説明

廃蛍光灯からの希土類元素回収の前処理方法およびその前処理方法によって得られる固形物を用いた希土類元素回収方法

【要 約】
【課 題】 白色蛍光灯と3波長蛍光灯が混在した廃蛍光灯から剥離した蛍光体を用いて、希土類元素を効率良く回収し、しかも水銀による健康被害や環境汚染を防止するための前処理方法を提供するとともに、その前処理方法によって得られる固形物に含まれる希土類元素の回収方法を提供する。
【解決手段】 廃蛍光灯のガラス管内面の蛍光体から希土類元素を回収するに先立って、廃蛍光灯から剥離した蛍光体を真空中で加熱して水銀を除去し、次いでCaを溶解する酸性液に蛍光体を投入して攪拌した後、攪拌を停止し、酸性液内で沈降する固形物を分離し、さらに固形物を洗浄して乾燥する。さらに、その前処理方法によって得られた固形物を粉砕し、得られた粉砕物を低濃度酸液に投入して希土類元素を浸出させた後、酸液から希土類元素を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用した後で廃棄される蛍光灯(以下、廃蛍光灯という)の内面に塗布された蛍光体から希土類元素を回収するための前処理方法、およびその前処理方法によって得られる固形物を用いた希土類元素の回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
市販されている蛍光灯は、ガラス管の内面に塗布される蛍光体に応じて白色蛍光灯と3波長蛍光灯に大別される。白色蛍光灯は、蛍光体としてハロリン酸カルシウムをガラス管の内面に塗布したものであり、各種の事業所(たとえば事務所,工場等)で広く使用されている。3波長蛍光灯は、蛍光体として演色性の高い希土類元素の酸化物やリン酸塩をガラス管の内面に塗布したものであり、一般家庭で広く使用されている。それらの蛍光体の成分を表1に示す。
【0003】
【表1】

【0004】
これらの蛍光灯は使用した後で廃棄されるが、廃棄された後も、そのガラス管の内面に塗布された蛍光体の成分に大幅な変化は生じない。したがって廃蛍光灯の蛍光体には表1に示すような希土類元素が依然として含まれており、その希土類元素を回収すれば、蛍光体や磁石の原料として再利用できる。
そこで廃蛍光灯の蛍光体から希土類元素を回収する技術が種々検討されている。たとえば特許文献1,2には、廃蛍光灯の蛍光体を粉砕して低濃度酸液に投入して、希土類元素を浸出させる技術が開示されている。3波長蛍光灯から剥離した蛍光体だけを回収し、この技術を適用すれば、希土類元素を効率良く回収できる。
【0005】
ところが各種事業所や一般家庭から廃棄される廃蛍光灯には白色蛍光灯と3波長蛍光灯が混在しており、その廃蛍光灯から3波長蛍光灯を分別するためには多大な労力と費用を要する。白色蛍光灯の蛍光体と3波長蛍光灯の蛍光体が混在した状態で特許文献1,2の技術を適用すれば、希土類元素を回収することは可能であるが、回収効率が低下するという問題がある。
【0006】
さらに、蛍光灯のガラス管の内部には水銀が封入されているので、ガラス管の内面から剥離した蛍光体に水銀が混入するのは避けられない。そのため、作業者の健康を阻害せず、かつ周辺の環境を汚染しないように、水銀を除去する必要がある。
【特許文献1】特開平11-71111号公報
【特許文献2】特開2000-192167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、白色蛍光灯と3波長蛍光灯が混在した廃蛍光灯から剥離した蛍光体を用いて、希土類元素を効率良く回収し、しかも水銀による健康被害や環境汚染を防止するための前処理方法を提供するとともに、その前処理方法によって得られる固形物に含まれている希土類元素の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、廃蛍光灯のガラス管内面の蛍光体から希土類元素を回収するに先立って、廃蛍光灯から剥離した蛍光体を真空中で加熱して水銀を除去し、次いでCaを溶解する酸性液に蛍光体を投入して攪拌した後、攪拌を停止し、酸性液内で沈降する固形物を分離し、さらに固形物を洗浄して乾燥する廃蛍光灯からの希土類元素回収の前処理方法である。
本発明の前処理方法においては酸性液が、塩酸,硝酸および酢酸の中から選ばれる1種の水溶液あるいは2種以上の混合水溶液であることが好ましい。
【0009】
また本発明は、上記した前処理方法によって得られた固形物を粉砕し、得られた粉砕物を酸液(たとえば塩酸,硫酸,硝酸,酢酸,過塩素酸,フッ酸等)に投入して希土類元素を浸出させた後、低濃度酸液から希土類元素を回収する廃蛍光灯からの希土類元素回収方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、廃蛍光灯の中の3波長蛍光灯を分別することなく、白色蛍光灯の蛍光体と3波長蛍光灯の蛍光体が混在した状態から希土類元素を効率良く回収できる。しかも水銀による健康被害や環境汚染を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明では、様々な寸法形状(たとえば棒状,円形等)の白色蛍光灯と3波長蛍光灯が混在した廃蛍光灯のガラス管を切断し、その内面に小粒体を吹付けて(いわゆるショットブラスト処理)、蛍光体を剥離する。このときガラス管や通電部品の破片が混入しても問題はない。
剥離された蛍光体には、ガラス管や通電部品の破片のみならず、ショットブラスト処理で使用した小粒体が混入しているので、篩等を用いて、蛍光体を分離して回収する。
【0012】
また、ガラス管の内部に封入されていた水銀が蛍光体に混入するので、蛍光体を真空中で加熱することによって、水銀を気化して除去する。
次に、蛍光体を酸性液に投入して攪拌する。この酸性液によって、白色蛍光灯の蛍光体の主成分であるハロリン酸カルシウム〔Ca10(PO4)6FCl〕を溶解させる。したがって、酸性液はCaを溶解する特性を有するものを使用する。たとえば、酸性液は塩酸,硝酸,酢酸の水溶液を使用することが好ましい。これらの酸性液は、それぞれ単独で使用しても良いし、あるいは2種以上を混合しても良い。これらの酸性液に蛍光体を投入して攪拌すると、ハロリン酸カルシウムが分解して、Caが溶解する一方で、表1に示すような希土類元素(あるいはその酸化物とリン酸塩)は溶解せず固形物として沈降する。
【0013】
ところが酸性液として硫酸を用いると、硫酸がハロリン酸カルシウムと反応してCaSO4を生成する。このCaSO4は固体となり、硫酸水溶液内で溶解せず沈降する。その結果、後述する希土類元素の回収効率が低下する。したがって本発明で使用する酸性液として、硫酸は不適当である。また、フッ酸もフッ化カルシウムの沈殿を作るので不適当である。
ハロリン酸カルシウムが分解すれば、攪拌を停止し、沈降した固形物を酸性液から分離して回収する。固形物の分離は、ろ過や遠心分離等の従来から知られている技術を使用する。
【0014】
次いで、回収された固形物を洗浄して乾燥する。洗浄は、固形物に付着した酸性液を洗い流すために行なう。したがって、純水(たとえば蒸留水,イオン交換水等)や工業用水を用いる。また乾燥は、洗浄終了後、速やかに行なう。
以上が、廃蛍光灯から希土類元素を回収するための前処理方法である。このような方法で得られた固形物は、表1に示すような3波長蛍光灯の蛍光体の成分である希土類元素が高濃度で濃集される。したがって、固形物から希土類元素を効率良く回収できる。その手順は以下の通りである。
【0015】
前処理によって得られた固形物を粉砕した後、その粉砕物を酸液に投入する。固形物の粉砕は、遊星ミル,振動ミル等の従来から知られている粉砕装置を使用する。固形物を粉砕することによって希土類元素(あるいはその酸化物とリン酸塩)の結晶構造が変化するので、その粉砕物を酸液に投入すれば、希土類元素が溶解して酸液に浸出する一方で、不溶分は沈殿物となって沈降する。
【0016】
次に、希土類元素を溶解した酸液から沈殿物を分離除去した後、各元素に応じた回収方法を適用することによって、酸液から希土類元素をそれぞれ個別に効率良く回収できる。
ここで使用する酸液は、塩酸,硫酸,硝酸,酢酸,過塩素酸およびフッ酸の中から選ばれる1種の酸液あるいは2種以上の混合酸液であることが好ましい。これらの酸液を使用すれば、加温せずに希土類元素を抽出できる。酸液の濃度は特に限定しない。
【実施例】
【0017】
各種事業所や一般家庭から廃棄された廃蛍光灯のガラス管を切断し、その内面に小粒体を吹付けて(いわゆるショットブラスト処理)、蛍光体を剥離した。その廃蛍光灯には様々な寸法形状(たとえば棒状,円形等)の白色蛍光灯と3波長蛍光灯が混在していた。
剥離された蛍光体には、ガラス管や通電部品の破片のみならず、ショットブラスト処理で使用した小粒体が混入するので、篩を用いて、蛍光体を分離して回収した。また、蛍光体を真空中で加熱することによって、水銀を気化して除去した。ここで回収した蛍光体の組成を表2に示す。
【0018】
次に、蛍光体を酸性液に投入して攪拌した。酸性液は6Nの塩酸水溶液を使用し、室温で1時間攪拌した。この塩酸水溶液によって、白色蛍光灯の蛍光体の主成分であるハロリン酸カルシウム〔Ca10(PO4)6FCl〕が溶解する一方、3波長蛍光灯の蛍光体の成分である希土類元素(あるいはその酸化物とリン酸塩)が固形物となって沈降した。攪拌を開始して1時間が経過したときに攪拌を停止し、固形物をろ過して酸性液から分離した。ここで得られた固形物の組成を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
次いで、回収された固形物を工業用水で洗浄した後、乾燥機で乾燥した。
以上が、廃蛍光灯から希土類元素を回収するための前処理である。この前処理で得られた固形物には、3波長蛍光灯の蛍光体の成分である希土類元素(すなわちEu,La,Ce,Tb,Y)が高濃度で含まれている。
そこで、前処理によって得られた固形物を粉砕した後、その粉砕物を室温で酸液に投入した。固形物の粉砕は遊星ミルを使用し、回転速度700回/分で1時間行なった。酸液は1Nの塩酸水溶液を使用した。
【0021】
粉砕物を酸液に投入して1時間経過した後、沈殿物をろ過して酸液から分離した。沈殿物を除去した酸液には、希土類元素(あるいはその酸化物)が高濃度で溶解しているので、各元素に応じた回収方法を適用することによって、酸液から希土類元素をそれぞれ個別に効率良く回収できる。
このようにして本発明を適用すれば、廃蛍光灯の中の3波長蛍光灯を分別することなく、白色蛍光灯の蛍光体と3波長蛍光灯の蛍光体が混在した状態から希土類元素を効率良く回収できる。しかも水銀による健康被害や環境汚染を防止できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃蛍光灯のガラス管内面の蛍光体から希土類元素を回収するに先立って、前記廃蛍光灯から剥離した前記蛍光体を真空中で加熱して水銀を除去し、次いでCaを溶解する酸性液に前記蛍光体を投入して攪拌した後、攪拌を停止し、前記酸性液内で沈降する固形物を分離し、さらに前記固形物を洗浄して乾燥することを特徴とする廃蛍光灯からの希土類元素回収の前処理方法。
【請求項2】
前記酸性液が、塩酸、硝酸および酢酸の中から選ばれる1種の水溶液あるいは2種以上の混合水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の廃蛍光灯からの希土類元素回収の前処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の前処理方法によって得られた固形物を粉砕し、得られた粉砕物を酸液に投入して希土類元素を浸出させた後、前記酸液から前記希土類元素を回収することを特徴とする廃蛍光灯からの希土類元素回収方法。


【公開番号】特開2010−42346(P2010−42346A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207637(P2008−207637)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【Fターム(参考)】