説明

干渉低周波治療器

【課題】
複数の干渉低周波を発生し、複雑な生体刺激をおこなうことで、慣れの少ない、治療効果の高い干渉低周波刺激を、少ない電極で実現する。
【解決手段】
周波数がfの搬送波を発生する搬送波発生部と、
治療波を発生する治療は発生部と、
前記搬送波発生部で発生させた搬送波の位相又は周波数を所定の範囲で変化させる変換器と、
前記搬送波発生部の出力と前記変換器の出力を加算し干渉低周波を出力する加算器と、
前記加算器の出力を所望の値に増幅する増幅器と、
を有する出力部を複数系統、設け、
前記複数系統の出力部の出力を同時に生体に供給するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は干渉低周波治療器に関する。
【背景技術】
【0002】
干渉低周波治療器は、周波数が僅かに異なる複数の電流を同時に生体に流し、生体内で発生する干渉低周波電流で刺激をおこなうものである。
従来の低周波治療器は、周波数が1000Hz以下の、通常は数十Hz以下の電流を、皮膚表面に貼付した電極を介して生体に供給していた。しかし、皮膚は図3に示すような抵抗成分Rとr、容量成分Cからなる電気的等価回路を有し、そのインピーダンスは数キロオームと大きいため、出力を大きくすると不快な電気刺激感や痛みが生じ、所望の大きさの電流を流すことができず、十分な治療効果が得られないという問題があった。
これを解決するために開発されたのが干渉低周波治療器である。
【0003】
干渉低周波治療器は、図4のように、周波数が僅かに異なる2つの電流(搬送波)を同時に生体に供給し、2つの搬送波の周波数差の干渉低周波を発生させて生体を刺激(筋収縮)するものである。
搬送波の周波数fには数kHz(通常は4000Hz前後)、のものが使用されている。この周波数は従来の一般的な低周波治療器よりも1桁程度、高いため、皮膚インピーダンスは1/10程度になり、電気刺激感覚は殆どない。このため、従来よりも大きなエネルギーを供給できる。しかし、4000Hz程度の電流単独では筋収縮を得ることはできない。
そこで、周波数が僅かに異なる2つの搬送波を用い、生体内で発生する干渉低周波により、筋収縮を得るようにしている。数〜数十Hzの電流は効果的に筋収縮を得ることができる。
このようにして、干渉低周波治療器では、高い周波数の搬送波を用いることで不快な電気刺激感が無く、従来よりも大きな電気エネルギーを供給することができるようにし、しかも、2つの搬送波を干渉させて発生する干渉低周波で効果的に筋収縮を得ることができるようにしている。
このようにして、干渉低周波治療器は従来の低周波治療器の問題を解決し、高い治療効果を得ることができる。
【0004】
以上の説明では、周波数が僅かに異なる2つの搬送波を同時に生体に供給し、生体内で干渉低周波を発生させる干渉低周波治療器について述べたが、搬送波の位相を制御することでも、これと同様の干渉低周波を発生させることができる(例えば特許文献1など)。そのブロック図の例を図6に示す。
【0005】
図6は、位相を制御して干渉低周波を発生させる干渉低周波治療器のロック図である。
装置は搬送波発生部61と、位相器62と、増幅器65aと65b、制御部66と、電極67a、67b、68a、68bから構成される。搬送波発生部61で発生させた搬送波は増幅器65aで増幅されて電極67aと67bを介して、生体に供給され、一方、搬送波発生部61で発生させた搬送波は位相器62で位相制御され、増幅器65bで増幅され、電極68aと68bを介して、生体に供給される。
このとき、位相器62で、搬送波の位相を、周期δfで直線状に変化させると、搬送波周波数がfで干渉低周波の周波数がδfの干渉低周波を得ることができ、図5(C)と同じ干渉低周波を得ることができる。
図の66は制御部で、搬送波発生部61や位相器52を制御し、搬送波の周波数や干渉低周波の波形や周波数などを所望の値に制御することができる。
増幅器65aと65bの増幅率は装置の操作パネルに設けた出力調節器の操作量に依存する。出力調節器を操作して、適切な刺激の強さ(筋収縮や刺激感覚が適切な強さ)になるように、使用する。
【0006】
以上のように、従来の干渉低周波治療器は、搬送波1と、搬送波1の周波数又は位相を制御した搬送波2の、2系統の搬送波を生体に流し、生体内で発生する干渉低周波で治療をおこなうものである。
このような、周波数が僅かに異なる2つの搬送波を用いる従来の干渉低周波治療器は、従来の一般的な低周波治療器の問題を解決し、不快感が少ない、効果的な治療をおこなうことはできるが、周波数δfの干渉低周波のみで筋肉刺激をおこなうため、比較的単調な刺激になり、慣れが生じるという問題があった。
そこで、周波数が異なる3つの搬送波を出力して、3つの干渉低周波を得て、より変化に富む筋肉刺激をおこなうようにした技術も開示されている(例えば引用文献2など)。
【0007】
図7は引用文献2のブロック図である。装置は、周波数発生部(図中の符号11)で周波数αの搬送波を発生し、周波数設定部(図中の符号15)で周波数βの治療波を発生し、2つの周波数変換器(図中の符号15Bと符号15C)で周波数がα+βとα+2βの2つの搬送波を作成し、この3つの搬送波を3つの出力部(図中の14A,14B、14C)で増幅して生体に供給し、周波数がβと2βの2種類の干渉低周波を得て生体を刺激するようにしている。
このため、従来の干渉低周波治療器では1種類の干渉低周波(周波数がδf)で筋肉刺激していたが、引用文献2により、周波数がβと2βの2種類の干渉低周波で筋肉刺激をおこなうことができ、より変化に富んだ刺激を可能になる。電気刺激では、治療を続けるうちに刺激に対して生体の慣れが生じて、治療効果が低下するという問題があったが、引用文献2により電気刺激に対する慣れが少なくなり、より高い治療効果を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】公告特許昭和53-30270号公報
【特許文献2】特許第4208988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、特許文献1などの干渉低周波治療器は、従来の一般的な低周波治療器と比して、不快な刺激感が無く、多くの電気エネルギーを生体に供給でき、治療効果が高い。しかし、1つの干渉低周波で生体を刺激するため、比較的単調な刺激しかなく、このため、慣れが生じて、治療効果が低下するという問題があった。
特許文献2は、3つの干渉低周波を発生させて生体を刺激するため、従来の干渉低周波治療器と比して、より変化に富んだ刺激が効能であるため、より高い治療効果が期待できる。
しかし、特許文献2の装置は3組6個の電極を必要とするため、四肢などの小さな部分を治療する場合、電極を貼るスペースがとれず、特長を生かせないという問題を有している。
本発明は、これらの課題を解決し、より少ない電極でより効果的な治療をおこなうことのできる新しいタイプの干渉低周波治療器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明では、
周波数がfの中周波領域の搬送波を発生する搬送波発生部と、
前記搬送波の位相又は周波数を所定の周波数及び波形で変化させる変換器と、
前記搬送波発生部の出力と前記変換器の出力を加算して筋肉を十分に収縮させる周波数を有する内部干渉低周波を出力する加算器と、
前記加算器の出力を所望の値に増幅する増幅器と、
を有する出力部を、複数系統設けた。
【発明の効果】
【0011】
第1の出力部から、搬送波の周波数がfで、干渉低周波の周波数δf1の、第1の内部干渉低周波を出力し、
第2の出力部から、搬送波の周波数がfで、干渉低周波の周波数δf2の、第2の内部干渉低周波を出力し、
第nの出力部から、搬送波の周波数がfで、干渉低周波の周波数δfnの、第nの内部干渉低周波を出力し、
各々の出力部から出力するn個の内部干渉波で生体を刺激する。
また、これを同時に生体に供給すると、各々の出力部から出力する内部干渉低周波が他の出力部が出力する内部干渉波と干渉し、生体内でn(n-1)/2個の干渉低周波が発生し、生体を刺激する。
【0012】
このため、各出力系統から出力するn個の内部干渉低周波と、生体内で生じるn(n-1)/2個の干渉低周波の、合計n+n(n-1)/2個の干渉低周波で生体を刺激する。
例えば、本発明で出力系統を2個にすると、周波数がaとbの2つの内部干渉波を出力し、生体内で、周波数がa-bの干渉低周波が発生し、これらの合計3個の干渉低周波で生体を刺激する。
従来の2組の電流を用いる特許文献1の干渉低周波治療器では、1個の干渉低周波で刺激をおこなっていた。干渉低周波治療器は従来の一般的な低周波治療器よりも高い治療効果を有するが、1個の干渉低周波による比較的単純な刺激であるため、慣れが生じて、治療効果が低下するという問題を有していた。
これに対して本発明では、同じ電極数でより複雑な刺激をおこなうことができるため、慣れはより少なく、このため、特許文献1よりも高い治療効果を得ることができる。
【0013】
従来の3組の電流を用いる特許文献2の干渉低周波治療器では、生体内で3個の干渉低周波を発生させて刺激をおこなっていた。このため、特許文献1よりも複雑な、より慣れの少ない刺激が可能で、このため、特許文献1よりも高い治療効果が得られている。
これに対して本発明では、特許文献2と同じ数の干渉低周波で刺激をおこなうため、特許文献2と同等の治療効果が期待できる。しかも、本発明では2組の電極しか要しないため、特許文献2では治療が不可能であった電極が貼れないような小さな患部の治療も可能である。つまり、本発明の適応範囲は特許文献2よりも広くなる。
n系統の出力数にすると、前述のように、n+n(n-1)/2個の干渉低周波で生体刺激をおこなうため、複雑で、慣れの少ない刺激をおこなうことができ、治療効果を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、出力系統を2系統にした実施例を中心に、本発明を説明する。
【実施例】
【0015】
本発明は、
周波数がfの中周波領域の搬送波を発生する搬送波発生部と、
前記搬送波発生部で発生させた搬送波の位相又は周波数を所望の周波数で変化させる変換器と、
前記搬送波発生部の出力と前記変換器の出力を加算して干渉低周波を出力する加算器と、
前記加算器の出力を所望の値に増幅する増幅器と、
変換器を制御する制御部、
を有する干渉低周波出力部を複数系統、設け、
前記複数系統の干渉低周波出力部の出力を同時に生体に供給する電極を設けた、干渉低周波治療器である。
【0016】
本発明の干渉低周波出力部を2系統にした実施例のブロック図を図1に示す。
装置は、搬送波発生部1と、治療波発生器2a、周波数変換器3a、加算器4a、増幅器5a、及び電極8で構成する第1の出力系統(干渉低周波出力部)と、搬送波発生部1と、治療波発生器2b、周波数変換器2b、加算器4b、増幅器5b、電極9とで構成する第2の出力系統(干渉低周波出力部)と、
制御部6と、
で構成される。
【0017】
制御部6は、搬送波発生部1、治療波発生器2a及び2b、周波数変換器3a及び3b、加算器4a及び4b、増幅器5a及び5b、及び図に記載していないが装置の操作部の入力を読み取り、それに応じて表示部を含む装置全体を制御する。
搬送波発生部1は制御部6で制御されて、所定の周波数fの搬送波を発生する。搬送波の周波数は設定した値に制御できるが、固定でも良い。
治療波発生器2aと2bは制御部6で制御されて、それぞれ、第1出力系統の治療波の周波数αと第2出力系統の治療波の周波数βを発生する。治療波は周波数情報だけでなく、周波数をどのようなパターンで変化させるかによって、波形情報を与えることができる。波形情報とは、正弦波や矩形波のように、治療波の波形であり、内部干渉波や生体で発生する干渉低周波の波形と周波数を規定する。ここでは治療派は正弦波の例を述べているが、この場合、例えば治療波の周波数を、経時的に、直線状に増加しその後減少させる(三角波状に変化させる)と、正弦波状の治療波を発生させることができる。また、期間Tだけ治療波の周波数をα又はβにして、その後治療波の周波数をゼロにする(パルス状に変化させる)と、パルス状の治療波とすることができる。α又はβを一定に保つと、周期がα又はβの正弦波状の干渉低周波が得られる。位相制御をおこなうと、周波数制御と同様、干渉低周波の波形及び周波数を制御することができる。
【0018】
周波数変換器3aは、搬送波発生部1が発生する周波数fの搬送波と、治療波発生器2aが発生する周波数αの治療波から、周波数f+αの搬送波を出力する。
周波数変換器3bは、搬送波発生部1が発生する周波数fの搬送波と、治療波発生器2bが発生する周波数βの治療波から、周波数f+βの搬送波を出力する。
加算器4aは、搬送波発生部1の出力と周波数変換器3aの出力を加算して、周波数がfの搬送波を含む周波数がαの干渉低周波を発生する。この干渉低周波は装置内部で発生させているため、本発明では内部干渉低周波と称している。周波数αは筋収縮が可能な周波数にしているため、この内部干渉低周波だけでも筋収縮を生じさせることができる。
【0019】
同様に加算器4bは、搬送波発生部1の出力と周波数変換器3bの出力は、を加算して、周波数がfの搬送波を含む周波数がβの内部干渉低周波を発生する。この内部干渉低周波でも筋収縮を生じさせることができる。
第1の出力系統と第2の出力系統のが発生する内部干渉低周波は、増幅器5aと5bで所望の値に増幅され、電極8と9を介して、生体に供給される。
生体内で、2つの出力系統から出力された2つの内部干渉低周波が干渉し、周波数がfの搬送波を含む周波数がα-βの干渉低周波が発生する。
その結果、生体は周波数がα-βの生体内で発生する干渉低周波と、第1出力系統が出力する周波数がαの内部干渉低周波と、第2出力系統が発生する周波数がβの内部干渉低周波の、合計3つの干渉低周波で生体を刺激し、筋収縮を生じさせる。
【0020】
1個の干渉低周波で治療していた特許文献1のような干渉低周波治療器と比し、本発明の干渉低周波治療器によると、より複雑な刺激をおこなうことができるので、慣れがより少なくなり、治療効果も向上する。
3つの干渉低周波で治療する点は特許文献2と同じであり、同等の治療効果を有する。しかし、本発明では2組の電極でよいが、特許文献2は3組の電極を必要とする。手足のように小さな部位では電極を3組貼るスペースがない場合もある。このような部位では効果の劣る特許文献1のような干渉低周波を使用する以外に無いため、効果の劣る治療をおこなわざるを得ない。しかし本発明では2組の電極で済むため、小さな部位でも特許文献2と同等の高い治療をおこなうことができる。
【0021】
以上の説明では、変換器3a及び3bに周波数変換器を用いた例を述べた。しかし本発明は、変換器3a及び3bに位相器を使用してもよい。
この場合、治療波発生器で作成したパターン(治療波の波形と周波数)によって位相器を制御し、搬送波発生部1が発生する周波数fの搬送波の位相を制御する。この位相器出力と搬送波発生部1の出力を加算器で加算すると、やはり、周波数がαとβの内部干渉低周波を発生させることができる。
【0022】
出力系統を4個以上にすると、より多くの干渉低周波で、より複雑な、新しい刺激感の、よりなれの少ない、より効果的な筋刺激をおこなうことができる。
また、本発明では、搬送波の周波数を制御できる。搬送波の周波数が例えば1kHz程度から10kHz程度まで変化すると、それぞれの周波数領域で筋収縮力も異なるし、電気刺激感も異なり、周波数の変化を識別することができる。このため、搬送波の周波数を大きく変化させると、それだけで目新しい刺激となり、慣れを防止できる。
【0023】
さらに、本発明では、治療波発生器で任意の波形と周波数情報を有する情報を出力することができる。このため、内部干渉低周波の波形と周波数、及び生体内で発生する干渉低周波の波形と周波数を任意に設定でき、しかも、干渉低周波の波形と周波数を経時的に変化させることも可能である。通常、従来の干渉低周波治療器では、正弦波状の干渉低周波や、矩形のバースト波を発生させていた。しかし、本発明では、任意の波形のパルス状の干渉低周波を得ることができるので、神経刺激に適した細いパルスや、創傷治癒促進に適した幅の広いパルスなど、目的に応じた波形の干渉低周波を出力することができる。さらに、搬送波の周波数を変化させると、搬送波の周波数帯による刺激感覚の違いも知覚でき、より変化に富んだ刺激が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の2系統出力の実施例のブロック図である。
【図2】本発明の2系統出力の実施例の出力電流と生体内で発生する干渉低周波の例である。
【図3】皮膚表から見た人体の電気的等価回路である。
【図4】特許文献1に記載されている干渉低周波治療器の出力と電極配置の図である。
【図5】従来の干渉低周波の2つの搬送波と体内で発生する干渉低周波の例である。
【図6】従来の位相制御型干渉低周波治療器のブロック図の例である。
【図7】特許文献2のブロック図である。
【符号の説明】
【0025】
1、61 搬送波発生部
2a、2b 治療波発生部
3a、3b、63 変換器
4a、4b 加算器
5a、5b、65a、65b 増幅器
6、66 制御部
7a、7b 加算器入力レベル調整器
8、9、68、69 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数がfの搬送波を発生する搬送波発生部と、
治療波を発生する治療は発生部と、
前記搬送波発生部で発生させた搬送波の位相又は周波数を所定の範囲で変化させる変換器と、
前記搬送波発生部の出力と前記変換器の出力を加算し干渉低周波を出力する加算器と、
前記加算器の出力を所望の値に増幅する増幅器と、
を有する干渉低周波出力部を複数系統、設けた、
前記複数系統の干渉低周波出力部の出力を生体に供給するようにした干渉低周波治療器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−244914(P2011−244914A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119030(P2010−119030)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000114190)ミナト医科学株式会社 (31)
【Fターム(参考)】