説明

床パン

【課題】床面の排水枡周縁における、水の表面張力の作用による、水滴又は水膜の残存をより少なくすることができるとともに、床面の清掃が容易である床パンを提供することを目的としている。
【解決手段】床面に落ちた排水が床面及び/または床面に設けられた凹溝から流れ込む排水枡を床面に隣接して設けた床パンであって、前記排水枡が、最も排水が集中して流れ込む位置およびその近傍の排水枡側壁面の上端部に、排水枡側壁面に沿って流下する排水の流下を遅延させる複数の微細段部を備えていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴室の洗い場用やシャワー室用の床パンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の浴室の洗い場や、シャワー室の床を構成する床パンには、床面を複数の床面構成部に区画するように凹溝が設けられているとともに、この凹溝に排水枡に向かって下り勾配の傾斜を設け、床面構成部に落ちた洗い水が凹溝内に流れ込み、凹溝の勾配に沿って排水枡に向かって流れ、排水枡に流れ込んだのち、排水路に排水されるようになっているものが多い。すなわち、上記のような床パンの構造にすることによって、冬場の入浴時等に排水残り水によって浴室使用者が冷たく不快の思いをしたり、使用者が床面の勾配によって滑ったりすることを防止するために、床面構成部の勾配を緩くしても、床面での排水残りを少なくできるようにしている。
【0003】
また、この種の床パンとして、凹溝を排水升の側壁面(立ち面)の上端縁に連続するように形成し、凹溝の下流側端部から流れ出た排水が排水枡の上端縁で拡散されて減速せず
凹溝を流れる水が切れることなく排水升に流れ込み、水の表面張力が作用によって排水が排水枡の上端縁上の床面においても大きな水滴又は水膜となって残存しにくくしたものが提案されている(特許文献1、2参照)。
しかしながら、上記のような床パンにおいては、床面構成部上に残る水はほとんど無くなったが、凹溝部分は、幅が狭いため、排水量が減ってくると、水の表面張力によって、排水枡の上端縁近傍では、依然として凹溝に水が残ってしまう。そして、凹溝に残った排水が凹溝内で乾燥し、皮脂汚れが溜って、この皮脂汚れによって撥水し、排水効果がなくなるおそれがある。そこで、浴室清掃時に凹溝内を十分に清掃しなければならないが、凹溝内にスポンジが入り難く、溜まった汚れの清掃が困難である。
【0004】
【特許文献1】特開2003‐328417号公報
【特許文献2】特開2004‐285643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みて、床面の排水枡周縁における、水の表面張力の作用による、水滴又は水膜の残存をより少なくすることができるとともに、床面の清掃が容易である床パンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明にかかる床パンは、床面に落ちた排水が床面及び/または床面に設けられた凹溝から流れ込む排水枡を床面に隣接して設けた床パンであって、前記排水枡が、最も排水が集中して流れ込む位置およびその近傍の排水枡側壁面の上端部に、排水枡側壁面に沿って流下する排水の流下を遅延させる複数の微細段部を備えていることを特徴とする床パン。
【0007】
本発明の床パンは、排水の排水枡の底への流下を遅延させることができれば、その形状は特に限定されないが、例えば、平面視矩形をしていて、排水孔が底に穿設された矩形の排水枡を一つの縁の中央部に前記縁に沿うように有し、他の縁から前記排水枡の上端縁に向かってそれぞれ下り勾配面を有することが好ましい。
【0008】
また、上記のような形状の床パンにおいては、各微細段部の上面が排水枡の側壁面と側壁面とのコーナーに向かって下り勾配に形成されていること、直交する側壁面の一方の微細段部が他方の側壁面の微細段部に対し排水枡の側壁面と側壁面とのコーナーで上下にずれて形成されていること、各微細段部は、上面が3μm以上200μm以下の幅に形成され、排水枡は、側壁面と側壁面とのコーナーが5mm以下の曲率半径のアール形状に形成されていることが好ましい。
すなわち、上面が3μm未満では、流下を低下させる効果がほとんど見られず、200μmを越えると逆にその段によって水が途切れることとなるおそれがある。一方、曲率半径が5mmを越えると、水の集水が少なく段差効果を発現できなくなるおそれがある。
【0009】
本発明の床パンとしては、特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼などの金属板をプレス成形して得た金属製のもの、SMC(シートモールドコンパウンド)などをプレス成形して得た繊維強化樹脂製のものが挙げられ、品質、耐久性、コストを考慮すると繊維強化樹脂製のものが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
上記のように、本発明かかる床パンは、床面に落ちた排水が床面及び/または床面に設けられた凹溝から流れ込む排水枡を床面に隣接して設けた床パンであって、流れ込む排水の排水枡の底への流下を遅延させる微細な微細段部が、前記排水枡の少なくとも上端縁近傍の側壁面に階段状に形成されているので、排水枡の上縁まで流下してきた排水が上記の微細な微細段部のところで急激に排水枡の底に向かって落下することがない。すなわち、流下によるエネルギーが水の分子間力より勝ることによる排水の途切れが発生し難くなり、排水が床面の排水枡周縁に水滴や水膜として残ることがなくなる。したがって、床面に凹溝を設けた床パンにおいても、凹溝内に水が残った状態で乾燥して、皮脂汚れが溜ることがなく、凹溝による排水効果を常に発揮させることができるとともに、凹溝内に汚れが溜まることがないので、清掃を容易に行うことができる。
【0011】
また、本発明かかる床パンは、平面視矩形をしていて、排水孔が底に穿設された矩形の排水枡を一つの縁の中央部に前記縁に沿うように有し、他の縁から前記排水枡の上端縁に向かってそれぞれ下り勾配面を有する構成とすれば、3方の縁部のいずれにドア枠を取り付けても踏み込み高さが同じになる。したがって、いずれの縁部に沿ってドア枠を設けても出入口を挟んで隣室と床パンの床面との段差が少ないバリアフリー化された浴室を構築することができる。
【0012】
そして、排水枡が略矩形をしていて、各微細段部の上面が排水枡の側壁面と側壁面とのコーナーに向かって下り勾配に形成されている構成とすれば、微細段部に受けられた排水がコーナーに向かって流れるので、コーナーに排水が集まり、コーナーにおいて排水の量が増えて、より排水が途切れ難くなる。
さらに、直交する側壁面の一方の微細段部が他方の側壁面の微細段部に対し排水枡の側壁面と側壁面とのコーナーで上下にずれて形成されている構成とすれば、コーナー部において微細段部が連続していないことにより、コーナーにおいて排水が蛇行しながら流下する。したがって、より流下速度が遅くなり、排水の途切れが発生し難くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明を、その実施の形態をあらわす図面を参照しつつ詳しく説明する。
図1〜図7は、本発明にかかる床パンの1つの実施の形態をあらわしている。
【0014】
図1及び図2に示すように、この床パン1は、平面視長方形をしていて、浴槽側に配置される1つの長辺1a側の縁部中央に平面視略正方形をした排水枡2を備えるとともに、床面3が2つの短辺1b,1d側および他方の長辺1c側からそれぞれ排水枡2に向かって1〜3°の下り勾配になった床面としての3つの下り勾配面3a,3b,3cを備えている。また、一方の短辺1b側には、ドア枠受け部材11が取り付けられている。
そして、床面3は、幅1ミリ、深さ0.5ミリ程度の凹溝31によって矩形をした複数の床面構成部32に仕切られているとともに、図2及び図3に示すように、排水枡2の周囲に排水促進傾斜部33を備えている。
【0015】
各床面構成部32の表面は、図示していないが、滑り止めのために細かい凹凸が形成されている。
凹溝31は、排水枡2に向かって下り勾配に形成されている。
【0016】
排水促進傾斜部33は、傾斜角10〜30°、長さ5〜20mm、アール3〜10mmのアール形状をしているとともに、図示していないが、表面に中心線平均粗さRaが10〜50μmの微小凹凸を設けることによって親水化され、排水性が維持できるようになっている。
【0017】
排水枡2は、図2及び図3に示すように、高さ方向の中間部に蓋受け用段部21を有し、蓋受け用段部21の上側の4つの側壁面22がそれぞれ19/20の勾配に形成されている。また、排水枡2は、底中央に排水孔23を有し、図4に示すように、側壁面22と側壁面22とのコーナー24が曲率半径5mm以下のアール形状に形成されている。
そして、蓋受け用段部21の上側の4つの側壁面22のうち、3つの勾配面3a,3b,3cのそれぞれに対応する側壁面22には、図2〜図7に示すように、コーナー24から50mm幅の範囲において、微細段部25が数段ずつ(図4〜図7では部分的にしか描かれていない)上下方向に並んで設けられている。
【0018】
各微細段部25は、上面25aがコーナー24に向かって下り勾配に形成されるとともに、その下流側端部を除き、図5及び図6に示すように、上面25aがその最大部分で3μm〜200μmの幅で、立ち上がり壁25bが17μm〜1200μmの高さで、17μm〜1200μmピッチで立ち上がり壁25bの下端が微細段部25の上面25aの位置になるように形成されている。そして、上面25aと、立ち上がり壁25bとのなす角度が90〜105°になっている。
また、各微細段部25は、図4に示すように、下流側端部が徐々に上面25aの幅及び立ち上がり壁25bの高さが小さくなりながらコーナー部24を越えて2mm程度他方の側壁面22まで延びるとともに、図4、図5及び図7に示すように、他方の側壁面22に設けられた微細段部25に対して上下いずれかにピッチの半分程度8μm〜600μmずれていて、交差部において、上下の微細段部25間に少し隙間が形成されている。
【0019】
この床パン1は、上記のように、床面3が3つの下り勾配面3a,3b,3cを備えているので、床面3に落ちたシャワー水などの排水は、図1に鎖線で示した勾配面3aと勾配面3bとが接する部分及び勾配面3bと勾配面3cとが接する部分に形成された勾配屈曲部35に集まりながら排水枡2へ流れ込む。したがって、排水枡2に流れ込む排水は、勾配屈曲部35の延長線上にある排水枡2の側壁面22と側壁面22とのコーナー24及びその近傍部が最も流量が多い。
そして、コーナー24及びその近傍部から排水枡2に流れ込む排水は、側壁面22に微細段部25が複数段設けられているので、この微細段部25によって流下速度が遅くなる。したがって、排水量が少なくなってきても排水枡2の上縁で排水の途切れが発生し難くなり、凹溝31内に水が残った状態で乾燥し、皮脂汚れが溜るといったことがなく、凹溝31の排水効果が持続される。そして、凹溝31内に汚れが溜まることがないので、清掃を容易に行うことができる。
【0020】
また、各微細段部25は、上面25aが3μm〜200μmの幅で形成されているとともに、上面25aがコーナー24に向かって下り勾配に形成されているので、コーナー24に排水が集まり、コーナー24において排水の量が増えて、より排水が途切れ難くなる。
さらに、各微細段部25は、コーナー24において、他方の側壁面22に設けられた微細段部25に対して上下いずれかにピッチの半分程度ずれて形成されて、その傾斜下端が他方の側壁面22の微細段部25と微細段部25と間に徐々に上面25aの幅が小さくなりながら途中まで入り込んだのちになくなっているので、図5に示すように、コーナー24において排水が蛇行しながら流下する。したがって、より流下速度が遅くなり、排水がさらに途切れ難くなる。
【0021】
本発明は、上記の実施の形態に限定されない。例えば、上記の実施の形態では、床面が3面勾配であったが、排水枡を床面のコーナー部に設け、床面を2面勾配としても構わない。また、上記の実施の形態では、排水枡が平面視略正方形であったが、平面視略長方形や、半円形でも構わない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明にかかる床パンの1つの実施の形態をあらわす平面図である。
【図2】図1のA−A線断面である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4】図2の床パンの排水枡コーナー部の微細段部の配置を説明する説明図である。
【図5】図2の床パンの排水枡コーナー部の微細段部による排水の流れを模式的に説明する説明図である。
【図6】図4のB−B線断面の端面図である。
【図7】図4のC−C線断面の端面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 床パン
2 排水枡
22 側壁面
24 コーナー
25 微細段部
3a,3b,3c 下り勾配面(床面)
31 凹溝
W 排水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面に落ちた排水が床面及び/または床面に設けられた凹溝から流れ込む排水枡を床面に隣接して設けた床パンであって、前記排水枡が、最も排水が集中して流れ込む位置およびその近傍の排水枡側壁面の上端部に、排水枡側壁面に沿って流下する排水の流下を遅延させる複数の微細段部を備えていることを特徴とする床パン。
【請求項2】
平面視矩形をしていて、排水枡を一つの縁の中央部に前記縁に沿うように有し、他の縁から前記排水枡の上端縁に向かってそれぞれ下り勾配面を有する請求項1に記載の床パン。
【請求項3】
排水枡が略矩形をしていて、各微細段部の上面が排水枡の側壁面と側壁面とのコーナーに向かって下り勾配に形成されている請求項1または請求項2に記載の床パン。
【請求項4】
直交する側壁面の一方の微細段部が他方の側壁面の微細段部に対し排水枡の側壁面と側壁面とのコーナーで上下にずれて形成されている請求項3に記載の床パン。
【請求項5】
各微細段部は、上面が3μm以上200μm以下の幅に形成され、排水枡は、側壁面と側壁面とのコーナーが5mm以下の曲率半径のアール形状に形成されている請求項3または請求項4に記載の床パン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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