説明

底泥浄化装置

【課題】有機物等を水中で撹拌して浮揚させ、この浮揚物を回収ポンプで回収して浄化処理でき、底泥を砂とともに揚泥する従来装置に比べて、効率よく、しかもより低コストで有機物を浄化できる底泥浄化装置を提供する。
【解決手段】支柱2とシュラウド3と回収ポンプ4とを備えている。筒状のシュラウド3の周囲壁には第1ノズル15と第2ノズル16を、それぞれの噴出中心軸線P1・P2が一定方向に指向するように設けて、撹拌された底泥をシュラウド3に沿って一方向へ旋回させる。両ノズル15・16による撹拌作用で有機物を含む細粒土と砂と砂礫を分離し、分離された有機物および細粒土を、シュラウド3の上面開口から支柱2に沿って空気とともに浮揚させて回収ポンプ4で回収する。シュラウド3の上開口面に、旋回する撹拌流があふれ出るのを規制する複数個の規制翼32を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、港湾、湖沼、河川、池などの閉鎖性水域においてヘドロ等の有機物や汚染物質を分離し除去するための底泥浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の底泥浄化装置に関して、特許文献1の浚渫底泥の処理方法が公知である。そこでは、底泥を砂や礫とともに揚泥ポンプで揚泥し、揚泥された底泥にオゾンを接触させ、さらに凝集剤を添加してフミン物質(有機物質)を分解する。つぎに、オゾン処理された底泥を固液分離し、分離されたフロック(固相)を水底へ戻し、分離液に対して再度オゾンを接触させてフミン物質を再分解する。
【0003】
本発明の底泥浄化装置においては、加圧した水や空気を底泥に向かって噴射して、底泥を撹拌し有機物を浮揚させ、浮揚した有機物を回収ポンプで船台等へ汲み上げるが、この種の浄化装置は特許文献2に開示されている。そこでは、水中に沈めたノズルから高圧水を噴出して、砂礫などに付着する汚濁物を分離し、分離された汚濁物をノズルより下流側に配置したバケットで受け止め、回収ポンプで回収して回収容器に貯留し水切りする。
【0004】
特許文献3の底質改善方法においては、ヘドロ状の底泥を海水とともにポンプで揚泥し、揚泥された底泥を液体サイクロン分離装置で砂と、嫌気性の底泥とに分離し、砂のみを底質へ戻すようにしている。嫌気性の底泥は、粘土、シルト、有機物などで構成されており、第1・第2の各底泥改善槽に収容して好気化処理(間欠曝気)される。改質された嫌気性の底泥は、水田の客土、無機物焼成品の原料などに再利用でき、必要があれば元の水域に撒き戻される。
【0005】
特許文献4の水中堆積物の処理装置においては、下向きに開口する角箱状のケーシングを海底に沈め、ケーシング内の6箇所に設けたノズルを縦軸回りに揺動しながら高圧水を噴出し、ケーシングで囲まれた海底に堆積する貝殻やカキ殻を破砕処理している。ノズルから噴出される海水は高圧(1平方cm当り150Kgf)に加圧されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−18223号公報(段落番号0019、図1)
【特許文献2】特開2002−28526号公報(段落番号0015、図2)
【特許文献3】特開2007−98253号公報(段落番号0022、図1)
【特許文献4】特許第2746868号公報(段落番号0016、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の浚渫底泥の処理方法では、底泥を砂や礫とともに揚泥ポンプで揚泥し、揚泥された底泥にオゾンを接触させ、さらに凝集剤を添加して有機物を除去する。このように、底泥を砂ごと揚泥する浄化法によれば、確実に浄化処理を行なえるが、全体装置が大掛かりとなり処理コストが嵩む。また、処理した後の砂や砂礫、あるいはフロック(固相)を水底へ戻すのに多くの手間とコストが掛かる。
【0008】
特許文献2の浄化装置では、ノズルから噴出した高圧水を砂礫などに噴き付け、分離された汚濁物を下流側のバケットで受け止めて回収ポンプで回収する。そのため、分離された汚濁物の大半が浄化現場の下流側に拡散しやすく、汚濁物を効果的に回収することができない。
【0009】
特許文献3の底質改善方法においては、ヘドロ状の底泥をポンプで揚泥し、揚泥された底泥を液体サイクロン分離装置で砂と、嫌気性の底泥とに分離して、砂を底質へ戻す。そのため、より確実な浄化処理を行なえるが、特許文献1の浄化法と同様に、全体装置が大掛かりとなり処理コストが嵩む。処理した後の砂や砂礫を水底へ戻すのに少なからず手間とコストが掛かる。特許文献4の水中堆積物の処理装置は、ケーシングで囲まれた海底に堆積する貝殻やカキ殻を破砕処理しているにすぎず、ヘドロに代表される有機物を処理できない。
【0010】
本発明の目的は、有機物等を水中で撹拌して浮揚させ、この浮揚物を回収ポンプで回収して浄化処理でき、したがって、底泥を砂とともに揚泥する従来装置に比べて、効率よく、しかもより低コストで有機物を浄化できる底泥浄化装置を提供することにある。
本発明の目的は、全体構造が簡単で導入コストが少なくて済むにもかかわらず、有機物や細粒土を効率良く分離して回収でき、したがって底泥の浄化に要する手間とコストを大幅に削減できる、経済性に優れた底泥浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る底泥浄化装置は、懸吊装置1で吊持される支柱2と、支柱2の下端に固定されるシュラウド3と、シュラウド3より上側の支柱2の周面に配置されて、支柱2に沿って浮揚する有機物および細粒土を回収する回収ポンプ4とを備えている。上下面が開口する筒状のシュラウド3の周囲壁には、加圧された水をシュラウド3内の底泥へ向かって噴出する複数個の第1ノズル15と、加圧された空気を加圧された水とともにシュラウド3内へ噴出する複数個の第2ノズル16とを、所定間隔おきに設ける。第1ノズル15および第2ノズル16は、それぞれの噴出中心軸線P1・P2が支柱2の周回方向に沿って同じ向きに指向されていて、撹拌された底泥をシュラウド3に沿って一方向へ旋回できる。両ノズル15・16による撹拌作用で有機物を含む細粒土と砂と砂礫をシュラウド3内で互いに衝突させて有機物を分離し、分離された有機物および細粒土を、シュラウド3の上面開口から支柱2に沿って空気とともに浮揚させて回収ポンプ4で回収する。なお、支柱2の周回方向とは、図4のようにシュラウド3を平面から見るときの支柱2周りの周回方向を意味しており、時計回転方向である場合と、反時計回転方向である場合とのいずれかであることを意味している。したがって、噴出中心軸線P1・P2が支柱2の周回方向に沿って同じ向きに指向されるとは、図4に示すように、平面から見るときの噴出中心軸線P1・P2が、時計回転方向と反時計回転方向との、いずれか一方に沿って指向させてあることを意味する。
【0012】
シュラウド3の上開口面に、旋回する撹拌流があふれ出るのを規制する複数個の規制翼32を設ける。規制翼32の断面は、撹拌流の旋回上手側から旋回下手側へ向かって下り傾斜させる。
【0013】
シュラウド3の下縁寄りの周壁に第1ノズル15を配置し、第1ノズル15より上側のシュラウド3の周壁に第2ノズル16を配置する。第1ノズル15の噴出中心軸線P1、および第2ノズル16の噴出中心軸線P2のそれぞれを、各ノズル15・16のシュラウド3への固定位置から斜め下向きに設定する。第2ノズル16の噴出中心軸線P2の傾き角度θ2を、第1ノズル15の噴出中心軸線P1の傾き角度θ1より大きく設定する。
【0014】
シュラウド3の内面、シュラウド3で囲まれる支柱2の外面、および規制翼32の下面の少なくとも1個所に、旋回流を撹拌する撹拌翼33を設ける。
【0015】
シュラウド3は、支柱2の周面に放射状に配置した複数個のブラケット10で固定支持する。シュラウド3とブラケット10の重合領域内に規制翼32を配置する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る底泥浄化装置においては、筒状のシュラウド3の周囲壁に第1ノズル15と第2ノズル16を設け、両ノズル15・16から噴出される高圧の水で底泥を掘り起こしながら撹拌し、さらにシュラウド3に沿って旋回させるようにした。底泥を構成する砂、礫、細粒土、有機物は、シュラウド3内を旋回しながら撹拌される間に分離される。撹拌された砂、礫、細粒土、有機物は、やがて支柱2に沿ってシュラウド3の上方へと噴き上げられるが、有機物や有機物を含む細粒土は、砂や礫などに比べて質量が軽いため、空気とともにより上方まで噴き上げられる。しかし、大きくて質量が大きな砂や礫は、噴き上げられる距離に限界があり、自重で水底へと沈降する。その結果、砂および礫と、細粒土および有機物を水中で分級でき、空気とともに浮揚してきた有機物や細粒土を回収ポンプ4で回収して浄化処理できる。
【0017】
上記のように、本発明の底泥浄化装置によれば、浄化処理すべき有機部や有機物を含む細粒土のみを回収ポンプ4で回収できるので、底泥を砂等とともに揚泥する従来装置に比べて、効率よく有機物等を回収でき、しかも浄化装置の運転コストを大幅に削減できる。また、支柱2、シュラウド3、回収ポンプ4と、第1・第2の両ノズル15・16などで浄化装置を構成するので、従来のこの種の装置に比べて全体構造を簡素化して、浄化装置の導入コストを削減できる。さらに、水中で有機物や細粒土を砂や礫から分級するので、有機物や細粒土を効率良く分離して回収でき、したがって底泥の浄化に要する手間とコストを大幅に削減して、全体として経済性に優れた底泥浄化装置を提供できる。底泥をシュラウド3内で撹拌し旋回させる過程では、浄化対象区の砂や砂礫を、第2ノズル16から送給される空気に接触させて曝気し好気化できるので、撹拌後に水底に沈降した砂や砂礫は、浄化対象区の水質を浄化することにも役立つ。
【0018】
シュラウド3の上開口面に規制翼32を設けると、旋回する撹拌流がシュラウド3の上面からあふれ出るのを規制翼32で規制して、有機物や細粒土を砂や礫とともに充分に撹拌して、有機物の分離を促進できる。また、撹拌する過程で、砂、礫、細粒土、および有機物を空気と充分に接触させて、砂や礫を好気化し、あるいは細粒土および有機物の浮揚を促進することができる。したがって、細粒土および有機物と、砂および礫の分離をさらに確実に行なうことができるうえ、浄化後の砂や砂礫による水質の浄化を促進できる。
【0019】
規制翼32の断面を、撹拌流の旋回上手側から旋回下手側へ向かって下り傾斜させると、有機物に比べて質量の大きな砂や礫を規制翼32に衝突させて運動エネルギーを減殺できる。また、砂や礫を旋回方向と交差する向きへ変向案内して、規制翼32の間から噴出させることができる。したがって、砂や礫の噴き上がり高さを充分に抑止して、有機物および細粒土と、砂および礫との分級をさらに確実に行なえる。
【0020】
シュラウド3の下縁寄りに配置した第1ノズル15は、シュラウド3を底泥に沈座させた状態において、底泥を掘り起こして懸濁させる。また、第1ノズル15より上側に配置した第2ノズル16は、掘り起こされた底泥を撹拌し、シュラウド3に沿って旋回させながら空気を供給する。このように、異なる機能の第1ノズル15と第2ノズル16とで、底泥を掘り起こし、撹拌し、旋回させることにより、砂、礫、細粒土、有機物の撹拌と、曝気とを効果的に行なうことができる。
【0021】
斜め下向きに設定した第2ノズル16の噴出中心軸線P2の傾き角度θ2を、第1ノズル15の噴出中心軸線P1の傾き角度θ1より大きく設定すると、両噴出中心軸線P1・P2が上下方向に交差するので、懸濁された状態の底泥と、第2ノズル16から噴出される空気との接触機会を増加できる。したがって、第1ノズル15で掘り起こされた底泥に対して充分な量の空気を接触させて、砂や礫を効果的に曝気することができる。
【0022】
シュラウド3、支柱2、および規制翼32に撹拌翼33を設けると、シュラウド3に沿って旋回する撹拌流の流れを撹拌翼33で邪魔して、撹拌翼33より下流側に渦流を生じさせることができる。この渦流によって流動する水、砂、礫、細粒土、有機物が激しく混ぜ合わされるので、撹拌効果をさらに向上することができる。
【0023】
規制翼32をシュラウド3とブラケット10の重合領域内に配置すると、シュラウド上部に沿って旋回する撹拌流をブラケット10の下縁部分でせき止め、さらにシュラウド3の上面からあふれ出ようとする撹拌流を規制翼32で規制できる。したがって、質量が大きな砂や礫の運動エネルギーをブラケット10および規制翼32でさらに確実に減殺して、砂や礫の噴き上がりを効果的に抑止できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る底泥浄化装置の要部の縦断正面図である。
【図2】底泥浄化装置の全容を示す概略説明図である。
【図3】シュラウドの横断平面図である。
【図4】第1ノズルと第2ノズルの配置形態を示す横断平面図である。
【図5】第1ノズルの縦断面図である。
【図6】図5におけるA−A線断面図である。
【図7】第2ノズルの縦断面図である。
【図8】図7におけるB−B線断面図である。
【図9】底泥浄化装置の変形例を示す縦断面図である。
【図10】底泥浄化装置のさらに別の変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施例) 図1ないし図8は本発明に係る底泥浄化装置の実施例を示している。この実施例では港湾などの海底に沈降するヘドロ状の底泥を浄化する場合について説明する。図2において浄化装置は、クレーンやバックホーなどの懸吊装置1で吊持される支柱2と、支柱2の下端に固定されるシュラウド3と、シュラウド3より上側の支柱2の周面に配置される回収ポンプ4などで構成してある。バックホーなどの建機で懸吊装置1を構成する場合には、後述するノズル15・16の噴出反力を建機で受け止めて、浄化装置が回転するのを阻止できる。懸吊装置1はポンプやコンプレッサーなどとともに船台上に設けてあり、その近傍には回収ポンプ4で回収した有機物や細粒土を濾過するためのろ過装置5が設置してある。浄化装置で撹拌された底泥が浄化対象区の外へ分散し、あるいは流出するのを防ぐために、浄化対象区の周囲はシルトカーテン6で区分してある。
【0026】
支柱2は中空管状に構成してあり、その下端7は先すぼまりテーパー状に尖らせてある。支柱2の周面には、ポンプあるいはコンプレッサーで加圧された海水や空気を、後述するノズル15・16へ送給するための金属管や分岐管が固定してある。これらの配管とポンプおよびコンプレッサーとは、懸吊装置1と支柱2との間に設けた高圧のゴムホース(図示していない)を介して連結してある。回収ポンプ4用の給電線、および回収管なども先の配管と同様にして支柱2の周面に沿って配置してある。
【0027】
図1に示すようにシュラウド3は、上下面が開口する鋼板製の円筒体からなり、先の支柱2の下部に設けた上ブラケット(ブラケット)10と下ブラケット(ブラケット)11に固定されて、支柱2と同心状に支持されている。上ブラケット10は、支柱2の周面に十文字状に配置されており、その下部はシュラウド3の周壁のスリットに差し込まれて、スリットとの内外の交差部分のそれぞれが溶接してある。このように、上ブラケット10の下部はシュラウド3の上開口の内部に敢えて位置させてあり、シュラウド3と上ブラケット10の重合寸法、すなわち、シュラウド3の上開口面から上ブラケット10の下縁までの距離は200mmである。下ブラケット11は十文字状の桟体からなり、支柱2の下端7とシュラウド3の内面壁にそれぞれ溶接してある。上ブラケット10と下ブラケット11の配置位置は周方向へ45度ずらしてある(図3参照)。
【0028】
シュラウド3の周壁の下縁寄りには、加圧された海水をシュラウド3内の底泥へ向かって噴出する4個の第1ノズル15が等間隔おきに設けてある。また、第1ノズル15より上側のシュラウド3の周壁には、加圧された空気を加圧された海水とともにシュラウド3内へ噴出する4個の第2ノズル16が等間隔おきに設けてある。第1ノズル15と第2ノズル16は、図4に示すように平面から見るときの位置が、周方向へずれる状態で配置してある。
【0029】
第1ノズル15の噴出中心軸線P1、および第2ノズル16の噴出中心軸線P2は、それぞれシュラウド3の内部で平面から見て正方形状に交差しており、各噴出中心軸線P1・P2は支柱2の周回方向に沿って同じ向きに指向させてある。この実施例では、各噴出中心軸線P1・P2を反時計回転方向の周回方向に沿って指向させるようにした。各噴出中心軸線P1・P2のそれぞれは、各ノズル15・16のシュラウド3への固定位置から斜め下向きに指向するように設定してある。詳しくは、図5に示すように、噴出中心軸線P1の傾き角度θ1が水平面に対して10度であるのに対し、図7に示すように後者の噴出中心軸線P2の傾き角度θ2は水平面に対して20度に設定してある。図4に示すように、シュラウド3を平面から見るときの、支柱2の中心と各ノズル15・16の取付け中心を結ぶ中心線と、各噴出中心軸線P1・P2とが挟む角度αは、それぞれ同じに設定してあり、この実施例では35度とした。
【0030】
第1ノズル15は、1平方cmあたり120Kgf以上に加圧された海水をシュラウド3内の底泥へ向かって噴出して、底泥、砂、礫を掘り起こし撹拌する。また、第2ノズル16は、1平方cmあたり7Kgfに加圧された空気を、1平方cmあたり30Kgfに加圧された海水に混合してシュラウド3内へ噴出し、第1ノズル15と協同して底泥、砂、礫を撹拌し曝気する。浄化装置を全体として見るとき、全てのノズル15・16の噴出方向は、シュラウド3の周壁に沿って同じ向きに設定してある。したがって、両ノズル15・16から噴出された水流によって撹拌された底泥、砂、礫は、図4に向かってシュラウド3内を反時計回転方向へ旋回する。
【0031】
図5および図6に示すように第1ノズル15は、円柱状のノズルブロック18と、ノズルブロック18の先端のノズル口19に臨んで固定されるノズルピース20とで構成する。筒状のノズル口19の周壁の2個所には、吸引開口21が互いに平行な開口中心線に沿って形成してある。ノズルピース20から高圧の海水が噴出されるとき、ノズル口19の周囲に存在する海水、砂、礫、細粒土、有機物は、吸引開口21から吸い込まれて高圧の海水とともに噴出されるが、図6に示すように吸引開口21が上下互い違い状に配置してあるので、ノズル口19から噴出する随伴噴出流は一方向へねじられた水流となる。したがって、第1ノズル15による撹拌効果を向上できる。第1ノズル15に高圧の海水を供給するポンプを、図2に符号36で示している。
【0032】
図7に示すように、第2ノズル16は、直方体状のノズル本体24と、ノズル本体24に固定される空気導入ブロック25と、これら両者24・25の間に固定されるノズルピース26とを備えている。ノズル本体24には液入口27が形成してあり、空気導入ブロック25には、空気入口28と混合室29とが設けてある。符号30はノズル口である。ノズルピース26から混合室29に噴出される海水の流動作用で、空気入り口28から供給される空気を混合室29内で海水中に混合して、ノズル口30から噴出することができる。このように、加圧された海水中に空気を混合して噴出すると、加圧した空気を単独で噴出す場合に比べて、空気を含む加圧水をより遠くまで貫通させて、底泥を構成する細粒土、砂、礫などに空気を効果的に接触させて好気化できる。第2ノズル16に高圧の海水を供給するポンプを図2に符号36で示し、加圧空気を第2ノズル16に供給するコンプレッサーを図2に符号38で示している。なお、第1ノズル15用のポンプ36、および第2ノズル16用のポンプ37は、それぞれ船台上に設けたタンク39に貯留した海水を加圧して、各ノズル15・16に送給する。タンク39には、ろ過装置5でろ過された後の清浄な海水が貯留してある。
【0033】
上記の両ノズル15・16から大量の海水を噴出することにより、シュラウド3の内部に一方向に旋回する撹拌流が形成されるが、シュラウド3内の撹拌流が上開口面から自由にあふれ出るのを制限するために、12個の規制翼32を放射状に設けている。規制翼32は、シュラウド3と上ブラケット10の重合領域内に配置してあり、支柱2の外周面とシュラウド3の内周面のそれぞれに溶接してある。規制翼32の翼幅は支柱2の側で狭く、シュラウド3に近づくほど広幅に形成してある。また、規制翼32の断面は、旋回する水流の旋回上手側から旋回下手側へ向かって下り傾斜するように傾斜させてある。図3に示すように、周方向に隣接する規制翼32の間には、海水、砂、礫、細粒土、有機物の出口35となる隙間が放射状に形成される。シュラウド3の開口を平面から見るときに、規制翼32がシュラウド3の開口面積に占める投影面積の割合は約半分である。
【0034】
上記のように、規制翼32を旋回上手側から旋回下手側へ向かって下り傾斜させると、旋回水流とともに流動する細粒土、砂、礫などが、シュラウド3の上開口からあふれ出すのを規制して、シュラウド3内における底泥の撹拌を効果的に行なうことができる。とくに、有機物に比べて質量の大きな砂や礫を、規制翼32に衝突させて運動エネルギーを減殺し、さらに旋回方向と交差する向きに変向案内して規制翼32の間の出口35から噴出させることができるので、砂や礫の噴き上がり高さを充分に抑止して、有機物および細粒土と、砂および礫との分級をさらに確実に行なえる。
【0035】
規制翼32のひとつの下面には、撹拌翼33が固定してある。撹拌翼33は帯板状の鋼板からなり、規制翼32の放射方向の中途部に下向きに突出する状態で固定してある。このように撹拌翼33を設けると、シュラウド3内を旋回する細粒土、砂、礫の旋回動作を撹拌翼33で乱して、撹拌翼33より下流側に渦流を発生させて、撹拌作用をさらに向上できる。シュラウド3の内面に位置する上ブラケット10の下部壁も、旋回する水流を受け止めて、撹拌効果を向上することに役立っている。
【0036】
有機物の濃度が高い海水を回収ポンプ4で効果的に回収するために、回収ポンプ4は、その吸込口4aがシュラウド3より上方に(海面側)に位置するように吊り下げてある。回収ポンプ4の吊り下げ高さは、潮位の変化や底泥の状況の違いに応じて変更され、回収ポンプ4から吐出される海水に含まれる有機物の濃度を測定もしくは視認しながら、最も濃度が濃い位置で有機物の回収を行なう。回収ポンプ4に吸い込まれた有機物および海水はろ過装置5へ送給されてろ過処理される。
【0037】
以上のように構成した浄化装置は、図2に示すように、第1・第2のノズル15・16から加圧した海水、および加圧した空気を含む海水を噴出しながら、シュラウド3を底泥に沈座させ、回収ポンプ4を作動させて有機物を海水ごと汲み上げてろ過装置5に送給する。底泥に沈座した状態のシュラウド3の下縁は、底泥表面から約50cmほど底泥内に沈み込んでいる。しかし、浄化処理の進行に伴なって、両ノズル15・16から噴出される高圧の海水によって底泥が徐々に浸食されるので、底泥の浸食作用に追随して支柱2およびシュラウド3をさらに沈降させて、海底基盤にまで沈下させることができる。シュラウド3を底泥に沈座させるとき、あるいは、先のように支柱2およびシュラウド3をさらに沈降させるとき、支柱2の下端7は底泥をテーパー面に沿って押しのけながら掘り起こすことに役立つ。
【0038】
因みに、底泥は、沈降した有機物を主体とする細粒土と、細粒土より粒が大きな砂や礫などの粗粒体で構成されており、粗粒体の表面に付着ないし吸着されている有機物の量は、細粒土に付着ないし吸着されている有機物の量に比べてはるかに少ない。こうした有機物の付着量や吸着量の違いは、細粒土の比表面積(単位重量あたりの表面積)が、粗粒体の比表面積に比べてはるかに大きいことに起因しており、比表面積が大きい分だけ有機物の吸着量がより大量になる。
【0039】
なお、平均的な底泥の全体質量および全体表面積を100%とするとき、細粒土が占める質量の割合は10から15%に過ぎないが、細粒土の比表面積は80〜90%を占めている。したがって、有機物の吸着や付着が表面積に依存していると想定するとき、底泥を構成する細粒土を浄化処理してやると、底泥に含まれる有機物の80〜90%を除去できることになる。本発明の浄化装置は、このことを利用して浄化処理を行なっており、最小限の揚泥を行ないながら、より効果的に有機物、および有機物を含む細粒土を除去できるようにしている。
【0040】
底泥を浄化する過程では、シュラウド3の内部に両ノズル15・16から大量の海水が噴出される。そのため、撹拌された細粒土、砂、礫は、旋回する水流とともにシュラウド3の出口35から支柱2に沿って噴き上がる。このとき、砂や礫に比べて比重が軽い有機物および細粒土は、シュラウド3内に吹き込まれた空気とともにシュラウド3からより遠くまで(海面側)まで噴き上がる。噴き上げられた有機物および細粒土は、先に説明したように回収ポンプ4で海水とともに回収してろ過装置5へ送給される。
【0041】
一方、砂や礫は、質量が大きいため噴き上がる距離に限界があり、その殆どが回収ポンプ4の吸込口4aに到達する以前に自重で沈降する。このように、本発明の浄化装置では、質量が大きな砂や礫を海水中で分級して、有機物や有機物を含む細粒土を効果的に回収ポンプ4で回収できる。したがって、底泥の全てを揚泥する従来の浄化装置に比べて、より少ないコストで有機物や、有機物を含む細粒土を効果的に回収できる。海底に沈降した砂や礫は、シュラウド3内で撹拌される間に、空気に接触して好気化されているので、撹拌後に海底に堆積した状態で、底層水の水質を浄化することに役立つ。
【0042】
一定時間が経過し、あるいはシュラウド3が海底基盤に到達した時点で、支柱2およびシュラウド3の沈座位置を変更し、上記と同様にして底泥を撹拌しながら、シュラウド3から噴き上がる有機物および細粒土を回収ポンプ4で回収してろ過装置5へ送給する。以後、同様の浄化作業を繰り返し行なうことにより、シルトカーテン6で囲まれた領域全体の底泥を除去できる。ろ過装置5には、ろ過された後の有機物と、有機部を含む細粒土が残るが、これらのろ過残渣はろ過装置5から取り出して袋に詰められ、陸上において別途無害化処理される。
【0043】
以上のように、本発明の浄化装置によれば、有機物や有機物を含む細粒土を、シュラウド3の内部で撹拌して砂や礫から分離し、支柱2に沿って噴き上げて、水中で砂および礫を分級できるようにした。また、空気とともに浮揚する有機物や有機物を含む細粒土を回収ポンプ4で回収して浄化処理するので、全ての底泥を揚泥する従来装置に比べて、効率よく、しかもより低コストで底泥を浄化できることになる。また、全体構造が簡単であるので、浄化装置の導入コストが少なくて済むにもかかわらず、底泥を効率良く分離して回収でき、したがって全体として底泥の浄化に要するコストを大幅に削減できる。有機物等の分離を水中で行なうので振動や騒音の発生を抑止でき、より静粛な状態で底泥の浄化を行なうことができる。
【0044】
図9は浄化装置の変形例を示す。そこでは、浄化の対象となる底泥の物理的特性や、底泥に含まれる砂や礫の割合の違いなどに応じて、規制翼32の傾斜角度を変更できるようにした。詳しくは、各規制翼32の内外両端に固定した軸40を支柱2とシュラウド3で回転自在に支持し、支柱2で支持した軸40に傘歯車41を固定した。また、一群の傘歯車40を同時に回転操作するために、支柱2の内部に回転自在なリングギヤ42を設け、これをモーター43の回転動力でギヤ機構を介して回転駆動できるようにした。モーター43の回転動力は、ウォーム44とウォームギヤ45を介して横軸回りの回転動力に変換され、さらに一対の傘歯車46・47で縦軸回りの回転動力に変換されたのち、傘歯車47と同行回転する駆動ギヤ48を介して、リングギヤ42の内歯ギヤ49に伝動される。この駆動機構によれば、モーター43を正転駆動し、あるいは逆転駆動することにより、規制翼32を軸40の回りに上下傾動させて、その傾斜角度を自由に変更できる。なお、回転自在に軸支される規制翼32は、全ての規制翼の半数、3分の一、4分の一など自由に選定できる。
【0045】
図10は浄化装置のさらに別の変形例を示す。そこでは、下すぼまりテーパー状に形成される支柱2の下端7を、シュラウド3の下開口面より下方に突出させるようにした。この浄化装置によれば、シュラウド3が底泥に沈座するのに先行して、支柱2の下端7で底泥を押しのけることができるので、第1ノズル15による底泥の掘り起こしを、さらに効果的に行なうことができる。また、支柱2の下端7で底泥を押しのけながら、支柱2およびシュラウド3を海底基盤へ向かって円滑に沈下させることができる。
【0046】
上記の実施例では、第1ノズル15、および第2ノズル15を、シュラウド3の周囲壁に4個ずつ設けたが、その必要はなく、両ノズル15・16の配置個数はシュラウド3の大きさや、断面形状に応じて必要な配置個数を選択するとよい。必要があれば、シュラウド3の下縁寄りの周壁に第2ノズル16を配置し、第2ノズル16より上側のシュラウド3の周壁に第1ノズル15を配置することができる。
【0047】
規制翼32は放射状に配置する必要はなく、各規制翼32は渦巻状に配置することができる。撹拌翼33は、シュラウド3の内面や、シュラウド3で囲まれる支柱2の外面などに設けることができる。回収ポンプ4の吸込口4aの下方に、噴き上がってきた有機物および細粒土を、吸込口4aへ向かって案内するフードを設けることができる。各ノズル15・16の取付け中心を結ぶ中心線と各噴出中心軸線P1・P2とが挟む角度αは、同じである必要はない。また、4個の第1ノズル15の噴出中心軸線P1の角度αは、個別に異ならせてあってもよい。同様に、4個の第2ノズル16の噴出中心軸線P2の角度αは、個別に異ならせてあってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 懸吊装置
2 支柱
3 シュラウド
4 回収ポンプ
5 ろ過装置
15 第1ノズル
16 第2ノズル
32 規制翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸吊装置(1)で吊持される支柱(2)と、支柱(2)の下端に固定されるシュラウド(3)と、シュラウド(3)より上側の支柱(2)の周面に配置されて、支柱(2)に沿って浮揚する有機物および細粒土を回収する回収ポンプ(4)とを備えており、
上下面が開口する筒状のシュラウド(3)の周囲壁には、加圧された水をシュラウド(3)内の底泥へ向かって噴出する複数個の第1ノズル(15)と、加圧された空気を加圧された水とともにシュラウド(3)内へ噴出する複数個の第2ノズル(16)とが、所定間隔おきに設けられており、
第1ノズル(15)および第2ノズル(16)は、それぞれの噴出中心軸線(P1・P2)が支柱(2)の周回方向に沿って同じ向きに指向されていて、撹拌された底泥をシュラウド(3)に沿って一方向へ旋回でき、
両ノズル(15・16)による撹拌作用で有機物を含む細粒土と砂と砂礫をシュラウド(3)内で互いに衝突させて有機物を分離し、分離された有機物および細粒土を、シュラウド(3)の上面開口から支柱(2)に沿って空気とともに浮揚させて、回収ポンプ(4)で回収することを特徴とする底泥浄化装置。
【請求項2】
シュラウド(3)の上開口面に、旋回する撹拌流があふれ出るのを規制する複数個の規制翼(32)が設けられており、
規制翼(32)の断面が、撹拌流の旋回上手側から旋回下手側へ向かって下り傾斜させてある請求項1に記載の底泥浄化装置。
【請求項3】
シュラウド(3)の下縁寄りの周壁に第1ノズル(15)が配置され、第1ノズル(15)より上側のシュラウド(3)の周壁に第2ノズル(16)が配置されており、
第1ノズル(15)の噴出中心軸線(P1)、および第2ノズル(16)の噴出中心軸線(P2)のそれぞれが、各ノズル(15・16)のシュラウド(3)への固定位置から斜め下向きに設定されており、
第2ノズル(16)の噴出中心軸線(P2)の傾き角度(θ2)が、第1ノズル(15)の噴出中心軸線(P1)の傾き角度(θ1)より大きく設定してある請求項2に記載の底泥浄化装置。
【請求項4】
シュラウド(3)の内面、シュラウド(3)で囲まれる支柱(2)の外面、および規制翼(32)の下面の少なくとも1個所に、旋回流を撹拌する撹拌翼(33)が設けてある請求項2または3に記載の底泥浄化装置。
【請求項5】
シュラウド(3)が、支柱(2)の周面に放射状に配置した複数個のブラケット(10)で固定支持されており、
シュラウド(3)とブラケット(10)の重合領域内に規制翼(32)が配置してある請求項2、3または4に記載の底泥浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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