説明

幹細胞の分化のための方法および組成物

本発明は、フィーダー細胞または血清の利用を必要とせず、規定された細胞培養培地を使用してヒト多能性幹細胞から造血前駆細胞または内皮前駆細胞を作製する方法および組成物を提供する。いくつかの実施形態では、低酸素雰囲気条件を使用して分化を達成する。本発明の規定された培地は、増殖因子およびマトリックス成分を含んでもよい。造血前駆細胞は、赤血球、マクロファージ、顆粒球および巨核球などの細胞系統にさらに分化させてもよい。内皮前駆細胞は、内皮細胞にさらに分化させてもよい。さらに、多能性幹細胞の前駆細胞への分化に影響を与える候補物質を同定するためのスクリーニングアッセイも開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本出願は、2009年2月20日に出願された米国仮特許出願番号61/154,210に対する優先権を主張し、上記米国仮特許出願は、参照によって本明細書に援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は全般的に分子生物学および医学の分野に関する。より詳細には、本明細書は、胚性幹細胞から造血前駆細胞および内皮前駆細胞などの前駆細胞を作製するための方法および組成物に関する。本発明はさらに、前駆細胞を作製するためのキット、および多能性幹細胞の分化を促進する物質をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(関連技術の説明)
ヒト胚性幹細胞は、インビトロで無限に培養増殖することができるため、少なくとも原理的には、問題または障害のあるヒト組織に代わる細胞および組織を供給することができる。造血幹細胞および前駆細胞は医療において大きな可能性があることから、胚性幹細胞からの造血前駆細胞の分化の方法を改良しようとする多くの研究がなされてきた。ヒト成人の場合、造血幹細胞の少数は主に骨髄に存在し、活発に分裂する造血前駆細胞(CD34+)の不均一な集団を形成しており、これが血液系のすべての細胞に分化する。CD34は他の細胞型、特に内皮細胞(血管)にも発現するため、CD34+マーカーは造血細胞の十分なマーカーとは言えない。このため、造血前駆細胞を同定しやすくするため、CD43マーカーなど他のマーカーも使用してもよい(たとえば、非特許文献1;非特許文献2)。成人ヒトの造血前駆体は増殖および分化して1日に数千億個の成熟血液細胞を産生する。造血前駆細胞は臍帯血にも存在する。
【0004】
胚性幹細胞からは、造血細胞だけでなく内皮前駆細胞、さらに最終的に内皮細胞を分化させることも有用である。内皮細胞は血管の管壁を構成する細胞であり、体内の様々なプロセスにとって重要である。たとえば、内皮細胞は血管形成、血圧の制御、血液凝固、炎症および濾過に役割を果たしている。内皮細胞は不均一な細胞群であり、血管径、個々の臓器に対する特異性、および形態に依存して様々な特徴を持つ場合がある。内皮細胞のいくつかの特徴として、CD31、CD105(エンドグリン)およびWillebrand因子(第VIII因子とも呼ばれる)の発現のほか、アセチル化低密度リポタンパク質(ac−LDL)の取り込み能が挙げられる。
【0005】
多能性幹細胞(PSC:pluripotent stem cell)の分化を促進するこれまでの方法は、胚様体を形成したり(たとえば、非特許文献3)、あるいはマウス胎仔線維芽細胞などのマウスフィーダー細胞を使用したり(たとえば、非特許文献4)する必要があった。残念ながら、これらのアプローチには、臨床的可能性を制限し得るいくつかの問題がある。
【0006】
分化を誘導するために「胚様体」(EB:embryoid body)、すなわち増殖細胞のクラスターを形成するには、一般にインビトロでヒト多能性幹細胞をEBへと凝集させ、ヒト多能性幹細胞を自発的かつ不規則に内胚葉起源、外胚葉起源および中胚葉起源を示す複数の組織型に分化させる。これらの三次元EBは、造血細胞および内皮細胞の生成に使用し得る前駆細胞の一部を含む。残念ながら、EBを形成する方法は、多くの場合、非効率的かつ面倒なもので、EBの形成および分離に関する複数のステップが複雑であるため、自動化の利用をより困難なものにし得る。たとえば、EBの形成プロセスは造血前駆細胞のコロニー全体を必要とするのが通常であり、非効率的である。さらに、EBを利用するには、自動化または大規模な自動化に大きな問題がある胚様体の分離など複雑な方法が必要とされる。
【0007】
マウス線維芽細胞などのフィーダー細胞株を使用してヒト多能性細胞を培養することは、以前の共培養における種間の接触に関連する、予想外の変換が起こるリスクがある。ヒト多能性幹細胞培養の目的の1つは最終的に人体に移植できる組織を作製することにあるため、幹細胞は、別の種の細胞、または別の種の細胞の培養に使用した培地と接触しないことが非常に望ましい。したがって、ヒト多能性幹細胞からヒト造血前駆細胞または内皮前駆細胞を作製する技法の継続的な開発に際しては、いかなる共培養ステップも使用せずにヒト多能性幹細胞を造血細胞系統または内皮細胞系統へと分化できる培養条件を明らかにすることに大きな関心が向けられている。
【0008】
また、分化培地における血清の使用もいくつかの欠点および問題となる可能性がある。たとえば、非特許文献3で使用されたように、血清は、増殖細胞への栄養素の供給に使用できる動物生成物である。しかしながら、様々なバッチにおける個々の血清の組成ははっきりとしたものではなく、これはある血清のバッチに、同型の血清の異なるバッチと比較して異なる増殖因子、または異なる濃度の増殖因子が含まれ得ることを意味する。こうした不確実性は、同一条件下で行われた実験で作製された造血細胞の収率のばらつきを助長する恐れがある。加えて、血清の使用により臨床開発において大きな規制上の問題が発生し、商品化を一層困難にする可能性もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Kadaja−Saarepuu et al. Oncogene, 2008, 27(12):1705−1715
【非特許文献2】Vodyanik et al., Blood, 2006, 108(6):2095−2105
【非特許文献3】Chadwick et al.., Blood, 2003, 102(3):906−915
【非特許文献4】Wang et al., Nature Biotech., 2007, 25(3):317−318
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現在、多能性幹細胞を別の動物種由来の材料に接触させることも、あるいは胚様体を形成することもせずに、造血前駆細胞または内皮前駆細胞に分化させる効率的な方法が明確に求められている。さらに、規定された分化培地、および追加の分化ステップを可能にし、再現性のある結果を与え、血清またはフィーダー細胞を加える必要がない条件も求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の概要)
本発明は、間質フィーダー細胞を使用したり、または胚様体を形成したりせずに多能性幹細胞から造血細胞および内皮細胞を作製し、再現性よく分化する方法および組成物を提供することにより従来技術の限界を克服するものである。さらに、本発明の方法は、たとえば規定された分化培地および特定の大気条件を使用することにより多能性幹細胞の分化を改善する。本明細書で使用する場合、「規定された条件」、「規定された培地」および「規定された分化」という用語は、培地の全成分が既知量であり、かつ明らかでない成分、血清またはフィーダー細胞(たとえば、マウス胎仔線維芽細胞)を使用しない培養条件をいう。「明らかでない成分」とは、未知の構成要素を含むか、あるいは既知の構成要素を未知の量で含む成分である。規定された条件は、たとえば、分化させた細胞をヒト患者などの被験体に治療投与する場合がある用途で特に有用であり得る。「血清」という用語は、本明細書で使用する場合、増殖細胞に栄養素を与えるために培地に加えてもよいヒト以外の動物の生成物をいう。
【0012】
いくつかの実施形態では、培地は非ヒト動物のタンパク質、非ヒト動物の核酸、あるいはそのどちらをも本質的に含まない。他の実施形態では、培地は非ヒト哺乳動物のタンパク質、非ヒト哺乳動物の核酸、あるいはそのどちらをも本質的に含まない。
【0013】
ある種の実施形態では、本発明は、ヒト多能性幹細胞をCD34+、CD31+またはCD43+前駆細胞に分化させる方法を提供する。この方法は、フィーダー細胞を含まないか、あるいはフィーダー細胞を本質的に含まず、マトリックス成分、およびBMP−4、VEGFまたはbFGFなどの少なくとも1種の組換え型増殖因子を含む培地で多能性幹細胞を培養するか、あるいは分化させるステップを含んでもよい。多能性幹細胞は、約5.5%未満酸素の低酸素雰囲気下でCD34+前駆細胞、CD31+前駆細胞またはCD43+前駆細胞を得るための期間分化させてもよい。
【0014】
本明細書で使用する場合、「多能性細胞」または「多能性幹細胞」は、本質的にどのような胎児または成人細胞型にも分化する能力を持つ細胞である。多能性幹細胞の例示的な種類として、胚性幹細胞および誘導多能性幹細胞(すなわちiPS細胞)が挙げられるが、これに限定されるものではない。こうした多能性幹細胞は哺乳動物の多能性幹細胞であってもよい。ある種の実施形態では、多能性幹細胞はヒト多能性幹細胞である。
【0015】
ある態様では、本発明は、多能性幹細胞を前駆細胞に分化させる方法および組成物を提供する。本明細書で使用する場合、「前駆細胞」とは、多能性幹細胞に由来し、細胞系統が決定された(lineage-committed)細胞をいう。したがって、前駆細胞は多能性幹細胞より分化しているとはいえ、依然として2種以上の細胞に分化する能力を持つ。たとえば、造血前駆細胞は多能性幹細胞より分化しているが、造血前駆細胞はなお、たとえば赤血球(erythrocyte)、マクロファージ、顆粒球、巨核球、樹状細胞またはマスト細胞に分化する能力を持つ。本発明のいくつかの実施形態では、前駆細胞は造血前駆細胞である。他の実施形態では、前駆細胞は内皮前駆細胞である。なお他の実施形態では、前駆細胞は、造血細胞または内皮細胞に分化できる血液内皮(hematoendothelial)(または血管芽細胞)前駆細胞である。
【0016】
本明細書に開示された方法のいくつかの実施形態は、特異的表面マーカーを発現する細胞に関する。たとえば、いくつかの方法は、CD34を発現する前駆細胞などの細胞を対象とする。CD34+前駆細胞の例として、造血前駆細胞、内皮前駆細胞および血液内皮前駆細胞があるが、これに限定されるものではない。他の実施形態はCD31+前駆細胞に関し、内皮前駆細胞および血液内皮前駆細胞を挙げることができるが、これに限定されるものではない。本発明のいくつかの態様は、CD43+細胞に関し、造血前駆細胞を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0017】
本発明のある種の実施形態は、少なくとも1種のマトリックス成分および少なくとも1種の組換え型増殖因子を含むが、フィーダー細胞を含まないか、あるいはフィーダー細胞を本質的に含まない分化培地で多能性幹細胞を増殖させることを含む、多能性幹細胞を前駆細胞に分化させる方法に関する。本発明の方法および組成物に有用なマトリックス成分として、フィブロネクチン、コラーゲンまたはRGDペプチドを挙げることができるが、これに限定されるものではない。特定の実施形態では、培地は1種または複数種の組換え型増殖因子を含み、これは増殖因子を組換えDNA技術を使用して作製することを意味する。本発明の方法および組成物に有用な増殖因子として、BMP−4、VEGFまたはbFGFがあるが、これに限定されるものではない。本発明の培養培地は、2種以上の組換え型増殖因子を含んでもよい。ある種の実施形態では、培養培地は、VEGFおよびbFGFを含む。
【0018】
いくつかの態様では、本発明は、多能性幹細胞を分化させる方法であって、培養培地がフィーダー細胞を含まないか、あるいはフィーダー細胞を本質的に含まない方法を対象とする。他の態様では、本発明は、多能性幹細胞を分化させる方法であって、培養培地が血清を含まないか、あるいは血清を本質的に含まない方法を対象とする。本発明に有用な培養培地はフィーダー細胞を含まなくてもよいし、血清を含まなくてもよく、あるいは、特定の実施形態では、培養培地はフィーダー細胞および血清をどちらも含まない。本発明は、特定の態様では、明らかでない成分、非ヒト動物血清またはフィーダー細胞を含まないか、あるいは明らかでない成分、非ヒト動物血清またはフィーダー細胞を本質的に含まない規定された分化培地を提供する。血清またはフィーダー細胞を含まない培地とは、検出可能な血清またはフィーダー細胞を含まない培地である。血清を本質的に含まない培地は、血清を約1%未満、0.5%未満、0.1%未満、0.05%未満、0.01%未満、0.001%未満または任意の中間の百分率で含む。フィーダー細胞を本質的に含まない培地は、フィーダー細胞を培養面1平方センチメートル当たり約500個未満、250個未満、100個未満、50個未満、10個未満、5個未満、1個未満または任意の中間の数で含む。
【0019】
他の実施形態では、培養培地は、MatrigelTMを含まなくても、またはMatrigelTMを本質的に含まなくてもよい。MatrigelTMは、マウス腫瘍細胞が分泌する、明らかでないゼラチン状のタンパク質混合物で、BD Biosciences(New Jersey,USA)から市販されている。MatrigelTMは、未知の構成要素および未知量の構成要素を含むため、明らかでない成分と見なされる。MatrigelTMを含まない培地は、検出可能なMatrigelTMを含まない。MatrigelTMを本質的に含まない培地は、MatrigelTMを約0.2mg/cm未満、0.1mg/cm未満、0.05mg/cm未満、0.01mg/cm未満、0.005mg/cm未満、0.0001mg/cm未満または任意の中間の濃度で含む。
【0020】
血清またはフィーダー細胞またはMatrigelTMを含まないか、または血清またはフィーダー細胞またはMatrigelTMを本質的に含まない培養条件を得るには、単純にこうした成分を培地に加えないようにするだけでよい。さらに、血清またはフィーダー細胞を誤って加えることを避けるには、分化培地に添加する構成要素に血清、フィーダー細胞または明らかでない構成要素が含まれていないことを確認すればよい。あるいは、目的のフィーダー細胞に特異的な抗体を使用して、分化培地が動物系のフィーダー細胞を含まないか、あるいは動物系のフィーダー細胞を本質的に含まないようにしてもよい。たとえば、分化培地が、マウス系のフィーダー細胞であるマウス胎仔線維芽細胞を含まないか、またはマウス胎仔線維芽細胞を実質的に含まないようにするには、マウスCD29に対する抗体を使用してもよい。規定された培養培地では、フィーダー細胞、血清または明らかでない成分を培地に加えない。
【0021】
本発明は、ある態様では、前駆細胞を得るのに十分な時間、約5.5%未満酸素の低酸素雰囲気下で多能性幹細胞の分化を行う。こうした実施形態では、低酸素雰囲気は、酸素ガスを約0.5%〜約5.3%含んでもよい。いくつかの実施形態では、低酸素雰囲気は酸素ガスを約1.5%〜約5.3%含んでもよく、低酸素雰囲気は、約5%酸素ガスを含んでもよい。特定の実施形態では、低酸素雰囲気は、約5%酸素ガス、約5%二酸化炭素ガスおよび約90%窒素ガスを含む。種々の実施形態では、2つ以上の分化ステップを含むか、および/または2種以上の培地を使用する。そうした実施形態では、こうした1つまたは複数のステップは、低酸素雰囲気条件を含んでもよい。
【0022】
いくつかの実施形態では、本方法は、前駆細胞を収集するステップを含む。特定の実施形態では、前駆細胞を培養から4日から16日後に収集する。たとえば、造血前駆細胞は、培養から8日から12日後に収集しても、または培養から6日から9日後に収集してもよい。内皮前駆細胞は、たとえば培養から6日から14日後に収集してもよい。
【0023】
本発明の方法では、分化培地は、BMP−4、VEGFまたはbFGFを約5ng/mL〜約200ng/mL含んでもよい。他の実施形態では、分化培地は、BMP−4、VEGFまたはbFGFを約25ng/mL〜約75ng/mL含んでもよい。特定の実施形態では、分化培地は、BMP−4、VEGFまたはbFGFを約50ng/mL含んでもよい。他の特定の実施形態では、培養培地は、BMP−4、VEGFおよびbFGFを約50ng/mLを含む。
【0024】
本発明に有用な分化培地は、1種または複数種のアミノ酸、抗生物質、ビタミン、塩、ミネラルまたは脂質をさらに含んでもよい。いくつかの実施形態では、培地は、以下の1種または複数種を含む:BIT9500、BMP4、VEGF、bFGF、L−グルタミン、非必須アミノ酸、モノチオグリセロール、ペニシリンまたはストレプトマイシン。また、培地が上述の成分をすべて含み得ることも意図しており、さらに培地は上述の成分の1種または複数種を含む一方、上述の成分の1種または複数種を特に除外してもよいことも意図している。特定の実施形態では、培養培地は、約20%BIT9500、約50ng/mLのBMP4、約50ng/mLのVEGF、約50ng/mLのbFGF、約2mMのL−グルタミン、約0.1mMの非必須アミノ酸、約450μMのモノチオグリセロール、ペニシリンおよびストレプトマイシンを含む。培養培地は、TeSR1、TeSR2またはmTeSRなどのTeSR培地を含んでもよく、すなわち培地は、TeSR培地中に存在する1種または複数種の成分を含んでもよい。
【0025】
本発明に有用な分化培地は、生存因子を含んでもよい。生存因子は、たとえば、HA100またはH1152などのRho関連キナーゼ(ROCK:Rho−associated kinase)のインヒビターでも、またはブレビスタチンなどのミオシンIIのインヒビターでもよい。
【0026】
いくつかの態様では、本発明の方法は、2つ以上の分化ステップを含む。こうした態様では、2つ以上の分化培地を使用してもよい。たとえば、第1の分化培地を使用して多能性幹細胞の前駆細胞への分化を惹起し、その後第2の分化培地を使用して前駆細胞を増殖および維持するか、あるいは前駆細胞をさらに分化させるステップを行ってもよい。
【0027】
こうした第2の分化培地は以下の1種または複数種を含んでもよい:BIT9500、BMP4、VEGF、bFGF、L−グルタミン、非必須アミノ酸、モノチオグリセロール、ペニシリン、ストレプトマイシン、L−グルタミン+β−メルカプトエタノール(β−ME)、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT−3)、幹細胞因子(SCF:stem cell factor)、トロンボポエチン(TPO:thrombopoietin)、インターロイキン3(IL(interleukin)−3)、インターロイキン6(IL−6)またはヘパリン。いくつかの実施形態では、第2の分化培地は、BIT9500、非必須アミノ酸、L−グルタミン+β−ME、FLT−3、SCF、TPO、IL−3、IL−6およびヘパリンを含む。しかし、第2の分化培地はこれらの成分の1種または複数種を含む一方、これらの成分の1種または複数種を特に除外してもよいことも意図している。いくつかの実施形態では、第2の分化培地は、以下の1種または複数種を含む:アミノ酸、抗生物質、ビタミン、塩、ミネラル、脂質、TeSR培地、またはTeSR培地の1種または複数種の成分。いくつかの実施形態では、第2の分化培地は、約20%BIT9500、約1%非必須アミノ酸、約1%L−グルタミン+β−ME、約25ng/mLのFLT−3、約25ng/mLのSCF、約25ng/mLのTPO、約10ng/mLのIL−3、約10ng/mLのIL−6および約5U/mLのヘパリンを含んでもよい。こうした培地は、造血前駆細胞の維持または増殖に、あるいは造血前駆細胞をさらに分化させるのに有用である場合がある。特定の実施形態では、この第2の分化培地は造血前駆細胞を分化させるのに有用である。
【0028】
複数の分化ステップまたは培地を使用する実施形態では、1つの分化ステップまたは分化培地を任意に特に除外してもよいことを意図している。さらに、本発明に有用な分化培地では、本発明の分化培地の構成要素となり得るものとして本明細書に開示された成分の1種または複数種を培地から特に除外してもよい。
【0029】
いくつかの態様では、多能性幹細胞は、分化培地で培養する前に未分化状態で培養しても、または維持してもよい。たとえば、多能性幹細胞は、分化培地で培養する前にTeSR培地で培養しても、または維持してもよい。ある種の実施形態では、未分化状態の幹細胞の維持に使用する培養培地は、TeSR培地およびROCKのインヒビターを含む。他の実施形態では、未分化状態の幹細胞の維持に使用する培養培地は、TeSR培地およびミオシンIIのインヒビターを含む。ある態様では、未分化のステップで幹細胞の維持に使用する培養用培地は、コラーゲン、フィブロネクチンまたはRGDペプチドなどのマトリックス成分を含む。
【0030】
本明細書に開示された方法により作製される前駆細胞は、たとえば磁気活性化細胞ソーター(MACS:magnetic activated cell sorter)で精製しても、フローサイトメトリーで精製しても、または蛍光活性化細胞ソーティング(FACS:fluorescence−activated cell sorting)で精製してもよい。特定の実施形態では、CD34、CD43、CD31、CD105または第VIII因子などの細胞マーカーの発現に基づき、前駆細胞を同定または精製する。たとえば造血前駆細胞または内皮前駆細胞は、CD34マーカーの発現に基づき精製してもよく、いくつかの実施形態では、内皮前駆細胞は、CD31マーカーの発現に基づき精製してもよい。ある種の実施形態では、造血前駆細胞をCD34マーカーおよびCD43マーカーの発現に基づき精製する。
【0031】
本発明のいくつかの方法は、多能性幹細胞コロニーまたはクローン細胞群を分散させ、分散した本質的に個別の細胞を形成するステップ、および分散させた細胞を、生存因子を含んでいてもよい培地に播種するステップを含む。たとえば、細胞は、培養面1平方センチメートル当たり約10,000幹細胞から培養面1平方センチメートル当たり約70,000幹細胞の密度で播種してもよい。ある種の実施形態では、培養面1平方センチメートル当たり約10,000幹細胞から培養面1平方センチメートル当たり約50,000幹細胞の密度で、または培養面1平方センチメートル当たり約20,000幹細胞から培養面1平方センチメートル当たり約70,000幹細胞の密度で細胞を播種してもよい。ある種の実施形態では、細胞は機械的手段により分散させても、または酵素的手段により分散させてもよい。たとえば、細胞は、トリプシンもしくはtrypLEまたはAccutase(登録商標)のような酵素の混合物など、有効量の1種または複数種の酵素で処理して分散させてもよい。
【0032】
ある態様では、本発明の方法は、マトリックス成分および/または生存因子を含んでもよい培養用培地に多能性幹細胞を播種して培地を形成するステップ;フィーダー細胞を含まないか、あるいはフィーダー細胞を本質的に含まず、BMP−4、VEGFおよびbFGFからなる群より選択される少なくとも1種の組換え型増殖因子を含む分化培地を培地に加えるステップ;約5.5%未満酸素の低酸素雰囲気下で前駆細胞を得るのに十分な時間、細胞を分化させるステップを含んでもよい。ある種の実施形態では、これらのステップの1つまたは複数を使用して、CD34+前駆細胞、CD31+前駆細胞、CD43+前駆細胞またはCD34+CD43+前駆細胞を作製すればよい。次いで前駆細胞は収集してもよく、さらに分取してもよい。この時点で、前駆細胞は維持しても、増殖させても、あるいはさらに分化させてもよい。たとえば、本発明は、CD34+前駆細胞を、たとえば赤血球(erythrocytes)、マクロファージ、顆粒球、巨核球、樹状細胞、マスト細胞または内皮細胞にさらに分化させる方法を提供する。本発明はまた、CD31+前駆細胞を内皮細胞または間葉系細胞にさらに分化させる方法も提供する。
【0033】
ある種の実施形態では、本発明は、ヒト多能性幹細胞を前駆細胞に分化させる方法であって、ロボットを使用して本方法の少なくとも一部を自動化することを含む、方法を提供する。たとえば、複数のヒト胚性幹細胞はバイオリアクターを使用して培養してもよい。
【0034】
いくつかの態様では、本発明は、フィーダー細胞、血清またはその両方を含まなくても、またはフィーダー細胞、血清またはその両方を本質的に含まなくてもよい分化培地を提供する。いくつかの実施形態では、分化培地はMatrigelTMを含まないか、あるいはMatrigelTMを本質的に含まない。他の実施形態では、分化培地は、明らかでない成分(たとえば、MatrigelTMなど)、血清およびフィーダー細胞を含まないか、あるいは明らかでない成分(たとえば、MatrigelTMなど)、血清およびフィーダー細胞を本質的に含まない、規定された分化培地である。なお他の態様では、分化培地は非ヒト動物増殖因子を含まなくても、または非ヒト動物増殖因子を本質的に含まなくてもよい。分化培地は、ある種の実施形態では、非ヒト動物のタンパク質を含まなくても、または非ヒト動物のタンパク質を本質的に含まなくてもよい。特定の実施形態では、分化培地はフィーダー細胞、血清およびMatrigelTMを含まない。
【0035】
本発明の分化培地は、BMP−4、VEGFおよびbFGFの1種または複数種を含んでもよい。本発明の分化培地は、BMP−4を約5ng/mL〜約200ng/mL、または約50ng/mLの量で含んでもよい。分化培地は、VEGFを約5ng/mL〜約200ng/mL、または約50ng/mLの量で含んでもよい。分化培地は、bFGFを約5ng/mL〜約200ng/mL、または約50ng/mLの量で含んでもよい。ある種の実施形態では、分化培地は、1種または複数種のアミノ酸、抗生物質、ビタミン、塩、ミネラルまたは脂質を含む。他の実施形態では、分化培地は、フィブロネクチン、コラーゲンまたはRGDペプチドなどのマトリックス成分を含む。分化培地はさらに、ROCKのインヒビターまたはミオシンIIのインヒビターなどの生存因子を含んでもよい。
【0036】
いくつかの実施形態では、本発明の分化培地は、BIT9500、BMP4、VEGF、bFGF、L−グルタミン、非必須アミノ酸、モノチオグリセロール、ペニシリンまたはストレプトマイシンを含む。分化培地がこれらの成分をすべて含んでもよいし、あるいは分化培地がこれらの成分の1種または複数種を含む一方、特にこれらの成分の1つまたは複数を除外してもよいことを明確に意図している。一部の実施形態では、分化培地は約20%BIT9500、約50ng/mLのBMP4、約50ng/mLのVEGF、約50ng/mLのbFGF、約2mMのL−グルタミン、約0.1mMの非必須アミノ酸、約450μMのモノチオグリセロール、約100I.U.のペニシリンおよび約0.1mgのストレプトマイシンを含んでもよい。分化培地は、塩、ミネラル、脂質、アミノ酸、ビタミン、またはTeSR1培地、TeSR2培地もしくはmTeSR1培地の他の構成要素の1種または複数種をさらに含んでもよい。
【0037】
ある態様では、本発明の分化培地は、以下の1種または複数種を含む:β−メルカプトエタノール(β−ME)、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT−3)、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン3(IL−3)、インターロイキン6(IL−6)またはヘパリン。いくつかの態様では、分化培地は、BIT9500、非必須アミノ酸、L−グルタミン+β−ME、FLT−3、SCF、TPO、IL−3、IL−6およびヘパリンの1種または複数種を含む。他の実施形態では、分化培地は、BIT9500、非必須アミノ酸、L−グルタミン+β−ME、FLT−3、SCF、TPO、IL−3、IL−6およびヘパリンを含んでもよい。しかしながら、分化培地はこれらの成分の1種または複数種を含む一方、特にこれらの成分の1種または複数種を除外してもよいことを明確に意図している。ある種の実施形態では、分化培地は、約20%BIT9500、約1%非必須アミノ酸、約1%L−グルタミン+β−ME、約25ng/mLのFLT−3、約25ng/mLのSCF、約25ng/mLのTPO、約10ng/mLのIL−3、約10ng/mLのIL−6および約5U/mLのヘパリンを含む。
【0038】
いくつかの実施形態では、本発明は、ヒト多能性幹細胞をCD31+前駆細胞、CD34+前駆細胞またはCD43+前駆細胞に分化させる方法に関する。こうした方法に使用する培養培地は、マトリックス成分、ならびにBMP−4、VEGFおよびbFGFからなる群より選択される少なくとも1種の組換え型増殖因子を含んでもよい。培地は、非ヒト動物血清、フィーダー細胞およびMatrigelTMを含まなくても、または非ヒト動物血清、フィーダー細胞およびMatrigelTMを本質的に含まなくてもよい。ある種の実施形態では、培地は非ヒト動物血清、フィーダー細胞およびMatrigelTMを含まなくてもよい。特定の実施形態では、培地は、非ヒト動物のタンパク質を含まなくても、または非ヒト動物のタンパク質を本質的に含まなくてもよい。いくつかのこうした方法では、多能性幹細胞を規定された分化培地で培養する。
【0039】
本発明の分化培地は、ある種の実施形態では、約0.5%酸素ガスから約5.3%酸素ガスの低酸素雰囲気下で維持してもよい。分化培地は、多能性幹細胞、前駆細胞、造血前駆細胞、内皮前駆細胞、CD34+前駆細胞、CD31+前駆細胞またはCD43+前駆細胞などの細胞をさらに含んでもよい。
【0040】
本発明は、いくつかの態様では、1つまたは複数の密封バイアルに分化培養培地を含むキットを対象とする。たとえば、キットは、約0.5%酸素ガスから約5.3%酸素ガスの低酸素雰囲気下で維持された分化培地を含んでいてもよい。キットは、多能性幹細胞、前駆細胞、造血前駆細胞または内皮前駆細胞などの細胞をさらに含んでもよい。
【0041】
本発明はさらに、多能性細胞のCD34+前駆細胞、CD31+前駆細胞またはCD43+前駆細胞への分化に影響を与える能力について候補物質をスクリーニングする方法も意図している。たとえば、多能性幹細胞は、フィーダー細胞を含まないか、あるいはフィーダー細胞を本質的に含まず、マトリックス成分、少なくとも1種の組換え型増殖因子(BMP−4、VEGFおよびbFGFなど)および候補物質を含む培養培地で培養してもよい。次いで多能性幹細胞は、前駆細胞を得るための期間、5.5%未満酸素の低酸素雰囲気下で分化させてもよい。その後、多能性幹細胞の所望の前駆細胞への分化を評価してもよい。いくつかの実施形態では、こうした方法を用いて分化を促進する候補物質をスクリーニングする。ある態様では、評価のステップは、候補物質の存在下での多能性幹細胞の分化と、候補物質を使用しない同様の細胞培地での多能性幹細胞の分化とを比較することを含む。たとえば、評価は、1種または複数種の分化マーカーの評価を含んでもよいし、または細胞形態の評価を含んでもよい。いくつかの実施形態では、候補物質は、小分子、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、抗体フラグメントまたは核酸を含んでもよい。
【0042】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に開示された方法により得られた薬学的有効量の前駆細胞、造血細胞または内皮細胞を被験体に投与することにより疾患、障害または傷害を処置する方法を提供する。ある態様では、提供される処置は、赤血球(erythrocytes)、マクロファージ、顆粒球、巨核球、樹状細胞、マスト細胞または内皮細胞を含んでもよい。たとえば、疾患は心血管の疾患であってもよく、処置は内皮細胞を含んでもよい。
【0043】
さらなる実施形態では、本発明は、クローン細胞集団であって、共通の祖先(多能性幹細胞など)に由来し、前駆細胞(CD34+前駆細胞、CD31+前駆細胞またはCD43+前駆細胞など)を含み、規定された培地中に存在する、クローン細胞集団を提供する。いくつかの実施形態では、細胞集団は、フィーダー細胞、血清またはその両方を含まないか、あるいはフィーダー細胞、血清またはその両方を本質的に含まない培地中に存在する。この集団はCD34+前駆細胞またはCD43+前駆細胞を5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、100%または任意の中間の百分率で含んでもよい。この集団は、CD31+前駆細胞またはCD34+前駆細胞を20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、100%または任意の中間の百分率で含んでもよい。特定の実施形態では、この集団は、CD34+前駆細胞、CD31+前駆細胞またはCD43+前駆細胞などの前駆細胞を約10個、10個、10個、10個、10個、1010個、1011個、1012個、1013個、1014個、1015個、1016個、1017個、1018個、1019個またはそれ以上を含む。なお他の実施形態では、本発明は、本明細書に開示された方法により作製されるCD34+前駆細胞、CD31+前駆細胞またはCD43+前駆細胞などの前駆細胞の集団を提供する。
【0044】
本発明の方法では、任意の1つのステップを除去してもよく、あるいは開示された組成物の構成要素のいずれか1つを除去してもよいことを意図している。本発明の分化培地では、開示された成分のいずれか1つを除去してもよいことを意図している。
【0045】
本特許請求の範囲および/または本明細書において「を含む(comprising)」という用語と共に「a」または「an」という語を使用する場合、「1つの」を意味し得るが、「1つまたは複数の」、「少なくとも1つの」および「1つまたは2つ以上の」を意味することもある。
【0046】
本明細書で検討される任意の実施形態は、本発明の任意の方法または組成物について実行することができ、その逆も同様であることを意図している。さらに、本発明の組成物を用いて本発明の方法を実行することもできる。
【0047】
本出願では、「約」という用語は、値に、その値の決定に使用する装置、方法に固有の誤差変動、または試験対象に存在するばらつきが含まれることを示すために使用する。
【0048】
特許請求の範囲において「または」という用語を使用する場合、代替物に限る、あるいは代替物は相互に排他的なものであるとの明確な記載がない限り「および/または」という意味で使用する。ただし本開示では、定義が、代替物のみと「および/または」とを指すことを支持する。
【0049】
本明細書および特許請求の範囲(単数または複数)に使用される「を含む(comprising)」(ならびに「を含む(comprise)」および「を含む(comprises)」など、を含む(comprising)の任意の形)、「を持つ(having)」(ならびに「を持つ(have)」および「を持つ(has)」など、を持つ(having)の任意の形)、「を含む(including)」(ならびに「を含む(includes)」および「を含む(include)」など、を含む(including)の任意の形)、または「を含む(containing)」(ならびに「を含む(contains)」および「を含む(contain)」など、を含む(containing)の任意の形)は包括的、すなわち幅広い解釈ができるものであり、記載されていない他の構成要素または方法のステップを排除するものではない。
【0050】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明により明らかになる。しかし、詳細な説明および個々の例については、本発明の具体的な実施形態を示すものではあるが、この詳細な説明から本発明の精神および範囲内で様々な変更および修正が当業者には明らかになるため、例示のみを目的としたものであることを理解すべきである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
(発明の詳細な説明)
本発明は、間質細胞または胚様体を必要とすることなくヒト多能性幹細胞から造血細胞または内皮細胞を作製する方法および組成物を提供する。いくつかの方法は規定された分化培地を使用するものであり、低酸素雰囲気条件を含んでもよい。こうした方法を使用してヒト造血前駆細胞を作製し、これをさらに赤血球(erythrocyte)、マクロファージ、顆粒球および/または巨核球などの細胞系統へ分化させてもよい。さらに、本方法を使用してヒト内皮前駆細胞を作製し、これをさらに内皮細胞に分化させてもよい。本発明の分化培地は、増殖因子(たとえば、BMP−4、VEGF、bFGF)を含んでもよく、フィブロネクチンなどのマトリックス成分と一緒に使用してもよい。
【0052】
(I.分化培地)
従来の多能性幹細胞の培養方法は、血清製品およびマウスフィーダー層に依存して多能性幹細胞を様々な細胞型に分化させてきた。これらの手順は、分化を行える規模を制限し、生物学的ばらつきおよびコンタミネーションの可能性を増大させ、そうでなければ有用であるはずのトランスレーショナル治療において多能性幹細胞の使用を著しく妨げている。
【0053】
したがって、本発明は、分化培地を提供する。分化培地は、フィーダー細胞を含まなくても、またはフィーダー細胞を本質的に含まなくてもよいし、血清を含まなくても、または血清を本質的に含まなくてもよいし、あるいはフィーダー細胞および血清を含まなくても、またはフィーダー細胞および血清を本質的に含まなくてもよい。ある種の実施形態では、分化培地は、非ヒト動物血清またはフィーダー細胞を含まないか、あるいは非ヒト動物血清またはフィーダー細胞を本質的に含まない規定された培地である。
【0054】
ある種の実施形態では、分化培地は増殖因子(たとえば、BMP−4、VEGFおよびbFGF)を含む。分化培地は、フィブロネクチンまたはコラーゲンなどのマトリックス成分と一緒に使用してもよい。分化培地は追加の栄養素、アミノ酸、抗生物質、緩衝剤および同種のものをさらに含んでもよい。
【0055】
分化培地は、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM:Iscove’s Modified Dulbecco’s Mediumとも呼ばれる)(Invitrogen,Carlsbad,CA)を含んでもよい。ある種の実施形態では、分化培地は、IMDMおよび下記表1に記載の1種または複数種の成分を含む。また、分化培地は、表1に記載の成分の1つまたは複数を含む一方、表1に記載の成分の1種または複数種を特に除外することも明確に意図している。他の実施形態では、分化培地は、表1に記載の成分をすべて含む。好ましい実施形態では、分化培地は、表1に記載の構成要素をほぼ表記の好ましい濃度で含む。
【0056】
【表1】

いくつかの実施形態では、表1に記載の1種または複数種の構成要素を含む分化培地など1つの培地で多能性幹細胞を分化させ、次いで前駆細胞を維持するか、増殖させるか、またはさらに分化させることを目的に第2の分化培地で培養する。こうした第2の分化培地は、表1に記載の1種または複数種の成分のほか、以下の1種または複数種を含んでもよい:β−メルカプトエタノール(β−ME)、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT−3)、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン3(IL−3)、インターロイキン6(IL−6)またはヘパリン。いくつかの態様では、第2の分化培地は、表1に記載の1種または複数種の成分のほか、IMDM、β−ME、FLT−3、SCF、TPO、IL−3、IL−6およびヘパリンを含む。いくつかの実施形態では 第2の分化培地は、IMDM、BIT9500、非必須アミノ酸、L−グルタミン+β−ME、FLT−3、SCF、TPO、IL−3、IL−6およびヘパリンを含む。しかし、第2の分化培地はこれらの成分の1種または複数種を含む一方、これらの成分の1種または複数種を特に除外することも明確に意図している。好ましい実施形態では、第2の培地はIMDMを含み、さらに約20%BIT9500、約1%非必須アミノ酸、約1%L−グルタミン+β−ME、約25ng/mLのFLT−3、約25ng/mLのSCF、約25ng/mLのTPO、約10ng/mLのIL−3、約10ng/mLのIL−6および約5U/mLのヘパリンを含む。特定の実施形態では、第2の分化培地は造血前駆細胞の維持および増殖に使用する。
【0057】
細胞は、本発明の分化培地で培養後収集してもよい。たとえば、細胞は、培養から1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、7日後、8日後、9日後、10日後、11日後、12日後、13日後、14日後、15日後、16日後、17日後、18日後、19日後または20日後に収集してもよい。いくつかの実施形態では、細胞は培養から4〜14日後に収集する。好ましい実施形態では、多能性幹細胞は、培養から8日間から12日間、6日間から9日間または6日間から10間分化させてもよい。
【0058】
(A.増殖因子)
当該技術分野においては様々な増殖因子が公知であり、本発明と共に使用してもよい。ある種の実施形態では、本発明の分化培地は、たとえば、BMP−4、VEGFおよびbFGFなど1種、2種またはそれ以上の増殖因子を含んでもよい。マウス胎仔線維芽細胞培養系を使用してこれらの増殖因子を用いれば、ヒト胚性幹細胞を造血細胞および内皮細胞に分化させることができる(Wang et al.,2007)。
【0059】
本発明の分化培地を構成し得る増殖因子として、BMP−4、VEGF、bFGF、幹細胞因子(SCF)、flt−3リガンド、インターロイキン3(IL−3)、インターロイキン6(IL−6)、インターロイキン9(IL−9)、インターロイキン11(IL−11)、インスリン関連増殖因子1(IFG(insulin related growth factor)1)、インスリン関連増殖因子2(IGFII)、エリスロポエチン(EPO:erythropoietin)、トロンボポエチン(TPO)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)および顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)があるが、これに限定されるものではない。本発明の分化培地は、これらの因子の1種、2種、3種またはそれ以上を含んでもよく、たとえば、細胞の増殖を増強したり、または細胞の分化状態を調節したりするため、規定された培地に他の増殖因子を含めてもよい。細胞応答を刺激するため、これらの因子を様々な量で使用してもよい(たとえば、Yamamura et al.,2007;Fadilah et al.,2007;Bashey et al.,2007に記載された量)。
【0060】
(1.BMP−4)
骨形成タンパク質−4(BMP−4)は骨形態形成タンパク質群のメンバーで、腹側中胚葉誘導因子である。BMPは成人ヒト骨髄(BM)に発現し、骨のリモデリングおよび成長に重要である。ある種の実施形態では、BMP4を加える必要があるのは、培養の最初の2〜3日間だけであり、その後は分化に有害な影響を与えずに系から除去し得る。
【0061】
BMP−4は、造血前駆細胞の増殖および分化能力を調節するうえで重要である(Bhardwaj et al.,2001;Bhatia et al.,1999;Chadwick 2003)。さらに、BMP−4は、ヒト胎児、新生児および成人の造血前駆細胞における造血細胞の初期発生を調節することもできる(Davidson and Zon,2000;Huber et al.,1998;Marshall et al.,2000)。たとえば、BMP−4は、成人および新生児由来の高度に精製された原始ヒト造血細胞の増殖および分化を調節することができ(Bhatia et al.,1999)、BMP−4はヒト胚性幹細胞の造血分化を促進することもできる(Chadwick,2003)。BMP−4はさらに、内皮前駆細胞からの内皮細胞の分化を促進することもできる(Wang et al.,2007)。
【0062】
ある種の実施形態では、BMP−4を本発明の分化培地に約2.5〜約500ng/mL、約5〜約500ng/mL、約5〜約200ng/mL、約5〜約100ng/mL、約25〜約200ng/mL、約25〜約75ng/mLまたはこれらから導き出せる任意の範囲の濃度で加える。ある種の実施形態では、BMP−4を分化培地に約2.5ng/mL、5ng/mL、10ng/mL、15ng/mL、20ng/mL、25ng/mL、30ng/mL、35ng/mL、40ng/mL、45ng/mL、50ng/mL、55ng/mL、60ng/mL、65ng/mL、70ng/mL、75ng/mL、80ng/mL、85ng/mL、90ng/mL、95ng/mLまたは約100ng/mLの濃度で加える。
【0063】
(2.VEGF)
内皮細胞増殖因子(VEGF)は、胎児の循環系の形成および血管形成に関与する重要なシグナル伝達タンパク質である。VEGFは、内皮および他の細胞型(たとえば、ニューロン、がん細胞、腎上皮細胞)など様々な細胞型に影響を与え得る。VEGFはインビトロで内皮細胞の分裂および遊走を刺激し得る。またVEGFの機能は、がん、糖尿病、自己免疫疾患および眼血管疾患など様々な病状において重要であることも明らかになっている。
【0064】
ある種の実施形態では、VEGFを本発明の分化培地に約2.5〜約500ng/mL、約5〜約500ng/mL、約10〜約200ng/mL、約5〜約100ng/mL、約25〜約200ng/mL、約25〜約75ng/mLまたはこれらから導き出せる任意の範囲の濃度で加える。ある種の実施形態では、VEGFを分化培地に約2.5ng/mL、5ng/mL、10ng/mL、15ng/mL、20ng/mL、25ng/mL、30ng/mL、35ng/mL、40ng/mL、45ng/mL、50ng/mL、55ng/mL、60ng/mL、65ng/mL、70ng/mL、75ng/mL、80ng/mL、85ng/mL、90ng/mL、95ng/mLまたは約100ng/mLの濃度で加える。
【0065】
(3.bFGF)
塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、FGF−2とも呼ばれる)は、四肢および神経系の発生、創傷治癒および腫瘍増殖など多様な生物学的プロセスに関係していると考えられている増殖因子である。これまでの研究から、bFGFは、ヒト胚性幹細胞のフィーダー非依存性増殖を支持するために使用されてきたが(Ludwig et al.,2006a)、造血細胞の発生または生存に影響を与えないと考えられることが明らかになっている(Ratajczak et al.,1996)。ある種の実施形態では、分化を誘導するのにbFGFを必要としない。このため、種々の実施形態では、bFGFを本発明の培地に加えても、あるいは加えてなくてもよい。
【0066】
ある種の実施形態では、bFGFを本発明の分化培地に約2.5〜約500ng/mL、約5〜約500ng/mL、約10〜約200ng/mL、約5〜約100ng/mL、約25〜約200ng/mL、約25〜約75ng/mLまたはこれらから導き出せる任意の範囲の濃度で加える。ある種の実施形態では、bFGFを分化培地に約2.5ng/mL、5ng/mL、10ng/mL、15ng/mL、20ng/mL、25ng/mL、30ng/mL、35ng/mL、40ng/mL、45ng/mL、50ng/mL、55ng/mL、60ng/mL、65ng/mL、70ng/mL、75ng/mL、80ng/mL、85ng/mL、90ng/mL、95ng/mLまたは約100ng/mLの濃度で加える。ある種の実施形態では、たとえば、上述の濃度で酸性FGF(aFGF)、FGF4、FGF9、FGF17またはFGF18など他の線維芽細胞増殖因子をbFGFの代わりに使用しても、またはbFGFと一緒に加えてもよいことを想定している。
【0067】
(4.SCF)
SCF(SCF、kitリガンド、KLまたはスティール因子とも呼ばれる)は造血、精子形成およびメラニン形成に関与するサイトカインである。本発明の方法では、SCFを培地に約2.5ng/mL、5ng/mL、10ng/mL、15ng/mL、20ng/mL、25ng/mL、30ng/mL、35ng/mL、40ng/mL、45ng/mL、50ng/mL、55ng/mL、60ng/mL、65ng/mL、70ng/mL、75ng/mL、80ng/mL、85ng/mL、90ng/mL、95ng/mLまたは約100ng/mLの濃度で加えてもよい。好ましい実施形態では、SCFを培地に約25ng/mLの濃度で加える。
【0068】
(5.TPO)
TPOも、造血前駆細胞を、たとえば、巨核球に分化させるのに関係している。本発明の方法では、TPOを培地に約2.5ng/mL、5ng/mL、10ng/mL、15ng/mL、20ng/mL、25ng/mL、30ng/mL、35ng/mL、40ng/mL、45ng/mL、50ng/mL、55ng/mL、60ng/mL、65ng/mL、70ng/mL、75ng/mL、80ng/mL、85ng/mL、90ng/mL、95ng/mLまたは約100ng/mLの濃度で加えてもよい。好ましい実施形態では、TPOを培地に約25ng/mLの濃度で加える。
【0069】
(B.生存因子)
一部の実施形態では、本発明の分化培地を使用して多能性幹細胞を播種しても、培養しても、維持しても、または分化させてもよく、本発明の分化培地は生存因子を含んでもよい。生存因子は、本発明の方法を使用して個別化した多能性幹細胞の生存および分化の効率を高めるために使用してもよい。いくつかの実施形態では、使用してもよい生存因子として、ミオシンIIのインヒビター、Rho非依存性キナーゼ(Rho−independent kinase)(ROCK)のインヒビターおよびプロテインキナーゼC(PKC)のインヒビターがあるが、これに限定されるものではない。ある種の実施形態では、TeSR1培地、TeSR2培地またはmTeSR培地を含む培養用培地に生存因子を加えてもよい。
【0070】
本明細書に記載の方法に有用であり得る例示的な生存因子またはその細胞培養適合性の塩として、ブレビスタチンまたはピリダジニル化合物(米国特許出願公開第2008/0021035号)などのミオシンIIインヒビター;HA100、H1152、(+)−トランス−4−(1−アミノエチル)−1−(ピリジン−4−イルアミノカルボニル)シクロヘキサンジヒドロ−クロリド一水和物(国際公開第00078351号、国際公開第00057913号)、イミダゾピリジン誘導体(米国特許第7348339号)、置換ピリミジンおよびピリジン誘導体(米国特許第6943172号)または置換イソキノリン−スルホニル化合物(欧州特許第00187371号)などのROCKインヒビター;またはV5ペプチド(米国特許第7459424号)、ポリミキシンB、カルフォスチンC、パルミトイル−DL−カルニチン、ステアロイルカルニチン、ヘキサデシルホスホコリン、スタウロスポリンおよびその誘導体、サンギバマイシンなどのPKCインヒビター;サフィンゴール、D−エリスロ−スフィンゴシン;ケレリトリンクロリド、メリチン;デカリニウムクロリド;エラグ酸、HBDDE、1−O−ヘキサデシル−2−O−メチル−rac−グリセロール、ヒペルシン、K−252、NGIC−J、フロレチン、ピセタノール、クエン酸タモキシフェンまたは置換ピペラジンもしくはチアジン(米国特許第6815450号)があるが、これに限定されるものではない。
【0071】
(C.他の構成要素)
本発明の分化培地は、栄養素、アミノ酸、抗生物質、緩衝剤および同種のものなど追加の構成要素をさらに含んでもよい。ある種の実施形態では、本発明の分化培地は、非必須アミノ酸、L−グルタミン、ペニシリン、ストレプトマイシンおよびモノチオグリセロールを含んでもよい。
【0072】
本発明の分化培地にはさらにBIT9500(StemCell Technologies Inc.,Vancouver,Canada)を、たとえば、約10%〜約30%の量、または約20%の量で加えてもよい。BIT9500は、Iscove’s MDM中に事前に試験されたウシ血清アルブミン、インスリンおよびトランスフェリン(BIT)のバッチを含む。BIT9500は、50mg/mLのウシ血清アルブミン(NaHCOで緩衝処理)、50μg/mLのインスリン、1mg/mLのヒトトランスフェリン(鉄飽和)を含む。ある種の実施形態では、BIT9500の代わりにSerum Replacement 3(Sigma、カタログ番号S2640)を使用してもよい。他の実施形態では、規定された培地を必要としない実施形態では、BIT9500の代わりにKOSRを使用してもよい。KOSRは、市販されている(たとえばGibco/Invitrogen、カタログ番号10828)規定されていない培地であり、国際公開第98/30679号に以前記載された。
【0073】
上記のようなBITを使用する代わりにHITを使用してもよい。HITは、血清アルブミンなどの構成要素がヒト構成要素(たとえば、ヒト血清アルブミン)であることを除き、上述のBITの組成物を含む。たとえば、感染症の可能性などのリスクが特に懸念される実施形態ではHITを使用すると好ましい場合がある。
【0074】
また、本発明の培地にはヘパリンを加えてもよい。たとえば、ヘパリンは、造血前駆細胞の分化をさらに促す分化培地で有用であり得る。ヘパリンは、約1U/mL、2U/mL、3U/mL、4U/mL、5U/mL、6U/mL、7U/mL、8U/mL、9U/mLまたは10U/mLの濃度で加えてもよい。好ましい実施形態では、ヘパリンを培地に5U/mLの濃度で加える。
【0075】
種々の実施形態では、分化培地は、1種または複数種のビタミン、ミネラル、塩、脂質、アミノ酸または他の構成要素を含んでもよい。たとえば、本発明の規定された培地は、たとえば、以下に記載するTeSR培地に含まれるのと同一または同程度の濃度でTeSR培地に存在する1つまたは複数の構成要素を含んでもよい。
【0076】
(II.マトリックス成分)
本発明の分化培地は、好ましくはフィブロネクチン、コラーゲンまたはRGDペプチドなど1種または複数種のマトリックス成分を用いて本明細書に記載の方法で使用する。どのような理論にも拘泥するわけではないが、マトリックス成分は、多能性幹細胞の増殖の固体支持体となり得る。好ましい実施形態では、マトリックス成分を培養面に適用し、培養培地および細胞と接触させる。
【0077】
本発明では、コラーゲンIVなどのコラーゲン、ラミニン、ビトロネクチン、MatrigelTM、ゼラチン、ポリリシン、トロンボスポンジン(たとえば、TSP−1、−2、−3、−4および/または−5)および/またはProNectin−FTMなど様々なマトリックス成分を使用してもよい。ある種の実施形態では、TeSRを使用して既に培養しておいた細胞にMatrigelTM、コラーゲンIVまたはラミニンのみを使用することは、細胞生存率に悪影響を及ぼす可能性があるため避けてもよい。しかしながら、これらの組成物は他のマトリックス成分と一緒に使用すると都合がよい場合もある。これらのマトリックス成分を組み合わせると、さらに細胞増殖および細胞生存率を高めるのに効果がある場合もある。ある種の実施形態では、細胞の培養および/または胚性幹細胞の造血前駆細胞への分化を行うには上記のマトリックス成分の1種、2種、3種、4種、5種、6種またはそれ以上を使用してもよい。
【0078】
(1.フィブロネクチン)
本発明の規定された細胞培養培地のマトリックス成分として、フィブロネクチンを使用してもよい。どのような理論にも拘泥するわけではないが、フィブロネクチンは、フィーダー細胞または胚様体を使用せずに増殖および分化させるための、ヒト胚性幹細胞のマトリックスとなり得る。
【0079】
フィブロネクチンは、約5%炭水化物を含む高分子量糖タンパク質である。フィブロネクチンは、インテグリン、ならびにコラーゲン、フィブリンおよびヘパラン硫酸などの細胞外マトリックス構成要素と結合することができる。フィブロネクチンは、創傷治癒およびがん発生などの機能に関係していると考えられており、さらに哺乳動物細胞における適切な神経堤形成にとっても重要である。
【0080】
ある種の実施形態では、フィブロネクチンを本発明の分化培地に約1μg/cm〜約10μg/cmまたは約3μg/cm〜約5μg/cmの濃度で加える。フィブロネクチンは分化培地に約2.5μg/cm、3μg/cm、3.5μg/cm、4μg/cm、4.5μg/cmまたは約5μg/cmの濃度で加えてもよい。
【0081】
(2.コラーゲン)
本発明の細胞培養培地のマトリックス成分としてコラーゲンを使用してもよい。コラーゲンは、結合組織の主要なタンパク質構成要素であり、組織および細胞を支持する細胞外マトリックスの主な構成要素である。どのような理論にも拘泥するわけではないが、コラーゲンは、フィブロネクチンの場合と同様、フィーダー細胞または胚様体を使用せずに増殖および分化させるための、ヒト胚性幹細胞のマトリックスとなり得る。コラーゲンは、本発明の分化培地に、たとえば、約0.5μg/cm〜5μg/cmまたは約1.5μg/cmの濃度で加えてもよい。ある種の実施形態では、細胞を培養する表面をコーティングするためにコラーゲンを使用してもよい。ある態様では、開示された方法に有用なコラーゲンはコラーゲンIVである。
【0082】
(3.RGDペプチド)
本発明の規定された細胞培養培地のマトリックス成分として、RGDペプチドを使用してもよい。RGDペプチドは、Arg−Gly−Asp(RGD)配列を含む接着タンパク質であり、ある種のRGDペプチドは、細胞の接着、遊走および増殖に重要な役割を果たし得る。どのような理論にも拘泥するわけではないが、RGDペプチドは、フィブロネクチンと同様、胚性幹細胞の分化および増殖を可能にする胚性幹細胞のマトリックス物質になり得る。ある種の実施形態では、合成RGDペプチドを本発明に使用してもよい。
【0083】
RGDペプチドは本発明の分化培地に、たとえば、約0.05〜0.2mg/mLまたは約0.1mg/mLの濃度で加えてもよい。ある種の実施形態では、細胞を培養する表面をコーティングするためにプロネクチンFを使用してもよい。プロネクチンF(PnF)は市販されているRGDペプチドで、典型的には13のアルギニン−グリシン−アスパラギン酸(RGD)部位を含む。
【0084】
(III.低酸素および分化)
本明細書では当該技術分野の慣習に従い(Ezashi et al.,2005)、周囲の酸素濃度を通常酸素濃度という。本明細書で使用する場合、「低酸素雰囲気」とは、約15〜25%酸素を含む周囲空気より酸素が少ない雰囲気をいう。好ましくは、低酸素雰囲気は、約5.5%未満酸素を含む。
【0085】
本発明のある種の実施形態では、低酸素雰囲気で細胞を培養することを含む、多能性幹細胞を分化させる方法を提供する。低酸素雰囲気は、当該技術分野において公知の方法に適合するガスの混合物を含んでもよく、具体的には大気ガス量全体の約5.5%未満の量の酸素ガス量を含んでもよい。いくつかの実施形態では、低酸素雰囲気は、約1%酸素ガスから約5.5%酸素ガスを含む。他の実施形態では、低酸素雰囲気は、5%酸素ガスを含む。好ましい実施形態では、低酸素雰囲気は、5%CO、5%Oおよび90%Nを含む。本発明の方法に有用な大気条件は、細胞培養および圧縮ガス供給の技術分野において公知の任意の手段により得ればよい。
【0086】
(IV.多能性幹細胞の調製および維持)
「多能性」という用語は、細胞が、胚形成中に発生する3つの胚葉、外胚葉、内胚葉および中胚葉から生じる細胞型のいずれかに分化する能力という意味で細胞生物学の技術分野において一般に使用される。本明細書の「多能性細胞」および「多能性幹細胞」という用語は、本質的に任意のヒト胎児または成人細胞型に分化する能力を持つ細胞を説明するために使用される。例示的な多能性幹細胞型として、胚性幹細胞および誘導多能性幹細胞(すなわちiPS細胞)を挙げることができるが、これに限定されるものではない。本明細書で使用する場合、「胚性幹細胞」または「多能性幹細胞」という用語は、胚盤胞に自然発生する細胞、または胚盤胞に由来する細胞だけでなく、多能性になるように、または幹細胞様の状態に戻るように誘導された細胞をいう場合がある(たとえば、Nakagawa et al.,2007;Yu et al.,2007を参照されたい)。
【0087】
本明細書で使用する場合、「前駆細胞」とは、多能性幹細胞に由来し、細胞系統が決定された細胞をいう。したがって、前駆細胞は多能性幹細胞より分化している。いくつかの実施形態では、前駆細胞は、造血前駆細胞、内皮前駆細胞または血液内皮前駆細胞である。
【0088】
本発明に使用できる多能性幹細胞は、当業者に公知であるような様々な方法を用いて未分化状態で培養および維持してもよい。たとえば、ヒト多能性幹細胞の培養方法においては、未分化状態の幹細胞を維持するため、線維芽フィーダー細胞を使用しても、あるいは線維芽フィーダー細胞に接触させた培地を使用してもよい。好ましい実施形態では、本発明の方法に従い分化されるヒト多能性幹細胞を、最初に本明細書に記載のTeSR1培地、TeSR2培地またはmTeSR培地などフィーダー非依存性培養系を使用して未分化状態で培養する。
【0089】
本発明では、たとえば、規定された細胞培養培地を用いて造血前駆細胞または内皮前駆細胞に分化されるほぼすべてのヒト多能性幹細胞株を使用することができると予想される。たとえば、本発明では、ヒト胚性幹細胞株H1、H9、hES2、hES3、hES4、hES5、hES6、BG01、BG02、BG03、HSF1、HSF6、H1、H7、H9、H13Bおよび/またはH14などを使用してもよい。さらに、本発明では、今後利用可能になる幹細胞株も使用し得ると予想される。本発明ではヒト多能性幹細胞を使用することが好ましいが、場合によっては、本発明の方法に哺乳動物、マウス、霊長類など他の多能性幹細胞を使用してもよい。
【0090】
ある種の実施形態では、本発明に従い誘導多能性幹細胞(iPS細胞)を培養し、および/または造血細胞または内皮細胞に分化させてもよい。誘導多能性幹細胞は、幹細胞多能性を示す再プログラム化体細胞であり、胚性マーカーを発現する(Takahashi et al.,2007;Takahashi et al.,2007;Nakagawa et al.,2007)。iPS細胞の作製方法は、当該技術分野において公知であり、本質的に体細胞を再プログラムする任意の適切な方法を使用し、本明細書に開示された方法に使用できる多能性幹細胞を作製すればよい。iPS細胞を作製する例示的な方法として、たとえば、どちらも参照によってその全体を本明細書に援用するThomson(米国特許出願公開第2008/0233610号)およびDaleyおよび共同研究者(米国特許出願公開第2009/0004163号)により開示された方法が挙げられる。
【0091】
(A.TeSR培地)
TeSR培地は、未分化ヒト多能性幹細胞の培養に使用してもよい規定された培地である。TeSRは、bFGF、LiCl、γ−アミノ酪酸(GABA)、ピペコリン酸およびTGFβを含むもので、TeSRを使用した様々な方法については、たとえば、参照によってその全体を本明細書に援用する米国特許出願公開第2006/0084168号およびLudwig et al.(2006a;2006b)などに以前に記載されている。「TeSR培地」という用語は、本明細書で使用する場合、TeSR1培地、TeSR2培地またはmTeSR培地を包含する。TeSR2培地(Stem Cell Technologies,Vancouver,BC,Canada)は、TeSR1培地と本質的に同一であり、TeSR1と同様、TeSR2培地もヒト化されている。本明細書に開示された方法にはTeSR1培地、TeSR2培地またはmTeSR培地を使用してもよい。
【0092】
TeSR培地は典型的には、無機塩類、微量ミネラル、エネルギー基質、脂質、アミノ酸、ビタミン、増殖因子、タンパク質および他の構成要素を含む。TeSR1培地の完全な処方は、少なくともその全体を参照によって本明細書に援用する米国特許第7,442,548号に記載されている。
【0093】
TeSR処方物のある種の構成要素は、たとえば、研究用に培地を使用しやすくするため、または費用を最小限に抑えるため置き換えてもよい。たとえば、本発明にはmTeSR1培地を使用してもよく、以下の点でTeSR1と異なっても構わない:ヒト血清アルブミンの代わりにウシ血清アルブミン(BSA:bovine serum albumin)を使用し、ヒトbFGFの代わりにゼブラフィッシュのクローン化塩基性線維芽細胞増殖因子(zbFGF)を使用する。TeSR1については、たとえば、除外することなくその全体を本明細書に参照によって緩用するLudwig et al.(2006)に詳述されている。
【0094】
(B.マトリックス成分)
ヒト多能性幹細胞の培養および維持には様々なマトリックス成分を使用してもよい。参照によってその全体を援用するLudwig et al.(2006)に記載されているように、多能性細胞増殖の固体支持体を与える手段として培養面をコーティングするには、たとえば、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニンまたはビトロネクチンの1種または複数種を使用してもよい。一実施形態では、コラーゲンはコラーゲンIVである。
【0095】
ヒト多能性幹細胞の細胞培養および維持を行うためのマトリックスを与えるため、MatrigelTMを使用してもよい。MatrigelTMは、マウス腫瘍細胞から分泌され、BD Biosciences(New Jersey,USA)から市販されている明らかでないゼラチン状のタンパク質混合物である。この混合物は、多くの組織に見られる複雑な細胞外環境に似ており、細胞培養のマトリックスとして細胞生物学者に使用されている。ヒト多能性幹細胞の培養および維持の方法については、たとえば、その全体を本明細書に参照によって緩用するLudwig et al.(2006)に記載されている。当然のことながら、本発明と共に、当業者に公知と考えられるヒト多能性幹細胞を培養および維持する別の方法を使用してもよい。
【0096】
(V.多能性幹細胞の播種および分化)
本発明に使用してもよい多能性幹細胞は、細胞培養の技術分野において公知の任意の方法を用いて播種培地に播種してもよい。たとえば、多能性幹細胞は、播種培地に単一のコロニーとして播種しても、またはクローン群として播種してもよいし、あるいは多能性幹細胞は、本質的に個別の細胞として播種してもよい。いくつかの実施形態では、当該技術分野において公知の機械的または酵素的方法を用いて、多能性幹細胞を本質的に個別の細胞に分離する。非限定的な例として、多能性幹細胞は、細胞間、および細胞と培養面との間の結合を破壊するタンパク質分解酵素と接触させてもよい。分化のため多能性幹細胞を個別化するのに使用してもよい酵素として、様々な市販処方物としてのトリプシン、trypLE(Invitrogen,Carlsbad,CAから市販されている安定なトリプシン様酵素)またはAccutase(登録商標)など酵素の混合物を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0097】
一部の実施形態では、多能性細胞は培養用培地に、本質的に個別の(または分散させた)細胞として加えても、または播種してもよい。細胞を播種する培養用培地は、本明細書に記載するようなTeSR培地またはmTeSR培地および生存因子を含んでもよい。好ましくは、分散させた多能性細胞を培養用培地に培養面1平方センチメートル当たり75,000幹細胞未満の密度で播種する。いくつかの実施形態では、多能性細胞を培養面1平方センチメートル当たり約10,000幹細胞の密度から培養面1平方センチメートル当たり約70,000幹細胞の密度で播種する。こうした実施形態では、培養面は、本質的に当該技術分野の標準的な無菌細胞培養法に適合する任意の材料を含んでいてもよい。培養面はさらに、本明細書に記載するようなマトリックス成分を含んでもよい。好ましい実施形態では、マトリックス成分を培養面に適用してから、その面を細胞および培地と接触させもよい。
【0098】
一態様では、本発明は、多能性細胞の分化方法であって、生存因子を使用して、あるいは使用せずに多能性細胞を培養用培地に播種し、1種または複数種の増殖因子を含む分化培地で培養し、低酸素雰囲気下で維持する分化方法を提供する。本明細書に記載の方法では、培養用培地および分化培地はそれぞれフィーダー細胞を含まなくても、またはフィーダー細胞を本質的に含まなくてもよく、この方法は、播種後4〜14日間培養して分化させた細胞、すなわち、造血前駆細胞または内皮前駆細胞を収集することをさらに含んでもよい。好ましい実施形態では、播種後8日から12日間、6日から9日間または6日から10間培養して前駆細胞を分化させる。
【0099】
(VI.造血前駆細胞および内皮細胞の分離)
胚性幹細胞からの造血幹細胞および内皮前駆細胞の調製後、造血前駆細胞または内皮前駆細胞を精製すると望ましい場合がある。不均一な細胞集団から造血前駆細胞または内皮前駆細胞などの細胞のサブセットを分離または実質的に精製するには、FACSまたはMACSなどのフローサイトメトリーを使用した細胞の分離方法を用いてもよい。
【0100】
(A.磁気活性化細胞ソーティング(MACS:Magnetic Activated Cell Sorting))
造血細胞を分離するには、分化させたヒト胚性幹細胞(hESC:human embryonic stem cell)から磁気活性化細胞ソーター(MACS)を用いてCD34+またはCD43+細胞を分離すればよい。MACSは典型的には、カラムにおいて細胞を分離する磁性ビーズと組み合わせて抗CD34抗体などの抗体を使用する。ある種の実施形態では、MACSは、FACSに比べて細胞に対して穏やかであり、細胞の生存率および完全性に好ましい影響を与え得る。
【0101】
内皮細胞の分離には、MACSを使用して分化させたhESCからCD31+細胞を分離してもよい。
【0102】
MACS MicroBeadsTMカラムまたはAutoMACSTM(Miltenyi Biotec,CA,USA)など様々なMACS製品が市販されており、製造者の指示に従い使用すればよい。細胞分離の緩衝液としてPBS/0.5%BSA+2mMのEDTAを使用してもよい。いくつかの実験では、Dead Cell Removal Kit(Miltenyi Biotec)を使用してCD34+細胞を分離する前に死細胞を除去してもよい。必要に応じてMACSカラムを繰り返し使用してもよい。
【0103】
(B.蛍光活性化細胞ソーティング(FACS))
CD34+造血細胞またはCD31+内皮細胞の分離には、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)を使用してもよい。当該技術分野において周知のように、FACSは、たとえば、細胞を分離するために結合された蛍光タグを含む抗CD34抗体により細胞が示す程度または蛍光を利用する。こうして、FACSを使用して不均一な細胞集団からCD34+造血細胞またはCD31+内皮細胞を分離することができる。
【0104】
(VII.造血前駆細胞の分化)
本発明では、造血前駆細胞を赤血球(erythrocyte)、顆粒球、マクロファージ、巨核球、樹状細胞およびマスト細胞などの細胞系統にさらに分化させるため、様々なアプローチを使用してもよい。これらのアプローチは、赤血球分化培地、メチルセルロース、および巨核球分化培地の使用を含んでもよい。ある種の実施形態では、造血前駆細胞を内皮細胞に分化させてもよいし、あるいは血管を作製するために使用してもよい。
【0105】
これらの細胞系統は、様々な医学的処置および医学的用途に使用することができる。たとえば、輸血用の血液の作製には赤血球(erythrocyte)系統を使用してもよい。他の実施形態では、内皮細胞を使用して新しい血管を作製してもよく、これを局所虚血などの傷害の処置に使用してもよい。あるいは、ある種の実施形態では、鎌状赤血球貧血などの疾患の処置に、本発明に従い分化させた造血細胞を投与してもよい(Hanna et al.,2007)。
【0106】
多分化能を持つ前駆体と、赤血球(erythrocyte)、顆粒球、単球−マクロファージおよび巨核球骨髄系細胞系統の系統の限定を受けた前駆体とを定量するためのインビトロアッセイ系が開発されている。コロニー形成細胞(CFC:colony−forming cell)については、コロニー内の造血系の細胞の1種または複数種の形態学的認識に基づき分類し、計数することができる。コロニーの評価および計数は、in situで光学顕微鏡法により行ってもよいし、またはコロニーを個別に採取してから細胞化学的方法および免疫細胞化学的方法により細胞を染色して行ってもよい。CFCアッセイには寒天、アガロース、メチルセルロース、コラーゲンおよびフィブリンの塊など様々なゲル化剤が使用されている。
【0107】
いくつかの実施形態では、第2の分化培地でさらに分化を行う。こうした第2の培地は、表1に記載の1種または複数種の成分のほか、以下の1種または複数種を含んでもよい:β−メルカプトエタノール(β−ME)、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT−3)、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン3(IL−3)、インターロイキン6(IL−6)またはヘパリン。好ましい実施形態では、第2の培地は、IMDMを含み、約20%BIT9500、約1%非必須アミノ酸、約1%L−グルタミン+β−ME、約25ng/mLのFLT−3、約25ng/mLのSCF、約25ng/mLのTPO、約10ng/mLのIL−3、約10ng/mLのIL−6および約5U/mLのヘパリンをさらに含む。
【0108】
(A.赤血球分化培地)
造血前駆細胞は、たとえば、赤血球分化培地を用いて赤血球細胞に分化させてもよい。赤血球分化培地は、無血清培地でも、または規定された培地でもよく、培地はSCF、EPO、インスリン、デキサメタゾンおよび/またはトランスフェリンを含んでもよい(Slukvin et al.,2007)。
【0109】
(B.メチルセルロース)
造血前駆細胞から赤血球(erythrocytes)、マクロファージおよび/または顆粒球を分化誘導するのにメチルセルロースを使用してもよい。メチルセルロースは、光学的透明度に優れた安定なゲルを形成する比較的不活性なポリマーである。メチルセルロースは一般に、ウシ胎仔血清(FBS:fetal bovine serum)、ウシ血清アルブミン(BSA)、2−メルカプトエタノール、インスリン、トランスフェリン、組換えサイトカインなどの化合物を補充した培養培地、またはコロニー刺激因子の供給源であるコンディション培地において約0.9〜1.2%の最終濃度で使用される。メチルセルロースによる細胞分化に関する方法については、たとえば、Kaufman et al.(2001)に記載されている。
【0110】
メチルセルロースを用いた培地を用いれば、他の種の半固形マトリックスより赤血球系統細胞を増殖させやすくなり、したがって同じ培地内で赤血球、顆粒球、単球および多分化能を持つCFCのアッセイが可能になる。巨核球前駆体は、好適にはコラーゲンを補充した培地で培養し、免疫細胞化学的染色により特異的に同定する。
【0111】
(C.巨核球分化培地)
巨核球の生成を誘導するには、巨核球分化培地を使用してもよい。巨核球の生成に関する様々な製品およびアプローチについては、たとえば国際公開第2006/050330号に記載されており、これを本発明に使用してもよい。さらに、Stem Cell Technologies(Vancouver,BC,Canada)からMegacultTMが市販されており、巨核球の生成/分化に使用してもよい。種々の実施形態では、巨核球分化培地にトロンボポエチン(thrombopoeitin)(TPO)、インターロイキン3(IL−3)、インターロイキン6(IL−6)、Flt−3リガンドおよび/または幹細胞因子を加えてもよい。細胞を巨核球分化する方法については、たとえば、Kaufman et al.(2001)に記載されている。
【0112】
(D.内皮細胞の作製)
本明細書に記載の方法により得られたCD34+集団は、血液内皮(または血管芽細胞)および内皮前駆体をさらに含んでもよい。内皮細胞は、たとえば、以下のプロトコルにより作製することができ、動物またはヒト被験体への移植に使用してもよい。ヒトES細胞由来のCD34+細胞は、EGMTM−2培地(Lonza,Walkersville,MD)、あるいは50ng/mLのrhVEGFおよび5ng/mLのrhFGF−2を含む分化培地で7〜10日間培養すればよい。内皮細胞は、4℃、25mMのHepes(Sigma)緩衝EGMTM培地中のラットテイルコラーゲン、タイプ1(BD Biosciences,Bedford,MA)などのコラーゲン(1.5mg/mL)およびヒト血漿フィブロネクチン(90mg/mL)(Sigma)の約1mLの溶液に懸濁してもよい。pHは、1N NaOH(Fisher Science,NJ)を使用して7.4に調整すればよい。次いでこの細胞懸濁物を、12ウェルプレート(Falcon)にピペットで移し、30分間37℃に加温し、コラーゲンを重合させてもよい。凝固させた各ゲル構造物は、加温した1mLのEGM培地でカバーしてもよい。細胞は、5%COで約1日間培養してもよい。ある種の実施形態では、細胞を厚いMatrigelTM層内で増殖させ、内皮表現型のマーカーとなる管状構造の形成を調査して細胞が本当に内皮細胞であることを確認してもよい。
【0113】
(VIII.内皮前駆細胞の分化)
本発明の方法は、胚性幹細胞から内皮細胞を分化させるために使用してもよい。いくつかの実施形態では、本方法は、胚性幹細胞を内皮前駆細胞に分化させる最初のステップ、続いて内皮前駆細胞を分取し、さらに内皮細胞に分化させる追加のステップを含む。たとえば、幹細胞(hESCまたはiPS細胞など)は、本明細書に記載するように播種し、増殖させてもよい。いくつかの実施形態では、フィブロネクチンまたはコラーゲンコートプレートなどのマトリックス成分を使用してhESCまたはiPS細胞を播種する。ある種の実施形態では、少なくとも一部がマトリックス成分でコーティングされた固体支持層に細胞を播種する。細胞は、培養面1平方センチメートル当たり約10,000幹細胞から培養面1平方センチメートル当たり約80,000幹細胞で播種してもよい。特定の実施形態では、培養面1平方センチメートル当たり約20,000幹細胞から培養面1平方センチメートル当たり約70,000幹細胞の密度で細胞を播種する。細胞は、ブレビスタチンなどのミオシンIIインヒビターまたはH1152などのROCKインヒビターを含んでもよいTeSR培地で培養してもよい。
【0114】
いくつかの実施形態では、約5.5%未満酸素の低酸素雰囲気など低酸素(low oxygen)条件下で一晩細胞を増殖させる。次いでこの細胞を、表1に記載の1種または複数種の成分を含む培地で増殖させればよい。ある種の実施形態では、培地は、表1に記載の成分をすべて含む。
【0115】
細胞を十分に増殖および分化させた後、内皮前駆細胞は、他の細胞から分離してもよい。たとえば、細胞は、細胞表面マーカーCD31の発現に基づき(MACS技術を用いて)磁気的に分取してもよい。分取した内皮前駆細胞は、マトリックス成分、および表1に記載の1種または複数種の成分を含む培地を用いてさらに分化および増殖させてもよい。いくつかの実施形態では、この第2の分化培地は、表1に記載の成分をすべて含み、ある種の実施形態では、第2の分化培地は、表1に記載の成分を記載した好ましい濃度ですべて含む。特定の実施形態では、第2の分化培地は、表1に記載の成分をすべて含み、bFGF濃度が約1ng/mL〜約50ng/mL、または約5ng/mlである。その後細胞を増殖させ、機能性についてアッセイしてもよい。
【0116】
(IX.バイオリアクターおよび自動化)
幹細胞の培養および/または多能性幹細胞からの造血前駆細胞および内皮前駆細胞の分化を行う1つまたは複数のステップは、自動化してもよい。ロボットまたは他の自動化によりプロセスを自動化すれば、細胞の作製、培養および分化の方法をより効率的かつ経済的なものにすることができる。たとえば、ロボットによる自動化は、その全体を参照によって本明細書に援用する米国特許出願公開第2009/0029462号に記載されているように利用してもよい。
【0117】
さらに、本発明に従い細胞(たとえば、ヒト胚性幹細胞、CD34+細胞、CD31+細胞、造血細胞など)の培養、維持および/または分化を行うため、本発明と共にバイオリアクターを使用してもよい。バイオリアクターには、細胞量を増加させるプロセスを「スケールアップ」できるという利点がある。本発明では、バッチ式バイオリアクター、流加式バイオリアクター、連続式バイオリアクター(たとえば、連続撹拌槽型反応器モデル)および/またはケモスタットなどの様々なバイオリアクターを使用してもよい。
【0118】
ある種の実施形態では、本発明にTecan Cellerityシステムを使用してもよい。hESCは、CD34/43+細胞に分化誘導するためフラットプレートを使用してロボットで培養してもよい。細胞の分離が起きたら、大量の細胞を得るためスピナーフラスコまたはバイオリアクターを使用してもよい。
【0119】
具体的に本発明への使用を想定したロボットによる自動化は、たとえば、Tecan(CA,USA)により行ってもよい。ロボット技術は、サンプル間のキャリーオーバーを最小限に抑えるために、キャップピアッシングプローブおよびディスポーザブルチップなどの液体ハンドリングツールを含んでもよい。種々の実施形態では、(たとえば、hESCの維持または増殖、hESCの造血細胞または内皮細胞への分化、または造血細胞の赤血球(erythrocytes)などその後の系統への分化において)細胞培養を目的に、1つまたは複数のバイオリアクターと共にロボットを使用してもよい。
【0120】
さらに、本発明のアプローチは、個別化された多能性細胞の生存率を高めるため、ROCKインヒビターHA100およびH1152を培地に加えることにより、ロボットによる自動化を用いて、単一細胞アッセイに使用できる。種々の実施形態では、ロボットにおいて小分子HA100またはH1152を培養系に加えると、多能性細胞の生存率を高めることができる。これらのまたは類似の小分子を加えないと、細胞を小集塊またはコロニーで継代しない限り、通常TeSR中の多能性細胞の生存率は低くなる。ROCKインヒビターを用いると、個別化された多能性細胞は表面に付着して増殖できる。こうして、この方法が単一のES細胞で機能することで、たとえば多能性細胞の増殖からCD34+分化に至る全プロセスを、規定された条件で完全に自動化することができる。
【0121】
(X.キット)
本発明はさらに、本発明に従い使用されるキットも意図している。たとえば、キットは、1つまたは複数の密封バイアルに本明細書に記載の分化培地を含んでもよい。キットは、多能性幹細胞、前駆細胞、造血前駆細胞または内皮前駆細胞などの細胞を含んでもよい。
【0122】
キットは、造血前駆細胞または内皮前駆細胞などの前駆細胞を作製するための説明書をさらに含んでもよい。あるいは、説明書は、造血細胞、内皮細胞、マスト細胞、樹状細胞、巨核球、顆粒球、マクロファージまたは赤血球(erythrocytes)の作製に関するものであってもよい。
【0123】
好適なキットは、チューブ、バイアルならびに収縮包装パッケージおよび吹込成形パッケージなど好適な容器およびパッケージ材料に、本発明に従い使用される様々な試薬を含む。
【0124】
本発明によるキットに含めるのに好適な材料として、以下の1種または複数種があるが、これに限定されるものではない:マトリックス成分、フィブロネクチン、コラーゲン、RGDペプチド、BIT9500、BMP4、VEGF、bFGF、L−グルタミン、非必須アミノ酸、モノチオグリセロール、ペニシリン、ストレプトマイシン、Rho関連キナーゼ(ROCK)のインヒビター、ミオシンIIのインヒビター、アミノ酸、TeSR培地、TeSR2培地、mTeSR培地、酵素、トリプシン、trypLE、抗生物質、ビタミン、塩、ミネラルまたは脂質。
【0125】
(XI.スクリーニングアッセイ)
本発明は、多能性幹細胞の前駆細胞への分化を促進する能力について候補物質を見分けるのに有用なスクリーニングアッセイなどスクリーニングアッセイを意図している。
【0126】
本明細書で使用する場合、「候補物質」という用語は、多能性幹細胞の前駆細胞への分化に影響を与える任意の物質をいう。ある種の実施形態では、候補物質が、多能性幹細胞の前駆細胞への分化を促進する。候補物質は、天然由来の化合物のフラグメントまたは一部を含んでもよいし、またはそうでなければ不活性である公知の化合物の活性な組み合わせとしてのみ発見されたものであってもよい。一実施形態では、候補物質は小分子である。なお他の実施形態では、候補物質として、小分子、ペプチドまたはそのフラグメント、ペプチド様分子、核酸、ポリペプチド、ペプチド模倣物、炭水化物、脂質、タンパク質、酵素、塩、アミノ酸、ビタミン、マトリックス成分、インヒビター、抗生物質、抗体、抗体フラグメント、ミネラル、脂質または他の有機(炭素を含む)分子または無機分子を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0127】
(XII.治療薬)
本発明はさらに、本明細書に開示された方法により得られた薬学的有効量の前駆細胞、造血細胞または内皮細胞を被験体に投与することにより疾患、障害または傷害を処置する方法も意図している。本発明によるこれらの組成物の投与は、その経路により標的組織に利用可能になるのであれば、一般に使用されるどのような経路により行ってもよい。これには、静脈内注射、脊髄内注射または脳内、皮内、皮下、筋肉内または腹腔内の方法など全身性または非経口の方法による投与が含まれる。投与は、治療の性質に応じ経口手段、経鼻手段、頬粘膜手段、直腸手段、経膣手段または局所手段により行ってもよい。
【0128】
本明細書に開示された方法により処置され得る疾患または障害として、血管疾患または障害、免疫学的疾患または障害、神経疾患または障害、血液疾患または障害、または傷害があるが、これに限定されるものではない。たとえば、開示された方法により作製された内皮細胞を使用して、局所虚血などの傷害の処置に使用し得る新しい血管を作製してもよい。さらに、本発明に従い作製された造血前駆細胞を、輸血に使用できる血液細胞に分化させてもよい。あるいは、ある種の実施形態では、本発明に従い分化させた造血細胞を、鎌状赤血球貧血などの疾患を処置するために投与してもよい(Hanna et al.,2007)。
【実施例】
【0129】
(XIII.実施例)
以下の例は、本発明の好ましい実施形態を説明するために含まれる。以下の実施例に開示された技法は、本発明者により発見された技法であり、本発明の実施の際に非常に役立つものであり、したがって本発明を実施するための好ましい態様になると考えられることを当業者は理解されたい。しかしながら、本開示に照らして、開示される個々の実施形態において多くの変更が可能であり、依然として本発明の精神および範囲を逸脱せずに同様または類似の結果が得られることを当業者は理解されたい。
【0130】
(実施例1)
(ヒト胚性幹細胞のCD34+造血細胞への規定された分化)
継代41代目のヒト胚性幹細胞をフィブロネクチンコートプレートに蒔き、TeSR培地で7日間培養した。7日目に、培地をTeSR培地からCD34分化培地に交換した。CD34分化培地は、表1にIMDMとして上述したものであり、BIT9500、BMP4、VEGF、bFGF、非必須アミノ酸、L−グルタミン、Pen−strepおよびモノチオグリセロールを含む。
【0131】
この培地で合計10日間細胞を維持し、培地の交換をほぼ1日おきに行った。この期間の終了時にCD34+細胞を集団全体からMACS磁気ソーティング技術を用いて分離した。CD34+細胞は集団全体の14%を占め、分取した細胞は95%超純粋だった。
【0132】
単にCD34+状態にとどまらず成熟した(full-fledged)血液へと分化が確実に進行できるように、これらの細胞を赤血球分化培地に蒔いた。
【0133】
14日後、これらの細胞を、赤血球のマーカーであるグリコホリンAの発現についてアッセイした。アッセイした細胞の約90%はこの時点でグリコホリンAを発現していたことから、この方法で赤血球の作製がうまくいったことが示された。
【0134】
さらに試験を行い、より広範囲の血液細胞型を作製する本方法の能力を評価した。本発明者らの確立した分化プロトコルにより巨核球の作製に成功し、さらにStem Cell Technologies(Vancouver,BC,Canada)から入手可能でKaufman et al.(2001)に記載されているメチルセルロース分化系を用いて顆粒球、マクロファージおよび赤血球のコロニーを作製した。
【0135】
最も高率のCD34+細胞を作製するのにかける期間を最適化するため、試験を行った。分化培地の細胞について、8日目から14日目にかけて1日おきにCD34およびCD43の発現をアッセイした。CD34およびCD43の発現はどちらも10日目にピークに達した。
【0136】
定義された明らかな系ではhESCからのCD34+細胞の作製における一貫性が向上し、複数の実験においてヒト胚性幹細胞から約12〜14%のCD34+細胞が一貫して分化された。
【0137】
このアプローチによって、この系において本質的にすべて、またはすべての非ヒト動物由来生成物(すなわち、血清、フィーダー細胞など)を除去できる。また、間質細胞、および胚体の形成に伴う複雑なステップが存在しないため、拡張性/自動化の可能性が高まる。
【0138】
(実施例2)
(個別化された胚細胞のCD34+造血細胞への規定された分化)
どのような分化方法を実施しても、投入されるESのコロニーサイズおよびコロニー密度が変われば、成績に著しいばらつきが生じる可能性がある。したがって、分化を惹起する前にESコロニーの個別の細胞への分散について調査した。培養したES細胞の集団を分散させるか、あるいはトリプシンまたはTrypLEで個別化した。次いでROCKインヒビター(H1152、1μM)を使用して、あるいは使用せずに、分散させたES細胞をTeSR培地に播種した。個別化した培地を用いて本明細書に記載の分化手順を実施した。
【0139】
(結果)
TeSR培地のフィブロネクチンコート表面に蒔いた、個別化したES細胞は、ROCKインヒビター(たとえば、1uMのH1152)などの生存因子を添加しなければ、接着せず、生存できない。さらに、播種密度が低すぎると(約1×10細胞/cm未満)、細胞はROCKインヒビターの存在下でも剥離し、生存能を失う。高すぎる細胞密度(5×10細胞/cm超)で播種すると、細胞は接着した状態が続くが、血液内皮前駆体に分化できない。これらの上限と下限との間の最適な播種密度は、細胞増殖に使用する方法、継代数およびES細胞の全体的な状態によって異なる。
【0140】
経時的研究により、ES細胞を個別化した細胞として蒔く培地と、ES細胞をコロニーとして蒔く培地との間では分化動態が異なり、血液内皮前駆細胞の生成ピークがそれぞれ6〜9日目と、8〜12日目であることが明らかになった。
【0141】
(実施例3)
(低酸素(low oxygen)状態、すなわち低酸素状態でのES細胞からの造血分化誘導)
この分化方法の再現性および効率の改善を目的として、血液内皮前駆細胞の生成における低酸素状態を検討した。胚の増殖の非常に早い段階で低酸素がインビボで重要な役割を果たしていることは明らかになっている。心血管系が確立される前の哺乳動物の発生は、3%酸素環境で起こる。諸研究により、生理的低酸素状態が胚の血管形成および造血の重要な制御因子であり得ることが明らかになっている(Forsythe et al.,1996;Ramirez−Bergeron et al.,2004;Harrison et al.,2002;Cipolleschi et al.,1993)。
【0142】
様々な発生段階における造血前駆細胞に対する低酸素(low oxygen)の制御作用を試験するため、多能性細胞からの造血分化プロトコルを、酸素レベルの低下を反映するように改変した。窒素ガスをインキュベーター環境に添加して細胞培地の酸素濃度を5%まで低下させた。その結果インキュベーター環境は5%CO、5%O、90%Nからなる。この低酸素雰囲気は、内皮および造血前駆体の分化の増加を促進する。低酸素では、分化誘導から6日後に分析した生存率の高い培地(生細胞率最大70%)は、最大40%の血液内皮前駆細胞(CD31+)および最大14%造血前駆細胞(CD43+)を含み得る。低酸素(low oxygen)濃度は、多能性細胞培養の維持に使用する方法と無関係に多能性細胞の造血分化を高める。このプロトコルは、マウス胎仔線維芽細胞をフィーダー細胞として使用するか、あるいはフィーダー非依存性培養系を使用して未分化状態で維持されたhESCにおいて試験が行われている。
【0143】
低酸素雰囲気は、血液内皮分化の最初の誘導にのみ必要であるものかもしれない。成人骨髄では低酸素雰囲気が自然に生じるため、酸素レベルの勾配で造血発生の様々な段階が起こり、造血前駆細胞は低酸素ニッチに存在し、増殖する前駆体は酸素勾配に沿って分布する。したがって、造血前駆細胞の段階を生成するのに低酸素雰囲気を使用し、続いてその後の分化ステップの環境には通常の環境中酸素レベルを使用することを想定することができる。
【0144】
(実施例4)
(幹細胞の内皮細胞への規定された分化)
(材料および方法)
hESCまたはiPS細胞を20,000〜70,000細胞/cmの密度でフィブロネクチン(3〜5μg/cm2)またはコラーゲンコートプレートに播種した。この細胞を、ROCKインヒビターH1152を含むTeSR1培地で増殖させた。細胞は、低酸素(low oxygen)インキュベーター(5%酸素)に一晩入れた。
【0145】
細胞を分化させるため、翌日培地を、表1に開示した成分の組み合わせを含む培地に交換した。培養から3日後、培地を、表1に開示した成分の組み合わせを含む培地に交換し、ただし、培地にBMP4は加えなかった。
【0146】
分化から6日後、細胞表面マーカーCD31の発現に基づき細胞を(MACSを用いて)磁気的に分取した。次いでCD31+細胞を、表1に開示した成分を含む培地中のフィブロネクチンに蒔いた(約0.4μg/cm2〜5μg/cm2の濃度)。あるいは、bFGF濃度を5ng/mlに低下させてもよい。次いで細胞を増殖させ、機能性についてアッセイした。
【0147】
(結果)
この方法により得られた細胞は、内皮細胞の分子的および機能的特徴を示した。たとえば、この細胞はCD31を発現し、一生を通じてCD31を発現し続けた。また、細胞は、CD105(エンドグリン)およびvon Willebrand因子(第VIII因子とも呼ばれる)も発現した。さらに、細胞は、アセチル化LDLを取り込むこともできた。この細胞は機能的には、マトリゲルの厚い層に血管様チューブ構造を形成することができた。これらの結果から、使用した方法により内皮細胞が作製されることが示される。
【0148】
【数1】

本明細書に開示し、特許請求する組成物および方法はすべて、本開示に照らして過度の実験を行うことなく製造および実施することができる。好ましい実施形態によって本発明の組成物および方法を記載してきたが、本発明の概念、精神および範囲を逸脱することなく、本明細書に記載の組成物および方法、さらに方法のステップまたはステップの順序は変更されてもよいことが当業者には明らかになる。より具体的には、本明細書に記載の作用因子の代わりに化学的にも生理学的にも関係がある特定の作用物質を使用しても、同一または類似の結果が得られると考えられることが明らかである。当業者に明らかなこうした類似の代用および変更の全ては、添付の特許請求の範囲で規定される本発明の精神、範囲および概念の範囲内と見なされる。
【0149】
(参考文献)
以下の参考文献については、本明細書の記載内容を補足する例示的な手順またはその他の詳細を提供する範囲で、参照によって個々に本明細書に援用する。
【0150】
【数2】

【0151】
【数3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト多能性幹細胞をCD34+前駆細胞に分化させる方法であって:
a)フィーダー細胞を含まないか、またはフィーダー細胞を本質的に含まず、マトリックス成分、ならびにBMP−4、VEGFおよびbFGFからなる群より選択される少なくとも1種の組換え型増殖因子を含む培養培地で多能性幹細胞を培養する工程;および
b)前記細胞を5.5%未満酸素の低酸素雰囲気下で前記CD34+前駆細胞を得るための期間分化させる工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記多能性幹細胞は胚性幹細胞または誘導胚性幹細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記低酸素雰囲気は約0.5%酸素ガスから約5.5%酸素ガスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記低酸素雰囲気は約1.5%酸素ガスから約5.3%酸素ガスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記マトリックス成分はフィブロネクチン、コラーゲンまたはRGDペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記CD34+前駆細胞またはその子孫を培養から8日から12日で収集する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記CD34+前駆細胞またはその子孫を培養から6日から9日で収集する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記培養培地はBMP−4、VEGFおよびbFGFを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記培養培地はBMP−4を約5ng/mL〜約200ng/mLの量で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記培養培地はVEGFを約5ng/mL〜約200ng/mLの量で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記培養培地はbFGFを約5ng/mL〜約200ng/mLの量で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記培養培地は生存因子をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記生存因子はRho関連キナーゼ(ROCK)のインヒビターまたはミオシンIIのインヒビターである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記培養培地は血清またはフィーダー細胞を含まないか、あるいは血清またはフィーダー細胞を本質的に含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
分化の前にTeSRを含む第1の培地で前記多能性幹細胞を培養または維持する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の培地はTeSR培地および生存因子を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記生存因子はRho関連キナーゼ(ROCK)のインヒビターまたはミオシンIIのインヒビターである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記CD34+前駆細胞を赤血球、マクロファージ、顆粒球、巨核球、樹状細胞、マスト細胞または内皮細胞からなる群の1つまたは複数に分化させる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記さらなる分化はFMS様チロシンキナーゼ3(FLT−3)、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン3(IL−3)、インターロイキン6(IL−6)およびヘパリンからなる群の1つまたは複数を含む培養培地で起こる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記さらなる分化はFMS様チロシンキナーゼ3(FLT−3)、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン3(IL−3)、インターロイキン6(IL−6)およびヘパリンを含む培養培地で起こる、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記培養培地は1種または複数種のアミノ酸、抗生物質、ビタミン、塩、ミネラルまたは脂質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記培養培地はBIT9500、BMP4、VEGF、bFGF、L−グルタミン、非必須アミノ酸、モノチオグリセロール、ペニシリンおよびストレプトマイシンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記培養培地はBMP−4、VEGFおよびbFGFからなる群より選択される2種以上の組換え型増殖因子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
少なくとも一部を自動化するためロボットを使用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
複数の前記多能性幹細胞はバイオリアクターを使用して培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
磁気活性化細胞ソーティング(MACS)、フローサイトメトリーまたは蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)を使用して前記CD34+前駆細胞を分取する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
CD34、CD43およびCD31からなる群の1つまたは複数の発現に基づき前記CD34+前駆細胞を分取する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
a)多能性幹細胞コロニーまたはクローン細胞群を分散させ、分散した本質的に個別の細胞を形成する工程、および
b)前記分散させた細胞を培養面1平方センチメートル当たり約10,000幹細胞から培養面1平方センチメートル当たり約70,000幹細胞の密度で培養培地に播種する工程
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞は生存因子を含む培養培地に分散される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記分散された細胞は培養面に1平方センチメートル当たり約10,000幹細胞から培養面に1平方センチメートル当たり約50,000幹細胞の密度で播種される、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記多能性幹細胞は有効量の1種または複数種の酵素による処理により分散される、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記酵素の少なくとも1種はトリプシンまたはtrypLEである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記分化培地は規定された分化培地である、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
ヒト多能性幹細胞をCD43+前駆細胞に分化させる方法であって:
a)多能性幹細胞を、フィーダー細胞を含まないか、またはフィーダー細胞を本質的に含まず、マトリックス成分、ならびにBMP−4、VEGFおよびbFGFからなる群より選択される少なくとも1種の組換え型増殖因子を含む培養培地で培養する工程;および
b)前記細胞を5.5%未満酸素の低酸素雰囲気下で前記CD43+前駆細胞を得るための期間分化させる工程
を含む、方法。
【請求項35】
ヒト多能性幹細胞をCD31+前駆細胞に分化させる方法であって:
a)多能性幹細胞を、フィーダー細胞を含まないか、またはフィーダー細胞を本質的に含まず、マトリックス成分、ならびにBMP−4、VEGFおよびbFGFからなる群より選択される少なくとも1種の組換え型増殖因子を含む培養培地で培養する工程;および
b)前記細胞を5.5%未満酸素の低酸素雰囲気下で前記CD31+前駆細胞を得るための期間分化させる工程
を含む、方法。
【請求項36】
ヒト多能性幹細胞をCD31+前駆細胞に分化させる方法であって:
a)マトリックス成分;および
b)BMP−4、VEGFおよびbFGFからなる群より選択される少なくとも1種の組換え型増殖因子を含む分化培地
を含む培地で多能性幹細胞を増殖させる工程を含み、
前記培地は非ヒト動物血清、フィーダー細胞およびMatrigelTMを含まないか、または非ヒト動物血清、フィーダー細胞およびMatrigelTMを本質的に含まない、
方法。
【請求項37】
前記培地は非ヒト動物血清、フィーダー細胞およびMatrigelTMを含まない、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記培地は非ヒト動物のタンパク質を含まないか、または非ヒト動物のタンパク質を本質的に含まない、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
ヒト多能性幹細胞をCD34+前駆細胞に分化させる方法であって:
a)マトリックス成分;および
b)BMP−4、VEGFおよびbFGFからなる群より選択される少なくとも1種の組換え型増殖因子を含む分化培地
を含む培地で多能性幹細胞を増殖させる工程を含み、
前記培地は非ヒト動物血清、フィーダー細胞およびMatrigelTMを含まないか、または非ヒト動物血清、フィーダー細胞およびMatrigelTMを本質的に含まない、
方法。
【請求項40】
前記培地は非ヒト動物血清、フィーダー細胞およびMatrigelTMを含まない、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記培地は非ヒト動物のタンパク質を含まないか、または非ヒト動物のタンパク質を本質的に含まない、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
ヒト多能性幹細胞をCD31+前駆細胞に分化させる方法であって、多能性幹細胞を規定された分化培地で培養する工程を含む、方法。
【請求項43】
ヒト多能性幹細胞をCD34+前駆細胞に分化させる方法であって、多能性幹細胞を規定された分化培地で培養する工程を含む、方法。
【請求項44】
ヒト多能性幹細胞をCD43+前駆細胞に分化させる方法であって、多能性幹細胞を規定された分化培地で培養する工程を含む、方法。
【請求項45】
BMP−4、VEGF、bFGFおよびマトリックス成分を含む分化培養培地であって、前記培地はフィーダー細胞、血清およびMatrigelTMを含まないか、またはフィーダー細胞、血清およびMatrigelTMを本質的に含まない、分化培養培地。
【請求項46】
さらに非ヒト動物増殖因子を含まないか、または非ヒト動物増殖因子を本質的に含まない、請求項45に記載の分化培地。
【請求項47】
さらに非ヒト動物のタンパク質を含まないか、または非ヒト動物のタンパク質を本質的に含まない、請求項45に記載の分化培地。
【請求項48】
フィーダー細胞、血清およびMatrigelTMを含まない、請求項45に記載の分化培地。
【請求項49】
前記マトリックス成分はフィブロネクチン、コラーゲンまたはRGDペプチドを含む、請求項45に記載の分化培地。
【請求項50】
約5ng/mL〜約200ng/mLの量のBMP−4を含む、請求項45に記載の分化培地。
【請求項51】
約5ng/mL〜約200ng/mLの量のVEGFを含む、請求項45に記載の分化培地。
【請求項52】
約5ng/mL〜約200ng/mLの量のbFGFを含む、請求項45に記載の分化培地。
【請求項53】
BIT9500、BMP4、VEGF、bFGF、L−グルタミン、非必須アミノ酸、モノチオグリセロール、ペニシリンおよびストレプトマイシンを含む、請求項45に記載の分化培地。
【請求項54】
1種または複数種のアミノ酸、抗生物質、ビタミン、塩、ミネラルまたは脂質をさらに含む、請求項45に記載の分化培地。
【請求項55】
多能性幹細胞、前駆細胞、CD34+前駆細胞、CD43+前駆細胞およびCD31+前駆細胞からなる群より選択される1種または複数種の細胞をさらに含む、請求項45に記載の分化培地。
【請求項56】
規定された培地である、請求項45に記載の分化培地。
【請求項57】
1つまたは複数の密封バイアルに請求項45に記載の分化培養培地を含む、キット。
【請求項58】
細胞をさらに含む、請求項57に記載のキット。
【請求項59】
前記細胞は多能性細胞、前駆細胞、CD34+前駆細胞、CD43+前駆細胞またはCD31+前駆細胞である、請求項57に記載のキット。
【請求項60】
多能性細胞のCD34+前駆細胞への分化を促進する能力について候補物質をスクリーニングする方法であって:
a)フィーダー細胞を含まないか、またはフィーダー細胞を本質的に含まない培養培地であって、マトリックス成分と、BMP−4、VEGFおよびbFGFからなる群より選択される少なくとも1種の組換え型増殖因子と、候補物質とを含む、培地で多能性幹細胞を培養する工程;
b)前記細胞を5.5%未満酸素の低酸素雰囲気下で前記CD34+前駆細胞を得るための期間分化させる工程;および
c)CD34+前駆細胞への分化について前記多能性細胞を評価する工程
を含む、方法。
【請求項61】
評価する工程は前記候補物質の存在下での前記多能性幹細胞の分化と、前記候補物質を使用しない同様の細胞培地での前記多能性幹細胞の分化とを比較する工程を含む、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記候補物質は小分子、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、抗体フラグメントまたは核酸である、請求項60に記載の方法。
【請求項63】
前記分化培地はSCF、TPO、FLT−3、IL−3、IL−6およびヘパリンからなる群の1つまたは複数をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項64】
CD34+前駆細胞を含むクローン細胞集団であって、前記細胞の少なくとも5%はCD34+またはCD43+前駆細胞であり、前記細胞集団は血清およびフィーダー細胞を含まないか、または血清およびフィーダー細胞を本質的に含まない規定された培地中に存在する、クローン細胞集団。
【請求項65】
約10〜約1015個のCD34+またはCD43+前駆細胞を含む、請求項64に記載の細胞集団。
【請求項66】
CD31+前駆細胞を含むクローン細胞集団であって、前記細胞の少なくとも20%はCD31+またはCD34+前駆細胞であり、前記細胞集団は血清およびフィーダー細胞を含まないか、または血清およびフィーダー細胞を本質的に含まない規定された培地中に存在する、クローン細胞集団。
【請求項67】
約10〜約1015個のCD31+またはCD34+前駆細胞を含む、請求項66に記載の細胞集団。

【公表番号】特表2012−518415(P2012−518415A)
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551266(P2011−551266)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/024881
【国際公開番号】WO2010/096746
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(510003830)セルラー ダイナミクス インターナショナル, インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】