説明

座席用スイッチ及びそれを備えた電動座席

【課題】2以上の座席に共通に設けられた操作スイッチがいずれの座席から操作されたかを判別することができる座席用スイッチ、及びそれを備えた電動座席を提供する。
【解決手段】座席用スイッチ1は、各座席2に共通に設けられ着座した使用者3が操作可能な操作スイッチ12を備え、操作スイッチ12ごとに設けられた操作部電極13を介して識別信号を使用者の身体に送出する送信回路15と、座席ごとに設けられた座席部電極14により識別信号を受信する受信回路16と、を備え、受信回路16による識別信号の受信に基づき、操作スイッチ12を操作した使用者が着座する座席を判別する。送信回路15が操作スイッチ12ごとに対応する識別信号を送出すれば、受信回路16により受信された識別信号に基づいて、操作された操作スイッチ12を判別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座席用スイッチ及びそれを備えた電動座席に関し、詳しくは、2以上の座席に共通に設けられた操作スイッチがいずれの座席から操作されたかを判別することができる座席用スイッチ、及びそれを備えた電動座席に関する。
【背景技術】
【0002】
着座した使用者がその座席の位置や姿勢、暖房、空調等を調整可能とした座席は広く用いられている。使用者がそれらを調整するための操作スイッチ等は、座席ごとに設けられている場合も多い。また、複数の座席が並んで設けられている自動車等の座席では、狭い空間を有効に利用するとともに、使用者の利便を図るため、座席ごとの各種操作スイッチをまとめた操作パネルが設けられる場合もある。例えば自動車の後部座席では、そのような操作パネルが座席間の肘掛けに設けられたり、センターコンソールとして設けられたりされる。こうした場合、各座席用(右座席用、左座席用等)に備えられた各種操作スイッチが、それぞれの座席に着座した使用者によって操作されることとなる。
しかし、座席の位置・姿勢、暖房等の操作の種類が増えるに伴って操作スイッチの数が増加し、座席ごとのすべての操作スイッチを限られた面積の操作パネル等に配列することが困難になった。従来、これに対処するため、座席の切替スイッチを備えた例がある。例えば、右座席と左座席との座席切替スイッチを別個に設け、左右座席に共通の操作については、1つの操作に1つの操作スイッチが設けられる。これを用いれば、座席ごとの操作は、対象の座席が座席切替スイッチを用いて予め選択されるため、座席ごとに必要であった操作スイッチの数を大幅に減らすことが可能である。
また、車両の隣り合う座席から操作可能なダイアル操作装置として、ダイアル操作部に対する各座席の位置に対応する形で、各々対応する座席からの操作が他の座席からの操作よりも容易となる位置に操作方向検出用補助操作部を設けた車両空調用ダイアル操作装置が開示されている(例えば特許文献1を参照。)。これによれば、操作ダイアルに触れた方向によって、その座席の使用者を対象とした空調の設定等の操作を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−16083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来例の座席切替スイッチを別個に設ける場合には、使用者は先ずそのスイッチにより自己の座席を選択し、然る後に所望の動作をさせるために操作スイッチを操作する、という2つの操作を行う必要がある。このため、使用者にとって煩わしいという問題がある。また、座席の切替え操作を忘れたり誤ったりしたとき、意図しない座席に対して動作が行われてしまう場合がある。更に、別個に座席切替スイッチを設けるスペースを必要とする問題もある。
特許文献1に記載された操作方向を検出する補助操作部を設ける方法は、その補助操作部への使用者の触れ方によって座席の誤検知を生じるおそれがある。また、そのような誤検知を生じ難くするためには操作部を物理的に大きくする必要があり、多種の機能に対応した多数の操作スイッチを限られたスペースの操作パネルやセンターコンソール等に設けるには適さない。
【0005】
本発明は、前記現状に鑑みてなされたものであり、座席を選択したり判別したりするための操作部を設けることなく、2以上の座席に共通に設けられた操作スイッチがいずれの座席から操作されたかを確実に判別することができる座席用スイッチ、及びそれを備えた電動座席を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記問題点を解決するために、本第1発明の座席用スイッチは、少なくとも2つの座席に共通に設けられ各前記座席に着座した使用者が操作可能な1又は2以上の操作スイッチを備える座席用スイッチであって、前記操作スイッチごとに設けられた操作部電極を介して識別信号を前記使用者の身体に送出する送信回路と、前記座席ごとに設けられた座席部電極により前記使用者の身体を介して前記識別信号を受信する受信回路と、を備え、前記受信回路による前記識別信号の受信に基づき、前記操作スイッチを操作した前記使用者が着座する前記座席を判別することを要旨とする。
本第2発明は、上記第1発明において、前記送信回路は前記操作スイッチごとに対応する前記識別信号を送出し、前記受信回路により受信された前記識別信号に基づき、操作された前記操作スイッチを判別することを要旨とする。
本第3発明は、少なくとも2つの座席に共通に設けられ各前記座席に着座した使用者が操作可能な1又は2以上の操作スイッチを備える座席用スイッチであって、前記座席ごとに設けられた座席部電極を介して、前記座席ごとに対応する識別信号を前記使用者の身体に送出する送信回路と、前記操作スイッチごとに設けられた操作部電極により前記使用者の身体を介して前記識別信号を受信する受信回路と、を備え、前記受信回路により受信された前記識別信号に基づき、前記操作スイッチを操作した前記使用者が着座する前記座席を判別することを要旨とする。
【0007】
本第4発明の電動座席は、上記第1発明乃至上記第3発明のいずれかの座席用スイッチを備える車両用の電動座席であって、前記操作スイッチは、前記電動座席に共通する動作をさせる操作スイッチを含み、前記座席用スイッチによって判別された前記操作スイッチを操作した前記使用者が着座している前記座席に対して前記動作を行うことを要旨とする。
本第5発明は、上記第4発明において、前記座席部電極は、前記座席の座面の表面に備えられる導電布であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本第1発明の座席用スイッチによれば、少なくとも2つの座席に共通に設けられ各前記座席に着座した使用者が操作可能な1又は2以上の操作スイッチを備え、前記操作スイッチごとに設けられた操作部電極を介して識別信号を前記使用者の身体に送出する送信回路を備えるため、使用者が触れている操作スイッチに設けられた操作部電極から、使用者の身体に識別信号が送出される。そして、前記座席ごとに設けられた座席部電極により前記使用者の身体を介して前記識別信号を受信する受信回路を備えるため、送信回路から送出された識別信号は、使用者の身体が伝送路となり、その使用者が着座している座席に設けられた座席部電極によって受信される。この受信回路において、識別信号がどの座席部電極で受信されたかを検知することができるため、操作スイッチを操作した使用者が着座している座席を判別することができる。これにより、いずれの座席に着座した使用者が操作スイッチに触れたかを確実に判別することができるため、座席ごとの操作スイッチを設ける必要がなく、座席切替スイッチや特別な座席検出手段等を設ける必要もなくなり、省スペース且つ高信頼な操作入力装置を実現することができる。また、使用者の身体を通信路として使用するため、空間や配線を使用する信号伝送に比べて、はるかに簡単な構成とすることができる。判別された座席及び操作された操作スイッチの情報を外部に出力することにより、当該座席に対して当該操作スイッチに対応した動作をさせることが可能になる。また、使用者は煩わしい座席の切替え等を行うことなく、所望の操作スイッチに触れる1回の操作だけで、自席に対応するサービスを受けることができる。
前記送信回路は前記操作スイッチごとに対応する前記識別信号を送出し、前記受信回路により受信された前記識別信号に基づき、操作されている前記操作スイッチを判別する場合は、受信された識別信号によって、複数の操作スイッチのうちのいずれが操作されているかを判別することができるため、当該操作スイッチに対応した動作をさせることが可能になる。
【0009】
本第3発明の座席用スイッチによれば、少なくとも2つの座席に共通に設けられ各前記座席に着座した使用者が操作可能な1又は2以上の操作スイッチを備え、前記座席ごとに設けられた座席部電極を介して、前記座席ごとに対応する識別信号を前記使用者の身体に送出する送信回路を備えるため、使用者が着座した座席に設けられた座席部電極から、使用者の身体に識別信号が送出される。そして、前記操作スイッチごとに設けられた操作部電極により前記使用者の身体を介して前記識別信号を受信する受信回路を備えるため、送信回路から送出された識別信号は、使用者の身体が伝送路となり、その使用者が操作している操作スイッチに設けられた操作部電極によって受信される。この受信回路において、識別信号がどの座席に対応したものであるかを検知することにより、前記操作スイッチを操作する前記使用者が着座している前記座席を判別することができる。これにより、操作スイッチに触れているのがいずれの座席に着座する使用者なのかが確実に判別されるため、前記第1発明の効果と同様の効果を得ることができる。
【0010】
本第4発明の電動座席によれば、上記第1発明乃至上記第3発明のいずれかの座席用スイッチを備え、前記操作スイッチは、前記電動座席に共通する動作をさせる操作スイッチを含み、前記座席用スイッチによって判別された前記操作スイッチを操作した前記使用者が着座している前記座席に対して前記動作を行うため、座席ごとの操作スイッチを設ける必要がなく、座席切替スイッチや特別な座席検出手段等を設ける必要もなくなり、省スペース且つ高信頼な車両用の電動座席とすることができる。また、使用者の身体を通信路として使用するため、空間や配線を使用して信号伝送する場合に比べて、はるかに簡単な構成の電動座席とすることができる。そして、前記座席用スイッチにより、操作スイッチに触れた使用者の座席と、操作された操作スイッチが判別されるため、当該座席に対して、当該操作スイッチに対応した動作をさせることができる。操作スイッチは、例えば、座席の前後移動やリフト、リクライニング等、電動座席の位置や姿勢を調整するためのものの他、暖房装置、空調装置、オーディオ装置、映像装置等の切替や調整に対応するものとすることができる。使用者は煩わしい座席の切替え等を行うことなく、所望の操作スイッチに触れる1回の操作だけで、これらの切替や調整を行うことができる。
前記座席部電極は、前記座席の座面の表面に備えられる導電布である場合には、使用者と座席部電極との距離を短くして通信しやすくすることができる。また、使用者が着座したときに、座席部電極による違和感を生じないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述によって更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【図1】左右2つの座席間の肘掛けに操作パネルを設けた場合の本座席用スイッチの構成、及び使用者を通じて通信回路が形成されている様子を説明するための模式図である。
【図2】図1の場合の右席とそこに着座した使用者を側面視した模式図である。
【図3】操作パネルに操作スイッチが配設されている例を説明するための操作パネル正面図である。
【図4】操作スイッチに操作部電極が近接して配設されている様子を説明するための部分断面図である。
【図5】自動車内の座席と操作パネルの配設例を表わす模式図である。
【図6】送信部の例を示すブロック図である。
【図7】受信部の例を示すブロック図である。
【図8】図6に示した送信部により生成及び送出される信号例を説明するためのタイミングチャートである。
【図9】センターコンソールに操作パネルを設けた場合の座席用スイッチの構成、及び使用者を通じて通信回路が形成されている様子を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1〜9を参照しながら本発明の座席用スイッチを詳しく説明する。
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0013】
本発明の座席用スイッチは、少なくとも2つの座席が設けられ、各座席に着座した使用者が共通に操作可能な1又は2以上の操作スイッチが備えられている場合に、どの座席に着座した使用者によって操作スイッチが操作されたかを判別可能な操作入力装置として用いることができる。
座席の種類は特に問わず、例えば、自動車・列車等の車両や航空機等の座席、劇場、映画館、遊技場等の座席等を挙げることができる。とくに、狭い空間でスイッチ操作が必要な自動車等車両の座席を好例として挙げることができる。また、座席は、複数の使用者が個別に着座することができる座席の数が2つ以上であってもよいし、ベンチシートのように複数の使用者が着座できる座席が1体に形成されたものであってもよい。また、それらが組み合わされて備えられていてもよい。
【0014】
例えば、図1は、2つの座席が左右に並んで配設された自動車用シートを表わしている。この自動車用シートでは右側座席2aと左側座席2bが備えられ、座席間の肘掛け22部に、多数の操作スイッチ12が配設された操作パネル11が設けられている。同図中(A)は、肘掛け22を上面視した模式図である。この座席2a、2bには、それぞれ乗員(使用者)3a、3bが着座することができる。そして、前記操作パネル11上の操作スイッチ12は、どちらの使用者からも操作することができる。操作とは、操作スイッチ12を用いて、使用者が着座した座席に対応した調整、切替等の指示を行うことをいう。
【0015】
操作スイッチにより操作を行う機能は、本座席用スイッチの用途に応じて適宜選択されるものである。例えば、座席の各種姿勢制御(座席のリクライニング等)、座席全体の前後への移動(スライド)、座席座面の上下移動(リフター)、座席座面の前部を上下に移動させることによる座席座面の傾斜、座席座面の前後方向への伸縮又は位置の移動(クッション長)等を挙げることができる。また、照明、空調(例えば、温度、湿度、風量、風向等。)の設定、オーディオ装置(例えば、オン・オフ、音量、選局等。)、ビデオ装置、窓の開閉、カーテンの開閉、座席に装備されるマッサージ装置の稼働等を挙げることができる。
このような各種操作を行うための操作スイッチを座席ごとに設けたのでは操作スイッチの数が増加してしまうため、各座席に共通の1つの操作スイッチとすることができる。その場合、1つの操作スイッチをどの座席に着座した使用者が操作したのかを判別する必要がある。
【0016】
図1に示す座席用スイッチ1は、操作スイッチ12ごとに設けられた操作部電極13と、その操作部電極13と接続され、識別信号を使用者3の身体に送出する送信回路15と、座席2ごとに設けられた座席部電極14と、その各座席部電極14と接続され、使用者3の身体を介して前記識別信号を受信する受信回路16と、を備える。図2は、図1の場合の右席2aと着座した使用者3aを側面視した模式図である。なお、上記参照符号に付すa及びbは座席の区別を表わし、図面及び以下の説明においてとくに区別する必要がない場合は省略する。
座席用スイッチ1(受信回路16)から、判別した操作スイッチの信号又は情報を外部のコントローラ8等に出力することによって、操作された操作スイッチに対応した動作をさせるように構成することができる。例えば、使用者により座席を移動させる操作がされた場合、コントローラ8はドライバ回路を介して当該使用者の座席を移動させるモータを駆動するように構成することができる。
【0017】
前記操作スイッチ12の数は1つであってもよい。1つ又は2以上の操作スイッチ12を配設したユニットを操作パネル11と呼ぶ。この操作パネル11は、座席に座った状態の各使用者が容易に操作できる位置に配設されていればよい。例えば座席が2つであれば、それぞれに着座した各使用者の手が等距離に届く位置として、2つの座席2の間に位置する肘掛け22の上面等を挙げることができる(図5参照)。また、乗用車の後部座席から使用できるように前部座席間に設けられたセンターコンソール4等に設けることもできる(図5、図9参照)。その他、各座席間の上方等に設けられてもよい。
【0018】
操作パネル11の一例を図3に示す。操作パネル11上には、各種機能に対応する多数の操作スイッチ12が配設されている。この操作パネル11は、右座席及び左座席に共通な操作スイッチを備えることによって、座席ごとに設ける場合に比べて操作スイッチ数を大幅に減らしている。従来、このような共通の操作スイッチを用いようとすると、予め対象となる座席を選択するための操作スイッチ(座席切替スイッチ)が別個に必要であった。しかし、本座席用スイッチにより操作する使用者の座席が判別されるため、座席切替スイッチは不要となる。
【0019】
それぞれの操作スイッチ12の大きさ、形状、構造等はとくに問わない。例えば、図32に示す操作パネル11の表面を樹脂製シートで構成し、その表面の一部を凹凸形状や印刷等で区画することによって各操作スイッチを構成することができる。また、操作スイッチごとに個別の部材が使用されてもよい。図3に部分的に表わされているように、それぞれの操作スイッチ12に対応して操作部電極13が備えられる。
操作部電極13は、導電性を有する素材で形成され、操作スイッチ12ごとに近接して設けられる。操作部電極13と操作スイッチ12は任意の形態で具備することができ、例えば、図4に示すような構造とすることができる。図4では、操作パネル11上に使用者3の手指が接触する操作スイッチ12が設けられており、その操作スイッチ12の直下に操作部電極13が配設されている。操作パネルの表面材11と操作スイッチ12とは、樹脂等の同一素材で一体に形成されていてもよい。また、操作部電極13を操作スイッチ12の外面に露出させ、使用者3の手指が操作部電極13に接触するように構成されてもよい。また、操作スイッチ12に導電性を備え、操作スイッチ12自身を操作部電極13としてもよい。
【0020】
操作部電極13には、送信回路15が接続される。送信回路15は、前記識別信号を生成する回路であり、その識別信号は操作スイッチ12に接触した使用者3の手指に操作部電極13を介して送出される。
【0021】
図1に示したように、座席2ごとに座席部電極14が備えられており、各座席部電極14は受信回路16に接続される。座席部電極14は導電性を有する素材で形成されており、前記操作部電極13から送出された識別信号を使用者3の人体を介して受信可能に構成される。座席部電極14は使用者3の身体から識別信号を受信可能であればよく、座席部電極14として、シート状又は板状、網状等に形成された金属が使用されてもよいし、導電布等が使用されてもよい。導電布としては、例えば、ステンレス線やカーボン繊維、メッキ繊維等の導電性繊維を適宜の間隔で織り込んだ織布等が挙げられる。
座席部電極14の配設場所や形態は適宜に選択することができる。例えば、座席部電極14を座席2の座面21や背面等に設けることができる。座面21は使用者3の身体と密着するため、図1及び図2に示されるように、座面21の表層部(座席(座席カバー)の表面材又はその下層)に座席部電極14を設けることが好ましい。これにより使用者3と座席部電極14との距離が短くなり、識別信号の受信を容易にすることができる。
座席部電極14として導電布を用いる場合、座席(座席カバー)の表面材又はその下層材の一部を導電布によって構成するようにすることができる。これによって、着座した使用者に座席部電極14による違和感を与えないようにすることができる。
【0022】
操作部電極13と座席部電極14との間は、着座した使用者3の身体を伝送路とし、いわゆる人体通信によって前記識別信号を伝送することができる。操作部電極13及び座席部電極14と使用者3の身体とは、電磁誘導等による結合、電界変化、電流等の作用によって識別信号を送受信することが可能である。
操作スイッチ12を操作している使用者3、すなわち操作スイッチ12に触れている使用者3の身体を伝送路として識別信号が伝送されるため、当該使用者3が着座する座席の座席部電極14でのみ識別信号が受信され、他の座席の座席部電極14では識別信号が受信されないこととなる。受信回路16は各座席の座席部電極14と接続されているため、どの座席に設けられた座席部電極14で識別信号が受信されたかを容易に検知することができる。
【0023】
前記識別信号は、操作スイッチ12が操作されたことを伝えることができ、使用者3の身体を介した人体通信可能な信号である限り限定されない。また、操作スイッチ12が2以上備えられる場合には、それぞれの操作スイッチ12を識別可能な信号とすることができる。この場合に用いる識別方式も特に問わない。例えば、操作スイッチごとに異なる継続時間の信号としたり、異なるパルス数の信号としたりすることができる。また、操作スイッチごとに定めた識別コードにより変調した信号とすることもできる。変調方式は、パルス変調や振幅偏移変調、位相偏移変調、周波数偏移変調等を適宜に用いることができる。このような識別信号は送信回路15により生成され、使用者の身体を介して受信回路16により受信される。
受信回路16は、各座席に備えられた座席部電極14と接続されており、前記識別信号を検知し、使用者がどの操作スイッチに触れたか、及びどの座席に着席しているかを判別し、その結果を外部に出力可能な回路である。
【0024】
以上のように、本座席用スイッチ1は、使用者が操作している操作スイッチ、及びその使用者が着座している座席を判別し、その判別結果の信号又は情報を、本座席用スイッチ1の受信回路16に接続されたコントローラ(ECU)8等に送出するように構成することができる。コントローラ8は、当該座席について操作された操作スイッチに対応した動作をさせる制御回路である。例えば、各座席に前後移動用、リフト用、リクライニング用の各モータ及び駆動回路を設け、使用者の操作に対応したモータを駆動するように構成することができる。受信回路16に制御機能を備え、アクチュエータ等を直接制御するように構成してもよい。
【0025】
図5に、乗用車の座席の姿勢を制御する具体例を示す。図5に示す座席用スイッチは、乗用車後部座席2a及び2bの姿勢制御用スイッチ装置である。2つの座席2a及び2bの間に肘掛け22が設けられており、肘掛け22上の操作パネル11に姿勢制御用の操作スイッチ12が設けられている。また、操作部電極13が操作スイッチ12部に配設されており、操作部電極13は操作パネル11部に組み込まれている送信回路15と接続されている。一方、座席2a及び2bの座面には、それぞれ座席部電極14a及び14bが配設され、いずれも受信回路16に接続されている。そして、図示しないコントローラ(ECU)が受信回路16から判別結果の信号を受け取り、各座席に具備された姿勢制御用モータ23a及び23bを駆動するように構成されている。
ここで右側の座席2aに着座した使用者3が、操作スイッチ12を操作する(触れる)と、送信回路15によって生成された識別信号が操作部電極13を介して使用者3の身体に送出される。そして使用者3の身体が伝送路となり、識別信号は座席2a側の座席部電極14aを介して受信回路16で受信される。これにより受信回路16は右側座席2aに着座した使用者によって操作スイッチ12が操作されたことを検知する。この検知結果に基づいて、ECUは右側座席のモータ23aを駆動し、右側座席2aの姿勢を変化させることができる。
【0026】
操作パネル11は適宜の場所に設置することができ、図9に示すように、乗用車の2つの後部座席の中間前方に位置するセンターコンソール4に設けられてもよい。この座席用スイッチ1’では、複数の操作スイッチ12及び操作部電極13が設けられている操作パネル11と、送信回路15とがセンターコンソール4に備えられている。そして、各後部座席2の座面21に座席部電極14が設けられ、各座席部電極14は受信回路16に接続されている。この座席用スイッチ1’の作用は、前記座席用スイッチ1と同じであり、各座席共通の操作スイッチ12を設けるのみで、異なる座席に着座した使用者による操作を識別することができる。これによって、スイッチ素子12の数を減らことができるとともに、使用者にとって分かり易い操作とすることが可能になる。
【0027】
以上に説明した座席用スイッチは、操作スイッチごとに設けられた操作部電極を送信側とし、座席ごとに設けられた座席部電極を受信側としたが、送信側と受信側がこれとは反対に構成されてもよい。すなわち、座席ごとに座席部電極を設け、その座席部電極を介して各座席に対応する識別信号を使用者の身体に送出する送信回路と、操作スイッチごとに操作部電極を設け、その操作部電極により使用者の身体を介して識別信号を受信する受信回路と、を備えて構成することもできる。このように構成しても、前記同様に、受信回路により受信された識別信号に基づいて、操作スイッチ及びそれを操作している使用者が着座する座席を判別することができるため、同じ効果を達することができる。
【0028】
次に、図6〜図8を参照しつつ、前記送信回路15及び前記受信回路16の具体的な構成例を説明する。
図6に示す回路図は、送信回路15を構成する送信部6の一例を表わす。送信部6は、n個の操作部電極13a〜13nと接続されている。この操作部電極は、n個の操作スイッチ12a〜12nにそれぞれ近接して設けられており、使用者がいずれかの操作スイッチに触れている間、当該操作スイッチ部の操作部電極から使用者の身体に識別信号が送出される。送信部6は、ビット列生成回路61、周波数f1の発振回路、周波数f2の発振回路、第1変調回路62、第2変調回路63a〜63n、及び出力回路64a〜64nを備えている。
ビット列生成回路61は、送信クロック信号(Clock)に基づいて、スタートビットsbと、n個のそれぞれ異なるビット列(iba〜ibn)を生成する。このビット列は、それぞれ操作スイッチ12a〜12nに対応した固有の情報ビット列である。ビット列生成回路61は、例えばカウンタ、シフトレジスタ等を用いて構成することができる。本例においては、簡単のため、スタートビットsbは最初(0番目)のクロックの期間のみ1となる信号であり、ビット列ibxはx番目(x=1〜n)のクロックの期間のみ1となる信号であるとする。このように生成されるビット列は、図8に示すsb、iba〜ibnのようになる。n番目のクロックの後は、一定の休止期間を置いて上記0番目のクロックから循環するとする。そうすると、1bitのスタートビットsbに引き続いて、順次1bitずつ1となるn個のビット列(iba〜ibn)が生成されて第2変調回路63a〜63nに並行して送られる。
【0029】
第1変調回路62は、搬送波となる周波数f1の信号をスタートビットsbによって変調して、第1高周波信号r1を生成する回路である。また、第2変調回路63a〜63nは、搬送波となる周波数f2の信号をn個のビット列(iba〜ibn)によってそれぞれ変調して、n個の第2高周波信号r2a〜r2nを生成する回路である。
出力回路64a〜64nは、第1高周波信号r1と各第2高周波信号r2a〜r2nとを合成(論理和)して信号r3a〜r3n(図8参照)を生成する回路である。信号r3a〜r3nは、それぞれ操作部電極13a〜13nに供給される。
ここで操作スイッチ12a〜12nのいずれか(例えば、操作スイッチ12aとする。)に使用者が手指を触れると、その操作スイッチに対応する操作部電極(13a)から当該使用者の身体に信号が送信される。操作部電極13a〜13nに常時繰り返して上記信号r3a〜r3nを供給しておくようにすれば、使用者が手指等で操作スイッチ(12x)に触れたときに、その操作スイッチ(12x)に固有の情報ビット列(ibx)に対応した信号(r3x)が使用者の身体に送出される。これが前記識別信号であり、操作スイッチごとに信号の構成が異なることとなる。
【0030】
図7は、上記送信回路に対応した受信回路16の構成例を示す。本例は、座席が2つである場合を示すが、受信回路16は座席数に応じた構成とすることができる。受信回路16を構成する受信部7は、座席ごとに備えられた2つの座席部電極14a及び14bと接続されている。この座席部電極は、着座している使用者の身体から、前記識別信号を受信する。受信部7は、入力回路(71a、71b)、第1検波回路(72a、72b)、第2検波回路(73a、73b)、及び識別信号検出回路(74a、74b)を備えている。以下では、一方の座席2aの座席部電極14aに接続されている受信部について説明する。他の座席の座席部電極からの受信についても同様である。
【0031】
入力回路71aは、座席部電極で受信された信号の増幅、フィルタ処理等を行う回路である。座席部電極14aで受信される信号は、送信回路から送出された前記信号r3a〜r3nのいずれかとなる。入力回路71aに接続される第1検波回路72aは、前記周波数f1の第1高周波信号r1を検波する回路である。この第1検波回路72aによって、前記スタートビットsbが復調される。また、入力回路71aに接続される第2検波回路73aは、前記周波数f2の第2高周波信号r2a〜r2nを検波する回路である。この第2検波回路73aによって、前記ビット列(iba〜ibn)が復調される。
識別信号検出回路74aは、復調されたスタートビット及びビット列を復号する回路であり、ラッチ回路、デコーダ回路等を用いて構成することができる。具体的には、スタートビットsbによって初期化及び同期され、それに引き続くビット列を受信クロック(Clock)に基づいてデコードするようにすることができる。受信クロックは、送信部6で使用される送信クロックと同一速度とすればよい。
【0032】
本例では、前記送信部6によって生成されるビット列ibxはx番目のクロックの期間のみ1となる信号であるから、復調された信号からそれがx番目のビット列であることが分かる。このようなビット列ibxを受信したとき、識別信号検出回路74aは、その出力信号Qaa〜Qnaのうちx番目の出力信号Qxaのみが1となるように構成することができる。すなわち、識別信号検出回路74aの出力信号を、操作スイッチの判別結果を表わす信号として用いることができる。
以上の送信部6及び受信部7によって、使用者によって触れられた操作スイッチ12xを判別することが可能である。また、操作スイッチ12xに触れている使用者が着座していない座席の座席部電極では識別信号が受信されないため、当該使用者が着座している座席を判別することができる。なお、使用者の誤操作や、識別信号の伝送誤りなどの判断及び処理は、適宜にすることができる。
【0033】
座席用スイッチをこのように構成することにより、例えば左右の座席を区別するための操作スイッチを用意したり、左右別々の操作スイッチを用意したりする必要がなくなり、1つの共通の操作スイッチ12a〜12nを設けるのみで、異なる座席に着座した使用者による操作を識別することができる。
また、座席用スイッチを備える電動座席を構成することができる。すなわち、操作スイッチとして電動座席に共通する動作をさせる操作スイッチが備えられており、前記座席用スイッチによる判別結果に基づいて、操作スイッチを操作した使用者が着座している座席に対して動作を行う電動座席とすることができる。これによって、スイッチ素子の数を減らことができる。また、使用者にとって分かり易い操作方法とすることが可能になる。また、使用者が操作スイッチに触れたときの通信により座席の識別が行われているため、操作対象となる座席を誤ることがない。このような電動座席の好適な用途として、自動車用の電動座席を挙げることができる。
【0034】
尚、本発明においては、上述の実施形態に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲で種々変更した実施形態とすることができる。例えば、座席部電極の配設場所は座面に限られず、座席の背面に設けてもよい。更に、座席以外でも使用者が着座しているときに触れている場所に座席部電極を設けることができ、例えば足マット、座席ベルト等を挙げることができる。
また、操作パネルの場所も、例示した肘掛け及びセンターコンソールに限られず、前側座席の背もたれの裏側等に設けてもよいし、天井からぶら下げたりして設けてもよい。更に、座席用スイッチは、車両の後部座席に限られず、全部座席等に設けてもよい。このとき、操作パネルの場所は、ダッシュボード及びセンターコンソール等を挙げることができる。また、座席用スイッチの対象となる座席の数は特に問わず、3席以上であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本座席用スイッチは、着座した使用者毎に異なる制御が必要な操作を行うためのスイッチに適用することができ、例えば、座席の各種姿勢制御、空調の設定、オーディオ装置の設定、ビデオ装置の設定、照明制御、窓の開閉、カーテンの開閉、座席に装備されるマッサージ装置の稼働等を挙げることができる。また、本座席用スイッチを用いた電動座席は、自動車等の座席として用いることができる。
【符号の説明】
【0036】
1;座席用スイッチ、11;操作パネル、12、12a〜12n;操作スイッチ、13、13a〜13n;操作部電極、14、14a、14b;座席部電極、15;送信回路、16;受信回路、2、2a、2b;座席、21、21a、21b;座面、22;肘掛け、3、3a、3b;使用者、4;センターコンソール、6;送信部、61;ビット列生成回路、62;第1変調回路、63a〜63n;第2変調回路、64a〜64n;出力回路、7;受信部、71a、71b;入力回路、72a、72b;第1検波回路、73a、73b;第2検波回路、74a、74b;識別信号検出回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの座席に共通に設けられ各前記座席に着座した使用者が操作可能な1又は2以上の操作スイッチを備える座席用スイッチであって、
前記操作スイッチごとに設けられた操作部電極を介して識別信号を前記使用者の身体に送出する送信回路と、
前記座席ごとに設けられた座席部電極により前記使用者の身体を介して前記識別信号を受信する受信回路と、
を備え、
前記受信回路による前記識別信号の受信に基づき、前記操作スイッチを操作した前記使用者が着座する前記座席を判別することを特徴とする座席用スイッチ。
【請求項2】
前記送信回路は前記操作スイッチごとに対応する前記識別信号を送出し、
前記受信回路により受信された前記識別信号に基づき、操作された前記操作スイッチを判別する請求項1記載の座席用スイッチ。
【請求項3】
少なくとも2つの座席に共通に設けられ各前記座席に着座した使用者が操作可能な1又は2以上の操作スイッチを備える座席用スイッチであって、
前記座席ごとに設けられた座席部電極を介して、前記座席ごとに対応する識別信号を前記使用者の身体に送出する送信回路と、
前記操作スイッチごとに設けられた操作部電極により前記使用者の身体を介して前記識別信号を受信する受信回路と、
を備え、
前記受信回路により受信された前記識別信号に基づき、前記操作スイッチを操作した前記使用者が着座する前記座席を判別することを特徴とする座席用スイッチ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の座席用スイッチを備える電動座席であって、
前記操作スイッチは、前記電動座席に共通する動作をさせる操作スイッチを含み、
前記座席用スイッチによって判別された前記操作スイッチを操作した前記使用者が着座している前記座席に対して前記動作を行うことを特徴とする電動座席。
【請求項5】
前記座席部電極は、前記座席の座面の表面に備えられる導電布である請求項4記載の電動座席。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−121459(P2012−121459A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274034(P2010−274034)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】