説明

廃棄体の回収方法

【課題】塩水を再利用可能な廃棄体の回収方法を提供すること。
【解決手段】廃棄体を囲繞する緩衝材に塩水を噴射することにより、緩衝材を崩壊せしめ、廃棄体を取り出す廃棄体の回収方法において、崩壊した緩衝材と緩衝材を崩壊させた塩水とが混ざった懸濁液を一次沈澱槽に回収し一次沈澱槽で自然沈殿させ(ステップS1、S2)、上澄み液を緩衝材に噴射する塩水として利用するので、塩水の再利用が可能となる。また、沈殿した沈澱物をフィルタープレスによって圧蜜脱水して回収するので(ステップS4)、地下施設から運び出す廃棄物が少なくてすむ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄体の回収方法に関するもので、特に緩衝材の撤去に好適な廃棄体の回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高レベル放射性廃棄物の地層処分では、緩衝材と称されるベントナイト系粘土材料で廃棄体のまわりを囲繞し、周りからの地圧を緩衝させるとともに、地下水の浸入を抑制し、廃棄体からの放射性物質の漏洩を抑止することが考えられている。
【0003】
緩衝材は、たとえば、ベントナイトと砂とを混合したベントナイト系土質材料が使用され、この土質材料を締め固めることにより、所定の弾性および遮水性が発揮される。そして、緩衝材は、地震等の外力が加わって処分坑道あるいは処分孔が変形した場合に廃棄体に加わる外力を低減するとともに、地下水の浸入と放射性物質の漏洩とを抑止する。
【0004】
ところで、実際に廃棄体の埋設処分を実施するためには、倫理的、政治経済的な要因などを考慮して、埋設処分の適切性について社会的な合意を得る必要がある。このためには、事業計画の可逆性を確保する上で、廃棄体を随時取り出して回収できる技術を確保しておかなければならない。
【0005】
廃棄体を取り出して回収するには、廃棄体の取り出し作業に先立って廃棄体のまわりを囲繞する緩衝材を撤去する必要があり、その方法の一つとして、たとえば、電解質溶液(塩水)を噴射して緩衝材を崩壊せしめ、スラリー化したものを流動体として取り出す緩衝材の撤去方法が提案されている(たとえば、非特許文献1参照)。
【0006】
なお、電解質溶液を噴射して緩衝材をスラリー化したものを流動体として撤去する方法は、遠隔操作が容易であり、機械的な撤去方法に比べて廃棄体を損傷する懸念が少ないというメリットを有するが、電解質溶液を再利用しなければ多量のスラリーが発生するため、遠心分離機によってスラリーを脱水減容して固体状の廃棄物として搬出するとともに、固液分離した後の塩水を噴射に再利用することが考えられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】中島均 他 「廃棄体回収のための塩水を利用した緩衝材除去技術」土木学会年次学術講演会講演概要集(CD−ROM),2010年8月5日,第65巻CS7−032,p.63−64
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ベントナイトには遠心分離機では短時間に効率的に分離できない微粒子成分が多いため、再利用する電解質溶液に微粒の粘土鉱物が残存する。たとえば、図16に遠心分離機等の脱水装置を適用可能な懸濁液に含まれる固相の粒径範囲を示しているが、ベントナイトの主成分であるモンモリロナイトという粘度鉱物の粒径分布をみると、1μm以下の粒子を約4割含んでいるため、効率的な脱水を実施しにくい。
【0009】
なお、脱水を効率的に行う方策として、凝集剤を添加して粒径を大きくして固液分離しやすくする方法があるが、再利用したい電解質溶液に凝集剤成分が増加するため、電解質溶液の成分を一定に維持できなくなるという安全管理上の欠点が問題となる。これにより、できれば、凝集剤の添加をしないで電解質溶液中の固相を沈殿させて、さらには脱水を加速して減容してから、地下坑道から地上への搬出を行いたい。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、電解質溶液を再利用可能な廃棄体の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、廃棄体を囲繞する緩衝材に電解質溶液を噴射することにより、緩衝材を崩壊せしめ、廃棄体を取り出す廃棄体の回収方法において、崩壊した緩衝材と緩衝材を崩壊させた電解質溶液とが混ざった懸濁液を一次沈殿槽内で自然沈殿させ、上澄み液を緩衝材に噴射する電解質溶液として利用する一方、前記一次沈殿槽で自然沈殿した沈澱物を二次脱水槽に移設し、フィルタープレスによって脱水処理することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記発明において、前記フィルタープレスに用いるフィルターが微細孔を有する高分子フィルターであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記発明において、前記フィルタープレスに用いる荷重を載荷した重石または圧縮空気圧から得ることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記発明において、脱水処理の終了後、フィルタープレス装置を取り除き、その後、蓋で密閉した前記二次脱水槽をそのまま施設外に搬出することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記発明において、脱水処理により回収した電解質溶液を緩衝材に噴射する電解質溶液として利用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる廃棄体の回収方法は、崩壊した緩衝材と緩衝材を崩壊させた電解質溶液とが混ざった懸濁液を沈殿させ、上澄み液を緩衝材に噴射する電解質溶液として利用するので、電解質溶液の再利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、廃棄体縦置き方式を採用した放射性廃棄物の埋設処分施設を示す概念図である。
【図2】図2は、廃棄体横置き方式を採用した放射性廃棄物の埋設処分施設を示す概念図である。
【図3】図3は、廃棄体の回収装置を示す概念図である。
【図4】図4は、図3に示した固液分離装置を示す拡大図である。
【図5】図5は、固液分離装置における固液分離処理手順を示すフローチャートである。
【図6】図6は、フィルタープレス処理を説明するための図である。
【図7】図7は、固液分離装置の性能確認実験の内容とその手順を示す概念図である。
【図8】図8は、固液分離装置の性能確認実験の結果を数値で示す図である。
【図9】図9は、固液分離装置の性能確認実験の結果をグラフで示す図であって、脱水・減容時間が30時間までのものである。
【図10】図10は、固液分離装置の性能確認実験の結果をグラフで示す図であって、脱水・減容時間が10時間までのものである。
【図11】図11は、固液分離装置の性能確認実験の結果を示す図であって、沈殿させてからフィルタープレスした場合の沈殿物の脱水傾向と沈殿させることなくフィルタープレスした場合の脱水傾向とを数値で示す図である。
【図12】図12は、固液分離装置の性能確認実験の結果を示す図であって、沈殿させてからフィルタープレスした場合の沈殿物の脱水傾向と沈殿させることなくフィルタープレスした場合の脱水傾向とをグラフで示す図である。
【図13】図13は、廃棄体縦置き方式を採用した放射性廃棄物の埋設処分施設の仕様を示す概念図である。
【図14】図14は、沈殿物を小分けにし、複数回に分けて二次脱水槽兼搬出容器に投入するフィルタープレスの例を示す図である。
【図15】図15は、沈殿物を小分けにし、複数回に分けて二次脱水槽兼搬出容器に投入するフィルタープレスの他の例を示す図である。
【図16】図16は、遠心分離機等の脱水装置を適用可能な懸濁液に含まれる固相の粒径範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明にかかる廃棄体の回収方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0019】
まず、図1および図2に基づいて、本発明の実施の形態である廃棄体の回収方法を適用する放射性廃棄物の埋設処分施設について説明する。なお、図1は、廃棄体縦置き方式を採用した放射性廃棄物の埋設処分施設を示す概念図であり、図2は、廃棄体横置き方式を採用した放射性廃棄物の埋設処分施設を示す概念図である。
【0020】
図1および図2に示すように、放射性廃棄物の埋設処分施設は、ガラスで固化した放射性廃棄物(ガラス固化体)をさらに金属製の容器に封入し、地下深く埋設処分するための施設であって、地上施設から廃棄体(ガラス固化体を金属製の容器に封入したもの、あるいはさらに肉厚の金属製オーバーパックに封入したもの)Pや建設資材などを搬送するためのアクセス坑道や連絡坑道、主要坑道Aや廃棄体Pを定置するための処分坑道Gあるいは処分孔Hなどから構成される。
【0021】
廃棄体Pの定置方法には、処分坑道Gの床面から鉛直下向きに処分孔Hを一定間隔で掘削し、そこに廃棄体Pを定置する廃棄体縦置き方式(図1参照)と、処分坑道Gに廃棄体Pを直接定置する廃棄体横置き方式(図2参照)の二種類がある。
【0022】
図1に示すように、廃棄体縦置き方式は、処分孔内を廃棄体Pと緩衝材Bとによって充填するように定置する方式であって、処分孔Hと廃棄体Pとの間に緩衝材Bが配置される。一方、図2に示すように、廃棄体横置き方式は、処分坑道内を廃棄体Pと緩衝材Bとによって充填するように定置する方式であって、処分坑道Gと廃棄体Pとの間に緩衝材Bが配置される。
【0023】
緩衝材Bは、たとえば、ベントナイトと砂とを混合したベントナイト系土質材料が使用され、この緩衝材Bを締め固め等により高密度にすることにより、所定の弾性および遮水性を発揮する。そして、緩衝材Bは、地震等の外力が加わって処分坑道Gや処分孔Hが変形した場合に廃棄体Pに加わる外力を低減するとともに、地下水の侵入を阻止する。
【0024】
つぎに、図3および図4に基づいて、本発明の実施の形態である廃棄体の回収方法について説明する。なお、図3は、廃棄体の回収装置を示す概念図であり、図4は、図3に示した固液分離装置を示す拡大図である。
【0025】
ここでは、廃棄体横置き方式を採用した放射性廃棄物の埋設処分施設で用いる廃棄体の回収装置を例に説明する。図3に示すように、廃棄体の回収装置(以下、「回収装置」という)1は、廃棄体Pを囲繞する高密度に締め固めた緩衝材Bを撤去回収するためのもので、電解質溶液を高密度に締め固めた緩衝材Bに噴射することにより、高密度に締め固めた緩衝材Bを崩壊せしめ、崩壊した緩衝材を撤去回収する。高密度に締め固めた緩衝材Bに噴射する電解質溶液は、塩水(塩化ナトリウム水溶液)、塩化カリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液のように、無機電解質水溶液のいずれであってもよいが、本発明の実施の形態では、塩水を用いる。
【0026】
回収装置1は、上述したように、塩水を高密度に締め固めた緩衝材Bに噴射するもので、処分坑道Gを走行する走行装置2と、噴射ノズル3が装着されたノズルヘッド4と、走行装置2とノズルヘッド4との間に取り付けられ、ノズルヘッド4を任意の位置に移動させるとともに、ノズルヘッド4を任意の方向に傾けるハンドリング装置5と、塩水を噴射ノズル3から噴射させる吐出ポンプ6と、噴射ノズル3から噴射した塩水に崩壊した緩衝材Bが混じった懸濁液Sを堰き止める堰板装置7と、堰板装置7によって堰き止められた懸濁液Sを回収し、塩水を分離する固液分離装置8とを備えている。
【0027】
走行装置2は、上述したように処分坑道Gを走行するためのもので、円筒形に形成された処分坑道Gの断面円弧状に湾曲した床面を走行する。また、回収装置1の走行装置2は、履帯型の走行装置であって、リモコン(図示せず)や走行装置2の後方域に設けた運転席21からの操作により、任意の方向に任意の速度で走行させることが可能である。また、回収装置1の走行装置2は、上述したハンドリング装置5と協働することにより、処分坑道Gの内部において奥行き方向任意の位置にノズルヘッド4を移動させることが可能である。なお、走行装置2は、履帯型の走行装置に限られるものではなく、たとえば、車輪型の走行装置であってもよい。
【0028】
ノズルヘッド4には、上述したように、噴射ノズル3が装着されている。噴射ノズル3は、高密度に締め固めた緩衝材Bに塩水を噴射するためのもので、吐出ポンプ6から圧送された塩水は噴射ノズル3を通ることにより圧力が高くなり、噴射ノズル3から噴射する。
【0029】
なお、ノズルヘッド4に装着する噴射ノズル3の数は、一つに限られるものではなく、緩衝材Bの除去効率を考慮して複数の噴射ノズル3を任意の位置に装着することが可能である。
【0030】
ハンドリング装置5は、上述したように、走行装置2とノズルヘッド4との間に取り付けられ、ノズルヘッド4を任意の位置に移動させるとともに、ノズルヘッド4を任意の方向に傾けるためのもので、多関節型のハンドリング装置によって構成されている。
【0031】
ハンドリング装置5は、ハンドリングブーム51とハンドリングアーム52とを備えている。ハンドリングブーム51とハンドリングアーム52とは、ノズルヘッド4を任意の位置に移動させるための構成部品であり、ハンドリングブーム51と走行装置2、ハンドリングブーム51とハンドリングアーム52、ハンドリングアーム52とノズルヘッド4は、ハンドリング装置5の関節を構成する。
【0032】
すなわち、ハンドリングブーム51の一端部(基端部)は、走行装置2に回動自在に取り付けてあり、ハンドリングブーム51の他端部(先端部)は、走行装置2とハンドリングブーム51の中程との間に架設した油圧シリンダ53により、任意の位置に移動させることが可能である。また、ハンドリングブーム51の先端部には、ハンドリングアーム52の一端部(基端部)が回動自在に取り付けてあり、ハンドリングアーム52の他端部(先端部)は、ハンドリングブーム51の先端部とハンドリングアーム52の中程との間に架設した油圧シリンダ54により、任意の位置に移動させることが可能である。さらに、ハンドリングアーム52の先端部には、ノズルヘッド4が回動可能に取り付けてあり、図示せぬアクチュエータ(たとえば、油圧シリンダ)により、ノズルヘッド4を任意の方向に傾けることが可能である。
【0033】
吐出ポンプ6は、上述したように、塩水を噴射ノズル3から噴射させるためのもので、主要坑道Aに設置される。吐出ポンプ6は、塩水を貯留する塩水貯槽61を備えており、塩水貯槽61に貯留した塩水を汲み上げ、噴射ノズル3から噴射させる。
【0034】
堰板装置7は、上述したように、噴射ノズル3から噴射した塩水に崩壊した緩衝材が混じった懸濁液(スラリー)Sを堰き止めるための装置であり、走行装置2の前方域に取り付けてある。堰板装置7は、堰板71と、堰板71を支持する支持アーム72とを備えている。堰板71は、噴射ノズル3から噴射した塩水に崩壊した緩衝材Bが混じった懸濁液Sを堰き止めるためのもので、円筒形に形成された処分坑道Gの断面円弧状に湾曲した床面に密着するように、処分坑道Gの断面下半分に合致する半円板形に形成してある。
【0035】
また、堰板71は、図示せぬアクチュエータ(たとえば、油圧シリンダ)により昇降可能であり、回収装置1は、堰板71を上昇させた状態で走行装置2により走行可能となり、走行装置2が停止した状態で堰板71が下降可能となる。そして、堰板71が下降した場合に堰板71が処分坑道Gの床面に密着し、処分坑道Gの下半分を封鎖する。これにより、堰板71は、噴射ノズル3から噴射した塩水に崩壊した緩衝材Bが混じった懸濁液Sを堰き止める。堰き止められた懸濁液Sは、固相濃度が5〜10%(含水比1900〜900%)であり、このままでは、緩衝材Bの10〜20倍の重量の懸濁液Sを搬出しなければならないことになる。
【0036】
固液分離装置8は、上述したように、堰板装置7によって堰き止められた懸濁液Sを回収し、塩水を分離するための装置であり、主要坑道Aに設置される。固液分離装置8は、分離後の固相(土質材料)の含水比が100%、すなわち、撤去回収する緩衝材Bの2倍程度の重量となるまで減容することを目標にする。
【0037】
図4に示すように、固液分離装置8は、汚泥ポンプ(図示せず)と、汚泥ポンプによって回収された懸濁液Sを貯留し、懸濁液Sに含まれる土質材料を自然沈殿させる一次沈殿槽81と、一次沈殿槽81で自然沈殿した土質材料(沈殿物)を二次脱水槽兼搬出容器(フィルタープレス槽)82に受け入れてさらに脱水処理するフィルタープレス処理装置(図示せず)とを備えている。
【0038】
汚泥ポンプは、堰板装置7によって堰き止められた懸濁液Sを一次沈殿槽81に回収するためのもので、堰板装置7と一次沈殿槽81との間に設けられ、堰板装置7と汚泥ポンプとの間、汚泥ポンプと一次沈殿槽81との間は、ホース81aによって接続されている。
【0039】
一次沈殿槽81は、上述したように、汚泥ポンプによって回収された懸濁液Sを貯留し、懸濁液Sに含まれる土質材料を自然沈殿させるためのもので、一つに限られるものはなく、回収する懸濁液Sの量に対応して複数備えられる。一次沈殿槽81において、固相濃度が5〜10%の懸濁液S(含水比1900〜900%)を1時間程度貯留すると、懸濁液Sの約半分が上澄み液となり、残りの約半分が沈殿物(高濃度の懸濁液)となる。この上澄み液は、塩水貯槽61に回収され、再利用される。一方、沈殿物は、二次脱水槽兼搬出容器82に移設した後に、フィルタープレス処理装置よって、さらに、脱水処理(減容処理)される。
【0040】
フィルタープレス処理装置は、上述したように、自然沈殿した沈殿物を二次脱水槽兼搬出容器82に受け入れてさらに脱水処理するためのもので、フィルター部(図示せず)と、フィルター部に荷重を付与するプレス部(図示せず)とを備えている。
【0041】
二次脱水槽兼搬出容器82は、上述したように、一次沈殿槽81において自然沈殿した沈殿物を受け入れるための容器であり、一つに限られるものではなく、受け入れる沈殿物の量に応じて複数備えられる。また、二次脱水槽兼搬出容器82は、ドラム缶と同一の形状を有しており、その上に二次脱水槽兼搬出容器82と略同一の横断面を有する嵩上げカラー83によって嵩上げされた状態で、沈殿物を受け入れる。
【0042】
フィルター部は、二次脱水槽兼搬出容器82に受け入れた沈殿物を脱水・減容するためのもので、嵩上げカラー83の上方部から嵩上げカラー83の内部に挿入される。また、フィルター部は、枠体(濾体)(図示せず)にフィルター(濾材)(図示せず)を張ったもので、枠体に張られたフィルターは、高分子細孔径フィルムにより構成され、沈殿物(土質材料)による目詰まりを防止する。
【0043】
プレス部は、上述したように、フィルター部に荷重を付与するもので、ここでは、予め用意した重石(図示せず)をフィルター部に載荷する。
【0044】
上述した廃棄体横置き方式を採用した放射性廃棄物の埋設処分施設において、高密度に締め固めた緩衝材Bを撤去回収する場合には、まず、ノズルヘッド4、ハンドリング装置5が取り付けられた走行装置2を処分坑道Gに搬入するとともに、吐出ポンプ6、固液分離装置8を主要坑道Aに設置する。その後、回収装置1は、走行装置2を用いて処分坑道Gを走行し、噴射ノズル3が撤去回収対象となる緩衝材Bに近づくまで移動する。つぎに、回収装置1は、堰板装置7を用いて堰板71を下降させ、処分坑道Gの下半分を封鎖する。
【0045】
つぎに、回収装置1は、ハンドリング装置5を用いてノズルヘッド4を任意の位置に移動させるとともにノズルヘッド4を任意の方向に傾ける。本発明の実施の形態である廃棄体Pの回収方法では、噴射ノズル3から噴射した塩水が処分坑道Gの天井面近くに位置する緩衝材Bに当たるように、ノズルヘッド4を移動させるとともにノズルヘッド4を傾ける。
【0046】
つぎに、回収装置1は、吐出ポンプ6を用いて塩水貯槽61から塩水を圧送し、噴射ノズル3から緩衝材Bに向けて塩水を噴射する。そして、緩衝材Bに噴射された塩水は、緩衝材Bの粘結性を低下せしめ、緩衝材Bを崩壊させる。この緩衝材Bの崩壊により、処分坑道Gの近くに位置する緩衝材Bにくぼみができ、塩水あるいは塩水に崩壊した緩衝材が混じった懸濁液Sが溜まることがある。このように、緩衝材Bにできたくぼみに塩水あるいは塩水に崩壊した緩衝材Bが混じった懸濁液Sが溜まると、さらに緩衝材Bの粘結性を低下せしめ、緩衝材Bの崩壊を促進することになる。そして、手前側から奥側に向けて緩衝材Bを漸次崩壊させ、その後、上側から下側に向けて緩衝材Bを漸次崩壊させる。このとき、懸濁液Sが溜まっていたくぼみ部分は、粘結性が低下しているので、塩水を噴射すると、比較的容易に崩壊する。
【0047】
そして、塩水に崩壊した緩衝材Bが混じった懸濁液Sは、最終的に堰板71により堰き止められる。そして、堰板71により堰き止められた懸濁液Sは、崩壊していない緩衝材Bの粘結性を低下せしめ、緩衝材Bの崩壊を促進することになる。
【0048】
このように、堰板装置7によって堰き止められた懸濁液Sは、固液分離装置8に送られて、液層(塩水)と固相(土質材料)とに分離されることになる。
【0049】
図5および図6に基づいて、固液分離装置における固液分離処理を具体的に説明する。なお、図5は、固液分離装置における固液分離処理手順を示すフローチャートであり、図6は、フィルタープレス処理を説明するための図である。
【0050】
堰板装置7によって堰き止められた懸濁液Sは、汚泥ポンプによって一次沈殿槽81に回収され、貯留される(ステップS1)。一次沈殿槽81において懸濁液を1時間〜2時間程度貯留すると、懸濁液Sの約半分が上澄み液となり、残りの約半分が自然沈殿する(ステップS2)。この上澄み液は、塩水貯槽61に回収され、再利用される。一方、一次沈殿槽81において自然沈殿した沈殿物は、二次脱水槽兼搬出容器82に移送され、フィルタープレス処理装置によって、さらに脱水処理される。
【0051】
フィルタープレス処理装置では、まず、嵩上げカラー83によって嵩上げされた二次脱水槽兼搬出容器82に一次沈殿槽81において自然沈殿した沈殿物Dを受け入れる(ステップS3)。つぎに、嵩上げカラー83の上方部から嵩上げカラー83の内部にフィルター部84を挿入し(図6(a)参照)、プレス部85においてフィルター部84に荷重を付与する(図6(b)参照)。プレス部85は、たとえば、重石で構成され、フィルター部84に重石を載荷し、一定時間が経過すると、図6(c)に示すように、沈殿物Dは、脱水・減容され、沈殿物Dは二次脱水槽兼搬出容器82に収まる量に減容される(ステップS4)。これにより、減容された沈殿物Dは二次脱水槽兼搬出容器82に収容され、上澄み液(塩水)Lは嵩上げされた嵩上げカラー83の内部に留まることになる(ステップS5)。なお、プレス部85は、前述の重石に代えて圧縮空気圧や油圧を利用して載荷してもよい。
【0052】
図6(d)に示すように、嵩上げカラー83の内部に留まった上澄み液Lは、塩水貯槽61に回収され、再利用される。一方、減容した沈殿物Dを収容した二次脱水槽兼搬出容器82は、嵩上げカラー83が取り外され、図6(e)に示すように、蓋がされて主要坑道Aから連絡坑道、アクセス坑道を通り施設の外部に搬出される(ステップS6)。このように、緩衝材Bを撤去回収すると、廃棄体Pが露出し、廃棄体Pの回収が可能になる。
【0053】
上述した回収装置1は、固液分離装置8で懸濁液Sを上澄み液(塩水)と土質材料(脱水・減容された沈殿物)とに分離するので、搬出する土質材料に含まれる水分(塩水)を少なくできる。また、懸濁液Sに含まれる塩水を再利用するので、廃棄物となる塩水が少なくて済み、廃棄物の搬出に要するエネルギーも節減できる。
【0054】
また、一次沈殿槽81において懸濁液Sが約半分まで減容されるので、フィルタープレス処理装置で脱水処理する懸濁液(沈殿物)の容量を減らすことができる。
【0055】
また、フィルタープレス処理装置のプレス部85においてフィルター部84に重石を載荷するが、フィルター部84に重石を載荷する場合には、沈殿物Dを圧密するためにエネルギーを補充する必要がなく、保管スペースさえ確保できれば、数時間〜数日にかけて脱水することも可能である。
【0056】
また、フィルタープレス処理装置のプレス部85において付与する圧力を後述するように12kPa以上にすると、含水比80%程度まで減容可能である。
【0057】
また、フィルタープレス処理装置のフィルター部84のフィルターを高分子細孔フィルムにより構成するので、ベントナイト系土質材料に含まれるモンモリロナイトのような微粒子も除去できる。したがって、分離した塩水にはモンモリロナイトのような微粒子が残存することがなく、塩水の粘度が大きくなることもない。これにより、吐出ポンプ6の効率を維持できる。
【0058】
また、フィルタープレス処理装置では、二次脱水槽兼搬出容器82において沈殿物Dから上澄み液(塩水)Lを分離するので、二次脱水槽兼搬出容器82のほかにフィルタープレス処理槽を備える必要がない。
【0059】
なお、上述したフィルタープレス処理装置で用いる二次脱水槽兼搬出容器82は嵩上げカラー83で嵩上げすることとしたが、二次脱水槽兼搬出容器82の容量と略同一の分量まで沈殿物Dを減容すれば、蓋をしやすくなる。このことを考慮して、嵩上げカラー83の下端部が二次脱水槽兼搬出容器82の内部に嵌り込む構造にすることが好ましい。このように、嵩上げカラー83の下端部が二次脱水槽兼搬出容器82の内部に嵌り込む構造にすると、脱水・減容された沈殿物Dが二次脱水槽兼搬出容器82から溢れることを防止できる。なお、脱水により生じた液相(塩水)はバキューム排水することにより、二次脱水槽兼搬出容器82と嵩上げカラー83との間から漏れることもない。
【0060】
また、フィルタープレス処理装置のプレス部85の例として重石を示したが、プレス部85は重石に限られるものではなく、圧縮空気あるいは油圧を駆動源とするプレス装置であってもよい。
【0061】
上述した実施の形態である廃棄体Pの回収方法において、既存のフィルタープレス装置で懸濁液Sを脱水すると、フィルターが懸濁液Sの微粒成分により目詰まりするとともに、プレス速度と脱水速度の不整合により、二次脱水槽兼搬出容器82とフィルター部との間から沈殿物が漏れ出ることがある。このことを考慮すると、フィルターが沈殿物Dの微粒成分で目詰まりしにくいものであること、プレス速度が脱水速度と整合するようにプレス速度を遅くすること、が要求される。
【0062】
また、フィルターの目詰まりを解消するために、懸濁液Sに凝集剤(たとえば、ポリ塩化アルミニウム(PAC)[Al2(OH)nCl6−n]m(1≦n≦5、m≦10))を添加することも可能であるが、再利用する塩水に凝集剤が混じることになるので、十分な検討が必要である。
【0063】
なお、固液分離装置8に遠心分離機を適用することも可能であるが、遠心分離機で分離した液相(塩水)にはモンモリロナイトの微粒子が残存するため、液相の粘度が大きくなり、噴射ノズル3から噴射する効率は減じる。懸濁液Sに凝集剤を添加した後に遠心分離機で脱水することにより、分離した液相からモンモリロナイトの微粒子を取り除くことは可能であるが、再利用する液相に凝集剤が混じることになるので、十分な検討が必要である。
【0064】
以上を踏まえて、上述した固液分離装置の性能確認実験を実施したので、まず、図7〜図10に基づいて、固液分離装置の性能確認実験の内容とその結果について説明する。なお、図7は、固液分離装置の性能確認実験の概要とその手順を示す概念図である。また、図8〜図12は、実験結果を示す図である。
【0065】
この実験では、一次沈殿槽に2000mLのメスシリンダーを用いる。また、初期状態の懸濁液(堰板に堰き止められた懸濁液)として、固相100g(ベントナイト(クニゲルV1):70g,ケイ砂3号&5号:30gの混合材)、液相900g(含水比900%、スラリー中の固相濃度10%)の混合液(懸濁液)を用いる。
【0066】
また、フィルタープレス装置のフィルター部に用いるフィルターには、高分子フィルター膜(マイクロポーラスポリプロピレンフィルム製濾紙)を用いる。ここで用いる高分子フィルター膜は、フィルムの厚みが25μm,面積ファクターが0.0852m/g,空孔率が45%,密度が0.49Mg/m,孔径が0.04μm×0.4μmのものである。
【0067】
また、フィルタープレス装置のプレス部は、重石を用いることにし、30Nあるいは60Nの荷重を付与する。
【0068】
実験では、一次沈殿槽(メスシリンダー)において1時間あるいは2時間貯留することにより自然沈殿した懸濁液を二次脱水槽兼搬出容器に2バッチ分移し、その後、フィルター部に30Nあるいは60Nの重石荷重を載荷し、液相(塩水)と固相(土質材料)とに分離する。
【0069】
図7に示す実験手順では、まず、含水比900%の懸濁液(スラリー)を二つ作成する。懸濁液を構成する固相の材料は、上述したように、ベントナイト(クニゲルV1)70%とケイ砂30%の混合材であり、液相の材料は、4wt%濃度の塩水である。そして、固相100gと液相900gを1分間機械撹拌することにより、懸濁液を作成する。
【0070】
この懸濁液を塩水噴射によって生ずる懸濁液(堰板に堰き止められた懸濁液)として、一次沈殿槽(メスシリンダー)で自然沈殿させる。自然沈殿させる時間(待機時間)は、1時間と2時間の二つのケースとする。なお、一次沈殿槽(メスシリンダー)の内径を88mmとすると、懸濁液の液深は155mmとなる。
【0071】
1時間が経過すると、懸濁液は半分程度まで自然沈殿するので、上澄み液(塩水)を取り除く。自然沈殿させる時間が2時間の場合には、1時間経過後と2時間経過後の二回に分けて上澄み液(塩水)を取り除く。
【0072】
このように上澄み液を取り除いた沈殿物(懸濁液)は、高濃度の懸濁液となる。
【0073】
つぎに、一次沈殿槽(メスシリンダー)に自然沈殿した沈殿物(高濃度の懸濁液)を二次脱水槽兼搬出容器(フィルタープレス槽)に移して、一定の圧力でフィルタープレス(圧密)する。一定の圧力は、6kPaと12kPaの二つのケースとする。そして、一定時間経過した時点でフィルターの上に分離された液(塩水)を取り除き、懸濁液の重さを測定する。なお、二次脱水槽兼搬出容器(フィルタープレス槽)の内径を80mmとすると、含水比300%の懸濁液の液深は約13cmとなり、含水比250%の懸濁液の液深は約12cmとなる。
【0074】
図8に示すように、一次沈殿槽で懸濁液を自然沈殿させると、当初の含水比が900%であった懸濁液は1時間経過することにより含水比300%まで減容し、2時間経過することにより含水比250%まで減容する。このことから、自然沈殿に要する時間(沈殿時間)は1時間で十分であり、噴射した塩水の約半分は1時間以内に再利用可能であることがわかる。
【0075】
一次沈殿槽で1時間あるいは2時間自然沈殿した沈殿物(高濃度の懸濁液)は、流動性を有するスラリー状態である。これにより、沈殿物は一次沈殿槽から二次脱水槽兼搬出容器(フィルタープレス槽)に移すことができる。
【0076】
図9に示すように、一次沈殿槽で1〜2時間自然沈殿した沈殿物(高濃度の懸濁液)をフィルタープレスすると、一次沈殿槽で継続して自然沈殿させるよりも減容する速度が早くなる。たとえば、一次沈殿槽で継続して自然沈殿させると、20時間後に含水比155%の含水比まで減容されるが、一次沈殿槽で1〜2時間自然沈殿した沈殿物を一定の圧力(たとえば、12kPa)でフィルタープレスすると、3〜4時間で同じ含水比まで減容する(図8参照)。
【0077】
また、図10に示すように、減容時間の総計が6時間以内の範囲において、所定の含水比に達するまでの時間に注目すると、一次沈殿槽における沈殿時間が1時間の場合よりも2時間の場合のほうが長くかかる。したがって、一次沈殿槽における沈殿時間を1時間程度にして自然沈殿した沈殿物を二次脱水槽兼搬出容器(フィルタープレス槽)に移すことが好ましい。
【0078】
また、図9に示すように、フィルタープレスの圧力を12kaとすると、8時間で含水比は80%程度となる。この減容程度は遠心分離機による脱水程度と同等程度の脱水程度であり、目安となる含水比100%よりも小さくなる。
【0079】
また、図11および図12に示すように、一次沈殿槽で2時間自然沈殿させてからフィルタープレスした場合の沈殿物の脱水傾向と、一次沈殿槽で2時間自然沈殿した沈殿物と同一程度の含水比の懸濁液を一次沈殿槽で自然沈殿させることなく、そのままフィルタープレスした場合の懸濁液の脱水傾向を比較した。図11および図12に示す例では、沈殿物の含水比と懸濁液の含水比とが完全に一致していないので、単純な比較はできないが、一次沈殿槽で自然沈殿させてからフィルタープレスした場合のほうが、脱水速度が早い傾向にある。
【0080】
その原因として、自然沈殿後の上澄み液中に微粒子が残っており、この微粒子の有無がその後のフィルターの目詰まりに影響を与えたことが要因であると考えられる。そのように考えるならば、懸濁液を一次沈殿槽で自然沈殿させないで直接フィルタープレスするよりも、一次沈殿槽で自然沈殿させてからフィルタープレスするほうが脱水効率は良いことになる。
【0081】
一方、自然沈殿後の上澄み液に微粒子が残るとしたら、上澄み液を繰り返し使うことにより、上澄み液(塩水)の固相成分(微粒子)が次第に増加して粘度が大きくなることが懸念される。そこで、上澄み液を10回繰り返し使い、その都度、上澄み液をサンプリングしたが、固相(微粒子)の濃度増大傾向は見られない。したがって、上澄み液を繰り返し使うことにより、上澄み液(塩水)の固相成分(微粒子)が増大して粘度が大きくなることを考慮する必要はない。
【0082】
つぎに、上述した固液分離装置の性能確認実験の実験結果に基づいて、固液分離装置の実用性を検証する。
【0083】
実際に使用する二次脱水槽兼搬出容器(フィルタープレス槽)は、内径600mm,深さ1500mmのものが想定される。この二次脱水槽兼搬出容器においてフィルタープレスする場合には、減容に要する時間が長くなることが想定される。しかしながら、二次脱水槽兼搬出容器を複数用意し、並行してフィルタープレスすることが可能であるから、減容に要する時間が長くなることが大きな問題となることはなく、むしろ、時間をかければ確実に含水比100%以下になることの利点のほうが大きい。
【0084】
図13に基づいて、実際に想定される緩衝材の物量を用いて検討する。なお、図13は、廃棄体縦置き方式を採用した放射性廃棄物の埋設処分施設の仕様を示す概念図である。図13に示すように、撤去回収する緩衝材の物量は、乾燥重量で約24トンである。これは、廃棄体と廃棄体を囲繞する緩衝材の体積、廃棄体の体積、乾燥密度により求められる。
【0085】
廃棄体と廃棄体を囲繞する緩衝材の体積V1は、
V1=1.11×1.11×3.1415×4.13=15.99mであり、
廃棄体の体積V2は、
V2=0.41×0.41×3.1415×1.73=0.91m(廃棄体の体積)である。
そして、撤去回収する緩衝材の物量は、
(15.99−0.91)×1.6=24.128ton(乾燥重量)である。
【0086】
また、実際の二次脱水槽兼搬出容器(200Lのドラム缶)の数に換算すると、164本である。
これは、含水比100%で換算したもので、
含水比100%の緩衝材(脱水ケーキ)の乾燥密度ρは、
ρ=1/(1/2.778+1/1)=0.735kg/Lであり、
二次脱水槽兼搬出容器(200Lのドラム缶)が搬出する緩衝材の重量Wは、
W=200×0.735=147kg/本である。
そして、必要な二次脱水槽兼搬出容器(200Lのドラム缶)の数は、
24128kg÷147kg=164本である。
【0087】
塩水噴射で24トンの緩衝材を除去するには長時間を要する。たとえば、緩衝材の除去速度を、10kg/minと仮定すると、約5日間を要する。
24128kg÷10kg/min=2413min=40時間=8時間/日×5日
【0088】
このように、緩衝材の除去には約1週間を要するので、164本の二次脱水槽兼搬出容器(ドラム缶)を主要坑道に1週間程度、置いておくことは問題がないものと考えられる。したがって、緩衝材を5日間で脱水処理することが目安になる。
【0089】
さらに、短い時間で沈殿物(固相)を減容するには、段階的に沈殿物を補充しながらフィルタープレスすることが考えられる。フィルタープレスにより、沈殿物から分離された液層(塩水)は、フィルターを透過して上澄み液となる。これにより、減容が進むにしたがって減容された沈殿物(脱水ケーキ)が増加し、沈殿物(脱水ケーキ)の密度は大きくなるため、液層(塩水)の浸透性(分離性)が幾何級数的に小さくなる。この結果、脱水速度が遅くなるが、下記に述べる二つの項目を採用することにより、改善が可能である。
【0090】
一つ目は、フィルターに高分子細孔径フィルムを用いることで、沈殿物(ベントナイト系土質材料)のフィルターへの侵入と目詰まりを防ぐことである。高分子細径フィルムは、不織布などの繊維系材料に較べて目詰まりしにくい点で有効である。また、高分子細孔径フィルムを用いると、フィルターに沈殿物(脱水ケーキ)が固着することがなく、フィルター部を上昇させるだけで、脱水され、密度が大きくなった沈殿物(脱水ケーキ)からフィルターを分離できる。また、モンモリロナイトのような微粒子も除去できるような細孔径の高分子フィルム製フィルターを採用すれば、微粒の粘度鉱物(モンモリロナイト)が液層(塩水)に残存することもないので、液層(塩水)の粘性が高くなることはなく、液層(塩水)の再利用も容易である。
【0091】
二つ目は、二次脱水槽兼搬出容器(フィルタープレス槽)に投入する沈殿物を小分けにし、複数回に分けて投入することである。沈殿物を小分けにし、複数回に分けて投入すると、一回に投入する沈殿物の液深が浅くなるため、フィルタープレスが効率よく脱水できる。なお、沈殿物を小分けに、複数回に分けて投入しても、投入とフィルタープレスを繰り返すことにより、二次脱水槽兼搬出容器を満杯に満たすことができる。
【0092】
つぎに、沈殿物を小分けにし、複数回に分けて二次脱水槽兼搬出容器(フィルタープレス槽)に投入する場合についても実験規模で検証したので、その検証結果を説明する。
【0093】
実験で用いる沈殿物(固相)を乾燥重量200g、含水比約300%のものとすると、その体積は、200/2.778+200×300/100=672mLである。実験で用いた二次脱水槽兼搬出容器(フィルタープレス槽)の内径を80mmとすると、沈殿物の液深は、672÷(4×4×3.1415)=134mmとなる。
【0094】
減容後の沈殿物(脱水ケーキ)の含水比を100%とすると、その体積は、200/2.778+200×100/100=272mLである。また、減容後の沈殿物(脱水ケーキ)の液深(高さ)は、272÷(4×4×3.1415)=54mmである。
【0095】
以上のことを考慮すると、二次脱水槽兼搬出容器(ドラム缶)に820mmの沈殿物(脱水ケーキ)を収容するには、820÷54≒15、すなわち、15層に分けて投入することが必要となる。
【0096】
また、含水比100%まで脱水減容するのに必要な時間を図10の結果より6時間とすると、6時間×15層=90時間<4日間となる。
【0097】
以上の検討結果を整理すると、
(1)処分孔一つあたりの緩衝材の乾燥重量は約24トン、200Lドラム缶に含水比100%(乾燥重量147kg/本)状態で装填するならば164本のドラム缶が必要である。
(2)ドラム缶に深さ820mmまで15層に分けて脱水減容するならば、含水比100%まで減容するに要する時間を6時間とすると、4日間を要する。
(3)このことから、処分坑道の近傍の主要坑道に164本のドラム缶を4日間以上置いておくことが必要であるが、順次搬出すれば、164本のドラム缶を置く必要はない。
【0098】
なお、図14は、沈殿物を小分けにし、複数回に分けて二次脱水槽兼搬出容器に投入するフィルタープレスの例を示す図である。図14に示す例では、沈殿物Dを15回に分けて二次脱水槽兼搬出容器(フィルタープレス槽)82に投入し、上澄み液Lをその都度バキューム排水する。
【0099】
また、図15は、沈殿物を小分けにし、複数回に分けて二次脱水槽兼搬出容器に投入するフィルタープレスの例を示す図である。図15に示す例では、フィルター部に接続する管を芯鞘構造にし、芯となる管から沈殿物Dを投入する一方、芯となる管と鞘となる管の間から上澄み液Lを排水する。この例によれば、沈殿物の投入、フィルタープレス(脱水)、上澄み液の排水(バキューム排水)、という一連のプロセスを効率よく実行できる。
【0100】
ちなみに、プレス圧12kPaをドラム缶の断面積(直径567mm)に作用させるためには下記の荷重が必要である。
(1)重石の荷重を使う場合
12kPa×(0.28×0.28×3.1415)m2=2.95kN=2.95×1000÷9.80665≒300kg
(2)エアー圧を使う場合
12kPa≒0.12atm
エアー圧を使う場合にはプレス圧を5倍程度に増加させることは容易である。
【0101】
以上要約すると、
(1)懸濁液は、一次沈殿処理により、比較的短時間で半分以下に減容できるため、二次減容槽となる二次脱水槽兼搬出容器(フィルタープレス処理槽)の容積を小さなものにできる。また、1時間程度で噴射した塩水の約半分を再利用できる。
(2)二次脱水槽(フィルタープレス処理槽)においてプレス圧を12kPa以上とすれば、含水比80%程度まで減容できる。
(3)フィルターを微細孔を有する高分子フィルムにすることで、スラリー中の微粒子によるフィルターの目詰まりを抑制できる。これにより、フィルタープレス処理の効率を向上できる。
(4)フィルタープレス法による減容処理を施すとともに二次脱水槽を搬出用容器と兼用するため、効率よく減容してそのまま容器とともに施設外へ搬出できる。また、万一、回収したスラリーが放射性物質で汚染していても、周囲を再汚染させることなく、密閉した状態で搬出できる。
(5)フィルタープレス処理槽のプレス圧を重石で与えるならば、エネルギーを最小の条件で処理できる。
(6)処分孔一つあたりの緩衝材の乾燥重量は約24トン、200Lドラム缶に含水比100%(乾燥重量147kg/本)状態で装填するならば164本のドラム缶が必要である。ドラム缶に深さ820mmまで15層に分けて脱水減容するならば、含水比100%まで減容するに要する時間を6時間とすると、4日間を要する。処分坑道の近傍の主要坑道に164本のドラム缶を4日間以上置いておくことが必要であるが、実際には順次ドラム缶を搬出できるので保管スペースは膨大にはならない。
(7)今回の作業時間の算定では、プレス圧12kPaでの実験データを参考にしていたが、エアー圧を使う場合にはプレス圧を5倍程度に増加させることは容易であると考えられる。その場合には、脱水に要する時間を短時間にできる。
【符号の説明】
【0102】
1 回収装置
2 走行装置
3 噴射ノズル
4 ノズルヘッド
5 ハンドリング装置
6 吐出ポンプ
61 塩水貯槽
7 堰板装置
71 堰板
72 支持アーム
8 固液分離装置
81 一次沈殿槽
81a ホース
82 二次脱水槽兼搬出容器(フィルタープレス槽)
83 嵩上げカラー
84 フィルター部
85 プレス部
A 主要坑道
G 処分坑道
H 処分孔
P 廃棄体
B 緩衝材
S 懸濁液
D 沈殿物
L 上澄み液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄体を囲繞する緩衝材に電解質溶液を噴射することにより、緩衝材を崩壊せしめ、廃棄体を取り出す廃棄体の回収方法において、
崩壊した緩衝材と緩衝材を崩壊させた電解質溶液とが混ざった懸濁液を一次沈殿槽内で自然沈殿させ、上澄み液を緩衝材に噴射する電解質溶液として利用する一方、
前記一次沈殿槽で自然沈殿した沈澱物を二次脱水槽に移設し、フィルタープレスによって脱水処理することを特徴とする廃棄体の回収方法。
【請求項2】
前記フィルタープレスに用いるフィルターが微細孔を有する高分子フィルターであることを特徴とする請求項1に記載の廃棄体の回収方法。
【請求項3】
前記フィルタープレスに用いる荷重を載荷した重石または圧縮空気圧から得ることを特徴とする請求項1または2に記載の廃棄体の回収方法。
【請求項4】
脱水処理の終了後、フィルタープレス装置を取り除き、その後、蓋で密閉した前記二次脱水槽をそのまま施設外に搬出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の廃棄体の回収方法。
【請求項5】
脱水処理により回収した電解質溶液を緩衝材に噴射する電解質溶液として利用することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の廃棄体の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−11557(P2013−11557A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145553(P2011−145553)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)