座屈型位相配列アクチュエータ
ハーモニック座屈型アクチュエータは、回転レール/歯車に係合した多くの座屈装置から成る。各座屈装置は、2つの入力並進運動アクチュエータを備える。各入力アクチュエータの一端は、共通接地に堅く取り付けられた回転接合部の周りを回転するように強いられる。各入力アクチュエータの他端は、座屈装置の出力である別の回転接合部を介して単一の出力軸に沿って同じ座屈装置の他のアクチュエータとともに移動するように強いられる。各座屈装置の駆動されていない、自然な状態での構成では、入力アクチュエータは、装置の接地された回転接合部同士を結ぶ線分と略同一線上にある。この線分は、レール/歯車の出力軸と平行である。座屈装置は、その出力が、林立するレール/歯車内で空間的に位相が制御されるように、レール/歯車の周囲に配置される。座屈装置の調和的な駆動により、レール/歯車上のその出力軸の周囲にトルクが生成される。レール/歯車の中空部は、遊星歯車箱、サイクロ駆動装置またはハーモニック駆動装置などの歯車減速機を囲む。レール/歯車は、減速機の低速軸に接続している。座屈装置の支持部は、互いに、及び、減速機の歯車箱に堅く接続している。高速軸は、ハーモニック座屈型アクチュエータ全体の出力軸である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2009年11月10日付申請の米国仮特許出願61/259,873の利益を主張し、その開示内容の全てを、ここに、本願の一部として援用する。
【0002】
本発明は、一般的に、電気機械アクチュエータに関し、特に、圧電変位機構に関する。
【背景技術】
【0003】
圧電アクチュエータは、あらゆる先進の機械式アクチュエータの最も期待できる特性のいくつかを保持している。例えば、MHz範囲の周波数で動作可能であり、その著しい作動応力により、油圧アクチュエータに匹敵する最大出力密度(Wm−3)を有する。その効率範囲は、0.90から0.99に及び、他のあらゆるアクチュエータ材料を優に上回る。圧電アクチュエータの最も著しい欠点は、生成可能な変位/歪みである。長さ20mmに積み重ねられたチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの高歪み圧電アクチュエータは、約0.1%の一般的な作動歪みによって、たった20μmしか自発的に変位しない。
【0004】
このような変位は、ロボットシステムなどの広範な用途には、概して実用的ではない。そこで、圧電アクチュエータが生成する歪みを増幅する重要な研究が始まっている。圧電アクチュエータが生成する歪みを増幅する手段には、バイモルフ及びユニモルフ曲がり梁アクチュエータ、周波数を利用した「インチワーム(inchworm)」アクチュエータ及びフレクステンショナル歪み増幅機構がある。従来のフレクステンショナルアクチュエータは、ひし形または楕円形の機構を利用し、圧電アクチュエータが、長径の2つの隅を押し付けることで短径に沿った変位を引き起こす。しかし、インチワームまたは反復運動機構を除いて、これらの歪み増幅技術は、限られた変位しか生成しない。多段増幅を用いない限り、出力変位は、一般的に、1mm未満であり、ほとんどのロボット用途には短すぎる。
【0005】
一方、構造力学の非線形性、座屈及び特異現象を用いることにより、単段において、1桁分大きな有効歪み増幅を生成することができる。機構及び構造力学において発生する非線形性は、一般的に、寄生性質と考えられてきた。歪み増幅機構は、出力が、入力されたアクチュエータの力及び変位の略一次関数を保つように設計されてきた。
【0006】
従来の機構において、アクチュエータは、単に荷重を移動させることにより機械的作用を生成する構成要素である。また、従来の機構は、単なる一方向のエネルギー変換器であり、例えば、機械的エネルギーを電気エネルギーに戻す逆の過程である、電力再生や環境発電を利用していない。従来の歯車減速機は、最適に荷重に調整されるが、必ずしも電力再生や環境発電に有効ではない。インピーダンス整合は、順方向の動力伝達と逆方向の動力伝達とで別々に定義されなければならない。歯車装置及び伝達機構における摩擦は、利用可能な動力のかなりの割合を消費することが多い。アクチュエータは、逆駆動可能ではないかもしれない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
逆駆動可能であることは、特に、物理的に人とやりとりする部類の機械にとって重要な要件である。これらの機械は、リハビリテーション訓練機械、移動補助具や身に付けるロボット(パワースーツ)を含む。これらの機械の多くは、現代先進工業国における人口の変化により、成長産業を創出している。アクチュエータは、人を移動させるだけではなく、人に適合し、安全かつ効果的に人を誘導する必要がある。この必要性を満たすため、アクチュエータは、双方向かつ相互作用的である必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様によれば、変位増幅装置は、複数の座屈型アクチュエータ部を備え、複数の座屈型アクチュエータ部を非同期的に駆動することにより、変位方向を制御する。座屈型アクチュエータ部はそれぞれ、第1及び第2線形入力アクチュエータと、第1線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第1回転接合部と、第2線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第2回転接合部と、第1及び第2線形入力アクチュエータのそれぞれの他端を互いに接合する第3回転接合部とを備える。第3回転接合部は、第3回転接合部が第1及び第2回転接合部によって規定される線上に位置する状態をゼロ変位として、第1及び第2回転接合部によって規定される線を越えていずれの方向にも変位するように接合され、配置される。複数の座屈型アクチュエータ部の第1座屈型アクチュエータ部と第2座屈型アクチュエータ部とを接合する第3回転接合部は、自由に同一平面上を移動することができ、互いに機械的に接合される。
【0009】
一実施形態において、複数の座屈型アクチュエータ部の第1座屈型アクチュエータ部を駆動することにより、複数の座屈型アクチュエータ部の第2座屈型アクチュエータ部が、第2座屈型アクチュエータ部のゼロ変位点の一方の側から他方の側に移動させられる。
【0010】
一実施形態において、第1座屈型アクチュエータ部と第2座屈型アクチュエータ部とは、空間的に位相がずれている。
【0011】
一実施形態において、第1及び第2座屈型アクチュエータ部の第1及び第2線形入力アクチュエータは、非アクティブ状態において、それぞれ、第1及び第2座屈型アクチュエータ部の第1及び第2回転接合部によって規定される線に対して非ゼロ角度である。
【0012】
一実施形態において、第1座屈型アクチュエータ部と第2座屈型アクチュエータ部とを接合する第3回転接合部は、第1及び第2座屈型アクチュエータ部の第1及び第2回転接合部によって規定される線に対し、両方とも内側にあるか、または、両方とも外側にある。
【0013】
一実施形態において、第1及び第2座屈型アクチュエータ部の第1及び第2回転接合部によって規定される線は、平行である。
【0014】
一実施形態において、第1及び第2座屈型アクチュエータ部のそれぞれの出力変位軸は同一線上にある。
【0015】
一実施形態において、第1及び第2座屈型アクチュエータ部は、略同一である。
【0016】
一実施形態において、第1及び第2座屈型アクチュエータ部のそれぞれにおいて、第3回転接合部と、第1及び第2回転接合部によって規定される線との間の、非アクティブで自然な状態での最小距離は、等しい。
【0017】
一実施形態において、第1及び第2線形入力アクチュエータは、圧電アクチュエータである。
【0018】
本発明の別の態様によれば、変位増幅装置は、複数の座屈型アクチュエータ部を備え、複数の座屈型アクチュエータ部を非同期的に駆動することにより、変位方向を制御する。座屈型アクチュエータ部はそれぞれ、第1及び第2線形入力アクチュエータと、第1線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第1回転接合部と、第2線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第2回転接合部と、第1及び第2線形入力アクチュエータのそれぞれの他端を互いに接合する第3回転接合部とを備える。第3回転接合部は、第1及び第2回転接合部によって規定される線を越えていずれの方向にも座屈するように接合され、配置される。複数の座屈型アクチュエータ部は、レールに係合され、調和的に駆動されてレール上に合力を生成する。
【0019】
一実施形態において、レールは歯車形状であり、座屈型アクチュエータ部によって生成された力がトルク出力を生成する。別の実施形態において、歯車形状のレールは、歯車減速機の低速軸に接合している。
【0020】
一実施形態において、歯車減速機の歯車箱は、個々の座屈型アクチュエータ部が共有する共通接地に堅く接合している。別の実施形態において、歯車減速機は、歯車形状のレールに囲まれている。
【0021】
一実施形態において、複数の座屈型アクチュエータ部は、レールに沿って等間隔で配置される。
【0022】
一実施形態において、第1及び第2線形入力アクチュエータは、圧電アクチュエータである。
【0023】
本発明の別の形態によれば、変位増幅装置の変位方向を制御する方法は、複数の座屈型アクチュエータ部を備え、複数の座屈型アクチュエータ部のうち第1座屈型アクチュエータ部を駆動して、複数の座屈型アクチュエータ部のうち第2座屈型アクチュエータ部を第2座屈型アクチュエータ部のゼロ変位点の一方の側から他方の側に移動させ、第2座屈型アクチュエータ部を駆動して、第1及び第2座屈型アクチュエータ部の変位の大きさを増加させることを含む。
【0024】
一実施形態において、複数の座屈型アクチュエータ部はそれぞれ、第1及び第2線形入力アクチュエータと、第1線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第1回転接合部と、第2線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第2回転接合部と、第1及び第2線形入力アクチュエータのそれぞれの他端を互いに接合する第3回転接合部とを備える。別の実施形態において、第1座屈型アクチュエータと第2座屈型アクチュエータとを接合する第3回転接合部は、自由に同一平面上を移動することができ、互いに機械的に接合される。別の実施形態において、第1及び第2座屈型アクチュエータ部が非アクティブである場合、第1及び第2座屈型アクチュエータ部の第1及び第2線形入力アクチュエータは、それぞれ、第1及び第2座屈型アクチュエータ部の第1及び第2回転接合部によって規定される線に対してある角度をなす。
【0025】
本発明の別の態様によれば、変位増幅装置は、駆動されると第1方向に変位する傾向にある第1座屈型アクチュエータ部と、駆動されると第2方向に変位する傾向にある第2座屈型アクチュエータ部とを備える。第1及び第2座屈型アクチュエータ部を非同期的に駆動することにより、座屈方向を制御し、第1及び第2座屈型アクチュエータ部のうち一方が、第1及び第2アクチュエータ部の他方によってゼロ変位点を越えさせられる。
【0026】
一実施形態において、第1及び第2座屈型アクチュエータ部はそれぞれ、第1及び第2線形入力アクチュエータと、第1線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第1回転接合部と、第2線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第2回転接合部と、第1及び第2線形入力アクチュエータのそれぞれの他端を互いに接合する第3回転接合部とを備える。
【0027】
別の実施形態において、第1及び第2線形入力アクチュエータは、圧電アクチュエータである。
【0028】
本発明の発明概念の前述及び他の実施形態の目的、特徴及び利点は、異なる図において同様の参照文字が同様の構成要素を示す添付の図面に示されるように、実施形態例のより詳細な記載から明らかになるだろう。図面は必ずしも一定の縮尺ではなく、実施形態例の原理の説明を強調している。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1A】アクチュエータスタック配置の概略図である。
【図1B】本発明の発明概念の実施形態例に関わる座屈型圧電アクチュエータ部の概略図である。
【図1C】図1A及び図1Bの増幅度を示すグラフである。
【図2A】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、歪みが大きな非線形座屈型圧電アクチュエータ部の概略図である。
【図2B】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、歪みが大きな非線形座屈型圧電アクチュエータ部の概略図である。
【図3A】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、単一対座屈型アクチュエータの概略図である。
【図3B】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、二対座屈型アクチュエータの概略図である。
【図3C】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、二対座屈型アクチュエータの試作品を示す。
【図4A(1)】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、ハーモニック座屈型アクチュエータの座屈型アクチュエータ部の概略図である。
【図4A(2)】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、ハーモニック座屈型アクチュエータの断面図である。
【図4B】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、ハーモニック座屈型アクチュエータの斜視図である。
【図5A】特異点(y=0)におけるPZT座屈機構の静的モデルである。
【図5B】有限変位(y≠0)におけるPZT座屈機構の静的モデルである。
【図6】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、最大限及び半分の駆動レベル時の剛性及び力を示すグラフである。
【図7A】特異点(y=0)におけるPZT座屈機構の静的モデルである。
【図7B】有限変位(y≠0)におけるPZT座屈機構の静的モデルである。
【図8】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、最大限及び半分の駆動レベル時の剛性及び力を示すグラフである。
【図9A】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、空間的に同相の二対座屈型アクチュエータの概略図である。
【図9B】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、空間的に位相がずれた二対座屈型アクチュエータの概略図である。
【図10A】上向きの自由変位を示す二対位相シフト型座屈アクチュエータの非同期駆動時間系列を示す。
【図10B】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、下向きの自由変位を示す二対位相シフト型座屈アクチュエータの非同期駆動時間系列を示す。
【図11A】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、両方の座屈型アクチュエータ部が非アクティブである場合の二対位相不一致アクチュエータの位置エネルギー対変位のグラフである。
【図11B】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、左側の座屈型アクチュエータ部がアクティブである場合の二対位相不一致アクチュエータの位置エネルギー対変位のグラフである。
【図11C】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、両方の座屈型アクチュエータ部がアクティブである場合の二対位相不一致アクチュエータの位置エネルギー対変位のグラフである。
【図12A】連続的な並進運動を生成するのに用いられる多対線形アクチュエータの概略図である。
【図12B】上下に移動可能な出力節点として連続的な並進運動を生成するのに用いられる、多対座屈型アクチュエータの単一座屈型アクチュエータ部の概略図である。
【図12C】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、水平移動しかできないレール内で上下に移動する図12Bの多対座屈型アクチュエータの各アクチュエータ部の出力のプロットである。
【図13】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、多対並進座屈型アクチュエータの1周期の力変位を示すグラフである。
【図14】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、歯車と係合したPZT座屈型アクチュエータ部の配列の概略図である。
【図15A】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、連続運動する多対座屈型アクチュエータの並進レールの概略図である。
【図15B】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、連続運動する多対座屈型アクチュエータの回転レールの概略図である。
【図16】多対位相シフト型回転座屈アクチュエータの斜視図である。
【図17】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、回転の全周期を通じた回転座屈型アクチュエータ部の出力性能を示すグラフである。
【図18】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、ハーモニックアクチュエータの断面図を示す。
【図19A】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、高出力密度のハーモニックPZTアクチュエータの断面及び斜視図である。
【図19B】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、高出力密度のハーモニックPZTアクチュエータの断面及び斜視図である。
【図19C】図19A及び19Bの高出力密度のハーモニックPZTアクチュエータの内側の中空歯車軸の断面及び斜視図である。
【図19D】PZT座屈型アクチュエータ部が埋め込まれた、図19A及び19Bの高出力密度のハーモニックPZTアクチュエータの外箱の断面及び斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
様々な実施形態例を、いくつかの実施形態例を示す添付の図面を参照して、より詳細に説明する。但し、本発明の発明概念は、多くの異なる形式で具体化され、本願に説明する実施形態例に限られて解釈されるべきではない。
【0031】
要素が、別の要素の「上にある」、「接続される」または「接合される」と表現される場合、直接、他の要素の上にある、接続される、または、接合されるか、または、介在要素が存在してもよいことを理解されたい。一方、要素が別の要素の「上に直接ある」、「直接接続される」または「直接接合される」と表現される場合、介在要素は存在しない。本願で、「及び/または」という語は、関連付けられて記載された項目の1つ以上のいくつか及び全ての組み合わせを含む。
【0032】
第1、第2、第3などの語は、本願では、様々な要素、構成要素、領域、層及び/または部を示すのに用いられるが、これらの要素、構成要素、層及び/または部は、これらの語に限定されないことを理解されたい。これらの語は、単に、ある要素、構成要素、領域、層または部を別の領域、層または部と区別するのに用いられる。従って、以下に記載する第1要素、構成要素、領域、層または部は、本発明の発明概念の内容から逸脱することなく、第2要素、構成要素、領域、層または部と称することができる。
【0033】
本願で用いられる用語は、特定の実施形態例を記載するためだけの目的で用いられており、本発明の発明概念を限定することを意図していない。本願において、明確に単数形であることを示さない限り、複数形を含むことを理解されたい。さらに、「包含する」や「含む」という語は、本明細書で用いられる場合、記載された特徴、整数、ステップ、動作、要素及び/または構成要素の存在を示すが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素及び/またはそれらのグループの存在または追加を除外しないことを理解されたい。
【0034】
以下、添付の図面を参照して発明概念の実施形態例を説明することによって発明概念を詳細に説明する。図面において同様の参照番号は同様の要素を示す。
【0035】
PZTスタックなどの圧電アクチュエータは、小型で、信頼性があり、安定した材料特性に加えて、高応力、高帯域幅及び高出力密度(Watts/m3)の特性を有する。多くの非電磁性アクチュエータ材料の中で、圧電アクチュエータは、歪みが非常に小さいこと以外は、実質的に有用なアクチュエータの全ての必須要件を満たす。形状記憶合金、導電性高分子や誘電エラストマなどの他のアクチュエータは、有用性や適用性を著しく限定するような重大な欠点を有する。例えば、誘電エラストマは、長持ちせず、(6000ボルトを越える)非常に高い電圧を必要とするが、エネルギー密度が小さい。また、導電性高分子は、すぐに劣化し、電解液に高分子を浸水させるための容器が必要である。圧電アクチュエータの、歪みが0.1%しかないという主な欠点は、撓み装置により解決される。これらの撓み装置により、歪みと応力の割合を100程度効果的に変えることができる。つまり、有効歪みは、10%を上回り、骨格筋に匹敵する。一方、有効応力は、100MPaを越える強い応力が維持される。このバランスのとれた性能により、多くの実際の用途に圧電アクチュエータを用いることができる。さらに、その固有の特性は新たな可能性を広げ、新しい機能を創出する。
【0036】
非常に歪みが小さいという圧電アクチュエータの欠点を克服するために、本発明の発明概念の実施形態例は、100倍程度、変位を増幅する効果的な撓み装置、すなわち、座屈型撓み装置を含む。
【0037】
座屈型撓み装置は、単段の小型の一体構造体において、100倍以上、PZTスタック変位を増幅することができる。本発明の発明概念の一実施形態において、座屈型撓み装置は、固有の力−変位非線形性及び小さな形状因子を有するので、多くの圧電座屈型アクチュエータを、小型の筐体に内蔵することができ、多くの固有の特徴を備える、高トルク小型回転アクチュエータを作ることができる。特に、以下に記載するように、座屈型撓み装置を、ハーモニック座屈型アクチュエータにおいて用いることができる。ハーモニック座屈型アクチュエータは、逆駆動可能であり、遊びがゼロであり、最大トルクが160Nmを越える高トルク及び5.6kWの高出力を有する。ハーモニック座屈型アクチュエータは、中空軸を有するか、小型のリング型である。ハーモニック座屈型アクチュエータは、変換器の容量性に加えて、低摩擦、逆駆動可能特性を活用することにより、有効電荷回収及び環境発電技術に適用できる。
【0038】
ハーモニック座屈型アクチュエータは、多くの期待できる適用領域を有する。例えば、身に付けるロボット(パワースーツ)や着用できるリハビリテーション機器に、ハーモニック座屈型アクチュエータを利用してもよい。小型建設機械、フォークリフト及び他の移動ロボットは、特に、エネルギー効率が非常に重要な場合、アクチュエータ技術を利用してもよい。
【0039】
双方向、相互作用的作動について説明する。従来の電気機械アクチュエータは、負荷インピーダンスに対応するために巨大な歯車減速機を備える。これらの歯車装置を備える従来の電気機械アクチュエータは、荷重を移動させるのに用いられてもよい。しかし、これらの従来の電気機械アクチュエータは、多様な機能を有さない。電動機を有する建設機械にとって、電力再生は、電力効率の必須要件である。しかし、歯車減速機は、逆駆動する場合、摩擦による著しい損失のため、電力再生及び環境発電に悪影響を引き起こす。従来のアクチュエータ及び変速装置の設計は、アクチュエータから荷重への一方向の動力伝達という伝統的なパラダイムに追随している。電力再生及び環境発電は逆方向の動力伝達であり、アクチュエータ−減速機システムが順方向の動力伝達のためだけに最適化されていた場合、最適化されない。双方向、相互作用的アクチュエータ−の荷重整合は、本発明の実施形態例で検討される。
【0040】
ソフトアクチュエータ及びそのリハビリテーション訓練への適用について説明する。あらゆる電子機械、ロボット及び車両システムは、荷重としての環境と相互作用する。例えば、脳卒中患者用のリハビリテーション訓練機械は、患者の腕を所与の方向に促したり、押したりしながら、適切な強さで腕を拘束することで患者の腕を導く。訓練機械は、患者の腕を単に押すだけではなく、患者の動きにある程度従う必要がある。そのため、アクチュエータシステムは、逆駆動可能で、剛性に対して調整可能である必要がある。高い歯車減速比を有する従来の電気機械アクチュエータは、摩擦のためにこれらの要件を満たすことができない。リハビリテーションの研究により、訓練効率を最大限に高めるために、剛性を患者毎に調整する必要があることが分かった。多様な剛性に調整可能な機能を有する双方向、相互作用的アクチュエータが、リハビリテーション機械に必要である。
【0041】
電力効率及び電荷回収について説明する。圧電変換器は、一般的に容量性であり、誘導性である電磁変換器とは基本的に異なる。電磁変換器でトルクを生成すると、巻き線に電流が生じ、必然的に電力P=Ri2を消費する。一方、圧電変換器において一定の力を維持するのに電力は消費されない。圧電容量に一定の電荷が維持される限り、電流は必要ないため、電力は消費されない。圧電アクチュエータは、概して電力効率がよいが、特に、長期間一定の荷重を担うのに効率的である。基本的に原理が異なるため、電磁変換器と圧電変換器との効率を単に比較することは難しいが、変換器の容量性を有効に用いれば、圧電変換器の電力効率はさらに高められる可能性がある。
【0042】
PZTスタックに蓄積される電荷は特殊回路で回収することができる。電荷を接地に放電する代わりに、圧電変換器に蓄積された電荷を別の容量性蓄積構成要素に移動させること、またはバッテリーに戻すことができる。命令された参照が周期的である場合、必要なのは、PZTスタックと蓄積容量との間で電荷を移動させることだけである。バッテリーは、配線及び関連する切替回路の寄生抵抗による損失の補償にのみ消費される。
【0043】
共振:力学の活用について説明する。内蔵された撓み装置を有するPZTスタックアクチュエータは、振動する質量−ばね系を形成する。共振周波数で振動する場合、アクチュエータの出力変位は、静的な振幅よりも著しく大きくなる。動物の歩行は共振を利用していることが知られており、生物学的な発想に基づくロボットは、電力効率の良い運動にこの種の共振力学を利用する。本発明の発明概念の実施形態におけるPZTスタックアクチュエータの固有の動特性は、脚型ロボットだけでなく、アクチュエータが、特定周波数で周期的な繰り返し動作を生成しなければならないような広い分野の機械に有用である。
【0044】
セルラー方式の圧電アクチュエータのもう1つの顕著な特徴は、共振周波数が広い範囲で変更可能であることである。これにより、アクチュエータを、タスクおよび環境に調整された整合した力学で駆動することができる。周期運動の周波数に応じて、アクチュエータシステムは、その共振周波数を合わせ、その動的プロフィールを調整して所望の動作が最小消費電力または最大動力伝達で生成されるようにする。この可変共振及び調整可能力学の固有の特徴は、より強力で一般的な方法にさらに拡張され、実際のタスクに適用してもよい。
【0045】
環境発電について説明する。より先進的な適用としては、環境発電が重要な問題である。例えば、長期に亘る天然資源の探査用の深海ロボットにおいて、搭載されるバッテリーは限られているため、バッテリーを頻繁に再充電することが必要であり、ロボットが充電所に戻らなければならない場合、探査タスクを妨げてしまう。その代わりに、ロボットが海底で電流からエネルギーを取り入れることができれば、充電所に戻らずに、長期間に亘る任務を遂行することができる。
【0046】
本発明の発明概念の実施形態における圧電アクチュエータは、環境発電を利用した長期間に亘る任務遂行能力に対する効果的な解決策である。同じ圧電変換器が、順方向においては動作の生成及び逆方向においては環境発電という、アクチュエータ及びジェネレータの両方として用いられる。大型の歯車減速機を備える従来の電磁アクチュエータと異なり、圧電アクチュエータは、低摩擦のため最小損失で完全に逆駆動可能である。双方向の実施形態により、システムは、作動及び生成の両方において効果的になる。さらに、共振周波数は調整可能なので、環境発電効率が非常に高まる。圧電変換器の環境発電能力は、変換器が荷重と共振し、共振周波数で振動する場合、最適化される。調整可能な力学能力により、圧電アクチュエータは、共振周波数を適応的に調整することにより、環境発電に最適な条件の下、動作する。
【0047】
PZTスタックアクチュエータの基礎、理論的限界について説明する。多くのPZT薄膜の層及び電極を有するPZTスタックにおいて、Aは、スタックの断面積であり、lは、長さである。無荷重での最大応力は、σで示され、無応力下での歪みは、εで示される。歪みと応力との関係が線形であると仮定すると、アクチュエータによって、荷重を非駆動状態から駆動状態に移行させる際、適合された剛性で荷重に行われる作業は、以下の式により与えられる。
この作業がωHzの周波数で繰り返されると、荷重に伝達される力は、以下の式で表わされる。
標準的なPZTスタックは、εmax=0.1%及びσmax=100MPaを有する。帯域幅の理論的限界は、10kHz程度であるが、中程度から軽い負荷の用途のPZTスタックアクチュエータの利用可能範囲は、1kHz(ω=1kHz)である。そのため、単位体積当たりの電力密度は、以下の式で表わされる。
A=50mm×50mm=2.5×10-3m2及びl=10cm=10-1mのPZTスタックが用いられる場合、最大出力は、Pmax=6.25kWである。これは、電磁アクチュエータ、導電性高分子、誘電エラストマ及び形状記憶合金を含むあらゆるアクチュエータ材料だけでなく、骨格筋よりも性能が優れている。
【0048】
l=10cm=10-1mのPZTスタックの最大自由変位は、0.1mmしかない。250kNの大きな力が生成されても、アクチュエータの有用性は、このような小さな変位により限定されてしまう。有効な出力変位を得るために、力−変位割合を約100以上変える必要がある。そのため、歪み増幅が重要な問題である。しかし、歪み増幅は、適切に設計されないと、有効応力と帯域幅の両方を著しく低下させてしまう。図1Aは、スタック配置内の歪み増幅運動学を示し、図1Bは、スタック配置外の歪み増幅運動学を示し、図1Cは、スタック配置内とスタック配置外の歪み増幅運動学の増幅率を示す。
【0049】
歪み増幅機構について説明する。図1Aは、多くの市販の製品に用いられる機構を示す。図1Aは、機構の上半分のみを示し、下半分を加えると全体構造はひし形になる。図1Aのスタック配置は、PZTスタック10及び回転接合部12を含む。PZTスタック10は、三角形の水平縁上に設置され、自由接合部に接続された上部の2端部は、剛性リンクである。PZTスタック10と端部のうち1つとの角度θが小さい場合、垂直方向の変位は、PZTスタック10によって水平方向に形成される変位よりもずっと大きい。図1Cは、入力xから出力yへの増幅率、dy/dx=−cot(θ)を示す。角度θが小さくなるにつれて、増幅利得も増加する。多くの実際条件及び設計取り決めを考慮すると、約5から10の増幅利得が図1Aの実施形態で得られる。上述したように、広範な用途に用いられるアクチュエータとして当該機構を用いるために、利得100が必要とされる。これを達成するために、座屈撓み方法が用いられる。
【0050】
図1Bは、座屈型圧電アクチュエータ部の概略図である。図1Bの座屈型圧電アクチュエータ部は、一対の圧電スタック14、キーストーン出力節点18及び回転接合部16を備える。
【0051】
図2A及び図2Bは、一対の圧電スタック14及び一体構造体22を備える、歪みが大きな非線形座屈型圧電アクチュエータ部の概略図である。一体構造体22は、キーストーン出力節点18と、両側に設置された端部支持部20との間の圧電スタック14を機械的に接地する。端部支持部20及びキーストーン出力節点18は、回転接合部16を介して圧電スタック14に接続される。
【0052】
100程度の大きな増幅利得を得るための別の方法に、運動学的非線形性の利用がある。図1Cに示すように、角度θがゼロ、すなわち、特異点に近づくにつれて増幅利得は、無限大になる。図1Bは、θ=0での運動学的特異性を利用する歪み増幅撓み装置の概略図を示す。PZTスタック14は、駆動されると、伸長し、縦方向に沿って大きな応力を生成する。2つのPZTスタック14が一直線になっている場合、縦方向の力は相殺され、不安的均衡を作り出す。任意の外乱により、2つのPZTスタック14は、図1B及び2Bに示すように座屈する傾向にある。図1B及び2Bに示すように、Lは、各PZTスタック14の静止長であり、Δlは、PZTスタック14のアクティブな状態の静止長または各PZTスタック14の伸長分であり、yは、キーストーン出力節点18の垂直変位である。図1Cは、出力yから出力Δlへの増幅率、dy/dl=csc(θ)を示す。変位増幅率、G=Δy/Δlは、yがゼロに近付くにつれて無限大になる傾向にある。Δlについて、運動学関係式、y2=(L+Δl)2−L2を微分して、上位の少数を無視すると、以下の増幅率Gが得られる。
これは一種の運動学的特異性である。有限の圧電変位にとっても、この増幅利得Gは非常に大きい。座屈機構は、非常に大きな変位増幅をもたらすが、座屈は、概して予測不可能で異常な現象であるので、制御が困難である。出力節点18が移動する方向は、上方か下方か分からない。また、出力キーストーンを中間点を越えて一方から他方に準静的に移動させることもできない。一旦上方に移動すると、出力節点18は上方にとどまり、逆もまた同様である。この移動は単極駆動であり、出力キーストーン18の1往復は、考えられる変位全体の半分である。従って、座屈方向を制御すること、及び、一旦座屈が起こった場合、特異点を通ってもう一方へ移動可能であることの両方が望ましい。この双極駆動を実現するために、従来の方法は、付加的な機械的剛性要素を利用していた。別の取り組みでは、座屈型アクチュエータ部同士で異なる空間的位相差を有するように、多数の座屈アクチュエータ部を並列に配置している。この配置は、座屈の非線形の運動学的及び静的特性を利用している。
【0053】
図3Aは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる単一対座屈型アクチュエータの概略図である。図3Bは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる二対座屈型アクチュエータの概略図である。図3Cは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる二対座屈型アクチュエータの試作品を示す。図3Aは、PZTスタック14が駆動される場合の座屈型アクチュエータの変位を示す。図3B及び図3Cに示すように、二対のPZT座屈型アクチュエータ部13及び15を並べて配置し、上側または下側のPZT座屈型アクチュエータ部を選択的に駆動することにより、座屈方向を制御する。第1座屈型アクチュエータ部13は、一対の圧電スタック14、キーストーン出力節点18、回転接合部16、一体構造体22及び端部支持部20を備える。第2座屈型アクチュエータ部15は、一対の圧電スタック14a、キーストーン出力節点18a、回転接合部16a、一体構造体22a及び端部支持部20aを備える。第1及び第2座屈型アクチュエータ部13及び15のそれぞれの出力節点18及び18aは、連結器24によって機械的に連結している。または、座屈型アクチュエータ部13及び15内で、第1及び第2PZTスタック14及び14aを選択的に駆動することにより座屈方向を制御することができる。この方法を用いて、座屈型アクチュエータ部13及び15のPZTスタック14及び14aを両方同時に駆動する代わりに、PZTスタック14及び14aの一方が駆動された後、続いて、PZTスタック14及び14aの他方が駆動される。図3Cに示される試作品は、さらに、PZTスタック14及び14aに連結される配線26を備える。
【0054】
図4Aは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、ハーモニック座屈型アクチュエータの座屈アクチュエータ部の概略図及びハーモニック座屈型アクチュエータの断面図である。図4Bは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、ハーモニック座屈型アクチュエータの斜視図である。図4A及び図4Bに示すように、ハーモニック座屈型アクチュエータ31は、回転レール/歯車33に係合された多数の座屈型アクチュエータ部32を備える。各座屈型アクチュエータ部32は、2つの入力並進運動アクチュエータ34を備える。各入力並進運動アクチュエータ34の一端は、端部支持部30によって共通接地36に堅く取り付けられた回転接合部35の周囲を回転するように強いられる。各入力並進運動アクチュエータ34の他端は、座屈型アクチュエータ部32の出力部であるもう1つの回転接合部38を介して、出力単軸37に沿って同じ座屈型アクチュエータ部32の別のアクチュエータともに移動するように強いられる。各座屈型アクチュエータ部32が駆動されていない、自然な状態の構成において、入力アクチュエータ34は、アクチュエータ部が接地された回転接合部35同士を結ぶ線分39と略同一線上になる。線分39は、レール/歯車33の出力軸40と平行である。駆動された状態では、入力アクチュエータ34は、縦軸に沿った変位を示し、その結果、座屈型アクチュエータ部32が線分39を横断する方向に変位する。座屈型アクチュエータ部32は、その回転接合部または出力部38が、林立するレール/歯車33内で空間的に位相が制御されるように、レール/歯車33の周囲に配置される。座屈アクチュエータ部32のハーモニック駆動により、レール/歯車33上の出力軸40の周囲にトルクが生成される。レール/歯車33の中空部は、遊星歯車箱、サイクロ駆動装置またはハーモニック駆動装置などの歯車減速機41を囲む。レール/歯車33は、歯車減速機41の低速軸42に接続している。座屈型アクチュエータ部32の支持部44は、互いに、及び、歯車減速機41の歯車箱43に堅く接続している。高速軸45は、ハーモニック座屈型アクチュエータ31全体の出力軸である。
【0055】
単一部の運動学的モデルについて説明する。単一座屈型アクチュエータ部の準静的性能を分析するために、アクチュエータを、図5A及び図5Bに示すような2本のばね50のシステムとしてモデル化する。図5Aは、特異点(y=0)におけるPZT座屈機構の静的モデルである。図5Bは、有限変位(y≠0)におけるPZT座屈機構の静的モデルである。
【0056】
ばね定数kpを有するばね50の剛性は、圧電アクチュエータの直列剛性及び接合部の圧縮剛性により決定される。ばね50のアクティブな状態での静止長はLであり、各ばね50の非アクティブな状態での静止長はL+Δlであり、Δlは、所与の駆動レベルにおける自由変位である。このモデルにより、各ばね50の位置エネルギーは、1/2kpδ2に等しくなる。この式で、δは、変位y及び駆動自由変位Δlの幾何学的関数としてのばね50の静止長からの偏差である。出力変位に応じた様々な駆動レベルにおける、2つのばね50のシステムの位置エネルギーUは、図6に示すように算出される。図6は、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、最大限及び半分の駆動レベル時の剛性及び力を示すグラフである。出力方向における力Fは、−dU/dyを算出することにより求められ、剛性は、d2U/dy2を算出することにより求められる。図6には、市販のPZTスタックを有するアクチュエータの試作品についての剛性及び力が描かれる。図6は、2つの駆動レベルである半分及び最大限の駆動について、出力節点の位置に応じた出力軸に沿ったアクチュエータの出力節点の剛性及び力を示す。
【0057】
別の実施形態において、単一座屈型アクチュエータ部の準静的特徴を分析するため、アクチュエータを、図7A及び図7Bにそれぞれ示すように、ばね定数kp及kaを有する4つのばね70及び72のシステムとしてモデル化する。図7Aは、特異点(y=0)におけるPZT座屈機構の静的モデルであり、図7Bは、有限変位(y≠0)におけるPZT座屈機構の静的モデルである。ばね定数kpを有する2つの線形ばね70は、PZTスタックの全剛性、及び、PZTスタックの縦方向に沿った撓みを表す。ばね定数kaを有するもう一方の2つのばね72は、両方のPZTスタックにおける、角変位に関連付けられた撓みの全回転剛性を表す。4つのばね70及び72に蓄えられる全歪みエネルギーは、以下の式によって与えられる。
左側及び右側の両方のPZTスタックの線形変位、ΔLL,ΔLR及び、庁側の回転変位、ΔθL,ΔθRは、PZTスタックの駆動レベルuL及びuR、及び、出力変位yの関数である。従って、位置エネルギーUである歪みエネルギーは、uL、uR及びyの関数:U(uL、uR、y)である。
【0058】
出力方向の出力の力Fは、出力yに対して位置エネルギーを微分することによって求められ、F=−dU/dy、剛性は、二次導関数、d2U/dy2を算出することによって求められる。図8は、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、最大限及び半分の駆動レベルでの剛性及び力のグラフである。図8には、市販のPZTスタックを有する小型のアクチュエータの試作品に関しての剛性及び力が描かれる。図8は、2つの駆動レベルである半分及び最大限の駆動レベルについて、出力節点の位置に応じた出力軸に沿ったアクチュエータ出力節点の剛性及び力を示す。
【0059】
図6及び図8に示す単一座屈型アクチュエータ部について、いくつか重要な特徴がある。
1)アクチュエータの大幅な変位増幅。一方向への変位は、最大限の駆動、すなわち、150Vで、1.5mmを上回る。PZTスタック(15μm)の最大自由変位と比較して、この座屈型アクチュエータは、100倍大きな変位を生成する。
2)非線形の力−変位特徴。最大の力がゼロ変位(y=0)においてではなく、ストローク中間において生成される。また、特異点であるy=0において、力は生成されない。
3)変動剛性。特異点付近では、剛性は、ゼロまたはマイナスであるが、変位が両方向に大きくなるにつれて、剛性は急激に高まる。
【0060】
上述した2番目の特徴である非線形の力−変位特徴は、PZTスタック固有の特性、及び、変位がない場合に阻止力であるピーク力が生成される従来の歪み増幅機構と著しく異なる。従来の歪み増幅機構の出力の力は、変位が大きくなるにつれて単調に減少する。一方、本発明の発明概念の実施形態例の座屈アクチュエータは、ストローク中間においてピーク力を生成する。この非線形の力−変位の関係は有用である。
【0061】
さらに、座屈型アクチュエータは、剛性が、特異点付近で、非ゼロ駆動レベルで、ゼロまたはマイナスになるという、固有の剛性特徴を示す。この特徴は、多数のアクチュエータ部を配列するのに有用である。1つのアクチュエータ部が特異点付近で移動すると、他のアクチュエータ部から効果的に離れるので、力を生成している他のアクチュエータ部の荷重にならない。座屈型アクチュエータのこれらの特徴を用いることによって、大きな二極変位及び改善された力−変位特徴を実現する、多くのアクチュエータ部を有するアクチュエータを、機械的衝突を最小にして生成することができる。
【0062】
二対並進運動座屈型アクチュエータ、位相配列駆動について説明する。図3B及び図3Cに示すように、2つの座屈型アクチュエータ部は、平行に配置される。図3B及び図3Cに示すように、各座屈型アクチュエータ部13及び15は、2つの入力並進運動アクチュエータ14及び14aを備える。図9Aは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、空間的に同相の二対座屈型アクチュエータの概略図を示す。図9Bは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、空間的に位相がずれた二対座屈型アクチュエータの概略図を示す。単一座屈型アクチュエータは、特異点付近において、基本的にシステムから取り外すことができるので、二対座屈型アクチュエータにおいても同様に、2つのアクチュエータ部の出力節点を連結器24に機械的に接続し、それぞれ、特異点付近において、互いにほとんど干渉させないことができる。図9Aに示すように2つの座屈型アクチュエータ部13及び15が同相である場合、各座屈型アクチュエータ部13及び15は、他方が離れた場合にのみ離れる。座屈型アクチュエータ部13及び15が同相方向である場合、アクチュエータは、互いに離れることができるという単一座屈型アクチュエータ部の能力を利用できない。しかし、図9Bに示すように、2つの座屈型アクチュエータ部13及び15の位相がずれている場合、一方のアクチュエータ部が特異点の付近にある場合、他方は、より大きい力を生成することができる。このように、一方のアクチュエータ部が効果的に離れることができる場合、他方のアクチュエータ部が、出力荷重に影響を与えることができる。
【0063】
図9Bに示すように、非活性平衡角θ0が小さい場合、一対の座屈型アクチュエータ部13及び15の座屈方向は制御される。図10Aは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、上向きの自由変位を示す二対位相シフト型座屈アクチュエータの非同期駆動時間系列を示し、図10Bは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、下向きの自由変位を示す二対位相シフト型座屈アクチュエータの非同期駆動時間系列を示す。図10A及び図10Bの両図において、t1において、座屈型アクチュエータ部は両方とも非アクティブである。一方の座屈型アクチュエータ部を駆動し、他方を駆動しないことにより、特異点を通って非アクティブな座屈型アクチュエータ部の出力節点を押す場合、制御は可能である。図10Bにおいて、上部の座屈型アクチュエータ部は、駆動されると、下方に変位する傾向にあり、下部の座屈型アクチュエータ部は、駆動されると、上方に変位する傾向にある。図10A及び図10Bにおいて、時間t2では、一方の座屈型アクチュエータ部が駆動しており、図10Aでは、下部の座屈型アクチュエータ部が駆動し、図10Bでは、上部の座屈型アクチュエータ部が駆動している。どちらの場合も、アクティブなアクチュエータ部は、非アクティブなアクチュエータ部を押して特異点を通過させる。アクチュエータ部の両方の出力節点が特異点に対して同じ側にある場合、図10A及び図10Bの時間t3に示すように、両方を駆動することにより、更なる変位が起こる。このためには、上部及び下部の座屈型アクチュエータ部を非同期的、または、時間的に位相をずらして駆動する必要がある。図10A及び図10Bは、段階的な駆動により、出力節点を上方または下方に移動させることができることを示す。このように、位相配列アクチュエータは、空間的に位相をずらすこと、及び、時間的に位相をずらして駆動することの両方を利用する。
【0064】
二対アクチュエータシミュレーションについて説明する。単一座屈型アクチュエータのシミュレーションと同様に、圧電アクチュエータの直列剛性及び接合部の圧縮剛性を、ばねとしてモデル化し、圧電アクチュエータの駆動レベルを、それらのばねの静止長を効果的に変えることでモデル化する。これらの駆動シナリオの位置エネルギー値を、図11Aから図11Cに示す。図11Aは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、両方の座屈型アクチュエータ部が非アクティブである場合の、二対位相不一致アクチュエータの位置エネルギー対変位のグラフである。図11Bは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、左側の座屈型アクチュエータ部がアクティブである場合の二対位相不一致アクチュエータの位置エネルギー対変位のグラフである。図11Cは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、両方の座屈型アクチュエータ部がアクティブである場合の二対位相不一致アクチュエータの位置エネルギー対変位のグラフである。グラフは、安息角θ0の2つの異なる値、すなわち、0.3度及び1.0度についての位置エネルギーを示す。
【0065】
図11Aに示すように、両方の座屈型アクチュエータ部が非アクティブである場合、ゼロ変位において1つの位置エネルギーの落ち込みが存在する。出力位置に関わらず、ゼロ変位位置への復元力が存在する。すなわち、アクチュエータ部の一方の出力節点が特異点を越えて延びたとしても、アクチュエータは、復元力を与える。これは、安息角θ0に関係なくあてはまる。
【0066】
図11Bに示すように、1つの座屈型アクチュエータ部がアクティブである場合、変位値ゼロにおいて位置エネルギー関数に非ゼロの傾斜が存在する。すなわち、静止位置において、出力節点が一方向に押される。図11Bのθ0=1.0度では、エネルギーの落ち込みは1つだけ存在し、力を受けない安定位置が1つだけ存在することを示す。これは、この特定の実施形態では、静止位置に対して常に好ましい側に力が存在するようにしているからである。しかし、一実施形態において、図11Bのθ0=0.3度に示すように、安息角θ0が小さい場合、静止位置に対して両側に1つずつ、2つのエネルギーの落ち込みが生成される。2つの平衡位置でさえ、静止位置でのエネルギー曲線の傾斜は、非ゼロであり、出力は、静止位置にある場合、好ましい方向に押される。エネルギーの落ち込みを1つだけ有する実施形態を用いることによって、出力をより正確に制御することができるが、図11Cに示すように、両方の座屈型アクチュエータ部を駆動する方が、アクチュエータ内において、入力アクチュエータからのより多くのエネルギー量が歪みエネルギーに変換されるため、効率的である。
【0067】
両方の座屈型アクチュエータ部をアクティブにすると、2つの対称的な力を受けない平衡点が存在する。両方の座屈型アクチュエータ部を駆動することで得られる平衡変位は、座屈型アクチュエータ部を1つだけ駆動することで得られる最大の大きさ(1または2)の平衡点よりも、より大きい。また、両方の座屈型アクチュエータ部をアクティブにすることで得られる最大の力は、座屈型アクチュエータ部を1つだけアクティブにすることで得られる力よりも大きい。これは、図11Cのマイナス方向ストローク中間の最大傾斜が、図11Bのマイナス方向ストローク中間の最大傾斜よりも大きいことによって示される。このように、シミュレーションによって、一方の座屈型アクチュエータ部を駆動し、出力がゼロ変位点を越えた後に、引き続き、もう一方の座屈型アクチュエータ部を駆動することで、座屈型アクチュエータ部の座屈方向を制御することができることが分かる。
【0068】
多対並進運動座屈型アクチュエータについて説明する。空間的に分散された複数の座屈型アクチュエータ部は、複数のアクチュエータ部を連携させることで、並進運動を生成する。図12Aは、連続的な並進運動を生成するのに用いられる多対線形アクチュエータの概略図を示す。図12Bは、上下に移動可能な出力節点として連続的な並進運動を生成するのに用いられる、多対座屈型アクチュエータの1つの座屈アクチュエータ部の概略図を示す。図12Cは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、水平移動しかできないレール内で上下に移動する図12Bの多対座屈型アクチュエータの各座屈型アクチュエータ部の出力のプロットを示す。図12Aは、線形アクチュエータ120のグループが波形レール122と係合、連携して表面を押す機構121を示す。アクチュエータ120が波の位置と同調して同期すると、推進量は水平方向に生成される。この原理は、図12B及び図12Cに示すように、座屈型アクチュエータに適用できる。
【0069】
図12Bに、単一の座屈型アクチュエータ部124を、上下に移動可能な出力節点126として簡易に図示する。図12Cにおいて、水平移動しかできないレール127内で、各座屈型アクチュエータ部124の出力は、上下に移動する。出力節点126は、レール127と係合するが、レール127内を自由に摺動可能であるため、レールは、座屈型アクチュエータ部124の上下運動によって左右に力を受ける。座屈型アクチュエータ部124は、レール127の波を通過するのに十分大きく変位する。図示されるレール127の半分の区間において、座屈型アクチュエータ部124からの上方の力がレール127をレール方向128の右側に押す。
【0070】
複数のアクチュエータ部を用いることにより、アクチュエータ部は、レールが移動した任意の距離においてレールに正味推力を与えることができ、それぞれの特異点の通過を互いに助け合うことができる。
【0071】
図12Cに示すレール127に沿って周期的に繰り返される領域には4種類ある。図12Cのレール127の隣に、各座屈型アクチュエータ部が、アクティブ及び非アクティブ状態の両方において、位置yに応じてレール127に与えることができる力のプロットを示す。力のプロット及びレール図に示すように、座屈型アクチュエータ部が推進力を生成することができない、レールに沿った2種類の領域があり、力ゼロ領域と分類される。1つの力ゼロ領域は、座屈型アクチュエータ部124が、レール127の真ん中の特異点付近にある場合に起こる。座屈型アクチュエータ部124は、特異点において力を生成することはできない。もう1つの力ゼロ領域は、レールがゼロ傾斜を有し、座屈型アクチュエータ部によって左右に押されない、座屈型アクチュエータ部124の最大変位において起こる。他の2つの領域は、力が強い領域である。図12Cで圧縮領域と分類された領域は、座屈型アクチュエータ部124が、能動的に圧縮状態にあり、特異点から離れる領域である。もう1つの緊張領域と分類された領域は、非アクティブな座屈型アクチュエータ部124が緊張状態にあり、特異点に向かう領域である。非アクティブな座屈型アクチュエータ部124は、非アクティブな座屈型アクチュエータ部を特異点を越えて押すレール127と係合しているため、特異点を通過する。これらの力領域は、レール上の力方向が逆転すると、圧縮領域と緊張領域とが入れ替わる。
【0072】
考えられるあらゆるレール位置において、レール127を両方向に押すことができることが望ましい。これは、図12Cに示すように、レール127に沿って座屈型アクチュエータ部124の位置を距離Δだけずらすことで達成される。圧縮領域は、レール127に沿って、レール127の区間ごとに2回繰り返される。従って、4つのアクチュエータ部について、位相シフトは、レールの周期長の1/8+n/2倍であり、nは、任意の整数である。この位相シフトにより、1つの座屈型アクチュエータ部は、確実にレールの全ての位置について、上記の4つの領域のそれぞれに存在する。レールは、座屈型アクチュエータ部の時間的に段階的な駆動によって左または右に進む。
【0073】
図13は、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、多対並進運動座屈型アクチュエータの力変位関係の1周期のグラフである。位相配列型多対レールアクチュエータの性能は、図13に示される。位置エネルギーに基づいたシミュレーションは、図13の力変位関係を生成するのに用いられる。このシミュレーションでは、座屈型アクチュエータ部からレールへの理想的な力の伝達が仮定される。すなわち、レールは、座屈型アクチュエータ部と比較して非常に堅く、歪みエネルギーを蓄えず、摩擦が無視されると仮定する。また、座屈型アクチュエータ部からのゼロ張力が、レール上の合力に与えられると仮定する。レールは、一定傾斜1を有すると仮定するが、レールの形状を変更して、特定の用途の出力−変位関係を形成することもできる。
【0074】
レールが進むと、4つの座屈型アクチュエータ部が次のそれぞれの領域に遷移する。各アクチュエータ部が全てのレール位置の各領域に存在するので、力−変位曲線は、遷移ごとに繰り返される。遷移は、レールの周期長の1/8ごとに起こる。
【0075】
圧縮領域にあるアクチュエータ部のみがレールに力を与える。1つの座屈型アクチュエータ部が圧縮領域を出ると、別の座屈型アクチュエータ部が圧縮領域に入る。従って、レール上の正味の力は、図13に示すように、どんな時でも2つの座屈型アクチュエータ部の合わせた力である。図13は、多対並進運動座屈型アクチュエータの力変位関係の1周期のシミュレーションを示す。曲線は、座屈型アクチュエータ部が、力が大きい圧縮領域に入ることにより徐々に上昇し、座屈型アクチュエータ部が、力が大きい圧縮領域から出ることによりゼロに下がる。
【0076】
図13は、レールが前進するにつれて、力の波が起こることを示す。この波は、座屈型アクチュエータ部がレール上の異なる領域に入る度に、レールの1周期ごとに8回繰り返される。この波は、2つの方法で形成される。1つは、レールの形状が、一定角度の傾斜以外であり、瞬間的なレールの傾斜が、座屈型アクチュエータ部からレールへの力の伝達割合の値となる方法である。2つ目は、より多くの座屈型アクチュエータ部を用いて、波の相対振幅を減少させ、リップル周波数を上げる方法である。
【0077】
一実施形態例において、PZTアクチュエータの配列は、歯車が継続的に回転するように1つずつ歯車の歯を押す。有効な歪み増幅機構がなければ、PZTスタックのストロークは、小さすぎて各歯を越えることができない。例えば、圧電セラミックアレイを用いる超音波モータは、歯車を用いず、摩擦駆動機構を用いる。このようなアクチュエータは、荷重が小さい用途に限られ、大きな荷重や変動荷重には用いることができない。摩擦は、予荷重または圧電素子に加えられる圧力で調整することは難しい。摩擦装置では、不要なスリップや破損を防ぐことができない。また、摩擦装置を有する超音波モータは、逆駆動することができない。さらに、摩擦装置を有する超音波モータは、剛性制御機能や環境発電機能を有さない。摩擦装置は、摩擦より大きな荷重には耐えられず、逆駆動力が摩擦を越える場合、単に滑ってしまう。従って、歯車の歯をそれぞれ押すことは、大きな荷重の用途において特に有利な、より確実な手段である。歯車の歯の高さが1ミリメートル程度の一実施形態例において、100倍程度のPZTの増幅利得が必要とされる。
【0078】
本発明の発明概念の実施形態例の座屈型アクチュエータは、単段増幅撓み装置のこの要件を満たす。図14は、歯車142と係合したPZT座屈型アクチュエータ部140の配列の概略図を示す。図14は、歯車142の歯と係合した位相配列アクチュエータ140を示す。一実施形態において、歯の高さhは、約2から10mmである。歪み増幅利得が100であると仮定すると、PZTアクチュエータに必要なストロークを達成できる。すなわち、20から100mmの長さのPZTスタックが、20から100μmの出力変位を生成することができる。PZTスタック変位に100を乗算することにより、2から10mmのストロークが生成される。歯車142は、ピッチpを有する。図14に示すように、複数のPZT座屈型アクチュエータ部140が、異なる位相角を有して水平軸に沿って配置される。例えば、図14は、90度離された4つのPZT座屈型アクチュエータ部を示す。これらのPZT座屈型アクチュエータ部を適切な位相シフトで駆動することにより、レール方向141において、アクチュエータブロックと歯車の歯との水平変位が生成される。水平方向のけん引力は、歯車の歯の傾斜及び可動部品の摩擦によって決定される。
【0079】
多対回転座屈型アクチュエータについて説明する。上述の並進運動アクチュエータの実施形態で利用された周期的な波を有する直線状のレールを、図15Bに示すように、回転アクチュエータの実施形態で利用される周期的な波を有する再循環レールに置き換えてもよい。図15Aは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、連続運動する多対座屈型アクチュエータの並進レールの概略図を示す。図15Bは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、連続運動する多対座屈型アクチュエータの回転レールの概略図を示す。図15Aの並進レール151は、並進レール151と係合した座屈型アクチュエータ部150を含む。
【0080】
多対座屈型アクチュエータ部152が図15Bの回転レールに力を加える方法は、図14及び図15Aに示すように、並進レールに力を加えるのに用いられる方法と似ている。図15Bにおいて、多対座屈型アクチュエータ部152は、使用されている座屈型アクチュエータ部の数で割った波の周期の半分に等しい位相差で、レール153の周囲に配置される。回転レールは、堅い歯車でもよい。
【0081】
図15Bの回転アクチュエータは、図4Bのハーモニック駆動減速機構と似ている。ハーモニック駆動装置は、堅い円形スプライン内でフレクスプラインを駆動するウェーブジェネレータを備える。同様に、回転座屈型アクチュエータは、フレクスプラインのように内歯スプラインと相互作用させる座屈型アクチュエータ部を有する堅い内歯スプライン/レールを有する。座屈型アクチュエータ部152を、ハーモニック駆動装置のようにウェーブジェネレータによって駆動する代わりに、特定の時間位相差で駆動して、堅い内部歯車153に沿って波のような動きを生成する。
【0082】
図16は、多対位相シフト型回転座屈型アクチュエータの斜視図である。図16に示すアクチュエータは、自由回転を強いられた堅い内部レール163を駆動する8個の座屈型アクチュエータ部161を備える多対回転座屈型アクチュエータである。座屈型アクチュエータ部の出力節点は、レール163をたどるように制約される。レール163は、1/4πラジアンの振動周期を有する。座屈型アクチュエータ部161は、レール周期の1/16だけ位相をずらされる。この場合、レール周期の1/16は、1/64πラジアンである。
【0083】
図16において、位相配列座屈型アクチュエータ部161は、回転レール/歯車163を囲む。各座屈型アクチュエータ部は、歯車軸160の中心付近で歯車163と接触する。座屈型アクチュエータ部の支持板162が、接地され、歯車軸160が自由に回転する場合、座屈型アクチュエータ部161を時間的に段階的に駆動することにより、歯車軸160は、矢印164に示すように回転する。図16の歯車軸160は空洞である。アクチュエータ内のこの空洞は、あらゆる用途に特定の理由で有用である。
【0084】
図17は、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、回転の全周期を通じた回転座屈型アクチュエータ部の出力性能を示すグラフである。図17に示すように、並進運動アクチュエータの力の波に似たトルクの波が起こる。トルクの波は、歯車形状にすること、及び/または、より多くの座屈型アクチュエータ部を内蔵することによって、同様に形成され、緩和される。図17のトルクの波の平均トルクに対する比率は、図13の力の波の平均力に対する比率よりもずっと小さい。これは、図13では位相をずらして動作するアクチュエータ部は4個しかないが、図17では8個あるからである。
【0085】
回転座屈型アクチュエータで複数の座屈アクチュエータ部を利用する際、好ましい周波数と変位の交換がある。PZT入力アクチュエータは、出力回転周波数よりずっと高い周波数で駆動されるので、回転座屈アクチュエータ部は、周波数を利用した装置である。8周期/歯を有する歯車では、座屈型アクチュエータ部は、出力軸の1回転に対して8回循環しなければならない。回転座屈型アクチュエータ部でシミュレーションされた種類の単一の座屈型アクチュエータ部の自然周波数は、50Hzを上回る。これは、出力回転周波数が6.25Hzであることを意味する。
【0086】
回転座屈型アクチュエータ部の空洞部内に歯車減速機を備えることにより、多大なトルクが生成され、工業的規模の用途に用いられる。
【0087】
図18は、20個のPZT座屈型アクチュエータ部171及び16個の歯172を有するハーモニックアクチュエータ170の断面図を示す。図18において、nは、循環するように配置されたPZT座屈型アクチュエータ部171の数であり、mは、ピッチ半径Rの歯車の周囲の歯の数である。簡単にするために、図18に示すように、歯車の歯172の傾斜は、角度φの定数にしてある。各PZT座屈型アクチュエータ部171が有効力feffを生成した場合、円周方向の力は、摩擦がないと仮定すると、以下の式により与えられる。
frot=fefftanφ
PZT座屈型アクチュエータ部によって生成されるトルクは、以下の式により与えられる。
T=Rζnfefftanφ
ζは、デューティ比、すなわち、PZT座屈型アクチュエータ部の総数nで割ったトルク生成に寄与するPZT座屈型アクチュエータ部の数である。PZTスタックは、収縮力を生成できないので、トルクの生成に寄与できるのは、座屈型アクチュエータ部のせいぜい50%である。この例では、ζ=0.4と仮定する。最も大きなPZTスタックのうち1つは、170Nのピーク力を生成できる。平均して、有効力は、feff=100N程度である。R=200mm及びφ=45°を設定すると、20個のPZT座屈型アクチュエータ部を有するハーモニック座屈型アクチュエータのトルクは、以下の式により与えられる。
T=0.2m×0.4×20×100N×1=160Nm
【0088】
上述したように、PZTスタックは、高い帯域幅を有する。歪み増幅撓み装置により、この帯域幅は減少するが、100Hzは、達成可能である。すなわち、歯の数が、m=18である場合、ハーモニック座屈型アクチュエータの出力軸は、ω=100/18=5.56Hz=34.9rad/sの角速度で回転し、以下の出力を生成する。
P=Tω=5.58kW
【0089】
図19Aから図19Dは、高出力密度のハーモニックPZTアクチュエータを示す。図19A及び図19Bは、高出力密度のハーモニックPZTアクチュエータの断面及び斜視図である。図19Cは、内側の中空歯車軸180の断面及び斜視図である。図19Dは、PZT座屈型アクチュエータ部が埋め込まれた外箱182の断面及び斜視図である。図19Aから図19Dに示すように、ハーモニックPZTアクチュエータは、固有の中空歯車軸180構造を有する小型の高出力密度のアクチュエータである。例えば、ハーモニックアクチュエータは、物体を包みこんでもよいし、中空空間は、線を通すのに用いられてもよい。図19Cに示すように、内部中空歯車軸180は、レール/歯車183を有する。外箱182に埋め込まれたPCT座屈型アクチュエータ部185は、回転レール/歯車183を囲む。各座屈型アクチュエータ部は、中空歯車軸180の中心付近でレール/歯車183と接触する。座屈型アクチュエータ部の支持板が接地され、歯車軸が自由に回転する場合、歯車軸は、座屈型アクチュエータ部の時間的に段階的な駆動により回転する。座屈型アクチュエータ部を、ウェーブジェネレータによって駆動する代わりに、特定の時間位相差で駆動して、堅い内部歯車に沿って波のような動きを生成する。座屈型アクチュエータ部は、顕著な非線形性を有するので、これを考慮しなければならない。
【0090】
圧電装置も用いた基本的な環境発電の原理について説明する。今日のアクチュエータにとって、電力効率及びエネルギー問題は重要である。本発明の発明概念の実施形態例の圧電装置は、エネルギー効率及び電力再生/環境発電の両方において固有の利点を有する。ハーモニック座屈型アクチュエータを有するセルラー式PZTアクチュエータは、高い逆駆動可能特性を有する。エネルギーは、摩擦によってほんのわずか電力損失するのみで、荷重からアクチュエータ/ジェネレータに逆方向に伝達される。ハーモニック座屈型アクチュエータは、環境発電に利用することができる。
【0091】
本発明の発明概念の実施形態例の座屈型アクチュエータ部は、圧電セラミックスの特性、すなわち、高出力密度、高応力、高帯域幅、小型、信頼性及び安定性を利用する。さらに、本発明の発明概念の実施形態例の座屈型アクチュエータ部は、調整可能なインピーダンス、動力回収、環境発電、高効率、低摩擦及び逆駆動可能特性を提供する双方向相互作用アクチュエータを利用する。本発明の発明概念の実施形態例の座屈型アクチュエータ部は、ハーモニック座屈型アクチュエータ、筋肉アクチュエータ及び他の用途に用いられてもよい。ハーモニック座屈型アクチュエータは、高トルク、内蔵歯車減速機、遊びがゼロ、充電回復及び中空軸の特徴を有し、逆駆動可能である。筋肉アクチュエータは、低摩擦、可変剛性及びソフトな駆動の特徴を有し、逆駆動可能である。さらに、座屈型アクチュエータ部は、多くの適用領域を有する。例えば、座屈型アクチュエータ部を、リハビリテーション訓練、共振駆動及び環境発電、深海ロボット、エンドエフェクタ、パワースーツ、着用可能リハビリテーション機器及びロボット車両に利用してもよい。
【0092】
本発明を好ましい実施形態を参照して特に図示し、説明したが、当業者は、添付の請求の範囲に規定された発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、形式及び詳細の様々な修正が可能であることを理解されるだろう。
【技術分野】
【0001】
本願は、2009年11月10日付申請の米国仮特許出願61/259,873の利益を主張し、その開示内容の全てを、ここに、本願の一部として援用する。
【0002】
本発明は、一般的に、電気機械アクチュエータに関し、特に、圧電変位機構に関する。
【背景技術】
【0003】
圧電アクチュエータは、あらゆる先進の機械式アクチュエータの最も期待できる特性のいくつかを保持している。例えば、MHz範囲の周波数で動作可能であり、その著しい作動応力により、油圧アクチュエータに匹敵する最大出力密度(Wm−3)を有する。その効率範囲は、0.90から0.99に及び、他のあらゆるアクチュエータ材料を優に上回る。圧電アクチュエータの最も著しい欠点は、生成可能な変位/歪みである。長さ20mmに積み重ねられたチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの高歪み圧電アクチュエータは、約0.1%の一般的な作動歪みによって、たった20μmしか自発的に変位しない。
【0004】
このような変位は、ロボットシステムなどの広範な用途には、概して実用的ではない。そこで、圧電アクチュエータが生成する歪みを増幅する重要な研究が始まっている。圧電アクチュエータが生成する歪みを増幅する手段には、バイモルフ及びユニモルフ曲がり梁アクチュエータ、周波数を利用した「インチワーム(inchworm)」アクチュエータ及びフレクステンショナル歪み増幅機構がある。従来のフレクステンショナルアクチュエータは、ひし形または楕円形の機構を利用し、圧電アクチュエータが、長径の2つの隅を押し付けることで短径に沿った変位を引き起こす。しかし、インチワームまたは反復運動機構を除いて、これらの歪み増幅技術は、限られた変位しか生成しない。多段増幅を用いない限り、出力変位は、一般的に、1mm未満であり、ほとんどのロボット用途には短すぎる。
【0005】
一方、構造力学の非線形性、座屈及び特異現象を用いることにより、単段において、1桁分大きな有効歪み増幅を生成することができる。機構及び構造力学において発生する非線形性は、一般的に、寄生性質と考えられてきた。歪み増幅機構は、出力が、入力されたアクチュエータの力及び変位の略一次関数を保つように設計されてきた。
【0006】
従来の機構において、アクチュエータは、単に荷重を移動させることにより機械的作用を生成する構成要素である。また、従来の機構は、単なる一方向のエネルギー変換器であり、例えば、機械的エネルギーを電気エネルギーに戻す逆の過程である、電力再生や環境発電を利用していない。従来の歯車減速機は、最適に荷重に調整されるが、必ずしも電力再生や環境発電に有効ではない。インピーダンス整合は、順方向の動力伝達と逆方向の動力伝達とで別々に定義されなければならない。歯車装置及び伝達機構における摩擦は、利用可能な動力のかなりの割合を消費することが多い。アクチュエータは、逆駆動可能ではないかもしれない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
逆駆動可能であることは、特に、物理的に人とやりとりする部類の機械にとって重要な要件である。これらの機械は、リハビリテーション訓練機械、移動補助具や身に付けるロボット(パワースーツ)を含む。これらの機械の多くは、現代先進工業国における人口の変化により、成長産業を創出している。アクチュエータは、人を移動させるだけではなく、人に適合し、安全かつ効果的に人を誘導する必要がある。この必要性を満たすため、アクチュエータは、双方向かつ相互作用的である必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様によれば、変位増幅装置は、複数の座屈型アクチュエータ部を備え、複数の座屈型アクチュエータ部を非同期的に駆動することにより、変位方向を制御する。座屈型アクチュエータ部はそれぞれ、第1及び第2線形入力アクチュエータと、第1線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第1回転接合部と、第2線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第2回転接合部と、第1及び第2線形入力アクチュエータのそれぞれの他端を互いに接合する第3回転接合部とを備える。第3回転接合部は、第3回転接合部が第1及び第2回転接合部によって規定される線上に位置する状態をゼロ変位として、第1及び第2回転接合部によって規定される線を越えていずれの方向にも変位するように接合され、配置される。複数の座屈型アクチュエータ部の第1座屈型アクチュエータ部と第2座屈型アクチュエータ部とを接合する第3回転接合部は、自由に同一平面上を移動することができ、互いに機械的に接合される。
【0009】
一実施形態において、複数の座屈型アクチュエータ部の第1座屈型アクチュエータ部を駆動することにより、複数の座屈型アクチュエータ部の第2座屈型アクチュエータ部が、第2座屈型アクチュエータ部のゼロ変位点の一方の側から他方の側に移動させられる。
【0010】
一実施形態において、第1座屈型アクチュエータ部と第2座屈型アクチュエータ部とは、空間的に位相がずれている。
【0011】
一実施形態において、第1及び第2座屈型アクチュエータ部の第1及び第2線形入力アクチュエータは、非アクティブ状態において、それぞれ、第1及び第2座屈型アクチュエータ部の第1及び第2回転接合部によって規定される線に対して非ゼロ角度である。
【0012】
一実施形態において、第1座屈型アクチュエータ部と第2座屈型アクチュエータ部とを接合する第3回転接合部は、第1及び第2座屈型アクチュエータ部の第1及び第2回転接合部によって規定される線に対し、両方とも内側にあるか、または、両方とも外側にある。
【0013】
一実施形態において、第1及び第2座屈型アクチュエータ部の第1及び第2回転接合部によって規定される線は、平行である。
【0014】
一実施形態において、第1及び第2座屈型アクチュエータ部のそれぞれの出力変位軸は同一線上にある。
【0015】
一実施形態において、第1及び第2座屈型アクチュエータ部は、略同一である。
【0016】
一実施形態において、第1及び第2座屈型アクチュエータ部のそれぞれにおいて、第3回転接合部と、第1及び第2回転接合部によって規定される線との間の、非アクティブで自然な状態での最小距離は、等しい。
【0017】
一実施形態において、第1及び第2線形入力アクチュエータは、圧電アクチュエータである。
【0018】
本発明の別の態様によれば、変位増幅装置は、複数の座屈型アクチュエータ部を備え、複数の座屈型アクチュエータ部を非同期的に駆動することにより、変位方向を制御する。座屈型アクチュエータ部はそれぞれ、第1及び第2線形入力アクチュエータと、第1線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第1回転接合部と、第2線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第2回転接合部と、第1及び第2線形入力アクチュエータのそれぞれの他端を互いに接合する第3回転接合部とを備える。第3回転接合部は、第1及び第2回転接合部によって規定される線を越えていずれの方向にも座屈するように接合され、配置される。複数の座屈型アクチュエータ部は、レールに係合され、調和的に駆動されてレール上に合力を生成する。
【0019】
一実施形態において、レールは歯車形状であり、座屈型アクチュエータ部によって生成された力がトルク出力を生成する。別の実施形態において、歯車形状のレールは、歯車減速機の低速軸に接合している。
【0020】
一実施形態において、歯車減速機の歯車箱は、個々の座屈型アクチュエータ部が共有する共通接地に堅く接合している。別の実施形態において、歯車減速機は、歯車形状のレールに囲まれている。
【0021】
一実施形態において、複数の座屈型アクチュエータ部は、レールに沿って等間隔で配置される。
【0022】
一実施形態において、第1及び第2線形入力アクチュエータは、圧電アクチュエータである。
【0023】
本発明の別の形態によれば、変位増幅装置の変位方向を制御する方法は、複数の座屈型アクチュエータ部を備え、複数の座屈型アクチュエータ部のうち第1座屈型アクチュエータ部を駆動して、複数の座屈型アクチュエータ部のうち第2座屈型アクチュエータ部を第2座屈型アクチュエータ部のゼロ変位点の一方の側から他方の側に移動させ、第2座屈型アクチュエータ部を駆動して、第1及び第2座屈型アクチュエータ部の変位の大きさを増加させることを含む。
【0024】
一実施形態において、複数の座屈型アクチュエータ部はそれぞれ、第1及び第2線形入力アクチュエータと、第1線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第1回転接合部と、第2線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第2回転接合部と、第1及び第2線形入力アクチュエータのそれぞれの他端を互いに接合する第3回転接合部とを備える。別の実施形態において、第1座屈型アクチュエータと第2座屈型アクチュエータとを接合する第3回転接合部は、自由に同一平面上を移動することができ、互いに機械的に接合される。別の実施形態において、第1及び第2座屈型アクチュエータ部が非アクティブである場合、第1及び第2座屈型アクチュエータ部の第1及び第2線形入力アクチュエータは、それぞれ、第1及び第2座屈型アクチュエータ部の第1及び第2回転接合部によって規定される線に対してある角度をなす。
【0025】
本発明の別の態様によれば、変位増幅装置は、駆動されると第1方向に変位する傾向にある第1座屈型アクチュエータ部と、駆動されると第2方向に変位する傾向にある第2座屈型アクチュエータ部とを備える。第1及び第2座屈型アクチュエータ部を非同期的に駆動することにより、座屈方向を制御し、第1及び第2座屈型アクチュエータ部のうち一方が、第1及び第2アクチュエータ部の他方によってゼロ変位点を越えさせられる。
【0026】
一実施形態において、第1及び第2座屈型アクチュエータ部はそれぞれ、第1及び第2線形入力アクチュエータと、第1線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第1回転接合部と、第2線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第2回転接合部と、第1及び第2線形入力アクチュエータのそれぞれの他端を互いに接合する第3回転接合部とを備える。
【0027】
別の実施形態において、第1及び第2線形入力アクチュエータは、圧電アクチュエータである。
【0028】
本発明の発明概念の前述及び他の実施形態の目的、特徴及び利点は、異なる図において同様の参照文字が同様の構成要素を示す添付の図面に示されるように、実施形態例のより詳細な記載から明らかになるだろう。図面は必ずしも一定の縮尺ではなく、実施形態例の原理の説明を強調している。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1A】アクチュエータスタック配置の概略図である。
【図1B】本発明の発明概念の実施形態例に関わる座屈型圧電アクチュエータ部の概略図である。
【図1C】図1A及び図1Bの増幅度を示すグラフである。
【図2A】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、歪みが大きな非線形座屈型圧電アクチュエータ部の概略図である。
【図2B】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、歪みが大きな非線形座屈型圧電アクチュエータ部の概略図である。
【図3A】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、単一対座屈型アクチュエータの概略図である。
【図3B】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、二対座屈型アクチュエータの概略図である。
【図3C】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、二対座屈型アクチュエータの試作品を示す。
【図4A(1)】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、ハーモニック座屈型アクチュエータの座屈型アクチュエータ部の概略図である。
【図4A(2)】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、ハーモニック座屈型アクチュエータの断面図である。
【図4B】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、ハーモニック座屈型アクチュエータの斜視図である。
【図5A】特異点(y=0)におけるPZT座屈機構の静的モデルである。
【図5B】有限変位(y≠0)におけるPZT座屈機構の静的モデルである。
【図6】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、最大限及び半分の駆動レベル時の剛性及び力を示すグラフである。
【図7A】特異点(y=0)におけるPZT座屈機構の静的モデルである。
【図7B】有限変位(y≠0)におけるPZT座屈機構の静的モデルである。
【図8】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、最大限及び半分の駆動レベル時の剛性及び力を示すグラフである。
【図9A】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、空間的に同相の二対座屈型アクチュエータの概略図である。
【図9B】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、空間的に位相がずれた二対座屈型アクチュエータの概略図である。
【図10A】上向きの自由変位を示す二対位相シフト型座屈アクチュエータの非同期駆動時間系列を示す。
【図10B】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、下向きの自由変位を示す二対位相シフト型座屈アクチュエータの非同期駆動時間系列を示す。
【図11A】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、両方の座屈型アクチュエータ部が非アクティブである場合の二対位相不一致アクチュエータの位置エネルギー対変位のグラフである。
【図11B】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、左側の座屈型アクチュエータ部がアクティブである場合の二対位相不一致アクチュエータの位置エネルギー対変位のグラフである。
【図11C】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、両方の座屈型アクチュエータ部がアクティブである場合の二対位相不一致アクチュエータの位置エネルギー対変位のグラフである。
【図12A】連続的な並進運動を生成するのに用いられる多対線形アクチュエータの概略図である。
【図12B】上下に移動可能な出力節点として連続的な並進運動を生成するのに用いられる、多対座屈型アクチュエータの単一座屈型アクチュエータ部の概略図である。
【図12C】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、水平移動しかできないレール内で上下に移動する図12Bの多対座屈型アクチュエータの各アクチュエータ部の出力のプロットである。
【図13】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、多対並進座屈型アクチュエータの1周期の力変位を示すグラフである。
【図14】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、歯車と係合したPZT座屈型アクチュエータ部の配列の概略図である。
【図15A】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、連続運動する多対座屈型アクチュエータの並進レールの概略図である。
【図15B】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、連続運動する多対座屈型アクチュエータの回転レールの概略図である。
【図16】多対位相シフト型回転座屈アクチュエータの斜視図である。
【図17】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、回転の全周期を通じた回転座屈型アクチュエータ部の出力性能を示すグラフである。
【図18】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、ハーモニックアクチュエータの断面図を示す。
【図19A】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、高出力密度のハーモニックPZTアクチュエータの断面及び斜視図である。
【図19B】本発明の発明概念の実施形態例に関わる、高出力密度のハーモニックPZTアクチュエータの断面及び斜視図である。
【図19C】図19A及び19Bの高出力密度のハーモニックPZTアクチュエータの内側の中空歯車軸の断面及び斜視図である。
【図19D】PZT座屈型アクチュエータ部が埋め込まれた、図19A及び19Bの高出力密度のハーモニックPZTアクチュエータの外箱の断面及び斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
様々な実施形態例を、いくつかの実施形態例を示す添付の図面を参照して、より詳細に説明する。但し、本発明の発明概念は、多くの異なる形式で具体化され、本願に説明する実施形態例に限られて解釈されるべきではない。
【0031】
要素が、別の要素の「上にある」、「接続される」または「接合される」と表現される場合、直接、他の要素の上にある、接続される、または、接合されるか、または、介在要素が存在してもよいことを理解されたい。一方、要素が別の要素の「上に直接ある」、「直接接続される」または「直接接合される」と表現される場合、介在要素は存在しない。本願で、「及び/または」という語は、関連付けられて記載された項目の1つ以上のいくつか及び全ての組み合わせを含む。
【0032】
第1、第2、第3などの語は、本願では、様々な要素、構成要素、領域、層及び/または部を示すのに用いられるが、これらの要素、構成要素、層及び/または部は、これらの語に限定されないことを理解されたい。これらの語は、単に、ある要素、構成要素、領域、層または部を別の領域、層または部と区別するのに用いられる。従って、以下に記載する第1要素、構成要素、領域、層または部は、本発明の発明概念の内容から逸脱することなく、第2要素、構成要素、領域、層または部と称することができる。
【0033】
本願で用いられる用語は、特定の実施形態例を記載するためだけの目的で用いられており、本発明の発明概念を限定することを意図していない。本願において、明確に単数形であることを示さない限り、複数形を含むことを理解されたい。さらに、「包含する」や「含む」という語は、本明細書で用いられる場合、記載された特徴、整数、ステップ、動作、要素及び/または構成要素の存在を示すが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素及び/またはそれらのグループの存在または追加を除外しないことを理解されたい。
【0034】
以下、添付の図面を参照して発明概念の実施形態例を説明することによって発明概念を詳細に説明する。図面において同様の参照番号は同様の要素を示す。
【0035】
PZTスタックなどの圧電アクチュエータは、小型で、信頼性があり、安定した材料特性に加えて、高応力、高帯域幅及び高出力密度(Watts/m3)の特性を有する。多くの非電磁性アクチュエータ材料の中で、圧電アクチュエータは、歪みが非常に小さいこと以外は、実質的に有用なアクチュエータの全ての必須要件を満たす。形状記憶合金、導電性高分子や誘電エラストマなどの他のアクチュエータは、有用性や適用性を著しく限定するような重大な欠点を有する。例えば、誘電エラストマは、長持ちせず、(6000ボルトを越える)非常に高い電圧を必要とするが、エネルギー密度が小さい。また、導電性高分子は、すぐに劣化し、電解液に高分子を浸水させるための容器が必要である。圧電アクチュエータの、歪みが0.1%しかないという主な欠点は、撓み装置により解決される。これらの撓み装置により、歪みと応力の割合を100程度効果的に変えることができる。つまり、有効歪みは、10%を上回り、骨格筋に匹敵する。一方、有効応力は、100MPaを越える強い応力が維持される。このバランスのとれた性能により、多くの実際の用途に圧電アクチュエータを用いることができる。さらに、その固有の特性は新たな可能性を広げ、新しい機能を創出する。
【0036】
非常に歪みが小さいという圧電アクチュエータの欠点を克服するために、本発明の発明概念の実施形態例は、100倍程度、変位を増幅する効果的な撓み装置、すなわち、座屈型撓み装置を含む。
【0037】
座屈型撓み装置は、単段の小型の一体構造体において、100倍以上、PZTスタック変位を増幅することができる。本発明の発明概念の一実施形態において、座屈型撓み装置は、固有の力−変位非線形性及び小さな形状因子を有するので、多くの圧電座屈型アクチュエータを、小型の筐体に内蔵することができ、多くの固有の特徴を備える、高トルク小型回転アクチュエータを作ることができる。特に、以下に記載するように、座屈型撓み装置を、ハーモニック座屈型アクチュエータにおいて用いることができる。ハーモニック座屈型アクチュエータは、逆駆動可能であり、遊びがゼロであり、最大トルクが160Nmを越える高トルク及び5.6kWの高出力を有する。ハーモニック座屈型アクチュエータは、中空軸を有するか、小型のリング型である。ハーモニック座屈型アクチュエータは、変換器の容量性に加えて、低摩擦、逆駆動可能特性を活用することにより、有効電荷回収及び環境発電技術に適用できる。
【0038】
ハーモニック座屈型アクチュエータは、多くの期待できる適用領域を有する。例えば、身に付けるロボット(パワースーツ)や着用できるリハビリテーション機器に、ハーモニック座屈型アクチュエータを利用してもよい。小型建設機械、フォークリフト及び他の移動ロボットは、特に、エネルギー効率が非常に重要な場合、アクチュエータ技術を利用してもよい。
【0039】
双方向、相互作用的作動について説明する。従来の電気機械アクチュエータは、負荷インピーダンスに対応するために巨大な歯車減速機を備える。これらの歯車装置を備える従来の電気機械アクチュエータは、荷重を移動させるのに用いられてもよい。しかし、これらの従来の電気機械アクチュエータは、多様な機能を有さない。電動機を有する建設機械にとって、電力再生は、電力効率の必須要件である。しかし、歯車減速機は、逆駆動する場合、摩擦による著しい損失のため、電力再生及び環境発電に悪影響を引き起こす。従来のアクチュエータ及び変速装置の設計は、アクチュエータから荷重への一方向の動力伝達という伝統的なパラダイムに追随している。電力再生及び環境発電は逆方向の動力伝達であり、アクチュエータ−減速機システムが順方向の動力伝達のためだけに最適化されていた場合、最適化されない。双方向、相互作用的アクチュエータ−の荷重整合は、本発明の実施形態例で検討される。
【0040】
ソフトアクチュエータ及びそのリハビリテーション訓練への適用について説明する。あらゆる電子機械、ロボット及び車両システムは、荷重としての環境と相互作用する。例えば、脳卒中患者用のリハビリテーション訓練機械は、患者の腕を所与の方向に促したり、押したりしながら、適切な強さで腕を拘束することで患者の腕を導く。訓練機械は、患者の腕を単に押すだけではなく、患者の動きにある程度従う必要がある。そのため、アクチュエータシステムは、逆駆動可能で、剛性に対して調整可能である必要がある。高い歯車減速比を有する従来の電気機械アクチュエータは、摩擦のためにこれらの要件を満たすことができない。リハビリテーションの研究により、訓練効率を最大限に高めるために、剛性を患者毎に調整する必要があることが分かった。多様な剛性に調整可能な機能を有する双方向、相互作用的アクチュエータが、リハビリテーション機械に必要である。
【0041】
電力効率及び電荷回収について説明する。圧電変換器は、一般的に容量性であり、誘導性である電磁変換器とは基本的に異なる。電磁変換器でトルクを生成すると、巻き線に電流が生じ、必然的に電力P=Ri2を消費する。一方、圧電変換器において一定の力を維持するのに電力は消費されない。圧電容量に一定の電荷が維持される限り、電流は必要ないため、電力は消費されない。圧電アクチュエータは、概して電力効率がよいが、特に、長期間一定の荷重を担うのに効率的である。基本的に原理が異なるため、電磁変換器と圧電変換器との効率を単に比較することは難しいが、変換器の容量性を有効に用いれば、圧電変換器の電力効率はさらに高められる可能性がある。
【0042】
PZTスタックに蓄積される電荷は特殊回路で回収することができる。電荷を接地に放電する代わりに、圧電変換器に蓄積された電荷を別の容量性蓄積構成要素に移動させること、またはバッテリーに戻すことができる。命令された参照が周期的である場合、必要なのは、PZTスタックと蓄積容量との間で電荷を移動させることだけである。バッテリーは、配線及び関連する切替回路の寄生抵抗による損失の補償にのみ消費される。
【0043】
共振:力学の活用について説明する。内蔵された撓み装置を有するPZTスタックアクチュエータは、振動する質量−ばね系を形成する。共振周波数で振動する場合、アクチュエータの出力変位は、静的な振幅よりも著しく大きくなる。動物の歩行は共振を利用していることが知られており、生物学的な発想に基づくロボットは、電力効率の良い運動にこの種の共振力学を利用する。本発明の発明概念の実施形態におけるPZTスタックアクチュエータの固有の動特性は、脚型ロボットだけでなく、アクチュエータが、特定周波数で周期的な繰り返し動作を生成しなければならないような広い分野の機械に有用である。
【0044】
セルラー方式の圧電アクチュエータのもう1つの顕著な特徴は、共振周波数が広い範囲で変更可能であることである。これにより、アクチュエータを、タスクおよび環境に調整された整合した力学で駆動することができる。周期運動の周波数に応じて、アクチュエータシステムは、その共振周波数を合わせ、その動的プロフィールを調整して所望の動作が最小消費電力または最大動力伝達で生成されるようにする。この可変共振及び調整可能力学の固有の特徴は、より強力で一般的な方法にさらに拡張され、実際のタスクに適用してもよい。
【0045】
環境発電について説明する。より先進的な適用としては、環境発電が重要な問題である。例えば、長期に亘る天然資源の探査用の深海ロボットにおいて、搭載されるバッテリーは限られているため、バッテリーを頻繁に再充電することが必要であり、ロボットが充電所に戻らなければならない場合、探査タスクを妨げてしまう。その代わりに、ロボットが海底で電流からエネルギーを取り入れることができれば、充電所に戻らずに、長期間に亘る任務を遂行することができる。
【0046】
本発明の発明概念の実施形態における圧電アクチュエータは、環境発電を利用した長期間に亘る任務遂行能力に対する効果的な解決策である。同じ圧電変換器が、順方向においては動作の生成及び逆方向においては環境発電という、アクチュエータ及びジェネレータの両方として用いられる。大型の歯車減速機を備える従来の電磁アクチュエータと異なり、圧電アクチュエータは、低摩擦のため最小損失で完全に逆駆動可能である。双方向の実施形態により、システムは、作動及び生成の両方において効果的になる。さらに、共振周波数は調整可能なので、環境発電効率が非常に高まる。圧電変換器の環境発電能力は、変換器が荷重と共振し、共振周波数で振動する場合、最適化される。調整可能な力学能力により、圧電アクチュエータは、共振周波数を適応的に調整することにより、環境発電に最適な条件の下、動作する。
【0047】
PZTスタックアクチュエータの基礎、理論的限界について説明する。多くのPZT薄膜の層及び電極を有するPZTスタックにおいて、Aは、スタックの断面積であり、lは、長さである。無荷重での最大応力は、σで示され、無応力下での歪みは、εで示される。歪みと応力との関係が線形であると仮定すると、アクチュエータによって、荷重を非駆動状態から駆動状態に移行させる際、適合された剛性で荷重に行われる作業は、以下の式により与えられる。
この作業がωHzの周波数で繰り返されると、荷重に伝達される力は、以下の式で表わされる。
標準的なPZTスタックは、εmax=0.1%及びσmax=100MPaを有する。帯域幅の理論的限界は、10kHz程度であるが、中程度から軽い負荷の用途のPZTスタックアクチュエータの利用可能範囲は、1kHz(ω=1kHz)である。そのため、単位体積当たりの電力密度は、以下の式で表わされる。
A=50mm×50mm=2.5×10-3m2及びl=10cm=10-1mのPZTスタックが用いられる場合、最大出力は、Pmax=6.25kWである。これは、電磁アクチュエータ、導電性高分子、誘電エラストマ及び形状記憶合金を含むあらゆるアクチュエータ材料だけでなく、骨格筋よりも性能が優れている。
【0048】
l=10cm=10-1mのPZTスタックの最大自由変位は、0.1mmしかない。250kNの大きな力が生成されても、アクチュエータの有用性は、このような小さな変位により限定されてしまう。有効な出力変位を得るために、力−変位割合を約100以上変える必要がある。そのため、歪み増幅が重要な問題である。しかし、歪み増幅は、適切に設計されないと、有効応力と帯域幅の両方を著しく低下させてしまう。図1Aは、スタック配置内の歪み増幅運動学を示し、図1Bは、スタック配置外の歪み増幅運動学を示し、図1Cは、スタック配置内とスタック配置外の歪み増幅運動学の増幅率を示す。
【0049】
歪み増幅機構について説明する。図1Aは、多くの市販の製品に用いられる機構を示す。図1Aは、機構の上半分のみを示し、下半分を加えると全体構造はひし形になる。図1Aのスタック配置は、PZTスタック10及び回転接合部12を含む。PZTスタック10は、三角形の水平縁上に設置され、自由接合部に接続された上部の2端部は、剛性リンクである。PZTスタック10と端部のうち1つとの角度θが小さい場合、垂直方向の変位は、PZTスタック10によって水平方向に形成される変位よりもずっと大きい。図1Cは、入力xから出力yへの増幅率、dy/dx=−cot(θ)を示す。角度θが小さくなるにつれて、増幅利得も増加する。多くの実際条件及び設計取り決めを考慮すると、約5から10の増幅利得が図1Aの実施形態で得られる。上述したように、広範な用途に用いられるアクチュエータとして当該機構を用いるために、利得100が必要とされる。これを達成するために、座屈撓み方法が用いられる。
【0050】
図1Bは、座屈型圧電アクチュエータ部の概略図である。図1Bの座屈型圧電アクチュエータ部は、一対の圧電スタック14、キーストーン出力節点18及び回転接合部16を備える。
【0051】
図2A及び図2Bは、一対の圧電スタック14及び一体構造体22を備える、歪みが大きな非線形座屈型圧電アクチュエータ部の概略図である。一体構造体22は、キーストーン出力節点18と、両側に設置された端部支持部20との間の圧電スタック14を機械的に接地する。端部支持部20及びキーストーン出力節点18は、回転接合部16を介して圧電スタック14に接続される。
【0052】
100程度の大きな増幅利得を得るための別の方法に、運動学的非線形性の利用がある。図1Cに示すように、角度θがゼロ、すなわち、特異点に近づくにつれて増幅利得は、無限大になる。図1Bは、θ=0での運動学的特異性を利用する歪み増幅撓み装置の概略図を示す。PZTスタック14は、駆動されると、伸長し、縦方向に沿って大きな応力を生成する。2つのPZTスタック14が一直線になっている場合、縦方向の力は相殺され、不安的均衡を作り出す。任意の外乱により、2つのPZTスタック14は、図1B及び2Bに示すように座屈する傾向にある。図1B及び2Bに示すように、Lは、各PZTスタック14の静止長であり、Δlは、PZTスタック14のアクティブな状態の静止長または各PZTスタック14の伸長分であり、yは、キーストーン出力節点18の垂直変位である。図1Cは、出力yから出力Δlへの増幅率、dy/dl=csc(θ)を示す。変位増幅率、G=Δy/Δlは、yがゼロに近付くにつれて無限大になる傾向にある。Δlについて、運動学関係式、y2=(L+Δl)2−L2を微分して、上位の少数を無視すると、以下の増幅率Gが得られる。
これは一種の運動学的特異性である。有限の圧電変位にとっても、この増幅利得Gは非常に大きい。座屈機構は、非常に大きな変位増幅をもたらすが、座屈は、概して予測不可能で異常な現象であるので、制御が困難である。出力節点18が移動する方向は、上方か下方か分からない。また、出力キーストーンを中間点を越えて一方から他方に準静的に移動させることもできない。一旦上方に移動すると、出力節点18は上方にとどまり、逆もまた同様である。この移動は単極駆動であり、出力キーストーン18の1往復は、考えられる変位全体の半分である。従って、座屈方向を制御すること、及び、一旦座屈が起こった場合、特異点を通ってもう一方へ移動可能であることの両方が望ましい。この双極駆動を実現するために、従来の方法は、付加的な機械的剛性要素を利用していた。別の取り組みでは、座屈型アクチュエータ部同士で異なる空間的位相差を有するように、多数の座屈アクチュエータ部を並列に配置している。この配置は、座屈の非線形の運動学的及び静的特性を利用している。
【0053】
図3Aは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる単一対座屈型アクチュエータの概略図である。図3Bは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる二対座屈型アクチュエータの概略図である。図3Cは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる二対座屈型アクチュエータの試作品を示す。図3Aは、PZTスタック14が駆動される場合の座屈型アクチュエータの変位を示す。図3B及び図3Cに示すように、二対のPZT座屈型アクチュエータ部13及び15を並べて配置し、上側または下側のPZT座屈型アクチュエータ部を選択的に駆動することにより、座屈方向を制御する。第1座屈型アクチュエータ部13は、一対の圧電スタック14、キーストーン出力節点18、回転接合部16、一体構造体22及び端部支持部20を備える。第2座屈型アクチュエータ部15は、一対の圧電スタック14a、キーストーン出力節点18a、回転接合部16a、一体構造体22a及び端部支持部20aを備える。第1及び第2座屈型アクチュエータ部13及び15のそれぞれの出力節点18及び18aは、連結器24によって機械的に連結している。または、座屈型アクチュエータ部13及び15内で、第1及び第2PZTスタック14及び14aを選択的に駆動することにより座屈方向を制御することができる。この方法を用いて、座屈型アクチュエータ部13及び15のPZTスタック14及び14aを両方同時に駆動する代わりに、PZTスタック14及び14aの一方が駆動された後、続いて、PZTスタック14及び14aの他方が駆動される。図3Cに示される試作品は、さらに、PZTスタック14及び14aに連結される配線26を備える。
【0054】
図4Aは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、ハーモニック座屈型アクチュエータの座屈アクチュエータ部の概略図及びハーモニック座屈型アクチュエータの断面図である。図4Bは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、ハーモニック座屈型アクチュエータの斜視図である。図4A及び図4Bに示すように、ハーモニック座屈型アクチュエータ31は、回転レール/歯車33に係合された多数の座屈型アクチュエータ部32を備える。各座屈型アクチュエータ部32は、2つの入力並進運動アクチュエータ34を備える。各入力並進運動アクチュエータ34の一端は、端部支持部30によって共通接地36に堅く取り付けられた回転接合部35の周囲を回転するように強いられる。各入力並進運動アクチュエータ34の他端は、座屈型アクチュエータ部32の出力部であるもう1つの回転接合部38を介して、出力単軸37に沿って同じ座屈型アクチュエータ部32の別のアクチュエータともに移動するように強いられる。各座屈型アクチュエータ部32が駆動されていない、自然な状態の構成において、入力アクチュエータ34は、アクチュエータ部が接地された回転接合部35同士を結ぶ線分39と略同一線上になる。線分39は、レール/歯車33の出力軸40と平行である。駆動された状態では、入力アクチュエータ34は、縦軸に沿った変位を示し、その結果、座屈型アクチュエータ部32が線分39を横断する方向に変位する。座屈型アクチュエータ部32は、その回転接合部または出力部38が、林立するレール/歯車33内で空間的に位相が制御されるように、レール/歯車33の周囲に配置される。座屈アクチュエータ部32のハーモニック駆動により、レール/歯車33上の出力軸40の周囲にトルクが生成される。レール/歯車33の中空部は、遊星歯車箱、サイクロ駆動装置またはハーモニック駆動装置などの歯車減速機41を囲む。レール/歯車33は、歯車減速機41の低速軸42に接続している。座屈型アクチュエータ部32の支持部44は、互いに、及び、歯車減速機41の歯車箱43に堅く接続している。高速軸45は、ハーモニック座屈型アクチュエータ31全体の出力軸である。
【0055】
単一部の運動学的モデルについて説明する。単一座屈型アクチュエータ部の準静的性能を分析するために、アクチュエータを、図5A及び図5Bに示すような2本のばね50のシステムとしてモデル化する。図5Aは、特異点(y=0)におけるPZT座屈機構の静的モデルである。図5Bは、有限変位(y≠0)におけるPZT座屈機構の静的モデルである。
【0056】
ばね定数kpを有するばね50の剛性は、圧電アクチュエータの直列剛性及び接合部の圧縮剛性により決定される。ばね50のアクティブな状態での静止長はLであり、各ばね50の非アクティブな状態での静止長はL+Δlであり、Δlは、所与の駆動レベルにおける自由変位である。このモデルにより、各ばね50の位置エネルギーは、1/2kpδ2に等しくなる。この式で、δは、変位y及び駆動自由変位Δlの幾何学的関数としてのばね50の静止長からの偏差である。出力変位に応じた様々な駆動レベルにおける、2つのばね50のシステムの位置エネルギーUは、図6に示すように算出される。図6は、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、最大限及び半分の駆動レベル時の剛性及び力を示すグラフである。出力方向における力Fは、−dU/dyを算出することにより求められ、剛性は、d2U/dy2を算出することにより求められる。図6には、市販のPZTスタックを有するアクチュエータの試作品についての剛性及び力が描かれる。図6は、2つの駆動レベルである半分及び最大限の駆動について、出力節点の位置に応じた出力軸に沿ったアクチュエータの出力節点の剛性及び力を示す。
【0057】
別の実施形態において、単一座屈型アクチュエータ部の準静的特徴を分析するため、アクチュエータを、図7A及び図7Bにそれぞれ示すように、ばね定数kp及kaを有する4つのばね70及び72のシステムとしてモデル化する。図7Aは、特異点(y=0)におけるPZT座屈機構の静的モデルであり、図7Bは、有限変位(y≠0)におけるPZT座屈機構の静的モデルである。ばね定数kpを有する2つの線形ばね70は、PZTスタックの全剛性、及び、PZTスタックの縦方向に沿った撓みを表す。ばね定数kaを有するもう一方の2つのばね72は、両方のPZTスタックにおける、角変位に関連付けられた撓みの全回転剛性を表す。4つのばね70及び72に蓄えられる全歪みエネルギーは、以下の式によって与えられる。
左側及び右側の両方のPZTスタックの線形変位、ΔLL,ΔLR及び、庁側の回転変位、ΔθL,ΔθRは、PZTスタックの駆動レベルuL及びuR、及び、出力変位yの関数である。従って、位置エネルギーUである歪みエネルギーは、uL、uR及びyの関数:U(uL、uR、y)である。
【0058】
出力方向の出力の力Fは、出力yに対して位置エネルギーを微分することによって求められ、F=−dU/dy、剛性は、二次導関数、d2U/dy2を算出することによって求められる。図8は、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、最大限及び半分の駆動レベルでの剛性及び力のグラフである。図8には、市販のPZTスタックを有する小型のアクチュエータの試作品に関しての剛性及び力が描かれる。図8は、2つの駆動レベルである半分及び最大限の駆動レベルについて、出力節点の位置に応じた出力軸に沿ったアクチュエータ出力節点の剛性及び力を示す。
【0059】
図6及び図8に示す単一座屈型アクチュエータ部について、いくつか重要な特徴がある。
1)アクチュエータの大幅な変位増幅。一方向への変位は、最大限の駆動、すなわち、150Vで、1.5mmを上回る。PZTスタック(15μm)の最大自由変位と比較して、この座屈型アクチュエータは、100倍大きな変位を生成する。
2)非線形の力−変位特徴。最大の力がゼロ変位(y=0)においてではなく、ストローク中間において生成される。また、特異点であるy=0において、力は生成されない。
3)変動剛性。特異点付近では、剛性は、ゼロまたはマイナスであるが、変位が両方向に大きくなるにつれて、剛性は急激に高まる。
【0060】
上述した2番目の特徴である非線形の力−変位特徴は、PZTスタック固有の特性、及び、変位がない場合に阻止力であるピーク力が生成される従来の歪み増幅機構と著しく異なる。従来の歪み増幅機構の出力の力は、変位が大きくなるにつれて単調に減少する。一方、本発明の発明概念の実施形態例の座屈アクチュエータは、ストローク中間においてピーク力を生成する。この非線形の力−変位の関係は有用である。
【0061】
さらに、座屈型アクチュエータは、剛性が、特異点付近で、非ゼロ駆動レベルで、ゼロまたはマイナスになるという、固有の剛性特徴を示す。この特徴は、多数のアクチュエータ部を配列するのに有用である。1つのアクチュエータ部が特異点付近で移動すると、他のアクチュエータ部から効果的に離れるので、力を生成している他のアクチュエータ部の荷重にならない。座屈型アクチュエータのこれらの特徴を用いることによって、大きな二極変位及び改善された力−変位特徴を実現する、多くのアクチュエータ部を有するアクチュエータを、機械的衝突を最小にして生成することができる。
【0062】
二対並進運動座屈型アクチュエータ、位相配列駆動について説明する。図3B及び図3Cに示すように、2つの座屈型アクチュエータ部は、平行に配置される。図3B及び図3Cに示すように、各座屈型アクチュエータ部13及び15は、2つの入力並進運動アクチュエータ14及び14aを備える。図9Aは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、空間的に同相の二対座屈型アクチュエータの概略図を示す。図9Bは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、空間的に位相がずれた二対座屈型アクチュエータの概略図を示す。単一座屈型アクチュエータは、特異点付近において、基本的にシステムから取り外すことができるので、二対座屈型アクチュエータにおいても同様に、2つのアクチュエータ部の出力節点を連結器24に機械的に接続し、それぞれ、特異点付近において、互いにほとんど干渉させないことができる。図9Aに示すように2つの座屈型アクチュエータ部13及び15が同相である場合、各座屈型アクチュエータ部13及び15は、他方が離れた場合にのみ離れる。座屈型アクチュエータ部13及び15が同相方向である場合、アクチュエータは、互いに離れることができるという単一座屈型アクチュエータ部の能力を利用できない。しかし、図9Bに示すように、2つの座屈型アクチュエータ部13及び15の位相がずれている場合、一方のアクチュエータ部が特異点の付近にある場合、他方は、より大きい力を生成することができる。このように、一方のアクチュエータ部が効果的に離れることができる場合、他方のアクチュエータ部が、出力荷重に影響を与えることができる。
【0063】
図9Bに示すように、非活性平衡角θ0が小さい場合、一対の座屈型アクチュエータ部13及び15の座屈方向は制御される。図10Aは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、上向きの自由変位を示す二対位相シフト型座屈アクチュエータの非同期駆動時間系列を示し、図10Bは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、下向きの自由変位を示す二対位相シフト型座屈アクチュエータの非同期駆動時間系列を示す。図10A及び図10Bの両図において、t1において、座屈型アクチュエータ部は両方とも非アクティブである。一方の座屈型アクチュエータ部を駆動し、他方を駆動しないことにより、特異点を通って非アクティブな座屈型アクチュエータ部の出力節点を押す場合、制御は可能である。図10Bにおいて、上部の座屈型アクチュエータ部は、駆動されると、下方に変位する傾向にあり、下部の座屈型アクチュエータ部は、駆動されると、上方に変位する傾向にある。図10A及び図10Bにおいて、時間t2では、一方の座屈型アクチュエータ部が駆動しており、図10Aでは、下部の座屈型アクチュエータ部が駆動し、図10Bでは、上部の座屈型アクチュエータ部が駆動している。どちらの場合も、アクティブなアクチュエータ部は、非アクティブなアクチュエータ部を押して特異点を通過させる。アクチュエータ部の両方の出力節点が特異点に対して同じ側にある場合、図10A及び図10Bの時間t3に示すように、両方を駆動することにより、更なる変位が起こる。このためには、上部及び下部の座屈型アクチュエータ部を非同期的、または、時間的に位相をずらして駆動する必要がある。図10A及び図10Bは、段階的な駆動により、出力節点を上方または下方に移動させることができることを示す。このように、位相配列アクチュエータは、空間的に位相をずらすこと、及び、時間的に位相をずらして駆動することの両方を利用する。
【0064】
二対アクチュエータシミュレーションについて説明する。単一座屈型アクチュエータのシミュレーションと同様に、圧電アクチュエータの直列剛性及び接合部の圧縮剛性を、ばねとしてモデル化し、圧電アクチュエータの駆動レベルを、それらのばねの静止長を効果的に変えることでモデル化する。これらの駆動シナリオの位置エネルギー値を、図11Aから図11Cに示す。図11Aは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、両方の座屈型アクチュエータ部が非アクティブである場合の、二対位相不一致アクチュエータの位置エネルギー対変位のグラフである。図11Bは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、左側の座屈型アクチュエータ部がアクティブである場合の二対位相不一致アクチュエータの位置エネルギー対変位のグラフである。図11Cは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、両方の座屈型アクチュエータ部がアクティブである場合の二対位相不一致アクチュエータの位置エネルギー対変位のグラフである。グラフは、安息角θ0の2つの異なる値、すなわち、0.3度及び1.0度についての位置エネルギーを示す。
【0065】
図11Aに示すように、両方の座屈型アクチュエータ部が非アクティブである場合、ゼロ変位において1つの位置エネルギーの落ち込みが存在する。出力位置に関わらず、ゼロ変位位置への復元力が存在する。すなわち、アクチュエータ部の一方の出力節点が特異点を越えて延びたとしても、アクチュエータは、復元力を与える。これは、安息角θ0に関係なくあてはまる。
【0066】
図11Bに示すように、1つの座屈型アクチュエータ部がアクティブである場合、変位値ゼロにおいて位置エネルギー関数に非ゼロの傾斜が存在する。すなわち、静止位置において、出力節点が一方向に押される。図11Bのθ0=1.0度では、エネルギーの落ち込みは1つだけ存在し、力を受けない安定位置が1つだけ存在することを示す。これは、この特定の実施形態では、静止位置に対して常に好ましい側に力が存在するようにしているからである。しかし、一実施形態において、図11Bのθ0=0.3度に示すように、安息角θ0が小さい場合、静止位置に対して両側に1つずつ、2つのエネルギーの落ち込みが生成される。2つの平衡位置でさえ、静止位置でのエネルギー曲線の傾斜は、非ゼロであり、出力は、静止位置にある場合、好ましい方向に押される。エネルギーの落ち込みを1つだけ有する実施形態を用いることによって、出力をより正確に制御することができるが、図11Cに示すように、両方の座屈型アクチュエータ部を駆動する方が、アクチュエータ内において、入力アクチュエータからのより多くのエネルギー量が歪みエネルギーに変換されるため、効率的である。
【0067】
両方の座屈型アクチュエータ部をアクティブにすると、2つの対称的な力を受けない平衡点が存在する。両方の座屈型アクチュエータ部を駆動することで得られる平衡変位は、座屈型アクチュエータ部を1つだけ駆動することで得られる最大の大きさ(1または2)の平衡点よりも、より大きい。また、両方の座屈型アクチュエータ部をアクティブにすることで得られる最大の力は、座屈型アクチュエータ部を1つだけアクティブにすることで得られる力よりも大きい。これは、図11Cのマイナス方向ストローク中間の最大傾斜が、図11Bのマイナス方向ストローク中間の最大傾斜よりも大きいことによって示される。このように、シミュレーションによって、一方の座屈型アクチュエータ部を駆動し、出力がゼロ変位点を越えた後に、引き続き、もう一方の座屈型アクチュエータ部を駆動することで、座屈型アクチュエータ部の座屈方向を制御することができることが分かる。
【0068】
多対並進運動座屈型アクチュエータについて説明する。空間的に分散された複数の座屈型アクチュエータ部は、複数のアクチュエータ部を連携させることで、並進運動を生成する。図12Aは、連続的な並進運動を生成するのに用いられる多対線形アクチュエータの概略図を示す。図12Bは、上下に移動可能な出力節点として連続的な並進運動を生成するのに用いられる、多対座屈型アクチュエータの1つの座屈アクチュエータ部の概略図を示す。図12Cは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、水平移動しかできないレール内で上下に移動する図12Bの多対座屈型アクチュエータの各座屈型アクチュエータ部の出力のプロットを示す。図12Aは、線形アクチュエータ120のグループが波形レール122と係合、連携して表面を押す機構121を示す。アクチュエータ120が波の位置と同調して同期すると、推進量は水平方向に生成される。この原理は、図12B及び図12Cに示すように、座屈型アクチュエータに適用できる。
【0069】
図12Bに、単一の座屈型アクチュエータ部124を、上下に移動可能な出力節点126として簡易に図示する。図12Cにおいて、水平移動しかできないレール127内で、各座屈型アクチュエータ部124の出力は、上下に移動する。出力節点126は、レール127と係合するが、レール127内を自由に摺動可能であるため、レールは、座屈型アクチュエータ部124の上下運動によって左右に力を受ける。座屈型アクチュエータ部124は、レール127の波を通過するのに十分大きく変位する。図示されるレール127の半分の区間において、座屈型アクチュエータ部124からの上方の力がレール127をレール方向128の右側に押す。
【0070】
複数のアクチュエータ部を用いることにより、アクチュエータ部は、レールが移動した任意の距離においてレールに正味推力を与えることができ、それぞれの特異点の通過を互いに助け合うことができる。
【0071】
図12Cに示すレール127に沿って周期的に繰り返される領域には4種類ある。図12Cのレール127の隣に、各座屈型アクチュエータ部が、アクティブ及び非アクティブ状態の両方において、位置yに応じてレール127に与えることができる力のプロットを示す。力のプロット及びレール図に示すように、座屈型アクチュエータ部が推進力を生成することができない、レールに沿った2種類の領域があり、力ゼロ領域と分類される。1つの力ゼロ領域は、座屈型アクチュエータ部124が、レール127の真ん中の特異点付近にある場合に起こる。座屈型アクチュエータ部124は、特異点において力を生成することはできない。もう1つの力ゼロ領域は、レールがゼロ傾斜を有し、座屈型アクチュエータ部によって左右に押されない、座屈型アクチュエータ部124の最大変位において起こる。他の2つの領域は、力が強い領域である。図12Cで圧縮領域と分類された領域は、座屈型アクチュエータ部124が、能動的に圧縮状態にあり、特異点から離れる領域である。もう1つの緊張領域と分類された領域は、非アクティブな座屈型アクチュエータ部124が緊張状態にあり、特異点に向かう領域である。非アクティブな座屈型アクチュエータ部124は、非アクティブな座屈型アクチュエータ部を特異点を越えて押すレール127と係合しているため、特異点を通過する。これらの力領域は、レール上の力方向が逆転すると、圧縮領域と緊張領域とが入れ替わる。
【0072】
考えられるあらゆるレール位置において、レール127を両方向に押すことができることが望ましい。これは、図12Cに示すように、レール127に沿って座屈型アクチュエータ部124の位置を距離Δだけずらすことで達成される。圧縮領域は、レール127に沿って、レール127の区間ごとに2回繰り返される。従って、4つのアクチュエータ部について、位相シフトは、レールの周期長の1/8+n/2倍であり、nは、任意の整数である。この位相シフトにより、1つの座屈型アクチュエータ部は、確実にレールの全ての位置について、上記の4つの領域のそれぞれに存在する。レールは、座屈型アクチュエータ部の時間的に段階的な駆動によって左または右に進む。
【0073】
図13は、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、多対並進運動座屈型アクチュエータの力変位関係の1周期のグラフである。位相配列型多対レールアクチュエータの性能は、図13に示される。位置エネルギーに基づいたシミュレーションは、図13の力変位関係を生成するのに用いられる。このシミュレーションでは、座屈型アクチュエータ部からレールへの理想的な力の伝達が仮定される。すなわち、レールは、座屈型アクチュエータ部と比較して非常に堅く、歪みエネルギーを蓄えず、摩擦が無視されると仮定する。また、座屈型アクチュエータ部からのゼロ張力が、レール上の合力に与えられると仮定する。レールは、一定傾斜1を有すると仮定するが、レールの形状を変更して、特定の用途の出力−変位関係を形成することもできる。
【0074】
レールが進むと、4つの座屈型アクチュエータ部が次のそれぞれの領域に遷移する。各アクチュエータ部が全てのレール位置の各領域に存在するので、力−変位曲線は、遷移ごとに繰り返される。遷移は、レールの周期長の1/8ごとに起こる。
【0075】
圧縮領域にあるアクチュエータ部のみがレールに力を与える。1つの座屈型アクチュエータ部が圧縮領域を出ると、別の座屈型アクチュエータ部が圧縮領域に入る。従って、レール上の正味の力は、図13に示すように、どんな時でも2つの座屈型アクチュエータ部の合わせた力である。図13は、多対並進運動座屈型アクチュエータの力変位関係の1周期のシミュレーションを示す。曲線は、座屈型アクチュエータ部が、力が大きい圧縮領域に入ることにより徐々に上昇し、座屈型アクチュエータ部が、力が大きい圧縮領域から出ることによりゼロに下がる。
【0076】
図13は、レールが前進するにつれて、力の波が起こることを示す。この波は、座屈型アクチュエータ部がレール上の異なる領域に入る度に、レールの1周期ごとに8回繰り返される。この波は、2つの方法で形成される。1つは、レールの形状が、一定角度の傾斜以外であり、瞬間的なレールの傾斜が、座屈型アクチュエータ部からレールへの力の伝達割合の値となる方法である。2つ目は、より多くの座屈型アクチュエータ部を用いて、波の相対振幅を減少させ、リップル周波数を上げる方法である。
【0077】
一実施形態例において、PZTアクチュエータの配列は、歯車が継続的に回転するように1つずつ歯車の歯を押す。有効な歪み増幅機構がなければ、PZTスタックのストロークは、小さすぎて各歯を越えることができない。例えば、圧電セラミックアレイを用いる超音波モータは、歯車を用いず、摩擦駆動機構を用いる。このようなアクチュエータは、荷重が小さい用途に限られ、大きな荷重や変動荷重には用いることができない。摩擦は、予荷重または圧電素子に加えられる圧力で調整することは難しい。摩擦装置では、不要なスリップや破損を防ぐことができない。また、摩擦装置を有する超音波モータは、逆駆動することができない。さらに、摩擦装置を有する超音波モータは、剛性制御機能や環境発電機能を有さない。摩擦装置は、摩擦より大きな荷重には耐えられず、逆駆動力が摩擦を越える場合、単に滑ってしまう。従って、歯車の歯をそれぞれ押すことは、大きな荷重の用途において特に有利な、より確実な手段である。歯車の歯の高さが1ミリメートル程度の一実施形態例において、100倍程度のPZTの増幅利得が必要とされる。
【0078】
本発明の発明概念の実施形態例の座屈型アクチュエータは、単段増幅撓み装置のこの要件を満たす。図14は、歯車142と係合したPZT座屈型アクチュエータ部140の配列の概略図を示す。図14は、歯車142の歯と係合した位相配列アクチュエータ140を示す。一実施形態において、歯の高さhは、約2から10mmである。歪み増幅利得が100であると仮定すると、PZTアクチュエータに必要なストロークを達成できる。すなわち、20から100mmの長さのPZTスタックが、20から100μmの出力変位を生成することができる。PZTスタック変位に100を乗算することにより、2から10mmのストロークが生成される。歯車142は、ピッチpを有する。図14に示すように、複数のPZT座屈型アクチュエータ部140が、異なる位相角を有して水平軸に沿って配置される。例えば、図14は、90度離された4つのPZT座屈型アクチュエータ部を示す。これらのPZT座屈型アクチュエータ部を適切な位相シフトで駆動することにより、レール方向141において、アクチュエータブロックと歯車の歯との水平変位が生成される。水平方向のけん引力は、歯車の歯の傾斜及び可動部品の摩擦によって決定される。
【0079】
多対回転座屈型アクチュエータについて説明する。上述の並進運動アクチュエータの実施形態で利用された周期的な波を有する直線状のレールを、図15Bに示すように、回転アクチュエータの実施形態で利用される周期的な波を有する再循環レールに置き換えてもよい。図15Aは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、連続運動する多対座屈型アクチュエータの並進レールの概略図を示す。図15Bは、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、連続運動する多対座屈型アクチュエータの回転レールの概略図を示す。図15Aの並進レール151は、並進レール151と係合した座屈型アクチュエータ部150を含む。
【0080】
多対座屈型アクチュエータ部152が図15Bの回転レールに力を加える方法は、図14及び図15Aに示すように、並進レールに力を加えるのに用いられる方法と似ている。図15Bにおいて、多対座屈型アクチュエータ部152は、使用されている座屈型アクチュエータ部の数で割った波の周期の半分に等しい位相差で、レール153の周囲に配置される。回転レールは、堅い歯車でもよい。
【0081】
図15Bの回転アクチュエータは、図4Bのハーモニック駆動減速機構と似ている。ハーモニック駆動装置は、堅い円形スプライン内でフレクスプラインを駆動するウェーブジェネレータを備える。同様に、回転座屈型アクチュエータは、フレクスプラインのように内歯スプラインと相互作用させる座屈型アクチュエータ部を有する堅い内歯スプライン/レールを有する。座屈型アクチュエータ部152を、ハーモニック駆動装置のようにウェーブジェネレータによって駆動する代わりに、特定の時間位相差で駆動して、堅い内部歯車153に沿って波のような動きを生成する。
【0082】
図16は、多対位相シフト型回転座屈型アクチュエータの斜視図である。図16に示すアクチュエータは、自由回転を強いられた堅い内部レール163を駆動する8個の座屈型アクチュエータ部161を備える多対回転座屈型アクチュエータである。座屈型アクチュエータ部の出力節点は、レール163をたどるように制約される。レール163は、1/4πラジアンの振動周期を有する。座屈型アクチュエータ部161は、レール周期の1/16だけ位相をずらされる。この場合、レール周期の1/16は、1/64πラジアンである。
【0083】
図16において、位相配列座屈型アクチュエータ部161は、回転レール/歯車163を囲む。各座屈型アクチュエータ部は、歯車軸160の中心付近で歯車163と接触する。座屈型アクチュエータ部の支持板162が、接地され、歯車軸160が自由に回転する場合、座屈型アクチュエータ部161を時間的に段階的に駆動することにより、歯車軸160は、矢印164に示すように回転する。図16の歯車軸160は空洞である。アクチュエータ内のこの空洞は、あらゆる用途に特定の理由で有用である。
【0084】
図17は、本発明の発明概念の実施形態例に関わる、回転の全周期を通じた回転座屈型アクチュエータ部の出力性能を示すグラフである。図17に示すように、並進運動アクチュエータの力の波に似たトルクの波が起こる。トルクの波は、歯車形状にすること、及び/または、より多くの座屈型アクチュエータ部を内蔵することによって、同様に形成され、緩和される。図17のトルクの波の平均トルクに対する比率は、図13の力の波の平均力に対する比率よりもずっと小さい。これは、図13では位相をずらして動作するアクチュエータ部は4個しかないが、図17では8個あるからである。
【0085】
回転座屈型アクチュエータで複数の座屈アクチュエータ部を利用する際、好ましい周波数と変位の交換がある。PZT入力アクチュエータは、出力回転周波数よりずっと高い周波数で駆動されるので、回転座屈アクチュエータ部は、周波数を利用した装置である。8周期/歯を有する歯車では、座屈型アクチュエータ部は、出力軸の1回転に対して8回循環しなければならない。回転座屈型アクチュエータ部でシミュレーションされた種類の単一の座屈型アクチュエータ部の自然周波数は、50Hzを上回る。これは、出力回転周波数が6.25Hzであることを意味する。
【0086】
回転座屈型アクチュエータ部の空洞部内に歯車減速機を備えることにより、多大なトルクが生成され、工業的規模の用途に用いられる。
【0087】
図18は、20個のPZT座屈型アクチュエータ部171及び16個の歯172を有するハーモニックアクチュエータ170の断面図を示す。図18において、nは、循環するように配置されたPZT座屈型アクチュエータ部171の数であり、mは、ピッチ半径Rの歯車の周囲の歯の数である。簡単にするために、図18に示すように、歯車の歯172の傾斜は、角度φの定数にしてある。各PZT座屈型アクチュエータ部171が有効力feffを生成した場合、円周方向の力は、摩擦がないと仮定すると、以下の式により与えられる。
frot=fefftanφ
PZT座屈型アクチュエータ部によって生成されるトルクは、以下の式により与えられる。
T=Rζnfefftanφ
ζは、デューティ比、すなわち、PZT座屈型アクチュエータ部の総数nで割ったトルク生成に寄与するPZT座屈型アクチュエータ部の数である。PZTスタックは、収縮力を生成できないので、トルクの生成に寄与できるのは、座屈型アクチュエータ部のせいぜい50%である。この例では、ζ=0.4と仮定する。最も大きなPZTスタックのうち1つは、170Nのピーク力を生成できる。平均して、有効力は、feff=100N程度である。R=200mm及びφ=45°を設定すると、20個のPZT座屈型アクチュエータ部を有するハーモニック座屈型アクチュエータのトルクは、以下の式により与えられる。
T=0.2m×0.4×20×100N×1=160Nm
【0088】
上述したように、PZTスタックは、高い帯域幅を有する。歪み増幅撓み装置により、この帯域幅は減少するが、100Hzは、達成可能である。すなわち、歯の数が、m=18である場合、ハーモニック座屈型アクチュエータの出力軸は、ω=100/18=5.56Hz=34.9rad/sの角速度で回転し、以下の出力を生成する。
P=Tω=5.58kW
【0089】
図19Aから図19Dは、高出力密度のハーモニックPZTアクチュエータを示す。図19A及び図19Bは、高出力密度のハーモニックPZTアクチュエータの断面及び斜視図である。図19Cは、内側の中空歯車軸180の断面及び斜視図である。図19Dは、PZT座屈型アクチュエータ部が埋め込まれた外箱182の断面及び斜視図である。図19Aから図19Dに示すように、ハーモニックPZTアクチュエータは、固有の中空歯車軸180構造を有する小型の高出力密度のアクチュエータである。例えば、ハーモニックアクチュエータは、物体を包みこんでもよいし、中空空間は、線を通すのに用いられてもよい。図19Cに示すように、内部中空歯車軸180は、レール/歯車183を有する。外箱182に埋め込まれたPCT座屈型アクチュエータ部185は、回転レール/歯車183を囲む。各座屈型アクチュエータ部は、中空歯車軸180の中心付近でレール/歯車183と接触する。座屈型アクチュエータ部の支持板が接地され、歯車軸が自由に回転する場合、歯車軸は、座屈型アクチュエータ部の時間的に段階的な駆動により回転する。座屈型アクチュエータ部を、ウェーブジェネレータによって駆動する代わりに、特定の時間位相差で駆動して、堅い内部歯車に沿って波のような動きを生成する。座屈型アクチュエータ部は、顕著な非線形性を有するので、これを考慮しなければならない。
【0090】
圧電装置も用いた基本的な環境発電の原理について説明する。今日のアクチュエータにとって、電力効率及びエネルギー問題は重要である。本発明の発明概念の実施形態例の圧電装置は、エネルギー効率及び電力再生/環境発電の両方において固有の利点を有する。ハーモニック座屈型アクチュエータを有するセルラー式PZTアクチュエータは、高い逆駆動可能特性を有する。エネルギーは、摩擦によってほんのわずか電力損失するのみで、荷重からアクチュエータ/ジェネレータに逆方向に伝達される。ハーモニック座屈型アクチュエータは、環境発電に利用することができる。
【0091】
本発明の発明概念の実施形態例の座屈型アクチュエータ部は、圧電セラミックスの特性、すなわち、高出力密度、高応力、高帯域幅、小型、信頼性及び安定性を利用する。さらに、本発明の発明概念の実施形態例の座屈型アクチュエータ部は、調整可能なインピーダンス、動力回収、環境発電、高効率、低摩擦及び逆駆動可能特性を提供する双方向相互作用アクチュエータを利用する。本発明の発明概念の実施形態例の座屈型アクチュエータ部は、ハーモニック座屈型アクチュエータ、筋肉アクチュエータ及び他の用途に用いられてもよい。ハーモニック座屈型アクチュエータは、高トルク、内蔵歯車減速機、遊びがゼロ、充電回復及び中空軸の特徴を有し、逆駆動可能である。筋肉アクチュエータは、低摩擦、可変剛性及びソフトな駆動の特徴を有し、逆駆動可能である。さらに、座屈型アクチュエータ部は、多くの適用領域を有する。例えば、座屈型アクチュエータ部を、リハビリテーション訓練、共振駆動及び環境発電、深海ロボット、エンドエフェクタ、パワースーツ、着用可能リハビリテーション機器及びロボット車両に利用してもよい。
【0092】
本発明を好ましい実施形態を参照して特に図示し、説明したが、当業者は、添付の請求の範囲に規定された発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、形式及び詳細の様々な修正が可能であることを理解されるだろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変位増幅装置であって、
駆動されると、第1方向に第1座屈型アクチュエータ部の変位を起こす傾向にある前記第1座屈型アクチュエータ部と、
駆動されると、第2方向に第2座屈型アクチュエータ部の変位を起こす傾向にある前記第2座屈型アクチュエータ部と、
を備え、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部を非同期的に駆動することにより、座屈方向を制御し、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の一方が、前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の他方によってゼロ変位点を越えて移動させられる、変位増幅装置。
【請求項2】
請求項1の変位増幅装置であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部はそれぞれ、
第1及び第2線形入力アクチュエータと、
前記第1線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第1回転接合部と、
前記第2線形入力アクチュエータの一端を前記共通接地に堅く接合する第2回転接合部と、
前記第1及び第2線形入力アクチュエータのそれぞれの他端を互いに接合する第3回転接合部と、
を備える変位増幅装置。
【請求項3】
請求項2の変位増幅装置であって、前記第1及び第2線形入力アクチュエータは、圧電アクチュエータである、変位増幅装置。
【請求項4】
変位増幅装置であって、
複数の座屈型アクチュエータ部を備え、前記複数の座屈型アクチュエータ部を非同期的に駆動することにより、変位方向を制御し、
前記座屈型アクチュエータ部のそれぞれは、
第1及び第2線形入力アクチュエータと、
前記第1線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第1回転接合部と、
前記第2線形入力アクチュエータの一端を前記共通接地に堅く接合する第2回転接合部と、
前記第1及び第2線形入力アクチュエータのそれぞれの他端を互いに接合する第3回転接合部と、
を備え、
前記第3回転接合部は、前記第3回転接合部が、前記第1及び第2回転接合部によって規定される線上に位置する状態をゼロ変位として、前記第1及び第2回転接合部によって規定される前記線を越えていずれの方向にも座屈するように接合され、配置され、
前記複数の座屈型アクチュエータ部のうち前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の前記第3回転接合部は、同一平面上を自由に移動することができ、互いに機械的に接合される、変位増幅装置。
【請求項5】
請求項4の変位増幅装置であって、
前記複数の座屈型アクチュエータのうち前記第1座屈型アクチュエータ部を駆動することによって、前記複数の座屈型アクチュエータ部のうち前記第2座屈型アクチュエータ部が、前記第2座屈型アクチュエータ部の前記ゼロ変位点の一方から他方に移動させられる、変位増幅装置。
【請求項6】
請求項4の変位増幅装置であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部は、空間的に位相がずれている、変位増幅装置。
【請求項7】
請求項4の変位増幅装置であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の前記第1及び第2線形入力アクチュエータは、非アクティブ状態において、それぞれ、前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の前記第1及び第2回転接合部によって規定される前記線に対して、非ゼロ角度である、変位増幅装置。
【請求項8】
請求項4の変位増幅装置であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の前記第3回転接合部は、前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の前記第1及び第2回転接合部によって規定される前記線に対し、両方とも内側にあるか、または、両方とも外側にある、変位増幅装置。
【請求項9】
請求項4の変位増幅装置であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の前記第1及び第2回転接合部によって規定される前記線は、平行である、変位増幅装置。
【請求項10】
請求項4の変位増幅装置であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部のそれぞれの出力変位軸は、同一線上にある、変位増幅装置。
【請求項11】
請求項4の変位増幅装置であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部は、略同一である、変位増幅装置。
【請求項12】
請求項4の変位増幅装置であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部のそれぞれにおいて、前記第3回転接合部と、前記第1及び第2回転接合部によって規定される線との間の、非アクティブで自然な状態での最小距離は、等しい、変位増幅装置。
【請求項13】
請求項4の変位増幅装置であって、前記第1及び第2線形入力アクチュエータは、圧電アクチュエータである、変位増幅装置。
【請求項14】
変位増幅装置であって、
複数の座屈型アクチュエータ部を備え、
前記複数の座屈型アクチュエータ部を非同期的に駆動することにより、変位方向を制御し、
前記座屈型アクチュエータ部のそれぞれは、
第1及び第2線形入力アクチュエータと、
前記第1線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第1回転接合部と、
前記第2線形入力アクチュエータの一端を前記共通接地に堅く接合する第2回転接合部と、
前記第1及び第2線形入力アクチュエータのそれぞれの他端を互いに接合する第3回転接合部と、
を備え、
前記第3回転接合部は、前記第1及び第2回転接合部によって規定される線を越えていずれの方向にも座屈するように接合され、配置され、
前記複数の座屈型アクチュエータ部は、レールに係合され、調和的に駆動されて前記レール上に合力を生成する、変位増幅装置。
【請求項15】
請求項14の変位増幅装置であって、前記レールは、歯車形状であり、前記座屈型アクチュエータ部によって生成された力がトルク出力を生成する、変位増幅装置。
【請求項16】
請求項15の変位増幅装置であって、前記歯車形状のレールは、歯車減速機の低速軸に接合している、変位増幅装置。
【請求項17】
請求項16の変位増幅装置であって、
前記歯車減速機の歯車箱は、個々の前記座屈型アクチュエータ部が共有する前記共通接地に堅く接合している、変位増幅装置。
【請求項18】
請求項16の変位増幅装置であって、
前記歯車減速機は、前記歯車形状のレールに囲まれている、変位増幅装置。
【請求項19】
請求項14の変位増幅装置であって、
前記複数の座屈型アクチュエータ部は、前記レールに沿って等間隔で配置される、変位増幅装置。
【請求項20】
請求項14の変位増幅装置であって、
前記第1及び第2線形入力アクチュエータは、圧電アクチュエータである、変位増幅装置。
【請求項21】
変位増幅装置の変位方向を制御する方法であって、
複数の座屈型アクチュエータ部を備え、
前記複数の座屈型アクチュエータ部のうち前記第1座屈型アクチュエータ部を駆動して、前記複数の座屈型アクチュエータ部のうち前記第2座屈型アクチュエータ部を前記第2座屈型アクチュエータ部のゼロ変位点の一方の側から他方の側に移動させ、
前記第2座屈型アクチュエータ部を駆動して、前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の変位の大きさを増加させる、方法。
【請求項22】
請求項21の方法であって、
前記複数の座屈型アクチュエータ部はそれぞれ、
第1及び第2線形入力アクチュエータと、
前記第1線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第1回転接合部と、
前記第2線形入力アクチュエータの一端を前記共通接地に堅く接合する第2回転接合部と、
前記第1及び第2線形入力アクチュエータのそれぞれの他端を互いに接合する第3回転接合部と、
を備える方法。
【請求項23】
請求項22の方法であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の前記第3回転接合部は、自由に同一平面上を移動することができ、互いに機械的に接合される、方法。
【請求項24】
請求項22の方法であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部が非アクティブである場合、前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の前記第1及び第2線形入力アクチュエータは、それぞれ、前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の前記第1及び第2回転接合部によって規定される線に対してある角度をなす、方法。
【請求項1】
変位増幅装置であって、
駆動されると、第1方向に第1座屈型アクチュエータ部の変位を起こす傾向にある前記第1座屈型アクチュエータ部と、
駆動されると、第2方向に第2座屈型アクチュエータ部の変位を起こす傾向にある前記第2座屈型アクチュエータ部と、
を備え、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部を非同期的に駆動することにより、座屈方向を制御し、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の一方が、前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の他方によってゼロ変位点を越えて移動させられる、変位増幅装置。
【請求項2】
請求項1の変位増幅装置であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部はそれぞれ、
第1及び第2線形入力アクチュエータと、
前記第1線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第1回転接合部と、
前記第2線形入力アクチュエータの一端を前記共通接地に堅く接合する第2回転接合部と、
前記第1及び第2線形入力アクチュエータのそれぞれの他端を互いに接合する第3回転接合部と、
を備える変位増幅装置。
【請求項3】
請求項2の変位増幅装置であって、前記第1及び第2線形入力アクチュエータは、圧電アクチュエータである、変位増幅装置。
【請求項4】
変位増幅装置であって、
複数の座屈型アクチュエータ部を備え、前記複数の座屈型アクチュエータ部を非同期的に駆動することにより、変位方向を制御し、
前記座屈型アクチュエータ部のそれぞれは、
第1及び第2線形入力アクチュエータと、
前記第1線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第1回転接合部と、
前記第2線形入力アクチュエータの一端を前記共通接地に堅く接合する第2回転接合部と、
前記第1及び第2線形入力アクチュエータのそれぞれの他端を互いに接合する第3回転接合部と、
を備え、
前記第3回転接合部は、前記第3回転接合部が、前記第1及び第2回転接合部によって規定される線上に位置する状態をゼロ変位として、前記第1及び第2回転接合部によって規定される前記線を越えていずれの方向にも座屈するように接合され、配置され、
前記複数の座屈型アクチュエータ部のうち前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の前記第3回転接合部は、同一平面上を自由に移動することができ、互いに機械的に接合される、変位増幅装置。
【請求項5】
請求項4の変位増幅装置であって、
前記複数の座屈型アクチュエータのうち前記第1座屈型アクチュエータ部を駆動することによって、前記複数の座屈型アクチュエータ部のうち前記第2座屈型アクチュエータ部が、前記第2座屈型アクチュエータ部の前記ゼロ変位点の一方から他方に移動させられる、変位増幅装置。
【請求項6】
請求項4の変位増幅装置であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部は、空間的に位相がずれている、変位増幅装置。
【請求項7】
請求項4の変位増幅装置であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の前記第1及び第2線形入力アクチュエータは、非アクティブ状態において、それぞれ、前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の前記第1及び第2回転接合部によって規定される前記線に対して、非ゼロ角度である、変位増幅装置。
【請求項8】
請求項4の変位増幅装置であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の前記第3回転接合部は、前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の前記第1及び第2回転接合部によって規定される前記線に対し、両方とも内側にあるか、または、両方とも外側にある、変位増幅装置。
【請求項9】
請求項4の変位増幅装置であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の前記第1及び第2回転接合部によって規定される前記線は、平行である、変位増幅装置。
【請求項10】
請求項4の変位増幅装置であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部のそれぞれの出力変位軸は、同一線上にある、変位増幅装置。
【請求項11】
請求項4の変位増幅装置であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部は、略同一である、変位増幅装置。
【請求項12】
請求項4の変位増幅装置であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部のそれぞれにおいて、前記第3回転接合部と、前記第1及び第2回転接合部によって規定される線との間の、非アクティブで自然な状態での最小距離は、等しい、変位増幅装置。
【請求項13】
請求項4の変位増幅装置であって、前記第1及び第2線形入力アクチュエータは、圧電アクチュエータである、変位増幅装置。
【請求項14】
変位増幅装置であって、
複数の座屈型アクチュエータ部を備え、
前記複数の座屈型アクチュエータ部を非同期的に駆動することにより、変位方向を制御し、
前記座屈型アクチュエータ部のそれぞれは、
第1及び第2線形入力アクチュエータと、
前記第1線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第1回転接合部と、
前記第2線形入力アクチュエータの一端を前記共通接地に堅く接合する第2回転接合部と、
前記第1及び第2線形入力アクチュエータのそれぞれの他端を互いに接合する第3回転接合部と、
を備え、
前記第3回転接合部は、前記第1及び第2回転接合部によって規定される線を越えていずれの方向にも座屈するように接合され、配置され、
前記複数の座屈型アクチュエータ部は、レールに係合され、調和的に駆動されて前記レール上に合力を生成する、変位増幅装置。
【請求項15】
請求項14の変位増幅装置であって、前記レールは、歯車形状であり、前記座屈型アクチュエータ部によって生成された力がトルク出力を生成する、変位増幅装置。
【請求項16】
請求項15の変位増幅装置であって、前記歯車形状のレールは、歯車減速機の低速軸に接合している、変位増幅装置。
【請求項17】
請求項16の変位増幅装置であって、
前記歯車減速機の歯車箱は、個々の前記座屈型アクチュエータ部が共有する前記共通接地に堅く接合している、変位増幅装置。
【請求項18】
請求項16の変位増幅装置であって、
前記歯車減速機は、前記歯車形状のレールに囲まれている、変位増幅装置。
【請求項19】
請求項14の変位増幅装置であって、
前記複数の座屈型アクチュエータ部は、前記レールに沿って等間隔で配置される、変位増幅装置。
【請求項20】
請求項14の変位増幅装置であって、
前記第1及び第2線形入力アクチュエータは、圧電アクチュエータである、変位増幅装置。
【請求項21】
変位増幅装置の変位方向を制御する方法であって、
複数の座屈型アクチュエータ部を備え、
前記複数の座屈型アクチュエータ部のうち前記第1座屈型アクチュエータ部を駆動して、前記複数の座屈型アクチュエータ部のうち前記第2座屈型アクチュエータ部を前記第2座屈型アクチュエータ部のゼロ変位点の一方の側から他方の側に移動させ、
前記第2座屈型アクチュエータ部を駆動して、前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の変位の大きさを増加させる、方法。
【請求項22】
請求項21の方法であって、
前記複数の座屈型アクチュエータ部はそれぞれ、
第1及び第2線形入力アクチュエータと、
前記第1線形入力アクチュエータの一端を共通接地に堅く接合する第1回転接合部と、
前記第2線形入力アクチュエータの一端を前記共通接地に堅く接合する第2回転接合部と、
前記第1及び第2線形入力アクチュエータのそれぞれの他端を互いに接合する第3回転接合部と、
を備える方法。
【請求項23】
請求項22の方法であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の前記第3回転接合部は、自由に同一平面上を移動することができ、互いに機械的に接合される、方法。
【請求項24】
請求項22の方法であって、
前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部が非アクティブである場合、前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の前記第1及び第2線形入力アクチュエータは、それぞれ、前記第1及び第2座屈型アクチュエータ部の前記第1及び第2回転接合部によって規定される線に対してある角度をなす、方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A(1)】
【図4A(2)】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【図19D】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A(1)】
【図4A(2)】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【図19D】
【公表番号】特表2013−511254(P2013−511254A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538884(P2012−538884)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/055965
【国際公開番号】WO2011/059956
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/055965
【国際公開番号】WO2011/059956
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
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