説明

平版印刷版用捨て版原版、平版印刷版用捨て版原版集積体、及び、平版印刷版用捨て版の製版方法

【課題】マット剤の保持性、耐キズ性、平版印刷版用捨て版原版同士の接着防止性、セッター搬送性に優れ、かつ良好なカラーセンサー適性を有し、現像後の残色が少ない平版印刷版用捨て版原版、及び、平版印刷版用捨て版原版集積体を提供すること、並びに、前記平版印刷版用捨て版原版を用いた平版印刷版用捨て版の製版方法を提供すること。
【解決手段】アルミニウム支持体上に、非感光性層とマット剤を含む親水性層とを、この順に有することを特徴とする平版印刷版用捨て版原版、前記平版印刷版用捨て版原版を合紙を介さずに直接複数積層したことを特徴とする平版印刷版用捨て版原版集積体、並びに、前記平版印刷版用捨て版原版を用意する平版印刷版用捨て版原版調製工程、及び、前記平版印刷版用捨て版原版をアルカリ現像液で現像処理して平版印刷版用捨て版とする現像工程、を含むことを特徴とする平版印刷版用捨て版の製版方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版用捨て版原版、平版印刷版用捨て版原版集積体、及び、平版印刷版用捨て版の製版方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カラーの新聞印刷(多色印刷)において一部の紙面を2色又は1色で印刷を行う必要がある場合には、使用しない版胴には、全面が非画像部となる平版印刷版用捨て版を取り付けて印刷を行うことがある。また、このような新聞印刷には、CTP(コンピューター トゥ プレート)製版システムが用いられるが、これまで、このCTP製版システム専用の平版印刷版用捨て版原版はなく、特許文献1〜3に記載されたような、平版印刷版用捨て版原版を現像機で現像処理し、平版印刷版用捨て版として用いていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−175090号公報
【特許文献2】特許第2951907号公報
【特許文献3】特開平11−240266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、マット剤の保持性、耐キズ性、平版印刷版用捨て版原版同士の接着防止性、セッター搬送性に優れ、かつ良好なカラーセンサー適性を有し、現像後の残色が少ない平版印刷版用捨て版原版、及び、平版印刷版用捨て版原版集積体を提供すること、並びに、前記平版印刷版用捨て版原版を用いた平版印刷版用捨て版の製版方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記課題は以下の<1>〜<14>に記載の手段によって解決された。
<1>アルミニウム支持体上に、非感光性層と、マット剤を含む親水性層とを、この順に有することを特徴とする平版印刷版用捨て版原版、
<2>前記非感光性層が、水溶性バインダーポリマー又は水不溶性且つアルカリ可溶性のバインダーポリマーを含む、<1>に記載の平版印刷版用捨て版原版、
<3>前記親水性層が、親水性ポリマーを含む、<1>又は<2>に記載の平版印刷版用捨て版原版、
<4>前記マット剤が、その表面をシリカで被覆したシリカ被覆有機樹脂粒子、及び/又は、親水性表面を有する有機樹脂粒子である、<1>〜<3>いずれか1つに記載の平版印刷版用捨て版原版、
<5>前記親水性層の重量が0.2〜5.0g/m2である、<1>〜<4>いずれか1つに記載の平版印刷版用捨て版原版、
<6>前記親水性層と前記非感光性層との総重量が0.4〜6.0g/m2である、<1>〜<5>いずれか1つに記載の平版印刷版用捨て版原版、
<7>前記非感光性層が、350〜800nmに吸収極大を有する着色剤を含む、<1>〜<6>いずれか1つに記載の平版印刷版用捨て版原版、
<8>前記着色剤が、クルクミノイドである、<7>に記載の平版印刷版用捨て版原版、
<9>さらに下塗り層を有する、<1>〜<8>いずれか1つに記載の平版印刷版用捨て版原版、
<10>前記下塗り層が、リン酸を含む、<9>に記載の平版印刷版用捨て版原版、
<11>さらにバックコート層を有する、<1>〜<10>いずれか1つに記載の平版印刷版用捨て版原版、
<12><1>〜<11>いずれか1つに記載の平版印刷版用捨て版原版を合紙を介さずに直接複数積層したことを特徴とする平版印刷版用捨て版原版集積体、
<13><1>〜<11>いずれか1つに記載の平版印刷版用捨て版原版を用意する平版印刷版用捨て版原版調製工程、及び、前記平版印刷版用捨て版原版をアルカリ現像液で現像処理して平版印刷版用捨て版とする現像工程、を含むことを特徴とする平版印刷版用捨て版の製版方法、
<14>さらに、前記現像工程の前に、前記平版印刷版用捨て版原版が露光機内を通過する工程を含む、<13>に記載の平版印刷版用捨て版の製版方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、マット剤の保持性、耐キズ性、平版印刷版用捨て版原版同士の接着防止性、セッター搬送性に優れ、かつ良好なカラーセンサー適性を有し、現像後の残色が少ない平版印刷版用捨て版原版、及び、平版印刷版用捨て版原版集積体を提供すること、並びに、前記平版印刷版用捨て版原版を用いた平版印刷版用捨て版の製版方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】CTP製版システムの一実施形態の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示すCTP製版システムにおける加熱オーブンの概略構成を示す縦断面図である。
【図3】CTP製版システムの自動現像機(プレ水洗なし)の概略構成を示す縦断面図である。
【図4】CTP製版システムの自動現像機(プレ水洗あり)の概略構成を示す縦断面図である。
【図5】図1に示すCTP製版システムの処理の流れを概略的に示したブロック図である。
【図6】図1に示すCTP製版システムの処理手順を説明するためのフローチャートである。
【図7】アルミニウム支持体の作製における機械粗面化処理に用いられるブラシグレイニングの工程の概念を示す側面図である。
【図8】アルミニウム支持体の作製における電気化学的な粗面化処理に用いられる交番波形電流波形図の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
I.平版印刷版用捨て版原版
本発明の平版印刷版用捨て版原版は、アルミニウム支持体上に、非感光性層とマット剤を含む親水性層とをこの順に有することを特徴とする。
本発明によれば、CTP装置内でもマット剤の脱落が発生せず、プレートセッター内の汚染や、その汚染による画像不良等の問題が発生する懸念がない平版印刷版用捨て版原版を提供できる。また、本発明によれば、親水性層にマット剤を含有することで、平版印刷版用捨て版原版同士の接着防止性に優れ、版の搬送性に優れ、光重合性平版印刷版と同じ製版システムにて製版可能な生産性の高い平版印刷版用捨て版原版、及び、その集積体を提供することができる。また、親水性層にマット剤を含有することで、耐キズ性に優れた平版印刷版用捨て版原版及びその集積体を提供することができる。
以下、本発明の平版印刷版用捨て版原版について詳細に説明する。なお、本明細書において、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」と同義であり、数値範囲の両端をその範囲内に含むものとする。
【0009】
1.アルミニウム支持体
本発明の平版印刷版用捨て版原版は、アルミニウム支持体を有し、アルミニウム支持体としては、親水化処理されたアルミニウム支持体が好ましい。
【0010】
(支持体基板)
具体的には、アルミニウム及びアルミニウム被覆された複合支持体が好ましく、さらに、鉄を0.1〜0.5重量%、ケイ素を0.03〜0.3重量%、銅を0.001〜0.03重量%、さらにチタンを0.002〜0.1重量%含有する1Sアルミニウム板であることがより好ましい。
【0011】
アルミニウム板の表面は、表面処理されていることが望ましい。表面処理としては、アルカリ処理、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、及び、珪酸ナトリウム等から選択されるアルカリ剤の1〜30重量%水溶液に、20〜80℃の温度で5〜250秒間浸漬してエッチングする処理が好ましい。
エッチング浴には、アルミニウムイオンをアルカリの5分の1程度加えてもよい。次いで、10〜30重量%硝酸又は硫酸水溶液に20〜70℃の温度で5〜25秒間浸漬して、アルカリエッチング後の中和及びスマット除去を行う。
【0012】
また、他の表面処理としては、例えば、粗面化処理が挙げられ、このような粗面化処理方法としては、一般に、公知のブラシ研磨法、ボール研磨法、電解エッチング、化学的エッチング、液体ホーニング、サンドブラスト等の方法、及びこれらの組み合わせが挙げられる。中でも、好ましい粗面化処理としては、ブラシ研磨法、電解エッチング、化学的エッチング及び液体ホーニングが挙げられる。さらにこれらの中でも、特に電解エッチングの使用を含む粗面化方法が好ましい。さらに、特開昭54−63902号公報に記載されているようにブラシ研磨した後、電解エッチングする方法も好ましい。
粗面化処理に電解エッチングが用いられる際の電解浴としては、酸、アルカリ又はそれらの塩を含む水溶液あるいは有機溶剤を含む水性溶液が用いられ、これらの中でも、特に、塩酸、硝酸又はそれらの塩を含む電解液が好ましい。ブラシ研磨には、パミストン−水懸濁液とナイロンブラシとを用いるのが好ましく、平均表面粗さを0.25〜0.9μmとすることが好ましい。
【0013】
電解エッチング処理に使用される電解液は塩酸、又は硝酸の水溶液であり、濃度は0.01〜3重量%の範囲で使用することが好ましく、0.05〜2.5重量%であればさらに好ましい。
また、この電解液には必要に応じて硝酸塩、塩化物、モノアミン類、ジアミン類、アルデヒド類、リン酸、クロム酸、ホウ酸、シュウ酸アンモニウム塩等の腐蝕抑制材(又は安定化剤)、砂目の均一化剤などを加えることができる。また、電解液中には、適当量(1〜10g/リットル)のアルミニウムイオンを含んでいてもよい。
電解エッチング処理は、通常10〜60℃の電解液の温度で行われる。この際に使用される交流電流は、正負の極性が交互に交換されたものであれば、矩形波、台形波、正弦波いずれのものも用いることができ、通常の商用交流の単相及び三相交流電流を用いることができる。また電流密度は、5〜100A/dm2で、10〜300秒間処理することが望ましい。
【0014】
本発明において、アルミニウム(合金)支持体が用いられる場合、その表面粗さは、電気量によって調整し、0.2〜0.8μmとすることが好ましい。さらに、粗面化処理の施されたアルミニウム支持体は、必要に応じて酸又はアルカリの水溶液にてデスマット処理される。このように砂目立てされたアルミニウム合金支持体は、10〜50重量%の熱硫酸(40〜60℃)や希薄なアルカリ(水酸化ナトリウム等)により、表面に付着したスマットの除去及びエッチング(好ましくは0.01〜2.0g/m2の範囲で)される。アルカリでスマットの除去及びエッチングした場合は、引き続いて洗浄のため酸(具体的には、硝酸又は硫酸など)に浸漬して中和する。
【0015】
表面のスマット除去を行った後、陽極酸化皮膜が設けられる。陽極酸化法は、従来公知の方法を用いることができるが、硫酸が最も有用な電解液として用いられる。それに次いで、リン酸もまた有用な電解液である。さらに、特開昭55−28400号公報に開示されている硫酸とリン酸の混酸もまた有用である。
【0016】
硫酸法は通常直流電流で処理が行われるが、交流を用いることも可能である。硫酸の濃度5〜30重量%、20〜60℃の温度範囲で、5〜250秒間電解処理されて、表面に1〜10g/m2の酸化皮膜が設けられる。この電解液には、アルミニウムイオンが含まれていることが好ましい。さらにこのとき電流密度は1〜20A/dm2が好ましい。リン酸法の場合には、5〜50重量%のリン酸濃度、30〜60℃の温度で10〜300秒間、1〜15A/dm2の電流密度で処理される。
【0017】
また、砂目立て処理及び陽極酸化後、封孔処理を施すことができる。かかる封孔処理は、熱水及び無機塩又は有機塩を含む熱水溶液への浸漬、並びに水蒸気浴などによって行われる。
【0018】
(親水化処理)
本発明における支持体表面の親水化処理としては、例えば、アルカリ金属珪酸塩により処理(例えば、珪酸ナトリウム水溶液による処理)や、水溶性樹脂を用いた処理等が挙げられる。このような親水化処理は、組み合わせて適用されてもよい。
水溶性樹脂を用いた親水化処理としては、水溶性樹脂を溶解した液に支持体基板を浸漬する処理方法が挙げられる。親水化処理は、前記粗面化処理や所望により行われる陽極酸化処理の後に施されるものである。
【0019】
本発明に適用しうる親水化処理の具体的な例としては、下記に例示される処理が挙げられる。即ち、例えば、米国特許第2,714,066号明細書や米国特許第3,181,461号明細書に記載されている珪酸塩(ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム)処理、米国特許第2,946,638号明細書に記載されている弗化ジルコニウム酸カリウム処理、米国特許第3,201,247号明細書に記載されているホスホモリブデート処理、英国特許第1,108,559号明細書に記載されているアルキルチタネート処理、独国特許第1,091,433号明細書に記載されているポリアクリル酸処理、独国特許第1,134,093号明細書や英国特許第1,230,447号明細書に記載されているポリビニルホスホン酸処理、特公昭44−6409号公報に記載されているホスホン酸処理、米国特許第3,307,951号明細書に記載されているフィチン酸処理、特開昭58−16893号や特開昭58−18291号の各公報に記載されている親水性有機高分子化合物と2価の金属との塩による処理による親水化処理、等が挙げられる。珪酸塩処理は親水化能力が高く、かつ処理も簡便であるため、特に好ましい。その他、米国特許第3,658,662号明細書に記載されているシリケート電着も挙げることができる。中でも、ポリアクリル酸処理、ポリビニルホスホン酸処理が好ましい。
【0020】
汚れ防止性の観点から、水溶性樹脂を用いた親水化処理を行う場合、前記水溶性樹脂を含む層の重量は、0.1〜30.0mg/m2が好ましく、0.3〜20.0mg/m2がより好ましく、0.5〜15.0mg/m2がさらに好ましい。
【0021】
2.非感光性層
本発明の平版印刷版用捨て版原版は、非感光性層を有する。
非感光性層は、水溶性バインダーポリマー又は水不溶性且つアルカリ可溶性のバインダーポリマー(以下、「バインダーポリマー」ともいう。)を含むことが好ましい。また、非感光性層は、着色剤、及び、低分子酸性化合物を含有し、350〜800nmの領域に吸光度Xが0.20以上の吸収極大を有していることがより好ましい。
【0022】
(バインダーポリマー)
本発明における非感光性層では、バインダーポリマーとして、水溶性バインダーポリマー又は水不溶性且つアルカリ可溶性のバインダーポリマーが用いられる。これらの中でも、水溶性のバインダーポリマーはプレート同士が接着し易い傾向があるため、水不溶性且つアルカリ可溶性のバインダーポリマーの方が好ましい。
【0023】
水不溶性且つアルカリ可溶性のバインダーポリマーとして好ましいものは、酸含量0.1〜3.0meq/g、より好ましくは0.2〜2.0meq/g、実質的に水不溶性(即ち、中性又は酸性水溶液に不溶性)で、皮膜形成性を有する有機高分子化合物であり、且つ、アルカリ水溶液に溶解又は膨潤するものである。なお、酸含量0.1meq/g以上であると、アルカリ水溶液への溶解しやすく、3.0meq/g以下であると、高温高湿保管時においても膜強度が低下しにくい。
【0024】
バインダーポリマーの重量平均分子量は、塗布溶媒に溶解し、且つ、アルカリ水溶液に溶解又は膨潤する限り特に制限はないが、膜強度とアルカリ水溶解性とのバランスといった観点からは重量平均分子量で1,000〜1,000,000が好ましく、10,000〜500,000であることがより好ましい。
【0025】
非感光性層中におけるバインダーポリマーの含有量としては、支持体に対する保護性及び指紋跡などの汚れの付着防止の観点からは、30重量%以上が好ましく、40〜95重量%がより好ましく、50〜90重量%が特に好ましい。
【0026】
特に好適なバインダーポリマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸又はマレイン酸を必須成分として含む共重合体、例えば特開昭50−118802号公報に記載されている2−ヒドロキシエチルアクリレート又は2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリロニトリル又はメタクリロニトリル、アクリル酸又はメタクリル酸及び必要に応じて他の共重合可能なモノマーとの多元共重合体、特開昭53−120903号公報に記載されている末端がヒドロキシ基であり、かつジカルボン酸エステル残基を含む基でエステル化されたアクリル酸又はメタクリル酸、アクリル酸、又はメタクリル酸及び必要に応じて他の共重合可能なモノマーとの多元共重合体、特開昭54−98614号公報に記載されている芳香族性水酸基を末端に有する単量体(例えば、N−(4−ヒドロキシフェニル)メタクリルアミドなど)、アクリル酸又はメタクリル酸及び必要に応じて他の共重合可能なモノマーとの多元共重合体、特開昭56−4144号公報に記載されているアルキルアクリレート、アクリロニトリル又はメタクリロニトリル及び不飽和カルボン酸よりなる多元共重合体を挙げることができる。この他、酸性ポリビニルアルコール誘導体や酸性セルロース誘導体も有用である。また、ポリビニルアセタールやポリウレタンをアルカリ可溶化した特公昭54−19773号公報、特開昭57−94747号、同60−182437号、同62−58242号、同62−123453号の公報に記載の結合剤も有用であり、ポリウレタンをアルカリ可溶化した樹脂及びスチレン骨格が共重合成分として含有されている樹脂が、膜強度が高く、特に好ましい。
【0027】
アルカリ可溶化したポリウレタン樹脂としては、ポリマー主鎖にカルボキシ基を有するものが好ましく、具体的には、式(I)で表わされるジイソシアネート化合物と式(II)又は式(III)で表されるカルボキシ基を有するジオール化合物との反応生成物を基本骨格とするポリウレタン樹脂が挙げられる。
【0028】
【化1】

【0029】
式(I)中、R1は二価の炭化水素基を表す。R1としては、好ましくは、炭素数2〜10のアルキレン基、炭素数6〜30のアリーレン基が挙げられる。R1はイソシアネート基と反応しない他の官能基を置換していてもよい。
式(II)中、R2は水素原子又は炭化水素基を表す。R2としては、好ましくは、水素原子、炭素数1〜8個の無置換のアルキル基、炭素数6〜15個の無置換のアリール基が挙げられる。
式(II)、式(III)中、R3、R4、R5は、それぞれ独立に、単結合又は二価の連結基を表す。二価の連結基としては例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられ、好ましくは、炭素数1〜20個の無置換のアルキレン基、炭素数6〜15個の無置換のアリーレン基が挙げられ、さらに好ましいものとしては炭素数1〜8個の無置換のアルキレン基が挙げられる。
式(III)中、Arは三価の芳香族炭化水素基を表し、好ましくは炭素数6〜15個の芳香族炭化水素基を示す。
なお、R1〜R5、及びArは前記イソシアネート基と反応しない置換基を有していてもよい。
【0030】
式(I)で示されるジイソシアネート化合物の具体例としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートの二量体、2,6−トリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4(又は2,6)ジイソシアネート、1,3−(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等の脂環族ジイソシアネート化合物;1,3−ブチレングリコール1モルとトリレンジイソシアネート2モルとの付加体等のジオールとジイソシアネートとの反応物であるジイソシアネート化合物等が挙げられる。中でも、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートのような芳香族環を有するものが耐刷性の観点より好ましい。
【0031】
また、式(II)又は式(III)で示されるカルボキシ基を有するジオール化合物の具体例としては、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオン酸、2,2−ビス(3−ヒドロキシプロピル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)酢酸、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)酢酸、4,4−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸、酒石酸等が挙げられる。中でも、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオン酸がイソシアネートとの反応性の点で好ましい。
【0032】
また、式(II)又は式(III)で示されるカルボキシ基を有するジオール化合物の他に、炭素数1〜10以下のアルキレングリコール、2以上の前記アルキレングリコールが重合した構造をもつポリアルキレングリコールも、アルカリ可溶性を損なわない範囲で共重合することができる。
【0033】
ポリウレタン樹脂は上記ジイソシアネート化合物及びジオール化合物を非プロトン性溶媒中、それぞれの反応性に応じた活性を有する公知の触媒を添加し、加熱することにより合成することができる。
使用するジイソシアネート及びジオール化合物のモル比は、好ましくは0.8:1〜1.2:1であり、ポリマー末端にイソシアネート基が残存した場合、アルコール類又はアミン類等で処理し、最終的にイソシアネート基が残存しない形で合成される。
【0034】
(着色剤)
本発明における非感光性層は着色剤を含有することが好ましい。このように非感光性層に着色剤を含有させることによりカラーセンサー適性を付与することができる。
本発明における非感光性層は、350〜800nmの領域に吸収極大を有し、その吸収極大における吸光度Xが0.2以上であることが好ましく、非感光性層を形成する組成物には、350〜800nmに吸収極大を有する着色剤を添加することが好ましい。350550nmに吸収極大を有する着色剤と、550〜800nmに吸収極大を有する着色剤とを併用することがより好ましい。
【0035】
着色剤の添加量としては、非感光性層の固形分に対して0.1〜15重量%が好ましく、1.0〜10重量%がより好ましく、2.0〜8.0重量%が最も好ましい。なお、着色剤の含有量は、非感光性層の厚さについても考慮して設定される。
【0036】
本発明における着色剤としては、染料又は顔料を用いることができるが、現像液に可溶な染料であることが好ましい。
非感光性層に着色剤として用いられる染料としては、オキソノール染料、ヘミオキソノール染料、メロシアニン染料、シアニン染料、アゾ染料などを使用しうる。具体的には、例えば特公昭58−12576に記載のピラゾロン染料、米国特許第2,274,782号に記載のピラゾロンオキソノール染料、米国特許第2,956,879号に記載のジアリールアゾ染料、米国特許第3,423,207号、同第3,384,487号に記載のスチリル染料やブタジエニル染料、米国特許第2,527,583号に記載のメロシアニン染料、米国特許第3,486,897号、同第3,652,284号、同第3,718,472号に記載のメロシアニン染料やオキソノール染料、米国特許第3,976,661号に記載のエナミノヘミオキソノール染料及び英国特許第584,609号、同第1,177,429号、特開昭48−85130号、同49−99620号、同49−114420号、米国特許第2,533,472号、同第3,148,187号、同第3,177,078号、同第3,247,127号、同第3,540,887号、同第3,575,704号、同第3,653,905号、に記載の染料が用いられる。更には、天然着色料として古くから知られている、特開2009−263638号、特許第3272256号に記載のクルクミノイドも有用に用いられる。クルクミノイドは、クルクミンとその類縁体であるデメトキシクルクミン及びビスデメトキシクルクミンを含む化合物の総称であり、ポリフェノールの一種でもある。尚、ここでクルクミノイドとは、クルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン、ヤクチノンA,ヤクチノンB等の直鎖状ジアリルヘプタノイドのほか、これら直鎖状ジアリルヘプタノイドの塩、エステル、並びにその他直鎖状ジアリルヘプタノイドの類縁化合物、たとえばクルクミンの重合物と呼ばれているカシュムニンA、カシュムニンB、及びカシュムニンCなどの総称である。
【0037】
クルクミノイドは、天然黄色色素の中でも鮮やかな色調を備えており、また耐熱性、耐酸化性及び耐還元性に優れている点、並びに優れた染着性を有している点で好適な色素である。
【0038】
以下に、本発明に係る着色剤として好ましい染料の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
【化2】

【0040】
【化3】

【0041】
また、非感光性層に着色剤として使用できる顔料としては、例えば、C.I Pigment Yellow 1、C.I Pigment Yellow 2、C.I VatYellow 20、C.I Vat Yellow 3、Flavanthrone Yellow、C.I Pigment Orange 5、C.I Vat Orange 3、C.I Vat Orange 9、Toluidine Red、C.I Vat Red35などの「新版 染料便覧」(社)有機合成化学協会編(丸善(株)、1970年)に記載されている顔料が挙げられる。
【0042】
(吸光度)
これら着色剤として用いられる染料又は顔料の中でも、非感光性層に含有させた際に、特に、350〜550nmの領域に吸光度0.20以上となる吸収を有するものが好ましい。より好ましくは0.30以上1.5以下であり、更に好ましくは0.40以上1.0以下である。吸光度が0.20未満ではカラーセンサーによる判別が不安定であり、1.5以上では長期間保存した場合に残色となる場合がある。
なお、この吸光度は、着色剤の添加量と非感光性層の厚みで決定される。本発明における吸光度は、島津製作所製、U−3010型分光光度計反射スペクトル測定装置により、非感光性層未塗布の支持体を基準として測定した値を用いている。
【0043】
(低分子酸性化合物)
非感光性層は、低分子酸性化合物を含有することが好ましい。汚れの防止という観点から、低分子酸性化合物の重量平均分子量は、300以下が好ましく、250以下がより好ましい。
低分子酸性化合物は、リン酸・ホスホン酸系化合物、スルホン酸系化合物、カルボン酸系化合物など、酸基の種類で分類することができる。この低分子酸性化合物の酸基の種類によっては、着色剤の支持体吸着を抑制することによる現像後の残色発生防止効果、非感光性層へのアルカリ現像液の浸透促進による印刷時の汚れ発生防止効果への寄与率がそれぞれ異なるため、複数の種類の低分子酸性化合物を組み合わせて用いることが好ましい。 また、低分子酸性化合物における酸基は、塩構造を形成していてもよいが、フリーの酸性水素基である方が、着色剤が支持体表面に吸着することによる残色を発生し難くなり好ましい。
【0044】
非感光性層中における低分子酸性化合物の含有量は、残色及び印刷汚れの防止効果の観点から、下限として1m2あたり0.50meq以上が好ましく、1m2あたり1.00meq以上がより好ましく、1.50meq以上がさらに好ましい。また、合紙との接着性の観点からは、非感光性層中における低分子酸性化合物の含有量は、1m2あたり5.00meq以下が好ましく、4.00meq以下がより好ましい。
【0045】
以下に、本発明に適用可能な低分子酸性化合物について具体的に述べる。低分子酸性化合物としては、前述のごとく、リン酸・ホスホン酸系化合物、スルホン酸系化合物、及びカルボン酸系化合物が好適に用いられる。
【0046】
リン酸・ホスホン酸系化合物としては、リンの酸素酸基を有する化合物(以下、適宜「リンの酸素酸化合物」と称する。)が用いられる。リンの酸素酸化合物とは、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、これらの酸の母体構造を構成するリン原子に結合した水素原子を、置換基を有していてもよい炭化水素基、又は異節環状基で置換してなる化合物、及びこれらの酸のエステルであって少なくとも1個のP−OH基を有するものを含む。具体例としては、特開2005−283676号公報の段落0097に記載されたものが挙げられ、中でも、ホスホン酸及びリン酸が好ましい。
【0047】
スルホン酸系化合物としては、スルホン酸基を有する化合物(以下、適宜「スルホン酸化合物」と称する。)が用いられる。スルホン酸化合物とは、置換基を有していてもよい炭化水素基、又は異節環状基に、スルホン酸基が1つ以上置換していて且つリンの酸素酸基を有していない化合物を意味する。具体例としては、特開2005−283676号公報の段落0099に記載されたものが挙げられ、中でも、好ましいのは、3−スルホフタル酸、4−スルホフタル酸、2−スルホテレフタル酸、5−スルホイソフタル酸等の芳香族環に2つ以上のカルボキシ基と1つのスルホン酸基を有する化合物、5−スルホサリチル酸のように芳香族環にヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基を有する化合物、及び2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−ベンゾイルベンゼンスルホン酸である。
【0048】
カルボン酸系化合物としては、カルボキシ基を有する化合物(以下、適宜「カルボン酸化合物」と称する。)が用いられる。カルボン酸化合物としては、1分子中に2個以上のカルボキシ基を有するものが好ましくは、3個以上のカルボキシ基を有しているものが特に好ましい。カルボン酸系化合物の具体例としては、特開2005−283676号公報の段落0101〜0103に記載されたものが挙げられ、中でも、3個以上のカルボキシ基を有し、炭素、水素以外の元素を含む他の官能基を有さない低分子の有機化合物が好ましく、炭素数が5以下のアルキル基に3個以上のカルボキシ基が置換したものがより好ましく、プロパン−1,2,3−トリカルボン酸(トリカルバリル酸)がさらに好ましい。
【0049】
以上説明した、リンの酸素酸化合物、スルホン酸化合物、及びカルボン酸化合物の中でも、特に、ホスホン酸、リン酸、フェニルホスホン酸、ジピコリン酸、リンゴ酸、スルホサリチル酸、スルホフタル酸、トリカルバリル酸、スルホフタル酸、スルホサリチル酸が、溶解促進作用と共に、着色剤吸着防止作用に優れ、しかも長期保管時の印刷汚れ防止作用があり好ましい。
また、リン酸・ホスホン酸系化合物、スルホン酸系化合物、及びカルボン酸系化合物を、それぞれ1種ずつ組み合わせて使用することが好ましい。
【0050】
上記したリンの酸素酸化合物、スルホン酸化合物、及びカルボン酸化合物の非感光性層中の含有量としては、平版印刷版用捨て版原版の貯蔵安定性及び耐傷性の観点から、非感光性層の全固形分に対して、それぞれ、0.01〜20重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5重量%である。さらに、非感光性層中、リンの酸素酸化合物、スルホン酸化合物、及びカルボン酸化合物の合計の含有量は、耐傷性の観点から、非感光性層の全固形分に対して20重量%を越えないことが好ましい。
【0051】
(その他の添加物)
本発明における非感光性層には、前記各成分の他に、種々の添加剤を併用することができる。その他の添加剤としては、例えば、溶解促進のための可塑剤、フッ素系界面活性剤等の塗布面質改良剤などが挙げられる。
【0052】
(膜pH)
非感光性層の膜pHとしては、着色剤の吸着防止及び支持体に施される陽極酸化皮膜の腐食防止の観点から、2.5〜5.5が好ましく、特に3.0〜5.2が好ましい。なお、膜pHは、400cm2の平版印刷版用捨て版原版を、2−メトキシエタノール100gに浸漬・溶解し、純水を30cc加え、pH測定を行った値である。
【0053】
(非感光性層の形成)
本発明における非感光性層は、非感光性層を形成するための各成分を、公知の種々の塗布溶剤に溶解して非感光性層形成用塗布液を調製し、支持体上に、塗布、乾燥することにより形成することができる。
塗布する際の非感光性層形成用塗布液中の固形分濃度は、1.0〜50重量%が適当であり、好ましくは2.0〜30重量%である。
【0054】
支持体上に、非感光性層形成用塗布液を塗布する方法としては、従来公知の方法、例えばロールコーティング、バーコーティング、スプレーコーティング、カーテンコーティング、回転塗布等の方法を用いることができる。
非感光性層形成用塗布液が塗布された支持体は、好ましくは50〜150℃で乾燥される。乾燥方法は、初め温度を低くして予備乾燥した後、高温で乾燥させてもよいし、直接高温で乾燥させてもよい。
非感光性層の乾燥塗布重量は、キズつき防止能力及び現像時の溶解除去性能の観点から、0.2〜1.5g/m2であることが好ましく、0.3〜1.0g/m2であることがより好ましい。
【0055】
3.親水性層
本発明の平版印刷版用捨て版原版は、マット剤を含む親水性層を有する。親水性層は、親水性ポリマーを含むことが好ましい。
【0056】
(マット剤)
親水性層は、マット剤を含む。このような、マット剤として働く粒子に望まれる基本的特性は、露光に用いる光の透過は実質阻害せず、空気中の湿分や、温度によって、軟化したり、ベトついたりすることがない樹脂であって、最上部の親水性層に添加することで、その表面に適当な凹凸を付与し、接触面積を減少させるものが好ましい。
こすりキズ抑制の観点からは、マット剤は、硬いアルミニウム支持体表面とこすれた時に生じる応力を緩和できるものが好ましい。さらに、マット剤は親水性層のバインダーとなる親水性ポリマー、好ましくは、親水性層に汎用のポリビニルアルコールと親和性が高く、膜中によく混練され、且つ、皮膜形成後においても、膜表面から脱離し難いものが好ましい。
マット剤としては、基本的特性を満たすものであれば公知のものを用いることができ、限定されないが、本発明においては、その表面をシリカで被覆したシリカ被覆有機樹脂粒子、及び/又は、親水性表面を有する有機樹脂粒子が好ましい。
【0057】
(シリカ被覆有機樹脂粒子)
シリカ被覆有機樹脂粒子は、有機樹脂からなる粒子をシリカで表面被覆してなる。シリカ被覆有機樹脂粒子は、平版印刷版用捨て版原版の親水性層表面と隣接する平版印刷版用捨て版原版のアルミニウム支持体裏面との接着、及び、親水性層表面とアルミニウム支持体裏面との間で生じるこすりキズを抑制するため好ましい。
【0058】
シリカ被覆有機樹脂粒子のコアとなる有機樹脂粒子を構成する有機樹脂としては、先に述べたような物性を有する樹脂であれば制限なく使用することができ、例えば、ポリアクリル酸系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポシキ系樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。中でも、好ましい親水性ポリマーであるポリビニルアルコールとの親和性の観点から、ポリアクリル酸系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及び、メラミン樹脂などが好ましい。
【0059】
有機樹脂粒子表面を被覆するシリカ層を形成する材料としては、アルコキシシロキサン系化合物の縮合物などのアルコキシシリル基を有する化合物、特に、ゾル−ゲル法にて使用するシロキサン系材料が好ましく、具体的には、シリカゾル、コロイダルシリカ、シリカナノ粒子などのシリカ粒子などが好ましく挙げられる。
【0060】
シリカ被覆有機樹脂粒子の構成としては、有機樹脂粒子表面にシリカ粒子が固体成分として付着しているものであっても、アルコキシシロキサン系化合物を縮合反応させて有機樹脂粒子表面にシロキサン系化合物層を形成したものであってもよい。
シリカは必ずしも有機樹脂粒子表面全域を被覆している必要はなく、少なくとも有機樹脂粒子に対し、0.5重量%以上の量で表面被覆していれば本発明の効果を得ることができる。即ち、有機樹脂粒子の表面の少なくとも一部にシリカが存在することで、有機粒子表面におけるポリビニルアルコール等の親水性ポリマーとの親和性向上が達成され、外部応力を受けた場合でもマット剤の脱落が抑制され、優れた耐キズ性、耐接着性を維持することができる。
また、本発明の効果を損なわない範囲において、有機樹脂粒子表面を被覆するシリカ層をさらに有機樹脂で被覆していてもよい。
シリカの表面被覆状態は、透過型電子顕微鏡(TEM)等による形態観察により確認することができ、また、シリカの被覆量は、蛍光X線分析などの元素分析によりSi原子を検知し、そこに存在するシリカの量を算出することで確認することができる。
【0061】
シリカ被覆有機樹脂粒子の製造方法としては特に制限はなく、シリカ粒子あるいはシリカ前駆体化合物を、有機樹脂粒子の原料となるモノマー成分と共存させて有機樹脂粒子形成と同時にシリカ表面被覆層を形成させる方法であってもよく、また、有機樹脂粒子を形成した後、シリカ粒子を物理的に表面に付着させ、その後、固定化する方法でもよい。
【0062】
製造方法の一例を挙げれば、まず、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリル酸などの水溶性高分子やリン酸カルシウム、炭酸カルシウムなどの無機系懸濁剤などから適宜選択される懸濁安定剤を含む水中に、シリカと、原料樹脂(より具体的には、前記した有機樹脂を構成する、懸濁重合が可能なモノマー、懸濁架橋が可能なプレポリマー、又は、樹脂液などの原料樹脂)と、を添加、撹拌、混合して、シリカと原料樹脂とを分散させてなる懸濁液を調製する。その際、懸濁安定剤の種類、その濃度、撹拌回転数などを調節することにより、目的の粒子径を有するエマルジョン(懸濁液)を形成することができる。次いで、この懸濁液を加温して反応を開始させ、樹脂原料を、懸濁重合又は懸濁架橋させることにより樹脂粒子を生成させる。このとき、共存するシリカが重合又は架橋反応により硬化する樹脂粒子に、特に、その物性に起因して樹脂粒子表面近傍に、固定化される。その後、これを固液分離し、洗浄により粒子に付着している懸濁安定剤を取り除いて、乾燥させる。これにより、シリカが固定化された所望粒子径の略球状の有機樹脂粒子が得られる。
このように、懸濁重合、あるいは懸濁架橋の際に条件を制御して所望の大きさの樹脂を得ることもできるが、このような制御を厳密に行うことなくシリカ付着有機樹脂粒子を生成した後、メッシュ濾過法により所望の大きさのシリカ被覆粒子を得ることもできる。
【0063】
上記方法によりシリカ被覆粒子を製造する際の混合物における原料の添加量としては、原料樹脂とシリカとの総量が100部の場合、まず、分散媒である水200〜800部に懸濁安定剤0.1〜20部を添加し、十分に溶解又は分散させ、その液中に、前記した100部の原料樹脂とシリカとの混合物を投入し、分散粒子が所定の粒度になるように撹拌速度を調整しながら撹拌し、この粒度調整を行った後に液温を30〜90℃に昇温し、1〜8時間反応させればよい。
【0064】
シリカ被覆粒子の製造方法については、前記した方法はその一例であり、例えば、特開2002−327036号公報、特開2002−173410号公報、特開2004−307837号公報、及び、特開2006−38246号公報などに詳細に記載され、ここに記載の方法により得られるシリカ被覆有機樹脂粒子はいずれも本発明に好適に使用することができる。
【0065】
また、シリカ被覆有機樹脂粒子は市販品としても入手可能であり、具体例としては、シリカ/メラミン複合粒子としては、日産化学工業(株)製オプトビーズ2000M、オプトビーズ3500M、オプトビーズ6500M、オプトビーズ10500M、オプトビーズ3500S、オプトビーズ6500Sが挙げられる。シリカ/アクリル複合粒子としては、根上工業(株)製アートパールG−200透明、アートパールG−400透明、アートパールG−800透明、アートパールGR−400透明、アートパールGR−600透明、アートパールGR−800透明、アートパールJ−7Pが挙げられる。シリカ/ウレタン複合粒子としては、根上工業(株)製アートパールC−400透明、C−800透明、P−800T、U−600T、U−800T、CF−600T、CF800T、大日精化(株)製ダイナミックビーズCN5070D、ダンプラコートTHUが挙げられる。
【0066】
シリカ被覆有機樹脂粒子の形状は、真球状形状が好ましいが、平板形状若しくは投影図が楕円形状となるような所謂紡錘形状であってもよい。
好ましい重量平均粒子径は1〜30μmφであり、1.5〜20μmφがより好ましく、2〜15μmφがさらに好ましい。この範囲において十分なスペーサー機能、マット性能を発現することができ、親水性層表面への固定化が容易で、外部からの接触応力に対しても優れた保持機能を有する。
【0067】
親水性層におけるシリカ被覆有機樹脂粒子の分布は、5〜1,000mg/m2が好ましく、10〜500mg/m2がより好ましく、20〜200mg/m2がさらに好ましい。
また、親水性層全体に対するシリカ被覆有機樹脂粒子の添加量は、親水性層全固形分に対して0.5〜95重量%が好ましく、1〜50重量%がより好ましく、2〜20重量%がさらに好ましい。
【0068】
親水性層には、前記シリカ被覆有機樹脂粒子に加え、本発明の効果を損なわない限りにおいて、他の(シリカ被覆層を有しない)有機樹脂粒子を併用することができる。併用可能な有機樹脂粒子としては、特許4213756号公報の段落0029〜0032に記載されたものが挙げられる。また、特許3329657号公報の段落0022〜0024に記載された、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム等も、本発明の効果を損なわない限りにおいて、親水性層に添加してもよい。
【0069】
(バインダー)
親水性層を形成するバインダーとしては、均一な皮膜を形成し得るものであれば特に制限はないが、除去性の観点から親水性であることを要し、さらに、以下に詳述する観点から、親水性ポリマーであることが好ましい。しかしながらこれに限定されるわけではなく、水不溶性ポリマーを本発明の効果を損なわない限りにおいて適宜選択して併用することも可能である。
【0070】
親水性層のバインダーとして使用しうる親水性ポリマーとしては、具体的には、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルイミダゾール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニルの部分鹸化物、エチレン−ビニルアルコール共重合体、水溶性セルロース誘導体、ゼラチン、デンプン誘導体、アラビアゴム等の水溶性ポリマーや、ポリ塩化ビニリデン、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリサルホン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、セロハン等のポリマー等が挙げられる。これらは、必要に応じて2種以上を併用して用いることもできる。中でも、親水性層の形成に用いられるバインダーポリマーとしては、非感光性層との密着性に優れ、その表面(最表面)は他の材料との接着性が低く、且つ、現像工程で容易に除去できるポリマーが好ましい。
このような観点から、親水性層のバインダー成分としては親水性ポリマーの中でも水溶性ポリマーが好ましく、特に、ポリビニルアルコールを主成分として用いることが好ましい。ポリビニルアルコールは優れた皮膜形成性と低接着性の表面を有する。また、ポリビニルアルコールとカルボキシエチルセルロース等のセルロース誘導体とを併用することが好ましい。
【0071】
ポリビニルアルコール(PVA)のケン化度は、85〜99が好ましく、91〜99がより好ましい。ケン化度がこの範囲であれば、必要な低接着性表面を有するための、未置換ビニルアルコール単位を含有する限り、いずれの構成を有していてもよい。即ち、ポリビニルアルコールの一部が、エステル、エーテル及びアセタールなどで置換されているものでもよいし、また、一部が変性されていてもよいし、さらに、他の共重合成分を含むものであってもよい。
本発明に係る親水性層は、例えば、ケン化度が91モル%以上のポリビニルアルコールを主成分とすることが好ましい。
【0072】
ポリビニルアルコールは、重合度が200〜2,400の範囲のものが好ましい。このようなポリマーは市販品としても入手可能であり、具体的には、(株)クラレ製の、PVA−102、PVA−103、PVA−104、PVA−105、PVA−110、PVA−117、PVA−120、PVA−124、PVA−117H、PVA−135H、PVA−HC、PVA−617、PVA−624、PVA−706、PVA−613、PVA−CS、PVA−CST、日本合成化学工業(株)製の、ゴーセノールNL−05、NM−11、NM−14、AL−06、P−610、C−500、A−300、AH−17、日本酢ビ・ポバール(株)製の、JF−04、JF−05、JF−10、JF−17、JF−17L、JM−05、JM−10、JM−17、JM−17L、JT−05、JT−13、JT−15等が挙げられる。
【0073】
さらに、本発明において用いられる好ましい水溶性ポリマーとしては、例えば、イタコン酸やマレイン酸変性のカルボキシ変性ポリビニルアルコールやスルホン酸変性ポリビニルアルコール等も好適なものとして挙げられ、これら酸変性ポリビニルアルコールも、より好ましく使用できる。
本発明に係る特定親水性層の形成に好適に用いうる酸変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、(株)クラレ製の、KL−118、KM−618、KM−118、SK−5102、MP−102、R−2105、日本合成化学工業(株)製の、ゴーセランL−3266、ゴーセナールCKS−50、T−HS−1、T−215、T−350、T−330、T−330H、日本酢ビ・ポバール(株)製の、AF−17、AT−17等が挙げられる。
【0074】
水溶性ポリマー(好ましくはポリビニルアルコール)は、親水性層中の全固形分量に対して、45〜95重量%の範囲で含有されることが好ましく、50〜90重量%の範囲で含有されることがより好ましい。この含有量の範囲において、優れた皮膜形成性と、低接着性が達成され、積層した平版印刷版用捨て版原版の接着を抑制する効果が発現する。
親水性層を形成する親水性ポリマーは1種のみを用いてもよく、目的に応じて複数種を併用してもよい。複数種の水溶性ポリマーを用いる場合においても、それらの総含有量が上記の重量範囲であることが好ましい。
親水性層中のポリビニルアルコールの塗布量等は、現像除去性、接着性・耐傷性を考慮して選択される。
【0075】
(親水性層形成用塗布液の調製)
親水性層の形成にあたっては、マット剤を親水性ポリマー等を含む水溶液中に直接添加してもよく、予めマット剤を水等の溶媒中に分散させた後に、親水性ポリマー等を含む水溶液中に分散させてもよい。分散方法としては、例えば、ホモジナイザー、ホモミキサー、ボールミル、ペイントシェーカーなどの公知の簡易な分散機により分散する方法をとればよい。
【0076】
このとき、分散安定性向上の目的で所望により界面活性剤を加えることができる。分散安定性向上に用いる界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、いずれも使用可能である。ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、アルケニルエーテル類、ポリエチレングリコールアリールエーテル類などが挙げられる。アニオン界面活性剤としては、アルキル又はアリールスルホン酸塩型、アルキル又はアリール硫酸エステル塩型、アルキル又はアリールリン酸塩エステル型、アルキル又はアリールカルボン酸塩型の界面活性剤が挙げられる。カチオン界面活性剤としては、アルキルアミン塩型、アルキルピリジニウム塩型、アルキルアンモニウム塩型界面活性剤が挙げられる。より具体的には、これら界面活性剤のさらに多くの具体例については「最新・界面活性剤の機能創製・素材開発・応用技術」堀内照夫、鈴木敏幸編集 技術教育出版社に記載されるものを挙げることができる。
【0077】
(他の成分)
親水性層には、前記各成分の他、本発明の効果を損なわない範囲において、着色剤等の種々の添加剤を目的に応じて添加することができる。
【0078】
〔親水性層の層構成〕
本発明の平版印刷版用捨て版原版における親水性層は単層構造であっても、複数の層を有する積層構造であってもよい。複数の層を有する場合には、最上層にマット剤を含有することが好ましく、マット剤を含有する上層とマット剤を含有しない下層とをあわせた親水性層がより好ましい。
【0079】
(雲母化合物)
親水性層には、雲母化合物を添加することが、耐キズ性向上の観点から好ましい。雲母化合物を併用する場合、雲母化合物は親水性層を構成する層のうち、いずれか一層に含まれていればよい。例えば、単層構造の親水性層の場合、これが最上層となるので、該親水性層には、マット剤、親水性ポリマーに加え、雲母化合物を添加することが好ましく、積層構造の親水性層の場合には、その最上層はマット剤と親水性ポリマーとを含有することが好ましく、雲母化合物は最上層に含まれていても、記録層近傍側の他の層中にバインダー、好ましくは水溶性ポリマーとともに含まれていてもよい。
【0080】
雲母化合物とは、例えば、一般式:A(B,C)2-5410(OH,F,O)2〔ただし、Aは、K、Na、Caのいずれか、B及びCは、Fe(II)、Fe(III)、Mn、Al、Mg、Vのいずれかであり、Dは、Si又はAlである。〕で表される天然雲母、合成雲母等の雲母群が挙げられる。
【0081】
雲母化合物は、天然雲母としては白雲母、ソーダ雲母、金雲母、黒雲母及び鱗雲母が挙げられる。合成雲母としては、フッ素金雲母KMg3(AlSi310)F2、カリ四ケイ素雲母KMg2.5(Si410)F2等の非膨潤性雲母、及びNaテトラシリリックマイカNaMg2.5(Si410)F2、Na又はLiテニオライト(Na,Li)Mg2Li(Si410)F2、モンモリロナイト系のNa又はLiヘクトライト(Na,Li)1/8Mg2/5Li1/8(Si410)F2等の膨潤性雲母等が挙げられる。さらに、合成スメクタイトも有用である。
【0082】
本発明においては、雲母化合物の中でも、フッ素系の膨潤性雲母が特に有用である。即ち、この膨潤性合成雲母は、100〜150nm(10〜15Å)程度の厚さの単位結晶格子層からなる積層構造を有し、格子内金属原子置換が他の粘度鉱物より著しく大きい。その結果、格子層は正電荷不足を生じ、それを補償するために層間にNa+、Ca2+、Mg2+等の陽イオンを吸着している。これらの層間に介在している陽イオンは交換性陽イオンと呼ばれ、いろいろな陽イオンと交換する。特に、層間の陽イオンがLi+、Na+の場合、イオン半径が小さいため層状結晶格子間の結合が弱く、水により大きく膨潤する。その状態でシェアーをかけると容易に劈開し、水中で安定したゾルを形成する。膨潤性合成雲母はこの傾向が強く、本発明において有用であり、特に、均一な品質の粒子が入手容易であるという観点からも膨潤性合成雲母が好ましく用いられる。
【0083】
本発明において使用される雲母化合物の形状としては、平板状の粒子形状を有するものが好ましく、有機樹脂粒子への吸着の観点からは、厚さは薄ければ薄いほどよく、平面サイズは塗布面の平滑性や活性光線の透過性を阻害しない限りにおいて大きいほどよい。従って、アスペクト比は好ましくは20以上であり、より好ましくは100以上、特に好ましくは200以上である。なお、アスペクト比は粒子の長径に対する厚さの比であり、例えば、粒子の顕微鏡写真による投影図から測定することができる。アスペクト比が大きい程、得られる効果が大きい。
【0084】
本発明において親水性層に使用される雲母化合物の粒子径は、その重量平均長径が0.3〜20μm、好ましくは0.5〜10μm、特に好ましくは1〜5μmである。また、該粒子の重量平均の厚さは、0.1μm以下、好ましくは、0.05μm以下、特に好ましくは、0.01μm以下である。具体的には、例えば、代表的化合物である膨潤性合成雲母のサイズは、厚さが1〜50nm、面サイズ(長径)が1〜20μm程度である。
【0085】
雲母化合物の親水性層に含有される量は、雲母化合物がシリカ被覆粒子と同一の層に含まれる場合には、シリカ被覆粒子の添加量及び種類により変動するものの、一般的にはシリカ被覆粒子の重量に対して雲母粒子の重量比が3:1から2:3の範囲であることが好ましく、2:1から1:1の範囲がより好ましい。
シリカ被覆粒子に対し、上記範囲において、分散性向上効果及びアルミニウム支持体裏面と擦り合わせた時の耐キズ性の向上を両立することができる。複数種の雲母化合物を併用した場合でも、これらの雲母化合物の合計の量が上記の重量比であることが好ましい。また、積層構造を有する親水性層の場合、複数ある層のいずれかに雲母化合物を用いればよいが、当該層がシリカ被覆粒子を含まない層である場合には、水溶性ポリマー100重量部に対して、雲母化合物を5〜50重量部の割合で添加することが好ましい。
【0086】
(親水性層の形成)
本発明における親水性層は、マット剤を分散させた分散液と所望により併用される雲母化合物を分散させた分散液とを撹拌混合し、その分散液と、ポリビニルアルコールを含むバインダー成分(又は、ポリビニルアルコールを含むバインダー成分を溶解した水溶液)と、を配合してなる親水性層形成用塗布液を、非感光性層上に塗布することで形成することができる。なお、親水性層形成用塗布液の調製時におけるマット剤、雲母化合物及び親水性ポリマーの配合順序は、目的に応じて適宜変更することも可能である。具体的には、例えば、既述の如く、粉体で供給される粒子成分を、親水性ポリマー溶液中に直接添加して分散させることもできる。また、予め調製された粒子分散液に併用する他の粒子を直接添加して分散させることもできる。
なお、複数の層構成を有する親水性層であって、雲母化合物が最上層ではなく、より記録層の近傍に存在する層に添加される場合には、当該層には、マット剤を配合する必要がないことから、最上層の親水性層形成用塗布液は既述のように調製し、雲母化合物を含む層は、以下に詳述する方法により雲母化合物を分散させた塗布液を用いて形成すればよい。
【0087】
親水性層に用いる雲母化合物の一般的な分散方法の例について述べる。まず、水100重量部に先に雲母化合物の好ましいものとして挙げた膨潤性雲母化合物を5〜10重量部添加し、充分水になじませ、膨潤させた後、分散機にかけて分散する。ここで用いる分散機としては、機械的に直接力を加えて分散する各種ミル、大きな剪断力を有する高速撹拌型分散機、高強度の超音波エネルギーを与える分散機等が挙げられる。具体的には、ボールミル、サンドグラインダーミル、ビスコミル、コロイドミル、ホモジナイザー、ティゾルバー、ポリトロン、ホモミキサー、ホモブレンダー、ケディミル、ジェットアジター、毛細管式乳化装置、液体サイレン、電磁歪式超音波発生機、ポールマン笛を有する乳化装置等が挙げられる。上記の方法で分散した雲母化合物の2〜15重量%の分散物は高粘度又はゲル状であり、保存安定性は良好である。
この分散物を用いて親水性層形成用塗布液を調製する際には、マット剤水分散物とを混合し、充分撹拌した後、ポリビニルアルコールを含むバインダー成分(又は、特定ポリビニルアルコールを含むバインダー成分を溶解した水溶液)と配合して調製するのが好ましい。同一層においてマット剤などと共存しない場合には、この分散物とバインダー成分とを配合して調製すればよい。
【0088】
この親水性層形成用塗布液には、塗布性を向上させための界面活性剤や皮膜の物性改良のための水溶性可塑剤などの公知の添加剤を加えることができる。
水溶性の可塑剤としては、例えば、プロピオンアミド、シクロヘキサンジオール、グリセリン、ソルビトール等が挙げられる。また、水溶性の(メタ)アクリル系ポリマーを加えることもできる。さらに、この塗布液には、記録層との密着性、塗布液の経時安定性を向上するための公知の添加剤を加えてもよい。
【0089】
親水性層の塗布方法は、特に制限されるものではなく、米国特許第3,458,311号又は特開昭55−49729号に記載されている方法を適用することができる。
【0090】
親水性層の重量は、単層構造の親水性層の場合、0.2〜5.0g/m2が好ましく、0.3〜3.0g/m2がより好ましい。この塗布量の範囲において、親水性層の膜強度が良好に維持され、耐キズ性に優れる。
親水性層が積層構造を有する場合、マット剤を含有する最上層の塗布量は、0.1〜3.0g/m2が好ましく、0.5〜2.0g/m2がより好ましい。最上層と非感光性層との間に設けられる親水性層の塗布量は、0.1〜2.0g/m2が好ましく、0.2〜1.0g/m2がより好ましい。
親水性層が積層構造を有する場合、最上層と記録層との間に設けられる層には、親水性ポリマーと雲母化合物とを含有することが、耐キズ性向上という観点から好ましい。
【0091】
マット保持性、耐キズ性、接着防止性が向上することから、前記親水性層と前記非感光性層との総重量は、好ましくは0.4〜6.0g/m2、より好ましくは0.5〜4.0g/m2、さらに好ましくは0.6〜3.5g/m2である。
【0092】
4.下塗り層
本発明に係る平版印刷版用捨て版原版には、非感光性層の現像性や汚れ性を改善する目的で、非感光性層と支持体との間に下塗り層を設けてもよい。このような下塗り層の具体例としては、特公昭50−7481号、特開昭54−72104号、特開昭59−101651号、特開昭60−149491号、特開昭60−232998号、特開平3−56177号、特開平4−282637号、特開平5−16558号、特開平5−246171号、特開平7−159983号、特開平7−314937号、特開平8−202025号、特開平8−320551号、特開平9−34104号、特開平9−236911号、特開平9−269593号、特開平10−69092号、特開平10−115931号、特開平10−161317号、特開平10−260536号、特開平10−282682号、特開平11−84674号、特開平11−38635号、特開平11−38629号、特開平10−282645号、特開平10−301262号、特開平11−24277号、特開平11−109641号、特開平10−319600号、特開平11−84674号、特開平11−327152号、特開2000−10292号、特開2000−235254号、特開2000−352854号、特開2001−209170号等に記載のものを挙げることができる。
【0093】
以下に、本発明に係る下塗り層のバインダーとして好ましいバインダーの具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0094】
【化4】

【0095】
下塗り層の塗布量(固形分)は、1〜100mg/m2であることが好ましく、5〜80mg/m2であることがより好ましく、10〜50mg/m2であることが最も好ましい。
また下塗り層には、非感光性層の説明で記載したような低分子酸性化合物を含有することが、非感光性層添加と同じ観点で好ましい。
非感光性層着色剤の現像後の残色防止という観点から、低分子酸性化合物は、重量平均分子量250以下のリン酸・ホスホン酸系化合物、スルホン酸系化合物、カルボン酸系化合物が好ましく、この中でもリン酸が最も好ましい。
下塗り層中のこの低分子酸性化合物の添加量は、0.5〜20mg/m2であることが好ましく、1〜10mg/m2であることがより好ましく、3〜8mg/m2であることが最も好ましい。
【0096】
本発明の平版印刷版用捨て版原版は、上述したように、非感光性層及び親水性層を有し、下塗り層を有しても良い。これら非感光性層、親水性層及び下塗り層の、機能、構成材料及び塗布量等を下記にまとめた。
本発明の平版印刷版用捨て版原版は、感光性平版印刷版原版の感光性層に替えて、非感光性層を有する。非感光性層には、バインダーポリマーとして、水不溶性且つアルカリ可溶性のバインダーポリマーが好ましく用いられる。非感光性層の塗布量(固形分)は、0.2〜1.5g/m2であることが好ましい。
本発明の平版印刷用捨て版原版は、上記非感光性層の上に親水性層を保護層として有する。親水性層には、親水性バインダーポリマーが好ましく用いられ、非感光性層との密着性に優れ、現像工程で容易に除去できるポリビニルアルコールのような水溶性バインダーポリマーがより好ましく用いられる。親水性層は、マット剤を含有し、単層でも複数の層でもよい。複数の層の場合には、最外層にマット剤を含有することが好ましい。ここで最外層とは、支持体から最も離れた層のことである。親水性層の塗布量(固形分)は、0.2〜5.0g/m2であることが好ましい。
本発明の平版印刷用捨て版原版において、支持体と非感光性層との間に下塗り層を設けてもよい。下塗り層は、非感光性層の支持体との密着性の向上や、非感光性層の現像性や汚れ性を改善する目的で設けられる。下塗り層には、低分子酸性化合物及び下塗り層に好ましいバインダー等が用いられる。下塗り層の塗布量(固形分)は、1〜100mg/m2であることが好ましい。
【0097】
5.バックコート層
支持体に表面処理を施した後、又は、下塗り層を形成させた後、必要に応じて、支持体の裏面にバックコート層を設けることができる。
バックコート層としては、例えば、特開平5−45885号公報に記載されている有機高分子化合物、特開平6−35174号公報に記載されている有機金属化合物又は無機金属化合物を加水分解及び重縮合させて得られる金属酸化物からなる被覆層が好適に挙げられる。中でも、Si(OCH34、Si(OC254、Si(OC374、Si(OC494等のケイ素のアルコキシ化合物を用いることが、原料が安価で入手しやすい点で好ましい。
【0098】
II.平版印刷版用捨て版原版集積体
本発明の平版印刷版用捨て版原版集積体は、本発明の平版印刷版用捨て版原版を合紙を介さずに直接複数積層したことを特徴とする。
本発明の平版印刷版用捨て版原版は、親水性層にマット剤を含有するため、平版印刷版用捨て版原版同士の接着防止性に優れる。従って、平版印刷版用捨て版原版を積層する際に、1つの平版印刷版用捨て版原版ともう1つの平版印刷版用捨て版原版との間に合紙がなくても接着することがない。また、親水性層にマット剤を含有することで、耐キズ性に優れた平版印刷版用捨て版原版及びその集積体を提供することができる。
【0099】
III.平版印刷版用捨て版の製版方法
本発明の平版印刷版用捨て版の製版方法は、本発明の平版印刷版用捨て版原版を用意する平版印刷版用捨て版原版調製工程、及び、前記平版印刷版用捨て版原版をアルカリ現像液で現像処理して平版印刷版用捨て版とする現像工程、を含むことを特徴とし、好ましくは、前記現像工程の前に、前記平版印刷版用捨て版原版が露光機内を通過する工程を含む。なお、平版印刷版用捨て版原版は、合紙を介さずに直接複数積層した平版印刷版用捨て版原版集積体から取り出したものが好ましい。以下、本発明の平版印刷版用捨て版の製版方法について詳細に説明する。
【0100】
本発明の平版印刷版用捨て版の製版方法は、感光性平版印刷版原版及び平版印刷版用捨て版原版を、レーザー光照射による露光処理を行う露光処理部と、現像処理を行う現像処理部と、をこの順に備えたCTP製版システムを用いて製版する製版方法であることが好ましい。
【0101】
感光性平版印刷版原版としては、レーザー露光による書き込みが可能な感光性層(記録層)を有する感光性平版印刷版原版が好ましい。また、アルミニウム支持体上に、感光性層と、マット剤を含む親水性層とを、この順に有するものが好ましい。アルミニウム支持体、及び、親水性層は、本発明の平版印刷版用捨て版原版と同様のものを好ましく用いることができる。感光性平版印刷版原版の感光性層(記録層)には、増感色素、重合開始剤、重合性化合物、バインダーポリマー等を含むものが好ましい。感光性平版印刷版原版としては、特許第4213756号に記載された平版印刷版原版を用いることができる。
【0102】
本発明では、例えば、平版印刷版用捨て版原版が、500nmの波長に吸光度Xが0.20以上である吸収極大を有する場合、感光性平版印刷版原版の500nmにおける吸光度Yと、平版印刷版用捨て版原版における吸光度Xと、の差が±0.10以上であることが好ましい。
また、本発明においては、平版印刷版用捨て版原版が350〜800nmの領域に吸光度が0.20以上である吸収極大を複数有する場合には、そのうち1つの吸収極大において、平版印刷版用捨て版原版の吸光度Xと感光性平版印刷版原版の吸光度Yとの間に±0.10以上の差があればよい。このように、平版印刷版用捨て版原版の有する、ある極大吸収波長において、平版印刷版用捨て版原版と感光性平版印刷版原版との吸光度に上記のような差があることから、カラーセンサー等により両版の識別が可能となる。
【0103】
〔CTP製版システム〕
まず、本発明におけるCTP(Computer to plate)製版システムについて説明する。本発明におけるCTP製版システムは、好ましくは感光性平版印刷版原版及び平版印刷版用捨て版原版を、レーザー光照射による露光処理を行う露光処理部と、現像処理を行う現像処理部と、をこの順に備える。
以下、本発明におけるCTP製版システムの例示的一態様について、図面を参照して詳細に説明する。ここで、図1は、本発明に係るCTP製版システムの例示的一態様の概略構成を示す斜視図である。
【0104】
図1に示されるように、CTP製版システム100は、レーザー光照射による露光処理を行う露光処理部としてのプレートセッター10と、必要であれば、加熱処理部としての加熱オーブン40と、現像処理を行う現像処理部としての自動現像機60と、を備えている。また、これら各部は、制御装置95としてのコンピュータに接続されており、さらに上位のシステムとリンクするためのコンピューターシステムが構築されている。
【0105】
プレートセッター10には、感光性平版印刷版原版や平版印刷版用捨て版原版が露光部へと供給される前に、その両版を識別するためのカラーセンサー(図示せず)が設けられており、この識別結果を制御装置95に伝える。制御装置95は、この識別結果を基に、CTP製版システム100を構成している各部の動作を版の種類に応じて変更可能にするために、処理する版が感光性平版印刷版原版及び平版印刷版用捨て版原版のいずれであるかを示す識別信号を、プレートセッター10、加熱オーブン40、及び自動現像機60にそれぞれ出力する。
【0106】
プレートセッター10は、例えば、感光性平版印刷版原版をレーザー光照射によって露光する露光部と、この露光部への感光性平版印刷版原版の供給及び排出を行うプレート給排機構と、カラーセンサー機構と、これらを統括して制御する制御部(制御手段)と、版面形成前の感光性平版印刷版原版や平版印刷版用捨て版原版を格納しておくプレート収納カセットとを備えた構成である。
また、処理する版が感光性平版印刷版原版か平版印刷版用捨て版原版のいずれかであるかを、制御装置95から送信された識別信号によって、プレートセッター10内の制御部が検知するようになっている。なお、本発明の平版印刷版用捨て版原版は、親水性層にマット剤を含み、合紙がなくても版同士で接着することがなく、また、耐キズ性が高い。従って、本発明においては、プレートセッターには、合紙を剥がすための手段や、合紙用のゴミ箱を必要としない。
【0107】
本発明の平版印刷版用捨て版原版の製版方法は、前記現像工程の前に、前記平版印刷版用捨て版原版が露光機内を通過する工程を含んでいてもよい。従来、マット剤を含む層を有する平版印刷版用捨て版原版は、マット剤が脱落しやすく、露光部の光源を汚染することがあったが、本発明の平版印刷版用捨て版原版はマット剤の保持性に優れるため、露光部においてマット剤が脱落することがなく、光源を汚染することがない。従って、感光性平版印刷版原版と同様の工程を経て現像することが可能であるため、平版印刷版用捨て版用の装置や工程を別途用意することなく、平版印刷版用捨て版を製版することができる。
【0108】
プレート給排機構は、プレート収納カセットに収納されている印刷版原版を露光用ドラムに移す。また、プレート収納カセットに収納されている版が平版印刷版用捨て版原版の場合は、露光処理を行う必要がないため、次の工程へと搬出してもよいが、既に述べたように、光源をマット剤の脱落により汚染することがないため、露光処理を経てもよい。なお、平版印刷版用捨て版原版も露光用ドラムに装着され、露光されずに、装着が解除されてから次の工程へと搬出されてもよい。
【0109】
露光処理を済ませた印刷版原版は、露光用ドラムからプレート搬出機構により次の工程へと搬出される。また、ここで、印刷版原版の種類によっては、プレートセッター10と自動現像機60との間に加熱オーブン40を導入してもよい。さらに、両版を移載する際に、版の種類(感光性平版印刷版原版と平版印刷版用捨て版原版)を、各所に設けたセンサ等によってチェックしても構わない。
以上のプレートセッター10として、市販装置では、例えば、CreoScitex社製TrenndsetterNews200、KPG社製NewssetterTH180、富士フイルム(株)製Luxel T−9000CTP、Krause社製LaserStar170T、大日本スクリーン製造(株)製HS、松下電送(株)製サーマルセッターGX9900、NEC社製サーマルセッター Amzisetter、(株)Creo製サーマルセッター等が挙げられる。
【0110】
以上のプレートセッター10を用いた本発明の製版方法における露光処理について具体的に説明する。
まず、プレート収納カセットに収納された感光性平版印刷版原版及び平版印刷版用捨て版原版の表面に合紙が装着されている場合は、自動合紙取り機構によって合紙が剥離除去される。そして、合紙が除去された版が感光性平版印刷版原版の場合は、露光部の露光用ドラムに装着されて、レーザー光源によるレーザー光照射によって画像露光される。そして、露光処理を終えた露光用ドラム上の印刷版原版は、露光用ドラムから剥離され、次工程へと搬出される。一方、合紙が除去された版が平版印刷版用捨て版原版の場合は、露光処理されずに、次工程へと搬出される。
【0111】
加熱オーブン40は、場合により必要となる。例えば、レーザー光露光で発生した感光層中の酸を用い加熱により架橋させて画像部を形成したり、レーザー光露光で発生した感光層中のラジカルを用い加熱により重合を促進させ画像部を形成することができる。
具体的には、加熱オーブン40は、図2に示すように、版に所定の加熱を行うための加熱手段42を有する加熱ゾーン43と、加熱処理後の版を冷却するファン44等を有する空冷ゾーン45と、これら加熱ゾーン43と空冷ゾーン45とに版を順次搬送するための金属製の搬送ベルトを有する搬送手段としての搬送コンベヤ46と、該搬送コンベヤ46の搬送ベルトを懸架する搬送ローラ47を駆動するモータ駆動部48と、少なくともこのモータ駆動部48の動作を制御する制御部51と、を備えた構成である。この構成によれば、モータ駆動部48が搬送ローラ47の少なくともいずれかを駆動することで搬送コンベヤ46の搬送ベルトが移動して、搬送ベルト上に載置された版を、プレートセッター10側から加熱ゾーン43、空冷ゾーン45を通過して、自動現像機60側に搬出するようになる。
なお、搬送コンベヤ46による搬送速度が可変となるように、モータ駆動部48は、回転速度が増減可能なモータ駆動回路を採用していてもよい。制御部51は、制御装置95から送信された識別信号によって、処理する版が感光性平版印刷版原版又は平版印刷版用捨て版原版のいずれであるかを検知して、検知した版の種類に応じて、モータ駆動部48を制御することで、加熱オーブン40内での版の通過速度を切り換える。従って、制御部51が搬送速度の速度切り換え手段として機能する。つまり、平版印刷版用捨て版原版の場合は、印刷版原版のように露光した感光層がないので、感光性平版印刷版原版と同じ加熱は必要がない。そこで、平版印刷版用捨て版原版の場合は、感光性平版印刷版原版の場合よりも通過速度を高め、高速搬送するように設定することが好ましい。
この加熱オーブン40としては、市販品では、例えば、Wisconsin社Oven SPCシリーズ、Unigraph社Oven CPOシリーズに、版の種類に応じて版の通過速度を変更する手段を追加することで、これを使用することができる。
【0112】
自動現像機60は、図3に自動現像機の概略的な一構成例を示すように、例えば、感光性平版印刷版原版や平版印刷版用捨て版原版を現像処理するための現像部61、現像後の版に付着した現像液を洗い流す水洗部63、ガム液を塗布するフィニッシャー部65、及びガム液塗布後の版を乾燥する乾燥部67が、この順で配設されている。
そして、現像部61の挿入口70には、版の搬入を検知するセンサ68が装備されていて、該センサ68によって版の搬入が検出されると、搬送手段72によって、現像部61、水洗部63、フィニッシャー部65、乾燥部67に順に送られて、排出口74から排出される。なお、場合により、加熱オーブン40の代わりに現像部61の前段にプレヒート部を設けてもよく、加熱部分がなくてもよい。
【0113】
搬送手段72は、複数個の搬送ローラ76によって、版を所定の経路で搬送するようにしたものである。搬送手段72を構成している各搬送ローラ76は、モータ駆動部78により駆動される。また、モータ駆動部78の動作は、制御部80によって制御されるようになっている。なお、搬送手段72における搬送速度が可変となるように、モータ駆動部78においては、回転速度が増減可能なモータ駆動回路を採用していてもよい。
【0114】
制御部80は、制御装置95から送信された識別信号によって、処理する版が印刷版原版か平版印刷版用捨て版原版のいずれであるかを検知して、検知した版の種類に応じて、モータ駆動部78を制御することで、自動現像機60内での版の通過速度、特に、現像部61での通過速度を切り換える。従って、制御部80が搬送速度の速度切り換え手段として機能する。
【0115】
ここで、自動現像機60の各部について、以下に補足説明する。現像部61では、挿入口70に供給される感光性平版印刷版原版及び平版印刷版用捨て版原版等の版を現像槽81に貯めた所定濃度のアルカリ現像液82中に挿通させ、アルカリ現像液82中に配備されたモルトンローラ又はブラシローラ64で版の表面を掻き擦ることで、感光性平版印刷版原版の場合は未露光部を除去し、平版印刷版用捨て版原版の場合は、非感光性層を除去する。
現像槽81には、版の処理等に応じたアルカリ現像液82の劣化・消耗を補うために、現像補充原液(濃縮現像液)や薄め液(通常は、蒸留水)を適時補充する。また、図示はしていないが、現像槽81内のアルカリ現像液82は、ヒータやクーラーによって温度制御される。
【0116】
なお、現像補充原液や薄め液を補充する際、感光性平版印刷版原版と平版印刷版用捨て版原版とでは塗布している素材や塗布量が異なるために、アルカリ現像液82の常に一定の補充量ではpHや電導度等を一定に管理することができない。そこで、本発明においては、感光性平版印刷版原版及び平版印刷版用捨て版原版のそれぞれの版の処理量(処理割合)に応じて、現像補充原液や薄め液等の液補充量を変更することにより、現像槽81内のアルカリ現像液82のpHや電導度等を適正な状態に維持することができる。より具体的には、制御部80は、制御装置95から送信された識別信号によって、処理する版が感光性平版印刷版原版か平版印刷版用捨て版原版のいずれであるかを検知して、検知した版の種類に応じて、現像補充原液や薄め液等の液補充量を制御することで、現像槽81内のアルカリ現像液82のpHや電導度等を適正な状態に維持する。これにより、平版印刷版用捨て版原版の現像処理によってアルカリ現像液82の性状が不安定になることを防止することができる。
【0117】
また、自動現像機60の電源のON、OFFに拘わらず、現像槽81内のアルカリ現像液82は大気中の炭酸ガスとの接触でpHが自然に低下するので、感光性平版印刷版原版及び平版印刷版用捨て版原版の処理量とは別に、炭酸ガスで低下したpHを一定に回復させるために、経過時間に応じて前述の現像補充原液及び薄め液の補充を行う。
【0118】
水洗部63では、現像後の版の表面に残っているアルカリ現像液を除去し、次工程のフィニッシャー部65へのアルカリ液持ち込みを減少させる目的で、版をノズル84から噴射する水で水洗する。よって、特に感光性平版印刷版原版及び平版印刷版用捨て版原版を区別することなく、水洗用の水を貯めた水洗槽83には、貯留する水洗水が劣化しないように給水槽(図示せず)から洗浄水の補充が適宜になされる。また、自動現像機60の電源をONにしている場合やOFFにしている場合、水が自然に揮発する分を補うように、水洗槽83には揮発する分と同じ量の水洗水を補給してもよい。
【0119】
フィニッシャー部65では、版の表面に規定濃度のガム85を塗布し、アルカリ性となった印刷版原版の感光層を酸性に戻して現像による画像部のダメージを抑制すると共に、非画像部の汚れや傷を防止する。規定濃度のガム85は、画像部と非画像部に関係なく全面に塗布されるため、塗布するガム85を貯留するガム貯留槽86には、感光性平版印刷版原版及び平版印刷版用捨て版原版を区別することなく、版の処理量に応じてガム補充原液及び希釈液を補充すればよい。なお、自動現像機60の電源をONにしている場合やOFFにしている場合、自然に水が揮発するために、この場合も、感光性平版印刷版原版及び平版印刷版用捨て版原版の処理量とは別に揮発した水と同じ量の水を補充することが好ましい。
【0120】
本態様の場合、フィニッシャー部65のガム貯留槽86への希釈液の補充は、水洗部63へ水を供給するポンプが兼ねており、この共用によって、構成の簡略化が図られている。また、フィニッシャー部65のガム貯留槽86へのガム補充原液の補充は、ガム補充原液を貯めた図示しないガム原液貯留槽から行われる。以上の水洗水及びガムの補充は、版の処理量に応じた液補充が実現されるように、前記制御部80、又は同様の制御部によって制御される。
【0121】
乾燥部67は、ブロワー等の温風供給手段や発熱手段等の乾燥手段91が設けられており、温風を平版印刷版及び平版印刷版用捨て版に吹き付けて、版に塗布されたガム液を乾燥させている。乾燥部67により乾燥された平版印刷版及び平版印刷版用捨て版は排出口74から排出される。
【0122】
また、以下に、自動現像機の他の一構成例について説明する。図4は、本発明で使用される自動現像機の他の一形態を示す説明図である。この構成の自動現像機1は、プレ水洗部を有しており、親水性層を有する感光性平版印刷版原版、又は、平版印刷版用捨て版原版を現像する場合に好適に使用される。図4に示されるように、自動現像機1は、加熱部11、プレ水洗槽12、現像槽13、水洗槽14、ガム槽15、及び乾燥部16を順次有してなる。なお、加熱部11は、場合によっては無くてもかまわない。
【0123】
プレ水洗槽12では、感光性平版印刷版原版、又は、平版印刷版用捨て版原版の親水性層を水洗除去する。現像処理が進むにつれて、プレ水洗槽12に溶解した水溶性ポリマー濃度が増加し、溶解除去性が低下し、カスが発生するために、水の補充が必要である。本発明においては、感光性平版印刷版原版及び平版印刷版用捨て版原版のそれぞれの版の処理量(処理割合)に応じて水の補充量を変更することで、プレ水洗槽12内の水を適正な状態に維持することができる。なお、自動現像機1の電源をONにしている場合やOFFにしている場合に、プレ水洗槽12から水が自然に揮発するために、感光性平版印刷版原版及び平版印刷版用捨て版原版の処理量とは別に揮発する水と同じ量の水を補充することが好ましい。
【0124】
現像槽13では、アルカリ現像液により感光性平版印刷版原版の未露光部を除去すると共に、平版印刷版用捨て版原版の非感光性層を除去する。感光性平版印刷版原版と平版印刷版用捨て版原版とでは塗布している素材や塗布量が異なるために、同じ補充量では、アルカリ現像液のpHを一定に管理することができない。そのため、上述の図3に示される自動現像機60における現像部61と同様に、感光性平版印刷版原版及び平版印刷版用捨て版原版のそれぞれの版の処理量(処理割合)に応じて、水、現像補充原液等の補充量を変更することにより、現像槽13のアルカリ現像液のpH等を適正な状態に維持することができる。なお、自動現像機1の電源をONにしている場合やOFFにしている場合、大気中の炭酸ガスでpHが自然に低下するので、感光性平版印刷版原版及び平版印刷版用捨て版原版の処理量とは別に炭酸ガスで低下したpHを一定に回復させるための補充を行うことが好ましい。
【0125】
水洗槽14では、現像後の版の表面に残っているアルカリ現像液を除去し、次工程のガム槽15へのアルカリ液持ち込みを減少させる目的で、版を水洗する。よって、特に感光性平版印刷版原版、及び、平版印刷版用捨て版原版を区別することなく、水洗水が劣化しないように同じ量を補充すればよい。なお、自動現像機1の電源をONにしている場合やOFFにしている場合、水が自然に揮発する分を補うように、揮発する分と同じ量の水を別に補充することが好ましい。
【0126】
ガム槽15では、ガムを塗布し、アルカリ性となった印刷版原版の感光層を酸性に戻して現像による画像部のダメージを抑制すると共に非画像部の汚れや傷を防止する。ガムは、画像部と非画像部とに関係なく全面に塗布されるため、平版印刷版及び平版印刷版用捨て版を区別することなく、同じ量のガム補充原液等を補充すればよい。なお、自動現像機の電源をONにしている場合やOFFにしている場合、自然に水が揮発するために、感光性平版印刷版原版及び平版印刷版用捨て版原版の処理量とは別に揮発した水と同じ量の水を補充することが好ましい。
【0127】
乾燥部16には、温風供給手段や発熱手段等の乾燥手段が設けられており、温風を平版印刷版及び平版印刷版用捨て版に吹き付けて、版に塗布されたガム液を乾燥させる。
【0128】
〔現像液〕
前記自動現像機60及び自動現像機1において、感光性平版印刷版原版と平版印刷版用捨て版原版との両方を効率よく現像する観点から、下記に示す各成分を含有する現像液を用いることが好ましい。なお、この現像液は、現像補充液(現像補充原液)として用いることもできる。かかる現像液としては、芳香族アニオン界面活性剤を含有していることが好ましい。
【0129】
(芳香族アニオン界面活性剤)
本発明における現像液に用いられる芳香族アニオン界面活性剤は、現像促進効果、感光性平版印刷版原版の感光層成分及び平版印刷版用捨て版原版の非感光性層の現像液中での分散安定化効果がある。本発明に用いられる芳香族アニオン界面活性剤としては、特開2005−283676号公報の段落0043〜0050に記載された芳香族アニオン界面活性剤を好ましく用いることができる。これら芳香族アニオン界面活性剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
芳香族アニオン界面活性剤の添加量は、現像液中における芳香族アニオン界面活性剤の濃度が1.0〜10重量%の範囲とすることが好ましく、より好ましくは2〜10重量%の範囲とすることが効果的である。
【0130】
現像液には、前記芳香族アニオン界面活性剤以外に、その他の界面活性剤を併用してもよい。その他の界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンナフチルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンステアレート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル類、グリセロールモノステアレート、グリセロールモノオレート等のモノグリセリド脂肪酸エステル類等のノニオン界面活性剤である。その他の界面活性剤の現像液中における含有量は有効成分換算で、0.1〜10重量%が好ましい。
【0131】
(2価金属に対するキレート剤)
現像液には、例えば、硬水に含まれるカルシウムイオンなどによる影響を抑制する目的で、2価金属に対するキレート剤を含有させることが好ましい。2価金属に対するキレート剤としては、例えば、Na227、Na533、Na339、Na24P(NaO3P)PO3Na2、カルゴン(ポリメタリン酸ナトリウム)などのポリリン酸塩、例えばエチレンジアミンテトラ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩、そのアミン塩;ジエチレントリアミンペンタ酢酸、そのカリウム塩、ナトリウム塩;トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;ニトリロトリ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;1,2−ジアミノシクロヘキサンテトラ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;1,3−ジアミノ−2−プロパノールテトラ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩などのようなアミノポリカルボン酸類の他2−ホスホノブタントリカルボン酸−1,2,4、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;2−ホスホノブタノントリカルボン酸−2,3,4、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;1−ホスホノエタントリカルボン酸−1,2、2、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;アミノトリ(メチレンホスホン酸)、そのカリウム塩、そのナトリウム塩などのような有機ホスホン酸類を挙げることができ、中でも、エチレンジアミンテトラ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩、そのアミン塩;エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、そのアンモニウム塩、そのカリウム塩、;ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、そのアンモニウム塩、そのカリウム塩が好ましい。
このようなキレート剤の最適量は使用される硬水の硬度及びその使用量に応じて変化するが、使用時の現像液中に0.01〜5重量%、より好ましくは0.01〜0.5重量%の範囲で含有させる。
【0132】
(アセチレンアルコール及びアセチレングリコール)
現像液には、消泡剤として、アセチレンアルコール及びアセチレングリコールから選択される少なくとも1種の化合物を添加することが好ましい。これらの化合物は単独で使用してもよいし、双方を併用してもよい。アセチレンアルコールとは、分子内にアセチレン結合(三重結合)をもつ不飽和アルコールである。また、アセチレングリコールとは、アルキンジオールとも呼ばれ、分子内にアセチレン結合(三重結合)をもつ不飽和グリコールである。具体的には、特開2005−283676号公報の段落0052〜0057に記載されたアセチレンアルコール及びアセチレングリコールを好ましく用いることができる。
現像液中の消泡剤の添加量は、消泡効果及び耐刷性の観点から、0.0001重量%以上であることが好ましく、特に好ましくは、0.0005〜0.1重量%である。
【0133】
また、現像液には、現像調整剤として有機酸のアルカリ金属塩類、無機酸のアルカリ金属塩類を加えてもよい。例えば、炭酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、クエン酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウムなどを単独若しくは2種以上を組み合わせて混合して用いてもよい。
【0134】
(アルカリ剤)
現像液に用いられるアルカリ剤としては、例えば、第3リン酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、硼酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、水酸化ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、及び同リチウムなどの無機アルカリ剤及び、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、n−ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプパノールアミン、エチレンイミン、エチレンジアミン、ピリジン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどの有機アルカリ剤等が挙げられる。本発明においては、これらを単独で用いてもよいし、若しくは2種以上を組み合わせて混合して用いてもよい。
また、上記以外のアルカリ剤として、アルカリ珪酸塩を挙げることができる。アルカリ珪酸塩は塩基と組み合わせて使用してもよい。使用するアルカリ珪酸塩としては、水に溶解したときにアルカリ性を示すものであって、例えば、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム、珪酸アンモニウムなどがある。これらのアルカリ珪酸塩は1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0135】
現像液は、平版印刷版や平版印刷版用捨て版の支持体の親水化成分としての珪酸塩の成分である酸化ケイ素SiO2と、アルカリ成分としてのアルカリ酸化物M2O(Mはアルカリ金属又はアンモニウム基を表す。)との混合比率、及び濃度の調整により、最適な範囲に容易に調節することができる。酸化ケイ素SiO2とアルカリ酸化物M2Oとの混合比率(SiO2/M2Oのモル比)は、支持体の陽極酸化皮膜が過度に溶解(エッチング)されることに起因する放置汚れや、溶解アルミと珪酸塩との錯体形成に起因する不溶性ガスの発生を抑制するといった観点から、好ましくは0.75〜4.0の範囲であり、より好ましくは0.75〜3.5の範囲で使用される。
また、現像液中のアルカリ珪酸塩の濃度としては、支持体の陽極酸化皮膜の溶解(エッチング)抑制効果、現像性、沈殿や結晶生成の抑制効果、及び廃液時における中和の際のゲル化防止効果などの観点から、現像液の重量に対して、SiO2量として、0.01〜1mol/Lが好ましく、より好ましくは0.05〜0.8mol/Lの範囲で使用される。
【0136】
現像液には、上記の成分の他に、必要に応じて以下のような成分を併用することができる。例えば安息香酸、フタル酸、p−エチル安息香酸、p−n−プロピル安息香酸、p−イソプロピル安息香酸、p−n−ブチル安息香酸、p−t−ブチル安息香酸、p−t−ブチル安息香酸、p−2−ヒドロキシエチル安息香酸、デカン酸、サリチル酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等の有機カルボン酸;イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、フェニルセロソルブ、プロピレングリコール、ジアセトンアルコール等の有機溶剤;この他、還元剤、染料、顔料、硬水軟化剤、防腐剤等が挙げられる。
【0137】
本発明におけるアルカリ現像液は、25℃におけるpHが10〜12.5の範囲であることが好ましく、pH11〜12.5の範囲であることがより好ましい。本発明の現像液は、前記界面活性剤を含むため、このような低pHの現像液を用いても、非画像部において優れた現像性を発現する。このように、現像液のpHを比較的低い値とすることにより、現像時における画像部へのダメージを軽減すると共に、現像液の取扱い性にも優れる。
【0138】
また、該現像液の導電率xは、2<x<30mS/cmであることが好ましく、5〜25mS/cmであることがより好ましい。ここで、導電率を調整するための導電率調整剤として、有機酸のアルカリ金属塩類、無機酸のアルカリ金属塩類等を添加することが好ましい。
【0139】
〔製版〕
以上に示したCTP製版システム100は、概略的には次のように動作する。ここで、図5は製版装置の処理の流れを概略的に示したブロック図である。
まず、感光性平版印刷版原版集積体と平版印刷版用捨て版原版集積体とを、プレートセッター10のプレート収納カセットに予め収納しておく。
そして、制御装置95に接続されたキーボード等の入力部97から、装置の製版開始スイッチが押下されると、製版データ等の上位システムからの指示に応じて、制御装置95がプレートセッター10に感光性平版印刷版原版に対する露光データを送信する一方、現像処理する版が平版印刷版原版か平版印刷版用捨て版原版のいずれであるかを判別するための識別信号や現像する版の処理面積情報等を自動現像機60に通知する。なお、入力部97は、プレートセッター10、加熱オーブン40、自動現像機60に設けたセンサであってもよく、このセンサにより感光性平版印刷版原版か平版印刷版用捨て版原版かを判定して識別信号を出力する構成としてもよい。センサーはカラーセンサーであることが好ましい。
【0140】
制御装置95からの露光データ及び露光有無指令に基づいて、プレートセッター10は、感光性平版印刷版原版に対しては画像露光を行い、露光処理を済ませた感光性平版印刷版原版を加熱オーブン40に送る一方、平版印刷版用捨て版原版に対してはレーザ露光することなくそのままプレートセッター10内を自動的に搬送し、加熱オーブン40に送る。加熱オーブン40は、処理版が平版印刷版原版の場合は、所定の加熱で露光による画像形成を促進させて、自動現像機60へと搬送する。
【0141】
本発明においては、制御装置95は、加熱オーブン40や自動現像機60において平版印刷版用捨て版原版の搬送速度を感光性平版印刷版原版の場合よりも高める搬送速度制御が容易なように、版の種類を示す識別番号だけでなく、搬送速度指令を加熱オーブン40及び自動現像機60に出力する。また、制御装置95は、自動現像機60における現像槽81内のアルカリ現像液82のpHや電導度等を適正な状態に維持するために、版の種類を示す識別番号だけでなく、現像補充原液や薄め液等の液補充量の制御指令も自動現像機60に出力する。
【0142】
具体的には、制御装置95は、図6に示す手順で加熱オーブン40及び自動現像機60における搬送速度を決定して、各部に搬送速度指令を出力する。また、制御装置95は、図6に示す手順で自動現像機60における液補充量を決定して、自動現像機60に液補充量の制御指令を出力する。
まず、現像処理する版が感光性平版印刷版原版であることを示す識別信号が上位のシステム(コンピュータ)から送信されたか否かを判定し(ステップ21、以降はS21と略記する。)、版が感光性平版印刷版原版であることを示す識別信号があった場合には、下記の表1から、感光性平版印刷版原版の処理時に対する加熱オーブン40及び自動現像機60における搬送処理を設定したテーブルIを搬送速度条件として選択する(S22)。 そして、プレートセッター10に露光処理を実行するための指令とデータとを送信すると共に(S23)、加熱オーブン40及び自動現像機60にはそれぞれ通常の感光性平版印刷版原版用の搬送速度指令を送信する(S24,S25)。また、S25では、同時に、自動現像機60に、通常の感光性平版印刷版原版用の液補充量であることの制御指令を送信する。
【0143】
一方、S21で、版が感光性平版印刷版原版であることを示す識別信号がないと判定された場合には、S31に進んで、平版印刷版用捨て版原版であることを示す識別信号が上位のシステムから送信されたか否かを判定し、平版印刷版用捨て版原版であることを示す識別信号があった場合には、下記の表1から、平版印刷版用捨て版原版の処理時に対する加熱オーブン40及び自動現像機60における搬送処理を設定したテーブルIIを搬送速度条件として選択する(S32)。そして、加熱オーブン40及び自動現像機60にはそれぞれ平版印刷版用捨て版原版用の搬送速度指令を送信する(S33、S34)。また、S34では、同時に、自動現像機60に、平版印刷版用捨て版原版用の液補充量であることの制御指令を送信する。
一方、S31で、版が平版印刷版用捨て版原版であることを示す識別信号がないと判定された場合には、平版印刷版原版及び平版印刷版用捨て版原版のいずれも処理していないことを意味する。この場合には、処理を終了する。
【0144】
【表1】

【0145】
なお、上記の表1において、テーブルIIには、搬送速度を相異させた(1)〜(4)のパターン例を示す。これらのパターンは、平版印刷版用捨て版原版に要求される現像性、印刷汚れ性等に応じて、予めいずれかに指定可能になっている。
【0146】
上記のように加熱オーブン40と、自動現像機60と、を通過して得られた、平版印刷版及び平版印刷版用捨て版は、印刷機に掛けられ、多数枚の印刷に用いられる。
印刷時、版上の汚れ除去のため使用するプレートクリーナーとしては、従来より知られているPS版用プレートクリーナーが使用され、例えば、CL−1、CL−2、CP、CN−4、CN、CG−1、PC−1、SR、IC(富士フイルム(株)製)等が挙げられる。
【実施例】
【0147】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を意味する。
【0148】
1.支持体の調製
<支持体S−1の作製>
アルミニウム板は、下記のものをそれぞれ使用した。
厚さ0.30mmのアルミニウム版(Si:0.09重量%、Fe:0.30重量%、Cu:0.013重量%、Mn:0.001重量%、Mg:0.001重量%、Zn:0.001重量%、Ti:0.027重量%を含有し、残部はAlと不可避不純物のアルミニウム合金)
【0149】
<表面処理>
表面処理は、以下の(a)〜(k)の各種処理を連続的に行った。なお、各処理及び水洗の後には、ニップローラで液切りを行った。
(a)機械的粗面化処理
比重1.12の研磨剤(パミス)と水との懸濁液を研磨スラリー液としてアルミニウム板の表面に供給しながら、回転するローラ状ナイロンブラシにより機械的粗面化処理を行った。図7において、21はアルミニウム板、22及び24はローラ状ブラシ、23は研磨スラリー液、25、26、27及び28は支持ローラである。研磨剤の重量平均粒子径は30μm、最大粒子径は100μmであった。ナイロンブラシの材質は6・10ナイロン、毛長は45mm、毛の直径は0.3mmであった。ナイロンブラシはφ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛した。回転ブラシは3本使用した。ブラシ下部の2本の支持ローラ(φ200mm)の距離は300mmであった。ブラシローラはブラシを回転させる駆動モータの負荷が、ブラシローラをアルミニウム板に押さえつける前の負荷に対して7kWプラスになるまで押さえつけた。ブラシの回転方向はアルミニウム板の移動方向と同じであった。ブラシの回転数は200rpmであった。
(b)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板を苛性ソーダ濃度2.6重量%、アルミニウムイオン濃度6.5重量%、温度70℃の水溶液を用いてスプレーによるエッチング処理を行い、アルミニウム板を10g/m2溶解した。その後、スプレーによる水洗を行った。
(c)デスマット処理
温度30℃の硝酸濃度1重量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5重量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーで水洗した。デスマット処理に用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電気化学的粗面化処理を行う工程の廃液を用いた。
(d)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸10.5g/L水溶液(アルミニウムイオンを5g/L、アンモニウムイオンを0.007重量%含む。)、液温50℃であった。交流電源波形は図8に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。
電流密度は電流のピーク値で30A/dm2、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で220C/dm2であった。補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。その後、スプレーによる水洗を行った。
(e)アルカリエッチング処理
アルミニウム板を苛性ソーダ濃度26重量%、アルミニウムイオン濃度6.5重量%の水溶液を用いてスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム板を0.50g/m2溶解し、前段の交流を用いて電気化学的粗面化処理を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、スプレーによる水洗を行った。
(f)デスマット処理
温度30℃の硝酸濃度15重量%水溶液(アルミニウムイオンを4.5重量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーで水洗した。デスマットに用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電気化学的粗面化処理を行う工程の廃液を用いた。
(g)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的粗面化処理を行った。このときの電解液は、塩酸5.0g/L水溶液(アルミニウムイオンを5g/L含む。)、温度35℃であった。交流電源の波形は、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の炬形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。
電流密度は電流のピーク値で25A/dm2、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で50C/dm2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
(h)アルカリエッチング処理
アルミニウム板を苛性ソーダ濃度26重量%、アルミニウムイオン濃度6.5重量%の水溶液を用いてスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム板を0.10g/m2溶解し、前段の交流を用いて電気化学的粗面化処理を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、スプレーによる水洗を行った。
(i)デスマット処理
温度60℃の硫酸濃度25重量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5重量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーによる水洗を行った。
(j)陽極酸化処理
陽極酸化装置(第一及び第二電解部長各6m、第一及び第二給電部長各3m、第一及び第二給電極部長各2.4m)を用いて陽極酸化処理を行った。第一及び第二電解部に供給した電解液としては、硫酸を用いた。電解液は、いずれも、硫酸濃度50g/L(アルミニウムイオンを0.5重量%含む。)、温度20℃であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
(k)アルカリ金属ケイ酸塩処理
陽極酸化処理により得られたアルミニウム支持体を温度30℃の3号ケイ酸ソーダの1重量%水溶液の処理槽中へ、10秒間、浸漬することでアルカリ金属ケイ酸塩処理(シリケート処理)を行った。その後、井水を用いたスプレーによる水洗を行い、表面シリケート親水化処理された支持体を得た。
【0150】
<支持体S−2及びS−3の作製>
上記(a)、(e)〜(g)工程を省略し、(b)工程のアルミニウム板溶解量を5g/m2、(c)工程の硝酸水溶液温度を37℃、(d)工程の硝酸水溶液を10.0g/L、液温37℃、電流密度を35A/dm2、電気量を250C/dm2、(h)工程の苛性ソーダ濃度を26重量%、アルミニウムイオン濃度を7.5重量%、温度を35℃、アルミニウム板溶解量を0.2g/m2、としたアルミニウム板を支持体S−2とした。
また、上記(a)〜(d)工程を省略し、(e)工程のカセイソーダ濃度を27重量%、温度を70℃で行い、アルミニウム板溶解量を1.0g/m2、(g)工程の交流電圧を50Hz、電解液を塩酸14.0g/L水溶液、温度30℃、電流密度を75A/dm2、電気量を450C/dm2、(h)工程の温度を35℃としたアルミニウム板を支持体S−3とした。
各支持体の中心線平均粗さ(JIS B0601によるRa表示)を直径2μmの針を用いて測定したところ、支持体S−1、S−3は0.50μm、支持体S−2は0.30μmであった。
【0151】
2.下塗り層用塗布液U−1、U−2及びU−3の調製
<下塗り層用塗布液U−1>
・下記ポリマー 0.3部
・純水 60.0部
・メタノール 939.7部
【0152】
【化5】

【0153】
<下塗り層用塗布液U−2>
・ポリビニルホスホン酸 0.017部
・メタノール 9.00部
・水 1.00部
【0154】
<下塗り層用塗布液U−3>
・上記ポリマー 8.0部
・リン酸 1.2部
・純水 60.0部
・メタノール 930.8部
【0155】
3.非感光性層形成用塗布液M−1及びM−2の調製
<非感光性層形成用塗布液M−1>
・バインダーポリマーA 2.465部
・リン酸(85重量%水溶液) 0.08部
・スルホフタル酸(50重量%水溶液) 0.017部
・トリカルバリル酸 0.017部
・着色剤(VPB−Naps(ビクトリアピュアブルーのナフタレンスルホン酸塩):保土ヶ谷化学(株)製) 0.0014部
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−780−F:大日本インキ化学工業(株)、MEKの30重量%溶液) 0.009部
・メチルエチルケトン(MEK) 7.93部
・メタノール 6.28部
・1−メトキシ−2−プロパノール(MFG) 2.01部
なお、前記バインダーポリマーAは、MFG/MEK=1/1の16重量%溶液、重量平均分子量85,000、酸含有量1.64meq/g、下記(1)〜(4)の4種類のモノマーの縮合反応物である。
(1)4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート 37.5モル%
(2)ヘキサメチレンジイソシアネート 12.5モル%
(3)2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸 32.5モル%
(4)テトラエチレングリコール 17.5モル%
【0156】
<非感光性層形成用塗布液M−2>
・バインダーポリマーB 0.70部
・リン酸(85重量%水溶液) 0.08部
・スルホフタル酸(50重量%水溶液) 0.05部
・トリカルバリル酸 0.025部
・着色剤(VPB−Naps(ビクトリアピュアブルーのナフタレンスルホン酸塩):保土ヶ谷化学(株)製) 0.0014部
・着色剤 例示化合物S−1(クルクミン)
メタノール中の吸収極大波長(λmax)430nm 0.027部
・下記可塑剤A 0.115部
・フッ素系界面活性剤(メガファックF−780−F:大日本インキ化学工業(株)、MEKの30重量%溶液) 0.009部
・メチルエチルケトン(MEK) 7.10部
・メタノール 5.65部
・1−メトキシ−2−プロパノール(MFG) 1.80部
なお、前記バインダーポリマーBは、MFG/MEK=1/1の16重量%溶液、重量平均分子量75,000、酸含有量1.58meq/g、下記(1)〜(5)の5種類のモノマーの縮合反応物である。
(1)4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート 42.5モル%
(2)ヘキサメチレンジイソシアネート 7.5モル%
(3)2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸 30.0モル%
(4)メタクリロイロキシメチルエチレングリコール 17.5モル%
(5)ポリエチレングリコール 2.5モル%
【0157】
【化6】

【0158】
4.マット剤水分散物の調製
<オプトビーズ6500M水分散物の調製>
純水74部中に、分散安定性向上を目的として、ノニオン界面活性剤(日本乳化剤(株)製、エマレックス710)を3.0部とカルボキシメチルセルロース(第一工業製薬(株)セロゲンPR)を3.0部添加溶解する。この水溶液に、シリカ複合架橋メラミン樹脂粒子(日産化学工業(株)製、オプトビーズ6500M)20.0部を加え、(株)日本精機製作所製エースホモジナイザーで、10,000rpmで、15分間分散し、オプトビーズ6500M水分散物を得た。
【0159】
オプトビーズ6500M水分散物と同様にして、表2に示す組成のアートパールJ−7P水分散物、アートパールU−800T水分散物、マット剤なしの水分散物を調製した。
【0160】
【表2】

【0161】
表2に記載された試薬は下記の通りである。
・エマレックス710:ノニオン界面活性剤(日本乳化剤(株)製)
・セロゲンPR:カルボキシメチルセルロース(第一工業製薬(株))
・オプトビーズ6500M:シリカ複合架橋メラミン樹脂粒子(日産化学工業(株)製)・アートパールJ−7P:シリカ複合架橋アクリル樹脂粒子(根上工業(株)製)
・アートパールU−800T:シリカ複合架橋ウレタン樹脂粒子(根上工業(株)製)
【0162】
5.親水性層形成用塗布液の調製
<親水性層形成用塗布液O−1の調製>
・合成雲母(ソマシフME−100、8%水分散液、コープケミカル(株)製)94部
・ポリビニルアルコール(CKS−50:ケン化度99モル%、重合度300、日本合成化学工業(株)製) 58部
・カルボキシメチルセルロース(セロゲンPR、第一工業製薬(株)製) 24部
・界面活性剤−1(BASF社製、プルロニックP−84) 2.5部
・界面活性剤−2(日本エマルジョン(株)製、エマレックス710) 5部
・シリカ複合有機樹脂粒子水分散物(オプトビーズ6500M水分散物) 15部
・純水 1,364部
【0163】
<親水性層形成用塗布液O−2〜O−7の調製>
表3に示す組成に変更した以外は、親水性層形成用塗布液O−1と同様にして、親水性層形成用塗布液O−2〜O−7を調製した。
【0164】
【表3】

【0165】
表3に記載された試薬は下記の通りである。
・合成雲母:ソマシフME−100(8%水分散液、コープケミカル(株)製)
・ポリビニルアルコール:CKS−50(ケン化度99モル%、重合度300、日本合成化学工業(株)製)
・セロゲンPR:カルボキシメチルセルロース(第一工業製薬(株)製)
・プルロニックP−84:界面活性剤(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(35E.O.)(40P.O.)、(株)ADEKA製)
・エマレックス710:界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、日本エマルジョン(株)製)
【0166】
6.バックコート層形成用塗布液の調製
<バックコート層形成用塗布液>
・テトラエチルシリケート 50.0部
・純水 21.6部
・メタノール 10.8部
・硝酸 0.05部
上記成分を混合し撹拌すると5分で発熱した。そのまま10分間反応させた後メタノールを700部加え、これをバックコート層形成用塗布液とした。
【0167】
7.平版印刷版用捨て版原版の調製、及び、評価
(実施例1)
<平版印刷版用捨て版原版の調製>
調製した支持体S−1に対して、下塗り層用塗布液(U−1)を使用し、乾燥後の塗布量が1.5mg/m2になるように支持体上に塗布して、乾燥した。
非感光性層形成用塗布液M−1を、ワイヤーバーを用いて乾燥重量が0.7g/m2となるように塗布した。乾燥は、温風式乾燥装置にて90℃で27秒間乾燥させた。
非感光性層の表面に、前記親水性層形成用塗布液O−1をワイヤーバーで塗布し、温風式乾燥装置にて125℃75秒間乾燥させて親水性層を形成した。この親水性層の全塗布量(乾燥後の被覆量)は1.6g/m2であった。
次に、表面処理しなかった支持体面に、前記バックコート層形成用塗布液をバーコーターで塗布したあと100℃で25秒乾燥し、乾燥後の塗布量が50mg/m2のバックコート層を設け、実施例1の平版印刷版用捨て版原版を得た。
【0168】
<マット保持性の評価>
得られた平版印刷版用捨て版原版(縦30cm×横10cm)をエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDMゴム)にて、接触面積10cm2、荷重1kgで縦方向に擦るように移動させた。その後、EPDMゴムに透明なテープを貼り付けて剥がした。テープをスライドガラスに貼った後、マイクロスコープ(キーエンス製VHX−100F)にて600倍の倍率で観察し、脱落しているマット剤の数を数えた。
0〜20個を5点、21〜50個を4点、51〜100個を3点、101〜300個を2点、301個以上を1点とした。
【0169】
<耐キズ性、セッター搬送性、カラーセンサー適性、非画像部残色>
得られた平版印刷版用捨て版原版20枚の間に合紙を挟むことなく積層して積層体を形成した。この積層体を、既にカセットにセットしてある平版印刷版用捨て版原版積層体の上にエッジから5cmずらして(積層した20枚の版材がカセット内の版材のエッジから5cm外側へ飛び出した状態で)重ねた後、飛び出した20枚の版材のエッジを水平方向に押し込んで、積層した20枚の一番下の版の裏面アルミニウム支持体が、カセット中の最上の平版印刷版用捨て版原版の親水性層表面をこするようにしながら、カセット内へ設置した。 この親水性層表面を、アルミニウム支持体裏面でこすられた版材を、耐キズ性の評価用版材とした。この版材をセッティング部分からオートローダーにて、Creo社製Trendsetter3244に搬送し、次いで、富士フイルム(株)製自動現像機LP−1310NewsIIを用い搬送速度(ライン速度)2m/分、現像温度30℃で現像処理した。なお、現像液は富士フイルム(株)製HN−Dの1:4水希釈液を用い、現像補充液はFCT−421の1:1.4水希釈、フィニッシャーは富士フイルム(株)製HN−GVの1:1水希釈液を用いた。得られた平版印刷版用捨て版に発生したキズの有無を目視評価した。
耐キズ性の評価基準は下記の通りである。評価は1〜5の官能評価で行い、3が実用下限レベル、2以下は実用上不可レベルとした。
また、オートローダーでの搬送性もあわせて評価した。100版中に何版搬送不良が発生したかで評価した。
カラーセンサー適性については、上記セッター内に搬送されたときに、製版システムが版の種類すなわち印刷版原版か捨て版かを誤認識し、誤って露光された版が何版発生したかで評価した。カラーセンサーの検出光の光源としては、460nm/520nm/660nmの各波長のLEDを用い、それぞれの反射光強度で版の種類の判別を行った。
更に現像後の本サンプルで非画像部の残色も併せて評価した。非画像部残色の評価基準は下記の通りである。評価は1〜5の官能評価で行い、3が実用下限レベル、2以下は実用上不可レベルとした。
【0170】
<接着性の評価>
得られた平版印刷版用捨て版原版(10×10cm)3枚を、25℃75%RHの環境下で2時間調湿後、3枚の原版を同方向に合紙の挟み込みのない状態で順次重ねて積層体を得た。この積層体を、アルミニウムラミネート層を有するクラフト紙で密閉包装し、4kgの荷重をかけた状態で、30℃環境下5日間放置した。その後の積層体について、平版印刷版用捨て版原版の非感光性層側表面(親水性層側表面)と隣接する平版印刷版用捨て版原版の支持体側表面との接着状態を評価した。
平版印刷版用捨て版原版同士の接着は、1〜5の官能評価で行い、3が実用下限レベル、2以下は実用上不可レベルとした。接着性の評価基準は下記の通りである。
【0171】
(実施例2〜12、及び、実施例15〜20、比較例1、及び、比較例3)
表4に示すように、支持体、下塗り層形成用塗布液、非感光性層形成用塗布液、及び、親水性層形成用塗布液の種類及び塗布量を変更した以外は、実施例1の平版印刷版用捨て版原版と同様にして、実施例2〜12、及び、実施例15〜20、比較例1、及び、比較例3の平版印刷版用捨て版原版を調製した。また、実施例1と同様にして評価した。評価結果を表4に示した。
【0172】
(実施例13)
実施例13は上層と下層の2層からなる親水性層を有する平版印刷版用捨て版原版である。
実施例4と同様にして非感光性層形成用塗布液M−1を用いて形成した非感光性層の表面に、前記親水性層形成用塗布液O−5をワイヤーバーで塗布し、温風式乾燥装置にて125℃75秒間乾燥させて親水性層(下層)を形成した。この親水性層の全塗布量(乾燥後の被覆量)は0.5g/m2であった。
さらに、親水性層形成用塗布液O−6をワイヤーバーで塗布し、温風式乾燥装置にて125℃75秒間乾燥させて親水性層(上層)を形成した。この親水性層の全塗布量(乾燥後の被覆量)は1.2g/m2であった。
次に、表面処理しなかった支持体面に、前記バックコート層形成用塗布液をバーコーターで塗布したあと100℃で25秒乾燥し、乾燥後の塗布量が50mg/m2のバックコート層を設け、実施例13の平版印刷版用捨て版原版を得た。
また、実施例1と同様にして評価した。評価結果を表4に示した。
【0173】
(実施例14)
親水性層形成用塗布液O−6を、親水性層形成用塗布液O−7に変更した以外は、実施例13と同様にして実施例14の平版印刷版用捨て版原版を調製した。
また、実施例1と同様にして評価した。評価結果を表4に示した。
【0174】
(比較例2)
<外添マット層の作製(O−8)>
親水性層のかわりに、下記外添マット層を形成した以外は、実施例1と同様にして比較例2の平版印刷版用捨て版原版を調製した。
外添マット層形成用樹脂液として、メチルメタクリレート/エチルアクリレート/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(仕込重量比65/20/15)共重合体を12重量%水溶液とし、回転霧化静電塗装機で、回転数25,000rpm、送液量4ml/分、印加電圧−90kV、周囲環境25℃50%RHとし、塗布後25秒で塗布面に蒸気を吹き付けて湿潤させ、次いで湿潤した3秒後に温度60℃湿度10%RHの温風を5秒間吹き付けて乾燥させた。マットの高さは重量平均高さ6μm、大きさは平均30μm、塗布量は150mg/m2であった。マットを付与後Raをn=5で測定したところ、Raは0.50〜0.65であった。
また、実施例1と同様にして評価した。評価結果を表4に示した。
【0175】
【表4】

【0176】
表4から分かるように、本発明によれば、マット剤の保持性、耐キズ性、平版印刷版用捨て版原版同士の接着防止性、セッター搬送性、カラーセンサー適性、現像後の残色が良好な平版印刷版用捨て版原版、及び、平版印刷版用捨て版原版集積体、並びに、前記平版印刷版用捨て版原版を用いた平版印刷版用捨て版の製版方法を得ることができる。
【符号の説明】
【0177】
10 プレートセッター
11 加熱部
12 プレ水洗槽
13 現像槽
14 水洗槽
15 ガム槽
16 乾燥部
21 アルミニウム板
22、24 ローラ状ブラシ
23 研磨スラリー液
25、26、27、28 支持ローラ
40 加熱オーブン
42 加熱手段
43 加熱ゾーン
44 ファン
45 空冷ゾーン
46 搬送コンベヤ
47 搬送ローラ
48 モータ駆動部
51 制御部
1、60 自動現像機
61 現像部
63 水洗部
64 モルトンローラ又はブラシローラ
65 フィニッシャー部
67 乾燥部
68 センサ
70 挿入口
72 搬送手段
74 排出口
76 搬送ローラ
78 モータ駆動部
80 制御部
81 現像槽
82 アルカリ現像液
83 水洗槽
84 ノズル
85 ガム
86 ガム貯留槽
91 乾燥手段
95 制御装置
97 入力部
100 CTP製版システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム支持体上に、
非感光性層と、
マット剤を含む親水性層とを、この順に有することを特徴とする
平版印刷版用捨て版原版。
【請求項2】
前記非感光性層が、水溶性バインダーポリマー又は水不溶性且つアルカリ可溶性のバインダーポリマーを含む、請求項1に記載の平版印刷版用捨て版原版。
【請求項3】
前記親水性層が、親水性ポリマーを含む、請求項1又は2に記載の平版印刷版用捨て版原版。
【請求項4】
前記マット剤が、その表面をシリカで被覆したシリカ被覆有機樹脂粒子、及び/又は、親水性表面を有する有機樹脂粒子である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の平版印刷版用捨て版原版。
【請求項5】
前記親水性層の重量が0.2〜5.0g/m2である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の平版印刷版用捨て版原版。
【請求項6】
前記親水性層と前記非感光性層との総重量が0.4〜6.0g/m2である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の平版印刷版用捨て版原版。
【請求項7】
前記非感光性層が、350〜800nmに吸収極大を有する着色剤を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の平版印刷版用捨て版原版。
【請求項8】
前記着色剤が、クルクミノイドである、請求項7に記載の平版印刷版用捨て版原版。
【請求項9】
さらに下塗り層を有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の平版印刷版用捨て版原版。
【請求項10】
前記下塗り層が、リン酸を含む、請求項9に記載の平版印刷版用捨て版原版。
【請求項11】
さらにバックコート層を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の平版印刷版用捨て版原版。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の平版印刷版用捨て版原版を合紙を介さずに直接複数積層したことを特徴とする
平版印刷版用捨て版原版集積体。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の平版印刷版用捨て版原版を用意する平版印刷版用捨て版原版調製工程、及び、
前記平版印刷版用捨て版原版をアルカリ現像液で現像処理して平版印刷版用捨て版とする現像工程、を含むことを特徴とする
平版印刷版用捨て版の製版方法。
【請求項14】
さらに、前記現像工程の前に、前記平版印刷版用捨て版原版が露光機内を通過する工程を含む、請求項13に記載の平版印刷版用捨て版の製版方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−218778(P2011−218778A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270505(P2010−270505)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】