説明

平衡配電系統のための電力潮流解析

【課題】平衡配電系統のモデルを解析する方法に関し、ゼロインピーダンス分岐又は小さなインピーダンス分岐によって生じる解の発散の発生を回避する。
【解決手段】ゼロインピーダンス分岐を有する平衡配電系統のモデルを、非ゼロインピーダンスを有する平衡配電系統の等価なモデルに変換することによって、平衡配電系統のモデルを解析する。等価なモデル内のバスごとに、二次の分離した電力不一致方程式が生成される。バス電力潮流方程式を用いて電力不一致が求められる。電力不一致は所定の閾値と比較される。次に、バスごとに、比較が真である場合に、比較が偽となるまで電力不一致方程式を反復して解き、バス電圧振幅補正値及びバス位相角補正値を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、包括的には配電系統に関し、より詳細には平衡配電系統のための電力潮流解析に関する。
【背景技術】
【0002】
配電工学では、指定された電源(source:ソース)条件及び負荷条件について、配電系統内のバスごとの電圧振幅及び位相角を得るのに、電力潮流解析が一般的に用いられる。電圧及び位相角を知った後、各分岐における電流及び電力、並びに電源の出力を解析的に求めることができる。問題の非線形特性に起因して、受容可能な解を得るのに数値法が頻繁に用いられる。
【0003】
配電系統の特殊な事例として、平衡配電系統の負荷及びインピーダンスは三相平衡であり、したがって、その定常状態性能は通例、正のシーケンスパラメーターを用いた単層電力潮流解析を用いることによって解析される。
【0004】
知られているパラメーターに依拠して、配電系統バスは以下の3つのタイプ、
1.電圧振幅V及び位相角θが知られているスイングバス、
2.有効電力P及び無効電力Qが知られているPQバス、並びに
3.有効電力P及び電圧振幅Vが知られているPVバス、
として分類することができる。
【0005】
バスタイプは、接続された電源及び負荷の知られているパラメーターによって決まる。
【0006】
電力潮流問題を解く様々な方法が知られている。これらの方法は、系統を記述する式の形態又は用いられる数値技法のいずれかにおいて異なっている。バスアドミタンス行列に基づく方法が広く用いられている。通常の方法には、ガウス−ザイデル法、ニュートン−ラプソン法、及び高速分離法が含まれる。これらの方法は、電力潮流問題を線形系として定式化し、この問題を、直接技法又は反復技法のいずれかによって解いた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
より好ましい平衡配電系統のための電力潮流解析が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の実施の形態は、明示的に規定されたゼロインピーダンス分岐を有する平衡配電系統のモデルを解析する方法を提供する。この方法は、そのような分岐を正確にモデリングし、従来の方法において通例、ゼロインピーダンス分岐又は小さなインピーダンス分岐によって生じる解の発散の発生を回避する。
【0009】
バス毎に、1組の分離した電力不一致方程式が極座標において生成される。この生成は、二次までのテイラー級数展開を用いて三角関数を置き換える。二次の項は有効電力不一致方程式において収束を改善するのに用いられる。簡単化を一切行わずにフル分岐インピーダンスが有効電力不一致方程式及び無効電力不一致方程式の双方に含まれる。そのようなモデルによって、分布電源(distribution source)及び分布負荷(distribution load)を解法プロセスにシームレスに統合することが可能になる。
【0010】
有効電力不一致方程式及び無効電力不一致方程式をそれぞれ解くのに直接及び間接混成型手順が用いられる。部分ピボット選択を用いたスパースな下三角及び上三角分解(LUP:Lower and Upper triangular decomposition with partial Pivoting)に基づく直接手順が、有効電力不一致を解く際に用いられる。不完全な下三角及び上三角前処理器(ILU:incomplete Lower and Upper triangular Preconditioner)を用いた、リスタート一般化最小残差(GMRES:generalized minimal residual)に基づく反復手順が、無効電力不一致を解くのに用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施形態による平衡配電系統のモデルを解析する方法の流れ図である。
【図2】ゼロインピーダンス装置をモデリングするのに用いられる一般化されたゼロインピーダンス分岐モデルの概略図である。
【図3】この発明の実施形態による、ゼロインピーダンス分岐を有する平衡配電系統のモデルを非ゼロインピーダンスを有する平衡配電系統の等価なモデルに変換することの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、この発明の実施形態による平衡配電系統のモデルを解析する方法100を示している。
【0013】
ステップ101において、等価な非ゼロインピーダンスシステムのモデル351を、従来のモデル350におけるゼロインピーダンス分岐の影響を完全に再現するように構築する(図3を参照されたい)。これは、ゼロインピーダンス分岐を有する配電系統のモデル350を非ゼロインピーダンスを有する配電系統の等価なモデル351に変換する(300)ことによって行われる。ゼロインピーダンス分岐のスレーブバスにおける分路補償、注入電流、及び電力がマスターバスに統合され、ゼロインピーダンス分岐によって規定されたマスターバスとスレーブバスとの間の関連する変圧及び変流が、モデル351の等価な分岐に含まれるように、隣接する分岐インピーダンスと結合される(図3を参照されたい)。
【0014】
ステップ105において、配電系統351における各分岐の分岐アドミタンス行列を用いることによってバスアドミタンス行列が構築され、ゼロインピーダンス分岐のスレーブバスを除く、配電系統350内の全てのバスが含まれる。全ての分路補償及び定インピーダンス負荷が、モデリングされることになる対応するバスの自己アドミタンスに付加される。
【0015】
ステップ110において、バスごとの初期電圧振幅及び初期位相角が知られていない場合、それらが設定される。初期電圧振幅は、スイングバス電圧振幅を、スイングバスからバスまでの最短経路に沿って変圧器によってもたらされる電圧増加率と乗算することによって設定される。初期位相角は、スイングバス位相角、及びスイングバスからバスまでの最短経路に沿って移相器によって付加された位相角変化によって設定される。
【0016】
ステップ120において、有効電力のためのヤコビ行列及びヘッセ行列がバス位相角にわたって求められる。無効電力のヤコビ行列がバス電圧振幅にわたって求められる。ヤコビ行列及びヘッセ行列の双方が、一定を保つ初期電圧振幅及び初期位相角を用いて求められる。一切簡単化することなくフルインピーダンスが含まれ、三角関数が、二次までの対応するテイラー級数展開に置き換えられる。
【0017】
ステップ130はバス有効電力不一致及びバス無効電力不一致を求める。電力不一致は、バス電力潮流方程式、並びに現在のバス電圧振幅及びバス位相角を用いて求められる。定電流負荷の注入電力は知られているものとして扱われ、電圧振幅及び位相角が更新されると更新される。
【0018】
ステップ135は、電力不一致が所定の閾値未満であるか否かを判断する。真であるか、又は所定の反復数に達した場合、ステップ170に進む。そうではなく、偽である場合、ステップ140及び150を実行する。ステップ140及び150は並列に実行することができる。
【0019】
ステップ140は、有効電力のヤコビ行列及びヘッセ行列に基づく有効電力不一致方程式を、直接手順を用いて位相角の関数として反復的に解く。二次の項によって生じる有効電力不一致は知られている値として扱われ、前の反復において得られた電圧振幅及び位相角を用いて求められる。一次方程式は、部分ピボット選択を用いたスパースな下三角及び上三角分解(LUP)によって解かれる。解はバス位相角の補正値である。
【0020】
ステップ150は、電圧振幅にわたる無効電力のヤコビ行列に基づく無効電力不一致方程式を、一次方程式として反復的に解く。この一次方程式は、ヤコビ行列の対角要素を用いて前処理された、前処理されリスタート一般化最小残差(GMRES)法によって解かれる。この解は、バス電圧振幅の補正値である。
【0021】
ステプ160は、ステップ140及び150において得られた変化を用いてバス電圧振幅及びバス位相角を更新する。
【0022】
ステップ170は、対応するマスターバス複素電圧をゼロインピーダンス分岐モデル204の等価な変圧比と乗算することによってスレーブバスの電圧振幅及び位相角を求める(図2を参照されたい)。
【0023】
ステップ180は、バス電圧振幅及びバス位相角、並びに分岐インピーダンスに基づいて、配電系統350の全ての非ゼロインピーダンス分岐の電流を求め、次に、それに従って、分岐を通って流れる有効電力及び無効電力を求める。
【0024】
ステップ190は、スレーブバスにおけるバス複素電流平衡方程式に基づいて、配電系統350のゼロインピーダンス分岐を通ってスレーブバスに入る電流を求め、バス複素電力平衡方程式に基づいて電力を求める。ゼロインピーダンス分岐を通ってマスターバスを出る電流は、該分岐を通ってスレーブバスに入る複素電流を、分岐モデル204の等価な変圧比の共役と乗算することによって求められる。分岐を通ってマスターバスを出る電力は、該分岐を通ってスレーブバスに入る電力と同じである。
【0025】
上述した方法のステップは、当該技術分野において既知のメモリ及び入力/出力インターフェースに接続されたプロセッサにおいて実行することができる。
【0026】
ゼロインピーダンス分岐のモデリング
電圧レギュレーター、スイッチ、理想変圧器、理想移相器、エルボー、及びジャンパー等の配電系統における多くの分岐は、非常に低いインピーダンスを有する。実際に、これらの低インピーダンスは、従来のモデルにおいて無視され、ゼロに設定される。それによって、結果としてのバスアドミタンス行列において幾つかのエントリが無限となり、これによってアドミタンス行列に基づく手法が適用不可能になる。バスアドミタンス行列に基づく手法を用いるために、従来の方法はこれらの分岐に対し、任意に割り当てられた小さな非ゼロインピーダンスを有する。しかしながら、小さなインピーダンスを割り当てることによって解析が不良条件になり、電流潮流が収束するのが困難になる。この発明の実施形態は、異なる手法を用いて電力潮流解析におけるゼロインピーダンス分岐に対処する。
【0027】
図2は、配電系統におけるゼロインピーダンス分岐を表す一般化されたモデル200を示している。分岐は、マスターバスm201及びスレーブバスs202を有する。バスは理想変圧器203によって接続されている。変圧器は、比1:amsを有し、ここでams204は複素数である。スレーブバスはいかなる他のゼロインピーダンス分岐にも接続されていない。双方のバスがいかなるゼロインピーダンス分岐にも接続されていない場合、「下流」バスは、電流に対しスレーブバスである。
【0028】
複素変圧比は、分岐がスイッチ又は小さな導体であるときに1となり、分岐が理想電圧レギュレーター又は理想変圧器であるときに実数となり、分岐が理想移相器であるときに大きさ1.0を有する複素数となる。
【0029】
分岐を通ってスレーブバスに流れる電流は、複素比の共役で分割された、マスターバスから流れる電流に等しい。スレーブバスにおける電圧は、マスターバスにおける電圧と複素比を乗算したものに等しい。
【0030】
バスアドミタンス行列を構築するとき、非スレーブバスのみが検討される。ゼロインピーダンス分岐は用いられない。図3に示すように、ゼロインピーダンス分岐の影響は、関連付けられたマスターバス、及びスレーブバスに隣接した分岐によって表される。
【0031】
図3は、図1のステップ101によって実行されるような、非ゼロインピーダンスを用いた等価な配電系統モデル351の構築例を示している。この構築したものは、ゼロインピーダンス分岐を有する配電系統のモデル350を、非ゼロインピーダンスを有する等価な配電系統モデル351に変換する(300)。
【0032】
システムモデル350において、ゼロインピーダンス分岐はスレーブバスによって3つの分岐(破線)に接続されており、マスターバスによって2つの分岐(二重線)に接続されている。スレーブバスsとバスk301との間の1つの隣接する分岐を例として取ると、分岐アドミタンス行列は以下(302)となる。
【0033】
【数1】

【0034】
ここで、Yss及びYkkはそれぞれスレーブバスs及びバスkにおける分岐の自己アドミタンスであり、Ysk及びYksはそれぞれ、バスs対バスk間の分岐及びバスk対バスs間の分岐の相互アドミタンスである。マスターバスmは、注入複素電流I303と、注入複素電力S304と、アドミタンスYshを有する分路補償器305とを提供する。スレーブバスsは、注入複素電流I306と、注入複素電力S307と、アドミタンスYshを有する分路補償器308とを提供する。
【0035】
モデル351において、ゼロインピーダンス分岐及びスレーブバスsは取り除かれる。マスターバスmに接続された分岐に関しては変更がない。スレーブバスsに接続された分岐はバスmに再接続され、分岐アドミタンス行列はそれに従って変更される。
【0036】
システム350におけるバスsとバスkとの間の分岐は、システム351においてバスmとバスkとの間の新たな分岐に置き換えられ、分岐アドミタンス行列は以下(309)となる。
【0037】
【数2】

【0038】
バスmにおける自己アドミタンスは、モデル350内のバスsにおける自己アドミタンスとゼロインピーダンス分岐比の二乗との積から求められる。バスm対バスkの相互アドミタンスは、ゼロインピーダンス分岐比の共役と、システム350におけるバスs対バスkの相互アドミタンスとの積である。バスk対バスmの相互アドミタンスは、ゼロインピーダンス分岐比と、モデル350におけるバスk対バスsの相互アドミタンスとの積である。
【0039】
スレーブバスsにおける電流は、ゼロインピーダンス分岐比の共役
【0040】
【数3】

【0041】
と乗算され、マスターバスmに加算され、バスmにおける等価な電流は
【0042】
【数4】

【0043】
(310)であり、ここでは複素共役を表す。バスsにおける電力はバスmに直接加算され、結果としてのバスmにおける等価な複素電力は(S+S)311である。バスsにおける分路補償アドミタンスはゼロインピーダンス分岐比の二乗
【0044】
【数5】

【0045】
と乗算され、バスmに加算され、バスmにおける等価な分路補償アドミタンスは
【0046】
【数6】

【0047】
(312)となる。
【0048】
バスmに接続された複数のゼロインピーダンス分岐が存在する場合、各分岐はその分路補償をマッピングし、それに従ってスレーブバスからの電流及び電力をマスターバスに加算する。
【0049】
配電源及び負荷のモデリング
配電系統の発生源は通例、送電系統であり、対応する等価な電源モデルは、電力潮流解析においてスイングバス又はPVバスとして表される。
【0050】
等価な電源に加えて、配電系統は分布発電装置(distributed power generator)も有することができる。エネルギー源及びエネルギーコンバーターのタイプに依拠して、分布発電装置は定力率モデル、定電圧モデル、又は可変無効電力モデルによって指定される。
【0051】
定力率発電装置又は可変無効電力発電装置に接続されたバスは、PQバスとして扱われる。定力率発電装置の場合、指定される値は有効電力出力及び力率である。無効電力出力は、有効電力及び力率から求められる。可変無効電力発電装置の場合、有効電力出力が指定され、該有効電力出力に所定の多項式関数を適用することによって無効電力出力が求められる。
【0052】
定電圧発電装置に接続されたバスは、PVバスとして扱われ、指定される値は有効電力の出力及びバス電圧の振幅である。これらのバスはまた、等価なシステムモデル351が構築されるときにマスターバスとして選択される。
【0053】
配電負荷モデルは、定インピーダンス負荷、定電力負荷、及び定電流負荷を含む。定インピーダンス負荷は、接続されたバス分路インピーダンスとして直接扱われ、これはバスアドミタンス行列に組み込まれる。
【0054】
定電力負荷は、バス注入電力としてモデリングされる。定電流負荷は、等価なバス注入電力に変換されてモデリングされる。等価な注入電力は推定されたバス電圧に基づく。その電力は、解法の反復の間に現在のバス電圧が利用可能となったときに再計算される。
【0055】
配電源及び負荷モデルは、PVバス若しくはPQバス又は分路補償に変換することによって、解法プロセスにシームレスに統合される。
【0056】
フルインピーダンス及び二次の項を有する分割電流潮流方程式
全ての非スレーブバスの電力潮流方程式は、
【0057】
【数7】

【0058】
であり、ここで、P及びQはバスiにおける正味の注入有効電力及び注入無効電力であり、V及びθは、バスiにおける電圧振幅及び位相角であり、Gij及びBijは、バスi及びバスjに関連付けられたバスアドミタンス行列要素の実数部及び虚数部である。
【0059】
高速分割法と同様に、有効電力はバス位相角の関数として表され、無効電力はバス電圧振幅の関数である。テイラー展開を式(1)及び式(2)に適用し、二次の項まで保持することによって、
【0060】
【数8】

【0061】
が得られる。ここで、ΔP及びΔQはバス電力変化のベクトルであり、Δθ及びΔVはバス位相角及び電圧振幅の変化のベクトルであり、Jθ及びHθはバス位相角に対するバス有効電力のヤコビ行列及びヘッセ行列であり、Jはバス電圧振幅に対するバス無効電力のヤコビ行列である。
【0062】
バスiにおける有効電力及びバスjにおける位相角に関連付けられたヤコビJθの要素
【0063】
【数9】

【0064】
は、
【0065】
【数10】

【0066】
である。
【0067】
バスiにおける有効電力並びにバスj及びバスkにおける位相角に関連付けられたヘッセHθの要素は
【0068】
【数11】

【0069】
である。
【0070】
同様に、バスiにおける無効電力及びバスjにおける電圧振幅に関連付けられたヤコビJの要素は、
【0071】
【数12】

【0072】
である。
【0073】
ヤコビ行列及びヘッセ行列を定式化する間、関数sine(x)及びcosine(x)がそれぞれ2次までのテイラー級数、すなわち、x及び
【0074】
【数13】

【0075】
に置き換えられ、定式が簡単化されると共に計算が高速化される。
【0076】
直接及び間接混成型手順
電力潮流方程式は通例、直接解法又は反復解法のいずれかによって解かれる。この発明の実施形態は、有効電力問題と無効電力問題との間の特性の差を考慮して、混成型手順を用いて式(3)及び式(4)に記載の電力潮流を解く。該混成型手順において、有効電力不一致方程式を解くのに直接解法が用いられ、無効電力不一致方程式を解くのに反復手順が用いられる。
【0077】
有効電力不一致問題の場合、以下の方程式が用いられる。
【0078】
【数14】

【0079】
ヤコビ行列J(V(0),θ(0))及びヘッセ行列Hθ(V(0),θ(0))は、反復の間一定のままである初期バス電圧振幅V(0)及び初期位相角θ(0)を用いることによって求められる。右辺の第1項は、バス有効電力不一致を、前回の反復kの間に得られたバス電圧振幅及びバス位相角を用いて求められた対応するバス電圧振幅で除算したものである。第2項は、これも前回の反復において得られた位相角を用いて求められた、二次の位相角変化を加算した更なる不一致である。この一次方程式は、部分ピボット選択を用いたスパースな下三角及び上三角分解(LUP)によって解かれる。バス位相角ベクトルθは位相角補正ベクトルΔθが解かれると更新される。
【0080】
無効電力不一致問題の場合、以下の方程式が用いられる。
【0081】
【数15】

【0082】
ヤコビ行列Jθ(V(0),θ(0))は、反復の間一定のままである初期バス電圧振幅及び初期位相角を用いて求められる。右辺は、バス無効電力不一致を、前回の反復kの間に得られたバス電圧振幅及びバス位相角を用いて求められた対応するバス電圧振幅で除算したものである。この一次方程式は、不完全なLU前処理器を用いたリスタート一般化最小残差法を用いることによって解かれる。ヤコビ行列の対角要素が前処理行列として取られる。バス電圧振幅ベクトルVは、電圧振幅補正ベクトルΔVが解かれると更新される。
【0083】
理想値を用いてバス電圧振幅及びバス位相角の初期値をセットする。全ての分岐のインピーダンスがゼロであると仮定される。バスの初期電圧振幅は、スイングバス電圧振幅を、スイングバスから研究対象のバスまでの最短経路に沿って変圧器からもたらされる全ての電圧増加率と乗算した結果として設定される。バス初期位相角は、スイングバス位相角に、スイングバスからバスまでの最短経路に沿って移相器からもたらされる全ての位相角変化を加えたものとして設定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平衡配電系統のモデルを解析する方法であって、
ゼロインピーダンス分岐を有する前記平衡配電系統のモデルを、非ゼロインピーダンスを有する前記平衡配電系統の等価なモデルに変換するステップと、
前記等価なモデル内のバスごとに分離した電力不一致方程式を生成するステップと、
前記電力不一致方程式を用いて電力不一致を求めるステップと、
前記電力不一致を所定の閾値と比較するステップと、
前記比較が偽となるか又は所定の反復数に達するまで、前記バスごとに、かつ前記比較が真である場合に、前記電力不一致方程式を反復して解くステップであって、バス電圧振幅補正値及びバス位相角補正値を得るものと、
を含み、
前記ステップはプロセッサにおいて実行される、方法。
【請求項2】
前記電力不一致方程式は極座標を用い、有効電力不一致方程式及び無効電力不一致方程式を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有効電力不一致方程式は、部分ピボット選択を用いたスパースな下三角及び上三角分解(LUP)によって解かれ、前記バス位相角補正値が得られ、前記無効電力不一致方程式は、不完全なLU前処理器(ILU)を用いたリスタート一般化最小残差(GMRES)法によって解かれ、バス電圧振幅補正値が得られる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ゼロインピーダンス分岐のスレーブバスにおける分路インピーダンス、注入電流、及び電力はマスターバスに統合され、前記ゼロインピーダンス分岐において暗黙的に表された関連する変圧及び変流は前記等価なモデルにおける隣接した分岐インピーダンスに結合される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ゼロインピーダンス分岐の前記スレーブバスを除いて、全ての前記バスについて等価なバスアドミタンス行列を構築するステップと、
分路補償及び定インピーダンス負荷を、モデリングされることになる対応するバスの自己アドミタンス要素に付加するステップと、
を更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記バスごとの初期電圧振幅及び初期位相角が知られていない場合、該初期電圧振幅及び該初期位相角を設定するステップを更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
初期バス電圧振幅及び初期バス位相角を用いて位相角にわたって有効電力のヤコビ行列及びヘッセ行列を求めるステップと、
前記初期バス電圧振幅及び前記初期バス位相角を用いてバス電圧振幅にわたって無効電力のヤコビ行列を求めるステップと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
三角関数を、二次までの対応するテイラー級数展開に置き換えるステップと、
簡単化を一切行わずにフル分岐インピーダンスを有する前記ヤコビ行列及び前記ヘッセ行列を計算するステップと、
を更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
対応するマスターバス複素電圧を前記ゼロインピーダンス分岐モデルの変圧比と乗算することによってスレーブバスの電圧振幅及び位相角を求めるステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
現在のバス電圧振幅及び現在の位相角並びに分岐インピーダンスに基づいて全ての非ゼロインピーダンス分岐について電流を求めるステップと、
バス複素電流平衡定理に基づいて前記ゼロインピーダンス分岐を通って前記スレーブバスに入る電流を求め、バス複素電力平衡定理に基づいて電力を求めるステップと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−139090(P2012−139090A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−259336(P2011−259336)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(597067574)ミツビシ・エレクトリック・リサーチ・ラボラトリーズ・インコーポレイテッド (484)
【住所又は居所原語表記】201 BROADWAY, CAMBRIDGE, MASSACHUSETTS 02139, U.S.A.
【Fターム(参考)】