説明

平面導波路型レーザ装置

【課題】 厚さ方向にシングルモードのレーザ出力が得られる平面導波路型レーザ装置を得る。
【解決手段】 コアとなる平板状のレーザ媒質、前記レーザ媒質の上下に設けられたクラッド、を有し、レーザ光を導波する光平面導波路と、前記光平面導波路の側面に近接して設けられ前記レーザ光を反射するレーザ光反射手段と、前記光平面導波路の側面と前記光反射手段の間に設けられ、前記レーザ光を自由空間伝搬させるレーザ光空間伝搬手段と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、平面導波路型のレーザ媒質を用いたレーザ光の発振器または増幅器等において空間シングルモードのレーザ出力を得るためのレーザ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば非特許文献1に示されるような固体レーザにおいて用いられる固体レーザ媒質の形状は、一般にロッド型、スラブ型、ディスク型、平面導波路型、3次元導波路型、ファイバ型等がある。これらの固体レーザでは、側面又はレーザ端面から励起光を導入して利得を発生させ、レーザ発振器、又は、レーザ増幅器を構成し、レーザ出力を得る。
【0003】
ここで、取り出されるレーザ出力は、集光特性や伝搬特性から空間シングルモードのガウスビームであることが好ましい場合がある。このため、ロッド型、スラブ型、ディスク型等の固体レーザ媒質を用いたレーザ共振器では、空間シングルモードを得るための共振器の設計を行うことがある。また、モード歪の原因となる固体レーザ媒質内での熱レンズ効果等の補償を行う場合がある。
【0004】
一方で、平面導波路型、3次元導波路型、ファイバ型等の導波路形状のレーザ媒質では、屈折率分布によるレーザ光の閉じ込めが行われており、レーザ光の空間伝搬モードは導波路の導波モードとなる。導波路における導波モードは、レーザ光の波長、コアとクラッド層間の屈折率差、コア層の厚さにより決まり、これらの値を適切に設定することにより単一の空間モードだけを導波可能な導波路を作製することが可能である。
【0005】
一般に、単一の空間モードを伝搬可能な光導波路として、シングルモード光ファイバがある。シングルモード光ファイバでは、石英ガラスを母材とし、円柱形のコアの外周にコアよりも屈折率の少し低いクラッド層を設け、コアとクラッド層間の屈折率差により、光をコア内に閉じ込めて伝搬させる。単一の導波モードを得るために、シングルモード光ファイバではコアとクラッド層間の比屈折率差は1%以下と小さく、コアの直径も数μm程度に小さくなっている。光ファイバでは、不純物イオン等の添加によるガラス母材の屈折率調整によりコアとクラッド層間の比屈折率差を小さくすることが可能であり、ファイバ製作時の線引き工程によりコア径を細径に加工可能なことから、シングルモード光ファイバの製作が実現できている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jacob I. Mackenzie, et al., "Multi-Watt, High Efficiency, Diffraction-Limited Nd:YAG Planar Waveguide Laser", IEEE Journal of Quantum Electronics, Vol. 39, No. 3, pp. 493-500, March 2003.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方で、平面導波路型の導波路形状のレーザ媒質では、コアである平面状に研磨したレーザ媒質とクラッド材を接合して導波路を形成するが、線膨張係数の差などからクラッド材として使用できる材質には制限があり、屈折率の調整が困難な場合も多く、コアとクラッド層間の比屈折率差が大きくなってしまうことがある。また、コアとクラッド層間の比屈折率差が小さい場合においても、厚さ方向に1つの導波モードのみが伝搬可能であるシングルモードの導波路を製作するためには、コア層の厚さを数μm程度に小さくする必要がある。これは材料強度や厚さの加工精度等の問題から製造が困難となる場合がある。また、導波路の製作が可能な場合にも、導波路にレーザ光を効率良く結合させるためには、入射するレーザ光をコア層の厚さ以下に集光し、かつ集光NA(Numerical Aperture)を導波路のNAに合わせる必要があり、集光位置のアライメント精度も非常に厳しいものとなるなど、使用上の問題点がある。
【0008】
上記のように、導波路形状のレーザ媒質では、レーザ光の空間モードは導波路の材料および形状により決まり、外部から導波路内部の導波モードを制御することは困難であった。また、平面導波路では、シングルモードの導波路を製作することは難しく、実使用上の制限も大きいため、導波路自体は高次のモードまで導波可能なマルチモード導波路とし、レーザ光の入射方法等の調整により高次モードの励振を抑える方法や、高次モードだけに損失を与えることによりシングルモードのレーザ出力を得る手法が用いられていた。
【0009】
レーザ光の入射方法等の調整により高次モードの励振を抑える手法では、入射光のアライメント調整精度による影響が大きくなる。また、導波路内の熱分布の変化や導波路端面の加工精度に依存して導波モードが劣化するなどの問題が生じる。
また、高次モードの損失を大きくする手法として、高次モードが基本モードよりもクラッドへの染み出し成分が大きいことを利用してクラッドの外側に吸収層を設けるなどの方法が考えられるが、クラッド層の厚さの制御や付加可能な損失の大きさに制限があり、導波路の製作時に吸収層を含む形状での設計、製作が必要となるなどの問題がある。
【0010】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、厚さ方向に高次モードまで導波可能な平面導波路形状の固体レーザにおいて、高次の導波モードに損失を与えることによって基本モードを選択的に出力させ、単一空間モードのレーザ出力を得る平面導波路型レーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る平面導波路型レーザ装置は、
コアとなる平板状のレーザ媒質、前記レーザ媒質の上下に設けられたクラッド、を有し、レーザ光を導波する光平面導波路と、
前記光平面導波路の側面に近接して設けられ前記レーザ光を反射するレーザ光反射手段と、
前記光平面導波路の側面と前記光反射手段の間に設けられ、前記レーザ光を自由空間伝搬させるレーザ光空間伝搬手段と、
を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明では、レーザ光反射手段で反射されたレーザ光が導波路に再結合する際に高次の導波モードに損失を与え、低次の導波モードは低損失とすることで、高効率に単一空間モードのレーザ出力を得る平面導波路型レーザ装置を得られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1による平面導波路型レーザ装置の上面図である。
【図2】この発明の実施の形態1による平面導波路型レーザ装置のA−A´線に沿った断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1による平面導波路型レーザ装置の動作を説明する図である。
【図4】この発明の実施の形態2による平面導波路型レーザ装置の断面図である。
【図5】この発明の実施の形態2による平面導波路型レーザ装置の動作を説明する図である。
【図6】この発明の実施の形態3による平面導波路型レーザ装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
以下、この発明による平面導波路型レーザ装置を好適な各実施の形態に基づき図面を用いて説明する。なお、各実施の形態で同一もしくは相当する部分は同一符号で示し重複する説明は省略する。
【0015】
図1はこの発明の実施の形態1による平面導波路型レーザ装置の上面図であり、図2は図1のA−A´線に沿って紙面に対して垂直な面内での断面図を示している。
【0016】
図1、図2において、平面導波路型レーザ装置は、平板状のレーザ媒質3の互いに平行に対向する一対の主面4、5上にそれぞれ接合されたクラッド18、19、互いに対向する一対の端面6、7上にそれぞれ接合されたレーザ光空間伝搬層15、17、レーザ光空間伝搬層15、17上にそれぞれ施されたレーザ光高反射膜14、16、端面7の一部にレーザ光空間伝搬層17およびレーザ光高反射膜16の代わりに設けられたレーザ光反射防止膜13を有する。レーザ媒質3の互いに平行に対向する一対の側面8、9は励起光発生源1から励起光2を導入する。
【0017】
コアであるレーザ媒質3と上下のクラッド18、19から光平面導波路を形成しており、この光平面導波路内をレーザ光が導波する。レーザ光高反射膜14、16はレーザ光反射手段として動作する。また、レーザ光空間伝搬層15、17はレーザ光空間伝搬手段として動作する。
【0018】
レーザ媒質3としては、結晶、セラミック、ガラスなどの一般的な固体レーザ材料を使用することができる。また、Nd、Yb、Er、Tm、Hoなど一般的な活性媒質を添加した固体レーザ材料であっても良い。
【0019】
レーザ媒質3は平面導波路型であり、1軸方向に厚さの薄い平板の形状である。ここで、説明のために、レーザ媒質3の厚さ方向をz軸とし、図1に示すようにレーザ媒質3の平面内の2軸をx軸、y軸と呼び、3軸がそれぞれ互いに直交した座標系を用いる。
【0020】
レーザ媒質3は、互いに対向する一対の端面6、7は平行ではなく、所定の方向に沿った端面6に対して端面7がxy面内で所定のテーパー角度で傾斜している。すなわち、一方の端面7が所定方向に沿って延びる他方の端面6との間隔が徐々に広がるように前記所定方向に対して所定のテーパー角度で傾斜している。レーザ媒質3の端面6上には、レーザ光空間伝搬層15が接合されており、レーザ光空間伝搬層15上にはレーザ光高反射膜14が施されている。また、レーザ媒質3の端面7上には、レーザ光空間伝搬層16が接合されており、レーザ光空間伝搬層16上にはレーザ光高反射膜16が施されており、一部にはレーザ光反射防止膜13が施されている。この構造により、所定の入射角度を持ってレーザ媒質3に入力されたレーザ入射光11は、レーザ光高反射膜14、16間で反射されながらレーザ光伝搬光12で表される光路を通過し、レーザ出力光11としてレーザ入射光10と略同一の光路で逆向きに出力される。
【0021】
図2に示すクラッド18、19は、レーザ媒質3に比べて小さな屈折率を有し、レーザ媒質3のxy平面に平行な主面4、5上にそれぞれ接合されている。クラッド18、19は、例えば、光学材料を原料とした膜を蒸着するか、光学材料をオプティカルコンタクト又は拡散接合等によってレーザ媒質3と光学的に接合することにより構成される。なおクラッド18,19は図示せぬ基板に接合されていても良い。さらに該基板は図示せぬヒートシンクに接合されていても良い。基板及びヒートシンクはレーザ媒質3のxy平面の片側であっても良いし、対向する2面の両側に接合されていてもよい。なおレーザ媒質3、基板、ヒートシンクは接合材(好ましくは熱伝導率の良い接合材)等で接合される。
【0022】
図1中、両側の励起光発生源1は、レーザ媒質3の側面8、9にそれぞれ近接して配置され、励起光2をレーザ媒質3に出力する。励起光発生源1には、図示は省略したが必要に応じて冷却用のヒートシンク等が接合される。励起光発生源1には、マルチエミッタ半導体レーザやブロードエリアLD(Laser Diode)、ファイバ出力LDの出力ファイバを配列上に設置したものなどが使用できる。励起光発生源1のx軸方向の大きさはレーザ媒質3のx軸方向の大きさとほぼ等しいことが好ましく、出力される励起光2がレーザ媒質3内で導波路伝搬できるように出力光の広がり角が好適なものを用いる。また、図1において、励起光発生源1は、レーザ媒質3の側面8、9にそれぞれ近接して配置されているが、励起光発生源1とレーザ媒質3の間にレンズ等の光学部品を設置し、励起光2をコリメートまたは集光状態にしてレーザ媒質3へと入力しても良い。なお、励起光発生源1は必ずしもレーザ媒質3の両側に配置する必要はなく、片側のみに配置しても良い。ただし、レーザ媒質3内の励起光分布を一様に近づけるためには、図1のようにレーザ媒質3の両側に配置することがより望ましい。
【0023】
次に動作について説明する。励起光発生源1から出力された励起光2は、レーザ媒質3の側面8、9からレーザ媒質3に入射して、y軸方向に伝搬しながらレーザ媒質3に吸収される。レーザ媒質3で励起光2が吸収されることで、レーザ媒質3内部でレーザ光に対する利得を発生する。レーザ媒質3内で発生した利得により、通過するレーザ光は増幅作用を受けて、レーザ出力が増加する。レーザ種光を準備してレーザ媒質3に導入し増幅を行わせることでレーザ増幅器になり、出力したレーザ光の一部を反射する図示せぬ出力鏡を、出力したレーザの光軸上に軸と直交するように配置することでレーザ媒質3内のレーザ光が発振し、レーザ発振器となる。このため、以降の説明は、特に説明がない限り、レーザ発振器およびレーザ増幅器の両方に適用される。
【0024】
ここで、端面7のレーザ光反射防止膜13からレーザ入射光10をレーザ媒質3内に導入する。まず、xy平面内でのレーザ光の伝搬経路について説明する。前述のようにレーザ入射光10はレーザ媒質3のレーザ光反射防止膜13に対してxy平面内で所定の入射角度を持って入力される。レーザ媒質3に入力されたレーザ入射光10は、レーザ媒質3内を伝搬し、端面6へと到達する。端面6上にはレーザ光空間伝搬層15が接合されており、レーザ光はレーザ光空間伝搬層15を透過してレーザ光高反射膜14で反射され、再びレーザ光空間伝搬層15を透過してレーザ媒質3へと戻り伝搬する。次に、レーザ光は端面7に到達し、端面7上のレーザ光空間伝搬層17を透過してレーザ光高反射膜16で反射され、再びレーザ光空間伝搬層17を透過してレーザ媒質3へと戻り伝搬する。
【0025】
ここで、xy平面内において、端面6に対して端面7は所定のテーパー角度で傾斜しているため、端面7に対するレーザ光の入射角度は前記端面6への入射時に比べて小さくなる。これにより、レーザ光高反射膜16での反射角も小さくなり、次に端面6に到達した際の入射角は1回目に端面6へ入射した際の入射角よりも小さくなる。以降、レーザ光高反射膜14、16間で反射を行うごとに反射面に対する入射角が小さくなっていき、レーザ光伝搬光12に示すような光路を通過する。反射を繰り返し、端面6または7への入射角が略0度になると、レーザ光はそれまでと略同一の光路を逆向きに伝搬するようになり、レーザ光反射防止膜13からレーザ出力光11として出力される。
【0026】
レーザ光空間伝搬層15、17は、屈折率がレーザ媒質3と同一であれば端面の境界部分でのレーザ光の屈折、反射は発生しない。屈折率が異なる場合、端面境界部分での屈折により、xy平面内でのレーザ光の光路が変化するが、レーザ光空間伝搬層15、17の厚さが十分に小さければ光路の変化は無視できるほどに小さい。
【0027】
端面6、7間のテーパー角度、レーザ媒質3のxy面内のy方向の幅、x方向の長さ、入射するレーザ光のビーム幅、レーザ光反射防止膜13の幅は、レーザ媒質3内を伝搬するレーザ光のビームオーバーラップ効率が高く、レーザ光の伝搬経路長が長くなるように設定する。ビームオーバーラップ効率は、レーザ媒質3の全体面積のうち、レーザ光のビームが通る面積の割合である。ビームオーバーラップ効率が大きいと、励起光のエネルギーを効率良くレーザ光に取り出すことができる。通常、レーザ光の反射回数が多くなるようにすると、レーザ光の伝搬経路長が長くなり、ビームオーバーラップ効率も増加する。
【0028】
図1に示すような導波路形状およびレーザ光経路では、レーザ光の光路長を長くとることができ、ビームオーバーラップ効率も高くすることができるため、高効率で高出力なレーザ出力を得ることができる。
【0029】
次に、導波路断面方向内でのレーザ光の伝搬、つまり、レーザ媒質3の厚さ方向すなわちxz面内でのレーザ光の伝搬について説明する。レーザ媒質3では、クラッド18、19との屈折率差により、レーザ光をレーザ媒質3内に閉じ込めて伝搬させる導波路となる。導波路において、レーザ光は導波モードと呼ばれる特定の電磁界分布を持って伝搬する。導波モードは、レーザ光の波長と、コア(ここではレーザ媒質3に相当する部分)とクラッド間の屈折率差、コアの厚さにより決まる。一般的には、レーザ光の波長は長く、屈折率差は小さく、コアの厚さは薄くなるほど導波可能なモード数は減少する。単一の導波モードのみが導波可能な導波路はシングルモード導波路と呼ばれる。
【0030】
ここで、レーザ媒質3の厚さをt、屈折率をnとする。またクラッド18、19の屈折率をnとする。Erを添加したガラスをレーザ媒質3として想定すると、屈折率はn=1.5程度である。クラッドにもコアと屈折率の近いガラスを用いるものとし、コアとクラッドの比屈折率差Δ=(n^2−n^2)/(2*n^2)=0.1%であるとする。また、レーザ光の波長はErが利得を持つ1550nmであるとする。
このとき、コアの厚さtが11.55μm以下であれば、導波路は基本モードのみが伝搬可能なシングルモード導波路となる。
しかし、このような導波路は、材料強度や厚さの加工精度等の問題から製造が困難となる場合がある。また、導波路の製作が可能であった場合でも、導波路にレーザ光を効率良く入射させることが難しくなるなど、使用上の問題点がある。
このため、コアの厚さを厚くして製作する場合があり、このとき導波路は厚さ方向に高次のモードまで複数のモードが導波可能なマルチモード導波路となる。
【0031】
このようなマルチモード導波路では、レーザ光の入射時に高次モードへの結合を防ぎ、基本モードだけを励振させるようにして、シングルモードの出力を得ようとする方法があるが、導波路の面精度や屈折率分布の影響により、導波路内部での高次モードへの変換が発生し、出力光のモードが劣化(高次モード化)するなどの問題がある。また、高次のモードほどクラッドへの電界成分の染み出しが大きくなることから、クラッドの外側にレーザ光の吸収層を設けることにより、高次モードの損失を大きくし、低次モードのみを出力させるなどの方法があるが、この方法ではクラッド層の厚さなど、吸収層の設置に合わせた設計、製造が必要となるなどの問題がある。
【0032】
本発明の構成では、導波路端面6、7とレーザ光高反射膜14、16の間にそれぞれレーザ光空間伝搬層15、17を設置している。
この構成では、導波路端面6、7に到達したレーザ光は、それぞれレーザ光空間伝搬層15、17を透過し、それぞれレーザ光高反射膜14、16で反射され、再度レーザ光空間伝搬層15、17を透過して導波路端面6、7へと入射され、導波路の導波モードへと結合されて伝搬する。
【0033】
レーザ光空間伝搬層15、17は、図のz方向において、レーザ媒質3の厚さよりも長い構造を有している。
【0034】
導波路内においては、クラッド18、19があるため、レーザ光は導波モードにより導波路厚さ方向のビーム径を一定にして伝搬する。しかし、レーザ光空間伝搬層15、17では、レーザ光は空間伝搬し回折によりビーム径を拡げながら伝搬する。このため、端面から出射したレーザ光がレーザ光高反射膜14、16で反射され、再度端面へと戻ったときに、レーザ光のビーム径は出射時よりも大きくなる。回折によるビーム径の拡がりは高次のモードほど大きいため、端面へ再入射するレーザ光のビーム径は高次モードほど大きくなる。これにより、高次モードほど導波路へと結合する割合が低下し、損失が大きくなる。
【0035】
図3にレーザ光空間伝搬層15、17の厚さに対する各モードの損失を表す模式図を示す。0次モードが基本モードであり、1次モード以上のモードが高次モードである。0次モードは最も損失が小さく、次数の大きいモードほど損失が大きくなる。0次モードの損失が十分に小さい範囲で、高次モードの損失が大きくなるようにレーザ光空間伝搬層15、17の厚さを設定することにより、0次モードだけが選択して増幅させるようになり、シングルモードのレーザ出力が得られるようになる。
このようにして、レーザ光空間伝搬層15、17を設けることにより、高次モードに対して損失を与えることができ、導波路伝搬モードの選択を行うことができるようになる。
【0036】
また、本構成の平面導波路型レーザ装置では、導波路の両端面に設けたレーザ光高反射膜14、16により、複数回の反射を行うため、反射の度に上記高次モードへの損失が付加されることになり、0次モードの選択性の効果が大きくなる。さらに、1回の反射における高次モードの損失が小さい場合でも、反射回数が多いことにより全体としての高次モードへの損失が大きくなり、0次モードの選択性を高めることができる。これにより、レーザ光空間伝搬層15、17を薄くしても高次モードに対して十分に大きな損失を与えることができるため、0次モードに対する損失を相対的にさらに低減させることができ、高効率、高出力なシングルモード出力のレーザ装置を構成することができる。
【0037】
レーザ光空間伝搬層15、17については、結晶やガラスなどレーザ光に対して透過損失の小さい固体材料を選定して用いることができるが、端面での反射の影響を無くすためにはレーザ媒質3と同じ屈折率を持つ材料であることが好ましい。このため、レーザ媒質3と同じ光学材料で活性媒質を添加していない材料が好適である。また、端面での反射を抑えるためには反射防止膜を用いることもできる。一般的に反射防止膜は厚さが薄いため、十分な厚さを得るために反射防止膜を数層に重ねて用いることもできる。さらに、膜材料によっては反射防止膜にレーザ光空間伝搬層15、17となる固体材料を接合して用いても良い。上記のように、レーザ光空間伝搬層15、17は、固体材料をオプティカルコンタクトや拡散接合等によって接合したり、光学材料を蒸着やスパッタ等により成膜することにより構成可能である。
【0038】
また、これに限らず、レーザ光空間伝搬層15、17は、空気層あるいは真空層などであっても構わない。
【0039】
レーザ光空間伝搬層15、17の厚さについては、0次モードのビーム径により、0次モードの損失が十分に小さい範囲で高次モードの損失が大きくなるように設定するが、一般的には、レーザ光空間伝搬層15、17の厚さを、レーザ媒質3の厚さと同程度かレーザ媒質3の厚さよりやや薄い値にした場合に、この条件が得られやすい。具体的な値としては、通常数〜数10μm程度になる。ただし、この値はレーザ装置の材料やその他のパラメータによっても変化する。
【0040】
本発明の構成では、導波路の外部にレーザ光空間伝搬層15、17を設ける構成となっており、レーザ光空間伝搬層15、17は導波路の特性に合わせて設計、製作することができる。このため、通常は導波路構造のみで決定されてしまい調整不能となる導波路からの出力光の伝搬モードを、導波路構造の決定後でも制御可能となり、平面導波路型レーザ装置の出力光の伝搬モードの制御に対して非常に有用である。
【0041】
図2において、レーザ光空間伝搬層15、17は、図のz方向において、レーザ媒質3の厚さよりも長い構造を有している場合を示しているが、これに限らず、レーザ媒質3の厚さと同程度の長さであっても、その両側あるいは片側にレーザ光空間伝搬層15、17よりも大きい屈折率を有する材料を接合させれば、同様にレーザ光空間伝搬手段として動作する。
【0042】
なお、本発明は、一般的なシングルクラッド型やレーザ光と励起光を閉じ込め分布を異ならせるダブルクラッド型などの導波路構造、および1回反射や複数回反射などのレーザ光の伝搬光路によらず、マルチモード導波路において端面に高反射膜を設けて少なくとも1回の反射パスを利用するすべての平面導波路型レーザ装置に対して適用することができる。
【0043】
以上のように本実施の形態では、厚み方向に単一の空間モードで出力する平面導波路型レーザ装置を得られる効果がある。
【0044】
実施の形態2.
実施の形態1では、レーザ媒質3の端面6、7とレーザ光高反射膜14、16の間にレーザ光の空間伝搬層15、17を設ける構造であったが、レーザ光高反射膜14、16の構造によりレーザ光空間伝搬層の働きを持たせることができる。実施の形態2としてレーザ光高反射膜14、16に反射率分布を持たせ、レーザ光高反射膜23とした場合について説明する。
【0045】
図4は、この発明の実施の形態2による平面導波路型レーザ装置の、レーザ媒質3の端面6とレーザ光高反射膜23の付近のみを拡大して示した図である。実施の形態2では、図1に示すレーザ装置の構成に対して、レーザ光空間伝搬層15、17が無く、レーザ光高反射膜14、16の特性が異なるのみで、その他の構成は実施の形態1と同じものとして、ここでは説明を省略する。
また、図5はレーザ光高反射膜23の端面6からの距離に対する反射率分布を示している。
【0046】
図4および図5に示すように、レーザ光高反射膜23はレーザ媒質3の端面6からの距離が大きくなるほど反射率が大きくなるような反射率分布を持つ反射体である。このため、レーザ光が等価的に反射されるレーザ光等価反射面までの間に、端面6から出射したレーザ光が空間伝搬する領域を持つことになる。これにより、実施の形態1においてレーザ光空間伝搬層15、17を設けた場合と同様に、高次モードに損失を与えることができ、基本モードである0次モードを選択的に増幅させ、出力させることができるようになる。
【0047】
すなわち、図4におけるレーザ光高反射膜23は、レーザ光反射手段とレーザ光空間伝搬手段の動作を同時に合わせ持つ機能を有する。
【0048】
反射率分布を持つレーザ光高反射膜23としては、誘電体多層膜の積層による反射膜の製造において、積層する膜の各層の厚さを調整することにより設計、製造が可能である。また、レーザ媒質3の端面6上の第1層目を厚くすることでも対応できる。さらに、端面での反射を防ぐために第1層目に反射防止膜の構造を持たせることもできる。また、反射防止膜の構造を数層に渡って持たせることにより高次モードの損失が大きくなるための厚さを確保することもできる。
【0049】
このようにして、レーザ媒質3の端面6、7に施すレーザ光高反射膜23に反射率分布を持たせることにより、高次モードに損失を与えることができ、シングルモードのレーザ出力を得ることができる。
【0050】
実施の形態3.
実施の形態2としてレーザ光高反射膜23に反射率分布を持たせる場合を述べたが、反射率分布をもつ反射体としてブラッググレーティング25があり、これを用いることができる。
【0051】
図6は、この発明の実施の形態3による平面導波路型レーザ装置の、レーザ媒質3の端面6とブラッググレーティング25の付近のみを拡大して示した図である。実施の形態3では、図1に示すレーザ装置の構成に対して、レーザ光空間伝搬層15、17が無く、レーザ光高反射膜14、16の代わりにブラッググレーティング25が設置されており、その他の構成は実施の形態1と同じものとして、ここでは説明を省略する。
【0052】
ブラッググレーティング25は、屈折率の周期的な分布によりレーザ光を反射する機能を持つ。図6に示すように、レーザ媒質3の端面6にブラッググレーティング25を接合し、端面6からブラッググレーティング25の屈折率の周期分布までの距離を適切に設定することにより、実施の形態1および実施の形態2と同様に、レーザ光が反射されるまでの間に端面6から出射したレーザ光が空間伝搬する領域を持つことになる。これにより、高次モードに損失を与えることができ、基本モードである0次モードを選択的に増幅させ、出力させることができるようになる。
【符号の説明】
【0053】
1 励起光発生源、2 励起光、3 レーザ媒質、4 レーザ媒質主面、5 レーザ媒質主面、6 レーザ媒質端面、7 レーザ媒質端面、8 レーザ媒質側面、9 レーザ媒質側面、10 レーザ入射光、11 レーザ出力光、12 レーザ光伝搬光、13 レーザ光反射防止膜、14 レーザ光高反射膜、15 レーザ光空間伝搬層、16 レーザ光高反射膜、17 レーザ光空間伝搬層、18 クラッド、19 クラッド、20 0次モードの損失、21 1次モードの損失、22 2次モードの損失、23 レーザ光高反射膜、24 レーザ光高反射膜23の反射率、25 ブラッググレーティング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアとなる平板状のレーザ媒質、前記レーザ媒質の上下に設けられたクラッド、を有し、レーザ光を導波する光平面導波路と、
前記光平面導波路の側面に近接して設けられ前記レーザ光を反射するレーザ光反射手段と、
前記光平面導波路の側面と前記光反射手段の間に設けられ、前記レーザ光を自由空間伝搬させるレーザ光空間伝搬手段と、
を備えたことを特徴とする平面導波路型レーザ装置。
【請求項2】
前記光平面導波路と前記レーザ光空間伝搬手段との間にレーザ光反射防止膜を備えたことを特徴とする請求項1に記載の平面導波路型レーザ装置。
【請求項3】
前記レーザ光空間伝搬手段は前記レーザ媒質と同じ光学材料であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の平面導波路型レーザ装置。
【請求項4】
前記レーザ光空間伝搬手段は多層のレーザ光反射防止膜からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の平面導波路型レーザ装置。
【請求項5】
前記レーザ光反射手段と前記レーザ光空間伝搬手段として、前記光平面導波路の端面からの距離が大きくなるにつれて反射率が高くなる反射率分布を持つ反射体を用いたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の平面導波路型レーザ装置。
【請求項6】
前記反射体としてブラッググレーティングを用いたことを特徴とする請求項5に記載の平面導波路型レーザ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−89790(P2013−89790A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229478(P2011−229478)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】