説明

広帯域光コム発生装置

【課題】 本発明は,広帯域であり,平坦性の高い光コム信号を発生する光コム発生装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は,基本的には,平坦性の高い光コム信号を発生する光コム発生器と,帰還回路とを組み合わせることで,広帯域であり,平坦性の高い光コム信号を発生する光コム発生装置を得ることができるという知見に基づく。光コム発生器13は,マッハツェンダー導波路を有する光変調器21と,光変調器21に印加される光コム発生器の駆動信号を発生するための信号源22を有する。そして,帰還回路15のループ長は,光コム発生器の駆動信号の波長のn倍である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,光コム信号を光コム発生器に帰還することにより,広帯域で平坦性の高い光コム信号を発生する光コム発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モード同期レーザや光変調器を用いた光コム発生装置が知られている。モード同期レーザを用いた光コム発生装置は,レーザ媒質の非線形性を利用し,各モードの発振周波数と位相を同期する。しかし,モード同期レーザを用いて安定した光コム信号を得るためには,光共振器を構成するミラーを精密に制御しなければならない。
【0003】
光変調器を用いた光コム発生器は,例えば特許文献1及び特許文献2に開示されている。これは,光変調器を光共振器内に配置して光を往復させることで,1回の変調に比べて深い変調を掛け,多数のモードをもつ光コムを発生する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−264870号公報
【特許文献2】特開2003−202609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,従来の光共振器を用いた光コム発生器は,共振器内を往復する光の位相と外部から入力する光の位相を合わせる必要があった。このため,このような光コム発生器は,共振器を精密に制御する必要があり,広い波長範囲で平坦性が良い光コムを得られないという問題がある。
【0006】
そこで,本発明は,広帯域であり,平坦性の高い光コム信号を発生する光コム発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は,基本的には,平坦性の高い光コム信号を発生する光コム発生器と,帰還回路とを組み合わせることで,広帯域であり,平坦性の高い光コム信号を発生する光コム発生装置を得ることができるという知見に基づく。
【0008】
本発明の第1の側面は,広帯域光コム信号発生装置に関する。この光コム信号発生装置は,連続波光源11と,連続波光源11から出力された連続光が入力する第1の光合波・分波器12と,第1の光合波・分波器12から出力された連続光が入力する光コム発生器13と,光コム発生器13から出力された光コム信号が入力する第2の光合波・分波器14と,第2の光合波・分波器14で分波された光コム信号を第1の光合波・分波器12へと帰還させるための帰還回路15と,帰還回路15に設けられ,入力光の強度を増幅するための光増幅器16と,を有する。
【0009】
そして,光コム発生器13は,マッハツェンダー導波路を有する光変調器21と,光変調器21に印加される光コム発生器の駆動信号を発生するための信号源22を有する。そして,帰還回路15のループ長は,光コム発生器の駆動信号の波長のn倍(整数倍)である。
【0010】
この帰還回路のループ長の場合に,最も効率よく光コム信号の帯域を拡げることができる。なお,nは正の整数である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば,広帯域であり,平坦性の高い光コム信号を発生する光コム発生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は,本発明の光コム発生装置を示すブロック図である。
【図2】図2は,光コム発生器の概略図である。
【図3】図3は,光コム発生器の構成を示す概略図である。
【図4】図4は,光コム発生器の光周波数コムが発生する概念を説明するための図である。
【図5】図5は,光コム発生器の好ましい利用態様である光パルス発生装置の概略図である。
【図6】図6は,実施例における光コム発生装置のブロック図である。
【図7】図7は,帰還を行わない光コム信号を示す。
【図8】図8は,帰還を行った光コム信号を示す。
【図9】図9は,帰還形光コム発生器で得られる光コムスペクトルのシミュレーション結果を示す。図9(a)は,種光を注入した後に半導体レーザをオフにした場合の光コムスペクトルを示す。図9(b)は,半導体レーザを常時オンにした場合の光コムスペクトルを示す。
【図10】図10は,本発明の光コム発生器で得られた光コムを分散補償することにより得られる光パルスの波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下,本発明を実施するための形態について説明する。図1は,本発明の光コム発生装置を示すブロック図である。
【0014】
図1に示される通り,本発明の光コム信号発生装置は,連続波光源11,第1の光合波・分波器12,光コム発生器13,第2の光合波・分波器14,帰還回路15,及び光増幅器16を有する。
【0015】
連続波光源11の例は,分布帰還型半導体レーザ(DFBレーザ)である。DFBレーザとして,定光出力動作タイプのDFBレーザが,高い単一波長選択性を有するので好ましい。光の帯域として,C−bandのみならず,その長波側のL−band又はその短波側のS−bandであってもよい。連続波光源11の出力光の強度の例は,1mW〜50mWである。
【0016】
第1の光合波・分波器12及び第2の光合波・分波器14の例は,光カプラ,方向性結合器である。すなわち,これらの光合波・分波器は,2つ又はそれ以上の光を合波する。また,これらの光合波・分波器は,所定の強度比を有する2つ又はそれ以上の光に入力光を分波する。
【0017】
本発明の光コム発生器13は,光変調器を用いた光コム発生器である。光コム発生器13の例は,たとえば,特開2007−248660号公報に開示されている。光コム発生器については,後述する。
【0018】
帰還回路15は,光コム発生器13から出力された光コム信号を第2の光合波・分波器14で分波し,第1の光合波・分波器12に帰還させることで,分波された光コム信号を光コム発生器13に入力するための回路である。帰還回路15のループ長は,光コム発生器の駆動信号の波長のn倍(整数倍)である。この帰還回路のループ長の場合に,最も効率よく光コム信号の帯域を拡げることができる。なお,nは正の整数である。ループ長は,第2の光合波・分波器14から光増幅器16までの光路長と,光増幅器16から第1の光合波・分波器12までの光路長の和である。ループ長が駆動信号の波長のn倍でない場合,発生される光コムの帯域は狭くなり,半波長倍のとき,光コム発生器単体の帯域となる。
【0019】
光増幅器16は,入力光の強度を増幅するための素子である。具体的に説明すると,光増幅器16は,分波器14で分波された光コム信号の信号強度を増幅する。そして,強度が増幅された光コム信号が,第1の光合波・分波器12に帰還する。
【0020】
次に,本発明の光コム信号発生装置の動作例について説明する。
【0021】
まず,連続波光源11から連続光が出力される。
【0022】
連続波光源11から出力された連続光は,第1の光合波・分波器12を経由して,光コム発生器13に入力する。
【0023】
すると,光コム発生器13から光コム信号が出力される。光コム発生器13から出力された光コム信号は,第2の光合波・分波器14に入力される。
【0024】
第2の光合波・分波器14で分波された一方の光コム信号は,本発明の光コム信号発生装置から出力される。第2の光合波・分波器14で分波された残りの光コム信号は,帰還回路を経て,光コム発生器13に入力される。
【0025】
つまり,第2の光合波・分波器14で分波された残りの光コム信号は,帰還回路15の光増幅器16に入力する。すると,この光コム信号は,光増幅器16によりその強度が増幅される。そして,強度が増幅された光コム信号が,第1の光合波・分波器12へと帰還する。
【0026】
第1の光合波・分波器12へと帰還した光コム信号は,連続光光源11からの連続光と合波され,光コム発生器13に入力される。なお,光コム信号が第1の光合波・分波器12へと帰還した後は,連続光光源11をOFFにしてもよい。
【0027】
図2は,光コム発生器の概略図である。光コム発生器(13)は,たとえば,光の入力部(32)と,入力部に入力した光が分岐する分岐部(33)と,分岐部(33)から分岐した光が伝播する第1の導波路(34)と,分岐部(33)から分岐した上記とは別の光が伝播する第2の導波路(35)と,第1の導波路と第2の導波路から出力される光信号が合波される合波部(36)と,合波部で合波された光信号が出力される光信号の出力部(37)とを含む導波路部分(38)と;第1の導波路を駆動する第1の駆動信号(39)と第2の導波路を駆動する第2の駆動信号(40)を得るための駆動信号系(41)と;第1の導波路及び第2の導波路に印加するバイアス信号(42,43)を得るためのバイアス信号系(44)とを具備する。
【0028】
そして,第1の駆動信号(39)及び第2の駆動信号(40)は一つの駆動信号系(41)から得られ,第1の導波路(34)に沿って設けられた第1の変調電極(45)と,第2の導波路(35)に沿って設けられた第2の変調電極(46)の長さをそれぞれl及びlとしたときに,lとlとは異なり,駆動信号系(41)及びバイアス信号系(44)は,第1の駆動信号(39),第2の駆動信号(40)及びバイアス信号(42,43)が,下記式(I)を満たすように駆動する。
【0029】
ΔA±Δθ=π/2 (I)
【0030】
(ここで,ΔA及びΔθは,それぞれΔA≡(A−A)/2,及びΔθ≡(θ−θ)/2と定義され,A及びAはそれぞれ第1の駆動信号及び第2の駆動信号の電極への入力時における第1の駆動信号及び第2の駆動信号に誘導される光位相シフト振幅を示し,θ及びθはそれぞれ第1の導波路及び第2の導波路内で光路長差及びバイアス信号などにより誘導される光位相シフト量を示す)。すなわち,光周波数コム発生器は,上記式(I)のように第1の駆動信号(39),第2の駆動信号(40)及びバイアス信号(42,43)を駆動する駆動信号系(41)及びバイアス信号系(44)を具備するものである。そして,駆動の制御は,信号系に含まれるか信号系に取り付けられたコンピュータなどの制御部で制御すればよい。
【0031】
後述するように,上記式(I)を満たすように駆動することにより,合波される2つの位相変調器(導波路と駆動信号を印加する電極とにより位相変調器を構成する。)からの光信号が互いに補い合って平坦なスペクトル特性を有する光周波数コムを得ることができることとなる。
【0032】
駆動信号が式(I)を満たす場合,l及びlは,理想的には,後述する式を満たすように設計すればよい。
【0033】
光コム発生器の好ましい態様は,式(I)の替わりに,下記式(II)を満たすように駆動する上記に記載の光コム発生器である。
ΔA=Δθ=π/4 (II)
(ただし,ΔA及びΔθは,上記と同義である。)。すなわち,この態様に係る本発明の光周波数コム発生器は,上記式(II)のように第1の駆動信号(39),第2の駆動信号(40)及びバイアス信号(42,43)を駆動する駆動信号系(41)及びバイアス信号系(44)を具備するものである。
【0034】
式(II)は式(I)を満たすから,式(II)のように駆動すれば,平坦なスペクトル特性を有する光周波数コムを得ることができる。また,後述するように,式(II)を満たすように駆動すれば,効率よく平坦なスペクトル特性を有する光周波数コムを得ることができる。
【0035】
光コム発生器の好ましい態様は,第1の駆動信号の振幅(A)と第2の駆動信号の振幅(A)とが異なる上記いずれかに記載の光コム発生器である。
【0036】
駆動信号の振幅が大きい場合に,下記のとおり式(I)の条件において平坦な光周波数コムスペクトルを得ることができるので,駆動信号の振幅として,π以上があげられ,2πもしくは3π以上であればより好ましい。一方,本発明では,2つの駆動信号の振幅が異なることが好ましいので,振幅差の値として,0〜πがあげられ,0.5πもしくは0〜0.25πであればより好ましい。
【0037】
一般に,デュアルドライブ型の光変調器では,2つの駆動信号の振幅を同じとする。しかし,本発明では,平坦なスペクトル特性を有する光周波数コムを得られるように駆動信号を設定するので,2つの駆動信号が所定の条件を満たすように制御されるため,2つの駆動信号の振幅が異なる。
【0038】
光コム発生器の好ましい態様は,導波路部分(38)が,マハツェンダ型導波路である上記いずれかに記載の光コム発生器である。
【0039】
マハツェンダ型導波路,及びマハツェンダ型導波路と駆動信号系とを含んだ光変調器(マハツェンダ変調器)は,公知である。したがって,マハツェンダ型導波路を具備する光コム発生器であれば,公知のマハツェンダ型導波路と駆動信号系を用いて容易に光コム発生器を製造できる。なお,マハツェンダ型導波路を構成する分岐後の二つの導波路をそれぞれアームともよぶ。マハツェンダ導波路は,例えば,略六角形状の導波路(これが2つのアームを構成する)を具備し,並列する2つの位相変調器を具備するようにして構成される。位相変調器は,導波路に沿った電極により達成できる。
【0040】
マハツェンダ変調器は,両アームで誘導される光位相変移量が異なるため,各アームで生成される周波数成分の印加電圧に対する振動周期も異なる。この駆動電圧に対する振動位相差が両アーム間で90度となるよう駆動電圧を調整することにより,生成されるコムの各周波数成分の合成ベクトル強度を一定値とすることで,合波された光スペクトルにおける光強度の周波数依存性を軽減することができ,その結果,平坦な光周波数コムを得ることができる。なお,光コムは,その帯域幅に応じた光パルス信号を生成することができるので,光コム発生器は,超高精度な多周波数光パルス発生器ということもできる。すなわち,本発明は,上記した光コム発生器の構成を適宜具備する多周波数光パルス発生器をも提供する。
【0041】
図3は,光コム発生器の構成を示す概略図である。図2では,駆動信号系からの駆動信号が分岐され,分岐された駆動信号が第1の変調電極(45)と,第2の変調電極(46)とにそれぞれ印加されていた。しかしながら,この実施態様では,いずれかの変調電極に印加された駆動信号からの出力を別の電極へ印加する。その際に,例えば印加される変調信号が逆位相(又は同位相)となるように,適宜位相を調整しても良い。具体的には,駆動信号系(41)からの駆動信号が第2の変調電極(46)に入力され,その第2の変調電極(46)から出力された変調信号を第1の変調電極(45)に入力されるようにし,式(I)又は式(II)を満たすように駆動すればよい。そして,第2の変調電極(46)に印加される変調信号と,第1の変調電極(45)に印加される変調信号は,同相となるように印加することが好ましい。この場合でも,第1の変調電極(45)及び第2の変調電極(46)の長さを調整することで,変調効率を調整できる。また,電極の断面構造を調整することによっても,変換効率を調整することができる。このように,駆動信号系(41)からの駆動信号が第2の変調電極(46)に入力され,その第2の変調電極(46)から出力された変調信号を第1の変調電極(45)に入力されるようにすることで,電力効率を3dB程度改善することができる。
【0042】
本発明では,第1の導波路(34)に沿って設けられた第1の変調電極(45)と,第2の導波路(35)に沿って設けられた第2の変調電極(46)のそれぞれの単位長さ当りの(位相)変調効率をそれぞれk及びkとしたときに,kとkとは異なっている。
【0043】
理想的にはk及びkは,次式を満たせばよい
【0044】
【数1】

【0045】
ここで,k及びkは,[rad/m]は,変調器における各アームの単位長さ当りの(位相)変調効率を示し,ε(イプシロン)[rad/V]はバイアス電圧に対する単位電圧当りの変調効率を示し,それぞれを示し,Lは電極長を表す。
【0046】
及びkは,式(I)を満たすように調整できる範囲であれば特に限定されるものではない。具体的なk及びkの比として,例えば,k/kが1.01以上3以下があげられ,1.1以上2以下であれば好ましく,1.2以上1.5以下であればより好ましい。このように電極を非対称として駆動することで,スペクトル平坦条件を満たすことができる。
【0047】
光コム発生器は,第1の導波路に印加する第1のバイアス信号(42)と第2の導波路に印加する第2のバイアス信号(43)とを得るためのバイアス信号系を具備する。バイアス信号系は,2つのアームに印加されるバイアス電圧を制御するための信号系である。バイアス信号系は,具体的には,バイアス電源系とバイアス調整電極を含む。バイアス調整電極は,バイアス電源系に接続され2つのアーム間のバイアス電圧を制御することにより,2つのアームを伝播する光の位相を制御するための電極である。バイアス調整電極へは,好ましくは通常直流または低周波信号が印加される。ここで低周波信号における「低周波」とは,例えば,0Hz〜500MHzの周波数を意味する。なお,この低周波信号の信号源の出力には電気信号の位相を調整する位相変調器が設けられ,出力信号の位相を制御できるようにされていることが好ましい。
【0048】
変調電極とバイアス調整電極とは,別々に構成されてもよいし,ひとつの電極がそれらを兼ねたものでもよい。すなわち,変調電極は,DC信号とRF信号とを混合して供給する給電回路(バイアス回路)と連結されていてもよい。
【0049】
なお,光コム発生器においては,各電極に印加される信号のタイミングや位相を適切に制御するため,各電極の信号源と電気的に(又は光信号により)接続された制御部が設けられることが好ましい。そのような制御部は,変調電極及びバイアス調整電極に印加される信号の変調時間を調整するように機能する。すなわち,各電極による変調が,ある特定の信号に対して行われるように,光の伝播時間を考慮して調整する。この調整時間は,各電極間の距離などによって適切な値とすればよい。
【0050】
次に,図2に示す光コム発生器により,光スペクトルが平坦化された光周波数コムが得られることを示す。図4は,光コム発生器の光周波数コムが発生する概念を説明するための図である。マハツェンダ変調器の各アームを駆動するRF信号をそれぞれRF-aおよびRF-bとする。RF-aおよびRF-bは,振幅をそれぞれA(これはAに対応する。)及びA(これはAに対応する)とし,変調周波数をωとすると,以下の式(1)ように表すことができる。
RF-a=Aasinωt, RF-b=Absinωt (1)
【0051】
一方,マハツェンダ変調器への入力光の振幅をEinとすると,マハツェンダ変調器の出力光による電界Eoutは,式(2)で表すことができる。ただし,式(2)中,J(・)は,k次のベッセル関数を表す。
【0052】
【数2】

【0053】
次に,変換効率ηを,k次の周波数コム成分強度Pの入力光強度Pinに対する相対比として定義する。駆動振動が大振幅信号である時,すなわち,A(t)(i=a又はb)が十分に大きい時,変換効率ηは,下式(3)のように近似展開できる。
【0054】
【数3】

【0055】
ただし,/A(エーバー),ΔA及びΔθはそれぞれ,次式(4)で定義される。
/A≡(A+A)/2, ΔA≡(A−A)/2,Δθ≡(θ−θ)/2 (4)
【0056】
ここで,平坦なスペクトル特性を得る条件は,ηがkに依存しない時,すなわち式(3)が変調次数kに対して独立となる時である。よって,平坦なスペクトル特性を得る条件は,式(5)と導かれる。
ΔA±Δθ=π/2 (5)
従って,平坦なスペクトル特性を持った光周波数コムを得るためには,式(5)を満たすようにマハツェンダ変調器を駆動すればよい。なお,式(5)における±は,プラスであってもマイナスであってもよい。
【0057】
次にこのスペクトル平坦化条件の下で変換効率ηが最大化される条件を求める。式(5)を式(3)に代入すると,変換効率ηは,次式(6)のように簡単な式で表すことができる。
【0058】
【数4】

【0059】
従って,式(7)を満たすときに,変換効率ηは最大化されることがわかる。
ΔA=Δθ=π/4 (7)
【0060】
なお,本発明においては,たとえば,Δθ=π/4,ΔAは0.1π以上0.25π以下であっても平坦なコム信号を得ることができる。
【0061】
そして,式(7)を満たす時の最大変換効率ηk,maxは次式(8)で表すことができる。
【0062】
【数5】



【0063】
以上から,マハツェンダ変調器により平坦光周波数コムを得るための平坦化条件式は式(5)(ΔA±Δθ=π/2)であるといえる。一方,平坦化条件式を満たしつつ光周波数コムの生成化効率が最大となるのは,最大効率平坦化条件である式(7)(ΔA=Δθ=π/4)を満たす場合である。なお,式(7)は,マハツェンダ変調器が2/π点にバイアスされ,駆動正弦波信号RF-aおよびRF-bにより誘導される位相変移の最大位相差がπであることを意味する。
【0064】
光コム発生器の基本動作は,図4に示すとおりである。すなわち,マハツェンダ変調器の二つのアームに駆動信号RF-a及びRF-bを印加するとともに,位相を反転させたバイアス信号−Δθ及びΔθを,それぞれ印加する。入力光信号の中心波長をλとすると,出力される光周波数コム信号は,λから駆動信号の周波数に応じた周波数分(すなわち波長分)だけずれた複数の周波数成分を有するものとなる。
【0065】
光コムは,その帯域幅に応じた光パルス信号を生成することができるので,光コム発生器は,超高精度な多周波数光パルス発生器ということもできる。すなわち,光コム発生器を用いて光パルスを発生する方法は,公知であるが,上記の光パルス発生装置は,光コム発生器を用いるので,先に説明したような効果を享受できることとなる。なお,光パルス発生装置は,上記した光コム発生器及び光周波数コム発生方法の各構成要素や各工程を適宜採用できる。
光コム発生器を用いて光パルスを発生する方法は,公知であるが,上記の光パルス発生装置は,光コム発生器を用いるので,先に説明したような効果を享受できることとなる。
【0066】
さらに,光コム発生装置により発生された各周波数成分は,同期が取れており,それらの位相成分は一定であるから,各周波数成分の振幅及び位相を調整することにより,超短パルス列を生成でき,また任意の波形を生成できる。すなわち,光コム発生器は,光パルス発生装置又は任意波形生成装置としても利用することができる。
【0067】
図5は,光コム発生装置の好ましい利用態様である光パルス発生装置の概略図である。図5に示されるとおり,この光パルス発生装置(61)は,上記いずれかに記載の光コム発生器(1)と,光コム発生器からの出力が入力されるバンドパスフィルタ(62)と,バンドパスフィルタからの出力が入力される分散ファイバ(63)とを具備する。光コム発生装置により得られる各周波数成分は,出力される光周波数コムが超平坦モードであるから,下記式のように表現できる。
【0068】
【数6】

【0069】
上記の式中,Aは,出力信号の振幅を示し,Φ(以下Φとも記載する)は,出力信号の位相を示す。kは,出力信号の周波数成分の次数を示す。
【0070】
すなわち,超平坦コム信号が発生されるので,振幅が周波数の次数kによらず一定となり,位相Φは周波数次数kの2次関数となる。そして,光コム発生器の出力に符号が逆の−Φの位相シフトを与えることにより,位相差を0とすることができる。その場合,時間波形はインパルス関数となり,短光パルスを合成できる。そして,波長分散を持った一般的な単一モードファイバの与える位相シフトは光周波数次数の2次関数であることが知られており,適切な長さのファイバを用いることで,簡単に−Φを与えることができる。そのときのファイバ長さは,理想的には下記式で示されるので,その理想式に基づき適宜調整した長さLとすればよい。
【0071】
【数7】

【0072】
上記式において,βは,ファイバ中の群速度を示す。
【0073】
すなわち,上記した光コム発生器に,バンドパスフィルタと光ファイバとを接続するだけで,簡単にピコ秒パルスレーザ又はフェムト秒パルスレーザといった超短パルスレーザを得ることができる。本発明の光コム発生器と分散補償器を組合せることにより,超短光パルスが得られることがわかる。分散補償器の例,プリズムペア,グレーティングペア,光ファイバである。
【実施例1】
【0074】
図6に,本実施例における光コム発生装置のブロック図を示す。光コム発生器を10GHzの正弦波信号で駆動した。1552nm,6dBmの連続波光から平坦な光コム信号を発生させた(図7)。
【0075】
一方,光合波器により光コム信号の一部を光増幅器へ分波した。分波した光コム信号の強度を20dBmに増幅し,帯域幅4.2nmの光波長フィルタを通して光コム発生器に帰還した。ここで,波長フィルタは光増幅器の雑音を除去するために挿入されたものである。このようにして得られた光コム信号を図8に示す。
【0076】
図8と図7とを比べると,本発明の光コム発生装置により発生される光コム信号は,帰還なしの場合に比べ,帯域が大きく拡がっていることがわかる。なお,図8の帯域幅は,光波長フィルタにより制限されているのであり,本発明の光コム発生装置の原理的な制限ではない。
【実施例2】
【0077】
次に,本発明の光コム発生装置により得られる光コムスペクトルをシミュレーションした。その結果を図9及び図10に示す。図9は,帰還形光コム発生器で得られる光コムスペクトルのシミュレーション結果を示す。図9(a)は,種光を注入した後に半導体レーザをオフにした場合の光コムスペクトルを示す。図9(b)は,半導体レーザを常時オンにした場合の光コムスペクトルを示す。図9(a)からLDをオフにした場合,極めて平坦性の良い光コムスペクトルが得られることがわかる。また,図9(b)からLDを常時オンにした場合は,若干の凹凸が見られるものの,平坦性の良い光コムスペクトルが得られる。
【0078】
図10は,本発明の光コム発生器で得られた光コムを分散補償することにより得られる光パルスの波形を示す図である。図10から,本発明の光コム発生器と分散補償器を組合せることにより,超短光パルスが得られることがわかる。分散補償器としては,プリズムペア,グレーティングペア,光ファイバ等がある。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は,光情報通信機器の分野で利用されうる。
【符号の説明】
【0080】
11 連続波光源
12 第1の光合波・分波器
13 光コム発生器
14 第2の光合波・分波器
15 帰還回路
16 光増幅器
21 光変調器
22 信号源





【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続波光源(11)と,
前記連続波光源(11)から出力された連続光が入力する第1の光合波・分波器(12)と,
前記第1の光合波・分波器(12)から出力された連続光が入力する光コム発生器(13)と,
前記光コム発生器(13)から出力された光コム信号が入力する第2の光合波・分波器(14)と,
前記第1の光合波・分波器(13)で分波された光コム信号を前記第1の光合波・分波器(12)へと帰還させるための帰還回路(15)と,
前記帰還回路(15)に設けられ,入力光の強度を増幅するための光増幅器(16)と,
を有する,光コム信号発生装置であって,

前記光コム発生器(13)は,マッハツェンダー導波路を有する光変調器(21)と,前記光変調器(21)に印加される光コム発生器の駆動信号を発生するための信号源(22)を有し,
前記帰還回路(15)のループ長は,前記光コム発生器の駆動信号の波長のn倍(nは正の整数)である,
光コム信号発生装置。

【請求項2】
前記光変調器(21)は,
光の入力部(32)と,前記入力部(32)に入力した光が分岐する分岐部(33)と,前記分岐部(33)から分岐した光が伝播する第1の導波路(34)と,前記分岐部(33)から分岐した上記とは別の光が伝播する第2の導波路(35)と,前記第1の導波路と前記第2の導波路から出力される光信号が合波される合波部(36)と,前記合波部(36)で合波された光信号が出力される光信号の出力部(37)とを含むマッハツェンダー導波路部分(38)とを有し,

前記信号源(22)は,
前記第1の導波路(34)を駆動する第1の駆動信号(39)と,前記第2の導波路(35)を駆動する第2の駆動信号(40)を得るための駆動信号系(41)と;
前記第1の導波路(34)及び前記第2の導波路(35)に印加するバイアス信号(42,43)を得るためのバイアス信号系(44)と;
を具備し,

前記光コム発生器(13)は,
前記第1の導波路(34)に沿って設けられた第1の変調電極(45)と,前記第2の導波路(35)に沿って設けられた第2の変調電極(46)の長さをそれぞれl及びlとしたときに,lとlとは異なり,
前記駆動信号系(41)及びバイアス信号系(44)は,前記第1の駆動信号(39),前記第2の駆動信号(40)及びバイアス信号(42,43)が,下記式(I)を満たすように駆動する,

請求項1に記載の光コム信号発生装置。

ΔA±Δθ=π/2 (I)
(ここで,ΔA及びΔθは,それぞれΔA≡(A−A)/2,及びΔθ≡(θ−θ)/2と定義され,A及びAはそれぞれ第1の変調電極及び第2の変調電極に誘導される光位相シフト振幅を示し,θ及びθはそれぞれ第1の導波路及び第2の導波路内で誘導される光位相シフト量を示す)

【請求項3】
前記光コム発生器(13)は,
さらに,下記式を満たすように駆動する請求項1に記載の光周波数コム発生装置。
Δθ=π/4,ΔAは0.1π以上π/4以下,
(ΔA及びΔθは,それぞれΔA≡(A−A)/2,及びΔθ≡(θ−θ)/2と定義され,A及びAはそれぞれ第1の変調電極及び第2の変調電極に誘導される光位相シフト振幅を示し,θ及びθはそれぞれ第1の導波路及び第2の導波路内で誘導される光位相シフト量を示す)


【請求項4】
前記光コム発生器(13)は,
さらに,下記式(II)を満たすように駆動する請求項1に記載の光周波数コム発生装置。
ΔA=Δθ=π/4 (II)
(ΔA及びΔθは,それぞれΔA≡(A−A)/2,及びΔθ≡(θ−θ)/2と定義され,A及びAはそれぞれ第1の変調電極及び第2の変調電極に誘導される光位相シフト振幅を示し,θ及びθはそれぞれ第1の導波路及び第2の導波路内で誘導される光位相シフト量を示す)

【請求項5】
請求項1に記載の光周波数コム発生装置と,前記光周波数コム発生装置からの出力が入力される分散補償器とを具備する光パルス発生装置。

【請求項6】
請求項1に記載の光周波数コム発生装置と,前記光周波数コム発生装置からの出力が入力されるバンドパスフィルタと,前記バンドパスフィルタからの出力が入力される分散ファイバとを具備する光パルス発生装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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