説明

平板型ヒートパイプ

【目的】 トップヒートモードでも効率よく作動する平板型ヒートパイプを提供する。
【構成】 毛細管力の強い第1ウィック13をブロック状に形成し、その周囲に蒸気通路となる空隙15が形成されるように放射状に複数配設するとともに、このブロック状の第1ウィック13の表面と、コンテナ12の対向する2つの内面との境に、比較的毛細管力の弱い第2ウィック14が介装されているため、トップヒートモードでも効率よく作動するとともに、前記境に気泡が生じても作動流体Lの凝縮部11bへの供給路が確保され、熱輸送能力の低下が防止される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、平板型コンテナの対向する2つの内面のうちの一方が蒸発部で他方が凝縮部となる平板型ヒートパイプに関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般的な平板型ヒートパイプ1は、図4に示すように、中空平板状のヒートパイプコンテナ2の上下方向に対向する2つの内面のうち、発熱体Hが取付けられている下側面を蒸発部1aに、上側面を凝縮部1bとし、下側の蒸発部1aで加熱されて蒸発した作動流体3の蒸気3aが、上側の凝縮部1bへ移動する。そして、この凝縮部1bにおいて、輸送してきた潜熱を放出して凝縮し、液相に戻った作動流体3は、重力の作用によって下側の蒸発部1aに還流する構造となっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、前述した従来の平板型ヒートパイプにおいては、凝縮部1bで凝縮した作動流体3は、その大部分がヒートパイプコンテナ2の側壁2aの内面を伝って流下して蒸発部1aに還流するため、この凝縮した作動流体が流下してくる周縁部付近は、凝縮した作動流体によって覆われて凝縮部1bとしての機能を果たせなくなり、凝縮部1bの周縁部の温度が低くなり、その影響で蒸発部1aの温度分布が不均一となるという問題があった。その結果、蒸発部1aの周縁部での熱流束が、蒸発部の中心付近での熱流束より小さくなり、例えばこの平板型ヒートパイプを冷却装置に使用した場合に、ヒートパイプの中心部と周縁部とで冷却作用に差が生じてしまうという問題があった。
【0004】また図5は、発熱体Hを従来の平板型ヒートパイプ1の上側に設けた場合を示すもので、この場合、発熱体Hが設けられた上側が蒸発部となるが、上側の蒸発部1aに対して作動流体3を供給する手段が設けられていないため、蒸発部1aがドライアウト状態となり、ヒートパイプとして作動せず、したがって冷却作用も得ることができなかった。
【0005】この発明は、上下方向に対向する2つの内面のどちらが蒸発部となってもヒートパイプ作動させることのできる平板型ヒートパイプを提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するための手段としてこの発明は、中空平板型のヒートパイプコンテナ内の上下方向に対向する2つの内面間に、毛細管力による液通路を構成するウィックを配設した平板型ヒートパイプにおいて、前記ウィックは、高い毛細管力を発生させる第1ウィックと、この第1ウィックより低い毛細管力を発生させる第2ウィックとからなり、前記第1ウィックをブロック状に形成するとともに、その周囲に蒸気通路となる空隙が形成されるように離間させて複数配設するとともに、これらブロック状の第1ウィックと前記コンテナの2つの内面との間に、前記第2ウィックがそれぞれ介装されていることを特徴としている。
【0007】
【作用】上記のように、平板型ヒートパイプは、ヒートパイプコンテナ内の上下方向に対向する2つの内面間に、高い毛細管力の第1ウィックと、この第1ウィックより低い毛細管力の第2ウィックとからなるウィックが液通路となって、トップヒートモードにおいては液相の作動流体を蒸発部へ供給し、またボトムヒートモードにおいては、凝縮部で液相に戻った作動流体を蒸発部へ流下させるとともに、蒸発部で加熱された作動流体の蒸気は、前記ブロック状のウィックの周囲に形成されている空隙を経由して凝縮部に移動する。また、第1ウィックは毛細管力の弱い第2ウィックを介してヒートパイプコンテナの内面に当接しているため、ブロック状のウィックと前記コンテナの内面間に気泡が生じても作動流体の通過が可能となり、凝縮部への作動流体の供給が可能となる。したがって、発熱体が平板型ヒートパイプの下側にあっても上側にあっても、すなわち、トップヒートモードでもボトムヒートモードでも等しくヒートパイプ作動するとともに、気泡の発生による熱輸送能力の低下が防止される。
【0008】
【実施例】以下、この発明の平板型ヒートパイプを、大規模集積回路(LSI)の冷却装置として用いた一実施例について図1ないし図3を参照して説明する。
【0009】平板型ヒートパイプ11は、中空平板型のコンテナ12内に、細かい目の金属網を垂直状態で直方体に束ねた毛細管力の強い第1ウィック13と、若干目の粗い金属網を水平に重ねた、比較的毛細管力の弱い第2ウィック14とを備えている。この第2ウィック14は、コンテナ12の上下方向に対向する2つの内面の全体にそれぞれ密着して配設されるとともに、直方体に形成された前記第1ウィック13は、前記第2ウィック14に上下から挟まれるとともに、蒸気通路となる空隙15が周囲に形成されるように放射状に配設されている。
【0010】なお、この平板型ヒートパイプ11の製造手順は、一側面を開放したコンテナ12に、第1ウィック13の上下から第2ウィック14,14で挟んだ状態で挿入し、次にガス抜き孔(図示せず)を残して密閉し、コンテナ12内を真空引きした後、所定量の凝縮性の作動流体を注入し、前記ガス抜き孔を密閉して完成する。
【0011】次に、上記のように構成されるこの実施例の作用を図2を参照して説明すると、冷却装置である平板型ヒートパイプ11は、発熱体HであるLSIが上面に取り付けられているため、上面が蒸発部11aとなる所謂トップヒートモードとなる。したがって、発熱体Hの温度が上昇すると、その熱は平板型ヒートパイプ11の上面に伝達され、この上面が蒸発部11aとなる。そして、コンテナ下方に溜まった液相の作動流体Lが、第1ウィック13および第2ウィック14の毛細管力により吸い上げられて蒸発部11aに供給されると、蒸発部11aに供給された作動流体Lは、加熱されて沸騰し、気相の作動流体Vとなる。
【0012】このとき、蒸発部11aの表面で作動流体Lが沸騰して気泡が生じても、目の細かい第1ウィック13と蒸発部11aの内面との間に、比較的毛細管力の弱い第2ウィック14が介装されているため、蒸発部11aへの作動流体Lの供給路が確保され、熱輸送能力の低下を防止することができる。
【0013】そして、蒸発部11aで気相となった作動流体Vは、第1ウィック13の周囲の空隙15を経由して凝縮部11bに移動し、凝縮部11bにおいて熱を奪われて凝縮して液相の作動流体Lに戻って下方に溜まる。このようにして、蒸発部11aが凝縮部11bより上方に位置する所謂トップヒートモードであっても、作動液が円滑に循環してヒートパイプとして作動し、発熱体Hを効率よく冷却することができる。
【0014】また、このように第1ウィック13を放射状に配設するとともに、各第1ウィック13の周囲に蒸気通路となる空隙15が形成されるように配設したので、蒸発部11aで気化した作動流体Vが、凝縮部11bの全体に拡散し易く、そのためこの平板型ヒートパイプ11の全体の均熱化を図ることができる。
【0015】したがって、平板型ヒートパイプ11の蒸発部11aの周縁部の熱流束も、蒸発部の中心付近の熱流束と同じとなり、冷却装置とした場合には平板型ヒートパイプ11の全体が均一な冷却作用を持つため、LSI等の発熱体Hの実装密度を高めることが可能となる。
【0016】また、図3に示すように発熱体HであるLSIが平板型ヒートパイプ11の下面に取り付けられている場合には、下面が蒸発部11aとなる所謂ボトムヒートモードとなる。したがって、発熱体Hの温度が上昇すると、平板型ヒートパイプ11の下面が蒸発部11aとなり、コンテナ下方に溜まった液相の作動流体Lが加熱され、気相の作動流体Vとなり、第1ウィック13の周囲の空隙15を経由して上方の凝縮部11bに移動し、凝縮部11bにおいて熱を奪われて凝縮して液相の作動流体Lに戻り、第1ウィック13および第2ウィック14を伝って流下し、下方の蒸発部11aに還流する。
【0017】したがって、上部の凝縮部11bで液相に戻った作動流体Lは、放射状にほぼ均一な密度に配設されている第1ウィック13および第2ウィック14を伝って下方の蒸発部11aの全体にほぼ均等に還流し、再び加熱されて蒸発するので、平板型ヒートパイプ11の蒸発部11aの全体が均熱化する。そのため、冷却装置とした場合には平板型ヒートパイプ11の全体が均一な冷却作用を持つため、LSI等の発熱体Hの実装密度を高めることが可能となる。
【0018】なお、この実施例においては、第1ウィック13および第2ウィック14として金属網を束ね、あるいは重ねたものを使用したが、金属網以外にフェルト、不織布、多孔質セラミックあるいは焼結金属等の同様の毛細管力を備えた物質を使用することができる。特に、第1ウィックとして多孔質セラミックあるいは焼結金属等の圧縮強度の高い材料をブロック状に形成して用いれば、コンテナが負圧によって変形するのを防止することができる。
【0019】
【発明の効果】以上、説明したようにこの発明の平板型ヒートパイプは、毛細管力による液通路を構成するウィックとして、高い毛細管力を発生させる第1ウィックと、この第1ウィックより低い毛細管力を発生させる第2ウィックとを用い、前記第1ウィックをブロック状に形成するとともに、その周囲に蒸気通路となる空隙が形成されるように離間させて複数配設するとともに、これらブロック状の第1ウィックとヒートパイプのコンテナの2つの内面との間に、前記第2ウィックをそれぞれ介装したので、トップヒートモードでヒートパイプ作動させることができるとともに、第1ウィックとヒートパイプのコンテナ内面との境に介装した第2ウィック作用により前記境に気泡が生じても作動流体の供給路が確保でき、熱輸送能力の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の平板型ヒートパイプの一実施例の断面平面図である。
【図2】トップヒートモードの平板型ヒートパイプを示す図1のII−II線断面図である。
【図3】ボトムヒートモードの平板型ヒートパイプの断面側面図である。
【図4】従来のボトムヒートモードの平板型ヒートパイプの断面側面図である。
【図5】従来の平板型ヒートパイプにおけるトップヒートモードによるドライアウト状態を示す断面側面図である。
【符号の説明】
11…平板型ヒートパイプ、 11a…蒸発部、 11b…凝縮部、 12…コンテナ、 13…第1ウィック、 14…第2ウィック、 15…隙間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 中空平板型のヒートパイプコンテナ内の上下方向に対向する2つの内面間に、毛細管力による液通路を構成するウィックを配設した平板型ヒートパイプにおいて、前記ウィックは、高い毛細管力を発生させる第1ウィックと、この第1ウィックより低い毛細管力を発生させる第2ウィックとからなり、前記第1ウィックをブロック状に形成するとともに、その周囲に蒸気通路となる空隙が形成されるように離間させて複数配設するとともに、これらブロック状の第1ウィックと前記コンテナの2つの内面との間に、前記第2ウィックがそれぞれ介装されていることを特徴とする平板型ヒートパイプ。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【公開番号】特開平7−208884
【公開日】平成7年(1995)8月11日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−18928
【出願日】平成6年(1994)1月19日
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)