説明

平角電線

【課題】平角導体角部の絶縁皮膜の膜厚の減少を抑え、電気絶縁性のよい平角電線を提供する。
【解決手段】断面形状が平角形状の平角導体10と、平角導体10の外周に被覆された絶縁皮膜12と、を有する平角電線1において、絶縁皮膜12は、平角導体10の対向する一対の側面側の膜厚B(B’)を対向する他の一対の側面側の膜厚A(A’)より厚くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平角導体の外周に絶縁皮膜を形成した平角電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、平角電線は、導体として、四隅の角部のそれぞれが略直角であり断面形状が長方形(平角)上の平角導体と、該平角導体の外周に形成される絶縁皮膜と、を有するものである。
【0003】
平角電線の電気絶縁性が低いと、平角電線をコイル加工した際にコイル内で電気ショートが引き起こされる可能性がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、コイル加工する際に平角導体同士が対向する対向面部位に、他の部位より厚い絶縁皮膜を形成した平角電線が開示されている。これにより、平角導体同士が対向する部位の電気絶縁性を改善することができる。
【0005】
平角電線の電気絶縁性の低下は、特に、平角導体の角部の絶縁皮膜の膜厚の減少に原因がある。これは、平角導体の外周に絶縁皮膜を形成する際に、絶縁皮膜となる絶縁材料の表面張力により、絶縁皮膜の断面形状は、角部のRが大きい楕円形状となるため、平角導体の角部が絶縁皮膜から露出してしまったり、角部の絶縁皮膜の膜厚が薄くなったりするからである。
【0006】
例えば、特許文献2には、平角導体角部の絶縁皮膜の膜厚を平角導体平坦部の絶縁皮膜の膜厚より厚くした平角電線が開示されている。
【0007】
また、例えば、特許文献3には、平角導体角部の形状を多角形状として、平角導体角部の絶縁皮膜の膜厚が薄くなることを防止した平角電線が開示されている。
【0008】
なお、ステータコアの絶縁構造についてではあるが、例えば、特許文献4には、ステータコアの内周方向に突出する歯部に塗装される絶縁皮膜の塗膜厚を、歯部によって形成される溝部内面の塗膜厚よりも歯部外側面の塗膜厚を厚くしたステータコアが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭60−234439号公報
【特許文献2】特開2009−123418号公報
【特許文献3】特開2004−134113号公報
【特許文献4】特開昭63−59742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、平角導体角部の絶縁皮膜の膜厚の減少を抑え、電気絶縁性のよい平角電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、断面形状が平角形状の平角導体と、前記平角導体の外周に被覆された絶縁皮膜と、を有する平角電線であって、前記絶縁皮膜は、前記平角導体の対向する一対の側面側の膜厚が、対向する他の一対の側面側の膜厚より厚い。
【0012】
また、前記平角電線において、前記一対の側面側の膜厚に対する前記他の一対の側面側の膜厚の割合が1.05〜1.5の範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、平角導体角部の絶縁皮膜の膜厚の減少を抑え、電気絶縁性のよい平角電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る平角電線の構成の一例を示す模式断面図である。
【図2】(A)は、本実施形態に係る平角電線を製造するための押出機の構成の一例を示す模式図であり、(B)は、押出機の構成部品であるダイスの先端の開口部の模式平面図である。
【図3】本実施形態に係る平角電線をコイル化した時の平角電線同士の接触パターンを示す模式断面図である。
【図4】従来の平角電線の構成の一例を示す模式断面図である。
【図5】参考例の平角電線をコイル化した時の平角電線同士の接触パターンを示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について以下説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る平角電線の構成の一例を示す模式断面図である。図1に示すように、平角電線1は、断面形状が平角形状の平角導体10と、平角導体10の外周に被覆された絶縁皮膜12と、を有する。
【0017】
平角導体10は、例えば、銅や銅合金の線がその代表例としてあげられるが、銀等の他の金属の線等であってもよい。また、絶縁皮膜12は、例えば、エナメル皮膜、ポリウレタン皮膜、ポリエステル皮膜、ポリエステルイミド皮膜等が挙げられる。
【0018】
本実施形態では、平角導体10の外周に被覆される絶縁皮膜12が、平角導体10の対向する一対の側面側の絶縁皮膜12の膜厚B(及び膜厚B’)が、対向する他の一対の側面側の絶縁皮膜12の膜厚A(及び膜厚A’)より厚くなっている。
【0019】
図4は、従来の平角電線の構成の一例を示す模式断面図である。図4に示す平角電線2のように、平角導体11の4つの側面に絶縁皮膜13を同じ膜厚で被覆しようとすると、絶縁材料の表面張力によって、絶縁皮膜13の断面形状は、角部のRが大きい楕円形状となるため、平角導体11の角部が絶縁皮膜13から露出したり、平角導体11の角部の絶縁皮膜13の膜厚が平角導体11の側面(平坦部)より薄くなってしまったりする。
【0020】
しかし、本実施形態のように、絶縁皮膜12となる絶縁材料を平角導体10の外周に被覆するに当たって、平角導体10の対向する一対の側面側を、対向する他の一対の側面側より厚く被覆することによって、絶縁材料の表面張力によって絶縁皮膜13の断面形状は角部のRが小さい楕円形状となる。そのため、平角導体10の角部の絶縁皮膜12が露出したり膜厚が減少したりすることを抑制することができる(すなわち、角部の絶縁皮膜12の膜厚を減少するような絶縁材料の流動を抑制することができる)。その結果、平角導体10の角部の絶縁皮膜12の膜厚の減少を抑え、平角電線1の電気絶縁性を改善することが可能となる。
【0021】
図1に示す平角電線1では、断面視において、平角導体10の短辺上の絶縁皮膜12の膜厚B,B’を、平角導体10の長辺上の絶縁皮膜12の膜厚A,A’より厚く形成したものを例としているが、平角導体10の角部の絶縁皮膜12の膜厚の減少を抑える点では、断面視において、平角導体10の長辺上の絶縁皮膜12の膜厚A,A’を、平角導体10の短辺上の絶縁皮膜12の膜厚B,B’より厚く形成してもよい。但し、絶縁材料の使用量を低減し、コストを削減することができる点で、断面視において、平角導体10の短辺上の絶縁皮膜12の膜厚B,B’を、平角導体10の長辺上の絶縁皮膜12の膜厚A,A’より厚く形成することが好ましい。
【0022】
平角導体10の対向する一対の側面側の絶縁皮膜12の膜厚A(及び膜厚A’)が、対向する他の一対の側面側の絶縁皮膜12の膜厚B(及び膜厚B’)より厚く形成されていれば、一対の側面側の絶縁皮膜12の膜厚A,A’間の厚みは異なっていてもよいし、また、他の一対の側面側の絶縁皮膜12の膜厚B,B’間の厚みも異なっていてもよい。
【0023】
平角導体10の角部の絶縁皮膜12の膜厚の減少を効率的に抑制するためには、一対の側面側の膜厚A(及び膜厚A’)に対する他の一対の側面側の膜厚B(及び膜厚B’)の割合(B/A又はB’/A’)が1.05〜1.5の範囲であることが好ましい。例えば、上記膜厚の割合(B/A又はB’/A’)が1.05未満であると、平角導体10の角部の絶縁皮膜12の膜厚の減少を十分に抑えることができず、平角電線1の電気絶縁性が低下する場合があり、上記膜厚の割合(B/A又はB’/A’)が1.5を超えると、平角電線1をコイル化した時の平角電線1の占積率の低下が引き起こされる場合がある。
【0024】
次に、本実施形態に係る平角電線1の製造方法の一例を説明する。
【0025】
図2(A)は、本実施形態に係る平角電線を製造するための押出機の構成の一例を示す模式図であり、図2(B)は、押出機の構成部品であるダイスの先端の開口部の模式平面図である。図2(A)に示すように、押出機14は、ポイント16とポイント16の外側に配置されるダイス18とから構成されるクロスヘッド19と、平角導体10が巻回された素材ドラム20と、を備える。なお、図での説明は省略するが、素材ドラム20とクロスヘッド19の間には、平角導体10のよれ等を防止する中継ローラーが複数配置されている。ポイント16とダイス18との間には、絶縁皮膜12の原料である絶縁材料(塗料)が流れる流路22が形成されている。
【0026】
まず、素材ドラム20に巻回された平角導体10が、ポイント16の先端に形成された通路内をほぼ水平に供給されると共に、絶縁材料(塗料)が流路22に送液される。そして、平角導体10がダイス18の先端の開口から押し出される際に、絶縁材料が平角導体10の外周に被覆され、絶縁皮膜12が形成される。ここで、平角導体10の側面に被覆される絶縁皮膜12の膜厚は、例えば、ダイス18の先端の開口の形状・大きさによって調整することができる。図2(B)に示すように、ダイス18の先端の開口24を通過する平角導体10と開口24との間の隙間が、平角導体10の側面に被覆される絶縁皮膜12の膜厚となる。したがって、例えば、平角導体10の対向する一対の側面とダイス18の先端の開口24との間の隙間が広くなるように、ダイス18の先端の開口24の横幅Wを広くすることで、平角導体10の対向する一対の側面に被覆される絶縁皮膜12の膜厚を厚くすることができる。また、例えば、平角導体10の対向する他の一対の側面とダイス18の先端の開口24との間の隙間が狭くなるように、ダイス18の先端の開口24の縦幅Hを狭くすることで、平角導体10の対向する他の一対の側面に被覆される絶縁皮膜12の膜厚を薄くすることができる。
【0027】
上記のように構成された本実施形態に係る平角電線1は、電気車両等において採用されるモータコイルの作製に好適に用いられる。図3は、本実施形態に係る平角電線をコイル化した時の平角電線同士の接触パターンを示す模式断面図である。図5は、参考例の平角電線をコイル化した時の平角電線同士の接触パターンを示す模式断面図である。図3及び5に示すように、平角電線をコイル化した際には、ある二つの平角電線の側面同士及び角部同士が近接して対向した状態で配置されることとなる。
【0028】
図5に示す参考例の平角電線3は、平角導体15の4つの側面のうちの1つの側面の絶縁皮膜17の膜厚B’をそれ以外の側面の絶縁皮膜17の膜厚(A,A’,B)より厚くしたものである。すなわち、絶縁皮膜17を厚くした側面と反対側側面の平角導体15の角部では、絶縁皮膜17の膜厚が薄くなり易い。このような参考例の平角電線3をコイル化した場合では、絶縁皮膜17の膜厚を厚くした側面同士が対向した状態(図5の(A)参照)でしか、電気絶縁性を高く維持することができない。したがって、参考例の平角電線3をコイル化した際に、絶縁皮膜17の膜厚の薄い角部側の側面同士が対向した状態(図5の(B)参照)や絶縁皮膜17の膜厚を厚くした側面と絶縁皮膜17の膜厚の薄い角部側の側面とが対向した状態(図5の(C)参照)が存在すると、絶縁皮膜17の膜厚の薄い角部が電気絶縁性低下の起点となり、コイル全体の電気絶縁性が低下してしまう。特に、絶縁皮膜17の膜厚の薄い角部側の側面同士が対向すると(図5の(B)参照)、絶縁皮膜17の膜厚の薄い角部同士が近接するため、電気絶縁性の低下が顕著となる。
【0029】
これに対し、本実施形態に係る平角電線1は、平角導体10の対向する一対の側面の絶縁皮膜12の膜厚(B,B’)を、対向する他の一対の側面の絶縁皮膜12の膜厚(A,A’)より厚くして、平角導体10の角部の絶縁皮膜12の膜厚の減少を抑えているため、図3(A)〜(C)のいずれのパターンで平角電線1を配置しても、電気絶縁性の低下を抑えることが可能となる。
【符号の説明】
【0030】
1〜3 平角電線、10,11,15 平角導体、12,13,17 絶縁皮膜、14押出機、16 ポイント、18 ダイス、19 クロスヘッド、20 素材ドラム、22流路、24 開口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が平角形状の平角導体と、前記平角導体の外周に被覆された絶縁皮膜と、を有する平角電線であって、
前記絶縁皮膜は、前記平角導体の対向する一対の側面側の膜厚が、対向する他の一対の側面側の膜厚より厚いことを特徴とする平角電線。
【請求項2】
前記一対の側面側の膜厚に対する前記他の一対の側面側の膜厚の割合が1.05〜1.5の範囲であることを特徴とする請求項1記載の平角電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−12401(P2013−12401A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144445(P2011−144445)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】