説明

広色域カラーチャート、広色域カラーチャート装置及び広色域カラーチャートを用いた色再現評価方法

【課題】高彩度な色域に対応しつつ安定した表色性能を発揮することが可能な広色域カラーチャート及び広色域カラーチャート装置、並びにこのような広色域カラーチャートを用いた色再現評価方法を得る。
【解決手段】透過型の2枚のカラーチャート11A,11B及び透過型の拡散板12と、これらを保持するホルダ13により、広色域カラーチャート10が構成される。2枚のカラーチャート11A,11Bは、所定の色域(例えば、Rec.709)に対応した同一仕様のものであり、各々のカラーパッチの位置が同色同士で互いに揃うように重ね合わされた状態で、ホルダ13内に収容される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラ、ディスプレイ、プリンタ等において再現された色の評価や校正に用いられるカラーチャートの技術に関するものであり、特に、色の再現域が広いカメラ等の色再現評価用として好適な広色域カラーチャート、広色域カラーチャート装置及び広色域カラーチャートを用いた色再現評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、色再現域の広いカメラ、ディスプレイ、プリンタ等が開発され、広色域化の要求が高まっている。ハイビジョン(HDTV:High Definition Television)の次世代のテレビジョンシステムであるスーパーハイビジョン(UHDTV:Ultra High Definition Television)においても、ハイビジョンに対応したRec.709と称される従来の色域に比較して、RGBの3原色の彩度をより高く設定した広色域表色系が提案されている。
【0003】
カメラ等の色再現機器においては、再現された色が元の色と一致しているか等を判断するための色再現評価を行い、再現される色の校正を行うことが重要となる。従来の色域(Rec.709)に対応したカメラ等における色再現評価・色校正では、24色のカラーパッチ(色票)を有する、Color Checker Classicと称される反射型のカラーチャート(従来「マクベスチャート」という名称で広く知られているので、本明細書では、以下「マクベスチャート」と称する)が、デファクトスタンダードして一般的に用いられている。
【0004】
一方、従来の色域を越える色再現域の広いカメラ等における色再現評価・色校正においては、標準となり得るようなカラーチャートはなく、種々の提案や試みがなされている段階である。例えば、下記特許文献1には、高い彩度を有する透光性フィルタをカラーパッチとして備えた透過型の広色域カラーチャートが提案されている。また、従来のマクベスチャートよりも高い彩度を有する各色のカラーパッチを備えた反射型の広色域カラーチャートを作成する試みもなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−172659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような従来手法により高彩度な色域に対応し得る広色域カラーチャートを作成するには、これまでの色材よりも彩度の高い色材を用いてカラーパッチを着色することが必要となる。しかし、高彩度の色材として知られている有機顔料は一般に耐久性が低く、このような色材をカラーパッチの着色材として用いた広色域カラーチャートの場合、時間的に安定した表色性能を発揮することが困難となる。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、高彩度な色域に対応しつつ安定した表色性能を発揮することが可能な広色域カラーチャート及び広色域カラーチャート装置、並びにこのような広色域カラーチャートを用いた色再現評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明に係る広色域カラーチャートは、所定の色域に対応した透過型の2枚のカラーチャートを、該2枚のカラーチャートにおける同色のカラーパッチ同士の位置を揃えて重ね合わせてなる、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る広色域カラーチャート装置は、所定の色域に対応した透過型の2枚のカラーチャートと、該2枚のカラーチャートを該2枚のカラーチャートにおける同色のカラーパッチ同士の位置が揃うように重ね合わせた状態で保持するカラーチャート保持手段と、該カラーチャート保持手段により保持された前記2枚のカラーチャートをその背面側から、均一な強度分布の照明光により照明するバックライト手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明のカラーチャート装置において、前記カラーチャート保持手段により保持された前記2枚のカラーチャートの間に、透過型の拡散板を配置することができる。
【0011】
また、本発明に係るカラーチャートを用いた色再現評価方法は、
所定の色域に対応した透過型の2枚のカラーチャートを、該2枚のカラーチャートにおける同色のカラーパッチ同士の位置が揃うように重ね合わせた状態で保持する2枚カラーチャート保持ステップと、
保持された前記2枚のカラーチャートをその背面側から、均一な強度分布の照明光により照明する2枚カラーチャート照明ステップと、
照明された前記2枚のカラーチャートをその正面側から、被検カメラを用いて撮影する2枚カラーチャート撮影ステップと、
前記被検カメラにより撮影された前記2枚のカラーチャートの各カラーパッチの再現色データを、該カラーチャートを2枚重ねで用いた際の各カラーパッチの参照用色データと比較することにより、彩度の高い色域での色再現評価を行う高彩度色評価ステップと、
をこの順に行う2枚カラーチャート評価手順を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明のカラーチャートを用いた色再現評価方法において、
前記所定の色域に対応した透過型の1枚のカラーチャートを保持する1枚カラーチャート保持ステップと、
保持された前記1枚のカラーチャートをその背面側から、均一な強度分布の照明光により照明する1枚カラーチャート照明ステップと、
照明された前記1枚のカラーチャートをその正面側から、前記被検カメラを用いて撮影する1枚カラーチャート撮影ステップと、
前記被検カメラにより撮影された前記1枚のカラーチャートの各カラーパッチの再現色データを、該カラーチャートを1枚で用いた際の各カラーパッチの参照用色データと比較することにより、彩度の低い色域での色再現評価を行う低彩度色評価ステップと、
をこの順に行う1枚カラーチャート評価手順を備えるようにすることができる。
【0013】
上記「所定の色域」とは、Rec.709のような従来の一般的な色域とすることができるが、これに限定されるものではなく、任意の色域とすることが可能である。
【0014】
また、上記「2枚のカラーチャート」は、同仕様のカラーチャートであることが好ましいが、仕様が異なる2枚のカラーチャートを用いることを排除するものではない。例えば、重ね合わせたときに、同色のカラーパッチの位置を揃えることができるように各カラーパッチが配列されているのであれば、カラーパッチの数が互いに異なる2枚のカラーチャートを用いることも可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る広色域カラーチャート及び広色域カラーチャート装置によれば、所定の色域に対応した透過型の2枚のカラーチャートを、同色のカラーパッチ同士の位置を揃えて重ね合わせるという特徴構成を備えたことにより、以下のような効果を奏する。
【0016】
すなわち、同色のカラーパッチ同士の位置を揃えて重ね合わせることにより、各色のカラーパッチにおける彩度を高くすることができる。このような効果は、従来の色域(例えば、Rec.709)に対応した透過型カラーチャートを2重にして用いた場合でも、十分に得ることができるので、彩度を高くするために、耐久性が低い色材を用いてカラーパッチを着色する必要はない。
【0017】
したがって、本発明によれば、高彩度な色域に対応しつつ安定した表色性能を発揮することが可能な広色域カラーチャート及び広色域カラーチャート装置を実現することが可能となる。
【0018】
また、本発明に係る広色域カラーチャートを用いた色再現評価方法によれば、所定の色域に対応した透過型の2枚のカラーチャートを、同色のカラーパッチ同士の位置を揃えて重ね合わせて用いることにより、従来よりも高彩度な色を再現し得る色再現域の広いカメラ等の色再現評価を適正に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る広色域カラーチャートの正面図である。
【図2】図1に示す広色域カラーチャートの構成を示す概略図である。
【図3】図2に示すX−X線に沿った部分の拡大断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る広色域カラーチャート装置の正面図である。
【図5】1枚のカラーチャートの各カラーパッチの色度点の分布を示すグラフである。
【図6】重ね合わせた2枚のカラーチャートの各カラーパッチの色度点の分布を示すグラフである。
【図7】実在する表面色のデータベースであるポインターカラーの色度分布を示すグラフである。
【図8】カラーチャートが1枚の場合と2枚重ねの場合とにおけるグリーンのカラーパッチ(P14)の分光透過率の比較を示すグラフである。
【図9】本発明の一実施形態に係る広色域カラーチャートを用いた色再現評価方法を行う際の装置構成図である。
【図10】被検カメラにより撮影された各カラーパッチの再現色とその本来の色(参照色)との色差の一例を示すグラフである。
【図11】xy色度図上における、被検カメラにより撮影された各カラーパッチの再現色の色度点とその本来の色(参照色)の色度点の分布の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る広色域カラーチャート、広色域カラーチャート装置及び広色域カラーチャートを用いた色再現評価方法の各実施形態について、上記図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
〈広色域カラーチャート〉
本発明の一実施形態に係る広色域カラーチャート10は、図2に示すように、透過型の2枚のカラーチャート11A,11Bと、透過型の拡散板12と、これら2枚のカラーチャート11A,11B及び拡散板12を保持するホルダ13と、から構成されている。
【0022】
2枚のカラーチャート11A,11Bは、従来の色域(Rec.709)に対応した同一仕様のものであり、透明な硝子板の一面に印刷により形成された透過型の24色のカラーパッチP1〜P24を備えている。なお、各カラーパッチP1〜P24の色は、従来のマクベスチャートにおける各カラーパッチの色と略一致するように設定されており、各色の配列順もマクベスチャートと同じとされている(カラーパッチP1〜P18は有彩色、カラーパッチP19〜P24は無彩色)。
【0023】
2枚のカラーチャート11A,11Bは、各々のカラーパッチP1〜P24の位置が同色同士で互いに揃うように重ね合わされた状態で、ホルダ13に保持されるようになっている。具体的には図3に示すように、ホルダ13の内周部には、4個の溝部13a,13b,13c,13dが形成されており、これらの溝部13a,13b,13c,13dのうちの何れか2つ(通常、溝部13c,13d)に、2枚のカラーチャート11A,11Bをそれぞれ差し込むようにしてホルダ13内に収容することにより、2枚のカラーチャート11A,11Bにおける各カラーパッチP1〜P24の位置が同色同士で互いに揃うように構成されている。なお、上記溝部13a,13b,13c,13dには、カラーチャート11A,11Bの他に、照明光の色温度や分光強度分布等を調整するための各種光学フィルタを必要に応じて適宜配置することが可能となっている。
【0024】
上記拡散板12は、2枚のカラーチャート11A,11Bを重ね合わせて使用する際に、2枚のカラーチャート11A,11Bの間に配置される。具体的には本実施形態では、図3に示すようにカラーチャート11Aの後方(背面側)に配置されるカラーチャート11Bの前面に、両面接着テープ等により拡散板12を貼付することにより、2枚のカラーチャート11A,11Bの間に拡散板12を配置している。なお、この拡散板12は、カラーパッチP1〜P24の色が網点印刷により形成されている場合などにおいて、2枚のカラーチャート11A,11Bを重ね合わせて使用すると観察される虞があるモアレ縞の発生を防止する目的で配置されるものである。したがって、このようなモアレ縞が発生する虞が無いような場合には、敢えて配置する必要はない。
【0025】
本実施形態の広色域カラーチャート10は、2枚のカラーチャート11A,11B及び拡散板12を重ね合わせて使用するだけではなく、カラーチャート11B及び拡散板12をホルダ13から取り出すことにより、1枚のカラーチャート11Aを単独で使用することもできるように構成されている。そして、1枚のカラーチャート11Aを単独で使用した場合には、従来のハイビジョン(HDTV)での色域(Rec.709)に対応したカラーチャートとして、また、2枚のカラーチャート11A,11B及び拡散板12を重ね合わせて使用した場合には、次世代のスーパーハイビジョン(UHDTV)で提案されている広い色域に対応したカラーチャートとして、テレビカメラ等における色再現評価に用いることが可能となっている。
【0026】
〈広色域カラーチャート装置〉
本発明の一実施形態に係る広色域カラーチャート装置20は、図4に示すように、上述した広色域カラーチャート10と、バックライト手段としての均一化照明装置30と、を備えてなる。
【0027】
均一化照明装置30は、光源装置31、積分球32及び積分球支持ステージ33により構成されている。光源装置31は、相関色温度6500Kの光を出力するD65光源(図示せず)を備えており、このD65光源からの出力光が積分球32の内部に照射されるように、積分球32の一側部に設置されている。
【0028】
積分球32は、その内面が硫酸バリウムや酸化チタン等の白色塗料を塗布されてなる拡散反射面により構成されており、光源装置31のD65光源からの出力光を拡散反射することにより均一な強度分布の照明光となし、この照明光を当該積分球32の正面部に形成された出力用開口(図示せず)から出射するように構成されている。
【0029】
また、積分球32には、矩形枠状に形成された保持プレート34が上記出力用開口を囲うように取り付けられており、上記広色域カラーチャート10は、この保持プレート34により保持され、上記出力用開口を臨むように配置されている。このように本実施形態では、広色域カラーチャート10のホルダ13と保持プレート34により、2枚のカラーチャート11A,11Bを重ね合わせた状態で保持する保持手段が構成されている。
【0030】
積分球支持ステージ33は、積分球32を支持するとともに、支持した積分球32の高さ方向(図中上下方向)の位置を調整し得るように構成されている。
【0031】
広色域カラーチャート装置20は、保持プレート34に保持された広色域カラーチャート10を、均一化照明装置30から出射される照明光により背面側から照明することにより、広色域カラーチャート10の各カラーパッチP1〜P24(図1参照)から、均一な強度分布の各色光を出射するようになっている。
【0032】
〈各カラーパッチの色度点〉
上述した広色域カラーチャート10または広色域カラーチャート装置20において、カラーチャート11Aを1枚で使用した場合の各色のカラーパッチP1〜P24の色度点(色度座標)は、国際照明委員会(CIE)が定めたXYZ表色系のxy色度図上において、図5に示すように分布している。
【0033】
一方、広色域カラーチャート10または広色域カラーチャート装置20において、カラーチャート11A,11Bを2枚重ねて使用した場合の各色のカラーパッチP1〜P24の色度点は、xy色度図上において、図6に示すように分布している。なお、図5,6に示す各色度点は、下記参考文献1に記載された色データに基づき、D65光源の分光分布下で計算により求めたものである。
【0034】
参考文献1:大田登 色再現工学の基礎 コロナ社 1997年
【0035】
図5に示すように、カラーチャート11Aを1枚で使用した場合の各色のカラーパッチP1〜P24の色度点は、従来のハイビジョン(HDTV)での色域(図中の小さい方の三角形の領域)内において分布している。これに対し、カラーチャート11A,11Bを2枚重ねて使用した場合の各色のカラーパッチP1〜P24の色度点は、図6に示すように、それらのうちの有彩色の幾つかの色度点がハイビジョン(HDTV)の色域を超えた領域に分布するなど、全体として次世代のスーパーハイビジョン(UHDTV)で提案されている広色域(図中の大きい方の三角形の領域)内に広く分布していることが分かる。
【0036】
図7に、実在する表面色のデータベースであるポインターカラー(pointer’s color)の色度分布を示す。このポインターカラーの色度分布を参照すると、カラーチャート11A,11Bを2枚重ねて使用した場合の色度点は、カラーチャート11Aを1枚で使用した場合の色度点よりも、実在する色の分布を代表していることが分かる。
【0037】
また、図8に、カラーチャート11Aを1枚で使用した場合のカラーパッチP14(グリーン)の分光透過率(図中実線で示す)と、2枚のカラーチャート11A,11Bを重ねて使用した場合のカラーパッチP14の分光透過率(図中破線で示す)を、それぞれのグラフのピークが1になるように正規化して示している。図8を参照すると、カラーチャート11A,11Bを2枚重ねて使用した場合の方が、カラーチャート11Aを1枚で使用した場合よりも、Q値が高い分光透過率となっていることが分かる。
【0038】
〈広色域カラーチャートを用いた色再現評価方法〉
以下、上述した広色域カラーチャート装置20(広色域カラーチャート10)を用いた色再現評価方法について説明する。
【0039】
《装置のセッティング》
図9に示すように、被検カメラ50が広色域カラーチャート10を撮影し得るように、広色域カラーチャート装置20を被検カメラ50の前方にセットする。その際、被検カメラ50のレンズのシェーディングが解析に影響しないように、また、グレアの影響(隣り合うパッチの光の漏れ)が無いように、撮影時の画角や視距離が調整される。
【0040】
本実施形態では、被検カメラ50により撮影された画像データを、コンピュータ等からなる解析装置41により解析することにより、被検カメラ50の色再現評価を行う。解析装置41への指示は、キーボードやマウス等からなる入力装置43を介して行い、被検カメラ50により撮影された画像や色再現評価の結果等は、表示装置42の表示画面上に表示されるようになっている。
【0041】
《1枚カラーチャート評価手順》
(1)広色域カラーチャート装置20の広色域カラーチャート10のホルダ13内に、カラーチャート11Aを単独でセットする(1枚カラーチャート保持ステップ)。
【0042】
(2)セットされたカラーチャート11Aをその背面側から、広色域カラーチャート装置20の均一化照明装置30から出射された均一な強度分布の照明光により照明する(1枚カラーチャート照明ステップ)。
【0043】
(3)照明されたカラーチャート11Aを、被検カメラ50により撮影する(1枚カラーチャート撮影ステップ)。
【0044】
(4)被検カメラ50により撮影されたカラーチャート11Aの各カラーパッチP1〜P24の再現色データ(例えば、xy色度図上での色度点)を、カラーチャート11Aを1枚(単独)で用いた際の各カラーパッチP1〜P24の本来の色を表す参照用色データ(例えば、図5に示す色度点)と比較する(例えば、両者の色差を求める)ことにより、彩度の低い色域(ハイビジョン(HDTV)の色域)での色再現評価を行う(低彩度色評価ステップ)。
【0045】
《2枚カラーチャート評価手順》
〔1〕広色域カラーチャート装置20の広色域カラーチャート10のホルダ13内に、2枚のカラーチャート11A,11Bを、各々のカラーチャート11A,11Bにおける同色のカラーパッチ同士の位置が揃うように重ね合わせた状態で、かつ拡散板12を2枚のカラーチャート11A,11Bの間に配した状態でセットする(2枚カラーチャート保持ステップ)。
【0046】
〔2〕セットされた2枚のカラーチャート11A,11Bをその背面側から、広色域カラーチャート装置20の均一化照明装置30から出射された均一な強度分布の照明光により照明する(2枚カラーチャート照明ステップ)。
【0047】
〔3〕照明された2枚のカラーチャート11A,11Bをその正面側(カラーチャート11Aの側)から、被検カメラ50により撮影する(2枚カラーチャート撮影ステップ)。
【0048】
〔4〕被検カメラ50により撮影された2枚のカラーチャート11A,11Bの各カラーパッチP1〜P24の再現色データ(例えば、xy色度図上での色度点)を、カラーチャート11A,11Bを2枚重ねで用いた際の各カラーパッチP1〜P24の本来の色を表す参照用色データ(例えば、図6に示す色度点)と比較する(例えば、両者の色差を求める)ことにより、彩度の高い色域(スーパーハイビジョン(UHDTV)の色域)での色再現評価を行う(高彩度色評価ステップ)。なお、無彩色のカラーパッチP19〜P24の色再現評価は、1枚カラーチャート評価手順における低彩度色評価ステップで行い、高彩度色評価ステップでは、有彩色のカラーパッチP1〜P18の色再現評価のみを行うようにしてもよい。
【0049】
図10に、2枚重ねのカラーチャート11A,11Bを被検カメラ50により撮影した際に、被検カメラ50により再現された各カラーパッチP1〜P24の色(以下、適宜「再現色」と称する)と、その本来の色(以下、適宜「参照色」と称する)との色差の一例を示す。なお、図10に示すグラフの横軸は、カラーパッチP1〜P24の番号(1〜24)を表し、縦軸は、CIE94色差(ΔE94)の値を表している。
【0050】
また、図11に、XYZ表色系のxy色度図上において、上記再現色の色度点(図中「再現色度点」と表記)と上記参照色の色度点(図中「参照色度点」と表記)をプロットしたグラフを示す。なお、図11のグラフ中に表記された数字(1〜19,24)は、カラーパッチP1〜P24の番号に対応している。
【0051】
〈色再現の校正〉
被検カメラ50により再現された色を校正する場合には、例えば、被検カメラ50の色再現特性を決める3×3のマトリックスの係数を、上記再現色と上記参照色との色差が最小になるように最適化する。通常、この最適化の過程において、上述した色再現評価が何度も行われ、最適化されたときの色再現評価値が被検カメラ50の色再現性能とされる。なお、最適化するための手法としては、例えば、Nelder-Meadシンプレックス法(下記参考文献2,3を参照)を用いることができる。
【0052】
参考文献2:Nelder, J. A. and R. Mead, " A Simplex Method for Function Minimization," Computer Journal, Vol. 7, p. 308-313, 1965.
参考文献3:Dennis, J. E. Jr. and D. J. Woods, "New Computing Environments: Microcomputers in Large-Scale Computing," edited by A. Wouk, SIAM, 1987, pp. 116-122.
【0053】
〈態様の変更〉
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々に態様を変更することが可能である。
【0054】
例えば、上記広色域カラーチャート10は、2枚のカラーチャート11A,11Bを重ね合わせて使用するだけではなく、1枚のカラーチャート11Aを単独で使用することもできるように構成されているが、2枚のカラーチャート11A,11Bを貼り合わせるなどして一体化し、高彩度の色域に対応した専用のカラーチャートとして構成することも可能である。
【0055】
また、上記広色域カラーチャート装置20は、光源装置31からの出力光の強度分布を均一化するために積分球32を用いているが、フライアイやロッドレンズ等の他の光学素子を、強度分布を均一化する手段として用いるようにしてもよい。また、均一化照明装置30に代わる簡易的なバックライト手段として、フィルム用ライトボックス等を用いることも可能である。
【0056】
また、上記実施形態の色再現評価方法では、1枚カラーチャート評価手順を行った後に、2枚カラーチャート評価手順を行っているが、2枚カラーチャート評価手順の方を先に行うようにしてもよい。また、1枚カラーチャート評価手順における1枚カラーチャート保持ステップ、1枚カラーチャート照明ステップ及び1枚カラーチャート撮影ステップと、2枚カラーチャート評価手順における2枚カラーチャート保持ステップ、2枚カラーチャート照明ステップ及び2枚カラーチャート撮影ステップを先に行い、1枚カラーチャート評価手順における低彩度色評価ステップと、2枚カラーチャート評価手順における高彩度色評価ステップを、その後に行うようにしてもよい。また、1枚カラーチャート評価手順は行わず、2枚カラーチャート評価手順のみを行うことも可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 広色域カラーチャート
11A,11B (透過型の)カラーチャート
12 (透過型の)拡散板
13 ホルダ
13a〜13d 溝部
20 広色域カラーチャート装置
30 均一化照明装置
31 光源装置
32 積分球
33 積分球支持ステージ
34 保持プレート
41 解析装置
42 表示装置
43 入力装置
50 被検カメラ
P1〜P24 カラーパッチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の色域に対応した透過型の2枚のカラーチャートを、該2枚のカラーチャートにおける同色のカラーパッチ同士の位置を揃えて重ね合わせてなる、ことを特徴とする広色域カラーチャート。
【請求項2】
所定の色域に対応した透過型の2枚のカラーチャートと、該2枚のカラーチャートを該2枚のカラーチャートにおける同色のカラーパッチ同士の位置が揃うように重ね合わせた状態で保持するカラーチャート保持手段と、該カラーチャート保持手段により保持された前記2枚のカラーチャートをその背面側から、均一な強度分布の照明光により照明するバックライト手段と、を備えたことを特徴とする広色域カラーチャート装置。
【請求項3】
前記カラーチャート保持手段により保持された前記2枚のカラーチャートの間に、透過型の拡散板を配置したことを特徴とする請求項2に記載の広色域カラーチャート装置。
【請求項4】
所定の色域に対応した透過型の2枚のカラーチャートを、該2枚のカラーチャートにおける同色のカラーパッチ同士の位置が揃うように重ね合わせた状態で保持する2枚カラーチャート保持ステップと、
保持された前記2枚のカラーチャートをその背面側から、均一な強度分布の照明光により照明する2枚カラーチャート照明ステップと、
照明された前記2枚のカラーチャートをその正面側から、被検カメラを用いて撮影する2枚カラーチャート撮影ステップと、
前記被検カメラにより撮影された前記2枚のカラーチャートの各カラーパッチの再現色データを、該カラーチャートを2枚重ねで用いた際の各カラーパッチの参照用色データと比較することにより、彩度の高い色域での色再現評価を行う高彩度色評価ステップと、
をこの順に行う2枚カラーチャート評価手順を備えたことを特徴とする広色域カラーチャートを用いた色再現評価方法。
【請求項5】
前記所定の色域に対応した透過型の1枚のカラーチャートを保持する1枚カラーチャート保持ステップと、
保持された前記1枚のカラーチャートをその背面側から、均一な強度分布の照明光により照明する1枚カラーチャート照明ステップと、
照明された前記1枚のカラーチャートをその正面側から、前記被検カメラを用いて撮影する1枚カラーチャート撮影ステップと、
前記被検カメラにより撮影された前記1枚のカラーチャートの各カラーパッチの再現色データを、該カラーチャートを1枚で用いた際の各カラーパッチの参照用色データと比較することにより、彩度の低い色域での色再現評価を行う低彩度色評価ステップと、
をこの順に行う1枚カラーチャート評価手順を備えたことを特徴とする請求項4に記載の広色域カラーチャートを用いた色再現評価方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2013−88226(P2013−88226A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227770(P2011−227770)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】