説明

広範囲のErbBリガンド結合分子ならびにそれを調製および使用するための方法

天然のErbB1、ErbB3、またはErbB4のうちのいずれか1つよりも多くのErbBリガンドについて検出可能な結合活性を有するキメラErbBリガンド結合分子が開示される。好ましくは、結合分子は、広範囲を、より好ましくは、ErbBリガンドの全範囲を結合する。キメラErbBリガンド結合分子は一般的に、ErbB1、3、または4のうちの1つに由来するサブユニットLI、および別の異なるErbB受容体タイプ由来のサブユニットLIIを有する。LIおよびLIIを接合するサブドメインSIは、受容体タイプのいずれか1つに由来し得、またはその両方に由来する部分を有し得る。分子を含む医薬組成物、およびErbB感受性疾患のための方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
受容体チロシンキナーゼは、多くの癌の増殖を刺激することに関与する。一般的に、受容体チロシンキナーゼは、(1)特異的リガンドと結合することのできる細胞外ドメイン、(2)膜貫通ドメイン、(3)例えば、タンパク質のリン酸化によって受容体活性を調節し得る膜近傍ドメイン、(4)受容体の酵素構成要素であるチロシンキナーゼドメイン、および(5)カルボキシ末端尾部、からなる糖タンパク質である。1型受容体チロシンキナーゼのErbBファミリーは、多くの固形腫瘍における細胞増殖、分化、および生存を仲介する上で重要であるため、重要なクラスの受容体の1つを構成する。この受容体ファミリーのメンバーには、ErbB1(HER1としても公知)、ErbB2(HER2/neu)、ErbB3(HER3)、およびErbB4(HER4)を含む。12個超のリガンドが、ErbB‐ファミリー受容体と相互作用する。例えば、EGF、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)、およびアンフィレギュリンはすべて、ErbB1に結合する。ヘレグリンおよびNeu分化因子(NDF)としても公知のニューレグリンのアイソフォームは、ErbB3およびErbB4に対する特異的な親和性を有する。ベータセルリン、ヘパリン結合性EGF、およびエピレギュリンなどのリガンドは、ErbB1およびErbB4の両方に結合する。
【背景技術】
【0002】
ErbB活性化リガンドの過剰発現は、脱調節した受容体のものと類似の制御されていない細胞増殖を生じることが可能であることは明らかになりつつある。このような場合、活性化リガンドとその受容体との結合への干渉は、有効な治療戦略を提供し得、または干渉は、現行の受容体ベースの療法または他の療法を強め得る。ErbB3に対するリガンド結合に干渉する治療薬は、特に有効であり得る。ErbB3は、EGFRファミリーにおける他の受容体とは異なっており、その理由は、ErbB3のチロシンキナーゼドメインが機能的に不活性であるからであるが、ErbB2/ErbB3へテロ二量体は、ErbBファミリーの任意のホモ二量体またはヘテロ二量体の組み合わせの最も強力な分裂促進シグナルを伝達する。それゆえ、ErbB3は重要な標的であるが、キナーゼ領域を標的にする小分子を通じて阻害されることができない。ErbB3が、ヘレグリンまたはNDFなどの活性化リガンドを必要とするので、活性化されたヘテロ二量体が形成される前に、ErbB3受容体リガンドの結合に干渉することのできる分子は、ErbB二量体およびヘテロ二量体の形成を遮断または干渉するために使用され得る。このような分子の一例は、リガンド結合親和性を有する分子であろうし、それゆえ、リガンドを「捕捉する」ことができ、リガンドの濃度を効果的に低下させ、それによりリガンドがErbB3受容体を活性化させることができないようになっている。ErbB3リガンドに加えて、他の公知のErbB受容体リガンドは、様々な程度と類似の効果を有する。したがって、ErbBリガンドの全範囲を捕捉できかつ隔離できる結合分子は、癌の治療においてさらにより使用され得る。
【0003】
この捕捉または「デコイ」戦略を試みたいくつかの治療薬が存在する。例えば、Enbrel(商標)(エタネルセプト‐Amgen)は、可溶性であり、炎症促進性リガンドTNFαを結合および捕捉するTNFR受容体の改変版である。加えて、VEGFトラップと呼ばれる、VEGFR1受容体およびVEGFR2受容体の可溶性融合タンパク質は、現在、黄斑変性症およびいくつかの形態の癌の療法の治療のための臨床治験にある(Regeneron Pharmaceuticals)。また、ErbB3トラップは、NDFで処理した細胞における二重EGFR/ErbB2阻害薬および逆のGW2974(ErbB1およびErbB2の小分子阻害薬)耐性の効果を増強する点で、インビトロで効力を示した。
【0004】
現在、認可されているすべてのErbB阻害薬は、EGFR、ErbB2、ErbB3、ErbB4、または4つの受容体すべての組み合わせのいずれかを標的にする。しかしながら、複数のErbB受容体に対するリガンドの結合に同時に干渉する治療薬は公知ではない。明らかに、ErbBリガンドなどの受容体リガンドを隔離し、それにより複数のErbB受容体に対するリガンド結合およびその後の受容体活性化を遮断するために用いることのできる新たな結合分子が必要とされる。すべての公知のErbBリガンドを結合することのできる結合分子は、特に有用であろう。
【0005】
いくつかの結合研究が、ErbB3のリガンドであるヘレグリンの結合にとって重要なErbB3の領域を決定するために実施された(Singer, et al. (2001), J. Biol. Chem. 276, 44266−44274)。キメラ受容体を用いる他の研究は、ErbB1およびErbB4の細胞外ドメインのリガンド特異的シグナル伝達に対する相対的な関与を同定した(Kim, et. al. (2002), Eur. J. Biochem. 269, 2323−2329)。これらの研究は、ErbB4に対するニューレグリンの結合が、ドメインIIIよりもドメインIにおいて非常により大きく依存し、かつErbB1のドメインIIIがEGF結合にとって主として重要であることを明らかにしている。しかしながら、これらの研究は、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む受容体の全体の長さに及ぶ受容体の全長に関して実施された。これらの大きな分子は、より低い治療有効性を潜在的にもたらす製造および投与の問題を表す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Singer, et al. (2001), J. Biol. Chem. 276, 44266−44274
【非特許文献2】Kim, et. al. (2002), Eur. J. Biochem. 269, 2323−2329
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
天然のErbB1、ErbB3、またはErbB4のうちのいずれか1つよりも多くのリガンドについて検出可能な結合活性を有するキメラErbBリガンド結合分子が開示される。好ましくは、結合分子は、広範囲を、より好ましくはErbBリガンドの全範囲を結合する。キメラErbBリガンド結合分子は一般的に、ErbB3または4のうちの1つに由来するサブドメインLIおよび、ErbB1など、連結された別の異なるErbB受容体タイプ由来のサブドメインLIIを有する。サブドメインSIは、LIおよびLIIを接合するのに用いることができる。サブドメインSIは、受容体タイプのうちのいずれか1つに由来することができ、または療法に由来する部分を有することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態において、キメラErbBリガンド結合分子には、ErbB1由来のLIIの少なくとも一部に連結されたErbB4由来のLIの少なくとも一部を含むことができる。LIIは、ErbB1由来のSIIのモジュール1に連結することができる。SIサブドメインは、LIおよびLIIサブドメインを連結させるのに用いることができ、ErbB1またはErbB4のいずれかの受容体配列に由来することができあるいは両方の混合物であることができる。任意に、ErbBキメラは、IgG2Fcなどの凝集体に融合することができる。
【0009】
一実施形態において、キメラErbBリガンド結合分子には、ErbB4由来のLIの少なくとも一部;ErbB4由来の一部を有するSI領域およびErbB1由来の一部を含むことができ、この中で、ErbB4部分は、2つの配列間に相同性を有する領域におけるErbB1部分に切り替わり;LIIの少なくとも一部は、ErbB1およびErbB1のSIIのモジュール1に由来し得る。
【0010】
一実施形態において、キメラErbBリガンド結合分子には、ErbB1由来のLIIの少なくとも一部およびErbB1由来のSIIのモジュール1に連結されたErbB3由来のサブユニットLIの少なくとも一部を含む。連結領域は、ErbB1、ErbB3、またはそれらの混合物に由来するSIドメインであり得る。
【0011】
一実施形態において、キメラErbBリガンド結合分子には、ErbB3由来のサブユニットLIの少なくとも一部を含むことができ、一部を有するSI領域は、ErbB3に由来し、一部はErbB1、ErbB1由来のLIIの少なくとも一部、およびErbB1由来のSIIのモジュール1に由来する。
【0012】
一実施形態において、キメラErbBリガンド結合分子には、ErbB4由来のサブユニットLIの少なくとも一部を含むことができ、ErbB4および一部に由来する一部を有するSI領域は、ErbB1、ErbB1由来のLIIの少なくとも一部、およびErbB1由来のSIIのモジュール1に由来する。
【0013】
一実施形態において、キメラErbBリガンド結合分子には、ErbB3由来のサブユニットLIの少なくとも一部;ErbB3由来の一部とErbB1由来の一部とを有するSI領域を含むことができ、この中で、ErbB3部分は、2つの配列;ErbB1由来のLIIの少なくとも一部、およびErbB1由来のSIIのモジュール1の間に相同性を有する領域におけるErbB1部分に切り替わる。
【0014】
また、開示されたキメラErbBリガンド結合分子をコードするDNA配列は、発現を容易にする配列、ならびにこのようなDNA配列の維持および発現のための宿主細胞とともに企図される。
【0015】
キメラErbBリガンド結合分子および薬学的に許容し得る賦形剤を含む医薬組成物も企図される。
【0016】
キメラErbBリガンド結合分子は、それを、固相支持体に固定することによって用いることができ、固相支持体は順に、リガンドが、特にこのようなリガンドの過剰発現と関連した疾患に罹患している患者由来の生物学的流体から除去することができるよう、ErbBリガンドを結合するために用いることができる。次に、ErbBリガンドの枯渇した生物学的流体は、この患者において置き換えることができる。
【0017】
薬学的に許容し得る賦形剤に治療有効量のキメラErbBリガンド結合分子を含む医薬組成物を投与することを包含する、ErbBリガンドの過剰発現と関連した疾患を有する患者を治療するための方法も企図される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、キメラErbB4−ErbB1キメラのいくつかの可能性のあるサブユニット構造を示す。強調した配列は、ErbB4配列で開始するキメラErbBリガンド結合分子の1つの具体的な実施形態を示す。
【図2】図2は、キメラErbB3−ErbB1キメラのいくつかの可能性のあるサブユニット構造を示す。
【図3】図3は、ErbB1(下部配列)およびErbB4(上部配列)の整列化を提供する。強調したアミノ酸配列は、ErbB配列で開始するキメラErbBリガンド結合分子の1つの具体的な実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ErbB1、ErbB2、ErbB3、およびErbB4の完全なヌクレオチド配列は公知であり、ErbB1については受入番号NM005228、ErbB2については受入番号NM004448、ErbB3については受入番号M29366またはNM001982、およびErbB4については受入番号NM005235としてGenbankにおいて見出すことができる。ErbB受容体についての全長の外部ドメインである細胞外ドメインは、LI、CR1、L2、およびCR2と時に呼ばれる4つのサブドメインを含み、ここで、LおよびCRは、それぞれ大きなことおよびシステインの多いことを表している。また、サブドメインは時にドメインI〜IVとして、又はそれに代わるものとしてこのサブドメインがアミノ末端から伸びている場合、LI、SI、LII、およびSIIとして公知である。受容体のアミノ酸配列はすでに分析されており、配列は相同であるように見え、すでに整列化されている。ErbB1、ErbB2、ErbB3、およびErbB4の外部ドメインの整列化は、図1のAおよびBの米国特許出願公開第2006/0234343号に提供される。
【0020】
サブドメインは、サブ領域として公知のより小さなドメインから構成される。例えば、SIサブドメインまたはCRIサブドメインは、アミノ末端からカルボキシ末端への方向で伸びている場合に1〜8と付番されるモジュールとして時に公知の8つのジスルフィド結合したサブ領域を含む。SIIは、1〜7と付番された7つのモジュールを含む。大きな整ったループは、モジュール5において同定されており、モジュール5は、リガンド結合部位から直接離れて突出していると考えられる。このループにおけるアミノ酸配列は高度に保存されている。
【0021】
キメラErbBリガンド結合分子が開示されており、この中で、サブドメインLI、SI
LIIおよび、少なくとも2つの異なるErbB受容体由来のSIIのモジュール1は、単一の結合分子において組み合わされる。この開示の目的にために、句「キメラ」は、ErbBリガンド結合分子に関する場合、2つ以上のErbB受容体外部ドメインから作られるおよびその部分を含む単一のErbBリガンド結合分子を意味するよう意図される。句「ErbBキメラ」および「キメラErbBリガンド結合分子」は、本出願において互換可能に用いられ、同義語でありかつ単量体のタンパク質配列を指すよう意図される。いくつかの実施形態において認めることができるように、キメラ分子は、ジスルフィド結合の形成を通じて二量体化してよい。
【0022】
驚くべきことに、ErbB3またはErbB4のアミノ酸配列の部分がSI連結ドメインを通じてErbB1と組み合わさり、組み合わさった受容体の両方に対するリガンドを結合するキメラ結合分子を生成することができることが発見された。したがって、ErbB1ドメインおよびErbB4ドメインの組み合わせを用いて、ヘレグリン(ErbB4特異的リガンド)およびTGFα(ErbB1特異的リガンド)の両方に対する親和性を有するキメラ結合分子を作製することができる。
【0023】
1つの受容体タイプから別の受容体タイプへのアミノ酸配列における切り替えは、ErbBリガンドの広範囲かつ高親和性結合を提供する任意の好適な位置にあることができる。いくつかの実施形態において、切り替えは、LIサブドメインおよびLIIサブドメインを連結するSIサブドメインにおいて生じることができる。いくつかの実施形態において、SIサブドメインのモジュール5などにおいて、組み合わされている受容体間で、アミノ酸配列が相同または同一である領域において生じる。
【0024】
本開示の目的のために、用語「相同性」は、本用語が当該技術分野で一般的に理解されるように、同一のまたは保存されたアミノ酸置換を有するアミノ酸の領域を意味するよう意図される。例えば、図3に示すように、ErbB4/ErbB1キメラに関して、ErbB4からErbB1への配列の切り替えは、ErbB4配列由来のVYNPにおいてコードする配列の後に、図3の強調された配列によって示されるように、ErbB1配列由来のTTYQが続くよう、SIサブドメインのモジュール5において生じることができる。
【0025】
配列は、ErbB1 LIIドメインへと、ErbB1リガンド結合に必要とされる範囲まで、延びることができる。全ErbB1 L11ドメインを含むことができ、ErbB1由来のその後のSII領域の一部またはすべても含むことができる。図3は、ErbB1のアミノ酸501で終端する、ErbB4およびErbB1のLI、SI、LII、およびSIIドメインのモジュール1の外部ドメインアミノ酸整列を示す。
【0026】
図3に関して、1つのキメラErbB実施形態が示されており、この中で、サブドメインLIはErbB4に由来し;SI領域は、ErbB4のSI領域の一部に由来し、モジュール5におけるErbB1のSI領域の一部に切り替わる。この配列は、ErbB1 LIIサブドメインおよびErbB1 SIIドメインのモジュール1を含むよう続く。このことは、以下の通り指定することができる:LI(ErbB4)‐SI(ErbB4/ErbB1)‐LII(ErbB1)‐SIIm1(ErbB1)。より具体的には:LI(ErbB4アミノ酸1〜245)‐SI(アミノ酸249で開始するErbB1)‐LII(ErbB1)‐SI1m1(天然ErbB1の付番に従ったアミノ酸501で終端するErbB1)である。
【0027】
本出願におけるアミノ酸付番はすべて、天然シグナルペプチドを除外するよう意図される。
【0028】
特定の実施形態において、SIドメインは、先に示されるように、2つのサブドメインの各々の部分から構成することができる。さらに、種々の目的のためにアミノ酸配列に置換を導入することもできる。例えば、システイン‐システイン結合を通じての凝集体の形成を回避できるよう、キメラ結合分子のためのDNA配列は、システインを除去するよう変更することができる。1つのサブドメインにおけるアミノ酸の置換を用いて、リガンド結合親和性を修飾することができる。例えば、ErbB1由来のアミノ酸は、ErbB4 LIサブドメインへと置換され、この分子のErbBリガンドに対する親和性を修飾するために、ErbB1のそれとより類似のドメインの配列を作製することができる。同様に、ErbB3または4 LIIサブドメイン由来のアミノ酸置換は、ErbB1サブドメインへと含まれることができる。このような置換は、SIサブドメインおよびSIIサブドメインにおいても実施することができる。任意の数のこのような置換は、ErbB1由来のグルタミンから位置13におけるErbB4部分のセリンへの置換を考慮することはできるが、位置42におけるチロシンからセリンへの、位置123におけるアルギニンからチロシンへの置換は、代表例である。他の例は、単純に配列を比較することによって当業者によって同定することができる。相同ではない置換も考慮することができる。例えば、アスパラギンは、ErbB1において認められるグルタミンよりもむしろ位置13におけるセリンに置換され得、または両受容体において認められる残基の中間的な特徴を有する残基を用いてよい。
【0029】
また、これらの任意のキメラ分子は、(任意の増殖因子受容体ファミリーの)他のキメラ受容体を含む他の分子もしくはその部分に、または産物の精製を容易にする配列に融合し得る。DNA配列は、商業的ソースから得ることができ、任意の好適な発現ベクターに配置することができ、その多くが公知である好適な宿主から発現させることができる。
【0030】
一実施形態において、ErbBキメラは、凝集体抱合体形成を生じさせる構成要素またはタンパク質の半減期を延長する構成要素と融合することができる。例えば、ErbBキメラは、IgGのFc領域など、免疫グロブリン分子の定常領域に融合することができる。本開示の目的のために、1つの好適なFc領域は、IgG2Fcとして公知であるが、他のものも当該技術分野で公知であり、用いることができる。
【0031】
本出願の目的において、好適な結合親和性とは、生理学的マトリックスにおけるErbBリガンドを結合するのに十分高い親和性である。好ましくは、解離定数は、天然の受容体の解離定数を約10倍〜約100倍以下で超える。より好ましくは、ErbBキメラについての解離定数は、その天然受容体対応物の10倍以内であり、より好ましくは同程度内である。最も好ましくは、キメラ分子の結合親和性は、天然の対応物と識別できない。ErbBリガンドを結合および隔離し、それによりErbB受容体を結合および活性化させるリガンド結合を防止または干渉するのに十分な任意の親和性は、使用に好適であり、開示された方法における使用を見出すことができる。結合分子の阻害薬の効力についての代わりである結合親和性は、バイオセンサーテクノロジーを用いて、または当該技術分野で周知のELISAなどの古典的な結合アッセイによって測定することができる。
【0032】
キメラErbBリガンド結合分子配列をコードするDNAも企図される。当業者は、遺伝暗号を用いて、好適なDNA配列を調製することができ、また、特異的発現宿主に対するコドン優先性がこのような配列に組み込めることを認識することができる。また、これらの配列との使用について企図されるのは、これらのDNA配列の発現に用いることのできる追加的なDNA配列である。種々のこれらは公知である。当該技術分野で周知のように、このような配列はまた、DNAの維持のためにおよびその発現のために宿主細胞へと導入することができ、これらのDNA配列を含むこのような宿主も企図される。
【0033】
開示されたキメラErbBリガンド結合分子を含む医薬組成物も企図される。このような組成物は、治療有効量のキメラErbBリガンド結合分子と、薬学的に許容し得る担体とを含む。用語「薬学的に許容し得る」は、連邦政府もしくは州政府の監督機関によって認可されたもの、または米国薬局方もしくは、哺乳類における、特にヒトにおける使用のための一般的に認識される他の薬局方において列挙されたものを意味する。用語「担体」は、治療薬が中に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。このような医薬担体は、水および油などの滅菌性液体であり得、石油、動物、植物、または合成の起源のものを含み、例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、ミネラルオイル、ゴマ油、およびそれらに類するものである。好適な医薬賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、滑石、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール、ならびにこれらに類する、キメラErbBリガンド結合分子が可溶性であり化学的に安定であるものを含む。また、組成物は、湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤を含むことができる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、エマルション、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、徐放性製剤、およびこれらに類するものの形態をとることができる。薬学的に許容し得る担体には、DPPC、DOPE、DSPC、およびDOPCなど、製剤における使用のための他の成分を含む。天然のまたは合成の界面活性剤を用いてよい。PEGを用いてよい(にもかかわらず、タンパク質またはアナログを誘導体化する上でのその使用を除く。)。シクロデキストランなどのデキストランを用いてよい。セルロースおよびセルロース誘導体を用いてよい。アミノ酸を、緩衝製剤における使用など、用いてよい。薬学的に許容し得る希釈剤には、種々の内容物(例えば、トリス‐HCl、酢酸、リン酸)、pH、およびイオン強度を有する緩衝液;界面活性剤及び可溶化剤(例えば、ポリソルベート80)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、保存料(例えば、ベンジルアルコール)、および増量性物質(例えば、ラクトース、マンニトール)などの添加物;ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのポリマー化合物の粒子状調製物への、またはリポソームへの材料の組み込みを含む。また、ヒアルロン酸を用いてよく、これは、循環における持続時間を延長する効果を有し得る。このような組成物は、本タンパク質および誘導体の物理的状態、安定性、インビボでの放出速度、インビボでのクリアランス速度に影響を及ぼし得る。例えば、引用により本明細書に組み込まれるRemington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. (1990, Mack Publishing Co., Easton, PA 18042) pages 1435−1712を参照されたい。組成物は、液状で調製され得、または凍結乾燥した形態など、乾燥した粉末で存在し得る。また、経皮製剤のような埋め込み可能な徐放性製剤も企図される。リポソーム、ミクロカプセルもしくはミクロスフェア、封入複合体、または他の種類の担体も企図される。
【0034】
活性型キメラ結合分子の意図された治療用途に有効な量は、標準的な臨床技術によって決定することができる。加えて、インビトロでのアッセイを任意に採用して、最適な薬用量範囲を同定するのを助け得る。一般的に、1日の投与計画は、体重の活性薬(API)キログラムの0.1〜1000マイクログラムの範囲、好ましくは、キログラムあたり0.1〜150マイクログラムであるべきである。有効量は、インビトロまたは好適な動物モデル試験系から得られる用量反応曲線から外挿され得る。薬用量および間隔は、治療効果を維持するのに十分な化合物の血漿レベルを提供するよう個々に調整され得る。局所投与または選択的取り込みの場合、化合物の有効な局所濃度は、血漿濃度と関連していなくてよい。治療のための方法に関与する薬用量投与計画は、薬剤の作用を修飾する種々の因子、例えば、患者の齢、容態、体重、性別、および食事、疾患の重症度、投与回数、ならびに他の臨床因子を考慮して、担当医によって決定することができる。
【0035】
もちろん、投与される化合物の量は、治療される対象、対象の体重、苦痛の重症度、投与の様式、処方医の判断によるであろう。症状が検出可能な間、または症状が検出できない場合でさえ、療法は、間欠的に反復されてよい。療法は、単独でまたは他の薬剤との併用で提供され得る。
【0036】
ErbBリガンドを結合し、癌細胞のErbB受容体形に及ぼすリガンドの相互作用および効果に干渉するキメラErbBリガンド結合分子を得ること、ならびに治療有効量の分子を患者に投与することを含む、治療を必要とする患者を治療するための方法が開示される。投与は、静脈内投与、注射器もしくはカテーテルなどを通じての固形腫瘍への直接的な注入などの非経口的経路によって、または腹腔内注射によってであり得る。
【0037】
治療の一方法において、キメラErbBリガンド結合分子は、標準的な方法によって、アフェレーシス支持体またはバイオコア(biocore)支持体などの固形支持体に固定することができる。結合分子が固形支持体に結合すると、患者の血清、血液、または他の生物学的に関連のある流体は、アフェレーシスカラムにおける固形支持体と接触するよう配置され、流体からErbBリガンドを除去することができる。次に、血清、血液、または流体は、患者へと再導入できる。
【0038】
また、結合分子は、併用療法において用いることができる。したがって、キメラErbBリガンド結合分子は、化学療養薬、手術、カテーテル装置、および放射線を含む、1つ以上の追加的な化合物または療法との併用で投与され得る。併用療法には、キメラErbBリガンド結合分子および1つ以上の追加薬を含む単一の医薬剤形の投与を含む。キメラErbBリガンド結合分子および1つ以上の追加薬は、それ自体個別の医薬剤形で、または同じ製剤において投与することができる。例えば、キメラErbBリガンド結合分子と、細胞傷害薬、化学療法薬、もしくは増殖阻害薬とが、単一の薬用量組成物において互いに患者に投与することができるかまたは、各薬剤は、個別の剤形で投与することができる。より具体的には、キメラErbBリガンド結合分子は、ラパチニブ(登録商標)、ハーセプチン(登録商標)、エルビタックス(登録商標)、およびこれらに類するものなどの治療薬を含む併用療法において用いることができる。個別の剤形を用いる場合、キメラErbBリガンド結合分子および1つ以上の追加薬は同時に、または個別にずらした時刻で、すなわち連続して投与することができる。当業者は、キメラErbBリガンド結合分子が、組み合わせにおける第二の治療薬に干渉しないがむしろ強めるよう、組み合わせが存在しなければならないことを認識することができる。
【0039】
以下の実施例は、説明のためにのみ与えられ、本出願の対象事項を制限するものとして解釈されるためではない。以下の実施例において、開示されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列も企図される。以下の実施例の多くは、ErbBキメラに融合したIgG2Fcについての配列を開示する。IgGFcの使用が任意であることは認識されるべきである。加えて、あるアミノ酸と、リガンド結合活性に実質的に(約10倍)干渉しない別の類似のアミノ酸との保存的置換は、具体的に企図される。精製された生成物の従来の結合研究を用いて、結合親和性における実質的な差が存在するかどうかを決定することができる。下記に説明される構造の多くは、図1および図2における構造の線図に対する引用により、より十分に理解することができる。すべての配列には、マウス抗体重鎖遺伝子由来のシグナルペプチドを含む。すべての付番はシグナルペプチドを除外しており、各ErbB配列の第一のアミノ酸に下線を付している。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
本実施例は、ErbB3受容体のLIサブドメインおよびErbB1 SIIサブドメインのモジュール1における残基501の後に終端するErbB1受容体のLIIサブドメインに接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラを具体的に開示する。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する。
【化1】

【0041】
(実施例2)
本実施例は、ErbB3受容体のLIサブドメインおよびSIサブドメインならびにErbB1 SIIサブドメインのモジュール1における残基501後に終端するEbB1受容体のLIIサブドメインに接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラを具体的に開示する。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化2】

【0042】
(実施例3)
本実施例は、ErbB3受容体のLIサブドメインおよびSIサブドメインのモジュール1〜2、ならびにIgG2Fcに融合したErbB1受容体のSIサブドメインのモジュール3〜8、LIIサブドメイン、およびSIIサブドメインのモジュール1に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラを開示する。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化3】

【0043】
(実施例4)
本実施例は、ErbB3受容体のLIサブドメインおよびSIサブドメインのモジュール1〜3ならびにIgG2Fcに融合したSIサブドメインのモジュール4〜8、LIIサブドメイン、およびSIIサブドメインのモジュール1に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラを開示する。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化4】

【0044】
(実施例5)
本実施例は、IgG2Fcに融合したErbB1受容体のSIサブドメインのモジュール5〜8、LIIサブドメイン、およびSIIサブドメインのモジュール1とともに、ErbB3受容体のLIサブドメインおよびSIサブドメインのモジュール1〜4に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラを開示する。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化5】

【0045】
(実施例6)
本実施例は、IgG2Fcに融合したErbB1受容体のSIサブドメインのモジュール6〜8、LIIサブドメイン、およびSIIサブドメインのモジュール1とともに、ErbB3受容体のLIサブドメインおよびSIサブドメインのモジュール1〜5に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラを開示する。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化6】

【0046】
(実施例7)
本実施例は、IgG2Fcに融合したErbB1受容体のSIサブドメインのモジュール7〜8、LIIサブドメイン、およびSIIサブドメインのモジュール1とともに、ErbB3受容体のLIサブドメインおよびSIサブドメインのモジュール1〜6に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラを説明する。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化7】

【0047】
(実施例8)
本実施例は、ErbB3受容体のLIサブドメインおよびSIサブドメインのモジュール1〜7、ならびにErbB1受容体のSIサブドメインのモジュール8、LIIサブドメイン、およびSIIサブドメインのモジュール1に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラを開示する。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化8】

【0048】
(実施例9)
本実施例は、ErbB3受容体のLIサブドメインおよびSIサブドメインのモジュール1、ならびにIgG2Fcに融合したErbB1受容体のSIサブドメインのモジュール2〜8、LIIサブドメイン、およびSIIサブドメインのモジュール1に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラを開示する。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化9】

【0049】
(実施例10)
本実施例は、ErbB4受容体のLIサブドメインならびにIgG2Fcに融合したErbB1受容体のSIサブドメイン、LIIサブドメイン、およびSIIサブドメインのモジュール1に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラを開示する。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化10】

【0050】
(実施例11)
本実施例は、ErbB4受容体のLIサブドメインおよびSIサブドメイン、ならびにIgG2Fcに融合したErbB1受容体のLIIサブドメインおよびSIIサブドメインのモジュール1に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラを開示する。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化11】

【0051】
(実施例12)
本実施例は、ErbB4受容体のLIサブドメインおよびSIサブドメインのモジュール1〜2、ならびにIgG2Fcに融合したErbB1受容体のSIサブドメインモジュール3〜8、LIIサブドメイン、およびSIIサブドメインのモジュール1に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラに言及する。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化12】

【0052】
(実施例13)
ErbB4受容体のLIサブドメインおよびSIサブドメインのモジュール1〜3、ならびにIgG2Fcに融合したErbB1受容体のSIサブドメインのモジュール4〜8、LIIサブドメイン、およびSIIサブドメインのモジュール1に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラに言及する。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化13】

【0053】
(実施例14)
本実施例は、ErbB4受容体のLIサブドメインおよびSIサブドメインのモジュール1〜4、ならびにIgG2Fcに融合したErbB1受容体のSIサブドメインのモジュール5〜8、LIIサブドメイン、およびSIIサブドメインのモジュール1に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラを開示する。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化14】

【0054】
(実施例15)
本実施例は、ErbB4受容体のLIサブドメインおよびSIサブドメインのモジュール1〜5、ならびにIgG2Fcに融合したSIサブドメインのモジュール6〜8、LIIサブドメイン、およびSIIサブドメインのモジュール1に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラを開示する。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化15】

【0055】
(実施例16)
本実施例は、ErbB4受容体のLIサブドメインおよびSIサブドメインのモジュール1〜6、ならびにIgG2Fcに融合したErbB1受容体のSIサブドメインのモジュール7〜8、LIIサブドメイン、およびSIIサブドメインのモジュール1に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラに言及する。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化16】

【0056】
(実施例17)
本実施例は、ErbB4受容体のLIサブドメインおよびSIサブドメインのモジュール1〜7、ならびにIgG2Fcに融合したErbB1受容体のSIサブドメインのモジュール8、LIIサブドメイン、およびSIIサブドメインのモジュール1に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラに言及する。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化17】

【0057】
(実施例18)
本実施例は、ErbB4受容体のLIサブドメインおよびSIサブドメインのモジュール1、ならびにIgG2Fcに融合したSIサブドメインのモジュール2〜8、LIIサブドメイン、およびSIIサブドメインのモジュール1に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラを開示する。キメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化18】

【0058】
(実施例19)
本実施例は、(図3の整列におけるErbB4受容体のアミノ酸残基245を通じての)ErbB4受容体のLIサブドメインおよびSIサブドメインのモジュール1〜5、ならびに(図3の整列におけるErbB1のアミノ酸残基249で開始する)ErbB1受容体のSIサブドメインのモジュール5〜8、SIIサブドメインにおけるアミノ酸501の後ろでIgG2Fcに融合したErbB1受容体のLIIサブドメインおよびSIIサブドメインのモジュール1に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラを開示する。キメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化19】

【0059】
(実施例20)
本実施例は、(図3の整列におけるErbB4受容体のアミノ酸残基245を通じての)ErbB4受容体のLIサブドメインおよびSIサブドメインのモジュール1〜5、ならびに(図3の整列におけるErbB1受容体のアミノ酸残基249で開始する)ErbB1受容体のSIサブドメインのモジュール5〜8、SIIサブドメインにおけるアミノ酸501の後ろでIgG2Fcに融合したErbB1受容体のLIIサブドメインおよびSIIサブドメインのモジュール1を含むキメラを開示する。アミノ酸245は、ErbB4受容体の付番に基づいているのに対し、アミノ酸249および501は、ErbB1受容体の付番に基づいている。加えて、この配列は、IgG2Fcのヒンジ領域における2つのシステイン(Cys)からセリン(Ser)への置換を含む。これらの置換は、IgG2Fcタンパク質の付番に基づいたC226SおよびC229Sであり、以下で下線を付されている。キメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化20】

【0060】
(実施例21)
本実施例は、両方の受容体に対するリガンドについての実質的な結合親和性を有するErbBキメラが、2つの異なるErbB受容体の選択的な組み合わせから作ることができることを示す。HRG1βおよびTGFαへの結合について、本実施例の目的のためにE1/E4−Fcと命名された実施例19由来のコンストラクト(配列番号19)、およびE1/E4−MFcと命名された実施例20由来のコンストラクト(配列番号20)を含む4つのコンストラクトを試験した。対照は、E1と命名された、IgG2Fc部分に接合したErbB1のアミノ酸1〜501、およびE4と命名された、IgG2Fc部分に接合したErbB4のアミノ酸1〜497を含んだ。いくつかの研究において、別のE1対照を用いた。
【0061】
トラップDNA分子を、所望のアミノ酸配列で開始し、哺乳類系の発現についてDNA配列を最適化することによって合成した。トラップDNA配列を、ハイグロマイシンを用いて選択でき、かつMAR/SAR配列(絶縁因子および境界領域)ならびにトラップ発現のためのプロモーターおよびエンハンサーを含む好適な哺乳類発現ベクター(pCpGfree‐vitroHmes)へとクローニングした。トラップ配列を含むベクターを標準的なトランスフェクション法によってCHO細胞へとトランスフェクトし、細胞をベクターの組み込みのためにハイグロマイシンを用いて選択した。細胞培地を回収し、標準的な方法(プロテインAカラム結合)によって精製することによって、安定してトランスフェクトされた細胞株からトラップを精製した。トラップを標準的な方法によってプロテインAから溶出し、従来法由来のIgG‐FcサンドイッチELISAアッセイを用いて定量化した。
【0062】
トラップを、プロテインAを用いて精製し、非還元条件(NR)および還元条件(R)の下で、ポリアクリルアミドゲル泳動を実施した。ジスルフィド連結した二量体は、およそ220〜240kDaに泳動したのに対し、還元型単量体は120〜130kDaに泳動した。ジスルフィド形成を防止する突然変異型システインを有するキメラトラップ単量体は、非還元条件下および還元条件下の両方でおよそ120〜130kDaに泳動する。E1‐Fc、E4‐Fc、E1/E4‐Fcは、非還元条件下で泳動する場合、220〜240kDaの範囲に、還元条件下で泳動する場合、約120〜130の範囲にあるように見えた。E1/E4‐Fcコンストラクトは、非還元条件下および還元条件下の両方で約120〜130の分子量を有すると思われる。
【0063】
精製済みトラップ分子を96ウェルプレートにコーティングし、TGFαまたはHRG1βのいずれかとともにインキュベートした。次に、TGFαまたはHRG1βに対する検出抗体を用いて、結合したリガンドの親和性(Kd)および量(Bmax)を測定した。
【0064】
トラップを96ウェルプレートにコーティングし、各種濃度のTGFαまたはHRG1ベータのいずれかとともにインキュベートした。TGFαまたはHRG1βに対する検出抗体を用いて、結合したリガンドの親和性(Kd)および量(Bmax)を測定した。これらの研究において得られたデータを下記の表1〜4に提供する。
【0065】
表1および表2において示されるように、キメラ単量体(E1/E4‐Fc)は、約400〜620nMの範囲の親和性でTGFαを結合し、ErbB1‐IgGFc(E1‐Fc)は、約27〜40nMの範囲の親和性(Kd)で結合した。
【表1】

【表2】

【0066】
表3および表4に示すように、キメラ単量体(E1/E4‐Fc)は、約およそ15〜30nMの範囲の親和性でHRG1βを結合し、このことは、ErbB4‐IgGFc(E4‐Fc)と本質的に同じであった。
【表3】

【表4】

【0067】
E1/E4‐MFc50%データ点は、精製済みキメラ受容体の量の半分をウェルに添加すると、その結合が半分ほど低下し、それゆえ、結合が、添加した受容体の量に比例することを示す。
【0068】
本実施例は、ErbBキメラ受容体下位構成要素の両方に対するリガンドについての実質的な親和性を有するErbBキメラを作製および精製することができることを示す。さらに、本実施例は、突然変異をキメラ受容体結合分子に導入して、ジスルフィドを変化させ、ジスルフィド結合形成を通じての二量体の形成を防止することができることを示す。
【0069】
(実施例22)
本実施例は、ErbB4受容体のアミノ酸1〜245およびErbB1受容体のアミノ酸249〜501に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラを開示する。また、融合には、先の配列にあるようにIgG2‐Fcを含む。また、この配列に組み込まれているのは、位置13におけるグルタミンとセリンとの置換、および分子のジスルフィドベースの二量体化を防止する、実施例20由来のシステインからセリンへの2つの修飾である。位置13におけるグルタミン(以下で下線)は、その位置のErbB1配列において認められ、TGFαに対するキメラの親和性を増大させるために配列に組み込まれる。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化21】

【0070】
(実施例23)
本実施例は、ErbB4受容体のアミノ酸1〜245およびErbB1受容体のアミノ酸249〜501に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラを開示する。また、融合には、先の配列にあるようにIgG2‐Fcを含む。また、この配列に組み込まれているのは、位置42におけるチロシンとセリンとの置換、および分子のジスルフィドベースの二量体化を防止する、実施例20由来のシステインからセリンへの2つの修飾である。位置42におけるチロシン(以下で下線)は、その位置のErbB1配列において認められ、TGFαに対するキメラの親和性を増大させるために配列に組み込まれる。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化22】

【0071】
(実施例24)
本実施例は、ErbB4受容体のアミノ酸1〜245およびErbB1受容体のアミノ酸249〜501に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラを開示する。また、融合には、先の配列にあるようにIgG2‐Fcを含む。また、この配列に組み込まれているのは、位置123におけるアルギニンとチロシンとの置換(下線)、および分子のジスルフィドベースの二量体化を防止する、実施例20由来のシステインからセリンへの2つの修飾である。位置123におけるアルギニンは、その位置のErbB1配列において認められ、TGFαに対するキメラの親和性を増大させるために配列に組み込まれる。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化23】

【0072】
(実施例25)
本実施例は、ErbB4受容体のアミノ酸1〜183およびErbB1受容体のアミノ酸187〜501に接合したシグナルペプチド(MEWSWVFLFFLSVTTGVHS)を含むキメラを開示する。この配列は、二量体化を防止するためにIgG2Fc領域にシステインからセリンへの2つの修飾を含むこと以外は、実施例18における配列と本質的に同じである。この融合は、TGFαに対するキメラの親和性を増大させるためにより多くのErbB1配列を含む。ErbBキメラは、以下のアミノ酸配列を有する:
【化24】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然のErbB1、ErbB3、またはErbB4の任意の1よりも多くのErbBリガンドについて検出可能な結合活性を有するキメラErbBリガンド結合分子。
【請求項2】
配列番号1〜24からなるアミノ酸配列の群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のキメラErbBリガンド結合分子。
【請求項3】
ErbB1由来のサブドメインLIIの少なくとも一部に連結されたErbB4由来のサブドメインLIの少なくとも一部を有する、請求項1に記載のキメラErbBリガンド結合分子。
【請求項4】
ErbB1由来のLIIの少なくとも一部に連結されたErbB4由来の一部およびErbB1由来の一部を有するSI領域に連結されたErbB4由来のサブユニットLIの少なくとも一部を有する、請求項1に記載のキメラErbBリガンド結合分子。
【請求項5】
ErbB1由来のサブドメインLIIの少なくとも一部に連結されたErbB4由来のサブドメインLIの少なくとも一部を有し、前記ErbBキメラがIgG2Fcに融合された、請求項1に記載のキメラErbBリガンド結合分子。
【請求項6】
ErbB4由来の一部およびErbB1由来の一部を有するSI領域に連結されたErbB4由来のサブドメインLIを有し、この中で、前記ErbB4部分が、ErbB1由来のLIIの少なくとも一部に連結された、前記2つの配列間に相同性を有する領域における前記ErbB1部分に切り替わる、請求項1に記載のキメラErbBリガンド結合分子。
【請求項7】
ErbB1由来のLIIの少なくとも一部に連結されたErbB3由来のサブドメインLIを有する、請求項1に記載のキメラErbBリガンド結合分子。
【請求項8】
一部がErbB3由来でありかつ一部がErbB1、およびErbB1由来のLIIの少なくとも一部に由来する、請求項1に記載のキメラErbBリガンド結合分子。
【請求項9】
ErbB1由来のLIIの少なくとも一部に連結されたErbB3由来のサブドメインLIを有し、このなかで、前記ErbBキメラがIgG2Fcに融合した、請求項1に記載のキメラErbBリガンド結合分子。
【請求項10】
ErbB3由来のサブドメインLIを有し;SI領域がErbB3由来の一部およびErbB1由来の一部を有し、この中で、前記ErbB3部分が、前記2つの配列間に相同性を有する領域における前記ErbB1部分に切り替わり;およびErbB1由来のLIIの少なくとも一部に切り替わる、請求項1に記載のキメラErbBリガンド結合分子。
【請求項11】
前記分子が少なくとも部分的に二量体化される、請求項1に記載のキメラErbBリガンド結合分子。
【請求項12】
天然のErbB1、ErbB3、またはErbB4のうちのいずれか1つよりも多くのErbBリガンドについて検出可能な結合活性を有するキメラErbBリガンド結合分子をコードするDNA排列。
【請求項13】
宿主において前記キメラErbBリガンド結合分子を発現するための追加的なDNA配列をさらに含む、請求項12に記載のDNA配列。
【請求項14】
前記DNA配列が宿主生細胞中にある、請求項12に記載のDNA配列。
【請求項15】
天然のErbB1、ErbB3、またはErbB4のうちのいずれか1つよりも多くのErbBリガンドについて検出可能な結合活性を有するキメラErbBリガンド結合分子と、薬学的に許容し得る賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項16】
ErbB1由来のLIIの少なくとも一部に連結されたErbB4由来のサブユニットLIの少なくとも一部と、薬学的に許容し得る賦形剤とを含む、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
ErbB1由来のLIIの少なくとも一部に連結されたErbB3由来のサブユニットLIの少なくとも一部と、薬学的に許容し得る賦形剤とを含む、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
固相支持体に固定された天然のErbB1、ErbB3、またはErbB4のうちのいずれか1つよりも多くのErbBリガンドについて検出可能な結合活性を有するキメラErbBリガンド結合分子を含む、ErbBリガンドを結合するための組成物。
【請求項19】
請求項15に記載の医薬組成物を投与することを含む、1つ以上のErbBリガンドに対して感受性のある癌を有する患者を治療するための方法。
【請求項20】
固相支持体上に天然のErbB1、ErbB3、またはErbB4のうちのいずれか1つよりも多くのErbBリガンドについて検出可能な結合活性を有するキメラErbBリガンド結合分子を固定することと、ErbBリガンドの少なくとも一部を除去するよう、1つ以上のErbBリガンドに対して感受性のある癌を有する患者由来の生物学的流体を前記固相支持体に通過させることとを含む、1つ以上のErbBリガンドに対して感受性のある癌を有する患者を治療するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−500719(P2013−500719A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522999(P2012−522999)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/043533
【国際公開番号】WO2011/017159
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(512020280)リガセプト・エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】