説明

平版印刷版の製版方法

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は感光性平版印刷版から平版印刷版を作成する製版方法に関するものであり、特に現像後のリンス工程が改良された製版方法に関するものである。
〔従来の技術〕
感光性平版印刷版(Pre Sensitized Plateと呼ばれPS版と略称されている。)を画像露光および現像した後、流水や循環使用する水洗水による水洗、更に複数の浴からなる多段水洗で水洗する方法は公知である。
この水洗工程は、現像された印刷版上から現像液成分および感光層溶出成分を除去し、清浄にしてその後の印刷におけるトラブルの発生を防ぐものである。
しかしながら、水洗浴に持ち込まれた現像液が水洗水によって希釈されると、現像液中では溶解、分散していた感光層成分が析出して不溶物を生じることがしばしばある。例えばO−キノンジアジド化合物とクレゾールホルムアルデヒド縮合樹脂を主成分とするポジ型PS版においては、クレゾールホルムアルデヒド縮合樹脂はアルカリ性現像液には溶解しているが、水洗浴中に持ち込まれて水洗水により希釈され、pHが11以下に下がると水洗水中に不溶物として析出してくる。更にネガ型PS版の感光層の主成分としてよく用いられるアクリル酸共重合樹脂もアクリル性現像液中では溶解しているが、水洗浴中に持ち込まれてpHが低下すると同様に析出してしまう。特に自動現像機等で水洗水を循環使用する方法においては、水洗水中に生じたこれらの不溶物がスプレイノズルを詰まらせたり、パイプや槽に付着して、水洗水の循環に不都合を生じることがしばしばある。
更に、この不溶物が印刷版上に付着することにより、非画線部の汚れを生ずる場合もあった。
ところで、水洗水中における不溶物の発生を防ぐために該水洗水に錯化剤を添加せしめることが特開昭59−55438号に記載されている。
更に特開昭59−55439号には、同じ目的のために水洗水として硬度100以下の水を用いることが提案されている。
しかしながら、これらの先行技術は、水洗水中の多価金属イオンに起因する不溶物によるトラブルには有効ではあるが、現像液中に溶解分散した感光層成分が水洗水中で不溶化することによるトラブルには何ら有効ではなかった。
地方、感光性平版印刷版の現像液成分として珪酸塩が一般に用いられているが、現像された印刷版によって現像浴から水洗浴へ持ち込まれた珪酸塩が水洗水中でシリカゲルを形成し、水洗水の循環に支障をきたすことがしばしばあった。
また水洗水を循環使用する場合の水洗水のpHは、アルカリ性現像液の持込みにより急速に上昇する。このとき、最終水洗浴のpHが9.5以上になると印刷開始時、インキ着肉性が劣ったり、印刷汚れを生ずるなどの影響がみられた。
従って従来の循環水洗水の寿命は短く、頻繁に新しい水と交換する必要があった。
別に、界面活性剤やpH緩衝剤を含有するいわゆるリンス液を循環使用して現像後リンス処理する方法が特開昭55−115045号公報に記載されているが、これにおいても、pHの上昇を抑えることは出来ず、処理量には限界があった。
〔本発明が解決しようとする問題点〕
従って本発明の目的は、感光性平版印刷版の現像後のリンス浴(これ以降、リンス浴には水洗浴も含む)において不溶物やゲルを生ぜず、長期間にわたり多量の印刷版を安定して製造できる製版方法を提供することにある。
〔問題点を解決するための手段〕
そこで本発明者らは上記のような問題点を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明をなすに至ったものである。
すなわち、本発明は、感光性平版印刷版を画像露光し、自動現像機を用いてアルカリ現像液で現像した後にリンス処理する方法であって、(1) リンス処理を複数のリンス浴で行うこと、(2) 最初のリンス浴は緩衝剤を含有することによりpHが10.5〜13に保持されること、(3) 最終のリンス浴は緩衝剤を含有することによりpHが3〜9に保持されること、を特徴とする平版印刷版の製版方法である。
本発明の好ましい実施態様によれば、最初のリンス浴のpHは11〜13であり、かつ最終リンス浴のpHは3〜9、好ましくは6〜9である。
本発明方法が好ましく適用される感光性平版印刷版は、O−ナフトキノンジアジド化合物を含む感光層を備えたものである。また本発明に使用される現像液はpHが12以上の強アルカリ水溶液であることが好ましい。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において最も重要な事は、複数のリンス浴のpHを規定範囲内に収めることであり、それには各種水溶性化合物がリンス液に添加され、それらは場合により印刷版の処理量や蒸発量、印刷版による持出量または、リンス液のpHの上昇などに応じて補充される。
この場合特に緩衝剤を含有させておくことが好ましい。かかる水溶性化合物および緩衝剤の詳細は、例えは「化学便覧基礎編II」日本化学会編、昭和47年2月20日第5刷、丸善株式会社発行、1312〜1320頁に記載されており、これらはそのまま本発明に使用することができる。好適な酸と水溶性塩としては、モリブデン酸、硼酸、硝酸、硫酸、燐酸、ポリ燐酸などの無機酸、酢酸、蓚酸、洒石酸、安息香酸、こはく酸、くえん酸、りんご酸、乳酸、p−トルエンスルホン酸などの水溶性有機酸等の酸とその塩があげられる。より好ましい塩は水溶性アルカリ金属塩およびアンモニウム塩で、特に好ましいものはモリブデン酸アンモニウムなどのモリブデン酸塩、燐酸ナトリウムなどの燐酸塩、テトラポリ燐酸カリウム、トリメタ燐酸ナトリウムなどのポリ燐酸塩、蓚酸ナトリウムなどの蓚酸塩、洒石酸カリウムなどの洒石酸塩、こはく酸ナトリウムなどのこはく酸塩、くえん酸アンモニウムなどのくえん酸塩である。これらの化合物はそれぞれ単独または二種以上組み合わせて使用することができる。またその添加量は特に限定されないが、該リンス液の総重量に対し酸と塩の総量で約10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.01〜6重量%の範囲で使用される。
本発明に使用されるリンス液には、洗浄性向上、印刷版の画像部の保護などの目的で界面活性剤を含有させておくことが好ましい。
かかる界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどの非イオン界面活性剤、例えば脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ジアルキルスルホこはく酸エステル塩、アルキル燐酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩などのアニオン界面活性剤、および例えばアルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩などのカチオン界面活性剤が含まれる。これらの内アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩やナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物などのアニオン界面活性剤が好ましい。上記の界面活性剤は単独もしくは2種以上を組み合わせて使用することができ、リンス液中に約0.001〜10重量%より好ましくは、0.01〜2重量%の範囲で使用される。
界面活性剤は複数のリンス浴のリンス液の全てに含有させておくことが好ましいが、一部の浴のリンス液に含有させておくだけでもよい。
本発明に用いられるリンス液には更に親油性物質を含有させておくことができる。これにより平版印刷版の画像部がより高い感脂性を示すようになる。好ましい親油性物質には、例えばオレイン酸、ラウリル酸、吉草酸、ノニル酸、カプリン酸、ミスチリン酸、パルミチン酸などの炭素原子数が5〜25の有機カルボン酸、ひまし油などが含まれる。これらの親油性物質は単独もしくは2以上を組み合わせて使用することができ、先に示した界面活性剤により、可溶化または乳化して含有させられる。これらの親油性物質はリンス液に対し、約0.005重量%から10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%の範囲で含有させられる。
更に本発明に用いられるリンス液には有機シラン化合物等の消泡剤を含有させておくことが好ましい。
本発明を適用する感光性平版印刷版として好ましいものには、例えば英国特許第1,350,521号に記されているジアゾ樹脂(p−ジアゾフェニルアミンとパラホルムアルデヒドとの縮合物の塩)にシエラックとの混合物からなる感光層をアルミニウム板に設けたもの、英国特許第1,460,978号、同第1,505,739号の各明細書に記載されているジアゾ樹脂とヒドロキシエチルメタクリレート単位またはヒドロキシエチルアクリレート単位を主なる繰り返し単位として含むポリマーとの混合物からなる感光層をアルミニウム板上に設けたネガ型PS版およびo−キノンジアジド化合物からなる感光層をアルミニウム板上に設けたポジ型PS版が含まれるが、本発明の製版方法は、特に後者のポジ型PS版から平版印刷版を作成する製版方法において、特に顕著な効果を発揮するので、この態様について以下に詳細に説明する。
本発明の製版方法の好ましい態様において使用されるポジ型PS版は、支持体上にo−キノンジアジド化合物、より好ましくはo−ナフトキノンジアジド化合物からなる感光層を設けたものである。好適な支持体には、アルミニウム(アルミニウム合金も含む。)、亜鉛、銅、などの金属板、例えば二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタールなどのプラスチックフイルムに前記のような金属ラミネートもしくは蒸着されたものなどが含まれる。これらの内でもアルミニウム板は寸度的に著しく安定であり、特に好ましい支持体である。
支持体、特にアルミニウムの表面を有する支持体の場合には、砂目立て処理、例えば珪酸ソーダ、弗化ジルコニウム酸カリウム、燐酸塩などの水溶液への浸漬処理、陽極酸化処理などの表面処理がなされていることが好ましい。また、米国特許第2,714,066号に記載されている如く、砂目立てしたのちに珪酸ナトリウム水溶液に浸漬処理されたアルミニウム板、特公昭47−5125号公報に記載されているようにアルミニウム板を陽極酸化処理したのちに、アルカリ金属珪酸塩の水溶液に浸漬処理したものも好適に使用される。上記陽極酸化処理は、例えば、燐酸、クロム酸、硫酸、硼酸等の無機酸、若しくは、蓚酸、スルフアミン酸等の有機酸またはこれらの塩の水溶液又は非水溶液の単独又は二種以上を組み合わせた電解液中でアルミニウム板を陽極として電流を流すことにより実施される。
また、米国特許第3,658,662号明細書に記載されているようなシリケート電着も有効である。
更には特公昭46−27481号公報、特開昭52−58602号公報、特開昭52−30503号公報に開示されているような電解グレインを施した支持体を上記の陽極酸化処理したものも有用である。これらの親水化処理は、支持体の表面を親水性とするために施される以外に、その上に設けられた感光性組成物との有害な反応を防ぐため、更には感光層との密着性を向上させる為などの種々の目的をもって施されるものである。
支持体の親水性表面の上に設けられる感光層はo−ナフトキノンジアジド化合物からなる。かかるo−ナフトキノンジアジド化合物は、例えば米国特許第3,046,110号、同第3,046,111号、同第3,046,121号、同第3,046,115号、同第3,046,118号、同第3,046,119号、同第3,046,120号、同第3,046,121号、同第3,046,122号、同第3,046,123号、同第3,061,430号、同第3,102,809号、同第3,106,465号、同第3,635,709号、同第3,647,443号の各明細書をはじめ、多数の刊行物に記されており、これらは好適に使用することができる。これらの内でも、特に芳香族ヒドロキシ化合物のo−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステルまたはo−ナフトキノンジアジドカルボン酸エステル、および芳香族アミノ化合物のo−ナフトキノンジアジドスルホン酸アミドまたはo−ナフトキノンジアジドカルボン酸アミドが好ましく、特に米国特許第3,635,709号明細書に記されているピロガロールとアセトンとの縮合物にo−ナフトキノンジアジドスルホン酸をエステル反応させたもの、米国特許第4,028,111号明細書に記されている末端にヒドロキシ基を有するポリエステルにo−ナフトキノンジアジドスルホン酸、またはo−ナフトキノンジアジドカルボン酸をエステル反応させたもの、英国特許第1,494,043号明細書に記されているようなp−ヒドロキシスチレンのホモポリマーまたはこれと他の共重合し得るモノマーとの共重合体にo−ナフトキノンジアジドスルホン酸またはo−ナフトキノンジアジドカルボン酸をエステル反応させたもの、米国特許第3,759,711号明細書に記されているようなp−アミノスチレンと他の共重合しうるモノマーとの共重合体にo−ナフトキノンジアジドスルホン酸またはo−ナフトキノンジアジドカルボン酸のアミド反応させたものは非常にすぐれている。
これらのo−ナフトキノンジアジド化合物は、単独で使用することができるが、アルカリ可溶性樹脂と混合し、この混合物を感光層として設けた方が好ましい。好適なアルカリ可溶性樹脂には、ノボラック型フェノール樹脂が含まれ、具体的には、フェノールホルムアルデヒド樹脂、o−クレゾールホルムアルデヒド樹脂、m−クレゾールホルムアルデヒド樹脂などが含まれる。更に特開昭50−125806号公報に記されている様に上記のようなフェノール樹脂と共に、t−ブチルフェノールホルムアルデヒド樹脂のような炭素数3〜8のアルキル基で置換されたフェノールまたはクレゾールとホルムアルデヒドとの縮合物とを併用すると、より一層好ましい。アルカリ可溶性樹脂は、感光層中に約50〜約85重量、より好ましくは60〜80重量%、含有させられる。
o−ナフトキノンジアジド化合物からなる感光層には、必要に応じて更に染料、可塑性、プリントアウト性能を与える成分などの添加剤を加えることができる。
染料は、PS版を露光および現像後に画像部が非画像部(支持体表面)とコントラストを与えるようにする為に用いられるものであり、例えばC.I.26,105(オイルレッドRR)、C.I.21,260(オイルスカーレット#308)、C.I.74,350(オイルブルー)、C.I.52,015(メチレンブルー)C.I.42,555(クリスタルバイオレット)などのアルコール可溶性染料が好ましい。かかる染料は、感光性印刷版の露光および現像により露出された支持体の親水性表面の色と、感光層の残在する部分とが明確なコントラストを与えるに十分な量だけ添加すれば良く、一般的には感光性組成物全量に対して約7重量%以下の範囲で含有させるのが適当である。
可塑剤は支持体に設けられた感光層が所望の可撓性を有するようにするために有効であり、例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジオクチルフタレート、オクチルカプリールフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジトリデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジアリールフタレートなどのフタル酸エステル類、ジメチルグリコールフタレート、エチルフタリールエチルグリコレート、メチルフタリールエチルグリコレート、ブチルフタリールブチルグリコレート、トリエチレングリコールジカプリル酸エステルなどのグリコールエステル類、トリクレジールホスフェート、トリフェニルホスフェートなどの燐酸エステル類、ジイソブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルマレエートなどの脂肪族二塩基酸エステル類、ポリグリシジルメタクリレート、クエン酸トリエチル、グリセリントリアセチルエステル、ラウリン酸ブチル等が有効である。
可塑剤は、感光性組成物全量に対して約5重量%以下含有させられる。
プリントアウト材料は、PS版の感光層を画像露光することにより、直ちに可視画像が観察できるようにする為のものである。例えば英国特許第1,041,463号明細書に記されているようなpH指示薬、米国特許第3,969,118号明細書に記されている様なo−ナフトキノンジアジド−4−スルホニルクロライドと染料との組合せ、特公昭44−6413号公報に記されているフオトクロミック化合物などがある。更に、特開昭52−80022号公報に記されているように感光層中に環状酸無水物を加えることにより感度を上昇させることができる。
かかるo−ナフトキノンジアジドからなる感光性組成物は適当な溶剤の溶液から支持体上に塗布される。適当な溶剤としてはエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸2−メトキシエチルなどのグリコールエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、エチレンジクロライド等の塩素化炭化水素類等が含まれる。
支持体上に設けられるo−ナフトキノンジアジド化合物からなる感光層の塗布量は約0.5〜約7g/m2であり、より好ましくは1.0〜3g/m2である。
かくして得られるポジ型PS版は透明原図を通してカーボンアーク灯、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、タングステンランプなどの活性光線の豊富な光線により露光されると、その部分はアルカリ可溶性に変る。従って、アルカル水溶液により、感光層の露光部分は溶出され、支持体の親水性表面が露出される。
本発明に使用される現像液は珪酸塩を溶解含有するアルカリ水溶液である。好ましい珪酸塩は水に溶解したときにアルカリ性を示すものであり、例えば珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、メタ珪酸ナトリウムなどのアルカリ金属珪酸塩および珪酸アンモニウムなどが含まれる。現像液中の珪酸塩の量は、現像液の総重量に対して一般的には約1〜約10重量%、より好ましくは1〜8重量%、最も好ましくは2〜6重量%で使用される。
本発明に使用される現像液はアルカリ性であればよく、好ましくは25℃でのpHが約10.5〜約13.5である。pHが10.5よりも低くなるにつれて、前記のポジ型PS版の露光された感光層の溶出が不十分となる。従って、最も好ましいpHは12〜13.5である。
本発明に使用される現像液には、更に有機溶剤を総重量に対して5重量%以下の範囲で含有させてもよい。かかる有機溶剤としては、例えばベンジルアルコール、2−ブトキシエタノール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどがある。
本発明に使用される現像液には、更に界面活性剤を含有させることができる。これにより現像液がPS版の感光層の表面に良く濡れるようになり、現像液の処理能力(単位容積の現像液が溶解除去できる感光層の量)を向上させることができ、更に最適な結果を与える現像条件(温度および処理時間など)の巾を広げることができる。このような界面活性剤の好ましいものには、アニオン界面活性剤と両性界面活性剤が含まれる。アニオン界面活性剤の好ましい具体例には、例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアルキルベンゼンスルホン酸塩類(該アルキル基の炭素原子数は8〜18、より好ましくは12〜16)、例えば、イソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウムのようなアルキルナフタレンスルホン酸塩類(該アルキル基の炭素数は3〜10)、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、ジアルキルスルホこはく酸塩類(該アルキル基の炭素数は2〜18)、ジアルキルアミドスルホン酸塩類(該アルキル基の炭素数は11〜17)などが含まれる。両性界面活性剤の好ましい具体例には、イミダゾリン誘導体、例えばN−アルキル−N,N,N−トリス(カルボキシメチル)アンモニウム(該アルキル基の炭素数は12〜18)、N−アルキル−N−カルボキシメチル−N,N−ジヒドロキシエチルアンモニウム(該アルキル基の数は12〜18)などのベタイン型化合物が含まれる。かかる界面活性剤の使用量は特に制限はないが、一般的には約0.003〜約3重量%、より好ましくは0.006〜1重量%の濃度で現像液中に含有させられる。
本発明に使用される現像液には、更に、消泡剤を含有させることができる。好適な消泡剤には、米国特許第3,250,727号、同第3,545,970号、英国特許第1,382,901号、同第1,387,713号などの各明細書に記されている化合物がある。これらの内でも有機シラン化合物は好ましい。
上記のような現像液で、画像露光されたPS版を現像する方法としては従来公知の種々の方法が可能である。具体的には、画像露光されたPS版を現像液中に浸漬する方法、当該PS版の感光層に対して多数のノズルから現像液を噴射する方法、現像液が湿潤されたスポンジで当該PS版の感光層を拭う方法、当該PS版の感光層の表面に現像液をローラー塗布する方法などが挙げられる。またこのようにしてPS版の感光層に現像液が施された後、感光層の表面をブラシなどで軽く擦ることもできる。現像条件については、上記の現像方法に応じて、当業者が適宜決定することができる。一例を示すと、例えば浸漬による現像方法では、約15〜35℃の現像液に、約10〜80秒間浸漬される。
上記のようにしてPS版を画像露光および現像して得られた平版印刷版はスクイーズされて、版面上の現像液の量が少なくなる様にすることが好ましい。本発明においては、スクイーズされた後に残存する平版印刷版の版面上の現像液の量は表裏両面で20ml/m2以下であることが好ましく、この量はできるだけ少ない方が好ましい。従って、より好ましい現像液の残存量は10ml/m2以下であり、最も好ましくは5ml/m2以下である。スクイーズされた後の量が20ml/m2よりも多くなると、本発明で用いるリンス液がより早く劣化するので補充量を多くする必要があり、廃液処理を含めてランニングコストアップとなり、好ましくない。
平版印刷版の版面をスクイーズする方法としては、例えばゴムのような弾性部材をローラー表面に被覆した弾性ローラー対の間に平版印刷版を通して、そのニップ圧力によって版面の現像液を除去する方法、或いは表面の滑らかな弾性プラスチック材を平版印刷版の搬送路に沿わせた状態で配置し、その版面と摺接させることにより版面の現像液を掻取る方法などを採用することができる。
かくして現像されて得られた平版印刷版は、本発明の方法にしたがってリンス処理される。具体的な処理方法としては、リンス液が満たされた浴に浸漬する方法、リンス液を版面にスプレーで噴射する方法、リンス液をローラーで塗布する方法などがある。
従来の流水や循環水によるリンスでは、現像液には溶解、分散していた感光層成分がリンス部で析出して不溶物を生じていた。例えばo−キノンジアジドを用いたポジ型感光性平版印刷版を珪酸塩を含むアルカリ性現像液で現像した場合、感光層の主成分であるクレゾールホルムアルデヒド縮合樹脂はpH約13の現像液には容易に溶解するが、現像液が水で希釈され、pH約11以下になった場合先のクレゾール樹脂が析出し、スプレーの目詰まりやリンス浴の汚れおよび印刷汚れなどの原因となっていた。
更に中性付近で強い緩衝作用を示す緩衝剤を含むリンス液で現像液が中和、希釈された場合には珪酸塩がゲル化し、寒天状となってリンス液の循環などに支障をきたした。
本発明は、リンス処理を複数のリンス浴で行ない、かつこのリンス浴のpHを後段になるほど低くなるようにしたことを特徴としている。したがって、本発明によれば、最初のリンス浴のpHが比較的高く設定されているため、持ち込まれた現像液が希釈されてもpHが急激に低下することはない。このため不溶物の析出やシリカゲルの生成もなく、長期間にわたり多量の印刷版を安定して製造することができる。
このようにして処理されて得られた平版印刷版は、現像インク盛り、加筆または消去に代表される修正、ガム引きなどの種々の工程に供することができ、しかもこれらのいずれの工程をも、何ら支障なく、効率的に行なうことができる。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
なお、「%」は、重量%を示すものである。
実施例1 砂目立てされた2S材アルミニウム板を40℃に保たれた2%の水酸化ナトリウム水溶液に1分間浸漬し、表面を一部腐蝕した。水洗後、硫酸−クロム酸混液に約1分間浸漬して純アルミニウムの表面を露呈させた。これを30℃に保たれた20%硫酸に浸漬し、直流電圧1.5ボルト、電流密度2アンペア/dm2の条件下で2分間陽極酸化処理を行なったのち、水洗し、乾燥した。このように処理されたアルミニウム板上に、下記組成の感光液を乾燥重量が2g/m2となるように塗布し、乾燥してPS版を得た。
アセトン−ピロガロール樹脂のナフトキノン−1,2−ジアジド(2)−5−スルホン酸エステル(米国特許3,635,709号明細書の実施例1に記載されている方法で合成したもの。) ……5 gtert−ブチルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂(PR−50530、住友ジュレーズ(株)製) ……0.5gクレゾール−ホルムアルデヒド樹脂(ヒタノール#3110、日立化成工業(株)製) ……5 gオイルブルー#603(オリエント化学工業(株)製) ……0.1gメチルエチルケトン ……50 gシクロヘキサノン ……40 g このPS版に真空焼枠中で透明ポジティブフイルムを通して、1mの距離から3キロワットのメタルハライドランプにより、30秒間露光を行なった。
次に下記に示すような自動現像機、現像液および水洗水により現像処理を行った。
(1)自動現像機 現像浴とそれに続く2つのリンス浴からなり、露光済みの平版印刷版を水平搬送する駆動装置と、各処理浴の処理液を貯溜槽→ポンプ→スプレー→ノズル→貯溜槽と循環させる装置および各処理浴への補充装置を有する自動現像機であり、各処理浴の貯溜槽はオーバーフローにより過剰の処理液を排出する機構となっている。
(2)現像液 下記現像液原液を水にて7倍希釈しその21■を上記現像浴に仕込んだ。現像液のpHは13.9であった。
JIS3号珪酸ナトリウム水溶液 ……332 g水酸化カリウム(48重量%水溶液) ……191 gN−アルキル−N,N−ジヒドロキシエチルベタイン両性界面活性剤(39重量%水溶液) ……3.2g純 水 ……688 g(3)第一リンス液 下記組成からなるリンス液(pH10.7)8■を第一リンス浴に仕込み1003mm×800mmの印刷版を1版処理する毎に40mlのリンス液を補充した。(第一リンス浴の貯溜槽は8■でオーバーフローする構造になっている。)
(組 成)
リン酸−水酸化ナトリウム(pH10.7の緩衝液)……1000gドデシルフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム……10g(4)第二リンス液 下記組成からなるリンス液(pH6.5)8■を第二リンス液に仕込み1003mm×800mmの印刷版を1版処理する毎に40mlの第二リンス液を補充した。(第二リンス浴も8■でオーバーフローする構造を有する。)
(組 成)
ドデシルフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(40重量%水溶液) ……10g燐酸−水酸化ナトリウム水溶液(pH6.5の緩衝液)……1000g 以上の条件で1003mm×800mmのサイズの平版印刷版60枚を連続して処理しても第1、2リンス浴共にカスやゲルを生ずることはなかった。
尚、80枚処理した後の、第1および第2リンス液のpHはそれぞれ12.2、7.3であった。
比較例1 第一リンス浴、第二リンス浴ともに、水道水を各8■ずつ仕込み、処理に応じた補充をしなかった他は全て実施例1と同じ条件で処理したところ、10枚処理したところで第一リンス液に不溶物が浮遊しはじめ、15枚目の印刷版上の非画像部に付着し、オフセット印刷機にかけて印刷したところその部分に汚れを生じた。
更に続けて処理を行ったところ、70枚目ごろから印刷開始時画線部へのインキ着肉性が徐々に劣るようになり、また、非画線部にもインキが薄く付着して印刷物に薄汚れを生じた。
尚この時の第二リンス液のpHは9.9であった。
実施例2 実施例1のPS版および、現像液、第一リンス液と第二リンス液を仕込んだ自動現像機を準備した。
更に下記組成の現像補充原液を調整した。
(現像補充原液組成)
JIS 3号ケイ酸ナトリウム水溶液 ……238g水酸化カリウム(48重量%水溶液) ……328g純 水 ……645g 実施例1と同様に露光した1003mm×800mmのPS版を1版処理する毎に、原液を水にて5倍に希釈した現像補充液を50mlずつ補充した。更に、第二リンス浴にも1版処理する毎に第2リンス液を40ml/m2補充し、第一リンス浴には第二リンス浴のオーバーフロー液をそのまま補充した。
以上の条件で毎日60枚ずつPS版を処理したところ、5日後に第一および第二リンス液のpHはそれぞれ11.0、7.2に達した後はほとんど変化せずに、しかも、第一、二リンス浴ともカスやゲルを生ずることなく、安定して約1ケ月間処理を続けることができた。
〔発明の効果〕
本発明によれば、現像後の水洗浴中で、不溶物やゲルを生じることがないので、長期間にわたり多量の印刷版を安定に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】感光性平版印刷版を画像露光し、自動現像機を用いてアルカリ現像液で現像した後にリンス処理する方法であって、(1) リンス処理を複数のリンス浴で行うこと、(2) 最初のリンス浴は緩衝剤を含有することによりpHが10.5〜13に保持されること、(3) 最終のリンス浴は緩衝剤を含有することによりpHが3〜9に保持されること、を特徴とする平版印刷版の製版方法。

【特許番号】第2516001号
【登録日】平成8年(1996)4月30日
【発行日】平成8年(1996)7月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭62−4616
【出願日】昭和62年(1987)1月12日
【公開番号】特開昭63−172270
【公開日】昭和63年(1988)7月15日
【出願人】(999999999)富士写真フイルム株式会社
【参考文献】
【文献】特開昭55−25027(JP,A)
【文献】特開昭55−115045(JP,A)
【文献】特開昭59−57242(JP,A)
【文献】特開昭57−8543(JP,A)