幹細胞分離装置および幹細胞分離方法
【課題】高い収率で幹細胞を分離する。
【解決手段】容器4と、該容器4の内部空間A1,A2を区画し、幹細胞を通過可能な口径の多数の透孔を有する第1のフィルタ5と、該第1のフィルタ5によって区画された一方の空間A2に開口する開閉可能な液体排出口3と、該液体排出口3を覆う位置に配置され、幹細胞の通過を禁止し液体の通過を許容する口径の多数の透孔を有する第2のフィルタ6とを備え、前記第1および第2のフィルタ5,6に挟まれた空間A2に、血管形成を誘導する誘導因子を含む誘導培地11が充填されている幹細胞分離装置1を提供する。
【解決手段】容器4と、該容器4の内部空間A1,A2を区画し、幹細胞を通過可能な口径の多数の透孔を有する第1のフィルタ5と、該第1のフィルタ5によって区画された一方の空間A2に開口する開閉可能な液体排出口3と、該液体排出口3を覆う位置に配置され、幹細胞の通過を禁止し液体の通過を許容する口径の多数の透孔を有する第2のフィルタ6とを備え、前記第1および第2のフィルタ5,6に挟まれた空間A2に、血管形成を誘導する誘導因子を含む誘導培地11が充填されている幹細胞分離装置1を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞分離装置および幹細胞分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、骨髄などの幹細胞を有する組織から幹細胞を含む細胞群または幹細胞を抽出し、様々な疾患に対して細胞を投与、または患部に注入する細胞治療が行われている。このような幹細胞を抽出するための技術として、CD34抗体で分離する技術が知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5536475号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】臨床病理レビュー 特集第122号 「最新 造血細胞移植とその実際手技」、p146−156
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、CD34抗体による分離は、収率が低いという問題がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、高い収率で幹細胞を分離することができる幹細胞分離装置および幹細胞分離方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、容器と、該容器の内部空間を区画し、幹細胞を通過可能な口径の多数の透孔を有する第1のフィルタと、該第1のフィルタによって区画された一方の空間に開口する開閉可能な液体排出口と、該液体排出口を覆う位置に配置され、幹細胞の通過を禁止し液体の通過を許容する口径の多数の透孔を有する第2のフィルタとを備え、前記第1および第2のフィルタに挟まれた空間に、血管形成を誘導する誘導因子を含む誘導培地が充填されている幹細胞分離装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、幹細胞を含む細胞懸濁液が容器内の第1のフィルタによって区画された空間に収容されると、細胞懸濁液が第1のフィルタを挟んで誘導培地に隣接する。誘導培地内に含まれている血管形成を誘導する誘導因子が、第1のフィルタを越えて細胞懸濁液に作用し、細胞懸濁液内に含まれている幹細胞が誘導培地の収容されている空間の方向に誘導される。
【0008】
第1のフィルタは幹細胞を通過させることができる口径の多数の透孔を有しているので、誘導された幹細胞は第1のフィルタの透孔を通過して誘導培地の空間内に入る。この状態で、残った細胞懸濁液を排出し、また、液体排出口を開放して第2のフィルタを介して誘導培地を排出することにより、誘導培地内に誘導されていた幹細胞を中央空間に残した状態で回収することができる。これにより、CD34抗体によることなく、高い収率で幹細胞を分離することができる。
上記発明においては、前記誘導因子が、SDF−1、MCP−1、VEGFまたはHGFの少なくとも1つであることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、容器内に設けられた幹細胞を通過可能な口径の多数の透孔を有する第1のフィルタと、幹細胞の通過を禁止し液体の通過を許容する口径の多数の透孔を有する第2のフィルタとの間に挟まれる培地空間に、血管形成を誘導する誘導因子を含む誘導培地を充填しておき、前記培地空間に前記第1のフィルタを挟んで隣接する空間に、幹細胞を含む細胞懸濁液を収容して培養し、その後に、前記培地空間に開口し前記第2のフィルタによって覆われる液体排出口から容器の外部に誘導培地を排出する幹細胞分離方法を提供する。
上記発明においては、前記誘導因子が、SDF−1、MCP−1、VEGFまたはHGFの少なくとも1つであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い収率で幹細胞を分離することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞分離装置を示す模式的な縦断面図である。
【図2】図1の細胞分離装置による細胞分離方法を説明するフローチャートである。
【図3】図1の細胞分離装置の上部空間に細胞懸濁液を導入した状態を示す模式的な縦断面図である。
【図4】図3の細胞分離装置により培養した後の状態を示す模式的な縦断面図である。
【図5】図4の状態から上部空間の細胞懸濁液を排出した状態を示す模式的な縦断面図である。
【図6】図5の状態から誘導培地を排出した状態を示す模式的な縦断面図である。
【図7】図6の状態から中央空間に洗浄液を供給した状態を示す模式的な縦断面図である。
【図8】図7の状態から洗浄液を排出した状態を示す模式的な縦断面図である。
【図9】図8の状態から中央空間に乳酸リンゲル液を供給した状態を示す模式的な縦断面図である。
【図10】図9の状態から中央空間から幹細胞を含む乳酸リンゲル液を吸引して回収する状態を説明する模式的な縦断面図である。
【図11】図1の細胞分離装置において、誘導培地内のSDF−1の濃度と回収される細胞数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る細胞分離装置1および細胞分離方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1は、図1に示されるように、上端に細胞懸濁液の導入口2を有し、下端に液体の第1の排出口3を有する筒状の容器4と、容器4の内部に上下方向に間隔をあけて配置され、容器4内部を上部空間A1、中央空間A2および下部空間A3に区画する第1,第2のフィルタ5,6とを備えている。
【0013】
第1のフィルタ5は、幹細胞の通過を許容し、それよりも大きな細胞等の通過を禁止する程度の口径約8μmの複数の透孔(図示略)を有している。
第2のフィルタ6は、幹細胞の通過を禁止し、液体の通過を許容する程度の口径約4μmの複数の透孔(図示略)を有している。
【0014】
上部空間A1には、さらに、外気の流通を可能にしつつ、塵埃やウィルス等の容器4内への浸入を禁止するフィルタ7と、該上部空間A1内の液体を排出するための開閉可能な第2の排出口8が設けられている。
また、中央空間A2には、該中央空間A2内に液体を供給するための液体供給口9と、最終的に中央空間A2内に残留した幹細胞Bを回収するための回収口10とが設けられている。
【0015】
容器4内の中央空間A2および下部空間A3には、誘導培地11が収容されている。誘導培地11は、例えば、DMEM/F12培地に10%血清および100ng/mLの血管形成を誘導する因子、例えば、SDF−1、MCP−1、VEGFまたはHGFの少なくとも1つを含んだものである。誘導培地11は、第1のフィルタ5に接触する位置まで中央空間A2および下部空間A3内に満たされている。
【0016】
このように構成された本実施形態に係る細胞分離装置1を用いた細胞分離方法について、以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1を用いて細胞懸濁液Cから幹細胞Bを分離するには、容器4の全ての排出口3,8、回収口10および供給口9を閉じた状態で、図1および図2に示されるように、中央空間A2および下部空間A3内に誘導培地11を貯留する(ステップS1)。
【0017】
この状態で、容器4の上部の導入口2を開放し、図3に示されるように、導入口2から細胞懸濁液Cを容器4の上部空間A1内に導入する(ステップS2)。
細胞懸濁液Cは、例えば、骨髄液を乳酸リンゲル液等によって希釈したもので、幹細胞Bの他、種々の細胞を含んでいる。
【0018】
上部空間A1内に導入された細胞懸濁液Cは、第1のフィルタ5を挟んで中央空間A2内の誘導培地11に隣接させられる。
この状態で、図4に示されるように、所定の培養条件、例えば、37℃の環境下に容器4ごと配置して、静置することにより、細胞懸濁液C内の幹細胞Bを培養する(ステップS3)。
【0019】
誘導培地11には、血管形成を誘導する因子が含まれているので、この因子の作用によって、細胞懸濁液C内の幹細胞Bが細胞懸濁液C内を遊走して中央空間A2の方向に引き寄せられる。他の細胞にはこの因子はほぼ作用しない。
【0020】
そして、中央空間A2の方向に引き寄せられた幹細胞Bは、時間の経過によって、第1のフィルタ5の透孔を通過して中央空間A2の誘導培地11内に入る。
所定時間、例えば、22時間経過した後に、図5に示されるように、上部空間A1に設けられた第2の排出口8を開放して、細胞懸濁液Cを排出する(ステップS4)。次いで、図6に示されるように、容器4の下部の第1の排出口3を開放して、中央空間A2および下部空間A3に貯留されている誘導培地11を排出する(ステップS5)。
【0021】
第2のフィルタ6は、幹細胞Bの通過を禁止する口径の透孔を有しているので、中央空間A2内に誘導されてきていた幹細胞Bは、第2のフィルタ6によって捕捉され、誘導培地11のみが第1の排出口3から排出される。
そして、誘導培地11が排出され終わったら、第1の排出口3を閉じて、図7に示されるように、中央空間A2に設けられた液体供給口9から中央空間A2内に洗浄液Dを供給し(ステップS6)、第2のフィルタ6に捕捉されていた幹細胞Bを再懸濁する。そして、図8に示されるように、第1の排出口3を開放して、洗浄液Dを排出する(ステップS7)。
【0022】
必要により、ステップS6およびステップS7を繰り返すことにより、第2のフィルタ6に捕捉された幹細胞Bを洗浄する(ステップS8)。この後に、図9に示されるように、液体供給口9から乳酸リンゲル液のような回収用の液体Eを中央空間A2内に供給して幹細胞Bを再懸濁し(ステップS9)、図10に示されるように、回収口10に接続したシリンジ12等によって幹細胞Bを含む液体Eを回収する(ステップS10)。
【0023】
このように、本実施形態に係る細胞分離装置1および細胞分離方法によれば、上部空間A1に幹細胞Bを含む細胞懸濁液Cを貯留して、所定の時間にわたって培養するだけで、細胞懸濁液C内の幹細胞Bを中央空間A2に遊走させて分離することができる。したがって、CD34抗体を用いることなく、高い収率で、幹細胞Bを回収することができるという利点がある。
【0024】
なお、本実施形態においては、SDF−1の濃度として、100ng/mLを例示したが、これに限定されるものではない。図11に示されるように、SDF−1の濃度と回収される細胞数との関係を示す。図11によれば、SDF−1を含まない場合と比較して、50ng/mL以上のSDF−1が含有されていれば、いずれの場合も細胞回収率が増大していることがわかる。
【符号の説明】
【0025】
1 幹細胞分離装置
3 第1の排出口(液体排出口)
4 容器
5 第1のフィルタ
6 第2のフィルタ
11 誘導培地
A1 上部空間(内部空間)
A2 中央空間(空間)
B 幹細胞
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞分離装置および幹細胞分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、骨髄などの幹細胞を有する組織から幹細胞を含む細胞群または幹細胞を抽出し、様々な疾患に対して細胞を投与、または患部に注入する細胞治療が行われている。このような幹細胞を抽出するための技術として、CD34抗体で分離する技術が知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5536475号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】臨床病理レビュー 特集第122号 「最新 造血細胞移植とその実際手技」、p146−156
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、CD34抗体による分離は、収率が低いという問題がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、高い収率で幹細胞を分離することができる幹細胞分離装置および幹細胞分離方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、容器と、該容器の内部空間を区画し、幹細胞を通過可能な口径の多数の透孔を有する第1のフィルタと、該第1のフィルタによって区画された一方の空間に開口する開閉可能な液体排出口と、該液体排出口を覆う位置に配置され、幹細胞の通過を禁止し液体の通過を許容する口径の多数の透孔を有する第2のフィルタとを備え、前記第1および第2のフィルタに挟まれた空間に、血管形成を誘導する誘導因子を含む誘導培地が充填されている幹細胞分離装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、幹細胞を含む細胞懸濁液が容器内の第1のフィルタによって区画された空間に収容されると、細胞懸濁液が第1のフィルタを挟んで誘導培地に隣接する。誘導培地内に含まれている血管形成を誘導する誘導因子が、第1のフィルタを越えて細胞懸濁液に作用し、細胞懸濁液内に含まれている幹細胞が誘導培地の収容されている空間の方向に誘導される。
【0008】
第1のフィルタは幹細胞を通過させることができる口径の多数の透孔を有しているので、誘導された幹細胞は第1のフィルタの透孔を通過して誘導培地の空間内に入る。この状態で、残った細胞懸濁液を排出し、また、液体排出口を開放して第2のフィルタを介して誘導培地を排出することにより、誘導培地内に誘導されていた幹細胞を中央空間に残した状態で回収することができる。これにより、CD34抗体によることなく、高い収率で幹細胞を分離することができる。
上記発明においては、前記誘導因子が、SDF−1、MCP−1、VEGFまたはHGFの少なくとも1つであることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、容器内に設けられた幹細胞を通過可能な口径の多数の透孔を有する第1のフィルタと、幹細胞の通過を禁止し液体の通過を許容する口径の多数の透孔を有する第2のフィルタとの間に挟まれる培地空間に、血管形成を誘導する誘導因子を含む誘導培地を充填しておき、前記培地空間に前記第1のフィルタを挟んで隣接する空間に、幹細胞を含む細胞懸濁液を収容して培養し、その後に、前記培地空間に開口し前記第2のフィルタによって覆われる液体排出口から容器の外部に誘導培地を排出する幹細胞分離方法を提供する。
上記発明においては、前記誘導因子が、SDF−1、MCP−1、VEGFまたはHGFの少なくとも1つであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い収率で幹細胞を分離することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る細胞分離装置を示す模式的な縦断面図である。
【図2】図1の細胞分離装置による細胞分離方法を説明するフローチャートである。
【図3】図1の細胞分離装置の上部空間に細胞懸濁液を導入した状態を示す模式的な縦断面図である。
【図4】図3の細胞分離装置により培養した後の状態を示す模式的な縦断面図である。
【図5】図4の状態から上部空間の細胞懸濁液を排出した状態を示す模式的な縦断面図である。
【図6】図5の状態から誘導培地を排出した状態を示す模式的な縦断面図である。
【図7】図6の状態から中央空間に洗浄液を供給した状態を示す模式的な縦断面図である。
【図8】図7の状態から洗浄液を排出した状態を示す模式的な縦断面図である。
【図9】図8の状態から中央空間に乳酸リンゲル液を供給した状態を示す模式的な縦断面図である。
【図10】図9の状態から中央空間から幹細胞を含む乳酸リンゲル液を吸引して回収する状態を説明する模式的な縦断面図である。
【図11】図1の細胞分離装置において、誘導培地内のSDF−1の濃度と回収される細胞数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る細胞分離装置1および細胞分離方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1は、図1に示されるように、上端に細胞懸濁液の導入口2を有し、下端に液体の第1の排出口3を有する筒状の容器4と、容器4の内部に上下方向に間隔をあけて配置され、容器4内部を上部空間A1、中央空間A2および下部空間A3に区画する第1,第2のフィルタ5,6とを備えている。
【0013】
第1のフィルタ5は、幹細胞の通過を許容し、それよりも大きな細胞等の通過を禁止する程度の口径約8μmの複数の透孔(図示略)を有している。
第2のフィルタ6は、幹細胞の通過を禁止し、液体の通過を許容する程度の口径約4μmの複数の透孔(図示略)を有している。
【0014】
上部空間A1には、さらに、外気の流通を可能にしつつ、塵埃やウィルス等の容器4内への浸入を禁止するフィルタ7と、該上部空間A1内の液体を排出するための開閉可能な第2の排出口8が設けられている。
また、中央空間A2には、該中央空間A2内に液体を供給するための液体供給口9と、最終的に中央空間A2内に残留した幹細胞Bを回収するための回収口10とが設けられている。
【0015】
容器4内の中央空間A2および下部空間A3には、誘導培地11が収容されている。誘導培地11は、例えば、DMEM/F12培地に10%血清および100ng/mLの血管形成を誘導する因子、例えば、SDF−1、MCP−1、VEGFまたはHGFの少なくとも1つを含んだものである。誘導培地11は、第1のフィルタ5に接触する位置まで中央空間A2および下部空間A3内に満たされている。
【0016】
このように構成された本実施形態に係る細胞分離装置1を用いた細胞分離方法について、以下に説明する。
本実施形態に係る細胞分離装置1を用いて細胞懸濁液Cから幹細胞Bを分離するには、容器4の全ての排出口3,8、回収口10および供給口9を閉じた状態で、図1および図2に示されるように、中央空間A2および下部空間A3内に誘導培地11を貯留する(ステップS1)。
【0017】
この状態で、容器4の上部の導入口2を開放し、図3に示されるように、導入口2から細胞懸濁液Cを容器4の上部空間A1内に導入する(ステップS2)。
細胞懸濁液Cは、例えば、骨髄液を乳酸リンゲル液等によって希釈したもので、幹細胞Bの他、種々の細胞を含んでいる。
【0018】
上部空間A1内に導入された細胞懸濁液Cは、第1のフィルタ5を挟んで中央空間A2内の誘導培地11に隣接させられる。
この状態で、図4に示されるように、所定の培養条件、例えば、37℃の環境下に容器4ごと配置して、静置することにより、細胞懸濁液C内の幹細胞Bを培養する(ステップS3)。
【0019】
誘導培地11には、血管形成を誘導する因子が含まれているので、この因子の作用によって、細胞懸濁液C内の幹細胞Bが細胞懸濁液C内を遊走して中央空間A2の方向に引き寄せられる。他の細胞にはこの因子はほぼ作用しない。
【0020】
そして、中央空間A2の方向に引き寄せられた幹細胞Bは、時間の経過によって、第1のフィルタ5の透孔を通過して中央空間A2の誘導培地11内に入る。
所定時間、例えば、22時間経過した後に、図5に示されるように、上部空間A1に設けられた第2の排出口8を開放して、細胞懸濁液Cを排出する(ステップS4)。次いで、図6に示されるように、容器4の下部の第1の排出口3を開放して、中央空間A2および下部空間A3に貯留されている誘導培地11を排出する(ステップS5)。
【0021】
第2のフィルタ6は、幹細胞Bの通過を禁止する口径の透孔を有しているので、中央空間A2内に誘導されてきていた幹細胞Bは、第2のフィルタ6によって捕捉され、誘導培地11のみが第1の排出口3から排出される。
そして、誘導培地11が排出され終わったら、第1の排出口3を閉じて、図7に示されるように、中央空間A2に設けられた液体供給口9から中央空間A2内に洗浄液Dを供給し(ステップS6)、第2のフィルタ6に捕捉されていた幹細胞Bを再懸濁する。そして、図8に示されるように、第1の排出口3を開放して、洗浄液Dを排出する(ステップS7)。
【0022】
必要により、ステップS6およびステップS7を繰り返すことにより、第2のフィルタ6に捕捉された幹細胞Bを洗浄する(ステップS8)。この後に、図9に示されるように、液体供給口9から乳酸リンゲル液のような回収用の液体Eを中央空間A2内に供給して幹細胞Bを再懸濁し(ステップS9)、図10に示されるように、回収口10に接続したシリンジ12等によって幹細胞Bを含む液体Eを回収する(ステップS10)。
【0023】
このように、本実施形態に係る細胞分離装置1および細胞分離方法によれば、上部空間A1に幹細胞Bを含む細胞懸濁液Cを貯留して、所定の時間にわたって培養するだけで、細胞懸濁液C内の幹細胞Bを中央空間A2に遊走させて分離することができる。したがって、CD34抗体を用いることなく、高い収率で、幹細胞Bを回収することができるという利点がある。
【0024】
なお、本実施形態においては、SDF−1の濃度として、100ng/mLを例示したが、これに限定されるものではない。図11に示されるように、SDF−1の濃度と回収される細胞数との関係を示す。図11によれば、SDF−1を含まない場合と比較して、50ng/mL以上のSDF−1が含有されていれば、いずれの場合も細胞回収率が増大していることがわかる。
【符号の説明】
【0025】
1 幹細胞分離装置
3 第1の排出口(液体排出口)
4 容器
5 第1のフィルタ
6 第2のフィルタ
11 誘導培地
A1 上部空間(内部空間)
A2 中央空間(空間)
B 幹細胞
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器と、
該容器の内部空間を区画し、幹細胞を通過可能な口径の多数の透孔を有する第1のフィルタと、
該第1のフィルタによって区画された一方の空間に開口する開閉可能な液体排出口と、
該液体排出口を覆う位置に配置され、幹細胞の通過を禁止し液体の通過を許容する口径の多数の透孔を有する第2のフィルタとを備え、
前記第1および第2のフィルタに挟まれた空間に、血管形成を誘導する誘導因子を含む誘導培地が充填されている幹細胞分離装置。
【請求項2】
前記誘導因子が、SDF−1、MCP−1、VEGFまたはHGFの少なくとも1つである請求項1に記載の幹細胞分離装置。
【請求項3】
容器内に設けられた幹細胞を通過可能な口径の多数の透孔を有する第1のフィルタと、幹細胞の通過を禁止し液体の通過を許容する口径の多数の透孔を有する第2のフィルタとの間に挟まれる培地空間に、血管形成を誘導する誘導因子を含む誘導培地を充填し、
前記培地空間に前記第1のフィルタを挟んで隣接する空間に、幹細胞を含む細胞懸濁液を収容して培養し、
その後に、前記培地空間に開口し前記第2のフィルタによって覆われる液体排出口から容器の外部に誘導培地を排出する幹細胞分離方法。
【請求項4】
前記誘導因子が、SDF−1、MCP−1、VEGFまたはHGFの少なくとも1つである請求項3に記載の幹細胞分離方法。
【請求項1】
容器と、
該容器の内部空間を区画し、幹細胞を通過可能な口径の多数の透孔を有する第1のフィルタと、
該第1のフィルタによって区画された一方の空間に開口する開閉可能な液体排出口と、
該液体排出口を覆う位置に配置され、幹細胞の通過を禁止し液体の通過を許容する口径の多数の透孔を有する第2のフィルタとを備え、
前記第1および第2のフィルタに挟まれた空間に、血管形成を誘導する誘導因子を含む誘導培地が充填されている幹細胞分離装置。
【請求項2】
前記誘導因子が、SDF−1、MCP−1、VEGFまたはHGFの少なくとも1つである請求項1に記載の幹細胞分離装置。
【請求項3】
容器内に設けられた幹細胞を通過可能な口径の多数の透孔を有する第1のフィルタと、幹細胞の通過を禁止し液体の通過を許容する口径の多数の透孔を有する第2のフィルタとの間に挟まれる培地空間に、血管形成を誘導する誘導因子を含む誘導培地を充填し、
前記培地空間に前記第1のフィルタを挟んで隣接する空間に、幹細胞を含む細胞懸濁液を収容して培養し、
その後に、前記培地空間に開口し前記第2のフィルタによって覆われる液体排出口から容器の外部に誘導培地を排出する幹細胞分離方法。
【請求項4】
前記誘導因子が、SDF−1、MCP−1、VEGFまたはHGFの少なくとも1つである請求項3に記載の幹細胞分離方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−220525(P2010−220525A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70562(P2009−70562)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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