説明

建屋内構造

【課題】原子炉建屋内のダイアフラムフロアへの重量構造物の健全性の高い設置構造を提供する。
【解決手段】原子炉建屋内に構築されている原子炉圧力容器内には、略水平なダイアフラムフロア5が水平移動及び変形し易いように構築されている。そのダイアフラムフロア5には、金属板11を介してコンクリート製の床,側壁をもつ重量構造物6が置かれている。その重量構造物6は原子炉格納容器の側壁4を共有して構築され、側壁4側には直接接続されているが、ダイアフラムフロア5側には直接接続されること無く切り離されている構造にて構築されている。
【効果】地震などでダイアフラムフロア5の変形が発生した場合、金属板11を介在してダイアフラムフロア5と重量構造物6とが相対的に滑って互いに拘束しあうことを抑制し、拘束しあうことによる過大な応力の発生を抑制して原子炉建屋の健全性を確保している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、建屋内の構造に関し、建屋内での重量構造物の建屋への設置構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地盤から建屋への地震エネルギーを緩衝するためには、滑り型免震装置や積層ゴム型免震装置を地盤と建屋の間に介在させることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
他の方法として、建屋を水槽内に置いて、その建屋と水槽内壁との間に水平用と上下用との各ばねダンパー装置を装備しておくことが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−2456号公報
【特許文献2】特開平11−153184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1,2のように、建屋を複数の免震装置で局部的に支持する構成は、垂直方向の支持が局部的に点在した形態と成るので、重量構造物を支持するには免震装置が局部で集中荷重を支持する必要性から一つ一つの免震装置が大型化する。そのため、建屋内の限られた空間内に設置されえる構造物に対して免震装置を装備採用しがたい要因がある。
【0006】
原子炉建屋の場合には、その建屋に内蔵している原子炉格納容器は、垂直な側壁とその側壁に直行する略水平なダイアフラムフロアと称する床を原子炉格納容器内部に備えている。その床に重量構造物を設置することが考えられる。
【0007】
ダイアフラムフロアは原子炉格納容器内を圧力抑制室内と原子炉圧力抑制室外との圧力差や周囲の温度の変化によって、変形したり伸縮したりして、過大な応力がダイアフラムフロアに発生しないように設計され設置されている。
【0008】
その一方で、ダイアフラムフロアは変形し易いように設計されているので、そのダイアフラムフロアに重量構造物を建設設置すると、その重量構造物とダイアフラムフロアとの設置面の剛性が高くなって、ダイアフラムフロアが重量構造物の剛性で拘束を受けて変形や伸縮し易い機能が損なわれる。
【0009】
そこでダイアフラムフロアに隣接する原子炉格納容器の垂直な側壁を重量構造物の一側壁に、そしてダイアフラムフロアを重量構造物の底壁13として、それぞれ共有して重量構造物をダイアフラムフロア上に構築することが考えられるが、これでもダイアフラムフロアが側壁と一体となるので、ダイアフラムフロアの自由な変形や伸縮を阻害する課題が生じる。
【0010】
原子炉格納容器の垂直な側壁を重量構造物の一側壁に共有した場合には、地震時の側壁への横荷重が過大になりがちである。
【0011】
このように本来必要なダイアフラムフロアの自由な変形や側壁への横荷重の過大化は原子炉格納容器の機能に無理を与える可能性が含まれる。
【0012】
したがって、本発明の目的は、建屋の床上に構造物を配置する際に、免震装置を用いることなく、その建屋に無理を与えないような構造の建屋を提供することにある
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の課題の解決手段は、本発明は、建屋の床に構造物を滑り材を介して設置して前記床と前記構造物との間の相対的移動を許容してあることを特徴とした建屋であり、さらに好ましくは、前記構造物は前記建屋の側壁を共有する重量構造物であることを特徴とした建屋である。
【0014】
他の解決手段は、建屋の側壁に発泡金属を設置し、前記発泡金属を設置した側壁を共有するように構造物を前記建屋の床から切り離して前記建屋に設置してあることを特徴とした建屋であり、さらに好ましくは、前記構造物は前記発泡金属を設置した側壁を共有する重量構造物であることを特徴とした建屋であり、一層好ましくは、建屋の床に構造物を滑り材を介して設置して前記床と前記構造物との間の相対的移動を許容してあることを特徴とした建屋である。
【0015】
さらに他の解決手段は、前記のいずれかの建屋において、前記建屋は原子炉建屋であって、前記原子炉建屋は、原子炉格納容器を内蔵し、前記原子炉格納容器内には、床として圧力抑制室内外を区画するダイアフラムフロアを、側壁として前記ダイアフラムフロアに隣接して垂直な壁とを備えていることを特徴とした建屋である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、建屋の床上に装備される構造物による建屋の床又は建屋の側壁又はその両方に対する無理な荷重や応力の発生を抑制して建屋の安全維持に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施例で採用される構造は、建屋の壁と床とを共有して設置する拘束条件の厳しい重量構造物において、重量構造物と床面を共有せず、床面上に金属板,レール,コロ等の滑り材を配置し、その上に重量構造物を配置する。重量構造物の自重のみ受け持つ構造とすることにより、設置床面であるダイアフラムフロアの変形が発生した場合、滑り材の効果により重量構造物が床面上を滑ることにより変形の影響を逃がし、直接床との拘束部が存在しないことにより、重量構造物の応力を低減することを特徴とする構造である。
【0018】
本発明の他の実施例で採用される構造は、建屋のフロア面と重量構造物底面との間に滑り材となる金属板もしくはレール,コロを配し、また、壁面については、緩衝材となる発泡金属を埋め込む構造を有することを特徴とする構造である。
【0019】
本発明の各実施例は、重量構造物としてコンクリート製のプールを想定している。本発明の各実施例では、プール底面とダイアフラムフロア床面とは共有関係に無く、互いに切り離されている上、ダイアフラムフロア床面上に金属板,レール,コロ等の滑り材の中から滑り材として金属板を選択して配置し、ダイアフラムフロアは重量構造物の自重のみ受け持つ構造とすることにより、設置床面であるダイアフラムフロアの変形が発生した場合、滑り材の効果により重量構造物とダイアフラムフロアとの間で滑り作用が発生して変形の影響を逃がし、ダイアフラムフロアへの重量構造物の直接的な拘束部が存在しないことで、重量構造物によるダイアフラムフロアの拘束による応力の発生を低減することが可能となる。
【0020】
また、上下方向もしくは水平方向の荷重が発生した場合、直接床面との拘束部が存在しないため、荷重による過大な応力が発生することなく、壁については、発泡金属等の緩衝材を埋め込む構造を有することで、重量構造物及び建屋の壁部分にかかる荷重の影響を低減することが可能となる。特に重量構造物が液体を内包した構造物である場合には、構造物内に蓄えられた液体のスロッシングによる壁面への荷重の負荷を発泡金属の緩衝作用で緩和でき、建屋の安全に寄与できる。さらには、本発明の各実施例では従来の免振装置,耐震構造のような特殊な構造,機器,スペースを必要としないので、導入し易いという利点がある。
【0021】
以下、本発明の各実施例を図面を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
図1に示す建屋は、原子力発電所の原子炉建屋1である。原子炉建屋1内には、鉄筋コンクリート製の原子炉格納容器2が内蔵されている。原子炉格納容器2内には、原子炉圧力容器3などが格納され、放射能漏れなどが無いように密閉されている。
【0023】
原子炉格納容器2は、圧力抑制室7とドライウェルとの空間を区画する略水平なダイアフラムフロア5が構築されている。ダイアフラムフロア5は、鋼材の骨組みにコンクリートを施工して構築されている。この圧力抑制室7には冷却水9が底部に蓄えている。そして、この圧力抑制室7は、原子炉圧力容器3から過剰な蒸気や漏洩事故による蒸気がドライウェルから圧力抑制室7内の冷却水に吹き込まれてくると、その蒸気を冷却水9で凝縮及び冷却して原子炉格納容器2内の圧力の上昇を抑制する機能を担っている。
【0024】
ダイアフラムフロア5は、図2のように、原子炉格納容器2の側壁4に近い端部が、その側壁4から突き出された支持ブラケット14上に、支持ブラケット14に対してダイアフラムフロア5は水平方向へ自由に動けるように搭載されて設置されている。したがって、原子炉格納容器2内の温度変化が生じるとダイアフラムフロア5は支持ブラケット14に対して水平方向へ自由に動いて伸縮することでダイアフラムフロア5に過大な応力の発生がない。
【0025】
また、図2のように、ダイアフラムフロア5と原子炉格納容器2の側壁4との間には、伸縮自在な金属ベローがシール15として設置されている。そのため、雰囲気の圧力抑制室内とドライウェル空間内との間の自由な往来はダイアフラムフロア5とシール15とで隔絶されている。シール15は伸縮自在であるので、ダイアフラムフロア5の自由な動きを拘束しない。
【0026】
また、蒸気漏洩事故が発生すると、圧力抑制室7とドライウェル8との間には圧力差が発生し、その発生に基づいてダイアフラムフロア5が上下に弾性的に変形する。即ち、ダイアフラムフロア5は変形しやすい様に、及び水平方向へ動き易いように構築されて、その変形や移動で破壊されること無く圧力差や温度差に対応できるようになっている。また、ダイアフラムフロア5は変形や動き易いように途中部分が下方から一切支持されていない。
【0027】
このような、建屋の床としてのダイアフラムフロア5上に鉄筋コンクリート製のプールを重量構造物として建設する際に、原子炉圧力容器3の垂直な側壁4を重量構造物6の一側壁として、及びダイアフラムフロア5を重量構造物6の底壁13として共有するように構築することが考えられえるが、そのような構築構造であると、ダイアフラムフロア5が側壁4や重量構造物6によって拘束されて自由に変形したり水平方向に動いたりすることが困難となってダイアフラムフロア5や重量構造物6に過剰な応力が発生し易くなる。
【0028】
そこで、図2のように、重量構造物6の底面に対面するダイアフラムフロア5の上面に滑り材としての金属板11,レール,コロ等から選択した金属板11をスタッドを用いてダイアフラムフロア5に設置する。その設置に際しては、ダイアフラムフロア5にコンクリートを施工する際に、金属板11の裏面に溶接固定しておいたスタッドをダイアフラムフロア5のコンクリートに埋設するようにして設置する。その金属板11は、ダイアフラムフロア5の変形を阻害しないように剛性が設定されている。
【0029】
一方、重量構造物6は、原子炉格納容器2の側壁4を一側壁として共有し、重量構造物6の底壁13もその側壁4に一体に接続されている。その重量構造物6の底壁13は、金属板11上に載せられてダイアフラムフロア5には直接接続されることなく、ダイアフラムフロア5に対しては切り離されている。このように、重量構造物6は床としてのダイアフラムフロア5上にダイアフラムフロア5の構築部材を共有することなく設置されている。
【0030】
このように、重量構造物6は原子炉建屋1内の側壁4と一部を共有とする構造となっているが、ダイアフラムフロア5については共有せず、互いに独立の構造としてある。そのダイアフラムフロア5上面に滑り材としての金属板11,レール,コロ等のいずれか、あるいは組み合わせて設置し、その上にプール6が配置される。重量構造物6の自重については重量構造物6に接触するダイアフラムフロア5面と側壁4にて垂直荷重を受けるものとする。
【0031】
ダイアフラムフロア5において、地震などで水平方向もしくは上下方向の荷重が加えられた場合や、圧力や熱等の影響によるダイアフラムフロア5の変形や伸縮が発生した場合、ダイアフラムフロア5面を共有した構造においては拘束条件が厳しいため、重量構造物6の支持部に過大な応力が発生する。しかし、実施例1においては、ダイアフラムフロア5の変形や伸縮が発生した場合、滑り材としての金属板11上で重量構造物6の底壁13が滑る事でダイアフラムフロア5面の変形や伸縮の自由度を確保し、その変形や伸縮を拘束する事による過大な応力の発生を抑制している。
【0032】
このようにダイアフラムフロア5と重量構造物6とが直接接続されていない独立した構造であるのでダイアフラムフロア5の変形や動きが重量構造物6によって拘束されず、過大な応力の発生がない。そのため、ダイアフラムフロア5や重量構造物6の破損が生じにくい安全な原子炉建屋1が提供できる。本実施例では、滑り材である金属板11をダイアフラムフロア5に固定設置したが、重量構造物6の底壁13の下面に固定設置してもよい。
【実施例2】
【0033】
本発明の実施例2は、前述の実施例1にある構成を追加した構造の原子炉建屋1を提供せんとするものである。即ち、追加した構造とは、原子炉格納容器2の垂直な側壁4の重量構造物6に対面する部位に緩衝材として発泡金属の板を埋め込んである構造である。その他の構造は、先述の実施例1と同じであるので、説明を省略する。
【0034】
発泡金属として発泡アルミの板12を用いる。発泡アルミの板12にスタッドを接続し、そのスタッドと発泡アルミの板12とを側壁4のコンクリートを施工する際にそのコンクリートで埋設するようにして、発泡アルミの板12が重量構造物6側に薄いコンクリート層を介して対面するようにする。
【0035】
本実施例でも、水平方向もしくは上下方向の荷重が発生した場合、ダイアフラムフロア5と重量構造物6とが直接的には接続されること無く独立した構造であり、金属板11による滑り効果により重量構造物6が拘束されずダイアフラムフロア5に対して相対的に滑るため、互いに拘束しあって過大な応力を発生すると言う現象を低減することが可能である。
【0036】
側壁4については重量構造物6及び建屋からの荷重がかかった場合、側壁4と重量構造物6の共有部の強度が必要となるが、その荷重が発泡アルミの板12に伝達された際にかかる荷重を緩衝して低減することができる。
【0037】
このように、実施例2においてもダイアフラムフロア5の変形や伸縮が発生した場合、実施例1と同様、滑り材の効果により重量構造物6がダイアフラムフロア5床面上を相対的にすべる事でそのダイアフラムフロア5の変形や伸縮の影響を逃がし、ダイアフラムフロア5と重量構造物6とに相互の拘束による過大な応力の発生を抑制している。
【0038】
重量構造物6が拘束されている側壁4の共有箇所について、ダイアフラムフロア5の変形や伸縮により重量構造物6が相対的にすべることで荷重がかかるが、緩衝材である発泡アルミの板12がその荷重を緩衝して低減することにより、重量構造物6と側壁4の共有箇所の応力を低減することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、例えば、原子炉格納容器内のダイアフラムフロア上に重量構造物を設置する際に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】原子炉建屋1の縦断面図である。
【図2】第1実施例による図1の重量構造物部の拡大断面図である。
【図3】図2のA−A矢視断面図である。
【図4】第2実施例による図1の重量構造物部の拡大断面図である。
【図5】図4のB−B矢視断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1…原子炉建屋、2…原子炉格納容器、3…原子炉圧力容器、4…側壁、5…ダイアフラムフロア、6…重量構造物、7…圧力抑制室、8…ドライウェル、9…冷却水、11…金属板、12…発泡アルミの板、13…底壁、14…支持ブラケット、15…シール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建屋の床に構造物を滑り材を介して設置して前記床と前記構造物との間の相対的移動を許容してあることを特徴とした建屋。
【請求項2】
請求項1において、前記構造物は前記建屋の側壁を共有する重量構造物であることを特徴とした建屋。
【請求項3】
建屋の側壁に発泡金属を設置し、前記発泡金属を設置した側壁を共有するように構造物を前記建屋の床から切り離して前記建屋に設置してあることを特徴とした建屋。
【請求項4】
請求項3において、前記構造物は前記発泡金属を設置した側壁を共有する重量構造物であることを特徴とした建屋。
【請求項5】
請求項3又は請求項4において、前記建屋の床に前記構造物を滑り材を介して設置して前記床と前記構造物との間の相対的移動を許容してあることを特徴とした建屋。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項において、前記建屋は原子炉建屋であって、前記原子炉建屋は、原子炉格納容器を内蔵し、前記原子炉格納容器内には、床として圧力抑制室内外を区画するダイアフラムフロアを、側壁として前記ダイアフラムフロアに隣接して垂直な壁とを備えていることを特徴とした建屋。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−315755(P2007−315755A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142222(P2006−142222)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)