説明

座ぐりカッタおよび座ぐりカッタ付き孔開け工具

【課題】簡素かつ軽量な構成で回転中の異物の入り込みを防ぎながら、貫通孔の周囲に座ぐりを精度よく形成することのできる座ぐりカッタを提供する。
【解決手段】孔開け工具60の周囲に設けられて、この孔開け工具60により壁板等1に穿設される貫通孔3の周囲にこの貫通孔3の外径よりも大径の座ぐり2を形成する座ぐりカッタ20であって、孔開け工具60の外周面上に固定される複数の工具支持部22と、これらの工具支持部22に固定される座ぐり用刃物24と、工具支持部22同士の間に介在して工具支持部22同士の間に異物が入り込むのを抑止する異物排除部26とを設け、少なくとも一部の工具支持部22にこの工具支持部22を孔開け工具60の外周面上に固定するための固定用ネジ30が挿入可能な固定用貫通孔28を設けるとともに、前記異物排除部26の厚さ寸法を前記工具支持部よりも小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁板等に設けられた貫通孔に座ぐりを形成するための座ぐりカッタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の給水配管等において、給水用のパイプ等を壁板等に貫通させねばならない場合には、前記壁板等に孔を開けこの孔に配管用の継ぎ手部材を挿入し、さらにこの継ぎ手部材の内側にパイプを挿入するといった構造がとられている。例えば、図12に示すように、パイプ4を案内する筒部5bとフランジ部5aとを有する継ぎ手部材5が壁板1に固定され、この筒部5bとフランジ部5aの内側にパイプ4が挿入されるといった構造がとられている。そして、このような配管構造では、前記フランジ5aが壁板1等の表面から突出しないように、前記壁板1に前記筒部5bを貫通させるための貫通孔3とこの貫通孔3より大径の座ぐり2とを設けて、前記フランジ5aを前記座ぐり2内に埋め込むという方法が用いられている。
【0003】
ここで、前記のように壁板1に貫通孔3と座ぐり2とを形成する場合には、孔開け工具によって壁板1に貫通孔3を形成した後、座ぐり工具によってこの貫通孔3の周囲に前記座ぐり2を形成するという方法がとられていた。しかし、この方法では、いちいち孔開け工具と座ぐり工具とを交換して作業を行わねばならないため、作業効率が悪いという問題があった。
【0004】
そこで、近年では、前記貫通孔3と座ぐり2とを壁板1等に一度に形成するために、特許文献1に開示されるような工具が開発されている。
【0005】
この特許文献1には、図13に示すように、回転駆動源と連結されるシャンク540と、このシャンク540に連結される刃物装着部550と、前記貫通孔3を形成するための孔開け工具560と、前記座ぐり2を形成するための座ぐりカッタ520とを有する工具510が開示されている。
【0006】
具体的には、前記刃物装着部550には前記シャンク540の軸方向と垂直な方向に広がる基部550aと、この基部550aから下方に突出するリブ550bと、前記孔開け工具560を固定するための固定用雄ネジ552とが設けられている。また、前記孔開け工具560には、円筒状のボディ560aと、前記固定用雄ネジ552と螺合可能な固定用雌ネジ562とが設けられている。また、前記座ぐりカッタ520には、前記孔開け工具560の円筒状ボディ560aに外嵌可能なリング状本体520aと、径方向内側に突出するフランジ部520bと、径方向外側に突出する工具支持部520cと、座ぐり用刃物524とが設けられている。また、前記座ぐりカッタ520には、前記工具支持部520cを補強するための補強板525が設けられている。
【0007】
この工具510の組立要領は次の通りである。まず、前記刃物装着部550のリブ550bの内側に前記座ぐりカッタ520のリング状本体520aが挿入され、このリング状本体520aの内側に前記孔開け工具560の円筒状ボディ560aが挿入される。その後、前記座ぐりカッタ520のフランジ部520bが前記刃物装着部550の基部550aの下面と前記円筒状ボディ560aの上面との間で挟持された状態で、前記固定用雄ネジ552と前記固定用雌ネジ562とが軸方向に螺合され、これにより前記孔開け工具560の外周面上に前記座ぐりカッタ520が固定される。
【0008】
このような工具510では、前記孔開け工具560によって壁板等に貫通孔が形成されるとともに、前記座ぐりカッタ520によってこの貫通孔の周囲に座ぐりが形成される。
【特許文献1】特開平10−6117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記工具510では、前述のように、座ぐりカッタ520が前記刃物装着部550と前記孔開け工具560との間で挟持されるものなので、次のような課題がある。まず、この刃物装着部550と孔開け工具560とを軸方向に締結しなければならず、その締結作業に手間がかかる。また、座ぐりカッタ520が単に刃物装着部550と孔開け工具560とによって挟持されているだけなので、正確な芯だしが難しい。また、別の課題として、前記座ぐり用刃物524が周方向に間欠的に設けられているので、回転時にこれら座ぐり用刃物524の間に指やその他の異物が入り込むのを防ぐ必要がある。その手段として、前記工具510では、刃物装着部550の基部550aの径を大きくしてこの基部550aが前記座ぐり用刃物524を駆動軸側から覆うような形状にする必要があり、このような形状補正は刃物装着部550の大型化を招いてしまう。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑み、簡素かつ軽量な構成で回転中の異物の入り込みを防ぎながら、貫通孔の周囲に座ぐりを精度よく形成することのできる座ぐりカッタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、円筒状外周面を有する孔開け工具の周囲に設けられて、前記孔開け工具により被加工材に穿設される貫通孔の周囲に当該貫通孔の外径よりも大径の座ぐりを形成する座ぐりカッタであって、前記孔開け工具の外周面の周方向に沿って並ぶ複数の位置で当該外周面上に固定される複数の工具支持部と、これらの工具支持部に固定されて、前記被加工材と接触することにより当該被加工材に前記座ぐりを形成する座ぐり用刃物と、互いに隣接する前記工具支持部同士の間に介在し、当該工具支持部同士の間に異物が入り込むのを抑止する異物排除部とを備え、前記工具支持部のうち少なくとも一部の工具支持部には、この工具支持部を前記孔開け工具の外周面上に固定するための固定用ネジが挿入可能な固定用貫通孔が、この工具支持部を径方向に貫通するように設けられ、前記孔開け工具の軸方向についての前記異物排除部の厚さ寸法が、前記工具支持部の当該軸方向についての厚さ寸法よりも小さいことを特徴とする座ぐりカッタを提供する(請求項1)。
【0012】
このような構成では、前記座ぐり用刃物を有する工具支持部が、その径方向に貫通する固定用貫通孔に挿入される固定用ネジによって前記孔開け工具の外周面上に固定されるので、座ぐりカッタの孔開け工具への取り付け作業およびこの座ぐりカッタの交換作業が直接的に行われることになる。その結果、座ぐりカッタの取付構造および取り付け作業の簡素化、さらには、座ぐりカッタの芯だし精度の向上を図ることができる。
【0013】
また、この座ぐりカッタが、それ自身が前記工具支持部間の異物排除部を有しているので、新たな部材を追加することなく作業中に異物等が誤って前記工具支持部間に進入するのを防ぐことができる。さらに、この異物排除部が、前記孔開け工具の軸方向について前記工具支持部よりも小さい厚さ寸法を有しているので、前記工具支持部に、前記固定用貫通孔の形成及び前記座ぐり用刃物の支持剛性の確保に必要な厚みを与えながら、その間の異物排除部を薄肉にすることで座ぐりカッタを小型化および軽量化することが可能になる。
【0014】
また本発明において、さらに、前記固定用貫通孔に挿入される固定用ネジを備え、前記工具支持部には前記固定用ネジが前記固定用貫通孔から脱落するのを阻止する脱落阻止部が設けられるのが好ましい(請求項2)。
【0015】
このようにすれば、前記工具支持部の交換作業時等に、前記固定用ネジを別途前記固定用貫通孔に取り付ける必要がなくなるとともに、この固定用ネジの紛失を抑制することができるので作業効率を向上することが可能になる。
【0016】
また本発明において、前記座ぐりカッタは、前記工具支持部とその少なくとも一方の側に位置する前記異物排除部とを含む複数の分割ユニットに分割され、これらの分割ユニットにそれぞれ含まれる前記工具支持部毎に前記固定用貫通孔が設けられるのが好ましい(請求項3)。
【0017】
この構造では、各分割ユニットを前記孔開け工具に個別に固定することができるので、例えば特定の工具支持部に設けられた特定の座ぐり用刃物のみが損傷した場合等に、当該工具支持部のみを交換することが可能になる。また、前記孔開け工具の外径に若干の変更があっても、分割ユニット同士の周方向の間隔を変更することで対応することができる。すなわち、この構造によれば、互いに外径の異なる複数種類の孔開け工具に共用可能な座ぐりカッタを提供することが可能になる。
【0018】
また本発明において、前記各分割ユニットは、前記孔開け工具の上端に対して当該孔開け工具の軸方向に当接する当接部を有し、前記工具支持部は、前記当接部が前記孔開け工具の後端に当接する位置でこの孔開け工具に固定されるのが好ましい(請求項4)。
【0019】
このようにすれば、各分割ユニットの前記孔開け工具の軸方向に対する位置決めを容易に行うことができるとともに、各分割ユニットをそれぞれ安定した状態で孔開け工具の外周面上に固定することが可能になる。
【0020】
また、本発明は、円筒状外周面を有するとともに被加工材に貫通孔を穿設する孔開け工具とを備え、当該孔開け工具の外周面に前記固定用ネジと螺合可能な固定用ネジ孔が形成されており、当該固定用ネジと固定用ネジ孔との螺合により、前記座ぐりカッタが、前記被加工材に形成される前記貫通孔の周囲に当該貫通孔の外径よりも大径の座ぐりを形成する位置に固定されることを特徴とする座ぐりカッタ付き孔開け工具を提供する(請求項5)。
【0021】
このようにすれば、前記座ぐりカッタと前記孔開け工具とを一体的に取り扱うことが可能になるので、これらの芯だしおよび駆動源への装着が容易になる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、簡素かつ軽量な構成で異物の入り込みを防ぎながら貫通孔の周囲に座ぐり精度よく形成することのできる座ぐりカッタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る座ぐりカッタの第一の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、本発明に係る座ぐりカッタを有する座ぐりカッタ付き孔開け工具の概略分解図であり、図2は前記座ぐりカッタの概略斜視図であり、図3は前記座ぐりカッタの上面図であり、図4は図3のA−A線断面図である。
【0025】
図1に示すように、前記座ぐりカッタ付き孔開け工具10は、座ぐりカッタ20と、孔開け工具60とを有している。この座ぐりカッタ付き孔開け工具10は、回転駆動源に連結されるシャンク40にドリル50とともに装着される。そして、このシャンク40の回転に伴って回転し、前記孔開け工具60とドリル50とにより壁板等に貫通孔を形成し、前記座ぐりカッタ20により前記貫通孔の周囲に座ぐりを形成する。
【0026】
前記シャンク40は、図示しない回転駆動源に連結されて前記座ぐりカッタ付き孔開け工具10とドリル50とを回転駆動するためのものである。このシャンク40の先端には、前記座ぐりカッタ付き孔開け工具10のうち前記孔開け工具60に設けられた後述するシャンク取り付け用ネジ孔61aと螺合可能な取り付けネジ42が設けられている。そして、この取り付けネジ42と前記シャンク取り付け用ネジ孔61aとの螺合により前記シャンク40に前記座ぐりカッタ付き孔開け工具10が締結され、前記回転駆動源の駆動力がシャンク40を介して前記座ぐりカッタ付き孔開け工具10に伝達される。また、この取り付けネジ42の内側には、前記ドリル50を固定するための図示しないドリル固定部が設けられており、前記ドリル50はこのドリル固定部によりシャンク40に固定される。そしてこの固定により、前記ドリル50に回転駆動源の駆動力がシャンク40を介して伝達される。
【0027】
前記ドリル50は、前記孔開け工具60により壁板等に貫通孔を形成する際にこの貫通孔の中心付近を穿孔するためのものである。このドリル50は、前述のようにシャンク40の内側に設けられたドリル固定部によりこのシャンク40に固定され、前記シャンク40の回転に伴って壁板に押しつけられることでこの壁板に穿孔を行う。
【0028】
前記孔開け工具60は、壁板等に貫通孔を形成するためのものである。この孔開け工具60には、前記シャンク40に固定される基部61と、当該基部61の外周部分から軸方向に延びる筒状の円筒部62とが設けられている。
【0029】
前記円筒部62の先端には、周方向に所定の間隔を置いて複数の貫通孔用刃物64が設けられている。この貫通孔用刃物64は、焼結合金や工具鋼等からなり、円筒部62の内外周面および先端面からそれぞれ突出する形状を有している。そして、シャンク40を介して伝達された回転駆動力に基づきこの貫通孔用刃物64が回転した状態で壁板等に押し付けられることにより、この壁板等に穿孔が行われるようになっている。
【0030】
前記基部61の中央付近には、軸方向に貫通し前記シャンク40の取り付けネジ42と螺合可能なシャンク取り付け用ネジ孔61aが形成されている。そして、前述のように、この孔開け工具60は、前記取り付けネジ42とこのシャンク取り付け用ネジ孔61aとの螺合によりシャンク40に固定され、これにより孔開け工具60がシャンク40とともに回転する。
【0031】
また、この基部61には、図6等に示すように、その外周面の複数の位置に外周面から内側に向けて凹む固定用ネジ孔61bが形成されている。この固定用ネジ孔61bは後述する座ぐりカッタ20をこの基部61の外周面に固定するためのものであり、座ぐりカッタ20に設けられた後述する固定用貫通孔28に挿入される固定用ネジ30が挿入可能な形状を有している。
【0032】
前記座ぐりカッタ20は、前記孔開け工具60により壁板等に形成された貫通孔の周囲にこの貫通孔よりも大径の座ぐりを形成するためのものであり、孔開け工具60の外周面上に固定される。この座ぐりカッタ20には、複数の工具支持部22と、複数の座ぐり用刃物24と、複数の異物排除部26と、固定用ネジ30とが設けられている。本実施形態では、これらの工具支持部22と異物排除部26とは一体に形成されており、座ぐりカッタ20全体は、中心に挿通孔34aを有する略ドーナツ形状を有している。
【0033】
前記工具支持部22は、後述する座ぐり用刃物24をそれぞれ所定の位置に支持するためのものである。本実施形態に係る座ぐりカッタ20では、それぞれ周方向に所定の間隔を置いて3つの工具支持部22が設けられている。
【0034】
各工具支持部22には、この工具支持部22を径方向に貫通し後述する固定用ネジ30が挿入可能な固定用貫通孔28が設けられている。そして、各工具支持部22は、前記固定用ネジ30がこの固定用貫通孔28に螺合しつつ径方向内側に挿入され、この固定用ねじ30が前記孔開け工具60の固定用ネジ孔61bと螺合することで、前記孔開け工具60の外周面上に固定される。このようにして、各工具支持部22は前記孔開け工具60と一体に回転可能となる。
【0035】
前記座ぐり用刃物24は、前記貫通孔用刃物64と同様に焼結合金や工具鋼等からなり、前記工具支持部22の回転時に壁板等に押し付けられることで前記貫通孔の周囲に座ぐりを形成するものである。本実施形態では、これらの座ぐり用刃物24として、図3等に示すように、径方向外側から順に毛引刃24a、外刃24b、中刃24c、内刃24dが設けられている。より具体的には、前記毛引刃24aと外刃24bとは、一つの工具支持部22の周方向両端面にそれぞれ設けられており、前記中刃24cと内刃24dとはそれぞれ別の工具支持部22に設けられている。また、これらの座ぐり用刃物24は、各工具支持部22の前記孔開け工具60の軸方向の端面から当該軸方向に突出するようにして取り付けられている。そして、これら座ぐり用刃物24は、その径方向の位置がいずれも工具支持部22の外周面よりも内側に配置されており、座ぐり深さが所定量になった時点で、これら座ぐり用刃物24の進行が停止するようになっている。
【0036】
前記異物排除部26は、前記座ぐり用刃物24の回転時に座ぐり用刃物24間に指等の異物が入り込むのを抑制するためのものである。この異物排除部26は、前記工具支持部22間を連結するような形状を有しており、工具支持部22が孔開け工具60に固定されることでこの孔開け工具60の外周面上に固定される。また、この異物排除部26は、図4等に示すように、各工具支持部22よりも薄肉であり、座ぐりカッタ20および座ぐりカッタ付き孔開け工具10全体としての軽量化が図られている。
【0037】
前記固定用ネジ30は、前述のように、工具支持部22ひいては座ぐりカッタ20を孔開け工具60の外周面上に固定するためのものである。この固定用ネジ30は、前記工具支持部22に形成された固定用貫通孔28に挿入可能な形状を有しており、その外周面には雄ネジ部30bが設けられている。また、この固定用ネジ30の一方の先端部には所定の六角レンチと嵌合可能な六角孔30aが設けられている。そして、この固定用ネジ30は、前記六角孔30aに嵌合された六角レンチの操作に基づき、前記固定用貫通孔28を径方向内側に移動し、他方の先端部で前記孔開け工具60に設けられた固定用ネジ孔61bと螺合して、座ぐりカッタ20を孔開け工具60の外周面に固定する。
【0038】
また、前記座ぐりカッタ20には、前記異物排除部26の内周面および前記工具支持部22の内周面にそれぞれ連結される当接部34が設けられている。この当接部34は、前記異物排除部26および工具支持部22の孔開け工具60の軸方向に対する位置決めを行うものである。すなわち、この当接部34は、図5および図6等に示すように、前記孔開け工具60の基部61の上端面に当接することで、前記工具支持部22等の位置を決定するとともに、これら工具支持部22等を安定して支持している。ここで、この当接部34は、前記異物排除部26よりも薄肉の部材で、その中央に前記シャンク40を挿通可能な挿通孔34aを有している。
【0039】
次に、以上の構成要素の組み付け方法について説明する。
【0040】
まず、前記座ぐりカッタ20を前記孔開け工具60の外周面上に固定する。具体的には、固定用ネジ30を前記固定用貫通孔28にそれぞれ挿入する。そして、前記座ぐりカッタ20の各工具支持部22および異物排除部26で囲まれた部分に孔開け工具60の基部61を、その端面が前記当接部34と当接するまで挿入する。そして、前記固定用ネジ30を、六角レンチの操作等により、その先端部分が前記孔開け工具60に設けられた固定用ネジ孔61bの底壁と当接するまで、この固定用ネジ孔61bに螺合させつつ径方向内側に移動させていく。
【0041】
ここで、前記固定用ネジ30の固定用貫通孔28への挿入は、孔開け工具60と座ぐりカッタ20の当接部34とを当接させた後でもよい。
【0042】
以上のようにして孔開け工具60と座ぐりカッタ20とを一体化した後、前記座ぐりカッタ20の当接部34の挿通孔34aを通じてシャンク40を前記孔開け工具60のシャンク取り付け用ネジ孔61aに螺合し、このシャンク40と孔開け工具60および座ぐりカッタ20とを締結する。その後、前記ドリル50を前記シャンク40のドリル固定部に固定する。
【0043】
このようにして組み立てられた座ぐりカッタ付き孔開け工具10は、前記シャンク40に回転駆動源が連結されることで、回転駆動し前記ドリル50で壁板に芯だしを行いつつ、前記孔開け工具60により貫通孔を形成する。そして、当該貫通孔が所定の深さまで形成された時点で、前記座ぐりカッタ20によりこの貫通孔の周囲に座ぐりを形成していく。
【0044】
次に、本発明に係る座ぐりカッタの第二の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0045】
図7は、この第二の実施形態に係る座ぐりカッタを有する座ぐりカッタ付き孔開け工具の分解側面図であり、図8は前記座ぐりカッタの上面図であり、図9はこの座ぐりカッタの孔開け工具への取り付け状態を示す部分拡大断面図である。ここで、前記第一の実施形態と同様の構造を有するものについては第一の実施形態と同様の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0046】
本実施形態における座ぐりカッタ120には、前記第一の実施形態と同様に、複数の工具支持部122と複数の座ぐり用刃物124と複数の異物排除部126と固定用ネジ130とが設けられている。しかしながら、本実施形態では、この座ぐりカッタ120が、前記工具支持部122と前記異物排除部126とをそれぞれ一つずつ含む3つの分割ユニットから構成されている。具体的には、毛引刃24aと外刃24bとを支持する工具支持部122とこの工具支持部122に連結される異物排除部126とを有する第一分割ユニット120aと、前記中刃24cを支持する工具支持部122とこの工具支持部122に連結される異物排除部126とを有する第二分割ユニット120bと、前記内刃24dを支持する工具支持部122とこの工具支持部122に連結される異物排除部126とを有する第三分割ユニット120cとから構成されている。
【0047】
これらの各分割ユニット120a〜120cは、例えば図10に示すように、孔開け工具160に取り付けられた状態で、互いに所定量離間するような形状を有している。これら分割ユニット120a〜120cは、例えば、前記第一の実施形態のドーナツ状を有する座ぐりカッタ20を3つに分割し、各分割体の周方向両端面を所定量切削することで製造することができる。ここで、前記各分割体の切削量、すなわち、前記分割ユニット120a〜120c同士の離間量は、指等の異物がこの分割ユニット120a〜120c間の隙間から座ぐり刃物24側に進入しないような量である。
【0048】
前記分割ユニット120a〜120cは、各工具支持部122と異物排除部126とに連結される当接部134を有している。この当接部134は、それぞれ孔開け工具160の上端面と当接することで、各分割ユニット120a〜120cを安定してこの孔開け工具160の外周面上に支持する。
【0049】
また、各分割ユニット120a〜120cに含まれる工具支持部122には、それぞれ後述する固定用ネジ130を挿入可能な固定用貫通孔128が形成されている。この固定用貫通孔128は、図9等に示すように、径方向外側に設けられた第一貫通孔128aと、この第一貫通孔128aに連通するとともにこの第一貫通孔128aよりも小径の第二貫通孔128bとからなる。そして、前記第一貫通孔128aの径方向外側端には、後述する固定用ネジ130が径方向外側へ脱落するのを防止する脱落阻止部128cが設けられている。この脱落阻止部128cは、この固定用貫通孔128に固定用ネジ130が挿入された後で前記第一貫通孔128aの開口部がかしめられることにより形成することができる。そして、この脱落阻止部128cで囲まれた部分の孔径は前記固定用ネジ130の外径よりも小さく、これにより一旦固定用貫通孔128に挿入された固定用ネジ130が径方向外側に脱落できないようになっている。
【0050】
前記固定用貫通孔128に挿入される固定用ネジ130は、先端に六角孔が形成された頭部130aと、この頭部130aよりも小径の雄ネジ部130bとを有している。前記頭部130aは前記第二貫通孔128bの孔径および前記脱落阻止部128cで囲まれた部分の孔径よりも大径で、かつ、前記第一貫通孔128aよりも小径である。従って、第一貫通孔128aに挿入された後、前記脱落阻止部128cが形成されることで、この第一貫通孔128aから外方に移動不可となる。前記雄ネジ部130bは、後述する孔開け工具160に設けられた固定用ネジ孔161bと螺合可能なネジである。そして、この雄ネジ部130bは、前記頭部130aが六角レンチ等で操作されることで、前記固定用ネジ孔161bと螺合しつつ径方向内側に移動していき、前記分割ユニット120a〜120cを前記孔開け工具160の外周面上に固定する。
【0051】
前記孔開け工具160は、前記第一の実施形態と同様に基部161と、円筒部162とを有している。この基部161には、前記のように固定用ネジ130と螺合可能な固定用ネジ孔161bが設けられている。そして、前述のように、この固定用ネジ孔161bと各分割ユニット120a〜120cに設けられた固定用ネジ130とが締結することで、これらの分割ユニット120a〜120cが孔開け工具160の外周面上に固定される。
【0052】
ここで、前記分割ユニット120a〜120cのうち前記孔開け工具160の外周面と当接する前記工具支持部122の内周面および異物排除部126の内周面の内径は、基本的に前記孔開け工具160の外径と等しく、各分割ユニット120a〜120cの内周面が孔開け工具160の外周に沿うように構成されている。しかし、これら分割ユニット120a〜120cはそれぞれ分離しているので、各内径と前記孔開け工具160の外径との間に若干のずれがあっても、孔開け工具160の外周面上に固定することが可能である。すなわち、この実施形態では、1種類の座ぐりカッタ120を複数種類の孔開け工具160に固定することが可能となる。
【0053】
例えば、前記孔開け工具160の外周面に当接する前記工具支持部122の内周面および異物排除部126の内周面の径が35mmである分割ユニット120a〜120cからなる座ぐりカッタ120と、この35mmよりも小さい32mmの外径を有する孔開け工具160とを用いた場合であっても、図11に示すように、各分割ユニット120a〜120cを孔開け工具160の外周面上に固定することができる。ここで、このように径の小さい孔開け工具160に固定した場合には、図10に示すような前記孔開け工具160の外周面の径と前記分割ユニット120a〜120cの内周面の径とが一致している場合に比べて、各分割ユニット120a〜120cと孔開け工具160の外周面との間に若干の隙間が生じることになるが、その分、分割ユニット120a〜120c同士の隙間が僅かに減少することになる。
【0054】
一方、座ぐりカッタ120を前記内周面の径よりも大きい外径を有する孔開け工具160に固定した場合には、分割ユニット120a〜120c間の隙間が増加する。そして、この隙間が所定量まで増加すると、この隙間から異物が進入する可能性が生じてくる。従って、この座ぐりカッタ120を取り付ける孔開け工具160としては、分割ユニット120a〜120cを固定した際のこれら分割ユニット120a〜120c同士の隙間が指等が進入可能な大きさよりも小さくなるような外径を有するものを用いるのが好ましい。
【0055】
以上のように、本座ぐりカッタによれば、前記座ぐり用刃物24を有する工具支持部22,122が、その径方向に貫通する固定用貫通孔28,128に挿入される固定用ネジ30,130によって前記孔開け工具60,160の外周面上に固定されるので、座ぐりカッタ20,120の孔開け工具60,160への取り付け作業およびこの座ぐりカッタ20,120の交換作業が直接的に行われることになる。その結果、座ぐりカッタ20,120の取付構造および取り付け作業の簡素化、さらには、座ぐりカッタ20,120の芯だし精度の向上を図ることができる。
【0056】
また、この座ぐりカッタ20,120に、前記工具支持部22,122に連結される異物排除部26,126が設けられているので、新たな部材を追加することなく作業中に指等の異物が誤って前記工具支持部22,122間に進入するのを防ぐことができる。さらに、この異物排除部26,126が、前記孔開け工具60,160の軸方向について前記工具支持部22,122よりも小さい厚さ寸法を有しているので、前記工具支持部22,122に、前記固定用貫通孔28,128の形成及び前記座ぐり用刃物24の支持剛性の確保に必要な厚みを与えながら、座ぐりカッタ20,120を小型化および軽量化することが可能になる。
【0057】
また、前記第二の実施形態のように、座ぐりカッタ120に、固定用貫通孔128から固定用ネジ130が脱落するのを阻止する脱落阻止部128cを設けておけば、座ぐりカッタ120の交換時等に固定用ネジ130が紛失してしまうのを抑制することができるので、作業効率が向上する。
【0058】
また、前記第二の実施形態のように、座ぐりカッタ120を、工具支持部122および異物排除部126とを含む複数の分割ユニット120a〜120cに分割し、これらの分割ユニット120a〜120cの工具支持部122にそれぞれ固定用貫通孔128を設けるようにすれば、分割ユニット120a〜120c毎に交換を行うことができるとともに、座ぐりカッタ120を互いに外径の異なる複数種類の孔開け工具160に共用することができる。
【0059】
また、前記のように座ぐりカッタ120に、孔開け工具160の上端に対して孔開け工具160の軸方向に当接する当接部134を設け、工具支持部122が、この当接部134と孔開け工具160の後端とが当接する位置で孔開け工具160に固定されるように構成すれば、各分割ユニット120a〜120cの孔開け工具160の軸方向に対する位置決めを容易に行うことができるとともに、各分割ユニと120a〜120cを安定した状態で固定することが可能になる。
【0060】
ここで、前記第一の実施形態において、前記固定用貫通孔28が全ての工具支持部22に設けられた場合について示したが、この固定用貫通孔28は少なくとも一つの工具支持部22に設けられていればよい。
【0061】
また、前記第二の実施形態において、座ぐりカッタ120が、工具支持部122と異物排除部124とをそれぞれ一つずつ有する分割ユニット120a〜120に分割された場合について示したが、分割ユニットが、工具支持部122の両側にそれぞれ一つずつ異物排除部124を有するように分割されてもよい。また、複数の工具支持部122を有するように分割されてもよい。
【0062】
また、前記当接部134が工具支持部122と異物排除部126とにそれぞれ連結されている場合について示したが、この当接部134は、前記孔開け工具160の上端に当接して、座ぐりカッタ120が孔開け工具の所定位置に固定されるよう構成されたものであればよい。
【0063】
また、前記脱落阻止部の形状は前記に限らず、前記固定用ネジが固定用貫通孔から脱落するのを阻止できるものであればよい。
【0064】
ここで、前記工具支持部、異物排除部、座ぐり用刃物の数および座ぐりカッタの分割数は前記に限らない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る座ぐりカッタを有する座ぐりカッタ付き孔開け工具の分解側面図である。
【図2】図1に示す座ぐりカッタの概略斜視図である。
【図3】図1に示す座ぐりカッタの上面図である。
【図4】図3のA−A線断面図である。
【図5】図1に示す座ぐりカッタが孔開け工具に取り付けられた状態を示す部分断面図である。
【図6】図5の部分拡大図である。
【図7】本発明に係る他の実施形態の座ぐりカッタを有する座ぐりカッタ付き孔開け工具の分解側面図である。
【図8】図7に示す座ぐりカッタの上面図である。
【図9】図7に示す座ぐりカッタが孔開け工具に取り付けられた状態を示す部分拡大断面図である。
【図10】図9に示す状態を図9と垂直な方向から見た断面図である。
【図11】図7に示す座ぐりカッタが図10に示す孔開け工具と外径の異なる他の孔開け工具に取り付けられた状態を示す部分断面図である。
【図12】座ぐりカッタ付き孔開け工具の用途を説明するための貫通孔と座ぐりとが形成された壁板の例を示す断面図である。
【図13】従来の座ぐりカッタを有する座ぐりカッタ付き孔開け工具の分解斜視図である。
【符号の説明】
【0066】
1 壁板
2 座ぐり
3 貫通孔
10 座ぐりカッタ付き孔開け工具
20 座ぐりカッタ
22 工具支持部
24 座ぐり用刃物
26 異物排除部
28 固定用貫通孔
30 固定用ネジ
34 当接部
40 シャンク
50 ドリル
60 孔開け工具
61 基部
62 円筒部
64 貫通孔用刃物
110 他の実施形態に係る座ぐりカッタ付き孔開け工具
120 座ぐりカッタ
122 工具支持部
124 座ぐり用刃物
126 異物排除部
128 固定用貫通孔
128c 脱落阻止部
130 固定用ネジ
134 当接部
160 孔開け工具
161 基部
161b 固定用ネジ孔
162 円筒部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状外周面を有する孔開け工具の周囲に設けられて、前記孔開け工具により被加工材に穿設される貫通孔の周囲に当該貫通孔の外径よりも大径の座ぐりを形成する座ぐりカッタであって、
前記孔開け工具の外周面の周方向に沿って並ぶ複数の位置で当該外周面上に固定される複数の工具支持部と、
これらの工具支持部に固定されて、前記被加工材と接触することにより当該被加工材に前記座ぐりを形成する座ぐり用刃物と、
互いに隣接する前記工具支持部同士の間に介在し、当該工具支持部同士の間に異物が入り込むのを抑止する異物排除部とを備え、
前記工具支持部のうち少なくとも一部の工具支持部には、この工具支持部を前記孔開け工具の外周面上に固定するための固定用ネジが挿入可能な固定用貫通孔が、この工具支持部を径方向に貫通するように設けられ、
前記孔開け工具の軸方向についての前記異物排除部の厚さ寸法が、前記工具支持部の当該軸方向についての厚さ寸法よりも小さいことを特徴とする座ぐりカッタ。
【請求項2】
請求項1に記載の座ぐりカッタにおいて、
さらに、前記固定用貫通孔に挿入される固定用ネジを備え、
前記工具支持部には、前記固定用ネジが前記固定用貫通孔から脱落するのを阻止する脱落阻止部が設けられることを特徴とする座ぐりカッタ。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の座ぐりカッタにおいて、
前記座ぐりカッタは、前記工具支持部とその少なくとも一方の側に位置する前記異物排除部とを含む複数の分割ユニットに分割され、
これらの分割ユニットにそれぞれ含まれる前記工具支持部毎に前記固定用貫通孔が設けられることを特徴とする座ぐりカッタ。
【請求項4】
請求項3に記載の座ぐりカッタにおいて、
前記各分割ユニットは、前記孔開け工具の上端に対して当該孔開け工具の軸方向に当接する当接部を有し、
前記工具支持部は、前記当接部が前記孔開け工具の上端に当接する位置でこの孔開け工具に固定されることを特徴とする座ぐりカッタ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の座ぐりカッタと、
円筒状外周面を有するとともに被加工材に貫通孔を穿設する孔開け工具とを備え、
当該孔開け工具の外周面上の周方向に並ぶ複数の位置に前記固定用ネジと螺合可能な固定用ネジ孔が形成されており、
当該固定用ネジと固定用ネジ孔との螺合により、前記座ぐりカッタが、前記被加工材に形成される前記貫通孔の周囲に当該貫通孔の外径よりも大径の座ぐりを形成する位置に固定されることを特徴とする座ぐりカッタ付き孔開け工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−161990(P2008−161990A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355707(P2006−355707)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(391007518)株式会社ハウスビーエム (7)
【Fターム(参考)】