部位に多くの高分子型帯電防止剤を配するように構成すれば、帯電防止性能を低下させることなく帯電防止効果を得ることができる。上記の構成とすれば、高価な帯電防止剤の添加量を削減することができると共に、帯電防止層Cへのブルーイング剤や耐候安定剤の添加を必要とすることなく又は必要としてもわずかな添加量にて、透明性を有し帯電防止性に優れた多層シートを得ることが可能である。本発明における前記第二の形態は、多層シートにおいて被覆層に接する部位に選択的に帯電防止剤を配合した構成とした多層シートに係るものである。
【0033】
本発明の多層シートは、透明樹脂Bを基材樹脂とし高分子型帯電防止剤を含有する帯電防止層Cの両面に、透明樹脂Aを基材樹脂とし高分子型帯電防止剤を含有しない被覆層が形成されるように、または透明樹脂Cを基材樹脂とする芯層の両面に、透明樹脂Bを基材樹脂とし高分子型帯電防止剤を含有する帯電防止層Mが積層され、さらにそれらの積層体の両面に、透明樹脂Aを基材樹脂とし高分子型帯電防止剤を含有しない被覆層が形成されるように、Tダイを用いて所定の押出条件で共押出した多層シートを、引取り用のポリッシングロール(以下、単に「ロール」とも表記する)を通して引取る多層シート成形法により製造される。
【0034】
本発明においては、高分子型帯電防止剤を含有する帯電防止層を被覆するように帯電防止剤を含有しない被覆層を形成した構成としたことにより、比較的高いロール温度であっても高分子型帯電防止剤のロールへの付着を防ぎ、ロール表面の汚染を防止することができるため、反りのない、透明性を有し外観が良好な、帯電防止性に優れる多層シートを長時間に亘って効率よく安定的に製造することができる。他方、被覆層を最外面に形成したことにより帯電防止効果が妨げられることが懸念されるが、被覆層の厚みが厚すぎなければ問題なく所期の帯電防止機能を十分に発揮する。被覆層の厚みは、通常、50μmを超えないように、好ましくは30μmを超えないように帯電防止層に被覆される。一般に、透明樹脂を基材樹脂とする積層シートの各層の厚みを測定することは困難であるため、通常は一定時間の被覆層成形用樹脂の押出量と、形成された被覆層の面積とから、被覆層の1m当たりの重量である坪量を算出し、これを23℃における被覆層を形成する透明樹脂の密度(JIS K7112(1999年)のA法)で除すことにより算出される厚みが採用される。例えば、被覆層の坪量が50g/mであり、23℃における透明樹脂の密度が1.19g/cmの場合には、坪量の50を該密度の1.19で除して得られる値42(μm)が被覆層の厚みとなる。他の層も同様にして計算することができる。尚、各層は、透明樹脂単独、透明樹脂同士の混合物、透明樹脂単独または透明樹脂同士の混合物に帯電防止剤や他の原材料を混合した形態があるが、各層において坪量から厚みに換算する場合に使用する樹脂密度は、各層おいて50重量%以上を占める主成分である透明樹脂の23℃における密度が便宜的に採用される。なお、透明樹脂を2種類以上混合して使用する場合には、各透明樹脂の23℃における密度の平均値を採用する。
【0035】
本発明における多層シートは共押出による押出シート成形法で製造される。すなわち、本発明の多層シートは、押出機のダイ内において、帯電防止層Cを形成する帯電防止剤を含有する樹脂組成物と、帯電防止剤を含有しない被覆層を形成する樹脂とを3層(被覆層/帯電防止層C/被覆層)に形成し、もしくは芯層を形成する樹脂、帯電防止層Mを形成する帯電防止剤を含有する樹脂組成物、帯電防止剤を含有しない被覆層を形成する樹脂とを5層(被覆層/帯電防止層M/芯層/帯電防止層M/被覆層)に形成し、次いでTダイを通して共押出することにより製造される。上記の共押出において、被押出物がダイリップの平行ランド部を通過する時にせん断によって帯電防止剤を含有する層と帯電防止剤を含有しない層、とりわけ帯電防止層と被覆層との界面でゆがみ(ズレ)を生じ、多層シートの表面全体に目視で確認できるウロコ模様が発生する。このウロコ模様が発生すると、透明性を有する多層シートであっても多層シートを通して見られる画像は鮮明な映像として確認できなかった。上記したウロコ模様は、シート外観を悪化させるので目視で確認できるが、全光線透過率を実質的に低下させるものではなく、また別の光学特性であるヘーズ(曇り度)を実質的に増加させるものではない。本発明者等は、ウロコ模様を定量的に表示する方法について種々の検討を経た結果、JIS K7105(1981年)に規定さる像鮮明度を採用することによりウロコ模様を数値化することを可能とした。即ち、像鮮明度とは、透明プラスチックを通して見える像の鮮明さを定量的に表示する特性として用いられるものであり、この値は、ウロコ模様が減少するほど、ヘーズが小さくなるほど、多層シートの表面が平滑なほど、大きな値を示す。つまり、像鮮明度は、多層シートを通過する光の直進性に優れるほど大きな値を示す。
【0036】
上記のウロコ模様は、多層のシート状に形成される多層構造の溶融物がTダイのリップの平行ランド部を通過する際に受けるせん断をコントロールし、平行ランド部のせん断量を特定の範囲に調整して押出すことによりウロコ模様の発生を防止することができることを本発明者等は見出した。前記せん断量は、ダイリップ間隙、リップの平行ランド長、ならびに押出量によってコントロールすることができ、後述する式(1)により求められるせん断量を、この種のシートを製造する通常の場合よりも大きく低下させて共押出することによりウロコ模様が著しく減少した又はウロコ模様の存在しない外観が良好で透明性を有する多層シートが得られることを本発明者等は見出した。
【0037】
本発明において各層に使用される透明樹脂は同一樹脂であっても、それぞれ異なった樹脂であってもよいが、同一樹脂であれば、製品仕上げのために切断される端部等の廃材を多層シートの帯電防止層又は芯層用の基材樹脂の一部として再利用しても多層シートのヘーズを大きくすることがないため好ましい。ただし、各層に使用される透明樹脂がそれぞれ異なった樹脂であってもそれらの屈折率が近似であれば、多層シートの芯層の一部として再利用してもヘーズを小さく維持することができるため、本発明の目的を阻害しない範囲であれば再利用することも可能である。
【0038】
本発明において使用される透明樹脂は、厚み2mmの平滑な表面を持つ平らな板に成形して測定される全光線透過率(JIS K7136(2000年)による。以下、全光線透過率Rということがある。)が65%以上、かつ曇り度の指標であるヘーズ(JIS K7136(2000年)による。以下、ヘーズRということがある。)が15%以下の熱可塑性樹脂を意味する。全光線透過率Rは高いほど及びヘーズRは小さいほど、本発明の多層シートの像鮮明度を高くし、かつ多層シートのヘーズ(以下、ヘーズSということがある。)を低くすることができる。従って、本発明に使用される透明樹脂の全光線透過率Rは75%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましく、ヘーズRは12%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下が更に好ましく、3%以下が最も好ましい。
一般に、同種類の透明樹脂であっても、厚みが厚くなるほど全光線透過率Rが小さくなると共にヘーズRが大きくなる。本発明における帯電防止層Cまたは芯層は、多層シートの厚みの大部分(総厚みの80%以上)を占めることから、多層シートの像鮮明度を高く、かつヘーズSを小さくするには、帯電防止層Cの基材樹脂である透明樹脂Bまたは芯層の基材樹脂である透明樹脂Cの全光線透過率Rが高く、ヘーズRが小さいほど好ましい。尚、全光線透過率R及びヘーズRは、用途の違いによる要求度の違いにより選択される。例えば、光学分野へ使用される場合にはより高い全光線透過率R及び低いヘーズRを示す透明な樹脂であることが特に好ましい。
【0039】
本発明に係る多層シートが前記第一の形態、すなわち、透明樹脂Bを基材樹脂とし帯電防止剤を含有する帯電防止層Cと透明樹脂Aを基材樹脂とする被覆層からなる3層構造の場合、透明樹脂Bと高分子型帯電防止剤との屈折率差は0.05以内であることが好ましい。前記屈折率差が0.05を超える場合には、屈折率の異なる樹脂をブレンドした時に生じるヘーズSが増加し、像鮮明度が低下し、クリアな透明性が失われる。したがって、前記屈折率差は、より好ましくは0.04以内、さらに好ましくは0.03以内であり、屈折率差は0(ゼロ)であることが最適である。
【0040】
本発明に係る多層シートが前記第二の形態の場合、すなわち、透明樹脂Cを基材樹脂とする芯層の両面に、帯電防止層M(透明樹脂Bを基材樹脂とし帯電防止剤を含有する帯電防止層)が形成され、さらに、それらの積層体の両面に透明樹脂Aを基材樹脂とする被覆層が形成された5層構造の場合は、透明樹脂Bと高分子型帯電防止剤との屈折率差は、前記第一の形態と同様に0.05以内であることが好ましく、好ましくは0.04以内、さらに好ましくは0.03以内であり、屈折率差は0(ゼロ)であることが最適である。透明樹脂Bも透明樹脂Cと同様に全光線透過率Rが高いほど、ヘーズRも小さいほど良いが、芯層の両面に帯電防止層Mが形成される第二の形態の場合は、帯電防止層Mを薄くすることができるので、透明樹脂Bによる像鮮明度に与える影響を少なくできることから選択の余地が広がり、透明樹脂Bの全光線透過率Rが透明樹脂Cに比べ幾分低くても全体として透明性に与える影響は少ない。尚、多層シートが前記第二の形態の場合には、芯層中には帯電防止剤は含有しない方が原料コスト面で有利であるが、少量(芯層100重量%中に5重量%以下、好ましくは3重量%以下、より好ましくは1重量%以下)であれば帯電防止剤を含有してもよい。多層シートの切断端材等を再利用する場合は、芯層又は帯電防止層M中に加えることが望ましいが、芯層中に切断端材等を加えた場合には、帯電防止層Mと芯層との接着力も高める作用がある。
【0041】
本発明の多層シートにおいて前記被覆層は、前述したように主として高分子型帯電防止剤に因るロール表面の汚染防止のために設けられるので、基本的には高分子型帯電防止剤を含まない。ただし、本発明の目的とする多層シートを得るために支障をきたさない範囲であれば、極少量の混在を排除するものではない。つまり、「透明樹脂Aを基材樹脂とし高分子型帯電防止剤を含有しない被覆層」の概念には、「透明樹脂Aを基材樹脂とし、高分子型帯電防止剤に因るロール表面の汚染防止効果を阻害しない範囲内で高分子型帯電防止剤を含有する被覆層」も包含される。例えば、金属接着性が大きい高分子型帯電防止剤であれば添加量が2重量%(高分子型帯電防止剤と透明樹脂Aの総和に対する重量%)程度以下であれば差し支えない。しかし、添加量は少量であることに越したことはなく、好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.3重量%以下である。また、金属接着性が低減された高分子型帯電防止剤であれば添加量が3重量%(高分子型帯電防止剤と透明樹脂の総和に対する重量%)程度以下であれば差し支えない。しかし、金属接着性が低減された高分子型帯電防止剤であっても、添加量は少量であることに越したことはなく、好ましくは2重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下である。
【0042】
本発明の多層シートの被覆層の基材樹脂である透明樹脂Aは、帯電防止層の基材樹脂である透明樹脂Bおよび芯層の基材樹脂である透明樹脂Cと同様に、全光線透過率Rが大きいほど、ヘーズRが小さいほど良いが、高分子型帯電防止剤が含有されていないか又は含有されていても微量であり、且つ被覆層が薄膜であることから、芯層を構成する基材樹脂の透明樹脂よりは全光線透過率Rが小さく、ヘーズが大きい場合であっても、多層シートの像鮮明度が低下しにくい。
【0043】
一般に、帯電防止効果を十分に発現させるには高分子型帯電防止剤を十分な量含有する層がシート表面に存在することが必要であるが、多量の高分子型帯電防止剤を含有する層がシート表面に存在する場合にはロール表面を汚染しやすい。本発明の多層シートでは、シートの最外面に高分子型帯電防止剤が存在しない被覆層が形成されているので、帯電防止層C又は帯電防止層M中の高分子型帯電防止剤の添加量が多いほどおよび該帯電防止層の厚みが厚いほど帯電防止性能を高め、シートの初期帯電圧を低減することができる。
【0044】
すなわち、本発明における多層シートが前記第一の形態、すなわち帯電防止層Cの両面に被覆層を形成した3層構造の場合、被覆層以外の部分全体に高分子型帯電防止剤が配合されている。本発明多層シートの被覆層は50μm以下の極めて薄い層(薄膜)であり、したがって、帯電防止剤を含有する帯電防止層Cの厚みが実質的に多層シートの全厚みに相当するとして捉えることができるので、帯電防止剤の含有量が多い場合には帯電防止性能は高いものになるが、高分子型帯電防止剤の影響でシートが黄色味を帯び所謂イエローインデックス(YI値)が高くなるとともに、耐候性を低下させる虞があり、高分子型帯電防止剤の添加量は帯電防止性を発現し得る範囲で余り多くしないことが好ましい。
【0045】
本発明に係る第一の形態の多層シートにおける帯電防止層Cでは、高分子型帯電防止剤の添加量は、高分子型帯電防止剤と透明樹脂Bの総和量に対して好ましくは25重量%以下、より好ましくは23重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下、最も好ましくは15重量%以下が良い。添加量が少なすぎると多層シートの初期帯電圧が高くなってしまうので、その添加量は3重量%以上であるが好ましく、5重量%以上であることがより好ましく、7重量%以上であることが望ましい。
上記第一の形態の多層シートにおいて、帯電防止層Cの厚みは、用途により異なるが、0.2mm〜15mm程度である。
【0046】
一方、本発明に係る第二の形態の多層シート、すなわち、透明樹脂Cを基材樹脂とする芯層の両面に、透明樹脂Bを基材樹脂とし、高分子型帯電防止剤を含有する帯電防止層Mが形成され、さらにそれらの積層体の両面に被覆層が形成された5層構造の多層シートの場合には、帯電防止層Mは多層シート全体に占める厚みを所望に応じて薄くすることができるため、添加される高分子型帯電防止剤は、本発明における第一の形態に比べ多少添加量を増やしても高分子型帯電防止剤を増やしたことによるイエローインデックスや耐候性に影響を与えることが少なく、帯電防止層M中に配合される高分子型帯電防止剤の添加量は、必要とする帯電防止性能や被覆層の厚みにもよるが、高分子型帯電防止剤と透明樹脂Bの総和量に対して5〜35重量%が好ましく、より好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは7〜28重量%、さらに好ましくは10〜25重量%の範囲である。
【0047】
前記第二の形態は、帯電防止剤は帯電防止層Mの基材樹脂である透明樹脂Bに対して、通常は上記の配合量で添加されるが、帯電防止層Mに高濃度に帯電防止剤を存在させた構造であるため、同一の帯電防止性能を得る上では、前記第一の形態よりも多層シート全体中における帯電防止剤の添加量を削減することができる。前記第二の形態においては、多層シートの厚みにもよるが、多層シート全体に占める帯電防止剤の添加量は、9重量%以下となる量であることが好ましく、7重量%以下となる量であることがより好ましく、特に好ましくは4重量%以下となる量である。一方、帯電防止性能の面から下限値は0.1重量%以上、さらに好ましくは0.3重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上である。前記第二の形態の場合は、多層シート全体に占める帯電防止剤の添加量がこのようにかなり少なくても優れた帯電防止性能を発揮し得るものである。
【0048】
また、前記第二の形態の場合は、帯電防止層Mの厚みが帯電防止剤の配合量とともに帯電防止性能に影響を与える。芯層の両面における帯電防止層Mのそれぞれの厚みとしては、概ね3〜300μm程度であり、あまり薄過ぎると帯電防止性能の低下や均一な厚みの層が得られ難いという製膜性の要因から帯電防止効果のバラツキを生じ好ましくない。一方、厚過ぎると第二の形態とした多層構造による帯電防止剤の添加量の削減効果等のメリットが得られなくなる。したがって、帯電防止層Mのそれぞれの厚みは好ましくは10〜200μmで、さらに好ましくは20〜150μmとすることが望ましい。
尚、上記第二の形態の多層シートにおいて、芯層の厚みは、用途により異なるが、0.2mm〜15mm程度である。
【0049】
また、帯電防止剤が下記に記述するようなポリエーテル成分やポリオレフィン成分を含むものであると、帯電防止剤は本願発明における透明樹脂よりも硬度が低い。したがって、帯電防止剤の種類、帯電防止層への配合量によっては、配合しない場合に比べて帯電防止層自体の硬度が低下することとなる。本願発明の多層シートは被覆層が非常に薄いものであるので、帯電防止層の硬度が多層シートの表面硬度に大きく影響し、帯電防止層の硬度が低くなると多層シートの表面硬度が低下しやすくなり、多層シート表面が傷つきやすくなるなどの懸念がある。
したがって、多層シートの表面硬度の観点からは、帯電防止層への帯電防止剤の配合量は少ないほど望ましく、配合量の上限は、帯電防止剤と透明樹脂Bとの総和量に対して30重量%であることが好ましく、より好ましくは25重量%であり、さらに好ましくは20重量%である。
また、多層シートの表面硬度は帯電防止層の厚みの影響も受けやすく、表面硬度を低下させないためには、帯電防止層の厚みは薄いほどよい。したがって、多層シートの表面硬度の観点からは、多層シートの構成は、帯電防止層を薄くできる上記第二の形態、すなわち、被覆層/帯電防止層M/芯層/帯電防止層M/被覆層の5層構造からなることが好ましく、さらに帯電防止層Mの厚みの上限は、100μmであることが好ましく、80μmであることがより好ましい。
【0050】
本発明の多層シートは、その両最外面に被覆層が形成されているが、被覆層の厚みも帯電防止性に影響を与える。つまり、被覆層が厚過ぎると帯電防止効果が十分に発現されず、一方で薄過ぎると十分なロール汚染防止効果が得られない。したがって、好ましい被覆層の各厚みは上限が50μm以下であることが好ましく、より好ましくは35μm以下、最も好ましくは25μm以下が良い。一方、その下限は、使用するTダイの製膜性にもよるが、被覆層の機能の安定的な効果を得るため1μm以上が望ましく、好ましくは2μm以上、さらに好ましくは3μm以上である。
【0051】
本発明多層シートの各層には、所望に応じて耐候性を付与する耐候安定剤として、一般的な紫外線吸収剤や光安定剤、酸化防止剤等を添加することができるが、耐候安定剤の添加量は、通常、各層を構成する熱可塑性樹脂100重量部に対して1重量部以下であるので透明性に影響する量ではなく特に問題とはならない。また、上記第二の形態の多層シートの場合、被覆層にのみ、又は被覆層と帯電防止層Mにのみ耐候安定剤を添加すれば、多層シートは十分な耐候性を有するものとなるので、上記第一の形態の多層シートに比べて、材料コスト面で優位性がある。
【0052】
上記第一の形態又は第二の形態で構成される本発明の多層シートは、全光線透過率が75%以上であれば、十分な透明性を有するので好ましいが、さらに好ましくは85%以上、より好ましくは89%以上であることが望ましい。
【0053】
本発明の多層シートは像鮮明度が60%以上であるためでウロコ模様が存在しないかまたは存在してもほとんど目立たないものであるため、多層シートは外観に優れるとともに、多層シートを通過する光の拡散性が低いため、よりクリアな透明性を持つ多層シートである。このような実質的にウロコ模様がなく、透明性を有する像鮮明度に優れた多層シートは後述する押出条件を所定の条件に調整して製造することにより得られる。
上記の像鮮明度は高ければ高いほどウロコ模様が少なく、多層シートを透過する光の直線性に優れ、多層シートを通して見える画像や物体等の認識性に優れるものである。多層シートの外観のいっそうの良化と多層シートを通して見える画像や物体等の認識性の向上のためには、像鮮明度は、65%以上が好ましく、75%以上がより好ましく、85%以上が更に好ましく、87%以上が最も好ましい。ただし、像鮮明度の大小は、通常は、多層シートの使用用途により必要とされる光学性能と帯電防止効果との性能バランスから選定されることになる。
【0054】
また、本発明に係る多層シートには像鮮明度を上記範囲以下に損なわない範囲において顔料や染料の着色剤も添加できる。本発明で使用する染料および顔料は、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂等の透明樹脂に使用できるものであれば特に限定されない。例えば、キサンテン系、チアゾール系、チアジン系、ペリレン系、ジアミノスチルベン系などの染料や、二酸化チタン、酸化クロム、カドミウムイエロー、カドミウムオレンジ、カドミウムレッド、カーボンブラック等の顔料が挙げられる。これらの着色剤は被覆層、帯電防止層、芯層の全ての層に添加しても良く、用途に合わせて選択的にいずれかの層、若しくは選択される2種類以上の層に添加することができるが、その添加量の総量は像鮮明度を60%未満まで損なわない範囲であり、多層シート全体の樹脂量100重量部に対して0.1重量部以下が好ましく、より好ましくは0.05重量部以下、更に好ましくは0.03重量部以下である。
【0055】
本発明に係る多層シートに着色剤を添加することにより、全光線透過率が低下し、全光線透過率が75%以下となる場合もあるが、この場合でも高い像鮮明度を維持することができる。このような着色された多層シートは高い全光線透過率が要求されない分野に使用することができる。
【0056】
帯電防止性能の指標として、一般には表面抵抗率が採用されることが多い。なお、本発明における表面抵抗率とは、JIS K6911(1995年)に準拠して、印加電圧を500Vとし、23℃、50%RH環境下にて測定される値である。一般に、帯電防止剤を含有する樹脂シートは、表面抵抗率の値が低くなるに連れて初期帯電圧が低くなり、帯電圧半減期が短時間になるという関係がある。本発明の多層シートでは、最外面に被覆層(帯電防止剤を含有しない樹脂層)が存在するため、上述の関係にややずれを生じる。即ち、本発明の多層シートは、一般的な表面抵抗率の値から予想される初期帯電圧よりも低くなっており、帯電防止性は良好である。本発明の多層シートの中でもさらに帯電防止性能に優れるものは、表面抵抗率の値から予想される帯電圧半減期よりも短時間となる。そのため、本発明の多層シートでは帯電防止性能の評価として初期帯電圧及び帯電圧半減期を採用した。また、初期帯電圧と帯電圧半減期の関係であるが、初期帯電圧が半減する時間が帯電圧半減期である為、同じ帯電圧半減期であっても帯電圧が低い程、実質上帯電し難いと言える。従って、帯電防止性能の評価においては初期帯電圧が優先的に評価され、且つ、帯電圧半減期も短い多層シートが更に帯電防止性能が良好であり、好ましいということになる。なお、本発明の多層シートの水洗後の表面抵抗率は1012〜1015Ω程度である。
【0057】
本発明において初期帯電圧及び帯電圧半減期は、水洗後の多層シートを測定試料として、JIS L1094(1988年)A法に基づき測定される値である。初期帯電圧は2.5kV以下(10kV印加時)であれば、必要な帯電防止効果を発揮する事ができるが、更に十分な帯電防止効果を得るには該初期帯電圧は好ましくは2.3kV以下であり、より好ましくは2.0kV以下であり、最も好ましくは1.7kV以下である。また、帯電圧半減期が60秒以下であれば、より良好な帯電防止効果を発揮することができるが、さらに良好な帯電防止効果を得るには帯電圧半減期は好ましくは40秒以下であり、より好ましくは20秒以下であり、最も好ましくは10秒以下である。尚、帯電圧半減期は、通常は0秒よりも大きい。帯電防止効果の点からは初期帯電圧は低い程好ましく、且つ、帯電圧半減期が短時間であるほど更に好ましいが、初期帯電圧は、用途を勘案して、その他物性とのバランスを考慮して定めればよい。
【0058】
本発明の多層シートは、押出シート成形法、すなわち押出機のTダイからシート状に押出した多層シートをポリッシングロールを通過させて成形を行って得られ、得られる製品としての厚みが0.2〜15mm程度のシート状または板状の形態のものである。本発明の多層シートは、原料樹脂の剛性にもよるが、厚みが1mm以下、好ましくは0.7mm以下の比較的薄いシートは一般にはロール状に巻き取られて製品とされ、保存および搬送される。厚い板状のものは適宜所定の長さに裁断して製品とされ、通常積み重ねて保存および搬送される。また、厚みが0.2〜2.5mmの多層シートは、熱成形方法により各種形状の帯電防止性熱成形品を得ることができる。尚、多層シートは、同じ層構成を呈していても厚みが厚いほど、像鮮明度は低下する傾向にある。従って、多層シートの透明樹脂の種類や層構成によっては厚みが厚すぎる場合は、本発明の像鮮明度が得られないことも有り得るので、多層シートの厚みは10mm以下が好ましく、7mm以下がより好ましく、5mm以下が更に好ましい
【0059】
本発明の多層シートを構成する各層の基材樹脂として用いられる透明樹脂(透明樹脂A、透明樹脂Bおよび透明樹脂C)は、いずれも、JIS K7361(1997年)で知られた「透明プラスチック」が好適に使用される。透明樹脂としては、具体的には、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、環状オレフィン樹脂等が挙げられる。アクリル系樹脂は、アクリル酸アルキルエステル又は/およびメタクリル酸アルキルエステル(これらを総称して以下、(メタ)アクリル酸エステルという)の単独重合体または(メタ)アクリル酸エステル同士の共重合体、(メタ)アクリル酸エステルに基づく単位が50モル%以上であり他のコモノマーに基づく単位が50モル%以下である(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、及びこれらの2以上の混合物である。(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体又は共重合体としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、メタクリル酸メチル−メタクリル酸ブチル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エチル共重合体、などが例示される。これらのうち、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エチル共重合体が好ましく、ポリメタクリル酸メチルがより好ましい。
【0060】
また上記(メタ)アクリル酸エステル系共重合体としては、メタクリル酸メチル−スチレン−ブチレン共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸エチル−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等が例示される。これらのうち、メタクリル酸メチル−スチレン−ブチレン共重合体、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体が好ましい。
【0061】
スチレン系樹脂は、スチレンの単独重合体、スチレンに基づく単位が50モル%を超え、他のコモノマーに基づく単位が50モル%を下回るスチレン共重合体、及びこれらの2以上の混合物である。スチレン系樹脂としては、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、スチレンに基づく単位が50モル%を超えるメタクリル酸メチル−スチレン共重合体、スチレン−ジエンブロック共重合体等が例示される。
【0062】
ポリカーボネート樹脂としては、例えば、ビスフェノールA(4,4'−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパン)ポリカーボネート、ビスフェノールF(4,4'−ジヒドロキシジフェニル−2,2−メタン)ポリカーボネート、ビスフェノールS(4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン)ポリカーボネート、2,2−ビス(4−ジヒドロキシヘキシル)プロパン)ポリカーボネートなどが例示される。これらのうち特に光学グレードのポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0063】
また、熱可塑性ポリエステル樹脂としては、芳香環含有ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレート)および脂肪族ポリエステル(例えばポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートおよびポリ−ε−カプロラクトン)が挙げられる。
【0064】
また、環状オレフィン系ポリマーは、環状オレフィンの単独重合体、環状オレフィン同士の共重合体、または環状オレフィンとエチレンやα−オレフィンとの共重合体、これらの2以上の混合物である。環状オレフィン系ポリマーとしては、例えば、三井化学株式会社の商品名「アペル」や「トーパス」、日本ゼオン株式会社の商品名「ゼオネックス」や「ゼオノア」等が挙げられる。
【0065】
本発明の多層シートを構成する各層に使用される前記透明樹脂は1種又は2種以上を混合して使用することができる。尚、1種の透明樹脂が使用される場合、各層に使用される樹脂は同一又は異なってもよい。透明樹脂の2種以上を混合して使用する場合、又は前記透明樹脂に本発明の目的を阻害しない範囲内で他の熱可塑性樹脂等を混合して使用する場合は、使用する各透明樹脂の屈折率が近似しているか等しいものがよい。各透明樹脂の屈折率差、又は透明樹脂と他の熱可塑性樹脂の屈折率差が大きいと、その混合割合にもよるが混合樹脂は白濁して透明性及び像鮮明度が低下してしまうため、屈折率差は小さいことが望ましい。具体的には、その屈折率差は、0.05以内が好ましく、0.04以内がより好ましく、0.03以内がさらに好ましく、屈折率差は0(ゼロ)であることが最適である。
【0066】
また、本発明の多層シートを構成する帯電防止層C及び帯電防止層Mに使用される基材樹脂である透明樹脂Bとしては、アクリル系樹脂が好ましく、ポリメタクリル酸メチルが特に好ましい。アクリル系樹脂、特にポリメタクリル酸メチルは、透明性に優れ、流通している本発明に使用される高分子型帯電防止剤との屈折率差も小さく、溶融加工温度もさほど高い温度を必要としないため、本発明の効果を最大限に引き出すことができる。また、アクリル系樹脂、特にポリメタクリル酸メチルの上記した性質は、被覆層や芯層に使用した場合においても本発明の多層シートの形成に有利なものである。
【0067】
本発明に用いられる高分子型帯電防止剤としては、ポリオレフィンのブロックと、体積固有抵抗値が1×10〜1×1011Ω・cmの親水性ポリマーのブロックとが、エステル結合、アミド結合、エーテル結合およびイミド結合からなる群から選ばれる少なくとも1種の結合を介して繰り返し交互に結合した構造を有するブロックポリマー(a)、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルアミドおよびポリエーテルアミドイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリエーテル含有親水性ポリマー(b)、又はポリアミドおよび/またはポリアミドイミドからなるアミド基含有疎水性ポリマー、ポリエーテルジオールおよび/またはポリエーテルジアミンからなるポリエーテル含有親水性ポリマーおよび芳香環含有ポリエステルから構成されるブロックポリマー(c)等が例示される。
【0068】
上記のブロックポリマー(a)については特開2004−190028号に、上記のポリエーテル含有親水性ポリマー(b)については特開2006−206894号に、上記のブロックポリマー(c)については特開2006−233204号に、それぞれ詳細に示されている。
【0069】
本発明に使用される上記の高分子型帯電防止剤の屈折率は、配合する基材樹脂である透明樹脂と近似していることが好ましい。屈折率差が大きいと帯電防止層Cまたは帯電防止層Mが白濁して、多層シートの透明性及び像鮮明度が低下してしまうため、その屈折率差は小さいことが望まれる。具体的には、その屈折率差は、0.05以内が好ましく、0.04以内がより好ましく、0.03以内がさらに好ましく、屈折率差は0(ゼロ)であることが最適である。
【0070】
本発明の多層シートの製造について具体的に説明する。
本発明の多層シートは通常の押出シート成形に使用される設備を用いることができる。
本発明に係る第一の形態(被覆層/帯電防止層C/被覆層)の多層シートを製造する場合は、少なくとも2台の押出機を連結して共押出される。本発明に係る第二の形態(被覆層/帯電防止層M/芯層/帯電防止層M/被覆層)の多層シートを製造する場合は少なくとも3台の押出機を連結し共押出される。また、基材樹脂である透明樹脂の中には吸湿する性質をもつものがあることから、使用する押出機にはベント式押出機が好ましい。
また、高分子型帯電防止剤を配合した帯電防止層C又は帯電防止層Mを形成させるための押出機は高分子型帯電防止剤の分散効率を上げる混練性の高いものを用いることが好ましい。
多層構成はフィードブロック方式による積層方法、又はマルチマニホールドダイ方式による積層方法のいずれの方法でも可能である。
【0071】
シート引取り機としては、通常の硬質クロムメッキしたポリッシングロールを用いることができる。ポリッシングロールは、一般的には、3連のポリッシングロールが用いられるが、必要に応じて4連のポリッシングロールを用いることもできる。
図3に3連のポリッシングロールの配置の一例を示す。
【0072】
ポリッシングロールの温度は、任意に選択され、使用される透明樹脂のガラス転移温度、目的とする製品の厚みによって変わり得るが、製品シートの表面光沢の低下や板状製品の反りが生じないような適宜の温度条件が採用される。ロール温度の温度範囲としては、一般には30〜180℃が採用され、好ましくは40〜160℃、最も好ましくは50〜140℃である。通常厚みが薄いシート製品の場合には低温側が採用され、厚みが厚い板状製品の場合は高温側が採用される。また、一般的には、ロール温度は下流側のロールほど高温に設定される。最も下流側のロールの温度は、多層シートの反り防止の観点からは、85℃以上が好ましく、90〜170℃がより好ましく、90〜145℃が更に好ましく、90〜140℃が最も好ましい。
【0073】
本発明の多層シートを製造するには、各層を形成する樹脂又は樹脂組成物を各押出機内で溶融又は溶融混錬し、ダイ内で各層に上記樹脂又は樹脂組成物を合流させて積層し、次いで共押出して多層シートとし、次いで上記の通りロールを通過させるが、ダイ内で合流させる直前の各層の樹脂温度は、使用される樹脂の種類によっても多少は異なるが、通常は180〜280℃が採用される。上記樹脂温度は、押出機の出口に配置された又はその先にギヤポンプが設置される場合にはギヤポンプの出口に配置されたブレーカープレート部で測定されるが、合流により他の層の温度の影響を受けなければ前記で測定されたその樹脂温度に近い温度で共押出に供される。一般に、高分子型帯電防止剤は、熱安定性が低いことから、高分子型帯電防止剤を添加した層を形成する上記樹脂温度は、他の層を形成する樹脂温度よりもやや低温であることが好ましいので、通常は180〜265℃が採用され、好ましくは195〜265℃が採用され、より好ましくは210〜250℃が採用される。
【0074】
また、帯電防止剤と透明樹脂Bとの溶融混練に際しては、帯電防止剤が該透明樹脂中に網目状に分散されているほど帯電防止性に優れるものとなる。帯電防止剤を網目状に分散させるためには、同一温度において、帯電防止剤は、透明樹脂Bよりも溶融粘度が小さいことが好ましい。帯電防止剤を含有する層の上記樹脂温度は、使用される樹脂の種類によっても多少異なるが、概ね230℃前後であることから、温度230℃、せん断速度100s-1で測定される溶融粘度(Pa・s、この溶融粘度を以下、溶融粘度という。)を目安とすると、帯電防止剤の溶融粘度:透明樹脂Bの溶融粘度の比は、1:35〜1:1.5が好ましく、1:25〜1:2がより好ましい。尚、帯電防止剤と混合される透明樹脂Bの溶融粘度は、一般的には300〜3000Pa・s程度であるが、混練性や製膜性を高いものとするには600〜2500Pa・sのものが好ましく、900〜2200Pa・sがより好ましい。
【0075】
本発明において、多層シートを構成する被覆層の基材樹脂である透明樹脂Aは、押出に際してダイ内において、ダイの内壁面と接しているため、ダイ内においてより大きなせん断を受けやすく、被覆層に接した帯電防止層M又は帯電防止層Cとの間でずれが生じやすく、ウロコ模様発生の要因となる。従って、透明樹脂Aの溶融粘度はやや低いことが好ましい。具体的には、300〜2500Pa・sのものが好ましく、500〜2300Pa・sのものがより好ましく、700〜2000Pa・sのものが更に好ましい。
【0076】
本発明の像鮮明度に優れた多層シートを製造するには、上記の押出温度、押出時の樹脂温度、樹脂溶融粘度に加え、さらに押出時の押出量を勘案し、押出時のダイ内部、特にリップの平行ランド部のせん断量を、下記式(1)から求められる特定の範囲に調整して共押出することが重要である。
これにより、ウロコ模様の発生の要因となる帯電防止層M又は帯電防止層Cと被覆層との界面、更には帯電防止層Mと芯層との界面に生じるズレに起因するウロコ模様の発生を防止又は低減することができる。
【0077】
図2に押出シート成形におけるTダイ4の一例の縦断面の模式図を示す。図2において5はリップ部、hはリップ間隙、tは平行ランド長を示す。前記平行ランド部とは、シート厚みをコントロールするために設けられた溶融樹脂が接するダイの最終平行部分をいう。
平行ランド部のせん断量は、下記式(1)で求められる無次元の数値である。溶融樹脂は平行ランド部を定常的な層流になって流れると考えられる。下記式(1)は、平行ランド部における溶融樹脂に対するせん断速度と、溶融樹脂が平行ランド部を通過する時間(平行ランド部通過時間)との積である。また、平行ランド部通過時間は、平行ランド部の空間の体積(cm)を溶融樹脂の1秒当たりの被押出物の体積(cm/s)で除した値である。平行ランド部の空間の体積は、平行ランド長tとリップ間隙hとリップの幅wとの積である。尚、被押出物の体積(cm)は、1秒当たりに押出された被押出物の重量を溶融樹脂の密度で除して体積を求める必要があるが、多層シートを構成する各樹脂層は、種々の透明樹脂又は透明樹脂と高分子型帯電防止剤との混合物であるため、各層の各樹脂ごとに計算するとあまりにも複雑になりすぎるため、ここでは便宜上、いずれの樹脂層も溶融樹脂の密度を1g/cmとみなして計算することとする。一般的に、透明樹脂の常温下での密度は1.1g/cm前後であり、溶融状態での密度は常温下での密度よりも小さくなることから、便宜上、溶融樹脂の密度を1g/cmとみなしても問題はほとんどないと考えられる。
【0078】
【数1】

【0079】
本発明において、上記式(1)で得られる平行ランド部のせん断量の適正な範囲は、透明樹脂の種類によっても多少異なるが、被覆層と帯電防止層における透明樹脂がポリメタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステル単独重合体又は(メタ)アクリル酸エステル同士の共重合体の場合には170以下であり、100以下が好ましく、50以下がより好ましい。被覆層と帯電防止層における透明樹脂がメタクリル酸エステル−スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の場合には40以下であり、20以下が好ましく、5以下がより好ましい。同一の樹脂では、せん断量は小さいほど多層シートの像鮮明度は大きくなる傾向にある。ただし、そのせん断量は、小さすぎると押出安定性を阻害する虞があるため、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.3以上であることが更に好ましい。
【実施例】
【0080】
以下に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0081】
本発明の多層シートの評価方法および樹脂物性の測定方法を下記する。

[全光線透過率及びヘーズ]
多層シートについては、多層シートより50mm×50mmのサイズ(厚みは多層シートの厚み)に複数枚切り出し、これらを試験片として、濁度計(日本電飾工業株式会社のNDH2000)を使用し、JIS K7136(2000年)に従って各試験片を測定し、各測定値をそれぞれ平均して全光線透過率とした。
尚、複数枚の試験片は、多層シートの無作為に選んだ幅方向の一方の端部から他方の端部側に50mm内側に入った箇所を第1の基点とし、第1の基点から、上記他方の端部側へ100mm毎の新たな箇所をそれぞれ基点とし(ただし最後の基点は上記他方の端部より50mm以上一方の端部側とする)、第1の基点も含め各基点を試験片の中心となるように、かつ試験片の一辺が多層シートの押出方向と一致するようにそれぞれ切り出されたものである。
透明樹脂については、厚み2mmの表面が平滑な平らな成形板(50mm×50mmのサイズ)を試験片とし、上記と同様に、濁度計(日本電飾工業株式会社のNDH2000)を使用し、JIS K7136(2000年)に従って全光線透過率及びヘーズを測定した。
【0082】
[屈折率]
本明細書中における屈折率は、JIS K7105(1981年)に準じてアッベ屈折計を用いて測定される23℃における値である。
【0083】
[像鮮明度](ウロコ模様の評価)
多層シートより50mm×50mmのサイズ(厚みは多層シートの厚み)に複数枚切り出し、これらを試験片として、TM式写像性測定器(スガ試験機株式会社製 ICM−1T)を使用し、JIS K7105(1981年)に従って各試験片を透過法にて測定し、各測定値を平均して像鮮明度とした。尚、各測定値は、光学くしの幅は0.25mmのときの値を採用した。
尚、複数枚の試験片は、多層シートの無作為に選んだ幅方向の一方の端部から他方の端部側に50mm内側に入った箇所を第1の基点とし、第1の基点から、上記他方の端部側へ100mm毎の新たな箇所をそれぞれ基点とし(ただし最後の基点は上記他方の端部より50mm以上一方の端部側とする)、第1の基点も含め各基点を試験片の中心となるように、かつ試験片の一辺が多層シートの押出方向と一致するようにそれぞれ切り出されたものである。また、試験片の押出方向と測定器の上下方向が一致するように試験片を測定器に設置して測定した測定値と、試験片の押出方向と測定器の上下方向が直交するように試験片を測定器に設置した測定値とを比較し、低い方の値を多層シートの像鮮明度とした。
【0084】
[イエローインデックス(YI値)](黄色度)
多層シートより50mm×50mmのサイズ(厚みは多層シートの厚み)に複数枚切り出し、これらを試験片として、分光式色差計(日本電色工業株式会社製 SE−2000)の透過法にてASTM D1925に従った方法にて各試験片を測定し、各測定値を平均してYI値とした。尚、この測定における光源としてはCIE光源における視野角2度のC光源を選択した。
尚、複数枚の試験片は、上記像鮮明度の試験片と同様にして多層シートの異なる位置から切り出されたものである。
【0085】
[初期帯電圧及び帯電圧半減期]
多層シートより45mm×45mmのサイズ(厚みは多層シートの厚み)に複数枚切り出し、これらを試験片として、23℃、50%RH環境下にて24時間状態調節した後、スタティックオネストメーター(シシド静電気株式会社製 TIPE S−5109)を使用して23℃、50%RH環境下にてJIS L1094(1988年)A法に従って各試験片について帯電圧半減期を測定し、各測定値を平均して帯電圧半減期とした。このとき、各試験片に所定電圧(10kVの電圧)を印加し、印加開始から30秒後の帯電圧を測定し、各測定値を平均して初期帯電圧とした。
尚、複数枚の試験片は、上記像鮮明度の試験片と同様にして多層シートの異なる位置から切り出されたものである。また、各試験片は、切り出された後、60℃のイオン交換水に浸漬させた状態で10分間超音波洗浄機にて洗浄を行い、更にイオン交換水で十分に濯いだ後に60℃のオーブンにて1時間乾燥させてから、上記状態調節に供された。試験片を、温水に浸漬させる場合には、予め油分を除去した金属製の冶具にて試験片の端部を上から押さえて温水から浮かび上がらないようにした。
【0086】
[表面抵抗率]
多層シートより100×100mmのサイズ(厚みは多層シートの厚み)に複数枚切り出し、これらを試験片として、帯電圧半減期の測定と同様に試験片を洗浄、濯ぎ、乾燥させた後、試験片を23℃、50%RH環境下にて24時間調湿した後、超絶縁抵抗/微小電流計(タケダ理研工業株式会社製 TR−8601)を使用して、印加電圧を500Vとし、23℃、50%RH環境下にてJIS K6911(1995年)に従って各試験片について表面抵抗を測定し、各測定値を平均して得られた表面抵抗値(装置の読取値)に、係数18.8を乗じて表面抵抗率とした。
尚、測定は絶縁抵抗測定試料箱(タケダ理研工業株式会社製 TR42)内にて行い、測定に使用した電極は表面電極の内円の外形が50mm、表面の環状電極の内径が70mmのものを使用した。
また、複数枚の試験片は、上記像鮮明度の試験片と同様にして多層シートの異なる位置から切り出されたものである。
【0087】
[多層シートの厚み]
多層シートの無作為に選んだ幅方向の一方の端部から他方の端部側へ30mm入った所を基点として50mm間隔で幅方向に株式会社ミツトヨ社製のデジタルマイクロメーターにて測定を行い、平均して本明細書中の厚みとした。
多層シートの無作為に選んだ幅方向の一方の端部から他方の端部側に30mm内側に入った箇所を第1の基点とし、第1の基点から、上記他方の端部側へ50mm毎の新たな箇所をそれぞれ基点とし(ただし最後の基点は上記他方の端部より30mm以上一方の端部側とする)、第1の基点も含め各基点のそれぞれ位置で多層シートの厚みを、株式会社ミツトヨ製のデジタルマイクロメーターにて測定を行い、各測定値を平均して多層シートの厚みとした。
【0088】
[樹脂溶融粘度]
本明細書中の溶融粘度は株式会社東洋精機製作所のキャピログラフ 型式1Dにて測定を行って得られた値である。測定の詳細は以下のとおりである。内径9.55mm(有効長さ250mm)のシリンダーの先端に穴径1.0mm、長さ10mmのキャピラリーを取付け、シリンダーおよびキャピラリーを230℃(ポリカーボネート樹脂のみ260℃とした)に昇温し、シリンダー内に測定試料(樹脂ペレット)を充填した。充填後、シリンダー内にピストンを装填し、4分間の予備加熱にて測定試料を溶融させた。なお、予備加熱中にピストンを一時的に押し下げ溶融状態の測定試料から気泡を十分に除去した。また、測定試料の充填量は、気泡除去後に測定試料が15cc以上確保できる十分な量とした。予備加熱終了後、ピストンにてキャピラリー部のせん断速度が100s−1となる様にシリンダー内の測定試料を押出し、そのときの溶融粘度を計測した。なお、溶融粘度の計測は押出荷重が安定した後に行った。
【0089】
[アッシュ試験]
本発明の多層シートの帯電防止性能による効果を下記のアッシュ試験により評価した。
多層シートより45mm×45mmのサイズ(厚みは多層シートの厚み)に複数枚切り出し、これらを試験片として、23℃、50%RH環境下にて24時間状態調節した。尚、複数枚の試験片は、上記像鮮明度の試験片と同様にして多層シートの異なる位置から切り出されたものである。また、各試験片は、切り出された後、60℃のイオン交換水に浸漬させた状態で10分間超音波洗浄機にて洗浄を行い、更にイオン交換水で十分に濯いだ後に60℃のオーブンにて1時間乾燥させてから、上記状態調節に供された。試験片を、温水に浸漬させる場合には、予め油分を除去した金属製の冶具にて試験片の端部を上から押さえて温水から浮かび上がらないようにした。
状態調節後、上記帯電圧半減期測定における電圧印加と同じ方法にて、スタティックオネストメーター(シシド静電気株式会社製 TIPE S−5109)を使用して23℃、50%RH環境下、試験片に10kVの電圧を30秒間印加し、試験片を帯電させた。印加を停止してから5秒後に、上質紙上に均一に散在させた灰に、所定の間隔を隔てて該試験片を近づけ60秒間維持し、試験片への灰の移行状態を観察した。なお、灰としてタバコの灰を細かく砕いたものを使用した。帯電防止性能の評価基準を以下に示す。
◎:試験片と灰との距離が6mmのとき試験片への灰の付着が全く見られない。
○:試験片と灰との距離が6mmのときに試験片への数粒の灰の付着が見られるが、
試験片と灰との距離が8mmのときには試験片への灰の付着が全く見られない。
×:試験片と灰との距離が8mmのとき試験片への多数の灰の付着が見られる。
【0090】
実施例、比較例に使用した装置は次の通りである。
前記第一の形態の帯電防止層Cまたは前記第二の形態の芯層を形成する押出機は、内径65mmのベントつき単軸押出機を使用し、前記第二の形態の帯電防止層M形成用には内径30mmの単軸押出機、そして被覆層形成用には内径20mmの単軸押出機を用いた。成形及び引取り機は、ロール径195mmの硬質クロムメッキでコーティングされた鏡面状の平滑表面を持つ金属ロールからなる三連ポリッシングロールを用いた。各押出機内における各樹脂又は樹脂組成物の最高温度は、表3中の樹脂温度プラス25℃を超えないように調整した。上記内径65mmの混練押出機には、ギヤポンプを押出機出口に取り付けて押出量を制御した。
【0091】
各層の積層には第一の方法として、リップ幅(w)500mmのマルチマニホールド式積層Tダイを取付けて(各例のTダイのリップ間隙(h)とリップ部の平行ランド長(t)は表3及び表4に示す通り)押出量60kg/hrとし、表3及び表4に示した平行ランド部のせん断量で共押出した。引取り速度は目的の製品厚みに合わせて調整した。ロール温度は3台のオイル温調ポンプを用いて別々の温度調整を行った。ロールの位置関係は図3に示した配置とした。表3及び表4中のロール温度の列の1、2及び3は、それぞれ、図3に示した符号7、8及び9のポリッシングロールを意味する。ロール温度はロールを温調しているオイルの温度を示した。
また、表3及び表4の樹脂温度は芯層又は帯電防止層Cについてはギヤポンプ出口に設置したブレーカープレートの中央の温度を、帯電防止層M及び被覆層については押出機出口に取り付けたブレーカープレートの中央部の温度を計測し、それぞれ示した。
積層には他の方法としてフィードブロックによる積層方式にても行った。この場合は、フィードブロック式積層用金型をギヤポンプとTダイとの間に配置し、樹脂出口にリップ幅(w)550mmのTダイを取付けて(各例のTダイのリップ間隙(h)とリップ部の平行ランド長(t)は表3及び表4に示す通り)押出量60kg/hrとし、表3及び表4に示した平行ランド部のせん断量で共押出した。その他の製造方法はマルチマニホールドTダイを用いた場合と同様である。
【0092】
表1と表2に実施例、比較例に用いた透明樹脂、帯電防止剤およびそれらの物性を示した。表3及び表4には多層シートの構成と製造条件を、表5には得られた多層シートの物性と評価結果を示した。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
実施例1
芯層用透明樹脂としてアクリル樹脂(三菱レイヨン株式会社製 「VH5−000」)を用い、帯電防止層Mおよび被覆層を形成する透明樹脂には紫外線吸収剤を含むアクリル樹脂(三菱レイヨン株式会社製「VH5−001」)、高分子型帯電防止剤として、VH5−001と屈折率差が0.01である三洋化成工業株式会社製のポリエーテル系高分子型帯電防止剤(VH230)を用いて、表3に示す条件および層構成としてマルチマニホールドTダイにて共押出して、引き取り速度を1.14m/分として厚さ1.6mmの5層構造からなる多層シートを得た。各層の坪量比は押出量比でコントロールした。表3中の帯電防止層Mにおける透明樹脂配合量と帯電防止剤配合量は、両者の総和を100重量%としたときの各成分の重量割合である。また、帯電防止剤による着色を防止する為に帯電防止層M中には透明樹脂と帯電防止剤の総和100重量部に対してブルーイング剤を0.025重量部添加配合した。12時間連続押出ししてもロールには付着物によるロール表面の汚染は全く発生せず、安定して多層シートを得ることができた(表3)。平行ランド部のせん断量を23と小さい値にコントロールした結果、得られた多層シートは、ウロコ模様の発生は認められず外観が良好で、像鮮明度に優れるものであった。また、帯電防止層Mを被覆する被覆層の厚みが十分に薄い(坪量が小さい)ため、初期帯電圧が低く、更に帯電圧半減期も20秒以下と短く、帯電防止性に非常に優れたものであった。また、帯電防止層Mが薄く、更にブルーイング剤も添加しているため、YI値も非常に小さい値を示した。これらの結果を表5に示した。
【0096】
実施例2
平行ランド部(リップ間隙、リップ部平行ランド長)の形状を表3の通り変更することにより平行ランド部のせん断量を132として成形を行った以外は実施例1と同様に表3に示す条件にて多層シートを得た。その結果、得られた多層シートは、せん断量の増加のため、わずかにウロコ模様が認められ、実施例1よりも像鮮明度が低下したが、許容範囲であった。これらの結果を表5に示した。
【0097】
実施例3
芯層、帯電防止層M及び被覆層用の透明樹脂としてメタクリル酸メチル−スチレン共重合体(新日鐵化学株式会社製 「MS600」)を用い、高分子型帯電防止剤として、MS600との屈折率差が0である三洋化成工業株式会社製のポリエーテルエステルアミド系高分子型帯電防止剤(NC7530)を用いて、表3に示す条件および層構成でフィードブロックによる積層方式にて共押出して、引取り速度1.00m/分にて厚さ1.7mmの5層構造からなる多層シートを得た。12時間連続押出ししてもロールには付着物によるロール表面の汚染は全く発生せず、安定して多層シートを得ることができた(表3)。平行ランド部のせん断量を15と小さい値にコントロールしたが、得られた多層シートは、わずかにウロコ模様の発生は認められたものの、外観、像鮮明度は許容範囲であった。また、帯電防止層Mを被覆する被覆層の厚みが十分に薄い(坪量が小さい)ため、初期帯電圧が低く、帯電圧半減期も60秒以下であり、帯電防止性に優れたものであった。また、帯電防止層Mが薄いため、YI値も小さい値を示した。尚、せん断量が15と十分に小さい値ではあったが、表5に見られるように実施例1に比べ像鮮明度が劣る結果となったのは、透明樹脂の相違による。透明樹脂としては、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体よりもポリメタクリル酸メチルを使用する方が優れた結果が得られることが分かる。これらの結果を表5に示した。
【0098】
実施例4
芯層用透明樹脂としてポリカーボネート樹脂、帯電防止層Mおよび被覆層用の透明樹脂として実施例1に用いたVH5−001を使用し、高分子型帯電防止剤として、実施例1と同じVH230を用いて、表3に示す条件および層構成で、フィードブロック積層方式にて積層し、引取速度を0.94m/minとして厚さ1.7mmの5層構造からなる多層シートを得た。12時間連続押出ししてもロールには付着物によるロール表面の汚染は全く発生せず、安定して多層シートを得ることができた(表3)。平行ランド部のせん断量を3と小さい値にコントロールした結果、得られた多層シートは、わずかにウロコ模様が認められたが、像鮮明度は許容範囲であった。また、帯電防止層Mを被覆する被覆層の厚みが十分に薄い(坪量が小さい)ため、初期帯電圧が低く、帯電圧半減期も60秒以下であり、帯電防止性に優れたものであった。尚、実施例1に比べ像鮮明度が低かったのは、芯層に使用された透明樹脂の相違による。芯層用樹脂としてポリカーボネート樹脂よりも、ポリメタクリル酸メチルを使用する方がよい結果が得られることが分かる。これらの結果を表5に示した。
【0099】
実施例5
被覆層の坪量を15g/mに変更し、帯電防止層Mの坪量を75g/mに変更し、ブルーイング剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして5層構造からなる厚さ1.6mmの多層シートを得た。12時間連続押出ししてもロールには付着物によるロール表面の汚染は全く発生せず、安定して多層シートを得ことができた(表3)。なお、得られた多層シートは、被覆層の厚み増加及び帯電防止層Mの坪量減少により実施例1に比べ帯電圧半減期は大幅に増加したものの、初期帯電圧は低く、帯電防止性能は許容範囲であった。これらの結果を表5に示した。
【0100】
実施例6
帯電防止層Mにおいて高分子型帯電防止剤の配合量を25重量%に変更し、被覆層の坪量を9g/mに変更し、帯電防止剤M中にブルーイング剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして5層構造からなる厚さ1.6mmの多層シートを得た。12時間連続押出ししてもロールには付着物によるロール表面の汚染は全く発生せず、安定して多層シートを得ことができた(表3)。なお、平行ランド部のせん断量を実施例1と同様の23と小さい値にコントロールしたものの、、実施例1よりも帯電防止剤の添加量が多かったため、かすかにウロコ模様が認められ、像鮮明度がわずかに低下したが、許容範囲であった。また、実施例1よりも帯電防止剤の添加量は増加したものの、被覆層の厚みも厚く(坪量を大きく)した結果、実施例1よりは帯電圧半減期は長時間となった。しかし、初期帯電圧は低く、帯電防止効果は良好であった。これらの結果を表5に示した。
【0101】
実施例7
芯層用及び帯電防止層M用の透明樹脂として、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(大日本インキ化学工業株式会社製 「クリアパクトTS−50」)と、メタクリル酸メチル−スチレン−ブチレン共重合体(大日本インキ化学工業株式会社製 「クリアパクトTI−300」)を重量比で60対40の割合で混合して使用した。この混合物の溶融粘度は810Pa・sであった。一方、被覆層の透明樹脂としては芯層に使用したクリアパクトTS−50のみを使用し、高分子型帯電防止剤として、クリアパクトTS−50及びクリアパクトTI−300との屈折率差が0.01である実施例3に使用したNC7530を用いて、表3の条件および層構成として実施例3と同様にフィードブロックによる積層方式にて共押出して、厚さ1.7mmの5層構造からなる多層シートを得た。12時間連続押出ししてもロールには付着物によるロール表面の汚染は全く発生せず、安定して多層シートを得ることができた(表3)。平行ランド部のせん断量を3と小さい値にコントロールしたが、得られた多層シートにはわずかにウロコ模様が発生した。これは、各層で使用された透明樹脂の影響によるものである。実施例7の各層で使用された透明樹脂は、実施例3の各層で使用された透明樹脂に比べ、スチレン成分量が増加し、メタクリル酸メチル成分量が少なくなったためであり、これは、ウロコ模様の低減のためには、透明樹脂としてはスチレン成分量の少ないアクリル系樹脂の使用が好ましいことを示している。尚、多層シートにはわずかにウロコ模様が発生したが、外観、像鮮明度はいずれも許容範囲である。これらの結果を表5に示した。
【0102】
実施例8
紫外線吸収剤を含むVH5−001と、VH5−001との屈折率差が0.01であるVH230とを用いた帯電防止層Cの両面に、被覆層として、帯電防止層C用透明樹脂と同じVH5−001を用い、表3の条件および層構成としてフィードブロックによる積層方式にて共押出し、厚さ1.6mmの3層構造からなる多層シートを得た。なお、帯電防止層Cの厚みが厚いことによりYI値の増加が予想されたため、上記帯電防止層Cにはブルーイング剤を帯電防止層Cを形成する樹脂100重量部に対して0.025重量部添加した。12時間連続押出ししてもロールには付着物によるロール表面の汚染は全く発生せず、安定して多層シートを得ることができた(表3)。平行ランド部のせん断量を23と小さい値にコントロールした結果、得られた多層シートは、ウロコ模様の発生は認められず外観が良好で、像鮮明度に優れるものであった。また、帯電防止層Cを被覆する被覆層の厚みが十分に薄い(坪量が十分に小さい)ため、初期帯電圧が低く、帯電圧半減期も60秒以下であり、帯電防止性に優れたものであった。尚、実施例8は、帯電防止層Cの厚みが実施例1の帯電防止層Mの厚みよりも厚い(坪量が大きい)ため、像鮮明度は、実施例1よりもやや低下した。また、帯電防止層Cの厚みが厚くなったことから、多量に帯電防止剤を必要とした結果原材料費の面からやや不利である。これらの結果を表5に示した。
【0103】
実施例9
引き取り速度を3.11m/分として成形を行った以外は実施例1と同様に表3に示す条件にて厚み0.6mmの多層シートを得た。12時間連続押出ししてもロールには付着物によるロール表面の汚染は全く発生せず、安定して多層シートを得ることができた(表3)。また、得られた多層シートは、実施例1と同様に優れた性能を示した。これらの結果を表5に示した。
次に、得られたシートを単発成形機にて縦250mm、横360mm、深さ45mmの
トレーを熱成形することにより得た。このトレーは、透明性、帯電防止性に優れる包装材
料として利用できる。
【0104】
実施例10
実施例3で使用した帯電防止剤であるNC7530を芯層に添加し(MS600とNC7530の総和に対し1重量%)、平行ランド部のせん断量を11に低下させた以外は実施例3と同様にして厚み1.7mmの多層シートを得た。12時間連続押出ししてもロールには付着物によるロール表面の汚染は全く発生せず、安定して多層シートを得ることができた(表3)。また、得られた多層シートは、平行ランド部のせん断量が実施例3よりも小さかったため、像鮮明度は実施例3よりもわずかに向上したが、芯層に帯電防止剤が添加された結果、実施例3よりもYI値は増加した。しかし、いずれも許容範囲であった。これらの結果を表5に示した。尚、芯層にNC7530がわずかに添加されても実施例3とほぼ同等の多層シートが得られていることから、各層の透明樹脂が一致しておれば、多層シートの端材等を芯層の一部として再利用可能である。
【0105】
実施例11
芯層樹脂100重量部に対し、スモーク色用の染料を0.018重量部添加、配合した以外は実施例1と同様に表3に示す条件にて多層シートを得た。得られた多層シートは、着色剤の添加によりスモーク色のシートとなり、多層シートの全光線透過率は低下したものの、像鮮明度な良好なシートであった。なお、実施例1よりもYI値の増加が見られたが、これは着色剤による影響である。これらの結果を表5に示した。
【0106】
実施例12
芯層に用いる透明樹脂としてポリスチレン(PSジャパン株式会社製 「PSJ−ポリスチレン HH105」)を用いた以外は実施例3と同様にフィードブロックによる積層方式にて共押出し、厚さ1.7mmの5層構造からなる多層シートを得た。12時間連続押出ししてもロールには付着物によるロール表面の汚染は全く発生せず、安定して多層シートを得ることができた(表3)。得られた多層シートは、わずかにウロコ模様が認められたが、像鮮明度は許容範囲であった。また、帯電防止層Mを被覆する被覆層の厚みが十分に薄い(坪量が小さい)ため、初期帯電圧が低く、帯電圧半減期も60秒以下であり、帯電防止性に優れたものであった。尚、実施例3よりも像鮮明度が低かったのは、芯層に使用された透明樹脂の相違によるもので、ポリスチレン樹脂よりも、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体を使用する方がよい結果が得られることが分かる。これらの結果を表5に示した。
【0107】
比較例1
帯電防止層Mの両面に被覆層を形成しなかった以外は実施例1と同様にして3層構造(帯電防止層M/芯層/帯電防止層M)の多層シートを製造した。ロールで引き取り開始直後からロール表面への付着物が発生し、ロールに付着物が堆積し平滑なシートを得ることはできなかった。短時間にてサンプルを得て、物性を確認したところ、帯電防止性に優れ、被覆層が存在しないため表面抵抗率も低くなるものの、多層シートの表面が凸凹となったため像鮮明度が著しく低下した。
【0108】
比較例2
表3に示したように平行ランド部のせん断量を一般的な201とした以外は、実施例1と同様にして5層構造の多層シートを得た。得られたシートは、ウロコ模様が発生し、像鮮明度が著しく低下したものであった。
【0109】
比較例3
被覆層の坪量を50g/mに増やし、芯層の坪量を1564g/mに減らして成形した以外は、実施例1と同様にして多層シートを得た。被覆層の厚みが厚すぎた結果、初期帯電圧は3.1kvとなり、帯電防止効果に劣るものであった。
【0110】
比較例4
帯電防止層Mにおいて、高分子型帯電防止剤の配合量を20重量%から3重量%へ変更し、ブルーイング剤を添加しなかった以外は実施例1と同様に多層シートを得た。高分子型帯電防止剤の添加量が少なすぎた結果、初期帯電圧は3.1kvとなり、帯電防止効果は認められなかった。
【0111】
比較例5
芯層、帯電防止層M、被覆層に用いる透明樹脂としてポリスチレン(PSジャパン株式会社製 「PSJ−ポリスチレン HH105」)を用い、帯電防止層Mに用いる高分子型帯電防止剤としては、屈折率差が0.06であるNC7530を用いて表3に示す条件および構成で実施例1と同様にして多層シートを得た。ポリスチレンと高分子型帯電防止剤の屈折率差が0.06と離れすぎていたため、帯電防止層Mが白濁し、その結果、像鮮明度が著しく低下し、クリアな透明性は認められなかった。
以上の比較例の多層シートの構成と製造条件を表4に、得られた多層シートの物性及び
評価結果を表5に示した。
【0112】
【表3】

【0113】
【表4】

【0114】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明に係る多層シートの実施形態の一例を示す。
【図2】平行ランド部を説明するTダイの模式図を示す。
【図3】ポリッシングロールの配置の一例を示す(図は3連ロールの例である)。
【符号の説明】
【0116】
1 被覆層
2 帯電防止層C
20 帯電防止層M
30 芯層
4 ダイ
5 リップ部
6 押出機
7,8,9 ポリッシングロール
10 多層シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂Aを基材樹脂とし高分子型帯電防止剤を含有しない被覆層と、透明樹脂Bを基材樹脂とし高分子型帯電防止剤を含有する帯電防止層とを含む共押出多層シートであって、帯電防止層が被覆層と接して位置し、被覆層が多層シートの両最外面に位置する構成を有し、該多層シートは、像鮮明度が60%以上で、帯電圧半減期測定における初期帯電圧が2.5kV以下であることを特徴とする帯電防止性多層シート。
【請求項2】
前記多層シートにおける帯電圧半減期が60秒以下であることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止性多層シート。
【請求項3】
前記多層シートにおける帯電圧半減期が20秒以下であることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止性多層シート。
【請求項4】
前記帯電防止層が、透明樹脂Cを基材樹脂とする芯層の両面に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の帯電防止性多層シート。
【請求項5】
前記帯電防止層において、高分子型帯防止剤の添加量が、高分子型帯防止剤と透明樹脂Bとの総和量に対して、5〜35重量%であり、かつ多層シート全体に対して9重量%以下となる量であることを特徴とする請求項4に記載の帯電防止性多層シート。
【請求項6】
前記多層シートの全光線透過率が75%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の帯電防止性多層シート。
【請求項7】
前記多層シートを構成している各層のいずれかに着色剤が添加されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の帯電防止性多層シート。
【請求項8】
前記被覆層に耐候安定剤が添加されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の帯電防止性多層シート。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の帯電防止性多層シートを熱成形してなる帯電防止性熱成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−196255(P2009−196255A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41703(P2008−41703)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】