建物の免震化工法
【課題】 仮設支持構造を一切不要とすることで、容易かつ経済的に建物を免震化することができる、建物の免震化工法を提供する。
【解決手段】 建物の柱1における免震装置10の取り付け部位1aの直上位置および直下位置にほぼ水平な貫通孔2、3を設ける。前記上下の貫通孔2、3に油圧ジャッキ7を設置すると共に、前記油圧ジャッキ7の滑り面7aに当接する長い移動板4を貫通させて設ける。前記上下の移動板4を孔壁へ固定する。前記油圧ジャッキ7を反対側の孔壁へ固定する。前記柱1が負担している軸力を油圧ジャッキ7の軸力へ盛り替える。前記上下の移動板4の間へ免震装置10を設置し、当該免震装置10を移動板4と共にその取り付け部位1aへ移動させ、免震装置10の前進とともに柱1の切断ブロック1a’を移動板4と共に押し出し除去する。免震装置10をその取り付け部位1aに位置決めした後、当該免震装置10の上下の面板9を上下の柱1bと一体化する。
【解決手段】 建物の柱1における免震装置10の取り付け部位1aの直上位置および直下位置にほぼ水平な貫通孔2、3を設ける。前記上下の貫通孔2、3に油圧ジャッキ7を設置すると共に、前記油圧ジャッキ7の滑り面7aに当接する長い移動板4を貫通させて設ける。前記上下の移動板4を孔壁へ固定する。前記油圧ジャッキ7を反対側の孔壁へ固定する。前記柱1が負担している軸力を油圧ジャッキ7の軸力へ盛り替える。前記上下の移動板4の間へ免震装置10を設置し、当該免震装置10を移動板4と共にその取り付け部位1aへ移動させ、免震装置10の前進とともに柱1の切断ブロック1a’を移動板4と共に押し出し除去する。免震装置10をその取り付け部位1aに位置決めした後、当該免震装置10の上下の面板9を上下の柱1bと一体化する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既存建物へ免震装置を設置することにより、同建物を免震構造に改修する免震化工法の技術分野に属し、更に云えば、免震装置の設置作業はもちろん、その後の交換作業も容易かつ経済的に行うことができる建物の免震化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存建物へ免震装置を設置することにより、同建物を免震構造に改修する免震化工法は、通常、既存建物の柱における免震装置の取り付け部位を除いた部分を大掛かりな仮設支持構造で支持した後に、前記免震装置の取り付け部位を切除し、前記切除部分へ免震装置を取り付けた後、前記仮設支持構造への軸力を免震装置による支持に盛り替え、同仮設支持構造を撤去することにより、建物を免震化している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−227425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に係る技術は、柱の軸力を負担する仮設支持構造を取り付けることが実施上、必要不可欠である。しかしながら、この仮設支持構造は、非常に大掛かりであるが故に、取り付け作業等に非常に手間がかかると共に、費用が嵩むという問題があった。
【0005】
また、免震装置が劣化する等して免震装置を交換する場合に、再度、大掛かりな仮設支持構造を取り付けなければならないので、前記問題が依然として残されており、改良の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、仮設支持構造を一切不要とすることで、容易かつ経済的に建物を免震化することができる、建物の免震化工法を提供することである。また、免震装置の交換作業については、さらに容易かつ経済的に実施できる建物の免震化工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した従来技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係
る建物の免震化工法は、図1〜図10に示したように、
建物の柱1の一部を切除して免震装置10を設置する建物の免震化工法において、
建物の柱1における免震装置10の取り付け部位1aの直上位置および直下位置にそれぞれ、ほぼ水平な貫通孔2、3を設ける段階と、
前記上下の貫通孔2、3にそれぞれ、滑り面7aを有する油圧ジャッキ7を、上位の油圧ジャッキ7は滑り面7aを下向きに、下位の油圧ジャッキ7は滑り面7aを上向きに設置すると共に、前記油圧ジャッキ7の滑り面7aに当接する長い移動板4を貫通させて設ける段階と、
前記上下の移動板4の間隔を、設置するべき免震装置10の高さと一致するように調整し、グラウト材6を注入する等して各移動板4を孔壁へ固定する段階と、
前記油圧ジャッキ7を、グラウト材6を注入する等して反対側の孔壁へ固定する段階と、
前記油圧ジャッキ7を駆動して、柱1が負担している軸力を油圧ジャッキ7の軸力へ盛り替える段階と、
前記柱1における前記貫通孔2、3を含む断面を全部切断して油圧ジャッキ7に当該柱1のすべての軸力を負担させる段階と、
前記上下の移動板4の間へ免震装置10を設置し、当該免震装置10を移動板4と共にその取り付け部位1aへ移動させる段階と、
前記免震装置10の前進とともに柱1の切断ブロック1a’を移動板4と共に押し出し除去する段階と、
免震装置10をその取り付け部位1aに位置決めした後、当該免震装置10の上下の面板9を上下の柱1bと一体化する段階と、から成ることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した建物の免震化工法において、図11〜図14に示したように、
免震装置10の前進とともに柱1の切断ブロック1a’を移動板4と共に押し出し除去する段階において、
免震装置10の上面板9又は下面板9に高さ調整可能なジャッキ11を設置し、当該免震装置10の前進とともに柱1の切断ブロック1a’を所要の距離押し出した段階で、前記調整用ジャッキ11をジャッキアップして柱1の軸力の一部を負担させ、そのままさらに移動板4と共に切断ブロック1a’の押し出し除去を進めることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載した建物の免震化工法において、図1A、Bに示したように、貫通孔2、3は、免震装置10の取り付け部位1aの直上位置の左右に2箇所、直下位置の左右に2箇所設けることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載した発明は、請求項1〜3のいずれか一に記載した建物の免震化工法において、図4Aに示したように、油圧ジャッキ7は、滑り面7aを有する筆箱状の油圧ジャッキ7、或いは、図4Bに示したように、滑り面17aを有する薄板状の台座17の上にコンパクトタイプの油圧ジャッキ7’を設けた構成であることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載した発明は、請求項1〜4のいずれか一に記載した建物の免震化工法
において、油圧ジャッキ7の滑り面7aは、潤滑剤を塗布する等して摩擦係数を0.02〜0.03程度に形成することを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載した発明は、請求項1〜5のいずれか一に記載した建物の免震化工法
において、移動板4は、薄板状の鋼製プレート又はH形鋼、或いはコ字形鋼であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る建物の免震化工法によれば、柱1における免震装置10の取り付け部位1aの上下に油圧ジャッキ7を内蔵して柱1の軸力を負担し、当該免震装置10の取り付け部位1aの切断ブロック1a’を、設置するべき免震装置10により、あたかも達磨落としのようにスライドさせて撤去できるので、従来必須とされた大掛かりな仮設支持構造を取り付ける必要がない。また、免震装置10をスムーズにスライドしながら取り付けることができるので、設置に要する時間を大幅に短縮することができる。よって、容易かつ経済的に建物の免震化工法を実現することができる。
【0014】
さらに、免震装置10の設置作業に必要な移動板4および油圧ジャッキ7は、そのまま残して免震装置10の設置作業を終えるので、免震装置10を交換する場合には、これらの治具4、7を即座に利用して交換作業を行うことができる。よって、免震装置10の交換作業は、設置作業と比して、大幅に省力化でき、大変経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
請求項1に記載した建物の免震化工法は、柱の軸力を負担する仮設支持構造を一切不要として実施するべく、以下のように実施される。
【実施例1】
【0016】
図1〜図10は、請求項1に記載した発明に係る建物の免震化工法の施工手順を段階的に示している。
この建物の免震化工法は、建物の柱1の一部を切除して免震装置10を設置する建物1の免震化工法であり、先ず、図1A、Bに示したように、建物の柱1における免震装置10の取り付け部位1aを除く躯体1b、1bのうち、当該取り付け部位1aの直上位置および直下位置にそれぞれ、ほぼ水平な貫通孔2、3を設ける。
【0017】
図示例の貫通孔2、3は、ドリル等により穿設し、前記取り付け部位1aの直上位置の左右に2箇所、直下位置の左右に2箇所の計4箇所設けて実施している(請求項3記載の発明)。前記貫通孔2、3の大きさは、後述する移動板4と油圧ジャッキ7とを十分に設置可能な大きさで実施される。また、前記貫通孔2、3の水平見付け面積は、非切断部分の柱の躯体(コンクリート)に柱1の軸力が作用して発生する圧縮応力がコンクリートの短期許容圧縮応力度以下になると共に、前記油圧ジャッキ7を十分に設置できるだけの面積で実施することに留意する。
【0018】
なお、前記貫通孔2、3の個数は、計4個に限定されるものではなく、柱の軸耐力を大きく損なわず、且つ、当該貫通孔2、3内に挿入される移動板4が、免震装置10を載置、且つスライド可能な構成で実施することを条件に、上下に1個ずつ計2個の貫通孔2、3で実施することもできるし、上下に3個ずつ計6個の貫通孔2、3で実施することもできる。また、上方に1個、下方に2個の貫通孔2、3を設けて実施することもできるし、上方に2個、下方に3個の貫通孔2、3を設けて実施することもできる。
【0019】
次に、図2A、Bと図3に示したように、前記上下の貫通孔2、3にそれぞれ、滑り面7aを有する油圧ジャッキ7を、上位の油圧ジャッキ7は滑り面7aを下向きに、下位の油圧ジャッキ7は滑り面7aを上向きに設置すると共に、前記油圧ジャッキ7の滑り面7aに当接する長い移動板4を貫通させて設ける。
【0020】
図示例の油圧ジャッキ7は、前記貫通孔2、3内に挿入可能な大きさで、且つ前記柱1から若干水平方向に突き出る程度の長さの所謂筆箱状の油圧ジャッキ7(図4Aも参照)を使用している(請求項4記載の発明)。また、前記油圧ジャッキ7の滑り面7aは、テフロン(登録商標)加工、或いは潤滑剤を塗布する等して、摩擦係数を0.02〜0.03程度に形成して実施することが好ましい(請求項5記載の発明)。ちなみに、前記筆箱状ジャッキの性能は、1,000〜5,000kN程度、ストロークは15〜30mm程度であり、一般的な寸法は、外径190〜310mm程度、機械高110〜260mm程度が好適に実施される。
【0021】
前記油圧ジャッキ7の滑り面7aに当接する長い移動板4は、図示例では、薄板状の鋼製プレートが使用されている。当該移動板4は、前記油圧ジャッキ7の滑り面7aに沿ってスライド自在な構成とされている。この移動板4は、図3に示したように、上下左右に計4個設けられた前記貫通孔2、3内に各1本ずつ計4本貫通して設けている。前記移動板4の左右の間隔は、前記免震装置10を十分に載置できる間隔で実施される。前記移動板4の上下の間隔は、前記免震装置10の高さとほぼ一致する間隔で実施される。
【0022】
なお、本発明に適用可能な油圧ジャッキ7は、筆箱状の油圧ジャッキ7に限定されるものではなく、例えば、橋梁支承部の補強・補修工事用に設計されたコンパクトタイプの油圧ジャッキでも実施することができる。このようなコンパクトタイプの油圧ジャッキを利用して前記貫通孔2、3の内部に設置する場合には、図4Bに示したように、下面に滑り面17aを有する台座17の上面に、前記油圧ジャッキ7’を所要の間隔をあけて2台(以上)設けた構成で実施する(請求項4記載の発明)。
【0023】
また、前記移動板4は、薄板状の鋼製プレートに限定されず、貫通孔2、3の大きさ(高さ)に応じてH形鋼、或いはコ字形鋼等の鋼材が任意に選定されて使用される(請求項6記載の発明)。
【0024】
次に、前記上下の移動板4の間隔を、設置するべき免震装置10の高さと一致するように調整し、グラウト材6を注入する等して各移動板4を孔壁へ固定する(図2と図3参照)。具体的には、前記上下の移動板4を支持する前記支持部材5により、当該移動板4の水平度及び間隔を維持しながら、上位の移動板4と上位の貫通孔2の底面との間にグラウト材(モルタル)6を注入すると共に、下位の移動板4と下位の貫通孔3の上面との間にグラウト材6を注入して、それぞれの貫通孔2、3の孔壁へ固定する。
【0025】
なお、本実施例では、前記上下の移動板4の間隔を、図2で示したような、前記移動板4を支持する支持部材5により調整している。よって、前記支持部材5には、ネジジャッキ等の高さ調整可能な部材を使用することが好ましい。図示例のグラウト材6は、非圧縮性のグラウト材6を使用することが好ましい。
【0026】
また、前記油圧ジャッキ7を、グラウト材6を注入する等して反対側の孔壁へ固定する。具体的には、前記油圧ジャッキ7の上面と上位の貫通孔2の上面との間にグラウト材6を注入すると共に、油圧ジャッキ7の下面と下位の貫通孔3の底面との間にグラウト材6を注入して、それぞれの貫通孔2、3の孔壁へ固定する。
【0027】
かくして、前記貫通孔2、3の内部構造は、上位の貫通孔2については、上方から下方に順に、グラウト材6、筆箱状の油圧ジャッキ7、移動板4、グラウト材6がサンドイッチ状に重なり合う構成で実施している。一方、下位の貫通孔3については、上方から下方に順に、グラウト材6、移動板4、筆箱状の油圧ジャッキ7、グラウト材6がサンドイッチ状に重なり合う構成で実施している。要するに、図示例の上下の貫通孔2、3の内部構造は、免震装置の取り付け部位1aを中心として対称配置で実施されている。
【0028】
次に、前記グラウト材6が硬化したことを確認した後に、前記油圧ジャッキ7を駆動して、柱1が負担している軸力を油圧ジャッキ7の軸力へ盛り替える作業を行う。続いて、図5Aに示したように、前記柱1における前記貫通孔2、3を含む断面を全部切断して油圧ジャッキ7に当該柱1のすべての軸力を負担させる。こうすることにより、免震装置の取り付け部位1aは、前記上下の油圧ジャッキ7にしっかりと狭持され、当該油圧ジャッキ7の滑り面7aと当接する移動板7と共にスライド可能な構造となる。
【0029】
次に、図6A、Bに示したように、前記上下の移動板4の間へ免震装置10を設置し、当該免震装置10を移動板4と共にその取り付け部位1aへ移動させる。前記免震装置10は、前記免震装置10の取り付け部材1aの直近位置に設置して実施することが効率的で好ましい。また、前記免震装置10を水平方向に移動させる方法は種々あるが、例えば、レバーブロック等の押し出し治具を利用する方法が挙げられる。
【0030】
次に、前記免震装置10の前進とともに柱1の切断ブロック1a’を移動板4と共に押し出し除去する。具体的に、図7の点線で囲む箇所は、水平方向から力を受けるとスライドする前記柱1の切断ブロック1a’を示している。前記上下位の油圧ジャッキ7はそれぞれ、グラウト材6を介して上下の柱1bに一体化され、前記上下の移動板4は、グラウト材6を介して免震装置10の取り付け部位1aに一体化されている。よって、前記柱1の切断ブロック1a’は、水平方向から力を受けると、移動板4が油圧ジャッキ7の滑り面7aでスライドすることにより、移動板4と共に、押し出されるのである。
【0031】
前記免震装置10の前進とともに柱1の切断ブロック1a’が移動板4と共に押し出されると、当該柱1の切断ブロック1a’が移動板4と共に徐々に押し出され、当該柱1が負担していた柱1の軸力は、前記免震装置10に徐々に負担されていく。そして、最終的には、前記免震装置10にすべての柱1の軸力が負担され、図8A、Bに示したように、前記柱1の切断ブロック1a’は、達磨落としの如く撤去されるのである。
【0032】
ちなみに、前記免震装置10を前進させている間は、前記免震装置10と柱1の切断ブロック1a’とで柱1の軸力を負担するので、軸力による安全性を低下させるようにモーメントが発生する虞はない。また、油圧ジャッキ7の滑り面7aの摩擦係数は、0.02〜0.03と非常に小さいので、摩擦による水平力によって柱1に作用する曲げモーメントは非常に小さい。そして、前記柱1の切断ブロック1a’が撤去された段階で、図9に示したように、免震装置10と油圧ジャッキ7がともに柱1の全軸力を負担するのである。
【0033】
しかる後、免震装置10をその取り付け部位1aに位置決めした後、当該免震装置10の上下の面板9、9を上下の柱1(1b)と一体化して、建物の免震化工法を完了する(以上、請求項1記載の発明)。具体的には、図10に示したように、油圧ジャッキ7の周囲の空間部にグラウト材8を充填して柱1の躯体と一体化すると共に、前記免震装置10の上下の面板9からボルト(図示省略)を前記グラウト材8へねじ込む。前記ボルトは、前記グラウト材8の注入とほぼ同時にねじ込んで柱1に作用するせん断力を負担するように実施してもよいし、所謂後施工アンカーで実施することもできる。なお、前記油圧ジャッキ7の周囲の空間部に注入するグラウト材6は、型枠を施工して注入することもできるが、高濃度のグラウト材6を使用すれば型枠を使用しないで実施することもできる。こうすることにより、前記上下の移動板4に挟まれた免震装置10が使用期間中に水平方向に滑ることなく、免震作用を十分に発揮することができるのである。
【0034】
したがって、上述した建物の免震化工法によれば、従来必須とされた仮設支持構造を使用しないで実施できるので、容易かつ経済的に建物を免震化することができる。また、免震装置10の交換作業については、前記油圧ジャッキ7及び移動板4はそのまま残っているので、即座に利用でき、極力、経済的且つスムーズに交換作業を行うことができる。
【0035】
ちなみに、前記移動板4は、空間スペースの有効利用を考慮し、折り畳み可能な構造で実施し、未使用時には、折り畳んでおくことが好ましい。
【実施例2】
【0036】
図11〜図14は、請求項2に記載した建物の免震化工法の実施例を示している。この実施例は、前記図1〜図10に示した実施例と比して、免震装置10の構造および免震装置を押し出す手法が主に相違する。
【0037】
すなわち、上記実施例1中の、免震装置10の前進とともに柱1の切断ブロック1a’を移動板4と共に押し出し除去する段階において、この実施例2に係る免震装置10は、その(上面板9又は)下面板9に、高さ調整可能なジャッキ11を設置し、当該免震装置10の前進とともに柱1の切断ブロック1a’を所要の距離押し出した段階で(図12参照)、前記調整用ジャッキ11をジャッキアップして柱1の軸力の一部を負担させ、そのままさらに移動板4と共に切断ブロック1a’の押し出し除去を進める(図13参照)。
【0038】
具体的に、図示例の免震装置10は、免震装置10を構成する下面板9の下面に小型あるいは薄型の油圧ジャッキ11が一体化された構造となっており、前記油圧ジャッキ11が作動すると免震装置10は上下方向にジャッキアップされる構成とされている。なお、前記油圧ジャッキ11は、免震装置10を構成する上面板9の上面に設置して一体化した構成で実施することもできる。免震装置10は、移動板4に設置された段階では、油圧ジャッキ11は作動させておらず、免震装置10の上部と上位の移動板4とは接触していない状態にある。
【0039】
この実施例2によると、上記実施例1と比して、上下の移動板4の間隔が免震装置10の高さとぴったり一致していない場合であっても、前記油圧ジャッキ11を作動させることにより、柱1の軸力を確実に負担することができて作業性がよい。また、柱1の切断ブロック1a’を除去する場合に、予め、柱1の軸力の一部を負担しつつ当該切断ブロック1a’を押し出すよりも、当該切断ブロック1a’を少し押し出してから柱1の軸力を負担する方が、スムーズにスライド作業を行うことができ、作業性がよい。
【0040】
以上に実施例を図1〜図14に基づいて説明したが、本発明は、図示例の実施形態の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】Aは、実施例1について、柱の躯体における免震装置を取り付ける部位の近傍位置に貫通孔を設けた段階を示した立面図であり、Bは、同横断面図である。
【図2】Aは、図1に示した貫通孔に移動板及び油圧ジャッキを設けた段階を示した側面図であり、Bは、同横断面図である。
【図3】Aは、図1に示した貫通孔に移動板及び油圧ジャッキを設けた段階を示した立面図である。
【図4】Aは、筆箱状の油圧ジャッキの構造を示した縦断面図であり、Bは、その他の油圧ジャッキを示した正面図である。
【図5】Aは、図1に示した貫通孔に移動板及び油圧ジャッキを設け、当該貫通孔の左右部分の柱躯体を切除した段階を示した立面図であり、Bは、同側面図であり、Cは、同横断面図である。
【図6】Aは、上下の移動板同士の間に免震装置を設置した段階を示した側面図であり、Bは、同横断面図である。
【図7】柱の躯体におけるスライド可能な部位を示した立面図である。
【図8】Aは、柱の躯体における免震装置を取り付ける部位をスライドさせて当該免震装置の取り付け部位に免震装置を設置した段階を示した立面図であり、Bは、同横断面図である。
【図9】Aは、免震装置を取り付ける部位に免震装置を設置した段階を示した立面図である。
【図10】Aは、免震装置を取り付ける部位に免震装置を設置した最終段階を示した立面図である。
【図11】実施例2について、免震装置により柱の躯体における免震装置を取り付ける部位をスライドさせた段階を示した立面図である。
【図12】図11に示した免震装置をジャッキアップした段階を示した立面図である。
【図13】ジャッキアップした免震装置により柱の躯体における免震装置を取り付ける部位をスライドさせた段階を示した立面図である。
【図14】免震装置を取り付ける部位に免震装置を設置した段階を示した立面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 柱
10 免震装置
1a 免震装置の取り付け部位
2、3 貫通孔
7a 滑り面
7 油圧ジャッキ
4 移動板
6 グラウト材
9 面板
1a’ 切断ブロック
11 高さ調整可能なジャッキ
17a 滑り面
17 台座
7’ 油圧ジャッキ
【技術分野】
【0001】
この発明は、既存建物へ免震装置を設置することにより、同建物を免震構造に改修する免震化工法の技術分野に属し、更に云えば、免震装置の設置作業はもちろん、その後の交換作業も容易かつ経済的に行うことができる建物の免震化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存建物へ免震装置を設置することにより、同建物を免震構造に改修する免震化工法は、通常、既存建物の柱における免震装置の取り付け部位を除いた部分を大掛かりな仮設支持構造で支持した後に、前記免震装置の取り付け部位を切除し、前記切除部分へ免震装置を取り付けた後、前記仮設支持構造への軸力を免震装置による支持に盛り替え、同仮設支持構造を撤去することにより、建物を免震化している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−227425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に係る技術は、柱の軸力を負担する仮設支持構造を取り付けることが実施上、必要不可欠である。しかしながら、この仮設支持構造は、非常に大掛かりであるが故に、取り付け作業等に非常に手間がかかると共に、費用が嵩むという問題があった。
【0005】
また、免震装置が劣化する等して免震装置を交換する場合に、再度、大掛かりな仮設支持構造を取り付けなければならないので、前記問題が依然として残されており、改良の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、仮設支持構造を一切不要とすることで、容易かつ経済的に建物を免震化することができる、建物の免震化工法を提供することである。また、免震装置の交換作業については、さらに容易かつ経済的に実施できる建物の免震化工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した従来技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係
る建物の免震化工法は、図1〜図10に示したように、
建物の柱1の一部を切除して免震装置10を設置する建物の免震化工法において、
建物の柱1における免震装置10の取り付け部位1aの直上位置および直下位置にそれぞれ、ほぼ水平な貫通孔2、3を設ける段階と、
前記上下の貫通孔2、3にそれぞれ、滑り面7aを有する油圧ジャッキ7を、上位の油圧ジャッキ7は滑り面7aを下向きに、下位の油圧ジャッキ7は滑り面7aを上向きに設置すると共に、前記油圧ジャッキ7の滑り面7aに当接する長い移動板4を貫通させて設ける段階と、
前記上下の移動板4の間隔を、設置するべき免震装置10の高さと一致するように調整し、グラウト材6を注入する等して各移動板4を孔壁へ固定する段階と、
前記油圧ジャッキ7を、グラウト材6を注入する等して反対側の孔壁へ固定する段階と、
前記油圧ジャッキ7を駆動して、柱1が負担している軸力を油圧ジャッキ7の軸力へ盛り替える段階と、
前記柱1における前記貫通孔2、3を含む断面を全部切断して油圧ジャッキ7に当該柱1のすべての軸力を負担させる段階と、
前記上下の移動板4の間へ免震装置10を設置し、当該免震装置10を移動板4と共にその取り付け部位1aへ移動させる段階と、
前記免震装置10の前進とともに柱1の切断ブロック1a’を移動板4と共に押し出し除去する段階と、
免震装置10をその取り付け部位1aに位置決めした後、当該免震装置10の上下の面板9を上下の柱1bと一体化する段階と、から成ることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した建物の免震化工法において、図11〜図14に示したように、
免震装置10の前進とともに柱1の切断ブロック1a’を移動板4と共に押し出し除去する段階において、
免震装置10の上面板9又は下面板9に高さ調整可能なジャッキ11を設置し、当該免震装置10の前進とともに柱1の切断ブロック1a’を所要の距離押し出した段階で、前記調整用ジャッキ11をジャッキアップして柱1の軸力の一部を負担させ、そのままさらに移動板4と共に切断ブロック1a’の押し出し除去を進めることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載した建物の免震化工法において、図1A、Bに示したように、貫通孔2、3は、免震装置10の取り付け部位1aの直上位置の左右に2箇所、直下位置の左右に2箇所設けることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載した発明は、請求項1〜3のいずれか一に記載した建物の免震化工法において、図4Aに示したように、油圧ジャッキ7は、滑り面7aを有する筆箱状の油圧ジャッキ7、或いは、図4Bに示したように、滑り面17aを有する薄板状の台座17の上にコンパクトタイプの油圧ジャッキ7’を設けた構成であることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載した発明は、請求項1〜4のいずれか一に記載した建物の免震化工法
において、油圧ジャッキ7の滑り面7aは、潤滑剤を塗布する等して摩擦係数を0.02〜0.03程度に形成することを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載した発明は、請求項1〜5のいずれか一に記載した建物の免震化工法
において、移動板4は、薄板状の鋼製プレート又はH形鋼、或いはコ字形鋼であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る建物の免震化工法によれば、柱1における免震装置10の取り付け部位1aの上下に油圧ジャッキ7を内蔵して柱1の軸力を負担し、当該免震装置10の取り付け部位1aの切断ブロック1a’を、設置するべき免震装置10により、あたかも達磨落としのようにスライドさせて撤去できるので、従来必須とされた大掛かりな仮設支持構造を取り付ける必要がない。また、免震装置10をスムーズにスライドしながら取り付けることができるので、設置に要する時間を大幅に短縮することができる。よって、容易かつ経済的に建物の免震化工法を実現することができる。
【0014】
さらに、免震装置10の設置作業に必要な移動板4および油圧ジャッキ7は、そのまま残して免震装置10の設置作業を終えるので、免震装置10を交換する場合には、これらの治具4、7を即座に利用して交換作業を行うことができる。よって、免震装置10の交換作業は、設置作業と比して、大幅に省力化でき、大変経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
請求項1に記載した建物の免震化工法は、柱の軸力を負担する仮設支持構造を一切不要として実施するべく、以下のように実施される。
【実施例1】
【0016】
図1〜図10は、請求項1に記載した発明に係る建物の免震化工法の施工手順を段階的に示している。
この建物の免震化工法は、建物の柱1の一部を切除して免震装置10を設置する建物1の免震化工法であり、先ず、図1A、Bに示したように、建物の柱1における免震装置10の取り付け部位1aを除く躯体1b、1bのうち、当該取り付け部位1aの直上位置および直下位置にそれぞれ、ほぼ水平な貫通孔2、3を設ける。
【0017】
図示例の貫通孔2、3は、ドリル等により穿設し、前記取り付け部位1aの直上位置の左右に2箇所、直下位置の左右に2箇所の計4箇所設けて実施している(請求項3記載の発明)。前記貫通孔2、3の大きさは、後述する移動板4と油圧ジャッキ7とを十分に設置可能な大きさで実施される。また、前記貫通孔2、3の水平見付け面積は、非切断部分の柱の躯体(コンクリート)に柱1の軸力が作用して発生する圧縮応力がコンクリートの短期許容圧縮応力度以下になると共に、前記油圧ジャッキ7を十分に設置できるだけの面積で実施することに留意する。
【0018】
なお、前記貫通孔2、3の個数は、計4個に限定されるものではなく、柱の軸耐力を大きく損なわず、且つ、当該貫通孔2、3内に挿入される移動板4が、免震装置10を載置、且つスライド可能な構成で実施することを条件に、上下に1個ずつ計2個の貫通孔2、3で実施することもできるし、上下に3個ずつ計6個の貫通孔2、3で実施することもできる。また、上方に1個、下方に2個の貫通孔2、3を設けて実施することもできるし、上方に2個、下方に3個の貫通孔2、3を設けて実施することもできる。
【0019】
次に、図2A、Bと図3に示したように、前記上下の貫通孔2、3にそれぞれ、滑り面7aを有する油圧ジャッキ7を、上位の油圧ジャッキ7は滑り面7aを下向きに、下位の油圧ジャッキ7は滑り面7aを上向きに設置すると共に、前記油圧ジャッキ7の滑り面7aに当接する長い移動板4を貫通させて設ける。
【0020】
図示例の油圧ジャッキ7は、前記貫通孔2、3内に挿入可能な大きさで、且つ前記柱1から若干水平方向に突き出る程度の長さの所謂筆箱状の油圧ジャッキ7(図4Aも参照)を使用している(請求項4記載の発明)。また、前記油圧ジャッキ7の滑り面7aは、テフロン(登録商標)加工、或いは潤滑剤を塗布する等して、摩擦係数を0.02〜0.03程度に形成して実施することが好ましい(請求項5記載の発明)。ちなみに、前記筆箱状ジャッキの性能は、1,000〜5,000kN程度、ストロークは15〜30mm程度であり、一般的な寸法は、外径190〜310mm程度、機械高110〜260mm程度が好適に実施される。
【0021】
前記油圧ジャッキ7の滑り面7aに当接する長い移動板4は、図示例では、薄板状の鋼製プレートが使用されている。当該移動板4は、前記油圧ジャッキ7の滑り面7aに沿ってスライド自在な構成とされている。この移動板4は、図3に示したように、上下左右に計4個設けられた前記貫通孔2、3内に各1本ずつ計4本貫通して設けている。前記移動板4の左右の間隔は、前記免震装置10を十分に載置できる間隔で実施される。前記移動板4の上下の間隔は、前記免震装置10の高さとほぼ一致する間隔で実施される。
【0022】
なお、本発明に適用可能な油圧ジャッキ7は、筆箱状の油圧ジャッキ7に限定されるものではなく、例えば、橋梁支承部の補強・補修工事用に設計されたコンパクトタイプの油圧ジャッキでも実施することができる。このようなコンパクトタイプの油圧ジャッキを利用して前記貫通孔2、3の内部に設置する場合には、図4Bに示したように、下面に滑り面17aを有する台座17の上面に、前記油圧ジャッキ7’を所要の間隔をあけて2台(以上)設けた構成で実施する(請求項4記載の発明)。
【0023】
また、前記移動板4は、薄板状の鋼製プレートに限定されず、貫通孔2、3の大きさ(高さ)に応じてH形鋼、或いはコ字形鋼等の鋼材が任意に選定されて使用される(請求項6記載の発明)。
【0024】
次に、前記上下の移動板4の間隔を、設置するべき免震装置10の高さと一致するように調整し、グラウト材6を注入する等して各移動板4を孔壁へ固定する(図2と図3参照)。具体的には、前記上下の移動板4を支持する前記支持部材5により、当該移動板4の水平度及び間隔を維持しながら、上位の移動板4と上位の貫通孔2の底面との間にグラウト材(モルタル)6を注入すると共に、下位の移動板4と下位の貫通孔3の上面との間にグラウト材6を注入して、それぞれの貫通孔2、3の孔壁へ固定する。
【0025】
なお、本実施例では、前記上下の移動板4の間隔を、図2で示したような、前記移動板4を支持する支持部材5により調整している。よって、前記支持部材5には、ネジジャッキ等の高さ調整可能な部材を使用することが好ましい。図示例のグラウト材6は、非圧縮性のグラウト材6を使用することが好ましい。
【0026】
また、前記油圧ジャッキ7を、グラウト材6を注入する等して反対側の孔壁へ固定する。具体的には、前記油圧ジャッキ7の上面と上位の貫通孔2の上面との間にグラウト材6を注入すると共に、油圧ジャッキ7の下面と下位の貫通孔3の底面との間にグラウト材6を注入して、それぞれの貫通孔2、3の孔壁へ固定する。
【0027】
かくして、前記貫通孔2、3の内部構造は、上位の貫通孔2については、上方から下方に順に、グラウト材6、筆箱状の油圧ジャッキ7、移動板4、グラウト材6がサンドイッチ状に重なり合う構成で実施している。一方、下位の貫通孔3については、上方から下方に順に、グラウト材6、移動板4、筆箱状の油圧ジャッキ7、グラウト材6がサンドイッチ状に重なり合う構成で実施している。要するに、図示例の上下の貫通孔2、3の内部構造は、免震装置の取り付け部位1aを中心として対称配置で実施されている。
【0028】
次に、前記グラウト材6が硬化したことを確認した後に、前記油圧ジャッキ7を駆動して、柱1が負担している軸力を油圧ジャッキ7の軸力へ盛り替える作業を行う。続いて、図5Aに示したように、前記柱1における前記貫通孔2、3を含む断面を全部切断して油圧ジャッキ7に当該柱1のすべての軸力を負担させる。こうすることにより、免震装置の取り付け部位1aは、前記上下の油圧ジャッキ7にしっかりと狭持され、当該油圧ジャッキ7の滑り面7aと当接する移動板7と共にスライド可能な構造となる。
【0029】
次に、図6A、Bに示したように、前記上下の移動板4の間へ免震装置10を設置し、当該免震装置10を移動板4と共にその取り付け部位1aへ移動させる。前記免震装置10は、前記免震装置10の取り付け部材1aの直近位置に設置して実施することが効率的で好ましい。また、前記免震装置10を水平方向に移動させる方法は種々あるが、例えば、レバーブロック等の押し出し治具を利用する方法が挙げられる。
【0030】
次に、前記免震装置10の前進とともに柱1の切断ブロック1a’を移動板4と共に押し出し除去する。具体的に、図7の点線で囲む箇所は、水平方向から力を受けるとスライドする前記柱1の切断ブロック1a’を示している。前記上下位の油圧ジャッキ7はそれぞれ、グラウト材6を介して上下の柱1bに一体化され、前記上下の移動板4は、グラウト材6を介して免震装置10の取り付け部位1aに一体化されている。よって、前記柱1の切断ブロック1a’は、水平方向から力を受けると、移動板4が油圧ジャッキ7の滑り面7aでスライドすることにより、移動板4と共に、押し出されるのである。
【0031】
前記免震装置10の前進とともに柱1の切断ブロック1a’が移動板4と共に押し出されると、当該柱1の切断ブロック1a’が移動板4と共に徐々に押し出され、当該柱1が負担していた柱1の軸力は、前記免震装置10に徐々に負担されていく。そして、最終的には、前記免震装置10にすべての柱1の軸力が負担され、図8A、Bに示したように、前記柱1の切断ブロック1a’は、達磨落としの如く撤去されるのである。
【0032】
ちなみに、前記免震装置10を前進させている間は、前記免震装置10と柱1の切断ブロック1a’とで柱1の軸力を負担するので、軸力による安全性を低下させるようにモーメントが発生する虞はない。また、油圧ジャッキ7の滑り面7aの摩擦係数は、0.02〜0.03と非常に小さいので、摩擦による水平力によって柱1に作用する曲げモーメントは非常に小さい。そして、前記柱1の切断ブロック1a’が撤去された段階で、図9に示したように、免震装置10と油圧ジャッキ7がともに柱1の全軸力を負担するのである。
【0033】
しかる後、免震装置10をその取り付け部位1aに位置決めした後、当該免震装置10の上下の面板9、9を上下の柱1(1b)と一体化して、建物の免震化工法を完了する(以上、請求項1記載の発明)。具体的には、図10に示したように、油圧ジャッキ7の周囲の空間部にグラウト材8を充填して柱1の躯体と一体化すると共に、前記免震装置10の上下の面板9からボルト(図示省略)を前記グラウト材8へねじ込む。前記ボルトは、前記グラウト材8の注入とほぼ同時にねじ込んで柱1に作用するせん断力を負担するように実施してもよいし、所謂後施工アンカーで実施することもできる。なお、前記油圧ジャッキ7の周囲の空間部に注入するグラウト材6は、型枠を施工して注入することもできるが、高濃度のグラウト材6を使用すれば型枠を使用しないで実施することもできる。こうすることにより、前記上下の移動板4に挟まれた免震装置10が使用期間中に水平方向に滑ることなく、免震作用を十分に発揮することができるのである。
【0034】
したがって、上述した建物の免震化工法によれば、従来必須とされた仮設支持構造を使用しないで実施できるので、容易かつ経済的に建物を免震化することができる。また、免震装置10の交換作業については、前記油圧ジャッキ7及び移動板4はそのまま残っているので、即座に利用でき、極力、経済的且つスムーズに交換作業を行うことができる。
【0035】
ちなみに、前記移動板4は、空間スペースの有効利用を考慮し、折り畳み可能な構造で実施し、未使用時には、折り畳んでおくことが好ましい。
【実施例2】
【0036】
図11〜図14は、請求項2に記載した建物の免震化工法の実施例を示している。この実施例は、前記図1〜図10に示した実施例と比して、免震装置10の構造および免震装置を押し出す手法が主に相違する。
【0037】
すなわち、上記実施例1中の、免震装置10の前進とともに柱1の切断ブロック1a’を移動板4と共に押し出し除去する段階において、この実施例2に係る免震装置10は、その(上面板9又は)下面板9に、高さ調整可能なジャッキ11を設置し、当該免震装置10の前進とともに柱1の切断ブロック1a’を所要の距離押し出した段階で(図12参照)、前記調整用ジャッキ11をジャッキアップして柱1の軸力の一部を負担させ、そのままさらに移動板4と共に切断ブロック1a’の押し出し除去を進める(図13参照)。
【0038】
具体的に、図示例の免震装置10は、免震装置10を構成する下面板9の下面に小型あるいは薄型の油圧ジャッキ11が一体化された構造となっており、前記油圧ジャッキ11が作動すると免震装置10は上下方向にジャッキアップされる構成とされている。なお、前記油圧ジャッキ11は、免震装置10を構成する上面板9の上面に設置して一体化した構成で実施することもできる。免震装置10は、移動板4に設置された段階では、油圧ジャッキ11は作動させておらず、免震装置10の上部と上位の移動板4とは接触していない状態にある。
【0039】
この実施例2によると、上記実施例1と比して、上下の移動板4の間隔が免震装置10の高さとぴったり一致していない場合であっても、前記油圧ジャッキ11を作動させることにより、柱1の軸力を確実に負担することができて作業性がよい。また、柱1の切断ブロック1a’を除去する場合に、予め、柱1の軸力の一部を負担しつつ当該切断ブロック1a’を押し出すよりも、当該切断ブロック1a’を少し押し出してから柱1の軸力を負担する方が、スムーズにスライド作業を行うことができ、作業性がよい。
【0040】
以上に実施例を図1〜図14に基づいて説明したが、本発明は、図示例の実施形態の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】Aは、実施例1について、柱の躯体における免震装置を取り付ける部位の近傍位置に貫通孔を設けた段階を示した立面図であり、Bは、同横断面図である。
【図2】Aは、図1に示した貫通孔に移動板及び油圧ジャッキを設けた段階を示した側面図であり、Bは、同横断面図である。
【図3】Aは、図1に示した貫通孔に移動板及び油圧ジャッキを設けた段階を示した立面図である。
【図4】Aは、筆箱状の油圧ジャッキの構造を示した縦断面図であり、Bは、その他の油圧ジャッキを示した正面図である。
【図5】Aは、図1に示した貫通孔に移動板及び油圧ジャッキを設け、当該貫通孔の左右部分の柱躯体を切除した段階を示した立面図であり、Bは、同側面図であり、Cは、同横断面図である。
【図6】Aは、上下の移動板同士の間に免震装置を設置した段階を示した側面図であり、Bは、同横断面図である。
【図7】柱の躯体におけるスライド可能な部位を示した立面図である。
【図8】Aは、柱の躯体における免震装置を取り付ける部位をスライドさせて当該免震装置の取り付け部位に免震装置を設置した段階を示した立面図であり、Bは、同横断面図である。
【図9】Aは、免震装置を取り付ける部位に免震装置を設置した段階を示した立面図である。
【図10】Aは、免震装置を取り付ける部位に免震装置を設置した最終段階を示した立面図である。
【図11】実施例2について、免震装置により柱の躯体における免震装置を取り付ける部位をスライドさせた段階を示した立面図である。
【図12】図11に示した免震装置をジャッキアップした段階を示した立面図である。
【図13】ジャッキアップした免震装置により柱の躯体における免震装置を取り付ける部位をスライドさせた段階を示した立面図である。
【図14】免震装置を取り付ける部位に免震装置を設置した段階を示した立面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 柱
10 免震装置
1a 免震装置の取り付け部位
2、3 貫通孔
7a 滑り面
7 油圧ジャッキ
4 移動板
6 グラウト材
9 面板
1a’ 切断ブロック
11 高さ調整可能なジャッキ
17a 滑り面
17 台座
7’ 油圧ジャッキ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の柱の一部を切除して免震装置を設置する建物の免震化工法において、
建物の柱における免震装置の取り付け部位の直上位置および直下位置にそれぞれ、ほぼ水平な貫通孔を設ける段階と、
前記上下の貫通孔にそれぞれ、滑り面を有する油圧ジャッキを、上位の油圧ジャッキは滑り面を下向きに、下位の油圧ジャッキは滑り面を上向きに設置すると共に、前記油圧ジャッキの滑り面に当接する長い移動板を貫通させて設ける段階と、
前記上下の移動板の間隔を、設置するべき免震装置の高さと一致するように調整し、グラウト材を注入する等して各移動板を孔壁へ固定する段階と、
前記油圧ジャッキを、グラウト材を注入する等して反対側の孔壁へ固定する段階と、
前記油圧ジャッキを駆動して、柱が負担している軸力を油圧ジャッキの軸力へ盛り替える段階と、
前記柱における前記貫通孔を含む断面を全部切断して油圧ジャッキに当該柱のすべての軸力を負担させる段階と、
前記上下の移動板の間へ免震装置を設置し、当該免震装置を移動板と共にその取り付け部位へ移動させる段階と、
前記免震装置の前進とともに柱の切断ブロックを移動板と共に押し出し除去する段階と、
免震装置をその取り付け部位に位置決めした後、当該免震装置の上下の面板を上下の柱と一体化する段階と、
から成ることを特徴とする、建物の免震化工法。
【請求項2】
免震装置の前進とともに柱の切断ブロックを移動板と共に押し出し除去する段階において、
免震装置の上面板又は下面板に高さ調整可能なジャッキを設置し、当該免震装置の前進とともに柱の切断ブロックを所要の距離押し出した段階で、前記調整用ジャッキをジャッキアップして柱の軸力の一部を負担させ、そのままさらに移動板と共に切断ブロックの押し出し除去を進めることを特徴とする、請求項1に記載した建物の免震化工法。
【請求項3】
貫通孔は、免震装置の取り付け部位の直上位置の左右に2箇所、直下位置の左右に2箇所設けることを特徴とする、請求項1又は2に記載した建物の免震化工法。
【請求項4】
油圧ジャッキは、滑り面を有する筆箱状の油圧ジャッキ、或いは滑り面を有する薄板状の台座の上にコンパクトタイプの油圧ジャッキを設けた構成であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載した建物の免震化工法。
【請求項5】
油圧ジャッキの滑り面は、潤滑剤を塗布する等して摩擦係数を0.02〜0.03程度に形成することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載した建物の免震化工法。
【請求項6】
移動板は、薄板状の鋼製プレート又はH形鋼、或いはコ字形鋼であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載した建物の免震化工法。
【請求項1】
建物の柱の一部を切除して免震装置を設置する建物の免震化工法において、
建物の柱における免震装置の取り付け部位の直上位置および直下位置にそれぞれ、ほぼ水平な貫通孔を設ける段階と、
前記上下の貫通孔にそれぞれ、滑り面を有する油圧ジャッキを、上位の油圧ジャッキは滑り面を下向きに、下位の油圧ジャッキは滑り面を上向きに設置すると共に、前記油圧ジャッキの滑り面に当接する長い移動板を貫通させて設ける段階と、
前記上下の移動板の間隔を、設置するべき免震装置の高さと一致するように調整し、グラウト材を注入する等して各移動板を孔壁へ固定する段階と、
前記油圧ジャッキを、グラウト材を注入する等して反対側の孔壁へ固定する段階と、
前記油圧ジャッキを駆動して、柱が負担している軸力を油圧ジャッキの軸力へ盛り替える段階と、
前記柱における前記貫通孔を含む断面を全部切断して油圧ジャッキに当該柱のすべての軸力を負担させる段階と、
前記上下の移動板の間へ免震装置を設置し、当該免震装置を移動板と共にその取り付け部位へ移動させる段階と、
前記免震装置の前進とともに柱の切断ブロックを移動板と共に押し出し除去する段階と、
免震装置をその取り付け部位に位置決めした後、当該免震装置の上下の面板を上下の柱と一体化する段階と、
から成ることを特徴とする、建物の免震化工法。
【請求項2】
免震装置の前進とともに柱の切断ブロックを移動板と共に押し出し除去する段階において、
免震装置の上面板又は下面板に高さ調整可能なジャッキを設置し、当該免震装置の前進とともに柱の切断ブロックを所要の距離押し出した段階で、前記調整用ジャッキをジャッキアップして柱の軸力の一部を負担させ、そのままさらに移動板と共に切断ブロックの押し出し除去を進めることを特徴とする、請求項1に記載した建物の免震化工法。
【請求項3】
貫通孔は、免震装置の取り付け部位の直上位置の左右に2箇所、直下位置の左右に2箇所設けることを特徴とする、請求項1又は2に記載した建物の免震化工法。
【請求項4】
油圧ジャッキは、滑り面を有する筆箱状の油圧ジャッキ、或いは滑り面を有する薄板状の台座の上にコンパクトタイプの油圧ジャッキを設けた構成であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載した建物の免震化工法。
【請求項5】
油圧ジャッキの滑り面は、潤滑剤を塗布する等して摩擦係数を0.02〜0.03程度に形成することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載した建物の免震化工法。
【請求項6】
移動板は、薄板状の鋼製プレート又はH形鋼、或いはコ字形鋼であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載した建物の免震化工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−70582(P2006−70582A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255611(P2004−255611)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レバーブロック
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レバーブロック
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
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