説明

平行二輪ビークル、その安定姿勢保持機構ならびに走行制御方法および荷台部姿勢制御方法

【課題】 駆動力の供給ができない状況においても車両全体の姿勢を安定させるとともに、操作部に基づく走行を可能にする平行二輪ビークル、その安定姿勢保持機構ならびに走行制御および荷台部姿勢制御の方法を提供する。
【解決手段】 平行に配置された二つの車輪1L,1Rを有する平行二輪ビークルにおいて、車輪の回転中心よりも低位置に荷台部5を備え、車輪の径を十分に大きくするとともに、荷台部は、荷台部に搭乗する搭乗者を含めた車両全体の重心7が車輪の回転中心9L,9Rよりも低位となる位置に設ける。荷台部は、車輪の進行方向に進退可能なウエイトを備え、この荷台部に車輪を駆動する駆動装置を設ける。車両全体の重心が車輪の回転中心から鉛直方向に位置するように荷台部の状態を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平行二輪ビークル、その安定姿勢保持機構ならびに走行および荷台部姿勢の制御方法に関し、詳しくは、十分に大径の車輪の回転中心よりも低位置に重心を有する平行二輪ビークルと、当該平行二輪ビークルの静止時における安定姿勢保持機構ならびに走行時における走行制御方法および荷台姿勢制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の平行二輪ビークルは、比較的小径の車輪を使用し、その車輪に支持されるステップ上に立位状態で搭乗者が使用するものであった。小径の車輪を使用する二輪ビークルでは、段差を乗り越えることが容易ではなかったことから、これまでの平行二輪ビークルは当該段差をどのように解消するかという観点が開発の中心とされていた。すなわち、段差を乗り越えるための補助機構を搭載するもの(特許文献1参照)や、進入可能水準を超える高さを有する段差の手前において搭乗者に警告表示をするような構成としたもの(特許文献2参照)が開発されていた。その他、路面が左右に傾いている場合、または、旋回時において車両が左右に傾くような場合であっても、車両姿勢を安定させることができるような機構を備えたもの(特許文献3参照)も開発されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−56037号公報
【特許文献2】特開2007−124866号公報
【特許文献3】特開2006−1385公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前掲の従来技術は、いずれも車両全体の重心が車輪の回転中心よりも上方に位置するものであり、倒立振子のようにビークルを傾倒させた方向に車輪が転動するように構成されたものである。そして、ビークルの安定化を図る倒立安定化制御を用いることにより、搭乗者を含む車両全体の安定姿勢を保持するものであった。
【0005】
ところで、上記のように倒立安定化制御によって車両全体の安定姿勢を保持する構成においては、駆動用バッテリの電源不足または駆動機構の故障などにより、車輪に必要な駆動力を供給できなくなった場合には、車両全体の姿勢を安定させることができなくなっていた。
【0006】
また、倒立安定化制御の方法は、重心バランスの不安定な状況を作為的に現出させることによって、その重心バランスを安定させる方向に車輪が移動するものであった。そのため、ジョイスティックなどの操作部に従って走行を行う場合には、走行による重心バランスを不安定にすることとなり、上記倒立安定化制御に馴染まないものであった。
【0007】
本発明は、上記諸点にかんがみてなされたものであって、その目的とするところは、駆動力の供給ができない状況においても車両全体の姿勢を安定させるとともに、操作部に基づく走行を可能にする平行二輪ビークル、その安定姿勢保持機構ならびに走行制御および荷台部姿勢制御の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、平行二輪ビークルにかかる本発明は、平行に配置された二つの車輪を有する平行二輪ビークルにおいて、該車輪の回転中心よりも低位置に荷台部を備え、前記車輪の径を十分に大きくするとともに、前記荷台部は、該荷台部に搭乗する搭乗者を含めた車両全体の重心が前記車輪の回転中心よりも低位となる位置に設けたことを特徴とする平行二輪ビークルを要旨としている。
【0009】
上記構成によれば、搭乗者を含めた車両全体の重心が車輪の回転中心よりも低位置となるため、車両の停止状態において、傾倒することを回避することができる。なお、「車両全体の重心」とは、車輪の回転中心との重量バランスを説明するための表現であり、搭乗者が搭乗する場合には搭乗者を含むが、車輪を含めないものである。従って、車輪を除く他の要素全体の重心を意味するものである。
【0010】
上記発明において、前記荷台部は、前記車輪の進行方向に進退可能なウエイトを備え、この荷台部には前記車輪を駆動する駆動装置が設けられた構成とすることができる。
【0011】
上記構成によれば、ウエイトを進退させて当該位置を調整することにより、搭乗者を含む車両全体の重心位置を、車輪の回転中心から鉛直方向に位置することができる。これにより、車両の停止状態における搭乗者の姿勢を安定させることができる。
【0012】
また、上記各発明において、前記荷台部を着座可能なシート状に構成することができる。
【0013】
上記構成により、シート状の荷台部に着座した搭乗者の重心を比較的低位置とすることができ、また、車両走行時における搭乗者の姿勢を安定させることができる。
【0014】
さらに、上記各発明において、前記荷台部は、前記車両全体の重心が前記車輪の回転中心から鉛直方向に位置するように調整可能とすることができる。
【0015】
上記構成により、車両の停止時および走行時において、重心バランスを不安定にすることがなく、停止時においては、搭乗者の搭乗状態を安定させ、走行時における荷台の傾斜を解消させ得ることとなる。
【0016】
平行二輪ビークルにおける安定姿勢保持機構にかかる本発明は、平行に配置された十分に大きい径を有する二つの車輪と、この車輪の回転中心よりも低位置に設けられた着座可能なシート状の荷台部と、荷台部に設けられ、前記車輪の進行方向に進退可能に前記荷台部に設けられたウエイトと、前記荷台部に支持されつつ車輪を駆動する駆動装置とを備え、前記荷台部は、該荷台部に搭乗する搭乗者を含めた車両全体の重心が前記車輪の回転中心よりも低位となる位置に設けられた平行二輪ビークルにおいて、前記車両の前後方向における該車両全体の重心位置を判別する重心判別手段と、前記荷台を前記車両の前後方向に移動させる移動手段とを備えたことを特徴とする平行二輪ビークルにおける安定姿勢保持機構を要旨とする。
【0017】
上記構成によれば、例えば、ロードセルや傾斜角センサなどのセンシングデバイスを使用することにより搭乗者の重心位置と、荷台等を含む車両全体の重量バランスによって、重心位置判別手段を構成することができることとなるが、この重心位置判別手段により判別された重心が、車輪の回転中心の鉛直方向に位置するように荷台を移動させることにより、車両全体の重量バランスが安定し、これにより車両全体の姿勢を安定させることができる。
【0018】
上記発明に加えて、前記重心位置が前記車輪の回転中心の鉛直方向に一致するとき前記移動手段を制動状態で維持する制動手段を備えることができる。
【0019】
上記構成により、車両の停止状態において、予め初期値としての重心位置を確定させることができ、車両の停止状態における車両全体の姿勢を安定させることができる。
【0020】
平行二輪ビークルにおける走行制御方法にかかる本発明は、平行に配置された十分に大きい径を有する二つの車輪と、この車輪の回転中心よりも低位置に設けられた着座可能なシート状の荷台部と、荷台部に設けられ、前記荷台部に支持されつつ車輪を駆動する駆動装置と、この駆動装置を操作する操作部とを備え、前記荷台部は、該荷台部に搭乗する搭乗者を含めた車両全体の重心が前記車輪の回転中心よりも低位となる位置に設けられた平行二輪ビークルにおいて、前記車輪に与える駆動力を制御する駆動制御部を備え、この駆動制御部は、操作部からの指令により駆動力を変化させるとき、駆動力変化以前に前記車輪に対し該駆動力とは逆のトルクを与え、指令による駆動のプラスの加速度側に車両全体の重心位置を変位させるように制御することを特徴とする平行二輪ビークルにおける走行制御方法を要旨としている。
【0021】
上記構成によれば、操作部からの指令に基づいて駆動制御部が車輪の駆動力を制御することとなるが、加速または減速する際、駆動トルクの反作用トルクおよび慣性力により重心が偏ることを予測し、予め逆方向のトルクを生じさせることによって、加速または減速による反作用トルクまたは慣性力に相殺させることができる。すなわち、指令に基づく駆動力の変化を与えた際に、車輪の回転中心からプラスの加速度側に車両全体の重心の位置を変位させることにより、その後の駆動力の付与により車両全体の重心がマイナスの加速度側に移動し、駆動力変更後の車両全体の重心を、車輪の回転中心の鉛直方向に一致させることができる。なお、プラスの加速度側とは、駆動力変更後の速度の大きさを比較した場合の大きい側を意味し、加速時では進行方向の前側であり、減速時では進行方向の後側である。
【0022】
また、平行二輪ビークルにおける走行制御方法にかかる本発明は、平行に配置された十分に大きい径を有する二つの車輪と、この車輪の回転中心よりも低位置に設けられた着座可能なシート状の荷台部と、荷台部に設けられ、前記車輪の進行方向に進退可能に前記荷台部に設けられたウエイトと、前記荷台部に支持されつつ車輪を駆動する駆動装置と、この駆動装置を操作する操作部とを備え、前記荷台部は、該荷台部に搭乗する搭乗者を含めた車両全体の重心が前記車輪の回転中心よりも低位となる位置に設けられた平行二輪ビークルにおいて、前記車輪に駆動力が伝達されるとき、該駆動力による駆動トルクの反作用トルクにより移動する前記車両全体の重心の位置を判別する重心位置判別手段と、この重心位置判別手段により判別された重心位置を前記車輪の回転軸の鉛直方向に移動させるために前記ウエイトを移動させるウエイト移動手段とを備え、前記車両が加速または減速する際にウエイトを移動させて走行状態を安定させることを特徴とする平行二輪ビークルにおける走行制御方法をも要旨としている。
【0023】
走行時、特に加速時は駆動トルクの反作用トルクまたは慣性力が荷台部に作用し、当該荷台が後方に向かって傾倒する状態となるのであるが、このとき車両全体の重心も移動することとなるため、重量バランスが損なわれる。そこで、上記構成によれば、荷台部に設けたウエイトを前方に移動することにより、重心位置を変更することによって、当該荷台部を安定した状態とすることが可能となる。また、減速時においても駆動力が低下することに伴う反対方向のトルクまたは慣性力が作用するが、ウエイトを後方に移動することにより、上記トルクと相殺させることができる。
【0024】
平行二輪ビークルにおける荷台部姿勢制御方法にかかる本発明は、平行に配置された十分に大きい径を有する二つの車輪と、この車輪の回転中心よりも低位置に設けられた着座可能なシート状の荷台部と、荷台部に設けられ、前記車輪の進行方向に進退可能に前記荷台部に設けられたウエイトと、前記荷台部に支持されつつ車輪を駆動する駆動装置と、この駆動装置を操作する操作部とを備え、前記荷台部は、該荷台部に搭乗する搭乗者を含めた車両全体の重心が前記車輪の回転中心よりも低位となる位置に設けられた平行二輪ビークルにおいて、前記車輪に駆動力が伝達されるとき、該駆動力による駆動トルクの反作用トルクにより荷台部が傾倒する角度を計測する角度計測手段と、この角度計測手段により計測された荷台角度を所望角度に傾斜させる前記ウエイトを移動させるウエイト移動手段とを備えたことを特徴とする平行二輪ビークルにおける荷台部姿勢制御方法を要旨とする。
【0025】
上記構成によれば、荷台部に作用する反作用トルクによって傾倒する当該荷台部の傾倒角度を計測し、これを所望角度と比較することによって、ウエイトの移動状態を操作し、このウエイトの移動によって荷台の傾倒を解消させることとなり、シート状の荷台に着座する搭乗者の姿勢を安定させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の平行二輪ビークルによれば、駆動力の供給ができない状況においても車両全体の姿勢が安定することとなり、駆動用バッテリの電源不足または駆動機構の故障などにより、車輪に必要な駆動力を供給できなくなった場合でも、車両が傾倒することがなく、搭乗者の姿勢を安定させることができる。
【0027】
また、本発明の平行二輪ビークルにおける安定姿勢保持機構によれば、停止状態における搭乗者の状態を把握して重心位置を調整することができるので、車両が停止した状態における搭乗者を含む車両全体の姿勢をも安定させることができる。
【0028】
さらに、本発明の平行二輪ビークルにおける走行制御方法および荷台部姿勢制御方法によれば、車輪に駆動力を伝達した際に発生する反作用トルクによって、不安定になり得る荷台部を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】平行二輪ビークルの実施形態を示す外観図である。
【図2】平行二輪ビークルの停止状態における状態を示す説明図である。
【図3】平行二輪ビークルの車輪駆動時の状態を示す説明図である。
【図4】平行二輪ビークルのウエイト移動の状態を示す説明図である。
【図5】平行二輪ビークルの制御構成を示すブロック図である。
【図6】ウエイトと平行二輪ビークルとの力学関係を示す説明図である。
【図7】シート状荷台部の姿勢2自由度制御のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。平行二輪ビークルの実施形態は、図1に示すように、平行な両輪1L,1Rの中間には制御ボックス2が支持され、この制御ボックス2の上部にシート状の荷台部(以下、単にシートと称する)5が支持される構成である。平行な車輪1L,1Rは十分に大きな径を有しており、制御ボックス2は、車輪1L,1Rの車軸(回転中心)9L,9Rよりも低位置において連結されており、この制御ボックス2、シート5および搭乗者の全体による重心7の位置が、前記車輪1L,1Rの車軸9L,9Rよりも低位置となるように設けられている。なお、上記の制御ボックス2には、駆動装置としてのモータ(図示せず)が内蔵されており、このモータの駆動力は、制御ボックス2から車軸9L,9Rにプーリ等の伝達部材3L,3Rによって伝達される構成になっている。
【0031】
このように、車輪1L,1Rを十分に大きな径に構成することによって、段差等のある悪路であっても十分に走行することが可能となり、また、四輪ビークルに比較して小回りが可能となるから、狭所においても走行可能なものとなる。また、車輪1L,1Rを除き搭乗者を含めた部分の重心7が、車輪1L,1Rの車軸9L,9Rよりも低位置に設けられていることから、駆動力が伝達されていない停止状態においても搭乗者を含めた車両全体の姿勢を安定させることができる。
【0032】
なお、本実施形態の平行二輪ビークルは、制御ボックス2に支持されるフットレスト6が設けられ、搭乗者の全体重がシート5およびフットレスト6に作用し、その重量を含めて重心が決定されている。また、制御ボックス2から立設される操作部(入力インターフェース)4が設けられており、例えばジョイスティック型の入力インターフェースによって、車輪1L,1Rの駆動力を操作できるように構成している。
【0033】
また、制御ボックス2とシート5の座席部との中間にはシートレール8が介在されており、シート5を前後方向に移動可能になっている。このシートレール8の上部に載置されているシート5は、制御ボックス2に内蔵される移動用モータ(図示せず)によって移動可能であり、当該モータは制動機構が備えられており、最適位置におけるシート5の位置が固定される。シートレール8とシート5の中間には、重量センサ(ロードセル)や傾斜角センサが設けられており、シート5に搭乗する搭乗者の重量バランスが計測できるようになっており、ここで計測された重量バランスに応じて、搭乗者が搭乗した状態における全体の重心7を、車軸9L,9Rの鉛直方向に一致させている。
【0034】
すなわち、図2に示すように、搭乗者がシート5に着座した姿勢において、重心7が車軸9L,9Rの鉛直方向から偏差Eを生じさせている(ずれている)場合(図2(a))には、その偏差Eの生じている側が重くなって、制御ボックス2および搭乗者を含むシート5が傾動することとなる(図2(b))。そこで、シート5を上記偏差Eを解消させるように移動することによって、搭乗者が着座した状態での重心7を車軸9L,9Rの鉛直線上に一致させることができ、この状態において搭乗者の着座姿勢を保持することができるのである。
【0035】
次に、走行時のビークルの状態を説明する。図3に示すように、車輪1L,1Rに駆動力を付与することにより、車輪1L,1Rの駆動トルクに対する反作用トルクがシート5に作用することとなり、当該シート5が傾倒することとなる。
【0036】
そこで、上記のような傾倒が生じる前に、当該傾倒とは反対向きに予め傾倒させておくことにより、姿勢を安定させることができる。すなわち、駆動力を車輪に伝達する際には、操作部からの指令により駆動制御がなされるが、この駆動制御部において、車輪に対する指示どおりの駆動力を伝達する前に、反対向きのトルクを与えるのである。これは、ある意味で人為的に重心バランスを崩すことを意味する。具体的には、加速時(特に発進時)は、駆動力が作用すると、上述(図3)のように、重心が後方に移動することとなるから、その前に、重心を前側に移動し、その後駆動力を付与させるのである。これにより、駆動力が付与した後に、重量バランスが均衡して走行姿勢が安定するのである。減速時(特に停止時)は、上記とは反対であり、駆動力を変化させる前に、重心を後ろ側に移動し、その後駆動力を付与することにより、同様に車両の姿勢が安定することとなる。
【0037】
また、上記とは異なる姿勢の安定方法としては、制御ボックス2の内部に設けられたウエイトmを移動させることによって、この傾倒を復元させる方法がある。すなわち、図示のように、ウエイトmは、車輪1L,1Rの進行方向に平行な摺動ガイド10に沿って進退可能に設けられており、この進退はモータ(図示せず)の正逆回転によって行われる。モータはウエイトmと同じ位置に設けられ、つまり、ウエイトmに包含されて、ウエイトmの重量を補っているのである。
【0038】
なお、モータの回転力によるウエイトmの移動方法は、例えば、摺動ガイド10に沿ったラック状ネジを配置し、モータの駆動軸に設けられたピニオンを上記ラック状ネジに噛合させるのである。これにより、モータの正逆方向の回転によって、当該モータを含むウエイトmを進退させることが可能となる。
【0039】
上記は加速時において発現する作用であるが、減速時には上記とは逆の現象が発生する。すなわち、シート5が前方に傾倒する減少である。このような場合には、上述のウエイトmを後退させることによって、搭乗者を含むシート5の重心7を後方に移動することができるから、上記前方の傾倒を復元させることができる。
【0040】
このように、ウエイトmの進退によりシート5の傾倒を制御するものであることから、停止状態におけるシート5の位置の調整の際には、ウエイトmの位置は前後方向の中間に位置しており、この中間的なウエイトmの位置が初期値とされる。
【0041】
このような構成の平行二輪ビークルは、停止および走行時においても安定することができ、これらの各駆動部を制御することにより、操作部(ジョイスティック)による操作に応じた走行が実現されるのである。
【0042】
次に、上記構成の平行二輪ビークルについての制御方法について説明する。図5に制御の構成をブロック図で示している。この図に示すように、搭乗者は、ジョイスティックなどの入力インターフェース(操作部)を用いて、車輪駆動モータへ指令電圧を与え、この指令電圧に応じて車輪に駆動力を付与する。車輪駆動による反作用トルクによって、シートが傾倒することとなるので、この傾倒状態を傾斜角センサにより、シートの傾斜角を計測するのである。
【0043】
そして、シート傾斜角、車輪駆動モータへの指令電圧およびウエイト位置データを用いて、ウエイト移動用モータに出力すべき指令電圧を演算し、この指令電圧をウエイト移動用モータに与えることによって、ウエイトを移動させ、シートの姿勢が制御されるのである。
【0044】
次に、ウエイトmの移動によるシートの姿勢制御の演算手段について説明する。図6にウエイトmによる平行二輪ビークルの走行時の力学関係を示す。この図において、モーメントの釣り合いから、次式が得られる。
【0045】
【数1】

【0046】
ただし、M〔kg〕は、ウエイト質量を除き搭乗者を含むシート部の質量であり、L〔m〕は車輪の回転中心からウエイト重心までの垂直距離を示す。b〔m〕は、車輪の回転中心を通りウエイトの摺動ガイドと直交する線からウエイト重心までの距離を示す。θ〔rad〕は、シート傾斜角を示す。g〔m/s〕は、重力加速度であり、c〔kg/s〕は、シート部の回転摩擦などの減衰係数を示す。T〔Nm〕は、車輪駆動に対する反作用トルクであり、f〔N〕はウエイトを移動させる際の駆動力である。
【0047】
ウエイトの駆動力f〔N〕と摺動ガイド上でのウエイトの距離b〔m〕の関係は、次式で表すことができる。
【0048】
【数2】

【0049】
ただし、c〔kg/s〕はウエイトが移動する際の摩擦などの減衰係数を示す。
【0050】
ここで、前記式(1)において、シート傾斜角を微小とすると、次式のような線形近似することとなる。
【0051】
【数3】

【0052】
上記式(3)において、右辺の総和を0にすることで、ビークルを駆動させる際のシートの傾斜を抑制することができる。
【0053】
また、上式(3)の右辺のうち第4項は、ビークルの走行に対する慣性モーメントであり、他の右辺の項と比較して微小と仮定し、これを消去すると、
【0054】
【数4】

【0055】
となる。この式(4)に上記式(2)を代入すると、
【0056】
【数5】

【0057】
となり、これを伝達関数表現すると、
【0058】
【数6】

【0059】
となる。
【0060】
また、上記式(2)について伝達関数表現すると、
【0061】
【数7】

【0062】
となり、その逆関数は、
【0063】
【数8】

【0064】
となり、これに上記式(6)を代入すると次式を得る。
【0065】
【数9】

【0066】
以上より、ウエイト移動におけるウエイトの移動のための駆動力f〔N〕に車輪駆動トルクT〔Nm〕に対応した上式(9)の入力を与えることにより、ビークルが駆動されるときのシートの傾倒を抑えることができる。
【0067】
また、車輪の駆動トルクとモータへの指令電圧u〔V〕の関係は次式のように示すことができる。
【0068】
【数10】

【0069】
ただし、K〔Nm/V〕は車軸の駆動モータのゲイン定数である。
【0070】
また、同様に、ウエイトを移動する駆動力f〔N〕と移動モータへの指令電圧u〔V〕との関係は次式にように示すことができる。
【0071】
【数11】

【0072】
ただし、K〔Nm/V〕はウエイトの移動のためのモータのゲイン定数である。
【0073】
そして、上記式(10)および(11)を前述の式(9)に代入すると次式を得ることができる。
【0074】
【数12】

【0075】
以上より、ウエイトの移動に使用するモータに対し、車軸駆動モータへの指令電圧に依存する上式(12)の入力を与えることにより、ビークルの駆動によるシートの傾倒を抑えることが可能となる。
【0076】
ところで、前記式(3)から式(4)を求める際の仮定により誤差を生じ、シートの安定姿勢が保持されない可能性があるため、シート傾斜角をフィードバック制御システムを構築することとする。ここでは、PD制御によるシート傾斜角のフィードバック制御システムを構築することとする。この制御方法のブロック図を図7に示す。そして、シート傾斜の安定化の条件を以下に示す。
【0077】
前記式(2)および(3)において、ウエイトを移動させる際の動特性は、シートの傾動における動特性よりも速いものと仮定して、その動特性は考慮せず、また、前記式(12)には、ビークルの駆動によるシートの傾倒は除去されているので、同式より、ウエイト移動のためのモータへの指令電圧u〔V〕からシート傾斜角θ〔rad〕までの伝達関数は次式となる。
【0078】
【数13】

【0079】
である。
【0080】
この式の制御対象に対して、次式のPDフィードバック制御を構築する。
【0081】
【数14】

【0082】
なお、e〔rad〕は目標シート傾斜角θref〔rad〕と傾斜角センサにより計測されるシート傾斜角θ〔rad〕との偏差である。また、KとKは、PD制御の比例ゲインと微分ゲインである。
【0083】
従って、PD制御によるシートの傾斜角のフィードバック制御システムの閉ループ伝達関数は、
【0084】
【数15】

【0085】
となり、この式(15)に対して、極配置問題による安定化制御系を構築する。また、この式(15)は3次遅れ系であることから、次式に示す極をもつ3次遅れ系と等価である。
【0086】
【数16】

【0087】
ただし、−λ、−λ、−λは上式(16)の特性根(極)である。
ここで、式(16)を展開すると、
【0088】
【数17】

【0089】
となり、この式(17)と上記式(15)の係数比較により、
【0090】
【数18】

【0091】
が得られる。そして、式(18)を式(19)および(20)にそれぞれ代入することにより、比例ゲインKおよび微分ゲインKは次のように求めることができる。
【0092】
【数19】

【0093】
ここで、以下の関係を満たすことにより、PD制御によるシート傾斜角のフィードバック制御の安定化が可能となる。
【0094】
【数20】

【0095】
上記のような制御方法は、ビークルを駆動する際のシートの傾倒を抑えるため、ウエイトを移動させるための駆動制御と、PD制御によるシート傾斜角のフィードバック制御とによって、シート姿勢2自由度制御システムを構築するのである。
【0096】
なお、上述した具体的な制御方法は、ビークルの駆動に対するシートの傾倒を抑えることを目的とし、ウエイトの移動に使用するモータへの指令電圧制御と、PD制御を用いたが、本発明における制御方法はこれに限定されるものではない。たとえば、搭乗者の姿勢変化などに対応するため、シートのロバスト姿勢制御を実現するには、FB制御にH制御などのロバスト制御システムを適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の平行二輪ビークルは、搭乗者の姿勢を安定させることができることから、高齢者や障がい者の移動用として利用できるほか、レジャー用としても利用することができる。
【符号の説明】
【0098】
1L,1R 車輪
2 制御ボックス
3L,3R 伝達装置
4 ジョイスティック(操作部)
5 シート(荷台部)
6 フットレスト
7 重心位置
8 シートレール
9L,9R 車軸(車輪の回転中心)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に配置された二つの車輪を有する平行二輪ビークルにおいて、該車輪の回転中心よりも低位置に荷台部を備え、前記車輪の径を十分に大きくするとともに、前記荷台部は、該荷台部に搭乗する搭乗者を含めた車両全体の重心が前記車輪の回転中心よりも低位となる位置に設けたことを特徴とする平行二輪ビークル。
【請求項2】
前記荷台部は、前記車輪の進行方向に進退可能なウエイトを備え、この荷台部には前記車輪を駆動する駆動装置が設けられている請求項1に記載の平行二輪ビークル。
【請求項3】
前記荷台部は、着座可能なシート状の荷台部である請求項1または2に記載の平行二輪ビークル。
【請求項4】
前記荷台部は、前記車両全体の重心が前記車輪の回転中心から鉛直方向に位置するように調整可能な荷台部である請求項1ないし3のいずれかに記載の平行二輪ビークル。
【請求項5】
平行に配置された十分に大きい径を有する二つの車輪と、この車輪の回転中心よりも低位置に設けられた着座可能なシート状の荷台部と、荷台部に設けられ、前記車輪の進行方向に進退可能に前記荷台部に設けられたウエイトと、前記荷台部に支持されつつ車輪を駆動する駆動装置とを備え、前記荷台部は、該荷台部に搭乗する搭乗者を含めた車両全体の重心が前記車輪の回転中心よりも低位となる位置に設けられた平行二輪ビークルにおいて、
前記車両の前後方向における該車両全体の重心位置を判別する重心判別手段と、前記荷台を前記車両の前後方向に移動させる移動手段とを備えたことを特徴とする平行二輪ビークルにおける安定姿勢保持機構。
【請求項6】
請求項5に加えて、前記重心位置が前記車輪の回転中心の鉛直方向に一致するとき前記移動手段を制動状態で維持する制動手段を備えたことを特徴とする平行二輪ビークルにおける安定姿勢保持機構。
【請求項7】
平行に配置された十分に大きい径を有する二つの車輪と、この車輪の回転中心よりも低位置に設けられた着座可能なシート状の荷台部と、荷台部に設けられ、前記荷台部に支持されつつ車輪を駆動する駆動装置と、この駆動装置を操作する操作部とを備え、前記荷台部は、該荷台部に搭乗する搭乗者を含めた車両全体の重心が前記車輪の回転中心よりも低位となる位置に設けられた平行二輪ビークルにおいて、
前記車輪に与える駆動力を制御する駆動制御部を備え、この駆動制御部は、操作部からの指令により駆動力を変化させるとき、駆動力変化以前に前記車輪に対し該駆動力とは逆のトルクを与え、指令による駆動のプラスの加速度側に車両全体の重心位置を変位させるように制御することを特徴とする平行二輪ビークルにおける走行制御方法。
【請求項8】
平行に配置された十分に大きい径を有する二つの車輪と、この車輪の回転中心よりも低位置に設けられた着座可能なシート状の荷台部と、荷台部に設けられ、前記車輪の進行方向に進退可能に前記荷台部に設けられたウエイトと、前記荷台部に支持されつつ車輪を駆動する駆動装置と、この駆動装置を操作する操作部とを備え、前記荷台部は、該荷台部に搭乗する搭乗者を含めた車両全体の重心が前記車輪の回転中心よりも低位となる位置に設けられた平行二輪ビークルにおいて、
前記車輪に駆動力が伝達されるとき、該駆動力による駆動トルクの反作用トルクにより移動する前記車両全体の重心の位置を判別する重心位置判別手段と、この重心位置判別手段により判別された重心位置を前記車輪の回転軸の鉛直方向に移動させるために前記ウエイトを移動させるウエイト移動手段とを備え、前記車両が加速または減速する際にウエイトを移動させて走行状態を安定させることを特徴とする平行二輪ビークルにおける走行制御方法。
【請求項9】
平行に配置された十分に大きい径を有する二つの車輪と、この車輪の回転中心よりも低位置に設けられた着座可能なシート状の荷台部と、荷台部に設けられ、前記車輪の進行方向に進退可能に前記荷台部に設けられたウエイトと、前記荷台部に支持されつつ車輪を駆動する駆動装置と、この駆動装置を操作する操作部とを備え、前記荷台部は、該荷台部に搭乗する搭乗者を含めた車両全体の重心が前記車輪の回転中心よりも低位となる位置に設けられた平行二輪ビークルにおいて、
前記車輪に駆動力が伝達されるとき、該駆動力による駆動トルクの反作用トルクにより荷台部が傾倒する角度を計測する角度計測手段と、この角度計測手段により計測された荷台角度を所望角度に傾斜させる前記ウエイトを移動させるウエイト移動手段とを備えたことを特徴とする平行二輪ビークルにおける荷台部姿勢制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−131660(P2011−131660A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291549(P2009−291549)
【出願日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(502452657)株式会社ケーイーアール (2)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】